(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【0006】
本発明者等は、外装体で電子部品を保護することに代えて、インモールド成形により電子部品を熱可塑性樹脂で封止することで、電子部品と外装体との間に必然的に生じる空間を低減しようとしたところ、回路基板上のはんだ部分が、インモールド成形時の溶融樹脂や金型からの熱によって、再溶融し、基板との接続が不良になるという製造上の問題が発生するおそれがあることを見出した。そこで、本発明者らは、特許文献3で提案されているような中空粒子および熱可塑性樹脂を含むコーティング剤を回路基板表面に塗布して、はんだ部分を被覆することを試みたが、はんだが部分的に再溶融しているという新たな課題を見いだした。
【0007】
上記した新たな課題に対して、本発明者らが更なる検討を行ったところ、コーティング剤により形成された被覆層の断熱性が不均一であるため、インモールド成形の際に溶融樹脂の熱がはんだに伝わり、はんだが部分的に再溶融したものであることが判明した。そして、本発明者らは、特定の組成を有する中空粒子を含むコーティング剤を用いることで均一な断熱性を有する被覆層を形成することができ、はんだの部分的な再溶融や樹脂の熱膨張によって電子部品が破損することを抑制できることを見いだした。本発明はかかる知見に基づくものである。即ち、本発明の目的は、均一な断熱性を有する被覆層を形成することができ、はんだの部分的な再溶融や樹脂の熱膨張によって電子部品が破損することを抑制できるコーティング剤を提供することである。
【0008】
また、本発明の別の目的は、該コーティング剤により基板上のはんだ表面を被覆した電子部品、および該電子部品の製造方法を提供することである。
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の組成のコーティング剤を基板上に塗布することで、均一な断熱性を有する被覆層を形成でき、射出成形時の熱がはんだ等の導電性接着部材の再溶融や樹脂の熱膨張による応力を抑制できることを見いだし、以下の本発明を完成させた。本発明の要旨は、以下の[1]〜[7]のとおりである。
【0010】
[1](A)熱可塑性樹脂、(B)有機溶剤、(C)チクソ剤、および(D)中空粒子を含んでなる、コーティング剤。
【0011】
[2]前記熱可塑性樹脂が、コーティング剤中に5〜40質量%含まれてなる、[1]に記載のコーティング剤。
【0012】
[3]前記中空粒子は40〜95体積%の中空率を有する、[1]または[2]に記載のコーティング剤。
【0013】
[4]前記中空粒子は5.0g/cm
3以下の比重を有する、[1]〜[3]のいずれかに記載のコーティング剤。
【0014】
[5]前記中空粒子は、ポリアクリロニトリルまたはアクリル系樹脂を含む、[1]〜[4]のいずれかに記載のコーティング剤。
【0015】
[6]前記中空粒子が、コーティング剤中に1.0〜15質量%含まれてなる、[1]〜[5]のいずれかに記載のコーティング剤。
【0016】
[7]電子部品が熱可塑性樹脂で封止されて一体化した電子部品モジュールを製造する方法であって、
回路基板上に電子素子を実装し、前記回路基板と前記電子素子とが導電性接着部材により電気的に接続された電子部品を準備し、
少なくとも前記導電性接着部材を被覆するように、[1]〜[6]のいずれかに記載のコーティング剤を前記電子部品に塗布し、乾燥することにより被膜を形成し、
金型内に前記被膜が形成された電子部品を配置して射出成型を行い、熱可塑性樹脂で前記被膜が形成された電子部品を封止する、
ことを含む、方法。
【0017】
本発明のコーティング剤を用いて形成された被覆層は、均一で高い断熱効果を有している。そのため、回路基板上に熱可塑性樹脂をインモールド成形する前に、回路基板やはんだ表面に本発明のコーティング剤を塗布して被覆層を形成しておくことで、射出成形時の熱によるはんだ等の導電性接着部材の再溶融や基板の熱劣化(樹脂の熱膨張による応力破損等)を抑制することができる。
【0018】
また、本発明のコーティング層を備える電子部品は、電子部品と接触する形で形成された熱可塑性樹脂が、熱膨張することにより発生する熱応力を緩和することで、基板やはんだの接続部の長期耐久性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[コーティング剤]
本発明のコーティング剤は、(A)熱可塑性樹脂、(B)有機溶剤、(C)チクソ剤、および(D)中空粒子を必須成分として含むものであり、耐熱性を備えた被膜の形成に好適に使用することができる。例えば、後記するように、回路基板を熱から保護するための耐熱層を回路基板表面に形成するために、本発明のコーティング剤を好適に使用できる。なお、当該コーティング剤の上記用途は一例であり、他の用途に使用できることは言うまでもない。以下、本発明のコーティング剤を構成する各成分について説明する。
【0020】
<(A)熱可塑性樹脂>
本発明のコーティング剤は、熱可塑性樹脂を含む。熱可塑性樹脂としては従来公知のものを使用でき、例えば、合成樹脂や水系エマルション樹脂が挙げられる。合成樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、アミノアルキド樹脂、ユリア樹脂、シリコン樹脂、メラミン尿素、樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、塩化ゴム系樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を組合せて用いることができる。これら熱可塑性樹脂なかでも、回路基板と中空粒子との接着性の観点から、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、ポリオレフィン系エラストマーをより好ましく使用することができる。ポリオレフィン系エラストマーとしては、具体的には、プロピレンとαオレフィンとの共重合体、αオレフィン重合体、エチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)等のエチレン−プロピレン系ゴム、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)等が挙げられる。また、水系エマルションとしては、シリコンアクリルエマルション、ウレタンエマルション、アクリルエマルション等が挙げられる。
【0021】
本発明のコーティング剤には、熱可塑性樹脂が5〜40質量%含まれることが好ましく、半導体の衝撃保護の観点からは、熱可塑性樹脂の配合量は8〜30質量%であることがより好ましく、10〜20質量%であることがさらに好ましい。なお、ここでの熱可塑性樹脂の配合量とは、固形分換算した熱可塑性樹脂の配合量を意味する。
【0022】
<(B)有機溶剤>
本発明のコーティング剤は有機溶剤を含む。有機溶剤は、上記した熱可塑性樹脂、後記するチクソ剤、中空粒子を溶解ないし分散させるための分散媒として機能する。このような機能を有するものであれば有機溶剤は特に制限なく使用でき、熱可塑性樹脂の溶解性、揮発速度、中空粒子の分散性、他の充填剤、分散剤等との相性等を考慮して、従来公知のケトン系、アルコール系、芳香族系等の有機溶剤のなかから適宜選択して使用することができる。具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、アルキルシクロヘキサン、シクロヘキセン、エチレングリコール、プロピレングリコール、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ベンゼン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられ、これらのなかでも炭素数1〜5のアルキル基を有するシクロヘキサンが好ましく用いられる。こられは単独または2種以上組み合わせて使用することができる
【0023】
熱可塑性樹脂としてポリオレフィン系樹脂を使用する場合には、有機溶剤としては溶解度の観点から炭素数1〜12の脂肪族炭化水素、特にメチルシクロヘキサンを好適に使用することができる。
【0024】
本発明のコーティング剤には、有機溶剤が5〜95質量%含まれることが好ましく、塗布工程での流動性の確保および塗布後の乾燥工程の簡便さを両立させる観点からは、有機溶剤の配合量は30〜92質量%であることがより好ましく、60〜90質量%であることがさらに好ましい。
【0025】
<(C)チクソ剤>
本発明のコーティング剤はチクソ剤を含む。本発明においては、コーティング剤にチクソ剤が含まれることで、コーティング剤中の熱可塑性樹脂と中空粒子との分散安定性が向上し、コーティング剤を塗布して被膜を形成した際に、被膜(塗膜)中で均一に熱可塑性樹脂と中空粒子とが分散され、その結果、コーティング剤を用いて形成した被覆(断熱層)は均一な断熱性を有するものと考えられる。本発明において好適に使用することができるチクソ剤としては、脂肪族アミド系化合物、酸化ポリエチレン系化合物、ポリエーテルリン酸エステル系化合物等が挙げられる。
【0026】
脂肪族アミド系化合物は、分子中に−NH−CO−結合を持つ化合物であり、例えば脂肪酸と脂肪族アミンおよび/または脂環式アミンとの反応物やそのオリゴマー等が挙げられる。アミド結合を有する化合物は水素結合が関与した網目状のネットワーク構造を形成するため、当該ネットワーク構造の形成が中空粒子の均一分散性に関係しているものと考えられる。
【0027】
本発明において好適に使用できる脂肪族アミド化合物としては、脂肪酸ポリアミド構造を有し、当該脂肪酸が炭素数8から30の長鎖アルキル基を有するものが好ましい。当該長鎖アルキル基は直鎖状のもの、分岐状のもののいずれも用いることができる。また前記長鎖アルキル基は繰り返しにより炭素−炭素結合で長鎖に繋がったものでも良い。具体例としては、例えばラウリン酸アマイド、ステアリン酸アマイドなどの飽和脂肪酸モノアマイド、オレイン酸アマイドなどの不飽和脂肪酸モノアマイド、N−ラウリルラウリン酸アマイド、N−ステアリルステアリン酸アマイドなどの置換アマイド、メチロールステアリン酸アマイドなどのメチロールアマイド、メチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスラウリン酸アマイド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アマイドなどの飽和脂肪酸ビスアマイド、メチレンビスオレイン酸アマイドなどの不飽和脂肪酸ビスアマイド、m−キシリレンビスステアリン酸アマイドなどの芳香族ビスアマイド、脂肪酸アマイドのエチレンオキシド付加体、脂肪酸エステルアマイド、脂肪酸エタノールアマイド、N−ブチル−N’−ステアリル尿素などの置換尿素等を挙げることができ、これらは単独または2種以上組み合わせて使用することができる。これらのなかでも、チクソ作用によって溶液中の中空粒子の分散性が向上する観点から、飽和脂肪酸モノアマイドがより好ましい。
【0028】
上記した脂肪族アミド化合物は、市販のものを使用してもよく、一例としてDISPARLON 6900−20X、DISPARLON 6900−10X、DISPARLON A603−20X、DISPARLON A603−10X、DISPARLON A670−20M、DISPARLON 6810−20X、DISPARLON 6850−20X、DISPARLON 6820−20M、DISPARLON 6820−10M、DISPARLON FS−6010、DISPARLON PFA−131、DISPARLON PFA−231(以上、楠本化成株式会社製)、フローノン RCM−210(共栄化学株式会社製)、BYK−405(ビックケミージャパン社製)等が挙げられる。
【0029】
チクソ剤として使用できる酸化ポリエチレン系化合物は、ポリエチレンを酸素と接触させてメチレンの水素の一部が水酸基ないしカルボキシル基に変性されたものである。酸化ポリエチレン系化合物の分子中には複数の水酸基ないしカルボキシル基が存在し、水酸基ないしカルボキシル基の酸素元素と水素原子との間に水素結合が形成されている。このように酸化ポリエチレン系化合物は、水素結合が関与した網目状のネットワーク構造を形成するため、当該ネットワーク構造の形成が中空粒子の均一分散性に関係しているものと考えられる。本発明においては、特に、酸化ポリエチレンを微細な粒子にしてコロイド状の湿潤分散体としたものを好適に使用することができる。
【0030】
上記した酸化ポリエチレン系化合物は市販のものを使用してもよく、一例として、ディスパロンPF−920(楠本化成株式会社製)、フローノンSA−300H等が挙げられる。
【0031】
チクソ剤として使用できるポリエーテルリン酸エステル系化合物としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸及び高級アルコールリン酸等のモノまたはジエステル、またはそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩及びアミン塩等が挙げられる。上記したポリエーテルリン酸エステル系化合物は市販のものを使用してもよく、一例として、ディスパロン3500(楠本化成株式会社製)等が挙げられる。
【0032】
本発明のコーティング剤には、チクソ剤が0.001〜10質量%含まれることが好ましく、コーティング剤中の中空粒子の均一分散性の観点からは、チクソ剤の配合量は0.05〜7質量%であることがより好ましく、0.1〜1質量%であることがさらに好ましい。なお、本発明におけるチクソ剤の含有量とは、(A)熱可塑性樹脂および(B)有機溶剤の総和に対してチクソ剤が含まれる割合を意味するものとする。
【0033】
<(D)中空粒子>
本発明のコーティング剤に含まれる中空粒子は、被膜に断熱性を付与するものである。このような中空粒子としては、単孔中空粒子、多孔中空粒子のいずれでもあってもよい。なお、単孔中空粒子とは、粒子内部に一つの空孔を有する粒子である。多孔中空粒子とは、粒子内部に複数の空孔を有する粒子である。多孔中空粒子中の複数の空孔は、独立して存在していてもよいし、繋がっていてもよい。
【0034】
中空粒子は、40〜95体積%の中空率を有することが好ましく、有機溶剤揮発後の断熱形状が保持できる観点からは40〜70体積%であることがより好ましく、45〜60体積%であることがさらに好ましい。なお、本発明において中空率は、次の方法により測定される値を意味するものとする。
中空粒子の密度の測定値(B)に対して、その中空粒子を構成する材料の理論密度を(A)とし場合に中空率(C)は、下記式により算出することができる。
C(%)=(A−B)/A×100
【0035】
また、中空粒子は、熱可塑性樹脂に均一に分散した状態で被膜化されることが好ましいことから、中空粒子は5.0以下の比重を有することが好ましく、より好ましい比重は、0.1〜1.5である。なお、本発明において中空粒子の比重は、水の密度(1.0g/cm
3)に対する中空粒子の密度(即ち、測定値(B))を意味するものとする。
【0036】
中空粒子の平均粒径は、スリップの発生抑制の観点から、1〜500μmであることが好ましく、5〜100μmがより好ましく、10〜70μmであることがさらに好ましい。なお、本発明において平均粒径とは、粉体状態にある中空粒子をレーザー回折散乱式粒度分布測定法によって測定した粒子径の平均値(D50)を意味する。
【0037】
中空粒子は、熱可塑性樹脂粒子、熱硬化性樹脂粒子、ガラスを殻とする有機中空粒子(樹脂中空粒子)、あるいはガラス粒子、セラミック粒子等の無機中空粒子のいずれであってもよいが、機械物性の観点から熱可塑性樹脂粒子を好適に使用することができる。中空粒子として用いることのできる熱可塑性樹脂としては、スチレン骨格を有する単量体(スチレン、パラクロロスチレン、α−メチルスチレン等)、(メタ)アクリロイル基を有する単量体(アクリル酸、メタクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ニトリル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等)等)、酢酸ビニル、ビニルエーテル(例えばビニルメチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル等)、ビニルケトン(ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソプロペニルケトン等)、オレフィン(例えばエチレン、プロピレン、ブタジエン等)等の単量体の単独重合体、またはこれら単量体を2種以上組み合せた共重合体を殻とする有機中空粒子が挙げられる。
【0038】
また、中空粒子として、非ビニル系樹脂(エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、ポリエーテル樹脂、変性ロジン等)、これらと前記ビニル系樹脂との混合物、または、これらの共存下でビニル系単量体を重合して得られるグラフト重合体等を殻とする有機中空粒子も挙げられる。
【0039】
上記した樹脂のなかでもポリアクリロニトリル、アクリル系樹脂が耐熱性の観点から好ましく用いられる。
【0040】
中空粒子は、膨張性、非膨張性の中空粒子のいずれであってもよい。なお、膨張性の中空粒子とは、熱等の外部からの刺激により、粒子(または内部の空孔)の体積が増加する粒子をいうものとする。
【0041】
上記した中空粒子は、市販のものを使用してもよく、一例として、アドバンセルEM、HB(以上、積水化学工業株式会社製)、エクスパンセルU、E(以上、日本フェライト株式会社製)、マツモトマイクロスフェアーF、F−E(以上、松本油脂製薬株式会社製)等の樹脂製中空粒子や、シリナックス(日鉄工業株式会社製)、イースフィアーズ(太陽セメント株式会社製)、ハードライト(昭和化学株式会社製)、セノライト、マールライト、ガラスバルーン(以上、巴工業株式会社)等の無機系中空粒子を挙げることができる。
【0042】
[電子基板]
本発明のコーティング剤は、上記したように、耐熱性を備えた被膜の形成に好適に使用することができることから、例えば、回路基板等の電子基板を熱から保護するための耐熱層(被膜)を電子基板の表面に形成するために好適に使用できる。例えば、半導体チップ等の電子部品を実装した回路基板の表面、とりわけ電子部品と回路基板との電気的接続のためにはんだ付けがされている面に、本発明のコーティング剤を塗布し、乾燥して有機溶剤を除去することにより保護膜(被膜)を形成することができる。被膜は、回路基板表面の全体に形成してもよく、外部の熱から保護する必要のある部分のみに被膜を形成してもよい。
【0043】
本発明のコーティング剤がより好適に使用される電子基板としては、特定のものに限定されるわけではないが、半導体素子、抵抗チップ、コンデンサ、外部との接続端子等が実装される回路基板、とりわけ、各種電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)を構成する電子基板であることが好ましい。配線基板等の電子基板に、半導体素子、抵抗チップ、コンデンサ、外部との接続端子等の各種素子を実装し、はんだ等の導電性接着部材により電子基板と各素子とを電気的に接続した電子部品をモジュール化することにより電子制御装置を作製することができる。各種電子制御装置は、航空機や自動車用の電子制御装置であることが好ましく、センサーに関する電子制御装置であることがより好ましい。
【0044】
[電子部品モジュール]
上記したような電子制御装置は、電子部品を電子基板に実装し電子部品を保護するために筐体内に収容して一体化し、電子部品モジュールとすることが一般的に行われている。近年は電子部品モジュールの小型化の要請もあり、筐体内に電子部品を収納することに代えて、電子部品自体を熱可塑性樹脂で封止して一体化した電子部品モジュールとすることが行われている。このような電子部品モジュールは、金型内に電子部品を配置して射出成型(インモールド成形)を行うことにより作製されている。この場合、溶融した熱可塑性樹脂の熱が電子部品に伝わり、はんだ等の導電性接着部材を再溶融してしまうことがあり、はんだの部分的な再溶融や樹脂の熱膨張によって電子部品が破損してしまうことがあった。本発明のコーティング剤を使用して被膜を形成しておくことで、このような外部からの熱を遮蔽でき、電子部品の破損を抑制することができる。なお、本発明において電子部品を熱可塑性樹脂で封止するとは、電子部品、センサー類、外部との接続端子等を熱可塑性樹脂によって一体化ないしは保護することを意味し、基板の一部やセンサー類、ケーブル等の熱可塑性樹脂に覆われていない部分が存在してもよい。
【0045】
例えば、導電性接着部材としては、導電性フィラーを含む合成樹脂やはんだが挙げられ、はんだが好ましく用いられる。はんだは、スズ(Sn)が含まれていればよく、Sn−Pb系合金、Sn−Ag−Cu系合金、Sn−Zn−Bi系合金、Sn−Zn−Al系合金等が挙げられ、環境に関する法規制から、Sn−Ag−Cu系合金、Sn−Zn−Bi系合金、Sn−Zn−Al系合金等のいわゆる鉛フリーはんだが好ましく用いられる。
【0046】
導電性フィラーを含む樹脂としては、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂等の熱硬化性樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等の熱可塑性樹脂に対し、金、銀、銅、ニッケル、アルミ等の導電性フィラーを含むものが好ましく用いられる。
【0047】
導電性接着部材は、配線基板と各種素子とを電気的に接続する際の作業性の観点から、融点が通常は250℃以下であり、好ましくは220℃以下、より好ましくは200℃以下、更に好ましくは190℃以下である。なお、導電性フィラーを含む樹脂として熱硬化性樹脂等を使用する場合において、当該熱硬化性樹脂の融点が測定できない場合は、耐熱温度をその代替とする。
【0048】
一方、電子部品を封止する熱可塑性樹脂としては、射出成型が可能な樹脂であれば特に制限はないが、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリアクリル樹脂、ABS樹脂等が挙げられ、成形性と機械物性の観点からポリブチレンテレフタレートが好ましく用いられる。
【0049】
封止する熱可塑性樹脂としてポリブチレンテレフタレートを使用する場合などは、射出成型時の温度は230〜270℃程度であるため、導電性接着部材が再溶融してしまう恐れがある。本発明においては、電子部品の表面に被膜を形成しておくことで、電子部品に熱が伝播するのを低減し、上記したような導電性接着部材の再溶融や樹脂の熱膨張による電子部品が破損するのを抑制することができる。
【0050】
[電子部品モジュールの製造方法]
本発明のコーティング剤を用いて電子部品に被膜を形成し、電子部品モジュールとする方法について、一例を挙げて説明する。
【0051】
まず、回路基板上に、半導体素子、抵抗チップ、コンデンサ、外部との接続端子等の各種電子素子を実装し、前記回路基板と前記電子素子とが導電性接着部材により電気的に接続された電子部品を作製する。この工程は、従来の電子部品の作製工程と同様にして実施することができる。
【0052】
次いで、電子部品の導電性接着部材部分が少なくとも被覆されるようにコーティング剤を電子部品に塗布する。各種電子素子を熱から保護する観点からは、導電性接着部材部分のみならず、各種電子素子が実装された回路基板全体が被覆されるようにコーティング剤を塗布することが好ましい。
【0053】
コーティング剤を塗布した後、乾燥することにより有機溶媒を除去して被膜(保護膜)を形成することができる。乾燥は、常温乾燥であってもよく、また熱風乾燥機等を使用して行ってもよい。
【0054】
このようにして、導電性接着部材部分や電子素子の一部または全体が保護膜により被覆された電子部品を金型内に配置し、射出成型を行うことにより熱可塑性樹脂で電子部品を封止する。いわゆるインモールド形成を行うことにより、電子部品が熱可塑性樹脂で封止されて一体化した所望形状の電子部品モジュールを製造することができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、これらの例により本発明が限定されるものではない。
【0056】
[参考例1]
熱可塑性樹脂と有機溶媒の混合物(エアブラウン社製 Humiseal 1B51NSLU−55(ポリオレフィン系エラストマー14質量%、メチルシクロヘキサン86質量%))を100質量部に対して、中空粒子1として、事前に100℃で2分間の膨張処理を行った積水化学工業社製 アドバンセルEM501(素材:アクリロニトリル、比重:0.06g/cm
3、中空率:90%、平均粒子径:65μm)を3質量部加え、十分に撹拌してコーティング液を調製した後、2時間静置した。コーティング液は、各成分を撹拌後10分間経過した時点から、固液分離し始め、2時間経過後には完全に固液が分離していた。固液分離した沈殿物は中空粒子1であると考えられる。
【0057】
[参考例2]
中空粒子1に代えて中空粒子2(積水化学工業社製 アドバンセルHB2051、素材:アクリロニトリル、比重:0.4g/cm
3、中空率:50%、平均粒子径:20μm)を使用した以外は参考例1と同様にしてコーティング液を調製し、参考例1と同様にしてコーティング液の分散状態を確認したところ、各成分を撹拌後10分間経過した時点から、固液分離し始め、2時間経過後には完全に固液が分離していた。固液分離した浮遊物は中空粒子2であると考えられる。
【0058】
参考例1および2の評価結果から、熱可塑性樹脂、有機溶剤、中空粒子のみからなるコーティング剤は、分散性が悪く、均一な断熱層を形成することは困難であることがわかった。
【0059】
[実施例A1]
熱可塑性樹脂と有機溶媒の混合物(エアブラウン社製 Humiseal 1B51NSLU−55(ポリオレフィン系エラストマー14質量%、メチルシクロヘキサン86質量%))100質量部に対して、中空粒子1を3質量部、および脂肪族アミド化合物(楠本化成株式会社製DISPARLON PFA−131)を0.3質量部加え、十分に撹拌してコーティング液を調製した後、8時間静置した。コーティング液は、調製後8時間を経過しても、固液界面を確認することはできず、均一な溶液の状態であった。
【0060】
[実施例A2]
脂肪族アミド化合物として、共栄化学社製フローノン RCM−210を使用した以外は実施例1と同様にしてコーティング液を調製し、実施例1と同様にしてコーティング液の分散状態を確認したところ、コーティング液は、調製後8時間を経過しても、固液界面を確認することはできず、均一な溶液の状態であった。
【0061】
[比較例A1]
脂肪族アミド化合物に代えて、変性ウレア(ビッグケミー・ジャパン社製BYK−410)を使用した以外は実施例A1と同様にしてコーティング液を調製し、実施例A1と同様にしてコーティング液の分散状態を確認したところ、調製後8時間経過後には完全に固液が分離していた。固液分離した沈殿物は中空粒子1であると考えられる。
【0062】
実施例A1、A2及び比較例A1の評価結果から、熱可塑性樹脂、有機溶剤、脂肪族アミド化合物および中空粒子からなるコーティング剤は、長時間の分散安定性に優れ、コーティング液調整から塗布までの間も均一性が保持されることがわかった。
【0063】
[実施例A3]
熱可塑性樹脂と有機溶媒の混合物(エアブラウン社製 Humiseal 1B51NSLU−55(ポリオレフィン系エラストマー14質量%、メチルシクロヘキサン86質量%))100質量部に対して、中空粒子1を2質量部、および脂肪族アミド(楠本化成株式会社製DISPARLON PFA−131)を0.3質量部加え、十分に撹拌してコーティング液を調製した。
次いで、得られたコーティング液を、バーコーターを用いてポリイミドフィルム上に塗布し、乾燥させて有機溶媒を蒸発させることにより被膜を形成した。得られた被膜の熱伝導率を非定常法細線加熱法によって測定した。測定結果は、下記表1に示されるとおりであった。
【0064】
[実施例A4]
中空粒子1に代えて中空粒子2を使用した以外は実施例A3と同様にしてコーティング液を調製し、実施例A3同様にしてコーティング液から被膜を形成して熱伝導率の測定を行った。測定結果は、下記表1に示されるとおりであった。
【0065】
[実施例A5]
中空粒子1に代えて中空粒子3(ポッターズ社製 Q−CEL7040S、素材:硼珪酸ナトリウムガラス、比重:0.4g/cm
3、中空率:90%、平均粒子径:45μm)を使用した以外は実施例A3と同様にしてコーティング液を調製し、実施例A3同様にしてコーティング液から被膜を形成して熱伝導率の測定を行った。測定結果は、下記表1に示されるとおりであった。
【0066】
[実施例A6]
中空粒子1に代えて中空粒子4(ポッターズ社製 Spherice25P45、素材:硼珪酸ガラス、比重:0.25g/cm
3、中空率:90%、平均粒子径:45μm)を使用した以外は実施例A3と同様にしてコーティング液を調製し、実施例A3同様にしてコーティング液から被膜を形成して熱伝導率の測定を行った。測定結果は、下記表1に示されるとおりであった。
【0067】
[参考例3]
中空粒子1を配合しなかった以外は実施例A3と同様にしてコーティング液を調製し、実施例A3同様にしてコーティング液から被膜を形成して熱伝導率の測定を行った。測定結果は、下記表1に示されるとおりであった。
【0068】
【表1】
【0069】
表1の評価結果からも明らかなように、本発明のコーティング液を用いて形成された被膜は、中空粒子を含まないコーティング液を用いて形成されたものよりも、熱伝導率が低く、いずれも0.2W/m・Kであることがわかる。
はんだの融点を217℃、基板上にポリブチレンテレフタレートを金型温度240℃で射出成形を行うと仮定した場合、射出成形時にはんだが融点以上に加熱されるのを抑制するために必要な熱伝導率をシミュレーションによって計算したところ、熱伝導率が0.2W/m・K以下であればはんだの再溶融を抑制できることがわかった。
以上から、本発明のコーティング剤を回路基板の被膜材料として使用すれば、均一な断熱性を有する被覆層を形成でき、射出成形時の熱がはんだの再溶融や樹脂の熱膨張による応力を抑制できる。
【0070】
[実施例B1]
熱可塑性樹脂と有機溶媒の混合物(エアブラウン社製 Humiseal 1B51NSLU−40(ポリオレフィン系エラストマー15質量%、メチルシクロヘキサン85質量%))100質量部に対して、中空粒子2を6質量部、および脂肪族アミド化合物(楠本化成株式会社社製PFA131)を0.3質量部加え、十分に撹拌してコーティング液を調製した。
次いで、得られたコーティング液を、バーコーターを用いてシリコーンシート上に塗布し、乾燥させて有機溶媒を蒸発させることにより被膜を形成した。乾燥させた被膜をシリコーンシートから剥離させ、得られた被膜を4枚重ね、熱伝導率を実施例A3と同様にして測定した。測定結果は、下記表2に示されるとおりであった。
【0071】
[実施例B2]
チクソ剤として脂肪族アミド化合物(共栄社化学株式会社製SH1290)を使用した以外は実施例B1と同様にしてコーティング液を調製し、実施例B1と同様にして熱伝導率を測定した。測定結果は、下記表2に示されるとおりであった。
【0072】
[実施例B3]
チクソ剤として酸化ポリエチレン系化合物(楠本化成株式会社社製PF920)を使用した以外は実施例B1と同様にしてコーティング液を調製し、実施例B1と同様にして熱伝導率を測定した。測定結果は、下記表2に示されるとおりであった。
【0073】
[実施例B4]
チクソ剤としてポリエーテルリン酸エステル系化合物(楠本化成株式会社社製3500)を使用した以外は実施例B1と同様にしてコーティング液を調製し、実施例B1と同様にして熱伝導率を測定した。測定結果は、下記表2に示されるとおりであった。
【0074】
[比較例B1]
チクソ剤(脂肪族アミド化合物)を添加しなかった以外は実施例B1と同様にしてコーティング液を調製し、実施例B1と同様にして熱伝導率を測定した。測定結果は、下記表2に示されるとおりであった。
【0075】
[比較例B2]
中空粒子を添加しなかった以外は実施例B1と同様にしてコーティング液を調製し、実施例B1と同様にして熱伝導率を測定した。測定結果は、下記表2に示されるとおりであった。
【0076】
[比較例B3]
中空粒子を添加しなかった以外は実施例B2と同様にしてコーティング液を調製し、実施例B2と同様にして熱伝導率を測定した。測定結果は、下記表2に示されるとおりであった。
【0077】
[比較例B4]
中空粒子を添加しなかった以外は実施例B3と同様にしてコーティング液を調製し、実施例B3と同様にして熱伝導率を測定した。測定結果は、下記表2に示されるとおりであった。
【0078】
[比較例B5]
中空粒子を添加しなかった以外は実施例B4と同様にしてコーティング液を調製し、実施例B4と同様にして熱伝導率を測定した。測定結果は、下記表2に示されるとおりであった。
【0079】
[比較例B6]
中空粒子およびチクソ剤を添加しなかった以外は実施例B1と同様にしてコーティング液を調製し、実施例B1と同様にして熱伝導率を測定した。測定結果は、下記表2に示されるとおりであった。
【0080】
【表2】