特許第6902389号(P6902389)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6902389ゴム組成物の製造方法およびタイヤの製造方法
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  • 特許6902389-ゴム組成物の製造方法およびタイヤの製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6902389
(24)【登録日】2021年6月23日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】ゴム組成物の製造方法およびタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60C 1/00 20060101AFI20210701BHJP
   B29B 7/30 20060101ALI20210701BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20210701BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20210701BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20210701BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20210701BHJP
   B29L 30/00 20060101ALN20210701BHJP
【FI】
   B60C1/00 A
   B60C1/00 B
   B29B7/30
   C08J3/20 ZCEQ
   C08L21/00
   C08K3/36
   C08K5/54
   B29L30:00
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-87338(P2017-87338)
(22)【出願日】2017年4月26日
(65)【公開番号】特開2018-184538(P2018-184538A)
(43)【公開日】2018年11月22日
【審査請求日】2020年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永江 太一
(72)【発明者】
【氏名】村上 智洋
【審査官】 清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−306948(JP,A)
【文献】 特開2016−166349(JP,A)
【文献】 特開2006−036918(JP,A)
【文献】 特開2015−021111(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/140253(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/123072(WO,A1)
【文献】 ゴム物性一覧表,華陽物産株式会社,2011年 2月 5日,URL,http://web.archive.org/web/20110205191721/https://kayo-corp.co.jp/common/pdf/rub_propertylist.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00−3/28
99/00
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
B29C 44/00−44/60
67/20−67/24
B29D 30/00−30/72
B60C 1/00−19/12
B29B 7/30
B29L 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともゴム、シリカおよびシランカップリング剤を連続式混練機で混練する工程と、
前記工程でつくられた混合物を、前記工程より高いゴム温度で混練することでカップリング反応をすすめる工程とを含む、
タイヤの製造方法。
【請求項2】
少なくとも前記ゴム、前記シリカおよび前記シランカップリング剤を混練する前記工程は、140℃未満のゴム温度で混練する工程である、請求項1に記載のタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記カップリング反応をすすめる前記工程において前記ゴム温度は140℃以上である、請求項1または2に記載のタイヤの製造方法。
【請求項4】
少なくとも前記ゴム、前記シリカおよび前記シランカップリング剤を混練する前記工程では、前記連続式混練機の第1領域で混練し、
前記カップリング反応をすすめる前記工程では、前記第1領域の下流に位置する、前記連続式混練機の第2領域で前記混合物を混練する、
請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤの製造方法。
【請求項5】
少なくとも前記ゴム、前記シリカおよび前記シランカップリング剤を混練する前記工程で前記混合物を押出す、請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ゴム組成物の製造方法およびタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
密閉式混練機であるバンバリーミキサーで、シリカやシランカップリング剤などの配合剤をゴムに分散させることが知られている。この分散方法では、ゴムや配合剤をバンバリーミキサーのチャンバーに投入し、混練する。
【0003】
しかしながら、バンバリーミキサーにおいて、シリカをよく分散させるためにゴムに高せん断をかけると、ゴム温度が上がり過ぎ、ゴム焼けを起こすことがある。これは、バンバリーミキサーでは、ゴム温度が上がりやすく、温度調整が難しいからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−1231号公報
【特許文献2】特許5204610号公報
【特許文献3】特開5567302号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示におけるゴム組成物の製造方法は、少なくともゴム、シリカおよびシランカップリング剤を連続式混練機で混練する工程(以下、「第1工程」ということがある。)と、第1工程でつくられた混合物を、第1工程より高いゴム温度で混練することでカップリング反応をすすめる工程(以下、「第2工程」ということがある。)とを含む。本開示におけるゴム組成物の製造方法を、本開示におけるタイヤの製造方法は含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態1で使用する連続式混練機や周辺装置などを示す模式図である。連続式混練機については内部構造を示している。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本開示の実施形態は、シリカ分散を向上可能な、ゴム組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
実施形態におけるゴム組成物の製造方法は、少なくともゴム、シリカおよびシランカップリング剤を連続式混練機で混練する第1工程と、第1工程でつくられた混合物を、第1工程より高いゴム温度で混練することでカップリング反応をすすめる第2工程とを含む。
【0009】
実施形態におけるゴム組成物の製造方法は、ゴムの発熱を抑制しながらゴムにせん断をかけることが可能であるため、カップリング反応の進行前にシリカ分散を高めることができ、この結果としてゴム組成物のシリカ分散を高めることができる。ゴムの発熱を抑制しながらゴムにせん断をかけることが可能な理由は、連続式混練機の使用にある。連続式混練機は、ゴムを移動させながら混練するため、ゴムをチャンバーで混練する密閉式混練機とくらべて、ゴムを効率的に冷却できる。さらに、連続式混練機は、密閉式混練機とくらべて、ゴムと冷却面との接触面積を大きくとることが可能であり、ゴムを効率的に冷却できる。
【0010】
第1工程は、140℃未満のゴム温度で混練する工程であることが好ましい。第2工程においてゴム温度は140℃以上であることが好ましい。
【0011】
第1工程では、連続式混練機の第1領域で混練することが好ましく、第2工程では、第1領域の下流に位置する、連続式混練機の第2領域で混合物を混練することが好ましい。これでなく、第1工程では混合物を押出してもよい。
【0012】
実施形態におけるタイヤの製造方法は、第1工程と第2工程とを含む。
【0013】
実施形態1
ここからは、実施形態1で本開示を説明する。まず、連続式混練機5を説明する。
【0014】
図1に示すように、連続式混練機5は、バレル52を備える。バレル52は、セグメント521a、521b、521c、・・・、521gを備える。セグメント521a、521b、521c、・・・、521gそれぞれの内部には、冷却流体用の流路が設けられている。セグメント521a、521b、521c、・・・、521gそれぞれの温度は独立して設定可能である。セグメント521a、521b、521c、・・・、521gそれぞれの温度は、温度調節機61、62、63、・・・、67で設定できる。冷却流体として、オイル、水などの液体を挙げることができる。セグメント521aには、原材料供給口527が設けられている。セグメント521bには、シランカップリング剤注入口が設けられている。セグメント521bには、オイル注入口も設けられている。バレル52の第1領域522は、バレル52の第2領域523の上流に位置する。第1領域522は、セグメント521a、521b、521c、521dで構成される。第2領域523は、第1領域522の下流で第1領域522に隣接している。第2領域523は、セグメント521e、521f、521gで構成される。
【0015】
連続式混練機5はスクリュー51を備える。スクリュー51は、バレル52内に位置する。スクリュー51は、モーター510によって回転することが可能である。スクリュー51は、スクリュー軸と、スクリューエレメント511、512、513、・・・、517とを備える。スクリュー軸の内部には、冷却流体用の流路が設けられている。冷却流体として、オイル、水などの液体を挙げることができる。各スクリューエレメント511、512、513、・・・、517はスクリュー羽根を備える。各スクリューエレメント511、512、513、・・・、517には貫通孔が設けられている。スクリューエレメント511、512、513、・・・、517の貫通孔にスクリュー軸が挿入されている。スクリューエレメント511、512、513、・・・、517は、スクリュー軸から分離可能であり、組み換え可能である。
【0016】
実施形態1におけるゴム組成物の製造方法は、少なくともゴム、シリカ、シランカップリング剤を連続式混練機5で、第1領域522において混練する工程を含む。たとえば、ゴムと、シリカ、カーボンブラック、ステアリン酸、ワックス、酸化亜鉛、老化防止剤、シランカップリング剤、オイルなどの配合剤を第1領域522に供給し、第1領域522においてゴム温度140℃未満、好ましくは130℃以下で混練する。混練中におけるゴム温度の下限は、たとえば50℃である。この際、ゴム、シリカ、カーボンブラック、ステアリン酸、ワックス、酸化亜鉛、老化防止剤などは、フィーダを用いて原材料供給口527から供給することが可能であり、シランカップリング剤は、注入ポンプ528を用いてシランカップリング剤注入口から供給できる。フィーダとして、ベルト式フィーダ、スクリュー式フィーダ、振動式フィーダなどを挙げることができる。オイルは、注入ポンプ529を用いてオイル注入口から供給できる。ゴムは、たとえば天然ゴム、イソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴムなどである。これらは、単独で、または2種以上で使用できる。シリカも、単独で、または2種以上で使用できる。シリカの量は、ゴム100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上である。シリカ量の上限は、ゴム100質量部に対して、たとえば200質量部である。シランカップリング剤としては、たとえば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリエキトシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)ジスルフィドなどのスルフィドシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、メルカプトエチルトリエトキシシランなどのメルカプトシラン、3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシラン、3−プロピオニルチオプロピルトリメトキシシランなどの保護化メルカプトシランを挙げることができる。これらは、単独で、または2種以上で使用できる。シランカップリング剤の量は、シリカ100質量部に対し、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上である。シランカップリング剤量の上限は、シリカ100質量部に対し、たとえば20質量部、15質量部などである。
【0017】
第1領域522で混練する工程でつくられた混合物を、第2領域523において、第1領域522で混練する工程より高いゴム温度で混練することでカップリング反応をすすめる工程を、実施形態1におけるゴム組成物の製造方法は含む。この工程では、たとえば、混合物を、ゴム温度140℃以上、好ましくは150℃以上で混練する。ゴム温度の上限は、たとえば170℃である。
【0018】
カップリング反応をすすめる工程で得られた加硫系配合剤添加前ゴムに加硫系配合剤を練り込み、ゴム組成物を得る工程を、実施形態1におけるゴム組成物の製造方法はさらに含む。加硫系配合剤として硫黄、有機過酸化物などの加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、加硫遅延剤などを挙げることができる。硫黄として粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを挙げることができる。加硫促進剤としてスルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などを挙げることができる。この工程では、密閉式混合機、オープンロールなどを使用することができる。密閉式混合機としてバンバリーミキサー、ニーダーなどを挙げることができる。
【0019】
ゴム組成物は、ゴム、シリカ、シランカップリング剤を含む。ゴム組成物は、カーボンブラック、ステアリン酸、ワックス、酸化亜鉛、老化防止剤、オイル、硫黄、加硫促進剤などをさらに含むことができる。
【0020】
ゴム組成物は、トレッド、サイドウォールなどのタイヤ部材に使用することができる。なかでもトレッドが好ましい。
【0021】
ゴム組成物を含むタイヤ部材を備える生タイヤをつくる工程を、実施形態1におけるタイヤの製造方法は含む。生タイヤを加熱する工程を実施形態1におけるタイヤの製造方法はさらに含む。実施形態1の方法で得られたタイヤは、空気入りタイヤであることができる。
【0022】
実施形態1の変形例1を説明する。実施形態1におけるゴム組成物の製造方法は、第1領域522と第2領域523との両者が設けられた連続式混練機5を使用するものの、変形例1は、両者のうち第1領域522のみが設けられた第1連続式混練機と、両者のうち第2領域523のみが設けられた第2連続式混練機とを使用する。具体的には、第1連続式混練機で混合物を押出し、混合物を第2連続式混練機で混練する。
【0023】
実施形態1の変形例2を説明する。実施形態1におけるゴム組成物の製造方法は、第1領域522と第2領域523との両者が設けられた連続式混練機5を使用するものの、変形例2は、両者のうち第1領域522のみが設けられた第1連続式混練機と、密閉式混合機とを使用する。具体的には、第1連続式混練機で混合物を押出し、混合物を密閉式混合機で混練する。
【0024】
実施形態1の変形例3を説明する。実施形態1におけるゴム組成物の製造方法は、ゴム、シリカおよびシランカップリング剤を混練する工程と、混合物を混練することでカップリング反応をすすめる工程との両者において単軸の連続式混練機5を用いるものの、変形例3は、連続式混練機5に代えて、多軸の連続式混練機を用いる。多軸の連続式混練機として、たとえば、12本の同方向回転スクリューがリング状に配置された連続式混練機を挙げることができる。
【実施例】
【0025】
以下に、本開示の実施例を説明する。
【0026】
実施例1における加硫ゴムの作製
図1に示す連続式混練機5において、第1領域522の全セグメント(セグメント521a、521b、521c、521d)と、第2領域523の全セグメント(セグメント521e、521f、521g)とを、表1に示す温調温度に設定した。連続式混練機5に、スチレンブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、シリカ、シランカップリング剤(デグサ社製の「Si75」)、オイルを供給し、第1領域522と第2領域523とで混練し、硫黄添加前ゴムを得た。混練中、第1領域522と第2領域523とにおいてゴム温度を測定した。硫黄添加前ゴムと硫黄と加硫促進剤とをバンバリーミキサーで混練りし、未加硫ゴムを得た。未加硫ゴムを、160℃で30分間加硫し、加硫ゴムを得た。
【0027】
比較例1における加硫ゴムの作製
連続式混練機5に代えてバンバリーミキサーを使用したこと以外は、実施例1と同じ方法で加硫ゴムを作製した。硫黄添加前ゴムの排出温度は155℃、排出までの混練時間は7分であった。
【0028】
比較例2における加硫ゴムの作製
セグメント521a、521b、521c、・・・、521gそれぞれの温調温度を変更したこと以外は、実施例1と同じ方法で加硫ゴムを作製した。
【0029】
低発熱性能
初期歪み10%、動的歪み2%、周波数50Hz、温度60℃で、東洋精機製粘弾性スペクトロメータで測定した加硫ゴムのtanδ値に基づいて、発熱性能を評価した。比較例1の値を100とした指数で、発熱性能を示した。指数は、小さいほど低発熱性能に優れることを意味する。結果を表1に示す。
【0030】
ペイン効果の測定
加硫ゴムについて、アルファテクノロジーズ製RPA2000を使用し、温度60℃、周波数1.667Hzの条件で、歪を0.5%から45%まで変化させた時の最大せん断力から最小せん断力を引いた値を測定し、比較例1の測定結果を100とした指数で、各例の測定結果を示した。指数が小さいほどフィラーの分散性が良好であることを意味する。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
実施例1の加硫ゴムは、比較例1の加硫ゴムと比べて、シリカ分散と低発熱性能とに優れていた。実施例1の加硫ゴムは、比較例2の加硫ゴムと比べて、シリカ分散に優れていた。
図1