特許第6902295号(P6902295)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6902295時間領域A/D変換器群およびこれを用いたセンサー装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6902295
(24)【登録日】2021年6月23日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】時間領域A/D変換器群およびこれを用いたセンサー装置
(51)【国際特許分類】
   H03M 1/56 20060101AFI20210701BHJP
【FI】
   H03M1/56
【請求項の数】5
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2020-69333(P2020-69333)
(22)【出願日】2020年4月7日
(62)【分割の表示】特願2019-547922(P2019-547922)の分割
【原出願日】2018年7月30日
(65)【公開番号】特開2020-182210(P2020-182210A)
(43)【公開日】2020年11月5日
【審査請求日】2020年4月7日
(31)【優先権主張番号】特願2017-198051(P2017-198051)
(32)【優先日】2017年10月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】516205214
【氏名又は名称】株式会社テックイデア
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】松澤 昭
(72)【発明者】
【氏名】野原 正也
【審査官】 竹内 亨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−128278(JP,A)
【文献】 特開2012−191359(JP,A)
【文献】 特開2009−177797(JP,A)
【文献】 特開2008−092091(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03M 1/00−1/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のA/D変換ブロックを含む時間領域A/D変換器群であって、前記複数のA/D変換ブロックのそれぞれは、
集積回路全体にクロックを供給するマスタークロックを入力し、前記マスタークロックの周期を分割し、より高速で異なるタイミングの多相クロックを出力する遅延同期ループ回路と、
前記多相クロックからグレイコードに対応した複数のクロックを合成する論理回路と、
空間的に互いに隣接する複数のA/D変換器と、を含み、
前記複数のA/D変換器のそれぞれは、
入力信号と時間とともに単調に変化する参照電圧を比較して比較出力信号を生成する比較器と、
内部A/D変換器と、を含み、
前記内部A/D変換器は、
前記比較出力信号により与えられたタイミングで前記複数のクロックの論理状態を保持する複数のラッチと、
前記複数のクロックの1つをカウントし、前記比較器の出力によりカウントを停止するカウンターと、を含み、
前記遅延同期ループ回路および前記論理回路は集積回路全体に分散して配置され、前記複数のクロックを同じA/D変換ブロックに属する前記複数のA/D変換器に供給することを特徴とする時間領域A/D変換器群。
【請求項2】
複数のA/D変換ブロックを含む時間領域A/D変換器群であって、前記複数のA/D変換ブロックのそれぞれは、
集積回路全体にクロックを供給するマスタークロックを入力し、前記マスタークロックの周期を分割し、タイミングの異なった多相クロックを出力する遅延同期ループ回路と、
前記多相クロックからグレイコードに対応した複数のクロックを合成する論理回路と、
入力信号と参照電圧を比較して比較出力信号を生成する複数の比較器と、
記比較出力信号からA/D変換値を得る複数の内部A/D変換器と、
前記複数のクロックをゲーティング制御信号によりゲーティングするゲーティング回路と、を有し、
前記複数の内部A/D変換器のそれぞれは、
前記比較出力信号により与えられたタイミングで前記複数のクロックの論理状態を保持する複数のラッチと、
前記複数のクロックの1つをカウントし、前記比較器の出力によりカウントを停止するカウンターと、を含み、
前記複数のクロックを用いてA/D変換を行い、
前記ゲーティングは、前記入力信号のレベルの小さいときはLSBに相当するクロックに対して行い、前記入力信号のレベルが大きくなるにしたがって順次対象ビットをMSB側に上げていくことを特徴とする時間領域A/D変換器群。
【請求項3】
複数のA/D変換ブロックを含む時間領域A/D変換器群であって、前記複数のA/D変換ブロックのそれぞれは、
集積回路全体にクロックを供給するマスタークロックを入力し、前記マスタークロックの周期を分割し、タイミングの異なった多相クロックを出力する遅延同期ループ回路と、
前記多相クロックからグレイコードに対応した複数のクロックを合成する論理回路と、
入力信号と参照電圧を比較して比較出力信号を生成する複数の比較器と、
記比較出力信号からA/D変換値を得る複数の内部A/D変換器と、
前記複数のクロックをゲーティング制御信号によりゲーティングするゲーティング回路と、を有し、
前記複数の内部A/D変換器のそれぞれは、
前記比較出力信号により与えられたタイミングで前記複数のクロックの論理状態を保持する複数のラッチと、
前記複数のクロックの1つをカウントし、前記比較器の出力によりカウントを停止するカウンターと、を含み、
前記複数のクロックを用いてA/D変換を行い、
前記ゲーティング制御信号は、A/D変換開始からのクロック数を計測して、所定の回数に達したら発生させることを特徴とする時間領域A/D変換器群。
【請求項4】
複数のA/D変換ブロックを含む時間領域A/D変換器群であって、前記複数のA/D変換ブロックのそれぞれは、
集積回路全体にクロックを供給するマスタークロックを入力し、前記マスタークロックの周期を分割し、タイミングの異なった多相クロックを出力する遅延同期ループ回路と、
前記多相クロックからグレイコードに対応した複数のクロックを合成する論理回路と、
入力信号と参照電圧を比較して比較出力信号を生成する複数の比較器と、
記比較出力信号からA/D変換値を得る複数の内部A/D変換器と、
前記複数のクロックをゲーティング制御信号によりゲーティングするゲーティング回路と、を有し、
前記複数の内部A/D変換器のそれぞれは、
前記比較出力信号により与えられたタイミングで前記複数のクロックの論理状態を保持する複数のラッチと、
前記複数のクロックの1つをカウントし、前記比較器の出力によりカウントを停止するカウンターと、を含み、
前記複数のクロックを用いてA/D変換を行い、
前記ゲーティング制御信号は、参照電圧を発生するD/A変換器の入力信号が所定の値に達したら発生させることを特徴とする時間領域A/D変換器群。
【請求項5】
センサーからの電気信号を入力信号電圧とする請求項1に記載の時間領域A/D変換器群であって
準信号電圧を供給する基準信号源と、
前記センサーの出力である前記電気信号を保持容量に転送するトランジスタと、を有し、
前記入力信号電圧のA/D変換結果と、前記基準信号電圧のA/D変換結果の差分をA/D変換出力とすることを特徴とする時間領域A/D変換器群。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は時間領域A/D変換器およびこれを用いたセンサー装置に関する。より詳細には、入力信号レベルの判定手段を有し、複数の参照信号発生回路のうち少なくとも1つの参照信号発生回路はフルスケールの入力信号が変換可能な参照信号を発生し、残りの参照電圧発生回路のうちの1つは限定された電圧範囲を周期的に複数回掃引する参照信号を発生し、平均化処理を行うこと、もしくは、マスタークロックからマスタークロックの周期を分割したタイミングの異なった多相クロックを出力とする遅延同期ループ回路を有し、多相クロックを用いてA/D変換を行うことを特徴とする時間領域A/D変換器に関する。さらに、このように構成された時間領域A/D変換器を有し、高精度、高速、かつ低消費電力を実現したセンサー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
(従来のセンサー装置)
図21に従来のセンサー装置300を示す。センサー装置300は、自然界の信号(被センス信号)を検知してこれを電気信号に変換する単位センサー111が、行と列からなる行列状に配置されたセンサー領域110を有する。単位センサー111は行選択線112と列選択線113に接続されている。垂直(行)操作回路130は行選択線112の一つに所定電圧を供給することによってセンサー領域110の行を選択する。列選択線113はA/D変換部120に接続されている。A/D変換部120は複数のA/D変換器が列状に配置されて構成されたA/D変換器列122を含む。さらに、任意的に減算増幅回路121が列選択線113とA/D変換器列122との間に挿入されてもよい。A/D水平(列)操作回路150はA/D変換器列122の各列出力を順次選択してデータ出力端子151に転送して出力する。タイミング制御回路140は図示しないクロック供給回路からクロック入力端子141に供給されるクロック信号に同期して、垂直(行)操作回路130と水平(列)操作回路150をそれぞれ制御するパルス信号を生成する。
【0003】
クロック入力に同期して、タイミング制御回路140で作成されたパルス信号に同期して、垂直(行)操作回路130で作られた行制御信号により、一つの行選択線112が活性化され、対象の行の単位センサー111の電気信号が列選択線113に取り出される。各列信号線はA/D変換部120においてA/D変換される。A/D変換部120は減算増幅回路121と単位A/D変換器が列状に並んだA/D変換器列122からなる構成を取るものがある。A/D変換部120の出力信号は水平(列)操作回路150で作成された制御信号により、データ出力端子151から取り出される。
【0004】
(汎用的なセンサー読出し回路)
センサーには読出し回路160が必要である。図22に汎用的なセンサー読出し回路160を示す。センサーからの信号は電圧源もしくは電流源で表される。例えば圧力などによる抵抗の変化を用いた抵抗型圧力センサーは圧力変化を抵抗体に電流を流すことにより抵抗に生じる電圧の変化として検知できる。また圧力などによる容量の変化を用いた抵抗型圧力センサーは、圧力変化を容量による電荷量の変化として検知でき、電荷の変化は一定の容量を用いることで、電圧の変化として検知できる。
【0005】
図22の汎用的なセンサー読出し回路160は、電源電圧VDDとトランジスタM1の一端に接続されたセンサー161(電圧源で表されている)を有している。トランジスタM1のゲートには信号S/H(サンプル/ホールド)が供給される。トランジスタM1の他端には保持容量162が接続されている。電源電圧VDDと保持容量162との間にはトランジスタM4が接続されている。トランジスタM4のゲートには信号RSTが供給される。保持容量162はさらにトランジスタM2のゲートに接続されている。トランジスタM2の一端は電源電圧VDDに接続され、他端はトランジスタM3の一端に接続されている。トランジスタM3のゲートには信号SELが供給され、他端は列電流源163に接続されている。M3の他端に読出し電圧VRが表れる。
【0006】
図22においてセンサー161の電圧VSはトランジスタM1のゲートを信号S/H(サンプル/ホールド)で制御することで、保持容量162に標本化されて保持される。この保持された電圧はソースフォロアを形成するトランジスタM2でバッファされて、スイッチを形成するトランジスタM3のゲートを行の制御信号SELで制御することにより、列信号線に取り出すことができる。列電流源163はソースフォロアを形成するトランジスタM2の動作に必要なバイアス電流を与えるために設けている。図21の回路のうち列電流源163以外の回路は単位センサー111に含まれ、行列状に配置されているのに対し、列電流源163は列ごとに列選択線113に接続されている。
【0007】
このような読み出し回路160においてはソースフォロアを構成するトランジスタM2のしきい値電圧VTのバラツキなどによりトランジスタのゲートソース間電圧VGSがばらつくために信号源電圧VSの正確な読み取りができない。そこで通常は最初に図示しない基準電圧発生回路より基準電圧VREFを送り、次に信号を含む電圧VSを送り、この二つの電圧の差を取ることで信号源電圧VSの正確な読出しができる。このような相関二重サンプリング技術を用いてゲートソース間電圧VGSのばらつきをキャンセルすることができるとともに、トランジスタの1/fノイズの影響も抑圧することができる。もちろん最初に信号を含む電圧VSを送り、次に基準電圧VREFを送っても良いことは言うまでもない。
【0008】
(スロープ型A/D変換器)
読み出し回路160の出力はA/D変換部120においてアナログ信号からデジタル信号に変換される。図23に、センサー装置の代表としてCMOSイメージセンサーによく用いられる時間領域型A/D変換器の一つであるスロープ型A/D変換器170を示す。図24に入力信号と参照電圧との関係を示す。
【0009】
スロープ型A/D変換器170は、複数の単位A/D変換器171と共通に設けられたランプ波発生器172とからなる。複数の単位A/D変換器171は比較器173とカウンター174とから構成される。ランプ波信号線177とクロック信号線176は複数の単位A/D変換器171に共通に設けられている。ランプ波発生器172の出力はランプ波信号線177に供給される。
【0010】
ランプ波発生器172はVRTからランプ波制御信号入力端子179に供給されるランプ波制御信号をトリガーとして、電圧が時間に比例して降下するランプ波190を発生する。単位A/D変換器171を構成するカウンター174はクロック信号線176に供給されるクロックパルスのカウントを開始する。比較器173は入力端子178に供給される入力信号とランプ波発生器で発生されたランプ波190である参照信号とを比較し、参照信号が入力信号よりも低くなったとき(Tin)にフラッグを発生してカウンターを停止させる。その時のカウンターの値が入力信号電圧Vinを表すので、この値を変換出力端子180において変換出力として取り出し、リセット端子181に供給されるリセット信号でカウンター174をリセットする。
【0011】
このスロープ型A/D変換器は構成が簡単で、微分非直線性誤差が小さく、単調性が補償されてロバスト性が高い。したがって、CMOSイメージセンサーに広く用いられている。
【0012】
しかしながら、課題も多い。例えば、変換速度と分解能のトレードオフがある。変換に使用できる時間をTFSとすると、分解能NビットのA/D変換器では、クロック周波数fclk
clk=2N/TFS (1)
で表される。フレーム数をNF、垂直画素数をNVとし、リセット読出しと信号読出しを行い、それぞれの周期の1/2をA/D変換に用いることができると仮定すると、
FS=1/(4NFV) (2)
であるので、
clk=2N+2FV (3)
である。フレーム数を100フレーム、垂直画素数を2000とし、使用できるクロック周波数を最高2GHz程度とすると、分解能は11ビット程度である。ダイナミックレンジ換算で68dB程度である。
【0013】
A/D変換器の精度を決めるものはクロック周波数にとどまらない。比較器もA/D変換器の精度を決める要素である。比較器のノイズ電圧は100μV〜200μV程度であり、ダイナミックレンジで75dB程度である。したがって、スロープ型A/D変換器のダイナミックレンジはせいぜい70dBである。
【0014】
通常単位センサーが取り扱う電子数は数万個とされている。そこで電子数を3万個、保持容量を5fFと仮定すると、最大出力電圧は1V程度となる。検出すべき信号の最小値は電子1個である。これは30μVとなる。したがって、必要なダイナミックレンジは約90dBである。スロープ型A/D変換器では画素が本来有する高いダイナミックレンジの実現が困難である。このため、相関二重サンプリングを行うとともに、前述したようにA/D変換の前に0dBから20dB程度の利得を可変にした減算増幅器を設けることでより高いダイナミックレンジを得ようとするセンサー装置もある。しかしながら、ノイズを抑えるために10pF〜20pFの大きな容量を用いることが多く、面積の増大だけでなく、消費電力の増大を招く結果となっている。
【0015】
したがって現在センサー装置に用いられているA/D変換器は、センサーが必要とする高いダイナミックレンジを高速かつ低消費電力で実現できていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Y. Oike, et.al., "8.3 M-Pixel 480-fps Global-Shutter CMOS Image Sensor with Gain-Adaptive Column ADCs and Chip-on-Chip Stacked Integration," IEEE Journal of Solid-State Circuits, Vol. 52, No. 4, pp. 985-993, April 2017.
【非特許文献2】N. Kawai and S. Kawahito, "Effectiveness of a correlated multiple sampling differential average for reducing 1/f noise,"IEICE Electronics Express, Vol. 2, No. 13, 379-383, 2005.
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2011−254246号公報
【特許文献2】特開2008−92091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、消費電力を上げずに読出しノイズを下げるとともに分解能を向上させることが可能な時間領域A/D変換器、あるいは同一分解能において消費電力を低減するとともに高速変換を可能にした時間領域A/D変換器およびそれを用いたセンサー装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の一実施形態にかかる時間領域A/D変換器群を構成する個々のA/D変換器は、フルスケールの範囲で掃引する第1の参照信号および限定された電圧範囲を周期的に複数回掃引する第2の参照信号を発生する参照信号発生回路と接続し、前記参照信号発生回路の出力である前記第1または前記第2の参照信号を切り替える参照電圧選択回路と、前記参照電圧選択回路によって選択された前記第1または前記第2の参照信号と入力信号とを比較する比較器と、前記比較器からの比較出力信号を用いてA/D変換を行う内部A/D変換器と、前記第2の参照信号が選択された場合、前記A/D変換から得られるA/D変換値を平均化した信号を出力する累積加減算器と、を有することを特徴とする。
【0020】
本発明の一実施形態にかかる時間領域A/D変換器群において、前記入力信号は、第1の期間におけるリセット信号と、第2の期間における本信号と、を含み、前記累積加減算器は、前記本信号から得られる信号と、前記リセット信号から得られる信号との差分を最終A/D変換値をして出力することが望ましい。
【0021】
本発明の一実施形態にかかる時間領域A/D変換器群において、前記A/D変換器は、本変換の前に、基準の信号レベルを前記比較器の参照電圧として用い、得られる比較出力信号の大小により、前記参照電圧選択回路は前記第1または前記第2の参照信号を選択することが望ましい。
【0022】
本発明の一実施形態にかかる時間領域A/D変換器群において、前記A/D変換器は、信号レベルが小さい方から掃引してA/D変換を行うことでA/D変換値が基準値に達したか否かを判断し、前記A/D変換値が前記基準値に達しない場合、前記参照電圧選択回路は前記第2の参照信号を選択し、前記A/D変換値が前記基準値に達した場合、前記参照電圧選択回路は前記第1の参照信号を選択することが望ましい。
【0023】
本発明の一実施形態にかかる時間領域A/D変換器群において、前記A/D変換器は、本変換の前に、前記第1の参照信号を用いて掃引し、前記本変換に必要な掃引時間よりも短い時間でフルスケールのA/D変換を行うことでA/D変換値が基準値に達したか否かを判断し、前記A/D変換値が前記基準値に達しない場合、前記参照電圧選択回路は前記第2の参照信号を選択し、前記A/D変換値が前記基準値に達した場合は、前記参照電圧選択回路は前記第1の参照信号を選択することが望ましい。
【0024】
本発明の一実施形態にかかる時間領域A/D変換器群において、前記A/D変換器は、前記参照電圧選択回路が前記第2の参照信号を選択する場合、前記第2の参照信号のスルーレートを可変にする手段をさらに有することが望ましい。
【0025】
本発明の一実施形態にかかる時間領域A/D変換器群において、前記A/D変換器は、前記入力信号のレベルが小さいときは参照電圧の掃引回数が多く、前記入力信号のレベルが大きいときは参照電圧の掃引回数が少なくなるよう前記内部A/D変換器を制御する変換回数制御回路をさらに有することが望ましい。
【0026】
本発明の一実施形態にかかる時間領域A/D変換器群において、前記第1の期間において、前記参照電圧選択回路は前記第2の参照信号を選択することが望ましい。
【0027】
本発明の一実施形態にかかる時間領域A/D変換器群において、前記A/D変換器は、前回の信号のA/D変換値が小さいとき は前記第1の期間における参照電圧の掃引回数 が多く、前回の信号のA/D変換値が大きいときは前記第1の期間における参照電圧の掃引回数が少なくする手段をさらに有することが望ましい。
【0028】
本発明の一実施形態にかかる時間領域A/D変換器群において、前記A/D変換器は、前記比較器の動作電流源を制御する比較器制御回路をさらに有し、本変換の前に、前記本変換に必要な掃引時間よりも短い時間でA/D変換を行うことで前記入力信号のレベルを検知し、前記本変換において、前記入力信号が検知されたレベルの近傍では、前記比較器制御回路は前記比較器の動作電流を供給し、前記入力信号が検知されたレベルの近傍以外では、前記比較器制御回路は前記比較器の動作電流を減少させることが望ましい。
【0029】
本発明の一実施形態にかかる時間領域A/D変換器群において、前記入力信号のレベルが大きい場合、前記比較器において前記入力信号と、基準信号の再サンプリングを行うことが望ましい。
【0030】
本発明の一実施形態にかかる時間領域A/D変換器群は、入力信号と参照信号を比較する複数の比較器と、前記複数の比較器からの比較出力信号からA/D変換値を得る複数の内部A/D変換器と、集積回路全体にクロックを供給するマスタークロックを入力し、マスタークロックの周期を分割し、タイミングの異なった多相クロックを出力する遅延同期ループ回路と、を有する。前記複数の内部A/D変換器は、前記多相クロックを用いてA/D変換を行うことを特徴とする。
【0031】
本発明の一実施形態にかかる時間領域A/D変換器群において、前記複数の内部A/D変換器は、前記比較出力信号により与えられたタイミングで前記多相クロックの論理状態を保持する複数のラッチを有することが望ましい。
【0032】
本発明の一実施形態にかかる時間領域A/D変換器群において、前記多相クロックからグレイコードに対応した複数のクロックを合成する論理回路をさらに有することが望ましい。
【0033】
本発明の一実施形態にかかる時間領域A/D変換器群において、前記複数のクロックのゲーティング回路をさらに有し、前記複数のクロックはゲーティング制御信号によりゲーティングされることが望ましい。
【0034】
本発明の一実施形態にかかる時間領域A/D変換器群において、前記ゲーティングは、前記入力信号のレベルの小さいときはLSBに相当するクロックに対して行い、前記入力信号のレベルが大きくなるにしたがって順次対象ビットをMSB側に上げていくことが望ましい。
【0035】
本発明の一実施形態にかかる時間領域A/D変換器群において、前記ゲーティング制御信号は、A/D変換開始からのクロック数を計測して、所定の回数に達したら発生させることが望ましい。
【0036】
本発明の一実施形態にかかる時間領域A/D変換器群において、前記ゲーティング制御信号は、参照電圧を発生するD/A変換器の入力信号が所定の値に達したら発生させることが望ましい。
【0037】
本発明の一実施形態にかかる時間領域A/D変換器群は、センサーからの電気信号を入力信号とする。前記センサーは自然界の信号を検知する信号源と、基準信号を供給する基準信号源と、これを保持容量に転送するトランジスタと、を有し、前記自然界の信号にかかる電圧のA/D変換結果と、前記基準信号源にかかる電圧のA/D変換結果の差分をA/D変換出力とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0038】
本発明の一実施形態にかかる時間領域A/D変換器は、信号レベルの判定を行い、信号レベルが小さい場合は、限定された参照電圧範囲を周期的に複数回掃引して複数回A/D変換を行い、平均化した信号を出力することにより、読み出しノイズが小さく、より分解能の高い時間領域A/D変換器を実現することができる。
【0039】
また、本変換の前に所定の変換時間よりも短い変換を行って、概略の信号レベルを検知して、検知された信号レベルの近傍のみで比較器の動作電流を供給することでより消費電力を下げることができるという効果がある。
【0040】
さらに、本発明の一実施形態にかかる時間領域A/D変換器は、集積回路全体にクロックを提供するマスタークロックから、分散配置されたコラムの一部を担当するDLLにおいてタイミングの異なった多相クロックを形成し、これをTDCに供給し、多相クロックを入力とするラッチもしくはフリップフロップを比較出力によりラッチすることで、マスタークロックのみを用いるよりもより高分解能の時間領域A/D変換器を低消費電力で実現できる。
【0041】
またDLLから得られた多相クロックを用いて、グレイコードに対応した複数のクロックを合成することにより必要なラッチもしくはフリップフロップの数を分解能をMとして、2M個ではなくM個に抑えることができることにより、より占有面積が小さくかつ消費電力を更に低減することができる。加えて、信号レベルに応じて、複数のクロックのLSB側からクロックを停止するゲーティング機能を持たせることにより実効的な分解能を下げることなく、更に消費電力を低減できる。
【0042】
また、マスタークロックの周波数が低くても高分解能なA/D変換が可能なため、マスタークロックの周波数を高く維持して、所定の分解能を得る変換時間が短くて済むため、従来よりもより高速なA/D変換を実現できるという効果がある。
【0043】
上記の効果がある時間領域A/D変換器を用いることで、センサー装置の高ダイナミックレンジ化、高速化、低消費電力化を図ることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明の一実施形態に係るA/D変換器の回路構成図である。
図2】本発明の一実施形態に係る参照電圧回路の回路構成図である。
図3】本発明の一実施形態に係る参照電圧回路の制御方法の説明図である。
図4】本発明の一実施形態に係る参照電圧回路の制御方法の説明図である。
図5】本発明の一実施形態に係る画素の信号電圧とショットノイズの特性図である。
図6】本発明の一実施形態に係る参照電圧回路の制御方法の説明図である。
図7】本発明の一実施形態に係る参照電圧回路の制御方法の説明図である。
図8】本発明の一実施形態に係る参照電圧回路の制御方法の説明図である。
図9】本発明の一実施形態に係るA/D変換器の回路構成図である。
図10】本発明の一実施形態に係るA/D変換器の回路構成図である。
図11】本発明の一実施形態に係る比較器の動作電流制御方法の説明図である。
図12】本発明の一実施形態に係る比較器の回路構成図である。
図13A】本発明の一実施形態に係る比較器の制御方法の説明図である。
図13B】本発明の一実施形態に係る比較器の制御方法の説明図である。
図14】本発明の一実施形態に係るA/D変換ブロックの回路構成図である。
図15】本発明の一実施形態に係るA/D変換器の回路構成図である。
図16】本発明の一実施形態に係るコラムA/D変換器の回路構成図である。
図17】本発明の一実施形態に係るA/D変換ブロックの回路構成図である。
図18A】本発明の一実施形態に係るTDCのクロック波形である。
図18B】本発明の一実施形態に係るTDCのクロック波形である。
図18C】本発明の一実施形態に係るTDCのクロック波形である。
図19A】本発明の一実施形態に係るTDCのラッチ数と分解能の関係を示す図である。
図19B】本発明の一実施形態に係るTDCの消費電力と分解能の関係を示す図である。
図20】本発明の一実施形態に係るTDCのクロックのゲーティング回路構成図である。
図21】従来のセンサー装置の回路構成図である。
図22】従来のセンサー装置の単位センサーの回路構成図である。
図23】従来のセンサー装置のスロープ型A/D変換器の回路構成図である。
図24】従来のセンサー装置のスロープ型A/D変換器の動作説明図である。
図25】従来のマルチサンプリング技術の説明図である。
図26】従来のA/D変換ブロックの回路構成図である。
図27】従来のA/D変換器の回路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
<第1の実施形態に至る経緯>
従来のセンサー装置に用いられているA/D変換器は、センサーが必要とする高いダイナミックレンジを実現できていない。例えば前述したように、フルスケール電圧を1Vとすると、電子1個の電圧に相当する30μV以下の読出しノイズが望ましい。これに対し現状は非特許文献1に示されているように、100μV程度であり、不十分である。
【0046】
この原因はA/D変換器の量子化ノイズだけでなく、画素ノイズ、比較器ノイズ、参照信号ノイズなど多岐にわたると考えられる。
【0047】
更なるノイズ低減に有効なのは非特許文献2に示されているように、1つの信号に対して多数回の変換を行い、平均化された信号をA/D変換出力とするものである。図25にその様子を示す。入力信号Vinに対し、参照電圧VRT、VRB間でランプ波を用いて参照電圧間をスイープする。比較器は入力信号Vinが参照電圧よりも高くなった時にフラッグを立ててカウンタをストップさせ、カウント値を入力信号VinのA/D変換器値として出力する。このA/D変換動作をM回繰り返す。このM回の変換値を、平均化処理を行い最終変換出力とすると、ノイズ電圧はMの平方根分の1に減少する。例えばMを4とすればノイズ電圧は1/2に、Mを16とすればノイズ電圧は1/4に減少させることができる。この方法はマルチサンプリングと呼ばれ、A/D変換器の量子化ノイズだけでなく、画素ノイズ、比較器ノイズ、参照信号ノイズなど多岐にわたるノイズを減少させることができるので、ノイズ低減に対して極めて有効な方法である。
【0048】
しかしながら、マルチサンプリング技術には大きな欠点があり、あまり使用されていない。それは、A/D変換回数をM倍することは、変換周波数を1/Mに低下させ、同時に消費電力をM倍に増加させることを意味するためである。
【0049】
本発明者は上述した事象を鋭意検討した結果、本願発明に至った。本発明は、変換周波数の低下や消費電力の増大を招かずにノイズを減少させ、ダイナミックレンジの広い時間領域A/D変換器およびそれを用いたセンサー装置を提供することができる。
【0050】
<第1の実施形態>
(2つの参照電圧信号を用いたA/D変換器)
図1に、本発明の第1の実施形態に係るA/D変換器60を示す。第1の実施形態に係るA/D変換器60は、比較器12、内部A/D変換器30、参照電圧として2種類のスロープ信号を有し、参照電圧を切り替える参照電圧選択回路63、および複数の変換値の累積加算もしくは累積減算を行う累積加減算器64を有し、平均化出力をA/D変換値として出力する。
【0051】
第1の実施形態に係るA/D変換器60は、比較器12が画素信号と参照電圧信号であるスロープ信号とを比較して、2つの信号がクロスしたタイミングで比較出力を発生させカウンターを制御してA/D変換値を得る。参照電圧である参照電圧Aとして、画素のフルスケール信号に対応したフルスロープ信号と、参照電圧Bとして、フルスロープ信号中の一部の電圧範囲を繰り返し複数回掃引するローカルスロープ信号との2種類のスロープ信号を用いる。A/D変換器60は、内部A/D変換器30に接続する参照電圧選択回路63を有する。参照電圧選択回路63は、参照電圧を参照電圧Aフルスロープ信号もしくは参照電圧Bローカルスロープ信号に切り替える。A/D変換器60は、さらに内部A/D変換器30に接続する累積加減算器64を有する。累積加減算器64は、内部A/D変換器30でA/D変換された複数のA/D変換値の累積加算もしくは累積減算を行い、平均化されたA/D変換出力19を形成する。
【0052】
図2に、参照電圧回路70を示す。参照電圧である2種類のスロープ信号は、参照電圧回路70によって形成される。参照電圧回路70は、参照電圧制御回路73と、参照電圧A発生回路71と、参照電圧B発生回路72とを有する。参照電圧A発生回路71と参照電圧B発生回路72は、それぞれ参照電圧制御回路73を介してクロック入力端子11に接続される。クロック入力端子11に入力されるクロック信号に同期して参照電圧制御回路73が参照電圧A発生回路71と参照電圧B発生回路72を制御して、参照電圧A、参照電圧Bを発生する。
【0053】
(参照電圧の第一の制御方法)
図3に参照電圧の第一の制御方法を示す。第一の制御方法においては、全ての比較に参照電圧としてしきい値電圧VTHを与えて比較器だけでA/D変換を行う。信号がしきい値電圧VTHよりも小さいときは参照電圧として参照電圧B(Reference voltage B)を選択し、ローカルスロープ信号を用いて多数回のA/D変換を行い、累積加減算器64を用いて平均値を出力する。信号がしきい値電圧VTHよりも大きいときは参照電圧として参照電圧A(Reference voltage A)を選択し、フルスロープ信号を用いてA/D変換を行う。このような制御方法により、本A/D変換装置は、必要な信号電圧領域において実効的なA/D変換ノイズ電圧を下げることができる。
【0054】
(参照電圧の第ニの制御方法)
図4に参照電圧の第二の制御方法を示す。第二の制御方法においては、リセット期間(Reset period)に画素から送られてきたリセット信号(もしくは基準信号)に対して参照電圧B(Reference voltage B)を選択し、ローカルスロープ信号を用いて多数回のA/D変換を行い、累積加減算器64を用いてリセット信号(もしくは基準信号)の平均値を出力する。次に、シグナル期間(Signal period)に画素から送られてきた本信号に対し、しきい値電圧VTHよりも小さいときは参照電圧として参照電圧B(Reference voltage B)を選択し、ローカルスロープ信号を用いて多数回のA/D変換を行い、累積加減算器64を用いて平均値を出力する。本信号がしきい値電圧VTHよりも大きいときは参照電圧として参照電圧A(Reference voltage A)を選択し、フルスロープ信号を用いてA/D変換を行う。最後に累積加減算器64によりリセット信号の平均値と本信号の差分をとることにより相関2重サンプリングを行い、DCオフセットをキャンセルし、1/fノイズを低減させる。なお、リセット信号の変動電圧が参照電圧Bの掃引電圧よりも大きいときは、本信号と同様に、しきい値に応じて参照電圧Aを選択してもよい。
【0055】
以上のように本発明においては、従来のマルチサンプリング技術とは異なり、信号が微小な黒レベル(Black level)にある信号にのみマルチサンプリング技術を適用するものであり、参照電圧範囲のうち限られた電圧範囲を多数回掃引してA/D変換を行い、平均化処理によりノイズを減少させる。このため、従来のマルチサンプリング技術の大きな欠点であるA/D変換周波数の減少や、消費電力の増大を招かないという優れた特徴がある。
【0056】
本実施形態においては、参照電圧として参照電圧Aおよび参照電圧Bの2種類のスロープ信号を用いる形態を示した。しかしながらこれに限定されず、参照電圧回路70は、2つ以上の参照電圧B発生回路72を有することができる。このような構成を有することで、参照電圧として、フルスロープ信号と、フルスロープ信号中の一部であってそれぞれ異なる電圧範囲を繰り返し複数回掃引する2種類以上のローカルスロープ信号とを用いることもできる。これによって信号が微小な黒レベル近傍にある信号に多段階にマルチサンプリング技術を適用することができ、より効率的にノイズを減少させ、消費電力を抑制することができる。
【0057】
図5を用いて、参照電圧範囲のうち限られた電圧範囲を多数回掃引してA/D変換を行い、平均化処理によりノイズを効果的に減少させ得ることについて詳細に説明する。図5は、光電子1個に対して30μVの変換利得Geを有する画素信号の信号電圧Vs(Signal voltage)と、ショットノイズVn_sh(Shot noise)を示している。フルスケール電圧は1Vとする。電子数nに対して信号電圧Vs、ショットノイズ電圧Vn_shはそれぞれ、以下の式で示すことができる。
【数1】

【数2】

A/D変換器の量子化ノイズ電圧などの読出しノイズは、このショットノイズ電圧Vn_sh以下であれば目立たなくなる。ただし、ランダムなノイズであるショットノイズに対し、A/D変換器の量子化ノイズはノイズ分布の偏りがあるので人間の目には感度が高くなる。そこでA/D変換器の読出しノイズの基準をショットノイズ電圧Vn_shの1/4に設定し破線Vn_sh/4で示している。今、A/D変換ノイズを100μVとすると、信号電圧Vsが4mV以下では、この基準が満たせなくなる。
【0058】
一方、マルチサンプリング技術においては、M回A/D変換を行い、平均化処理を行うことで、変換ノイズVn_ADCは以下のように減衰する。
【数3】

したがって、M=4では変換ノイズは半分の50μVに、M=16では1/4の25μVになる。このようにマルチサンプルあるいはオーバーサンプルすることで、A/D変換器の量子化ノイズだけでなく、スロープ信号のノイズ、画素のソースフォロアのノイズも低減することができる。
【0059】
本発明においては、全ての比較に参照電圧としてしきい値電圧VTHを与えることによって、低ノイズが必要な小さな信号電圧においてのみマルチサンプルリング技術を適用することにより、変換周波数の低下や消費電圧の増加を招かずに効果的に読み出しノイズの低減を図ることができる。例えばしきい値電圧VTHを20mVに設定すれば、画素信号の電圧が20mV以上において読出しノイズは画素信号に必然的に含まれるショットノイズの1/4になり、20mV以下で4回変換すれば50μVと半減し、画素信号電圧が1mV以上ではショットノイズの1/4以下になり、また16回変換すれば、25μVと1/4に減少し、電子1個の電圧よりも低い読出しノイズを実現できる。
【0060】
フルスケール電圧VFSまでの変換時間を判断時間を無視してTFS、ローカルスロープ信号振幅をVLSとして、一周期の時間を設定時間を無視してTLSとすると、次の関係がある。
【数4】

今、VFS=1V、VLS=20mVとすると、TFS/TTH=50となる。したがって、ローカルスロープ信号は時間的なマージンを取っても32回程度までは変換できることを示しており、実用上全く問題がない。
【0061】
以上のように、本発明では参照電圧範囲のうち限られた電圧範囲を多数回掃引してA/D変換を行い、平均化処理によりノイズを効果的に減少させることができるが、変換時間の増加を招くことがない。また時間領域A/D変換器の場合、消費電力はクロック周波数が同一のとき変換時間に比例するので、多数回掃引してA/D変換を行っても、変換時間の増加を招くことがない。このため、消費電力の増加もないという優れた特性を実現することができる。
【0062】
変換回数の設定においては、変換回数が多いほど読出しノイズが少なくなり、高画質が得られるが、消費電力の増大を招くというトレードオフがある。また黒レベル(Black level)が少なく、白レベル(White level)が多い画面では、読出しノイズは気にならないが、黒レベルが多い画面では読出しノイズが気になるという性質があり、画面の状態と消費電力の状態から最適値を設定できるようにすべきである。
【0063】
(参照電圧の第三の制御方法)
参照電圧の第三の制御方法を図6に示す。この方法においては、全ての比較器が参照電圧Bのローカルスロープ信号を選択し、黒レベルの、信号が微弱なレベルから参照電圧をスイープする。A/D変換値が基準値に達せずに変換を終了したときは、引き続き参照電圧Bのローカルスロープ信号を選択して多数回のA/D変換を行い、累積加減算器64を用いて平均値を出力する。変換途中の値が基準値を超えた時は参照電圧Aのフルスロープ信号を選択し、A/D変換を行う。このように参照電圧を制御することで、参照電圧の第三の制御方法において必要な参照電圧によるしきい値設定を必要としないため、変換時間を短縮することが可能である。
【0064】
(参照電圧の第四の制御方法)
参照電圧の第四の制御方法を図7に示す。この方法においては、通常変換期間TADC(Normal Conversion Period)の前にプレ変換期間TPRE(Pre−conversion period)を設け、プレ変換期間を通常変換期間に対して十分短くしてA/D変換を行う。変換期間が短くなるとA/D変換の分解能が低下するが、おおよその信号レベルを検出できれば良いのであまり問題にならない。プレ変換において変換値が基準値を下回れば参照電圧Bのローカルスロープ信号を選択して再度多数回のA/D変換を行い、累積加減算器64を用いて平均値を出力する。基準値を上回れば、参照電圧Aのフルスロープ信号を選択してA/D変換を行う。
【0065】
(ローカルスロープ信号のスルーレートの可変化)
以上の説明においては、参照電圧Aのフルスロープ信号と参照電圧Bのローカルスロープ信号のスルーレートは同一であると想定していたが、参照電圧Aのフルスロープ信号と参照電圧Bのローカルスロープ信号のスルーレートは異なっていてもよい。例えば図8に示したように参照電圧Bのローカルスロープ信号のスルーレートを低くすることが考えられる。時間領域A/D変換器において同一のクロック周波数を用いて参照電圧のスルーレートを低くすることは量子化電圧を低減し、量子化ノイズを下げる効果がある。したがってスルーレートを低くすることで量子化ノイズを下げる効果がある場合は参照電圧Bのローカルスロープ信号のスルーレートを低くした方が良い。ただし、量子化ノイズよりも他のノイズが支配的な場合はスルーレートを余り下げないで、マルチサンプル数を上げた方が全体のノイズレベルが下がる。したがって最適なスルーレートが存在する。
【0066】
(A/D変換回数の制御)
また、図5に示したようにA/D変換器のノイズは、信号が小さいときにはノイズは低い必要があるが、信号が大きいときはノイズがそれほど低い必要はない。そこで図9に示すように、A/D変換器80に変換回数制御回路81を設け、信号が小さいときには多数回変換し、信号が大きいときには変換回数を低減する構成にしてもよい。変換回数制御回路81は、内部A/D変換器30、累積加減算器64、参照電圧選択回路63に接続する。変換回数制御回路81は、内部A/D変換器30の変換値により変換回数を決定し、比較器や内部A/D変換器30のクロック、累積加減算器64を制御する。例えば、図5において信号レベルが4mVから1mVでは4回変換し、1mVから400μVでは16回変換し、400μV以下では32回変換することで、A/D変換ノイズをショットノイズ電圧の1/4程度にすることができる。
【0067】
(リセットレベルのA/D変換回数の制御)
リセットレベル(もしくは基準信号)のA/D変換においては、変換する対象信号が回路のノイズやオフセット電圧であるので、変換信号レベルにより変換回数を決めることができない。重要なのはリセットレベルと信号レベルの差分であるので、信号レベルが小さければ低いノイズが、信号レベルが高ければ大きいノイズが許容される。そこで、リセットレベルのA/D変換の直近の信号レベルが小さい場合は、変換回数を多くすることでA/D変換ノイズを下げ、信号レベルが大きい場合は、変換回数を少なくすることである程度の大きさのA/D変換ノイズを許容するように変換回数を制御する手段を備える。この手段により、変換回数が多くなることによる消費電力の増大を抑えつつ、A/D変換ノイズを下げることができるようになる。
【0068】
(比較器の動作電流の制御)
時間領域A/D変換器に用いられている比較器の動作電流は数μAから数10μAであり、一般的には少ない電流で動作しているが、コラム型A/D変換器内のA/D変換器の個数は数千個に及ぶため、センサー装置全体では無視できない電流を消費する。このため、できるだけ低消費電力化を図ることが求められる。そこで図10に示すように、比較器制御回路91を設け、比較器の動作電流源92を制御してもよい。比較器制御回路91は、内部A/D変換器30と参照電圧選択回路63に接続される。制御方法はまず、図7に示したプレ変換期間において、短時間でおおよその信号レベルを求め、この信号レベルを記憶しておく。次に図11に示した通常変換においてスロープ信号(Slope signal)が降下を開始する時間から内部A/D変換器を構成するカウンターが時間をカウントするので、スロープ信号が記憶された信号レベル(Signal level)に接近する直前に比較器の動作電流(Operating current of comparator)を低バイアスから所定の動作電流まで増加させる。スロープ信号が信号レベルに達すると比較器出力(Comparator output)がフラグを立てるので、内部A/D変換器を構成するカウンターはカウントを停止し、このカウント値がA/D変換値となる。これで比較器の動作は不要になったので、比較器の動作電流を低バイアス状態に戻す。このように比較器の動作電流を制御することにより、時間領域A/D変換器の消費電力を低減することができる。
【0069】
(比較器の動作モードの制御)
比較器は入力信号と参照電圧を比較しその大小関係を比較出力とする重要な回路であるが、ノイズを発生させるほか、入力信号レベルによりオフセット電圧を発生する。図12に本発明における比較器100を示す。増幅器101と、入力スイッチSia、 Sibの間には容量Ca、Cbが挿入され、増幅器101の差動入出力間にはスイッチSfが挿入されている。
【0070】
図13Aおよび図13Bに動作モードが異なる比較の様子を示す。Va、Vbは比較器100の2つの入力端子の電圧を示している。VcomはスイッチSfを閉じた時に入力端に発生するコモン電圧である。通常の動作を図13Aに示す。最初の期間Ts1において画素のリセット信号に対して、初めにスイッチSiaは画素信号入力端子17を選択し、スイッチSibは参照信号Bを選択し、スイッチSfを閉じる。このとき増幅器の入力電圧Va、VbはともにVcomとなる。次にスイッチSfを開き参照電圧Bを一旦少し上昇させてから、スロープを付けて降下させる。電圧Vaと電圧Vbが交叉する点で比較出力103が出力されてリセット信号変換が完了する。次に画素信号が送られる。電圧Vaは画素信号レベルに応じて低下する。参照電圧Bは一旦上昇させてからスロープを付けて降下させる。電圧Vaと電圧Vbが交叉する点で比較出力103が出力されて画素信号変換が完了する。このような変換は現行行われている変換であるが、画素信号Vaと参照電圧Vbの交叉する電圧が、スイッチSfを閉じた時に発生するコモン電圧Vcomと一致せず、かなりかけ離れた電圧であるので、オフセット電圧が発生し、直線性が劣化するという問題がある。
【0071】
そこで、本発明においては図13Bに示すように信号比較を行う。リセット信号に対する変換は同様である。リセット信号に対する変換が終了したらスイッチSibを基準電圧に切り替える。次に画素信号が発生し、十分なセットリング状態に達したらスイッチSfを閉じる、このとき電圧Vaと電圧Vbはコモン電圧Vcomになる。次にスイッチSfを開き、スイッチSiaは参照電圧Aを選択する。参照電圧Aは高い電圧からスロープを付けて降下させる。電圧Vbは一定であり、電圧Vaと交叉するタイミングが画素信号の変換値を与える。画素信号Vaと参照電圧Vbの交叉する電圧はコモン電圧Vcomであるので、オフセットは生じないため、直線性の良好な変換が可能である。ただし、このような動作を行うとスイッチを2回切り替えるので、容量Ca、Cbに発生するノイズ電力は2倍になりノイズが増加するという問題がある。そこで、ノイズの影響が大きい入力信号レベルが小さいときは図13Aに示したような通常の比較を行い、ノイズの影響が小さく、オフセット電圧の影響が大きくなる、入力信号レベルが大きい場合は図13Bに示したような2回信号を標本化する方式を用いるようにすれば良い。
【0072】
<第2の実施形態に至る経緯>
時間領域A/D変換器では、変換速度を上げるだけでなく、量子化ノイズを下げてダイナミックレンジを上げるためにクロック周波数を上げる必要がある。しかしながらこのことは消費電力の増加を招くことになるため、変換速度およびダイナミックレンジと消費電力の間には深刻なトレードオフがあり、センサー装置の性能向上と低消費電力化を妨げている。
【0073】
この問題に対し、特許文献1ではカウンターだけでなく、時間量子化器(Time to Digital Converter:TDC)を用いて、クロック周波数を下げることや、消費電力を低減する、あるいは実効的な分解能を上げることが記載されている。
【0074】
図26は特許文献1に記載された時間量子化器200の構成を示している。遅延同期ループ(Delayed Lock Loop:DLL)回路210を有し、遅延回路211、位相比較器(PD)212、チャージポンプ(CP)と低域フィルタ(LPF)213を用いて、遅延回路211で遅延したクロック信号が入力クロック220に対して1クロック遅れるように制御される。複数の画素信号230は比較器240にてランプ信号250と比較され、画素信号の電圧に応じたタイミングで比較器が比較出力を発生させ、この信号が時間量子化器(Time to Digital Converter:TDC)260に入力される。各TDC260は図27に示す構成になっている。比較器240からの比較出力信号は、遅延制御信号214でその遅延時間が制御された、単位遅延回路が直列接続された遅延回路261に入力される。TDC260には入力クロック220を共通入力とする複数のDラッチもしくはDフリップフロップ262が設けられ、遅延回路261で所定のタイミングだけ遅延した比較器240からの比較出力でクロックをフェッチする。各DラッチもしくはDフリップフロップ262の出力をデコーダ263でデコードすることで、比較器240からの比較信号の遅延情報が得られる。ここで遅延制御信号214は各TDC260に対し、共通に設けられたDLL回路210で発生され、各TDC260に供給される。
【0075】
このような構成により、クロック周波数よりも分解能が高い下位ビットを実現できる。また、従来のカウンターのみを用いてA/D変換を行う方式に比べ、クロック周波数をTDC260のビット数をMビットとすると2M分の1にすることができる。このためクロック分配の消費電力を低減できることや、比較器240からのフラグ信号は1回しか出力されないためイベント駆動型であり、定常的な電流の消費が無く、追加したTDC260の消費電力の増加は極めて僅かであると記載されている。またDLL回路210はカラムの端部に配置され、制御電圧はカラム全体に供給される構成であるとしている。
【0076】
しかしながら、この特許文献1に記載された方法には、実用上いくつかの課題がある。まず、TDC260の内部に遅延回路261を配したことで、各TDC260は遅延制御信号214が必要になったことである。遅延制御信号214はアナログ信号であるため、ノイズに敏感であり、遅延制御信号214にノイズが載ると、遅延時間がばらつき変換精度が劣化するという問題がある。
【0077】
また、遅延制御信号214を発生させるDLL回路210はカラムの端部に配置され、遅延制御信号214はカラム全体に供給される構成であるが、このTDC260が使用されるCMOSイメージセンサーは水平画素数が数千に及ぶため、TDC260も数千個となり、DLL回路210から最も離れているTDC260までの距離は数mmから数10mmにもなる。このため、DLL回路210内のトランジスタと距離の離れたトランジスタではしきい値電圧の大局的ばらつきがあることが予想され、遅延時間の偏差が距離が離れるほど大きくなることが懸念される。
【0078】
また、長い距離を引き回しているので接地線の電位や電源線の電位が距離の依存性を持ち、TDC260の位置により遅延時間が大きく変化することが懸念される。また、遅延回路261をTDC260の内部に配していることから、DラッチもしくはDフリップフロップのみを用いたものに比べ面積が増大することや、遅延回路261を構成するトランジスタのランダムなしきい値バラツキにより各TDC260のタイミングがずれることが懸念される。このしきい値バラツキはトランジスタのゲート面積に対しその平方根分の1に比例するため、タイミングがずれを抑制するためにはゲート面積を増大させる必要があり、コラムA/D変換器として要求される画素ピッチに合せた微細なピッチの実現が困難になることが懸念される。
【0079】
更に、特許文献1では、回路はイベント駆動型であり、定常的な電流の消費がないため、追加したTDCの諸費電力の増加は極めて僅かであると記載されているが、複数のDラッチもしくはDフリップフロップはクロックで駆動されており、それなりの電力を消費するものと考えられる。また分解能Mに対し、2Mに比例して消費電力が増加するため高分解能のTDCの実現は困難である。
【0080】
この問題に対し、特許文献2に記載の方法はTDC内部に遅延回路を持たず、TDC内にDラッチもしくはDフリップフロップのみを持ち、比較器からの比較器出力信号を、クロックを生成する位相同期ループ(Phase Locked Loop:PLL)回路の複数段のリング発振器が発生する、位相が均等に分割された多相のクロックでフェッチすることでTDCを実現している。この方法を用いることで、前述したようなTDC内部に遅延回路を持つことによる様々な問題は解消される。
【0081】
しかしながらこの方法はマルチフェーズクロックを各TDCに供給する必要がある。このため、クロックを長い距離にわたり均等に供給する必要があり、グローバル配線やクロックバッファなどの容量が大きくなる他、そもそもクロックの本数が多くなる。したがって、カウンターのみを用いる方法に比べ、TDCを用いることで、同一のクロック周波数では分解能を上げることはできるが、消費電力が増大するという問題がある。またTDCを用いることで分解能を同一にしてクロック周波数そのものは下げることができるが、クロック数は増大しているので、相殺しあい、消費電力の低減には殆ど効果が無い。
【0082】
本発明者は、上述した事象を鋭意検討した結果、本願発明に至った。本発明は消費電力を上げずに分解能を向上させることが可能な時間領域A/D変換器、あるいは同一分解能において消費電力を低減した時間領域A/D変換器およびそれを用いたセンサー装置を提供することができる。
【0083】
<第2の実施形態>
(DLL回路により形成した多相クロックを用いた複数のA/D変換器を含む時間領域A/D変換ブロック)
図14に本発明の一実施形態にかかる複数のA/D変換器を含む時間領域A/D変換ブロックを示す。A/D変換ブロック10は、DLL(遅延ロックループ)回路20、複数の比較器12−1、12−2、・・・12−n(nは自然数。以降、各比較器を区別しないときには比較器12とする)、および複数の内部A/D変換器30−1、30−2、・・・30−n(nは自然数。以降、各内部A/D変換器を区別しないときには内部A/D変換器30とする)を含む複数のA/D変換器14−1、14−2、・・・14−n(nは自然数。以降、各A/D変換器を区別しないときにはA/D変換器14とする)から構成される。
【0084】
DLL回路20は、複数の遅延回路21−1、21−2、21−3、21−4(以降、各遅延回路を区別しないときには遅延回路21とする)、位相比較器(PD)22、チャージポンプ(CP)と低域フィルタ(LPF)23から構成される。クロック入力端子11から直列に配置される4段の遅延回路21−1、21−2、21−3、21−4は、クロック信号が直列入力され、タイミングの異なった多相クロック信号15を並列出力する。遅延回路21−1には、クロック入力端子11からクロック信号が入力される。遅延回路21−2には、遅延回路21−1の出力が入力される。遅延回路21−3には、遅延回路21−2の出力が入力される。遅延回路21−4には、遅延回路21−3の出力が入力される。すなわち、前の段の出力変化が次の段の入力となるように位相がシフトする。このとき、入力信号が各遅延回路21に伝達される過程で、信号伝達による遅延が問題となる。このため、位相比較器22が遅延回路21に直列に配置され、さらに位相比較器22にはチャージポンプと低域フィルタ23が接続される。位相比較器22、チャージポンプと低域フィルタ23は、クロック入力端子11から入力されるクロック信号と各遅延回路21の出力クロックの位相を一致させるように、各遅延回路21を制御する。このようにして、4段の遅延回路21−1、21−2、21−3、21−4は、遅延時間がほぼ等しく、クロック信号に対してその位相が均等に分割された多相クロック信号15を形成することができる。各遅延回路21から出力される多相クロック信号15は、バッファ16−1、16−2、16−3、16−4(以降、各バッファを区別しないときにはバッファ16とする)を介して複数のA/D変換器14に入力される。
【0085】
A/D変換器14において、複数の内部A/D変換器30の前に、それぞれに対応する複数の比較器12が配置される。複数の比較器12には、それぞれに対応する複数の画素信号入力端子17−1、17−2、・・・17−n(nは自然数。以降、各比較器を区別しないときには画素信号入力端子17とする)を介して画素信号がそれぞれ入力され、参照電圧18と比較される。参照電圧18は通常、単調に減少もしくは増加するランプ波が用いられる。したがって、各画素信号の電圧レベルに応じたタイミングで、各比較器12から比較器出力が発生し、各内部A/D変換器30でA/D変換され、各A/D変換出力19−1、19−2、・・・19−n(nは自然数。以降、各A/D変換出力を区別しないときにはA/D変換出力19とする)を得ることができる。
【0086】
図15に内部A/D変換器30の構成を示す。内部A/D変換器30は、TDC部とカウンター部を含む。TDC部は、ラッチもしくはフリップフロップ31−1、31−2、31−3、31−4(以降、各ラッチもしくはフリップフロップを区別しないときにはラッチもしくはフリップフロップ31とする)を含む。各ラッチもしくはフリップフロップ31の入力端子(D)には、各バッファ16を介してそれぞれの遅延回路21から多相クロック信号15が入力される。各ラッチもしくはフリップフロップ31のクロック端子(CLK)には、内部A/D変換器30に対応する比較器12から比較器出力32が並列入力される。ラッチもしくはフリップフロップ31は、比較器出力32により与えられたタイミングで、多相クロック信号15の論理状態をラッチする。各ラッチもしくはフリップフロップ31は、デコーダ33に接続される。ラッチされた多相クロック信号15の論理状態は、デコーダ33でデコードしてバイナリ出力がA/D変換出力19の下位ビットとして出力される。また、カウンター部はリップルカウンター34を含む。リップルカウンター34には多相クロック信号15および比較器出力32が並列入力される。リップルカウンター34は、カウンターを動作させ、比較器出力32で停止することで、クロック数をカウントして、A/D変換出力19の上位ビットとして出力される。
【0087】
(本実施形態の作用効果)
本発明の第2の実施形態に係る個々のA/D変換器14には遅延回路21およびそれを制御する遅延制御信号が存在せず、占有面積の縮小およびA/D変換精度劣化の抑制が可能である。またクロックの立ち上がりエッジにおいてラッチで消費される消費電力は同等である。
【0088】
(時間領域コラムA/D変換器の分割と時間領域A/D変換ブロックごとのDLL)
図16に本発明の第2の実施形態におけるコラムA/D変換器を示す。コラムA/D変換器40は数千チャネルの画素信号を一斉にA/D変換する必要がある。このような位置的に分散している多くのA/D変換器14に、タイミングの揃った、波形劣化の少ない高速のクロックを供給することは容易ではない。通常はこのためにクロックをバッファを介してツリー状に駆動するが、配線およびバッファの容量により消費電力が増大するという問題がある。
【0089】
本発明の第2の実施形態においては、多数のA/D変換器14を複数のA/D変換ブロック10(図14)に分割する。クロック信号(CLK)はバッファ41を介して、各A/D変換ブロック10のクロック入力端子11に並列入力される。分割されたA/D変換ブロック10毎に、DLL回路20を用いてクロック入力端子11に入力されるクロック信号(CLK)から多相クロック信号15を形成し、これを各A/D変換ブロック10内の複数のA/D変換器14に供給する構成となっている。別言すると、複数のA/D変換器14はA/D変換ブロック10毎にまとめられる。まとめられたA/D変換ブロック10毎に、DLL回路20を用いてクロック入力端子11に入力されるクロック信号(CLK)から多相クロック信号15を形成し、これを各A/D変換ブロック10内の複数のA/D変換器14に供給する構成となっている。このため、第2の実施形態に係るコラムA/D変換器40は、各A/D変換ブロック10内においてそれぞれのDLL回路20が低速のクロックから高速のクロックに変換していることになり、電力消費の大きい配線およびバッファを駆動するクロック周波数を下げることができるので、消費電力を低減することが可能になる。
【0090】
(本実施形態の作用効果)
また、各A/D変換ブロック10内のクロック配線は配線の高密度化のために単位長さあたりの配線容量が少ないローカル配線を用いることができる。このため、A/D変換ブロック10内のクロックバッファも小さなもので十分であり、配線も短くなるので、配線容量が少なくなり、消費電力が低減できる。すなわち、従来のCMOSイメージセンサーのように、1か所において、クロックの周期に対して遅延時間が均等に分割された遅延クロック信号を形成し、各A/D変換回路に供給するよりも、図14から図16に示す第2の実施形態に係るコラムA/D変換器40のように、多相クロック信号15を複数のDLL回路20を用いて分散して形成し、その近傍のA/D変換器14に供給することで、はるかに少ない消費電力にすることができる。また、この構成は、各A/D変換ブロック10に供給されるクロック信号からその周期に対して遅延時間が均等に分割された多相クロック信号15を形成することができるので、カウンターに供給されるクロックと多相クロック信号間の位相の整合性が取れ、タイミング誤差が少ないため、微分非直線性が良好なA/D変換特性を得ることができる。
【0091】
<第3の実施形態>
(多相クロック信号からグレイコードへの変換)
図17に、本発明の第3の実施形態に係るA/D変換ブロックを示す。第3の実施形態に係るA/D変換ブロック90は、DLL回路20と内部A/D変換器30の間にグレイコード変換器50をさらに含むこと以外は第2の実施形態に係るA/D変換ブロック10と同じである。第2の実施形態と同じである説明は省略し、ここでは第2の実施形態に係るA/D変換ブロック10と相違する部分について説明する。
【0092】
DLL回路20から入力される多相クロック信号15は、グレイコード変換器50にて、サーモメータコードからグレイコードに変換されてから、各内部A/D変換器30のTDC部を構成するラッチもしくはフリップフロップ31に入力される。このように構成することで、TDCを構成するラッチ数を大幅に減少させることができる他、消費電力を半減することができる。
【0093】
(多相クロック信号、バイナリーコード、グレイコードの比較)
図18Aに多相クロック信号、図18Bにバイナリーコード、図18Cにグレイコードを用いた場合の分解能3ビットのTDCのクロックの様子を示す。図18Aに示すように、通常の多相クロックを用いた場合のラッチの数ntと消費電力ptは、分解能をMビットとするときに以下の式で示すことができる。
【数5】

ラッチ数ntは分解能Mに対し指数関数的に増大する。
【0094】
図18Bに示すように、多相クロックからバイナリーコード状のクロックを発生させた場合のラッチ数nbと消費電力pbは、分解能をMビットとするときに以下の式で示すことができる。
【数6】

ラッチ数nbは分解能Mの数である。
【0095】
したがって、通常の多相クロックを用いた場合に比べバイナリーコード状のクロックを発生させた場合、ラッチ数を大幅に削減することができる。ラッチ数を削減することは、小さな占有面積を要求されるコラムA/D変換器においては大きな利点になる。しかしながら、バイナリーコードではハミング距離が大きいためクロックの遷移タイミングにおいて大きな誤差を発生することが知られており、ハミング距離が常に1のグレイコードが誤差が極めて少なく安定である。
【0096】
図18Cに示すように、多相クロックからグレイコード状のクロックを発生させた場合のラッチ数ngと消費電力pgは、分解能をMビットとするときに以下の式で示すことができる。
【数7】

ラッチ数ngはバイナリーコードと同等で、分解能の数であり、ラッチ数を大幅に削減することができる。
【0097】
図18Aにおいて消費電力は、1周期のクロックの0から1への遷移数に比例するが、図18Bのバイナリーコードで7であるのに対し、図18Cのグレイコードでは4であり、半減している。
【0098】
図19Aに分解能Mが2から5のときの多相クロック(Multi−phase clock)、バイナリーコード(Binary code)、グレイコード(Gray code)を用いた場合のラッチ数(Number of latches)と分解能(Resolution)の関係、図19Bに消費電力(Power consumption)と分解能(Resolution)の関係を示す。図19Aに示すように、ラッチ数は多相クロックのみでは分解能が上がるにつれて急激に上昇するが、バイナリーコードまたは、グレイコードを用いたときは殆ど上昇しないことが分かる。図19Bに示すように、消費電力は多相クロックとバイナリーコードでは殆ど差が無く、グレイコードを用いたときはこれらの約半分になっていることから、グレイコードを用いることでラッチ数の大幅な減少と消費電力の半減を図ることができるほか、グリッチなどのエラーが極めて少なく安定な変換を実現することができる。
【0099】
以上に述べたようにグレイコードを用いることで従来に比べ消費電力を低減することができるが、センサー信号の性質を用いることで更に低消費電力化を図ることができる。時間領域A/D変換器群をセンサー信号のA/D変換に用いるときは、参照電圧はセンサー信号が弱い方(イメージセンサーの場合は黒レベル)から強い方(イメージセンサーの場合は白レベル)に掃引する。第1の実施形態において図5を用いて詳述したように、センサー信号が弱い場合はA/D変換器は高分解能が必要であるが、センサー信号が強い場合はA/D変換器は高い分解能は不要である。例えば、センサー信号のレベルがフルスケールの0.05までは12ビット以上の分解能が必要であるが、それ以上では10ビット程度の分解能で十分である。時間領域A/D変換器群ではクロック数は分解能に指数的に比例する。したがって、分解能を12ビットから10ビットにした場合、10ビットのA/D変換器のクロック数は12ビットのA/D変換器のクロック数の1/4で済むので、消費電力も約1/4にすることができる。
【0100】
そこで図20に示すように、グレイコード変換器50と内部A/D変換器30の間にゲーティング回路51を更に設けてもよい。グレイコード変換器50の出力はゲーティング回路51に入力される。グレイコード変換器50の出力をゲーティング制御信号52で制御することで、消費電力を更に低減することができる。例えば、12ビットのA/D変換器においてセンサー信号のレベルがフルスケールの0.05まではゲーティングを行わず、0.05以上ではLSB(Least Significant Bit)であるG4と2ビット目であるG3の2ビットをゲーティングしてもよい。信号レベルが大きくなるにしたがって、順次対象ビットをMSB(Most Significant Bit)側に上げていってもよい。このようにグレイコード変換器50の出力を制御することで、実効的に10ビットの分解能でA/D変換を行った時はそのまま12ビットで変換する場合に比べ約1/3に消費電力を低減することができる。
【0101】
ゲーティング制御信号52は、A/D変換を開始してからのクロック数をカウンターで計測して、所定の回数に達したら発生させてもよい。この場合、カウンターはチップ全体において1個で良いので、カウンターによる消費電力の増加は殆ど無視できるレベルである。ゲーティング制御信号52は、この他、参照電圧を発生するD/A変換器の入力信号が所定の値に達したら発生させてもよい。
【0102】
なお、以上の説明においてはCMOSイメージセンサーなどの固体撮像装置を例に取って説明したが、本発明は固体撮像装置に有効なだけでなく、他の用途の2次元センサー装置、もしくは1次元センサー装置、あるいは単独のセンサー装置に対しても適用可能であり、有効である。センサーはイメージセンサーに限らず、温度センサー、位置センサー、トルクセンサー、速度センサー、加速度センサー、圧力センサーなどにも有効である。
【0103】
さらに、センサーとA/D変換回路が集積回路上にモノリシックに集積されているだけでなく、それぞれ独立に製作し、実装技術等で接合しても良い。
【0104】
本実施形態のA/D変換器は、センサーと結合されるだけではなく、受信したアナログ信号をデジタル信号に変換する各種のデバイスにも適用可能であることはいうまでもない。
【0105】
なお、本発明の実施形態として上述した実施形態は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。また、実施形態のA/D変換器を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、センサー装置の高感度化、高精度化、低電力化,高速化に利用可能であり、イメージセンサーに限らず、温度センサー、位置センサー、トルクセンサー、速度センサー、加速度センサー、圧力センサーに有効である。
【符号の説明】
【0107】
10:A/D変換ブロック
11:クロック入力端子
12:比較器
14:A/D変換器
17:画素信号入力端子
18:参照電圧
19:A/D変換出力
20:DLL(遅延ロックループ)回路
21:遅延回路
22:位相比較器(PD)
23:チャージポンプと低域フィルタ(CP LPF)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14
図15
図16
図17
図18A
図18B
図18C
図19A
図19B
図20
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