(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記カチオン性脂質が、DLinDMA、DLin−MC3−DMAおよびDLin−KC2−DMA;モノカチオン性脂質 N−[1−(2,3−ジオレオイルオキシ)]−N,N,N−トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、BCAT O−(2R−1,2−ジ−O−(1’Z,9’Z−オクタデカジエニル−グリセロール)−3−N−(ビス−2−アミノエチル)−カルバメート、BGSC(ビス−グアニジニウム−スペルミジン−コレステロール)、BGTC(ビス−グアニジニウム−トレン−コレステロール)、CDAN(N’−コレステリルオキシカルボニル−3,7−ジアザノナン−1,9−ジアミン)、CHDTAEA(コレステリルヘミジチオジグリコリルトリス(アミノ(エチル)アミン)、DCAT(O−(1,2−ジ−O−(9’Z−オクタデカニル)−グリセロール)−3−N−(ビス−2−アミノエチル)−カルバメート)、DC−Chol(3β[Ν−(Ν’,Ν’−ジメチルアミノエタン)−カルバモイル]コレステロール)、DLKD(Ο,Ο’−ジラウリル N−リジルアスパルテート)、DMKD(Ο,Ο’−ジミリスチル N−リジルアスパルテート)、DOG(ジオレイル(diolcyl)グリセロール、DOGS(ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン)、DOGSDSO(1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−スクシニル−2−ヒドロキシエチルジスルフィドオルニチン)、DOPC(1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン)、DOPE(1,2−ジオレオイル−sn−グリセロール−3−ホスホエタノールアミン、DOSN(ジオレイルスクシニルエチルチオネオマイシン)、DOSP(ジオレイルスクシニルパロモマイシン)、DOST(ジオレイルスクシニルトブラマイシン)、DOTAP(1,2−ウイオコイル(Uiolcoyl)−3−トリメチルアンモニオプロパン)、DOTMA(N’[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド(trimethvlammonium chloride))、DPPES(ジ−パルミトイルホスファチジルエタノールアミドスペルミン(sperminc))、DDABおよびDODAPからなる群から選択される、または、
前記膜安定化脂質が、コレステロール、リン脂質、セファリン、スフィンゴ脂質、およびグリセロ糖脂質からなる群から選択される、または、
リポソームが、1,2−ジラウロイル−L−ホスファチジルエタノールアミン(DLPE)、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DOPE)1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DPhPE)1,3−ジパルミトイル−sn−グリセロ−2−ホスホエタノールアミン(1,3−DPPE)1−パルミトイル−3−オレオイル−sn−グリセロ−2−ホスホエタノールアミン(1,3−POPE)、ビオチン−ホスファチジルエタノールアミン、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DMPE)、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DSPE)、およびジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)からなる群から選択されるホスファチジルアミンをさらに含む、または、
リポソームが、DMG−PEG、PEG−cDMA、3−N−(−メトキシポリ(エチレングリコール)2000)カルバモイル−1,2−ジミリスチルオキシ−プロピルアミン;PEG−cDSA、3−N−(−メトキシポリ(エチレングリコール)2000)カルバモイル−1,2−ジステアリルオキシ−プロピルアミン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される1つまたは複数の追加的なPEG誘導体をさらに含む、または、
前記核酸が、DNA、RNA、およびそれらの修飾形態からなる群から選択され、前記RNAが、siRNA、miRNA、shRNA、アンチセンスRNA、mRNA、修飾されたRNA、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、または、
リポソームが、50nm〜300nmの直径を有する、
請求項1に記載のリポソーム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、カチオン性脂質、膜安定化脂質、およびポリエチレングリコール(PEG)誘導体に共有結合した少なくとも1つの脂質を含む複数の脂質を含み、PEG誘導体に結合しているグリコサミノグリカンでコーティングされたリポソームを提供する。一部の実施形態によると、PEG誘導体は、グリコサミノグリカンのカルボキシル基に結合できるアミノ基を有するPEG−アミンである。一部の実施形態では、リポソームは、核酸分子をさらに含む。このようなリポソームは、たとえばsiRNA分子などの核酸分子の有効かつ効率的なin vivoおよびin vitroでの送達システムとして有益である。
【0009】
本発明は、PEG誘導体、特にPEG−アミン誘導体を含めることが、開示されたカチオン性リポソームの構造を安定化し、さらに、リポソームの表面をコーティングするグリコサミノグリカンの結合のためのアンカーとしてさらに作用するとの予測し得なかった驚くべき知見に、部分的に基づくものである。一部の実施形態では、グリコサミノグリカンは、様々な分子量のヒアルロン酸(HA)である。初めて本明細書中にさらに開示されるように、PEG誘導体を含むカチオン性リポソームは、PEG−アミンまたは他のPEG誘導体を含まない同様の脂質系組成物と比較して、驚くべきことに予想外に安定である。さらに、以下に例示されるように、本開示のリポソームは、好ましくは比較的小さな多分散指数(PDI)を有する。さらに以下に例示されるように、本開示のリポソームは、好ましくは、グリコサミノグリカンでコーティングされた粒子のサイズが直径約300nm〜500nm以下となるようにより簡単に調節することができ、それによって核酸分子のin vitroおよびin vivoでの送達に有利に作用する。さらに、粒子の調製方法は、好ましくは、商業的に応用可能で、強力であり、費用効率が良く、スケールアップに適している。
【0010】
一態様では、本発明は、核酸の送達のためのカチオン性リポソームであって、a)カチオン性脂質、膜安定化脂質、および脂質に結合したPEG−アミンを含む脂質膜と、b)リポソーム内に被包された核酸と、c)PEGアミン誘導体に結合し、リポソームの外部表面をコーティングするグリコサミノグリカンと
を含む、リポソームを提供する。
【0011】
別の態様では、本発明は、核酸の送達のための組成物であって、カチオン性脂質、膜安定化脂質、およびポリエチレングリコール(PEG)誘導体に結合した少なくとも1つの脂質を含む複数の脂質を含み、PEG誘導体に結合しているグリコサミノグリカン分子でコーティングされている複数のリポソームと、リポソーム内に被包された核酸とを含む組成物を提供する。
【0012】
一部の実施形態では、カチオン性脂質、膜安定化脂質、およびポリエチレングリコール(PEG)誘導体に結合した少なくとも1つの脂質を含む複数の脂質を含むリポソームと、リポソーム内に被包された核酸とを含む組成物であって、 上記リポソームが、PEG誘導体に結合したグリコサミノグリカン分子(HAなど)でコーティングされている、
組成物を提供する。
【0013】
一部の実施形態では、リポソーム(脂質相/その膜)は、限定するものではないが、イオン化脂質およびホスファチジルエタノールアミンから選択される1つまたは複数の追加的な脂質をさらに含み得る。
【0014】
一部の実施形態では、追加的なPEG誘導体(PEG−アミン以外)が、リポソームの脂質相に含まれていてもよい。追加的なPEG誘導体は、その結合性または他の特性を改善する部分で修飾され得る。一部の実施形態では、追加的なPEG誘導体は、脂質などの1つまたは複数の追加的な分子に結合し得る。
【0015】
一部の実施形態では、脂質に結合したPEG−アミンは、限定するものではないが、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[アミノ(ポリエチレングリコール)−2000](DSPE−PEG−アミン);PEG−アミンに結合した1,2−ジラウロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DLPE);PEG−アミンに結合した1,2−ジ−(9Z−オクタデセノイル)−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンDOPE、およびPEG−アミンに結合した1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DPPE)など、またはそれらの組み合わせから選択され得る。各可能性は、別々の実施形態である。一部の実施形態では、PEG−アミンは、追加的な分子が結合または反応し得る一級アミンを提供する。一部の実施形態では、PEG−アミンは、脂質に結合している。一部の実施形態では、PEG−アミンはリン脂質に結合している。
【0016】
一部の実施形態では、追加的なPEG誘導体は、限定するものではないが、PEG−DMG(分子の端部にアミン基を含む選択肢を有する)、PEG−cDMA、3−N−(−メトキシポリ(エチレングリコール)2000)カルバモイル−1,2−ジミリスチルオキシ−プロピルアミン;PEG−cDSA、3−N−(−メトキシポリ(エチレングリコール)2000)カルバモイル−1,2−ジステアリルオキシ−プロピルアミンなど、またはそれらの組み合わせから選択され得る。各可能性は別々の実施形態である。
【0017】
一部の実施形態では、カチオン性脂質は、合成カチオン性脂質であり得る。一部の実施形態では、カチオン性脂質は、限定するものではないが、DLinDMA、DLin−MC3−DMAおよびDLin−KC2−DMA;モノカチオン性脂質 N−[1−(2,3−ジオレオイルオキシ)]−N,N,N−トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、BCAT O−(2R−1,2−ジ−O−(1’Z,9’Z−オクタデカジエニル−グリセロール)−3−N−(ビス−2−アミノエチル)−カルバメート、BGSC(ビス−グアニジニウム−スペルミジン−コレステロール)、BGTC(ビス−グアニジニウム−トレン−コレステロール)、CDAN(N’−コレステリルオキシカルボニル−3,7−ジアザノナン−1,9−ジアミン)、CHDTAEA(コレステリルヘミジチオジグリコリルトリス(アミノ(エチル)アミン)、DCAT(O−(1,2−ジ−O−(9’Z−オクタデカニル)−グリセロール)−3−N−(ビス−2−アミノエチル)−カルバメート)、DC−Chol(3β[Ν−(Ν’,N’−ジメチルアミノエタン)−カルバモイル]コレステロール)、DLKD(Ο,Ο’−ジラウリル N−リジルアスパルテート)、DMKD(Ο,Ο’−ジミリスチル N−リジルアスパルテート)、DOG(ジオレイル(diolcyl)グリセロール、DOGS(ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン)、DOGSDSO(1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−スクシニル−2−ヒドロキシエチルジスルフィドオルニチン)、DOPC(1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン)、DOPE(1,2−ジオレオイル−sn−グリセロール−3−ホスホエタノールアミン、DOSN(ジオレイルスクシニルエチルチオネオマイシン)、DOSP(ジオレイルスクシニルパロモマイシン)、DOST(ジオレイルスクシニルトブラマイシン)、DOTAP(1,2−ウイオコイル(Uiolcoyl)−3−トリメチルアンモニオプロパン)、DOTMA(N’[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド(trimethvlammonium chloride))、DPPES(ジ−パルミトイルホスファチジルエタノールアミドスペルミン(sperminc))、DDABおよびDODAPから選択され得る。各可能性は別々の実施形態である。
【0018】
一部の例示的な実施形態では、カチオン性脂質は、約6.5〜7の範囲のpKaを有する。一部の実施形態では、カチオン性脂質は、限定するものではないが、DLinDMA、(脂質のpKaは6.8である)、DLin−MC3−DMA(脂質のpKaは約6.44である)およびDLin−KC2−DMA(脂質のpKaは約6.7である)、またはそれらの組み合わせから選択される。
【0019】
一部の実施形態では、膜安定化脂質は、限定するものではないが、コレステロール、リン脂質、セファリン、スフィンゴ脂質(スフィンゴミエリンおよびスフィンゴ糖脂質)、グリセロ糖脂質など、またはそれらの組み合わせから選択され得る。各可能性は別々の実施形態である。
【0020】
一部の実施形態では、リン脂質は、限定するものではないが、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ジホスファチジルグリセロール、またはそれらのいずれかの誘導体もしくは組み合わせから選択され得る。各可能性は別々の実施形態である。
【0021】
一部の実施形態では、ホスファチジルエタノールアミンは、限定するものではないが、1,2−ジラウロイル−L−ホスファチジル−エタノールアミン(DLPE)、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DOPE)1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DPhPE)1,3−ジパルミトイル−sn−グリセロ−2−ホスホエタノールアミン(1,3−DPPE)1−パルミトイル−3−オレオイル−sn−グリセロ−2−ホスホエタノールアミン(1,3−POPE)ビオチン−ホスファチジルエタノールアミン、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DMPE)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE))および1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DSPE)から選択され得る。各可能性は別々の実施形態である。
【0022】
一部の実施形態では、ホスファチジルエタノールアミンは、PEG−アミン誘導体に結合され得る。
【0023】
さらなる実施形態では、グリコサミノグリカンは、限定するものではないが、ヒアルロン酸(HA)、コンドロイチンスルファート、デルマタンスルファート、ケラタンスルファート、ヘパリン、ヘパランスルファート、ならびにそれらのフラグメント、塩、および混合物から選択され得る。一部の実施形態では、ヒアルロン酸は、限定するものではないが、様々な鎖長の、高分子量のヒアルロン酸、低分子量のヒアルロン酸、またはそれらの組み合わせから選択され得る。一部の実施形態では、ヒアルロン酸は、約1kDa〜約5000kDaの分子量を有し得る。一部の実施形態では、ヒアルロン酸は、約1kDa〜1000kDaの分子量を有し得る。一部の実施形態では、ヒアルロン酸は、約5kDa〜850kDaの分子量を有し得る。一部の実施形態では、ヒアルロン酸は、約5kDa〜10kDaの分子量を有し得る。一部の実施形態では、ヒアルロン酸は、約5kDaの分子量を有し得る。一部の実施形態では、ヒアルロン酸は、約7kDaの分子量を有し得る。一部の実施形態では、約600kDa〜1000kDaの分子量を有し得る。各可能性は別々の実施形態である。
【0024】
一部の実施形態では、本発明のリポソーム(すなわち外部のグリコサミノグリカンのコーティングおよびその中に被包した核酸を含む)は、直径20〜500nmの粒径を有する。
【0025】
一部の実施形態では、リポソーム内に被包/捕捉/保有される核酸は、DNA、RNA、それらの修飾形態、およびそれらの組み合わせから選択され得る。一部の実施形態では、RNAは、siRNA、miRNA、アンチセンスRNA、mRNA、修飾されたRNA、またはそれらの組み合わせから選択され得る。
【0026】
さらなる実施形態では、リポソームは標的化部分をさらに含み得る。
【0027】
追加の実施形態では、リポソームは、脂質構造(脂質相/膜)内に被包された核酸を標的部位に送達できる。標的部位は、細胞、組織、臓器、および微生物から選択され得る。一部の実施形態では、標的部位は、グリコサミノグリカンでコーティングした粒子により認識されている。一部の例示的な実施形態では、標的部位はCD44受容体を含み、グリコサミノグリカンがHAである。
【0028】
一部の実施形態では、経口、非経口、および局所から選択される経路を介した投与に適した剤形の、核酸を被包/保有する複数のリポソームを含む医薬組成物を提供する。
【0029】
追加の実施形態では、リポソームは、フリーズドライした粒子または凍結乾燥した粒子の形態であり得る。
【0030】
例示的な実施形態では、本発明のリポソームは、DLinDMA、DLin−MC3−DMAおよびDLin−KC2−DMAから選択される合成カチオン性脂質;ホスファチジルコリン(PC)(たとえばDSPC)などのリン脂質;コレステロールなどの膜安定化脂質;脂質に結合したポリエチレングリコールアミン誘導体(PEなど);脂質に結合した追加的なPEG誘導体(DMG−PEGなど);PEG―アミン由来の一級アミンに結合したヒアルロン酸などのグリコサミノグリカン、およびリポソーム内に被包した核酸を含み得る。
【0031】
一部の実施形態では、その必要のある対象の癌の治療のための方法であって、核酸または同核酸を含む医薬組成物を含むまたは被包する本開示のカチオン性リポソームを含む組成物を対象に投与することを含む、方法を提供する。一部の実施形態では、核酸は、DNA、RNA、それらの修飾形態、およびそれらの組み合わせから選択され得る。一部の実施形態では、RNAは、siRNA、miRNA、shRNA、アンチセンスRNA、mRNA、修飾されたRNA、またはそれらの組み合わせから選択され得る。一部の実施形態では、癌はグリオーマである。一部の実施形態では、グリオーマは、多形膠芽細胞腫(GBM)である。
【0032】
一部の実施形態では、グリオーマなどの癌を治療する際に使用するための、核酸または核酸を含む医薬組成物を含むまたは被包する本開示のカチオン性リポソームを含む組成物を提供する。
【0033】
一部の実施形態では、核酸の送達のためのグリコサミノグリカンでコーティングされたリポソームの調製のための方法であって、
a)有機溶媒中で、カチオン性脂質、膜安定化脂質、およびリン脂質に結合したPEG−アミンを望ましい比率で混合し、脂質混合物を形成するステップと、
b)ステップa)の脂質混合物に核酸を含む水溶液を導入するステップによりリポソームを作製するステップと、
c)上記混合物に活性化したグリコサミノグリカンを添加するステップと
を含む、方法を提供する。
【0034】
一部の実施形態では、核酸の送達のためのグリコサミノグリカンでコーティングされたリポソームの調製のための方法であって、
a)脂質相を形成するステップであって、
i)有機溶媒中、カチオン性脂質、膜安定化脂質、および脂質に結合したPEG−アミンを望ましい比率で混合し、脂質混合物を形成するステップと、
ii)緩衝液に脂質混合物を懸濁して多層小胞を作製するステップと
を含む、ステップと、
b)
i)上記核酸とともに、ステップa)の脂質相をインキュベートすることと、
ii)上記混合物に活性化グリコサミノグリカンを添加するステップと
により、リポソームを作製するステップと
を含む、方法を提供する。
【0035】
特定の実施形態では、有機溶媒は、エタノール、クロロホルム、メタノールなどから選択される。
【0036】
特定の実施形態では、緩衝液は水性緩衝液である。一部の実施形態では、緩衝液は酸性の水性緩衝液である。一部の例示的な実施形態では、緩衝液は酢酸塩の緩衝液である。一部の実施形態では、緩衝液はpH5.5のMES緩衝液である。
【0037】
一部の実施形態では、多層小胞の形成前に、1つまたは複数の脂質に核酸を含む酸性緩衝液が添加され得る。
【0038】
一部の実施形態では、核酸の送達のためのグルコサミノグリカンでコーティングされたリポソームの調製のための方法であって、
a)脂質相を形成するステップであって、
i)有機溶媒中に、カチオン性脂質、膜安定化物質、および脂質に結合したPEG−アミンを望ましい比率で混合し、脂質混合物を形成するステップと、
ii)緩衝液に上記脂質混合物を懸濁して多層小胞を作製するステップと
を含むステップと、
b)
i)上記核酸とステップa)の脂質相をインキュベートするステップと、
ii)上記混合物に活性化グリコサミノグリカンを添加するステップと
によりリポソームを作製するステップと
を含む、方法を提供する。
【0039】
上述の例示的な態様および実施形態に加えて、さらなる態様および実施形態は、図面を参照し、以下の詳細な説明を検討することにより明らかとなる。
【0040】
例示的な実施形態を図面に表す。図面に示されている構成要素の寸法および特性は、一般的に提示の簡便さおよび明確性のために選択されており、必ずしもこの尺度で示されるわけではない。図面を以下に列挙する。
【発明を実施するための形態】
【0042】
定義
本発明の理解を容易にするために、多くの用語および文言を以下に定義する。これらの用語および文言は説明の目的のためのものであり、限定するものではなく、このため、当業者は、本明細書の用語法および表現を、当業者の知識と合わせて、本明細書に提示される教示及び指針に照らして解釈すべきであると理解される。
【0043】
本明細書中に記載されるように、用語「核酸」、「核酸分子」、「オリゴヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド」、および「ヌクレオチド」は、本明細書中互換可能に使用され得る。この用語は、デオキシリボヌクレオチド(DNA)、リボヌクレオチド(RNA)、および別々のフラグメントの形態またはより大きな構築物の成分としてのそれらの修飾形態、直鎖または分枝鎖、一本、二本鎖、三本鎖、またはそれらのハイブリッドのポリマーを対象とする。またこの用語は、RNA/DNAのハイブリッドをも包有する。ポリヌクレオチドは、DNAまたはRNAのセンスおよびアンチセンスのオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド配列を含み得る。DNAまたはRNA分子は、たとえば、限定するものではないが、相補的DNA(cDNA)、ゲノムDNA、合成DNA、組み換えDNA、もしくはそれらのハイブリッド、またはRNA分子、たとえばmRNA、shRNA、siRNA、miRNA、アンチセンスRNAなどであり得る。各可能性は、別々の実施形態である。この用語は、天然に存在する塩基、糖、およびヌクレオシド間共有結合で構成されるオリゴヌクレオチド、ならびにそれぞれの天然に存在する部分と同じように機能する天然に存在しない部分を有するオリゴヌクレオチドをさらに含む。
【0044】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」は、アミノ酸残基のポリマーを指すように、本明細書中互換可能に使用されている。この用語は、1つまたは複数のアミノ酸残基が対応する天然に存在するアミノ酸の人工的な化学的な類似体であるアミノ酸ポリマー、ならびに天然に存在するアミノ酸ポリマーに当てはまる。
【0045】
本明細書中に使用される用語「複数」は、1超の成分を含むことを対象とする。
【0046】
用語「グリコサミノグリカン」または「ムコ多糖」は、反復する二糖単位からなる長い非分枝鎖多糖を対象とする。この反復単位は、ヘキソサミンに結合したヘキソース(6炭糖)またはヘキスロン酸を含み得る。グリコサミノグリカンファミリーのメンバーは、メンバーが含むヘキソサミン、ヘキソース、またはヘキスロン酸の単位の種類(たとえばグルクロン酸、イズロン酸、ガラクトース、ガラクトサミン、グルコサミン)、およびグリコシド結合の配置が、多様であり得る。用語グリコサミノグリカンは、天然、合成、または半合成のグリコサミノグリカン分子を含む。例示的なグリコサミノグリカンとして、限定するものではないが、コンドロイチンスルファート、デルマタンスルファート、ケラタンスルファート、ヘパリン、ヘパランスルファート、ヒアルロナン(ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、HAとしても知られている)、ならびにそれらのフラグメント、塩、および混合物などのグリコサミノグリカンが挙げられる。用語グリコサミノグリカンは、限定するものではないが、エステル化、硫酸化、ポリ硫酸化、およびメチル化などの修飾により化学的に修飾されているグリコサミノグリカンをさらに含む。ヒアルロン酸を除くグリコサミノグリカンは、天然では、多糖部分に共有結合したタンパク質部分の形態である。タンパク質‐糖の結合を化学的および酵素的に加水分解する方法は、当業者によく知られている。
【0047】
用語「HA」および「ヒアルロナン」は、遊離形態および細胞外マトリックス成分などの結合形態であり得るヒアルロン酸を表す。用語HAは、たとえばヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸カリウム、ヒアルロン酸マグネシウム、およびヒアルロン酸カルシウムを含むヒアルロン酸塩のいずれかにさらに関連する。HA多糖は、交互のβ−1,3グルクロニドおよびβ‐1,4−グルコサミド結合により結合した、交互のN−アセチル−D−グルコサミンおよびD−グルクロン酸残基からなる。HAは、低分子量(たとえばMW=104〜7.2×l04の範囲内)、および/または高分子量(たとえば、約MW=3.1×l05〜5×l06kDaの範囲内)のHAであり得る。HAは、多様な鎖長のHAであり得る。一部の実施形態では、HAは、約1kDa〜1000kDaの分子量を有する。一部の実施形態では、HAは、約5kDa〜850kDaの分子量を有する。一部の実施形態では、HAは、約7kDaの分子量を有する。一部の実施形態では、Haは、約800kDaの分子量を有する。ヒアルロン酸は、細胞外マトリックスに対して高い親和性を有し、かつ乳房、脳、肺、皮膚、および他の臓器および組織の腫瘍を含む様々な腫瘍に対して高い親和性を有する。HAは、CD44細胞受容体に高い親和性を有する。
【0048】
本明細書中に使用されるように、用語「カチオン性リポソーム」、「リポソーム」、および「脂質ベースのナノ粒子」は、互換可能に使用され得る。これら用語は、組み合わせた/複数の脂質(限定するものではないが、カチオン性脂質、膜安定化脂質、ホスファチジルエタノールアミン、リン脂質から選択される);脂質に結合したポリエチレングリコール誘導体から選択される)を含む脂質相(本明細書中膜をも表す)を含む/備える/から作製され、リポソームのPEGアミン誘導体に結合した活性化グリコサミノグリカンでさらにコーティングされ;さらに核酸分子を被包する、本発明のカチオン性リポソームに関する。一部の実施形態では、脂質ベースのナノ粒子(リポソーム)は、多層小胞である。一部の実施形態では、脂質ベースのナノ粒子は、修飾されたリポソームである。一部の実施形態では、脂質ベースのナノ粒子は、当該ナノ粒子中に被包された核酸分子を標的部位に送達する効率的な送達系として使用され得る。
【0049】
本明細書中に使用される用語「構築物」は、1つまたは複数の核酸配列を含み得る人工的に構築または単離された核酸分子であって、上記核酸配列が、コード配列(すなわち、最終産物をコードする配列)、制御配列、非コード配列、またはそれらのいずれかの組み合わせを含み得る、核酸分子を表す。用語構築物は、たとえばベクターを含むが、それに限定されると理解されるべきではない。
【0050】
「発現ベクター」は、外来細胞において、異種性核酸フラグメント(たとえばDNAなど)を組み込み、発現する能力を有する構築物を表す。言い換えると、発現ベクターは、転写可能な核酸配列/フラグメント(DNA、mRNA、tRNA、rRNA)を含む。多くの原核生物および真核生物の発現ベクターは既知であり、かつ/または市販されている。適切な発現ベクターの選択は、当業者の知識の範囲内である。一部の例示的な実施形態では、発現ベクターは、標的部位において二本鎖RNA分子をコードし得る。
【0051】
本明細書中で使用される用語「発現」は、標的細胞中の所望の最終産物の分子の産生を表す。最終産物の分子は、たとえばRNA分子;ペプチドもしくはタンパク質など;またはそれらの組み合わせを含み得る。
【0052】
本明細書中で使用されるように、用語「導入する」および「トランスフェクション」は、互換可能に使用され、たとえば核酸、ポリヌクレオチド分子、ベクターなどの分子の、標的細胞、具体的には標的細胞の膜封入腔の内側への移行を表し得る。このような分子は、たとえばSambrook et al. Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York (2001)により教示されているように、当業者に知られているいずれかの手段により、標的細胞に「導入」することができる。この文献の内容は本明細書中参照として援用されている。細胞に分子を「導入する」手段として、たとえば、限定するものではないが、ヒートショック、リン酸カルシウムのトランスフェクション、PEIトランスフェクション、エレクトロポレーション、リポフェクション、トランスフェクション試薬、ウイルス媒介性の移行など、またはそれらの組み合わせが挙げられる。細胞のトランスフェクションは、たとえばヒトの細胞、動物の細胞、植物の細胞、ウイルスの細胞などのいずれかの起源のいずれかの種類の細胞で行われ得る。この細胞は、単離した細胞、組織培養細胞、細胞株、生物の体内に存在する細胞などから選択され得る。
【0053】
本明細書中に記載されるように、用語「標的部位」は、核酸が向けられる位置、および/または核酸がその生物学的な作用を発揮する部位を表す。一部の例示的な実施形態では、標的部位は、限定するものではないが、培養細胞(初代培養細胞または細胞株由来細胞)、および生物の体内の細胞;組織、臓器、微生物(たとえばウイルス、細菌、寄生体)などから選択され得る細胞である。生物は、限定するものではないが、ヒトまたは動物などの哺乳類、哺乳類ではない動物(たとえば鳥類、魚類など)などのいずれかの生物であり得る。一部の例示的な実施形態では、標的部位は、細胞下の位置または細胞のオルガネラ(たとえば核、細胞質など)である。一部の実施形態では、標的部位はCD44受容体を含む。
【0054】
本明細書中で使用される用語「治療する」および「治療」は、疾患もしくは病態の進行の抑止、阻害、遅延、もしくは反転、疾患もしくは病態の臨床症状の軽減、または疾患もしくは病態の臨床症状の出現の予防を表す。用語「予防する」は、本明細書中、対象が、障害または疾患または病態を得ないようにすることと定義されている。
【0055】
用語「癌の治療」は、以下のうちの1つまたは複数を含むことを目的とする:癌の増殖速度の減少(すなわち、癌が未だ増殖しているが遅い速度で増殖);癌性増殖の増殖の休止、すなわち、腫瘍増殖の停止、および腫瘍が縮小する、または大きさが減少する。またこの用語は、転移の数の減少、形成される新規転移の数の減少、1つのステージから他のステージへの癌の進行の遅延、および癌により誘導される血管新生の減少をも含む。最も好ましい場合、腫瘍は完全に取り除かれている。さらに、この用語には、治療を受けている対象の生存期間の延長、疾患進行の時間の延長、腫瘍の退縮などが含まれる。
【0056】
本明細書中使用されるように、用語「約」は±10%を表す。
【0057】
本発明の一部の実施形態によると、核酸の送達のためのリポソームであって、複数の脂質(カチオン性脂質、膜安定化脂質、および任意に、限定するものではないが、イオン化脂質および/またはホスファチジルエタノールアミンなどの追加的な脂質を含む)と、PEG−アミン誘導体(脂質に結合)とを含む脂質相(膜)を含み;粒子のPEGアミン誘導体に結合した活性化グリコサミノグリカンでさらにコーティングされており、核酸をさらに被包する、リポソームを提供する。一部の実施形態では、追加的なPEG誘導体が、粒子に含まれ得る。一部の実施形態では、リポソームは、所望の標的部位に核酸分子を送達するための効率的な送達系として使用され得る。
標的部位は、限定するものではないが、細胞、組織、臓器、微生物などのいずれかの標的部位を含み得る。標的部位は、in vivoまたはin vitroの標的部位であり得る。
【0058】
一部の実施形態では、核酸送達のためのカチオン性リポソームであって、a)カチオン性脂質、膜安定化物質、および脂質に結合したPEG−アミンを含む脂質膜と、b)リポソーム内に被包された核酸分子と、c)PEGアミン誘導体に結合し、リポソームの外部表面をコーティングするグリコサミノグリカンとを含む、カチオン性リポソームを提供する。
【0059】
一部の実施形態では、本発明は、カチオン性脂質、膜安定化脂質、およびポリエチレングリコール(PEG)誘導体に結合した少なくとも1つの脂質を含む複数の脂質を含むリポソームであって、上記粒子がPEG誘導体に結合した、グリコサミノグリカン分子でコーティングされている、リポソームを提供する。一部の実施形態では、PEG誘導体は、PEG−アミンを含む。一部の実施形態では、リポソームは、核酸分子を被包/担持する。
【0060】
さらなる実施形態では、本発明は、複数のリポソームを含む組成物であって、上記リポソームが、カチオン性脂質、膜安定化脂質、およびポリエチレングリコール(PEG)−アミン誘導体に結合した少なくとも1つの脂質を含む複数の脂質を含む脂質相を含み、上記粒子が、PEG−アミン誘導体に結合したグリコサミノグリカン分子でコーティングされており、さらに核酸を被包/担持する、組成物を提供する。
【0061】
さらなる追加的な実施形態では、本発明は、カチオン性脂質、膜安定化脂質、およびポリエチレングリコール(PEG)−アミン誘導体に結合した少なくとも1つの脂質を含む複数の脂質を含む複数のリポソームを含む組成物であって、上記粒子が、PEG−アミン誘導体に結合したグリコサミノグリカン分子でコーティングされており、リポソームの脂質構造内に被包された核酸分子をさらに含む、組成物を提供する。
【0062】
図1Bを参照すると、一部の実施形態に係る、コーティングされたリポソーム粒子(8)を形成するために、核酸分子(6)を被包するリポソーム粒子(2)へのグリコサミノグリカン(ヒアルロン酸(HA)として例示、4))の結合の略図である。さらに、活性化グリコサミノグリカンと相互作用できるNH2残基が示されている。
【0063】
一部の例示的な実施形態では、リポソームの脂質相(膜)の複数の脂質は、天然または合成供給源由来であり、限定するものではないが、カチオン性脂質、ホスファチジルエタノールアミン、イオン化脂質、膜安定化脂質、リン脂質など、またはそれらの組み合わせから選択され得る。
【0064】
一部の実施形態では、カチオン性脂質は、合成カチオン性脂質であり得る。一部の実施形態では、カチオン性脂質は、限定するものではないが、DLinDMA、DLin−MC3−DMAおよびDLin−KC2−DMA;モノカチオン性脂質 N−[1−(2,3−ジオレオイルオキシ)]−N,N,N−トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、BCAT O−(2R−1,2−ジ−O−(1’Z,9’Z−オクタデカジエニル)−グリセロール)−3−N−(ビス−2−アミノエチル)−カルバメート、BGSC(ビス−グアニジニウム−スペルミジン−コレステロール)、BGTC(ビス−グアニジニウム−トレン−コレステロール)、CDAN(N’−コレステリルオキシカルボニル−3,7−ジアザノナン−1,9−ジアミン)、CHDTAEA(コレステリルヘミジチオジグリコリルトリス(アミノ(エチル)アミン)、DCAT(O−(1,2−ジ−O−(9’Z−オクタデカニル)−グリセロール)−3−N−(ビス−2−アミノエチル)−カルバメート)、DC−Chol(3β[Ν−(Ν’, N’−ジメチルアミノエタン)−カルバモイル]コレステロール)、DLKD(Ο,Ο’−ジラウリル N−リジルアスパルテート)、DMKD(Ο,Ο’−ジミリスチル N−リジルアスパルテート)、DOG(ジオレイル(diolcyl)グリセロール、DOGS(ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン)、DOGSDSO(1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−スクシニル−2−ヒドロキシエチルジスルフィドオルニチン)、DOPC(1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン)、DOPE(1,2−ジオレオイル−sn−グリセロール−3−ホスホエタノールアミン、DOSN(ジオレイルスクシニルエチルチオネオマイシン)、DOSP(ジオレイルスクシニルパロモマイシン)、DOST(ジオレイルスクシニルトブラマイシン)、DOTAP(1,2−ウイオコイル(Uiolcoyl)−3−トリメチルアンモニオプロパン)、DOTMA(N’[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド(trimethvlammonium chloride))、DPPES(ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミドスペルミン(sperminc))、DDABおよびDODAPから選択され得る。各可能性は別々の実施形態である。
【0065】
一部の例示的な実施形態では、カチオン性脂質は、約6.5〜7の範囲のpKaを有する。一部の実施形態では、カチオン性脂質は、限定するものではないが、DLinDMA、(脂質のpKaは6.8である)、DLin−MC3−DMA(脂質のpKaは6.44である)およびDLin−KC2−DMA(脂質のpKaは6.7である)、またはそれらの組み合わせから選択される。各可能性は別々の実施形態である。
【0066】
一部の実施形態では、膜安定化脂質は、限定するものではないが、コレステロール、リン脂質(たとえばホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ジホスファチジルグリセロールなど)、セファリン、スフィンゴ脂質(スフィンゴミエリンおよびスフィンゴ糖脂質)、グリセロ糖脂質、およびそれらの組み合わせから選択され得る。各可能性は別々の実施形態である。
【0067】
一部の実施形態では、ホスファチジルエタノールアミンは、限定するものではないが、1,2−ジラウロイル−L−ホスファチジルエタノールアミン(DLPE)、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DPhPE)1,3−ジパルミトイル−sn−グリセロ−2−ホスホエタノールアミン(1,3−DPPE)、1−パルミトイル−3−オレオイル−sn−グリセロ−2−ホスホエタノールアミン(1,3−POPE)、ビオチン−ホスファチジルエタノールアミン、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DMPE)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DSPE)、またはそれらの組み合わせから選択され得る。一部の実施形態では、ホスファチジルエタノールアミンは、PEG−アミン誘導体に結合し得る。各可能性は別々の実施形態である。
【0068】
一部の実施形態では、リポソーム(その脂質相)は、PEG−アミン誘導体に加えて追加的なPEG誘導体をさらに含み得る。一部の実施形態では、PEG誘導体は、脂質などの1つまたは複数の追加的な分子に結合し得る。一部の実施形態では、PEG誘導体は、限定するものではないが、PEG−DMG、cDMA 3−N−(−メトキシポリエチレングリコール)2000)カルバモイル−1,2−ジミリスチルオキシ−プロピルアミン;PEG−cDSA、3−N−(−メトキシポリ(エチレングリコール)2000)カルバモイル−1,2−ジステアリルオキシ−プロピルアミン、またはそれらの組み合わせから選択され得る。各可能性は別々の実施形態である。
【0069】
一部の実施形態では、脂質に結合したPEG−アミンは、活性化グリコサミノグリカンが共有結合し得る一級アミンを提供する。
【0070】
一部の実施形態では、様々な脂質間の比率は変動し得る。一部の実施形態では、この比率はモル比である。一部の実施形態では、この比率は重量比である。一部の実施形態では、脂質基のそれぞれは、約1%〜99%のモル比/重量比で存在し得る。
【0071】
一部の実施形態では、核酸と脂質相との間の重量比は、標的部位に核酸が及ぼす最大の生物学的効果を達成するために調節され得る。一部の実施形態では、核酸と脂質相との間の比率は、1:1であり得る。たとえば、核酸と脂質相との間の比率は1:2であり得る。たとえば、核酸と脂質相との間の重量比は1:5であり得る。たとえば、核酸と脂質相との間の重量比は1:10であり得る。たとえば核酸と脂質相との間の重量比は1:16であり得る。たとえば、核酸と脂質相との間の重量比は1:20であり得る。一部の実施形態では、核酸と脂質相との間の重量比は約1:5〜1:20(w:w)である。
【0072】
一部の実施形態では、リポソームの調製に使用されるグリコサミノグリカンは、何等かの修飾されていないグリコサミノグリカンおよび/または修飾されたグリコサミノグリカンを含み得る。一部の実施形態では、グリコサミノグリカンは、限定するものではないが、HA、コンドロイチンスルファート、デルマタンスルファート、ケラタンスルファート、ヘパリン、ヘパランスルファート、およびそれらの塩から選択され得る。グリコサミノグリカンは、多様な長さのグリコサミノグリカンであり得る。一部の例示的な実施形態では、グリコサミノグリカンは、高分子量(HMW)のHAである。一部の例示的な実施形態では、グリコサミノグリカンは、低分子量(LMW)のHAである。他の例示的な実施形態では、グリコサミノグリカンは、多様な分子量を有するHAの組み合わせである。一部の実施形態では、HAは、約3〜20kDa(たとえば7kDa)の分子量を有する。一部の実施形態では、HAは、約600〜1000kDa(たとえば800kDa)の分子量を有する。一部の実施形態では、グリコサミノグリカンは、リポソームの脂質相のPEG−アミン誘導体と反応する前に、活性化され得る。たとえば、活性化は、限定するものではないが、グリコサミノグリカンの酸性化、グリコサミノグリカンへの架橋剤の付加などを含み得る。例示的な実施形態では、架橋剤は、限定するものではないが、EDC(EDAC、EDCI、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)、DCC(Ν,Ν’−ジシクロヘキシルカルボジイミド)、およびDIC(N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド)から選択されるカルボジイミドであり得る。
【0073】
さらなる実施形態では、追加的な分子/部分/誘導体は、リポソームのPEG−アミン誘導体と反応する前に、グリコサミノグリカンに最初に結合し得る。追加的な分子は、たとえば、抗体、葉酸塩、ポルフィリン、またはレクチンであり得て、特異的な標的部位へのリポソームの標的化のために使用され得る。追加的な実施形態では、追加的な標的化分子/誘導体は、リポソームに直接結合し得る。
【0074】
一部の実施形態では、リポソーム(グリコサミノグリカンのコーティングおよび内部に被包した核酸を含む)は、約5〜500nmの範囲の粒径(直径)を有する。一部の実施形態では、リポソームは、約10〜350nmの範囲の粒径(直径)を有する。一部の実施形態では、リポソームは、約50〜250nmの範囲の粒径(直径)を有する。一部の実施形態では、リポソームは、約10〜200nmの範囲の粒径(直径)を有する。一部の実施形態では、リポソームは、約20〜200nmの範囲の粒径(直径)を有する。一部の実施形態では、リポソームは、約50〜200nmの範囲の粒径(直径)を有する。一部の実施形態では、リポソームは、約75〜200nmの範囲の粒径(直径)を有する。一部の実施形態では、リポソームは、約90〜200nmの範囲の粒径(直径)を有する。一部の実施形態では、リポソームは、約100〜200nmの範囲の粒径(直径)を有する。一部の実施形態では、リポソームは、約120〜200nmの範囲の粒径(直径)を有する。一部の実施形態では、リポソームは、約150〜200の範囲の粒径(直径)を有する。一部の実施形態では、リポソームは、約50〜150nmの範囲の粒径(直径)を有する。一部の実施形態では、リポソームは、約10nm超の範囲の粒径(直径)を有する。一部の実施形態では、リポソームは、約20nm超の粒径(直径)を有する。一部の実施形態では、リポソームは、約30nm超の粒径(直径)を有する。一部の実施形態では、リポソームは、約40nm超の粒径(直径)を有する。一部の実施形態では、リポソームは、約50nm超の粒径(直径)を有する。一部の実施形態では、リポソームは、約60nm超の粒径(直径)を有する。一部の実施形態では、リポソームは、約70nm超の粒径(直径)を有する。一部の実施形態では、リポソームは、約80nm超の粒径(直径)を有する。一部の実施形態では、リポソームは、約90nm超の粒径(直径)を有する。一部の実施形態では、リポソームは、約100nm超の粒径(直径)を有する。一部の実施形態では、リポソームは、約110nm超の粒径(直径)を有する。一部の実施形態では、リポソームは、約120nm超の粒径(直径)を有する。一部の実施形態では、リポソームは、約130nm超の粒径(直径)を有する。一部の実施形態では、リポソームは、約140nm超の粒径(直径)を有する。一部の実施形態では、リポソームは、約150nm超の粒径(直径)を有する。一部の実施形態では、リポソームは、約160nm超の粒径(直径)を有する。一部の実施形態では、リポソームは、約170nm超の粒径(直径)を有する。一部の実施形態では、リポソームは、約180nm超の粒径(直径)を有する。一部の実施形態では、リポソームは、約190nm超の粒径(直径)を有する。一部の実施形態では、リポソームは、約500nm以下の粒径(直径)を有する。
【0075】
例示的な実施形態では、リポソームは、カチオン性脂質(たとえばDLinDMA、DLinMC3またはDlinKC2−DMAなど)、コレステロール、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DSPC)、PEG誘導体(DMG−PEGなど)および脂質に結合したPEG−アミン(PE−PEG−アミン)を様々なモル:モル比で含み、低分子量および/またはより高分子量(3〜10kDa(たとえば7kDa)および/または500〜1000kDa(たとえば800kDa)のHAでコーティングされ得る。たとえば脂質相は、DLinDMA/Chol/DSPC/DMG−PEG/PE−PEG−アミン(mol/mol 40:40:18:1.5:0.5)で構成され得る。たとえば脂質相は、DLinDMA/Chol/DSPC/DMG−PEG/PE−PEG−アミン(mol/mol 40:40:15:3:2)で構成され得る。たとえば脂質相はDLinMC3−DMA/Chol/DSPC/DMG−PEG/PE−PEG−アミン(mol/mol 40:40:18:1.5:0.5)で構成され得る。たとえば脂質相はDLinMC3−DMA/Chol/DSPC/DMG−PEG/PE−PEG−アミン(mol/mol 40:40:15:3:2)で構成され得る。たとえば脂質相は、DLin−KC2−DMA/Chol/DSPC/DMG−PEG/PE−PEG−アミン(mol/mol 40:40:18:1.5:0.5)で構成され得る。たとえば脂質相は、DLinKC2−DMA/Chol/DSPC/DMG−PEG/PE−PEG−アミン(mol/mol 40:40:15:3:2)で構成され得る。
【0076】
一部の実施形態では、脂質相は約30〜60%(mol:mol)のカチオン性脂質を含み得る。たとえばカチオン性脂質は、約40〜50%(mol:mol)の脂質相を含み得る。
【0077】
一部の実施形態では、脂質相は、約20〜70%(mol:mol)の膜安定化物質を含み得る。たとえば膜安定化物質は、脂質相の約40〜60%を構成し得る。一部の実施形態では、1種類超の膜安定化物質が脂質相に使用され得る。たとえば膜安定化脂質は、コレステロール(脂質相の約30〜50%(mol:mol))、および脂質相の約5〜15%(mol:mol)であり得るリン脂質(たとえばDSPCなど)を含み得る。
【0078】
一部の実施形態では、脂質相は、約0.25〜3%(mol:mol)のPEG−アミン(脂質に結合)を含み得る。たとえばPEG−アミンは、脂質相の約0.5〜1.5%を構成し得る。
【0079】
一部の実施形態では、もし存在する場合、追加的なPEG誘導体(脂質に結合)は、脂質相組成物の約0.5〜10%を構成し得る。たとえば追加的なPEG誘導体は、脂質相の約1.5〜5%を構成し得る。
【0080】
一部の実施形態では、核酸の送達のためのグリコサミノグリカンでコーティングされたリポソームの調製のための方法であって、上記方法が、
a)有機溶媒中、カチオン性脂質、膜安定化物質、およびリン脂質に結合したPEG−アミンを望ましい比率で混合し、脂質混合物を形成するステップを含む脂質相を形成するステップと、
b)ステップa)の脂質混合物に核酸水溶液を導入するステップによりリポソームを作製するステップと、
c)上記混合物に活性化グリコサミノグリカンを添加するステップと
のうちの1つまたは複数を含む、方法を提供する。
【0081】
一部の実施形態では、脂質は、酸性水性緩衝液に懸濁されている。
【0082】
一部の実施形態では、核酸の送達のためのグリコサミノグリカンでコーティングされたリポソームの調製のための方法であって、
a)脂質相を形成するステップであって、
i)有機溶媒中、カチオン性脂質、膜安定化脂質、および脂質に結合したPEG―アミンを望ましい比率で混合し、脂質混合物を形成するステップと、
ii)緩衝液に脂質混合物を懸濁して多層小胞を作製するステップと
を含むステップと、
b)
i)酸性緩衝液にグリコサミノグリカンを溶解し、架橋剤を添加して、活性化グリコサミノグリカンを形成することを含む、グリコサミノグリカンの活性化のステップと、
c)
i)核酸とともにステップa)の脂質相をインキュベート/混合/懸濁するステップと、
ii)上記混合物に、上記活性化グリコサミノグリカンを添加するステップと
によりリポソームを作製するステップと
のうちの1つまたは複数を含む、方法を提供する。
【0083】
一部の実施形態では、脂質は、酸性水性緩衝液に懸濁されている。一部の実施形態では、酸性水性緩衝液は、限定するものではないが、MES緩衝液(たとえば50mM〜100mM、pH5.5)、酢酸塩緩衝液(たとえば100mM、pH4.0)などから選択される。一部の実施形態では、核酸は、たとえば限定するものではないが、MES緩衝液(たとえば50mM〜100mM、pH5.5)、酢酸塩緩衝液(たとえば100mM、pH4.0)などの酸性緩衝液に添加され得る。一部の実施形態では、多層小胞の形成の前に核酸は脂質と混合され得る。このような実施形態では、核酸(たとえば酢酸塩緩衝液中)および脂質(たとえば100%のエタノール中)はいずれも、核酸を被包した粒子を形成するためにマイクロフルダイザーに導入され得る。
【0084】
一部の実施形態では、リポソームの調製のための方法は、最も有効な組成物を得るために、組成物の成分および成分間の比率を細かく調節する様々な修正を含み得る。この修正は、たとえば、限定するものではないが、脂質組成物の形成に使用される特定の脂質、脂質組成物の脂質間の比率、被包される核酸の同一性、核酸と脂質組成物との間の比率、使用される特定のグリコサミノグリカン、グリコサミノグリカンと脂質組成物との間の比率、反応を行うpH、反応を行う温度、反応を形成する条件、様々なステップの時間の長さなど、またはそれらの組み合わせなどのパラメータを含み得る。
【0085】
一部の実施形態では、本発明のリポソームの調製のための方法は、均一に分布した脂質組成物の粒径を有益にもたらし得る。
【0086】
一部の実施形態では、本発明の方法により形成されるリポソームは、形成の様々な段階で、凍結乾燥または脱水され得る。
【0087】
一部の実施形態では、本開示のリポソーム(すなわちグリコサミノグリカンのコーティングおよび内部に被包した核酸を含む)は、それを必要とする生物の様々な病態の治療に使用することができる。
【0088】
一部の実施形態では、リポソームはそのまま投与され得る。一部の実施形態では、リポソームは、溶液で投与され得る。一部の実施形態では、リポソームは、いずれかの所望の投与経路により投与される適切な医薬組成物に製剤化され得る。例示的な投与経路は、限定するものではないが、局所、経口、または非経口などの経路を含む。意図される投与形式に応じて、使用される組成物は、たとえば錠剤、坐剤、丸剤、カプセル、散剤、液剤、懸濁剤などの固体、半固体、または液体の剤形などであり得て、好ましくは正確な用量の単回投与に適した単位剤形であり得る。医薬組成物は、カチオン性リポソーム、薬学的に許容可能な賦形剤を含み、任意に、他の薬剤、医薬品、担体、アジュバントなどを含み得る。薬学的に許容可能な担体は、粒子内に被包した核酸に対して不活性であり、使用条件下で有害な副作用または毒性を有さないものであることが好ましい。一部の実施形態では、投与は局所投与である。
【0089】
一部の実施形態では、非経口投与のための注射可能な製剤は、液剤または懸濁剤、注射前に液体への溶解または懸濁に適した固体の形態として、または乳剤として調製することができる。適切な賦形剤は、たとえば水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなどである。さらに必要に応じて、投与される医薬組成物はまた、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤など、たとえば酢酸ナトリウム、ソルビタンモノラウラート、トリエタノールアミンオレアートなどの、少量の非毒性の補助物質をも含み得る。また、水性注射懸濁剤は、たとえばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、および/またはデキストランを含む、懸濁剤の粘度を増加させる物質を含み得る。任意に懸濁剤は、安定化剤をも含み得る。非経口製剤は、アンプルおよびバイアルなどの、単位剤形または複数用量の密封容器に存在することができ、たとえば使用の直前に注射するための水などの滅菌性の液体担体の添加のみを必要とするフリーズドライ(凍結乾燥)条件で保存することができる。一部の実施形態では、非経口投与は、静脈内投与を含む。
【0090】
他の実施形態では、経口投与に関して、薬学的に許容可能な非毒性の組成物は、たとえばマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルカム、セルロース、クロスカルメロースナトリウム(sodium crosscarmellose)、グルコース、ゼラチン、スクロース、炭酸マグネシウムなどの通常使用される賦形剤のいずれかの組み込みにより、形成され得る。このような組成物として、液剤、懸濁剤、錠剤、分散性錠剤、丸剤、カプセル、散剤、徐放製剤などが挙げられる。経口投与に適した製剤は、水、生理食塩水、オレンジジュースなどの希釈剤に溶解した有効量の化合物などの液体溶液;それぞれが、固体または顆粒としての所定量の活性成分を含むサシェ、ロゼンジ、およびトローチ;散剤、適切な液体中の懸濁剤;ならびに適切な乳化剤からなることができる。液体製剤は、薬学的に許容可能な界面活性剤、懸濁剤、または乳化剤を添加するまたは添加することなく、水およびアルコール(たとえばエタノール、ベンジルアルコール、およびポリエチレンアルコール)などの希釈剤を含み得る。
【0091】
投与されるリポソームの用量を決定する際に、用量および投与頻度は、粒子内に被包された特定の生物学的に活性な薬剤の薬理学的特性に関連して選択される。
【0092】
一部の実施形態では、核酸を含む本発明のリポソームは、核酸の同一性、標的部位などに応じて、様々な病態の治療に使用され得る。例示的な病態は、限定するものではないが、様々な種類の癌、様々な感染症(たとえばウイルス性感染症、細菌性感染症、真菌性感染症など)、自己免疫疾患、神経変性疾患、炎症(たとえばクローン病、大腸炎などの炎症性腸疾患)、眼に関連した症候群および疾患、肺に関連した疾患、胃腸に関連した症候群および疾患などから選択され得る。
【0093】
一部の例示的な実施形態では、たとえばsiRNA、miRNA、shRNAなどの核酸を含むリポソームは、核酸の同一性、標的部位などに応じて、様々な病態の治療に使用され得る。一部の実施形態では、リポソーム内に被包した核酸は、標的遺伝子のサイレンシングを誘導できる核酸であり得る。一部の実施形態では、標的遺伝子は、遺伝子の発現が治療される病態に関連するいずれかの遺伝子であり得る。一部の実施形態では、標的遺伝子は、限定するものではないが、増殖因子(EGFR、PDGFRなど)、血管新生経路に関連する遺伝子(VEGF、インテグリンなど)、細胞内シグナリング経路および細胞周期の調節に関与する遺伝子(PI3K/AKT/mTOR、Ras/Raf/MAPK、PDK1、CHK1、PLK1、サイクリンなど)から選択される遺伝子であり得る。一部の実施形態では、それぞれが1つまたは複数の標的を有する核酸の組み合わせが、リポソーム粒子内に被包され得る。
【0094】
一部の実施形態では、核酸を含むリポソーム粒子により治療され得る例示的な病態は、限定するものではないが、様々な種類の癌、様々な感染症(たとえばウイルス性感染症、細菌性感染症、真菌性感染症など)、自己免疫疾患、神経変性疾患、炎症(たとえばクローン病、大腸炎などの炎症性腸疾患など)、眼に関連する症候群および疾患、肺に関連する疾患、胃腸に関連する症候群および疾患などから選択されてもよい。
【0095】
一部の例示的な実施形態では、核酸(siRNAまたはmiRNAまたはshRNAなど)を含むリポソームは、癌の治療に使用され得る。癌は、細胞集団が、増殖および分化を通常支配する制御機構に対して様々な度合で応答しなくなる障害である。癌は、異なる部位への転移を含む様々な種類の悪性新生物および腫瘍を表す。脂質ベースの組成物により治療できる癌の非限定的な例は、卵巣癌、前立腺癌、乳癌、皮膚癌、黒色腫、結腸癌、肺癌、膵癌、胃癌、膀胱癌、ユーイング肉腫、リンパ腫、白血病、多発性骨髄腫、頭頸部癌、腎臓癌、骨癌、肝臓癌および甲状腺癌である。癌の具体的な例として、限定するものではないが、腺癌、副腎腫瘍、エナメル上皮腫、退形成腫瘍、甲状腺細胞の退形成細胞腫、血管線維腫、血管腫、血管肉腫、アプドーマ、カルチノイド腫瘍、男化腫瘍、腹水腫瘍細胞、腹水腫瘍、星状芽細胞腫、星状細胞腫、毛細血管拡張性運動失調症、心房粘液腫、基底細胞癌、骨癌、骨腫瘍、脳幹グリオーマ、脳腫瘍、乳癌、バーキットリンパ腫、癌腫、小脳性星状細胞腫、子宮頸癌、胆管細胞癌、胆管腫、軟骨芽細胞腫、軟骨腫、軟骨肉腫、絨毛芽腫、絨毛癌、結腸癌、一般的な急性リンパ芽球性白血病、頭蓋咽頭腫、嚢胞癌、嚢胞線維腫、嚢腫、細胞腫、皮膚T細胞リンパ腫、非浸潤性乳管癌、乳管内乳頭腫、未分化胚細胞腫、脳腫瘤、子宮内膜癌、内皮腫、上衣腫、上皮腫、赤白血病、ユーイング肉腫、節外性リンパ腫、ネコの肉腫、乳腺線維腺腫、線維肉腫、甲状腺の濾胞癌、神経節膠腫、ガストリノーマ、多形膠芽細胞腫、グリオーマ、性腺芽腫、血管芽腫、血管内皮芽細胞腫、血管内皮腫、血管外皮腫、血管リンパ管腫、血球芽細胞腫、血液細胞腫(haemocytoma)、ヘアリーセル白血病、過誤腫、肝臓癌、肝細胞癌、肝細胞腫、組織腫、ホジキン病、副腎腫、浸潤性癌、浸潤性乳管癌(infiltrating ductal cell carcinoma)、インスリノーマ、若年性血管線維腫、カポジ肉腫、腎臓腫瘍、大細胞型リンパ腫、白血病、慢性白血病、急性白血病、肝臓癌、肝臓転移、Lucke癌、リンパ節腫、リンパ管腫、リンパ性白血病、リンパ球性リンパ腫、リンパ球腫、リンパ浮腫、リンパ腫、肺癌、悪性中皮腫、悪性奇形腫、マスト細胞腫、髄芽腫、黒色腫、髄膜腫、中皮腫、転移性癌、モートン神経腫、多発性骨髄腫、骨髄芽球腫、骨髄性白血病、骨髄脂肪腫、骨髄腫、筋芽細胞腫、粘液腫、上咽頭癌、腎芽腫、神経芽細胞腫、神経線維腫、神経線維腫症、神経膠腫、神経腫、非ホジキンリンパ腫、乏突起神経膠腫、視神経膠腫、骨軟骨腫、骨原性肉腫、骨肉腫、卵巣癌、乳頭のパジェット病、パンコースト腫瘍、膵癌、クロム親和性細胞腫、褐色細胞腫、形質細胞腫、原発性脳腫瘍、プロラクチノーマ、腎細胞癌、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、横紋筋肉腫(rhabdosarcoma)、固形腫瘍、肉腫、続発性腫瘍、セミノーマ、皮膚癌、小細胞癌、扁平上皮癌、T細胞リンパ腫、奇形癌、精巣癌、胸腺腫、絨毛性腫瘍、前庭神経鞘腫、ウィルムス腫瘍、またはそれらの組み合わせなどの種類が挙げられる。
【0096】
一部の例示的な実施形態では、癌の治療に使用され得る核酸(siRNA、miRNAまたはshRNAなど)は、細胞周期の調節に関与する標的遺伝子を対象とする。一部の例示的な実施形態では、標的遺伝子は、Polo様キナーゼ1(PLK)、サイクリンD1、CHK1、Notch経路遺伝子、PDGFRA、EGFRvIII、PD−L1、RelBなどであり得る。
【0097】
よって、一部の実施形態では、癌の治療方法であって、本開示のリポソームまたは同リポソームを含む医薬組成物をその必要がある対象に投与するステップを含む、方法を提供する。一部の実施形態では、癌の治療のための本開示のリポソームまたは同リポソームを含む医薬組成物の使用を提供する。
【0098】
一部の例示的な実施形態では、癌は癌腫である。一部の実施形態では癌は腺癌である。
【0099】
一部の実施形態では癌はグリオーマである。一部の実施形態では、グリオーマは、星状細胞腫(若年性毛様細胞性星状細胞腫、ローグレード星状細胞腫、未分化星状細胞腫、または神経膠芽腫);上衣腫;混合膠腫(乏突起星状細胞腫);乏突起神経膠腫;乏突起神経膠腫;視神経膠腫および大脳神経膠腫症から選択される。一部の例示的な実施形態では、癌はグレードIVの星状細胞腫(多形膠芽細胞腫(GBM))である。一部の実施形態では、GBMは、化学療法抵抗性GBMである。
【0100】
一部の実施形態では、本開示のリポソーム粒子または同リポソーム粒子を含む医薬組成物は、局所的な方法で投与され得る。たとえば、GBMを治療する場合、本粒子または同粒子を含む医薬組成物をGBM部位に直接投与され得る。
【0101】
一部の実施形態では、本粒子または同粒子を含む組成物の脳の領域(たとえばGBM対象の初代ニューロスフェアなど)への局所投与は、脳脊髄液の流れに耐えることができ、標的部位へ治療核酸を送達することによりその効果を発揮する。
【0102】
一部の実施形態では、本開示のリポソームまたは同リポソームを含む医薬組成物は、siRNA核酸をその中に被包する。一部の実施形態では、siRNAは、Polo様キナーゼ1(PLK1)を対象とするsiRNA分子である(すなわち、siRNAはPLK1の遺伝子産物の発現を低減または排除することができる)。一部の実施形態では、siRNAは、前神経GBMを治療するためのNotch経路遺伝子またはPDGFRAに対するsiRNAである。一部の実施形態では、siRNAは、古典的なGBMを治療するためのEGFRvIIIに対するsiRNAである。一部の実施形態では、siRNAは、間葉系GBMを治療するためのPD−L1に対するsiRNAである。一部の実施形態では、siRNAは、間葉系GBMに関するRelb(腫瘍の増殖および浸潤の発がんドライバー)に対するsiRNAである。
【0103】
一部の実施形態では、GBMを治療する方法であって、本開示のリポソームまたは同リポソームを含む医薬組成物の局所投与を含み、上記リポソームがPLK1に対するsiRNA核酸を被包する、方法を提供する。
【0104】
一部の実施形態では、前神経GBMを治療する方法であって、本開示のリポソームまたは同リポソームを含む医薬組成物の局所投与を含み、上記リポソームがPDGFRAのnotch経路遺伝子に対するsiRNA核酸を被包する、方法を提供する。
【0105】
一部の実施形態では、古典的なGBMを治療する方法であって、本開示のリポソームまたは同リポソームを含む医薬組成物の局所投与を含み、上記リポソームが、EGFRvIIIに対するsiRNA核酸を被包する、方法を提供する。
【0106】
一部の実施形態では、間葉系GBMを治療する方法であって、本開示のリポソームまたは同リポソームを含む医薬組成物の局所投与を含み、上記リポソームが、PD−L1および/またはRelBに対するsiRNA核酸を被包する、方法を提供する。
【0107】
一部の実施形態では、リポソーム内に被包される複数の核酸種による併用治療は、有益な効果を増大させるために使用され得る。
【0108】
一部の実施形態では、病態を治療する場合に、核酸を担持するリポソームの投与は、1つまたは複数の追加的な治療と併用して行われ得る。たとえば癌を治療する場合、このような併用治療は、化学療法および放射線照射に対する腫瘍の感受性を増加するために使用され得る。一部の例示的な実施形態では、癌治療に関して、MGMT、Cx43、HeR1/EGF−R46、VEGF44、BCL−2およびToll様受容体などの遺伝子を標的とするサイレンシング核酸(siRNA、miRNA、shRNAなど)が使用され、これはさらに相乗的な応答を提供し得る。たとえば、MDR−1(多剤耐性)遺伝子の標的化は、この遺伝子の過剰発現がGBMなどの癌における薬剤耐性と相関しているため、抗癌剤の治療の有効性を増大することができる。
【0109】
一部の実施形態では、病態を治療する場合に、核酸を担持するリポソームの反復投与を行ってもよく、ここで投与される用量およびその中に被包された核酸の組成物は同一、類似、または異なってもよい。一部の実施形態では、投与は長期間(1〜120時間にわたるなど)であってもよい。
【0110】
多くの例示的な態様および実施形態を上述してきたが、当業者は、これらの特定の修正、並べ替え、追加、およびサブコンビネーションを認識するものである。よって、以下に添付の特許請求の範囲および本明細書の後に導入される特許請求の範囲は、本発明の趣旨および範囲内にあることから、このような修正、並べ替え、追加、およびサブコンビネーションをすべて含むように解釈されると意図されている。
【0111】
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態をより完全に示すために提示されている。しかしながらこれらは、本発明の広い範囲を限定するように解釈するべきでは決してない。当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書中に開示される原則の多くの変更および修正を容易に考案することができる。
【0112】
実施例
実施例1−siRNAを被包するカチオン性リポソームの調製
カチオン性脂質の調製
3種類のカチオン性脂質を合成した:脂質のpKaが6.7(KC2およびMC3)ならびに6.8(DLinDMA)であるDLinDMA、DLin−MC3−DMA、およびDLin−KC2−DMA。カチオン性脂質を、本質的に
図1に要約した通りに合成した。
【0113】
DLinDMA:3−(ジメチルアミノ)−1,2−プロパンジオール(140mg、1.2mmol)および95%の水素化ナトリウム(NaH、322mg、20mmol)の溶液を、アルゴン下で30分ベンゼン(10ml)中で攪拌した。リノール酸(1g、3mmol)のメシルエステルを添加し、反応物を18時間アルゴン下で還流した。次に反応混合物を、エタノールをゆっくりと添加することによりクエンチしつつ、氷槽で冷却した。さらにベンゼン50mlで希釈した後、混合物を蒸留水(2×100ml)および鹹水(100mL)で洗浄し、必要に応じて、エタノール(〜20ml)を使用して相の分離を支援した。有機相を、無水硫酸ナトリウムで乾燥、蒸発させた。粗製生成物を、0〜5%のメタノールを含むクロロホルムで溶出したシリカゲルカラムで精製した。カラムの分画を、薄層クロマトグラフィー(TLC)(シリカゲル、クロロホルム/メタノール9:1 v/v)により解析し、純粋な生成物を含む分画を回収し、濃縮して、淡黄色の油として純粋な生成物DLinDMA400mgを得た。
【0114】
2,2−ジリノレイル−4−(2−ジメチルアミノエチル)−[1,3]−ジオキソラン(DLin−KC2−DMA):
ジリノレイルケトンの合成:CH2Cl2 100ml中ジリノレイルメタノール(2.0g、3.8mmol)および無水炭酸ナトリウム(0.2g)の混合物に、ピリジニウムクロロクロマート(PCC、2.0g、9.5mmol)を添加した。得られた懸濁物を室温で60分間攪拌した。次に、エーテル(300ml)を混合物に添加し、得られた褐色の懸濁物を、シリカゲル(300ml)のパッドを介してろ過した。シリカゲルパッドをエーテル(3×200ml)でさらに洗浄した。エーテルろ過物および洗浄水を合わせた。溶媒を蒸発させて、粗製生成物として油状の残渣3.0gを得た。粗製生成物を、ヘキサン中0〜3%のエーテルで溶出したシリカゲル(230〜400メッシュ、250ml)でのカラムクロマトグラフィーにより精製した。これにより、ジリノレイルケトン1.8g(90%)を得た。
2,2−ジリノレイル−4−(2−ヒドロキシエチル)−[1,3]‐ジオキソランの合成:トルエン50ml中のジリノレイルケトン(527mg、1.0mmol);1,2,4−ブタントリオール(工業等級、約90%、236mg、2mmol);およびピリジニウム p−トルエンスルホナート(50mg、0.2mmol)の混合物を、ディーン・スターク管を用いて窒素下で一晩還流して水を除去した。結果として得られる混合物を室温に冷却した。有機相を水(2×30ml)、次に鹹水(50ml)で洗浄し、無水Na2SO4で乾燥させた。溶媒を蒸発させて、帯黄色の油状残渣(0.6g)を得た。粗製生成物を、溶離液としてのジクロロメタンを含むシリカゲル(230〜400メッシュ、100ml)でのカラムクロマトグラフィーにより精製した。これにより、純粋な2,2−ジリノレイル−4−(2−ヒドロキシエチル)−[1,3]−ジオキソラン0.5gを得た。2,2−ジリノレイル−4−(2−メタンスルホニルエチル)−[1,3]‐ジオキソランの合成:無水CH2Cl 250ml中に1(500mg、0.81mmmol)の無水トリエチルアミン(218mg、2.8mmol)の溶液に、窒素下でメタンスルホニル無水物(290mg、1.6mmol)を添加した。得られた混合物を室温で一晩攪拌した。混合物をCH2C12 25mlで希釈した。有機相を水(2×30ml)、次に鹹水(50ml)で洗浄し、無水Na2SO4で乾燥させた。溶媒を蒸発させ、帯黄色の油510mgを得た。粗製生成物(2,2−ジリノレイル−4−(2−メタンスルホニルエチル)−[1,3]−ジオキソラン)を、さらなる精製を行うことなく以下のステップに使用した。上記の粗製生成物に、窒素下で、THF中のジメチルアミン20ml(2.0M)を添加した。得られた混合物を室温で6日間攪拌した。油状残渣を、溶媒を蒸発して得た。溶離液としてのジクロロメタン中0〜5%のメタノール勾配を用いたシリカゲル(230〜400メッシュ、100ml)でのカラムクロマトグラフィーから、薄色の油として生成物DLin−KC2−DMA380mgを得た。
【0115】
以下のカチオン性リポソームを調製した。
以下の製剤(脂質相組成物)を、100%エタノール中で調製した:
1.DLinDMA/Chol/DSPC/DMG−PEG/PE−PEG−アミン(mol/mol 40:40:18:1.5:0.5)
2.DLinDMA/Chol/DSPC/DMG−PEG/PE−PEG−アミン(mol/mol 40:40:15:3:2)
3.DLin−MC3−DMA/Chol/DSPC/DMG−PEG/PE−PEG−アミン(mol/mol 40:40:18:1.5:0.5).
4.DLin−MC3−DMA/Chol/DSPC/DMG−PEG/PE−PEG−アミン(mol mol 40:40:15:3:2).
5.DLin−KC2−DMA/Chol/DSPC/DMG−PEG/PE−PEG−アミン(mol/mol 40:40:18:1.5:0.5).
6.DLinKC2−DMA/Chol/DSPC/DMG−PEG/PE−PEG−アミン(mol/mol 40:40:15:3:2)。
(Chol=コレステロール;DSPC=1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン;DMG−PEG=1,2−ジミリストイル−sn−グリセロール、メトキシポリエチレングリコール;PE−PEG−アミン 1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−エタノールホスホエタノールアミン−N−[アミノ(ポリエチレングリコール)]
【0116】
上述の製剤を以下のように調製した:100%のエタノールに各脂質相製剤を攪拌しながら注意深く溶解した後、脂質を50mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH4)に添加し、多層小胞を作製した(合計33%のエタノール)。次に、形成した多層小胞を、直径80nmのフィルター(Whatman)を用いて、小さな単層の小胞に押し出した。
【0117】
1:16(wt/wt)のsiRNA:脂質の比率で、siRNA分子(酢酸塩緩衝液pH4.0中1.5mg/ml−原液)を添加して、33%のエタノールおよび66%の酢酸塩緩衝液を形成した。
【0118】
あるいは脂質をエタノール(100%)と混合し、siRNA分子を、酢酸塩緩衝液に再懸濁し、両方をマイクロフルダイザー混合器(Precision NanoSystems, Vancouver, BC)に導入して粒子を形成した。簡潔に述べると、エタノール中に調製した1容量の脂質混合物、および3容量のsiRNA(1:16 w/w siRNA対脂質、酢酸塩緩衝液溶液を含む)を、デュアルシリンジポンプ(Model S200, kD Scientific, Holliston, MA)を使用して混合し、2ml/分の組み合わせた流速(エタノールでは0.5ml/分および水性緩衝液では1.5ml/分)で、マイクロ混合器を介して溶液を駆動した。
【0119】
粒子(調製方法のいずれかにより調製)を、pH7.4のPBSに対して一晩透析して、エタノールを除去した。被包されていないsiRNAを除去するために、Amicon 100K MWカットオフまたはMono Qカラムを使用した。
【0120】
粒子へのヒアルロン酸(HA)の結合
低分子量および高分子量の大きさのHA(LifeCore)を結合に使用した
低MW HA 5kDaまたは7Kda
高MW HA −800KDa
【0121】
HAを、アミンカップリング法によりPEGアミンに結合した:まず、HA(Lifecore Biomedical LLC, USA)のカルボキシル基を、DIW中のEDC/スルホ−NHS(1:1の比率のEDC:COOH、1:1の比率のEDC/スルホ−NHS)により1〜2時間活性化した。HA(0.3mg、5×105mmol)を水に溶解し、(0.2mg,10×105mmol)およびスルホ−NHS(0.3mg、10×105mmol)を添加した。次に、脂質粒子(アミン―官能基化粒子)をPBS(pH7.8〜8.2)に添加した。反応を2〜3時間継続し、次いでPBS(pH7.4)に対して、12〜14kDaのカットオフを用いて室温で23時間透析し、過剰なHAおよびEDCおよび非結合の小さなHA(5〜7kDa)を除去するか、または超遠心を使用して3回洗浄することにより非結合の800kDaのHAを除去した。HA対アミンの比率を、5:1に維持した(HA:アミン)。最終的なHA/脂質の比率は、3H−HA(ARC, Saint Louis, MI)によりアッセイした場合、典型的に75μgのΗΑ/μモル濃度脂質であった。
【0122】
実施例2−様々なカチオン性リポソーム製剤の特徴づけ
siRNA捕捉効率のアッセイ
siRNA被包の効率を、以前に報告された(Landeman−Milo et al. 2012 Cancer Letters and Peer D. et al. Science 2008)Quant−iT RiboGreen RNAアッセイ(Invitrogen)により決定した。簡潔に述べると、捕捉効率を、TritonX−100の存在下および非存在下で、異なる製剤試料においてRNA結合色素RiboGreenの蛍光を比較することにより決定した。界面活性剤の非存在下では、蛍光を、利用可能な(捕捉されていない)siRNAのみから測定することができる。対して、界面活性剤の存在下では、蛍光は総siRNAから測定され、よって、捕捉(%)は、式:siRNAの捕捉(%)=[1−(遊離siRNA濃度/総siRNA濃度)]×100により表される。
【0123】
透過型電子顕微鏡(TEM)解析。粒子の大きさおよび形状を、透過型電子顕微鏡により解析した。LNPを含む水溶液の液滴(HAを含む、または含まない)を、炭素コーティングした銅のグリッドに入れ、空気乾燥した。解析を、Joel 1200 EX (Japan)透過型電子顕微鏡で行った。
【0124】
走査型電子顕微鏡(SEM):水性試料(HAを含むまたは含まない)を含む粒子を、シリカウェーハ上で乾燥させ、解析を、Quanta 200 FEG(USA)走査型電子顕微鏡で行った。
【0125】
捕捉アッセイの結果を表1に提示する。各組成物の製剤を示す。
【表1】
【0126】
この結果は、粒子内の核酸分子の捕捉の非常に高いパーセンテージ(91%超)を示唆するものである。
【0127】
粒子の特徴づけのための動的光散乱を行って、粒子の表面特徴を同定した。表面の特徴づけを、7kDaのHAでコーティングされたDLinDMA/Chol/DSPC/DMG−PEG/PE−PEG−アミン(mol/mol 40:40:18:1.5:0.5)を含む表1の第1の製剤で行った。原子間力顕微鏡から得た粒子のピクトグラムを
図2Aに示す。この結果は、ヤング係数43.1MPaの丸い形状の粒子の分散を示す。
【0128】
対照的に、製剤中にPEG−アミンを含まなかったが、PE(20%モル濃度から、10%、5%、2%、1%または0.5%)を含んだ同様の製剤は、外観検査(沈殿物の凝集のみを示す)により決定されるように、粒子を形成することができなかった。さらに、典型的な動的光散乱サイズ分布は、ノイズ対シグナル比が高いために得ることができず、このことは、このような製剤では十分に安定した粒子が存在しないことを示す。
【0129】
DLin−MC3−DMA/DSPC/Chol/DMG−PEG/DCPE−PEG−アミン(mol/mol 50:10:38:18:1.5:0.5)単独またはHA(5Kda MW)に結合したDLinMC3−DMA/DSPC/Chol/DMG−PEG/DCPE−PEG−アミン(mol/mol 50:10:38:18:1.5:0.5)を含む例示的な製剤の解析を、
図2〜Eに示す。
図2Bおよび2DはDLin−MC3−DMA/DSPC/Chol/DMG−PEG/DCPE−PEG−アミン(mol/mol 50:10:38:18:1.5:0.5)およびDLinMC3−DMA/DSPC/Chol/DMG−PEG/DCPE−PEG−アミン(mol/mol 50:10:38:18:1.5:0.5)−HA(5KDaのMW)のTEM解析のピクトグラムをそれぞれ示す。
図2Cおよび2Eは、DLinMC3−DMA/DSPC/Chol/DMG−PEG/DCPE−PEG−アミン(mol/mol 50:10:38:18:1.5:0.5)およびDLinMC3−DMA/DSPC/Chol/DMG−PEG/DCPE−PEG−アミン(mol/mol 50:10:38:18:1.5:0.5)−HA(5KDaのMW)のSEM解析のピクトグラムをそれぞれ示す。製剤のゼータ電位は、HAが結合していない場合には3.8±1であり、HAへの結合後では、−8.2±0.7であった。
図2B〜Eに示されるように、HAが結合していない粒子は、球形の形状および丸い表面を有し、対してHAが結合している粒子は、粒子上に花のような形状を呈する。
【0130】
まとめると、これら結果は、製剤にPEG−アミンを含めると、安定し、等しく均等に分布した粒子の形成が可能となることを示す。この結果はさらに、追加的なPEG誘導体を含めると、リポソームの凝縮および安定性をさらに改善することを示唆する。この結果は、リポソーム中の核酸の存在が、粒子の形成を可能にすることをさらに証明する。
【0131】
実施例3:CD44を有する標的細胞におけるリポソーム内に被包されたsiRNAによる標的遺伝子の効率的なノックダウン
材料および方法:
細胞株:
CD44を発現するヒトの肺腺癌細胞(A549)およびCD44を欠いているヒトの前立腺癌(LnCap)細胞(フローサイトメトリーによる)を、American Type Culture Collection(ATCC)から購入した。ATCCにより推奨されるように、15%のFBSおよび1%の抗生剤を補充したRPMI−1640で細胞を増殖させた。
【0132】
siRNA分子:PLK1 siRNA分子を、以下の公開されている配列:5’−UmGmAAGAAGAUCmAmCCmCUCCUUmA−3’(センス)(SEQ ID NO:1)に従って合成した。siRNAの安定性を高めるために、センス鎖およびアンチセンス鎖を、2’−O−メチル化(m)により修飾した。
【0133】
ルシフェラーゼsiRNA分子(siLuci):センス鎖:5’ cuuAcGcuGAGuAcuucGAdTsdT(SEQ ID NO:6)’アンチセンス鎖:5’ UCGAAGuACUcAGCGuAAGdTsdT(SEQ ID NO:7)
【0134】
2’−OMe修飾したヌクレオチドを小文字で示し、ホスホロチオエート結合を、「s」で表す。
【0135】
ヒトのA549およびLnCap細胞におけるトランスフェクション:15%のFBSおよび1%の抗生剤を含むRPMI−1640中、37℃で細胞を増殖させた。トランスフェクションの日に、細胞を、ポリスチレンでコーティングした12ウェルプレートに、7×104細胞/ウェルの密度で播種した。完全培地中0.37μMの濃度の、脂質相および/または遊離(ネイキッド)siRNAの異なる製剤を添加し、48時間または72時間インキュベートした。総RNAを、24時間後および48時間後に単離し、PCRを行って、トランスフェクション後の癌細胞に存在するPLK1転写物の量を計算した。
【0136】
定量リアルタイムPCR解析:製造社のプロトコルに従って、異なるナノ粒子製剤およびネイキッドsiRNAと共に24時間または48時間インキュベートした後に、EZ−RNA Kit(Biological Industries)を使用して総RNAを単離した。High−Capacity cDNA Reverse Transcription Kits(SWIFT−Max Pro, ESCO)を使用して、mRNAをcDNAに転写した。その後、cDNA0.625ngに、PLK1およびGAPDH(ハウスキーピング遺伝子として)を標的とする定量的リアルタイムPCR解析を行った。プライマー配列はPLK1 フォワード 5’−ACCAGCACGTCGTAGGATTC−3’(SEQ ID NO:2)、PLK1 リバース 5’−CAAGCACAATTGCCGTAGG−3’(SEQ ID NO:3)。GAPDH フォワード 5’−TCAGGGTTTCACATTTGGCA(SEQ ID NO:4)、GAPDH リバース 5’−GAGCATGGATCGGAAAACCA(SEQ ID NO: 8)であった。サイバーグリーンを使用して、PCR産物を検出した。StepOne Real−Time PCR SystemおよびStepOne v2.0ソフトウェア(Applied Biosystems)を使用して解析を行った。相対的な遺伝子発現の値を、StepOne v2.0 ソフトウェア(Applied Biosystems)を使用してΔΔCT法により決定した。内因性の参照物質としてハウスキーピング遺伝子GAPDHに対して正規化し、未処置の対照細胞と比較したPLK1の発現の差の倍率として、データを提示する。
【0137】
細胞生存率のアッセイ:in vitroでの細胞の生存率を、XTTアッセイにより測定した。XTT試薬(Biological Industries)を、リポソーム製剤での処置から48時間後に細胞に添加し、製造社のプロトコルに従って4時間インキュベートした。マイクロプレートリーダー(BioTEk, Israel)により、450〜500nmの波長での吸光度を測定した。
【0138】
粒径の測定:リポソームの大きさを、Zetasizer Nano(Malvern, UK)を使用した動的光散乱により、PBS中で測定した。
【0139】
標的細胞(CD44を有する)における、標的遺伝子の発現の低減に及ぼすリポソームのin vitroでの作用を試験するために、大量のCD44を発現するヒトの肺腺癌細胞株A549、および特異性対照としての非CD44発現細胞のLNCAP(ヒトの前立腺癌)を使用した。
【0140】
統計解析
2つの平均値間の差異を、対応のない両側スチューデントt検定を使用して試験した。治療グループ間の差異を、SPSSソフトウェアの一元配置分散分析により評価した。カプランマイヤー生存解析を、GraphPad Prism version 5.0bを用いて行った。
【0141】
CD44を、pan−CD44モノクローナル抗体(クローンIM7)またはそのアイソタイプ対照mAb(Rat IgG2b)を用いて、以前に報告されるように(Landesman−Milo D. et al,. Cancer Letters 2012)標識した。試料を回収し、FACSscan CellQuest(Becton Dickinson, Franklin Lakes, NJ)を使用して解析した。各実験点で10,000個の細胞を解析した。データ解析を、Flow Jo ソフトウェア(Tree Star, Inc. Oregon, USA)を使用して行った。
図3は、試験した細胞(A549細胞、LnCap細胞、およびCTRL(アイソタイプ対照染色))における代表的なCD44染色を示す。
【0142】
次に、細胞に以下の脂質ベースの組成物(製剤)をトランスフェクトした(表2)。
【表2】
【0143】
図4A〜Bに提示された結果は、製剤1〜3および4〜6でそれぞれトランスフェクトしたA549細胞におけるPLK1の相対的な遺伝子発現を示す。
図4C〜Dに提示された結果は、製剤1〜3および4〜6をそれぞれトランスフェクトしたLnCap細胞におけるPLK1の相対的な遺伝子発現を示す。
【0144】
これら結果は、粒子の表面上にHAコーティングを有する製剤が、CD44を有する標的細胞を特異的に向けられるが、CD44受容体を担持しない細胞には向けられないため、HAコーティングがリポソーム標的化特性を提供することを示す。この結果はさらに、試験した製剤が、実際に、標的細胞にsiRNAを効率的に送達できることにより、siRNAが標的遺伝子の発現を低減することにより生物学的な作用を発揮することができることを示す。さらに、この結果は、高分子量(800kDa)のHAが、低分子量(7kDa)のHAと比較して、標的細胞に対して増強された作用をもたらすことを示す。
【0145】
実施例4−単回i.v.注射後の、A549ヒト異種移植片モデルにおける標的遺伝子発現の特異的なノックダウン
A549細胞(ヒトの肺腺癌細胞(3×106個の細胞)を、HBSS(biological industries, Israel)で3回洗浄した後に、ヌードマウス(Nu/Nu)の大腿関節の上に移植して、A459腫瘍モデルを確立した。
【0146】
次にマウスに、様々な粒子組成物を静脈内注射し、単回i.v.注射から96時間後に、標的遺伝子(サイクリンD1)の遺伝子発現に関する効果をアッセイした。
【0147】
2mg/kgの濃度のサイクリンD1−siRNAを、MC3−PEG−アミン−HA(高Mw 800kDa)に配合し、マウスにi.v.投与した。
【0148】
サイクリンD1(CCND1)遺伝子NM_053056(siD1,センス鎖:GUAGGACUCUCAUUCGGGATT(SEQ ID NO:5))に対するsiRNA配列を設計し、Alnylam Pharmaceuticals(Cambridge MA, USA)が従来公開されているように(WeinsteinS. et al. PLOS ONE, 2012参照)スクリーニングした。サイクリンD1標的遺伝子の発現が正規化される対照遺伝子は、U6、eIF3aおよびeIF3cであった。
【0149】
粒子の組成物の静脈内注射を、5%のグルコースを補充した生理食塩水100μl容量で、0日目、3日目、および6日目に行った。体重を2日ごとにモニタリングした。結果を
図5に提示し、これは、粒子の投与から96時間後の、マウスの様々な組織におけるサイクリンD1の相対的な発現を示す。この結果は、注射から96時間後の腫瘍においてサイクリンD1の発現が特異的に低減したが、肺、脾臓、または腎臓では発現が特異的に低減しなかったことを証明している。サイクリンD1の発現の約75%の低減を、腫瘍において、最後のi.v.注射から96時間後に観察することができる。この結果は、他の非腫瘍細胞にはない、腫瘍に対する粒子の特異性を示す。この結果は、機能的な核酸のin vivoでの標的細胞への送達における粒子の効率をさらに示し、標的細胞における標的遺伝子の発現に効果的に影響することができる。
【0150】
実施例5:神経膠芽腫(GBM)細胞と、HAに結合したリポソーム粒子の特異的な相互作用
材料および方法
細胞株:ヒトの神経膠芽腫細胞株、T98G、U251、およびU87MG(WHOグレードIV)を、GBMのモデル細胞として使用した。選択した細胞株は、異なる遺伝的病変のスペクトラムを表す。すべての細胞株を、単層で増殖させ、10%のウシ胎仔血清、1%のペニシリン/ストレプトマイシン、および2mMLのグルタミン(Biological Industries)を補充した高グルコース(4.5g/l)のダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)に維持した。細胞を、5%CO2、37℃でインキュベートし、週に2回継代培養した。
【0151】
フローサイトメトリー解析および免疫組織化学的検査:細胞表面CD44抗原のフローサイトメトリーを、Coehn et.al. (2014)に記載されるように行った。簡潔に述べると、Biolegend(San Diego, CA, USA)製のAlexa Fluor 488−結合型ラット抗ヒトCD44(クローン1M7)またはIgG2bアイソタイプ対照を、0.5 106のGBM細胞(106細胞あたり0.25μg)と共に氷中で30分間インキュベートし、次いでPBSで洗浄した。CellQuestソフトウェア(Becton Dickinson, Franklin Lakes, NJ, USA)を備えるFACSCaliburを使用してデータを得た。データ解析を、FlowJoソフトウェア(Tree Star, Inc., Oregon, USA)を使用して行った。
【0152】
GBMの患者の8つのパラフィンブロックおよび1つの膠肉腫のブロックを、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色したスライドを調べることにより同定した。各腫瘍のブロックから、厚さ4μmの切片を切断して、正に帯電スライドに載せ、IHCに使用した。このスライドを、最大60℃に1時間温め、完全に自動化したプロトコル(Benchmark XT, Ventana medical system, Inc., Tucson, AZ, USA)で処理した後、関連するVentana試薬を標準的な製造社の指示を使用して使用した。簡潔に述べると、切片を脱脂し、再水和した後、抗原の回収のためのCC1の標準的なBenchmark XT前処理(60分)を選択した(Ventana Medical Systems)。次に切片をあらかじめ希釈したマウス抗ヒトCD44(08−0184、 Zymed製, San Francisco, CA, USA)と共に40分間インキュベートした。ultra View detection kit(Ventana Medical Systems)を用いて検出を行い、ヘマトキシリン(4分)(Ventana Medical Systems)で対比染色した。自己染色装置(autostainer)での作動が完了した後、スライドを、70%のエタノール、95%のエタノール、および100%のエタノール中で、各エタノールに関して10秒間脱水させた。カバーガラスを載せる前に、切片を、10秒間キシレンで清澄にし、エンテランで封入した。解析スコアは、腫瘍部位内のCD44散乱に基づくものであった。この染色を半定量的にスコア付けする:+(陽性)、++(強力に陽性)、または+++(非常に強力に陽性)。
【0153】
様々なヒトGBM細胞株および原発性ヒトグリオーマ試料(GBM患者から入手)におけるCD44の発現を試験した。この目的のために、3つの代表的なGBM細胞株:98G、U87MG、およびU251を使用した(これらすべては化学療法の治療に耐性があることが報告されている)。Pan抗CD44mAb(モノクローナル抗体)を使用して、3つすべての細胞株のCD44の発現を検出し、
図6Aに提示されるFACS解析に示されるように、すべての細胞株が、高いCD44発現を有することが示された。次に、ヒト患者から排出した初代培養グリオーマ細胞におけるCD44の発現を、免疫組織化学的検査を使用して試験した。代表的な染色ピクトグラムを、
図6Bの右手のパネルに示す。さらに、CD44発現の半定量的な解析を行った患者の試料のリストを、
図6Bに示す。
【0154】
次に、リポソーム粒子(50:10:38:1.5:0.5のモル比のDLin−MC3−DMA、DSPC、Choi、DMG−PEG、およびDSPE−PEGアミンを含む、総脂質濃度9.64mM)を、グリオーマ細胞に対する結合能に関して試験した。粒子は、対照マーカーとしてCy5−siRNA(1:16 w/w siRNA:脂質)を捕捉した(これにより、標的細胞におけるこれらが同定されれば、粒子と細胞が会合していることを表す)。
図7A〜Bに提示される結果は、HAを含む粒子(HA−LP(HA−脂質ベースの粒子))は、U87GM細胞(
図7A)、ならびにGBM患者からの初代培養GBM細胞(
図7B)に相互作用/結合することができるが、HAを含まない粒子(HA(LP(脂質粒子))は結合することができないことを証明する。
【0155】
実施例6−HA−リポソーム粒子を使用した神経膠芽腫(GBM)細胞株における細胞死の誘導
神経膠芽腫細胞は、化学療法に耐性があることが知られている。化学療法に対するU87MG細胞の耐性を検証するために、2つの従来の化学療法剤(すなわちドキソルビシン(DOX)および1,3−ビス(2−クロロエチル)−l−ニトロソウレア(BCNU))を、細胞に及ぼす効果に関して試験した。
【0156】
簡単にまとめると、U87MG細胞を、200μlの培養培地中96マルチウェルプレート上に接種した(1×104細胞/ウェル)。24時間後、異なる濃度のDOX(Teva pharmaceutical, Israel)およびBCNU(MW 214、Calbiochem(San Diego, CA)から購入)を含んだ処置培地に48時間交換し、次に、PBSで徹底的に洗浄し、標準的なXTT生存アッセイを行った。
【0157】
図8に提示した結果は、48時間の静置培養条件下で100μMの最高用量であっても、細胞の生存が>50%であったことを示し、化学療法に対するそれらの固有の耐性を確認した。
【0158】
流出ポンプ(eflux pump)による細胞からの大きな分子の押し出しを含む細胞の耐性機構に打ち勝つ/迂回するために、たとえばsiRNAなどの核酸の形態の特異的細胞周期阻害剤が使用され得る。
【0159】
この目的のために、細胞周期の調節に関与するセリン‐スレオニンプロテインキナーゼであるPolo様キナーゼ1(PLK1)に対する特異的なsiRNA分子(siPLK1)、または対照siRNA(siルシフェラーゼ;siLuci)を、HA−LPまたは標的リガンドを欠いた対照粒子(LP)に捕捉した。脳脊髄液(CSF)の流れを模倣するために、Shulman et.al. (2009)により記載されるせん断流条件下でこの実験を10分(min)間行い、次いで新鮮な培地による静置条件でのインキュベーションを行った。トランスフェクションから72時間後に、細胞を、PLK1のmRNAレベルに関して解析した。簡単に述べると、細胞におけるpolo様キナーゼ1(PLK1遺伝子)のmRNAレベルを、リアルタイムPCRにより定量化した。トランスフェクションから72時間後(せん断流下で10分、および完全に新鮮な培地を伴う静置条件下でさらに72時間)、総RNAを、EzRNA RNA精製キット(Biological industries, Beit Haemek, Israel)を使用して単離し、各試料由来のRNA1μgを、High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Applied Biosystems, Foster City, CA)を使用してcDNAに逆転写し、cDNA(合計5ng)の定量化を、サイバーグリーン(Applied Biosystems)を使用し、step one Sequence Detection System(Applied Biosystems, Foster City, CA)で行った。GAPDHを、ハウスキーピング遺伝子として選択した。プライマー配列は、実施例3に詳述されている。
【0160】
図9A〜Bに提示された結果は、HA−コーティングされた粒子が、mRNAおよびPLK1タンパク質レベル(それぞれ
図9Aおよび9B)の両方で、せん断流下で強力な遺伝子のサイレンシングを誘導したことを証明する。PLK1タンパク質を、96時間サイレンシングし、タンパク質レベルの回収を、トランスフェクションから144時間後に観察した(
図9B)。このサイレンシングの効果は、対照siRNA(siLuci)を捕捉(netrap)したHA−コーティングされたLNPが、細胞においてPLK1mRNAの発現を低減しなかったため特異的であった。さらに、HA−LNPを介して送達されたsiPLK1で観察された強力なサイレンシングは、有効な細胞死に翻訳された(
図9C)。HAを含まない対照粒子(LP)は、siPLK1またはsiLuciをその中に捕捉してもPLK1のmRNAレベルを低減せず、細胞死を誘導しなかった。この結果は、LNP表面上のHAコーティングが、せん断流下であってもGBM細胞上で発現したCD44に高い親和性で結合し、インターナリゼーションの工程が迅速かつ効率的であることを示唆している。
【0161】
実施例7:確立されたグリオーマモデルへの核酸のin vivoでの送達
材料および方法
U87MG同所性GBMモデルの確立:細胞を、10%のウシ血清を補充したダルベッコ改変イーグル培地に維持し、5%の二酸化炭素/95%の空気を含む加湿した大気中、37℃でインキュベートした。移植の日に、単層の細胞培養物を、0.05%のトリプシン/エチレンジアミン(ethylene ediamine)テトラ酢酸溶液を使用して回収した。細胞を計測し、PBS3μlに再懸濁した。5×105個のU87MG細胞を、各動物に3μl容量で注射した。
【0162】
動物の宿主
それぞれが〜20gの4〜6週齢の雌性ヌードマウス(系統nu/nu)をこの試験に使用した。すべての手法を、Sheba Medical Centerの動物実験委員会(Animal Care and Use Committee)の規則に従って行った。マウスを、標準化された隔離施設内のケージに1群5匹で収容し、23℃の12時間の明/暗周期に維持した。動物には実験動物飼料および水を自由に与えた。すべての器具を、取り扱う前に滅菌し、小動物用の無菌的外科技術を使用した。外科手術の時間までマウスに餌を与えた。0.15mg/10g体重の用量でのケタミン/キシラジン溶液(生理食塩水17ml中200mgのケタミンおよび20mgのキシラジン)の腹腔内注射により、動物に麻酔をかけた。
【0163】
移植部位の同定:動物の頭部を、両外耳道を結ぶ線の後ろを1本の指で保持することにより手動で安定化した。皮膚をポビドンヨード溶液で準備し、次に、正中線のすぐ右で両外耳道を結ぶ線の前方に長さ2〜3mmの切開部を作製して、冠状縫合および矢状縫合を同定できるようにして、ブレグマの位置を特定した。刺入点として、ブレグマの2.5mm外側および1mm前方に印をつけた。この点は、腫瘍の生着に関して非常に信頼できる頭蓋内部位であることが示されている尾状核の真上に位置しているため、選択されている。
【0164】
穿孔の配置:直径1mである小さな手動のツイストドリルを使用して、動物の頭蓋のエントリポイントに穿孔を作製した。ドリルビットは、硬膜を貫通し、これにより硬膜を開く。
【0165】
ハミルトンシリンジによる細胞の注射:細胞浮遊液3μlを、カフ付きの26ゲージ針のハミルトンシリンジに入れた。定位固定装置を使用して、ツイストドリルにより作製した中心となる頭蓋の穴に、ハミルトンシリンジの針をゆっくりと下げた。刺入点および針の進入の深さに基づき、細胞を、尾状核に確実に注射する。細胞浮遊液をゆっくりとマウスの脳に注射した(典型的に5分間にわたり)。細胞浮遊液の全量を注射した後、針を手動で除去した。頭皮を閉じるように縫合を行った。麻酔から回復するまでマウスを温め続け、治療介入の腫瘍内注射の時間まで、自由に周囲を移動させた。この間に、注射した腫瘍細胞は増殖し、実質内異種移植片として自身を確立する。腫瘍内注射の技術は、HA−LNPがそれぞれ3μlの4回投与で確立した異種移植片へ送達されることを除き、腫瘍細胞の移植技術と類似である。第1の投与を、7日目および0日目に行い、次の投与を、20日目および22日目に行った。マウスを、全実験期間で観察されなかった体重の変化を含む総合的な毒性試験に関してモニタリングした。
【0166】
上述するように、ヒトU87G細胞を使用して、胸腺欠損BALA/c nu/nuマウスにおいて同所性異種移植片モデルを作製した。これは、ヒトのグリオーマの増殖、生物学、および処置を試験するモデルとして作用する。5×105個のU87G細胞の浮遊液3μlを各動物に注射した。組織学解析を、12日目(接種後)に行った。代表的な組織学のピクトグラムを
図10に提示する。
【0167】
次に、粒子(HA−LP)またはLPを介した)内に被包した0.2mg/kg体重のCy3−siRNA3μlを、腫瘍の接種から20日後に、腫瘍の近くに直接投与(注射)した。マウス(n=6)を、投与から3時間後、6時間後、および24時間後に屠殺した。脳の切片を作製して、直ちに共焦点顕微鏡解析を行い、異なる時点での腫瘍内のCy3−siRNAの分布を同定した。HA−LP粒子の投与後の結果の代表的なデータを、
図11A〜Cに示されるピクトグラムに提示する。Cy3シグナルの検出は、すべての切片においてHA−LPで処置したマウスでのみ観察され、これは、投与から3時間後、6時間〜24時間後まで増大した(それぞれ
図11A、
図11B、および
図11C)。LP(すなわちHAを含まない粒子)を用いて投与した場合、Cy3シグナルは腫瘍の組織で検出されなかった。これは、このような粒子をU87MG細胞に接着させないようにする脳脊髄液(CSF)によるせん断流に起因し得る。対して、HAを含む粒子は、細胞上に発現されたCD44に対するHAの特異的な結合により、細胞に接着する。
【0168】
実施例8:U87MG細胞におけるPLK1のin vivoでのサイレンシングはGBM担癌マウスの生存を延長させる。
材料および方法
脳組織からの単細胞浮遊液の調製:製造社のプロトコルに従ってGentleMACS Dissociatorおよび神経組織分離キット(Miltenyi Biotech)を使用した酵素分解により、神経組織を単細胞浮遊液に解離させた。簡潔に述べると、HBSSまたはPBSのいずれかを用いてマウスを灌流し、脳を摘出し、組織量に対する緩衝液および酵素ミクスを調節するために重量を測定した。あらかじめ温めた酵素混合物を組織に添加し、37℃で攪拌しながらインキュベートした。組織を機械的に解離させて、浮遊液を70μmのろ過器に適用した。フローサイトメトリー解析に干渉する可能性があるため、ミエリンを、ミエリン除去ビーズII(Miltenyi Biotech)を使用して除去した。直ちに細胞を処理し、抗ヒトCD44v6−FITC(マウスと非交差反応性、クローンMCA1730F, Bio−Rad)で染色して、U87MG細胞を同定した。細胞を氷中で30分間インキュベートし、次に2回洗浄し、FACSAria III(BD)を使用してFACSソーティングを行った。ソーティングした細胞を、EzRNA RNA精製キット(Biological industries, Beit Haemek, Israel)に直接移動させ、上述のQPCRを使用してPLK1 mRNAレベルに関して解析した。
【0169】
GBM同所性モデルをさらに使用して、腫瘍の接種の20日目および22日目に、PLK1に対するsiRNAを被包した粒子(実施例6)の局所投与(0.5mg/kg体重)後のPLK1遺伝子発現のin vivoでのサイレンシングを試験した。脳において他の種類の細胞から腫瘍細胞を同定するために、腫瘍組織を採取し、単細胞浮遊液を作製し、細胞を、U87MG細胞(CD44v6)上で発現される表面マーカーと共にインキュベートした。抗ヒトCD44v6−FITC抗体(マウスと非交差反応性)を、氷中で30分間インキュベートし、2回洗浄し、FACソーティングを行った。FACS(FACSAria III,BD)でソートした細胞を、QPCRを使用してPLK1 mRNAレベルに関して解析した。
図12Aの棒グラフに示されるように、80%の強力なノックダウンが、HA−LP(「HA−LNP」)で送達されたsiPLK1で処置されたU87MG CD44v6+細胞において観察された。PLK1発現に関する効果は、対照siRNA(siLuci)を使用した場合には観察されなかった。
【0170】
次に、粒子中に捕捉されたsiRNAが、炎症誘発性応答の引き金とならないことを示すために、初代培養マウス細胞を脳から単離し、この細胞を、抗マウスCD11b mAbを使用してソートし(FACSにより)、マウスのミクログリア細胞を得た。これら細胞は、siRNAが送達される場合に潜在的な局所的炎症性応答に関与し得る。この細胞を、2つの用量(0.05および0.5mg/kgのsiRNA)で、粒子(HA−LP)に捕捉/被包されたsiRNAと共にインキュベートし、初代培養細胞とのインキュベーションから6時間後のTNF−αおよびIL−6レベルに関して調べた。LPSを、陽性対照として使用した。
図12B〜Cに示されるように、低濃度では炎症誘発性サイトカイン(それぞれTNF−αおよびIL−6)の誘導は観察されず、より高濃度では、非常に軽度の誘導が観察された。よってこれらの結果は、HAを含む粒子(HA−LP)が、非常に効率的にsiRNAを保護し、CD11b+細胞と直接相互作用する場合であっても炎症誘発性応答の引き金とはならないという知見を裏付ける。
【0171】
PLK1の強力なサイレンシングが、ヌードマウスまたはSCIDマウスに移植された異なる腫瘍で腫瘍の退縮を誘導したことが示されている(Sakurai et.al. (2014))。よって、同所性GBMモデルを使用して、マウスの生存に及ぼすPLK1サイレンシングの効果を試験した(
図12D)。GBM腫瘍部位に、0.5mg/kg体重の、siPLK1またはsiLuciを被包する粒子3μl(投与あたり)を、腫瘍の接種から7日後、9日後、20日後、および22日後に局所投与した。モック処置したマウスの生存時間中央値は、33日であると決定された。カプランマイヤー生存解析に従って、siLucを被包したHA−LPを4回投与したマウスは、34.5日の生存時間中央値を有し、siPLK1を被包したHA−LPを投与したマウスは、腫瘍の接種から95日目に、顕著な60%の生存を伴う長期間の生存時間を有した(siPLK1およびsiLuciで処置した群の間でp=0.0012)。これは、この同所性GBMモデルにおいて今まで報告されている最も長い生存時間である。さらにこれは、治療的siRNAを局所治療で使用して、GBMの同所性モデルにおいて治療上の有益性を達成した最初の例である。