(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項中に用いられる「第1」、「第2」等の用語は、特に言及がない限りいかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。
【0010】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る冷凍装置を搭載する低温貯蔵庫の概略構造を示す斜視図である。
図2は、低温貯蔵庫の概略構造を示す背面図である。
図3は、
図2において破線で囲まれた領域Aの拡大図である。なお、
図2は、低温貯蔵庫の内部を透視した状態を図示している。低温貯蔵庫1(1A)は、例えば細胞や生体組織等の生体由来材料、薬剤、試薬等の低温保存に用いられる。低温貯蔵庫1は、上面が開放された断熱箱体2と、断熱箱体2に隣接して配置される機械室4とを有する。
【0011】
断熱箱体2は、いずれも上面が開放された外箱2a及び内箱2bを有する。外箱2aと内箱2bとの間の空間には、図示しない断熱材が充填される。断熱材は、例えばポリウレタン樹脂、グラスウール、真空断熱材である。内箱2b内の空間は、貯蔵室6を構成する。貯蔵室6は、保存対象物が収容される空間である。目標とする貯蔵室6内の温度(以下では適宜、庫内温度と称する)は、例えば−50℃以下である。貯蔵室6の所定位置には、庫内温度センサ44が設けられる。庫内温度センサ44は庫内温度を検知し、検知した温度に基づく検出値を生成して、後述する制御部36に出力する。
【0012】
断熱箱体2の上面には、パッキンを介して断熱扉8が設けられる。断熱扉8は、一端が断熱箱体2に固定され、当該一端を中心として回動自在に設けられる。これにより、貯蔵室6の開口が開閉自在に閉塞される。断熱扉8の他端側には、断熱扉8を開閉操作するための把手部10が設けられる。内箱2bの断熱材側の壁面には、後述するヒートパイプ16の蒸発部26が配置される。これにより、蒸発部26での冷媒の蒸発によって貯蔵室6内が冷却される。
【0013】
機械室4は、本実施の形態の冷凍装置12が収容される空間である。ただし、ヒートパイプ16の配管部28の一部と蒸発部26とは、断熱箱体2内に配置される。機械室4は、貯蔵室6から離間して配置される。機械室4内に配置される冷凍機14の冷却部22、ヒートパイプ16の凝縮部24及び配管部28の一部は、図示しない断熱材で覆われて周囲から断熱される。断熱材は、例えばウレタン樹脂、グラスウール、断熱ゴムである。断熱箱体2及び機械室4の構造は公知であるため、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0014】
冷凍装置12は、貯蔵室6内を−50℃以下の超低温まで冷却することができる装置である。冷凍装置12は、冷凍機14と、ヒートパイプ16と、冷媒容器18と、ヒートパイプ温度センサ42と、制御部36とを備える。
【0015】
冷凍機14は、ヒートパイプ16の凝縮部を冷却するための装置である。冷凍機14は、機械室4に設けられる。冷凍機14としては、例えば、ギフォード・マクマホン式(GM)冷凍機、パルスチューブ冷凍機、スターリング冷凍機、ソルベー冷凍機、クロードサイクル冷凍機、ジュール・トムソン式(JM)冷凍機等の従来公知の冷凍機を使用することができる。冷凍機14は、外部の熱を吸収する冷却部22を有する。冷凍機14の構造は公知であるため、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0016】
ヒートパイプ16は、冷媒の気化熱を利用して冷却対象を冷却する装置であり、冷凍機14の冷却部22と貯蔵室6内との間の熱交換を仲介する。ヒートパイプ16は、凝縮部24、蒸発部26、及び配管部28を有する。凝縮部24は、冷凍機14の冷却部22と熱交換可能に接続される。凝縮部24と冷却部22とが熱交換することで、凝縮部24内の冷媒が冷却されて凝縮し、液体になる。冷媒としては、例えばR740(アルゴン)、R50(メタン)、R14(テトラフルオロメタン)、R170(エタン)等の冷媒ガスを使用することができる。冷媒には、冷凍機14において設定可能な貯蔵室6の目標温度の最低値よりも低い標準沸点温度を有するものが選定される。このことは、貯蔵室6がヒートパイプ16により冷却されるため、外気温が超低温状態でない限り、貯蔵室6が冷媒の沸点以下とはなり得ないことからも理解できる。冷媒の標準沸点とは、大気圧(1atm=101325Pa)下での沸点である。標準沸点は、文献値や公知の気液平衡曲線データから決定される値を採用することができる。
【0017】
より具体的には
図3に示すように、凝縮部24は、凝縮フィン30と、凝縮フィン30の溝で構成される冷媒流路32とを有する。そして、凝縮フィン30が冷却部22に接続される。冷却部22の冷熱は、冷媒流路32を流れる冷媒に凝縮フィン30を介して伝達される。気体状の冷媒は、冷媒流路32において液体になる。
【0018】
凝縮部24には、配管部28の一端が接続される。より具体的には、配管部28の一端は、冷媒流路32に接続される。また、配管部28の他端は、蒸発部26に接続される。冷媒は、配管部28を介して凝縮部24と蒸発部26との間で循環する。
【0019】
蒸発部26は、貯蔵室6と熱交換可能に接続される。本実施の形態では、蒸発部26は、内箱2bの断熱材側の壁面に沿って延在している。凝縮部24で液体となった冷媒は、配管部28を介して蒸発部26に流入する。そして、蒸発部26において貯蔵室6内から吸熱して蒸発する。この冷媒の蒸発によって、貯蔵室6内が冷却される。蒸発部26で気体となった冷媒は、配管部28を介して凝縮部24の冷媒流路32に流入する。そして、凝縮部24において再び凝縮されて液体になる。
【0020】
凝縮部24は、蒸発部26よりも鉛直方向上方に配置される。したがって、凝縮部24において液体になった冷媒は、重力により蒸発部26に移送される。すなわち、本実施の形態のヒートパイプ16は、重力により冷媒を循環させる、いわゆるサーモサイフォンである。
【0021】
図1に示すように、本実施の形態の配管部28は、奥側接続管28aと手前側接続管28bとを有する。冷媒流路32には、奥側接続管28aの一端と手前側接続管28bの一端とが接続される。また、蒸発部26は管状であり、奥側接続管28aの他端が蒸発部26の一端に接続される。蒸発部26の他端は、手前側接続管28bの他端に接続される。
【0022】
冷媒の一部は、冷媒流路32から奥側接続管28aを介して蒸発部26に流入する。この冷媒は、内箱2bの奥側(貯蔵室6背面側)を主に冷却しながら、蒸発部26の下端に到達する。この過程で蒸発した気体状の冷媒は、奥側接続管28aを介して冷媒流路32へ戻る。すなわち、蒸発部26内及び奥側接続管28a内で、液体状の冷媒と気体状の冷媒とが対向して流れる。このとき、液体冷媒が配管内の外側を流れ、気体冷媒が配管内の中心側を流れる。
【0023】
また、冷媒の他の一部は、冷媒流路32から手前側接続管28bを介して蒸発部26に流入する。この冷媒は、内箱2bの手前側(貯蔵室6の正面側)を主に冷却しながら、蒸発部26の下端に到達する。この過程で蒸発した気体状の冷媒は、手前側接続管28bを介して冷媒流路32へ戻る。すなわち、蒸発部26内及び手前側接続管28b内で、液体状の冷媒と気体状の冷媒とが対向して流れる。このとき、液体冷媒が配管内の外側を流れ、気体冷媒が配管内の中心側を流れる。
【0024】
つまり、冷媒流路32と蒸発部26の下端部との間には、奥側接続管28aを含む第1系統の冷媒循環路と、手前側接続管28bを含む第2系統の冷媒循環路とが形成されている。
【0025】
また、本実施の形態のヒートパイプ16は重力で冷媒を循環させる構造であるため、配管部28は水平面に対して傾斜している。配管内を流れる液体冷媒の大部分は、配管の鉛直方向下側の半面の範囲を流れる。冷媒を円滑に循環させるためには、配管の傾斜角は大きいほうが好ましい。一方で、配管の傾斜角を大きくすると、低温貯蔵庫1の高さが高くなる。その結果、貯蔵室6に保存対象物を収容する際の作業性が低下する。このため、配管の傾斜角は10度程度が好ましい。
【0026】
なお、ヒートパイプ16は、毛細管力により冷媒を循環させる構造であってもよい。この場合、例えば奥側接続管28aが往路部とされ、手前側接続管28bが復路部とされて、冷媒流路32、往路部、蒸発部26及び復路部をこの順につなぐ冷媒の循環路が構成される。
【0027】
冷媒容器18は、ヒートパイプ16に接続されて、ヒートパイプ16の冷媒を貯留する貯蔵タンクである。冷媒容器18は、配管34を介して、凝縮部24の冷媒流路32に接続される。冷媒は、配管34を介してヒートパイプ16と冷媒容器18との間を行き来することができる。ヒートパイプ16内の圧力が高まると、一部の冷媒はヒートパイプ16から冷媒容器18に移動する。また、ヒートパイプ16内の圧力が下がると、一部の冷媒は冷媒容器18からヒートパイプ16に移動する。これにより、ヒートパイプ16内の圧力を調節することができる。ヒートパイプ16の内圧は、大気圧以上に設定される。
【0028】
ヒートパイプ温度センサ42は、ヒートパイプ16の温度を検出する。ヒートパイプ温度センサ42により、実質的に冷媒の温度を測定することができる。本実施の形態では、ヒートパイプ温度センサ42は、配管部28の外側面に設置されて、配管部28の温度(以下では適宜、配管部温度と称する)を検出する。配管部28は、蒸発部26に比べて貯蔵室6内からの温度の影響を受けにくい。また、配管部28は、凝縮部24に比べて冷却部22からの温度の影響を受けにくい。したがって、配管部28の温度を検出することで、より正確に冷媒の温度を測定することができる。
【0029】
より好ましくは、ヒートパイプ温度センサ42は、配管部28における機械室4に延在する部分の温度を検出する。さらに好ましくは、ヒートパイプ温度センサ42は、配管部28における機械室4に延在する部分の中央部の温度を検出する。当該中央部は、機械室4に延在する部分の両端部から等距離にある中間点を含む領域である。ヒートパイプ温度センサ42による温度検出は、局所的な熱の流入の影響を受けやすい。一方で、配管部28は、断熱箱体2から機械室4にかけて延在している。また、機械室4における断熱箱体2との境界部には、境界部を経由した局所的な熱の流入が発生し得る。したがって、配管部28における機械室4に延在する部分のうち断熱箱体2側の端部は、この局所的な熱の流入の影響を受けやすい。よって、配管部28における機械室4に延在する部分の中央部の温度をヒートパイプ温度センサ42が検出することで、より正確に冷媒の温度を測定することができる。また、ヒートパイプ温度センサ42は、配管部28の外側面のうち鉛直方向下方を向く領域に設置されることが好ましい。液状の冷媒は、配管部28内の鉛直方向下側の領域を流れるためである。
【0030】
ヒートパイプ温度センサ42及び庫内温度センサ44は例えば、熱電対、測温抵抗体等の温度に応じて電気的特性が変化するセンサである。熱電対は、基準接点の温度と測温接点の温度差に応じた熱起電力を、電圧として測温接点に出力する。そして、電圧値に応じた温度値を検出する。測温抵抗体は、例えばプラチナ薄膜測温抵抗体などである。プラチナ薄膜測温抵抗体としては、0℃での抵抗値が100ΩであるPT100や、0℃での抵抗値が1000ΩであるPT1000などがある。これらは、国内規格としてはJIS C1604で規定されている。これらの測温抵抗体は、測温部の温度に応じて変化する抵抗値を測定する。そして、所定の変換式や変換表に準じて抵抗値を温度値に変換して出力する。各温度センサは、温度値を制御部36に出力する。なお、制御部36に送られる温度情報は直接の温度値でなくてもよく、温度値に応じた電圧値や電流値、抵抗値であってもよい。以下では適宜、これらを総称して検出値とする。ただし、使用されるセンサの種類によって温度値に対する電圧値等の変化が直線でない場合があるので、制御の際には考慮する必要がある。ヒートパイプ温度センサ42及び庫内温度センサ44としては、従来公知のものを用いることができる。また、ヒートパイプ温度センサ42と庫内温度センサ44とは、必ずしも同じ種類のセンサである必要はなく、最終的に同じスケールで検出値が出力されればよい。
【0031】
制御部36は、ヒートパイプ温度センサ42の検出結果に基づいて、冷凍機14の駆動を制御する。また、制御部36は、ヒートパイプ16の温度が冷媒の標準沸点を下回らないように冷凍機14を制御する。制御部36は、ハードウェア構成としてはアンプやデジタルシグナルプロセッサ、コンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現される。また、制御部36は、ループ制御回路や、コンピュータプログラム等による制御ソフトウェアによって実現される。制御部36がハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0032】
以下に、本実施の形態の制御部36が実行する制御について詳細に説明する。
図4は、実施の形態1に係る冷凍装置が実行する制御の一例を示すフローチャートである。冷凍装置12は、このフローが制御部36により所定のタイミングで繰り返し実行されることで動作する。
【0033】
本実施の形態の制御部36は、ヒートパイプ温度センサ42の検出結果に加え、庫内温度センサ44の検出結果に基づいて、冷凍機14の駆動を制御する信号を生成する。具体的には、
図4に示すように、まずヒートパイプ温度センサ42と庫内温度センサ44とによって、配管部と庫内温度とが検出される(S101)。制御部36は、ヒートパイプ温度センサ42から配管部温度に応じた検出値を取得し、庫内温度センサ44から庫内温度に応じた検出値を取得する。次に、配管部温度と冷媒の標準沸点との差が予め定められた所定値を超えるか判断される(S102)。これにより、配管部28の温度が冷媒の標準沸点を下回るおそれの有無、言い換えれば冷媒の温度が標準沸点を下回るおそれの有無が判断される。当該所定値は、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。
【0034】
配管部温度と冷媒の標準沸点との差が所定値を超える場合(S102のY)、庫内温度に基づく冷凍機14の制御信号が生成される(S103)。具体的には、制御部36は、庫内温度センサ44の検出結果に基づいて、具体的には庫内温度センサ44から取得した検出値に応じた信号に基づいて、庫内温度が所定の目標温度に対して所定範囲内となるように、冷凍機14の出力を調整する。例えば、制御部36は、目標温度と現在の庫内温度との差を検出し、当該差に基づいて冷凍機14の出力を調整する。目標温度は、例えば低温貯蔵庫1の使用者により設定される。所定範囲は、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。
【0035】
冷凍機14の出力調整としては、従来公知の一般的な調整方法を採用することができる。このような出力調整としては、例えば、目標温度と現在の庫内温度との差が所定範囲内にある場合に出力を停止し、当該差が所定範囲を超えると出力を再開する、単純なオン/オフ制御が挙げられる。また、出力調整回路としてインバータ回路等を備え、冷凍機14の出力を連続的に変更可能な場合は、いわゆるPID制御によって連続的に出力値を調整してもよい。これにより、より安定した温度制御が可能である。
【0036】
配管部温度と冷媒の標準沸点との差が所定値以下である場合(S102のN)、制限された冷凍機14の制御信号が生成される(S104)。すなわち、庫内温度センサ44の検出結果によらず冷凍機14の出力が制限される。制御部36は、ヒートパイプ温度センサ42から取得した検出値に基づいて、配管部温度が冷媒の標準沸点を下回らないように冷凍機14を制御する信号を生成する。この制御は、庫内温度の制御よりも優先される。所定値は、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。
【0037】
例えば、制御部36は、ヒートパイプ16に充填される冷媒の標準沸点を予め記憶している。そして制御部36は、ヒートパイプ温度センサ42の現在の検出値と、配管部温度が冷媒の標準沸点にある場合にヒートパイプ温度センサ42が出力する検出値(この値は予め制御部36に記憶されている)との差が、所定値以下になると、冷凍機14の出力を制限する。一例として、制御部36は、配管部温度と冷媒の標準沸点との差が所定値以下となった場合に、冷凍機14の駆動を停止させる。また、他の例として、出力調整回路としてインバータ回路等を備え、冷凍機14の出力を連続的に変更可能な場合は、冷凍機14を継続的に駆動させつつ、配管部温度が冷媒の標準沸点を下回らないように冷凍機14の出力を制限してもよい。
【0038】
そして、ステップS103又はステップS104で生成された冷凍機14の制御信号が冷凍機14に出力され、設定された出力値で冷凍機14が駆動する(S105)。本ルーチンにおいて冷凍機14の出力が制限された結果、配管部温度が上昇し、次回以降のルーチンにおいて配管部温度と冷媒の標準沸点との差が所定値を超えると(S102のY)、庫内温度センサ44の検出結果に基づく冷凍機14の制御が再開される(S103)。
【0039】
以上説明したように、本実施の形態に係る冷凍装置12は、冷凍機14と、ヒートパイプ16と、ヒートパイプ温度センサ42と、制御部36とを備える。ヒートパイプ温度センサ42は、ヒートパイプ16の温度を検出する。制御部36は、ヒートパイプ温度センサ42の検出結果に基づいて、ヒートパイプ16の温度が冷媒の標準沸点を下回らないように、すなわち標準沸点以上となるように冷凍機14の駆動を制御する。ヒートパイプ16の温度が冷媒の標準沸点を下回ると、冷媒の液化が進んで気液平衡状態がシフトし、ヒートパイプ16の内圧が大気圧未満となり得る。これに対し、ヒートパイプ16の温度が冷媒の標準沸点以上となるように冷凍機14の駆動を制御することで、ヒートパイプ16の内圧が大気圧未満となることを回避することができる。つまり、ヒートパイプ16の温度が冷媒の標準沸点以上であれば、ヒートパイプ16内の冷媒が大気圧以上の圧力下で気液平衡状態となっていることが保証される。この結果、ヒートパイプ16への外気の侵入を抑制することができる。
【0040】
ヒートパイプ16への外気の侵入を抑制できれば、冷凍機14が停止して冷媒の温度が上昇したとしても、ヒートパイプ16の内圧が過度に上昇することを回避することができる。このため、ヒートパイプ16の破損や破裂を防ぐことができる。また、外気の侵入によるヒートパイプ16の腐食も回避することができる。また、ヒートパイプ16の内圧を圧力センサで監視することで、ヒートパイプ16の破損を防ぐことも考えられる。しかしながら、ヒートパイプ温度センサ42を採用する方が、圧力センサを採用する場合よりもコストを低減することができる。
【0041】
また、本実施の形態のヒートパイプ温度センサ42は、ヒートパイプ16のうち、凝縮部24と蒸発部26とを接続する配管部28の温度を検出する。これにより、気液平衡状態にある冷媒の温度(気液平衡温度)をより正確に把握することができる。また、配管部28のうち機械室4に延在する部分、さらにはその中央部の温度を検出することで、気液平衡温度をさらに正確に把握することができる。したがって、これらの部位の温度が冷媒の標準沸点を下回らないように冷凍機14の駆動を制御することで、ヒートパイプ16の内圧が大気圧未満となることをより確実に回避することができる。
【0042】
以上説明したヒートパイプ16の温度と内圧との関係、冷凍機14の駆動制御によるヒートパイプ16の内圧調整、及び設計庫内温度と冷媒の標準沸点との関係は、本発明者らが鋭意研究の結果見出したものである。
【0043】
(実施の形態2)
実施の形態2に係る冷凍装置は、制御部36による制御の内容が実施の形態1に係る冷凍装置と大きく異なる。以下、実施の形態2に係る冷凍装置について、実施の形態1と異なる構成を中心に説明し、共通する構成については簡単に説明するか、あるいは説明を省略する。
【0044】
実施の形態2に係る冷凍装置12は、実施の形態1と同様に、冷凍機14と、ヒートパイプ16と、ヒートパイプ温度センサ42と、庫内温度センサ44と、制御部36とを備える。制御部36は、ヒートパイプ16の温度が冷媒の標準沸点を下回らないように冷凍機14を制御する。
【0045】
また、本実施の形態の制御部36は、
図5に示すように、ヒートパイプ温度センサ42及び庫内温度センサ44の検出結果に基づいて冷凍機14の駆動を制御する。
図5は、実施の形態2に係る冷凍装置が実行する制御の一例を示すフローチャートである。このフローは、制御部36により所定のタイミングで繰り返し実行される。
【0046】
図5に示すように、まず庫内温度と配管部温度とが検出される(S201)。制御部36は、庫内温度センサ44から庫内温度に応じた検出値を取得し、ヒートパイプ温度センサ42から配管部温度に応じた検出値を取得する。次に、制御部36は、庫内温度に基づく第1制御値Aと、配管部温度に基づく第2制御値Bとを生成する(S202)。
【0047】
制御部36は、庫内温度センサ44により検出される庫内温度と貯蔵室6の目標温度との差に基づいて第1制御値Aを生成し、ヒートパイプ温度センサ42により検出される配管部温度と冷媒の標準沸点との差に基づいて第2制御値Bを生成する。一例として、庫内温度に基づく第1制御値Aは、庫内温度が使用者の設定する目標温度にある場合に庫内温度センサ44が出力する検出値(この値は予め制御部36に記憶されている)と、庫内温度センサ44によって検出される現在の庫内温度に対応する検出値との差から生成される。配管部温度に基づく第2制御値Bは、配管部温度が冷媒の標準沸点にある場合にヒートパイプ温度センサ42が出力する検出値と、ヒートパイプ温度センサ42によって検出される現在の配管部温度に対応する検出値との差から生成される。庫内温度の検出から第1制御値Aの生成までの庫内温度制御と、配管部温度の検出から第2制御値Bの算出までの配管部温度制御とは、例えばPID制御であり、それぞれ並行して実行される。庫内温度制御では、庫内温度が目標温度に対して所定範囲内に収まるように第1制御値Aが設定される。所定範囲は、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。配管部温度制御では、配管部温度が冷媒の標準沸点未満とならないように第2制御値Bが設定される。なお、実施の形態1で説明したとおり、冷媒の標準沸点が庫内温度の設定値よりも低い温度となるように、冷媒を選定すべきである。
【0048】
そして、第1制御値Aが第2制御値Bよりも小さい値であるか判断される(S203)。第1制御値Aが第2制御値Bよりも小さい場合(S203のY)、第1制御値Aに基づく駆動電圧が冷凍機14に印加される(S204)。第1制御値Aが第2制御値B以上の場合(S203のN)、第2制御値Bに基づく駆動電圧が冷凍機14に印加される(S205)。この結果、第1制御値Aと第2制御値Bのうち小さい方の制御値に基づいて生成される駆動電圧で冷凍機14が駆動する(S206)。
【0049】
本制御では、庫内温度制御と配管部温度制御のそれぞれに基づいて生成される制御値のいずれか(小さい方)に基づく駆動電圧が冷凍機14に印加される。つまり、冷凍機14への電圧の印加が連続する。これにより、冷凍機14への給電が急激に変化することを回避することができる。
【0050】
図6(A)及び
図6(B)は、庫内温度及び配管部温度の推移の一例を説明するための図である。
図6(A)に示すように、庫内温度の設定値(すなわち貯蔵室6の目標温度)が比較的高温であって冷媒の標準沸点と離れている場合、第1制御値Aは第2制御値Bよりも常に小さい値となり得る。庫内温度制御では庫内温度が早期に設定値に到達するよう制御される。すなわち、PID制御における積分ゲインが高い。このため、一時において庫内温度がオーバーシュートし得る。また、庫内温度が低下している間は、庫内温度と配管部温度との温度差が大きい。庫内温度は設定値を超過した後に徐々に設定値に近づき最終的に安定するが、その過程で第1制御値Aは徐々に小さくなる。このため、庫内温度と配管部温度との温度差は減少していく。
【0051】
一方、
図6(B)に示すように、庫内温度の設定値と冷媒の標準沸点とが近いと、庫内温度の低下中に一時的に第2制御値Bが第1制御値Aよりも小さくなり得る。配管部温度制御では配管部温度が標準沸点を下回らないように制御する必要がある。このため、PID制御における積分ゲインを低く設定する必要がある。したがって、配管部温度制御における積分ゲインは、庫内温度制御における積分ゲインよりも低い。このため、庫内温度のオーバーシュートが回避され得る。また、庫内温度が低下している間は、第1制御値Aが第2制御値Bよりも小さく、庫内温度と配管部温度との温度差が大きい。庫内温度が設定値に近づくと、ある時点で第2制御値Bが第1制御値Aよりも小さくなる。冷凍機14に入力される制御値は第1制御値Aよりも小さい第2制御値Bとなるため、庫内温度と配管部温度との温度差は減少していく。このとき、庫内温度が低下して配管部温度に近づいていく。その後、庫内温度がさらに設定値に近づくと、第1制御値Aが徐々に低下し、ある時点で第1制御値Aが第2制御値Bよりも小さくなる。庫内温度と配管部温度との温度差はさらに減少していく。このとき、配管部温度が上昇して庫内温度に近づいていく。
【0052】
以上説明したように、本実施の形態に係る冷凍装置12によっても、ヒートパイプ16の内圧が大気圧未満となることを回避することができる。この結果、ヒートパイプへの外気の侵入を抑制することができる。
【0053】
(実施の形態3)
実施の形態3に係る冷凍装置は、冷凍機14、ヒートパイプ16及びヒートパイプ温度センサ42の組み合わせを複数有する点が、実施の形態1,2に係る冷凍装置と大きく異なる。以下、実施の形態3に係る冷凍装置について、実施の形態1,2と異なる構成を中心に説明し、共通する構成については簡単に説明するか、あるいは説明を省略する。
【0054】
図7(A)は、実施の形態3に係る冷凍装置を搭載する低温貯蔵庫の概略構造を示す斜視図である。
図7(B)は、低温貯蔵庫の概略構造を示す平面図である。低温貯蔵庫1(1B)に搭載される本実施の形態に係る冷凍装置12は、冷凍機14、ヒートパイプ16及びヒートパイプ温度センサ42の組み合わせを複数有する。ここでは一例として、第1の組み合わせとしての第1冷凍ユニット12Aと、第2の組み合わせとしての第2冷凍ユニット12Bとを有する冷凍装置12について説明する。なお、組み合わせの数は2つに限定されない。
【0055】
第1冷凍ユニット12A及び第2冷凍ユニット12Bがそれぞれ備える、冷凍機14、ヒートパイプ16、ヒートパイプ温度センサ42の構成は、実施の形態1に係る冷凍装置12と同様である。また、各冷凍ユニットの冷媒回路は、互いに独立している。また、冷凍装置12は、第1冷凍ユニット12A及び第2冷凍ユニット12Bで共通の制御部36を備える。すなわち、1つの制御部36によって、各冷凍ユニットの冷凍機14が制御される。制御部36は、第1冷凍ユニット12Aのヒートパイプ温度センサ42及び第2冷凍ユニット12Bのヒートパイプ温度センサ42のそれぞれから信号を受信する。
【0056】
制御部36は、第1冷凍ユニット12A及び第2冷凍ユニット12Bの冷凍機14を、共通の配管部温度に基づいて制御する。本実施の形態の制御部36は、第1冷凍ユニット12A及び第2冷凍ユニット12Bの各ヒートパイプ温度センサ42で検出された温度のうち最も低い温度に基づいて、各冷凍機14の駆動を制御する。
図8は、実施の形態3に係る冷凍装置が実行する制御の一例を示すフローチャートである。このフローは、制御部36により所定のタイミングで繰り返し実行される。
【0057】
図8に示すように、まず庫内温度と、第1冷凍ユニット12Aの配管部温度と、第2冷凍ユニット12Bの配管部温度とが検出される(S301)。制御部36は、庫内温度センサ44(
図2参照)から庫内温度の検出値を取得する。また、各冷凍ユニットのヒートパイプ温度センサ42からそれぞれの配管部温度の検出値を取得する。次に、庫内温度に基づく第1制御値Aと、第1冷凍ユニット12Aの配管部温度に基づく第2制御値B1と、第2冷凍ユニット12Bの配管部温度に基づく第2制御値B2とが生成される(S302)。第1制御値Aの生成方法は、実施の形態2における第1制御値Aの生成方法と同様である。第2制御値B1及び第2制御値B2の生成方法は、実施の形態2における第2制御値Bの生成方法と同様である。
【0058】
そして、第2制御値B1が第2制御値B2よりも小さい値であるか判断される(S303)。第2制御値B1が第2制御値B2よりも小さい場合(S303のY)、第2制御値B1が配管部温度に基づく代表制御値Cに定められる(S304)。第2制御値B1が第2制御値B2以上の場合(S303のN)、第2制御値B2が配管部温度に基づく代表制御値Cに定められる(S305)。
【0059】
続いて、第1制御値Aが代表制御値Cよりも小さい値であるか判断される(S306)。第1制御値Aが代表制御値Cよりも小さい場合(S306のY)、各冷凍ユニットの冷凍機14に第1制御値Aに基づく駆動電圧が印加される(S307)。第1制御値Aが代表制御値C以上の場合(S306のN)、各冷凍ユニットの冷凍機14に代表制御値Cに基づく駆動電圧が印加される(S308)。この結果、各冷凍ユニットの冷凍機14が駆動する(S309)。
【0060】
本制御では、第1冷凍ユニット12Aの配管部温度に基づいて算出される第2制御値B1と、第2冷凍ユニット12Bの配管部温度に基づいて算出される第2制御値B2のうち小さい方の制御値が、庫内温度に基づいて算出される第1制御値Aと比較される。これにより、各冷凍ユニットのヒートパイプ16の内圧を大気圧以上に維持しながら、各冷凍ユニットにおける出力バランスを一定にすることができる。この結果、庫内の温度分布を均一に保持することができる。また、各冷凍ユニットにおけるヒートパイプ16の内圧をより確実に大気圧以上に維持することができる。
【0061】
なお、第1冷凍ユニット12Aと第2冷凍ユニット12Bとでそれぞれ独立に冷凍機14の駆動制御が実行されてもよい。この場合、第1冷凍ユニット12Aでは、配管部温度に基づいて第2制御値B1が算出される。また、第2冷凍ユニット12Bでは、配管部温度に基づいて第2制御値B2が算出される。また、制御部36は、庫内温度に基づいて第1制御値Aを算出する。この第1制御値Aは、各冷凍ユニットに共通である。そして、第1冷凍ユニット12Aでは、第1制御値Aと第2制御値B1との大きさが比較されて、値の小さい方の制御値に基づく駆動電圧が冷凍機14に印加される。また、第2冷凍ユニット12Bでは、第1制御値Aと第2制御値B2との大きさが比較されて、値の小さい方の制御値に基づく駆動電圧が冷凍機14に印加される。
【0062】
本発明は、上述した各実施の形態に限定されるものではなく、これらの実施の形態を組み合わせたり、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などのさらなる変形を加えることも可能であり、当該組み合わせ、あるいはさらなる変形が加えられて生じる新たな実施の形態も本発明の範囲に含まれる。各実施の形態の組み合わせ、及び各実施の形態へのさらなる変形の追加によって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態及び変形それぞれの効果をあわせもつ。
【0063】
以上説明した構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム等の間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。