(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.有機重合体微粒子
本発明の有機重合体微粒子は、二官能性モノマーで架橋された(メタ)アクリル系ポリマー(以下、「架橋(メタ)アクリル系ポリマー」)から形成されるものであり、その疎水性を向上すること、中でも表面の親水化傾向を抑制し、かつAl含有量を低減することで、樹脂フィルム延伸時や摩擦後においても樹脂フィルムとの密着性を維持し、樹脂フィルムからの有機重合体微粒子の脱落を抑制することができる。
【0017】
具体的には、本発明の有機重合体微粒子は、下記沈降開始時間が10秒以上、又は16秒以上となる高疎水性基準を満足する。16秒以上にすることにより、フィルムからの微粒子の脱落が抑制されたものとなる。なお沈降開始時間が16秒以上の場合に確実に微粒子の脱落を抑制するには、ヒンダードフェノール系酸化防止剤又はその由来成分を該微粒子に含有させるのが適切である。また沈降開始時間が16秒未満の場合(ただし、10秒以上)でも、後述する様に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤又はその由来成分を粒子中に所定量以上含有させることで、フィルムからの微粒子の脱落を防止できる。
[沈降開始時間]
断面積5cm
2以上、10cm
2以下のガラス製容器に液温20℃の脱イオン水20mLを満たしたものを用意し、0.02±0.005gの有機重合体微粒子を静かに水面上に浮かべ、1つ目の粒子が沈降を開始するまでの時間を沈降開始時間とする。
【0018】
有機重合体微粒子を水面上に浮かべる際には、スパーテルに載せて水面近くで粒子を水面に置くことで、静かに水面上に浮かべることができる。また、沈降の開始は、水面上に浮かべた有機重合体微粒子の1つ目の粒子が沈み始めたタイミングとする。
また上記沈降開始時間は、少なくとも2回測定し、その平均を取るものとする。
【0019】
なお有機重合体微粒子の密度は水よりも大きく、例えば、1.05g/cm
3以上、好ましくは1.1g/cm
3以上、より好ましくは1.15g/cm
3以上である。また密度の上限は、例えば、1.3g/cm
3以下、好ましくは1.2g/cm
3以下である。また、粒子径状は、真球、多孔質、突起、楕円など球形を基本とし、粒子表面に性能を損なわない程度の修飾がされたものであっても良い。
【0020】
こうした水よりも重い粒子が長時間水面に浮かぶ本発明は、有機重合体微粒子の疎水性が高められているといえ、樹脂フィルムからの脱落が抑制される。沈降開始時間は、好ましくは16秒以上、より好ましくは20秒以上、さらに好ましくは25秒以上、特に好ましくは60秒以上である。
【0021】
また、本発明の有機重合体微粒子に含まれるAl含有量が低減されているため、水和水の残留が抑制され、表面をより疎水性に維持することができる。このため、Al含有量は1ppm以下であり、より好ましくは0.5ppm以下、さらに好ましくは0.1ppm以下である。
Al含有量は、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法により測定することができる。
【0022】
有機重合体微粒子の含水率は、1質量%以下であることが好ましい。含水率は、カールフィッシャー法により測定できる。
また有機重合体微粒子における硫黄元素の含有量は、硫黄原子の量に換算して300ppm以下が好ましく、200ppm以下がより好ましく、100ppm以下がさらに好ましく、10ppm以下がよりさらに好ましく、1ppm未満であることが特に好ましい。
【0023】
本発明の粒子を構成する架橋(メタ)アクリル系ポリマーは、(A)(メタ)アクリル系モノマーと、(B1)二官能架橋性モノマーから形成される。
前記(A)(メタ)アクリル系モノマーとしては、1種又は2種以上を使用でき、(メタ)アクリル酸;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のモノアルキル(メタ)アクリレート類;テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等のモノ環状エーテル含有アクリレート類;等が挙げられる。
(A)(メタ)アクリル系モノマーとしては、モノアルキル(メタ)アクリレート類が好ましく、粒子の形成が容易である観点からは、メチル(メタ)アクリレートが特に好ましい。また、(メタ)アクリル系モノマーとしては、メタクリル系モノマーが好ましい。
【0024】
前記架橋(メタ)アクリル系ポリマーを架橋する(B1)二官能架橋性モノマーとしては、(A)(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能な重合性官能基を2個有するモノマーであればよく、このような重合性官能基としては、ビニル基、(メタ)アクリロイル基等が挙げられ、(メタ)アクリロイル基が好ましく、メタクリロイル基が特に好ましい。
また、前記2つの重合性官能基の間の最短直鎖を構成する元素の数は、2以上であることが好ましく、より好ましくは3以上であり、15以下であることが好ましく、より好ましくは9以下である。また、これらの元素に含まれる酸素原子の個数は、4個以下であることが好ましく、より好ましくは3個以下であり、2個以上であることが好ましい。さらに、疎水性を向上する観点から、(B1)二官能架橋性モノマー1分子に含まれる酸素原子の個数が少ない方が好ましい。
【0025】
(B1)二官能架橋性モノマーとしては、1種又は2種以上を使用でき、具体的には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート等のアルカンジオールジ(メタ)アクリレート;1,3−ブチレンジ(メタ)アクリレート等のアルケンジ(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート;等が挙げられる。ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートのエチレングリコール単位の繰り返し数は、取り扱い性及び疎水性の観点から少ない方が好ましく、例えば2〜150であることが好ましく、より好ましくは2〜23、さらに好ましくは2〜5、最も好ましくは2または3である。エチレングリコール単位の繰り返し数が少ないほど融点が低くなり、常温でも液体になって、取り扱い性が向上する。
中でも、二官
能架橋性モノマーとしては、アルカンジオールジ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0026】
(B1)二官能架橋性モノマーは、前記架橋(メタ)アクリル系ポリマーの5質量%以上であり、10質量%以上であることが好ましく、より好ましくは15質量%以上であり、35質量%以下であり、30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは25質量%以下である。(B1)二官能架橋性モノマーの割合を所定量以上使用することで、有機重合体微粒子の硬さを確保できる。そのためアンチブロッキング剤として適切な物性を有する粒子を得ることができ、例えば、フィルムに配合した時のフィルム間の摩擦係数を確実に低くできる。
【0027】
本発明の有機重合体微粒子には、上記(B1)二官能架橋性モノマー以外の(B2)架橋性モノマーから形成される構造単位が含まれていてもよい。このような架橋性モノマーとしては、1種又は2種以上を使用でき、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の4官能(メタ)アクリル系モノマー;ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の6官能(メタ)アクリル系モノマー等が挙げられる。
【0028】
(B)全架橋性モノマー((B1)二官能架橋性モノマー及び(B2)それ以外の架橋性モノマーの合計)は、前記架橋(メタ)アクリル系ポリマーの5質量%以上であることが好ましく、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上であり、35質量%以下であることが好ましく、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下である。
(B1)二官能架橋性モノマーは、(B)全架橋性モノマーの80質量%以上であることが好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上であり、100質量%であることが最も好ましい。
また、(A)(メタ)アクリル系モノマーと、(B1)二官能架橋性モノマーの合計は、有機重合体微粒子を構成する全モノマー中、80質量%以上であることが好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上であり、100質量%であることが最も好ましい。
【0029】
さらに本発明の有機重合体微粒子は、上述の(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能な(C)他のモノマーとして、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−フェニルスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、エチルビニルベンゼン等のスチレン系モノマー;m−ジビニルベンゼン、p−ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、および、これらの誘導体等の芳香族ジビニル化合物、N,N−ジビニルアニリン、ジビニルエーテル、ジビニルサルファイド、ジビニルスルホン酸等の架橋剤、ポリブタジエンおよび特公昭57−56507号公報、特開昭59−221304号公報、特開昭59−221305号公報、特開昭59−221306号公報、特開昭59−221307号公報等に記載される反応性重合体等の1種又は2種以上を含んでいてもよい。(C)その他のモノマーは、有機重合体微粒子を構成する全モノマー中、10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは2質量%以下である。
【0030】
本発明の有機重合体微粒子は、質量平均粒子径(Dw)が0.5μm以上であることが好ましく、より好ましくは1.0μm以上、さらに好ましくは2.0μm以上である。また、40μm以下であることが好ましく、より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは15μm以下、特に好ましくは10μm以下であり、最も好ましくは8μm以下である。
本発明の有機重合体微粒子を樹脂フィルムに用いる場合、上記範囲の質量平均粒子径の有機重合体微粒子を適宜用いることができる。中でも樹脂フィルムの厚みに応じて粒子径を変化させることが好ましく、有機重合体微粒子の質量平均粒子径を樹脂フィルムの厚みの10倍以下(好ましくは8倍以下、より好ましくは6倍以下)とすることが好ましく、下限は特に限定されないものの、0.1倍以上(好ましくは0.5倍以上、より好ましくは1倍以上)であってもよい。樹脂フィルムの厚みに対する有機重合体微粒子の質量平均粒子径の値を上記範囲とすることで、摩擦係数を抑制しつつ、フィルムからの粒子の脱落を抑制できるため、フィルム生産時に脱落した有機重合体微粒子によりフィルム製造装置が汚染され、フィルムの生産性や生産されたフィルムの透明性に及ぼす悪影響を低減することができる。
【0031】
また有機重合体微粒子の数平均粒子径(Dn)と質量平均粒子径(Dw)との比(Dn/Dw)は、例えば、0.3以上、好ましくは0.4以上であり、0.6以上の高い値であってもよい。Dn/Dwは粒子径の単分散性の指標となるものであり、値が高いほど、微小粒子割合が少ないことを表し、1に近づくほど単分散粒子であることを表す。Dn/Dwを1に近づけることで、粒子の脱落をより適切に防止できる。なおDn/Dwの上限は、例えば、1以下であり、0.9以下であってもよい。
【0032】
また、有機重合体微粒子の粒子径の変動係数(CV値)は、質量基準の粒子径分布より求められる値であり、50%以下が好ましく、より好ましくは45%以下、さらに好ましくは40%以下であり、10%以上が好ましく、20%以上が好ましく、さらに好ましくは30%以上、特に好ましくは35%以上である。CV値は、粒度分布を表しており、この数値を適切にすることで、粒子の脱落をより適切に防止できる。
上記粒子径は、コールター原理を使用した精密粒度分布測定装置(例えば、ベックマン・コールター社製の「コールターマルチサイザーIII型」)により測定できる。粒子径は質量平均粒子径(Dw)と数平均粒子径(Dn)として測定され、質量平均粒子径の変動係数(CV値)は、下記式に従って算出できる。
平均粒子径(Dw)の変動係数(%)=(平均粒子径(Dw)の標準偏差σ/平均粒子径(Dw))×100
なお、有機重合体微粒子の粒径(Dw、Dn)、その比(Dn/Dw)、変動係数(CV)などを所定の範囲にするため、必要に応じて分級をしてもよい。分級としては、湿式分級、乾式分級のどちらでも使用できる。湿式分級については例えば、重合後の重合液を金属製のメッシュを通すことなどにより可能であり、乾式分級は、重合後、さらに乾燥、粉砕した後の粒子を、適切な分級装置を使用して行うことができる。
【0033】
本発明の有機重合体微粒子は、上述した様に、沈降開始時間が16秒未満であってもよい。この様な場合でも、沈降開始時間が10秒以上、好ましくは12秒以上、より好ましくは14秒以上であれば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤又はその由来成分を粒子中に所定量以上含ませることで、フィルムからの微粒子の脱落を防止できる。なおヒンダードフェノール系酸化防止剤又はその由来成分は、勿論、沈降開始時間が16秒以上の前記微粒子に所定量以上含有させてもよい。またヒンダードフェノール系酸化防止剤又はその由来成分は、有機重合体微粒子の重合時に使用する酸化防止剤が有機重合体微粒子中に残った成分であってもよく、有機重合体微粒子を重合後、適当な段階(例えば粒子乾燥後)、ヒンダードフェノール系酸化防止剤又はその由来成分と混合したものであってもよい。
【0034】
有機重合体微粒子中のヒンダードフェノール系酸化防止剤又はその由来成分の量は、例えば、0.2質量%以上、好ましくは0.25質量%以上、より好ましくは0.35質量%以上であり、例えば、2質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.6質量%以下である。
【0035】
有機重合体微粒子中のヒンダードフェノール系酸化防止剤又はその由来成分の量は、例えば、有機重合体微粒子を必要に応じて適当な手段で粉砕した後、適当な有機溶媒(クロロホルムなど)を用いてヒンダードフェノール系酸化防止剤又はその由来成分を抽出し、クロマトグラフィーなどを用いて定量分析することで決定できる。
【0036】
本発明の有機重合体微粒子は、親水化傾向が抑制され、かつAl含有量が低減されている。また親水化傾向を多少有していても、ヒンダードフェノール系酸化防止剤又はその由来物を含有している。このため、フィルムからの脱落が高度に抑制されており、各種フィルム用のアンチブロッキング剤、滑剤等として好適に用いられる。
【0037】
2.製造方法
上記本発明の有機重合体微粒子は、上記(A)(メタ)アクリル系モノマーと(B1)二官能架橋性モノマーとを、重合開始剤及び酸化防止剤の存在下で懸濁重合し、少なくともアルミニウム系凝集剤を加えることなく固液分離して重合体を回収することにより製造できる。
【0038】
ここで所定の疎水性(沈降開始時間10秒以上、特に16秒以上)を達成するために重要となるのが、重合開始剤の量を抑制しつつ、酸化防止剤を共存させる点である。
重合開始剤の量を抑制することで、残留する重合開始剤の反応残渣の量を抑制することができ、得られる重合体微粒子の疎水性を向上できる。また重合開始剤の量を抑制し、酸化防止剤を共存させることで、重合反応が抑制され、(A)(メタ)アクリル系モノマーと(B1)二官能架橋性モノマーの重合が均等に進みやすくなる結果、得られる有機重合体微粒子表面の親水化傾向が抑制される。
このため、重合開始剤は、(A)(メタ)アクリル系モノマーと(B1)二官能架橋性モノマーの合計100質量部に対して、2.5質量部以下であり、より好ましくは1.8質量部以下、さらに好ましくは1.6質量部以下、特に好ましくは1.5質量部以下であって、0.1質量部以上であり、好ましくは0.2質量部以上である。
また酸化防止剤は、(A)(メタ)アクリル系モノマーと(B1)二官能架橋性モノマーの合計100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.2質量部以上であり、特に好ましくは0.3質量部以上であり、1質量部以下であり、より好ましくは0.7質量部以下である。
【0039】
さらに本発明では、得られた有機重合体微粒子を回収する際、少なくともアルミニウム系凝集剤を添加しておらず、通常、該アルミニウム系凝集剤を含む凝集剤そのものを添加していない。凝集剤は、通常、微粒子懸濁液から微粒子を回収する際に用いられるものであり、溶媒中に微粒子が分散し固液分離による回収が困難な微粒子懸濁液でも、微粒子を凝集・沈降させることができ、微粒子の回収率を高めることができる。ところが本発明では、この凝集剤をあえて使用しないことで、有機重合体微粒子表面の疎水性を高められることを見出している。
周知慣用されるアルミニウム系凝集剤であって、本発明で具体的に使用を回避されるものとしては、例えば、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、ポリ水酸化アルミニウム等のアルミニウム塩;アルミニウム錯体;等である。
【0040】
以下、本発明の有機重合体微粒子の製造方法を各工程に分けて、説明する。
懸濁重合の際には、まず、上記(A)(メタ)アクリル系モノマーと(B1)二官能架橋性モノマー、及び必要に応じて(B2)他の架橋性モノマーや(C)他のモノマーとを、溶媒と分散、懸濁させることによりモノマー懸濁液を得ることができる。得られたモノマー懸濁液中のモノマーを重合させることで、有機重合体微粒子の懸濁液を得ることができる。
【0041】
前記重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤を好ましく使用できる。ラジカル重合開始剤としては熱重合開始剤が好ましく、例えば過酸化物系重合開始剤、アゾ化合物系重合開始剤が挙げられ、過酸化物系重合開始剤が好ましい。過酸化物系重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、オルトクロロベンゾイルパーオキサイド、オルトメトキシベンゾイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネートなどのC(O)OOC(O)構造を有する過酸化物、シクロヘキサノンパーオキサイド、t−ヘキシルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート(商品名:パーヘキシルO(登録商標))、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン(商品名:パーヘキサHC(登録商標))などのCOOC構造を有する過酸化物、クメンヒドロパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイドなどのCOOH構造を有する過酸化物、メチルエチルケトンパーオキサイドなどの二量化ケトン型酸化物、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド等が挙げられる。また、アゾ化合物系重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,3−ジメチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,3,3−トリメチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−イソプロピルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、4,4’−アゾビス(4−シアノバレリン酸)、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート等が挙げられる。
【0042】
重合開始剤は、10時間半減期温度が40〜90℃、好ましくは40〜80℃、より好ましくは50〜70℃の範囲にあるものが好ましい。重合開始剤の10時間半減期温度がこの範囲にあれば、重合反応の制御が容易であるとともに、昇温による重合開始剤の除去が容易となる。
前記重合開始剤は、単独で用いても2種以上を組み合わせてもよい。2種以上を組み合わせる場合、10時間半減期温度が異なる重合開始剤を組み合わせるのが好ましい。半減期温度が異なる重合開始剤を組み合わせると、重合途中の昇温段階、又は高温での熟成時間中に半減期温度が高い側の開始剤が分解し、より重合が進む。
10時間半減期温度が異なる重合開始剤を組み合わせる場合、10時間半減期温度が最も低い重合開始剤の10時間半減期温度は、例えば、40〜80℃の範囲にあるものが好ましく、50〜70℃の範囲にあるものがより好ましく、50〜65℃の範囲にあるものが最も好ましい。例えば、ラウリルパーオキサイド(10時間半減期温度61.6℃)が具体例として挙げられる。
10時間半減期温度が異なる重合開始剤を組み合わせる場合、10時間半減期温度が最も高い重合開始剤の10時間半減期温度は、前記最も低い重合開始剤に比べて、例えば、5℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上高いことが推奨される。例えば10時間半減期温度が最も低い重合開始剤としてラウリルパーオキサイド(10時間半減期温度61.6℃)を選んだ場合、10時間半減期温度が最も高い重合開始剤としては、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(商品名:パーヘキシルO(登録商標))(10時間半減期温度69.9℃)、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン(商品名:パーヘキサHC(登録商標))(10時間半減期温度87.1℃)などを選択できる。
【0043】
また、酸化防止剤を共存させることで、得られる有機重合体微粒子の耐熱性を向上できる。酸化防止剤としては、ラジカル捕捉作用を有するものを含むことが好ましく、少なくともヒンダードフェノール系酸化防止剤を含むことが好ましい。ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、フェノールのオルト位にtert−ブチル基などの嵩高い有機基が置換した構造を有する酸化防止剤であり、ラジカルを捕捉する作用を有する。
このような酸化防止剤を粒子に添加することにより、粒子の疎水性をさらに高めることが可能となり、フィルムからの粒子の脱落をより高度に防止できる。
酸化防止剤としてラジカル捕捉作用を有するものを用いると、重合反応の進行が妨げられるため、通常であれば、重合反応を進める為には重合開始剤量を増やす必要がある。本発明では、重合開始剤量をあえて減らすことで、有機重合体微粒子の疎水性を高めており、注目される。
前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、具体的には、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:Irganox(登録商標)1010)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−1−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−へキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、ベンゼンプロパン酸,3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ,C7−C9側鎖アルキルエステル、3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a”−(メシチレン−2,4,6−トリル)トリ−p−クレゾール、カルシウムジエチルビス[[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスホネート]、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス[(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリル)メチル]−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、N−フェニルベンゼンアミンと2,4,4−トリメチルベンゼンとの反応生成物、ジエチル[[3,5‐ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスホネート、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、オクタデシル−3−(3,5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2’,3−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]プロピオノヒドラジド等;が挙げられる。
【0044】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、酸化防止剤の全量100質量部中、50質量部以上であることが好ましく、より好ましくは80質量部以上、さらに好ましくは90質量部以上、特に好ましくは95質量部以上、最も好ましくは98質量部以上であり、上限は100質量部である。
【0045】
またヒンダードフェノール系酸化防止剤は、モノマーの合計100質量部に対して、例えば、0.2質量部以上、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.4質量部以上であり、例えば、5質量部以下、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2質量部以下にしてもよい。ヒンダードフェノール系酸化防止剤そのものの量をモノマーに対して規制することで、重合体粒子中のヒンダードフェノール系酸化防止剤の量を調整することができ、重合体粒子のフィルム脱落防止性をより確実に高めることができる。
【0046】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、前記重合開始剤に比べて特定の範囲で使用することが望ましい。ヒンダードフェノール系酸化防止剤と重合開始剤の比率(ヒンダードフェノール系酸化防止剤/重合開始剤)は、例えば、0.2以上、好ましくは0.25以上、より好ましくは0.3以上、より一層好ましくは0.4以上であり、例えば、10以下、好ましくは7以下、より好ましくは5以下、より一層好ましくは2以下である。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の量を重合開始剤に対して規制することで、重合体粒子中のヒンダードフェノール系酸化防止剤の量を調整することができ、重合体粒子のフィルム脱落防止性をより確実に高めることができる。
【0047】
前記酸化防止剤は、さらにリン系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤、ヒドロキシアミン系酸化防止剤、ビタミンE系酸化防止剤等を含んでいてもよい。前記リン系酸化防止剤としては、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイト、トリス[2−[[2,4,8,10−テトラ−tert−ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェフィン−6−イル]オキシ]エチル]アミン、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス[2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル]エチルエステル亜リン酸、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスフォナイト等;ラクトン系酸化防止剤としては、3−ヒドロキシ−5,7−ジ−tert−ブチル−フラン−2−オンとo−キシレンの反応生成物(CAS No.181314−48−7)等;還元型牛脂を原料としたアルキルアミンの酸化生成物等のヒドロキシアミン系酸化防止剤;3,4−ジヒドロ−2,5,7,8−テトラメチル−2−(4,8,12−トリメチルトリデシル)−2H−ベンゾピラン−6−オール等のビタミンE系酸化防止剤が挙げられる。
【0048】
さらに前記酸化防止剤は硫黄系酸化防止剤を含まないものであることが好ましい。この為有機重合体微粒子における硫黄系酸化防止剤の含有量は硫黄原子の量に換算して1ppm未満であることが好ましい。硫黄系酸化防止剤を用いないことにより臭気の発生が抑えられる。
【0049】
前記分散安定剤としては、有機系分散安定剤、無機系分散安定剤のいずれでもよい。有機系分散安定剤としては、水溶性高分子、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性イオン性界面活性剤、アルギン酸塩、ゼイン、カゼイン等が挙げられる。無機系分散安定剤としては、硫酸バリウム、硫酸カルシウム等、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、リン酸カルシウム、タルク、粘土、ケイソウ土、ベントナイト、水酸化チタン、水酸化トリウム、金属酸化物粉末等が挙げられる。
【0050】
前記水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、ゼラチン、トラガント、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸ナトリウム等の水溶性高分子等が挙げられる。
【0051】
前記アニオン性界面活性剤としては、例えば、オレイン酸ナトリウム、ヒマシ油カリウム等の脂肪酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸エステルエステル塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;アルキルナフタレンスルホン酸塩;アルカンスルホン酸塩;ジアルキルスルホコハク酸塩;アルキルリン酸エステル塩;ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物;ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩;ポリオキシエチレンフェニルエーテル硫酸エステル塩等のポリオキシアルキレンアリールエーテル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等のポリオキシアルキレンアルキル硫酸エステル塩;等が挙げられる。
前記カチオン性界面活性剤としては、ラウリルアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート等のアルキルアミン塩;ラウリルトリメチルアルキルアンモニウムクロリド等の4級アンモニウム塩等が例示できる。
前記非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレン−オキシプロピレンブロックコポリマー等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミンオキシド等が挙げられる。
中でも、重合安定性、懸濁安定性が良好である観点から、アニオン性界面活性剤が好ましく、ポリオキシアルキレンアリールエーテル硫酸塩がより好ましい。
【0052】
本工程において、界面活性剤は、モノマーの全量100質量部に対し、0.1質量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.5質量部以上であり、5質量部以下であることが好ましく、より好ましくは3質量部以下、さらに好ましくは2質量部以下である。
【0053】
前記溶媒としては、水系溶媒が好ましい。水系溶媒は、水単独であってもよく、水と非水溶媒との組み合わせであってもよい。懸濁安定性の観点から、十分量の水を含むことが好ましい。水は、水系溶媒100質量部中、例えば、80質量部以上、好ましくは90質量部以上、さらに好ましくは95質量部以上、特に好ましくは99質量部以上である。
【0054】
また、前記非水溶媒としては、水溶性有機溶媒が好ましい。非水溶媒(特に水溶性有機溶媒)を使用することにより、得られる粒子の粒子径を制御することができる。前記水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、2−メチルプロピルアルコール、2−メチル−2−プロパノール等のアルコール溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶媒;酢酸エチル等のエステル溶媒;ジオキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル溶媒;等が挙げられる。
【0055】
全溶媒中、水の割合は、95質量%以上であることが好ましく、より好ましくは98質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上であり、上限は100質量%である。
また、溶媒は、固形分(モノマー懸濁液から溶媒を除いた成分)100質量部に対して、100質量部以上であることが好ましく、より好ましくは120質量部以上、さらに好ましくは135質量部以上であり、200質量部以下であることが好ましく、より好ましくは160質量部以下、さらに好ましくは150質量部以下である。
【0056】
界面活性剤、モノマー、重合開始剤、酸化防止剤、溶媒の添加順序は特に限定されないが、例えば、まず溶媒と界面活性剤とを混合し、次いでモノマーと重合開始剤と酸化防止剤とを混合することが好ましい。また、予めモノマーに重合開始剤と酸化防止剤を溶解させておくことが好ましい。
【0057】
これらのモノマー、重合開始剤、酸化防止剤、及び必要に応じて溶媒、分散安定剤を分散、懸濁する際には、乳化分散装置を用いることができる。乳化分散装置としては、例えば、マイルダー((株)荏原製作所製)、T.K.ホモミクサー(プライミクス(株)製)等の高速せん断タービン型分散機;ピストン型高圧式均質化機(ゴーリン製)、マイクロフルイダイザー(マイクロフルイディックス(株)製)等の高圧ジェットホモジナイザー;超音波ホモジナイザー((株)日本精機製作所製)等の超音波式乳化分散機;アトライター(三井鉱山(株)製)等の媒体撹拌分散機;コロイドミル((株)日本精機製作所製)等の強制間隙通過型分散機等を用いることができる。なお、上記分散、懸濁の前に、通常のパドル翼等で予備撹拌しておいてもよい。
【0058】
上記分散、懸濁の際の撹拌速度は、例えば、T.K.ホモミクサー MARK II model 2.5(プライミクス(株)製)を用いる場合においては4000rpm以上が好ましく、5000rpm以上がより好ましい。撹拌時間は適宜設定することで所望の粒子径を得ることが出来る。撹拌時間は上記T.K.ホモミクサー MARK II model 2.5を用いる場合においては5〜30分であることが好ましい。また、撹拌時間が前記範囲にあると、液温の上昇を防ぐことができ、重合反応の制御が容易となる。
【0059】
重合温度は、40〜100℃が好ましく、50〜90℃がより好ましい。重合温度は、用いる重合開始剤の種類によって適宜調整でき、例えば、用いる重合開始剤の10時間半減期温度より2〜4℃高い温度とすることが好ましい。10時間半減期温度は、重合開始剤の分解の目安となる温度であるが、重合温度が前記範囲にあると、重合開始剤の分解が適度に進行し、得られる粒子における重合開始剤の残存量が低減されると同時に、重合安定性も良好である。特に使用する重合開始剤がラウリルパーオキサイドの場合、ラウリルパーオキサイドの10時間半減期温度が62℃であることから、重合温度は64〜66℃とすることが好ましい。
【0060】
また、重合時間は、5〜600分であることが好ましく、10〜300分であることがより好ましい。重合時間が前記範囲にあると、重合度を適度に高め、粒子の機械的特性を向上できる。重合雰囲気は、窒素雰囲気、希ガス雰囲気等の不活性雰囲気であることが好ましい。
【0061】
得られた有機重合体微粒子の懸濁液を50℃以下に冷却し、実質的に凝集剤を加えることなく固液分離することにより、有機重合体微粒子を回収する。凝集剤は、用いたモノマー100質量部に対して、0.005質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.001質量部以下、さらに好ましくは0.0005質量部以下であり、特に好ましくは0.0002質量部以下である。最も好ましくは0質量部である。
固液分離の方法としては、濾過、遠心分離、それらの組み合わせから最適な方法を選択出来る。
【0062】
得られた有機重合体微粒子は、乾燥させておくことが好ましい。乾燥温度は、60℃以上であることが好ましく、より好ましくは70℃以上であり、90℃以下であることが好ましく、より好ましくは80℃以下である。乾燥時間は10時間以上、20時間以下が好ましく、12時間以上、18時間以下がより好ましい。乾燥時間が長いほど、乾燥しやすくなり、乾燥時間が短いほど、粒子の着色を抑制できる。
さらに、乾燥後の有機重合体微粒子は、必要に応じて、解砕してもよい。解砕は、10〜40℃で行うことが好ましく、粉砕圧は0.1〜0.5MPaであることが好ましい。
【0063】
3.マスターバッチ
上述のように本発明の有機重合体微粒子は、樹脂からの脱落が抑制され樹脂用添加剤として有用であり、本発明の有機重合体微粒子と樹脂とを含むマスターバッチも本発明の範囲に含まれる。本発明の有機重合体微粒子は、樹脂との親和性が高いため、樹脂に対する有機重合体微粒子の配合量を高くすることができ、かつ有機重合体微粒子をマスターバッチに加工することで、得られる樹脂組成物や樹脂フィルム中における有機重合体微粒子の配合量の調整が容易となり、有機重合体微粒子の分散状態をより均一にして、有機重合体微粒子の偏析を抑制することができる。
【0064】
マスターバッチに用いられる樹脂としては、熱可塑性樹脂に分類される樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂;ポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリウレタン樹脂;(メタ)アクリル樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリスチレン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、ポリオレフィン樹脂が好ましい。前記ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4−メチルペンテン)等が挙げられ、ポリプロピレンが好ましい。ポリプロピレン樹脂には主に、ポリプロピレンのみからなるホモポリマー、ポリプロピレン(好ましくは95質量%以上)と少量(好ましくは5質量%以下)のエチレンを共重合させたランダムポリマーがある。本発明についてポリプロピレン樹脂という場合において、この2種類、もしくはその他プロピレン等と共重合させて物性を改良したポリプロピレン樹脂全般を示すこととする。中でも、プロピレンに由来する単位の割合が好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上であるポリプロピレン樹脂が好ましい。
【0065】
樹脂は、マスターバッチ中、50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは85質量%以上であり、99質量%以下であることが好ましく、より好ましくは95質量%以下である。
【0066】
マスターバッチにおける有機重合体微粒子の含有量は、マスターバッチ中の樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上であり、100質量部以下が好ましく、より好ましくは50質量部以下、さらに好ましくは20質量部以下、一層好ましくは15質量部以下である。
【0067】
本発明のマスターバッチは、さらに酸化防止剤を含んでいることが好ましい。酸化防止剤としては、上記例示した範囲から選択することができ、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤が好ましい。特に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤の合計は、酸化防止剤中80質量%以上が好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上である。
また、ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、酸化防止剤中20〜80質量%が好ましく、より好ましくは30〜70質量%、さらに好ましくは40〜60質量%である。
さらに酸化防止剤は、マスターバッチ中の樹脂100質量部に対して0.1質量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.5質量部以上、さらに好ましくは0.8質量部以上であり、7質量部以下であることが好ましく、より好ましくは4質量部以下、さらに好ましくは2質量部以下、特に好ましくは1.5質量部以下である。
【0068】
マスターバッチを調製する方法としては、例えば、樹脂を合成する重合段階に重合体粒子を添加混合する方法;重合後の樹脂に対してエクストルーダー等を用いて溶融混合する方法;樹脂を溶剤に溶解した状態で重合体粒子を添加混合する方法;等が挙げられる。これらの中でも、有機重合体微粒子が高濃度に分散含有された樹脂組成物を製造しやすいため、溶融混合する方法が好ましい。
調製されたマスターバッチは、通常、粉末状あるいはペレット状に加工される。
【0069】
4.微粒子含有樹脂フィルム及び樹脂組成物
本発明の有機重合体微粒子と樹脂とを含む樹脂フィルム(以下、「微粒子含有樹脂フィルム」という場合がある。)も本発明の範囲に包含される。本発明の有機重合体微粒子は、親水化が抑制されたものであり、かつAl含有量が低減されたものであるため、これを用いることで、フィルム製造時やフィルム摩擦後にも有機重合体微粒子の脱落が抑制された微粒子含有樹脂フィルムを得ることができる。
前記微粒子含有樹脂フィルムに用いる樹脂(以下、「マトリックス樹脂」ともいう。)としては、前記マスターバッチに用いる樹脂として例示した範囲から選択できる。なおマスターバッチに加工してから樹脂フィルムを製造する場合、マトリックス樹脂は、マスターバッチに用いる樹脂と同じであっても異なっていてもよい。
【0070】
また、微粒子含有樹脂フィルムに含まれる有機重合体微粒子は、0.01質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上であり、10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。
【0071】
また、本発明の有機重合体微粒子は、微粒子含有樹脂フィルム成形時の微粒子含有樹脂フィルムからの脱落が抑制されたものである。微粒子含有樹脂フィルムからの粒子の脱落は、以下の脱落率で評価できる。
脱落率(%)=脱落数/(粒子数+脱落数)
ここで、前記脱落数は、拡大倍率500倍の走査型電子顕微鏡像において、270μm×200μmの領域に含まれる粒子脱落痕の数を数え、25領域についてその粒子脱落痕の数を平均して得られた値とする。また、粒子数は、粒子脱落痕の数を測定した領域と同じ領域に含まれる有機重合体微粒子に由来する突起の数を数え、同様に25領域についてその粒子数を平均して得られた値とする。
前記有機重合体微粒子の粒子脱落痕及び有機重合体微粒子に由来する突起は、
図1に示す様に区別可能である。
成形直後の微粒子含有樹脂フィルムからの脱落率は、3%以下であることが好ましく、より好ましくは2.5%以下であり、さらに好ましくは1.5%以下である。
【0072】
さらに、本発明の有機重合体微粒子を用いることにより、微粒子含有樹脂フィルムを摩擦した後でも、微粒子含有樹脂フィルムからの粒子の脱落が抑制されたものとなる。例えば、以下の摩擦試験後における脱落率は、10%以下であることが好ましく、より好ましくは8%以下、さらに好ましくは6%以下である。
[摩擦試験]
底面幅63.5mm、底面長さ63.5mm、重さ200gのおもりに微粒子含有樹脂フィルムを固定し、上面に微粒子含有樹脂フィルムを固定した測定台の上に、微粒子含有樹脂フィルム同士が接触するように微粒子含有樹脂フィルムを固定したおもりを置く。その後、おもりを150mm/分の速度で同方向に滑らせる。おもりを20回滑らせた領域を測定領域とする。
なお微粒子含有樹脂フィルムの両面で結晶成長の度合いに差があり、平滑さが異なる場合、摩擦試験には、結晶成長が少ない(より平滑な)面を使用する。
【0073】
さらに、前記微粒子含有樹脂フィルムの静摩擦係数μ
sは、0.5以下であることが好ましく、より好ましくは0.3以下、さらに好ましくは0.2以下であり、例えば0.01以上であることが好ましい。
また、前記微粒子含有樹脂フィルムの動摩擦係数μ
kは、0.3以下であることが好ましく、より好ましくは0.2以下、さらに好ましくは0.15以下であり、例えば0.01以上であることが好ましい。
【0074】
微粒子含有樹脂フィルムの厚みは、0.1μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.5μm以上、さらに好ましくは0.7μm以上、より一層好ましくは1μm以上であり、1mm以下であることが好ましく、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは400μm以下である。
【0075】
また、有機重合体微粒子の質量平均粒子径と、微粒子含有樹脂フィルムの厚みとの比率(有機重合体微粒子径/微粒子含有樹脂フィルム厚み)は、1.5以上であることが好ましく、より好ましくは2以上、さらに好ましくは2.5以上であり、10以下であることが好ましく、より好ましくは7以下、さらに好ましくは5.5以下である。
【0076】
前記微粒子含有樹脂フィルムをさらに基材フィルムと積層してもよい。このように、微粒子含有樹脂フィルムが少なくとも一層と、基材フィルムとを含む積層フィルムも本発明の技術的範囲に包含される。少なくとも一層の微粒子含有樹脂フィルムが基材フィルムに積層されていることが好ましく、二層の微粒子含有樹脂フィルムが基材フィルムに積層されていることがより好ましい。また基材フィルムの両面又は片面に積層してもよく、基材フィルムの両面に積層することが好ましい。以下、微粒子含有樹脂フィルムと基材フィルムとを積層する場合、微粒子含有樹脂フィルムを「微粒子添加スキン層」、基材フィルムを「コア層」という場合がある。
コア層(基材フィルム)に用いる樹脂は、前記マスターバッチに用いる樹脂として例示した範囲から選択される。また、コア層(基材フィルム)に用いる樹脂は、微粒子含有樹脂フィルムに用いる樹脂と同じであっても異なっていてもよく、同じであることが好ましい。コア層(基材フィルム)には、有機重合体微粒子が含まれていても、含まれていなくてもよい。
【0077】
積層フィルムにおいて、コア層の厚みと微粒子添加スキン層の厚みの比率(コア層厚み/微粒子添加スキン層厚み)は、2以上であることが好ましく、より好ましくは10以上、さらに好ましくは15以上であり、50以下であることが好ましく、より好ましくは30以下、さらに好ましくは20以下である。
また、積層フィルム中に含まれる有機重合体微粒子は、0.01質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%以上であり、5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0078】
微粒子添加スキン層とコア層を積層した積層フィルムの厚みは、5μm以上であることが好ましく、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは15μm以上であり、1mm以下であることが好ましく、より好ましくは500μm以下であり、さらに好ましくは400μm以下である。
【0079】
前記微粒子含有樹脂フィルムを製造する際には、有機重合体微粒子を直接、あるいは前記マスターバッチに加工した後、上記割合となるように樹脂と混合(好ましくは溶融混合)して樹脂組成物とし、この樹脂組成物を成形することにより微粒子含有樹脂フィルムを製造することができる。樹脂組成物を成形する際には、樹脂組成物を溶融押出することが好ましく、さらに延伸することが好ましい。溶融押出しにより未延伸フィルム(キャストフィルム)を得ることができ、この未延伸フィルム(キャストフィルム)を延伸することにより延伸フィルムを製造することができる。
前記微粒子含有樹脂フィルムを製造するための樹脂組成物も、本発明の技術的範囲に包含される。
前記マスターバッチは、有機重合体微粒子が高濃度に含まれており、さらに樹脂と混合し、希釈することで、所期の有機重合体微粒子濃度の樹脂組成物を得ることができる。この際用いる樹脂としては、上記マスターバッチに用いる樹脂と同じであっても異なっていてもよい。特に、生産性、加工性の観点から、ポリオレフィン樹脂であることが好ましく、より好ましくはポリプロピレン樹脂であり、さらに好ましくはプロピレンに由来する単位が好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上のポリプロピレン樹脂であり、特に好ましくはポリプロピレンのみからなるホモポリマーである。マスターバッチを用いることで、有機重合体微粒子の分散性が良好な樹脂組成物を得ることができる。
マスターバッチを用いる場合、希釈に用いられる樹脂は、マスターバッチ1質量部に対して、2質量部以上、200質量部以下となることが好ましく、より好ましくは3質量部以上、150質量部以下、さらに好ましくは5質量部以上、100質量部以下である。
【0080】
有機重合体微粒子と樹脂とを混合し、樹脂組成物を成形する方法としては、Tダイ法等の溶融押出成形法が好ましい。微粒子含有樹脂フィルムと基材フィルムとを積層して積層フィルムを製造する場合には、共押出すればよい。この際、溶融温度は、180〜240℃が好ましく、200〜220℃がより好ましい。
未延伸フィルム(キャストフィルム)の厚みは、例えば、1μm以上、1mm以下であることが好ましい。未延伸の微粒子含有樹脂フィルムの厚みは、1μm以上、900μm以下であることが好ましく、より好ましくは10μm以上、700μm以下、さらに好ましくは15μm以上、500μm以下である。
また微粒子含有樹脂フィルム(微粒子添加スキン層)と基材フィルム(コア層)とを積層する場合、これらを積層した未延伸の積層フィルムの厚みは、例えば、100μm以上、1mm以下であることが好ましく、より好ましくは200μm以上、500μm以下、さらに好ましくは250μm以上、400μm以下である。
【0081】
また、未延伸フィルム(キャストフィルム)を延伸する際の延伸軸は、一軸でも二軸でもよく、二軸が好ましい。二軸延伸する場合、逐次二軸延伸してもよく、同時二軸延伸してもよい。延伸倍率は、縦軸、横軸とも1〜5倍が好ましく、2〜4倍がより好ましい。
さらに、延伸後の微粒子含有樹脂フィルムの厚みは、例えば、0.1μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.5μm以上、さらに好ましくは0.7μm以上であり、50μm以下であることが好ましく、より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下、よりいっそう好ましくは5μm以下、特に好ましくは3μm以下である。
また、微粒子含有樹脂フィルム(微粒子添加スキン層)と基材フィルム(コア層)とを積層する場合、これらを積層した延伸後の積層フィルムの厚みは、5μm以上であることが好ましく、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは15μm以上であり、100μm以下であることが好ましく、より好ましくは50μm以下であり、さらに好ましくは30μm以下である。
【0082】
本発明の有機重合体微粒子はフィルムからの脱落が抑制されている。したがって、樹脂フィルム用のアンチブロッキング剤として有用である。また、本発明の有機重合体微粒子を含む樹脂フィルムは、一般包装資材、食品包装フィルム等の食品包装資材、或いは、医薬品包装フィルム等の医薬品包装資材として好適に用いられる。
【0083】
本願は2015年6月4日に出願された日本国特許出願第2015−114273号、及び2016年3月31日に出願された日本国特許出願第2016−071143号に基づく優先権の利益を主張するものである。上記出願の明細書の全内容が本願に参考のため援用される。
【実施例】
【0084】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下においては、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。
各種測定及び評価は以下の方法に従って行った。
【0085】
Al含有量
Alの定量は高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法により測定した。
測定する有機重合体微粒子0.5g±0.05gを白金るつぼに入れ、ホットプレート上で加熱し炭化させた。白金るつぼごと磁性るつぼに入れ電気炉で700℃に昇温し灰化させた。電気炉から取り出した白金るつぼに硝酸を加え加熱しながら残渣を溶解したものを超純水で20mlにメスアップした。ブランクについては同様の作業を空の白金るつぼで行った。サンプル溶液を適宜希釈し、高周波誘導結合プラズマ発光分析装置:iCAP
6500 DU0 (Thermo Fisher Scientific製)でAlを定量した。
上記装置によるAlの定量限界は2.67ppbであり、ブランクのAl量は15ppbであった。
【0086】
硫黄原子含有量
硫黄原子の定量は高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法により測定した。
測定する有機重合体微粒子0.5g±0.05gを白金るつぼに入れ、ホットプレート上で加熱し炭化させた。白金るつぼごと磁性るつぼに入れ電気炉で700℃に昇温し灰化させた。電気炉から取り出した白金るつぼに硝酸を加え加熱しながら残渣を溶解したものを超純水で20mlにメスアップした。ブランクについては同様の作業を空の白金るつぼで行った。サンプル溶液を適宜希釈し、高周波誘導結合プラズマ発光分析装置:iCAP 6500 DU0 (Thermo Fisher Scientific製)でSを定量した。
上記装置による硫黄の定量限界は4.05ppbであり、ブランクの硫黄量は30ppbであった。
【0087】
平均粒子径・変動係数
有機重合体微粒子0.1gを、界面活性剤(「ネオぺレックス(登録商標)G15」、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、花王(株)製)0.5gに分散し、次に前記分散粘性液に脱イオン水15gを加えたのちに超音波をあて、粒子が分散している状態の有機重合体微粒子分散液を調製し、精密粒度分布測定装置(ベックマン・コールター製の「コールターマルチサイザーIII型」、アパーチャ50μm)を使用して、30,000個の粒子の粒子径を測定し、質量基準の平均粒径および粒子径の変動係数を求めた。
粒子径の変動係数(%)=(σ/d)×100
ここで、σは粒子径の標準偏差、dは、質量基準の平均粒子径を示す。
【0088】
熱分解開始温度
有機重合体微粒子の熱分解開始温度は、熱分析装置(DTG−50M、(株)島津製作所製)を使用して、試料量15mg、昇温速度10℃/分(最高到達温度500℃)、空気中、流量20mL/分の条件で測定した。まず、精密天秤を使用して、規定のアルミカップに15mgの試料を計り取り、このアルミカップを熱分析装置の所定の位置にセットし、空気が規定流量(20mL/分)流れるように調整し、装置が安定した後、昇温を開始した。このとき得られたTG曲線のベースライン(水平線部)の延長線と、質量減少部分(右下がりの斜線部)の接線との交点を有機重合体微粒子の熱分解開始温度とした。
【0089】
疎水性テスト
断面積5cm
2以上、10cm
2以下のガラス製容器に恒温槽を使用して20℃に調整した液温20℃の脱イオン水20mLを満たしたものを用意し、0.02±0.005gの有機重合体微粒子を静かに水面上に浮かべ、1つ目の粒子が沈降を開始するまでの時間を沈降開始時間とした。
【0090】
含水率の測定
カールフィッシャー容量滴定方式自動水分測定装置 KF−07型(三菱化学(株)製)で粒子の含水率の測定を行った。滴定剤はアクアミクロンSS−Z 3mg(三菱化学(株)製)を使用し、滴定剤の力価検定は脱イオン水を用いて行った。十分に粉砕した乾燥粉砕粒子約0.1gをメタノール液中で分散しながら上記滴定剤を使用して測定した。
なお、測定に供する乾燥粉砕粒子は、含水率1%以下の有機重合体微粒子をスーパージェットミルSJ−500(日清エンジニアリング(株)製)を使用し常温下で粉砕圧0.3MPaにて粉砕したものとした。得られた乾燥粉砕粒子の質量基準の平均粒子径は、重合終了後の重合液中の有機重合体微粒子の測定値とから±0.2μm以内の範囲にあり、かつ変動係数が、重合液中の有機重合体微粒子から±2.5%以内の範囲であった。
【0091】
摩擦係数(COF)の測定
実施例1〜6、比較例1〜4で得られた二軸延伸フィルム(BOPP)を用いて摩擦係数を測定した。Tダイ押出成形機((株)創研製)から成形されたフィルムを巻き取ってキャストフィルムを作製する際、巻き取りロールに触れる側と、その逆の面(エアー面と呼ぶ)で冷却速度の違いが存在しており、ロール面側の方が、冷却速度が速い為に結晶成長が抑えられていた。このため、出来上がりのキャストフィルムはロール面側がつるつるしており、エアー面側が大きな結晶成長が見られてざらざらしていた。摩擦係数(COF)の測定では、ロール面側を測定対象とした。
摩擦係数測定装置として(株)島津製作所製オートグラフAG−Xを使用した。摩擦係数測定用の治具として、ロードセル容量50N、専用の摩擦係数測定台(幅200mm×長さ355mm)、移動おもり(寸法 幅63.5mm×長さ63.5mm×厚さ6.4mm、質量 200g)を使用した。
フィルム中心部分の12cm×12cmのエリアと12cm×18cmのエリアとを測定に使用した。すなわちフィルム中心部から12cm×18cmの試料1枚と、12cm×12cmの試料1枚とをカットした。そして12cm×18cmの試料を、摩擦抵抗測定面となるロール面側を上にして測定台に固定し、試料の4隅をセロハンテープで留めた。また12cm×12cmの試料で、そのロール面側が外側にくるように移動おもりをくるみ、セロハンテープで固定した。
試料でくるまれた移動おもりをクロスヘッドに接続し、測定台に張り付けたフィルム上で速度150mm/minで滑らせ、走行抵抗を測定し、以下の静摩擦係数と動摩擦係数を決定した。
静摩擦係数(μ
s)=移動おもり始動時の最大引張試験力/(移動おもり質量×重力加速度)
動摩擦係数(μ
k)=移動おもり走行時の平均引張試験力/(移動おもり質量×重力加速度)
走行距離は100mmとし、動摩擦係数を求める距離は走行開始点から30mmから90mmとした。
摩擦係数測定は20回連続して行い、最初の4回の測定値から摩擦係数の平均値を求めた。
なお走行抵抗を20回測定した後のフィルムを、下記の脱落数のカウントでの摩擦試験後フィルムサンプルとした。
【0092】
SEM測定での脱落数のカウント
得られた摩擦試験後フィルムサンプルと摩擦試験を行っていないフィルムサンプルの表面をSEM(走査型電子顕微鏡)VK−8500((株)キーエンス製)を使用し、加速電圧5kVで観察(二次電子像)を行った。
各フィルムサンプルについて、500倍視野で270μm×200μmの領域を25枚撮影した。各撮影画像に含まれる粒子数(有機重合体微粒子に由来する突起の数)と脱落数(粒子脱落痕)をそれぞれ数え、下記式に基づき、脱落数を求めた。なお摩擦試験を行っていないフィルムサンプルでの脱落数及び粒子数から摩擦試験前(延伸時)の脱落率が求まり、摩擦試験後フィルムサンプルでの脱落数及び粒子数から摩擦試験後の脱落率が求まる。
脱落率(%)=脱落数/(粒子数+脱落数)
SEM画像では、
図1に示すように脱落粒子の痕を明瞭に観察できるので脱落数は容易にカウント出来る。
【0093】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤(Irganox(登録商標)1010)の定量
Irganox(登録商標)1010の定量は、高速液体クロマトグラフィー(High performance liquid chromatograpphy、HPLC)を用いて行った。測定条件は下記に示したとおりである。
カラム:(株)資生堂製 CAPCELL PAK C18 TYPE MG5μm Size 4.6mmI.D.×250mm
カラム温度:40℃
溶離液:メタノール/アセトニトリル=50/50
検出器:UV 280nm
流量:1mL/min
サンプル調整、サンプル測定、及び酸化防止剤濃度の計算は、下記に示したとおりである。
(1)サンプル調整
・Irganox(登録商標)1010標準サンプル
Irganox(登録商標)1010 (チバ・スペシャリティケミカルズ(株)製)のアセトニトリル溶液を作製する。濃度約10〜100ppmの中で数点作成する。
・有機重合体微粒子サンプル
有機重合体微粒子1gをクロロホルム10mLに分散させ、室温にて1日間撹拌する。撹拌後の分散液を0.45μm以下の孔径のフィルターでろ過し、ろ液を収集する。ろ液を濃縮し、アセトニトリルで希釈してサンプル液とする。
(2)サンプル測定
Irganox(登録商標)1010標準サンプル、有機重合体微粒子サンプルを室温にて測定する。Irganox(登録商標)1010標準サンプル(ピーク位置約8.4〜8.5min)の測定結果に従って、検量線を作成する。この検量線を用いて、有機重合体微粒子サンプル中に含まれるIrganox(登録商標)1010を定量する。
【0094】
実施例1
有機重合体微粒子の作製
攪拌機、不活性ガス導入管、還流冷却器および温度計を備えたフラスコに、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(商品名「ハイテノール(登録商標)NF−08」、第一工業製薬(株)製)3.6部を溶解した脱イオン水523部を仕込んだ。そこへ予め調製しておいた、モノマーとしてのメタクリル酸メチル(MMA)252部、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)108部、重合開始剤としてのラウリルパーオキシド(LPO)3.6部(モノマー質量に対し1質量%)、及び酸化防止剤としてのヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASFジャパン製、商品名「Irganox(登録商標)1010」、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート])1.8部(モノマーに対して0.5質量%)を仕込み、T.K.ホモミクサー MARK II model 2.5(プライミクス(株)製)を用い、5000rpmで10分間攪拌して均一な懸濁液とした。
【0095】
懸濁液に脱イオン水を900部追加し、次いで、窒素ガスを吹き込みながら反応溶液が65℃になるまで加熱し、65℃で反応容器を保温し、自己発熱により液温が75℃に到達した時点を反応開始とし、この温度で1.5時間攪拌を続けた後、重合液をさらに85℃まで昇温させて2時間撹拌して重合反応を完了させた。その後、反応液(懸濁液)を50℃以下に冷却し、瀘過して、重合生成物を濾取した。これを熱風乾燥機(ヤマト科学(株)製)を用いて80℃で15時間以上乾燥して有機重合体微粒子を得た。有機重合体微粒子の含水率は1%以下であった。
得られた乾燥有機重合体微粒子は乾燥により凝集しているので、スーパージェットミルSJ−500(日清エンジニアリング(株)製)を使用し常温下で粉砕圧0.3MPaにて粉砕した。これにより凝集のない有機重合体微粒子を得た。
【0096】
フィルムの作製
さらに、得られた有機重合体微粒子10部と、ポリプロピレンペレット(ノバテック(登録商標) FY4 日本ポリプロ(株)製)90部、酸化防止剤としてのIrganox(登録商標)1010 0.5部、及びIrgafos(登録商標)168 0.5部とを、同方向回転二軸混練押出機((HK−25D)(株)パーカーコーポレーション製)を用いて混合して212℃で溶融混練をし、水冷しストランドを得た。適宜切断することで有機重合体微粒子が10%入ったポリプロピレンマスターバッチを作製した。
【0097】
得られたポリプロピレンマスターバッチとポリプロピレンペレットを用いて2種3層のキャストフィルムを作製した。コア層の両側に微粒子添加スキン層を積層する構成を採用した。フィルムの作製にはTダイ押出成形機((株)創研製)を用いた。2層の微粒子添加スキン層には有機重合体微粒子が10%のマスターバッチ1部、ポリプロピレンペレット9部を使用、コア層にはポリプロピレンペレットのみを180部使用した。キャストフィルムの厚みは微粒子添加スキン層がいずれも16μm、コア層が288μmとなり、合計厚みが320μmのキャストフィルムを得た。
【0098】
得られたキャストフィルムを縦×横=9×9cmにカットし、同時2軸延伸機(東洋精機(株)製)で165℃の加熱条件で延伸倍率は縦3倍、横3倍の設定で同時二軸延伸を行った。得られたフィルムの大きさは22cm×22cmであった。なお、延伸後のフィルムは中心部分の厚みが平均20μmであるが、フィルム端部分は100μm程度になり、中心部分12cm×12〜18cm部分が主にフィルム厚み約20μmとなった。
なお、Tダイ押出成形機((株)創研製)から成形されるフィルムは、キャストフィルムを作製する際に巻き取って得られ、巻き取りロールに触れる側はロール面と呼ばれ、その逆の面はエアー面と呼ばれる。一般的にロール面側の方が、冷却速度が速い為に結晶成長が抑えられ、出来上がりのキャストフィルムのロール面側は、なめらかでありエアー面側は大きな結晶成長が見られ、ロール面側と比較して凹凸のある表面となる。
【0099】
得られた有機重合体微粒子の平均粒子径、変動係数、平均粒子径比(Dn/Dw)、沈降開始時間、熱分解開始温度、フィルムの摩擦係数(μ
s、μ
k)、摩擦試験前後のフィルム脱落率を表2に示す。
【0100】
実施例2〜6
モノマーの組成、及び重合開始剤の使用量を表1に示す通りとなるように変更したこと以外は実施例1と同様にして、有機重合体微粒子を製造した。乾燥後の有機重合体微粒子の含水率はいずれも1%以下であった。さらに、実施例1と同様にして、フィルムを製造した。
得られた有機重合体微粒子の平均粒子径、変動係数、平均粒子径比(Dn/Dw)、沈降開始時間、熱分解開始温度、フィルムの摩擦係数(μ
s、μ
k)、摩擦試験前後のフィルム脱落率を表2に示す。
また、実施例3で得られた有機重合体微粒子のAl含有量を測定したところ、30ppb未満であった。
【0101】
実施例7
モノマー組成、及び重合開始剤の使用量は実施例2と同様にして、有機重合体微粒子を製造した。乾燥後の有機重合体微粒子の含水率は1%以下であった。得られた乾燥有機重合体微粒子は乾燥により凝集しているので、スーパージェットミルSJ−500(日清エンジニアリング(株)製)を使用し、常温下で粉砕圧0.3MPaにて粉砕した。これにより凝集のない有機重合体微粒子を得た。得られた微粒子は、分級機TC―15(日清エンジニアリング(株)製)を使用し、主に1μm以下の微小粒子を取り除くことを行った。
得られた有機重合体微粒子の平均粒子径、変動係数、平均粒子径比(Dn/Dw)、沈降開始時間、熱分解開始温度、フィルムの摩擦係数(μ
s、μ
k)、摩擦試験前後のフィルム脱落率を表2に示す。
【0102】
実施例8
重合開始剤の使用量は7.2部に変更した以外は、実施例2と同様にして、有機重合体微粒子を製造した。
得られた有機重合体微粒子の平均粒子径、変動係数、平均粒子径比(Dn/Dw)、沈降開始時間、熱分解開始温度、フィルムの摩擦係数(μ
s、μ
k)、摩擦試験前後のフィルム脱落率を表2に示す。
【0103】
実施例9
重合開始剤としてパーヘキシルO(登録商標)(t−ヘキシルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート(日油(株)製)を3.6部追加して使用した以外は、実施例2と同様にして、有機重合体微粒子を製造した。
得られた有機重合体微粒子の平均粒子径、変動係数、平均粒子径比(Dn/Dw)、沈降開始時間、熱分解開始温度、フィルムの摩擦係数(μ
s、μ
k)、摩擦試験前後のフィルム脱落率を表2に示す。
【0104】
実施例10
重合開始剤としてパーヘキサHC(登録商標)(1,1-ジ(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン(日油(株)製)を3.6部追加して使用した以外は、実施例2と同様にして、有機重合体微粒子を製造した。
得られた有機重合体微粒子の平均粒子径、変動係数、平均粒子径比(Dn/Dw)、沈降開始時間、熱分解開始温度、フィルムの摩擦係数(μ
s、μ
k)、摩擦試験前後のフィルム脱落率を表2に示す。
【0105】
実施例11
2官能性架橋モノマーとして1,4−ブタンジオールジメタアクリレートを使用し、重合開始剤を7.2部に変更した以外は実施例2と同様にして、有機重合体微粒子を製造した。
得られた有機重合体微粒子の平均粒子径、変動係数、平均粒子径比(Dn/Dw)、沈降開始時間、熱分解開始温度、フィルムの摩擦係数(μ
s、μ
k)、摩擦試験前後のフィルム脱落率を表2に示す。
【0106】
実施例12
酸化防止剤の添加をしないこと以外は実施例3と同様にして有機重合体微粒子を製造した、乾燥後の有機重合体微粒子の含水率は1%以下であった。得られた乾燥有機重合体微粒子は乾燥により凝集しているので、スーパージェットミルSJ−500(日清エンジニアリング(株)製)を使用し、常温下で粉砕圧0.3MPaにて粉砕した。これにより凝集のない有機重合体微粒子を得た。
この有機重合微粒子100質量部に対して、ヒンダードフェノール系酸化防止剤であるirganox(登録商標)1010を0.5部添加し、乳鉢にて混合し、酸化防止剤添加有機重合体微粒子を製造した。
得られた有機重合体微粒子の平均粒子径、変動係数、平均粒子径比(Dn/Dw)、沈降開始時間、熱分解開始温度、フィルムの摩擦係数(μ
s、μ
k)、摩擦試験前後のフィルム脱落率を表2に示す。
【0107】
比較例1、2、3
モノマーの組成を表1に示す通りとなるように変更したこと以外は実施例1と同様にして、重合反応を完了させた。その後、反応液(懸濁液)を70℃から80℃に冷却し、0.6%硫酸アルミニウム水溶液を25部添加して30分間以上攪拌した。その後50℃以下になるまで冷却し得られた反応液を濾過して、重合生成物を濾取し、これを熱風乾燥機(ヤマト科学(株)製)で80℃15時間以上乾燥して有機重合体微粒子を得た。
得られた乾燥有機重合体微粒子は乾燥により凝集しているので、スーパージェットミルSJ−500(日清エンジニアリング(株)製)を使用し常温下で粉砕圧0.3MPaにて粉砕した。これにより凝集のない有機重合体微粒子を得た。さらに、実施例1と同様にして、フィルムを製造した。
また、得られた有機重合体微粒子のAl含有量を測定したところ、比較例2の有機重合体微粒子では42.3ppm、比較例3の有機重合体微粒子では32.8ppmであった。
得られた有機重合体微粒子の平均粒子径、変動係数、平均粒子径比(Dn/Dw)、沈降開始時間、熱分解開始温度、フィルムの摩擦係数(μ
s、μ
k)、摩擦試験前後のフィルム脱落率を表2に示す。
【0108】
比較例4
使用する酸化防止剤をAO−412S(商品名)(2,2ビス((3ドデシルチオ)1-オキソプロピルメチル)プロパン-1,3ジイルビス3-(ドデシルチオ)プロピネート((株)ADEKA製)を1.44部、irganox(登録商標)1010を0.36部 使用した以外は実施例2と同様にして有機重合体微粒子を製造した。
得られた有機重合体微粒子の平均粒子径、変動係数、平均粒子径比(Dn/Dw)、沈降開始時間、熱分解開始温度、硫黄原子含有量、フィルムの摩擦係数(μ
s、μ
k)、摩擦試験前後のフィルム脱落率を表2に示す。
【0109】
比較例5
モノマー組成をMMA356.4部、EGDMAを3.6部に変更した以外は実施例1と同様にして有機重合体微粒子を製造した。
得られた有機重合体微粒子の平均粒子径、変動係数、平均粒子径比(Dn/Dw)、沈降開始時間、熱分解開始温度、フィルムの摩擦係数(μ
s、μ
k)、摩擦試験前後のフィルム脱落率を表2に示す。
【0110】
比較例6
ヒンダードフェノール系酸化防止剤を添加しないこと以外は実施例3と同様にして有機重合体微粒子を製造した。
得られた有機重合体微粒子の平均粒子径、変動係数、平均粒子径比(Dn/Dw)、沈降開始時間、熱分解開始温度、フィルムの摩擦係数(μ
s、μ
k)、摩擦試験前後のフィルム脱落率を表2に示す。
【0111】
【表1】
【0112】
表中、「MMA」はメチルメタクリレート、
「EGDMA」はエチレングリコールジメタクリレート、
「1.6HX」は1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、
「3EG」はトリエチレングリコールジメタクリレート、
「1.4BGDMA」は1,4−ブタンジオールジメタクリレート、
「TMPTMA」はトリメチロールプロパントリメタクリレート、
「LPO」はラウロイルパーオキサイド、
「パーヘキシルO(登録商標)」はt−ヘキシルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、
「パーヘキサHC(登録商標)」は1,1-ジ(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、
「Irganox(登録商標)1010」はペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、
「AO−412S(商品名)」は2,2ビス((3ドデシルチオ)1-オキソプロピルメチル)プロパン-1,3ジイルビス3-(ドデシルチオ)プロピネートをそれぞれ意味するものとする。
【0113】
【表2】