特許第6901897号(P6901897)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6901897
(24)【登録日】2021年6月22日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】混合溶媒および表面処理剤
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/18 20060101AFI20210701BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20210701BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20210701BHJP
   C09D 201/04 20060101ALI20210701BHJP
   C07C 43/17 20060101ALN20210701BHJP
   C07C 19/08 20060101ALN20210701BHJP
【FI】
   C09K3/18 102
   C09K3/00 R
   C09D7/20
   C09D201/04
   !C07C43/17
   !C07C19/08
【請求項の数】14
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2017-74658(P2017-74658)
(22)【出願日】2017年4月4日
(65)【公開番号】特開2018-177857(P2018-177857A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年3月4日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000108030
【氏名又は名称】AGCセイミケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(72)【発明者】
【氏名】平林 涼
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−130885(JP,A)
【文献】 特表2015−510538(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/005166(WO,A1)
【文献】 特開2015−164908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/18
C09D 1/00−201/10
C09K 3/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃での蒸気圧が10kPa以上である非引火性溶剤(A)と、下記式(1)で表される化合物からなる引火性溶剤(B)と、を含む混合溶媒であって、
前記非引火性溶剤(A)が、下記式(A−1−a)で表される化合物と下記式(A−1−b)で表される化合物との混合物、下記式(A−2−a)で表される化合物と下記式(A−2−b)で表される化合物との混合物、または、下記式(A−3)で表される化合物であり、
前記非引火性溶剤(A)と前記非引火性溶剤(B)の質量比が90/10〜10/90であり、かつ、前記非引火性溶剤(A)および前記非引火性溶剤(B)の合計質量が前記混合溶媒の全質量の80質量%以上である、混合溶媒。
13R (1)
ただし、式(1)中、Rは−Cある。
【化1】
【請求項2】
前記質量比が90/10〜25/75である、請求項1に記載の混合溶媒。
【請求項3】
前記合計質量が前記混合溶媒の全質量の85質量%以上である、請求項1または2に記載の混合溶媒。
【請求項4】
前記非引火性溶剤(B)が下記式(B−1)で表される化合物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の混合溶媒。
【化2】
【請求項5】
前記質量比が70/30〜40/60である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の混合溶媒。
【請求項6】
溶質と、請求項1〜5のいずれか1項に記載の混合溶媒とを含み、前記溶質が含フッ素化合物を含む、表面処理剤。
【請求項7】
前記溶質の濃度が20質量%以下である、請求項6に記載の表面処理剤。
【請求項8】
請求項6または7に記載の表面処理剤を含む防水・防湿コーティング剤。
【請求項9】
請求項6または7に記載の表面処理剤を含む腐食防止剤。
【請求項10】
請求項6または7に記載の表面処理剤を含む防汚処理剤。
【請求項11】
請求項6または7に記載の表面処理剤を含む、潤滑オイルのしみ出し防止剤。
【請求項12】
請求項6または7に記載の表面処理剤を含むフラックス這い上がり防止剤。
【請求項13】
請求項6または7に記載の表面処理剤を乾燥した被膜を表面の少なくとも一部に有する基材。
【請求項14】
請求項6または7に記載の表面処理剤を基材の表面に塗布する塗布工程と、
前記基材に塗布された表面処理剤を乾燥する乾燥工程と、
を含む、基材の表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合溶媒およびそれを用いる表面処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種基材表面には、撥水性および撥油性を付与するためのフッ素系重合体、特に多くの場合、パーフルオロアルキル基を有するフッ素系重合体を乾燥性溶媒中に含む表面処理剤が適用される。この表面処理剤に使用される溶媒は、フッ素系樹脂に対して十分な溶解性が必要である。ところが、フッ素系重合体は、本質的に通常の有機溶媒に対する溶解性が貧しいことから、このような表面処理剤の溶媒となり得るものは、実質的にフッ素系溶媒に限定されていた。
【0003】
これまで使用されてきたフッ素系溶媒の典型例は、トリクロロトリフルオロエタンおよびジクロロテトラフルオロエタン等のクロロフルオロカーボン(CFC)並びにジクロロペンタフルオロプロパンおよびジクロロフルオロエタン等のハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)などの、いわゆるフロン溶媒である。これらのフロン溶媒は、フッ素系重合体の溶解性が良好であるほか、低表面張力を持つため、表面処理剤の溶媒として非常に有用であった。
しかし、これらのフロン溶媒はオゾン破壊係数を有するため、CFCは既に全廃され、HCFCも先進国においては2020年までに全廃されることとなっている。
【0004】
そこで、分子構造内に塩素元素を含まないことで、オゾン破壊係数をゼロにした代替フロンが開発された。それらの一例として、トリデカフルオロヘキサンおよびデカフルオロペンタン等の一部のハイドロフルオロカーボン(HFC)並びにパーフルオロヘキサン等のパーフルオロカーボン(PFC)などが挙げられる(特許文献1参照)。
【0005】
ところが、上記代替フロンは、温暖化係数が高いため、地球温暖化防止の目的から京都議定書の規制対象物質となっている。
そこで、上記に代わり得るフッ素系溶媒が新たに開発された。その中には、(パーフルオロブトキシ)メタン(COCH)、(パーフルオロブトキシ)エタン(COC)、2,2,2−トリフルオロエトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン(CFCHOCFCFH)など既に市販されているものがある。
【0006】
その中でも、(パーフルオロブトキシ)メタン(COCH)および(パーフルオロブトキシ)エタン(COC)等のハイドロフルオロエーテル(HFE)は、フッ素系の撥水撥油剤の有効成分として使用されるパーフルオロアルキル基含有の重合体の溶解性があるだけでなく、低い表面張力を持ち、表面処理剤とした際のレベリング性が良好であるため、フッ素系撥水撥油剤の溶媒として用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−262171号公報
【特許文献2】特開2009−057530号公報
【特許文献3】特開2013−133385号公報
【特許文献4】国際公開第2012/005166号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらのフッ素系溶媒は揮発性が高く、そのため、高濃度の処理剤を調製して使用すると、すぐに高粘度化して、ノズルの閉塞や吐出口から糸を引いてしまうなど、作業性において大きな弊害が出てしまう。そこで、揮発性が低くパーフルオロアルキル基を持つ化合物の溶解性があるものとして、1,3−ジ(トリフルオロメチル)ベンゼンと混合させることが記載されている(特許文献2参照)。
【0009】
また、特許文献3には、(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンと(2)COR(ただしR=CHまたはC)とを、(1)/(2)=51/49〜70/30の質量比で、かつ両者の合計で溶剤全量中80質量%以上の量で含む非引火性溶剤が記載され、特許文献4には、(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンと(2)CFCHOCFCFHとを、(1)/(2)=50/50〜97/3の質量比で、かつ両者の合計で溶媒全量中80質量%以上の量で含む非引火性溶媒が記載されている。
【0010】
本発明者は、これらの非引火性溶媒を表面処理剤の溶媒成分として用いることを検討したところ、作業性は良好であり、しかも乾燥して得られる被膜の撥水性・撥油性も良好であるが、乾燥過程で処理液が収縮しながら乾燥して、端部に薄膜部分を生ずることから、被膜均一性が十分でないことを知見した。
【0011】
そこで、本発明は、優れた撥水・撥油性を有する被膜を形成することができ、作業性が良好であり、かつ、被膜均一性にも優れる表面処理剤およびそれに用いられる混合溶媒を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねたところ、25℃での蒸気圧が10kPa以上である非引火性溶剤(A)と、後述する式(1)で表される化合物からなる群から選択される1種類以上からなる非引火性溶剤(B)と、を含む混合溶媒であって、上記非引火性溶剤(A)と上記非引火性溶剤(B)の質量比が90/10〜10/90であり、かつ、上記非引火性溶剤(A)および上記非引火性溶剤(B)の合計質量が上記混合溶媒の全質量の80質量%以上である、混合溶媒を用いると、優れた撥水・撥油性を有する被膜を形成することができ、作業性が良好であり、かつ、被膜均一性にも優れる表面処理剤を提供することができることを知得し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は以下の[1]〜[16]を提供する。
[1] 25℃での蒸気圧が10kPa以上である非引火性溶剤(A)と、下記式(1)で表される化合物からなる群から選択される1種類以上からなる非引火性溶剤(B)と、を含む混合溶媒であって、
上記非引火性溶剤(A)と上記非引火性溶剤(B)の質量比が90/10〜10/90であり、かつ、上記非引火性溶剤(A)および上記非引火性溶剤(B)の合計質量が上記混合溶媒の全質量の80質量%以上である、混合溶媒。
13R (1)
ただし、式(1)中、Rは−C、−OCHまたはOCである。
[2] 上記質量比が90/10〜25/75である、上記[1]に記載の混合溶媒。
[3] 上記合計質量が上記混合溶媒の全質量の85質量%以上である、上記[1]または[2]に記載の混合溶媒。
[4] 上記非引火性溶剤(A)がハイドロフルオロエーテルまたはハイドロフルオロカーボンである、上記[1]〜[3]のいずれか1つに記載の混合溶媒。
[5] 上記非引火性溶剤(A)が下記式(A−1−a)、下記式(A−1−b)および下記式(A−1−c)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である、上記[1]〜[4]のいずれか1つに記載の混合溶媒。
【化1】
[6] 上記非引火性溶剤(B)が下記式(B−1)で表される化合物である、上記[1]〜[5]のいずれか1つに記載の混合溶媒。
【化2】
[7] 上記質量比が70/30〜40/60である、上記[1]〜[6]のいずれか1つに記載の混合溶媒。
[8] 溶質と、上記[1]〜[7]のいずれか1つに記載の混合溶媒とを含み、上記溶質が含フッ素化合物を含む、表面処理剤。
[9] 上記溶質の濃度が20質量%以下である、上記[8]に記載の表面処理剤。
[10] 上記[8]または[9]に記載の表面処理剤を含む防水・防湿コーティング剤。
[11] 上記[8]または[9]に記載の表面処理剤を含む腐食防止剤。
[12] 上記[8]または[9]に記載の表面処理剤を含む防汚処理剤。
[13] 上記[8]または[9]に記載の表面処理剤を含む、潤滑オイルのしみ出し防止剤。
[14] 上記[8]または[9]に記載の表面処理剤を含むフラックス這い上がり防止剤。
[15] 上記[8]または[9]に記載の表面処理剤を乾燥した被膜を表面の少なくとも一部に有する基材。
[16] 上記[8]または[9]に記載の表面処理剤を基材の表面に塗布する塗布工程と、
上記基材に塗布された表面処理剤を乾燥する乾燥工程と、
を含む、基材の表面処理方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、優れた撥水・撥油性を有する被膜を形成することができ、作業性が良好であり、かつ、形成される被膜の均一性にも優れる表面処理剤およびそれに用いられる混合溶媒を提供することができる。
【0015】
また、本発明によれば、上記表面処理剤を含む防水・防湿コーティング剤、防水・防湿コーティング剤、腐食防止剤、防汚処理剤、潤滑オイルのしみ出し防止剤およびフラックス這い上がり防止剤、上記表面処理剤を乾燥した被膜を表面の少なくとも一部に有する基材、並びに、上記表面処理剤を基材の表面に塗布する塗布工程と、上記基材に塗布された表面処理剤を乾燥する乾燥工程と、を含む、基材の表面処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において、式(a)で表される化合物を化合物(a)とも記す。他の式で表される化合物も同様に表記することがある。
また、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルの両方またはどちらか一方を表す。
また、本明細書において「〜」を用いて表される範囲は、その範囲に「〜」の前後に記載された両端を含む範囲を意味する。
【0017】
[表面処理剤]
以下、本発明の表面処理剤について詳細に説明する。
本発明の表面処理剤は、溶質と、特定の混合溶媒とを含む。
ここで、上記溶質は含フッ素化合物を含む。
【0018】
本発明において、溶媒とは、室温において粘度が10mPa・s未満の液体成分と定義する。
また、本発明において、溶質とは、室温(25℃±5℃)において固体である成分または粘度が10mPa・s以上である液体成分と定義する。
【0019】
本発明の表面処理剤は、特定の混合溶媒と、溶質としての含フッ素化合物とを混合したことにより、優れた撥水・撥油性を有する被膜を形成することができ、作業性が良好であり、かつ、形成される被膜の均一性にも優れる表面処理剤とすることができた。
【0020】
〈混合溶媒〉
本発明の表面処理剤が含む特定の混合溶媒(以下「本発明の混合溶媒」という場合がある。)は、25℃での蒸気圧が10kPa以上である非引火性溶剤(A)と、下記式(1)で表される化合物からなる群から選択される1種類以上からなる非引火性溶剤(B)と、を含む混合溶媒であって、上記非引火性溶剤(A)と上記非引火性溶剤(B)の質量比が90/10〜10/90であり、かつ、上記非引火性溶剤(A)および上記非引火性溶剤(B)の合計質量が上記混合溶媒の全質量の80質量%以上である、混合溶媒である。
13R (1)
ただし、式(1)中、Rは−C、−OCHまたは−OCである。
【0021】
《非引火性溶剤(A)》
非引火性溶剤(A)は、25℃での蒸気圧が10kPa以上である非引火性溶剤である。
上記非引火性溶剤(A)の25℃での蒸気圧は、10kPa以上であれば特に限定されないが、好ましくは10〜50kPaであり、より好ましくは10〜30kPaであり、さらに好ましくは10〜20kPaである。
【0022】
上記25℃での蒸気圧は、適正に確認できる方法であればその確認方法はいずれの方法であっても構わない。これらの値は、各溶剤の製品カタログ値で記載されていることが多く、それらを参照にすることもできる。また、測定方法の例としては、例えば、JIS K 2258−1:2009「原油及び石油製品−蒸気圧の求め方−第1部:リード法」またはJIS K 2258−2:2009「原油及び石油製品−蒸気圧の求め方−第2部:3回膨張法」に準拠して、25℃での蒸気圧を測定するなどがあげられる。
【0023】
(非引火性溶剤(A)の種類)
上記非引火性溶剤(A)は、好ましくはハイドロフルオロエーテル(本明細書において「HFE」という場合がある。)、ハイドロフルオロカーボン(本明細書において「HFC」という場合がある。)およびパーフルオロケトン(本明細書において「PFK」という場合がある。)からなる群から選択される少なくとも1種類であり、より好ましくはハイドロフルオロエーテル(HFE)およびハイドロフルオロカーボン(HFC)からなる群から選択される少なくとも1種である。
なお、上記非引火性溶剤(B)として用いることができるC13R(ただし、Rは−OCH、−OCまたは−C)は、ハイドロフルオロエーテルまたはハイドロフルオロカーボンであるが、いずれも、25℃での蒸気圧が10kPa未満であり、上記非引火性溶剤(A)には該当しない。
【0024】
((ハイドロフルオロエーテル(HFE)))
上記非引火性溶剤(A)として用いることができるハイドロフルオロエーテル(HFE)は、例えば、1,1,2,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロピルメチルエーテル(CFCFCFOCH)、1,1−ジフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル(CFCHOCFCH)、メチルノナフルオロブチルエーテル(COCH)およびエチルノナフルオロブチルエーテル(COC)を挙げることができる。ただし、本発明において上記非引火性溶剤(A)として用いることができるハイドロフルオロエーテル(HFE)は、これらに限定されるものではない。
上記ハイドロフルオロエーテル(HFE)は、1種類を単独で、または2種類以上を組合せて、用いることができる。
【0025】
上記ハイドロフルオロエーテル(HFE)は、地球温暖化係数(GWP:Global Warming Potential)がより低いことから、好ましくはメチルノナフルオロブチルエーテル(COCH)およびエチルノナフルオロブチルエーテル(COC)からなる群から選択される少なくとも1種類であり、乾燥性および作業性がさらに優れることから、より好ましくはエチルノナフルオロブチルエーテル(COC)である。
【0026】
上記メチルノナフルオロブチルエーテルおよび上記エチルノナフルオロブチルエーテルのノナフルオロブチル基(すなわち、パーフルオロブチル基)は、それぞれ、直鎖状であってもよいし、分枝状であってもよい。
直鎖状のパーフルオロブチル(ノナフルオロブチル)基としては、パーフルオロ−n−ブチル基(1,1,2,2,3,3,4,4,4−ノナフルオロ−n−ブチル基)を挙げることができる。
また、分枝状のパーフルオロブチル(ノナフルオロブチル)基としては、パーフルオロイソブチル基(1,1,2,3,3,3,4,4,4−ノナフルオロイソブチル基)、パーフルオロ−sec−ブチル基(1,2,2,3,3,3,4,4,4−ノナフルオロ−sec−ブチル基)およびパーフルオロ−tert−ブチル基(2,2,2,3,3,3,4,4,4−ノナフルオロ−tert−ブチル基)を挙げることができる。
【0027】
また、上記メチルノナフルオロブチルエーテルおよび上記エチルノナフルオロブチルエーテルは、それぞれ、ノナフルオロブチル基の構造が同一である1種類の化合物からなる純物質であってもよいし、ノナフルオロブチル基の構造が相違する2種類以上の異性体からなる混合物であってもよい。
【0028】
例えば、上記エチルノナフルオロブチルエーテルとして、下記式(A−1−a)で表される化合物(以下「化合物(A−1−a)」という場合がある。)、下記式(A−1−b)で表される化合物(以下「化合物(A−1−b)」という場合がある。)および下記式(A−1−c)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種類の化合物を単独で、または2種類以上の化合物を混合した混合物として用いることができる。
化合物(A−1−a)と化合物(A−1−b)の混合物を用いる場合の化合物(A−1−a)と化合物(A−1−b)の質量比{化合物(A−1−a)/化合物(A−1−b)}は特に限定されないが、好ましくは{化合物(A−1−a)/化合物(A−1−b)}=80/20〜20/80である。
【0029】
【化3】
【0030】
また、例えば、上記メチルノナフルオロブチルエーテルとして、下記式(A−2−1)で表される化合物(以下「化合物(A−2−a)」という場合がある。)、下記式(A−2−b)で表される化合物(以下「化合物(A−2−b)」という場合がある。)および下記式(A−2−c)で表される化合物(以下「化合物(A−2−c)」という場合がある。)からなる群から選択される少なくとも1種類の化合物を単独で、または2種類の化合物を混合した混合物として用いることができる。
化合物(A−2−a)と化合物(A−2−b)の混合物を用いる場合の化合物(A−2−a)と化合物(A−2−b)の質量比{化合物(A−2−a)/化合物(A−2−b)}は特に限定されないが、好ましくは{化合物(A−2−a)/化合物(A−2−b)}=80/20〜20/80である。
【0031】
【化4】
【0032】
上記非引火性溶剤(A)は、特に好ましくは化合物(A−1−a)および化合物(A−1−b)からなる群から選択される少なくとも1種の化合物であり、ひときわ好ましくは化合物(A−1−a)と化合物(A−1−b)の混合物である。
【0033】
((ハイドロフルオロカーボン(HFC)))
上記非引火性溶剤(A)として用いることができるハイドロフルオロカーボン(HFC)は、例えば、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン(CFCHFCHFCFCF)、ヘプタフルオロシクロペンタン(c−C)、トリデカフルオロヘキサン(CHF13)、1,1,1,2,2,3,3,4,4−ノナフルオロヘキサン(CFCFCFCFCHCH)および1,1,1,3,3−ペンタフルオロ−n−ブタン(CFCHCFCH)を挙げることができる。ただし、本発明において上記非引火性溶剤(A)として用いることができるハイドロフルオロカーボン(HFC)は、これらに限定されるものではない。
上記ハイドロフルオロカーボン(HFC)は、1種類を単独で、または2種類以上を組合せて用いることができる。
【0034】
((パーフルオロケトン(PFK)))
上記非引火性溶剤(A)として用いることができるパーフルオロケトン(PFK)は、例えば、ドデカフルオロ−2−メチルペンタン−3−オン((CFCFC(=O)CFCF)(25℃での蒸気圧 40kPa)、テトラデカフルオロ−2−メチルヘキサン−3−オン(CFCFCFC(=O)CF(CF)およびテトラデカフルオロ−2,4−ジメチルペンタン−3−オン((CFCFC(=O)CF(CF)を挙げることができる。ただし、本発明において上記非引火性溶剤(A)として用いることができるパーフルオロケトン(PFK)は、これらに限定されるものではない。
上記パーフルオロカーボン(PFC)は、1種類を単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
上記パーフルオロカーボンを2種類組み合わせる場合、テトラデカフルオロ−2−メチルヘキサン−3−オン((CFCFC(=O)CFCFCF)とテトラデカフルオロ−2,4−ジメチルペンタン−3−オン((CFCFC(=O)CF(CF)の混合物(25℃での蒸気圧 15.7kPa)が好ましい。
【0035】
《非引火性溶剤(B)》
上記非引火性溶剤(B)は、下記式(1)で表される化合物からなる群から選択される1種類以上からなる非引火性溶剤である。
13R (1)
ただし、式(1)中、Rは−C、−OCHまたは−OCである。
【0036】
(式(1)のC13部分)
上記式(1)で表される化合物のC13部分(パーフルオロヘキシル部分)は、直鎖状であってもよいし、分枝状であってもよい。
直鎖状のパーフルオロヘキシル部分としては、パーフルオロ−n−ヘキシル(CFCFCFCFCFCF−)部分を挙げることができる。
また、分枝状のパーフルオロヘキシル部分としては、パーフルオロ−1−エチルブチル(CFCFCFCF(CFCF)−)部分などを挙げることができる。ただし、分枝状のパーフルオロヘキシル部分はこれに限定されるものではない。
【0037】
(式(1)のR部分)
上記式(1)で表される化合物のR部分は、−C(エチル部分)、−OCH(メトキシ部分)または−OC(エトキシ部分)である。
【0038】
上記非引火性溶剤(B)は、好ましくは1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロオクタン(CFCFCFCFCFCFCHCH)およびパーフルオロ−1−エチルブチルメチルエーテル(CFCFCFCF(CFCF)OCH)からなる群から選択される少なくとも1種類であり、乾燥性および作業性がより優れることから、より好ましくは1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロオクタン(CFCFCFCFCFCFCHCH)である。
【0039】
《非引火性溶剤(A)と非引火性溶剤(B)の質量比》
上記非引火性溶剤(A)と上記非引火性溶剤(B)の質量比は90/10〜10/90であり、揮発速度が効果的に抑えられ、作業性がより良好になることから、好ましくは90/10〜25/75であり、より好ましくは80/20〜30/70であり、さらに好ましくは40/60〜70/30である。
ここで、非引火性溶剤(A)と非引火性溶剤(B)の質量比は、本発明の混合溶媒中の混合溶媒中の非引火性溶剤(A)の質量および混合溶媒中の非引火性溶剤(B)の質量の合計を100とした場合の、「混合溶媒中の非引火性溶剤(A)の質量/混合溶媒中の非引火性溶剤(B)の質量」をいう。例えば、本発明の混合溶媒中に非引火性溶剤(A)を60質量部および非引火性溶剤(B)を140質量部含む場合の非引火性溶剤(A)と非引火性溶剤(B)の質量比は、30/70である。
【0040】
《非引火性溶剤(A)および非引火性溶剤(B)の合計質量》
上記非引火性溶剤(A)および上記非引火性溶剤(B)の合計質量は、本発明の混合溶媒の全質量の80質量%以上であり、好ましくは85質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上であり、いっそう好ましくは100質量%である。
すなわち、本発明の混合溶媒は、上記非引火性溶媒(A)および上記非引火性溶媒(B)の他に、本発明の目的を損なわない限り、本発明の混合溶媒の全質量の20質量%以下、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下の、非引火性溶剤(A)および非引火性溶剤(B)以外の溶媒成分(以下「他の溶剤(C)」という場合がある。)を含んでいてもよいが、最も好ましくは他の溶剤(C)を含まない。
【0041】
(他の溶剤(C))
上記他の溶剤(C)は、本発明の目的を損なわないものであれば特に限定されないが、本発明の混合溶媒の含フッ素系化合物、特にフッ素系高分子の溶解性および表面張力への影響を考慮すると、好ましくはフッ素系溶剤である。
上記他の溶剤(C)として使用することができるフッ素系溶剤は、上記非引火性溶剤(A)および上記非引火性溶剤(B)以外のフッ素系溶剤であれば特に限定されないが、好ましくはハイドロフルオロエーテル(HFE)およびハイドロフルオロカーボン(HFC)からなる群から選択される少なくとも1種類であり、地球温暖化係数(GWP)が低いことから、より好ましくはハイドロフルオロエーテル(HFE)から選択される少なくとも1種類である。
上記他の溶剤(C)は、1種類を単独で、または2種類以上を組み合わせて、用いることができる。
本発明の混合溶媒が上記他の溶剤(C)を含む場合は、その含有量は、本発明の混合溶媒の全質量の20質量%以下、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
上記他の溶剤(C)が引火性を有する溶媒成分を含む場合には、その引火性を有する溶媒成分の含有量は、本発明の混合溶媒の引火性に影響を与えない範囲であれば特に限定されないが、本発明の混合溶媒の全質量に対して、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下である。
【0042】
《引火性》
本発明において、「引火性」とは、以下の手順で引火点測定を実施し引火点を持つことと定義する。各引火点測定方法はJIS K 2265−1:2006「引火点の求め方−第1部:タグ密閉法」またはJIS K 2265−4:2007「引火点の求め方−第4部:クリーブランド開放法」に定められている方法に従うものとする。
(引火点の測定手順)
(a)タグ密閉法(JIS K 2265−1)による引火点測定の実施。
(b)(a)において、引火点が80℃以下の温度で引火点が測定できない場合にあっては、クリーブランド開放法(JIS K 2265−4)による引火点測定の実施。
【0043】
〈溶質〉
本発明の表面処理剤が含む溶質は、含フッ素化合物を含む。
上記含フッ素化合物は、通常、ポリフルオロアルキル基を有する化合物であり、具体例として、ポリフルオロアルキル基を有する含フッ素重合体および非重合体の含フッ素化合物を挙げることができる。
上記含フッ素化合物は、パーフルオロアルキル基を有するフッ素系重合体であることが好ましい。パーフルオロアルキル基を含有することで、撥水性だけでなく、撥油性に優れた表面処理剤を提供することができる。
【0044】
《含フッ素重合体》
上記含フッ素重合体は、少なくともポリフルオロアルキル基含有化合物から導かれる構成単位を含む。
上記ポリフルオロアルキル基含有化合物は、典型的には下記式(a)で表される(メタ)アクリル酸化合物(以下、単に「化合物(a)」という場合がある。)であり、具体的には(メタ)アクリル酸エステルまたは(メタ)アクリルアミドなどである。
【0045】
上記化合物(a)としては、下記構造が挙げられる。
CH=CR−COX−Q−Rf (a)
上記式(a)において、
は、水素原子またはメチル基を表し、
Xは、−O−または>NHを表し、
は、単結合または2価の連結基を表し、
Rfは、炭素数1〜20のポリフルオロアルキル基を表す。
上記2価の連結基は、好ましくは炭素数1〜5のアルキレン基である。
なお、本発明において、「(メタ)アクリル」の語は、アクリルおよびメタクリルの両方またはどちらか一方を意味する。
【0046】
このような化合物(a)を具体的に(メタ)アクリル酸エステルで例示すれば、下記式(a’)または下記式(a”)で表される化合物を挙げることができる。ただし、化合物(a)は、これらに限定されるものではない。
CH=CH−COO−(CH−(CFF (a’)
CH=C(CH)−COO−(CH−(CFF (a”)
上記式中、添字nは0〜4の整数を表し、添字mは1〜16の整数を表す。添字mは、好ましくは1〜6の整数を表す。
【0047】
なお、(メタ)アクリル酸エステルは、表面処理剤に求める性能により適宜選択できる。例えば、撥水性を特に重視する場合はメタクリル酸エステルが好ましく、撥油性や撥IPA性を特に重視する場合や、被膜の耐熱性を特に重視する場合は、アクリル酸エステルである場合が好ましい。
【0048】
上記含フッ素重合体は、化合物(a)から導かれる構成単位を、通常50質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上含有する。本発明において、重合体における構成単位の質量%は、重合に使用した原料化合物がすべて構成単位を構成するとみなした値である。
上記含フッ素重合体が、化合物(a)のみの重合体である場合には、化合物(a)の1種の単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
【0049】
また、含フッ素重合体が共重合体である場合には、上記化合物(a)以外の他の化合物(b)から導かれる構成単位を1種または2種以上含んでもよい。
上記化合物(b)は、通常、ポリフルオロアルキル基を有しない化合物であり、例えば、(メタ)アクリル酸、炭素数1〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、反応性を有する官能基を含む化合物、例えば、マレイン酸、無水イタコン酸、無水コハク酸等のエチレン性不飽和カルボン酸類、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシ(メタ)アクリルアミド等のアミド化合物、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル等の水酸基含有化合物、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアルコキシシリル基含有化合物、(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有化合物、2−(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸などのカルボキシル基含有化合物などであるが、これらに限られない。
【0050】
《非重合体の含フッ素化合物》
上記非重合体の含フッ素化合物は、好ましくは炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を有する化合物であり、より好ましくは末端に極性基をさらに有する化合物である。
上記非重合体のフッ素化合物としては、含フッ素リン酸エステルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
(含フッ素リン酸エステル)
上記含フッ素リン酸エステルとしては、下記構造が挙げられる。
(Rf−Q−O−)r−P(O)(OM)s (c)
上記式(c)において、
Rfは、炭素数1〜20のポリフルオロアルキル基を表し、
は、単結合または2価の連結基を表し、
Mは、水素原子、アンモニウム基、置換アンモニウム基またはアルカリ金属原子を表し、
rは、1〜3の整数を表し、
sは、0〜2の整数を表し、
r+sは、3である。
上記2価の連結基、好ましくはヒドロキシ基(−OH)で置換されていてもよい炭素数1〜5のアルキレン基である。
【0052】
上記含フッ素リン酸エステルの具体例としては、以下の化合物を挙げることができるが。ただし、上記含フッ素リン酸エステルは、これらに限定されるものではない。
F(CF−CHCH−P(O)(OH) (c1)
(F(CF−CHCHP(O)(OH) (c2)
F(CF−CHCH(OH)CHO−P(O)(OH) (c3)
(F(CF−CHCH(OH)CHO)P(O)(OH) (c4)
F(CF−CHCHO−P(O)(OH) (c5)
(F(CF−CHCHO)−P(O)(OH) (c6)
上記式中、添字mは1〜16の整数を表し、好ましくは1〜6の整数を表す。
上記含フッ素リン酸エステルは、表面処理剤として金属表面を処理する場合に特に好適である。また、離型剤として用いる場合にも特に好適である。
【0053】
《含フッ素化合物以外の溶質》
本発明の表面処理剤は、本発明の混合溶媒溶解または分散させることが可能で、本発明の目的を損なわず、安定性、性能および外観等に悪影響を与えない範囲であれば、上記含フッ素化合物以外の溶質を含んでもよい。
このような上記含フッ素化合物以外の溶質は、特に限定されないが、例えば、ジメチルメチルシリコーンおよびポリエチレングリコールアルキルアミンを挙げることができる。
また、上記含フッ素化合物以外の溶質としては、さらに、被膜表面の腐食を防止するためのpH調整剤、防錆剤、防かび剤、表面処理剤を希釈して使用する場合に液中の重合体の濃度管理をする目的や未処理部品との区別をするための染料、染料の安定剤、難燃剤、消泡剤および帯電防止剤等の他の成分を挙げることができる。
【0054】
《溶質の濃度》
本発明の表面処理剤において、上記溶質の濃度は、特に限定されないが、本発明の表面処理剤の作業性がより良好となることから、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは1〜20質量%であり、さらに好ましくは5〜15質量%である。
ここで、この溶質とは、表面処理剤における溶質全体、すなわち上記含フッ素化合物だけでなく、他の溶質および他の成分も含むことを意味する。
【0055】
上記含フッ素化合物の濃度は、各用途での最終的な濃度であればよい。各用途に供するには高濃度、たとえばはんだ用フラックス這い上がり防止剤である場合の1質量%を超えていてもなんら差し支えなく、希釈等により適宜調整すればよい。また、含フッ素化合物が含フッ素重合体である場合には、重合体を高濃度(固形分濃度)で含む重合溶液をそのまま各用途での好適濃度に希釈して使用することができる。
【0056】
本発明の表面処理剤の含フッ素化合物の濃度は、用途によって適宜設定されることが好ましい。
含フッ素化合物の濃度は、例えば、本発明の防水・防湿コーティング剤、腐食防止剤および防汚処理剤では、好ましくは1〜20質量%であり、潤滑オイルの染み出し防止剤および電子部品用樹脂付着防止剤では、好ましくは1〜5質量%であり、はんだ用フラックス這い上がり防止剤では、好ましくは0.01〜1質量%であり、離型剤では、好ましくは0.1〜10質量%である。
【0057】
溶質全量中の含フッ素化合物の量は、用途により異なっていてもよい。
含フッ素化合物の量は、例えば、防水・防湿コート剤、潤滑オイルの染み出し防止剤、電子部品用樹脂付着防止剤およびはんだ用フラックス這い上がり防止剤では、好ましくは溶質成分の90質量%以上であるが、離型剤では、好ましくは溶質成分の50質量%以下である。
【0058】
《表面処理剤の糸引き長さ》
本発明の表面処理剤の糸引き長さは、ディスペンサー等の作業性と相関があると考えられ、この糸引きの長さが長すぎると実作業において作業性が悪くなるため、好ましくは6.0mm以下であり、より好ましくは4.0mm以下であり、さらに好ましくは2.0mm以下であり、いっそう好ましくは1.0mm以下である。なお、表面処理剤の糸引き長さは、以下の方法により測定した樹脂の長さである。
【0059】
(糸引き長さの測定方法)
(1)測定装置の準備
1000μLピペットチップ(#732026,東京硝子機械社製;容量範囲100〜1000μL)2本と、50μLピペットチップ(00−BMT2−LE,ニチリョー社製;容量範囲 1〜50μL)2本を準備する。なお、ピペットチップを、単に、チップという場合がある。
1本目の50μLチップの基端側に2本目の50μLチップの先端側を挿入して固定し、2本目の50μLチップの基端側に1本目の1000μLチップの先端側を挿入して固定し、1本目の1000μLチップの基端側に2本目の1000μLチップの先端側を挿入して固定し、ピペットチップ4本がタケノコ状(50μLチップ×2−1000μLチップ×2)に接合された糸引き測定装置を組み立てる。
組み立てた糸引き測定装置を、チップの先端が下側になり、基端が上側になり、かつ、各チップの中心軸が水平面と60°の角度をなすように固定して保持する。
ここで、ピペットチップの基端とは、ピペットチップをピペッターに装着する場合にピペッター先端が挿入される側の端であり、先端とは、ピペットチップをピペッターに装着して用いる際に液体を吸入または排出する側の端である。また、糸引き測定装置の先端とは、組み立てた糸引き測定装置の1本目の50μLチップの先端であり、基端とは、2本目の1000μLチップの基端である。
【0060】
(2)糸引き長さの測定
標準溶媒(非引火性溶剤(A)のみからなる溶媒)、実施溶媒(本発明の混合溶媒)または比較溶媒(標準溶媒および実施溶媒以外の溶媒)に、それぞれ、溶質である含フッ素化合物を溶解させて、標準表面処理剤、実施表面処理剤または比較表面処理剤を調製する。以下では、標準表面処理剤、実施表面処理剤および比較表面処理剤を総称して単に表面処理剤という場合がある。
ピペッターに1000μLチップを装着し、調製した表面処理剤1000μLを吸引する。
吸引した表面処理剤を、糸引き測定装置の基端側から注入し、まず、合計2000μLを注入する。糸引き測定装置の先端から表面処理剤が自重で1000μL滴下されたところで、表面処理剤の滴下が途切れないように、さらに、表面処理剤1000μLを基端から追加して、自重で表面処理剤の全量を滴下させる。
滴下終了後、糸引き測定装置の先端、すなわち、1本目の50μLチップの先端に形成される氷柱状の樹脂の塊の長さ(糸引き長さ)を測定する。
各表面処理剤について測定した糸引き長さ(単位:mm)を糸引き(測定値)とする。
【0061】
(3)糸引きの評価
非引火性溶剤(A)の種類が同じ表面処理剤について、測定値〔糸引き(測定値)〕から下記式により相対値〔糸引き(相対値)〕を算出し、以下の評価基準に従って糸引きの評価を行う。
糸引き(相対値)={表面処理剤の糸引き(測定値)/標準表面処理剤の糸引き(測定値)}×100(%)
糸引き(相対値):
20%未満 ・・・S 特に優れた改善が見られた
20%〜40% ・・・A 優れた改善が見られた
40%〜60% ・・・B 改善が確認できた
60%〜80% ・・・C 多少の改善がみられる
80%〜 ・・・D 明確に改善が確認できない
【0062】
《表面処理剤の粘度》
本発明の表面処理剤の25℃での粘度の上限は、特に限定されないが、粘度が高すぎると作業性が悪くなる。
また、粘度が低すぎても作業性が低下する。
本発明の表面処理剤の25℃での粘度の範囲は、特に限定されないが、好ましくは3〜15mPa・sであり、より好ましくは4〜10mPa・sであり、さらに好ましくは5〜7mPa・sであり、いっそう好ましくは5.0〜6.5mPa・sある。
【0063】
(粘度の測定方法)
本発明において、表面処理剤の25℃での粘度は、回転式粘度計(RE−80L,東機産業社製)を用いて、25℃で測定した粘度である。
【0064】
[表面処理剤の使用方法]
本発明の表面処理剤は、撥水性、防水性および撥油性等の性能を付与したい部分に塗布して被膜を形成して利用することができる。この被膜は、本発明の表面処理剤から溶媒が除去されて形成されるものであり、主として、本発明の表面処理剤の溶質成分からなるものである。被覆方法としては一般的な被覆加工方法が採用できる。例えば浸漬塗布、スプレー塗布、ローラー塗布等の方法がある。
【0065】
本発明の表面処理剤の塗布後は、溶媒の沸点以上の温度で乾燥を行うことが好ましいが、室温で自然乾燥させても性能に支障はない。無論、被処理部品の材質などにより加熱乾燥が困難な場合には、加熱を回避して乾燥すべきである。なお、熱処理の条件は、塗布する表面処理剤の組成や、塗布面積等に応じて選択すればよい。
【0066】
《被膜の均一性》
本発明の表面処理剤を基材に塗布し、乾燥して得られる被膜は、均一性が良好である。
ここで、被膜の均一性は、以下の方法によって評価したものである。
(被膜の均一性の評価方法)
50mm×10mm×1mmのガラス板を表面処理剤に浸漬した後、室温で立てかけて乾燥する。
表面処理剤に濡れた箇所が乾燥して製膜する際に薄膜部が生じるか否かを目視によって観察し、以下の評価基準に従って評価する。
ガラス板の端部および内部に薄膜部が生じる ・・・「×」 不良
ガラス板の端部に薄膜部が生じない ・・・「○」 良好
被膜均一性の評価が「○」であれば、被膜均一性が良好である。
【0067】
《接触角》
本発明の表面処理剤を基材に塗布し、乾燥して得られる被膜は、撥水性および撥油性が良好である。さらに、撥水性が良好であると、防水性も良好となる。
撥水性は、水との接触角で、好ましくは90°以上であり、より好ましくは110°以上であり、さらに好ましくは115°以上である。
撥油性は、n−ヘキサデカンとの接触角で、好ましくは45°以上であり、より好ましくは60°以上であり、さらに好ましくは70°以上である。
【0068】
(接触角の測定方法)
本発明において、被膜の水に対する接触角およびn−ヘキサデカンに対する接触角は、以下の方法によって測定する。
50mm×10mm×1mmのガラス板を、表面処理剤に浸漬した後、室温で立てかけて乾燥する。
ガラス板の表面に形成させた被膜上に、水またはノルマルヘキサデカンを滴下し、自動接触角計(OCA−20,データフィジクス社製)を用いて接触角を測定する。
撥水性の評価:
115°以上 ・・・A 優れる
110°以上115°未満 ・・・B 良い
90°以上110°未満 ・・・C 可
90°未満 ・・・D 不可
撥油性の評価:
70°以上 ・・・A 優れる
60°以上70°未満 ・・・B 良い
45°以上60°未満 ・・・C 可
45°未満 ・・・D 不可
【0069】
〈本発明の表面処理剤の用途〉
本発明の表面処理剤は、各種材料の処理に適用可能である。本発明で使用する溶剤(A)および(B)は、無機材料(金属、セラミック、ガラス等)はもとより、樹脂材質へ影響が少ない。そのため精密機器部品や摺動部品(モーター、時計、HDD)、電気部品(電子回路や基板、電子部品等)および各種樹脂製系のモールドの処理などに用いることができる。本発明の表面処理剤は、防水・防湿コーティング剤、腐食防止剤、防汚処理剤、潤滑オイルの染み出し防止剤として用いることが好ましい。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の実施例で表面処理剤および比較表面処理剤を調製するために使用した化合物は、市販の試薬として入手することができるものまたは既知の合成法によって容易に合成できるものである。
また、以下の実施例において、特に断わりのない限り「%」で表示されるものは「質量%」を表すものとする。
【0071】
[含フッ素重合体1(C6FMA/HEMA共重合体)の合成]
密閉容器に、CH=C(CH)−COO−CHCH(CFFを205.8質量部、CH=C(CH)−COO−CHCHOHを0.6質量部、非引火性溶剤(A−1)を389.4質量部および開始剤(ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオナート;V−601,和光純薬工業社製)を0.6質量部、それぞれ仕込み、70℃で18時間反応させた。
反応後の重合溶液に、表1に示す非引火性溶剤(A−1)を加えて希釈し、含フッ素重合体濃度20%の含フッ素重合体溶液を得た。
この含フッ素重合体溶液を、大量のメタノールに添加して、含フッ素重合体を析出させた。析出した含フッ素重合体を減圧乾燥器の中に入れ、減圧下(40℃)で真空乾燥させて、含フッ素重合体を得た。
【0072】
【表1】
【0073】
表1中、
化合物(A−1−a)および化合物(A−1−b)は、それぞれ、以下の式(A−1−a)および(A−1−b)で表される化合物である。
【化5】
【0074】
化合物(A−2−a)および化合物(A−2−b)は、それぞれ、以下の式(A−2−a)および(A−2−b)で表される化合物である。
【化6】
【0075】
化合物(A−3)は、以下の式(A−3)で表される化合物である。
【化7】
【0076】
化合物(B−1)および化合物(B−2)は、それぞれ、以下の式(B−1)および(B−2)で表される化合物である。
【化8】
【0077】
化合物(C−1)は、以下の式(C−1)で表される化合物である。
【化9】
【0078】
[実施例1〜12および比較例1〜4]
合成した含フッ素重合体1と、表1に示す溶剤(A−1、A−2、A−3、B−1、B−2およびm−XHF)を準備した。
含フッ素重合体1を、表2〜表5に記載の溶剤組成の溶媒に溶解させて、濃度10質量%の表面処理液を調製した。
【0079】
[評価]
以下に記載する方法によって、表面処理液の「糸引き」および「粘度」、ならびに基材表面に形成した被膜の「被膜均一性」および「接触角」を評価した。
【0080】
〈糸引き〉
《測定装置の準備》
1000μLピペットチップ(#732026,東京硝子機械社製;容量範囲100〜1000μL)2本と、50μLピペットチップ(00−BMT2−LE,ニチリョー社製;容量範囲 1〜50μL)2本を準備した。以下では、ピペットチップを、単に、チップという場合がある。
1本目の50μLチップの基端側に2本目の50μLチップの先端側を挿入して固定し、2本目の50μLチップの基端側に1本目の1000μLチップの先端側を挿入して固定し、1本目の1000μLチップの基端側に2本目の1000μLチップの先端側を挿入して固定し、ピペットチップ4本がタケノコ状(50μLチップ×2−1000μLチップ×2)に接合された糸引き測定装置を組み立てた。
組み立てた糸引き測定装置を、チップの先端が下側にない、基端が上側になり、かつ、各チップの中心軸が水平面と60°の角度をなすように固定して保持した。
なお、ピペットチップの基端とは、ピペットチップをピペッターに装着する場合にピペッター先端が挿入される側の端であり、先端とは、ピペットチップをピペッターに装着して用いる際に液体を吸入または排出する側の端である。また、糸引き測定装置の先端とは、組み立てた糸引き測定装置の1本目の50μLチップの先端であり、基端とは、2本目の1000μLチップの基端である。
【0081】
《糸引き長さの測定》
ピペッターに1000μLチップを装着し、調製した表面処理剤1000μLを吸引した。
吸引した表面処理剤を、糸引き測定装置の基端側から注入し、まず、合計2000μLを注入した。糸引き測定装置の先端から表面処理剤が自重で1000μL滴下されたところで、表面処理剤の滴下が途切れないように、さらに、表面処理剤1000μLを基端から追加して、自重で表面処理剤の全量を滴下させた。
滴下終了後、糸引き測定装置の先端、すなわち、1本目の50μLチップの先端に形成された氷柱状の樹脂の塊の長さ(糸引き長さ)を測定した。
各表面処理剤について測定した糸引き長さ(単位:mm)を糸引き(測定値)とした。
糸引き(測定値)が小さいほど、良好と判断する。
【0082】
(比較例1および実施例1〜9)
比較例1の標準表面処理剤1および実施例1〜9の実施表面処理剤1〜9の糸引き(測定値)を、表2の「糸引き」の「測定値[mm]」の欄に示す。
【0083】
(比較例1、比較例2、実施例5および実施例10)
比較例1の標準表面処理剤1、比較例2の比較表面処理剤1、実施例5の実施表面処理剤5および実施例10の実施表面処理剤10の糸引き(測定値)を、表3の「糸引き」の「測定値[mm]」の欄に示す。
【0084】
(比較例3および実施例11)
比較例3の標準表面処理剤2および実施例11の実施表面処理剤11の糸引き(測定値)の糸引き(測定値)を、表4の「糸引き」の「測定値[mm]」の欄に示す。
【0085】
(比較例4および実施例12)
比較例4の標準表面処理剤3および実施例12の実施表面処理剤12の糸引き(測定値)の糸引き(測定値)を、表5の「糸引き」の「測定値[mm]」の欄に示す。
【0086】
《糸引きの評価》
非引火性溶剤(A)の種類が同じ表面処理剤について、測定値〔糸引き(測定値)〕から下記式(I)により相対値〔糸引き(相対値)〕を算出し、以下の評価基準に従って糸引きの評価を行った。
糸引き(相対値)={表面処理剤の糸引き(測定値)/標準表面処理剤の糸引き(測定値)}×100(%) ・・・(I)
糸引き(相対値):
20%未満 ・・・S 特に優れた改善が見られた
20%〜40% ・・・A 優れた改善が見られた
40%〜60% ・・・B 改善が確認できた
60%〜80% ・・・C 多少の改善がみられる
80%〜 ・・・D 明確に改善が確認できない
【0087】
(比較例1および実施例1〜9)
比較例1の標準表面処理剤1の糸引き(測定値)を基準(100%)として、上記式(I)により、実施例1〜9の実施表面処理剤1〜9の糸引き(測定値)を糸引き(相対値)で表した。
比較例1および実施例1〜9の糸引き(相対値)を、表2の「糸引き」の「相対値[%]」の欄に示す。
【0088】
(比較例1、比較例2、実施例5および実施例10)
比較例1の標準表面処理剤1の糸引き(測定値)を基準(100%)として、上記式(I)により、比較例2の比較表面処理剤1の糸引き(測定値)、実施例5の実施表面処理剤5の糸引き(測定値)および実施例10の実施表面処理剤10の糸引き(測定値)を糸引き(相対値)で表した。
比較例1、比較例2、実施例5および実施例10の糸引き(相対値)を、表3の「糸引き」の「相対値[%]」の欄に示す。
【0089】
(比較例3および実施例11)
比較例3の標準表面処理剤2の糸引き(測定値)を基準(100%)として、上記式(I)により、実施例11の実施表面処理剤11の糸引き(測定値)を糸引き(相対値)で表した。
比較例3および実施例11の糸引き(相対値)を、表4の「糸引き」の「相対値[%]」の欄に示す。
【0090】
(比較例4および実施例12)
比較例4の標準表面処理剤3の糸引き(測定値)を基準(100%)として、上記式(I)により、実施例12の実施表面処理剤12の糸引き(測定値)を糸引き(相対値)で表した。
比較例4および実施例12の糸引き(相対値)を、表5の「糸引き」の「相対値[%]」の欄に示す。
【0091】
〈粘度〉
調製した各表面処理剤について、回転式粘度計(RE−80L,東機産業社製)を用いて、25℃での粘度を測定した。粘度が高すぎると作業性が劣ることとなる。
【0092】
(比較例1および実施例1〜9)
比較例1の標準表面処理剤1および実施例1〜9の実施表面処理剤1〜9の25℃での粘度(単位:mPa・s)を、表2の「粘度」の欄に示す。
【0093】
(比較例1、比較例2、実施例5および実施例10)
比較例1の標準表面処理剤1、比較例2の比較表面処理剤1、実施例5の実施表面処理剤5および実施例10の実施表面処理剤10の25℃での粘度(単位:mPa・s)を、表3の「粘度」の欄に示す。
【0094】
(比較例3および実施例11)
比較例3の標準表面処理剤2および実施例11の実施表面処理剤11の25℃での粘度(単位:mPa・s)を表4の「粘度」の欄に示す。
【0095】
(比較例4および実施例12)
比較例4の標準表面処理剤3および実施例12の実施表面処理剤12の25℃での粘度(単位:mPa・s)を表5の「粘度」の欄に示す。
【0096】
〈被膜均一性〉
比較例および実施例のそれぞれについて、50mm×10mm×1mmのガラス板を、調製した表面処理剤に浸漬した後、室温で立てかけて乾燥した。
表面処理剤に濡れた箇所が乾燥して製膜する際に薄膜部が生じるか否かを目視によって観察し、以下の評価基準に従って評価した。
ガラス板の端部および内部に薄膜部が生じた ・・・「×」 不良
ガラス板の端部に薄膜部が生じなかった ・・・「○」 良好
被膜均一性の評価が「○」であれば、被膜均一性が良好である。
【0097】
(比較例1および実施例1〜9)
比較例1の標準表面処理剤1および実施例1〜9の実施表面処理剤1〜9のそれぞれから形成した被膜の均一性の評価結果を、表2の「被膜均一性」の欄に示す。
【0098】
(比較例1、比較例2、実施例5および実施例10)
比較例1の標準表面処理剤1、比較例2の比較表面処理剤1、実施例5の実施表面処理剤5および実施例10の実施表面処理剤10のそれぞれから形成した被膜の均一性の評価結果を、表3の「被膜均一性」の欄に示す。
【0099】
(比較例3および実施例11)
比較例3の標準表面処理剤2および実施例11の実施表面処理剤11のそれぞれから形成した被膜の均一性の評価結果を、表4の「被膜均一性」の欄に示す。
【0100】
(比較例4および実施例12)
比較例4の標準表面処理剤3および実施例12の実施表面処理剤12のそれぞれから形成した被膜の均一性の評価結果を、表5の「被膜均一性」の欄に示す。
【0101】
〈接触角〉
比較例および実施例のそれぞれについて、ガラス板を、調製した表面処理剤に室温で1分間浸漬した後、室温で乾燥させ、各ガラス板の表面に被膜を形成させた。
各ガラス板の表面に形成させた被膜上に、水またはノルマルヘキサデカン(HD;n−hexadecane)を滴下し、自動接触角計(OCA−20,データフィジクス社製)を用いて接触角を測定した。
接触角の測定結果を表2の「接触角」の欄の「水」の欄および「HD」の欄に示す。
接触角が大きいほど、撥水性・撥油性は良好となる。
また、撥水性が高いほど、防水性も良好となる。
【0102】
被膜の撥水性および撥油性は、以下の基準に従って評価した。
((撥水性の評価基準))
115°以上 ・・・A 優れる
110°以上115°未満 ・・・B 良い
90°以上110°未満 ・・・C 可
90°未満 ・・・D 不可
((撥油性の評価基準))
70°以上 ・・・A 優れる
60°以上70°未満 ・・・B 良い
45°以上60°未満 ・・・C 可
45°未満 ・・・D 不可
【0103】
[結果:比較例1、実施例1〜9]
以下の表2に、比較例1および実施例1〜9を示す。なお、表2中、A−1、A−2、A−3、B−1、B−2およびm−XHFは、表1中に示すものと同一である。
【0104】
【表2】
【0105】
〈比較例1および実施例1〜9の対比〉
(1)比較例1は表面処理剤(標準表面処理剤1)の溶媒として溶剤(A−1)のみを用いた例であり、実施例1〜9は表面処理剤(実施表面処理剤1〜9)の溶媒として溶剤(A−1)と溶剤(B−1)を所定の質量比で含む混合溶媒を用いた例である。
(2)実施例1〜9の表面処理剤(実施表面処理剤1〜9)は、糸引きの評価が「特に優れた改善が見られた」(実施例2〜9)または「優れた改善が見られた」(実施例1)であり、比較例1の表面処理剤(標準表面処理剤1)と比較して、改善が確認された。
また、実施例1〜9の表面処理剤環、被膜の均一性、撥水性および撥油性も良好であった。
(3)表面処理剤の溶媒として、溶剤(A−1)のみを使用すると、糸引きが発生して作業性が悪いが、溶剤(A−1)と溶剤(B−1)を、溶剤(A−1)と溶剤(B−1)の質量比が90/10〜10/90となるように混合した混合溶媒を用いると、糸引きに改善が見られ、かつ、被膜の均一性、撥水性および撥油性も良好であることが示された。
【0106】
[結果:比較例1、比較例2、実施例5および実施例10]
以下の表3に、比較例1、比較例2、実施例5および実施例10を示す。なお、表3中、A−1、A−2、A−3、B−1、B−2およびm−XHFは、表1中に示すものと同一である。
【0107】
【表3】
【0108】
〈比較例1、比較例2、実施例5および実施例10の対比〉
(1)比較例1は表面処理剤(標準表面処理剤1)の溶媒として溶剤(A−1)のみを用いた例であり、比較例2は表面処理剤(比較表面処理剤1)の溶媒として溶剤(A−1)と溶剤(C−1)を50/50の質量比で含む混合溶媒を用いた例であり、実施例5は表面処理剤(実施表面処理剤5)の溶媒として溶剤(A−1)と溶剤(B−1)を50/50の質量比で含む混合溶媒を用いた例であり、実施例10は表面処理剤(実施表面処理剤10)の溶媒として溶剤(A−1)と溶剤(B−2)を50/50の質量比で含む混合溶媒を用いた例である。
(2)実施例5および実施例10の表面処理剤(実施表面処理剤5、実施表面処理剤10)は、糸引きの評価が「特に優れた改善が見られた」(実施例5)または「改善が確認できた」(実施例10)であり、比較例1の表面処理剤(標準表面処理剤1)と比較して、改善が確認された。
また、被膜の均一性、撥水性および撥油性も良好であった。
(3)比較例2の表面処理剤(比較表面処理剤1)は、糸引きの評価が「特に優れた改善が見られた」であったが、比較表面処理剤1を用いて形成された被膜は均一性が不良であり、被膜均一性が劣っていた。
(4)溶剤(A−1)との混合比を50/50(質量比)と固定して、混合する溶剤を溶剤(B−1)、溶剤(B−2)または溶剤(C−1)と変えて比較した結果、溶剤(A−1)と溶剤(B−1)または、溶剤(A−1)と溶剤(B−2)の混合溶媒を用いると、糸引きに改善が見られ、かつ、被膜の均一性、撥水性および撥油性も良好であるが、溶剤(A−1)と溶剤(C−1)の混合溶媒では、糸引きに改善が見られるが、被膜の均一性が悪化することを確認した。
このことから、溶剤(A−1)と混合する溶剤は、揮発性が低い溶剤を任意に選ぶだけでは、糸引きの改善、被膜の均一性、撥水性および撥油性の全てを解決することができず、溶剤(B−1)や溶剤(B−2)のような、限られた溶剤でなければならないことが示された。
【0109】
[結果:比較例3および実施例11]
以下の表4に、比較例3および実施例11を示す。なお、表4中、A−1、A−2、A−3、B−1、B−2およびm−XHFは、表1中に示すものと同一である。
【0110】
【表4】
【0111】
(1)比較例3は表面処理剤(標準表面処理剤2)の溶媒として溶剤(A−2)のみを用いた例であり、実施例11は表面処理剤(実施表面処理剤11)の溶媒として溶剤(A−2)と溶剤(B−1)を50/50の質量比で含む混合溶媒を用いた例である。
(2)実施例11の表面処理剤(実施表面処理剤11)は、糸引きの評価が「特に優れた改善が見られた」であり、比較例3の表面処理剤(標準表面処理剤2)と比較して、改善が確認された。
また、実施例11の表面処理剤は、被膜の均一性、撥水性および撥油性も良好であった。
(3)表面処理剤の溶媒として、溶剤(A−2)のみを使用すると、糸引きが発生して作業性が悪いが、溶剤(A−2)と溶剤(B−1)を混合した混合溶媒を用いると、糸引きに改善が見られ、かつ、被膜の均一性、撥水性および撥油性も良好であることが示された。
【0112】
[結果:比較例4および実施例12]
以下の表5に、比較例4および実施例12を示す。なお、表4中、A−1、A−2、A−3、B−1、B−2およびm−XHFは、表1中に示すものと同一である。
【0113】
【表5】
【0114】
(1)比較例4は表面処理剤(標準表面処理剤3)の溶媒として溶剤(A−3)のみを用いた例であり、実施例12は表面処理剤(実施表面処理剤12)の溶媒として溶剤(A−3)と溶剤(B−1)を50/50の質量比で含む混合溶媒を用いた例である。
(2)実施例12の表面処理剤(実施表面処理剤12)は、糸引きの評価が「改善が確認された」であり、比較例4の表面処理剤(標準表面処理剤3)と比較して、改善が確認された。
また、実施例12の表面処理剤は、被膜の均一性、撥水性および撥油性も良好であった。
(3)表面処理剤の溶媒として、溶剤(A−3)のみを使用すると、糸引きが発生して作業性が悪いが、溶剤(A−3)と溶剤(B−1)を混合した混合溶媒を用いると、糸引きに改善が見られ、かつ、被膜の均一性、撥水性および撥油性も良好であることが示された。