特許第6900871号(P6900871)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6900871
(24)【登録日】2021年6月21日
(45)【発行日】2021年7月7日
(54)【発明の名称】産業車両のスイッチバック制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20210628BHJP
   F16H 59/02 20060101ALI20210628BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20210628BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20210628BHJP
   B60W 10/11 20120101ALI20210628BHJP
   B60W 10/101 20120101ALI20210628BHJP
【FI】
   F16H61/02
   F16H59/02
   F16H63/50
   B60W10/00 106
   B60W10/04
   B60W10/101
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-204244(P2017-204244)
(22)【出願日】2017年10月23日
(65)【公開番号】特開2019-78302(P2019-78302A)
(43)【公開日】2019年5月23日
【審査請求日】2020年4月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】小出 幸和
(72)【発明者】
【氏名】小林 弘和
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−16921(JP,A)
【文献】 特開平9−119519(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00−61/12,61/16−61/24,
61/66−61/70,63/40−63/50
B60W 10/00−50/16
B66F 9/00−11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの回転がトランスミッションに伝わって車輪が回転する産業車両のスイッチバック制御装置において、
前記トランスミッションを前進、後進及び中立の何れかの状態に切換操作する前後進レバーの位置を検出する前後進レバースイッチと、
前記産業車両の車速を絶対値として検出する車速検出部と、
前記前後進レバースイッチにより前記前後進レバーが前進位置から後進位置に切り換えられたことが検知された場合は、前記車速検出部により検出された車速が1速から2速へのシフトアップ車速よりも低い閾値以上であるときに、前記トランスミッションを強制的に後進1速に設定し、その後前記トランスミッションの強制1速を解除し、前記前後進レバースイッチにより前記前後進レバーが後進位置から前進位置に切り換えられたことが検知された場合は、前記車速検出部により検出された車速が前記閾値以上であるときに、前記トランスミッションを強制的に前進1速に設定し、その後前記トランスミッションの強制1速を解除する変速制御部とを備えることを特徴とする産業車両のスイッチバック制御装置。
【請求項2】
前記前後進レバースイッチにより前記前後進レバーが前進位置から後進位置または後進位置から前進位置に切り換えられたことが検知された場合は、前記車速検出部により検出された車速が前記閾値以上であるときに、前記エンジンの回転数を前記閾値に対応する回転数よりも低い目標回転数に向けて制限するエンジン回転数制御部を更に備えることを特徴とする請求項1記載の産業車両のスイッチバック制御装置。
【請求項3】
前記エンジン回転数制御部は、前記エンジンの回転数を前記目標回転数に向けて徐々に制限することを特徴とする請求項2記載の産業車両のスイッチバック制御装置。
【請求項4】
前記エンジン回転数制御部は、前記変速制御部により前記トランスミッションの強制1速が解除されると、前記エンジンの回転数の制限を解除することを特徴とする請求項2または3記載の産業車両のスイッチバック制御装置。
【請求項5】
前記変速制御部は、前記車速検出部により検出された車速が前記閾値よりも低い状態が所定時間連続したときに、前記トランスミッションの強制1速を解除することを特徴とする請求項2〜4の何れか一項記載の産業車両のスイッチバック制御装置。
【請求項6】
前記変速制御部は、前記前後進レバースイッチにより前記前後進レバーが前進位置から後進位置に切り換えられたことが検知された場合は、前記前後進レバースイッチにより前記前後進レバー後進位置にある状態が所定時間連続したことが検知されたときに、前記トランスミッションの強制1速を解除し、前記前後進レバースイッチにより前記前後進レバーが後進位置から前進位置に切り換えられたことが検知された場合は、前記前後進レバースイッチにより前記前後進レバー前進位置にある状態が所定時間連続したことが検知されたときに、前記トランスミッションの強制1速を解除することを特徴とする請求項1〜の何れか一項記載の産業車両のスイッチバック制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業車両のスイッチバック制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フォークリフト等の産業車両における特有の操作として、走行中に前後進を切り換えるスイッチバック操作がある。従来のスイッチバック制御装置としては、例えば特許文献1に記載されている技術が知られている。特許文献1に記載のスイッチバック制御装置は、前後進各2速に変速が可能なトランスミッションと、このトランスミッションを前進・中立・後進の状態に切換え操作するための前後進レバーと、車両の車速を検出する車速センサと、車両の進行方向を検出する進行方向センサと、車速が2速以上の状態で車両の進行方向と前後進レバーの位置とが異なる場合に、トランスミッションを強制的に1速にシフトさせる制御手段とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−16921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術においては、前後進レバーの位置と進行方向センサにより検出された進行方向とが不一致であるときに、スイッチバックが開始されたと判定されて、トランスミッションが強制的に1速にシフトされ、その後で前後進レバーの位置と進行方向センサにより検出された進行方向とが一致すると、スイッチバックが終了したと判定されて、トランスミッションの強制1速が解除される。このようにスイッチバックの制御を行うために進行方向センサが必要となるため、コストアップにつながる。
【0005】
本発明の目的は、産業車両の進行方向を検出するセンサを使用せずに、スイッチバック時におけるトランスミッションの強制1速状態への移行及び解除を実現することができる産業車両のスイッチバック制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、エンジンの回転がトランスミッションに伝わって車輪が回転する産業車両のスイッチバック制御装置において、トランスミッションを前進、後進及び中立の何れかの状態に切換操作する前後進レバーの位置を検出する前後進レバースイッチと、産業車両の車速を絶対値として検出する車速検出部と、前後進レバースイッチにより前後進レバーが前進位置から後進位置に切り換えられたことが検知された場合は、車速検出部により検出された車速が1速から2速へのシフトアップ車速よりも低い閾値以上であるときに、トランスミッションを強制的に後進1速に設定し、その後トランスミッションの強制1速を解除し、前後進レバースイッチにより前後進レバーが後進位置から前進位置に切り換えられたことが検知された場合は、車速検出部により検出された車速が閾値以上であるときに、トランスミッションを強制的に前進1速に設定し、その後トランスミッションの強制1速を解除する変速制御部とを備えることを特徴とする。
【0007】
このようなスイッチバック制御装置においては、前後進レバースイッチにより前後進レバーが前進位置から後進位置または後進位置から前進位置に切り換えられたことが検知されると共に、車速検出部により検出された車速(検出車速)が1速から2速へのシフトアップ車速よりも低い閾値以上であるときに、トランスミッションが強制的に1速に設定される。その後、トランスミッションの強制1速が解除される。これにより、産業車両の進行方向を検出するセンサを使用しなくても、スイッチバック時におけるトランスミッションの強制1速状態への移行及び解除を実現することができる。
【0008】
スイッチバック制御装置は、前後進レバースイッチにより前後進レバーが前進位置から後進位置または後進位置から前進位置に切り換えられたことが検知された場合は、車速検出部により検出された車速が閾値以上であるときに、エンジンの回転数を閾値に対応する回転数よりも低い目標回転数に向けて制限するエンジン回転数制御部を更に備えてもよい。スイッチバック時にはタイヤがスリップしやすくなるが、エンジンの回転数を制限することにより、過剰なエンジントルクが抑制され、タイヤのスリップが低減されるため、検出車速が低下する。従って、産業車両の実車速に対する検出車速の乖離を低減することができる。
【0009】
エンジン回転数制御部は、エンジンの回転数を目標回転数に向けて徐々に制限してもよい。この場合には、エンジントルクの急変を防ぎ、エンストを防止することができる。
エンジン回転数制御部は、変速制御部によりトランスミッションの強制1速が解除されると、エンジンの回転数の制限を解除してもよい。この場合には、アクセル開度に応じたエンジンの回転数が確保されるようになる。
【0010】
変速制御部は、車速検出部により検出された車速が閾値よりも低い状態が所定時間連続したときに、トランスミッションの強制1速を解除してもよい。このような構成では、トランスミッションの強制1速が解除されたときに、トランスミッションが2速になることが防止される。
【0011】
変速制御部は、前後進レバースイッチにより前後進レバーが前進位置から後進位置に切り換えられたことが検知された場合は、前後進レバースイッチにより前後進レバー後進位置にある状態が所定時間連続したことが検知されたときに、トランスミッションの強制1速を解除し、前後進レバースイッチにより前後進レバーが後進位置から前進位置に切り換えられたことが検知された場合は、前後進レバースイッチにより前後進レバー前進位置にある状態が所定時間連続したことが検知されたときに、トランスミッションの強制1速を解除してもよい。このような構成では、前後進レバーが前進位置から後進位置に切り換えられた状態で一定時間が経過すると、トランスミッションの強制1速が解除される。また、前後進レバーが後進位置から前進位置に切り換えられた状態で一定時間が経過すると、トランスミッションの強制1速が解除される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、産業車両の進行方向を検出するセンサを使用せずに、スイッチバック時におけるトランスミッションの強制1速状態への移行及び解除を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る産業車両のスイッチバック制御装置を備えた産業車両の概略構成を示すブロック図である。
図2図1に示されたコントローラにより実行される前進スイッチバック制御処理手順の詳細を示すフローチャートである。
図3図1に示されたコントローラにより実行される後進スイッチバック制御処理手順の詳細を示すフローチャートである。
図4】エンジン回転数と車速との関係を示すグラフである。
図5】比較例として従来のスイッチバック制御装置により前進スイッチバックが実施されるときの動作イメージを示す図である。
図6図1に示されたスイッチバック制御装置により前進スイッチバックが実施されるときの動作イメージを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る産業車両のスイッチバック制御装置を備えた産業車両の概略構成を示すブロック図である。図1において、本実施形態のスイッチバック制御装置1は、産業車両であるエンジン式のフォークリフト2に搭載されている。
【0017】
フォークリフト2は、エンジン3と、このエンジン3の出力軸にトルクコンバータ4を介して連結されたトランスミッション5とを備えている。エンジン3の回転は、トルクコンバータ4を介してトランスミッション5に伝達される。トランスミッション5は、複数のギア及びクラッチ等を有する2段変速機であり、前後進各2速に変速が可能である。
【0018】
トランスミッション5は、減速機6及びアクスルシャフト(図示せず)を介して左右の車輪7と連結されている。車輪7の外周部には、タイヤ8がはめ込まれている。トランスミッション5に伝えられた回転が減速機6及びアクスルシャフトを介して車輪7に伝達されて車輪7が回転することで、フォークリフト2が走行する。
【0019】
また、フォークリフト2は、前後進レバー10と、前後進レバースイッチ11と、車速センサ12と、アクセル開度センサ13と、前後進ソレノイド14と、変速ソレノイド15と、コントローラ16と、エンジンECU17とを備えている。
【0020】
前後進レバー10は、トランスミッション5を前進、後進及び中立の何れかの状態に切換操作するレバー(前後進切換操作部)である。前後進レバースイッチ11は、前後進レバー10の位置を検出するスイッチ(前後進位置検出部)である。車速センサ12は、フォークリフト2の車速を検出するセンサ(車速検出部)である。車速センサ12は、フォークリフト2の車速を絶対値として検出する。アクセル開度センサ13は、フォークリフト2のアクセル開度を検出するセンサである。
【0021】
前後進ソレノイド14は、トランスミッション5の出力回転方向を前進、後進及び中立の何れかに切り換えるソレノイドである。変速ソレノイド15は、トランスミッション5の変速段を1速または2速に切り換えるソレノイドである。前後進ソレノイド14及び変速ソレノイド15は、例えばトランスミッションのクラッチの位置を変更する。
【0022】
コントローラ16及びエンジンECU17は、CPU、RAM、ROM及び入出力インターフェース等により構成されている。なお、エンジンECU17の機能は、コントローラ16に含まれていてもよい。
【0023】
コントローラ16は、エンジン制御部18と、前後進ソレノイド制御部19と、変速ソレノイド制御部20とを有している。
【0024】
エンジン制御部18は、アクセル開度センサ13により検出されたフォークリフト2のアクセル開度に基づいて、エンジン3の回転数指令値(以下、エンジン回転数指令値という)を求め、そのエンジン回転数指令値をエンジンECU17に出力する。このとき、エンジン制御部18は、アクセル開度が大きくなるほどエンジン回転数指令値を高く設定する。
【0025】
また、エンジン制御部18は、前後進レバースイッチ11により検出された前後進レバー10の位置と車速センサ12により検出されたフォークリフト2の車速とに基づいて、エンジン回転数指令値を制限する。エンジン回転数指令値の制限の処理については、後で詳述する。
【0026】
前後進ソレノイド制御部19は、前後進レバースイッチ11により検出された前後進レバー10の位置に応じて前後進ソレノイド14を制御する。具体的には、前後進ソレノイド制御部19は、前後進レバー10が前進位置にあるときは、トランスミッション5の出力回転方向が前進となるように前後進ソレノイド14を制御し、前後進レバー10が後進位置にあるときは、トランスミッション5の出力回転方向が後進となるように前後進ソレノイド14を制御し、前後進レバー10が中立位置にあるときは、トランスミッション5の出力回転方向が中立となるように前後進ソレノイド14を制御する。
【0027】
変速ソレノイド制御部20は、車速センサ12により検出された車速と前後進レバースイッチ11により検出された前後進レバー10の位置とに基づいて、変速ソレノイド15を制御する。
【0028】
具体的には、変速ソレノイド制御部20は、トランスミッション5の現在の変速段が1速であり且つ車速センサ12により検出された車速が1速から2速へのシフトアップ車速以上であるときは、トランスミッション5の変速段を1速から2速にシフトアップするように変速ソレノイド15を制御する。また、変速ソレノイド制御部20は、トランスミッション5の現在の変速段が2速であり且つ車速センサ12により検出された車速が2速から1速へのシフトダウン車速以下であるときは、トランスミッション5の変速段を2速から1速にシフトダウンするように変速ソレノイド15を制御する。なお、シフトアップ車速及びシフトダウン車速は、前進時と後進時とで同じでもよいし、前進時と後進時とで異なっていてもよい。
【0029】
また、変速ソレノイド制御部20は、前後進レバースイッチ11により検出された前後進レバー10の位置と車速センサ12により検出されたフォークリフト2の車速とに基づいて、トランスミッション5の変速段の強制1速状態への移行及び解除を行う。トランスミッション5の変速段の強制1速状態への移行及び解除の処理については、後で詳述する。
【0030】
エンジンECU17は、エンジン制御部18により得られたエンジン回転数指令値に応じてエンジン3の回転数を制御する。
【0031】
以上において、スイッチバック制御装置1は、前後進レバースイッチ11、車速センサ12、アクセル開度センサ13、前後進ソレノイド14、変速ソレノイド15、エンジンECU17、エンジン制御部18、前後進ソレノイド制御部19及び変速ソレノイド制御部20を備えている。
【0032】
変速ソレノイド制御部20及び変速ソレノイド15は、前後進レバースイッチ11により前後進レバー10が前進位置から後進位置または後進位置から前進位置に切り換えられたことが検知されると共に、車速センサ12により検出された車速が1速から2速へのシフトアップ車速よりも低い閾値A以上であるときに、トランスミッション5の変速段を強制的に1速に設定し、その後トランスミッション5の変速段の強制1速を解除する変速制御部を構成する。
【0033】
エンジン制御部18及びエンジンECU17は、前後進レバースイッチ11により前後進レバー10が前進位置から後進位置または後進位置から前進位置に切り換えられたことが検知されると共に、車速センサ12により検出された車速が閾値A(前述)以上であるときに、エンジン回転数指令値を閾値Aに対応する回転数よりも低い目標回転数Bに向けて制限するエンジン回転数制御部を構成する。
【0034】
図2は、コントローラ16により実行される前進スイッチバック制御処理手順の詳細を示すフローチャートである。前進スイッチバックは、前進から後進へのスイッチバックである。本処理の開始時には、前後進レバー10は前進位置にある。
【0035】
図2において、コントローラ16は、まず前後進レバースイッチ11により前後進レバー10が前進位置から後進位置に切り換えられたかどうかを判断する(手順S101)。コントローラ16は、前後進レバー10が前進位置から後進位置に切り換えられたと判断したときは、トランスミッション5の出力回転方向つまり車輪7の回転方向が後進となるように前後進ソレノイド14を制御する(手順S102)。
【0036】
そして、コントローラ16は、車速センサ12により検出された車速(検出車速)が閾値A以上であるかどうかを判断する(手順S103)。閾値Aは、図4に示されるように、1速から2速へのシフトアップ車速よりも低い値(シフトアップ車速−マージンa)である。コントローラ16は、検出車速が閾値A以上でないと判断したときは、上記の手順S101を再度実行する。
【0037】
コントローラ16は、検出車速が閾値A以上であると判断したときは、トランスミッション5の変速段を強制的に後進1速に設定するように変速ソレノイド15を制御する(手順S104)。
【0038】
そして、コントローラ16は、エンジン回転数指令値を目標回転数Bに向けて徐々に制限する(手順S105)。具体的には、コントローラ16は、フォークリフト2のアクセル開度に応じたエンジン回転数指令値を目標回転数Bに向けて徐々に下げていくようにエンジン回転数指令値を補正し、その補正したエンジン回転数指令値をエンジンECU17に出力する。目標回転数Bは、図4に示されるように、車速の閾値Aに対応する回転数よりも低い回転数(閾値Aに対応する回転数−マージンb)である。なお、図4から分かるように、一定速での走行中におけるエンジン回転数と車速との関係は、仕様により異なるが概ね一意に決まる。
【0039】
続いて、コントローラ16は、前後進レバースイッチ11により前後進レバー10が後進位置である状態が所定時間T1連続しているかどうかを判断する(手順S106)。所定時間T1は、例えば200mSである。
【0040】
コントローラ16は、前後進レバー10が後進位置である状態が所定時間T1連続していないと判断したときは、検出車速が閾値Aよりも低い状態が所定時間T2連続しているかどうかを判断する(手順S107)。所定時間T2は、例えば所定時間T1と同様に200mSである。コントローラ16は、検出車速が閾値Aよりも低い状態が所定時間T2連続していないと判断したときは、上記の手順S106を再度実行する。
【0041】
コントローラ16は、手順S106で前後進レバー10が後進位置である状態が所定時間T1連続していると判断したとき、または手順S107で検出車速が閾値Aよりも低い状態が所定時間T2連続していると判断したときは、トランスミッション5の変速段の強制1速を解除するように変速ソレノイド15を制御する(手順S108)。このとき、コントローラ16は、検出車速及び前後進レバー10の位置に基づいた変速段となるように変速ソレノイド15を制御する。
【0042】
そして、コントローラ16は、エンジン回転数指令値の制限を解除する(手順S109)。具体的には、コントローラ16は、フォークリフト2のアクセル開度に応じたエンジン回転数指令値まで徐々に上げていくようにエンジン回転数指令値を補正し、その補正したエンジン回転数指令値をエンジンECU17に出力する。
【0043】
以上の処理において、上記の手順S101は、エンジン制御部18、前後進ソレノイド制御部19及び変速ソレノイド制御部20により実行される。上記の手順S102は、前後進ソレノイド制御部19により実行される。上記の手順S103は、エンジン制御部18及び変速ソレノイド制御部20により実行される。上記の手順S104は、変速ソレノイド制御部20により実行される。上記の手順S105は、エンジン制御部18により実行される。上記の手順S106,107は、エンジン制御部18及び変速ソレノイド制御部20により実行される。上記の手順S108は、変速ソレノイド制御部20により実行される。上記の手順S109は、エンジン制御部18により実行される。
【0044】
図3は、コントローラ16により実行される後進スイッチバック制御処理手順の詳細を示すフローチャートである。後進スイッチバックは、後進から前進へのスイッチバックである。なお、本処理の開始時には、前後進レバー10は後進位置にある。
【0045】
図3において、コントローラ16は、まず前後進レバースイッチ11により前後進レバー10が後進位置から前進位置に切り換えられたかどうかを判断する(手順S111)。コントローラ16は、前後進レバー10が後進位置から前進位置に切り換えられたと判断したときは、トランスミッション5の出力回転方向つまり車輪7の回転方向が前進となるように前後進ソレノイド14を制御する(手順S112)。
【0046】
そして、コントローラ16は、図2における手順S103と同様に、検出車速が閾値A以上であるかどうかを判断する(手順S113)。コントローラ16は、検出車速が閾値A以上でないと判断したときは、上記の手順S111を再度実行する。
【0047】
コントローラ16は、検出車速が閾値A以上であると判断したときは、トランスミッション5の変速段を強制的に前進1速に設定するように変速ソレノイド15を制御する(手順S114)。そして、コントローラ16は、図2における手順S105と同様に、エンジン回転数指令値を目標回転数Bに向けて徐々に制限する(手順S115)。
【0048】
続いて、コントローラ16は、前後進レバースイッチ11により前後進レバー10が前進位置である状態が所定時間T1連続しているかどうかを判断する(手順S116)。
【0049】
コントローラ16は、前後進レバー10が前進位置である状態が所定時間T1連続していないと判断したときは、図2における手順S107と同様に、検出車速が閾値Aよりも低い状態が所定時間T2連続しているかどうかを判断する(手順S117)。コントローラ16は、検出車速が閾値Aよりも低い状態が所定時間T2連続していないと判断したときは、上記の手順S116を再度実行する。
【0050】
コントローラ16は、手順S116で前後進レバー10が前進位置である状態が所定時間T1連続していると判断したとき、または手順S117で検出車速が閾値Aよりも低い状態が所定時間T2連続していると判断したときは、図2における手順S108と同様に、トランスミッション5の変速段の強制1速を解除するように変速ソレノイド15を制御する(手順S118)。そして、コントローラ16は、図2における手順S109と同様に、エンジン回転数指令値の制限を解除する(手順S119)。
【0051】
以上の処理において、上記の手順S111は、エンジン制御部18、前後進ソレノイド制御部19及び変速ソレノイド制御部20により実行される。上記の手順S112は、前後進ソレノイド制御部19により実行される。上記の手順S113は、エンジン制御部18及び変速ソレノイド制御部20により実行される。上記の手順S114は、変速ソレノイド制御部20により実行される。上記の手順S115は、エンジン制御部18により実行される。上記の手順S116,117は、エンジン制御部18及び変速ソレノイド制御部20により実行される。上記の手順S118は、変速ソレノイド制御部20により実行される。上記の手順S119は、エンジン制御部18により実行される。
【0052】
図5は、比較例として従来のスイッチバック制御装置により前進スイッチバックが実施されるときの動作イメージを示す図である。従来のスイッチバック制御装置は、前後進レバースイッチ11及び車速センサ12に加え、車輪7の回転方向を検出することでフォークリフト2の進行方向を検出する回転方向センサ(進行方向センサ)を備えている。
【0053】
図5において、プラス(+)は前進を表し、マイナス(−)は後進を表している。実線Pは、フォークリフトの実車速を表している。破線Qは、タイヤスリップ発生時の検出車速を表している。実線Rは、エンジン回転数指令値を表している。
【0054】
フォークリフト2の前進時にフォークリフト2の車速がシフトアップ車速(+)を超えると、トランスミッション5が1速から2速にシフトアップされる。その状態で、前後進レバー10が前進位置から後進位置に切り換えられると、車輪7の回転方向が逆転することで、フォークリフト2の進行方向が前進から後進に切り変わる。
【0055】
前後進レバー10が前進位置から後進位置に切り換えられた直後は、前後進レバー10の位置は後進であるが、回転方向センサにより検出された方向は前進であり、前後進レバー10の位置と進行方向センサの検出方向とが不一致であるため、前進スイッチバックの開始と判定されて、トランスミッション5が強制的に2速から1速にシフトダウンされる。その後、進行方向センサにより検出された方向が後進になると、前後進レバー10の位置と回転方向センサにより検出された方向とが一致するため、前進スイッチバックの終了と判定されて、トランスミッション5の強制1速が解除される。
【0056】
ここで、タイヤ8がグリップしていれば、検出車速は実車速とほぼ同じ軌跡を示す。しかし、タイヤ8がスリップした場合には、実車速(実線P)と検出車速(破線Q)との乖離が生じる。この場合でも、回転方向センサによって車輪7の回転方向が分かるため、車輪7の回転方向の変化点を検知してトランスミッション5の強制1速を解除することができる。
【0057】
トランスミッション5の強制1速が解除された直後は、検出車速がシフトアップ車速(−)に達していないため、トランスミッション5は1速に維持される。その後、検出車速がシフトアップ車速(−)を超えると、トランスミッション5が1速から2速にシフトアップされる。
【0058】
図6は、本実施形態のスイッチバック制御装置1により前進スイッチバックが実施されるときの動作イメージを示す図である。図6において、プラス(+)は前進を表し、マイナス(−)は後進を表している。実線Pは、フォークリフトの実車速を表している。実線Rは、エンジン回転数指令値を表している。太破線Q1は、エンジン回転数指令値の制限がない場合におけるタイヤスリップ発生時の検出車速を表している。細破線Q2は、エンジン回転数指令値の制限がある場合(実線R参照)におけるタイヤスリップ発生時の検出車速を表している。
【0059】
前後進レバー10が前進位置から後進位置に切り換えられたときは、検出車速(実車速とほぼ一致)が閾値A以上であるため、前進スイッチバックの開始と判定されて、トランスミッション5が強制的に2速から1速にシフトダウンされる。
【0060】
しかし、スイッチバック制御装置1では、回転方向センサが備えられておらず、車速センサ12は車速の絶対値のみを検出するため、車輪7の回転方向が分からない。このため、タイヤ8がスリップすると、シフトアップ車速(+)以上で検出車速(図中の太破線Q1)が推移し、当該検出車速が閾値Aを下回ることがない。
【0061】
そこで、前進スイッチバックの開始が検知された後、エンジン回転数指令値(図中の実線R)が徐々に制限される。これにより、タイヤ8のスリップが低減されるため、検出車速(図中の細破線Q2)が閾値Aを下回るようになる。この場合には、前進スイッチバックの終了と判定されて、トランスミッション5の強制1速が解除される。
【0062】
トランスミッション5の強制1速が解除されると、エンジン回転数指令値の制限が解除され、エンジン回転数指令値が徐々に上昇し、フォークリフト2のアクセル開度に応じたエンジン回転数指令値となる。なお、2点鎖線R0は、エンジン回転数指令値が目標回転数Bまで制限される場合の仮想線である。
【0063】
トランスミッション5の強制1速が解除されても、検出車速(図中の細破線Q2)はシフトアップ車速(+)に達していないため、トランスミッション5は1速に維持される。その後、当該検出車速がシフトアップ車速(+)を超えると、トランスミッション5が1速から2速にシフトアップされる。
【0064】
以上のように本実施形態にあっては、前後進レバースイッチ11により前後進レバー10が前進位置から後進位置または後進位置から前進位置に切り換えられたことが検知されると共に、車速センサ12により検出された車速(検出車速)が1速から2速へのシフトアップ車速よりも低い閾値A以上であるときに、トランスミッション5が強制的に1速に設定される。その後、トランスミッション5の強制1速が解除される。これにより、車輪7の回転方向を検出することでフォークリフト2の進行方向を検出する回転方向センサを使用しなくても、スイッチバック時におけるトランスミッション5の強制1速状態への移行及び解除を実現することができる。その結果、スイッチバック制御装置1のコストダウン化を図りつつ、スイッチバック時間を短縮することが可能となる。
【0065】
また、本実施形態では、前後進レバースイッチ11により前後進レバー10が前進位置から後進位置または後進位置から前進位置に切り換えられたことが検知されると共に、検出車速が閾値A以上であるときに、エンジン3の回転数が閾値Aに対応する回転数よりも低い目標回転数Bに向けて制限される。スイッチバック時にはタイヤ8がスリップしやすくなるが、エンジン3の回転数を制限することにより、過剰なエンジントルクが抑制され、タイヤ8のスリップが低減されるため、検出車速が低下する。従って、フォークリフト2の実車速に対する検出車速の乖離を低減することができる。また、エンジン3の回転数を制限するので、フォークリフト2の燃費を低減することもできる。
【0066】
また、本実施形態では、エンジン3の回転数が目標回転数Bに向けて徐々に制限されるので、エンジントルクの急変を防ぎ、エンストを防止することができる。
【0067】
また、本実施形態では、検出車速が閾値Aよりも低い状態が所定時間T2連続したときに、トランスミッション5の強制1速が解除される。従って、トランスミッション5の強制1速が解除されたときに、トランスミッション5が2速になることが防止される。
【0068】
また、本実施形態では、前後進レバースイッチ11により前後進レバー10が前進位置から後進位置に切り換えられたことが検知された場合は、前後進レバースイッチ11により前後進レバー10が後進位置にある状態が所定時間T1連続したことが検知されたときに、トランスミッション5の強制1速が解除され、前後進レバースイッチ11により前後進レバー10が後進位置から前進位置に切り換えられたことが検知された場合は、前後進レバースイッチ11により前後進レバー10が前進位置にある状態が所定時間T1連続したことが検知されたときに、トランスミッション5の強制1速が解除される。従って、前後進レバー10が前進位置から後進位置に切り換えられた状態で一定時間が経過すると、トランスミッション5の強制1速が解除される。また、前後進レバー10が後進位置から前進位置に切り換えられた状態で一定時間が経過すると、トランスミッション5の強制1速が解除される。
【0069】
また、本実施形態では、トランスミッション5の強制1速が解除されると、エンジン3の回転数の制限が解除されるので、アクセル開度に応じたエンジン3の回転数が確保されるようになる。
【0070】
なお、本発明は、上記実施形態には限定されない。例えば、上記実施形態では、検出車速が閾値Aよりも低い状態が所定時間T2連続したとき、及び前後進レバースイッチ11により前後進レバー10が後進位置にある状態あるいは前進位置にある状態が所定時間T1連続したことが検知されたときの何れかの条件において、トランスミッション5の強制1速が解除されているが、特にその形態には限られない。検出車速が閾値Aよりも低い状態が所定時間T2連続したときにのみ、トランスミッション5の強制1速が解除されてもよいし、前後進レバースイッチ11により前後進レバー10が後進位置にある状態あるいは前進位置にある状態が所定時間T1連続したことが検知されたときにのみ、トランスミッション5の強制1速が解除されてもよい。
【0071】
前後進レバースイッチ11により前後進レバー10が後進位置にある状態あるいは前進位置にある状態が所定時間T1連続したことが検知されたときにのみ、トランスミッション5の強制1速が解除される場合は、必ずしもエンジン3の回転数を目標回転数Bに向けて制限しなくてもよい。
【0072】
さらに、上記実施形態のスイッチバック制御装置1は、エンジン式のフォークリフト2に搭載されているが、本発明は、エンジンの回転がトランスミッションに伝わって車輪が回転する産業車両であれば適用可能である。
【符号の説明】
【0073】
1…スイッチバック制御装置、2…フォークリフト(産業車両)、3…エンジン、5…トランスミッション、7…車輪、10…前後進レバー(前後進切換操作部)、11…前後進レバースイッチ(前後進位置検出部)、12…車速センサ(車速検出部)、15…変速ソレノイド(変速制御部)、17…エンジンECU(エンジン回転数制御部)、18…エンジン制御部(エンジン回転数制御部)、20…変速ソレノイド制御部(変速制御部)、A…閾値、B…目標回転数。
図1
図2
図3
図4
図5
図6