特許第6901324号(P6901324)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6901324点火時期適合方法、および、点火時期適合装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6901324
(24)【登録日】2021年6月21日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】点火時期適合方法、および、点火時期適合装置
(51)【国際特許分類】
   F02P 17/02 20060101AFI20210701BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20210701BHJP
【FI】
   F02P17/02 J
   F02D45/00 368S
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-111304(P2017-111304)
(22)【出願日】2017年6月6日
(65)【公開番号】特開2018-204550(P2018-204550A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2020年5月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100122770
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】寺井 美裕
(72)【発明者】
【氏名】木村 翔平
【審査官】 小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−112253(JP,A)
【文献】 特開平09−189281(JP,A)
【文献】 特開2015−081594(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 43/00−45/00
F02P 1/00− 3/12、 5/145−5/155、
7/00−17/12
F16H 19/00−37/16、49/00、59/00−61/12、
61/16−61/24、61/66−61/70、
63/40−63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の点火時期を変更する点火時期変更工程と、
前記点火時期変更工程において変更された点火時期毎に、前記内燃機関のクランクシャフトの角度毎に前記クランクシャフトのクランクアームの回転によって形成される仮想の円の接線方向に作用する回転力を取得する回転力取得工程と、
前記回転力取得工程において取得された前記クランクシャフトの角度毎の回転力のデータから回転力が最大となる角度を抽出し、当該抽出した角度が予め設定された回転力最大時期か否かを判定する回転力最大時期判定工程と、
前記回転力最大時期判定工程において回転力最大時期と判定された場合の点火時期により前記内燃機関のトルクが最大となる点火時期を設定する点火時期設定工程と、
を含み、
前記回転力取得工程は、前記クランクシャフトの角度毎に前記内燃機関の気筒の筒内圧を検出し、当該検出した筒内圧から得られる前記気筒のピストンの軸方向に作用する力と、前記内燃機関の諸元から得られる前記ピストンの軸方向の力を前記仮想の円の接線方向に伝達する機械伝達効率とにより前記クランクシャフトの角度毎の回転力を取得することを特徴とする点火時期適合方法。
【請求項2】
前記回転力取得工程は、前記回転力をFi(θ)[N]とし、前記クランクシャフトの角度をθ[deg]とし、前記筒内圧をP(θ)[kPa]とし、前記ピストンの断面積をA[mm]とし、コネクティングロッドの長さをl[mm]とし、前記クランクシャフトのクランク半径をr[mm]とした場合、(式1)により、前記回転力Fi(θ)を演算することを特徴とする請求項に記載の点火時期適合方法。
【数1】
【請求項3】
前記クランクシャフトの角度毎に前記内燃機関の気筒の筒内圧を検出し、当該検出したクランクシャフトの角度毎の筒内圧のデータを用いて前記気筒での燃焼エネルギを取得する燃焼エネルギ取得工程と、
前記燃焼エネルギ取得工程において取得された燃焼エネルギを記憶する記憶工程と、
前記燃焼エネルギ取得工程において取得された燃焼エネルギと前記記憶工程において記憶された前回の点火時期での燃焼エネルギとの大小関係を判定する燃焼エネルギ判定工程と、
を含み、
前記点火時期設定工程は、前記燃焼エネルギ判定工程における判定結果に基づいて、前記回転力最大時期判定工程において予め設定された回転力最大時期と判定された場合の点火時期のうち燃焼エネルギが最も大きい点火時期を前記内燃機関のトルクが最大となる点火時期として設定することを特徴とする請求項1又は2に記載の点火時期適合方法。
【請求項4】
内燃機関の点火時期を変更する点火時期変更工程と、
前記点火時期変更工程において変更された点火時期毎に、前記内燃機関のクランクシャフトの角度毎に前記クランクシャフトのクランクアームの回転によって形成される仮想の円の接線方向に作用する回転力を取得する回転力取得工程と、
前記回転力取得工程において取得された前記クランクシャフトの角度毎の回転力のデータから回転力が最大となる角度を抽出し、当該抽出した角度が予め設定された回転力最大時期か否かを判定する回転力最大時期判定工程と、
前記回転力最大時期判定工程において回転力最大時期と判定された場合の点火時期により前記内燃機関のトルクが最大となる点火時期を設定する点火時期設定工程と、
前記クランクシャフトの角度毎に前記内燃機関の気筒の筒内圧を検出し、当該検出したクランクシャフトの角度毎の筒内圧のデータを用いて前記気筒での燃焼エネルギを取得する燃焼エネルギ取得工程と、
前記燃焼エネルギ取得工程において取得された燃焼エネルギを記憶する記憶工程と、
前記燃焼エネルギ取得工程において取得された燃焼エネルギと前記記憶工程において記憶された前回の点火時期での燃焼エネルギとの大小関係を判定する燃焼エネルギ判定工程と、
を含み、
前記点火時期設定工程は、前記燃焼エネルギ判定工程における判定結果に基づいて、前記回転力最大時期判定工程において予め設定された回転力最大時期と判定された場合の点火時期のうち燃焼エネルギが最も大きい点火時期を前記内燃機関のトルクが最大となる点火時期として設定することを特徴とする点火時期適合方法。
【請求項5】
前記燃焼エネルギ取得工程は、前記クランクシャフトの角度毎の筒内圧のデータを用いて、所定の角度範囲で筒内圧を積分し、当該積分値を前記燃焼エネルギとすることを特徴とする請求項3又は4に記載の点火時期適合方法。
【請求項6】
内燃機関のクランクシャフトの角度を検出するクランク角取検出手段と、
前記内燃機関の点火時期を変更する点火時期変更手段と、
前記点火時期変更手段によって変更された点火時期毎に、前記内燃機関のクランクシャフトの角度毎に前記クランクシャフトのクランクアームの回転によって形成される仮想の円の接線方向に作用する回転力を取得する回転力取得手段と、
前記回転力取得手段によって取得された前記クランクシャフトの角度毎の回転力のデータから回転力が最大となる角度を抽出し、当該抽出した角度が予め設定された回転力最大時期か否かを判定する回転力最大時期判定手段と、
前記回転力最大時期判定手段によって回転力最大時期と判定された場合の点火時期により前記内燃機関のトルクが最大となる点火時期を設定する点火時期設定手段と、
前記内燃機関の気筒の筒内圧を検出する筒内圧検出手段と、を備え、
前記回転力取得手段は、前記クランクシャフトの角度毎に前記筒内圧検出手段によって検出された前記筒内圧から得られる前記気筒のピストンの軸方向に作用する力と、前記内燃機関の諸元から得られる前記ピストンの軸方向の力を前記仮想の円の接線方向に伝達する機械伝達効率とにより前記クランクシャフトの角度毎の回転力を取得することを特徴とする点火時期適合装置。
【請求項7】
前記クランクシャフトの角度毎に前記筒内圧検出手段によって検出された筒内圧のデータを用いて前記気筒での燃焼エネルギを取得する燃焼エネルギ取得手段と、
前記燃焼エネルギ取得手段によって取得された燃焼エネルギを記憶する記憶手段と、
前記燃焼エネルギ取得手段によって取得された燃焼エネルギと前記記憶手段に記憶された前回の点火時期での燃焼エネルギとの大小関係を判定する燃焼エネルギ判定手段と、
を備え、
前記点火時期設定手段は、前記燃焼エネルギ判定手段における判定結果に基づいて、前記回転力最大時期判定手段によって予め設定された回転力最大時期と判定された場合の点火時期のうち燃焼エネルギが最も大きい点火時期を前記内燃機関のトルクが最大となる点火時期として設定することを特徴とする請求項に記載の点火時期適合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の点火時期適合方法、および、点火時期適合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の点火時期制御としては、例えば、内燃機関の回転数と負荷(例えば、吸入空気量)により定められた各運転状態での点火時期(例えば、内燃機関のトルクが最大となる点火時期であるMBT(Minimum Advance for Best Torque)を示した点火時期マップをROMに予め保持しておき、この点火時期マップを検索して運転状態に応じた点火時期を抽出して、この点火時期で点火プラグを点火させる。
【0003】
この点火時期マップで用いられる点火時期の適合方法としては、例えば、内燃機関の出力軸(クランクシャフト)をダイナモメータに連結し、複数の運転状態それぞれについて、点火時期を所定角度ずつ進角させつつ、ダイナモメータによって内燃機関の軸トルクを検出し、図7に示すように軸トルクが最大となるMBTを探索する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、他の適合方法としては、例えば、内燃機関の出力軸をダイナモメータに連結し、複数の運転状態それぞれについて、点火時期を所定角度ずつ進角させつつ、筒内圧センサによって各クランク角での内燃機関の気筒の筒内圧(燃焼圧)を検出し、燃焼圧波形から最大筒内圧点又は50%燃焼点を抽出し、この最大筒内圧点又は50%燃焼点からMBTを設定する方法がある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−177825号公報
【特許文献2】特開昭59−39974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、軸トルクを用いてMBTを設定する場合、所定の角度範囲内で進角された各点火時期における軸トルクのデータからピーク値を探索するので、この探索に時間を要する。特に、図8に示すように軸トルクの値が殆ど変わらない点火時期の領域Aがあると、この領域Aを繰り返し探索してMBTを設定するので、探索時間が長くなる。
【0007】
また、燃焼圧を用いてMBTを設定する場合、EGR(Exhaust Gas Recirculation)などの内燃機関の燃焼状態に影響を与えるパラメータが加わると、燃焼圧波形(例えば、ピーク値、立ち上がり、立ち下り)が変化するので、最大筒内圧点や50%燃焼点が変わり、適切なMBTの設定がより困難になる。
【0008】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、点火時期の探索時間を短縮しつつ適切な点火時期を設定することが可能な点火時期適合方法、および、点火時期適合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る点火時期適合方法は、内燃機関の点火時期を変更する点火時期変更工程と、点火時期変更工程において変更された点火時期毎に、内燃機関のクランクシャフトの角度毎にクランクシャフトのクランクアームの回転によって形成される仮想の円の接線方向に作用する回転力を取得する回転力取得工程と、回転力取得工程において取得されたクランクシャフトの角度毎の回転力のデータから回転力が最大となる角度を抽出し、当該抽出した角度が予め設定された回転力最大時期か否かを判定する回転力最大時期判定工程と、回転力最大時期判定工程において回転力最大時期と判定された場合の点火時期により内燃機関のトルクが最大となる点火時期を設定する点火時期設定工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る点火時期適合方法では、変更される点火時期毎に、クランクシャフトの角度毎にクランクアームの回転によって形成される仮想の円の接線方向に作用する回転力を取得する。この接線方向に作用する回転力により、クランクシャフトに作用するトルク(内燃機関の軸トルク)が発生する。したがって、この回転力が最大となるタイミングで、内燃機関の軸トルクも最大となる。そこで、本発明に係る点火時期適合方法では、クランクシャフトの角度毎の回転力のデータから回転力が最大となる角度を抽出し、その角度が回転力最大時期(予め設定される判定用角度)か否かを判定し、回転力最大時期と判定された場合の点火時期により内燃機関のトルクが最大となる点火時期(MBT)を設定する。このように、探索中の各点火時期についてクランクシャフトの角度毎の回転力のデータ(回転力波形)のピーク値の角度が回転力最大時期であるか否かを判定することで、内燃機関のトルクが最大となる点火時期を探索できるので、探索時間を短くすることができる。また、接線方向に作用する回転力は、内燃機関の気筒の筒内圧(燃焼圧)に応じたピストンに作用する力が、内燃機関の諸元から得られるクランクシャフトの角度に応じて変化する係数によって変換される力である。このクランクシャフトの角度に応じて変化する係数により、EGRなどの内燃機関の気筒内の燃焼状態に影響を与えるパラメータが加わっても、回転力が最大となるクランクシャフトの角度(回転力最大時期)が変わらない。したがって、燃焼状態に影響を与えるパラメータを変えても、適切な点火時期を設定することができる。このように、本発明に係る点火時期適合方法によれば、点火時期の探索時間を短縮しつつ適切な点火時期を設定することが可能となる。
【0011】
本発明に係る点火時期適合方法では、回転力取得工程は、クランクシャフトの角度毎に内燃機関の気筒の筒内圧を検出し、当該検出した筒内圧から得られる気筒のピストンの軸方向に作用する力と、内燃機関の諸元から得られるピストンの軸方向の力を仮想の円の接線方向に伝達する機械伝達効率とによりクランクシャフトの角度毎の回転力を取得することが好ましい。このように構成することで、クランクシャフトの角度に応じて内燃機関の諸元から幾何学的に得られる機械伝達効率を用いることにより、ピストンの軸方向に作用する力からクランクシャフトの仮想の円の接線方向に作用する回転力に変換でき、回転力を精度良く取得することができる。
【0012】
本発明に係る点火時期適合方法では、回転力取得工程は、回転力をFi(θ)[N]とし、クランクシャフトの角度をθ[deg]とし、筒内圧をP(θ)[kPa]とし、ピストンの断面積をA[mm]とし、コネクティングロッドの長さをl[mm]とし、クランクシャフトのクランク半径をr[mm]とした場合、(式1)により、回転力Fi(θ)を演算することが好ましい。このように構成することで、(式1)により、筒内圧とクランクシャフトの角度と内燃機関の各諸元とを用いて、回転力を精度良く取得することができる。
【数1】
【0013】
本発明に係る点火時期適合方法では、クランクシャフトの角度毎に内燃機関の気筒の筒内圧を検出し、当該検出したクランクシャフトの角度毎の筒内圧のデータを用いて気筒での燃焼エネルギを取得する燃焼エネルギ取得工程と、燃焼エネルギ取得工程において取得された燃焼エネルギを記憶する記憶工程と、燃焼エネルギ取得工程において取得された燃焼エネルギと記憶工程において記憶された前回の点火時期での燃焼エネルギとの大小関係を判定する燃焼エネルギ判定工程と、を含み、点火時期設定工程は、燃焼エネルギ判定工程における判定結果に基づいて、回転力最大時期判定工程において予め設定された回転力最大時期と判定された場合の点火時期のうち燃焼エネルギが最も大きい点火時期を内燃機関のトルクが最大となる点火時期として設定することが好ましい。このように構成することで、燃焼エネルギが最も大きい点火時期を内燃機関のトルクが最大となる点火時期として設定するので、回転力最大時期となる場合の点火時期が複数存在する場合でも、その複数の点火時期から内燃機関のトルクが最大となる適切な点火時期を設定することができる。
【0014】
本発明に係る点火時期適合方法では、燃焼エネルギ取得工程は、クランクシャフトの角度毎の筒内圧のデータを用いて、所定の角度範囲で筒内圧を積分し、当該積分値を燃焼エネルギとすることが好ましい。このように所定の角度範囲内の筒内圧を積分するにより、燃焼エネルギを精度良く取得することができる。
【0015】
本発明に係る点火時期適合装置は、内燃機関のクランクシャフトの角度を検出するクランク角取検出手段と、内燃機関の点火時期を変更する点火時期変更手段と、点火時期変更手段によって変更された点火時期毎に、内燃機関のクランクシャフトの角度毎にクランクシャフトのクランクアームの回転によって形成される仮想の円の接線方向に作用する回転力を取得する回転力取得手段と、回転力取得手段によって取得されたクランクシャフトの角度毎の回転力のデータから回転力が最大となる角度を抽出し、当該抽出した角度が予め設定された回転力最大時期か否かを判定する回転力最大時期判定手段と、回転力最大時期判定手段によって回転力最大時期と判定された場合の点火時期により内燃機関のトルクが最大となる点火時期を設定する点火時期設定手段と、を備えることを特徴とする。本発明に係る点火時期適合装置によれば、上述した本発明に係る点火時期適合方法と同様に作用するので、点火時期の探索時間を短縮しつつ適切な点火時期を設定することが可能となる。
【0016】
本発明に係る点火時期適合装置では、内燃機関の気筒の筒内圧を検出する筒内圧検出手段を備え、回転力取得手段は、クランクシャフトの角度毎に筒内圧検出手段によって検出された筒内圧から得られる気筒のピストンの軸方向に作用する力と、内燃機関の諸元から得られるピストンの軸方向の力を仮想の円の接線方向に伝達する機械伝達効率とによりクランクシャフトの角度毎の回転力を取得することが好ましい。このように構成することで、上述した本発明に係る点火時期適合方法と同様に作用し、回転力を精度良く取得することができる。
【0017】
本発明に係る点火時期適合装置では、クランクシャフトの角度毎に筒内圧検出手段によって検出された筒内圧のデータを用いて気筒での燃焼エネルギを取得する燃焼エネルギ取得手段と、燃焼エネルギ取得手段によって取得された燃焼エネルギを記憶する記憶手段と、燃焼エネルギ取得手段によって取得された燃焼エネルギと記憶手段に記憶された前回の点火時期での燃焼エネルギとの大小関係を判定する燃焼エネルギ判定手段と、を備え、点火時期設定手段は、燃焼エネルギ判定手段における判定結果に基づいて、回転力最大時期判定手段によって予め設定された回転力最大時期と判定された場合の点火時期のうち燃焼エネルギが最も大きい点火時期を内燃機関のトルクが最大となる点火時期として設定することが好ましい。このように構成することで、上述した本発明に係る点火時期適合方法と同様に作用し、複数の点火時期から内燃機関のトルクが最大となる適切な点火時期を設定することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、点火時期の探索時間を短縮しつつ適切な点火時期を設定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態に係る点火時期適合システムの構成を示すブロック図である。
図2図1に示すエンジンの構成を模式的に示す図である。
図3】クランク角に応じた筒内圧、機械伝達効率、回転力の一例を示す図である。
図4】実施形態に係る点火時期適合システムの点火時期適合装置における処理の流れを示すフローチャートである。
図5】EGRで排気ガスを還流させない場合の回転力最大時期と軸トルクとの関係の一例を示す図である。
図6】EGRで排気ガスを還流させる場合の回転力最大時期と軸トルクとの関係の一例を示す図である。
図7】点火時期とエンジンの軸トルクとの関係の一例を示す図である。
図8】点火時期とエンジンの軸トルクとの関係の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。また、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0021】
図1を参照して、実施形態に係る点火時期適合システム1の構成について説明する。図1は、実施形態に係る点火時期適合システム1の構成を示すブロック図である。
【0022】
点火時期適合システム1は、エンジン2の点火時期のMBTを探索して、点火時期マップを作成するシステムである。点火時期適合システム1は、エンジン2(特許請求の範囲に記載の内燃機関に相当)と、ダイナモメータ3と、制御装置4と、点火時期適合装置5と、を備えている。
【0023】
点火時期マップは、例えば、エンジン2の回転数の各値と負荷(例えば、吸入空気量)の各値とからなる多数の運転状態に対してMBT(適合値)がそれぞれ対応付けられたマップ、あるいは、エンジン2の回転数と負荷の各値に加えてエンジン2に備えられる複数のデバイスの各デバイス値の組み合わせに対してMBT(適合値)がそれぞれ対応付けられた多次元のマップである。なお、上述した回転数と負荷とからなる各運転状態に対してMBTがそれぞれ対応付けられた点火時期マップの場合、例えば、この点火時期マップから検索された任意の点火時期が各デバイスのデバイス値に応じて設定されている各係数を用いて補正され、この補正された点火時期がエンジンの点火制御で用いられる。
【0024】
点火時期適合システム1は、自動運転により、任意の運転状態(任意の回転数、任意の負荷)及びエンジン2の各デバイスの目標値を順次設定し、点火時期を進角させつつMBTを探索する。ある運転状態についてMBTが探索されると、次の運転状態についてMBTが探索される。また、ある運転状態において、エンジン2に備えられる複数のデバイスの目標デバイス値の組み合わせを変えてMBTがそれぞれ探索される。
【0025】
エンジン2は、試験対象のエンジンであり、例えば、水平対向型の4気筒ガソリンエンジンである。エンジン2は、複数の気筒を備えており、気筒毎に点火プラグが設けられている。また、エンジン2は、各種デバイスを備えており、例えば、スロットルバルブ、インジェクタ、VVT(Variable Valve Timing)、EGRバルブ、TGV(Tumble Generation Valve)を備えている。これらの各種デバイスにより、吸入空気量、燃料噴射量、吸排気バルブの開閉タイミング、EGR率、タンブル渦の有/無などのエンジン2の燃焼状態に影響を与えるパラメータを変更することができる。エンジン2のクランクシャフト2a(出力軸)は、ダイナモメータ3に連結される。
【0026】
エンジン2のクランクシャフト2aには、クランク角(クランクシャフト2aの回転角度)を検出するクランク角センサ10(特許請求の範囲に記載のクランク角検出手段に相当)が設けられている。エンジン2の各気筒には、筒内圧を検出する筒内圧センサ11(特許請求の範囲に記載の筒内圧検出手段に相当)が設けられている。エンジン2は、制御装置4に接続され、制御装置4によって制御される。
【0027】
ダイナモメータ3は、エンジン単体の性能を計測するための試験装置である。ダイナモメータ3は、エンジン2で発生したトルクを吸収して、エンジン2のトルクを検出する。ダイナモメータ3は、制御装置4に接続されている。
【0028】
制御装置4は、エンジン2の運転状態を制御する。制御装置4は、点火時期適合装置5に接続される。制御装置3は、点火時期適合装置5で設定される点火時期に基づいてエンジン2の点火プラグに対する点火制御を行う。また、制御装置3は、点火時期適合装置5で設定されるエンジン2のデバイス毎の目標デバイス値に基づいて各デバイスに対する制御を行う。
【0029】
制御装置4には、クランク角センサ10が接続され、クランク角センサ10で検出されたクランク角が入力される。制御装置4には、各気筒の筒内圧センサ11がそれぞれ接続され、筒内圧センサ11で検出された筒内圧が入力される。
【0030】
点火時期適合装置5は、エンジン2の各運転状態についてMBT(適合値)をそれぞれ探索する。特に、点火時期適合装置5は、回転力が最大となるクランク角である回転力最大時期を用いてMBTを探索する。点火時期適合装置5は、例えば、パーソナルコンピュータ上に構成される。点火時期適合装置5には、制御装置4を介して各センサ10,11の検出値が入力される。
【0031】
点火時期適合装置5について具体的に説明する前に、図2を参照して、回転力および回転力最大時期について説明する。図2は、エンジン2の構成を模式的に示す図である。図2では、エンジン2の気筒のシリンダ2bおよびピストン2cと、コネクティングロッド2dと、クランクシャフト2aのクランクアーム2eとを模式的に示している。
【0032】
ピストン2cは、シリンダ2b内で往復運動(直線運動)する。このピストン2cの往復運動は、コネクティングロッド2dとクランクシャフト2aにより回転運動に変えられ、クランクアーム2eが回転する。図2には、このクランクアーム2eの回転運動で形成される仮想の円C(コネクティングロッド2dとクランクアーム2eとの接続点の回転移動の軌跡からなる仮想の円)を示しており、この仮想円Cの半径がクランク半径rである。また、図2には、クランク角θと、コンロッド角(コネクティングロッド2dの傾き角度)Ψと、コンロッド長(コネクティングロッド2dの長さ)lとを示している。クランク角θは、ピストン2cが上死点(TDC(Top Dead Center))のときに0[deg]である。コンロッド角Ψは、ピストン2cが上死点又は下死点(BDC(Bottom Dead Center))のときに0[deg]である。
【0033】
ピストン2cには、筒内圧P(θ)が作用する。筒内圧P(θ)は、クランク角θに応じて変化する。筒内圧P(θ)は、シリンダ2b内での燃焼によって発生する燃焼圧に相当する。この筒内圧P(θ)にピストン2cの断面積Aを乗算した値が、ピストン2cの軸方向に作用する力F(θ)である。この力F(θ)(直線方向の力)は、コネクティングロッド2dとクランクシャフト2aによって伝達されて、クランクシャフト2aの仮想円Cの接線方向に作用する力Fi(θ)に変えられる。この接線方向(クランクアーム2eと直交する方向)に作用する力Fi(θ)を「回転力」と呼ぶ。回転力Fi(θ)は、クランク角θに応じて変化する。この回転力Fi(θ)により、クランクシャフト2aが回転し、クランクシャフト2aにトルク(=Fi(θ)×r)が発生する。したがって、回転力Fi(θ)に応じてクランクシャフト2aのトルク(エンジン2の軸トルク)が変化し、回転力Fi(θ)が最大となるタイミングでエンジン2の軸トルクも最大となる。気筒の点火後に、回転力Fi(θ)が最も大きくなったとき(回転力のピーク値のとき)のクランク角θを「回転力最大時期」と呼ぶ。
【0034】
回転力Fi(θ)は、ピストン2cの軸方向に作用する力F(θ)に、この軸方向に作用する力F(θ)を仮想円Cの接線方向に伝達する係数を乗算することによって得られる。この係数は、クランク角θに応じて変化する。この係数を「機械伝達効率」と呼ぶ。機械伝達効率は、クランク角θとエンジン2の諸元(コンロッド長lとクランク半径r)から幾何学的に得られる。
【0035】
点火時期適合装置5は、運転準備部5aと、点火時期進角部5b(特許請求の範囲に記載の点火時期変更手段に相当)と、回転力演算部5c(特許請求の範囲に記載の回転力取得手段に相当)と、回転力最大時期判定部5d(特許請求の範囲に記載の回転力最大時期判定手段に相当)と、燃焼エネルギ演算部5e(特許請求の範囲に記載の燃焼エネルギ取得手段に相当)と、燃焼エネルギ判定部5f(特許請求の範囲に記載の燃焼エネルギ判定手段に相当)と、MBT設定部5g(特許請求の範囲に記載の点火時期設定手段に相当)と、を有している。この各処理部5a〜5gは、例えば、パーソナルコンピュータにおいて点火時期適合アプリケーションプログラムが実行されることで実現される。
【0036】
点火時期適合装置5には、記憶部5h(特許請求の範囲に記載の記憶手段に相当)が設けられている。この記憶部5hは、例えば、パーソナルコンピュータのRAMの所定の領域に構成される。
【0037】
運転準備部5aは、任意の運転状態のMBT(適合値)の探索が終了する毎に、次の運転状態のエンジン2の回転数と負荷を設定し、この回転数と負荷を制御装置4に出力する。また、運転準備部5aは、各運転状態について、上述したエンジン2の各デバイスについて目標デバイス値をそれぞれ設定し、この各デバイスの目標デバイス値を制御装置4に出力する。
【0038】
点火時期進角部5bは、運転準備部5aで設定された運転状態及び各デバイスの目標デバイス値からなるエンジン2の各状態において、エンジン2の点火時期を所定角度(例えば、上死点から1[deg])ずつ進角させ、進角させた点火時期[deg BTDC]を制御装置4に出力する。
【0039】
回転力演算部5cは、点火時期進角部5bで進角された点火時期でエンジン2が点火される毎に、各クランク角θ[deg]について、筒内圧センサ11で検出された筒内圧P(θ)[kPa]とエンジン2の諸元(ピストン2cの断面積A[mm]、コンロッド長l[mm]、クランク半径r[mm])を用いて、(式1)により回転力Fi(θ)[N]を演算する。例えば、クランク角θの−60[deg]〜180[deg]の範囲において1[deg]毎に、回転力Fi(θ)[N]を演算する。
【数1】
【0040】
この回転力Fi(θ)の演算式(式1)は、(式2)で示すピストン2cの軸方向に作用する力F(θ)に、(式3)で示す機械伝達効率E(θ)を乗算した式である。ピストン2cの軸方向に作用する力F(θ)は、筒内圧P(θ)(ひいては、クランク角θ)に応じて変化する。機械伝達効率E(θ)は、クランク角(θ)に応じて変化する。
【数2】
【0041】
図3には、クランク角θに応じた筒内圧P(θ)、機械伝達効率E(θ)、回転力Fi(θ)の一例を示す。図3では、横軸がクランク角[deg]であり、−60〜180[deg]の範囲における筒内圧P(θ)の変化曲線を一点鎖線で示し、機械伝達効率E(θ)の変化曲線を破線で示し、回転力Fi(θ)の変化曲線を実線で示す。この例では、筒内圧P(θ)と回転力Fi(θ)はMBTで点火された場合のものある。
【0042】
筒内圧P(θ)は、点火後に立ち上がって大きくなり、クランク角θ=0[deg](上死点)よりも遅角側のクランク角θ1[deg ATDC](最大筒内圧点)でピーク値となり、その後、小さくなる。このクランク角θに応じて変化する筒内圧P(θ)の変化曲線は、燃焼圧波形に相当する。
【0043】
機械伝達効率E(θ)は、クランク角θ=0[deg](上死点)よりも進角側(BTDC)でマイナス値となり、進角するほどマイナス値が徐々に大きくなる。また、機械伝達効率E(θ)は、クランク角θ=0[deg](上死点)よりも遅角側(ATDC)でプラス値となり、遅角するほどプラス値が徐々に大きくなる。機械伝達効率E(θ)は、遅角側のクランク角θ3[deg ATDC]で最大効率となり、θ3から180[deg ATDC]までプラス値が徐々に小さくなる。このように、機械伝達効率E(θ)は、θ=0[deg](上死点)でマイナス値からプラス値に変わる。したがって、上死点から最大効率点であるクランク角θ3までは遅角側ほど、ピストン2cの軸方向に作用する力F(θ)が仮想円Cの接線方向の力に変換される割合が徐々に大きくなる。
【0044】
回転力Fi(θ)は、クランク角θ毎に、上述した筒内圧P(θ)にピストン2cの断面積A(一定値)を乗算した値であるピストン2cの軸方向に作用する力F(θ)に、上述した機械伝達率E(θ)を乗算した値である。したがって、回転力Fi(θ)は、クランク角θ=0[deg](上死点)よりも進角側(BTDC)ではマイナス値となり、クランク角θ=0[deg](上死点)よりも遅角側(ATDC)ではプラス値となる。特に、機械伝達効率E(θ)はクランク角θ3(>θ1)まで徐々に大きくなるので、筒内圧P(θ)(ピストン2cの軸方向に作用する力F(θ))がクランク角θ1よりも遅角側で小さくなっていっても、回転力Fi(θ)はそのクランク角θ1以降でも大きくなり、クランク角θ1(最大筒内圧点)よりも遅角側のクランク角θ2[deg ATDC]でピーク値となる。このクランク角θ2が、回転力最大時期である。
【0045】
このように、回転力最大時期(軸トルクが最大になる時期)は、上死点よりも遅角側のプラス値の機械伝達効率E(θ)の影響を受けて決まる。特に、上死点近傍では、機械伝達率E(θ)が小さいので、回転力Fi(θ)が小さくなる。また、最大効率点(=θ3)までは上死点から遅角側ほど機械伝達率E(θ)が大きくなるので、この機械伝達効率(θ)により筒内圧P(θ)の最大筒内圧点(=θ1)以降でも回転力Fi(θ)が大きくなる。
【0046】
回転力最大時期判定部5dは、回転力演算部5cで演算されたクランク角θ毎の回転力Fi(θ)のデータから、回転力Fi(θ)が最大となるクランク角を抽出する。そして、回転力最大時期判定部5dは、その抽出されたクランク角が回転力最大時期判定用角度(以下、「判定用角度」と記載)か否かを判定する。この判定用角度は、エンジンをMBTで点火した場合の回転力最大時期である。判定用角度は、実験などによって予め設定される。図3に示す例では、判定用角度としてθ2が予め設定される。
【0047】
この回転力最大時期判定部5dにおいて回転力Fi(θ)が最大となるクランク角が判定用角度であると判定された場合、そのときの点火時期がMBT候補として記憶部5hに記憶される。一方、回転力最大時期判定部5dにおいて回転力Fi(θ)が最大となるクランク角が判定用角度でないと判定された場合、点火時期進角部5bで次の点火時期が設定される。
【0048】
燃焼エネルギ演算部5eは、回転力最大時期判定部5dである点火時期での回転力Fi(θ)が最大となるクランク角が判定用角度であると判定された場合、筒内圧センサ11で検出されたクランク角θ毎の筒内圧P(θ)のデータを用いて所定の角度範囲で筒内圧を積分し、燃焼エネルギ(積分値)を求める。ここでは、例えば、クランク角θの−60[deg]〜180[deg]の範囲での筒内圧P(θ)を積分する。図3に示す例では、燃焼エネルギは、筒内圧P(θ)の変化曲線内の面積に相当する。燃焼エネルギ演算部5eは、求めた燃焼エネルギを記憶部5hに記憶させる。
【0049】
燃焼エネルギ判定部5fは、燃焼エネルギ演算部5eである点火時期での燃焼エネルギが演算されると、その今回の点火時期での燃焼エネルギと記憶部5hに記憶されている前回の点火時期での燃焼エネルギとの大小関係を判定する。この燃焼エネルギ判定部5fにおいて今回の点火時期での燃焼エネルギが前回の点火時期での燃焼エネルギ以上と判定された場合、点火時期進角部5bで次の点火時期が設定される。一方、燃焼エネルギ判定部5fにおいて今回の点火時期での燃焼エネルギが前回の点火時期での燃焼エネルギよりも小さいと判定された場合、MBT設定部5gでの処理に移行する。
【0050】
MBT設定部5gは、記憶部5hに記憶されているMBT候補のうち燃焼エネルギが大きいMBT候補を抽出し、その抽出したMBT候補を用いてMBTを設定する。このMBTの設定方法としては、例えば、抽出されたMBT候補の点火時期で燃焼エネルギが最も大きくなる場合にはそのMBT候補(点火時期)をそのままMBTとして設定する。なお、抽出された2個のMBT候補間の点火時期で燃焼エネルギが最も大きくなる場合、その2個のMBT候補を用いて燃焼エネルギが最も大きくなる点火時期を求め、その点火時期をMBTとして設定してもよい。
【0051】
このMBT設定部5gでMBTを設定すると、運転準備部5aで各デバイスについて目標デバイス値の次の組み合わせを設定するか、あるいは、各デバイスについて目標デバイス値の全ての組み合わせについてのMBT探索が終了した場合には運転準備部5aで次の運転状態の回転数および負荷を設定する。
【0052】
図1および図2を参照して、点火時期適合システム1における自動運転でのMBT探索の動作の流れについて説明する。点火時期適合装置5における動作については図4のフローチャートに沿って説明する。図4は、実施形態に係る点火時期適合システム1の点火時期適合装置5における処理の流れを示すフローチャートである。ここでは、任意の運転状態について、各デバイスの目標デバイス値の組み合わせ毎にMBTを探索する場合の動作の流れを説明する。エンジン2は、ダイナモメータ3によって任意の運転状態での負荷が与えられ、任意の運転状態での回転数でクランクシャフト2aが回転する。
【0053】
点火時期適合装置5は、エンジン2の各デバイスの目標デバイス値をそれぞれ設定する(S10)。制御装置4では、この設定された各目標デバイス値になるように、エンジン2の各デバイスをそれぞれ制御する。
【0054】
点火時期適合装置5は、所定角度ずつ進角させた点火時期を設定する(S12)。制御装置4では、この設定された点火時期で点火するように、エンジン2の点火制御を行う。
【0055】
エンジン2の運転中、クランク角センサ10ではクランク角θを検出し、筒内圧センサ11では筒内圧を検出する。点火時期適合装置5は、所定のクランク角θ毎に、ピストン2cの断面積Aと、コンロッド長lと、クランク半径rと、筒内圧P(θ)とを用いて、上記の演算式(式1)により回転力Fi(θ)を演算する(S14)。
【0056】
点火時期適合装置5は、S14の処理で演算されたクランク角θ毎の回転力Fi(θ)のデータから回転力Fi(θ)が最大となるクランク角(S12で設定された点火時期での回転力最大時期)を抽出し、このクランク角が判定用角度(例えば、図3に示すθ2)か否かを判定する(S16)。S16の判定にて判定用角度でないと判定された場合、点火時期適合装置5は、S12の処理に戻って、点火時期を進角させ、次の点火時期を設定する。
【0057】
S16の判定にて判定用角度であると判定された場合、点火時期適合装置5は、今回の点火時期をMBT候補として記憶部5hに記憶させる(S18)。点火時期適合装置5は、クランク角θ毎の筒内圧P(θ)のデータ(燃焼圧波形)を用いて、所定の角度範囲で筒内圧(燃焼圧)を積分し、積分値(燃焼エネルギ)を取得する(S20)。点火時期適合装置5は、S20の処理で取得された今回の点火時期での積分値(燃焼エネルギ)を記憶部5hに記憶させる(S22)。
【0058】
点火時期適合装置5は、S20の処理で取得された今回の点火時期での積分値(燃焼エネルギ)が記憶部5hに記憶されている前回の点火時期での積分値(燃焼エネルギ)より小さいか否かを判定する(S24)。S24の判定にて今回の点火時期での積分値が前回の点火時期での積分値以上と判定された場合、点火時期適合装置5は、S12の処理に戻って、点火時期を進角させ、次の点火時期を設定する。
【0059】
S24の判定にて今回の点火時期での積分値が前回の点火時期での積分値より小さいと判定された場合、点火時期適合装置5は、記憶部5hに記憶されているMBT候補を用いて燃焼エネルギが最も大きい点火時期をMBTとして設定する(S26)。これにより、任意の運転状態において、S10の処理で設定された各デバイスの目標デバイス値の組み合わせでのMBT(適合値)が得られる。なお、各デバイスの目標デバイス値の全ての組み合わせで終了するまで、S10〜S26の処理が繰り返し実施される。そして、それぞれ設定されたMBTにより、点火時期マップが作成される。
【0060】
このように、点火時期適合装置5では、進角させた各点火時期について回転力Fi(θ)のピーク値となるクランク角(各点火時期での回転力最大時期)が判定用角度であるか否かを判定することで、判定用角度である場合の点火時期をMBTと判別することができるので、MBTの探索時間を短くすることができる。さらに、点火時期適合装置5では、この回転力最大時期判定に加えて、燃焼エネルギの大小関係を判定することで、燃焼エネルギが最も大きくなる点火時期をMBTとして判別することができる。これにより、回転力最大時期が判定用角度となる点火時期が複数存在する場合(例えば、図8に示すような軸トルクの値が殆ど変わらない点火時期の領域Aがある場合)でも、その複数の点火時期からMBT(最も遅延側の点火時期)を判別することができる。
【0061】
図5および図6を参照して、エンジン2の燃焼状態に影響を与えるパラメータとしてEGRとTGVの各デバイス値を変えた場合の回転力最大時期とエンジン2の軸トルクとの関係について説明する。図5は、EGRで排気ガスを還流させない場合の回転力最大時期と軸トルクとの関係の一例を示す図である。図6は、EGRで排気ガスを還流させる場合の回転力最大時期と軸トルクとの関係の一例を示す図である。この各例では、エンジン2をダイナモメータ3に連結し、制御装置4によってエンジン2およびダイナモメータ3を制御することで、2000[rpm]、2800[rpm]、4000[rpm]の各エンジン回転数においてTGVを全開にする(タンブル渦を発生させない)場合とTGVを全閉にする(タンブル渦を発生させる)場合とについてそれぞれ回転力最大時期と軸トルクを取得した。
【0062】
図5に示す例は、EGRで排気ガスを還流させない場合である。符号G1で示す実線のグラフは、エンジン回転数が2000[rpm]、TGVが全開の場合である。符号G2で示す実線のグラフは、エンジン回転数が2800[rpm]、TGVが全開の場合である。符号G3で示す実線のグラフは、エンジン回転数が4000[rpm]、TGVが全開の場合である。符号G1’で示す破線のグラフは、エンジン回転数が2000[rpm]、TGVが全閉の場合である。符号G2’で示す破線のグラフは、エンジン回転数が2800[rpm]、TGVが全閉の場合である。符号G3’で示す破線のグラフは、エンジン回転数が4000[rpm]、TGVが全閉の場合である。
【0063】
この6つのグラフG1,G2,G3,G1’,G2’G3’により、排気ガスを還流させない場合にこの6つのエンジン2の全て状態で、回転力最大時期=θ2[deg ATDC]において軸トルクが最大となる。したがって、軸トルクが最大となる回転力最大時期は、エンジン回転数を変えても影響を受けない。また、軸トルクが最大となる回転力最大時期は、TGVによるタンブル渦の有/無にも影響を受けない。
【0064】
図6に示す例は、EGRで排気ガスを所定量還流させる場合である。符号G4で示す実線のグラフは、エンジン回転数が2000[rpm]、TGVが全開の場合である。符号G5で示す実線のグラフは、エンジン回転数が2800[rpm]、TGVが全開の場合である。符号G6で示す実線のグラフは、エンジン回転数が4000[rpm]、TGVが全開の場合である。符号G4’で示す破線のグラフは、エンジン回転数が2000[rpm]、TGVが全閉の場合である。符号G5’で示す破線のグラフは、エンジン回転数が2800[rpm]、TGVが全閉の場合である。符号G6’で示す破線のグラフは、エンジン回転数が4000[rpm]、TGVが全閉の場合である。
【0065】
この6つのグラフG4,G5,G6,G4’,G5’G6’により、排気ガスを還流させる場合もこの6つのエンジン2の全ての状態で、回転力最大時期=θ2[deg ATDC]において軸トルクが最大となる。したがって、排気ガスを還流させる場合も、軸トルクが最大となる回転力最大時期は、エンジン回転数を変えても影響を受けない。また、軸トルクが最大となる回転力最大時期は、タンブル渦の有無にも影響を受けない。
【0066】
さらに、この図5図6の例から、軸トルクが最大となる回転力最大時期は、EGRによる排気ガスの還流の有/無にも影響を受けない。なお、軸トルクは、EGRによる排気ガスの還流が有る場合が排ガスの還流が無い場合よりも大きくなる。
【0067】
このように、軸トルクが最大となる回転力最大時期は、エンジン2の燃焼状態に影響を与えるパラメータ(例えば、EGRやTGVの各デバイス値)が変わった場合でも、影響を受けない。これは、図3に示す筒内圧P(θ)の波形(燃焼圧波形)がエンジン2の燃焼状態に影響を与えるパラメータが変わることで変化しても、クランク角に応じて値が変化する(特に、上死点から遅角するほどプラス値が大きくなる)機械伝達効率E(θ)の作用により、回転力Fi(θ)が最大となる回転力最大時期が変わらないからである。したがって、回転力最大時期を用いることにより、エンジン2の燃焼状態に影響を与えるパラメータが変わっても、適切なMBT(軸トルクが最大となる点火時期)を探索することができる。
【0068】
例えば、図3には、EGRで排気ガスを所定量還流した場合の筒内圧P’(θ)の変化曲線を二点鎖線で示し、この筒内圧P’(θ)を用いて演算された回転力Fi’(θ)の変化曲線を二点鎖線で示す。この筒内圧P’(θ)の変化曲線(燃焼圧波形)は、EGRで排気ガスを還流していない場合の筒内圧P(θ)の変化曲線に比べて、立ち下りが少し緩やかになり、遅角側に少し広がっている(燃焼エネルギが少し大きくなる)。この遅角側の増分の筒内圧(燃焼圧)が、上死点から遅角するほどプラス値が大きくなる機械伝達効率E(θ)により、適切に回転力Fi’(θ)に反映される。したがって、回転力Fi’(θ)の変化曲線は、EGRで排気ガスを還流していない場合の回転力Fi(θ)の変化曲線に比べて、立ち下りが少し緩やかになり、遅角側に少し広がっている。この回転力Fi’(θ)が最大となる回転力最大時期は、EGRで排気ガスを還流していない場合の回転力Fi(θ)が最大となる回転力最大時期と同じθ2[deg ATDC]である。
【0069】
実施形態に係る点火時期適合装置5によれば、回転力最大時期を用いてMBTを探索することで、MBTの探索時間を短縮しつつ、燃焼状態に影響を与えるパラメータ(エンジン2の各デバイスのデバイス値)を変えた場合でも適切なMBTを設定することができる。このようにMBTの探索時間が短縮されるので、点火時期適合システム1では、自動運転によってMBT探索を行う工数を低減することができる。また、エンジン2の各デバイスのデバイス値を変えた場合でも、適切なMBTを探索できるので、エンジン2が搭載される車両ではMBTが変わることによる燃費の悪化を抑制することができる。
【0070】
実施形態に係る点火時期適合装置5によれば、上記(式1)により、筒内圧とクランク角とエンジン2の各諸元とを用いて、回転力を精度良く取得することができる。特に、この(式1)にはクランク角に応じてエンジン2の諸元から幾何学的に得られる機械伝達効率が含まれているので、ピストン2cの軸方向に作用する力をクランクシャフト2aの仮想円の接線方向に作用する回転力に適切に変換でき、回転力を精度良く取得することができる。また、この機械伝達効率がクランク角に応じて変化する係数であるので、EGRなどの各デバイスのデバイス値が変化して燃焼状態が変化した場合でも、その燃焼状態の変化を回転力に適切に反映することができる。
【0071】
実施形態に係る点火時期適合装置5によれば、燃焼エネルギを求め、燃焼エネルギが最も大きくなる点火時期をMBTとして設定するので、回転力最大時期が判定用角度となる点火時期が複数存在する場合でも、その複数の点火時期からエンジン2の軸トルクが最大となるMBTを判別することができる。実施形態に係る点火時期適合装置5によれば、クランク角度毎の筒内圧のデータ(燃焼圧波形)を用いて、所定の角度範囲で筒内圧を積分することにより、燃焼エネルギを精度良く取得することができる。
【0072】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では制御装置4と点火時期適合装置5とを別体で構成したが、制御装置4と点火時期適合装置5とを一体の装置として構成してもよいし、あるいは、制御装置4に点火時期適合装置5の一部の処理部(例えば、運転準備部5a、点火時期進角部5b)を設ける構成としてもよい。
【0073】
上記実施形態では回転力最大時期の判定だけでなく、燃焼エネルギを求めて、前後の点火時期での燃焼エネルギを比較する判定も加えてMBTを探索する構成としたが、燃焼エネルギの判定は行わずに、回転力最大時期の判定だけでMBTを探索する構成としてもよい。なお、回転力最大時期が判定用角度となる点火時期が複数ある場合には、例えば、最も遅角側の点火時期を選択してMBTとする。
【0074】
上記実施形態ではエンジン2の燃焼状態に影響を与えるパラメータの例(吸入空気量、燃料噴射量、吸排気バルブの開閉タイミング、EGR率、タンブル渦の有/無)を示したが、燃焼状態に影響を与えるパラメータとしては、空燃比、燃料の性状(オクタン価)、筒内残留ガス量、吸気バルブからの流入量、吸気ポート形状などの他のパラメータもある。
【符号の説明】
【0075】
1 点火時期適合システム
2 エンジン
2a クランクシャフト
2b シリンダ
2c ピストン
2d コネクティングロッド
2e クランクアーム
3 ダイナモメータ
4 制御装置
5 点火時期適合装置
5a 運転準備部
5b 点火時期進角部
5c 回転力演算部
5d 回転力最大時期判定部
5e 燃焼エネルギ演算部
5f 燃焼エネルギ判定部
5g MBT設定部
5h 記憶部
10 クランク角センサ
11 筒内圧センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8