(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
配列番号1のアミノ酸配列からなる物質P(substance P)、チオ硫酸ナトリウム、ポリソルベート80、及びヒドロキシエチルセルロースを含む皮膚のしわまたは炎症改善用化粧料組成物。
【背景技術】
【0002】
化粧品産業は、継続的に成長している傾向にあり、様々な化粧品関連産業の中で、特に、皮膚老化に関連した化粧品は成長率が最も高い分野だといえる。皮膚老化はさまざまな原因によって発生するが、皮膚老化に直接影響を与える要因の中で目立つ要因は、大きく皮膚内のコラーゲン減少によるしわの形成及び酸化的ストレスによる炎症反応に分けられる。
【0003】
細胞外基質の主要構成成分であるコラーゲンは、皮膚繊維芽細胞(Fibroblast)で生成される主な基質タンパク質であって、皮膚の堅固性、結合組織及び皮膚組織の結合力、細胞接着の支え、細胞分割と分化の誘導などの機能をし、これを介して真皮層内の水分保有力を高めて皮膚の弾力を維持するのに大きな役割をすると知られている。これらのコラーゲンは、年齢及び紫外線の照射による光老化により減少し、この時、コラーゲンを分解するコラーゲン分解酵素(Collagenases)の活性によりコラーゲン減少が促進されるが、これは皮膚のしわの形成に関与する。
【0004】
従来は、コラーゲンのしわの改善効果を用いるために、化粧品または軟膏などのような皮膚外用剤組成物にコラーゲンを配合した製品が発売されたが、これらの製品はコラーゲン自体を皮膚表面に塗布するもので、高分子物質であるコラーゲンの経皮吸収が難しくて本質的なしわの改善効果を示すことができなかった。これらの問題を解決するために、コラーゲン合成促進物質に対する関心が高まり、従来知られているコラーゲン合成促進物質としては、レチノイド(retinoid)、アデノシン(adenosine)、クロレラ抽出物(JP9−40523、JP10−36283、繊維芽細胞の増殖促進作用)、ビタミンC、形質転換成長因子(transforming growth factor、TGF)、動物胎盤由来のタンパク質(JP8−231370)、ベツリン酸(betulinic acid、JP8−208424)などがある。
【0005】
この中で最も広く知られているレチノールは、コラーゲン合成を促進するが、化粧料として使用時に皮膚に刺激、発赤などを誘発させ、光に不安定であるため、その使用に制限があり、クロレラ抽出物は効果がわずかで皮膚しわの改善効果を期待するのは難しい。このように、前記物質は、皮膚に適用時の刺激と発赤などの安全性の問題で使用量に制限があるか、その効果がわずかで実質的にしわの改善効果を期待できないという問題点がある。したがって、従来のしわ改善用組成物より生体に安全でしわの改善効果が高い、新しいしわの改善組成物の開発が切実に求められている。
【0006】
一方、炎症は人体の病気や傷に対抗する免疫反応の一環であって、炎症反応の際にはさまざまな炎症誘発因子に加えて、様々なフリーラジカル(free radical)が生成される。正常のフリーラジカルは、細胞の恒常性維持に関与して細胞の分化、成長、生存、老化に影響を与える。これらのフリーラジカルの中で活性酸素種(reactive oxygen species、ROS)は、細胞内のミトコンドリアで呼吸と免疫反応による酸素の酸化と還元過程を介して絶えず生成される。このようなフリーラジカルの生成と消去のバランスが崩れると、酸化的ストレス(oxidative stress)が発症することになり、これによる炎症性因子の活性化は細胞を損傷させて、皮膚の老化につながることになる。
【0007】
炎症反応は、炎症性サイトカイン(TNF−alpha、IL−6など)の増加と抗炎症性サイトカイン(IL−4、IL−10など)の減少が特徴的である。また、強力な炎症媒介物である一酸化窒素(Nitric oxide、NO)は、NO合成酵素(NOS)によって生成され、光老化ストレスまたはサイトカインによって多くの種類の細胞から発生する。
【0008】
皮膚老化に役立つ抗炎症原料としては、非ステロイド系統のフルフェナム酸(Flufenamic acid)、ベンジダミン(Benzydamine)、ステロイド系統のプレドニゾロン(Prednisolone)及びデキサメタゾン(Dexamethasone)などがある。しかし、これらも皮膚に対する安全性が低く、抗炎症の効果がわずかであるという短所がある。
【0009】
一方、物質P(Substance P)は、11個のアミノ酸からなる神経伝達ペプチドであって、様々な細胞及び肉芽組織で発現されることが報告されている。いくつかの研究によると、物質Pは人間のハムストリング腱細胞(Primary human hamstering tenocyes)でコラーゲンリモデリング(Collagen remodeling)を著しく増加させ、人工皮膚組織の経皮水分蒸発を抑制し、角質層の水分損失を防ぎ、角質層が水分を維持させると知られている。また、物質Pは炎症関連白血球、好中球及び造血幹細胞を血液内で減少させて、抗炎症関連サイトカイン、調節Tリンパ球及び抗炎症性マクロファージなどを増加させ、炎症反応を早期に終了させる効果も有すると知られている(特許文献1)。これは物質Pがしわ及び炎症反応改善組成物として十分に使用できるということを示す。ただし、物質Pの不安定によるしわ及び炎症改善効果の減少は、これをしわ改善または抗炎症化粧品として使用するために必ず克服しなければならない問題である。
【0010】
前記のような背景下で、本発明者らは物質Pの安定性を増加させるために鋭意努力した結果、本発明者らが既存の開発した組成物であって、物質P、抗酸化剤、界面活性剤及び粘増剤を含む組成物が、物質P自体に比べて皮膚繊維芽細胞の成長培地内で安定し、同時に、より優れたしわ改善または抗炎症効果があることを確認して、本発明を完成した。
【発明を実施するための形態】
【0016】
前記目的を達成するための一つの様態として、本発明は、物質P(substance P)、抗酸化剤、界面活性剤及び粘増剤を含む皮膚のしわまたは炎症改善用化粧料組成物を提供する。
【0017】
本発明は、従来の物質Pの不安定によるしわの改善または抗炎症効能のわずかな効果を改善するための新規な化粧料組成物に関する。本発明者らは、物質Pを適用したときに最適のしわの改善または抗炎症効果が表れるようにする組成物の成分及び含量を開発した。
【0018】
具体的には、本発明は、物質P、チオ硫酸ナトリウム、ポリソルベート80及びヒドロキシエチルセルロースを含む、皮膚のしわまたは炎症改善用化粧料組成物を提供する。
【0019】
本発明者らは、前記物質P(substance P)を含有する組成物が皮膚繊維芽細胞の成長培地内で安定的であり、コラーゲン合成の促進、コラーゲン分解酵素の生成抑制及び抗炎反応を行うことにより、しわの改善または抗炎症効果があることを確認し、本発明を完成した。
【0020】
本発明の組成物において、前記物質P(substance P)は、配列番号1の 「Arg−Pro−Lys−Pro−Gln−Gln−Phe−Phe−Gly−Leu−Met−NH
2」のアミノ酸からなる神経ペプチドを意味する。前記物質Pは、脳脊髄などの中枢神経系及び腸管などの末梢に広く分布し、1次知覚神経から痛覚を伝達する役割を実行することが知られている。
【0021】
本発明の化粧料組成物に含まれる物質Pの濃度は、1〜10μg/mlであってもよく、具体的には、5〜10μg/mlであってもよい。
【0022】
本発明の一実施例では、濃度が1〜10μg/mlの物質Pを含む組成物でコラーゲン合成効果及びコラーゲン分解酵素の抑制効果が優れていることを証明し、特に5〜10μg/mlの範囲で前記効果が最も優れていることを証明した(
図3及び
図4)。
【0023】
したがって、本発明の化粧料組成物において、前記物質Pの濃度が1〜10μg/mlで含まれる場合、本発明の化粧料組成物が優れたしわの改善効能を発揮できることを確認した。
【0024】
本発明の組成物において、前記抗酸化剤は空気中の酸素による活性成分の酸化過程で生じる遊離基や過酸化物に作用して酸化の連鎖反応を停止し、酸化の進行を防止して、活性成分の変質を防止する目的で添加される物質を意味する。
【0025】
本発明において、前記抗酸化剤は、物質Pを含む化粧料組成物のしわの改善または抗炎症効果の変質を防止することができる。
【0026】
前記抗酸化剤は、当業界で用いられてもよい通常の抗酸化剤を制限なく用いてもよいが、具体的には、β−メルカプトエタノール(β-mercaptoethanol、β−ME)、グルタチオン(Glutathione、GSH)、アスコルビン酸(ascorbic acid)、ビタミンE、ベータカロチン、リコピン、コエンザイムQ−10(coenzyme Q-10)、セレン、クロム、マグネシウム、タウリン(taurine)、ハイポタウリン(hypotaurine)またはトレハロース(trehalose)などを用いてもよいが、これに制限されるものではない。具体的には、本発明で、前記抗酸化剤は、チオ硫酸ナトリウム(sodium thiosulfate)であってもよい。
【0027】
前記抗酸化剤の含量は、化粧料組成物のしわの改善または抗炎症効果の変質を防止することができる限り、特に制限されないが、本発明の組成物の総重量に対して0.01〜1重量%であってもよく、具体的には、0.1 〜1重量%であってもよい。
【0028】
本発明の一実施例では、抗酸化剤としてチオ硫酸ナトリウムを含む化粧料組成物が物質Pに比べて、コラーゲン合成効果、コラーゲン分解酵素(MMP−1)の抑制効果(
図3及び
図4)及び炎症性サイトカインIL−6の減少効果、一酸化窒素(Nitric oxide、NO)の減少効果(
図5及び
図6)が優れていることを確認した。
【0029】
したがって、本発明の化粧料組成物が抗酸化剤としてチオ硫酸ナトリウムを含む場合、優れたしわの改善または抗炎症効果を示すことができる。
【0030】
本発明の組成物において、前記界面活性剤は親油性の油成分を用いて、均一な液組成を維持させる物質を意味する。
【0031】
前記界面活性剤は、陰イオン系、陽イオン系、非イオン系または両性界面活性剤などの化粧料組成物の製造時に用いられる一般的な界面活性剤であってもよい。具体的には、本発明で前記界面活性剤は、ポリソルベート80(polysorbate 80)であってもよい。
【0032】
前記界面活性剤の含量は、本発明の組成物の総重量に対して0.001〜0.1重量%であってもよく、具体的には、0.006〜0.1重量%であってもよい。本発明の一実施例では、界面活性剤としてポリソルベート80を含む化粧料組成物が、物質Pに比べて、コラーゲン合成効果、コラーゲン分解酵素(MMP−1)の抑制効果(
図3及び
図4)及び炎症性サイトカインIL−6の減少効果、一酸化窒素(Nitric oxide、NO)の減少効果(
図5及び
図6)が優れていることを確認した。
【0033】
したがって、本発明の化粧料組成物が界面活性剤としてポリソルベート80を含む場合、優れたしわの改善または抗炎症効果を示すことができる。
【0034】
本発明の組成物において、前記粘増剤は、粘性を付与するために添加される添加剤を意味するもので、増粘剤または増粘安定剤とも呼ばれる。具体的には、本発明の粘増剤はヒドロキシエチルセルロース(hydroxyethylcellulose)であってもよい。
【0035】
前記粘増剤の含量は、本発明の組成物の総重量に対して1〜5重量%であってもよい。前記粘増剤の含量が組成物の総重量に対して1重量%以下の場合、化粧料組成物の安定性に問題が生じることがあり、5重量%以上である場合、化粧料組成物の粘性が高くなりすぎて塗布に適してない組成物になることがある。
【0036】
本発明の一実施例では、粘増剤としてヒドロキシエチルセルロースを含む化粧料組成物が、物質Pに比べて、コラーゲン合成効果、コラーゲン分解酵素(MMP−1)の抑制効果(
図3及び
図4)及び炎症性サイトカインIL−6の減少効果、一酸化窒素(Nitric oxide、NO)の減少効果(
図5及び
図6)が優れていることを確認した。
【0037】
したがって、本発明の化粧料組成物が粘増剤としてヒドロキシエチルセルロースを含む場合、優れたしわの改善または抗炎症効果を示すことができる。
【0038】
具体的には、本発明は、物質Pに、抗酸化剤としてチオ硫酸ナトリウム(sodium thiosulfate)、界面活性剤としてポリソルベート80(polysorbate 80)及び粘増剤としてヒドロキシエチルセルロース(hydroxyethylcellulose)を含む、皮膚のしわまたは炎症改善用化粧料組成物を提供する。
【0039】
具体的には、物質P、抗酸化剤0.01〜1重量%、界面活性剤0.001〜0.1重量%及び粘増剤1〜5重量%を含む、皮膚のしわまたは炎症改善用化粧料組成物を提供する。より具体的には、抗酸化剤は0.1〜1重量%及び界面活性剤は0.006〜0.1重量%で含む、皮膚のしわまたは炎症改善用化粧料組成物を提供する。
【0040】
また具体的には、物質P、抗酸化剤としてチオ硫酸ナトリウム0.01〜1重量%、界面活性剤としてポリソルベート80 0.001〜0.1重量%及び粘増剤としてヒドロキシエチルセルロース1〜5重量%を含む、皮膚のしわまたは炎症改善用化粧料組成物を提供する。より具体的には、物質P、抗酸化剤としてチオ硫酸ナトリウム0.1〜1重量%、界面活性剤としてポリソルベート80 0.006〜0.1重量%を含む、皮膚のしわまたは炎症改善用化粧料組成物を提供する。
【0041】
本発明の一実施例では、物質P、抗酸化剤、界面活性剤及び粘増剤を含む化粧料組成物が、物質Pに比べて、コラーゲン合成効果(
図3)及びコラーゲン分解酵素の抑制効果(
図4)が優れていることを証明することにより、物質Pを単独で適用することに比べ、皮膚のしわの改善効果がより優れていることを確認した。
【0042】
また、本発明の一実施例では、物質P、抗酸化剤、界面活性剤及び粘増剤を含む化粧料組成物が、物質Pに比べて、炎症性サイトカインIL−6の減少効果(
図5)及び一酸化窒素(Nitric oxide、NO)の減少効果(
図6)がより優れていることを証明することにより、物質Pを単独で適用することに比べ、炎症の改善効果がより優れていることを確認した。
【0043】
したがって、本発明の化粧料組成物は、皮膚のしわまたは炎症改善用化粧品に有用に用いてもよい。
【0044】
本発明の用語、「化粧料組成物」は、一般的な乳化剤形及び可溶化剤形の形態で製造してもよい。前記乳化剤形としては、栄養化粧水、クリーム、エッセンスなどがあり、前記可溶化剤形としては、柔軟化粧水などがある。前記化粧料組成物は、溶液、懸濁液、乳濁液、ペースト、ゲル、クリーム、ローション、パウダー、石鹸、界面活性剤含有クレンジング、オイル、粉末ファンデーション、乳濁液ファンデーション、ワックスファンデーション及びスプレーで構成された群から選択される剤形で製造してもよいが、これに制限されたものではない。具体的には、低刺激性化粧料皮膚保護剤、柔軟化粧水、栄養化粧水、栄養クリーム、マッサージクリーム、エッセンス、アイクリーム、セラム、クレンジングクリーム、クレンジングフォーム、クレンジングウォーター、パック、クリーム、エッセンス、スプレーまたはパウダーの剤形で製造してもよい。
【0045】
また、前記化粧料組成物は、一般的な皮膚化粧料に配合される化粧品学的に許容可能な担体を1種以上さらに含んでもよく、通常の成分として、例えば、油分、水、界面活性剤、保湿剤、低級アルコール、増粘剤、キレート剤、色素、防腐剤、香料などを適切に配合してもよいが、これに制限されるものではない。
【0046】
前記化粧料組成物に含まれる化粧品学的に許容可能な担体は、剤形に応じて様々である。
【0047】
前記化粧料組成物の剤形が軟膏、ペースト、クリーム、またはゲルである場合には、担体成分として動物性油、植物性油、ワックス、パラフィン、デンプン、トラカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコン、ベントナイト、シリカ、タルク、酸化亜鉛またはこれらの混合物が用いられてもよい。
【0048】
前記化粧料組成物の剤形がパウダーまたはスプレーである場合には、担体成分としてラクトース、タルク、シリカ、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウム、ポリアミドパウダー、またはこれらの混合物が用いられてもよく、特にスプレーの場合には、さらにクロロフルオロ炭化水素、プロパン/ブタンまたはジメチルエーテルのような推進剤を含んでもよい。
【0049】
前記化粧料組成物の剤形が溶液または乳濁液である場合には、担体成分として溶媒、溶解化剤または油濁化剤が用いられ、例えば、水、エタノール、イソプロパノール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、ベンジルベンゾエート、プロピレングリコール、1,3−ブチルグリコールオイルが用いられてもよく、特に、綿実油、ピーナッツ油、トウモロコシ胚種オイル、オリーブオイル、ヒマシ油及びごま油、グリセロール脂肪族エステル、ポリエチレングリコールまたはソルビタンの脂肪酸エステルが用いられてもよい。
【0050】
前記化粧料組成物の剤形が懸濁液である場合には、担体成分として、水、エタノールまたはプロピレングリコールのような液状の希釈剤、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールエステル及びポリオキシエチレンソルビタンエステルのような懸濁剤、微小結晶性セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド、ベントナイト、アガーまたはトラカントなどが用いられてもよい。
【0051】
前記化粧料組成物の剤形が石鹸である場合には、担体成分として脂肪酸のアルカリ金属塩、脂肪酸ヘミエステル塩、脂肪酸タンパク質加水分解物、イセチオン酸塩、ラノリン誘導体、脂肪族アルコール、植物性油、グリセロール、糖などが用いられてもよい。
【0052】
本発明において、用語、「しわの改善」とは、皮膚にしわが生じるのを抑制または阻害したり、すでに生成されたしわを緩和させることを意味する。
【0053】
本発明において、用語、「炎症の改善または抗炎症」とは、炎症を抑制する作用を意味し、前記炎症は外部からの刺激に対する生体内の防御機構の一つであり、具体的には、炎症は先天性免疫反応の一部として、外部からの刺激、特に病原体の表面に特異的に存在するパターンを認識する。生体内の炎症細胞はそのような表面の特異的パターンを非自己として認識し、病原体を攻撃する。この時、病原体が生体内の物理的な障壁を破って侵入すると炎症反応が勃発する。炎症反応時の初期段階に免疫反応を担う白血球が炎症性サイトカインを発現する。したがって、細胞内の炎症性サイトカインの発現量は炎症反応の活性化の指標となる。また、強力な炎症媒介物である一酸化窒素(Nitric oxide、NO)もサイトカインによって多くの種類の細胞から発生されるため、炎症反応のさらなる指標だといえる。
【0054】
本発明の他の一つの態様は、物質P、抗酸化剤、界面活性剤及び粘増剤を含む皮膚のしわまたは炎症改善用化粧料組成物を、皮膚のしわまたは炎症が誘発された個体に投与する段階を含む、皮膚のしわまたは炎症の改善方法を提供する。
【0055】
本発明の用語「個体」とは、皮膚のしわまたは炎症が生成される可能性のある人間を含むすべての動物を意味してもよい。前記動物は人間だけではなく、同様の症状の治療を必要とする牛、馬、羊、豚、ヤギ、ラクダ、カモシカ、犬及び猫などの哺乳動物であってもよいが、これに制限されない。
【0056】
本発明の用語、「物質P」、「抗酸化剤」、「界面活性剤」及び「粘増剤」は、前記で前述した通りである。
【0057】
本発明の化粧料組成物を毎日または間欠的に投与してもよく、皮膚のしわまたは炎症の改善のために、単独で、または他の組成物と併用して用いてもよい。前記要素のすべてを考慮して、副作用のない最小限の量で最大の効果が得られる量を投与することが重要であり、当業者によって容易に決定できる。
【0058】
別の様態として、本発明は、前記化粧料組成物を個体の皮膚に塗布する段階を含む、皮膚のしわまたは炎症の改善方法を提供する。
【0059】
前記化粧料組成物、皮膚のしわまたは炎症の改善については、前記説明した通りである。
【0060】
本発明の一実施例では、本発明の物質P、抗酸化剤、界面活性剤及び粘増剤を含む化粧料組成物が、物質Pに比べて、コラーゲン合成効果(
図3)及びコラーゲン分解酵素の抑制効果(
図4)が優れていることを確認し、物質Pに比べて、炎症性サイトカインIL−6の減少効果(
図5)及び一酸化窒素(Nitric oxide、NO)の減少効果(
図6)がより優れていることを確認した。したがって、本発明の物質Pを含む化粧料組成物を皮膚に塗布する段階を含む、皮膚のしわまたは炎症の改善方法を提供できることを確認した。
【0061】
別の様態として、本発明は皮膚のしわまたは炎症改善のための化粧品を生産するための、前記化粧料組成物の用途を提供する。
【0062】
前記化粧料組成物、皮膚のしわまたは炎症の改善については、前記説明した通りである。
【0063】
本発明の一実施例では、本発明の物質P、抗酸化剤、界面活性剤及び粘増剤を含む化粧料組成物が、物質Pに比べて、コラーゲン合成効果(
図3)及びコラーゲン分解酵素抑制効果(
図4)が優れていることを確認し、物質Pに比べて、炎症性サイトカインIL−6の減少効果(
図5)及び一酸化窒素(Nitric oxide、NO)の減少効果(
図6)がより優れていることを確認した。したがって、本発明の物質Pを含む化粧料組成物を皮膚のしわまたは炎症改善のための化粧品を生産する用途として提供できることを確認した。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を介して本発明の構成及び効果をさらに詳細に説明する。これらの実施例は、ただ本発明を例示するためのもので、本発明の範囲がこれらの実施例により限定されるものではない。
【0065】
実施例1:抗酸化剤及び界面活性剤の含量に応じた物質Pの安定性の評価
本発明者らは物質Pを含む皮膚のしわまたは炎症改善用組成物の製造の前に、抗酸化剤及び界面活性剤の含量に応じた物質Pの安定性の評価実験を介して、前記化粧料組成物の適用に適合な抗酸化剤及び界面活性剤の最適含量を確認した。
【0066】
物質Pの抗酸化剤としてチオ硫酸ナトリウムの含量比をそれぞれ別にして(0.05%、0.1%、0.5%及び1%)添加し、界面活性剤としてポリソルベート80の含量比を別にして(0.003%、0.006%、0.01%、0.05%及び0.1%)添加して組成物を製造し、チオ硫酸ナトリウム及びポリソルベート80を異なる量で含まれている各剤形での物質Pの安定性を測定した。
【0067】
図1に示すように、チオ硫酸ナトリウムが0.1%以上含まれる組成物で物質Pの安定性が全体的に増加することを確認した。また、ポリソルベート80の含量比が0.006%以上である組成物で物質Pの安定性が増加し、ポリソルベート80の含量によるこれらの効果は、チオ硫酸ナトリウムが0.1%以上の時、さらに明確に示されることが確認できた。
【0068】
実施例2:物質Pを含む皮膚のしわまたは炎症改善用組成物の製造
物質Pに抗酸化剤としてチオ硫酸ナトリウム、界面活性剤としてポリソルベート80及び粘増剤としてヒドロキシエチルセルロースを追加した新規な剤形を製造した。物質Pは、ペプチド合成技術であるFmocケミストリー(Fmoc-chemistry)を用いた固相/液相の段階(Solid/ Solution phase)を介して合成し、高速液体クロマトグラフィーを介して精製して、最終的に純度85%以上のものを用いた。
【0069】
【表1】
【0070】
実施例3:物質Pを含む組成物の皮膚繊維芽細胞の培養培地内の安定性の確認
物質Pを含有した組成物の安定性を皮膚繊維芽細胞の培養培地で確認した。前記表1のように製造した物質Pを含有した組成物(物質P、5μg/ml)または比較例としてリン酸緩衝溶液(PBS)に溶解した物質P(物質P、5μg/ml)を皮膚繊維芽細胞の培養培地(FGM、Lonza、USA)に0、3、6、12及び24時間まで適用した後、時間の経過に応じて培地内に残っている物質Pの含量を測定した。物質Pの含量は、Substance P ELISA Kit(Abcam、USA)を用いて、ELISA法で定量した。このとき、対照群としては0時間を適用したサンプルを用い、対照群を100%にして、時間の経過に応じて培地内に残っている物質Pの含量をパーセント(%)で計算した。
【0071】
その結果、培養3時間後、リン酸緩衝溶液に溶解した物質Pを処理したグループで物質Pの含量が最大46%まで減少し、6時間が過ぎた後は11%まで含量が減少することを確認した。一方、本発明の物質Pを含有した組成物の場合、培養して24時間が経過した後も、培地内の物質Pの含量が約100%を維持することを確認した(
図2)。
【0072】
このような結果は、本発明の物質Pを含む組成物が、物質Pそのものに比べて、皮膚繊維芽細胞の培地内でさらに安定して存在することを証明するものである。
【0073】
実施例4:物質Pを含有した組成物のコラーゲン合成効果の確認
物質Pを含有した組成物のコラーゲン合成効果を皮膚繊維芽細胞で確認した。96個の穴がある平板培養プレート(96-well plate)に3×10
4 CFU/ウェルの人間の皮膚繊維芽細胞を入れて、37℃で24時間培養した。培地を(FGM、Lonza、USA)除去した後、新しい培地180μlを各ウェルに分注し、物質Pを含有した組成物またはリン酸緩衝溶液(PBS)に溶解した物質Pを20μlずつ入れた後、37℃で24時間培養した。このとき、添加された組成物及び物質Pの濃度は、全体の培地量を考慮して、最終濃度が所望の濃度になるように計算して添加した。24時間培養した後、上澄み液を集めてProcollagen Type1−Peptide(P1P)EIA Kit(TaKaRa、Japan)を用い、培地のコラーゲン量を測定した。
【0074】
その結果、培養24時間後、リン酸緩衝溶液に溶解した物質Pを処理したグループでは、コラーゲン合成が最大約25%まで増加した。一方、本発明の物質Pを含有した組成物を処理したグループの場合、コラーゲン合成が最大約70%まで増加した(
図3)。
【0075】
これらの差は、統計学上で有意だった。統計は、スチューデントのt検定を用い、対照群(リン酸緩衝溶液の処理群)に対する各実験群の効果の比較(
*p<0.05、
**p<0.01)及びリン酸緩衝溶液に溶解した物質Pと本発明の組成物の効果の比較(
#p<0.05、
##p<0.01)をそれぞれ行った。
【0076】
このような結果は、物質Pに比べて、本発明の物質Pを含む組成物のコラーゲン合成効果がさらに優れていることを示す。
【0077】
実施例5:物質Pを含有した組成物のコラーゲン分解酵素(MMP−1)の抑制効果の確認
物質Pを含む組成物のコラーゲン分解酵素(Collagenase、MMP−1)の抑制効果を皮膚繊維芽細胞で確認した。96個の穴がある平板培養プレート(96-well plate)に3×10
4 CFU/ウェルの人間の皮膚繊維芽細胞を入れて、37℃で24時間培養した。培地を(FGM、Lonza、USA)除去した後、新しい培地180μlを各ウェルに分注し、物質Pを含有した組成物及びリン酸緩衝溶液(PBS)に溶解した物質Pを20μlずつ入れた後、37℃で24時間培養した。このとき、添加された組成物または物質Pの濃度は、全体培地量を考慮して、最終濃度が所望の濃度になるように計算して添加した。24時間培養した後、上澄み液を集めてHuman total MMP−1 Kit(R&D systems、USA)を用い、培地にあるコラーゲン分解酵素(MMP−1)の量を測定した。
【0078】
その結果、培養24時間後、リン酸緩衝溶液に溶解した物質Pを処理したグループで、コラーゲン分解酵素(MMP−1)の形成が最大約20%程度減少した。一方、本発明の物質Pを含有した組成物を処理したグループの場合、コラーゲン分解酵素(MMP−1)の形成が最大約40%程度減少することを確認した(
図4)。
【0079】
これらの差は、統計学上で有意だった。統計は、スチューデントのt検定を用い、対照群(リン酸緩衝溶液の処理群)に対する各実験群のMMP−1形成の比較(
*p<0.05、
**p<0.01)及びリン酸緩衝溶液に溶解した物質Pと本発明の組成物のMMP−1形成の比較(
#p<0.05、
##p<0.01)をそれぞれ行った。
【0080】
このような結果は、物質Pに比べて、本発明の物質Pを含む組成物によるコラーゲン分解酵素(MMP−1)の抑制効果が優れていることを示す。
【0081】
実施例6:物質Pを含有した組成物の炎症性サイトカインIL−6の減少効果の確認
物質Pを含有した組成物の炎症性サイトカインIL−6の減少効果をマウスのマクロファージであるRaw 264.7細胞で確認した。24個の穴がある平板培養プレート(24-well plate)に4×10
5 CFU/ウェルの人間の皮膚繊維芽細胞を入れて、37℃で24時間培養した。Raw 264.7細胞の成長用培地は、DMEM(Welgene、Korea)に200mMのL−グルタミン(Gibco、USA)を混ぜた培地を用いた。24時間培養した後、培地を除去した後に新しい培地1mlを各ウェルに分注した。細胞内の炎症反応の誘導のためにLPS(Sigma、USA)を100ng/ml処理すると同時に、物質Pを含有した組成物またはリン酸緩衝溶液(PBS)に溶解した物質Pを分注して、全体培地量が2ml/ウェルになるようにした後、37℃で24時間追加培養した。このとき、添加された組成物及び物質Pの濃度は、全体培地量を考慮して、最終濃度が所望の濃度になるように計算して添加した。24時間培養した後、上澄み液を集めてMouse IL−6 Immunoassay(R&D systems、USA)を用い、培地の炎症性サイトカインIL−6の量を測定した。
【0082】
IL−6量の減少の有意さはスチューデントのt検定を用いてLPSを処理したグループに対する実験群のIL−6実測量の比較(
*p<0.05、
**p<0.01)を行うことにより確認した。
【0083】
その結果、培養24時間後、リン酸緩衝溶液に溶解した物質Pを処理したグループで、炎症誘発物質LPSにより誘発されたIL−6の量が最大約20%程度減少したことを確認した(
図5b)。一方、本発明の物質Pを含有した組成物を処理したグループの場合、炎症誘発物質LPSにより誘発されたIL−6の量が最大約50%程度減少したことを確認した(
図5a)。
【0084】
このような結果を介して、物質Pに比べて、本発明の物質Pを含む組成物による炎症性サイトカインIL−6の抑制効果が優れていることを確認した。
【0085】
実施例7:物質Pを含有した組成物の一酸化窒素(NO)の減少効果の確認
物質Pを含む組成物の炎症環境内の一酸化窒素(NO)の減少効果をマウスのマクロファージであるRaw 264.7細胞で確認した。24個の穴がある平板培養プレート(24-well plate)に4×10
5 CFU/ウェルの人間の皮膚繊維芽細胞を入れて、37℃で24時間培養した。Raw 264.7細胞の成長用培地は、DMEM(Welgene、Korea)に200mMのL−グルタミン(Gibco、USA)を混ぜた培地を用いた。24時間培養した後、培地を除去した後に新しい培地1mlを各ウェルに分注した。細胞内の炎症反応の誘導のためにLPS(Sigma、USA)を100ng/ml処理すると同時に、物質Pを含有した組成物またはリン酸緩衝溶液(PBS)に溶解した物質Pを分注して、全体培地量が2ml/ウェルになるようにした後、37℃で24時間追加培養した。このとき、添加された組成物及び物質Pの濃度は、全体培地量を考慮して、最終濃度が所望の濃度になるように計算して添加した。
【0086】
24時間培養した後、上澄み液を回収し、96個の穴がある平板培養プレート(96-well plate)に100μlずつ入れて、Griess reagent(Sigma、USA)を同量添加し、常温で15分間保管した後、540nmで吸光度を測定した。亜硝酸ナトリウム(Sigma、USA)を標準品として検量線を作成し、LPSのみを処理した群の一酸化窒素(NO)の生成量を100%として、培地内の一酸化窒素(NO)の量を測定した。
【0087】
NO量減少の有意さはスチューデントのt検定を用いてLPS処理したグループに対する実験群のNO実測量の比較(
*p<0.05、
**p<0.01)を行うことにより確認した。
【0088】
その結果、培養24時間後、リン酸緩衝溶液に溶解した物質Pを処理したグループで、炎症誘発物質LPSにより誘発されたNOの量が最大約10%程度減少したことを確認した(
図6b)。一方、本発明の物質Pを含有した組成物の場合、炎症誘発物質LPSにより誘発されたNOの量が最大約70%程度減少したことを確認した(
図6a)。
【0089】
このような結果を介して、物質Pに比べて、本発明の物質Pを含む組成物によるNOの抑制効果が優れていることを確認した。