(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記水性第1ベースコートが、総樹脂固形分100質量部に対して、前記水溶性又は水分散性ポリウレタン樹脂を20〜40質量部含むことを特徴とする請求項1記載の複層塗膜形成法。
前記水性第2ベースコートは架橋性樹脂を総樹脂固形分100質量部に対して、10〜40質量部含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の複層塗膜形成法。
【背景技術】
【0002】
一般的に、自動車車体を被塗装物とする複層塗膜形成方法は、被塗物に電着塗膜を形成して加熱硬化させた後で、中塗り塗膜、ベース塗膜及びクリヤー塗膜からなる複層塗膜を形成することにより行われている。
【0003】
近年では、揮発性有機溶剤(VOC)削減のために、中塗り塗料及びベース塗料として水性塗料が使用されるようになり、さらに省エネルギーの観点から、電着塗膜上に水性中塗り塗料を塗装して中塗り塗膜を形成し、未硬化の中塗り塗膜上に水性ベース塗料を塗装してベース塗膜を形成し、未硬化のベース塗膜上にクリヤー塗料を塗装してクリヤー塗膜を形成し、これら3層の塗膜を同時に加熱硬化させる、いわゆる3コート1ベーク(3C1B)方式による複層塗膜形成方法が広く浸透している。
【0004】
さらに最近では、中塗り塗装とベース塗装の間の予備加熱を廃し、水性第1塗料と水性第2塗料とをいわゆるウェットオンウェット方式で塗装する複層塗膜形成方法も採用され始めている。
【0005】
しかしながら、ウェットオンウェット方式での3C1B塗装では、中塗り塗膜とベース塗膜との間で混相が起こりやすく、得られる塗膜の平滑性や鮮映性の低下、硬化剤の塗膜間における移行に伴う耐チッピング性の低下などの問題がある。
【0006】
このため、特許文献1では、特定の水性ポリエステル樹脂、特定の水性アクリル樹脂、水性ウレタン樹脂及びメラミン樹脂を含有する第1塗料を使用することにより、平滑性、鮮映性、耐チッピング性を向上させる複層塗膜の形成法が開示されている。
【0007】
また、特許文献2では、同じく水性第1塗料に、特定の含有量でベンゼン環やシクロヘキサン環を含有するポリエステルと、イソシアネート基含有化合物、オキサゾリン基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物、ヒドラジド基含有化合物及びセミカルバジド基含有化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の硬化剤を含有させ、この塗料を使用することにより、平滑性、鮮映性、耐チッピング性を向上させる複層塗膜の形成法が開示されている。
【0008】
しかしながら、上記のように水性第1塗料の原料樹脂のみを特定した方法では、水性第2塗料の設計によっては十分な平滑性、鮮映性、耐チッピング性を発揮できないことが懸念されることから、使用できる第2塗料の範囲が限定される。
【0009】
この点について特許文献3では、第1ベース塗料単膜の乾燥膜厚が25μm、第2ベース塗料単膜の乾燥膜厚が10μm、および、クリヤー塗膜単膜の乾燥膜厚が30μm である複層塗膜の、20℃における伸び率を40〜60%、抗張力を400〜600kgf/m
2、−20℃における弾性項に対する粘性項の比(tanδ)を0.04〜0.06の範囲にすることにより、複層塗膜の平滑性を保ちつつ、優れた耐チッピング性を発揮することができるとしている。
【0010】
ただし、この複層塗膜形成方法も、様々な水性第2塗料の設計ごとに最適な水性第1塗料を選択することで耐チッピング性を確保したにすぎず、単一の第1塗料に対して種々の第2塗料を選択することは難しい。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は特定の具体例に限定されるものではない。
【0020】
−第1ベースコート(A)
本発明の水性第1ベースコート(A)は、基体樹脂として水溶性又は水分散性ポリウレタン樹脂(A1)を含有し、また架橋剤として架橋性樹脂(A2)を含有する。ここで、本明細書における「基体樹脂」とは、架橋剤と反応する官能基を有する樹脂のことである。
【0021】
水溶性又は水分散性ポリウレタン樹脂(A1)は、特に限定されないが、ポリオール、ポリイソシアネート化合物、ジメチロールアルカン酸、多価アルコールなどを原料成分とする公知の方法により得ることができる。
【0022】
ポリオールとして、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどから1種以上を選択して用いることができるが、これらの中でもポリエステルポリオールとポリカーボネートポリオールとから選択することが好ましい。
【0023】
ポリエステルポリオールは、多塩基酸と多価アルコールを原料成分とするエステル化反応を利用した、公知の方法により得ることができる。
【0024】
ポリカーボネートポリオールは、ポリオールとカルボニル化剤とを重縮合反応させる公知の方法により得ることができる。
【0025】
ポリイソシアネート化合物として、例えば、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−又は2,6−トリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、p−又はm−フェニレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートの水素添加物などの脂環式ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。これらのポリイソシアネート化合物は、単独で使用することもでき、2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0026】
ジメチロールアルカン酸として、例えば、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロールペンタン酸、ジメチロールヘプタン酸、ジメチロールオクタン酸、ジメチロールノナン酸が挙げられる。これらのジメチロールアルカン酸は、単独で使用することもでき、2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0027】
多価アルコールとして、グリコール及び3価以上の多価アルコールが挙げられる。グリコールとして、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、メチルプロパンジオール、シクロヘキサンジメタノール、3,3−ジエチル−1,5−ペンタンジオールなどが挙げられる。また、3価以上の多価アルコールとして、例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどが挙げられる。これらの多価アルコールは、単独で使用することもでき、2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0028】
水溶性又は水分散性ポリウレタン樹脂(A1)の重量平均分子量は30,000〜500,000であり、塗装作業性の点から、60,000〜140,000が好ましい。重量平均分子量が30,000未満では混層により複層塗膜のツヤ感が低下する場合があり、500,000を超える範囲ではフロー性の低下により複層塗膜の肌荒れを起こす場合がある。なお、本明細書に記載された重量平均分子量の値は、ポリスチレンを標準物質としたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により得られる値である。
【0029】
水溶性又は水分散性ポリウレタン樹脂(A1)のガラス転移温度は、耐チッピング性の点から、−20℃以下が好ましく、耐チッピング性及び塗膜硬度の点から、−50℃〜−110℃がより好ましい。ガラス転移温度が−20℃を超える範囲では耐チッピング性が低下する場合がある。本明細書に記載されたガラス転移温度の値は、DSC(示差走査型熱量測定)における転移開始温度の値である。
【0030】
水溶性又は水分散性ポリウレタン樹脂(A1)の水酸基価は、特に限定されないが、例えば20〜120mgKOH/gが好ましい。
【0031】
本発明において水溶性又は水分散性ポリウレタン樹脂(A1)は、水性第1ベースコート(A)の樹脂固形分の総量100質量部に対して、20〜40質量部であることが好ましく、20〜30質量部であることがより好ましい。
【0032】
架橋性樹脂(A2)としては、例えば、アミノ樹脂、ブロック化ポリイソシアネート樹脂から選ばれた1種もしくは2種以上併用して用いることができる。
【0033】
アミノ樹脂は、アミノ基を含有する化合物にホルムアルデヒドを付加し縮合させた樹脂の総称であり、具体的には、例えば、メラミン樹脂、尿素樹脂、グアナミン樹脂などが挙げられるが、メラミン樹脂が好ましい。
【0034】
メラミン樹脂として、例えば、メラミンとホルムアルデヒドとを反応させて得られる部分又は完全メチロール化メラミン樹脂、メチロール化メラミン樹脂のメチロール基をアルコール成分で部分的に又は完全にエーテル化して得られる部分又は完全アルキルエーテル型メラミン樹脂、イミノ基含有型メラミン樹脂、及びこれらのメラミン樹脂を2種以上混合した混合型メラミン樹脂が挙げられる。ここで、アルキルエーテル型メラミン樹脂としては、例えば、メチル化メラミン樹脂、ブチル化メラミン樹脂、メチル/ブチル混合アルキル型メラミン樹脂などが挙げられる。
【0035】
ブロック化ポリイソシアネート樹脂としては、例えば脂肪族系、芳香族系または脂環族系のポリイソシアネート化合物のイソシアネート基をブロック剤で保護したものがあり、ブロック剤としてはブタノールなどのアルコール類、メチルエチルケトオキシムなどのオキシム類、ε−カプロラクタム類などのラクタム類、アセト酢酸エステルなどのケトエステル類、イミダゾール、2−エチルイミダゾールなどのイミダゾール類、m−クレゾールなどのフェノール類等を挙げることができる。
【0036】
架橋性樹脂(A2)の重量平均分子量は600以上が好ましく、塗装作業性の点から、800〜1,200がより好ましく、900〜1,100が特に好ましい。重量平均分子量が600未満では、複層塗膜の耐チッピング性能が低下する場合がある。
【0037】
本発明における水性第1ベースコート(A)への架橋性樹脂(A2)の配合量は、水性第1ベースコート(A)の樹脂固形分の総量100質量部に対して、25〜35質量部であることが好ましく、28〜32質量部であることがより好ましい。架橋性樹脂(A2)量が25質量部未満の場合は耐水性の低下が発生し、35質量部を超える場合は耐チッピング性が低下する。
【0038】
−第2ベースコート(B)
上記第1水性コート(A)は基体樹脂がある程度限定されるのに対し、水性第2ベースコート(B)は基体樹脂と架橋性樹脂とを含むものであれば特に限定されない。
【0039】
第2ベースコート(B)の基体樹脂は、水溶性又は水分散性樹脂である限り特に制限はないが、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル−ウレタン樹脂から選ばれる1種以上の水溶性又は水分散性樹脂が好ましく、少なくともアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂から選択される1種以上を水溶性又は水分散性樹脂として含有することがより好ましく、少なくともアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂から選択される1種以上を水溶性又は水分散性樹脂として含有することが特に好ましい。
【0040】
水性第2ベースコート(B)の架橋性樹脂についても特に制限は無いが、アミノ樹脂が好ましく、メラミン樹脂であることがより好ましい。
【0041】
水性第2ベースコート(B)の架橋性樹脂は樹脂固形分の総量100質量部に対して、10〜40質量部であることが好ましく、特に20〜30質量部であることがより好ましい。
【0042】
水性第1ベースコート(A)及び水性第2ベースコート(B)の基体樹脂である水溶性又は水分散性樹脂は、樹脂が有する酸基の少なくとも一部が塩基性物質で中和された状態で使用されることが好ましい。これにより、樹脂が水性塗料中で安定な状態で存在することができる。
【0043】
塩基性物質として、例えば、アンモニア、モルホリン、N−アルキルモルホリン、モノイソプロパノールアミン、メチルエタノールアミン、メチルイソプロパノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミンなどが挙げられる。これらの塩基性物質は、1種単独で用いてもよいし、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
水性第1ベースコート(A)及び水性第2ベースコート(B)には、着色顔料、光輝顔料、体質顔料などの各種顔料を含有させることができる。着色顔料として、例えば、黄鉛、黄色酸化鉄、酸化鉄、カーボンブラック、二酸化チタンなどの無機系顔料、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インディゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料などの有機系顔料が挙げられる。また、光輝顔料として、例えば、アルミニウムフレーク顔料、アルミナフレーク顔料、マイカ顔料、シリカフレーク顔料、ガラスフレーク顔料などが挙げられる。そして、体質顔料として、例えば、炭酸カルシウム、バライト、沈降性硫酸バリウム、クレー、タルクなどが挙げられる。これらの顔料は、1種単独で用いてもよいし、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
水性第1ベースコート(A)及び水性第2ベースコート(B)に顔料を含有させる場合、その質量含有比率は、例えば、ベースコート(A)、(B)が含有する全ての樹脂(基体樹脂の他、架橋性樹脂などの他の樹脂も含む)の樹脂固形分の総量100質量部に対して3〜200質量部であり、具体的には、例えば、3、5、15、30、50、70、90、110、130、150、175、200質量部であり、ここに例示した何れか2つの数値の範囲内であってもよい。
【0046】
水性第1ベースコート(A)及び水性第2ベースコート(B)には、表面調整剤、消泡剤、界面活性剤、造膜助剤、防腐剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤などの各種添加剤、各種レオロジーコントロール剤、各種有機溶剤などの1種以上の添加剤を含有させることができる。
【0047】
水性第1ベースコート(A)及び水性第2ベースコート(B)は、必要に応じて、水、場合によっては少量の有機溶剤やアミンを使用し、適当な粘度に希釈してから塗装に供される。
【0048】
−クリヤーコート(C)
本発明の複層塗膜形成方法において使用するクリヤーコート(C)としては、有機溶剤塗料、水性塗料、粉体塗料のいずれも使用することができる。クリヤーコートの基体樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂などから1種以上が選択され、硬化系としては、メラミン硬化、酸/エポキシ硬化、イソシアネート硬化などが挙げられるが、塗膜外観性の点から、アクリル樹脂/メラミン硬化型、アクリル樹脂/イソシアネート硬化型、酸/エポキシ硬化型のクリヤーコートが好ましい。
【0049】
本発明の複層塗膜形成方法における各塗料の塗装方法としては、自動車産業において通常用いられている方法、例えばエアースプレー塗装、エアー霧化式静電塗装、ベル回転霧化式静電塗装等が適用できる。
【0050】
本発明の複層塗膜形成方法では、まず、被塗物上に水性第1ベースコート(A)を塗装し、第1ベースコート塗膜を形成する。該第1ベースコート塗膜を形成した後に、未硬化の前記第1ベースコート塗膜上に第2ベースコート(B)を塗装して第2ベースコート塗膜を形成し、未硬化の前記第2ベースコート塗膜上にクリヤーコート(C)を塗装してクリヤーコート塗膜を形成し、これら3層の塗膜を同時に加熱硬化させる。
【0051】
被塗物としては、表面に電着塗膜が形成された金属素材、この電着塗膜上に中塗り塗膜が形成された金属素材、プラスチックなどが挙げられる。
【0052】
本発明の複層塗膜形成方法において、水性第1ベースコート(A)及び水性第2ベースコート(B)の塗装条件は、温度が20〜30℃であり、相対湿度は70〜80% であることが好ましい。
【0053】
本発明の複層塗膜形成方法において、水性第1ベースコート(A)の塗装後や、水性第2ベースコート(B)の塗装後には、予備加熱を行ってもよいが、本発明の水性第1ベースコート(A)を使用する場合は、水性第1ベースコート(A)や水性第2ベースコート(B)の塗装後、特に水性第1ベースコート(A)の塗装後には予備加熱を行わなくとも、優れた塗膜外観性を得ることができる。なお、予備加熱を行う場合の温度は30〜100℃、時間は3〜10分が好ましい。
【0054】
本発明の複層塗膜形成方法において、複層塗膜の加熱硬化温度は60℃〜170℃が好ましく、加熱硬化時間は20〜40分が好ましい。
【0055】
本発明の複層塗膜形成方法において、耐候性及び耐チッピング性の点から、水性第1ベースコート(A)を塗装した第1ベースコート塗膜の乾燥膜厚は15μm〜35μmが好ましく、水性第2ベースコート(B)を塗装した第2ベースコート塗膜の乾燥膜厚は5μm〜15μmが好ましい。
【0056】
クリヤーコート(C)を塗装したクリヤーコート塗膜の乾燥膜厚は、特に限定されないが、例えば、25μm〜60μmが好ましい。なお、乾燥膜厚とは、加熱硬化後の塗膜の厚さを意味する。
【0057】
本発明の複層塗膜形成方法において、第1ベースコート塗膜の乾燥膜厚が15μmである場合に、該第1ベースコート塗膜の単層乾燥塗膜は、破断強度が2,050N/cm
2以上、かつ−20℃での塗膜の損失正接(tanδ)が0.075以上であることが好ましい。破断強度が2,050N/cm
2未満、もしくは−20℃での塗膜tanδが0.075未満である場合、十分な耐チッピング性能が得られない場合がある。
【0058】
上記の破断強度の値は、ポリプロピレン製の試験板に、水性第1ベースコートを乾燥膜厚が15μmとなるように、エアスプレーにて塗装し、水性第2ベースコート以降を塗装せずに、第1ベースコート塗膜のみを140℃で30分間加熱して得られる単層塗膜を、10×70mmの大きさになるよう切断して試験板から剥離し、試験片として引張試験機によって測定する。
【0059】
引張試験機としてはテンシロン UTM III型((株)エー・アンド・ディー製)を用い、温度20℃、測定長さ40mm、引っ張り速度4mm/分で測定する。破断強度は、破断時に掛かる荷重として得られる。
【0060】
また、上記の損失正接(tanδ)の値は、上記破断強度の場合と同様にして得られた単層塗膜を5×20mmに切断し、試験片として動的粘弾性試験機によって測定する。
動的粘弾性試験機としては動的粘弾性自動測定器((株)エー・アンド・ディー製)を用い、振動ひずみと昇温時発生する応力との間に生じる位相差から−20℃でのtanδを求める。なお、測定周波数は11Hz、昇温速度は2℃/分とする。
【0061】
さらに、本発明の複層塗膜形成方法において、第1ベースコート塗膜の乾燥膜厚が15μm、第2ベースコート塗膜の乾燥膜厚が12μmである場合に、該第1ベースコート塗膜及び該第2ベースコート塗膜の複層乾燥塗膜を解析したとき、第2ベースコ―ト塗膜層から第1ベースコート塗膜層へのメラミン樹脂の移行量が水性第1ベースコートの総樹脂固形分100質量部に対し3質量部以内であることが好ましい。3質量部を超えると、該水性第1ベースコートの硬化が阻害され、十分な耐チッピング性能を得られない場合がある。なお、水性第2ベースコートがメラミン樹脂を含まない場合は、該水性第1ベースコートの硬化が阻害される恐れはない。この場合、第2ベースコ―ト塗膜層からのメラミン樹脂の移行量は0質量部と考える。
【0062】
上記のメラミン樹脂の移行量は、乾燥膜厚が第1ベースコート塗膜で15μm、第2ベースコート塗膜で12μmとなるように、電着板上にエアスプレーにてそれぞれ塗装し、クリヤーコートを塗装せずに該複層塗膜を140℃で30分間加熱して得られる乾燥複層塗膜について、紙やすり等を用いて第2ベースコート塗膜を除去して第1ベース塗膜の表面、すなわち、第1ベースコート塗膜/第2ベースコート塗膜界面を露出させ、該露出部を顕微赤外分光分析にて解析する。
【0063】
顕微赤外分光分析機としてはフーリエ変換赤外分光装置(THERMO FISHER SCIENTIFIC社製)を用い、ATR法(材質:Si)で測定を行う。
【0064】
まず、あらかじめ決められた質量部の第2ベースコート用のメラミン樹脂を混合した第1ベースコートを塗装し、第2ベースコート以降を塗装せずに加熱硬化後した単層塗膜表面の測定を行い、第1ベースコートの樹脂中のカルボニル基由来の1735cm
−1ピーク強度P
0を基準とし、メラミン樹脂のトリアジン環由来の1560cm
−1ピーク強度P
1との比P
1/P
0を求め、第1ベースコートの総樹脂固形分100質量部に対する上記メラミン樹脂の質量部とピーク強度比P
1/P
0の検量線を作成する。
【0065】
次に、第1ベースコート塗膜/第2ベースコート塗膜界面の測定を行い、第1ベースコートの樹脂中のカルボニル基由来の1735cm
−1ピーク強度P
0を基準とし、メラミン樹脂のトリアジン環由来の1560cm
−1ピーク強度P
1との比P
1/P
0を求め、前記検量線より第1ベースコートの総樹脂固形分100質量部に対する第2ベースコートのメラミン樹脂質量部に換算し、これをメラミン樹脂の移行量とする。ここで、ピーク強度とは、ベースラインからピークトップまでの高さである。なお、該検量線は、第1ベースコートと第2ベースコートの組み合わせごとに作成する必要がある。第1ベースコートがメラミン樹脂を含まない場合、該検量線は、第1ベースコートの総樹脂固形分100質量部に対する第2ベースコートのメラミン樹脂の質量部が0のときピーク強度比P
1/P
0が0を通る線となるが、第1ベースコートがメラミン樹脂を含む場合は、第1ベースコートの総樹脂固形分100質量部に対する第2ベースコートのメラミン樹脂の質量部が0のときピーク強度比P
1/P
0が0よりも大きい値を通る線となる。
【0066】
なお、上記乾燥膜厚15μm、12μmはメラミン樹脂の移行量を測定するときの測定条件にすぎず、実際に複層塗膜を形成するときの第1、第2ベースコート塗膜の膜厚(加熱硬化後の乾燥膜厚)は、測定用の上記乾燥膜厚とは別に設定することができる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明について、実施例を挙げて更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特に断らない限り、各例中の部、%、比は、それぞれ質量部、質量%、質量比を表す。
【0068】
<製造例1−1:水性第1ベースコート用水分散性ポリウレタン樹脂PU−1の製造>
<製造例1−1(a):ポリエステルポリオールPP−1の製造>
反応水の分離管が付属した還流冷却器、温度計、攪拌装置及び窒素ガス導入管を備えたフラスコに、ダイマー酸(商品名「PRIPOL1017」、CRODA社製、炭素数36)35.0部、イソフタル酸30.0部、アジピン酸0.6部、1,6−ヘキサンジオール33.6部、トリメチロールプロパン0.8部を仕込み、攪拌しながら160℃まで昇温した。160℃で1時間保持した後、230℃まで5時間かけて昇温した。230℃に保持しながら定期的に酸価を測定し、樹脂酸価が4mgKOH/gに到達した後は、80℃以下まで降温させた。最後にメチルエチルケトン60.8部を加え、酸価4mgKOH/g、水酸基価62mgKOH/g、重量平均分子量7,200のポリエステルポリオールPP−1を得た。
【0069】
<製造例1−1(b):ポリエステルポリオールPP−2の製造>
反応水の分離管が付属した還流冷却器、温度計、攪拌装置及び窒素ガス導入管を備えたフラスコに、ダイマー酸(商品名「PRIPOL1017」、CRODA社製、炭素数36)20.0部、イソフタル酸35.0部、アジピン酸8.6部、ネオペンチルグリコール35.6部、トリメチロールプロパン0.8部を仕込み、攪拌しながら160℃まで昇温した。160℃で1時間保持した後、230℃まで5時間かけて昇温した。230℃に保持しながら定期的に酸価を測定し、樹脂酸価が4mgKOH/gに到達した後は、80℃以下まで降温させた。最後にメチルエチルケトン59.4部を加え、酸価4mgKOH/g、水酸基価62mgKOH/g、重量平均分子量7,200のポリエステルポリオールPP−2を得た。
【0070】
<製造例1−1(c):水性第1ベースコート用水分散性ポリウレタン樹脂PU−1の製造>
温度計、攪拌装置及び窒素ガス導入管を備えたフラスコに、製造例1−1(a)で得られたポリエステルポリオールPP−1を110.0部、ジメチロールプロピオン酸4.5部、ネオペンチルグリコール2.0部、メチルエチルケトン18.0部を仕込み、攪拌しながら80℃まで昇温した。80℃になった時点で、ヘキサメチレンジイソシアネート12.0部、イソホロンジイソシアネート8.5部加え、80℃を継続し、イソシアネート価が0.40mmol/g(表1において「イソシアネート価(1)」とする)になったところで、トリメチロールプロパン3.0部を加え、80℃を保持した。イソシアネート価(表1において「イソシアネート価(2)」とする)が0.03mmol/gになったら、ブチルセロソルブ5.1部を加え、50℃まで降温してからジメチルエタノールアミン3.3部加えて酸基を中和し、脱イオン水150.0部を加えた。その後100℃まで昇温し、減圧条件下でメチルエチルケトンを除去し、表1に示す特性値を有するポリウレタン樹脂PU−1を得た。
【0071】
<製造例1−2〜1−7:水性第1ベースコート用水分散性ポリウレタン樹脂PU−2〜PU−7の製造>
表1に示された配合組成に従って、製造例1−1と同様の方法で、表1に示す特性値を有する水分散性ポリウレタン樹脂PU−2〜PU−7を得た。ただし、製造例1−7では、最終イソシアネート価を0.005とした。
【0072】
【表1】
【0073】
<製造例2−1:水分散性ポリエステル樹脂PEの製造>
反応水の分離管が付属した還流冷却器、温度計、攪拌装置及び窒素ガス導入管を備えたフラスコに、ダイマー酸(商品名「PRIPOL1017」、CRODA社製、炭素数36)15.0部、無水フタル酸30.0部、アジピン酸3.1部、1,6−ヘキサンジオール31.5部、トリメチロールプロパン10.3部を仕込み、120℃まで昇温して原料を溶解した後、攪拌しながら160℃まで昇温した。160℃で1時間保持した後、230℃まで5時間かけて昇温した。230℃で2時間保持した後、180℃まで降温した。無水トリメリット酸10部を加え、180℃に保持しながら定期的に酸価を測定し、酸価が25mgKOH/gになったら、80℃以下まで降温した。ブチルセロソルブ25部を加えた後、ジメチルエタノールアミン3.2部を加えて酸基を中和し、脱イオン水34.1部を加え、水分散性ポリエステル樹脂PEを得た。水分散性ポリエステル樹脂PEの特性値は、重量平均分子量15,000、ガラス転移温度−30℃、酸価25mgKOH/g、水酸基価90mgKOH/g、樹脂固形分60%だった。
【0074】
<製造例3−1:水性第2ベースコート用水分散性ポリウレタン樹脂PU−8の製造>
<製造例3−1(a):ポリエステルポリオールの製造>
反応水の分離管が付属した還流冷却器、温度計、攪拌装置及び窒素ガス導入管を備えたフラスコに、ダイマー酸(商品名「PRIPOL1017」、CRODA社製、炭素数36)54.0部、ネオペンチルグリコール8.0部、イソフタル酸17.8部、1,6−ヘキサンジオール19.4部、トリメチロールプロパン0.8部を仕込み、攪拌しながら160℃まで昇温した。160℃で1時間保持した後、230℃まで5時間かけて昇温した。230℃に保持しながら定期的に酸価を測定し、樹脂酸価が4mgKOH/gになったら、80℃以下まで降温した。最後にメチルエチルケトン31.6部を加え、酸価4mg/KOH/g、水酸基価62mgKOH/g、重量平均分子量7,200のポリエステルポリオールを得た。
【0075】
<製造例3−1(b):水分散性ポリウレタン樹脂PU−8の製造>
温度計、攪拌装置及び窒素ガス導入管を備えたフラスコに、製造例3−1(a)で得られたポリエステルポリオール81.5部、ジメチロールプロピオン酸6.1部、ネオペンチルグリコール1.4部、メチルエチルケトン30部を仕込み、攪拌しながら80℃まで昇温した。80℃になった時点で、イソホロンジイソシアネート25.9部加え、80℃を継続し、イソシアネート価が0.51mmol/gになったところで、トリメチロールプロパン5.8部を加え、80℃を保持した。イソシアネート価が0.01mmol/gになったら、ブチルセロソルブ33.3部を加えてから100℃まで昇温し、減圧条件下でメチルエチルケトンを除去した。最後に、50℃まで降温してからジメチルエタノールアミン3.6部加えて酸基を中和し、脱イオン水196.0部を加え、表2に示す特性値を有するポリウレタン樹脂PU−8を得た。
【0076】
<製造例4−1:水分散性アクリル樹脂AC−1の製造>
還流冷却器、温度計、攪拌装置、窒素ガス導入管及び滴下ロートを備えたフラスコに脱イオン水40部を仕込んで窒素雰囲気下で80℃に昇温させた。次に、滴下成分として、メタクリル酸メチル15部、スチレン10部、n−ブチルメタクリレート37部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート18.5部、ブチルアクリレート9.2部、アクリル酸10.3部からなるラジカル重合性単量体混合物、乳化重合調節剤(商品名「チオカルコール20」、花王(株)製、n−ドデシルメルカプタン)4.0部、反応性アニオン乳化剤(商品名「エレミノールRS−30」、三洋化成工業(株)製、メタクリロイルオキシポリオキシアルキレン硫酸エステルナトリウム)2.0部、反応性ノニオン乳化剤(商品名「アデカリアソープNE20」、(株)ADEKA製)1.0部、脱イオン水15部からなる乳化剤溶液、及び過硫酸アンモニウム0.32部、脱イオン水15部からなる重合開始剤溶液を、滴下ロートで3時間かけて滴下した。滴下終了後、1時間攪拌を続けた後で40℃まで冷却し、表2に示す特性値を有する水分散性アクリル樹脂AC−1を得た。
【0077】
<実施例1>
以下に示す方法に従って、水性第1ベースコート及び水性第2ベースコートを製造し、これらの塗料を用いて複層塗膜を形成し、その物性を評価した。
【0078】
<水性第1ベースコートの製造>
分散樹脂として水性ポリウレタン樹脂PU−1の一部を使用して、カーボンブラック(商品名「MA−100」、三菱ケミカル(株)製)1部、二酸化チタン(商品名「タイピュアR760」、DU PONT社製)99部をモーターミルで分散し、顔料ペーストを作製した。次に、残りの水分散性ポリウレタン樹脂PU−1をディソルバーで混合し、そこに、前記顔料ペーストを加えて混合した。最後に、メラミン樹脂MF−1(商品名「サイメル203」、ALLNEX社製)28.0部、およびMF−2(商品名「サイメル325」、ALLNEX社製)12.5部、および水分散性ポリエステル樹脂66.5部を加えて混合し、第1水性ベースコートを得た。ここで、第1水性ベースコート中の水性ポリウレタン樹脂PU−1の含有量は77.0部とした。
【0079】
<水性第2ベースコートの製造>
分散樹脂として水性ポリウレタン樹脂PU−8の一部を使用して、カーボンブラック(商品名「FW−200」、ORION ENGINEERED CARBONS社製)5部をモーターミルで分散し、顔料ペーストを作製した。次に、水分散性アクリル樹脂AC−1を39.5部、残りの水分散性ポリウレタン樹脂PU−8をディソルバーで混合し、そこに、前記顔料ペーストを加えて混合した。最後に、メラミン樹脂MF−1(商品名「サイメル203」、ALLNEX社製)41.5部を加えて混合し、第2水性ベースコートを得た。ここで、第2水性ベース塗料中の水性ポリウレタン樹脂PU−8の含有量は175.0部とした。
【0080】
<塗膜物性評価>
ポリプロピレン製の板に、製造した水性第1ベースコートを、乾燥膜厚が15μmとなるようにエアスプレーにて塗装し、140℃で30分間加熱した後に試験板から剥離し、試験片とした。
【0081】
(1)破断強度
「テンシロン UTM III型」(商品名、(株)エー・アンド・ディー製)を用いて、10×70mmの大きさになるよう切断した第1ベース単層塗膜の試験片を温度20℃、測定長さ40mm、引っ張り速度4mm/分で測定し、破断時の掛かる荷重を記録した。
【0082】
(2)−20℃での塗膜の損失正接(tanδ)
「動的粘弾性自動測定器」(商品名、(株)エー・アンド・ディー製)を用いて、5×20mmの大きさになるよう切断した第1ベース単層塗膜の試験片を測定周波数11Hz、昇温速度2℃/分で測定し、振動ひずみと昇温時発生する応力との間に生じる位相差より損失正接を−20℃において計算して、記録した。
【0083】
<塗膜性能評価>
リン酸亜鉛処理軟鋼板に、カチオン電着塗料(商品名「カソガードNo.800」、BASF COATINGS社製)を、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装を行い、175℃で25分間焼き付けて、本評価に使用する電着塗膜板(以下、「電着板」)とした。
【0084】
製造した水性第1ベースコートと水性第2ベースコートを脱イオン水で希釈し、粘度を40秒(フォードカップ#4、20℃)とした。また、回転霧化型ベル塗装機(商品名「EGベル9」、ホンダエンジニアリング(株)製)を準備し、塗装条件を25℃、75%(相対湿度)に設定し、以下の方法で複層塗膜形成を行った。
【0085】
電着板に、水性第1ベースコートを、乾燥膜厚が20μmとなるように塗装した。その後、室温で5分間静置し、水性第2ベースコートを、乾燥膜厚が10μmとなるように塗装した。塗装後、5分間室温で静置し、80℃で3分間の予備加熱を行った。室温となるまで放冷した後、クリヤーコート(商品名「ベルコートNo.6100」、BASFジャパン(株)製)を乾燥膜厚が30μmとなるように塗装した。塗装後、室温で10分間静置し、140℃で30分間焼き付けて、試験片を得た。
【0086】
(1)塗膜外観性
塗膜表面の平滑性を「Wavescan DOI」(商品名、BYK−GARDNER社製)により測定して得られたSw値より、試験片の塗膜外観を以下の基準で評価した。
〇: Sw値が20未満
△: Sw値が20以上、かつ25未満
×: Sw値が25以上
【0087】
(2)耐チッピング性
「飛石試験機 JA400LA」(商品名、スガ試験機(株)製)を用いて、−20℃において、55cmの距離から0.2MPa(2.0kgf/cm
2)の圧縮空気により、7号砕石50gを試験片に90度の角度で衝突させた。その後、得られた試験片を水洗し、乾燥し、塗面に布粘着テープ(ニチバン(株)製)を貼着し、それを剥離した後、塗膜のキズの発生程度等を目視で観察し、下記の基準により評価した。
◎: 傷の大きさが極めて小さく、電着面や素地の鋼板が露出していない
○: 傷の大きさが小さく、電着面や素地の鋼板が露出していない
△: 傷の数が多く、大きさは小さいが、電着面や素地の鋼板が露出している
×: 傷の数が多く、またその大きさが大きく、素地の鋼板も大きく露出している
【0088】
(3)塗膜硬度
JIS K5600−5−4に準じ、検定された鉛筆を塗面に対して45°に保持して、手前から前方に向かって芯の折れない最大の力で押した。異なった箇所に対し1本の長さ約10mmとなるように5回繰り返して行った後、軟らかい布等で鉛筆の黒鉛を落として塗膜の状態を調べた。5回のうち4回以上破れのなかったときの鉛筆の硬さを用いて、以下の基準で評価した。
◎: H以上
○: F
△: HB
×: B未満
【0089】
(4)水性第2ベースコ―ト塗膜層から第1水性ベースコート塗膜層へのメラミン樹脂の移行量
電着板に、水性第1ベースコートを、乾燥膜厚が15μmとなるように塗装した。その後、室温で5分間静置し、水性第2ベースコートを、乾燥膜厚が12μmとなるように塗装した。塗装後、5分間室温で静置し、80℃で3分間の予備加熱を行った後に、さらに140℃で30分間焼き付けて、試験片を得た。
【0090】
得られた試験片の中心部を、研磨紙のP800を用いて研磨し、水性第1ベースコート/第2ベースコート界面を露出させた。該露出部をフーリエ変換赤外分光装置(THERMO FISHER SCIENTIFIC社製)を用いてATR法(材質:Si)で測定し、カルボニル基由来の1735cm
−1のピーク強度P
0を基準としたトリアジン環由来の1560cm
−1のピーク強度P
1の比P
1/P
0を求め、あらかじめ作成した検量線からメラミン樹脂の移行量を得た。
【0091】
<実施例2〜14、比較例1〜6>
表2〜表3で示す水性第1ベースコート、水性第2ベースコートを使用し、実施例1と同様の方法で、試験片を作製して塗膜性能評価を行った。評価結果を表2〜表3に示す。
【0092】
<考察>
実施例1〜14では、比較例1〜6に比べて、全体的に優れた結果が得られた。実施例1、9、10、12を参照すると、(A1)成分の重量平均分子量は、60,000〜140,000の範囲が好ましいことが分かった。また、実施例1、11を参照すると、(A1)成分のガラス転移温度は、−50℃よりも低いことが好ましいことが分かった。
【0093】
比較例1及び比較例2では、(A1)成分の分子量が小さすぎたため、塗膜の外観が良好でなかった。
【0094】
比較例1及び比較例6では、水性第2ベースコ―ト塗膜層から第1水性ベースコート塗膜層へのメラミン樹脂の移行量が第1ベースコートの総樹脂固形分100質量部に対して3質量部を超えていたため耐チッピング性が良好でなかった。
【0095】
比較例2は、(A1)成分のガラス転移温度が高すぎたため、耐チッピング性が良好ではなかった。
【0096】
比較例3は、(A2)成分の分子量が小さく、また水性第1ベースコートの単層塗膜の破断強度が小さすぎたため、耐チッピング性が良好ではなかった。
【0097】
比較例4及び5は、水性第1ベースコートの単層塗膜の−20℃での損失正接が低すぎたため、耐チッピング性が良好ではなかった。
【0098】
【表2】
【0099】
【表3】