特許第6902268号(P6902268)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6902268
(24)【登録日】2021年6月23日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】成形機用洗浄剤組成物
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/72 20060101AFI20210701BHJP
   B29C 48/27 20190101ALI20210701BHJP
   B29C 45/17 20060101ALI20210701BHJP
   B29C 49/42 20060101ALI20210701BHJP
   C11D 3/37 20060101ALI20210701BHJP
   C11D 7/60 20060101ALI20210701BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20210701BHJP
   C08L 71/00 20060101ALI20210701BHJP
【FI】
   B29C33/72
   B29C48/27
   B29C45/17
   B29C49/42
   C11D3/37
   C11D7/60
   C08L101/00
   C08L71/00
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-168945(P2017-168945)
(22)【出願日】2017年9月1日
(65)【公開番号】特開2019-43044(P2019-43044A)
(43)【公開日】2019年3月22日
【審査請求日】2020年5月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】503121505
【氏名又は名称】株式会社フロロテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100089152
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】小原 弘明
【審査官】 ▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−234575(JP,A)
【文献】 特開2004−067780(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/178075(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0092410(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C33/72,45/17,48/27,49/42
C11D1/00−19/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂よりなる成形機用洗浄樹脂と、水素原子の一部又は全てがフッ素化されてなるポリアルキレンエーテル基を骨格とし、リン酸エステル基、ホスホン基、チタネート基、アルミネート基及びメルカプト基よりなる群から選ばれる官能基を有する、分子量が1000〜10000の反応性フッ素系化合物とを含むことを特徴とする成形機用洗浄剤組成物。
【請求項2】
熱可塑性樹脂よりなる成形機用洗浄樹脂に添加するための添加液であって、
前記添加液は、水素原子の一部又は全てがフッ素化されてなるポリアルキレンエーテル基を骨格とし、リン酸エステル基、ホスホン基、チタネート基、アルミネート基及びメルカプト基よりなる群から選ばれる官能基を有する、分子量が1000〜10000の反応性フッ素系化合物が、ハイドロフルオロエーテル、ペルフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、ペルフルオロポリエーテル、ハイドロフルオロクロロカーボン及びハイドロフルオロオレフィンよりなる群から選ばれる揮発性溶媒に溶解されてなることを特徴とする添加液。
【請求項3】
揮発性溶媒の沸点が40℃〜240℃の範囲内である請求項2記載の添加液。
【請求項4】
反応性フッ素系化合物の濃度が0.01〜30重量%である請求項2記載の添加液。
【請求項5】
請求項1記載の成形機用洗浄剤組成物を、熱可塑性樹脂を流動状態にして、金属製成形機中に流し込むことを特徴とする成形機の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出成形機や射出成形機等の各種成形機内に残留する合成樹脂、合成ゴム又は染顔料等(以下、「残留物」という。)を除去するために用いる成形機用洗浄剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、合成樹脂又は合成ゴム等よりなる成形品を製造するには、押出成形機、射出成形機又はインフレータブル成形機等の各種成形機が用いられている。これらの各種成形機は、いずれも、合成樹脂又は合成ゴム等の原料をホッパー等の投入口から投入し、シリンダーに内装されているスクリュー等の作用によって流動状態とし、所定の型にした後に固化させて成形品を得る装置である。かかる成形機を用いて成形品を得た後に、同一の成形機を用いて、異種樹脂又は異色樹脂を原料とする成形品を得ることが、多品種少量生産の場合には、しばしば行われている。
【0003】
かかる方法で成形機を使用して多品種少量の成形品を得る場合、先行の原料と後行の原料とが異なるため、後行の成形を行う前に、洗浄樹脂を成形機に流し込んで、成形機のホッパー表面、シリンダー内壁表面、スクリュー表面及び成形型内壁表面等の成形機内部表面に付着している先行原料の残留物を除去することが行われている。洗浄樹脂としては、一般的に、適当なメルトフローレートを持つ熱可塑性樹脂が用いられている(特許文献1)。また、さらに洗浄性を向上させるために、熱可塑性樹脂に界面活性剤や無機充填剤を配合した成形機用洗浄剤組成物も提案されている(特許文献2)。一方、成形機稼働中において、成形機内部表面に原料が付着するのを防止するために、ホウ素系の界面活性剤を成形機内部表面に塗布することが提案されている(特許文献3)。
【0004】
【特許文献1】特開2000−326340号公報(請求項1)
【特許文献2】特開平3−21653号公報(請求項1)
【特許文献3】特開2004−67780号公報(請求項8)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、成形機内部表面に付着している先行原料の残留物の除去と、成形機内部表面への後行原料の付着防止とを同時に行える成形機用洗浄剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、成形機用洗浄剤組成物中に、特定の反応性フッ素系化合物を含有させることにより、上記課題を解決したものである。すなわち、本発明は、熱可塑性樹脂よりなる成形機用洗浄樹脂と、水素原子の一部又は全てがフッ素化されてなるポリアルキレンエーテル基を骨格とし、リン酸エステル基、ホスホン基、チタネート基、アルミネート基及びメルカプト基よりなる群から選ばれる官能基を有する、分子量が1000〜10000の反応性フッ素系化合物とを含むことを特徴とする成形機用洗浄剤組成物に関するものである。
【0007】
本発明で用いる成形機用洗浄樹脂は、熱可塑性樹脂を主体としてなるものであって、従来公知のものが用いられる。具体的には、熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合樹脂又はスチレン系樹脂等が用いられる。また、成形機用洗浄樹脂中には、熱可塑性樹脂と共に、従来公知の界面活性剤や無機充填剤等が含有されていてもよい。
【0008】
本発明で用いる反応性フッ素系化合物は、水素原子の一部又は全てがフッ素化されてなるポリアルキレンエーテル基を骨格とするものである。そして、その末端には、リン酸エステル基、ホスホン基、チタネート基、アルミネート基及びメルカプト基よりなる群から選ばれる官能基を有するものである。反応性フッ素系化合物は、骨格と官能基のみから構成されていてもよいし、その他、フッ化炭素基が付加されていてもよいし、アミド基や炭化水素基等の連結基(骨格と官能基とを連結する基)等を含んでいてもよい。また、反応性フッ素系化合物の分子量は1000〜10000程度である。この分子量は、GPCでMMA換算で測定される平均分子量のことである。分子量が1000未満であると、水素原子の一部又は全てがフッ素化されてなるポリアルキレンエーテル基の割合が少なく、成形機内部表面に後行原料が付着しやすくなるため、好ましくない。また、分子量を10000を超えると、成形機用洗浄樹脂又は揮発性溶媒との相溶性が低下し、反応性フッ素系化合物が均一に混合されにくくなる。さらに、成形機内部表面に形成される反応性フッ素系化合物よりなる膜が厚くなり、脱落しやすくなったり、寸法精度が低下する。
【0009】
反応性フッ素系化合物の具体例を挙げると、以下のとおりである。
【化1】
(式中、nは5〜60である。)
【化2】
(式中、nは5〜60である。)
【化3】
(式中、mは5〜60である。)
【化4】
(式中、mは5〜60である。)
【化5】
(式中、mは5〜60である。)
【化6】
(式中、mは5〜60である。)
【化7】
(式中、mは5〜60である。)
【化8】
(式中、m+nは10〜100である。)
【化9】
(式中、m+n及びq+rは、各々10〜100である。)
【化10】
(式中、m+nは10〜100である。)
【化11】
(式中、m+nは10〜100である。)
【化12】
(式中、m+nは10〜100である。)
【化13】
(式中、m+nは10〜100である。)
【化14】
(式中、m+nは10〜100である。)
【化15】
(式中、m+nは10〜100である。)
【化16】
(式中、m+nは10〜100である。)
【化17】
(式中、m+nは10〜100である。)
【化18】
(式中、m+nは10〜100である。)
【0010】
本発明に係る成形機用洗浄剤組成物は、成形機用洗浄樹脂に反応性フッ素系化合物を添加して得られるものである。成形機用洗浄樹脂と反応性フッ素系化合物は、あらかじめ均一な状態になるように添加混合して形成してもよいし、分離または不均一な状態から成形機内部に両者を投入し、しだいに混合されて形成されるようにしてもよい。添加する際には、特に反応性フッ素系化合物を揮発性溶媒に溶解してなる溶液状の添加液とするのが好ましい。添加液中における反応性フッ素系化合物の濃度は任意であるが、一般的に0.01〜30重量%程度であり、好ましくは0.03〜1重量%程度である。かかる添加液を、成形機用洗浄樹脂100重量部に対して5〜20重量部程度添加混合することにより、成形機用洗浄剤組成物が得られる。本発明で用いる反応性フッ素系化合物を溶解しうる揮発性溶媒としては、ハイドロフルオロエーテル、ペルフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、ペルフルオロポリエーテル、ハイドロフルオロクロロカーボン又はハイドロフルオロオレフィンが単独で又は混合して用いられる。反応性フッ素系化合物は、室温でも金属製の成形機内部表面と化学的に結合可能であるが、一般に成形機用洗浄樹脂は100〜250℃程度の温度で軟化又は溶融させて使用されるため、成形機内部表面に化学的により速やかに結合する。したがって、揮発性溶媒の沸点は、40℃〜240℃の範囲内のものであるのが好ましい。なお、揮発性溶媒と共に、アルコール、エーテル、エステル、ケトン又は炭化水素等の有機溶剤を混合しておいてもよい。これらの有機溶剤を混合することにより、揮発性溶媒の粘度又は蒸発速度等の性質を調整することができる。また、これらの有機溶媒は、揮発性溶媒に比べ安価であるので、本発明に用いる添加液の価格を低減しうる。
【0011】
揮発性溶媒であるハイドロフルオロエーテルの具体例としては、スリーエムジャパン社製の商品名ノベックシリーズが用いられる。すなわち、ノベック HFE−7100、ノベック HFE−7200、ノベック HFE−7300、ノベック HFE−7500、ノベック 71DE、ノベック 72DE、ノベック 71DA等が用いられる。また、AGC旭硝子社製の商品名アサヒクリン AE−3000やAE−3100E等も用いられる。揮発性溶媒であるペルフルオロカーボンの具体例としては、スリーエムジャパン社製の商品名フロリナート又は不活性液体PFシリーズが用いられる。揮発性溶媒であるハイドロフルオロカーボン又はその混合物の具体例としては、三井・デュポンフロロケミカル社製の商品名バートレルXF、バートレルXF−UP、バートレルXE、バートレルXP;日本ゼオン社製の商品名ゼオローラH;ミテニ社製のヘキサフルオロメタキシレン;AGC旭硝子社製の商品名アサヒクリン AC−2000、AC−6000、AC6000E;日本ソルベイ社製の商品名ソルカン 365mfc等が用いられる。揮発性溶媒であるペルフルオロポリエーテルの具体例としては、ソルベイスペシャリティポリマーズ社製の商品名ガルデン等が用いられる。揮発性溶媒であるハイドロフルオロクロロカーボンの具体例としては、AGC旭硝子社製の商品名アサヒクリンAK−225等が用いられる。揮発性溶媒であるハイドロフルオロオレフィンとしては、セントラル硝子社製の商品品番1233Z;三井・デュポンフロロケミカル社製の商品名バートレルスープリオン等が用いられる。
【0012】
本発明に係る成形機用洗浄剤組成物は、金属製成形機のホッパーへ投入される。成形機用洗浄剤組成物は、ホッパーへ投入される時点で、成形機用洗浄樹脂と反応性フッ素系化合物が前もって均一に混合されていてもよいし、又は両者を別々にホッパーに投入して成形機内部でスクリューにより漸次混合されてもよい。成形機用洗浄剤組成物は、ホッパーへ投入される時点で、熱可塑性樹脂を加熱して流動状態にしておいてもよいし、成形機中のシリンダー及びスクリューを加熱して、シリンダー内で流動状態にしてもよい。そして、シリンダーから排出され、金型等の型を形成する部位に至る。このような投入を繰り返すことにより、先行原料の残留物が成形機から除去される。本発明においては、この過程で、成形機用洗浄剤組成物中の反応性フッ素系化合物が成形機内部表面と化学的に結合して、フッ素系化合物で構成される膜が形成され、後行原料が成形機内部表面に付着しにくくなる。膜の厚さは任意であるが、一般的に0.1μm以下である。本発明において、この膜は単分子膜として形成させることが好ましく、したがって、膜の厚さは1〜20nmであるのが好ましい。
【0013】
本発明に係る成形機用洗浄剤組成物を適用しうる成形機としては、押出成形機、射出成形機、ブロー成形機、インフレータブル成形機、溶融紡糸機等の各種成形機が挙げられる。各種成形機のうちでも、鉄、鉄合金、銅、銅合金、アルミ又はアルミ合金等の金属製成形機が好ましい。金属製成形機の場合、本発明で用いる反応性フッ素系化合物が成形機内部表面と化学的に結合しやすいからである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る成形機用洗浄剤組成物を金属製成形機に適用すると、成形機内部表面に付着している先行原料の残留物が、成形機用洗浄樹脂によって良好に除去される。これと同時に、先行原料が除去された成形機内部表面に、反応性フッ素系化合物が化学的に結合し極めて薄い膜が形成される。この膜によって、後行原料を成形機に投入して成形品を得る際において、後行原料が成形機内部表面に付着しにくくなる。したがって、本発明に係る成形機用洗浄剤組成物を用いれば、成形機内部表面に付着している先行原料の残留物の除去と、成形機内部表面への後行原料の付着防止とを同時に行うことができる。よって、成形品の多品種少量生産時において、成形機の洗浄時間又は洗浄回数を低減することができ、成形品の多品種少量生産を合理化しうるという効果を奏する。
【実施例】
【0016】
実施例
19の化学式で表される反応性フッ素系化合物(分子量約3900)と化20の化学式で表される反応性フッ素系化合物(分子量約7700)の混合物5gを、揮発性溶媒で沸点174℃であるペルフルオロカーボン(スリーエムジャパン社製、商品名フロリナート FC−43)995gに溶解して、添加液を得た。
【化19】
(式中、nは約21である。)
【化20】
(式中、nは約21である。)
【0017】
実施例
21の化学式で表される反応性フッ素系化合物(分子量約4300)5gを、揮発性溶媒で沸点55℃であるハイドロフルオロカーボン(三井・デュポンフロロケミカル社製、商品名バートレルXF)995gに溶解して、添加液を得た。
【化21】
(式中、m+nは約45である。)
【0018】
実施例
22の化学式で表される反応性フッ素系化合物(分子量約4300)5gを、揮発性溶媒で沸点110.5℃であるハイドロフルオロオレフィン(三井・デュポンフロロケミカル社製 商品名バートレル スープリオン)995gに溶解して、添加液を得た。
【化22】
(式中、m+nは約45である。)
【0020】
実施例
23の化学式で表される反応性フッ素系化合物(分子量約2500)5gを、揮発性溶媒で沸点98℃であるハイドロフルオロエーテル(スリーエムジャパン社製、商品名ノベック HFE−7300)995gに溶解して、添加液を得た。
【化23】
(式中、mは約13である。)
【0021】
[成形機用洗浄剤組成物の調製]
実施例1〜で得られた各添加液30gを、成形機用洗浄樹脂(ダイセルポリマー社製、セルパージ NX−A2)300gに添加して、種類の成形機用洗浄剤組成物1〜を調製した。なお、この調製は、成形機のホッパーに投入すると同時に行ってもよいし、ホッパーに投入する前に予め行ってもよい。
【0022】
[成形機の洗浄]
先行原料である白色のポリメチルメタクリレート(PMMA)を用いて、射出成形機にて成形品を得た。射出成形機の条件は、シリンダー温度210℃、金型温度60℃及び射出圧力110MPaとした。所定の数量の成形品を得た後、成形機用洗浄剤組成物1〜の各々について、以下の試験を実施した。すなわち、各成形機用洗浄剤組成物1〜を射出成形機のホッパーに投入し、射出成形機の洗浄を行い、成形機内部に付着している先行原料の残留物を除去した。洗浄の際の射出成形機の条件は、シリンダー温度210℃、金型温度60℃及び射出圧力90MPaとした。洗浄後、後行原料として黒色のポリメチルメタクリレートを用い、当該射出成形機にて成形品を得た。かかる成形方法において、成形機用洗浄樹脂のみを用いて洗浄した場合に比べて、成形機用洗浄剤組成物1〜の各々を用いて洗浄した場合は、成形機内部に後行原料の残留物が付着しにくいものであった。