【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 株式会社ナノテムは、平成30年3月14日に、Grind Tec 2018において、本願発明に係る多孔質パッドを公開した。
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の構成では、ワークが吸着プレートに吸着している場合であっても、ワークに加わる外力によりワークの位置が吸着面に対してずれるおそれがある。一般的に、吸着プレートの吸着面とワークとの接触面積が小さくなるほど、ワークが吸着プレートに吸着する吸着力が低下する。よって、例えば、ワークのサイズが吸着面に対して小さい場合には、設置対象物であるワークの位置が吸着プレートの吸着面に対してずれ易い。
【0005】
本発明は、上記実状を鑑みてなされたものであり、設置された設置対象物の位置が多孔質パッドに対してずれることを抑制できる多孔質パッド、真空チャック装置及び多孔質パッドの平面形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る多孔質パッドは、複数の気孔が形成されることにより流体を通過させる通気性を有する多孔質セラミック部と、前記多孔質セラミック部に設置される設置対象物の一部に接触するように前記多孔質セラミック部に形成され、前記多孔質セラミック部よりも高い静摩擦係数を有する滑り止め部と、を備える。
【0007】
また、上記多孔質パッドにおいて、前記滑り止め部は、前記設置対象物が設置される前記多孔質パッドの設置面に沿って並び、前記多孔質セラミック部に埋め込まれた状態で前記多孔質パッドの厚さ方向に延びる複数の筒部を備える、ようにしてもよい。
【0008】
また、上記多孔質パッドにおいて、前記滑り止め部は、前記設置面に沿って正六角形筒状の前記筒部が並べられたハニカム状に形成される、ようにしてもよい。
【0009】
また、上記多孔質パッドにおいて、前記滑り止め部は弾性体により形成され、前記多孔質セラミック部は、前記複数の筒部のうち第1筒部内に充填される第1セラミック充填部と、前記複数の筒部のうち第2筒部内に充填され、前記第1セラミック充填部と別体で形成される第2セラミック充填部と、を備える、ようにしてもよい。
【0010】
また、上記多孔質パッドにおいて、前記多孔質セラミック部には前記設置面に設置される前記設置対象物に向けて開口し、前記滑り止め部が充填される溝部が形成される、ようにしてもよい。
【0011】
また、上記多孔質パッドにおいて、前記滑り止め部は、前記設置対象物が設置される前記多孔質パッドの設置面に沿って並び、前記多孔質セラミック部に埋め込まれた状態で前記多孔質パッドの厚さ方向に延びる複数の柱状部を備える、ようにしてもよい。
【0012】
また、上記多孔質パッドにおいて、前記柱状部は、前記多孔質パッドの厚さ方向にみて、Y字状、X字状、V字状、H字状、L字状またはT字状に形成される、ようにしてもよい。
【0013】
また、上記多孔質パッドにおいて、前記滑り止め部は、前記多孔質セラミック部よりも前記設置面から突出量だけ突出して形成される、ようにしてもよい。
【0014】
また、上記多孔質パッドにおいて、前記突出量は、0.01mm〜1mmに設定される、ようにしてもよい。
【0015】
また、上記多孔質パッドにおいて、前記滑り止め部はシリコーン樹脂により形成される、ようにしてもよい。
【0016】
また、上記多孔質パッドにおいて、前記滑り止め部と前記設置対象物の一部とが接触する接触面積を前記多孔質セラミック部の全体の面積で除した面積率は、0.10以上0.50以下である、ようにしてもよい。
【0017】
上記目的を達成するため、本発明の第2の観点に係る真空チャック装置は、前記多孔質パッドと、前記多孔質パッドが設置されることにより負圧案内空間を形成するベースプレートと、前記負圧案内空間に負圧を供給することにより前記設置対象物を前記多孔質パッドの設置面に吸着させる真空ポンプと、を備える。
【0018】
上記目的を達成するため、本発明の第3の観点に係る多孔質パッドの平面形成方法は、前記多孔質パッドの設置面を平面に研磨装置により研磨する工程を備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、設置された設置対象物の位置が多孔質パッドに対してずれることを抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る多孔質パッド、真空チャック装置及び多孔質パッドの平面形成方法の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0022】
図1に示すように、工作機械1は、設置対象物の一例であるワークWを設置面20aに固定する真空チャック装置10と、固定されたワークWを加工する加工部40と、加工中のワークWにクーラント液Cltを供給するクーラント液供給部50と、を備える。なお、以下の説明では、設置面20aに沿う互いに直交する方向をX方向及びY方向と規定し、設置面20aに直交する方向をZ方向と規定する。
【0023】
加工部40は、真空チャック装置10に固定されたワークWを切削又は研磨する工具41を備える。クーラント液供給部50は、加工中の工具41とワークWの間で発生する摩擦熱を冷却するためにワークWの上面にクーラント液Cltを供給する。
【0024】
図2に示すように、真空チャック装置10は、多孔質パッド20と、ベースプレート12と、スルーホール板15と、を備える。
【0025】
ベースプレート12は、Z方向の上方に向けて開口する溝12aを備える。ベースプレート12には、溝12aの開口部を塞ぐように多孔質パッド20及びスルーホール板15が設けられる。溝12aは負圧案内空間を構成する。
【0026】
スルーホール板15は、多孔質パッド20とベースプレート12の間に位置する金属板である。スルーホール板15には、X方向及びY方向にマトリクス状に配置され、Z方向に貫通する複数の貫通孔15aが形成される。
【0027】
多孔質パッド20は、板状に形成され、スルーホール板15の上面に位置する。多孔質パッド20は流体を通過させる通気性を有する。多孔質パッド20の具体的な構成については後述する。
【0028】
真空ポンプ30は、真空ポート12bを介して溝12a内の負圧案内空間と接続される。真空ポンプ30は作動すると、負圧案内空間内は負圧となる。これにより、多孔質パッド20の設置面20a上のワークWに対して吸着力が作用し、ワークWは多孔質パッド20上で吸着される。
【0029】
次に、多孔質パッド20の具体的な構成について説明する。
図3及び
図4に示すように、多孔質パッド20は、多孔質セラミック部25と、滑り止め部27と、を備える。
【0030】
多孔質セラミック部25は、例えば、アルミナや炭化ケイ素などの無機質材料の粉粒体からなる骨材とその骨材相互を結合するための結合材(例えば、ビトリファイドボンド、レジノイド、セメント、ゴム及びガラスなど)の混合材料を成型金型に投入して焼結することで形成される。多孔質セラミック部25は、微細な気孔が無数に形成された多孔質構造となっている。多孔質セラミック部25の気孔率(気孔密度)は、骨材と結合材の混合割合により調整することができ、また、気孔の平均孔径は、骨材の粒度を選定することにより調整することができる。多孔質セラミック部25は、連なった微細気孔を介して設置面20aとその反対面である裏面20b(負圧案内空間側の面)との間で空気又は水などの液体の流体を通過させることができる通気性を有する。
【0031】
滑り止め部27は、多孔質セラミック部25の設置面20aに設置されたワークWとの静摩擦を通じてワークWが設置面20aで滑ることを抑制する機能を有する。
滑り止め部27は、流体を通過させない材料であって、多孔質セラミック部25よりも静摩擦係数が高く、弾性変形する材料により形成される。滑り止め部27は、例えば、天然ゴム、合成ゴム、シリコーン樹脂、ウレタン、エラストマー、塩化ビニール又はポリエステル等の軟質の合成樹脂等の高摩擦材料により形成される。本例では、滑り止め部27はシリコーン樹脂により形成される。
【0032】
滑り止め部27は、多孔質セラミック部25の厚さ方向、すなわちZ方向に延びる複数の筒部28を有する。各筒部28は、Z方向の両側に開口し、多孔質セラミック部25に埋め込まれるように形成される。各筒部28は、Z方向に流体を通すことができる流通許容室29を有する。各流通許容室29は、筒部28毎に隔離された独立した空間である。このため、隣り合う2つの流通許容室29間で流体が移動することはない。
【0033】
滑り止め部27は、本例では、Z方向から見て、正六角形筒状の筒部28が隙間なく並べられたハニカム状をなす。すなわち、筒部28は、正六角形をなす6つの壁部28aにより構成される。ハニカム径は小さすぎるとZ方向の流体の通過を阻害するおそれがあり、ハニカム径は大きすぎると、
図6(a)を参照しつつ後述するように、ワークWの下面に占める真空形成室29bの割合が小さくなり、ひいては真空度が低下するおそれがある。このような観点から、ハニカム径は、好ましくは1mm〜10mm、より好ましくは1mm〜5mmに設定される。
【0034】
図4に示すように、複数の筒部28のうち第1筒部281内には、多孔質セラミック部25のうち第1セラミック充填部251が充填される。複数の筒部28のうち第1筒部281に隣接する第2筒部282内には、多孔質セラミック部25のうち第2セラミック充填部252が充填される。第1セラミック充填部251及び第2セラミック充填部252は別体で形成される。
【0035】
図5に示すように、滑り止め部27は、多孔質セラミック部25よりも突出量Hだけ上方向へ突出するように設けられる。すなわち、滑り止め部27の下端面は多孔質セラミック部25の下面と同一平面上に位置し、滑り止め部27の上端面は多孔質セラミック部25の上面よりも突出量Hだけ高く形成される。突出量Hは小さすぎると滑り止め部27の上端面がワークWに接触することが困難となるおそれがあり、突出量Hは大きすぎるとワークWが多孔質セラミック部25から離れることにより吸着力が低下するおそれがある。このような観点から、突出量Hは、好ましくは0.01mm〜1mmに設定され、より好ましくは0.01mm〜0.05mmに設定される。
また、滑り止め部27の幅W、すなわち壁部28aの厚さは大きすぎると流体の通過を阻害するおそれがあり、小さすぎるとワークWと滑り止め部27の接触面積が足りずにワークWの位置ずれを抑制できないおそれがある。このような観点から、滑り止め部27の幅Wは、好ましくは0.01mm〜1mmに設定され、より好ましくは0.01mm〜0.5mmに設定される。また、滑り止め部127とワークWの一部とが接触する接触面積を多孔質セラミック部25の全体の面積で除した面積率は、大きすぎると流体の通過を阻害するおそれがあり、小さすぎるとワークWと滑り止め部27の接触面積が足りずにワークWの位置ずれを抑制できないおそれがある。このため、面積率は、好ましくは、0.10以上0.50以下に設定される。
【0036】
多孔質パッド20の設置面20aに板状のワークWが設置されると、ワークWの下面に滑り止め部27の上端面が接触する。ここで、滑り止め部27は静摩擦係数が高いシリコーン樹脂等により形成される。このため、真空に伴う吸着力に加えて、ワークWとの間で作用する静摩擦力により加工中のワークWの位置が設置面20aに沿う方向にずれることを抑制できる。ワークWは、例えば、アルミニウム等の金属、樹脂、紙、セラミックス、木等の材質により板状に形成される。具体的には、ワークWは、太陽電池パネル、半導体パネル、液晶パネル、プリント基板、有機EL(Electro-Luminescence)パネル、ガラス板又はポリマー等のフィルム等である。
一般的に、ワークWのサイズが多孔質パッドの設置面に対して小さい場合、ワークWと多孔質パッドの接触面積が小さくなるため、多孔質パッドへのワークWの吸着力が小さくなり易く、ワークWの位置がずれ易い。この点、本実施形態に係る多孔質パッド20は、たとえ、小さいサイズのワークWであっても、吸着力の低下を補うように滑り止め部27による摩擦力が作用するため、例えば加工中のワークWの位置ずれを抑制できる。
【0037】
次に、
図6(a),(b)を参照しつつ、加工中のワークWにクーラント液Cltが注がれたときの作用について説明する。
図6(b)に示すように、比較例に係る多孔質パッド120は、本実施形態の多孔質パッド20と異なり、滑り止め部27を有さず、多孔質セラミック部25のみにより構成される。比較例に係る多孔質パッド120の設置面120aにワークWが吸着された状態で、ワークWにクーラント液Cltが注がれると、
図6(b)の矢印F1で示すように、ワークWの上面から側面を経て多孔質パッド120を通過する。この際、
図6(b)の矢印F2で示すように、クーラント液Cltの一部は多孔質パッド120におけるワークWの下方のワーク重複領域L1に回り込む。これにより、多孔質パッド120のワーク重複領域L1における真空度が低くなり、吸着力が低下する要因となっていた。
【0038】
この点、
図6(a)に示すように、本実施形態に係る多孔質パッド20は、筒部28毎に流通許容室29を有する。複数の流通許容室29は、クーラント液Cltが通過する液体通過室29aと、ワークWの下面に塞がれて真空を形成する真空形成室29bと、を備える。液体通過室29aは、その上側の開口部の少なくとも一部が開口する。本例では、液体通過室29aは、ワークWの側面とZ方向に重なり、ワークWの側面に沿うように枠状に並ぶ。真空形成室29bは、その上側の開口部がワークWの下面により塞がれ、枠状に並ぶ複数の液体通過室29a内に配置される。
多孔質パッド20に吸着されたワークWにクーラント液Cltが注がれると、クーラント液Cltは複数の液体通過室29aを通過する。よって、クーラント液Cltは複数の真空形成室29bに侵入しない。従って、クーラント液Cltの一部が多孔質パッド20のワーク重複領域L1に回り込むことが抑制される。これにより、真空を形成する複数の真空形成室29bをクーラント液Cltが通過する液体通過室29aから隔離することができる。従って、多孔質パッド20のワーク重複領域L1における真空度を高めることができ、ひいては吸着力を高めることができる。
【0039】
また、クーラント液Cltは、ワークWにとって空気を通さないフィルムのように機能する。すなわち、空気を通さないクーラント液Cltが真空を形成する複数の真空形成室29bの周囲を囲むことにより、多孔質パッド20のワーク重複領域L1における真空度を高めることができる。一方、この点、
図6(b)の比較例では、クーラント液Cltの一部が多孔質パッド20のワーク重複領域L1に回り込むことにより、この回り込んだ部分でクーラント液Cltによる空気を通さない機能が低下し、空気を通し易くなる。よって、比較例の構成では、本実施形態の構成に比べて、真空度が低下し易い。
なお、ワークWのサイズ又はワークWの設置位置に応じて、液体通過室29a及び真空形成室29bの位置及び数は変わる。
【0040】
次に、多孔質パッド20の設置面20aを研磨する方法について説明する。多孔質パッド20は繰り返し使用されると、多孔質パッド20の設置面20aの平面度が低くなったり、設置面20aに凹凸が形成されたりするおそれがある。そこで、多孔質パッド20の設置面20aは、平面となるように図示しない研磨装置により研磨される。研磨される際、滑り止め部27は多孔質セラミック部25よりもZ方向に圧縮する。このため、滑り止め部27の研磨量は、多孔質セラミック部25の研磨量よりも少なくなる。研磨装置による滑り止め部27への圧縮力が解除されると、滑り止め部27の復元力により滑り止め部27は多孔質セラミック部25よりも突出量Hだけ突出する。よって、多孔質パッド20の設置面20aが研磨された後にも、滑り止め部27は、多孔質セラミック部25よりも突出量Hだけ突出した状態を維持できる。また、滑り止め部27はZ方向に多孔質セラミック部25の全域にわたって形成されるため、多孔質パッド20の設置面20aを繰り返し研磨した場合であっても、滑り止め部27による滑り止め機能を維持することができる。
【0041】
(効果)
以上、説明した一実施形態によれば、以下の効果を奏する。
【0042】
(1)多孔質パッド20は、複数の気孔が形成されることにより流体を通過させる通気性を有する多孔質セラミック部25と、多孔質セラミック部25に設置される設置対象物の一例であるワークWの一部に接触するように多孔質セラミック部25に形成され、多孔質セラミック部25よりも高い静摩擦係数を有する滑り止め部27と、を備える。
この構成によれば、滑り止め部27によって、設置されるワークWの位置が多孔質パッド20に対してずれることを抑制できる。
例えば、多孔質パッド20の設置面20aとワークWとの接触面積が小さくなるほど、ワークWが設置面20aに吸着する吸着力が低下する。滑り止め部27は、ワークWのサイズが小さいことに伴う吸着力の低下を補うように作用する。このため、ワークWのサイズに関わらず、ワークWの位置が多孔質パッド20に対してずれることを抑制できる。
【0043】
(2)滑り止め部27は、ワークWが設置される多孔質パッド20の設置面20aに沿って並び、多孔質セラミック部25に埋め込まれた状態で多孔質パッド20の厚さ方向(Z方向)に延びる複数の筒部28を備える。
この構成によれば、設置面20aに対するワークWが設置される向きに関わらず、滑り止め部27によりワークWを保持し易くなる。
【0044】
(3)滑り止め部27は、設置面20aに沿って正六角形筒状の筒部28が並べられたハニカム状に形成される。
この構成によれば、筒部28は、設置面20aにおいて異なる3方向を向く複数の壁部28aを備える。このため、設置面20aに対するワークWが設置される向きに関わらず、滑り止め部27によりワークWを保持し易くなる。
【0045】
(4)滑り止め部27は弾性体により形成される。多孔質セラミック部25は、複数の筒部28のうち第1筒部281内に充填される第1セラミック充填部251と、複数の筒部28のうち第2筒部282内に充填され、第1セラミック充填部251と別体で形成される第2セラミック充填部252と、を備える。
この構成によれば、滑り止め部27が別体の第1セラミック充填部251及び第2セラミック充填部252の間で弾性体として機能する。これにより、例えば、ワークWがX方向又はY方向に反っている場合であっても、ワークWの反りに合わせて多孔質パッド20が変形する。このため、ワークWと多孔質パッド20の接触面積を確保することができ、ワークWの多孔質パッド20への吸着力を確保することができる。
【0046】
(5)滑り止め部27は、多孔質セラミック部25よりも設置面20aから突出量Hだけ突出して形成される。
この構成によれば、滑り止め部27が多孔質セラミック部25よりも突出することにより、滑り止め部27をより確実にワークWに接触させることができる。
【0047】
(6)突出量Hは、0.01mm〜1mmに設定される。
この構成によれば、ワークWが多孔質セラミック部25から離れることなく、ワークWを滑り止め部27に接触させることができる。
【0048】
(7)滑り止め部27はシリコーン樹脂により形成される。
この構成によれば、シリコーン樹脂は静摩擦係数が高いため、ワークWの位置ずれをより抑制できる。
【0049】
(8)多孔質パッド20の平面形成方法は、多孔質パッド20の設置面20aを平面に研磨装置により研磨する工程を備える。
この構成によれば、研磨装置により研磨される際、滑り止め部27は多孔質セラミック部25よりも圧縮するため、研磨後も滑り止め部27を多孔質セラミック部25よりも突出量Hだけ突出させた状態を保つことができる。よって、多孔質パッド20の設置面20aを繰り返し研磨した場合であっても、滑り止め部27が残るため、滑り止め部27によるワークWの位置ずれを抑制する機能を維持することができる。
【0050】
(9)真空チャック装置10は、多孔質パッド20と、多孔質パッド20が設置されることにより負圧案内空間を形成するベースプレート12と、負圧案内空間に負圧を供給することによりワークWを多孔質パッド20の設置面20aに吸着する真空ポンプ30と、を備える。
この構成によれば、真空チャック装置10において、滑り止め部27によりワークWの位置ずれを抑制できる。
【0051】
(変形例)
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することができる。
【0052】
上記実施形態においては、滑り止め部27は、多孔質パッド20の設置面20aの全域にわたって形成されていたが、設置面20aの一部に形成されていてもよい。
【0053】
上記実施形態においては、工作機械1はクーラント液供給部50を備えていたが、クーラント液供給部50を省略してもよい。この場合であっても、
図6(a)に示すように、真空を形成する真空形成室29bを空気が通過する流通許容室29から隔離することにより、真空度、ひいては吸着力を高めることができる。
【0054】
上記実施形態においては、加工部40は工具41を通じて真空チャック装置10に固定されたワークWを切削又は研磨していたが、これに限らず、ワークWに印刷又は露光等してもよい。
【0055】
上記実施形態においては、
図4に示すように、第1セラミック充填部251及び第2セラミック充填部252は滑り止め部27を介することにより別体で形成されていた。しかし、
図7に示すように、多孔質セラミック部25には上方に向けて開口した溝部26が形成され、溝部26内には滑り止め部27が位置していてもよい。この構成では、多孔質セラミック部25を一体で形成することができ、これにより多孔質パッド20の剛性を高めることができ、多孔質パッド20が撓むことが抑制される。
さらに、
図8に示すように、
図7に示す溝部26が省略され、滑り止め部27は板状に形成される多孔質セラミック部25の上面に設置されてもよい。この場合、例えば、滑り止め部27の厚さは突出量Hと同一に設定される。また、滑り止め部27は多孔質セラミック部25と接着剤により接着される。
【0056】
上記実施形態においては、
図5に示すように、滑り止め部27の下端面は多孔質セラミック部25の下面と同一面上に位置し、滑り止め部27の上端面は多孔質セラミック部25の上面よりも突出量Hだけ突出するように形成されていた。しかし、これに限らず、
図10に示すように、滑り止め部27の下端面も多孔質セラミック部25の下面よりも突出量Hだけ突出するように形成されてもよい。この構成によれば、多孔質パッド20の両面をワークWの滑り止め機能が付いた設置面として使用することができる。
【0057】
上記実施形態においては、滑り止め部27はハニカム状に形成されていたが、これに限らず、他の形状で形成されていてもよい。例えば、滑り止め部27の筒部28は、正六角形筒状に限らず、四角形筒状又は円筒状に形成されてもよい。さらに、滑り止め部27は筒状以外の形状で形成されてもよい。例えば、
図9に示すように、滑り止め部127は、格子状に形成されてもよい。詳しくは、滑り止め部127は、X方向に沿って延び、Y方向に沿って並ぶ複数の第1板部127aと、Y方向に沿って延び、X方向に沿って並ぶ複数の第2板部127bと、を備える。第1板部127a及び第2板部127bは、互いに交差する位置において連結している。言い換えると、
図9に示す滑り止め部127は、正方形筒状の筒部が設置面20aに沿ってX方向及びY方向に隙間なく並べられている。
図9のB−B線断面図は、上記実施形態の
図4、又は上記変形例の
図7、
図8及び
図10と同様である。
【0058】
上記実施形態においては、滑り止め部27がハニカム状などの筒状に形成されていたが、これに限らず、Z方向に沿って延びる柱状の形状で形成されていてもよい。例えば、滑り止め部27は、
図11に示すように、ハニカムの角部に相当する位置に配置された複数の柱状部227から構成されてもよい。柱状部227は、Z方向から見てY字状の形状を有し、Z方向に沿って延びる形状を有する。これにより、ワークWと滑り止め部27の接触面積が小さくなることにより、接触圧が大きくなり、ワークWがより確実に固定される効果が得られる。また、複数の柱状部227は、それぞれ独立分離して形成されるため、滑り止め部27の一部が撓んだ場合に影響を受ける範囲を小さくできる。また、Y字状の形状を有すると、平板状に形成される場合に比べて、曲げに対して強くできる。柱状部227は、Z方向から見てY字状の形状に限らず、X字状、V字状、H字状、L字状またはT字状に形成されてもよい。柱状部227が、X字状の形状を有する場合、柱状部227は、格子の交点に配置されるとよい。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の実施例を対照例と対比しながら説明し、本発明の効果を実証する。この実施例は、本発明の一実施態様を示すものであり、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0060】
本実施例では、
図9に示す格子状に滑り止め部127が形成された多孔質パッド20にワークWを設置して見掛けの摩擦係数を計測した。滑り止め部127は、幅W=300μmのシリコーン樹脂を用いた。ワークWは、石とガラスを用いた。
【0061】
滑り止め部127の格子の間隔Dが、10mm、5mm、3mmおよび1.5mmの実施例について、ワークWを設置面20aに載せて、真空チャック装置10により多孔質パッド20の設置面20aに吸着した。この状態においてそれぞれ見掛けの摩擦係数を計測した。また、比較例として、滑り止め部127を有さない多孔質パッドにワークWを載せて見掛けの摩擦係数を測定した。
【0062】
見掛けの摩擦係数の測定結果を
図12に示す。縦軸は見掛けの摩擦係数を示し、横軸は、滑り止め部127とワークWの一部とが接触する接触面積を多孔質セラミック部25の全体の面積で除した面積率(シリコーン樹脂面積率)を示す。間隔Dが小さくなると、滑り止め部127割合が大きくなるので、間隔Dが小さいほうが、シリコーン樹脂面積率が大きくなる。溝無しは、滑り止め部127を有さない多孔質パッド20にワークWを載せて計測した比較例の見掛けの摩擦係数である。
【0063】
この見掛けの摩擦係数は、ワークWに石とガラスを用いた場合の両方で、間隔Dが10mmである場合、比較例の溝無しより石とガラスとも見掛けの摩擦係数が大きくなった。間隔Dが5mmである場合、間隔Dが10mmである場合より石とガラスとも見掛けの摩擦係数が大きくなった。間隔Dが3mmである場合、間隔Dが5mmである場合より石とガラスとも見掛けの摩擦係数が大きくなった。間隔Dが1.5mmである場合、間隔Dが3mmである場合より石では見掛けの摩擦係数が大きくなったが、ガラスでは見掛けの摩擦係数が小さくなった。
【0064】
以上の結果から、シリコーン樹脂面積率が0.20までは、シリコーン樹脂面積率が大きくなるにつれて見掛けの摩擦係数が大きくなり、0.20を超えると、見掛けの摩擦係数は、シリコーン樹脂面積率が大きくなっても必ずしも大きくならないことがわかった。このことから、シリコーン樹脂面積率は1.10以上1.50以下であることが好ましいことがわかった。
【0065】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【0066】
本出願は、2018年3月23日に出願された、日本国特許出願特願2018−055693号に基づく。本明細書中に日本国特許出願特願2018−055693号の明細書、特許請求の範囲、図面全体を参照として取り込むものとする。