(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6901466
(24)【登録日】2021年6月21日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】車両用の緊急ブレーキ・アシスタント
(51)【国際特許分類】
B60T 7/12 20060101AFI20210701BHJP
【FI】
B60T7/12 C
【請求項の数】9
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-510517(P2018-510517)
(86)(22)【出願日】2016年8月26日
(65)【公表番号】特表2018-526267(P2018-526267A)
(43)【公表日】2018年9月13日
(86)【国際出願番号】DE2016200401
(87)【国際公開番号】WO2017036478
(87)【国際公開日】20170309
【審査請求日】2019年3月26日
(31)【優先権主張番号】102015216679.1
(32)【優先日】2015年9月1日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】503355292
【氏名又は名称】コンティ テミック マイクロエレクトロニック ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Conti Temic microelectronic GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(72)【発明者】
【氏名】アルレファイ・ムハンマド
(72)【発明者】
【氏名】バーノイ・ミハイ
(72)【発明者】
【氏名】ゲッツ・マリオ
(72)【発明者】
【氏名】シュトイラー・ヘルムート
(72)【発明者】
【氏名】フォーグル・アルミン
【審査官】
羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−273252(JP,A)
【文献】
特開2011−227587(JP,A)
【文献】
特開2009−262629(JP,A)
【文献】
特開2011−143744(JP,A)
【文献】
特開2009−018721(JP,A)
【文献】
特開2010−052546(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第02595135(EP,A1)
【文献】
独国特許出願公開第102014013544(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/00−21/13
B60R 21/34−21/38
B60T 7/12−8/1769
B60T 8/32−8/96
B60W 10/00−10/30
B60W 30/00−50/16
G08G 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップ:
車両(3)の前方(13)と後方(15)の領域内におけるオブジェクトを監視するステップ;並びに、
車両(3)の前方(13)の領域内において監視により捕捉された少なくとも一つのオブジェクト(9)に依存した少なくとも一つの緊急ブレーキ・パラメータの決定ステップ;
を包含する車両(3)の自動緊急ブレーキをかけるための方法であって、
車両(3)の後方(15)の領域内においてオブジェクト(11)、特に走行している後続車両が認識される場合は、緊急ブレーキ・パラメータとして、標準パラメータ(27)を設定し、
車両(3)の後方(15)の領域内においてオブジェクト(11)、特に走行している後続車両が認識されない場合、車両前方のオブジェクトとの衝突を回避するために、乃至、衝突程度を低減するために、標準パラメータ(27)よりも最適化された少なくとも一つの最適パラメータ(29)を少なくとも一つの緊急ブレーキ・パラメータとして、設定し、
最初、車両(3)の後方(15)の領域内においてオブジェクト(11)、特に走行している後続車両が認識され、その後、ある時点において、オブジェクト(11)、特に走行している後続車両が認識されなくなると、続いて少なくとも一つの緊急ブレーキ・パラメータが標準パラメータ(27)から最適パラメータ(29)に変更され、
最初、車両(3)の後方(15)の領域内においてオブジェクト(11)、特に走行している後続車両が認識されず、その後、ある時点において、オブジェクト(11)、特に走行している後続車両が認識されると、続いて少なくとも一つの緊急ブレーキ・パラメータが最適パラメータ(29)から標準パラメータ(27)に変更されることを特徴とする車両の自動緊急ブレーキをかけるための方法。
【請求項2】
該緊急ブレーキ・パラメータが、以下のうち少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載の方法:
緊急ブレーキ・アシスタントが作動する範囲である許容速度範囲、乃至、
減速度に対する要求値、乃至、
速度低下量、乃至、
緊急ブレーキ・タイミング。
【請求項3】
該緊急ブレーキ・パラメータが、以下の様に標準パラメータから最適パラメータへ変更されることを特徴とする請求項2に記載の方法:
変更直前の標準パラメータ(27)の許容速度範囲に対して変更直後の最適パラメータ(29)の許容速度範囲を高める、
変更直前の標準パラメータ(27)の、減速度に対する要求値に対して変更直後の最適パラメータ(29)の、減速度に対する要求値を高める、或いは、
変更直前の標準パラメータ(27)の速度低下量に対して変更直後の最適パラメータ(29)の速度低下量を高める、或いは、
変更直前の標準パラメータ(27)の緊急ブレーキ・タイミングに対して変更直後の最適パラメータ(29)の緊急ブレーキ・タイミングを早める。
【請求項4】
車両(3)の後方(15)の領域内におけるオブジェクトの監視が、継続的に実施されることを特徴とする請求項1から3のうち何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも一つの緊急ブレーキ・パラメータとしての少なくとも一つの最適パラメータが、該車両(3)の後方(15)の領域内にオブジェクト(11)、特に、走行している車両が認識されるまで維持されることを特徴とする請求項1から4のうち何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
該車両(3)の後方(15)の領域内におけるオブジェクトの監視が、監視により捕捉したオブジェクト(11)との相対速度、乃至、間隔を割り出すことを特徴とする請求項1から5のうち何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも一つの緊急ブレーキ・パラメータを高くすることが、捕捉したオブジェクト(11)との相対速度、乃至、間隔に基づいてダイナミックに実施されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
車両(3)の前方(13)の領域内に捕捉されたオブジェクト(9)と該車両(3)の後方(15)の領域内に捕捉されたオブジェクト(11)、特に、走行している車両との衝突が、緊急ブレーキによっては回避できない場合、回避マヌーバが実施されることを特徴とする請求項5から7のうち何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
以下を包含することを特徴とする車両用の緊急ブレーキ・アシスタント(60):
車両(3)の前方(13)と後方(15)の領域内用のオブジェクト認識ユニット(5,7)、並びに、
請求項1から8のうち何れか一項に記載の方法を実施するための制御ユニット(65)、但し、該制御ユニットは、該制御ユニットは、請求項1から8のうち何れか一項に記載の方法が実装されている電子的記憶媒体を包含している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緊急ブレーキ・パラメータの決定の際に、後方の領域も考慮される改善された車両用の緊急ブレーキ・アシスタントに関する。即ち、緊急ブレーキ作動中も、後方領域が監視され、必要に応じて緊急ブレーキ・パラメータが、調整される。
【背景技術】
【0002】
車両では、以前にもまして、周辺監視システムが、採用される様になってきている。該システムによって捕捉された情報は、車両の自動非常ブレーキ等のために使用することができる。しかし、緊急ブレーキの実施は、後続の交通の危険を常に伴っている。よって、車両前方のオブジェクトとの衝突を回避する一方、後続車両との衝突を回避するには、周辺監視システムが捕捉したデータは、信頼性な無ければならず、該緊急ブレーキは、理想的な条件下で実施されなければならない。
【0003】
特許文献1は、従来の技術によって起動された緊急ブレーキプロセスを中断し、制動力を低減するため、即ち、これにより、起こり得る追突事故の事故程度を限定しつつ十分な制動力を付与するために用いられる数学的モデルを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国特許出願公開第102010029223号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
よって、本発明の課題は、緊急ブレーキ・アシスタントと緊急ブレーキ・アシスタントを作動させるための方法を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、独立請求項に記載されている対象物及び方法によって達成される。更なる、好ましい形態は、従属特許請求項の対象である。
【0007】
本発明では、車両の自動緊急ブレーキをかけるための該方法は、以下のステップ、即ち:車両の前後領域内のオブジェクト認識;並びに、少なくとも一つの車両前方領域に捕捉されたオブジェクトに依存した少なくとも一つの緊急ブレーキ・パラメータの設定;但し、該少なくとも一つの緊急ブレーキ・パラメータは、車両後方領域内に、オブジェクトが、特に、走行している追従車両が、捕捉されなかった場合、変更される。
【0008】
この様にすることには、車両後方領域にオブジェクトがない場合は、後方の交通に考慮する必要がないため、緊急ブレーキを最適なパラメータで実施できる利点がある。
【0009】
好ましくは、該緊急ブレーキ・パラメータは、その範囲内において緊急ブレーキ・アシスタントが作動する少なくとも一つの許容速度範囲;乃至、制動リクエスト;乃至、減速率;乃至、緊急ブレーキ・タイミングを包含している。
【0010】
該速度範囲、乃至、制動リクエスト、乃至、減速率は、車両前方のオブジェクトとの衝突を回避する、乃至、衝突程度を低減するために、最適な値に設定できることが好ましい。該最適な値とは、例えば、該車両のブレーキが最大限出し得る制動力であることができる。速度範囲の最適な値は、例えば、市街地や郊外において標準的に定められている制限速度、即ち、30〜50、70〜100並びに130km/hである。後方領域にオブジェクトが無く、追突される恐れがないため、如何なる速度範囲でも緊急ブレーキをかけられることが特に好ましい。
【0011】
更に好ましくは、該緊急ブレーキ・パラメータは、以下の様に変更することができる:該速度範囲が高められる、乃至、制動リクエストが高められる、乃至、減速率が高められる、乃至、緊急ブレーキ・タイミングが、早められる。
【0012】
緊急ブレーキ・タイミングを、より長い時間、車両を減速できるように、早めることは、更に有利である。最後に、他の道路利用者への妨害は、後方領域におけるオブジェクト認識によって、回避される。
【0013】
本発明のある他の好ましい実施形態においては、車両の後方領域におけるオブジェクト捕捉は、継続的に実施される。
【0014】
これにより、該車両の後方領域に、他のオブジェクトが無いこと、故に、緊急ブレーキを変更した、乃至、高めた緊急ブレーキ・パラメータにおいて実施できることを予見的に認識でき有利である。特に、これにより、緊急ブレーキ中も後方領域を監視できる。
【0015】
尚、少なくとも一つの緊急ブレーキ・パラメータを高めることは、該車両の後方領域内にオブジェクト、特に、走行している車両が認識されるまで維持される。
【0016】
これにより、後方領域内に認識されたオブジェクトを、緊急ブレーキ前、乃至、緊急ブレーキ中に考慮し、該緊急ブレーキの作動乃至継続を、変化する交通シチュエーションに合わせることができ有利である。特に、高めた緊急ブレーキ・パラメータが、リセットでき、標準パラメータが、使用できることが好ましい。
【0017】
本発明の好ましい形態においては、該車両の後方領域内におけるオブジェクト捕捉は、捕捉したオブジェクトとの相対速度、乃至、間隔を割り出すことができる。
【0018】
該間隔と相対速度からは、後続のオブジェクトの将来的挙動、並びに、それに伴う緊急ブレーキのその後の経過において考慮する緊急ブレーキ・パラメータに関する情報が得られるため、有利である。
【0019】
特に、これにより、各々の交通シチュエーションに対して個別に対応し、後続の交通に合わせた緊急ブレーキ・パラメータによる緊急ブレーキを実施できる。
【0020】
更には、少なくとも一つの緊急ブレーキ・パラメータを高くすることが、捕捉したオブジェクトとの相対速度、乃至、間隔に基づいてダイナミックに実施できることが好ましい。
【0021】
緊急ブレーキ中の緊急ブレーキ・パラメータの調整を継続的に実施し、これにより、緊急ブレーキ・パラメータを、自車両の緊急ブレーキ挙動、乃至、後続オブジェクトの挙動に合わせることができることは、有利である。
【0022】
本発明の好ましい形態においては、車両前方の領域内に捕捉されたオブジェクトと該車両の後方の領域内に捕捉されたオブジェクト、特に、走行している車両との衝突が、緊急ブレーキによっては回避できない場合、回避マヌーバが実施される。
【0023】
緊急ブレーキ・パラメータを調整しても、障害物乃至後続オブジェクトとの事故をブレーキでは回避できないことが、緊急ブレーキ中に判定された場合、回避マヌーバを開始することは、有利である。特に、これにより、車両の絶望的な緊急ブレーキを回避できるため好ましい。
【0024】
本発明では、車両用の緊急ブレーキ・アシスタントは、該車両の前方及び後方の領域用のオブジェクト認識ユニット;並びに、好ましい方法を実施すための制御ユニットを包含しているが、該制御ユニットは、先行請求項のうち何れか一項に記載の方法が実装されている電子的記憶媒体を包含している。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】複数の車両を含む交通シチュエーションを示す図である。
【
図2】緊急ブレーキ・アシスタントの作動用のフローチャートを示す図である。
【
図3】緊急ブレーキ・パラメータの推移を示すダイヤグラムである。
【
図4】車両用の緊急ブレーキユニットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、複数の車両3,9,11を含む交通シチュエーション1を示している。中央の車両3は、該車両3の前方13と後方15の領域用のオブジェクト認識ユニット5,7を装備している。各々のオブジェクト認識ユニットが、車両3の前方13と後方15のオブジェクトを、これらの領域内にオブジェクト9,11乃至車両がある場合、捕捉する。
【0027】
図2は、緊急ブレーキ・アシスタントの作動21用のフローチャートを示している。オブジェクト認識ユニット23は、車両の後方領域を監視し、この領域25内においてオブジェクトを探す。オブジェクトが認識された場合31は、標準パラメータ27が、緊急ブレーキ・パラメータとして、緊急ブレーキ用に使用される。一方、後方領域25内にオブジェクトが、認識されなかった場合33は、必要な際に作動される緊急ブレーキを、最適化され標準パラメータよりも高く設定した最適パラメータ29を緊急ブレーキ・パラメータとして用いて実施する。
【0028】
図2に示した緊急ブレーキ・アシスタントを作動21させる方法は、既に開始された緊急ブレーキ中も実施される。緊急ブレーキプロセスが開始された後に、オブジェクト認識ユニット23が、後方領域25内にオブジェクトを認識した場合31、該緊急ブレーキは、標準パラメータ27を用いて継続される。高くされた最適パラメータ29は、その時点からは用いられない。但し、標準パラメータ27を直ぐに用いるのではなく、最適パラメータ29と標準パラメータ27との間の中間パラメータを用いることも可能である。
【0029】
図3は、緊急ブレーキ・パラメータ41の推移を示すダイヤグラムである。例えば、許容される減速率(単位:kph)43が、時間(msec)45に対してプロットされている。最初は、後方領域内にオブジェクトが認識されておらず、必要に応じて実施される緊急ブレーキは、標準パラメータよりも高めに設定された最適パラメータを用いて実施される47。
【0030】
時点49に、オブジェクト認識システムが該車両の後方領域内にオブジェクトを認識し、許容される減速率が、速度と認識されたオブジェクトとの間隔に依存してダイナミックに標準パラメータまで低下される53。例えば、最適パラメータと標準パラメータの間の値の点線51で示されている中間パラメータを使用することもできるように、帰還制御は、ダイナミックに行われる。
【0031】
図4は、車両用の緊急ブレーキユニット60を示している。車両の前方13と後方15の領域用のオブジェクト認識ユニット5,7は、それぞれの交通空間を監視し、認識されたオブジェクト11,9との相対速度や間隔を割り出している。その際、制御ユニット65は、緊急ブレーキ・パラメータを認識したオブジェクトに合わせ、車両のブレーキシステム67をそれに応じて制御する。