特許第6902275号(P6902275)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6902275芳香族複素多環式ハロゲン化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6902275
(24)【登録日】2021年6月23日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】芳香族複素多環式ハロゲン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 307/91 20060101AFI20210701BHJP
   C07D 333/76 20060101ALI20210701BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20210701BHJP
【FI】
   C07D307/91
   C07D333/76
   !C07B61/00 300
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-552656(P2017-552656)
(86)(22)【出願日】2016年11月22日
(86)【国際出願番号】JP2016084584
(87)【国際公開番号】WO2017090601
(87)【国際公開日】20170601
【審査請求日】2019年9月19日
(31)【優先権主張番号】特願2015-228521(P2015-228521)
(32)【優先日】2015年11月24日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000113780
【氏名又は名称】マナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】村上 聡
【審査官】 谷尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/118507(WO,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2015−0066618(KR,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2010−0079458(KR,A)
【文献】 中国特許出願公開第102584678(CN,A)
【文献】 特表2010−502631(JP,A)
【文献】 特表2003−509481(JP,A)
【文献】 特開2006−045095(JP,A)
【文献】 Zongjie GAN et al,Convenient Chlorination of Some Special Aromatic Compounds Using N-Chlorosuccinimide,SYNTHESIS,2012年,vol.44, no.7,p.1074-1078,文献全体、特に、スキーム2参照
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 307/91
C07D 333/76
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】

(式中、R、R及びR、水素原子であり;Rは、水素原子であり;環Arは、無置換の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環であり;Aは、−O−又は−S−である)
で示される化合物と素化剤を、ハロゲン間化合物の存在下に反応させることを特徴とする、一般式(2):
【化2】

(式中、R、R、R、環Ar及びAは、前記と同義であり、Xは、臭素原子を示す)
で示される化合物の製造方法。
【請求項2】
前記ハロゲン間化合物が、一般式(3):
I−X′ (3)
(式中、X′は、塩素原子又は臭素原子を示す)
で示される化合物である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記一般式(3)のX′が臭素原子である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記一般式(1)において、環Arが無置換のベンゼンである、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記臭素化剤が、臭素、N−ブロモスクシンイミド又は1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントインである、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族複素多環式ハロゲン化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族複素多環式ハロゲン化合物は、有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELと称することがある)素子の発光材料や電子写真感光体などの製造中間体として、極めて有用な化合物である。
【0003】
有機EL分野は成長分野であるが、有機EL素子には未だ実用において多くの課題があり、盛んに研究がなされている。実用における課題には、有機EL素子の発光効率の向上、画素欠陥の低減、駆動電圧の抑制、耐熱性の改善などが挙げられる。これらの課題の解決のために、例えば、ブロモジベンゾチオフェンをボロン酸エステル化し、次いでハロゲン化合物との鈴木カップリング反応に付すことで、少なくとも1つのジベンゾチエニル基を有する化合物を得て、これを発光層のホスト材料や発光層に隣接する層の電荷輸送材料として用いることが提案され、これにより、駆動電圧の抑制、発光効率の向上、及び耐熱性が改善された有機電界発光素子が得られることが報告されている(例えば、特許文献1参照)。同様に、ジベンゾフラニル基又はジベンゾチエニル基を有する化合物を発光層のホスト材料や発光層に隣接する層の電荷輸送材料として用いることにより、耐熱性及び耐久性に優れた有機電界発光素子が得られることが報告されている(例えば、特許文献2参照)。これらから、本分野において、芳香族複素多環式ハロゲン化合物が特に重要な合成中間体として用いられていることが分かる。芳香族複素多環式ハロゲン化合物の製造方法としては、例えば、ジベンゾフラン誘導体を氷酢酸溶媒中で臭素と反応させて、対応するモノブロモジベンゾフラン誘導体を得る方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
一方で、有機EL分野においては、有機EL素子を構成する各種有機化合物の純度が、発光効率の低下や、発光輝度の減衰に強く影響することが知られている。例えば、有機EL素子において発光層を形成するホスト材料に含まれる不純物であるハロゲン元素の質量濃度を50ppm以下に抑えることで、発光輝度及び発光効率が高く、寿命が長くなることが報告されている(例えば、特許文献3参照)。さらに、少なくとも一層の有機化合物層を有する発光素子において、クロスカップリング反応で副生する不純物の含有量を0.5質量%以下とすることで、初期輝度が高く、長期駆動に伴う発光輝度の減衰が少なくなることが知られている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−080063号公報
【特許文献2】特開2012−049523号公報
【特許文献3】再表2005−084083号公報
【特許文献4】特開2002−373786号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.Org.Chem.,1997,62,1348−1355
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したモノブロモジベンゾフラン誘導体の製造方法を用いた場合には、位置異性体及びジブロモ体が多く副生するという問題がある。とりわけ位置異性体に関しては、一般的な精製方法であるカラムクロマトグラフィーを用いても精製分離が難しく、このような不純物を多く含有する化合物を高度な不純物管理が求められる有機EL用途で使用するには、大幅な収率の低下を伴う精製が必要となることが予想されるため効率的とは言い難い。
【0008】
本発明の課題は、芳香族複素多環式ハロゲン化合物を合成するにあたり、精製困難な位置異性体不純物の少ない芳香族複素多環式ハロゲン化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、芳香族複素多環式化合物とハロゲン化剤を、ハロゲン間化合物の存在下に反応させることにより、位置異性体不純物の少ない芳香族複素多環式ハロゲン化合物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0010】
すなわち、本発明は、一般式(1):
【化1】

(式中、R、R及びRは、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜6のアルキル、炭素数1〜6のアルコキシ、炭素数3〜6のシクロアルキル、炭素数6〜20のアリール又は炭素数2〜20のヘテロアリールであり;Rは、水素原子であり;環Arは、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環であり;Aは、−O−、−S−、−Se−又は−NR−であり、そしてRは、水素原子、炭素数1〜6のアルキル又は炭素数6〜20のアリールである)
で示される化合物とハロゲン化剤を、ハロゲン間化合物の存在下に反応させることを特徴とする、一般式(2):
【化2】

(式中、R、R、R、環Ar及びAは、前記と同義であり、Xは、塩素原子又は臭素原子を示す)
で示される化合物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、特に有機EL素子の発光材料や電子写真感光体で極めて有用な有機合成中間体となる芳香族複素多環式ハロゲン化合物を、精製困難な位置異性体を抑制し、簡便に製造することが可能である。したがって、本発明の製造方法は、工業的に利用可能であると期待される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明する。先ず、本明細書及び特許請求の範囲において用いられる用語について説明する。各用語は、他に断りのない限り、以下の意義を有する。
【0013】
本発明において「炭素数1〜6のアルキル」は、単独で又は他の用語との組み合わせにおいて、炭素数1〜6の、直鎖状又は分岐状の脂肪族飽和炭化水素の1価の基を意味し、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル又はヘキシルなどが挙げられる。
本発明において「炭素数1〜6のアルコキシ」は、基−ORであって、Rが、上記で定義したとおりの炭素数1〜6のアルキルである基を意味し、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブチルオキシ、イソブチルオキシ、s−ブチルオキシ、t−ブチルオキシ、ペンチルオキシ又はヘキシルオキシなどが挙げられる。
【0014】
本発明において「炭素数3〜6のシクロアルキル」は、単独で又は他の用語との組み合わせにおいて、炭素数3〜6の、環状の脂肪族飽和炭化水素の1価の基を意味し、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル又はシクロヘキシルなどが挙げられる。
【0015】
本発明において「炭素数6〜20のアリール」は、少なくとも1個の芳香環を含む、炭素数6〜20の単環式又は縮合多環式化合物の1価の基を意味し、例えば、フェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、アントリル、ピレニル、インデニル、フルオレニル、アセナフチレニル、フェナントリル又はフェナレニルなどが挙げられる。また、これらは、反応に関与しない、一以上の任意の置換基で置換されていてもよい。そのような置換基としては、炭素数1〜6のアルキル、炭素数1〜6のアルコキシ、炭素数3〜6のシクロアルキル、炭素数6〜20のアリール及び炭素数2〜20のヘテロアリールなどが挙げられる。
【0016】
本発明において「炭素数2〜20のヘテロアリール」は、少なくとも1個の芳香族ヘテロ環を含む、炭素数2〜20の単環式又は縮合多環式化合物の1価の基を意味し、例えば、フリル、ベンゾフラニル、ジベンゾフラニル、チエニル、ベンゾチエニル、ジベンゾチエニル、ピロリル、インドリル、カルバゾリル、イミダゾリル、ベンゾイミダゾリル、ピラゾリル、オキサゾリル、ベンゾオキサゾリル、チアゾリル、ベンゾチアゾリル、フラザニル、ピリジル、ピラニル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、トリアジニル、アゼピニル、キノリル、インドリジニル、シンノリニル、プリニル、カルボニリル、フェナントロリニル及びイミダゾピリミジニルなどが挙げられる。また、これらは、反応に関与しない、一以上の任意の置換基で置換されていてもよい。そのような置換基としては、炭素数1〜6のアルキル、炭素数1〜6のアルコキシ、炭素数3〜6のシクロアルキル、炭素数6〜20のアリール及び炭素数2〜20のヘテロアリールなどが挙げられる。
【0017】
本発明において「芳香族炭化水素環」は、少なくとも1個の芳香環を含む、炭素数6〜20の単環式又は縮合多環式化合物を意味し、例えば、ベンゼン、ナフタレン、テトラヒドロナフタレン、アントラセン、ピレン、インデン、フルオレン、アセナフチレン、フェナントレン又はフェナレンなどが挙げられる。また、これらは、反応に関与しない、一以上の任意の置換基で置換されていてもよい。そのような置換基としては、炭素数1〜6のアルキル、炭素数1〜6のアルコキシ、炭素数3〜6のシクロアルキル、炭素数6〜20のアリール及び炭素数2〜20のヘテロアリールなどが挙げられる。なお「芳香族炭化水素環」の1価の基は、上記「炭素数6〜20のアリール」と同義であり、両者は互換可能に使用することができる。
【0018】
同様に、「芳香族複素環」は、少なくとも1個の芳香族ヘテロ環を含む、炭素数2〜20の単環式又は縮合多環式化合物を意味し、例えば、フラン、ベンゾフラン、ジベンゾフラン、チオフェン、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン、ピロール、インドール、カルバゾール、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、ベンゾオキサゾール、チアゾール、ベンゾチアゾール、フラザン、ピリジン、ピラン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、アゼピン、キノリン、インドリジン、シンノリン、プリン、カルボリン、フェナントロリン及びイミダゾピリミジンなどが挙げられる。また、これらは、反応に関与しない、一以上の任意の置換基で置換されていてもよい。そのような置換基としては、炭素数1〜6のアルキル、炭素数1〜6のアルコキシ、炭素数3〜6のシクロアルキル、炭素数6〜20のアリール及び炭素数2〜20のヘテロアリールなどが挙げられる。なお「芳香族複素環」の1価の基は、上記「炭素数2〜20のヘテロアリール」と同義であり、両者は互換可能に使用することができる。
【0019】
次に、本発明の製造方法について詳しく述べる。
【0020】
本発明は、一般式(1):
【化3】

(式中、R、R及びRは、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜6のアルキル、炭素数1〜6のアルコキシ、炭素数3〜6のシクロアルキル、炭素数6〜20のアリール又は炭素数2〜20のヘテロアリールであり;Rは、水素原子であり;環Arは、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環であり;Aは、−O−、−S−、−Se−又は−NR−であり、そしてRは、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数6〜20のアリールである)
で示される化合物とハロゲン化剤を、ハロゲン間化合物触媒の存在下、反応させることを特徴とする、一般式(2):
【化4】

(式中、R、R、R、環Ar及びAは、前記と同義であり、Xは、塩素原子又は臭素原子を示す。)
で示される化合物を得るものである。
【0021】
前記一般式(1)において、R、R及びRは、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜6のアルキル、炭素数1〜6のアルコキシ、炭素数3〜6のシクロアルキル、炭素数6〜20のアリール又は炭素数2〜20のヘテロアリールであり、水素原子又は炭素数1〜6のアルキルであるものが好ましく、全て水素原子であるものがより好ましい。
【0022】
前記一般式(1)において、環Arは、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環である。環Arは、前記一般式(1)の[6−5]縮環骨格の5員環にさらに縮合した置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を意味し、置換もしくは無置換のベンゼンが好ましく、炭素数1〜6のアルキルで置換されたベンゼン又は無置換のベンゼンがより好ましく、無置換のベンゼンが特に好ましい。
【0023】
前記一般式(1)において、Aは、−O−、−S−、−Se−、−NR−(Rは、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数6〜20のアリールである)であり、−O−又は−S−が好ましい。
【0024】
したがって、前記一般式(1)で示される化合物の好ましい態様は、下記一般式(1a):
【化5】

(式中、R、R、R、R、環Ar及びAは、前記と同義であり、R、R、R及びRは、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜6のアルキル、炭素数1〜6のアルコキシ、炭素数3〜6のシクロアルキル、炭素数6〜20のアリール又は炭素数2〜20のヘテロアリールである)で示される化合物である。その中でも、一般式(1a)において、Aが−O−又は−S−であり、R、R、R、R、R、R及びRが水素原子又は炭素数1〜6のアルキルであるものが好ましく、Aが−O−又は−S−であり、R、R、R、R、R、R及びRが全て水素原子であるものがより好ましい。
【0025】
本発明の製造方法に用いる、一般式(1)の製法は特に限定されず、公知のいずれかの方法により合成することができる。例えば、一般式(1)においてR、R、R及びRが水素原子であり、環Arが無置換のベンゼンであり、Aが酸素原子である化合物(すなわち、ジベンゾフラン)は、市販されており、東京化成工業(株)などの供給業者から入手することが可能である。また、公知の方法(例えば、J.Am.Chem.Soc.,2006,128,581−590に記載の方法)に準じて合成することも可能である。
【0026】
本発明の製造に用いるハロゲン化剤の種類は、目的とする化合物に対して、塩素化剤、臭素化剤の中から適宣選択することができる。塩素化剤としては、塩素、N−クロロスクシンイミド、1,3−ジクロロ−5,5−ジメチルヒダントインなどが挙げられる。反応性の観点から塩素が好ましい。臭素化剤としては、臭素、N−ブロモスクシンイミド、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントインなどが挙げられる。反応性の観点から臭素が好ましい。
【0027】
本発明の製造に用いるハロゲン化剤の使用量は、特に限定されないが、一般式(1)で示される化合物1モルに対して、0.5〜3.0モルの範囲で使用するのが好ましく、反応率の観点から0.5〜1.5モルの範囲で使用するのがより好ましく、不純物抑制の観点から0.5〜1.2モルの範囲で使用するのがより好ましい。
【0028】
本発明の製造に用いるハロゲン間化合物は、2種のハロゲンからなる化合物である。好ましくは、一般式(3)
I−X (3)
(式中Xは、塩素原子又は臭素原子を示す)
で表される化合物であり、不純物抑制の観点からXが臭素原子である化合物がより好ましい。具体的には、一塩化ヨウ素、一臭化ヨウ素などが挙げられ、これらの化合物を単独で又は2種以上混合して用いてもよい。
【0029】
前記ハロゲン間化合物は、市販されており、Aldrich社などの供給業者から入手することが可能である。また、公知の方法に準じて合成することも可能である。具体的には、一臭化ヨウ素を合成する方法として、ヨウ素を溶媒中で臭素と混合し、ヨウ素が溶解するまで加熱する方法(例えば、J.Am.Chem.Soc.,1938,60,256参照)などが挙げられるが、製法は特に限定されない。また本発明の製造方法では、前記ハロゲン間化合物として、反応系中にヨウ素を加え、前記ハロゲン化剤との反応によりin situにて発生させたものを用いてもよい。
【0030】
本発明の製造に用いるハロゲン間化合物触媒の使用量は、特に限定されないが、一般式(1)で示される化合物1モルに対して、0.01〜50モル%の範囲で使用するのが好ましく、0.01〜20モル%の範囲で使用するのがより好ましい。
【0031】
本発明の反応には、溶媒を使用してもよい。使用する溶媒は、反応に不活性な溶媒であれば特に限定されず、所望する反応温度に応じて適宣選択される。溶媒は単独で又は2種類以上を任意の割合で混合して使用してもよい。具体的には、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素系溶媒、塩化メチレン、臭化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、エチレンジクロリド、1,1,1−トリクロロエタン、トリクロロエチレンなどのハロゲン化脂肪族炭化水素系溶媒が挙げられる。溶媒の使用量は、一般式(1)の芳香族複素多環式化合物1gに対して、0.5〜100倍量(重量基準)、好ましくは、0.5〜20倍量である。
【0032】
本発明の反応温度は、−80〜200℃の範囲が好ましい。副反応を抑制する点では、−80〜25℃が好ましく、−80〜−40℃がより好ましい。
【0033】
本発明の反応時間は、使用する出発物質の量や種類、溶媒の有無やその種類、反応温度などの条件によって適宣設定することができる。通常10分〜48時間が好ましく、作業性の観点から10分〜24時間であることがより好ましい。
【0034】
反応終了後、得られた反応溶液は通常の方法で後処理を行うことができる。後処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、水又はアルカリ性水溶液(水酸化ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液など)で得られた反応溶液の洗浄を行い、酸成分及び無機塩などを反応系内から除去する処理などが挙げられる。さらに所望により、目的の一般式(1)の芳香族複素多環式ハロゲン化合物の性質に従い、蒸留、再結晶、クロマトグラフィーなどの一般的な方法によりさらに分離・精製してもよい。
【実施例】
【0035】
以下に、本発明の態様を明らかにするために実施例を示すが、本発明はここに示す実施例の内容のみに限定されるものではない。
【0036】
実施例、比較例で得られた反応液及び目的物の純度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定した。
【0037】
測定条件は以下の通りである。
検出器 :SPD20A(株式会社島津製作所製)
オーブン :CTO−20A(株式会社島津製作所製)
ポンプ :LC−20AD(株式会社島津製作所製)
カラム :ODS−80Tm(東ソー株式会社製)
カラム温度:40℃
溶離液 :アセトニトリル:水=75:25
流速 :1.0ml/min
波長 :254nm
【0038】
[実施例1]
アルゴン雰囲気下、四つ口フラスコに、ジベンゾフラン4.0g(23.8mmol)(東京化成工業株式会社製)、塩化メチレン40gを加え、撹拌下、内温約−50〜−40℃まで冷却した。冷却後、一臭化ヨウ素0.1g(0.5mmol)(Aldrich社製)を添加し、同温度にて、臭素3.8g(23.8mmol)と塩化メチレン7.7gを混合した溶液を滴下し、1時間反応させた。得られた反応液のHPLC純度は、2−ブロモジベンゾフラン82.4%(3−ブロモジベンゾフラン10.5%)であった。
得られた反応液を亜硫酸ナトリウム水溶液で還元し、有機層を分離した。得られた有機層を水洗し、濃縮により溶媒を留去した後、得られた固体残留物にモノクロロベンゼン5ml、イソプロピルアルコール25mlを加えた。次いで、氷水冷にて結晶を析出させた後、濾過を行い、乾燥することでHPLC純度99%の2−ブロモジベンゾフラン4.5gを得た(収率77%、3−ブロモジベンゾフラン非検出)。外観:白色粉末性結晶。
【0039】
[実施例2]
実施例1の一臭化ヨウ素を一塩化ヨウ素0.1g(0.6mmol)(和光純薬工業株式会社製)に変更した以外は、同様の操作を行った。得られた反応液のHPLC純度は、2−ブロモジベンゾフラン79.2%(3−ブロモジベンゾフラン11.6%)であった。
【0040】
[実施例3]
実施例1の一臭化ヨウ素をヨウ素0.06g(0.2mmol)(和光純薬工業株式会社製)に変更し、反応液中で一臭化ヨウ素を調整した以外は同様の操作を行った。得られた反応液のHPLC純度は、2−ブロモジベンゾフラン82.8%(3−ブロモジベンゾフラン10.3%)であった。
【0041】
[実施例4]
実施例1の一臭化ヨウ素をヨウ素0.6g(2.4mmol)(和光純薬工業株式会社製)に変更し、反応液中で一臭化ヨウ素を調整した以外は同様の操作を行った。得られた反応液のHPLC純度は、2−ブロモジベンゾフラン82.9%(3−ブロモジベンゾフラン7.8%)であった。
【0042】
[実施例5]
実施例3のジベンゾフランをジベンゾチオフェン4.0g(21.8mmol)(Aldrich社製)に変更した以外は同様の操作を行った。得られた反応液のHPLC純度は、2−ブロモジベンゾチオフェン90.9%(3−ブロモジベンゾチオフェン1.3%)であった。
【0043】
[比較例1]
四つ口フラスコに、ジベンゾフラン5.0g(29.7mmol)(東京化成工業株式会社製)と酢酸30mlを加え、撹拌下、内温50℃まで昇温した。同温度にて臭素6.3g(39.2mmol)を約20分かけて滴下した。滴下後、室温まで冷却し、1晩反応させた。得られた反応液のHPLC純度は、2−ブロモジベンゾフラン58.7%(3−ブロモジベンゾフラン16.5%)であった。
【0044】
[比較例2]
実施例1の一臭化ヨウ素を塩化鉄(III)0.04g(0.2mmol)(和光純薬工業株式会社製)に変更した以外は同様の操作を行った。得られた反応液のHPLC純度は、2−ブロモジベンゾフラン66.2%(3−ブロモジベンゾフラン17.5%)であった。