特許第6900719号(P6900719)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6900719
(24)【登録日】2021年6月21日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】トレッド用ゴム組成物およびタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20210628BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20210628BHJP
   C08L 45/00 20060101ALI20210628BHJP
【FI】
   C08L21/00
   C08K3/26
   C08L45/00
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-50239(P2017-50239)
(22)【出願日】2017年3月15日
(65)【公開番号】特開2018-154664(P2018-154664A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2020年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河西 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】廣 真誉
【審査官】 土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−041355(JP,A)
【文献】 特開2011−088988(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/076048(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 21/00
C08K 3/26
C08L 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分100質量部に対し、平均粒子径が120μm以上の卵殻粉を3〜15質量部、ならびにポリテルペン樹脂およびテルペンスチレン樹脂の少なくとも一方を2〜10質量部含有するトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
請求項1記載のトレッド用ゴム組成物により構成されたトレッドを有するタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド用ゴム組成物およびこのゴム組成物により構成されたトレッドを有するタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
スパイクタイヤによる粉塵公害を防止するために、スパイクタイヤの使用を禁止することが法制化され、寒冷地では、スパイクタイヤに代わってスタッドレスタイヤが使用されるようになった。タイヤを氷上でグリップさせると氷表面に水が発生し、その場合、タイヤは水の上に浮いたような状態になるため、充分なグリップ力が得られなくなり、スリップの原因となる。そこで、氷表面に発生する水を除去して、タイヤのゴム表面を氷に直接密着させることが重要である。
【0003】
氷表面の水を除去する方法として、発泡ゴムを使用する方法やゴム内部にバルーンを存在させる方法が知られているが、氷上性能を確保するためには、これらの含有量や占有面積を増加させる必要がある。しかし、含有量や占有面積を増加させた場合、スタッドレスタイヤとしての耐久性、耐摩耗性が低下するという問題がある。
【0004】
また、特許文献1および2には、ゴム成分に卵殻粉や貝殻の粉砕品、炭酸カルシウムを配合し、氷上性能を改善する方法も知られているが、このような方法によっても、これらの配合量を増加させるに伴い、耐摩耗性が大きく悪化するという問題がある。
【0005】
耐摩耗性の悪化を防止する方法として、天然ゴムの含有比率を高めること、オイルとしてミネラルオイル等の低極性オイルではなくアロマ系オイルを用いることが挙げられるが、氷上性能や雪上性能が悪化する。また、耐摩耗性に優れたブタジエンゴムを用いる方法もあるが、コストが上昇したり、加工性が悪化したりする懸念がある。
【0006】
さらに、近年、地球温暖化の影響や夏用タイヤへのはきかえが面倒ではきつぶす等の理由で、氷雪路以外をスタッドレスタイヤで走る場合も多く、スタッドレスタイヤのトレッド部分の耐摩耗性がより求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−169500号公報
【特許文献2】特開平9−77915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
低温氷上性能および耐摩耗性に優れるトレッド用ゴム組成物およびこのゴム組成物により構成されたトレッドを有するタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ゴム成分100質量部に対し、平均粒子径が120μm以上の卵殻粉を3〜15質量部、ならびにポリテルペン樹脂およびテルペンスチレン樹脂の少なくとも一方を10質量部以下含有するトレッド用ゴム組成物に関する。
【0010】
また、本発明は前記トレッド用ゴム組成物により構成されたトレッドを有するタイヤに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のゴム成分、大粒子卵殻粉ならびにポリテルペン樹脂およびテルペンスチレン樹脂の少なくとも一方を含有するトレッド用ゴム組成物およびこのトレッド用ゴム組成物により構成されたトレッドを有するタイヤは、低温氷上性能および耐摩耗性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のトレッド用ゴム組成物は、ゴム成分に平均粒子径が120μm以上の大粒子卵殻粉と、ポリテルペン樹脂およびテルペンスチレン樹脂の少なくとも一方を含有することを特徴とし、低温氷上性能および耐摩耗性に優れる。ここで、大粒子径の卵殻粉は、卵殻粉が脱離した後に残るゴム表面の凹凸で引っ掻き効果を発現し、低温氷上性能、特に0℃での発進性能に優れる一方で、耐摩耗性が低下してしまうが、ポリテルペン樹脂およびテルペンスチレン樹脂の少なくとも一方を併用することで、耐摩耗性を改善することができる。これは、ポリテルペン樹脂およびテルペンスチレン樹脂の少なくとも一方を含有することでゴム強度(伸び)が向上し、卵殻脱落時に発現する凹凸のエッジ部分に余計な亀裂等の発生を抑制できるため、凹凸を起点とする摩耗の発生が抑制されることによると考えられる。さらには、凹凸のエッジが効くようになるため更なる氷上性能の向上も見込まれる。
【0013】
卵殻粉を含有することにより(A)卵殻粉自体が氷雪路面を引っ掻く効果、(B)卵殻粉粒子に存在する細孔が氷雪路面の水を吸水し除去する効果、(C)卵殻粉粒子が脱落することによりできた細孔が氷雪路面の水を吸水し除去する効果、および(D)卵殻粉粒子が脱落することによりできた細孔の淵部分がエッジとして働き、氷雪路面を引っ掻く効果が得られる。特に、大粒子径卵殻粉を含有することにより、(D)の効果がより顕著に発揮される。
【0014】
大粒子卵殻粉の平均粒子径は、120μm以上であり、125μm以上が好ましく、130μm以上がより好ましい。卵殻粉の平均粒子径が120μm未満の場合は、低温氷上性能の向上効果が不十分となる傾向がある。また、卵殻粉の平均粒子径は、耐摩耗性の観点から、150μm以下が好ましく、140μm以下がより好ましく、135μm以下がさらに好ましい。なお、本明細書における卵殻粉の平均粒子径は、粒度分布測定器により測定される値である。
【0015】
平均粒子径が120μm以上の卵殻粉としては、グリーンテクノ社製の卵殻粉カルシウムSQ−130などが挙げられる。
【0016】
平均粒子径が120μm以上の卵殻粉のゴム成分100質量部に対する含有量は、本発明の効果が十分に得られるという理由から、3質量部以上であり、5質量部以上がさらに好ましい。また、当該卵殻粉の含有量は、耐摩耗性の観点から、15質量部以下であり12質量部以下がより好ましい。
【0017】
ポリテルペン樹脂およびテルペンスチレン樹脂は、クマロン樹脂、石油系樹脂(脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂など)、フェノール系樹脂、ロジン誘導体などのタイヤ用ゴム組成物に用いられる他の粘着性樹脂よりもSP値が低いという特徴がある。ここでSP値とは、化合物の構造に基づいてHoy法によって算出された溶解度パラメーター(Solubility Parameter)を意味し、二つの化合物のSP値が離れているほど相溶性が低いことを示す。ここで、水のSP値は約23であり、前記他の粘着性樹脂のSP値は約9〜12であることから、他の粘着性樹脂よりもSP値が低いポリテルペン樹脂およびテルペンスチレン樹脂は、より水との相溶性が低い粘着性樹脂であり、これを含有するゴム組成物とすることにより、ゴム組成物の撥水性を向上させることができる。なお、前記Hoy法とは、例えば、K.L.Hoy “Table of Solubility Parameters”, Solvent and Coatings Materials Research and Development Department, Union Carbites Corp.(1985)に記載された計算方法である。
【0018】
ポリテルペン樹脂は、α−ピネン、β−ピネン、リモネン、ジペンテンなどのテルペン化合物から選ばれる少なくとも1種を原料とする樹脂である。テルペンスチレン樹脂は、前記テルペン原料およびスチレンを原料とする樹脂である。なお、本明細書中のテルペンスチレン樹脂は原料中のテルペン化合物およびスチレンの合計が80質量%以上のものを指す。ポリテルペン樹脂およびテルペンスチレン樹脂は、水素添加処理を行った樹脂(水添ポリテルペン樹脂、水添テルペンスチレン樹脂)であってもよい。テルペン系樹脂への水素添加処理は、公知の方法で行うことができ、また市販の水添樹脂を使用することもできる。
【0019】
一方、テルペン化合物とフェノール系化合物とを原料とするテルペンフェノール樹脂は耐摩耗性を悪化させる傾向があることから、含有しないことが好ましい。
【0020】
ポリテルペン樹脂およびテルペンスチレン樹脂の軟化点は、ハンドリングの容易性などの観点から、75℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、90℃以上がさらに好ましい。また、加工性、ゴム成分とフィラーとの分散性向上という観点から、150℃以下が好ましく、140℃以下がより好ましく、130℃以下がさらに好ましい。なお、本発明における樹脂の軟化点は、フローテスター((株)島津製作所製のCFT−500Dなど)を用い、試料として1gの樹脂を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押出し、温度に対するフローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度とした。
【0021】
ポリテルペン樹脂およびテルペンスチレン樹脂のガラス転移温度(Tg)は、ゴム組成物のガラス転移温度が高くなり、耐久性が悪化することを防ぐという理由から、80℃以下が好ましく、75℃以下がより好ましい。また、当該テルペン系樹脂のガラス転移温度の下限は特に限定されないが、オイルと同等以上の重量平均分子量(Mw)にでき、かつ難揮発性を確保できるという理由から、5℃以上が好ましい。また、当該テルペン系樹脂の重量平均分子量は、高温時の揮発性に優れ、消失させやすいことから、300以下が好ましい。
【0022】
ポリテルペン樹脂およびテルペンスチレン樹脂のSP値は、ゴム組成物の撥水性をより向上させることができるという理由から、8.90以下が好ましく、8.80以下がより好ましい。テルペン系樹脂のSP値の下限は、ゴム成分との相溶性の観点から7.5以上が好ましい。
【0023】
ポリテルペン樹脂およびテルペンスチレン樹脂の少なくとも一方のゴム成分100質量部に対する含有量は、耐摩耗性の観点から10質量部以下であり、8質量部以下が好ましい。また、本発明の効果が良好に得られるという理由から2質量部以上が好ましく、4質量部以上がより好ましい。
【0024】
ゴム成分としては、特に限定されず、従来タイヤのトレッド用ゴム組成物に用いられるゴム成分を用いることができる。例えば、天然ゴムおよびポリイソプレンゴム(IR)を含むイソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などのジエン系ゴム成分や、ブチル系ゴムが挙げられる。これらのゴム成分は、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。なかでも、低燃費性や耐摩耗性、耐久性、ウェットグリップ性能のバランスの観点からイソプレン系ゴム、SBR、BRを含有することが好ましく、耐チッピング性能に特に優れるという理由からイソプレン系ゴムとSBRを含有することが好ましい。
【0025】
前記天然ゴムとしては、天然ゴム(NR)や、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素化天然ゴム(HNR)、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(UPNR)などの改質天然ゴムなども含まれる。
【0026】
イソプレン系ゴムを含有する場合のゴム成分中の含有量は、ゴムの混練り加工性、押出し加工性において優れるという点から、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。また、イソプレン系ゴムの含有量は、低温特性において優れるという点から、80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましい。
【0027】
前記BRとしては、シス含有量が90%以上のハイシスBR、末端および/または主鎖が変性された変性BR、スズ、ケイ素化合物などでカップリングされた変性BR(縮合物、分岐構造を有するものなど)などが挙げられる。これらのBRのなかでも、耐摩耗性に優れるという理由から、ハイシスBRが好ましい。
【0028】
BRを含有する場合のゴム成分中の含有量は、耐摩耗性の観点から1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。また、BRの含有量は、加工性の観点から80質量%以下が好ましく、75質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましい。
【0029】
本発明のゴム組成物は、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般的に使用される配合剤、例えば、前記卵殻粉以外の充填剤(他の充填剤)、酸化亜鉛、ステアリン酸、軟化剤、老化防止剤、ワックス、加硫剤、加硫促進剤などを適宜含有することができる。
【0030】
前記他の充填剤としては特に限定されず、平均粒子径が120μm未満の卵殻粉(小粒子卵殻粉)、カーボンブラック、シリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ(酸化アルミニウム)、炭酸カルシウム、タルクなどが挙げられ、これらの充填剤を単独で用いることも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0031】
小粒子卵殻粉は、平均粒子径が120μm未満の卵殻粉であり、破壊強度の観点から、100μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましい。また、小粒子卵殻粉は低温氷上性能に優れるという理由から、10μm以上が好ましく、12μm以上がより好ましい。
【0032】
小粒子卵殻粉を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、低温氷上性能に優れるという理由から、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましい。また、当該卵殻粉の含有量は、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましい。
【0033】
カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、グラファイトなどが挙げられ、これらのカーボンブラックは単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0034】
カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(N2SA)は、充分な補強性および耐摩耗性が得られる点から、70m2/g以上が好ましく、90m2/g以上がより好ましい。また、カーボンブラックのN2SAは、分散性に優れ、発熱しにくいという点から、300m2/g以下が好ましく、250m2/g以下がより好ましい。なお、N2SAは、JIS K 6217−2「ゴム用カーボンブラック−基本特性−第2部:比表面積の求め方−窒素吸着法−単点法」に準じて測定することができる。
【0035】
カーボンブラックのDBP吸油量は、耐摩耗性の観点から、50ml/100g以上が好ましく、100ml/100g以上がより好ましい。また、グリップ性能の観点から、カーボンブラックのDBP吸油量は、250ml/100g以下が好ましく、200ml/100g以下がより好ましく、135ml/100g以下がより好ましい。なお、本明細書におけるカーボンブラックのDBP吸油量は、JIS K6217−4:2008に準じて測定される値である。
【0036】
カーボンブラックを含有する場合のジエン系ゴム成分100質量部に対する含有量は、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましい。5質量部未満の場合は、充分な補強性が得られない傾向がある。また、カーボンブラックの含有量は200質量部以下が好ましく、150質量部以下がより好ましく、60質量部以下がさらに好ましい。200質量部を超える場合は、加工性が悪化する傾向、発熱しやすくなる傾向、および耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0037】
シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)等が挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0038】
シリカのチッ素吸着比表面積(N2SA)は、耐久性や破断時伸びの観点から、80m2/g以上が好ましく、100m2/g以上がより好ましい。また、シリカのN2SAは、低燃費性および加工性の観点から、250m2/g以下が好ましく、220m2/g以下がより好ましい。なお、本明細書におけるシリカのN2SAとは、ASTM D3037−93に準じて測定された値である。
【0039】
シリカを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、耐久性や破断時伸びの観点から、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましい。また、シリカの含有量は、混練時の分散性向上の観点、圧延時の加熱や圧延後の保管中にシリカが再凝集して加工性が低下することを抑制するという観点から、200質量部以下が好ましく、150質量部以下がより好ましい。
【0040】
シリカは、シランカップリング剤と併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、ゴム工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができ、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドなどのスルフィド系、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、Momentive社製のNXT−Z100、NXT−Z45、NXTなどのメルカプト系(メルカプト基を有するシランカップリング剤)、ビニルトリエトキシシランなどのビニル系、3−アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノ系、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどのグリシドキシ系、3−ニトロプロピルトリメトキシシランなどのニトロ系、3−クロロプロピルトリメトキシシランなどのクロロ系などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
シランカップリング剤を含有する場合のシリカ100質量部に対する含有量は、十分なフィラー分散性の改善効果や、粘度低減等の効果が得られるという理由から、4.0質量部以上であることが好ましく、6.0質量部以上であることがより好ましい。また、十分なカップリング効果、シリカ分散効果が得られず、補強性が低下するという理由から、シランカップリング剤の含有量は、12質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。
【0042】
前記軟化剤としては、低温可塑剤、オイル、および液状ジエン系重合体などが挙げられる。なかでも氷上性能の向上が見込まれるという理由から、粘着性樹脂を含有することが好ましい。
【0043】
前記低温可塑剤としては、例えば、アジピン酸ジブチル(DBA)、アジピン酸ジイソブチル(DIBA)、アジピン酸ジオクチル(DOA)、アゼライン酸ジ2−エチルヘキシル(DOZ)、セバシン酸ジブチル(DBS)、アジピン酸ジイソノニル(DINA)、フタル酸ジエチル(DEP)、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ジウンデシル(DUP)、フタル酸ジブチル(DBP)、セバシン酸ジオクチル(DOS)、リン酸トリブチル(TBP)、リン酸トリオクチル(TOP)、リン酸トリエチル(TEP)、リン酸トリメチル(TMP)、チミジントリリン酸(TTP)、リン酸トリクレシル(TCP)、リン酸トリキシレニル(TXP)等のエステル系可塑剤が挙げられ、低温時における可塑効果と耐摩耗性のバランスから、DOS、TOPが好ましい。
【0044】
前記オイルとしては、例えば、パラフィン系、アロマ系、ナフテン系プロセスオイルなどのプロセスオイルが挙げられる。
【0045】
前記液状ジエン系重合体は、常温(25℃)で液体状態のジエン系重合体であり、例えば、液状スチレンブタジエン共重合体(液状SBR)、液状ブタジエン重合体(液状BR)、液状イソプレン重合体(液状IR)、液状スチレンイソプレン共重合体(液状SIR)などが挙げられる。なかでも、耐摩耗性と走行中の安定したグリップ性能がバランスよく得られるという理由から、液状SBRが好ましい。
【0046】
軟化剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量(複数の軟化剤を併用する場合は全ての合計量)は、本発明の効果が効果的に得られるという理由から、5質量部以上が好ましい。また、30質量部以下が好ましい。
【0047】
前記老化防止剤としては特に限定されず、ゴム分野で使用されているものが使用可能であり、例えば、キノリン系、キノン系、フェノール系、フェニレンジアミン系老化防止剤などが挙げられる。
【0048】
老化防止剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.5質量部以上が好ましく、0.8質量部以上がより好ましい。また、老化防止剤の含有量は、充填剤等の分散性、破断時伸び、混練効率の観点から、2.0質量部以下が好ましく、1.5質量部以下がより好ましく、1.2質量部以下がより好ましい。
【0049】
前記加硫剤としては特に限定されず、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。本発明の効果が良好に得られるという点からは、硫黄が好ましく、粉末硫黄がより好ましい。また、硫黄は他の加硫剤と併用してもよい。他の加硫剤としては、例えば、田岡化学工業(株)製のタッキロールV200、フレキシス社製のDURALINK HTS(1,6−ヘキサメチレン−ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物)、ランクセス社製のKA9188(1,6−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン)などの硫黄原子を含む加硫剤や、ジクミルパーオキサイドなどの有機過酸化物などが挙げられる。
【0050】
加硫剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましい。また、加硫剤の含有量は、15質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0051】
前記加硫促進剤としては、グアニジン系、アルデヒド−アミン系、アルデヒド−アンモニア系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チオ尿素系、チウラム系、ジチオカルバメート系、ザンデート系の化合物などが挙げられる。なかでも、本発明の効果が好適に得られるという理由から、ベンゾチアゾリルスルフィド基を有する加硫促進剤が好ましい。
【0052】
ベンゾチアゾリルスルフィド基を有する加硫促進剤としては、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DCBS)、N,N−ジイソプロピル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N−ジ(2−エチルヘキシル)−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(BEHZ)、N,N−ジ(2−メチルヘキシル)−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(BMHZ)、N−エチル−N−t−ブチルベンゾチアゾール−2−スルフェンアミド(ETZ)等のスルフェンアミド系加硫促進剤や、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンイミド(TBSI)、ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド(DM)等が挙げられる。
【0053】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫速度を確保するという観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上が好ましい。また、加硫促進剤の含有量は、ブルーミングを抑制するという観点から、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0054】
本発明のトレッド用ゴム組成物は、一般的な方法で製造できる。例えば、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロールなどの一般的なゴム工業で使用される公知の混練機で、前記各成分のうち、架橋剤および加硫促進剤以外の成分を混練りした後、これに、架橋剤および加硫促進剤を加えてさらに混練りし、その後加硫する方法などにより製造できる。
【0055】
本発明のゴム組成物を用いたタイヤは、前記ゴム組成物を用いて、通常の方法により製造できる。すなわち、ジエン系ゴム成分に対して前記の配合剤を必要に応じて配合した前記ゴム組成物を、トレッドの形状にあわせて押出し加工し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、通常の方法にて成型することにより、未加硫タイヤを形成し、この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、タイヤを製造することができる。
【実施例】
【0056】
実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらのみに限定して解釈されるものではない。
【0057】
実施例および比較例で使用した各種薬品について説明する。
NR:TSR20
BR:宇部興産(株)製のBR150B(ハイシスBR、シス含量97質量%)
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラックI(ASTM No.N220、N2SA:114m2/g、DBP:114ml/100g、平均粒子径:22nm)
卵殻粉1:グリーンテクノ社製のSQ−10(平均粒子径:10μm)
卵殻粉2:グリーンテクノ社製のSQ−50(平均粒子径:50μm)
卵殻粉3:グリーンテクノ社製のSQ−130(平均粒子径:130μm)
ポリテルペン樹脂:ヤスハラケミカル(株)製のPX1150N(水素添加されていないポリテルペン樹脂、SP値:8.26、軟化点:115℃、Tg:65℃)
水添ポリテルペン樹脂:ヤスハラケミカル(株)製のP125(水素添加されたポリテルペン樹脂、水添率:100モル%、SP値:8.36、軟化点:125℃、Tg:74℃)
テルペンスチレン樹脂:Arizona chemical社製のSYLVATRAXX6720(水素添加されていないテルペンスチレン樹脂、SP値:8.70、軟化点:118℃、Tg:70℃、テルペン化合物およびスチレンの合計:90質量%)
テルペンフェノール樹脂:Arizona chemical社製のSYLVARES TP115
オイル:(株)ジャパンエナジー製のプロセスP−200
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックN
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
硫黄:軽井沢硫黄(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0058】
実施例および比較例
表1に示す配合処方にしたがい、1.7Lの密閉型バンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を排出温度170℃になるまで5分間混練りし、混練物を得た。さらに、得られた混練物を前記バンバリーミキサーにより、排出温度150℃で4分間、再度混練りした(リミル)。次に、2軸オープンロールを用いて、得られた混練物に硫黄および加硫促進剤を添加し、4分間、105℃になるまで練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を170℃で12分間プレス加硫することで、試験用ゴム組成物を作製した。
【0059】
また、前記未加硫ゴム組成物を所定の形状の口金を備えた押し出し機でタイヤトレッドの形状に押し出し成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、170℃の条件下で12分間プレス加硫することにより、試験用タイヤ(サイズ:195/65R15、スタッドレスタイヤ)を製造した。
【0060】
得られた未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物および試験用タイヤについて下記の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0061】
低温氷上性能(0℃発進性能)
ドライブ軸に試験用タイヤを装着した車両を、表所路面に停止した状態から発進させ、時速10kmに達した時の走行距離を測定した。結果は、指数で示し、指数が大きいほど低温氷上性能に優れることを示す。指数は次の式で求めた。なお、118以上を性能目標値とする。
(低温氷上性能指数)=(比較例1の時速10kmに達した時の走行距離)/(各配合例の時速10kmに達した時の走行距離)×100
【0062】
耐摩耗性能
各試験用タイヤを車両(国産FF2000cc)の全輪に装着し、走行距離8000km後のタイヤトレッド部の溝深さを測定し、タイヤ溝深さが1mm減る時の走行距離を求めた。結果は指数で表し、指数が大きいほど耐摩耗性が良好であることを示す。指数は次の式で求めた。なお、92以上を性能目標値とする。
(耐摩耗性能指数)=(各配合例のタイヤ溝が1mm減る時の走行距離)/(比較例1のタイヤ溝が1mm減る時の走行距離)×100
【0063】
【表1】
【0064】
表1の結果より、ゴム成分に対し、所定量の平均粒子径が120μm以上の卵殻粉ならびにポリテルペン樹脂およびテルペンスチレン樹脂の少なくとも一方を含有するトレッド用ゴム組成物および当該ゴム組成物により構成されたトレッドを有するタイヤは、低温氷上性能および耐摩耗性に優れることがわかる。