特許第6901875号(P6901875)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6901875
(24)【登録日】2021年6月22日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】建設機械の油圧駆動システム
(51)【国際特許分類】
   F15B 11/00 20060101AFI20210701BHJP
   F15B 20/00 20060101ALI20210701BHJP
   E02F 9/22 20060101ALI20210701BHJP
【FI】
   F15B11/00 V
   F15B20/00 A
   E02F9/22 D
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-46163(P2017-46163)
(22)【出願日】2017年3月10日
(65)【公開番号】特開2018-112303(P2018-112303A)
(43)【公開日】2018年7月19日
【審査請求日】2020年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村岡 英泰
(72)【発明者】
【氏名】能勢 知道
(72)【発明者】
【氏名】木下 敦之
(72)【発明者】
【氏名】陵城 孝志
(72)【発明者】
【氏名】坂本 守行
【審査官】 所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−261907(JP,A)
【文献】 実開平07−038701(JP,U)
【文献】 特開平09−242708(JP,A)
【文献】 特開平10−246205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 11/00
E02F 9/22
F15B 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋回体を旋回させる旋回モータと、
操作レバーを含み、前記操作レバーの傾倒角に応じた旋回操作信号を出力する旋回操作装置と、
一対の給排ラインにより前記旋回モータと接続された旋回方向切換弁であって、スプールおよび指令電流を受けて前記スプールを駆動する駆動部を含み、前記一対の給排ラインをブロックする中立位置と、前記一対の給排ラインの一方をポンプライン、他方をタンクラインと連通する作動位置との間でシフトする旋回方向切換弁と、
前記旋回操作信号が大きくなるほど大きな指令電流を前記旋回方向切換弁へ送給する制御装置と、
前記旋回体の旋回速度を検出する速度検出器と、を備え、
前記制御装置は、前記旋回操作装置の操作レバーが中立状態に戻された場合、前記速度検出器で検出される旋回速度が第1閾値を下回ったときに、前記旋回方向切換弁が中立位置から排出側の給排ラインをタンクラインと連通する作動位置へシフトし、前記速度検出器で検出される旋回速度が前記第1閾値よりも小さな第2閾値を下回ったときに、前記旋回方向切換弁が作動位置から中立位置へシフトするように、前記旋回方向切換弁を制御する、建設機械の油圧駆動システム。
【請求項2】
旋回体を旋回させる旋回モータと、
操作レバーを含み、前記操作レバーの傾倒角に応じた旋回操作信号を出力する旋回操作装置と、
一対の給排ラインにより前記旋回モータと接続された旋回方向切換弁であって、スプールおよび指令電流を受けて前記スプールを駆動する駆動部を含み、前記一対の給排ラインをブロックする中立位置と、前記一対の給排ラインの一方をポンプライン、他方をタンクラインと連通する作動位置との間でシフトする旋回方向切換弁と、
前記旋回操作信号が大きくなるほど大きな指令電流を前記旋回方向切換弁へ送給する制御装置と、
前記旋回体の旋回速度を検出する速度検出器と、
前記旋回モータの流入圧および流出圧を検出する一対の圧力センサと、を備え、
前記制御装置は、前記旋回操作装置の操作レバーが中立状態に戻された場合、前記一対の圧力センサの一方で検出される前記旋回モータの流出圧が第1閾値を下回ったときに、前記旋回方向切換弁が中立位置から排出側の給排ラインをタンクラインと連通する作動位置へシフトし、前記速度検出器で検出される旋回速度が第2閾値を下回ったときに、前記旋回方向切換弁が作動位置から中立位置へシフトするように、前記旋回方向切換弁を制御する、建設機械の油圧駆動システム。
【請求項3】
旋回体を旋回させる旋回モータと、
操作レバーを含み、前記操作レバーの傾倒角に応じた旋回操作信号を出力する旋回操作装置と、
一対の給排ラインにより前記旋回モータと接続された旋回方向切換弁であって、スプールおよび指令電流を受けて前記スプールを駆動する駆動部を含み、前記一対の給排ラインをブロックする中立位置と、前記一対の給排ラインの一方をポンプライン、他方をタンクラインと連通する作動位置との間でシフトする旋回方向切換弁と、
前記旋回操作信号が大きくなるほど大きな指令電流を前記旋回方向切換弁へ送給する制御装置と、
前記旋回体の旋回速度を検出する速度検出器と、
前記旋回モータの流入圧および流出圧を検出する一対の圧力センサと、を備え、
前記制御装置は、前記旋回操作装置の操作レバーが中立状態に戻された場合、前記速度検出器で検出される旋回速度が閾値を下回ったときに、前記旋回方向切換弁が中立位置から排出側の給排ラインをタンクラインと連通する作動位置へシフトし、その後は排出側の給排ラインとタンクラインとの間の開度および供給側の給排ラインとポンプラインとの間の開度が前記一対の圧力センサで検出される旋回モータの流入圧と流出圧との差圧に応じた開度となるように、前記旋回方向切換弁を制御する、建設機械の油圧駆動システム。
【請求項4】
旋回体を旋回させる旋回モータと、
操作レバーを含み、前記操作レバーの傾倒角に応じた旋回操作信号を出力する旋回操作装置と、
一対の給排ラインにより前記旋回モータと接続された旋回方向切換弁であって、スプールおよび指令電流を受けて前記スプールを駆動する駆動部を含み、前記一対の給排ラインをブロックする中立位置と、前記一対の給排ラインの一方をポンプライン、他方をタンクラインと連通する作動位置との間でシフトする旋回方向切換弁と、
前記旋回操作信号が大きくなるほど大きな指令電流を前記旋回方向切換弁へ送給する制御装置と、
前記旋回モータの流入圧および流出圧を検出する一対の圧力センサと、を備え、
前記制御装置は、前記旋回操作装置の操作レバーが中立状態に戻された場合、前記一対の圧力センサの一方で検出される前記旋回モータの流出圧が閾値を下回ったときに、前記旋回方向切換弁が中立位置から排出側の給排ラインをタンクラインと連通する作動位置へシフトし、その後は排出側の給排ラインとタンクラインとの間の開度および供給側の給排ラインとポンプラインとの間の開度が前記一対の圧力センサで検出される旋回モータの流入圧と流出圧との差圧に応じた開度となるように、前記旋回方向切換弁を制御する、建設機械の油圧駆動システム。
【請求項5】
前記制御装置は、前記旋回操作装置の操作レバーが中立状態に戻され、前記旋回方向切換弁が排出側の給排ラインをタンクラインと連通する作動位置へシフトした後に、前記旋回モータの流入圧が流出圧よりも高くなったときは、前記旋回方向切換弁が供給側の給排ラインをタンクラインと連通する作動位置へシフトするように、前記旋回方向切換弁を制御する、請求項3または4に記載の建設機械の油圧駆動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械の油圧駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルや油圧クレーンのような建設機械には、旋回体を旋回させる旋回モータを含む油圧駆動システムが搭載されている(例えば、特許文献1参照)。旋回モータへは、旋回方向切換弁を介してポンプから作動液が供給される。
【0003】
具体的に、旋回方向切換弁は、一対の給排ラインにより旋回モータと接続されている。旋回方向切換弁は、一対の給排ラインをブロックする中立位置と、一対の給排ラインの一方をポンプライン、他方をタンクラインと連通する作動位置との間でシフトする。旋回方向切換弁は、旋回操作装置の操作レバーが傾倒されると中立位置から作動位置へシフトし、操作レバーの傾倒角(旋回操作量)に応じた開度となる。
【0004】
ところで、旋回中の旋回体を停止すべく旋回操作レバーが中立状態に戻されたときには、旋回方向切換弁によって一対の給排ラインがブロックされる。従って、旋回体の旋回速度がゼロまで減速されたときに、閉じ込み状態となる排出側の給排ラインと旋回減速時にタンクから直接的に作動液が流れ込んでいた供給側の給排ラインとの間に差圧が残り、その差圧によって旋回体が反転し、その反転によって給排ライン間の差圧の大小が逆転して旋回体がさらに反転することが繰り返される、いわゆる揺れ戻り現象が発生することがある。
【0005】
特許文献1に開示された油圧駆動システムでは、このような揺れ戻り現象を防止するために、反転防止弁が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−310701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のように反転防止弁を用いた場合には、旋回回路のサイズが大きくなるとともに、コストが高くなる。
【0008】
そこで、本発明は、反転防止弁を用いずに旋回停止時の揺れ戻り現象を防止できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は、第1の側面から、旋回体を旋回させる旋回モータと、操作レバーを含み、前記操作レバーの傾倒角に応じた旋回操作信号を出力する旋回操作装置と、一対の給排ラインにより前記旋回モータと接続された旋回方向切換弁であって、スプールおよび指令電流を受けて前記スプールを駆動する駆動部を含み、前記一対の給排ラインをブロックする中立位置と、前記一対の給排ラインの一方をポンプライン、他方をタンクラインと連通する作動位置との間でシフトする旋回方向切換弁と、前記旋回操作信号が大きくなるほど大きな指令電流を前記旋回方向切換弁へ送給する制御装置と、前記旋回体の旋回速度を検出する速度検出器と、を備え、前記制御装置は、前記旋回操作装置の操作レバーが中立状態に戻された場合、前記速度検出器で検出される旋回速度が第1閾値を下回ったときに、前記旋回方向切換弁が中立位置から排出側の給排ラインをタンクラインと連通する作動位置へシフトし、前記速度検出器で検出される旋回速度が前記第1閾値よりも小さな第2閾値を下回ったときに、前記旋回方向切換弁が作動位置から中立位置へシフトするように、前記旋回方向切換弁を制御する、建設機械の油圧駆動システムを提供する。
【0010】
上記の構成によれば、旋回停止時(旋回操作装置の操作レバーが中立状態に戻された場合)に、旋回速度が第1閾値を下回れば旋回方向切換弁が作動位置へシフトする。これにより、排出側の給排ラインの圧力が速やかに低下することで給排ライン間の差圧が低減し、旋回体の反転が防止される。従って、反転防止弁を用いずに旋回停止時の揺れ戻り現象を防止することができる。
【0011】
また、本発明は、第2の側面から、旋回体を旋回させる旋回モータと、操作レバーを含み、前記操作レバーの傾倒角に応じた旋回操作信号を出力する旋回操作装置と、一対の給排ラインにより前記旋回モータと接続された旋回方向切換弁であって、スプールおよび指令電流を受けて前記スプールを駆動する駆動部を含み、前記一対の給排ラインをブロックする中立位置と、前記一対の給排ラインの一方をポンプライン、他方をタンクラインと連通する作動位置との間でシフトする旋回方向切換弁と、前記旋回操作信号が大きくなるほど大きな指令電流を前記旋回方向切換弁へ送給する制御装置と、前記旋回体の旋回速度を検出する速度検出器と、前記旋回モータの流入圧および流出圧を検出する一対の圧力センサと、を備え、前記制御装置は、前記旋回操作装置の操作レバーが中立状態に戻された場合、前記一対の圧力センサの一方で検出される前記旋回モータの流出圧が第1閾値を下回ったときに、前記旋回方向切換弁が中立位置から排出側の給排ラインをタンクラインと連通する作動位置へシフトし、前記速度検出器で検出される旋回速度が第2閾値を下回ったときに、前記旋回方向切換弁が作動位置から中立位置へシフトするように、前記旋回方向切換弁を制御する、建設機械の油圧駆動システムを提供する。
【0012】
上記の構成によれば、旋回停止時(旋回操作装置の操作レバーが中立状態に戻された場合)に、旋回モータの流出圧が第1閾値を下回れば旋回方向切換弁が作動位置へシフトする。これにより、排出側の給排ラインの圧力が速やかに低下することで給排ライン間の差圧が低減し、旋回体の反転が防止される。従って、反転防止弁を用いずに旋回停止時の揺れ戻り現象を防止することができる。
【0013】
また、本発明は、第3の側面から、旋回体を旋回させる旋回モータと、操作レバーを含み、前記操作レバーの傾倒角に応じた旋回操作信号を出力する旋回操作装置と、一対の給排ラインにより前記旋回モータと接続された旋回方向切換弁であって、スプールおよび指令電流を受けて前記スプールを駆動する駆動部を含み、前記一対の給排ラインをブロックする中立位置と、前記一対の給排ラインの一方をポンプライン、他方をタンクラインと連通する作動位置との間でシフトする旋回方向切換弁と、前記旋回操作信号が大きくなるほど大きな指令電流を前記旋回方向切換弁へ送給する制御装置と、前記旋回体の旋回速度を検出する速度検出器と、前記旋回モータの流入圧および流出圧を検出する一対の圧力センサと、を備え、前記制御装置は、前記旋回操作装置の操作レバーが中立状態に戻された場合、前記速度検出器で検出される旋回速度が閾値を下回ったときに、前記旋回方向切換弁が中立位置から排出側の給排ラインをタンクラインと連通する作動位置へシフトし、その後は前記旋回方向切換弁が前記一対の圧力センサで検出される旋回モータの流入圧と流出圧との差圧に応じた開度となるように、前記旋回方向切換弁を制御する、建設機械の油圧駆動システムを提供する。
【0014】
上記の構成によれば、旋回停止時(旋回操作装置の操作レバーが中立状態に戻された場合)に、旋回速度が閾値を下回れば旋回方向切換弁が作動位置へシフトする。これにより、排出側の給排ラインの圧力が速やかに低下することで給排ライン間の差圧が低減し、旋回体の反転が防止される。従って、反転防止弁を用いずに旋回停止時の揺れ戻り現象を防止することができる。しかも、上記の構成では、旋回方向切換弁が作動位置へシフトするときは旋回モータの流入圧と流出圧との差圧に応じた開度となるので、給排ライン間の差圧を極力小さく抑えることができる。
【0015】
また、本発明は、第4の側面から、旋回体を旋回させる旋回モータと、操作レバーを含み、前記操作レバーの傾倒角に応じた旋回操作信号を出力する旋回操作装置と、一対の給排ラインにより前記旋回モータと接続された旋回方向切換弁であって、スプールおよび指令電流を受けて前記スプールを駆動する駆動部を含み、前記一対の給排ラインをブロックする中立位置と、前記一対の給排ラインの一方をポンプライン、他方をタンクラインと連通する作動位置との間でシフトする旋回方向切換弁と、前記旋回操作信号が大きくなるほど大きな指令電流を前記旋回方向切換弁へ送給する制御装置と、前記旋回モータの流入圧および流出圧を検出する一対の圧力センサと、を備え、前記制御装置は、前記旋回操作装置の操作レバーが中立状態に戻された場合、前記一対の圧力センサの一方で検出される前記旋回モータの流出圧が閾値を下回ったときに、前記旋回方向切換弁が中立位置から排出側の給排ラインをタンクラインと連通する作動位置へシフトし、その後は前記旋回方向切換弁が前記一対の圧力センサで検出される旋回モータの流入圧と流出圧との差圧に応じた開度となるように、前記旋回方向切換弁を制御する、建設機械の油圧駆動システムを提供する。
【0016】
上記の構成によれば、旋回停止時(旋回操作装置の操作レバーが中立状態に戻された場合)に、旋回モータの流出圧が閾値を下回れば旋回方向切換弁が作動位置へシフトする。これにより、排出側の給排ラインの圧力が速やかに低下することで給排ライン間の差圧が低減し、旋回体の反転が防止される。従って、反転防止弁を用いずに旋回停止時の揺れ戻り現象を防止することができる。しかも、上記の構成では、旋回方向切換弁が作動位置へシフトするときは旋回モータの流入圧と流出圧との差圧に応じた開度となるので、給排ライン間の差圧を極力小さく抑えることができる。
【0017】
前記第3および第4の側面において、前記制御装置は、前記旋回操作装置の操作レバーが中立状態に戻され、前記旋回方向切換弁が排出側の給排ラインをタンクラインと連通する作動位置へシフトした後に、前記旋回モータの流入圧が流出圧よりも高くなったときは、前記旋回方向切換弁が供給側の給排ラインをタンクラインと連通する作動位置へシフトするように、前記旋回方向切換弁を制御してもよい。この構成によれば、たとえ旋回体が旋回停止時に反転したとしても、その後のさらなる反転を防止することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、反転防止弁を用いずに旋回停止時の揺れ戻り現象を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1実施形態に係る建設機械の油圧駆動システムの概略構成図である。
図2】建設機械の一例である油圧ショベルの側面図である。
図3】(a)〜(d)は第1実施形態における旋回停止時のグラフであり、(a)は旋回方向切換弁のスプール変位の経時的変化を示し、(b)は旋回速度の経時的変化を示し、(c)は旋回モータの流入圧の経時的変化を示し、(d)は旋回モータの流出圧の経時的変化を示す。
図4】第1実施形態の変形例の油圧駆動システムの概略構成図である。
図5】(a)〜(d)は第2実施形態における旋回停止時のグラフであり、(a)は旋回方向切換弁のスプール変位の経時的変化を示し、(b)は旋回速度の経時的変化を示し、(c)は旋回モータの流入圧の経時的変化を示し、(d)は旋回モータの流出圧の経時的変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1実施形態)
図1に、本発明の第1実施形態に係る建設機械の油圧駆動システム1を示し、図2に、その油圧駆動システム1が搭載された建設機械10を示す。図2に示す建設機械10は油圧ショベルであるが、本発明は、油圧クレーンなどの他の建設機械にも適用可能である。
【0021】
図2に示す建設機械10は自走式であり、走行体75と、走行体75に旋回可能に支持された旋回体76を含む。旋回体76には、運転席を含むキャビンが設けられているとともに、ブームが連結されている。ブームの先端にはアームが連結され、アームの先端にはバケットが連結されている。ただし、建設機械10は自走式でなくてもよい。
【0022】
油圧駆動システム1は、油圧アクチュエータとして、図2に示すブームシリンダ71、アームシリンダ72およびバケットシリンダ73を含むとともに、図1に示す旋回モータ4および図示しない左右一対の走行モータを含む。旋回モータ4は、旋回体76を旋回させる。また、油圧駆動システム1は、図1に示すように、それらのアクチュエータへ作動液を供給するポンプ2を含む。なお、図1では、図面の簡略化のために、旋回モータ4以外の油圧アクチュエータを省略している。
【0023】
さらに、油圧駆動システム1は、旋回モータ4に対する作動液の供給および排出を制御する旋回方向切換弁3と、旋回操作を受ける操作レバー51を含む旋回操作装置5と、制御装置6を含む。
【0024】
ポンプ2は、傾転角が変更可能な、可変容量型のポンプである。ポンプ2は、斜板ポンプであってもよいし、斜軸ポンプであってもよい。ポンプ2の傾転角は、レギュレータ21により調整される。レギュレータ21は、電気信号により駆動されてもよいし、パイロット圧により駆動されてもよい。
【0025】
ポンプ2は、ポンプライン11により旋回方向切換弁3と接続されている。ポンプライン11には、逆止弁12が設けられている。ポンプ2の吐出圧は、図略のリリーフ弁によって第1上限圧以下に保たれる。また、旋回方向切換弁3は、タンクライン13によりタンクと接続されている。
【0026】
さらに、旋回方向切換弁3は、一対の給排ライン41,42により旋回モータ4と接続されている。給排ライン41,42のそれぞれからは逃しライン43が分岐しており、逃しライン43はタンクにつながっている。各逃しライン43には、リリーフ弁44が設けられている。つまり、給排ライン41,42のそれぞれの圧力は、リリーフ弁44によって第2上限圧以下に保たれる。なお、第2上限圧は、上述した第1上限圧と等しくてもよいし、異なっていてもよい。
【0027】
また、給排ライン41,42のそれぞれは、メイクアップライン45によりタンクと接続されている。各メイクアップライン45には、給排ライン(41または42)に向かう流れは許容するがその逆の流れは禁止する逆止弁46が設けられている。メイクアップライン(41または42)は、旋回減速時に供給側の給排ラインにタンクから直接的に作動液を流れ込ませる役割を果たす。
【0028】
旋回方向切換弁3は、給排ライン41,42の双方をブロックする中立位置と、給排ライン41をポンプライン11と連通し、給排ライン42をタンクライン13と連通する第1作動位置(図1の左側位置)と、給排ライン42をポンプライン11と連通し、給排ライン41をタンクライン13と連通する第2作動位置(図1の右側位置)との間でシフトする。
【0029】
旋回方向切換弁3は、電気信号により駆動される。具体的に、旋回方向切換弁3は、スプール31と、指令電流を受けてスプール31を駆動する駆動部32を含む。例えば、駆動部32は、互いに逆向きにスプール31に作用する二次圧を出力する一対の電磁比例弁で構成されてもよいし、スプール31と連結された、電気モータおよびボールねじ等を含む直動機構であってもよい。そして、旋回方向切換弁3は、駆動部32へ送給される指令電流が大きくなるほど大きな開度となり、旋回モータ4への作動液の供給量および旋回モータ4からの作動液の排出量を増大させる。
【0030】
旋回操作装置5は、操作レバー51の傾倒角(旋回操作量)に応じた旋回操作信号(右旋回操作信号または左旋回操作信号)を出力する。つまり、旋回操作装置5から出力される旋回操作信号は、操作レバー51の傾倒角が大きくなるほど大きくなる。本実施形態では、旋回操作装置5が、旋回操作信号として電気信号を出力する電気ジョイスティックである。
【0031】
旋回操作装置5から出力される旋回操作信号(電気信号)は制御装置6へ入力される。例えば、制御装置6は、ROMやRAMなどのメモリとCPUを有し、ROMに格納されたプログラムがCPUにより実行される。
【0032】
制御装置6は、旋回操作信号が大きくなるほど大きな指令電流を旋回方向切換弁3の駆動部32へ送給する。これにより、旋回方向切換弁3のスプール31が、旋回操作装置5の操作レバー51の傾倒角が大きくなるほど、大きく移動する。
【0033】
制御装置6は、旋回体76の旋回速度を検出する速度検出器65と電気的に接続されている。速度検出器65は、例えば旋回体76に設けられたジャイロセンサである。ただし、速度検出器65は、例えば、旋回モータ4に取り付けられたエンコーダやレボルバ等であってもよい。
【0034】
制御装置6は、旋回操作装置5の操作レバー51が中立状態に戻された場合に、旋回停止時の揺れ戻り現象を防止するように旋回方向切換弁3を制御する。具体的に、制御装置6は、旋回操作装置5の操作レバー51が中立状態に戻されたときに、旋回方向切換弁3の駆動部32へ送給する指令電流をゼロとする。これにより、図3(a)に示すように、旋回方向切換弁3が作動位置(第1作動位置または第2作動位置)から中立位置へシフトする。その結果、図3(c)に示すように旋回モータ4の流入圧(供給側の給排ラインの圧力)がゼロとなり、図3(d)に示すように旋回モータ4の流出圧(排出側の給排ラインの圧力)が上昇する。
【0035】
旋回方向切換弁3が中立位置へシフトすると、排出側のリリーフ弁44のブレーキ作用によって、図3(b)に示すように、旋回体76の旋回速度が徐々に低下する。速度検出器65で検出される旋回体76の旋回速度が第1閾値αを下回ったとき、制御装置6は、旋回方向切換弁3が中立位置から排出側の給排ラインをタンクライン13と連通する作動位置へシフトするように、旋回方向切換弁3の駆動部32へ指令電流を送給する。これにより、旋回モータ4の流出圧はゼロまで低下する。
【0036】
その後、速度検出器65で検出される旋回体76の旋回速度が第1閾値αよりも小さな第2閾値βを下回ったとき、制御装置6は、旋回方向切換弁3が作動位置から中立位置へシフトするように、旋回方向切換弁3の駆動部32へ指令電流を送給する。これにより、旋回体76が完全に停止する。
【0037】
上述した第1閾値αおよび第2閾値βは、予め定められた固定値であってもよいし、旋回停止前の旋回速度に係数を掛けることによってその都度算出されてもよい。例えば、第1閾値αおよび第2閾値βを固定値とする場合は、第1閾値αは最高速度の5〜20%であり、第2閾値βは最高速度の1〜10%である。
【0038】
以上説明したように、本実施形態では、旋回停止時に、旋回速度が第1閾値αを下回れば旋回方向切換弁3が作動位置へシフトする。これにより、排出側の給排ラインの圧力が速やかに低下することで給排ライン41,42間の差圧が低減し、旋回体76の反転が防止される。従って、反転防止弁を用いずに旋回停止時の揺れ戻り現象を防止することができる。参考として、図3(c)および(d)中に、本実施形態の制御を行わずに揺れ戻り現象が発生したときの圧力変化を破線で示す。
【0039】
また、本実施形態では、旋回速度を低下させるタイミングやその低下度合を電子制御の調整により自在に設定することが可能である。従って、機体ごとの作動液温度の影響を補償するキャリブレーションが容易になる、オペレータの好みに合わせた調整をするなどの旋回停止の操作性の調整幅が拡大する。
【0040】
<変形例>
図4に示すように、給排ライン41,42には一対の圧力センサ61,62が設けられてもよい。圧力センサ61,62の一方は旋回モータ4の流入圧を検出し、圧力センサ61,62の他方は旋回モータ4の流出圧を検出する。
【0041】
図3(a)に示す例では、旋回操作装置5の操作レバー51が中立状態に戻された後に旋回方向切換弁3が作動位置へシフトするときは、旋回方向切換弁3の開度(スプール31の変位)が一定であった。これに対し、圧力センサ61,62が設けられる場合、旋回操作装置5の操作レバー51が中立状態に戻された後に旋回方向切換弁3が作動位置へシフトするときは、旋回方向切換弁3が、圧力センサ61,62で検出される旋回モータ4の流入圧と流出圧との差圧に応じた開度となるように制御されてもよい。この構成によれば、給排ライン41,42間の差圧を極力小さく抑えることができる。
【0042】
さらに、圧力センサ61,62が設けられる場合、旋回操作装置5の操作レバー51が中立状態に戻された後は、圧力センサ61,62の一方で検出される旋回モータ4の流出圧が第1閾値α’を下回ったときに、制御装置6が、旋回方向切換弁3が中立位置から排出側の給排ラインをタンクライン13と連通する作動位置へシフトするように、旋回方向切換弁3の駆動部32へ指令電流を送給してもよい。この構成でも、前記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0043】
また、第1閾値α(またはα’)は、旋回単独操作用の閾値α1と、旋回操作が他の操作(例えば、ブーム操作、アーム操作またはバケット操作)と同時に行われる旋回複合操作用の閾値α2(<α1)とに分けられてもよい。
【0044】
(第2実施形態)
次に、図5(a)〜(d)を参照して、本発明の第2実施形態に係る建設機械の油圧駆動システムを説明する。第2実施形態の油圧駆動システムの構成は、図4に示す第1実施形態の変形例と同様である。
【0045】
本実施形態でも、制御装置6が、旋回操作装置5の操作レバー51が中立状態に戻された場合に、旋回停止時の揺れ戻り現象を防止しるように旋回方向切換弁3を制御する。具体的に、制御装置6は、旋回操作装置5の操作レバー51が中立状態に戻されたときに、旋回方向切換弁3の駆動部32へ送給する指令電流をゼロとする。これにより、図5(a)に示すように、旋回方向切換弁3が作動位置(第1作動位置または第2作動位置)から中立位置へシフトする。その結果、図5(c)に示すように旋回モータ4の流入圧(供給側の給排ラインの圧力)がゼロとなり、図5(d)に示すように旋回モータ4の流出圧(排出側の給排ラインの圧力)が上昇する。
【0046】
旋回方向切換弁3が中立位置へシフトすると、排出側のリリーフ弁44のブレーキ作用によって、図5(b)に示すように、旋回体76の旋回速度が徐々に低下する。速度検出器65で検出される旋回体76の旋回速度が閾値γを下回ったとき、制御装置6は、旋回方向切換弁3が中立位置から排出側の給排ラインをタンクライン13と連通する作動位置へシフトするように、旋回方向切換弁3の駆動部32へ指令電流を送給する。これにより、旋回モータ4の流出圧はゼロまで低下する。閾値γは、予め定められた固定値であってもよいし、旋回停止前の旋回速度に係数を掛けることによってその都度算出されてもよい。
【0047】
その後、制御装置6は、旋回方向切換弁3が圧力センサ61,62で検出される旋回モータ4の流入圧と流出圧との差圧に応じた開度となるように、旋回方向切換弁3の駆動部32へ指令電流を送給する。より詳しくは、制御装置6は、旋回モータ4の流入圧と流出圧との差圧が大きくなるほど旋回方向切換弁3の開度を大きくする。
【0048】
旋回操作装置5の操作レバー51が中立状態に戻され、旋回方向切換弁3が排出側の給排ラインをタンクライン13と連通する作動位置へシフトした後、制御装置6は、旋回モータ4の流入圧が流出圧よりも高くなったときは、旋回方向切換弁3が供給側の給排ラインをタンクライン13と連通する作動位置へシフトするように、旋回方向切換弁3を制御する。つまり、旋回方向切換弁3は、第1作動位置から第2作動位置へ、または第2作動位置から第1作動位置へ切り換わる。
【0049】
以上説明したように、本実施形態では、旋回停止時に、旋回速度が閾値γを下回れば旋回方向切換弁3が作動位置へシフトする。これにより、排出側の給排ラインの圧力が速やかに低下することで給排ライン41,42間の差圧が低減し、旋回体76の反転が防止される。従って、反転防止弁を用いずに旋回停止時の揺れ戻り現象を防止することができる。しかも、本実施形態では、旋回方向切換弁3が作動位置へシフトするときは旋回モータ4の流入圧と流出圧との差圧に応じた開度となるので、給排ライン41,42間の差圧を極力小さく抑えることができる。
【0050】
また、本実施形態では、旋回速度を低下させるタイミングやその低下度合を電子制御の調整により自在に設定することが可能である。従って、機体ごとの作動液温度の影響を補償するキャリブレーションが容易になる、オペレータの好みに合わせた調整をするなどの旋回停止の操作性の調整幅が拡大する。
【0051】
さらに、本実施形態では、旋回モータ4の流入圧が流出圧よりも高くなったときは、旋回方向切換弁3の作動位置が切り換わるので、たとえ旋回体76が旋回停止時に反転したとしても、その後のさらなる反転を防止することができる。
【0052】
<変形例>
旋回操作装置5の操作レバー51が中立状態に戻された後は、圧力センサ61,62の一方で検出される旋回モータ4の流出圧が閾値γ’を下回ったときに、制御装置6が、旋回方向切換弁3が中立位置から排出側の給排ラインをタンクライン13と連通する作動位置へシフトするように、旋回方向切換弁3の駆動部32へ指令電流を送給してもよい。この構成でも、前記実施形態と同様の効果を得ることができる。この場合、速度検出器65は省略されてもよい。
【0053】
また、旋回操作装置5の操作レバー51が中立状態に戻された後に旋回方向切換弁3が作動位置へシフトするときは、旋回モータ4の流入圧および/または流出圧の変化率に応じて旋回方向切換弁3の開度を調整してもよい。
【0054】
さらに、閾値γ(またはγ’)は、旋回単独操作用の閾値γ1と、旋回操作が他の操作(例えば、ブーム操作、アーム操作またはバケット操作)と同時に行われる旋回複合操作用の閾値γ2(<γ1)とに分けられてもよい。
【0055】
(その他の実施形態)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0056】
例えば、旋回操作装置5は、必ずしも電気ジョイスティックである必要はなく、旋回操作信号としてパイロット圧を出力するパイロット操作弁であってもよい。この場合、旋回操作装置5から出力されるパイロット圧が圧力センサにより検出されて制御装置6へ入力される。
【符号の説明】
【0057】
1 油圧駆動システム
11 供給ライン
13 タンクライン
3 旋回方向切換弁
31 スプール
32 駆動部
4 旋回モータ
5 旋回操作装置
51 操作レバー
6 制御装置
61,62 圧力センサ
65 速度検出器
図1
図2
図3
図4
図5