特許第6902313号(P6902313)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6902313
(24)【登録日】2021年6月23日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】踏切しゃ断機
(51)【国際特許分類】
   B61L 29/16 20060101AFI20210701BHJP
【FI】
   B61L29/16
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-32202(P2017-32202)
(22)【出願日】2017年2月23日
(65)【公開番号】特開2018-135052(P2018-135052A)
(43)【公開日】2018年8月30日
【審査請求日】2020年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207470
【氏名又は名称】大同信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106345
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 香
(72)【発明者】
【氏名】森山 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】木村 実
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 淳貴
【審査官】 冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−160634(JP,A)
【文献】 特開2007−112319(JP,A)
【文献】 特開2012−201270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 29/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遮断桿を保持しうる遮断桿保持部と、前記遮断桿保持部の動力源のモータと、前記モータと給電線を共用するリレー回路と、前記モータの駆動制御にて前記遮断桿の昇降制御を行うとともに前記リレー回路のリレー動作電圧より設定値の高い基準電圧よりも前記給電線での受電圧が低下したか否かを検出する電子回路とを備えた踏切しゃ断機において、前記電子回路が、前記昇降制御の実行中に、前記受電圧の低下が検出されると、前記モータの電力に係る演算を行う手段と値の固定された絶対制限値とそれ以下の値で増減変更しうる現制限値とを用いる手段とのうち何れか一方または双方の手段を実行して前記モータの駆動電流の増加を抑制する増加抑制処理を行うようになっている、ことを特徴とする踏切しゃ断機。
【請求項2】
遮断桿を保持しうる遮断桿保持部と、前記遮断桿保持部の動力源のモータと、前記モータと給電線を共用するリレー回路と、前記モータの駆動制御にて前記遮断桿の昇降制御を行うとともに前記リレー回路のリレー動作電圧より設定値の高い基準電圧よりも前記給電線での受電圧が低下したか否かを検出する電子回路とを備えた踏切しゃ断機において、前記電子回路が、前記昇降制御の実行中に、前記受電圧の低下が検出されると、前記モータの電力に係る演算を行う手段と値の固定された絶対制限値とそれ以下の値で増減変更しうる現制限値とを用いる手段とのうち何れか一方または双方の手段を実行して前記モータの駆動電流の増加を抑制する増加抑制処理を行うようになっており、更に、前記昇降制御の実行中に前記受電圧の低下が検出されなくなると、前記増加抑制処理による増加抑制を解除するとともに、その際に抑制分の回復を行うときには緩慢に回復させる緩慢回復処理を行うようになっている、ことを特徴とする踏切しゃ断機。
【請求項3】
遮断桿を保持しうる遮断桿保持部と、前記遮断桿保持部の動力源のモータと、前記モータと給電線を共用するリレー回路と、前記モータの駆動制御にて前記遮断桿の昇降制御を行うとともに前記リレー回路のリレー動作電圧より設定値の高い基準電圧よりも前記給電線での受電圧が低下したか否かを検出する電子回路とを備えた踏切しゃ断機において、前記電子回路が、前記昇降制御の実行中に、前記受電圧の低下が検出されると、前記モータの駆動電流の増加を抑制する増加抑制処理を行うようになっており、更に、前記昇降制御の実行中に前記受電圧の低下が検出されなくなると、前記増加抑制処理による増加抑制を解除するとともに、その際に抑制分の回復を行うときには前記モータの電力に係る演算を行う手段と値の固定された絶対制限値とそれ以下の値で増減変更しうる現制限値とを用いる手段とのうち何れか一方または双方の手段を実行して緩慢に回復させる緩慢回復処理を行うようになっている、ことを特徴とする踏切しゃ断機。
【請求項4】
遮断桿を保持しうる遮断桿保持部と、前記遮断桿保持部の動力源のモータと、前記モータと給電線を共用するリレー回路と、前記モータの駆動制御にて前記遮断桿の昇降制御を行うとともに前記リレー回路のリレー動作電圧より設定値の高い基準電圧よりも前記給電線での受電圧が低下したか否かを検出する電子回路とを備えた踏切しゃ断機において、前記電子回路が、前記昇降制御の実行中に、前記受電圧の低下が検出されると、前記モータの電力に係る演算を行う手段と値の固定された絶対制限値とそれ以下の値で増減変更しうる現制限値とを用いる手段とのうち何れか一方または双方の手段を実行して前記モータの駆動電流の増加を抑制する増加抑制処理を行うようになっており、更に、前記昇降制御の実行中に前記受電圧の低下が検出されなくなると、前記増加抑制処理による増加抑制を解除するとともに、その際に抑制分の回復を行うときには前記モータの電力に係る演算を行う手段と値の固定された絶対制限値とそれ以下の値で増減変更しうる現制限値とを用いる手段とのうち何れか一方または双方の手段を実行して緩慢に回復させる緩慢回復処理を行うようになっている、ことを特徴とする踏切しゃ断機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄道の踏切に設置されて遮断桿の昇降にて踏切道を開閉する踏切しゃ断機に関し、詳しくは、制御回路に電子回路とリレー回路とが組み込まれている踏切しゃ断機に関する。
【背景技術】
【0002】
踏切しゃ断機は、鉄道の踏切に設置され、遮断桿を装着されて、踏切開閉のため遮断桿を水平から鉛直へ鉛直から水平へ揺動させるものであり、そのために、遮断桿保持部と回転伝動部とモータ及びモータ駆動部と制御回路とを備えている。しかも、以前は、片持ち状態の遮断桿によるモータ負荷を軽減させるために、重錘やバネ等からなるバランサーが上述の遮断桿保持部か回転伝動部に装備されていた(例えば特許文献1参照)。
これに対し、近年は、踏切しゃ断機全体の軽量化や小形化のためにモータの高速化を図るとともに伝動機構や減速機構の改良を加えることによりバランサーを不要にして(例えば特許文献2〜4参照)、バランサーを装備しない踏切しゃ断機が開発されている。
【0003】
また、踏切しゃ断機には、上述した機構部に加え、その動作制御等を担う制御回路も装備されているが、制御回路のうち外部機器との入出力を担う部分には既存設備との互換性等の観点から依然としてリレー回路が採用される一方、制御回路のうち昇降制御等を担う部分には、高機能化等の観点から、リレー回路の採用が減り、コンピュータを主体にした電子回路の採用が増えている(例えば特許文献5,6参照)。
【0004】
このような踏切しゃ断機について、先ず、本願発明の前提ともなるハードウェア構成と使用態様について、図面を引用して説明する。
図3は、(a)が、一つの踏切3に四台の踏切しゃ断機10,10,…を設置した典型的な使用状態の平面配置図と、それらに給電線6や信号線7で接続された信号器具箱5のブロック図とを、併せて記載したものであり、(b)が踏切しゃ断機10の基本構造を示すブロック図である。
【0005】
この設置例では(図3(a)参照)、線路2を横断する踏切道3の両端それぞれの進入側と進出側で一本ずつ遮断桿4を昇降させるために、踏切道3の四隅それぞれの外側に踏切しゃ断機10が分配設置され、合計で四台の踏切しゃ断機10,10,…が使用される。踏切しゃ断機10は、何れも、共用の信号器具箱5から各機毎の給電線6を介して動作電力DC24Vを受電するのに加えて、その信号器具箱5と各機とを個別に繋ぐ信号線7のうち信号入力に割り当てられたものを介して昇降指示TERといったリレー信号を入力するとともに、信号線7のうち信号出力に割り当てられたものを介して故障Rといったリレー信号を信号器具箱5へ出力するようになっている。給電線6には太めの電線対が用いられ、信号線7には信号の数以上の電線対が用いられるが、何れ6,7も、信号器具箱5かその直近で、接続先の踏切しゃ断機10毎に分かれる状態で、配線されている。
【0006】
踏切しゃ断機10のハードウェアは(図3(b)参照)、機械的な部材で構成された機構部20と、リレー以外の電気部品で構成された電子回路30と、リレーを主体としたリレー回路40とに大別される。
機構部20は、遮断桿4を片持ち状態で保持しうる遮断桿保持機構21と、遮断桿4を昇降させる動力源であるモータ23と、モータ23の回転出力軸の運動を減速して遮断桿保持機構21に伝達する減速機構22とを具備したものであり、遮断桿保持機構21は図示しない筐体の外側に突き出ているが、減速機構22とモータ23は筐体の内部に格納されている。
【0007】
電子回路30は、昇降制御プログラムや故障診断プログラムがインストールされるコンピュータを構成するCPU31と、給電線6で受けたDC24Vの直流電力RVから降圧してDC5Vの直流電力を生成するDC/DC電源32と、直流電力RVの電圧と基準電圧NVとを比較するコンパレータ等からなり直流電力RVの電圧が基準電圧NVより低下したか否かを示す電圧低下検出LVを信号出力する電圧低下検出回路33と、昇降制御プログラムの実行にて算出された駆動電流値SaをCPU31からモータ指令として受けてそれに応じた駆動電流にてモータ23を回転動作させるモータ駆動回路34とを具備している。
【0008】
それらのうち、DC/DC電源32とモータ駆動回路34は、DC24Vの直流電力RVで動作するが、電圧低下検出回路33は、直流電力RVより低く更には基準電圧NVよりも低いDC15Vの直流電力で動作するようになっており、CPU31は、それよりも低いDC5Vの直流電力で動作するようになっている。さらに、電子回路30は、モータ駆動回路34から出力されてモータ23に供給された駆動電流を電流センサ35で検出した現電流Baの値や、モータ23の回転角を角度センサ36で検出した現角度Bbの値、減速機構22に付設されたリミットスイッチ等からなる位置センサ37にて検出した現位置Bcの値といった幾つかの検出値をCPU31に入力する回路も具備している。
【0009】
リレー回路40は、外部から入力するリレー信号の代表例である昇降指示TERを中継することで昇降指示CR1を生成しそれをCPU31に送出する昇降指示リレー41と、外部へ出力するリレー信号の代表例である故障RをCPU31の診断結果Sbに応じて生成する故障通知リレー42とを具備している。
それらのうち、信号入力用のリレー41は信号器具箱5の内部の直流電力(DC24V)によって動作するが、信号出力用のリレー42はモータ駆動回路34と同じく踏切しゃ断機10内の直流電力RV(DC24V)によって動作するようになっており、両電力は共にDC24Vであるが、両電力線の間には給電線6が介在している。
【0010】
次に、上述のようなハードウェア構成をもった踏切しゃ断機10による従来のソフトウェア構成について、図面を引用して説明する。図3(b)のCPU31のブロックは、そこにインストールされている主要なプログラムを示しており、図4は、昇降制御プログラムによる従来の昇降制御の主な処理内容を示すフローチャートである。
【0011】
上述したようにCPU31には昇降制御プログラムと故障診断プログラムとがインストールされているが(図3(b)参照)、そのうちフローチャートの図示を割愛した故障診断プログラムは、外部へリレー信号を出力するリレー回路の一例である故障通知リレー42を制御する診断結果Sbを出すものであり、常態では診断結果Sbを正常判定値にすることで故障通知リレー42を故障通知でない励磁状態にするが、故障検出時には診断結果Sbを異常判定値にすることで故障通知リレー42を故障通知の非励磁状態にするようになっている。故障の具体例としては、遮断桿の降下制御のタイムアウト(例えば特許文献5参照)や、次に述べる昇降制御プログラムの実行による異常処理が挙げられる。
【0012】
昇降制御プログラムは、踏切しゃ断機10の必須機能である遮断桿4の昇降制御を担うものであり、その昇降の動力源のモータ23のモータ駆動回路34に対するモータ指令となる駆動電流値Saを例えば0.5msといった短い時間の周期で繰り返し算出し直すようになっている。具体的には(図4参照)、下降制御時には目標角度が遮断桿下降完了状態対応角度に設定されており(図示せず)、上昇制御時には目標角度が遮断桿上昇完了状態対応値に設定されていることを前提として(図示せず)、先ず、モータ23に係る現角度Bbが目標角度に達したか否かがチェックされ(ステップS11)、到達していれば(ステップS11のY)、昇降制御を終えて現状態を維持する。
【0013】
現角度Bbが目標角度に未達の場合(ステップS11のN)、昇降制御を行うのに先立って、電圧低下検出LVをチェックすることで(ステップS12)、本来は24Vである直流電力RVが基準電圧NVより低下しているか否かを判別する。基準電圧NVは、リレー回路、特に故障通知リレー42といった信号出力用のリレーが確実に作動しうる電圧値(リレー動作電圧)であり、例えば18.5Vに設定されている。そのため、電圧低下検出LVが所定時間たとえば50ms(=100回)に亘って低下状態を示し続けたときには(ステップS13)、異常処理を行うようになっている(ステップS14)。この異常処理の詳細な説明は割愛するが、例えば上述のように診断結果Sbを異常判定値にしたり、昇降制御を打ち切って遮断桿4を安全側の自重降下状態にするといったことが行われる。
【0014】
そうでないとき、即ち、電圧低下検出LVが低下を示していないときと(ステップS12の正常)、電圧低下検出LVが低下になっても上記所定時間は継続していないときには(ステップS13のN)、正常時の昇降制御として、上述の目標角度と今回の制御の経過時間と上述の現角度Bbとから駆動電流値Saを算出し(ステップS15)、この駆動電流値Saを、所定の制限電流値Pm以下に制限したうえで(ステップS16)、モータ駆動回路34に送出することで(ステップS17)、モータ23の回転を一周期分だけフィードバック制御し、それで各周期毎の処理を終えるようになっている。
【0015】
なお、駆動電流値Saの算出は、マイナーループで現電流Baをフィードバックするとともにメジャーループで現角度Bbをフィードバックして目標追従を迅速に行うのに適した公知の二次式等で行われるようになっている(具体的な式等はサーボシステムの解説本など参照)。また、現位置Bcは、上述した遮断桿の昇降完了の確認に加え、遮断桿の昇降制御時の異常検出たとえば下降経過時間や上昇経過時間のタイムアウト検出にも(図示せず)、使用されるようになっている。
【0016】
このような従来の踏切しゃ断機10の動作について、図面を引用して説明する。図5(a)〜(f)は、昇降動作時の各信号に係るタイムチャートである。
【0017】
踏切道3の近くの線路2に列車が存在しないで踏切が解放されているときには(図5の時刻t1より左方を参照)、昇降指示TERが上昇を指示し続けるので、四台の踏切しゃ断機10,10,…総てにおいて、昇降指示CR1が遮断桿4の上昇を指示するハイ状態・リレー扛上状態になっており(図5(a),(b)参照)、遮断桿4が上昇停止位置に来ていて(図4のステップS11のY)、モータの駆動電流を変える昇降制御(ステップS12〜S17)が行われないので異常処理(図4のステップS14)も行われず、現電流Baが遮断桿4を上昇停止位置に保持するのに必要な小電流値を維持する(図5(c),(d)参照)。
【0018】
そのため、給電線6での電圧降下が小さくて、直流電力RVの受電圧RVが信号器具箱5の出力端子の電圧に近い24Vになっており(図5(e)参照)、それが基準電圧NVを上回るので、電圧低下検出LVがロー状態・正常状態を維持する(図5(f)参照)。
その状態から、列車の接近に応じて昇降指示TERが下降指示に転じると(図5の時刻t1参照)、先ず、四台の踏切しゃ断機10,10,…のうち踏切道3の進入側に配設された二台において、昇降指示CR1が遮断桿4の下降を指示するロー状態・リレー落下状態になり(図5(a)参照)、それに応じて進入側の遮断桿4を下降させる通常の制御が行われる(図4のステップS11のN,S12の正常,S15,S16,S17)。
【0019】
そして、この下降制御では(図5の時刻t1〜t2参照)、自重降下の作用によって現電流Baが更に小さくなることから(図5(c)参照)、給電線6での電圧降下がより少なくなるので、受電圧RVが24V近くにとどまり(図5(e)参照)、やはり受電圧RVが基準電圧NVを上回っているので、電圧低下検出LVがロー状態・正常状態を維持するため(図5(f)参照)、電圧低下検出LVの一時低下も継続低下も検出されず、異常処理(図4のステップS14)は行われない。
【0020】
下降完了後は(図5の時刻t2〜t3参照)、遮断桿4が下降停止位置に来て(図4のステップS11のY)、現電流Baが遮断桿4を下降停止位置に保持するのに必要な小電流値になるため(図5(c)参照)、やはり受電圧RVが基準電圧NVを上回り(図5(e)参照)、電圧低下検出LVがロー状態・正常状態を維持し(図5(f)参照)、電圧低下検出LVの一時低下も継続低下も検出されず、異常処理(図4のステップS14)は行われない。
【0021】
その後(図5の時刻t3〜t4参照)、四台の踏切しゃ断機10,10,…のうち踏切道3の進出側に配設された残りの二台においても、同様の下降制御がなされて(図4のステップS11のN,S12の正常,S15,S16,S17)、モータ23が同様に駆動される(図5(b),(d)参照)。更に、下降完了後も(図5の時刻t4〜t5参照)、先行の進入側と同様に、進出側の踏切しゃ断機10でも遮断桿4が下降停止位置にとどまり(図4のステップS11のY)、現電流Baが小さいままとなる(図5(d)参照)。そのため、この期間でも(図5の時刻t3〜t5参照)、受電圧RVが基準電圧NVを上回り(図5(e)参照)、電圧低下検出LVがロー状態・正常状態を維持し(図5(f)参照)、電圧低下検出LVの一時低下も継続低下も検出されず、異常処理(図4のステップS14)は行われない。
【0022】
それから、列車が踏切道3を通過し終えると(図5の時刻t5参照)、それに応じて昇降指示TERが上昇指示に転じる。
すると、四台の踏切しゃ断機10,10,…において、一斉に、昇降指示CR1が遮断桿4の上昇を指示するハイ状態・リレー扛上状態になり(図5(a),(b)参照)、それに応じて進入側でも進出側でも遮断桿4を上昇させる通常の制御が行われる(図4のステップS11のN,S12の正常,S15,S16,S17)。
【0023】
そして、この上昇制御では(図5の時刻t5〜t6参照)、バランサー無しで片持ちしている遮断桿4をフィードバック制御にて上向きに揺動させることから、現電流Baが遮断桿4の上昇初期に素早く大きくなり上昇中期から後期に掛けて比較的ゆっくり小さくなるので(図5(c),(d)参照)、遮断桿4の上昇初期には、給電線6での電圧降下が大きくなって受電圧RVが24Vから少し低下する(図5(e)の実線波形を参照)。
【0024】
その電圧低下は、四台の踏切しゃ断機10,10,…の同時動作による信号器具箱5の中のバッテリの内部抵抗などによる電圧低下が加わることで更に大きくなるが、それでも受電圧RVが基準電圧NVを下回ることが無いように、施工時に給電線6の抵抗の最大値が規制されているうえ、昇降制御時にモータ駆動回路34からモータ23へのモータ指令である駆動電流値Saが制限電流値Pm以下に制限されるので(図4のステップS16を参照)、受電圧RVが基準電圧NVを上回る(図5(e)の実線波形を参照)。
【0025】
そのため、通常の上昇動作では、やはり電圧低下検出LVがロー状態・正常状態を維持し(図5(f)の実線波形を参照)、電圧低下検出LVの一時低下も継続低下も検出されず、異常処理(図4のステップS14)は行われない。
更に、上昇完了後は(図5の時刻t6より右方を参照)、本欄における動作説明の当初状態(図5の時刻t1より左方を参照)と同じ状態に戻るので、上昇完了後も、電圧低下検出LVがロー状態・正常状態を維持し(図5(f)参照)、電圧低下検出LVの一時低下も継続低下も検出されず、異常処理(図4のステップS14)は行われない。
【0026】
このように、信号器具箱5の中のバッテリ等からなるDC24Vの給電源と、信号器具箱5から踏切しゃ断機10,10,…それぞれへ至る給電線6,6,…と、それらの特性たとえば給電線抵抗値に加えてモータの特性たとえばモータ定格電流などをも勘案して予め決められた固定の制限電流値Pmとが、上述した電線抵抗最大値の規制などの決め事を守っていれば、通常の踏切遮断桿昇降動作の際に電圧低下検出LVが低下状態を示すことが無いので、昇降制御中に異常処理が行われることも無い(図4のステップS12,S13,S14参照)。
【0027】
踏切しゃ断機10の昇降制御中に電圧低下検出LVに基づく異常処理が行われるのは、遮断桿4の上昇動作が外力によって妨害された場合がほとんどである。
例えば、強風によって遮断桿4が横向きに押されて減速機構22等の回転軸に大きな摩擦抵抗が生じた場合や、遮断桿4の上に雪が積もって見掛けの慣性抵抗が不所望に増加した場合、踏切通行人が遮断桿4の先端部等に手を掛けて押さえたことによって遮断桿4の上昇が抑止された場合が、大半を占めている。
【0028】
この場合、妨害された該当踏切しゃ断機10では、遮断桿4を上昇させる制御が行われても、現角度Bbが目標角度に近づかないことから、フィードバック制御によって駆動電流値Saひいては現電流Baがどんどん増大するので、それに伴って、信号器具箱5から該当踏切しゃ断機10に至る該当給電線6での電圧降下や、信号器具箱5のバッテリ等での電圧降下も、大きくなる。そのため、該当踏切しゃ断機10では、やがて受電圧RVが基準電圧NVを下回り(図5(e)の破線を参照)、電圧低下検出LVが低下状態を示し(図5(f)の破線を参照)、その継続に応じた異常処理によって(図4ステップS14)、CPU31から故障の診断結果Sbが出され、リレー回路40が動作可能なうちに故障通知リレー42が励磁状態になって故障Rが信号線7を介して外部へ送出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】
【特許文献1】特開2002−154433号公報
【特許文献2】特開2005−112151号公報
【特許文献3】特開2006−069333号公報
【特許文献4】特開2012−166578号公報
【特許文献5】特開2012−201270号公報
【特許文献6】特開2014−091417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
このようなバランサー不装備の踏切しゃ断機10は、軽量かつ小形という利点を活かして設置台数を増やしており、既存の踏切保安設備についても踏切しゃ断機の設備更新時等にバランサー装備の踏切しゃ断機に代わって採用設置されている。そして、大半の踏切しゃ断機10はバランサー不装備であっても長期に亘って問題無く動作している。
ところが、バランサー装備の踏切しゃ断機を置き換えたバランサー不装備の踏切しゃ断機10のうち、一部の踏切しゃ断機10については、長期使用時に故障Rの出力頻度が高いと感じられ、何らかの不具合や不良の潜在が疑われることになってしまった。
【0031】
そして、その原因を探るために長期に亘って監視やデータ収集を行ったところ、受電圧RVに係る電圧低下検出LVに基づく昇降制御時の異常処理の実行頻度が想定より高いことが判明したので、電子回路30や昇降制御プログラム等を徹底調査したが、それには不備が見つからなかった。また、踏切現場で長期使用して故障Rの出力頻度が高くなかったことを確認した他の踏切しゃ断機10で、疑いの掛かった踏切しゃ断機10を置き換えるという対処まで行ったが、置換後の踏切しゃ断機10についても長期使用時に故障Rの出力頻度が高くなることが確認された。そのため、踏切しゃ断機の外部にまで調査範囲を広げ、踏切現場で、給電線6,6,…の抵抗値やバッテリの状態などを細かく計測した。
【0032】
その結果、異常頻度の高い踏切現場では給電線6の抵抗値や信号器具箱5の内部抵抗値が、双方とも或いは何れか一方が、規制値を上回っていることが判明した。特に、線路や踏切道の構造の制約等から長く引き回した給電線6や、長期使用のバッテリについては、抵抗値が規制値を上回る程度も大きくなりがちであり、その程度の大きさが異常処理の実行頻度を高めていると推定されるに至り、踏切しゃ断機10への疑いは晴れた。
交換前のバランサー装備の踏切しゃ断機では、遮断桿上昇制御の開始直後(図5の時刻t5の直後)の突入電流が比較的小さくてピーク値ですら規制値をかなり下回っていたので、給電線6等に係る規制充足不備が顕在化しなかっただけなのである。
【0033】
とはいえ、給電線6が規制を超えて長くなるのは踏切の現場状況の制約が厳しいからであり、今更、既存の踏切保安設備を改めるのは、現実的でない。そのため、交換後のバランサー不装備の踏切しゃ断機10の方で対処することが出来れば、その方が望ましい。
そして、その対策として直截的に思いつくのは、遮断桿上昇制御の開始直後の突入電流のピークを低く抑えることであり、その具体化は、制限電流値Pmを現行機のものより小さな固定値にするのが、簡便かつ確実で、良かろうと思われる。
【0034】
しかしながら、そのような安直な手法で、電圧低下検出LVに基づく昇降制御時の異常処理の実行頻度を交換前のバランサー装備の踏切しゃ断機と同程度まで下げるには、交換前のバランサー不装備の踏切しゃ断機10における遮断桿上昇制御の開始直後の突入電流のピーク値を交換前のバランサー装備の踏切しゃ断機と同程度まで下げることが必要であり、そうすると、バランサーが無くてモータ負荷の大きい踏切しゃ断機10では遮断桿4の上昇時の初期速度が低下して、上昇時の初期動作が鈍ってしまう。しかも、そのような影響が総ての踏切しゃ断機10に及ぶ可能性が高いので、その対策は好ましくない。
【0035】
かといって、既存のバランサー装備の踏切しゃ断機を新たなバランサー不装備の踏切しゃ断機10にて置き換える前に、毎度、既設の給電線6,6,…の抵抗値と給電線6のバッテリ等の劣化状態とを調査し、その調査結果に基づいて個々の踏切しゃ断機10に適した最大電流を算出して、その算出値を制限電流値Pmに固定的に設定する、といった個別対応は、設備更新の度に多大な手数が掛かるので、それも現実的でない。
そこで、受電圧の低下による昇降制御時の異常処理の実行頻度が設置先の既存設備における規制からの逸脱状況に応じて高まるのを踏切しゃ断機単独で回避することができるように、逸脱状況の程度に応じて昇降制御の内容を自動的に調整する踏切しゃ断機を実現することが技術的な課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0036】
本発明の踏切しゃ断機は(解決手段1)、このような課題を解決するために創案されたものであり、遮断桿を保持しうる遮断桿保持部と、前記遮断桿保持部の動力源のモータと、前記モータと給電線を共用するリレー回路と、前記モータの駆動制御にて前記遮断桿の昇降制御を行うとともに前記リレー回路のリレー動作電圧より設定値の高い基準電圧よりも前記給電線での受電圧が低下したか否かを検出する電子回路とを備えた踏切しゃ断機において、前記電子回路が、前記昇降制御の実行中に、前記受電圧の低下が検出されると、前記モータの駆動電流の増加を抑制する増加抑制処理を行うようになっている、ことを特徴とする。
【0037】
また、本発明の踏切しゃ断機は(解決手段2)、上記解決手段1の踏切しゃ断機であって、前記電子回路が、前記昇降制御の実行中に前記受電圧の低下が検出されなくなると、前記増加抑制処理による増加抑制を解除するとともに、その際に抑制分の回復を行うときには緩慢に回復させる緩慢回復処理を行うようになっている、ことを特徴とする。
【0038】
さらに、本発明の踏切しゃ断機は(解決手段3)、上記解決手段2の踏切しゃ断機であって、前記電子回路が、前記モータの電力に係る演算を行って前記増加抑制処理と前記緩慢回復処理とを行うようになっていることを特徴とする。
【0039】
また、本発明の踏切しゃ断機は(解決手段4)、上記解決手段2,3の踏切しゃ断機であって、前記電子回路が、値の固定された絶対制限値とそれ以下の値で増減変更しうる現制限値とを用いて前記増加抑制処理と前記緩慢回復処理とを行うようになっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0040】
このような本発明の踏切しゃ断機にあっては(解決手段1)、給電線を介して受け入れた電力の受電圧が低下するとモータの駆動電流の増加が抑制されるようにしたことにより、給電線での電圧低下が激しい踏切しゃ断機に限って自動的にモータの消費電力の増加が抑制される。そのため、既存設備に規制からの逸脱があって、それに起因して受電圧が低下しすぎそうになったときには、該当する踏切しゃ断機では、電圧低下の主因であるモータ駆動の突入電流などの最大値が小さくなるよう昇降制御の内容が自動的に調整されて、リレー回路の動作に必要な電圧以上に受電圧が維持される。
したがって、この発明によれば、逸脱状況の程度に応じて昇降制御の内容を自動的に調整する踏切しゃ断機を実現することがことができ、その結果、受電圧の低下による昇降制御時の異常処理の実行頻度が設置先の既存設備における規制からの逸脱状況に応じて高まるのを踏切しゃ断機単独で回避することができることとなる。
【0041】
また、本発明の踏切しゃ断機にあっては(解決手段2)、モータの駆動電流の増加抑制解除後に抑制分の回復を行う場合にはその回復が緩慢になされるようにもしたことにより、簡便に、モータの駆動電流の急変による遮断桿等の不所望な跳ね上がりや振れを防止することができる。
【0042】
さらに、本発明の踏切しゃ断機にあっては(解決手段3)、モータの駆動電流に係る増加抑制処理と緩慢回復処理とを行うときに、その駆動電流や関連する電流の値だけを用いた演算で完遂しても良いが、それに限定せず、モータの電力に係る演算を行うことで又は電力に係る演算も行うことで増加抑制処理と緩慢回復処理とが完遂されるようにしたことにより、本発明の適用範囲を電力制御タイプの機種にも広げることができる。
【0043】
また、本発明の踏切しゃ断機にあっては(解決手段4)、固定の絶対制限値(絶対電流制限値,絶対電力制限値)に限らず、可変の現制限値(現電流制限値,現電力制限値)も用いて、モータの駆動電流に係る増加抑制処理と緩慢回復処理とを行うようにしたことにより、昇降制御の改造を電子回路のソフトウェア修正で簡便に済ませることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明の実施例1について、昇降制御のフローチャートである。
図2】本発明の実施例1について、昇降動作に係るタイムチャートである。
図3】(a)が踏切しゃ断機の設置例を示す配置図、(b)が踏切しゃ断機の基本構造を示すブロック図である。
図4】従来の昇降制御のフローチャートである。
図5】従来の昇降動作に係るタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0045】
このような本発明の踏切しゃ断機について、これを実施するための具体的な形態を、以下の実施例1により説明する。
図1〜2に示した実施例1は、上述した解決手段1〜4(出願当初の請求項1〜4)を総て具現化したものである。
なお、それらの図示に際し従来と同様の構成要素には同一の符号を付して示したので、また、それらについて背景技術の欄で述べたことは以下の実施例についても共通するので、重複する再度の説明は割愛し、以下、従来との相違点を中心に説明する。
【実施例1】
【0046】
本発明の踏切しゃ断機の実施例1について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図1は、踏切しゃ断機のCPU31にインストールされた新たな昇降制御プログラムによる昇降制御のフローチャートである。
【0047】
この踏切しゃ断機は、既述した踏切しゃ断機10とハードウェアが同じであり(図3(b)参照)、既述のものと相違するのはCPU31にインストールされた昇降制御プログラムが改造されている点である(図4図1)。
新たな昇降制御プログラム(図1参照)が、既述の昇降制御プログラム(図4参照)と相違するのは、モータの駆動電流に係る単純制限の処理(図1ステップS16)に、受電圧低下時の増加抑制処理(図1ステップS25,S26)と、受電圧低下終了後の緩慢回復処理(図1ステップS22,S23,S24,S26)とが加わった点である。
【0048】
その具体化に際しては、値の固定された絶対電力制限値Plp(絶対制限値)と(ステップS22,S23)、初期値は絶対電力制限値Plpに等しくされるが昇降制御開始後は電圧低下検出LVに応じて絶対電力制限値Plp以下の値で増減変更されることのある現電力制限値Plc(現制限値)とが新たに導入されるとともに(ステップS22〜S25)、以前は値の固定されていた制限電流値Pmが現電力制限値Plcを用いて適宜変更されるようになっている(ステップS26)。しかも、そのようなモータの駆動電流に係る新たな制限処理(増加抑制処理と緩慢回復処理)を行うときに、モータの電力に係る演算を行ってから(ステップS21〜S25)、例えばモータの負荷を純抵抗と見做すといった換算などにて制限電流値Pmを算出するようにもなっている(ステップS26)。
【0049】
以下、それらの改造部分について詳述する。新たな昇降制御プログラムは、駆動各周期において、現角度Bbが目標角度に達していない未達の場合(ステップS11のN)、電圧低下検出LVのチェック(ステップS12)に先だって、電流センサ35で検出した現電流Baからモータ駆動に使用されている現電力Pを算出するようになっている(ステップS21)。この算出は後で必要になったときに行っても良いが、この実施例では後の使用(ステップS25)に備えて予め算出しておくようになっている。
また、制限電流値Pmの可変化に対応して、正常時処理に加わった新たな処理では(ステップS26)、従来の正常時処理(ステップS15〜S17)に先だって現電力制限値Plcから制限電流値Pmを算出し直すようになっている。
【0050】
さらに、電圧低下検出LVが受電圧RVの低下状態を一時でも示したときには(ステップS13のN)、上述の正常時処理(ステップS26…)に先だち、現電力Pから減少値βを減じた値を現電力制限値Plcに採用するようになっている(ステップS25)。これは、モータの駆動電流に係る増加抑制処理を具体化したものであり、減少値βは、続く正常時処理(ステップS26…)によって早々に即ち電圧低下継続時間より先にモータの駆動電流が減少して受電圧RVが電圧低下検出LV以上に回復するような値に予め決められている。そのため、減少値βが正の数であればモータの駆動電流の明瞭な削減が期待でき、減少値βがゼロであってもモータの駆動電流の現状維持は期待できる。
【0051】
また、受電圧RVが基準電圧NV以上の正常状態になっていることを電圧低下検出LVが示したときには(ステップS12の正常)、上述のように当初は絶対電力制限値Plpであった現電力制限値Plcが絶対電力制限値Plpより小さいか否かを調べる緩慢回復処理実行可否確認を行って(ステップS22)、現電力制限値Plcが絶対電力制限値Plp以上の場合は(ステップS22のN)、緩慢回復処理を実行する必要が無いので現電力制限値Plcに絶対電力制限値Plpを値の転記・代入にて採用して現電力制限値Plcを絶対制限値に固定するようになっている(ステップS23)。
【0052】
これに対し、緩慢回復処理実行可否確認によって現電力制限値Plcが絶対電力制限値Plpより小さいことが判った場合は(ステップS22のY)、現電力制限値Plcに増加値αを加えることで緩慢回復処理を実行するようになっている(ステップS24)。
このようなモータの駆動電流に係る緩慢回復処理は、増加抑制処理で下がった現電力制限値Plcを絶対電力制限値Plpに向けて回復させるが、それを緩やかにするために、増加値αは減少値βより小さく例えば半分以下の値に設定されている。
【0053】
この実施例1の踏切しゃ断機について、その新たな動作を、図面を引用して説明する。図2は、昇降動作時のタイムチャートである。
この動作説明では、明確化のため、従来の踏切しゃ断機10の動作説明との重複を厭うことなく、時間の経過に沿って、説明する。
【0054】
踏切しゃ断機は、四台が既述の例と同じく(図3(a)参照)、踏切道3の四隅の外側に分配設置され、何れも、共用の信号器具箱5に対して個別の給電線6と信号線7で接続されているものとする。そうすると、踏切道3の近くの線路2に列車が存在しないで踏切が解放されているときには(図2の時刻t1より左方を参照)、昇降指示TERが上昇を指示し続けるので、四台の踏切しゃ断機すべてにおいて、昇降指示CR1が遮断桿4の上昇を指示するハイ状態・リレー扛上状態になっており(図2(a),(e)参照)、遮断桿4が上昇停止位置に来ている(図1のステップS11のY)。
【0055】
そのため、モータの駆動電流を変える昇降制御(図1のステップS12〜S17,S21〜S26)が行われないので、異常処理(図1のステップS14)も行われず、現電流Baが遮断桿4を上昇停止位置に保持するのに必要な小電流値を維持する(図2(b),(f)参照)。このときの動作や状態は既述した従来のと同様であり、何れの踏切しゃ断機においても、給電線6での電圧降下が小さいため、給電線6を介して踏切しゃ断機が受けた受電圧RVが、信号器具箱5の出力端子の電圧に近い24Vになっている(図2(c),(g)参照)。そして、受電圧RVが基準電圧NVを上回るので、電圧低下検出LVがロー状態・正常状態を維持する(図2(d)参照)。
【0056】
その状態から、列車の接近に応じて昇降指示TERが下降指示に転じると(図2の時刻t1参照)、先ず、四台の踏切しゃ断機のうち踏切道3の進入側に配設された二台において、昇降指示CR1が遮断桿4の下降を指示するロー状態・リレー落下状態になり(図2(a)参照)、それに応じて進入側の遮断桿4を下降させる通常の制御が行われるが、この新たな通常の下降制御では、既述した従来の通常制御(図1のステップS11のN,S12の正常,S15,S16,S17)に加えて、緩慢回復処理の実行可否確認も行われる(図1のステップS22)。
【0057】
すなわち、この下降制御では(図2の時刻t1〜t2参照)、自重降下の作用によって現電流Baが更に小さくなることから(図2(b)参照)、給電線6での電圧降下がより少ないので、受電圧RVが24V近くにとどまり(図2(c)参照)、やはり受電圧RVが基準電圧NVを上回り続けるので、電圧低下検出LVがロー状態・正常状態を維持するため(図2(d)参照)、電圧低下検出LVの一時低下も継続低下も検出されず、異常処理(図1のステップS14)は行われない。また、この時点では、現電力制限値Plcが未だ下げられておらず絶対電力制限値Plpのままなので緩慢回復処理は実行されず(ステップS22のN,S23)、その現電力制限値Plcから算出される制限電流値Pmも従来値と同様に大きな値になるので(ステップS26)、駆動電流値Saもそれによるモータ駆動も遮断桿4の下降動作も従来と同様になる(ステップS15〜S17)。
【0058】
下降完了後は(図2の時刻t2〜t3参照)、遮断桿4が下降停止位置に来て現角度Bbが目標角度に一致するため(図1のステップS11のY)、モータの駆動電流を変える昇降制御(図1のステップS12〜S17,S21〜S26)が行われないので、異常処理(図1ステップS14)も行われず、現電流Baが遮断桿4を下降停止位置に保持するのに必要な小電流値を維持する(図2(b),(f)参照)。このときも、給電線6での電圧降下が小さいため、給電線6を介して踏切しゃ断機が受けた受電圧RVが、信号器具箱5の出力端子の電圧に近い24Vになっている(図2(c),(g)参照)。そして、受電圧RVが基準電圧NVを上回り続けるので、電圧低下検出LVがロー状態・正常状態を維持し(図2(d)参照)、異常処理(図1のステップS14)は行われない。
【0059】
その後(図2の時刻t3〜t4参照)、四台の踏切しゃ断機のうち踏切道3の進出側に配設された残りの二台においても、同様の下降制御がなされて(図1のステップS11のN,S12の正常,S22,S23,S26,S15,S16,S17)、モータ23が上述の進入側と同様に駆動される(図2(e),(f)参照)。更に、下降完了後も(図2の時刻t4〜t5参照)、上述の進入側と同様に、進出側の踏切しゃ断機でも、遮断桿4が下降停止位置にとどまり(図1のステップS11のY)、現電流Baが小さいままとなる(図2(f)参照)。そのため、これらの期間でも(図2の時刻t3〜t5参照)、受電圧RVが基準電圧NVを上回り(図2(c),(g)参照)、電圧低下検出LVがロー状態・正常状態を維持し(図2(d)参照)、電圧低下検出LVの一時低下も継続低下も検出されず、異常処理(図1のステップS14)は行われない。
【0060】
それから、列車が踏切道3を通過し終えると(図2の時刻t5参照)、それに応じて昇降指示TERが上昇指示に転じる。
すると、四台の踏切しゃ断機において、やはり従来同様、一斉に、昇降指示CR1が遮断桿4の上昇を指示するハイ状態・リレー扛上状態になる(図2(a),(e)参照)。そして、それに応じて進入側でも進出側でも遮断桿4を上昇させる新たな通常の制御が行われる(図1のステップS11のN,S21,S12の正常,S22のN,S23,S26,S15,S16,S17)。
【0061】
すなわち、上昇制御ではバランサー無しで片持ちしている遮断桿4をフィードバック制御にて上向きに揺動させるために、遮断桿4の上昇初期に現電流Baが急増するが(図1ステップS11のN,S21)、未だピークには至らない上昇動作の当初は(図2の時刻t5直後)、給電線6での電圧降下も未だ過大には至らないことから、何れの踏切しゃ断機でも、電圧低下検出LVが正常を示すので(図1ステップS12の正常)、現電力制限値Plcが絶対電力制限値Plpのまま(図1ステップS22のN,S23)、増加抑制処理も緩慢回復処理も行われることなく、通常のフィードバック制御による上昇制御が行われる(図1ステップS26,S15,S16,S17)。
【0062】
総ての給電線6,6,…の抵抗が電線抵抗最大値の規制より小さく、更に信号器具箱5のバッテリ劣化等による内部抵抗の増加も小さければ、そのような通常の昇降制御が突入電流のピーク時も含めて継続されるのであるが、本実施例では、課題解決状況を示すために、仮に進入側の一台の踏切しゃ断機に接続された給電線6の抵抗値が電線抵抗最大値の規制より大きかったとする。信号器具箱5の内部抵抗も大きくなっていたとする。
この場合、その進入側の踏切しゃ断機では、現電流Baがピークに至る前に(図2の時刻t5の少し後を参照)、給電線6での電圧降下が過大になって(図2(b)参照)、受電圧RVが基準電圧NVを下回ることから(図2(c)参照)、電圧低下検出LVが低下状態を示す(図2(d)参照)。
【0063】
そうすると、その進入側の踏切しゃ断機では、速やかに(図1ステップS13のN)、現電力Pから減少値βを減じた値が現電力制限値Plcに採用されて(図1ステップS25)、制限電流値Pmが下がるので(図1ステップS26)、それ以後の昇降制御では、増加抑制処理が行われることとなり、駆動電流値Saが抑えられる(図1ステップS15〜S17)。そして、それによってモータの駆動電流さらには現電流Baが下がるため(図2(b)参照)、遮断桿4の上昇速度や加速度が抑制されて遮断桿4の初動が鈍くなったりするが、短時間のうちに受電圧RVが基準電圧NVを上回るところまで回復するので(図2(c)参照)、電圧低下検出LVが正常を示す状態に戻る(図2(d)参照)。
【0064】
電圧低下検出LVが正常状態を示すようになると(図1ステップS12の正常)、先の増加抑制処理によって現電力制限値Plcが絶対電力制限値Plpより小さくなっていたことが緩慢回復処理実行可否確認によって判ることから(図1ステップS22のY)、現電力制限値Plcを増加値αだけ増やす緩慢回復処理が行われるので(図1ステップS24)、現電力制限値Plcと制限電流値Pmと駆動電流値Saが緩やかに増大する状態の下で上昇制御が行われる(図1ステップS26,S15〜S17参照)。
【0065】
そして、それによってモータの駆動電流ひいては現電流Baが給電線6での電圧降下を過大にするところまで増加すると、再び、上述した増加抑制処理の開始状態になるので、増加抑制処理と緩慢回復処理とを交互に繰り返しながら(本例では二回だけ図示,図2(c),(d)参照)、上昇制御が進行する(図2時刻t5〜t6参照)。そのため、モータの駆動電流ひいては現電流Baの波形では突入電流のピークが潰れて後方へずれ(図2(b)参照)、受電圧RVは基準電圧NV付近に留められ(図2(c)参照)、電圧低下検出LVは低下を示すのが間欠的・散発的になって低下状態が継続しないので(図2(d)参照)、異常処理(図1のステップS14)が行われることなく、遮断桿4が当初の遅れを取り戻しながら上昇停止位置まで上昇し、そこで停止する(図2時刻t6参照)。
【0066】
また、このような規制から逸脱した給電線6に繋がっている踏切しゃ断機について自動的に過大電流の抑制が行われると、それに伴って、規制に則っている他の踏切しゃ断機にも、幾ばくかの良い効能が及ぶ。
すなわち、上述したように規制から逸脱した給電線6に繋がっている進入側の踏切しゃ断機がモータ駆動に大きな突入電流を流したとすると、それを含めた信号器具箱5のバッテリ等からの全給電量も大きくなるが、進入側の踏切しゃ断機の突入電流のピーク低減によってその分だけ信号器具箱5側の全給電量のピーク値も下がることから、信号器具箱5における電圧低下がそれなりに小さくなるので、他の踏切しゃ断機では、モータの駆動電流が同じなら受電圧RVが高めになるため、大きな突入電流が流れても(図2(f)参照)、受電圧RVが基準電圧NVを下回ることがなく(図2(g)参照)、遮断桿4が上昇開始時から円滑に上昇する、という良状態の頻度が向上する。
【0067】
[その他]
上記実施例では、電圧低下検出LVが低下状態を示したら(図1のステップS13のN)、現電力制限値Plcを減少値βだけ下げるという処理「Plc←P−β」を行って、受電圧RVの低下検出時に現電力Pを明確に低減させるようになっていたが(図1のステップS25)、これは必須でなく、他の処理との兼ね合いによっては、現電力Pの増加を回避するにとどめても良く、その場合は、現電力制限値Plcに現電力Pを採用する(具体的には値を転記や代入する)といった処理を行うようにしても良い(図1のステップS25の内容を「Plc←P」に変更する)。
【0068】
その場合の具体例としては、電圧低下検出(図1ステップS12)の際に、電圧低下検出回路33の電圧低下検出LVを用いるのでなく、その基準電圧NVより基準電圧を少し高めに設定した別の電圧低下検出回路による電圧低下検出結果を用いる場合が挙げられる。また、現電力制限値Plcと現電力Pとが等しい状態が続くときには電圧低下検出LVの低下継続を認定しないという判定手法(図1ステップS13の改造)が採用されている場合も、他の具体例として挙げられる。さらに、昇降制御の異常処理で(図1ステップS14)、診断結果Sbにて故障通知リレー42を制御することを行わないようにするとともに、遮断桿の上昇制御を打ち切らないようにする場合なども、具体例の一つとして挙げられる。
【0069】
上記実施例の手法では、電圧低下検出LVが低下状態を示し続ける状況が低減・回避されることから、遮断桿上昇の妨害を電圧低下検出LVの低下継続で検出するのが難しい或いは時間を要するようになっているが、例えば上昇開始後の電圧低下検出LVの低下の総回数や既述した上昇経過時間のタイムアウト等にて簡便に代用できるので、実用上の不都合はない。給電系や回路の故障といった重篤な異常は、依然として、電圧低下検出LVの低下継続によって検出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、バランサーを装備していない踏切しゃ断機の改良を契機としてなされたものであるが、バランサーを具備していている踏切しゃ断機に適用しても不都合は無い。
また、本発明は、遮断桿を片持ち状態で揺動させる踏切しゃ断機の改良を契機としてなされたものであるが、遮断桿を両持ち状態で保持する踏切しゃ断機や、遮断桿を揺動させずに上下動させる踏切しゃ断機に適用しても、やはり不都合は無い。
【符号の説明】
【0071】
2…線路、3…踏切道、4…遮断桿、5…信号器具箱、6…給電線、7…信号線、
10…踏切しゃ断機、
20…機構部(機械部)、21…遮断桿保持機構、22…減速機構、23…モータ、
30+40…制御回路、
30…電子回路(制御回路)、
31…CPU(コンピュータ)、32…DC/DC電源、33…電圧低下検出回路、
34…モータ駆動回路、35…電流センサ、36…角度センサ、37…位置センサ、
40…リレー回路(制御回路)、
41…昇降指示リレー(CR1)、42…故障通知リレー(故障R)、
Sa…駆動電流値(モータ指令)、Ba…現電流(検出値)、
Bb…現角度(検出値)、Bc…現位置(検出値)、LV…電圧低下検出
図1
図2
図3
図4
図5