【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「自動注湯機の高精度化を実現する注湯流量ティーチング&プレイバック制御」委託研究、産業技術力強化法第19 条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記第1の操作の操作量を示す信号値に対してローパスフィルタ処理を行い、ローパスフィルタ処理後の信号値に基づいて前記第1のモータの動作を制御する、請求項1又は2に記載の注湯システム。
前記操作入力部によって、操作者から前記第1の操作の操作量、前記第2の操作の操作量及び前記第3の操作の操作量を受け付け、受け付けた前記第1の操作の操作量、前記第2の操作の操作量及び前記第3の操作の操作量に基づいて前記第1のモータ、前記第2のモータ及び前記第3のモータの動作を制御し、前記鋳型内に前記溶湯を注ぐ工程と、
前記受け付けた前記第1の操作の操作量、前記第2の操作の操作量及び前記第3の操作の操作量から、前記溶湯の注湯流量、前記落下位置、前記取鍋の前記前後方向の移動量、及び、前記取鍋の前記上下方向の移動量を求め、前記溶湯の注湯流量、前記落下位置、前記取鍋の前記前後方向の移動量、及び、前記取鍋の前記上下方向の移動量をティーチングデータとして取得する工程と、
取得された前記ティーチングデータに基づいて前記溶湯が自動的に注がれるように前記第1のモータ、前記第2のモータ及び前記第3のモータの動作を制御する工程と、を含む、請求項6に記載の方法。
前記ティーチングデータに基づいて、前記溶湯の前記湯口に対する流入速度、前記溶湯の前記湯口に対する流入範囲、及び、前記湯口に対する前記溶湯の流入角度を算出する工程を更に含む、請求項7に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して種々の実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。
【0025】
まず、一実施形態に係る注湯システム1について説明する。
図1は、一実施形態に係る注湯システム1を概略的に示す斜視図である。以下では、
図1に示すように、後述する搬送装置CDの延在方向をX方向とし、後述する注湯装置の上下方向をZ方向とし、当該注湯装置の前後方向をY方向として説明する。
【0026】
図1に示すように、注湯システム1は、注湯装置10及び操作入力部20を備えている。注湯装置10は、取鍋12、第1のモータ13、第2のモータ14、第3のモータ15、保持部16、及び、ロードセルLDを備えている。取鍋12は、鋳型30に注湯するための溶湯Mを保持する容器であり、回転軸を介して保持部16に支持されている。取鍋12の側面上部には、出湯ノズル12aが設けられている。出湯ノズル12aの先端部は、出湯口12bを構成している。注湯装置10では、出湯口12bを中心に取鍋12が傾動することにより、出湯口12bから溶湯Mが流出する。
【0027】
第1のモータ13は、取鍋12の回転軸を回転させ、取鍋12を傾動させるための駆動力を発生する。第2のモータ14は、Z方向に取鍋12を移動させるための駆動力を発生する。第3のモータ15は、Y方向に取鍋12を移動させるための駆動力を発生する。これら第1のモータ13、第2のモータ14及び第3のモータ15は、例えばサーボモータである。また、ロードセルLDは、取鍋12内の溶湯Mの重量を測定する。
【0028】
操作入力部20は、取鍋12の傾動角度、上下方向の位置及び取鍋12から流出する溶湯Mの落下位置を操作するための装置である。この操作入力部20は、例えば注湯装置10から離れた位置に設けられている。
図1に示すように、操作入力部20は、取鍋12の傾動角度、Z方向の位置、及び、溶湯Mの落下位置を操作するためのレバー21を有している。レバー21は、操作者が操舵できるようになっている。具体的には、操作者は、レバー21をその軸回りに回転させることができると共に、上下方向及び左右方向に傾けることができる。レバー21をその軸回りに回転させる第1の操作は、取鍋12の傾動角度を変更するための操作である。また、レバー21を上下方向に傾ける第2の操作は、取鍋12のZ方向の位置を調整するための操作である。レバー21を左右方向に傾ける第3の操作は、取鍋12から流出する溶湯Mの落下位置をY方向に調整するための操作である。操作入力部20は、操作者によって行われた第1の操作、第2の操作及び第3の操作の操作量、即ちレバー21の軸周り方向への回転角度φ
r、上下方向への傾動角度φ
z、及び、左右方向への傾動角度φ
yを示す信号を後述する制御部Cntへ送出する。
【0029】
注湯システム1は、制御部Cntを更に備えている。制御部Cntは、プロセッサ、記憶部等を備えるコンピュータであり、注湯システム1の各部を制御する。制御部Cntは、取鍋12の傾動角度、取鍋12のY方向の位置及び取鍋12のZ方向の位置を第1のモータ13、第2のモータ14及び第3のモータ15に設けられたロータリーエンコーダからそれぞれ取得する。また、制御部Cntは、操作入力部20からレバー21の軸周り方向への回転角度φ
r、上下方向への傾動角度φ
z、及び、左右方向への傾動角度φ
yを示す信号を受け、これらの信号に基づいて、取鍋12の傾動角度、取鍋12のZ方向の位置、及び、取鍋12のY方向の位置を制御する。制御部Cntの機能の詳細については後述する。
【0030】
一実施形態では、注湯装置10の前方には、搬送装置CDが配置され得る。搬送装置CDは、注湯工程において、その上部に配置された鋳型30をX方向に沿って間欠的に搬送する。一実施形態では、搬送装置CDは、X方向に沿って鋳型30を搬送し、X方向において取鍋12の出湯口12bと鋳型30の湯口31とが重なる位置に鋳型30を停止させる。その位置に鋳型30が停止された後に、注湯装置10によって鋳型30内に溶湯Mが注湯される。
【0031】
以下、
図2を参照して注湯システム1の機能構成について説明する。
図2は、注湯システム1の機能を示すブロック図を示している。
【0032】
[数理モデル]
まず、第1のモータ13に対する指令値u
tから注湯流量qを導出するための数理モデルについて説明する。なお、注湯流量とは、取鍋12の傾動によって取鍋12から流出する溶湯Mの流量を示している。
【0033】
指令値u
tから注湯流量qを導出するための数理モデルは、取鍋12が角速度ω[deg/s]で制御されている場合と、角度θ[deg]で制御されている場合とで異なる。ここで、傾動角度θとは、
図3に示すように、取鍋12の出湯口12bを中心とした取鍋12の傾動角度を示している。角速度ωとは、単位時間当たりに回転する取鍋12の傾動角度を示している。
【0034】
まず、取鍋12が角速度ωによって制御されている場合について説明する。制御部Cntが取鍋12を角速度ωで制御している場合には、制御部Cntから第1のモータ13に出力される指令値u
t[V]に基づいて、注湯流量q[m
3/s]が取得される。指令値u
tと取鍋12の角速度ωとの関係は、下記式(1)のように表される。下記式(1)において、T
t[s]は時定数であり、K
t[deg/(sV)]はゲイン定数である。
【0036】
また、傾動角度θと角速度ωとは、下記式(2)に表される関係を有する。
【0038】
一方、取鍋12が傾動角度θによって制御されている場合には、取鍋12が予め定められた指令角度θ
r[deg]になるように制御部Cntによって第1のモータ13の動作が制御される。指令角度θ
rと角速度ωとの関係は、下記式(3)のように表される。下記式(3)において、K
tp[deg/(sV)]はゲイン定数である。
【数3】
【0039】
制御部Cntからの指令値u
tに基づいて取鍋12は傾動角度θ又は角速度ωで傾動される。このように取鍋12が傾動されることによって、取鍋12内の溶湯Mが鋳型30内に注がれる注湯プロセスPR1が行われる。注湯プロセスPR1において取鍋12から流出する溶湯Mの流量、即ち注湯流量qは、下記式(4)及び式(5)に従って求められる。
【0042】
図3に示すように、式(4)のh[m]は出湯口12bの高さ位置を基準とした溶湯Mの液位を表しており、A(θ)[m
2]は出湯口12bを通る水平面における溶湯Mの断面積を表している。また、V
s(θ)[m
3]は出湯口12bを通る水平面よりも低い位置にある溶湯Mの体積を表している。さらに、式(5)のh
b[m]は、
図4に示すように、出湯口12bでの溶湯Mの液面からの深さを表しており、L
f[m]はh
bに対応する高さ位置における出湯口12bの幅を表している。また、式(5)のg[m/s
2]は重力加速度を表している。
【0043】
次に、注湯流量qに基づいて取鍋12からの溶湯Mの流出重量Wを算出する流出重量算出プロセスPR2について説明する。注湯流量qと流出重量Wとは、下記式(6)に表される関係を有する。式(6)において、ρ[kg/m
3]は溶湯Mの密度を表している。流出重量Wは、ロードセルLDによって計測される。
【0045】
ロードセルLDの動作特性は、下記式(7)のように表される。式(7)において、W
L[kg]はロードセルLDによって計測された溶湯Mの流出重量を表している。式(7)に示すように、計測された流出重量W
Lは、実際の流出重量Wに対して応答遅れが生じることとなる。
【0047】
次に、溶湯Mの自由落下プロセスPR3について説明する。自由落下プロセスPR3では、取鍋12の出湯口12bから流出した溶湯MのY方向の落下距離S
vが算出される。自由落下プロセスPR3では、落下距離S
vを求めるために、出湯口12bから自由落下運動によって落下する溶湯Mの落下軌跡が導出される。溶湯Mの落下軌跡の導出するために、下記式(8)に従って、出湯口12bでの溶湯Mの平均流速v
f[m/s]が算出される。
【0049】
式(8)においてA
p[m
2]は取鍋12の出湯口12bを通る鉛直断面に沿った溶湯Mの断面積を示している。断面積A
pは下記式(9)で表される。
【0051】
図5は、上記式(8)に基づいて算出された溶湯Mの平均流速v
fと実験により測定された実際の溶湯Mの平均流速v
r[m/s]との関係を示すグラフである。
図5の横軸は上記式(8)に基づいて算出された溶湯Mの平均流速v
fを表しており、縦軸は実験で得られた溶湯Mの平均流速v
rを表している。
図5に示すように、溶湯Mの実際の平均流速v
rは、式(8)によって算出された平均流速v
f[m/s]よりも速くなる。この結果は、実際に出湯口12bから溶湯Mが流出する場合には、
図6に示すように、重力の影響によって、出湯口12b上の溶湯Mの液面高さが、出湯口12bから離れた位置での溶湯Mの液面高さよりも低くなるためであると考えられる。
【0052】
そこで、溶湯Mの平均流速の理論値が実測値と一致するように、下記式(10)に従って、溶湯Mの平均流速の理論値が補正される。式(10)において、v
t[m/s]は補正後の平均流速を表しており、α1及びα0はシミュレーションにより得られた平均流速v
fと平均流速の実測値v
rと関係を最小二乗法によって近似することにより得られた係数である。
図5に示す結果が得られる実施形態では、α1は2.067、α0は−0.275に設定される。
【0054】
次に、湯口31を含む水平面HP上での溶湯Mの落下位置DPが導出される。
図7に示すように取鍋12の出湯口12bと落下位置DPとのY方向における距離をS
v[m]とすると、出湯口12bから流出した溶湯Mは自由落下運動をするため、距離S
vは下記式(11)に従って導出される。式(11)において、S
w[m]は、取鍋12の出湯口12bと鋳型30の湯口31とのZ方向における距離を表している。
【0056】
さらに、一実施形態に係る注湯システム1では、取鍋12からの注湯流量qに基づいて、湯口31に対する溶湯Mの流速v
l、溶湯Mの湯口31上での断面積A
l(t)、及び、湯口31に対する溶湯Mの流入角度φ
inが算出されてもよい。溶湯Mの流速v
lを算出するために、まず下記式(12)に従って、落下位置DPでの溶湯MのZ方向の流速v
gが求められる。
【0058】
水平面HP上での溶湯Mの流速v
lは、下記式(13)に従って求められる。
【0060】
溶湯Mの流入角度φ
inは、下記式(14)に従って求められる。
流入角度φ
inは、落下位置DPを通り、且つ、Z方向に延びる直線と溶湯Mとがなす角度を表している。
【数14】
【0061】
断面積A
l(t)は、下記式(15)に従って求められる。
【0063】
また、水平面HPにおける溶湯Mの断面の半径r
l[m]は、下記式(16)に従って求められる。
【0065】
[制御部の機能構成]
次いで、制御部Cntの機能構成について説明する。制御部Cntは、注湯流量制御部FC1、同期化制御部FC2、落下位置推定部FC3、落下位置操作部FC4、前後位置制御部FC5、上下位置制御部FC6を有している。
【0066】
[注湯流量制御]
注湯流量制御部FC1は、操作者による操作入力部20の第1の操作の操作量、例えばレバー21の軸周り方向への回転角度φ
rを当該操作入力部20から受け取り、回転角度φ
rに応じて第1のモータ13の動作を制御するための指令値u
tを生成する。一実施形態では、注湯流量制御部FC1は、下記式(17)に従って第1のモータ13に出力される指令値u
tを算出し得る。
【0068】
式(17)に示すように、注湯流量制御部FC1は、回転角度φ
rが角度φ
d以下である場合には指令値u
tは0とする。即ち、回転角度φ
rが所定の閾値である角度φ
d以下である場合には第1のモータ13は動作しない。角度φ
dは、不感帯の幅であり、一実施形態では角度φ
dは5[deg]に設定される。このように、回転角度φ
rに不感帯の領域を設定することで操作者の手の震え、ノイズ等によって取鍋が誤動作することが抑制することが出来、その結果、取鍋の操作性を向上させることができる。
【0069】
回転角度φ
rが角度φ
dより大きく、且つ、取鍋12の傾動角度θがθ
s−β(第1の角度)よりも小さい場合には、注湯流量制御部FC1は、第1のモードで第1のモータ13の動作を制御する。ここで、θ
sは取鍋12からの溶湯Mの流出が開始される出湯開始角度であり、βはモード遷移区間の幅を示す定数である。第1のモードでは、ゲイン定数(第1の係数)k
f0と回転角度φ
rとを乗じることで指令値u
tを求める。すなわち、第1のモードでは、指令値u
tと回転角度φ
rとはゲイン定数k
f0を比例定数とする比例関係を有する。ゲイン定数k
f0は、操作者が取鍋12の傾動角度θを操作しやすくなるような値に設定される。
【0070】
回転角度φ
rが角度φ
dより大きい場合であって、取鍋12の傾動角度θがθ
s−β以上、且つ、θ
s(第2の角度)よりも小さい場合には、注湯流量制御部FC1は、第2のモードで第1のモータ13の動作を制御する。第2のモードでは、ゲイン定数(第2の係数)k
f1と回転角度φ
rとを乗じることで指令値u
tを求める。すなわち、第2のモードでは、指令値u
tと回転角度φ
rとはゲイン定数k
f1を比例定数とする比例関係を有する。ゲイン定数k
f1は、ゲイン定数k
f0は異なる値に設定されている。ゲイン定数k
f1については、後述する。
【0071】
回転角度φ
rが角度φ
dより大きく、且つ、取鍋12の傾動角度θがθ
s以上である場合には、注湯流量制御部FC1は、第3のモードで第1のモータ13の動作を制御する。第3のモードでは、取鍋12からの注湯流量が目標注湯流量になるように、指令値u
tがフィードバック制御又はフィードフォワード制御される。以下、第3のモードでの制御の一例について説明する。
【0072】
一実施形態では、注湯流量制御部FC1は、目標注湯流量q(h
ref)で溶湯Mが注湯されるように目標傾動角度速度ω
refを求める。目標注湯流量q(h
ref)と目標傾動角度速度ω
refとは、下記式(18)に表される関係を有する。
【0074】
注湯プロセスPR1の応答性よりも第1のモータ13の応答性が十分速いとの仮定の下では、下記式(19)に従って、目標傾動角度速度ω
refから指令値u
tが求められる。
【数19】
【0075】
式(18)において、h
refは出湯口12b上の液面高さの目標値を表す目標出湯口液位である。式(5)に示すように、出湯口12b上の液位hと注湯流量qとの間には一対一の関係があるので、出湯口12b上の液位hを変化させることによって注湯流量qを制御することができる。注湯流量制御部FC1は、下記式(20)に従って、回転角度φ
rから目標出湯口液位h
refを求める。式(20)に示すように、回転角度φ
rと目標出湯口液位h
refとの間にはローパスフィルタが設けられる。
【0077】
式(20)において、ω
n[rad/s]はローパスフィルタの折点角周波数を示しており、ζは減衰比を示している。k
fはゲイン定数である。一実施形態では、目標出湯口液位h
refが振動的にならないように減衰比ζを1に設定し、応答性を高くするために折点角周波数ω
nを5πに設定し得る。また、ゲイン定数k
fは実験検証を行うことによって操作者が注湯流量を操作しやすくなるような値に設定される。例えば、ゲイン定数k
fは0.001に設定される。上記の通り、注湯流量制御部FC1は、回転角度φ
rに対してローパスフィルタ処理を行い、ローパスフィルタ処理後の値に基づいて目標出湯口液位h
refを求める。そして、求められた目標出湯口液位h
refに基づいて、第1のモータ13の動作を制御するための目標傾動角度速度ω
ref及び指令値u
tを求めている。
【0078】
第2のモードは、上述した第1のモードと第3のモードとの間の遷移区間として機能する。第2のモードで用いられるゲイン定数k
f1は、下記式(21)に従って求められる。
【0080】
式(21)は、出湯開始角度θ
sでの目標出湯口液位として、h
ref=0、d
2h
ref/dt
2=0を式(18)に代入し、式(18)〜式(20)を用いて回転角度φ
rと指令値u
tとの関係を求めることによって導出することができる。第2のモードでは、取鍋12から溶湯Mの出湯が開始される前にゲイン定数をk
f0からk
f1に変更することで、注湯流量の操作性が低下することを抑制することができる。一実施形態の注湯システム1では、上述の式(17)〜式(21)に従って、操作入力部20からの第1の操作の操作量、即ち回転角度φ
rに応じて第1のモータの動作が制御される。これにより、操作者は独立して注湯流量を操作することができる。
【0081】
さらに、一実施形態では、取鍋12の傾動角度θが出湯開始角度θ
sを超え、注湯流量制御部FC1の制御モードが第2のモードから第3のモードに切り替わる際に、式(20)に示すローパスフィルタに式(22)に示すパラメータを与えてもよい。
【0083】
[落下位置制御]
次に、同期化制御部FC2について説明する。同期化制御部FC2は、取鍋12が傾動するときに、出湯口12bを中心として取鍋12が傾動するように取鍋12のY方向及びZ方向の位置を調整する同期化制御を行う。同期化制御部FC2は、下記式(23)及び式(24)に従って、この同期化制御によるY方向への移動量y
s[m]及びZ方向への移動量z
s[m]を求める。
【0086】
式(23)及び式(24)において、L[m]は、
図8に示すように、取鍋12の回転軸AXと取鍋12の傾動中心である出湯口12bとのY方向の距離を表しており、θ
0は注湯動作を開始する前の取鍋12の初期傾動角度を表している。また、γ[deg]は回転軸AXに直交し且つ取鍋12の幅方向(取鍋12の傾動角度が0であるときにY方向と一致する方向)に沿って延びる直線と水平線とがなす角度である。
【0087】
次に、落下位置推定部FC3について説明する。落下位置推定部FC3は、取鍋12の出湯口12bから落下位置DPまでのY方向の距離S
vestを推定する(
図9参照)。落下位置推定部FC3は、下記式(25)に従って、距離S
vestを求める。
【0089】
式(25)において、S
w[m]は出湯口12bから鋳型30の上面(即ち水平面HP)までのZ方向に沿った距離を表している。式(25)のfは、式(5)及び式(8)〜式(11)に示す出湯口12bと落下位置DPとのY方向における距離を算出するための関数を表している。例えば、取鍋12の出湯口12bが湯口31の上方に配置されている場合には、式(25)によって推定される距離S
vestだけ取鍋12をY方向に後退させることで取鍋12から流出する溶湯Mは湯口31に注湯されることとなる。
【0090】
次に、落下位置操作部FC4について説明する。落下位置操作部FC4は、操作者による操作入力部20の第3の操作の操作量、例えばレバー21の左右方向への傾動角度φ
yを操作入力部20から受け取り、傾動角度φ
yに応じて第3のモータ15の動作を制御するための指令値u
y[V]を生成する。具体的に、落下位置操作部FC4は、下記式(26)に従って、溶湯Mの落下位置DPのY方向に沿った移動量y
pを求める。
【0092】
式(26)において、k
pyは傾動角度φ
yと落下位置DPのY方向の移動速度dy
p/dtとの関係を定めるゲイン定数である。ゲイン定数k
pyは、落下位置DPの操作性が良好になるように調整された値に設定される。取鍋12の操作前の位置から移動量y
pだけY方向にずれた位置は、溶湯Mの落下位置の目標値である目標落下位置に設定される。
【0093】
次に、前後位置制御部FC5について説明する。前後位置制御部FC5は、取鍋12からの溶湯Mの落下位置が目標落下位置になるように第3のモータ15に対する指令値u
yを生成し、その指令値u
yを第3のモータ15に送出する。
【0094】
前後位置制御部FC5は、下記式(27)に従って取鍋12のY方向の位置をフィードバック制御する。
【0096】
x
y[m]を取鍋12のY方向の位置とし、r
y[m]を取鍋12のY方向の目標位置としたとき、式(27)のX
yは取鍋12のY方向位置x
y[m]をラプラス変換した値を表しており、R
yは取鍋12のY方向の目標位置r
y[m]をラプラス変換した値を表している。また、式(27)において、sはラプラス演算子を表しており、P
y(s)は第3のモータ15の駆動系を表しており、K
y(s)は制御器を表している。駆動系P
y(s)は下記式(28)で表される。
【0098】
式(28)において、T
my[s]は第3のモータ15の時定数を表し、K
my[m/s/V]はゲイン定数を表している。式(28)に示すように、第3のモータ15の駆動系では、第3のモータ15に対する指令値u
yから取鍋12のY方向への移動速度が一次遅れ系の関係を有する。また、式(27)に示すように、制御器K
y(s)はPID制御等を構成する。一実施形態では、落下位置操作部FC4は、下記式(29)に示すように比例制御により指令値u
yを求める。
【0100】
式(29)においてk
cyは比例制御における比例ゲインを表している。比例ゲインk
cyは、溶湯Mの落下位置を目標落下位置に一致させるための目標位置r
yに取鍋12を素早く移動できるような値に設定される。取鍋12のY方向の位置x
py[m]と出湯口12bのY方向の位置x
Ly[m]の関係は、下記式(30)のように表される。式(23)からも明らかであるように、取鍋12の同期化制御を行うことによって取鍋12の傾動角度θに関わらず出湯口12bのY方向の位置が維持される。
【0102】
取鍋12のY方向の目標位置r
yは、下記式(31)の下段に示すように、式(23)に従って求められる同期化制御によるY方向への移動量y
s、式(25)に従って求められる出湯口12bから落下位置DPまでのY方向の距離S
vest、及び、式(26)に従って求められる落下位置DPのY方向に沿った移動量y
pに基づいて求められる。
【0104】
式(31)においてr
cは湯口31の半径を表している。一実施形態では、式(31)の上段に示すように、出湯口12bから落下位置DPまでのY方向の距離S
vestが湯口31の半径r
cよりも小さい場合には、取鍋12の出湯口12bがy
s−r
cに対応する位置に配置されるように取鍋12が制御される。言い換えれば、取鍋12の傾動角度が、溶湯Mの落下位置DPが湯口31の中心位置に達する角度(第3の角度)よりも小さいときには、取鍋12の出湯口12bが湯口31の取鍋12側の縁部の上方に位置するように取鍋12の位置が制御される。一方、式(31)の下段に示すように、出湯口12bから落下位置DPまでのY方向の距離S
vestが湯口31の半径r
c以上である場合には、溶湯Mの落下位置DPが目標落下位置になるように、第3のモータ15の動作が制御される。例えば、出湯口12bから落下位置DPまでのY方向の距離S
vestが湯口31の半径r
c以上であり、且つ、移動量y
pが0である場合には、取鍋12から流出する溶湯Mの落下位置は湯口31の中心に維持される。そして、操作者がレバー21を左右方向へ傾動角度φ
yだけ操作することで、溶湯Mの落下位置を傾動角度φ
yに応じた移動量y
pだけ湯口31の中心から移動させることができる。
【0105】
[上下方向位置の制御]
次に、上下位置制御部FC6について説明する。上下位置制御部FC6は、操作者による操作入力部20の第2の操作の操作量、例えばレバー21を上下方向への傾動角度φ
zを当該操作入力部20から受け取り、傾動角度φ
zに応じて第2のモータ14の動作を制御するための指令値u
z[V]を生成する。具体的に、上下位置制御部FC6は、下記式(32)に従って、傾動角度φ
zから取鍋12のZ方向の移動量z
p[m]を求める。
【0107】
式(32)において、k
pzは傾動角度φ
zと取鍋12のZ方向の移動速度dz
p/dtとの関係を定めるゲイン定数である。ゲイン定数k
pzは、取鍋12のZ方向の操作性が良好になるように調整された値に設定される。上下位置制御部FC6は、下記式(33)に従って取鍋12のZ方向の位置をフィードバック制御する。
【0109】
x
z[m]を取鍋12のZ方向の位置とし、r
z[m]を取鍋12のZ方向の目標位置としたとき、式(33)のX
zは取鍋12のZ方向位置x
z[m]をラプラス変換した値を表しており、R
zは取鍋12のZ方向の目標位置r
z[m]をラプラス変換した値を表している。また、式(33)において、sはラプラス演算子を表しており、P
z(s)は第2のモータ14の駆動系を表しており、K
z(s)は制御器を表している。駆動系P
z(s)は下記式(34)で表される。
【0111】
式(34)において、T
mz[s]は第2のモータ14の時定数を表し、K
mz[m/s/V]はゲイン定数を表している。式(34)に示すように、第2のモータ14の駆動系では、第2のモータ14に対する指令値u
zから取鍋12のZ方向への移動速度が一次遅れ系の関係を有する。また、式(33)に示すように、制御器K
z(s)はPID制御等を構成する。一実施形態では、上下位置制御部FC6は、下記式(35)に示すように比例制御により指令値u
zを求める。
【0113】
式(35)においてk
czは比例制御における比例ゲインを表している。比例ゲインk
czは、目標位置r
zに取鍋12を素早く移動できるような値に設定される。取鍋12のZ方向の位置x
pz[m]と出湯口12bのZ方向の位置x
Lz[m]の関係は、下記式(36)のように表される。式(24)からも明らかであるように、取鍋12の同期化制御を行うことによって取鍋12の傾動角度θに関わらず出湯口12bのZ方向の位置が維持される。
【0115】
上下位置制御部FC6は、下記式(37)に示すように、式(24)に従って求められる同期化制御によるZ方向への移動量z
sと、式(32)に従って求められる傾動角度φ
zに応じた取鍋12のZ方向の移動量z
pとに基づいて、取鍋12のZ方向の目標位置r
zを求める。
【0117】
式(37)において、z
0は注湯開始前の湯口31を基準とした出湯口12bの高さを表している。式(37)に示すように、移動量z
pが0である場合には、湯口31を基準とした出湯口12bの高さは一定に維持される。そして、操作者がレバー21を上下方向へ傾動角度φ
zだけ操作したときに、取鍋12のZ方向の位置を傾動角度φ
zに応じた移動量z
pだけ移動させることができる。また、操作者による取鍋12の操作後の鋳型30の上面から出湯口12bまでのZ方向に沿った距離S
wは、下記(38)で表される。式(25)に示すように、上下位置制御部FC6によって求められた距離S
wは、出湯口12bから落下位置DPまでのY方向の距離S
vestの算出にも用いられる。
【0119】
[ティーチングデータの生成方法]
図10を参照し、上述した注湯システム1の制御方法を説明する。一実施形態の注湯システム1の制御方法では、ティーチングプレーバック制御で用いるためのティーチングデータが生成される。この方法では、
図10に示すように、注湯システム1の制御部Cntが、操作者によって操作されたレバー21の回転角度φ
r、傾動角度φ
z及び傾動角度φ
yを操作入力部20から受け付ける。次いで、制御部Cntは、回転角度φ
r及び傾動角度φ
zに応じて第1のモータ13及び第2のモータ14の動作を制御するための指令値u
t、u
zをそれぞれ生成すると共に、傾動角度φ
yに応じて目標落下位置を設定し、溶湯Mの落下位置が目標落下位置になるような指令値u
yを生成する。次いで、制御部Cntは、指令値u
t、u
y及びu
zを第1〜3のモータ13、14、15に送出し、取鍋12内の溶湯Mを鋳型30内に注湯する。
【0120】
次いで、制御部Cntは、指令値u
t、u
z及びu
yを用いて上記(1)〜式(16)に示す数理モデルに従って注湯シミュレーションを行い、下記式(39)に示す評価関数が最小となるように流量係数、溶湯Mの密度ρ、及び、出湯開始角度θ
sを最適化する。
【0122】
式(39)において、W
Lexp[kg]は、ティーチングモードの際にロードセルLDによって計測された溶湯Mの流出重量であり、W
Lsim[kg]は上記(1)〜式(16)に示す数理モデルに従って求められた溶湯Mの流出重量である。また、T[s]は注湯時間を表している。一実施形態では、制御部Cntが、式(39)に示す最適化問題を解くことで、出湯口12b上の溶湯Mの液位h
tc[m]及び出湯口12bから落下位置までのY方向の距離S
vtc[m]の最適値をティーチングデータとして取得する。また、制御部Cntは、傾動角度φ
zに応じた取鍋12のZ方向の移動量z
ptc、及び、傾動角度φ
yに応じた取鍋12のY方向の移動量y
ptcもティーチングデータとして取得する。
【0123】
次いで、一実施形態の注湯システムの制御方法では、取得されたティーチングデータに基づいて鋳型30内に自動的に溶湯を注ぐプレーバックモードで注湯処理が行われる。このプレーバックモードでは、上記式(18)及び式(19)に基づいて注湯流量の制御が行われる。具体的には、式(18)に示す目標出湯口液位h
refとしてティーチングデータである液位h
tcが与えられる。また、プレーバックモードでは、式(27)〜式(31)に基づいて溶湯Mの落下位置の制御が行われる。具体的には、式(31)の出湯口12bから落下位置DPまでのY方向の距離S
vestとしてティーチングデータである距離S
vtc[m]が与えられ、落下位置DPのY方向に沿った移動量y
pとしてティーチングデータである移動量y
ptcが与えられる。さらに、プレーバックモードでは、式(33)〜式(37)に基づいて取鍋12の上下方向の位置が制御される。具体的には、式(37)の取鍋12のZ方向の移動量z
pとしてティーチングデータである移動量z
ptcが与えられる。このように、制御部Cntがプレーバックモードで注湯処理を行うことによってティーチングモードで行われた注湯動作と同じ条件で注湯制御を行うことができる。
【0124】
[境界条件の導出方法]
一実施形態の注湯システムの制御方法では、取得されたティーチングデータに基づいて、CAEを用いた鋳型内の湯流れ解析を行う際に必要となる湯口流入部の境界条件が導出される。鋳型内の湯流れ解析を行う際には、湯口流入部の境界条件として、湯口31への溶湯Mの流入流速、流入角度及び流入範囲が必要となる。一実施形態の注湯システムの制御方法では、溶湯Mの流入流速及び流入角度は、式(13)及び式(14)に従って導出される。また、湯口31に対する溶湯Mの流入範囲は、式(40)に示すように、式(16)に従って求められる湯口31の中心を基準する溶湯Mの断面の半径r
lと、溶湯Mの落下位置DPのY方向に沿った移動量y
pとを用いて導出される。
【0126】
式(40)において、S
L[m]は湯口31上において取鍋12から流出した溶湯Mが湯口31に流入する範囲を表している。この流入範囲S
Lが溶湯Mの流入範囲となる。なお、湯口31に対して落下する溶湯Mは円柱形状を有すると仮定しているため、3次元湯流れ解析においても式(40)の溶湯Mの流入範囲は維持される。
【0127】
[実験例]
図11は、上述の注湯システムを用いた注湯操作の実験結果の一例を示している。
図11の(a)は回転角度φ
rの経時的変化を示しており、
図11の(b)は取鍋12の傾動角速度ωの経時的変化を示しており、
図11の(c)は取鍋12の傾動角度θの経時的変化を示しており、
図11の(d)は出湯口12b上の液位hの経時的変化を示しており、
図11の(e)は注湯流量qの経時的変化を示している。また、
図11の(f)はロードセルLDによって計測された流出重量Wの経時的変化を示しており、
図11の(g)は溶湯Mの落下位置Svの経時的変化を示しており、
図11の(h)は湯口31に対する溶湯Mの流入流速v
tの経時的変化を示しており、
図11の(i)は湯口31に対する溶湯Mの流入範囲S
Lの経時的変化を示しており、
図11の(j)は湯口31に対する溶湯Mの流入角度φ
inの経時的変化を示している。これらのデータのうち、流入流速v
t、流入範囲S
L及び流入角度φ
inをCAEによる湯流れ解析の境界条件として与えることで、CAE解析の精度を向上させることができる。
【0128】
次に、注湯システム1を制御するための制御プログラムについて説明する。この制御部プログラムは、制御部Cntにおいて実行される。
【0129】
制御プログラムは、メインモジュール、注湯流量制御モジュール、同期化制御モジュール、落下位置推定モジュール、落下位置操作部モジュール、前後位置制御モジュール及び上下位置制御モジュールを備えている。
【0130】
メインモジュールは、注湯システム1を統括的に制御する部分である。注湯流量制御モジュール、同期化制御モジュール、落下位置推定モジュール、落下位置操作モジュール、前後位置制御モジュール及び上下位置制御モジュールを制御部Cntにおいて実行することにより実現される機能はそれぞれ、上記の注湯流量制御部FC1、同期化制御部FC2、落下位置推定部FC3、落下位置操作部FC4、前後位置制御部FC5及び上下位置制御部FC6の機能と同一である。
【0131】
制御部プログラムは、例えば、CD−ROMやDVD、ROM等の記録媒体または半導体メモリに記録された態様で提供される。また、制御部プログラムは、通信ネットワークを介して提供されてもよい。
【0132】
以上、種々の実施形態に係る注湯システム、注湯システムの制御方法、制御プログラム、及び、制御プログラムを記憶するコンピュータ読み取り可能な記録媒体について説明してきたが、上述した実施形態に限定されることなく発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形態様を構成可能である。例えば、上記実施形態では、取鍋12の同期化制御を行うことによって取鍋12の傾動角度θに関わらず出湯口12bの位置を維持しているが、取鍋12の出湯口12bが傾動中心になるような機構を備えていれば、必ずしも同期化制御を行わなくてもよい。
【0133】
また、上記実施形態では、式(17)に示すように、回転角度φ
rに不感帯の領域を設定しているが、この領域は必ずしも設けられている必要はない。また、同式に示すように、注湯流量制御部FC1が、取鍋12の傾動角度θに応じて、第1〜第3のモードの何れかに従って第1のモータ13の動作を制御しているが、注湯流量制御部FC1は傾動角度θに関わらず、常に第3のモードで第1のモータ13の動作を制御することも可能である。
【0134】
また、上記実施形態では、操作入力部20がレバー21を有するジョイスティックとして構成されているが、操作入力部20は、必ずしもジョイスティックでなくてもよく、第1の操作、第2の操作及び第3の操作を操作者から受け付けることができれば任意の機構を備え得る。