(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リング部材の熱容量がロータの熱容量よりも大きい場合には、蒸気タービンの起動時にリング部材の温度がロータに比べて上がりにくくなる。このため、リング部材に比べてロータの熱膨張量が大きくなり、ロータとリング部材との間のクリアランスが小さくなる傾向がある。しかしながら、ピンチポイントにおいてロータとリング部材とが接触しないように初期クリアランスを設定すると、定格運転時のクリアランスが必要以上に大きくなり、蒸気タービンの性能低下を招く虞があった。一方で、定格運転時のクリアランスを小さくするように初期クリアランスを設定すると、ピンチポイントにおいてロータとリング部材とが接触してしまう虞がある。
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、さらに効率の向上した回転機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の態様によれば、回転機械は、軸線回りに回転するロータと、前記ロータを外周側から囲う環状をなすとともに、前記ロータの外周面との間にクリアランスを形成するリング部材と、前記リング部材の内周面に設けられて、前記クリアランスをシールするシール部材と、一端が前記リング部材の内周面に開口するとともに、他端が前記一端よりも圧力が低く、かつ、前記リング部材の内周面を除く箇所に開口する流路と、前記流路を開閉可能な開閉弁と、を備え
、前記流路は、前記リング部材の内部を貫通するリング流路と、該リング流路に連通する配管流路と、を有し、前記開閉弁は前記配管流路に設けられ、前記リング流路の前記一端は、前記リング部材の内周面における隣り合う複数の前記シール部材間に開口し、前記リング流路の前記一端を基準として、上流側にある前記シール部材の数が、下流側にある前記シール部材の数よりも少なく、前記複数のシール部材は互いに同等の形態を有している。
【0008】
この構成によれば、リング部材に流路が形成され、流路は開閉弁によって開閉可能とされている。開閉弁を開状態とした場合、流路を流通する蒸気によってリング部材に対する入熱が増加する。一方で、クリアランスにおける流路よりも軸線方向の下流側の部分では蒸気が流通しないため、当該部分におけるロータへの入熱は減少する。したがって、相対的に熱容量の小さいロータと、相対的に熱容量の大きいリング部材との温度差を小さくすることができる。その結果、ピンチポイントにおけるロータとリング部材との距離を大きく確保することができ、初期クリアランス(ダミーリングに固定されたシール部材とロータの外周面との初期のクリアランス)を小さくすることができる。
さらに、この構成によれば、配管流路上に開閉弁が設けられる。したがって、リング流路上に開閉弁が設けられている場合に比べて、当該開閉弁のメンテナンスや、開閉の切り替えを容易に行うことが可能となる。
また、この構成によれば、リング部材における、より上流側で流体を流路に流入させることができる。上流側になるほど流体の温度及び圧力が高いため、下流側で流体が流路に流入する場合に比べてリング部材の温度上昇を促進することができる。
【0011】
本発明の第三の態様によれば、回転機械は、前記ロータ、及び前記リング部材を外周側から囲う外車室をさらに備え、前記配管流路は前記外車室の外側まで延び、前記開閉弁は前記配管流路における前記外車室の外側に設けられていてもよい。
【0012】
この構成によれば、外車室の外側における配管流路上に開閉弁が設けられる。したがって、リング流路上に開閉弁が設けられている場合に比べて、当該開閉弁のメンテナンスや、開閉の切り替えをさらに容易に行うことが可能となる。
【0013】
本発明の第四の態様によれば、前記リング流路は、前記軸線に対する径方向に延びる径方向流路部と、前記軸線方向に延びる軸方向流路部と、を有してもよい。
【0014】
この構成によれば、流路が径方向流路部に加えて軸方向流路部を有していることから、流路が径方向のみに延びている場合に比べて、流路を流通する流体とリング部材との間で行われる熱交換の伝熱面積を大きくすることができる。これにより、リング部材の温度上昇を促進することができる。
【0017】
本発明の第六の態様によれば、回転機械は、前記開閉弁の開閉状態を切り換える制御装置をさらに備え、該制御装置は、前記回転機械の運転開始から前記開閉弁を開状態とし、前記回転機械の負荷が50%に到達してから所定期間を経過した時点で前記開閉弁を閉状態としてもよい。
【0018】
ここで、運転開始から、負荷が50%に到達した後の所定期間が経過するまでは、ピンチポイントを迎える可能性が高い。上記の構成によれば、当該所定期間は開閉弁が開状態とされる。その結果、リング部材に対して流路を通じた流体からの入熱が生じ、かつクリアランスを流通する流体からのロータへの入熱は減少する。これにより、ロータとリング部材の温度差を小さくし、ピンチポイントにおけるロータとリング部材との距離を大きく確保することができる。一方で、上記所定期間の経過後は、開閉弁が閉状態とされることで、流路へ流入していた流体はクリアランス中を流通するようになる。これにより、回転機械の効率を向上させることができる。
【0019】
本発明の第七の態様によれば、回転機械は、前記リング部材の温度を計測する温度計測部と、前記温度計測部の計測結果に基づいて前記開閉弁の開閉状態を切り換える制御装置をさらに備え、該制御装置は、前記計測結果が予め定められた閾値よりも小さい場合は前記開閉弁を開状態とし、前記計測結果が前記閾値以上の場合は前記開閉弁を閉状態としてもよい。
【0020】
ここで、リング部材の温度が予め定められた閾値よりも小さい期間は、リング部材とロータとの温度差が大きいため、ピンチポイントを迎える可能性が高い。上記の構成によれば、リング部材の温度が閾値よりも小さい場合は開閉弁が開状態とされる。その結果、リング部材に対して流路を通じた流体からの入熱が生じ、かつクリアランスを流通する流体からのロータへの入熱は減少する。これにより、ロータとリング部材の温度差を小さくし、ピンチポイントにおけるロータとリング部材との距離を大きく確保することができる。一方で、リング部材の温度が閾値以上となった場合には、開閉弁が閉状態とされることで、流路へ流入していた流体はクリアランス中を流通するようになる。これにより、回転機械の効率を向上させることができる。
【0021】
本発明の第八の態様によれば、回転機械は、前記軸線に対する径方向における前記クリアランスの寸法を計測するクリアランス計測部と、前記クリアランス計測部の計測結果に基づいて前記開閉弁の開閉状態を切り換える制御装置をさらに備え、該制御装置は、前記計測結果に基づいて、ピンチポイントを迎えていないと判定された場合は前記開閉弁を開状態とし、前記計測結果に基づいて、ピンチポイントを過ぎたと判定された場合は前記開閉弁を閉状態とする。
【0022】
ここで、ピンチポイントとは、ロータとリング部材とが最も接近する状態を指す。上記の構成によれば、ピンチポイントを迎えていないと判定された場合は開閉弁が開状態とされる。その結果、リング部材に対して流路を通じた流体からの入熱が生じ、かつクリアランスを流通する流体からのロータへの入熱は減少する。これにより、ロータとリング部材の温度差を小さくし、ピンチポイントにおけるロータとリング部材との距離を大きく確保することができる。一方で、ピンチポイントを過ぎたと判定された場合には、開閉弁が閉状態とされることで、流路へ流入していた流体はクリアランス中を流通するようになる。これにより、回転機械の効率を向上させることができる。
【0023】
本発明の第九の態様によれば、前記リング部材はダミーリングであり、回転機械は、該ダミーリングに対して軸線方向に間隔をあけて配置された翼環と、前記ダミーリング及び前記翼環を外周側から覆う内車室と、をさらに備えてもよい。
【0024】
この構成によれば、ダミーリングとロータとの温度差が小さくなることで、さらに効率の向上した回転機械を提供することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、さらに効率の向上した回転機械を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る回転機械の構成を示す模式図である。
【
図2】本発明の第一実施形態に係るリング部材の構成を示す拡大図であって、開閉弁が開状態にある場合を示す図である。
【
図3】本発明の第一実施形態に係るリング部材の構成を示す拡大図であって、開閉弁が閉状態にある場合を示す図である。
【
図4】本発明の第一実施形態に係る制御装置のハードウェア構成を示す図である。
【
図5】本発明の第一実施形態に係る制御装置の機能ブロック図である。
【
図6】本発明の第一実施形態に係る制御装置の動作を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の第一実施形態に係るリング部材における熱の移動の様子を示す説明図であって、開閉弁が開状態にある場合を示す図である。
【
図8】本発明の第一実施形態に係るリング部材における熱の移動の様子を示す説明図であって、開閉弁が閉状態にある場合を示す図である。
【
図9】本発明の第一実施形態に係る回転機械における負荷及び回転数の時間変化を示すグラフである。
【
図10】本発明の第一実施形態に係る回転機械におけるリング部材及びロータの変位と、クリアランスの時間変化を示すグラフである。
【
図11】本発明の第二実施形態に係る回転機械の構成を示す模式図である。
【
図12】本発明の第二実施形態に係る制御装置の機能ブロック図である。
【
図13】本発明の第三実施形態に係る回転機械の構成を示す模式図である。
【
図14】本発明の第三実施形態に係る制御装置の機能ブロック図である。
【
図15】本発明の各実施形態における流路の変形例を示す図である。
【
図16】本発明の各実施形態における流路のさらなる変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[第一実施形態]
本発明の第一実施形態について図面を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る蒸気タービン1(回転機械)は、軸線O回りに回転するロータ2と、ロータ2を外周側から囲う環状のダミーリング3(リング部材)と、ダミーリング3の内周面に設けられたシール部材4と、ダミーリング3に対して軸線O方向に間隔をあけて配置された翼環5と、ダミーリング3及び翼環5のそれぞれ少なくとも一部を外周側から囲う内車室6と、ダミーリング3、翼環5、及び内車室6を外周側から囲う外車室7と、ダミーリング3に形成された流路8と、流路8上に設けられた開閉弁9と、開閉弁9の開閉状態を切り換える制御装置90と、を備える。
【0028】
ロータ2は、軸線Oを中心とする柱状をなしている。ロータ2は、外車室7を軸線O方向に貫通している。外車室7の内部において、軸線O方向一方側から他方側に向かって、ロータ2の外周面(ロータ外周面2A)を囲うようにしてダミーリング3、内車室6、及び翼環5が順に設けられている。ダミーリング3は、ロータ2を外周側から囲う環状をなしている。ダミーリング3の内周面(リング内周面3A)とロータ外周面2Aとの間にはクリアランスCが形成されている。このクリアランスCには、複数のシール部材4が露出している。シール部材4は、クリアランスCを流通する蒸気(後述)をシールするために設けられる。
【0029】
図2に示すように、各シール部材4は、リング内周面3Aに設けられ、軸線Oに対する径方向に進退動するシール基部41と、シール基部41の内周面に軸線O方向に間隔をあけて配列された複数のシールフィン42と、を有している。シールフィン42の先端部(径方向内側の端部)と、ロータ外周面2Aとの間にはわずかな間隙が形成されている。
【0030】
詳しくは図示しないが、翼環5は、軸線O方向に配列された複数の静翼列を有している。各静翼列は軸線Oに対する周方向に配列された複数の静翼を有している。ロータ外周面2Aには、これら静翼列同士の間に入り込むようにして軸線O方向に間隔をあけて配列された複数の動翼列が設けられている。各動翼列は、軸線Oに対する周方向に配列された複数の動翼を有している。
【0031】
再び
図1に示すように、ダミーリング3の外周面(リング外周面3B)と翼環5の外周面(翼環外周面5B)のそれぞれ少なくとも一部は環状の内車室6によって外側から囲われている。内車室6の内周側の空間(供給空間V)と、外車室7の外側とは蒸気供給管10によって連通されている。蒸気供給管10を通じて外部の蒸気供給源から蒸気タービン1に蒸気が供給される。蒸気供給管10を通じて供給された蒸気は、供給空間Vを経て、軸線O方向両側に向かって流通し、上述のクリアランスC、及び翼環5の内周側に流入する。
【0032】
翼環5の内周側に蒸気が流入することで、上記の静翼列、及び動翼列を通じてロータ2に回転力が与えられる。ロータ2の回転は軸端から取り出されて発電機等の外部機器(不図示)を駆動する。翼環5を通過した蒸気は、外車室7に形成された排気口12を経て外部(例えば復水器等)に排出される。
【0033】
図2又は
図3に示すように、ダミーリング3の内部には流路8が形成されている。流路8はダミーリング3の内部を貫通するリング流路8aと、リング流路8aに連通する配管流路8bと、を有している。リング流路8aは、ダミーリング3を軸線Oに対する径方向に貫通するように延びている。リング流路8aの一端(第一開口部81a)は、リング内周面3Aにおけるシール部材4同士の間に開口している。より詳細には、第一開口部81aは、軸線O方向に5つ配列されたシール部材4のうち、軸線O方向他方側から数えて1つ目のシール部材4と2つ目のシール部材4との間に形成されている。即ち、蒸気の流れ方向において、第一開口部81aを基準として上流側にあるシール部材4の数が、下流側にあるシール部材4の数よりも少ない。なお、上流側にあるシール部材4の数が、下流側にあるシール部材4の数よりも多くてもよい。
【0034】
リング流路8aの他端(第二開口部81b)には、配管流路8bが接続されている。配管流路8bは、外車室7の外側を通って、外車室7における軸線O方向他方側(翼環5の下流側における端部の近傍)に形成された導入口11(
図1参照)に接続されている。即ち、第二開口部81bは、第一開口部81aよりも圧力が低く、かつリング内周面3Aを除く箇所に形成されている。配管流路8b上には、当該配管流路8b、及びリング流路8aを開閉する開閉弁9が設けられている。開閉弁9としては、外部からの電気信号によって開閉が切り替え可能な電磁弁が好適に用いられる。開閉弁9は制御装置90に接続されている。制御装置90は、開閉弁9の開閉状態を制御する。
【0035】
図4に示すように、制御装置90は、CPU91(Central Processing Unit)、ROM92(Read Only Memory)、RAM93(Random Access Memory)、HDD94(Hard Disk Drive)、信号受信モジュール95(I/O:Input/Output)を備えるコンピュータである。信号受信モジュール95は、蒸気タービン1の負荷を測定する負荷センサ80(
図1参照)からの信号を受信する。信号受信モジュール95は、例えばチャージアンプ等を介して増幅された信号を受信してもよい。
【0036】
図5に示すように、制御装置90のCPU91は予め自装置で記憶するプログラムを実行することにより、制御部81、負荷検出部82、判定部83、タイマー84、弁開閉部85を有する。制御部81は制御装置90に備わる他の機能部を制御する。蒸気タービン1の運転開始時に、制御部81は開閉弁9を開状態とする(ステップS1)。負荷検出部82には、負荷センサ80で測定された蒸気タービン1の負荷(%)が数値情報として入力される。
図6に示すように、判定部83は、負荷検出部82から入力された蒸気タービン1の負荷が予め定められた閾値(一例として50%)以上であるか否かを判定する(ステップS2)。判定部83で蒸気タービン1の負荷が閾値以上であると判定された場合(ステップS2:Yes)、その時点でタイマー84は予め定められた所定期間(一例として1時間)をカウントし始める。弁開閉部85は、当該所定期間の経過後(ステップS3:Yesの場合)に、開閉弁9を閉状態とするための電気信号を発出する(ステップS4)。
【0037】
続いて、本実施形態に係る蒸気タービン1の動作について説明する。蒸気タービン1を運転するに当たっては、外部の蒸気供給源から高温高圧の蒸気が蒸気供給管10を通じて供給空間Vに供給される。蒸気は、供給空間Vを経てクリアランスC側、及び翼環5側に流通する。翼環5側に流通した蒸気は、動翼列、及び静翼列に順次衝突することで、ロータ2に回転力を与える。ロータ2の回転は軸端から取り出されて発電機等の外部機器(不図示)を駆動する。翼環5を通過した蒸気は、外車室7に形成された排気口12を経て外部(例えば復水器等)に排出される。
【0038】
ここで、ダミーリング3は、軸線Oに対する径方向において比較的に大きな寸法を有しているため、ロータ2に比べて熱容量が大きい。即ち、ダミーリング3は、ロータ2に比べて温度が上がりにくい。したがって、ロータ2とダミーリング3との間で、クリアランスCに流入した蒸気による入熱によって生じる熱変形の大きさに差異が生じる。具体的には、ロータ2はダミーリング3に比べて径方向に大きく熱変形する。これにより、シール部材4(シールフィン42)の先端部とロータ外周面2Aとが最も近接する時期(ピンチポイント)を早期に迎える可能性がある。
【0039】
しかしながら、本実施形態に係る蒸気タービン1では、ダミーリング3に流路8が形成され、流路8の開閉状態が開閉弁9によって切り換えられる。流路8の開閉に伴うダミーリング3周囲における熱収支の変化について、
図7及び
図8を用いて模式的に説明する。
図7及び
図8中における矢印の向きは入熱の方向を示し、矢印の大きさは相対的な入熱の大きさを示している。なお、
図7及び
図8では図示を簡潔にするため、シール部材4を省略している。
図7に示すように、開閉弁9が閉状態にある場合には、蒸気は流路8(リング流路8a)にはほぼ流入せず、その大部分がクリアランスC内を通過する。この時、ダミーリング3内における軸線O方向の入熱Q1は相対的に小さい。一方で、クリアランスCを流通する蒸気によるダミーリング3及びロータ2への入熱Q2,Q3は相対的に大きい。
【0040】
開閉弁9が開状態にある場合には、蒸気の大部分が流路8(リング流路8a)内に流入し、クリアランスC内にはほぼ蒸気が流入しない。その結果、ダミーリング3内における軸線O方向の入熱Q1´は、開閉弁9が閉状態にある場合の入熱Q1に比べて相対的に大きくなり、クリアランスCを流通する蒸気によるダミーリング3及びロータ2への入熱Q2´,Q3´は、入熱Q2,Q3に比べて相対的に小さくなる。即ち、ダミーリング3が蒸気から受け取る熱量が増加し、当該ダミーリング3の熱変形量も大きくなる。これにより、ダミーリング3とロータ2との間における熱変形量の差異が小さくなる。したがって、ピンチポイントを迎えた場合であっても、リング内周面3A(シールフィン42の先端部)とロータ外周面2Aとの間の離間距離を維持することができる。これにより、初期クリアランスをより小さくすることができ、蒸気タービン1の効率をさらに向上させることができる。
【0041】
図9は、本実施形態に蒸気タービン1における負荷及び回転数の時間変化を示すグラフである。実線は蒸気タービン1の負荷を示し、鎖線はロータ2の回転数を示している。同グラフに示すように、本実施形態に係る蒸気タービン1では、ロータ2の回転数が上昇してから、やや遅れて負荷が上昇する。
図10は、ダミーリング3及びロータ2の変位と、クリアランスCの時間変化を示すグラフである。実線はロータ2の変形量を示し、鎖線はダミーリング3の変形量を示している。同グラフに示すように、本実施形態に係る構成によれば、ダミーリング3とロータ2の熱変形量及び変形の時期をほぼ同一にすることができる。即ち、ダミーリング3とロータ2の変形量の差異を小さくすることができる。
【0042】
以上、説明したように、本実施形態に係る蒸気タービン1では、ダミーリング3に流路8が形成され、流路8は開閉弁9によって開閉可能とされている。開閉弁9を開状態とした場合、流路8を流通する蒸気によってダミーリング3に対する入熱が増加する。一方で、クリアランスCにおける流路8よりも軸線O方向の下流側の部分では蒸気が流通しないため、当該部分におけるロータ2への入熱は減少する。したがって、相対的に熱容量の小さいロータ2と、相対的に熱容量の大きいダミーリング3との温度差を小さくすることができる。その結果、ピンチポイントにおけるロータ2とダミーリング3との距離を大きく確保することができ、初期クリアランスを小さくすることができる。
【0043】
さらに、上記の構成によれば、配管流路8b上に開閉弁9が設けられる。より具体的には、外車室7の外側における配管流路8b上に開閉弁9が設けられる。したがって、リング流路8a上に開閉弁9が設けられている場合に比べて、当該開閉弁9のメンテナンスや、開閉の切り替えを容易に行うことが可能となる。
【0044】
加えて、本実施形態に係る蒸気タービン1では、リング流路8aの一端(第一開口部81a)は、リング内周面3Aにおける隣り合う複数のシール部材4間に開口し、第一開口部81aを基準として上流側にあるシール部材4の数が、下流側にあるシール部材4の数よりも少ない。この構成によれば、ダミーリング3における、より上流側で蒸気を流路8に流入させることができる。上流側になるほど蒸気の温度及び圧力が高いため、下流側で蒸気が流路8に流入する場合に比べてダミーリング3の温度上昇を促進することができる。
【0045】
さらに加えて、蒸気タービン1は、開閉弁9の開閉状態を切り換える制御装置をさらに備える。制御装置は、蒸気タービン1の運転開始から開閉弁9を開状態とし、蒸気タービン1の負荷が50%に到達してからの所定期間経過後に開閉弁9を閉状態とする。
【0046】
蒸気タービン1では、運転開始から、負荷が50%に到達した後の所定期間が経過するまでは、ピンチポイントを迎える可能性が高い。上記の構成によれば、当該所定期間は開閉弁9が開状態とされる。その結果、ダミーリング3に対して流路8を通じた蒸気からの入熱が生じ、かつクリアランスCを流通する蒸気からのロータ2への入熱は減少する。これにより、ロータ2とダミーリング3の温度差を小さくし、ピンチポイントにおけるロータ2とダミーリング3との距離を大きく確保することができる。一方で、上記所定期間の経過後は、開閉弁9が閉状態とされることで、流路8へ流入していた蒸気はクリアランスC中を流通するようになる。これにより、蒸気タービン1の効率を向上させることができる。
【0047】
以上、本発明の第一実施形態について説明した。なお、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。例えば、上記実施形態では、リング部材としてダミーリング3に流路8を形成した例について説明した。しかしながら、蒸気によって積極的に昇温することで隣接する他部材との温度差を低減する要請がある部材であればいかなる部材にも同様の構成を適用することが可能である。
【0048】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態について、
図11及び
図12を参照して説明する。なお、上記第一実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
図11に示すように、本実施形態に係る蒸気タービン21では、ダミーリング3の内部に温度計測部70が埋設されている。温度計測部70は、ダミーリング3における軸線O方向及び軸線Oに対する径方向における略中央部に配置されることが望ましい。温度計測部70としては熱伝対のように、温度を電気信号として外部に出力可能な装置が好適に用いられる。温度計測部70は、制御装置190に接続されている。制御装置190は、温度計測部70の計測結果に基づいて開閉弁9の開閉状態を切り換える。
【0049】
図12に示すように、制御装置190のCPU191は予め自装置で記憶するプログラムを実行することにより、制御部181、温度検出部182、判定部183、弁開閉部184を有する。制御部181は制御装置190に備わる他の機能部を制御する。温度検出部182には、温度計測部70からダミーリング3の温度が入力される。判定部183は、ダミーリング3の温度が予め定められた閾値以上であるか否かを判定する。判定部183でダミーリング3の温度が閾値以上であると判定された場合、弁開閉部184は、開閉弁9を閉状態とするための電気信号を発出する。
【0050】
上記の構成では、ダミーリング3の温度が閾値以上となるまで、開閉弁9が開状態とされる。ここで、ダミーリング3の温度が予め定められた閾値よりも小さい期間は、ダミーリング3とロータ2との温度差が大きいため、ピンチポイントを迎える可能性が高い。上記の構成によれば、ダミーリング3の温度が閾値よりも小さい場合は開閉弁9が開状態とされる。その結果、ダミーリング3に対して流路8を通じた蒸気からの入熱が生じ、かつクリアランスCを流通する蒸気からのロータ2への入熱は減少する。これにより、ロータ2とダミーリング3の温度差を小さくし、ピンチポイントにおけるロータ2とダミーリング3との距離を大きく確保することができる。一方で、ダミーリング3の温度が閾値以上となった場合には、開閉弁9が閉状態とされることで、流路8へ流入していた蒸気はクリアランスC中を流通するようになる。これにより、蒸気タービン21の効率を向上させることができる。
【0051】
以上、本発明の第二実施形態について説明した。なお、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。例えば、上記実施形態では、リング部材としてダミーリング3に流路8を形成し、温度計測部70を設けた例について説明した。しかしながら、蒸気によって積極的に昇温することで隣接する他部材との温度差を低減する要請がある部材であればいかなる部材にも同様の構成を適用することが可能である。
【0052】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態について、
図13及び
図14を参照して説明する。なお、上記の各実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
図13に示すように、本実施形態に係る蒸気タービン31では、ダミーリング3の内周面とロータ2の外周面との間に、クリアランス計測部71が設けられている。クリアランス計測部71は、軸線Oに対する径方向におけるクリアランスCの寸法を計測する。クリアランス計測部71は、制御装置290に接続されている。制御装置290は、クリアランス計測部71の計測結果に基づいて開閉弁9の開閉状態を切り換える。
【0053】
図14に示すように、制御装置290のCPU291は予め自装置で記憶するプログラムを実行することにより、制御部281、クリアランス検出部282、判定部283、弁開閉部284を有する。制御部281は制御装置290に備わる他の機能部を制御する。クリアランス検出部282には、クリアランス計測部71からクリアランスCの径方向における寸法が入力される。判定部283は、クリアランスCの寸法に基づいて、ピンチポイントを過ぎたか否かを判定する。具体的には、判定部283は、クリアランスCの寸法、運転開始からの経過時間、負荷等に基づいて、ピンチポイントを過ぎたか否かを判定する。判定部283でピンチポイントを過ぎたと判定された場合、弁開閉部285は、開閉弁9を閉状態とするための電気信号を発出する。なお、ピンチポイントとは、ロータとリング部材とが最も接近する状態を指す。
【0054】
上記の構成では、ピンチポイントを迎える前まで、開閉弁9が開状態とされる。その結果、ダミーリング3に対して流路8を通じた蒸気からの入熱が生じ、かつクリアランスCを流通する蒸気からのロータ2への入熱は減少する。これにより、ロータ2とダミーリング3の温度差を小さくし、ピンチポイントにおけるロータ2とダミーリング3との距離を大きく確保することができる。一方で、ピンチポイントを過ぎた後には、開閉弁9が閉状態とされることで、流路8へ流入していた蒸気は当該クリアランスC中を流通するようになる。これにより、蒸気タービン31の効率を向上させることができる。
【0055】
以上、本発明の第三実施形態について説明した。なお、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。例えば、上記実施形態では、リング部材としてダミーリング3に流路8を形成し、クリアランス計測部71を設けた例について説明した。しかしながら、蒸気によって積極的に昇温することで隣接する他部材との温度差を低減する要請がある部材であればいかなる部材にも同様の構成を適用することが可能である。
【0056】
さらに、上記の各実施形態では、リング流路8aが軸線Oに対する径方向にのみ延びている例について説明した。しかしながら、リング流路8aの態様は上記に限定されない。他の例として、
図15に示すような構成を採ることも可能である。同図の例では、リング流路8aは、軸線Oに対する径方向に延びる径方向流路部811と、軸線O方向に延びる軸方向流路部812と、を有する。この構成によれば、流路8が径方向のみに延びている場合に比べて、リング流路8aを流通する流体とダミーリング3との間で行われる熱交換の伝熱面積を大きくすることができる。これにより、ダミーリング3の温度上昇をさらに促進することができる。
【0057】
さらなる他の例として、
図16に示すような構成を採ることも可能である。同図の例では、リング流路8aは、軸線Oに対する径方向に延びる径方向流路部811と、軸線O方向に延びる軸方向流路部812と、軸方向流路部812からダミーリング3の外周面に向かって延びる排出流路部813と、を有する。この構成では、径方向流路部811に流入した蒸気は、軸方向流路部812を経てダミーリング3を昇温した後、排出流路部813から外車室7の内部空間に向かって流れる。このような構成によっても、上記と同様の作用効果を得ることができる。