【実施例1】
【0046】
本発明の踏切しゃ断機の実施例1について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。
図1は、踏切しゃ断機のCPU31にインストールされた新たな昇降制御プログラムによる昇降制御のフローチャートである。
【0047】
この踏切しゃ断機は、既述した踏切しゃ断機10とハードウェアが同じであり(
図3(b)参照)、既述のものと相違するのはCPU31にインストールされた昇降制御プログラムが改造されている点である(
図4→
図1)。
新たな昇降制御プログラム(
図1参照)が、既述の昇降制御プログラム(
図4参照)と相違するのは、モータの駆動電流に係る単純制限の処理(
図1ステップS16)に、受電圧低下時の増加抑制処理(
図1ステップS25,S26)と、受電圧低下終了後の緩慢回復処理(
図1ステップS22,S23,S24,S26)とが加わった点である。
【0048】
その具体化に際しては、値の固定された絶対電力制限値Plp(絶対制限値)と(ステップS22,S23)、初期値は絶対電力制限値Plpに等しくされるが昇降制御開始後は電圧低下検出LVに応じて絶対電力制限値Plp以下の値で増減変更されることのある現電力制限値Plc(現制限値)とが新たに導入されるとともに(ステップS22〜S25)、以前は値の固定されていた制限電流値Pmが現電力制限値Plcを用いて適宜変更されるようになっている(ステップS26)。しかも、そのようなモータの駆動電流に係る新たな制限処理(増加抑制処理と緩慢回復処理)を行うときに、モータの電力に係る演算を行ってから(ステップS21〜S25)、例えばモータの負荷を純抵抗と見做すといった換算などにて制限電流値Pmを算出するようにもなっている(ステップS26)。
【0049】
以下、それらの改造部分について詳述する。新たな昇降制御プログラムは、駆動各周期において、現角度Bbが目標角度に達していない未達の場合(ステップS11のN)、電圧低下検出LVのチェック(ステップS12)に先だって、電流センサ35で検出した現電流Baからモータ駆動に使用されている現電力Pを算出するようになっている(ステップS21)。この算出は後で必要になったときに行っても良いが、この実施例では後の使用(ステップS25)に備えて予め算出しておくようになっている。
また、制限電流値Pmの可変化に対応して、正常時処理に加わった新たな処理では(ステップS26)、従来の正常時処理(ステップS15〜S17)に先だって現電力制限値Plcから制限電流値Pmを算出し直すようになっている。
【0050】
さらに、電圧低下検出LVが受電圧RVの低下状態を一時でも示したときには(ステップS13のN)、上述の正常時処理(ステップS26…)に先だち、現電力Pから減少値βを減じた値を現電力制限値Plcに採用するようになっている(ステップS25)。これは、モータの駆動電流に係る増加抑制処理を具体化したものであり、減少値βは、続く正常時処理(ステップS26…)によって早々に即ち電圧低下継続時間より先にモータの駆動電流が減少して受電圧RVが電圧低下検出LV以上に回復するような値に予め決められている。そのため、減少値βが正の数であればモータの駆動電流の明瞭な削減が期待でき、減少値βがゼロであってもモータの駆動電流の現状維持は期待できる。
【0051】
また、受電圧RVが基準電圧NV以上の正常状態になっていることを電圧低下検出LVが示したときには(ステップS12の正常)、上述のように当初は絶対電力制限値Plpであった現電力制限値Plcが絶対電力制限値Plpより小さいか否かを調べる緩慢回復処理実行可否確認を行って(ステップS22)、現電力制限値Plcが絶対電力制限値Plp以上の場合は(ステップS22のN)、緩慢回復処理を実行する必要が無いので現電力制限値Plcに絶対電力制限値Plpを値の転記・代入にて採用して現電力制限値Plcを絶対制限値に固定するようになっている(ステップS23)。
【0052】
これに対し、緩慢回復処理実行可否確認によって現電力制限値Plcが絶対電力制限値Plpより小さいことが判った場合は(ステップS22のY)、現電力制限値Plcに増加値αを加えることで緩慢回復処理を実行するようになっている(ステップS24)。
このようなモータの駆動電流に係る緩慢回復処理は、増加抑制処理で下がった現電力制限値Plcを絶対電力制限値Plpに向けて回復させるが、それを緩やかにするために、増加値αは減少値βより小さく例えば半分以下の値に設定されている。
【0053】
この実施例1の踏切しゃ断機について、その新たな動作を、図面を引用して説明する。
図2は、昇降動作時のタイムチャートである。
この動作説明では、明確化のため、従来の踏切しゃ断機10の動作説明との重複を厭うことなく、時間の経過に沿って、説明する。
【0054】
踏切しゃ断機は、四台が既述の例と同じく(
図3(a)参照)、踏切道3の四隅の外側に分配設置され、何れも、共用の信号器具箱5に対して個別の給電線6と信号線7で接続されているものとする。そうすると、踏切道3の近くの線路2に列車が存在しないで踏切が解放されているときには(
図2の時刻t1より左方を参照)、昇降指示TERが上昇を指示し続けるので、四台の踏切しゃ断機すべてにおいて、昇降指示CR1が遮断桿4の上昇を指示するハイ状態・リレー扛上状態になっており(
図2(a),(e)参照)、遮断桿4が上昇停止位置に来ている(
図1のステップS11のY)。
【0055】
そのため、モータの駆動電流を変える昇降制御(
図1のステップS12〜S17,S21〜S26)が行われないので、異常処理(
図1のステップS14)も行われず、現電流Baが遮断桿4を上昇停止位置に保持するのに必要な小電流値を維持する(
図2(b),(f)参照)。このときの動作や状態は既述した従来のと同様であり、何れの踏切しゃ断機においても、給電線6での電圧降下が小さいため、給電線6を介して踏切しゃ断機が受けた受電圧RVが、信号器具箱5の出力端子の電圧に近い24Vになっている(
図2(c),(g)参照)。そして、受電圧RVが基準電圧NVを上回るので、電圧低下検出LVがロー状態・正常状態を維持する(
図2(d)参照)。
【0056】
その状態から、列車の接近に応じて昇降指示TERが下降指示に転じると(
図2の時刻t1参照)、先ず、四台の踏切しゃ断機のうち踏切道3の進入側に配設された二台において、昇降指示CR1が遮断桿4の下降を指示するロー状態・リレー落下状態になり(
図2(a)参照)、それに応じて進入側の遮断桿4を下降させる通常の制御が行われるが、この新たな通常の下降制御では、既述した従来の通常制御(
図1のステップS11のN,S12の正常,S15,S16,S17)に加えて、緩慢回復処理の実行可否確認も行われる(
図1のステップS22)。
【0057】
すなわち、この下降制御では(
図2の時刻t1〜t2参照)、自重降下の作用によって現電流Baが更に小さくなることから(
図2(b)参照)、給電線6での電圧降下がより少ないので、受電圧RVが24V近くにとどまり(
図2(c)参照)、やはり受電圧RVが基準電圧NVを上回り続けるので、電圧低下検出LVがロー状態・正常状態を維持するため(
図2(d)参照)、電圧低下検出LVの一時低下も継続低下も検出されず、異常処理(
図1のステップS14)は行われない。また、この時点では、現電力制限値Plcが未だ下げられておらず絶対電力制限値Plpのままなので緩慢回復処理は実行されず(ステップS22のN,S23)、その現電力制限値Plcから算出される制限電流値Pmも従来値と同様に大きな値になるので(ステップS26)、駆動電流値Saもそれによるモータ駆動も遮断桿4の下降動作も従来と同様になる(ステップS15〜S17)。
【0058】
下降完了後は(
図2の時刻t2〜t3参照)、遮断桿4が下降停止位置に来て現角度Bbが目標角度に一致するため(
図1のステップS11のY)、モータの駆動電流を変える昇降制御(
図1のステップS12〜S17,S21〜S26)が行われないので、異常処理(
図1ステップS14)も行われず、現電流Baが遮断桿4を下降停止位置に保持するのに必要な小電流値を維持する(
図2(b),(f)参照)。このときも、給電線6での電圧降下が小さいため、給電線6を介して踏切しゃ断機が受けた受電圧RVが、信号器具箱5の出力端子の電圧に近い24Vになっている(
図2(c),(g)参照)。そして、受電圧RVが基準電圧NVを上回り続けるので、電圧低下検出LVがロー状態・正常状態を維持し(
図2(d)参照)、異常処理(
図1のステップS14)は行われない。
【0059】
その後(
図2の時刻t3〜t4参照)、四台の踏切しゃ断機のうち踏切道3の進出側に配設された残りの二台においても、同様の下降制御がなされて(
図1のステップS11のN,S12の正常,S22,S23,S26,S15,S16,S17)、モータ23が上述の進入側と同様に駆動される(
図2(e),(f)参照)。更に、下降完了後も(
図2の時刻t4〜t5参照)、上述の進入側と同様に、進出側の踏切しゃ断機でも、遮断桿4が下降停止位置にとどまり(
図1のステップS11のY)、現電流Baが小さいままとなる(
図2(f)参照)。そのため、これらの期間でも(
図2の時刻t3〜t5参照)、受電圧RVが基準電圧NVを上回り(
図2(c),(g)参照)、電圧低下検出LVがロー状態・正常状態を維持し(
図2(d)参照)、電圧低下検出LVの一時低下も継続低下も検出されず、異常処理(
図1のステップS14)は行われない。
【0060】
それから、列車が踏切道3を通過し終えると(
図2の時刻t5参照)、それに応じて昇降指示TERが上昇指示に転じる。
すると、四台の踏切しゃ断機において、やはり従来同様、一斉に、昇降指示CR1が遮断桿4の上昇を指示するハイ状態・リレー扛上状態になる(
図2(a),(e)参照)。そして、それに応じて進入側でも進出側でも遮断桿4を上昇させる新たな通常の制御が行われる(
図1のステップS11のN,S21,S12の正常,S22のN,S23,S26,S15,S16,S17)。
【0061】
すなわち、上昇制御ではバランサー無しで片持ちしている遮断桿4をフィードバック制御にて上向きに揺動させるために、遮断桿4の上昇初期に現電流Baが急増するが(
図1ステップS11のN,S21)、未だピークには至らない上昇動作の当初は(
図2の時刻t5直後)、給電線6での電圧降下も未だ過大には至らないことから、何れの踏切しゃ断機でも、電圧低下検出LVが正常を示すので(
図1ステップS12の正常)、現電力制限値Plcが絶対電力制限値Plpのまま(
図1ステップS22のN,S23)、増加抑制処理も緩慢回復処理も行われることなく、通常のフィードバック制御による上昇制御が行われる(
図1ステップS26,S15,S16,S17)。
【0062】
総ての給電線6,6,…の抵抗が電線抵抗最大値の規制より小さく、更に信号器具箱5のバッテリ劣化等による内部抵抗の増加も小さければ、そのような通常の昇降制御が突入電流のピーク時も含めて継続されるのであるが、本実施例では、課題解決状況を示すために、仮に進入側の一台の踏切しゃ断機に接続された給電線6の抵抗値が電線抵抗最大値の規制より大きかったとする。信号器具箱5の内部抵抗も大きくなっていたとする。
この場合、その進入側の踏切しゃ断機では、現電流Baがピークに至る前に(
図2の時刻t5の少し後を参照)、給電線6での電圧降下が過大になって(
図2(b)参照)、受電圧RVが基準電圧NVを下回ることから(
図2(c)参照)、電圧低下検出LVが低下状態を示す(
図2(d)参照)。
【0063】
そうすると、その進入側の踏切しゃ断機では、速やかに(
図1ステップS13のN)、現電力Pから減少値βを減じた値が現電力制限値Plcに採用されて(
図1ステップS25)、制限電流値Pmが下がるので(
図1ステップS26)、それ以後の昇降制御では、増加抑制処理が行われることとなり、駆動電流値Saが抑えられる(
図1ステップS15〜S17)。そして、それによってモータの駆動電流さらには現電流Baが下がるため(
図2(b)参照)、遮断桿4の上昇速度や加速度が抑制されて遮断桿4の初動が鈍くなったりするが、短時間のうちに受電圧RVが基準電圧NVを上回るところまで回復するので(
図2(c)参照)、電圧低下検出LVが正常を示す状態に戻る(
図2(d)参照)。
【0064】
電圧低下検出LVが正常状態を示すようになると(
図1ステップS12の正常)、先の増加抑制処理によって現電力制限値Plcが絶対電力制限値Plpより小さくなっていたことが緩慢回復処理実行可否確認によって判ることから(
図1ステップS22のY)、現電力制限値Plcを増加値αだけ増やす緩慢回復処理が行われるので(
図1ステップS24)、現電力制限値Plcと制限電流値Pmと駆動電流値Saが緩やかに増大する状態の下で上昇制御が行われる(
図1ステップS26,S15〜S17参照)。
【0065】
そして、それによってモータの駆動電流ひいては現電流Baが給電線6での電圧降下を過大にするところまで増加すると、再び、上述した増加抑制処理の開始状態になるので、増加抑制処理と緩慢回復処理とを交互に繰り返しながら(本例では二回だけ図示,
図2(c),(d)参照)、上昇制御が進行する(
図2時刻t5〜t6参照)。そのため、モータの駆動電流ひいては現電流Baの波形では突入電流のピークが潰れて後方へずれ(
図2(b)参照)、受電圧RVは基準電圧NV付近に留められ(
図2(c)参照)、電圧低下検出LVは低下を示すのが間欠的・散発的になって低下状態が継続しないので(
図2(d)参照)、異常処理(
図1のステップS14)が行われることなく、遮断桿4が当初の遅れを取り戻しながら上昇停止位置まで上昇し、そこで停止する(
図2時刻t6参照)。
【0066】
また、このような規制から逸脱した給電線6に繋がっている踏切しゃ断機について自動的に過大電流の抑制が行われると、それに伴って、規制に則っている他の踏切しゃ断機にも、幾ばくかの良い効能が及ぶ。
すなわち、上述したように規制から逸脱した給電線6に繋がっている進入側の踏切しゃ断機がモータ駆動に大きな突入電流を流したとすると、それを含めた信号器具箱5のバッテリ等からの全給電量も大きくなるが、進入側の踏切しゃ断機の突入電流のピーク低減によってその分だけ信号器具箱5側の全給電量のピーク値も下がることから、信号器具箱5における電圧低下がそれなりに小さくなるので、他の踏切しゃ断機では、モータの駆動電流が同じなら受電圧RVが高めになるため、大きな突入電流が流れても(
図2(f)参照)、受電圧RVが基準電圧NVを下回ることがなく(
図2(g)参照)、遮断桿4が上昇開始時から円滑に上昇する、という良状態の頻度が向上する。
【0067】
[その他]
上記実施例では、電圧低下検出LVが低下状態を示したら(
図1のステップS13のN)、現電力制限値Plcを減少値βだけ下げるという処理「Plc←P−β」を行って、受電圧RVの低下検出時に現電力Pを明確に低減させるようになっていたが(
図1のステップS25)、これは必須でなく、他の処理との兼ね合いによっては、現電力Pの増加を回避するにとどめても良く、その場合は、現電力制限値Plcに現電力Pを採用する(具体的には値を転記や代入する)といった処理を行うようにしても良い(
図1のステップS25の内容を「Plc←P」に変更する)。
【0068】
その場合の具体例としては、電圧低下検出(
図1ステップS12)の際に、電圧低下検出回路33の電圧低下検出LVを用いるのでなく、その基準電圧NVより基準電圧を少し高めに設定した別の電圧低下検出回路による電圧低下検出結果を用いる場合が挙げられる。また、現電力制限値Plcと現電力Pとが等しい状態が続くときには電圧低下検出LVの低下継続を認定しないという判定手法(
図1ステップS13の改造)が採用されている場合も、他の具体例として挙げられる。さらに、昇降制御の異常処理で(
図1ステップS14)、診断結果Sbにて故障通知リレー42を制御することを行わないようにするとともに、遮断桿の上昇制御を打ち切らないようにする場合なども、具体例の一つとして挙げられる。
【0069】
上記実施例の手法では、電圧低下検出LVが低下状態を示し続ける状況が低減・回避されることから、遮断桿上昇の妨害を電圧低下検出LVの低下継続で検出するのが難しい或いは時間を要するようになっているが、例えば上昇開始後の電圧低下検出LVの低下の総回数や既述した上昇経過時間のタイムアウト等にて簡便に代用できるので、実用上の不都合はない。給電系や回路の故障といった重篤な異常は、依然として、電圧低下検出LVの低下継続によって検出することができる。