特許第6902519号(P6902519)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6902519エンジン油の摩耗保護を増強させるための分散剤粘度指数向上剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6902519
(24)【登録日】2021年6月23日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】エンジン油の摩耗保護を増強させるための分散剤粘度指数向上剤
(51)【国際特許分類】
   C10M 161/00 20060101AFI20210701BHJP
   C10M 149/00 20060101ALN20210701BHJP
   C10M 139/00 20060101ALN20210701BHJP
   C10M 133/00 20060101ALN20210701BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20210701BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20210701BHJP
   C10N 20/04 20060101ALN20210701BHJP
   C10N 30/02 20060101ALN20210701BHJP
   C10N 30/04 20060101ALN20210701BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20210701BHJP
【FI】
   C10M161/00
   !C10M149/00
   !C10M139/00 Z
   !C10M133/00
   C10N10:04
   C10N10:12
   C10N20:04
   C10N30:02
   C10N30:04
   C10N40:25
【請求項の数】18
【全頁数】42
(21)【出願番号】特願2018-198273(P2018-198273)
(22)【出願日】2018年10月22日
(65)【公開番号】特開2019-77864(P2019-77864A)
(43)【公開日】2019年5月23日
【審査請求日】2019年12月26日
(31)【優先権主張番号】15/793,401
(32)【優先日】2017年10月25日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】391007091
【氏名又は名称】アフトン・ケミカル・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】Afton Chemical Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ポール・ランソン
(72)【発明者】
【氏名】ギヨーム・カルペンティエル
【審査官】 松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−527480(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0044460(US,A1)
【文献】 特開2008−063566(JP,A)
【文献】 特開2009−173868(JP,A)
【文献】 特開2008−189919(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0111797(US,A1)
【文献】 国際公開第2015/138108(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00−177/00
C10N 10/00− 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン油組成物であって、前記エンジン油組成物が、
a)前記エンジン油組成物の総重量を基準として、50重量%超の潤滑粘度の基油であって、前記基油が、グループIII基油、グループIV基油、グループV基油、およびこれらの混合物からなる群から選択される、基油と、
b)前記エンジン油組成物の総重量を基準として、0.5〜8.0重量%の分散剤粘度指数向上剤であって、前記分散剤粘度指数向上剤が、オレフィンコポリマーと、アシル化剤と、ポリアミンとの反応生成物であり、前記オレフィンコポリマーが、エチレンと1つ以上のC3−C28アルファオレフィンとのコポリマーであり、かつ前記オレフィンコポリマーが5,000g/mol〜150,000g/molの数平均分子量を有する、分散剤粘度指数向上剤と、
c)1つ以上のカルシウム含有洗剤であって、前記1つ以上のカルシウム含有洗剤が、前記エンジン油組成物の総重量を基準として、000ppmw〜2200ppmwのカルシウムを前記エンジン油組成物に提供する、1つ以上のカルシウム含有洗剤と、
d)前記エンジン油組成物に1ppmw〜550ppmwのモリブデンを提供するのに十分な量の1つ以上のモリブデン含有化合物と、
e)0.1重量%〜10重量%の窒素含有分散剤であって、分散剤からの全窒素に対する洗剤からの全金属の比が、2.5未満である、窒素含有分散剤と、を含み、
前記エンジン油組成物が、0W−Xまたは5W−XのSAE粘度グレード(ここで、X=16、20、30、または40である)と、両方とも前記エンジン油組成物の総重量を基準として、00ppmw〜000ppmwのリンと、ASTM D874で測定した際に1.2重量%以下の総硫酸化灰含有量と、を有し、
前記ポリアミンが、
(a’)式(I)で表されるN−アリールフェニレンジアミン:
【化1】
(式中、R1は、水素、−NH−アリール、−NH−アリールアルキル、−NH−アルキル、またはアルキル、アルケニル、アルコキシル、アラルキル、アルカリール、ヒドロキシアルキル、およびアミノアルキルから選択される4〜24個の炭素原子を有する分岐もしくは直鎖ラジカルであり、R2は、−NH2、CH2−(CH2n−NH2、またはCH2−アリール−NH2であり、nは、1〜10の値を有し、R3は、水素、アルキル、アルケニル、アルコキシル、アラルキル、および4〜24個の炭素原子を有するアルカリールから選択される)、
(b’)アミノチアゾール、アミノベンゾチアゾール、アミノベンゾチアジアゾールおよびアミノアルキルチアゾールからなる群から選択されるアミノチアゾール、
(c’)次式で表されるアミノカルバゾール:
【化2】
(式中、R4およびR5は、水素または1〜14個の炭素原子を有するアルキル、アルケニルまたはアルコキシ基を表す)、
(d’)次式で表されるアミノインドール:
【化3】
(式中、R6は、水素または1〜14個の炭素原子を有するアルキル基を表す)、
(e’)次式で表されるアミノピロール:
【化4】
(式中、R7は、2〜6個の炭素原子を有する2価のアルキレン基であり、R8は、水素または1〜14個の炭素原子を有するアルキル基である)、
(f’)次式で表されるアミノ−インダゾリノン:
【化5】
(式中、R9は、水素または1〜14個の炭素原子を有するアルキル基を表す)、
(g’)次式で表されるアミノメルカプトトリアゾール:
【化6】
(式中、R10が存在しなくてもよく、またはアルキレン、アルケニレン、アリールアルキレン、もしくはアリーレンからなる群から選択されるC1−C10直鎖または分岐ヒドロカルビレンであり、R11は、水素、またはC1−C14アルキル、アルケニル、アラルキル、もしくはアリール基である)、
(h’)次式で表されるアミノペリミジン:
【化7】
(式中、R12は、水素または1〜14個の炭素原子を有するアルキルもしくはアルコキシ基を表す)、ならびに
(i')アミノアルキルイミダゾール、
からなる群から選択される1つ以上のアミンである、エンジン油組成物。
【請求項2】
分散剤からの全窒素に対する洗剤からの全金属の比が、2.0未満である、請求項1に記載のエンジン油組成物。
【請求項3】
前記基油が、グループIII基油、グループIV基油、またはこれらの混合物を含む、請求項1〜2のうちのいずれか1項に記載のエンジン油組成物。
【請求項4】
前記アシル化剤が、少なくとも1つのカルボン酸基またはカルボン酸無水物基を有するエチレン性不飽和アシル化剤である、請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載のエンジン油組成物。
【請求項5】
前記アシル化剤が、無水マレイン酸である、請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載のエンジン油組成物。
【請求項6】
前記ポリアミンが、式IのN−アリールフェニレンジアミンであり、
【化8】
式中、R1は、水素、−NH−アリール、−NH−アリールアルキル、−NH−アルキル、またはアルキル、アルケニル、アルコキシル、アラルキル、アルカリール、ヒドロキシアルキル、およびアミノアルキルから選択される4〜24個の炭素原子を有する分岐もしくは直鎖ラジカルであり、R2は、−NH2、CH2−(CH2n−NH2、またはCH2−アリール−NH2であり、nは、1〜10の値を有し、R3は、水素、アルキル、アルケニル、アルコキシル、アラルキル、および4〜24個の炭素原子を有するアルカリールから選択される、請求項1〜5のうちのいずれか1項に記載のエンジン油組成物。
【請求項7】
前記ポリアミンが、N−フェニル−1,4−フェニレンジアミン、N−フェニル−1,3−フェニレンジアミン、およびN−フェニル−1,2−フェニレンジアミンからなる群から選択される、請求項1〜5のうちのいずれか1項に記載のエンジン油組成物。
【請求項8】
前記エチレンと1つ以上のC3−C28アルファオレフィンとのコポリマーが、10〜80重量%のエチレンおよび20〜90重量%の前記1つ以上のC3−C28アルファオレフィンを含む、請求項1に記載のエンジン油組成物。
【請求項9】
前記エチレンと1つ以上のC3−C28アルファオレフィンの前記コポリマーが、ポリマー骨格の1000数平均分子量単位当たり0.14〜6.86のカルボキシル基を含有する、請求項1に記載のエンジン油組成物。
【請求項10】
摩擦調整剤、耐摩耗剤、酸化防止剤、消泡剤、プロセス油、および流動点降下剤からなる群から選択される1つ以上の成分をさらに含む、請求項1〜9のうちのいずれか1項に記載のエンジン油組成物。
【請求項11】
前記エンジン油組成物が、請求項1に記載の前記分散剤粘度指数向上剤以外の追加の粘度指数向上剤を含有しない、請求項1〜10のうちのいずれか1項に記載のエンジン油組成物。
【請求項12】
前記エンジン油組成物が、摩擦調整剤を含有しない、請求項1〜11のうちのいずれか1項に記載のエンジン油組成物。
【請求項13】
前記カルシウム含有洗剤が、前記エンジン油組成物の総重量を基準として、1100ppmw〜2000ppmwのカルシウムを前記エンジン油組成物に提供する、請求項1〜12のうちのいずれか1項に記載のエンジン油組成物。
【請求項14】
前記カルシウム含有洗剤が、前記エンジン油組成物の総重量を基準として、少なくとも300ppmwのカルシウムを前記エンジン油組成物に送達するのに十分な量のカルシウムフェネートを含む、請求項1〜13のうちのいずれか1項に記載のエンジン油組成物。
【請求項15】
前記カルシウム含有洗剤が、カルシウム含有洗剤の混合物を含み、前記洗剤の混合物の50%超が、スルホン酸カルシウム洗剤である、請求項1〜14のうちのいずれか1項に記載のエンジン油組成物。
【請求項16】
前記エンジン油組成物の総重量を基準として、重量%〜重量%の前記分散剤粘度指数向上剤を含む、請求項1〜15のうちのいずれか1項に記載のエンジン油組成物。
【請求項17】
エンジンの摩耗保護を向上させる方法であって、請求項1〜16のうちのいずれか1項に記載のエンジン油組成物で前記エンジンを潤滑するステップを含む、方法。
【請求項18】
エンジンを動作させる方法であって、前記方法が、
請求項1〜16のうちのいずれか1項に記載のエンジン油組成物で前記エンジンを潤滑するステップと、
前記エンジンを動作させるステップと、を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多機能性オレフィンコポリマー粘度指数向上剤を含有するエンジン油に関する。より具体的には、多機能性オレフィンコポリマー粘度指数向上剤を含むエンジン油組成物は、良好な増粘力、優れた分散性、向上した煤煙処理、摩耗保護、及びピストン清浄度のうちの1つ以上を提供し得る。
【背景技術】
【0002】
近年、燃費重視が高まっている。車両の燃費を向上させる1つのアプローチは、耐久性のために良好な膜厚を維持しながら、摩擦を低減し、より低い高温高せん断(「HTHS」)粘度を有する新しい潤滑油を設計することである。燃費を向上させ、車両のCO排出を低減させる試みにおいて、相手先ブランド名製造(Original Equipment Manufacturer:OEM)による低粘度グレードの使用及び規定化がますます広まっている。欧州では、いくつかのOEMが、乗用車用ガソリン及びディーゼル車両用に0W−xx及び5W−xxの粘度グレードを検討している。例えば、Volkswagen(VW)及びBayerische Motoren Werke(BMW)は、0W−20の仕様を有する。BMW仕様は、LL−14FE+として知られている。
【0003】
これらの低減された粘度グレードを有するエンジン油を提供するための課題の1つは、エンジンの清浄度を維持することである。このようなエンジン油は、所望の燃費利益を提供しながら、エンジンスラッジを低減し、良好な煤煙処理及び摩耗保護を提供することができなければならない。これらの目標は、低レベルの硫酸灰分及びリンを維持し、ならびにシールの適合性を保証しながら達成されるべきである。粘度指数向上剤(「VII」)は、これらの所望の特性を有するエンジン油の配合において重要な役割を果たす。これらの要件を満たす低粘度グレードを有する新しいエンジン油を提供する必要がある。
【0004】
これらの低粘度グレードのエンジン油の別の課題は、いくつかのOEMが、エンジン油がOM646LAエンジンの摩耗試験に合格することを必要としているか、またはこれから必要とすることである。したがって、場合によっては、この試験のいくつかの要件に合格するために、エンジン油配合物が好適でなければならない。
【0005】
油の温度の上昇に伴って、エンジン油の粘度は一般に低下し、油の温度が低下すると、油の粘度は一般に上昇する。現代のエンジンは、典型的には高温で動作する。エンジンの可動部品を適切に潤滑させるために、エンジンがこれらの高温で動作している間、エンジン油の粘度を指定された範囲内に維持することが重要である。付加的に、エンジン油は、エンジンが運転していないときに、環境から低温にさらされる可能性がある。これらの条件下で、油の粘度は、エンジン始動条件下で遭遇する温度で油が流れるように、十分に低いままでなければならない。様々な温度に対する許容可能な油粘度範囲は、SAE J300規格によって明記されている。
【0006】
エンジン油はまた、エンジンに使用されると高いせん断速度に遭遇する。文献では、10−1のような高いせん断速度が報告されている。高温高せん断(HTHS)条件下での潤滑剤の粘度挙動は、燃費に影響を及ぼし得る。比較的高いHTHS粘度を有する流体は、典型的には、エンジン動作中にエンジン表面の境界により厚い油膜が形成されるため、低燃費を示す。対照的に、比較的低いHTHS粘度を有する流体は、より薄い油膜を形成し、それによって燃費が向上する。
【0007】
基油は、典型的には、VIIなどの添加剤の添加なしでは、SAE J300の粘度要件を満たさない。VIIは、潤滑剤の粘度が温度と共に変化する程度を低減するために使用され得、SAE J300規格を満たす油を配合するためにしばしば使用される。好適なVIIは、典型的には、エチレン−プロピレンコポリマー、ポリメタクリレート、水素化スチレン−ブタジエンコポリマー、ポリイソブチレンなどから誘導され得るポリマー材料を含む。
【0008】
エチレン−プロピレンコポリマーは、エンジン油用のVIIとしてしばしば使用される。そのようなコポリマーのエチレン含有量は、45〜85モル%の範囲であり得る。60モル%のエチレンを含有するこのようなコポリマーから誘導されたVIIが、一般に使用され、SAE J300要件を満たすために油中で比較的高い処理速度を必要とする。約65モル%エチレン〜85モル%エチレンより多く含有するこのようなコポリマーから誘導されたVIIは、一般に、これらのより大きな増粘力のために約60モル%のエチレンを含有するものよりもSAE J300要件を満たすために油中で低い処理速度を必要とする。
【0009】
US2013/0172220A1は、(a)10〜80重量%未満のエチレンと、20超から90重量%までの少なくとも1つのC−C28アルファオレフィンを含む油溶性のエチレン−アルファオレフィンコポリマーとの反応生成物である潤滑油組成物用の添加剤に関する。コポリマーは、約5,000〜120,000の数平均分子量を有し、少なくとも1つのカルボン酸または無水物基を有するエチレン性不飽和アシル化剤0.5〜5.0重量%と反応またはグラフト化され、(b)次式のヒドロカルビル置換ポリ(オキシアルキレン)モノアミンと反応する。
【0010】
【化1】
【0011】
式中、Rは約1〜約35個の炭素原子を有するヒドロカルビル基であり、R及びRは、各々別個に、水素、メチルまたはエチルであり、Aは、約1〜10個の炭素原子を有するアミノ、−CH−アミノまたはN−アルキルアミノであり、xは2〜約45の整数である。
【0012】
米国特許第6,107,257号は、多機能性オレフィンコポリマー粘度指数向上剤を含む潤滑油組成物のための添加剤に関する。無水マレイン酸は、溶媒の存在下でエチレン−プロピレンコポリマー骨格上に反応またはグラフト化され、次いで、グラフト化コポリマーは、界面活性剤の存在下でN−アリールフェニレンジアミンなどのポリアミンと反応され、多機能性オレフィンコポリマー粘度指数向上剤を提供する。実施例I及びIIは、低減した境界摩擦を示し、燃費を向上すると言われる高度にグラフト化された多機能性オレフィンコポリマーを例示する。
【0013】
米国特許第6,528,461号は、ポリマー性エチレン−アルファ−オレフィンコポリマー誘導分散剤及びモリブデン化合物を含む潤滑粘度の油に関する。エチレン−アルファ−オレフィンコポリマー分散剤は、向上した境界摩擦特性を提供すると言われている。実施例2A〜2Dは、無水マレイン酸をエチレン−プロピレンコポリマーにグラフト化し、続いてグラフト化コポリマーをN−フェニル−1,4−フェニレンジアミン(NPPDA)と反応させることによって製作された分散剤を使用する。
【0014】
米国特許第8,093,189号は、重負荷ディーゼルエンジンにおける冷媒誘発油フィルタ詰まりを防止する有効量の特定のオレフィンコポリマー分散剤粘度指数向上剤を含有する潤滑油組成物に関する。この特許の実施例1は、無水マレイン酸と反応またはグラフト化され、続いてN−フェニル−1,4−フェニレンジアミンと反応させられたエチレン−プロピレンコポリマーを含有する潤滑油を開示している。
【0015】
SAE J300規格を満たし、かつOM646LAエンジン摩耗試験に合格する一方、向上した燃費を提供する、代替的なまたは向上したエンジン油組成物を提供する必要性が依然として存在する。本発明は、OM646LAエンジン摩耗試験に合格し、向上した摩耗保護、向上した燃費、ならびに許容される煤煙処理及び/またはエンジン清浄度のうちの1つ以上を提供することができる、グラフト化された多機能性オレフィンコポリマーを含むエンジン油組成物を提供する。
【発明の概要】
【0016】
上記のように、本開示は、エンジン油組成物であって、
a)エンジン油組成物の総重量を基準として50重量%を超える潤滑粘度の基油であって、グループIII基油、グループIV基油、及びグループV基油、またはこれらの混合物からなる、基油と、
b)エンジン油組成物の総重量を基準として0.1〜10重量%の分散剤粘度指数向上剤であって、オレフィンコポリマー、アシル化剤及びポリアミンの反応生成物である、分散剤粘度指数向上剤と、
c)1つ以上のカルシウム含有洗剤であって、エンジン油組成物の総重量を基準として、約900ppmw〜約2500ppmwのカルシウムをエンジン油組成物に供給する、1つ以上のカルシウム含有洗剤と、
d)1つ以上のモリブデン含有化合物と、を含み、
前記エンジン油組成物が、両方ともエンジン油組成物の総重量を基準として、0W−Xまたは5W−XのSAE粘度グレード(ここで、X=16、20、30、または40である)と、約500ppmw〜約1000ppmwのリンと、ASTM D874で測定した際に1.2重量%以下の総硫酸化灰含有量と、を含む、エンジン油組成物に関する。
【0017】
上記実施形態において、エンジン油組成物は、エンジン油組成物の総重量を基準として、窒素含有分散剤または10重量%までの窒素含有分散剤をさらに含むことができる。
【0018】
前述の実施形態の各々において、エンジン油組成物は、2.5未満の分散剤からの全窒素に対する洗剤からの全金属の比を有する。前述の実施形態の各々において、分散剤からの全窒素に対する洗剤からの全金属の比は、2.0未満である。
【0019】
前述の実施形態の各々において、1つ以上のカルシウム含有洗剤は、エンジン油組成物の総重量を基準として、約1000ppmw〜約2200ppmwのカルシウムをエンジン油組成物に提供することができる。前述の実施形態の各々において、1つ以上のカルシウム含有洗剤は、エンジン油組成物の総重量を基準として、約1100ppmw〜約2000ppmwのカルシウムをエンジン油組成物に提供することができる。
【0020】
前述の実施形態の各々において、カルシウム含有洗剤は、エンジン油組成物の総重量を基準として、エンジン油組成物に少なくとも300ppmwのカルシウム、もしくは少なくとも350ppmwのカルシウム、もしくは少なくとも400ppmwのカルシウム、またはエンジン油組成物に少なくとも500ppmwのカルシウムを送達するのに十分な量のカルシウムフェネートを含むことができる。
【0021】
前述の実施形態の各々において、基油は、グループIII基油、グループIV基油、またはこれらの混合物を含むことができる。
【0022】
前述の実施形態の各々において、アシル化剤は、少なくとも1つのカルボン酸または無水物基を有するエチレン性不飽和アシル化剤であってもよい。前述の実施形態の各々において、アシル化剤は無水マレイン酸であってもよい。
【0023】
前述の実施形態の各々において、ポリアミンは、式IのN−アリールフェニレンジアミンであってもよい。
【0024】
【化2】
【0025】
式中、Rは、水素、−NH−アリール、−NH−アリールアルキル、−NH−アルキル、またはアルキル、アルケニル、アルコキシル、アラルキル、アルカリール、ヒドロキシアルキル、及びアミノアルキルから選択される4〜24個の炭素原子を有する分岐もしくは直鎖ラジカルであり、Rは、−NH、CH−(CH−NH、またはCH−アリールNH(ここで、nは、1〜10の値を有する)であり、Rは、水素、アルキル、アルケニル、アルコキシル、アラルキル、及び4〜24個の炭素原子を有するアルカリールから選択される。
【0026】
前述の実施形態の各々において、ポリアミンは、N−フェニル−1,4−フェニレンジアミン、N−フェニル−1,3−フェニルジアミン及びN−フェニル−1,2−フェニレンジアミンからなる群から選択されてもよい。
【0027】
前述の実施形態の各々において、オレフィンコポリマーは、エチレン及び1つ以上のC−C28のアルファ−オレフィンのコポリマーであってもよい。前述の実施形態の各々において、コポリマーは、エチレンと1つ以上のC−C28アルファオレフィンとのコポリマーであってもよく、コポリマーは、5,000〜150,000amuの数平均分子量を有してもよく、及び/またはコポリマーは、エンジン油組成物の総重量を基準として、10〜80重量%のエチレン、20〜90重量%の1つ以上のC〜C28アルファオレフィンを含んでもよい。前述の実施形態の各々において、エチレン及び1つ以上のC−C28アルファオレフィンのコポリマーは、ポリマー骨格1000の数平均分子量単位当たり0.14〜6.86のカルボキシル基を含有していてもよい。
【0028】
前述の実施形態の各々において、エンジン油組成物は、エンジン油組成物の総重量を基準として、少なくとも1つの分散剤を10重量%以下でさらに含んでもよい。
【0029】
前述の実施形態の各々において、エンジン油組成物は、エンジン油組成物の総重量を基準として、0.03重量%以下の総硫黄含有量を有してもよい。
【0030】
前述の実施形態の各々において、エンジン油組成物は、摩擦調整剤、耐摩耗剤、酸化防止剤、消泡剤、プロセス油、及び流動点降下剤からなる群から選択される1つ以上の成分をさらに含んでもよい。
【0031】
前述の実施形態の各々において、エンジン油組成物は、請求項1の分散剤粘度指数向上剤以外の追加の粘度指数向上剤を含有しなくてもよい。
【0032】
前述の実施形態の各々において、エンジン油組成物は摩擦調整剤を含有しなくてもよい。
【0033】
前述の実施形態の各々において、カルシウム含有洗剤は、カルシウム含有洗剤の総重量を基準として、混合物の50重量%超がスルホン酸カルシウム洗剤であるカルシウム含有洗剤の混合物を含んでもよい。
【0034】
前述の実施形態の各々において、エンジン油組成物は、エンジン油組成物の総重量を基準として、約0.1重量%〜約5重量%の分散剤粘度指数向上剤を含んでもよい。
【0035】
本発明は、一般にエンジンの摩耗保護を向上させるための方法であって、エンジン油組成物で前記エンジンを潤滑するステップを含み、エンジン油組成物は、
エンジン油組成物の総重量を基準として、50重量%超の潤滑粘度の基油と、
添加剤組成物であって、
a)エンジン油組成物の総重量を基準として、0.1〜20重量%の分散剤粘度指数向上剤であって、オレフィンコポリマー、アシル化剤及びポリアミンの反応生成物である、分散剤粘度指数向上剤と、
b)1つ以上のカルシウム含有洗剤であって、エンジン油組成物の総重量を基準として、少なくとも900ppmwのカルシウムをエンジン油組成物に提供する、1つ以上のカルシウム含有洗剤と、を含む、添加剤組成物と、を含み、
エンジン油組成物は、0Wまたは5WのSAE粘度グレードと、両方、エンジン油組成物の総重量を基準として、約50ppmw〜約1000ppmwのリン、及びASTM D874で測定した際に1.2重量%以下の合計硫酸化灰含有量を有する、方法に関する。
【0036】
本発明はまた、概して、エンジンを動作させる方法であって、エンジン油組成物でエンジンを潤滑するステップであって、エンジン油組成物であって、
エンジン油組成物の総重量を基準として、50重量%超の潤滑粘度の基油と、
添加剤組成物であって、
a)エンジン油組成物の総重量を基準として、0.1〜20重量%の分散剤粘度指数向上剤であって、オレフィンコポリマーと、アシル化剤と、ポリアミンとの反応生成物である、分散剤粘度指数向上剤と、
b)1つ以上のカルシウム含有洗剤であって、エンジン油組成物の総重量を基準として、少なくとも900ppmwのカルシウムをエンジン油組成物に提供する、1つ以上のカルシウム含有洗剤と、を含む、添加剤組成物と、を含み、
エンジン油組成物は、0Wまたは5WのSAE粘度グレードと、両方とも、エンジン油組成物の総重量を基準として、約50ppmw〜約1000ppmwのリンと、ASTM D874で測定した際に1.2重量%以下の総硫酸化灰含有量と、を有する、添加剤組成物と、を含む、エンジン油組成物でエンジンを潤滑するステップと、
エンジンを動作させるステップと、を含む、方法に関する。
【0037】
本明細書で使用される特定の用語の意味を明確にするために、以下の用語の定義が提供される。
【0038】
「油組成物」、「潤滑組成物」、「潤滑油組成物」、「潤滑油」、「潤滑剤組成物」、「潤滑剤組成物」、「完全に配合された潤滑剤組成物」、「潤滑剤」、「クランクケース油」、「クランクケース潤滑剤」、「エンジン油」、「エンジン潤滑剤」、「モータ油」、及び「モータ潤滑剤」という用語は、過半量の基油と少量の添加剤組成物とを含む完成したエンジン油製品を指す、同義語で完全に交換可能な用語であると考えられる。
【0039】
本明細書で使用される場合、「添加剤パッケージ」、「添加剤濃縮物」、「添加剤組成物」、「エンジン油添加剤パッケージ」、「エンジン油添加剤濃縮物」、「クランクケース添加剤パッケージ」、「クランクケース添加剤濃縮物」、「添加剤パッケージ」、「モータ油濃縮物」という用語は、過半量の基油ストック混合物を除いたエンジン油組成物の部分を指す、同義的で完全に交換可能な用語であると考えられる。添加剤パッケージは、粘度指数向上剤または流動点降下剤を含んでも含まなくてもよい。
【0040】
「過塩基性」という用語は、存在する金属の量が化学量論量を超える、スルホン酸塩、カルボン酸塩、サリチル酸塩、及び/またはフェネートの金属塩などの金属塩に関する。このような塩は、100%を超える変換レベルを有してもよい(すなわち、酸をその「標準」、「中性」の塩に変換するのに必要な理論的量の金属の100%より多くを含み得る)。しばしばMRと略される「金属比」という表現は、既知の化学反応性及び化学量論に従って中性塩中の金属の化学当量に対する過塩基性塩中の金属の全化学当量の比を示すために使用される。標準または中性塩では、金属比は、1であり、過塩基性塩では、MRは、1より大きい。これらは、一般に、過塩基性、高塩基性または超塩基性塩と称され、有機硫黄酸、カルボン酸、サリチル酸塩、及び/またはフェノールの塩であり得る。
【0041】
本明細書で使用される場合、「ヒドロカルビル置換基」または「ヒドロカルビル基」という用語は、当業者に周知のその通常の意味で使用される。具体的には、分子の残りに直接結合した炭素原子を有し、主に炭化水素特性を有する基を指す。ヒドロカルビル基の例は、
(a)炭化水素置換基、すなわち、脂肪族(例えば、アルキルまたはアルケニル)、脂環式(例えば、シクロアルキル、シクロアルケニル)置換基、ならびに芳香族、脂肪族及び脂環式置換芳香族置換基、ならびに環が分子の別の部分を介して完成する(例えば、2つの置換基が一緒になって脂環式部分を形成する)環状置換基と、
(b)置換された炭化水素置換基、すなわち、本開示の文脈において、主として炭化水素置換基を変化させない非炭化水素基を含む置換基(例えば、ハロ(特にクロロ及びフルオロ)、ヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソ、アミノ、アルキルアミノ及びスルホキシ)と、
(c)ヘテロ置換基、すなわち、本開示の文脈において、主に炭化水素特性を有するが、さもなければ炭素原子からなる環または鎖中に炭素以外のものを含有する置換基と、を含む。ヘテロ原子は、硫黄、酸素、及び窒素を含み得、そしてピリジル、フリル、チエニル及びイミダゾリルのような置換基を包含する。一般に、ヒドロカルビル基中の10個の炭素原子ごとに2個以下、例えば1個以下の非炭化水素置換基が存在し、典型的には、ヒドロカルビル基に非炭化水素置換基は存在しない。
【0042】
本明細書で使用される場合、「重量パーセント」という用語は、他に明確に述べられていない限り、記載された成分が組成物全体の重量に対して表すパーセンテージを意味する。
【0043】
本明細書で使用される「可溶性」、「油溶性」、または「分散性」という用語は、化合物または添加剤が可溶性、溶解性、混和性、または油中にあらゆる割合で懸濁可能であることを示し得るが、必ずしもそうではない。しかしながら、前述の用語は、油が使用される環境において意図された効果を発揮するのに十分な程度に、例えば油中に可溶性、懸濁性、溶解性、または安定に分散性であることを意味する。さらに、他の添加剤の追加の組み込みはまた、所望であれば、特定の添加剤のより高いレベルの組み込みを可能にすることができる。
【0044】
本明細書で使用される「TBN」という用語は、ASTM D2896またはASTM D4739またはDIN 51639−1の方法によって測定した際に、mgKOH/g単位での総塩基価を示すのに使用される。
【0045】
本明細書で使用される「アルキル」という用語は、約1〜約100個の炭素原子の直鎖、分岐鎖、環状、及び/または置換飽和鎖部分を指す。
【0046】
本明細書で使用される「アルケニル」という用語は、約3〜約10個の炭素原子の直鎖、分岐鎖、環状、及び/または置換の不飽和鎖部分を指す。
【0047】
本明細書で使用される「アリール」という用語は、アルキル、アルケニル、アルキルアリール、アミノ、ヒドロキシル、アルコキシ、ハロ置換基、及び/またはこれらに限定されないが、窒素、酸素、及び硫黄を含むヘテロ原子を含むことができる単環式及び多環式の芳香族化合物を指す。
【0048】
本明細書で使用される「コポリマー」という用語は、
「本質的に含まない」という用語は、1つ以上のそのような元素または化合物の存在をもたらす可能性のある不可避的不純物などの少量の元素または化合物を含むことを意味するが、これらは、本開示の新規かつ基本的な特性に影響を及ぼす量では存在しない。
【0049】
本明細書のエンジン油、成分の組み合わせ、または個々の成分は、様々なタイプの内燃エンジンでの使用に好適であり得る。好適なエンジンタイプには、重負荷ディーゼル、乗用車、軽負荷ディーゼル、中速ディーゼル、または船舶エンジンが含まれ得るが、これらに限定されない。内燃エンジンは、ディーゼル燃料エンジン、ガソリン燃料エンジン、天然ガス燃料エンジン、バイオ燃料エンジン、混合ディーゼル/バイオ燃料−燃料エンジン、混合ガソリン/バイオ燃料−燃料エンジン、アルコール燃料エンジン、混合ガソリン/アルコール燃料エンジン、圧縮天然ガス(CNG)燃料エンジン、またはこれらの混合物であってもよい。ディーゼルエンジンは、圧縮点火エンジンであってもよい。ガソリンエンジンは、スパーク点火エンジンであってもよい。内燃エンジンは、電気またはバッテリ電源と組み合わせて使用してもよい。このように構成されたエンジンは、一般にハイブリッドエンジンとして知られている。内燃エンジンは、2ストローク、4ストローク、またはロータリーエンジンであってもよい。好適な内燃エンジンには、船舶ディーゼルエンジン(内陸船舶のような)、航空ピストンエンジン、低負荷ディーゼルエンジン、及びオートバイ、自動車、機関車、及びトラックエンジンが含まれる。
【0050】
内燃エンジンは、アルミニウム合金、鉛、スズ、銅、鋳鉄、マグネシウム、セラミック、ステンレス鋼、複合材、及び/またはこれらの混合物の1つ以上の成分を含むことができる。成分は、例えば、ダイヤモンド様カーボンコーティング、潤滑コーティング、リン含有コーティング、モリブデン含有コーティング、グラファイトコーティング、ナノ粒子含有コーティング、及び/またはこれらの混合物でコーティングしてもよい。アルミニウム合金は、ケイ酸アルミニウム、酸化アルミニウム、または他のセラミック材料を含み得る。一実施形態では、アルミニウム合金は,ケイ酸アルミニウム表面である。本明細書で使用される場合、「アルミニウム合金」という用語は、「アルミニウム複合体」と同義であり、その詳細な構造にかかわらず、顕微鏡レベルまたはほぼ顕微鏡レベルで混合または反応するアルミニウム及び他の成分を含む成分または表面を表すことが意図される。これには、アルミニウム以外の金属を有する従来の合金だけでなく、セラミック様材料のような非金属元素または化合物を有する複合または合金様構造が含まれる。
【0051】
エンジンの円滑な動作を確保するために、エンジン油は、例えば、ピストンリング/シリンダライナ、クランクシャフト及びコネクティングロッドのベアリング、カム及びバルブリフターなどを含むバルブ機構など、エンジン内の種々の摺動部品を潤滑するために重要な役割を果たす。エンジン油は、エンジンの内部を冷却し、燃焼生成物を分散させる役割を果たすこともある。エンジン油のさらなる可能な機能には、錆及び腐食の防止または低減が含まれ得る。
【0052】
エンジン油の主な考慮事項は、エンジンの部品の摩耗及び焼き付きを防止することである。潤滑されたエンジン部品は、主に流体潤滑状態にあるが、バルブシステム及びピストンの上死点及び下死点は、境界潤滑及び薄膜潤滑の状態にある可能性がある。エンジン内のこれらの部品間の摩擦は、著しいエネルギー損失を引き起こし、それによって燃料効率を低下させる可能性がある。
【0053】
内燃エンジンのためのエンジン油組成物は、硫黄、リン、または硫酸灰(ASTM D−874)含有量にかかわらず、あらゆるエンジン潤滑剤に好適な可能性がある。エンジン油潤滑剤の硫黄含有量は、約1重量%以下、または約0.8重量%以下、または約0.5重量%以下、または約0.3重量%以下、または約0.2重量%以下であってもよい。一実施形態では、硫黄含有量は、約0.001重量%〜約0.5重量%、または約0.01重量%〜約0.3重量%の範囲であってもよい。リン含有量は、約0.2重量%以下、または約0.1重量%以下、または約0.085重量%以下、または約0.08重量%以下、または約0.06重量%以下、約0.055重量%以下、または約0.05重量%以下であってもよい。一実施形態では、リン含有量は、約50ppm〜約1000ppm、または約325ppm〜約850ppm、または約450ppm〜約820ppmであってもよい。総硫酸化塩灰含有量の総量は、約2重量%以下、または約1.5重量%以下、または約1.1重量%以下、または約1重量%以下、または約0.8重量%以下、または約0.5重量%以下であってもよい。一実施形態では、硫酸化灰含有量は、約0.05重量%〜約1.2重量%、または約0.1重量%、または約0.2重量%〜約0.45重量%であってもよい。別の実施形態では、硫黄含有量は、約0.4重量%以下であり、リン含有量は、約0.08重量%以下であり、硫酸化灰含有量は、約1.2重量%以下であってもよい。さらに別の実施形態では、硫黄含有量は、約0.3重量%以下であり、リン含有量は、約0.08重量%以下であり、硫酸化灰分は、約0.8重量%以下であってもよい。
【0054】
一実施形態では、エンジン油組成物は、(i)約0.5重量%以下の硫黄含有量、(ii)約0.08重量%以下のリン含有量、及び(iii)約1.2重量%以下の硫酸化灰含有量を、有することができる。
【0055】
一実施形態では、エンジン油組成物は、2ストロークまたは4ストローク船舶ディーゼル内燃エンジンに好適である。一実施形態では、船舶用ディーゼルエンジンは、2ストロークエンジンである。いくつかの実施形態では、エンジン油組成物は、限定されないが、船舶エンジンに動力を供給する際に使用される燃料の高い硫黄含有量、及び船舶適用エンジン油(例えば船舶適用エンジン油では約40TBN超)に必要とされる高いTBN、を含む1つ以上の理由により、2ストロークまたは4ストロークの船舶用ディーゼル内燃エンジンには好適ではない。
【0056】
いくつかの実施形態では、エンジン油組成物は、500ppm未満の硫黄、80ppm未満の硫黄、50ppm未満の硫黄、15ppm未満の硫黄、または10ppm未満の硫黄を含む燃料などの低硫黄燃料によって動力を供給されるエンジンで使用されるに好適である。
【0057】
低速ディーゼルは、典型的に船舶エンジンを指し、中速ディーゼルは、一般に機関車を指し、高速ディーゼルは、典型的に高速道路車両を指す。エンジン油組成物は、これらのタイプのうちの1つのみまたは全てのものに好適であってもよい。
【0058】
さらに、本明細書の潤滑剤は、ILSAC GF−3、GF−4、GF−5、GF−6、PC−11、CF、CF−4、CH−4、CI−4、CJ−4、API SG、SJ、SL、SM、SN、ACEA A1/B1、A2/B2、A3/B3、A3/B4、A5/B5、C1、C2、C3、C4、C5、E4/E6/E7/E9、Euro5/6、Jaso DL−1、Low SAPS、Mid SAPS、などの業界仕様要件、またはDexos(商標)1、Dexos(商標)2、MB−Approval229.1、229.3、229.5、229.31、229.51、229.52、229.6、229.71、226.5、226.51、228.0/.1、228.2/.3、228.31、228.5、228、51、228.61、VW 501.01、502.00、503.00/503.01、504.00、505.00、505.01、506.00/506.01、507.00、508.00、509.00、508.88、509.99、BMW Longlife−01、Longlife−01 FE、Longlife−04、Longlife−12 FE、Longlife14 FE+、Porsche A40、C30、Peugeot Citroen Automobiles B71 2290、B71 2294、B71 2295、B71 2296、B71 2297、B71 2300、B71 2302、B71 2312、B71 2007、B71 2008、Renault RN0700、RN0710、RN0720、Ford WSS−M2C153−H、WSS−M2C930−A、WSS−M2C945−A、WSS−M2C913A、WSS−M2C913−B、WSS−M2C913−C、WSS−M2C913−D、WSS−M2C948−B、WSS−M2C948−A、GM 6094−M、Chrysler MS−6395、Fiat 9.55535 G1、G2、M2、N1、N2、Z2、S1、S2、S3、S4、T2、DS1、DSX、GH2、GS1、GSX、CR1,Jaguar Land Rover STJLR.03.5003、STJLR.03.5004、STJLR.03.5005、STJLR.03.5006、STJLR.03.5007、STJLR.51.5122などの相手先ブランド名製造者仕様の1つ以上の要件、またはここに記載されてない過去または将来のPCMOもしくはHDDの仕様を満たすために好適であり得る。乗用車用モータ油(PCMO)用途のいくつかの実施形態では、完成した流体中のリンの量は、1000ppm以下、または900ppm以下、または800ppm以下である。
【0059】
他のハードウェアは、開示された潤滑剤と共に使用するのに好適ではない可能性がある。「機能性流体」は、限定されないが、トラクタ油圧作動流体、自動変速機流体を含む動力伝達流体、連続可変トランスミッション流体及び手動トランスミッション流体、トラクタ油圧作動流体を含む油圧作動流体、いくつかのギア油、パワーステアリング流体、風力タービン、圧縮機に使用される流体、いくつかの工業用流体、及び動力伝達装置構成要素に関連する流体を含む種々の流体を包含する用語である。例えば自動変速機流体のようなこれらの流体の各々の中には、顕著に異なる機能特性の流体を必要とさせる異なる設計を有する様々なトランスミッションのために種々の異なるタイプの流体が存在することに留意すべきである。これは、動力の発生または伝達に使用されない「潤滑流体」という用語とは対照的である。
【0060】
例えば、トラクタ油圧作動流体に関しては、これらの流体は、エンジンを潤滑することを除いて、トラクタ内の全ての潤滑剤用途に使用される汎用製品である。これらの潤滑用途は、ギアボックス、パワーテイクオフ及びクラッチ(複数可)、リアアクスル、リダクションギア、湿式ブレーキ、及び油圧アクセサリーの潤滑が含まれ得る。
【0061】
機能性流体が自動変速機流体である場合、自動変速機流体は、クラッチ板が動力を伝達するのに十分な摩擦を有さなければならない。しかしながら、流体の摩擦係数は、動作中に流体が加熱されるので温度の影響により低下する傾向がある。トラクタ油圧作動流体または自動変速機流体は、高温で高い摩擦係数を維持することが重要であり、さもなければブレーキシステムまたは自動変速機が故障する可能性がある。これはエンジン油の機能ではない。
【0062】
トラクタ流体、例えばスーパートラクタユニバーサル油(STUO)またはユニバーサルトラクタトランスミッション油(UTTO)は、変速機、ディファレンシャル、ファイナルドライブプラネタリギア、湿式ブレーキ、及び油圧性能とエンジン油の性能を組み合わせてもよい。UTTOまたはSTUO流体を配合するのに使用される添加剤の多くは官能性が類似しているが、適切に組み込まれていないと有害な影響を及ぼすことがある。例えば、エンジン油に使用される耐摩耗性及び極圧添加剤の中には、油圧ポンプの銅成分に対して極めて腐食性のものがあり得る。ガソリンまたはディーゼルエンジンの性能に使用される洗剤及び分散剤は、湿式ブレーキ性能に有害であり得る。静粛な湿式ブレーキ鳴きに特有の摩擦調整剤は、エンジン油の性能に必要な熱安定性を欠いている可能性がある。これらの流体の各々は、機能性、トラクタ性、または潤滑性にかかわらず、特定の厳格な製造業者の要件を満たすように設計されている。
【0063】
本開示は、自動車用クランクケース潤滑剤として使用するために配合された新規なエンジン油ブレンドを提供する。本開示は、2T及び/または4Tオートバイクランクケース潤滑剤として使用するために配合された新規なエンジン油ブレンドを提供する。本開示の実施形態は、クランクケース用途に好適であり、次のような特性、すなわち、空気混入、アルコール燃料適合性、酸化防止性、耐摩耗性能、バイオ燃料適合性、泡低減特性、摩擦低減、燃費性、予燃焼防止性、錆抑制、スラッジ及び/または煤煙分散性、ピストンの清浄度、析出物形成、ならびに耐水性などの特性向上を有するエンジン油を提供することができる。
【0064】
本開示のエンジン油は、以下に詳細に記載されるような1つ以上の添加剤を適切な基油配合物に添加することによって配合してもよい。添加剤は、添加剤パッケージ(または濃縮物)の形態の基油と組み合わせてもよく、代替的に、基油(または両方の混合物)と個別に組み合わせてもよい。完全に配合されたエンジン油は、添加された添加剤及びそれぞれの割合に基づいて、向上した性能特性を示すことができる。
【0065】
本開示のさらなる詳細及び利点は、以下の説明に部分的に記載され、及び/または本開示の実施によって習得され得る。本開示の詳細及び利点は、添付の特許請求の範囲に特に指摘された要素及び組み合わせによって実現及び達成され得る。前述の一般的な説明及び以下の詳細な説明は両方とも例示的及び説明的なものに過ぎず、特許請求される本開示を限定するものではないことを理解されたい。
【発明を実施するための形態】
【0066】
本開示は、粘度指数向上剤(VII)及びこれらのVIIを含むエンジン油組成物を提供する。本開示において使用されるVIIは、多機能性であり得る。また、VIIは、本開示のVIIが存在しない場合に同じ潤滑油組成物で動作する同じエンジンに対して、エンジンの燃費を向上させるために使用されることがある。VIIは、許容可能な高温高せん断(「HTHS」)粘度を提供し、予想される動作条件下で使用する際の潤滑油の望ましい膜厚を維持するために使用され得る。本明細書に記載のVIIはまた、エンジン油に使用した場合に、燃費の増強、摩擦低減、ならびに良好な増粘特性を有することを提供することができる。
【0067】
本開示はまた、多機能性であり得るグラフト化オレフィンコポリマーVIIを含有するエンジン油組成物、ならびにグラフト化オレフィンコポリマーを含有するエンジン油組成物を使用して向上したエンジン動作性能及びより良い燃費を提供する方法を提供する。
【0068】
エンジン油組成物は、基油及び分散剤粘度指数向上剤を含み、以下にさらに詳細に説明するように、エンジン油組成物に有用であることが知られている1つ以上の追加の添加剤を任意選択で含有し得る。分散剤粘度指数向上剤は、グラフト化オレフィンコポリマーである。グラフト化オレフィンコポリマーは、エンジン油組成物中に配合される場合、許容されるHTHS粘度を提供し、良好な膜厚を維持するのに役立ち、また煤煙分散性を向上し得る。これらの有益な特性の1つ以上またはこれらの組み合わせが、エンジン油が使用されるエンジンの燃費を増加させると考えられる。
【0069】
分散剤粘度指数向上剤
本開示の分散剤粘度指数向上剤は、アシル化剤で反応またはグラフト化され、1つの以上のポリアミンと反応した、エチレン及び1つ以上のC−C28アルファオレフィンを含むオレフィンコポリマーである。
【0070】
エチレン及び1つ以上のC−C28アルファオレフィンのグラフト化コポリマーを提供するために、エチレン及び1つ以上のC−C28アルファ−オレフィンのコポリマーは、アシル化剤で最初に反応またはグラフト化され、エチレン及び1つ以上のC−C28アルファオレフィンのグラフト化コポリマーを生成する。
【0071】
一実施形態では、分散剤粘度指数向上剤は、エンジン油組成物中に、エンジン油組成物の総重量を基準として、約0.1重量%〜約20重量%の量で存在してもよい。別の実施形態において、分散剤粘度指数向上剤は、エンジン油組成物中に、エンジン油組成物の総重量を基準として、約0.1重量%〜約10重量%、または約0.1重量%〜約5重量%の量で存在する。好ましい実施形態では、分散剤粘度指数向上剤は、エンジン油組成物中に、エンジン油組成物の総重量を基準として、約0.5〜約8重量%、または約1〜約5重量%の量で存在する。
【0072】
コポリマー
分散剤粘度指数向上剤を製作するために使用されるコポリマーは、エチレン及び少なくとも1つのC−C28アルファオレフィンから調製してもよい。エチレン及びプロピレンのコポリマーが最も好ましい。コポリマーを形成するために、またはエチレン及びプロピレンと組み合わせて使用するためにプロピレンの代わりに使用するのに好適な他のアルファ−オレフィンには、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン及びスチレン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,7−オクタジエンなどのα、ω−ジオレフィン、4−メチルブテン−1,5−メチルペンテン−1及び6−メチルヘプテン−1などの分岐鎖アルファ−オレフィン類、及びこれらの混合物が含まれる。また、コポリマーは、エチレンとC−C28アルファ−オレフィンの任意の数を含有してもよく、したがって、エチレン、プロピレン及び1つ以上のC−C28アルファ−オレフィンのターポリマーを含んでいてもよい。
【0073】
しばしばインターポリマーとして示されるより複雑なポリマー基質は、少なくとも第3の成分を使用して調製され得る。インターポリマー基質を調製するために使用され得る第3の成分は、非共役ジエン及びトリエンから選択されるポリエンモノマーである。非共役ジエン成分は、鎖中に5〜14個の炭素原子を有するものである。好ましくは、ジエンモノマーは、その構造内のビニル基の存在を特徴とし、環状及びビシクロ化合物を含むことができる。代表的なジエンには、1,4−ヘキサジエン、1,4−シクロヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−メチレン−2−ノルボルネン、1,5−ヘプタジエン、及び1,6−オクタジエンが含まれる。インターポリマーの調製には、2つ以上のジエンの混合物を使用することができる。ターポリマーまたはインターポリマー基質を調製するための好ましい非共役ジエンは、1,4−ヘキサジエンである。
【0074】
トリエン成分は、少なくとも2つの非共役二重結合を有し、鎖中に約30個までの炭素原子を有する。本発明のインターポリマーの調製に有用な典型的なトリエンは、1−イソプロピリデン−3α、4,7,7α−テトラヒドロインデン、1−イソプロピリデンジシクロペンタジエン、ジヒドロ−イソジシクロペンタジエン、及び2−(2−メチレン−4−メチル−3−ペンテニル)[2.2.1]ビシクロ−5−ヘプテンである。
【0075】
エチレン−プロピレンまたはより高級なアルファ−オレフィンコポリマーは、約10〜80モル%のエチレン、及び約90〜20モル%のC−C28アルファ−オレフィンからなってもよく、好ましいモル比は、約35〜75モル%のエチレン、及び約65〜25モル%のC〜C28アルファ−オレフィンであり、より好ましい割合は、50〜70モル%のエチレン、及び50〜30モル%のC−C28アルファ−オレフィンであり、最も好ましい割合は、55〜65モル%のエチレン、及び45〜35モル%のC−C28アルファ−オレフィンである。
【0076】
前述のポリマーのターポリマーの変形は、約0.1〜10モル%の非共役ジエンまたはトリエンを含有することができる。
【0077】
エチレンコポリマーまたはターポリマーは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー及び世界較正標準によって測定して約5,000g/モル〜150,000g/モルの数平均分子量を有する油溶性直鎖または分岐コポリマーであり、好ましい数平均分子量範囲は20,000g/モル〜120,000g/モル、より好ましい数平均分子量範囲は、30,000g/モル〜110,000g/モルである。
【0078】
ポリマー及びコポリマーという用語は、エチレンコポリマー、ターポリマー、またはインターポリマーを包含するために一般的に使用される。これらの材料は、コポリマーの基本特性が実質的に変化しない限り、少量の他のオレフィンモノマーを含有してもよい。
【0079】
エチレン−オレフィンコポリマーを形成するために使用される重合反応は、一般に、従来のZiegler−Nattaまたはメタロセン触媒システムの存在下で行われる。重合媒体は重要ではないので、重合プロセスは、当業者に知られているように、溶液、スラリー、または気相プロセスを含むことができる。溶液重合が使用される場合、溶媒は、アルファ−オレフィンの重合のための反応条件下で液体である任意の好適な不活性炭化水素溶媒であってもよい。満足のいく炭化水素溶媒の例には、5〜8個の炭素原子を有する直鎖パラフィンが含まれ、ヘキサンが好ましい。芳香族炭化水素、好ましくは単一のベンゼン核を有する芳香族炭化水素、例えばベンゼン、トルエンなども使用することができる。また、上述のように直鎖パラフィン系炭化水素及び芳香族炭化水素に近似する沸点範囲を有する飽和環状炭化水素が特に好適である。溶媒は、前述の炭化水素の1つ以上の混合物であってもよい。スラリー重合が使用される場合、重合の液相は、液体プロピレンであることが好ましい。重合媒体は、触媒成分の活性を妨害する物質を含まないことが望ましい。
【0080】
アシル化剤
エチレン性不飽和カルボン酸材料をコポリマーに反応またはグラフト化して、アシル化エチレンコポリマーを形成する。エチレンコポリマーにグラフト化するのに好適なカルボン酸反応物は、少なくとも1つのエチレン結合及び少なくとも1つ、好ましくは2つのカルボン酸または無水物基、または酸化または加水分解によってカルボキシル基に変換可能な極性基を含有する。好ましくは、カルボン酸反応物は、アクリル酸、メタクリル酸、ケイ皮酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、及びイタコン酸反応物からなる群から選択される。より好ましくは、カルボン酸反応物は、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、またはこれらの2つ以上の混合物からなる群から選択される。無水マレイン酸またはその誘導体は、その商業的入手可能性及び反応の容易さのために、一般的に最も好ましい。不飽和エチレンコポリマーまたはターポリマーの場合には、フリーラジカルグラフト化プロセス中に架橋構造を形成する傾向の減少のために、イタコン酸またはその無水物が好ましい。
【0081】
エチレン性不飽和カルボン酸物質は、典型的には、反応物1モル当たり1個または2個のカルボキシル基をグラフト化ポリマーに提供することができる。例えば、メチルメタクリレートは、グラフト化ポリマーに1分子当たり1個のカルボキシル基を提供することができ、無水マレイン酸は、1分子当たり2個のカルボキシル基をグラフト化ポリマーに提供することができる。
【0082】
カルボキシル反応物は、ポリマー骨格の数平均分子量単位1000当たり約0.14〜約6.86個のカルボキシル基を提供する量で所定のポリマー骨格上に反応またはグラフト化される。別の例として、カルボン酸反応物は、ポリマー骨格の数平均分子量単位1000当たり約0.15〜約1.4個のカルボキシル基を提供する量で所定のポリマー骨格上に反応またはグラフト化される。さらなる例として、カルボン酸反応物は、ポリマー骨格の数平均分子量単位1000当たり約0.3〜約0.75個のカルボキシル基を提供する量で所定のポリマー骨格に反応またはグラフト化される。さらなる例として、カルボン酸反応物は、ポリマー骨格の1000数平均分子量単位当たり約0.3〜約0.5個のカルボキシル基を提供するような量で所定のポリマー骨格に反応またはグラフト化される。
【0083】
例えば、20,000g/molのMnを有するコポリマー基質は、ポリマー鎖あたり6〜15個のカルボキシル基またはコポリマー1モル当たり3〜7.5モルの無水マレイン酸と反応またはグラフト化されてもよい。100,000g/molのMnを有するコポリマーは、ポリマー鎖当たり30〜75個のカルボキシル基または15〜37.5モルの無水マレイン酸と反応またはグラフト化されてもよい最小レベルの官能性は、最小の十分な分散性を達成するために必要なレベルである。最大官能化レベルを超えると、もしあれば、追加の分散性が認められ、添加剤の他の特性に悪影響を及ぼすことがある。
【0084】
アシル化オレフィンコポリマーを形成するためのグラフト反応は、一般に、溶液またはバルクのいずれか内のフリーラジカル開始剤の助けを借りて、押出機または強力混合装置のように実施される。場合によっては、米国特許第4,340,689号、米国特許第4,670,515号、及び米国特許4,948,842号に記載されているように、ヘキサン中でグラフト化反応を実施することが経済的に望ましい場合がある。得られたグラフト化コポリマーは、その構造内にランダムに分布したカルボン酸アシル化官能基を有することを特徴とする。
【0085】
アシル化オレフィンコポリマーを形成するためのバルクプロセスでは、150℃〜400℃の温度に加熱された押出機、強力ミキサまたはマスチケータのようなゴムまたはプラスチック処理機器に供給されたオレフィンコポリマー及びエチレン性不飽和カルボン酸試薬及び遊離ラジカル開始剤を、別々に溶融ポリマーに同時供給してグラフト化させることができる。この反応は、エチレンコポリマーのせん断及びグラフト化を行うための混合条件によって、例えば、米国特許第5,075,383号の方法に従って任意選択で実施される。処理機器は、一般に、ポリマーの酸化を防止し、未反応の試薬及びグラフト化反応の副生成物を排気するのを助けるために、窒素でパージされる。処理機器における滞留時間は、所望の程度のアシル化を提供し、排気によるアシル化コポリマーの精製を可能にするのに十分である。鉱物または合成エンジン油は、アシル化コポリマーを溶解させるために排気段階の後に任意選択で処理機器に添加されてもよい。
【0086】
エチレン−オレフィンコポリマーをエチレン性不飽和カルボン酸試薬と反応させるための当該分野で公知の他の方法は、例えば、米国特許第6,107,207号に記載されている。
【0087】
アシル化反応
アシル化コポリマーは、油と組み合わされ、1つ以上のポリアミンと反応してもよい。1つ以上のポリアミン化合物は、
【0088】
式(I)で表されるN−アリールフェニレンジアミンであってもよい。
【0089】
【化3】
【0090】
式中、Rは、水素、−NH−アリール、−NH−アリールアルキル、−NH−アルキルまたはアルキル、アルケニル、アルコキシル、アラルキル、アルカリール、ヒドロキシアルキル及びアミノアルキルから選択される4〜24個の炭素原子を有する分岐もしくは直鎖ラジカルであり、Rは、−NH、CH−(CH−NHまたはCH−アリール−NHであり、nが、1〜10の値を有し、Rは、水素、アルキル、アルケニル、アルコキシル、アラルキル及び4〜24個の炭素原子を有するアルカリールから選択される。
(b)アミノチアゾール、アミノベンゾチアゾール、アミノベンゾチアジアゾール及びアミノアルキルチアゾールからなる群から選択されるアミノチアゾールであってもよい。
(c)次式で表されるアミノカルバゾールであってもよい。
【0091】
【化4】
【0092】
式中、R及びRは、水素または1〜14個の炭素原子を有するアルキル、アルケニルまたはアルコキシ基を表し、
(d)次式で表されるアミノインドールであってもよい。
【0093】
【化5】
【0094】
は、水素または1〜14個の炭素原子を有するアルキル基を表し、
(e)次式で表されるアミノピロールであってもよい。
【0095】
【化6】
【0096】
式中、Rは、2〜6個の炭素原子を有する2価のアルキレン基であり、Rは、水素または1〜14個の炭素原子を有するアルキル基であり、
(f)次式で表されるアミノ−インダゾリノンであってもよい。
【0097】
【化7】
【0098】
式中、Rは、水素または1〜14個の炭素原子を有するアルキル基であり、
(g)次式で表されるアミノメルカプトトリアゾールであってもよい。
【0099】
【化8】
【0100】
式中、R10が存在しなくてもよく、またはアルキレン、アルケニレン、アリールアルキレンまたはアリーレンからなる群から選択されるC−C10直鎖または分岐ヒドロカルビレンであり、R11は、水素またはC−C14アルキル、アルケニル、アラルキルまたはアリール基であり、
(h)次式で表されるアミノペリミジンであってもよい。
【0101】
【化9】
【0102】
12は、水素または1〜14個の炭素原子を有するアルキルもしくはアルコキシ基を表し、
(i)1−(2−アミノエチル)イミダゾール、1−(3−アニノプロピル)イミダゾールのようなアミノアルキルイミダゾール、及び/または
(j)アミノアルキルモルホリン、例えば4−(3−アミノプロピル)モルホリンであってもよい。
【0103】
この反応が完了したら、式(I)のヒドロカルビル置換ポリ(オキシアルキレン)モノアミンを組成物に加え、グラフト化されたアシル化コポリマーとポリアミン(複数可)との反応生成物と反応させる。結果は、ヒドロカルビル置換ポリ(オキシアルキレン)モノアミン及びN−アリールフェニレンジアミンのようなポリアミン(複数可)と反応またはグラフト化されたアシル化オレフィン(コ)ポリマーである。所望であれば、この反応のステップを、逆の順序で実施することも可能である。
【0104】
ヒドロカルビル置換ポリ(オキシアルキレン)モノアミン
ヒドロカルビル置換ポリ(オキシアルキレン)モノアミンは、式(I)によって表すことができる。
13−(O−CHR14−CHR15−A
式中、R13は約1〜約35個の炭素原子を有するヒドロカルビル基であり、R14及びR15は、各々独立して、水素、メチルまたはエチルであり、各々のR14及びRは、各々−O−CHR14−CHR15−単位において独立して選択され、Aは、約1〜約10個の炭素原子を有するアミノ、−CH−アミノまたはN−アルキルアミノであり、xは約2〜約45の整数である。ヒドロカルビル置換ポリ(オキシアルキレン)モノアミンの製造方法は、US2013/0172220A1に開示されている。
【0105】
特に好適なヒドロカルビル置換ポリ(オキシアルキレン)モノアミンには、R13がアルキル、アリール、アルキルアリール、アリールアルキル及びアリールアルキルアリールからなる群から選択されるものが含まれる。本開示の1つの態様は、R13がメチル、エチル、プロピル及びブチルなどの1〜10個の炭素原子を有するアルキル基であるヒドロカルビル置換ポリ(オキシアルキレン)モノアミンに関する。R13は、フェニル、ナフチル、アルキルナフチル、及びアルキル、アリール、アルキルアリール及びアリールアルキルから選択される1〜3個の置換基を有する置換フェニルからなる群から選択されてもよい。したがって、R13は、フェニル、アルキルフェニル、ナフチル及びアルキルナフチルであり得る。
【0106】
本発明の別の態様では、本明細書においてポリエーテルモノアミンとも称されるヒドロカルビル置換ポリ(オキシアルキレン)モノアミンは、式(II)を有してもよい。
【0107】
【化10】
【0108】
式中、R16は、約1〜約35個の炭素原子を有するヒドロカルビル基であり、R17は、各々繰り返し単位について独立して水素またはメチルであり、R18は、水素またはC−C10アルキル基であり、a及びbは、a+bが2〜45であるような整数である。より好ましくは、aは、1〜30の整数であり、bは、1〜44の整数である。一態様では、エチレンオキシド「EO」のモル数は、プロピレンオキシド「PO」のモル数以上である。
【0109】
本発明の一実施形態では、ポリエーテルモノアミンは、エチレンオキシド、プロピレンオキシドまたはこれらの組み合わせから形成調製される。エチレンオキシド及びプロピレンオキシドの両方を使用する場合、酸化物は、ランダムポリエーテルが望ましい場合には同時に反応させることができ、またはブロックポリエーテルが望ましい場合には順次反応させることができる。一般に、ヒドロカルビル置換ポリ(オキシアルキレン)モノアミンがエチレンオキシド、プロピレンオキシドまたはこれらの組み合わせから調製される場合、モル基準でのエチレンオキシドの量は、ヒドロカルビル置換ポリ(オキシアルキレン)モノアミンの約50%超、好ましくはモル基準で約75%超、より好ましくは約85%超である。本発明の実施において使用されるヒドロカルビル置換ポリ(オキシアルキレン)モノアミンは、米国特許第3,654,370号、米国特許第4,152,353号、米国特許第4,618,717号、米国特許第4,766,245号、米国特許第4,960,942号、米国特許第4,973,761号、米国特許第5,003,107号、米国特許第5,352,835号、米国特許第5,422,042号、及び米国特許第5,457,147号に記載されている既知のアミノ化技術を使用して調製され得る。一般に、ヒドロカルビル置換ポリ(オキシアルキレン)モノアミンは、ニッケル含有触媒、例えばNi/Cu/Crのような触媒の存在下でポリ(オキシアルキレン)アルコールをアンモニアでアミノ化することによって製作される。
【0110】
一態様では、特に好適な化合物は、JEFFAMINE M−600(約MW600EO/PO−1/9)、JEFFAMINE M−1000(約MW1000EO/PO−19/3)、JEFFAMINE M−約2000EO/PO−31/10)、及びJEFFAMINE M−2005(約MW2000EO/PO−6/29)を含む。好ましいポリエーテルモノアミンとしては、JEFFAMINE M−1000及びJEFFAMINE M−2070が挙げられる。上記のJEFFAMINE化合物は、Huntsman Chemicalsから入手可能である。本発明のより好ましいポリエーテルモノアミンは、約400〜約2500の範囲の分子量を有する。約2〜約35個のエチレンオキシド単位及び1〜約10個のプロピレンオキシド単位を含む特に好ましいヒドロカルビル置換ポリ(オキシアルキレン)モノアミン。
【0111】
一態様では、モノアミン末端ポリエーテルは、約1,000g/モル〜約3,000g/モルの分子量を有する。上記の特定のJEFFAMINE物質はメトキシ末端であるが、本発明の実施において使用されるポリエーテルモノアミンは、メトキシ基のメチル基が、約18個の炭素を含むいずれのアルキルアルキル置換基を含むエチル、プロピル、ブチルなどの、より長い炭化水素で置き換えられた他の基でキャップされていてもよい。アミン末端基が第1級アミノ基であることが特に好ましい。
【0112】
特定のメタノール開始ポリエーテルモノアミンは、次式を有する。
【0113】
【化11】
【0114】
式中、mは、約1〜約35であり、nは、約1〜約15であり、一態様ではm>nであり、mが約15〜約25であり、nが約2〜約10であるポリエーテルモノアミンを含む。
【0115】
アシル化ポリオレフィンとヒドロカルビル置換ポリ(オキシアルキレン)モノアミンと、場合によってはポリオレフィンとの混合は、バッチミキサ、連続ミキサ、ニーダ及び押出機を含む標準的な混合装置中で実施することができる。大部分の用途では、混合装置は、鉱物油またはエンジン油のような溶媒中で溶融物または溶液中で行われる2段階または1段階プロセスで達成されるグラフト化及びポストグラフト化誘導を有する押出機である。溶液中で、カルボン酸アシル化基とポリエーテルモノアミンまたはポリエーテルモノアミンの混合物がグラフト化されたコポリマー中間体の溶液を反応条件下で混合しながら不活性条件下で加熱することが好都合である。典型的には、溶液を、窒素ブランケット下で約125℃〜約175℃に加熱する。ポリエーテルモノアミンの量は、典型的には、カルボン酸(無水物)官能基当たり約0.25〜約2.0当量のアミンである。一態様では、ポリエーテルモノアミンの量は、典型的にはカルボン酸(無水物)官能基当たり約約0.25〜約1.50当量のアミンであり、さらに別の態様では、ポリエーテルモノアミンの量は、典型的には、カルボン酸(無水物)官能基当たり約0.8〜約2.0当量のアミンである。
【0116】
N−アリールフェニレンジアミン
本開示のN−アリールフェニレンジアミンは、式(I)によって表すことができる。
【0117】
【化12】
【0118】
式中、Rは、水素、−NH−アリール、−NH−アリールアルキル、−NH−アルキルまたはアルキル、アルケニル、アルコキシル、アラルキル、アルカリール、ヒドロキシアルキル、またはアミノアルキルから選択される4〜24個の炭素原子を有する分岐もしくは直鎖ラジカルであり、Rは、−NH、CH−(CH−NHまたはCH−アリール−NHであり、nが、1〜10の値を有し、Rは、水素、アルキル、アルケニル、アルコキシル、アラルキル及び4〜24個の炭素原子を有するアルカリールから選択される。
【0119】
特に好ましいN−アリールフェニレンジアミンは、例えば、N−フェニル−1,4−フェニレンジアミン、N−フェニル−1,3−フェニレンジアミン、及びN−フェニル−1,2−フェニレンジアミンである。ポリアミンは、オレフィンコポリマーのカップリング及び/またはゲル化を避けるために、第1級アミン基を1つだけ含有することが好ましい。
【0120】
カルボン酸アシル化官能基nをその上にグラフト化したポリマー基質中間体とポリアミン(複数可)との間の反応は、好ましくは、不活性条件下でポリマー基質の溶液を加熱し、次にポリアミン(複数可)を一般に混合しながら加熱溶液に添加して反応させることにより行うことができる。溶液を窒素ブランケット下に維持しながら、140℃〜175℃に加熱されたポリマー基質の油溶液を使用することが好都合である。この溶液にポリアミン(複数可)を添加し、反応を行う。
【0121】
典型的には、ポリアミン化合物(複数可)は、界面活性剤に溶解され、アシル化オレフィンコポリマーを含有する鉱物油もしくは合成エンジン油または溶媒溶液に添加される。この溶液を、例えば米国特許第5,384,371号に記載されているように、不活性ガスパージ下、120℃〜200℃の範囲の温度で撹拌しながら加熱する。この反応は、窒素パージ下で撹拌反応器中で実施することができる。しかしながら、二軸スクリュー押出機中のグラフト反応−排気領域から下流の領域にポリアミン化合物(複数可)の界面活性剤溶液を添加することも可能である。
【0122】
アシル化オレフィンコポリマーとポリアミン(複数可)との反応を実施する際に使用することができる界面活性剤には、(a)鉱物油または合成エンジン油と適合する溶解特性、(b)油の引火点を変えないように沸点及び蒸気圧特性、及び(c)ポリアミン(複数可)を可溶化するのに好適な極性などを有するように特徴付けられるこれらのものを含むが、これらに限定されない。そのような界面活性剤の好適な種類には、脂肪族及び芳香族ヒドロキシ化合物とエチレンオキシド、プロピレンオキシド、またはこれらの混合物との反応生成物が含まれる。そのような界面活性剤は、脂肪族またはフェノールアルコキシレートとして一般に知られている。代表的な例は、SURFONIC(登録商標)N−40、N−60、L−24−5、L−46−7(Huntsman Chemical Company)、Neodol(登録商標)23−5及び25−7(Shell Chemical Company)及びTergitol(登録商標)界面活性剤(Union Carbide)である。好ましい界面活性剤は、アシル化オレフィンコポリマーと反応することができる官能基、例えば−OHを含有するこれらの界面活性剤を含む。
【0123】
使用される界面活性剤の量は、ポリアミン(複数可)を可溶化するその能力にある程度依存する。典型的には、ポリアミン(複数可)の重量を基準にして、5〜40重量%の界面活性剤の濃度が使用される。界面活性剤はまた、完成した添加剤中の界面活性剤の総重量が10重量%以下となるように、上述の濃縮物の代わりにまたはそれに加えて別々に添加することができる。
【0124】
本開示の別の態様は、濃縮物の形態であってもよい分散剤粘度指数向上剤組成物に関する。特に、グラフト化オレフィンコポリマーは、エンジン油組成物のための分散剤粘度指数向上剤として使用される。
【0125】
エンジン油組成物に使用される粘度指数向上剤の量は、基油の粘度指数を向上または改質するのに有効な量、すなわち粘度向上有効量である。一般に、この量は、最終生成物(例えば完全に配合されたエンジン油組成物)に対して0.001重量%〜20重量%であり、0.01重量%、0.05重量%、0.1重量%、0.25重量%、1重量%、または2重量%の代替下限、及び15重量%または10重量%または8重量%または6重量%または5重量%または4重量%または3重量%の代替上限を有する。エンジン油組成物中のVI向上剤の濃度の範囲は、下限のいずれかを前術の上限のいずれかと組み合わせることによって製作することができる。
【0126】
基油
本明細書のエンジン油組成物に使用される基油は、American Petroleum Institute(API:アメリカ石油協会)の基油交換可能性指針に明記されているグループI〜Vの基油のいずれかから選択することができる。5つの基油グループは以下の通りである:
【0127】
【表1】
【0128】
グループI、II、及びIIIは、鉱物油プロセスストックである。グループIVの基油は、オレフィン性不飽和炭化水素の重合によって生成される真の合成分子種を含有する。多くのグループV基油もまた真の合成生成物であり、ジエステル、ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール、アルキル化芳香族、ポリホスフェートエステル、ポリビニルエーテル、及び/またはポリフェニルエーテルなどを含むことができるが、天然に存在する油、例えば植物油であってもよい。グループIIIの基油が鉱物油に由来する場合、これらの流体が受ける厳密な処理は、これらの物理的性質をいくつかの真の合成物、例えばPAOに非常に類似させることに留意すべきである。したがって、グループIII基油由来の油は、業界では合成流体と称されることがある。
【0129】
開示されたエンジン油組成物に使用される基油は、鉱物油、動物油、植物油、合成油、またはこれらの混合物であってもよい。好適な油は、水素化分解、水素化、水素化仕上げ、未精製、精製及び再精製油、及びこれらの混合物から誘導することができる。
【0130】
未精製油は、精製処理を行わないか、それ以上の精製処理はほとんど行われない天然油、鉱物油、または合成源から誘導されたものである。精製油は、1つ以上の特性の向上をもたらし得る、1つ以上の精製工程で処理されていることを除いて、未精製油と同様である。好適な精製技術の例は、溶媒抽出、二次蒸留、酸または塩基抽出、濾過、浸透などである。食用の品質に洗練された油は有用かもしれないし有用でないかもしれない。食用油は、白色油と呼ばれることもある。いくつかの実施形態において、エンジン油組成物は、食用油または白色油を含まない。
【0131】
再精製油はまた、再生油または再処理油としても知られている。これらの油は、同じまたは類似の方法を使用して精製油と同様に得られる。付加的に、これらの油は、使用済み添加剤及び油分解生成物の除去に関する技術によってさらに処理される。
【0132】
鉱物油には、掘削によって得られる油、または植物及び動物から得られる油、またはこれらの任意の混合物が含まれ得る。例えば、このような油は、限定されないが、ヒマシ油、ラード油、オリーブ油、落花生油、コーン油、大豆油、及びアマニ油、ならびに液体石油及びパラフィン系、ナフテン系または混合パラフィン系−ナフテン系の鉱物性処理または酸処理鉱物エンジンのような鉱物性エンジン油を含み得る。このような油は、所望される場合、部分的または完全に水素化されていてもよい。石炭または頁岩由来の油もまた有用であり得る。
【0133】
有用な合成エンジン油は、ポリマー化、オリゴマー化またはインターポリマー化オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレンイソブチレンコポリマー)のような炭化水素油、ポリ(1−ヘキセン)、ポリ(1−オクテン)、1−デセンの三量体またはオリゴマー、例えば、ポリ(1−デセン)(このような物質はしばしばα−オレフィンと称される)、及びこれらの混合物、アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ−(2−エチルヘキシル)−ベンゼン)、ポリフェニル(例えば、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェニル)ジフェニルアルカン、アルキル化ジフェニルアルカン、アルキル化ジフェニルエーテル及びアルキル化ジフェニル硫化物、ならびにこれらの誘導体、類似体、及び同族体、またはこれらの混合物、を含み得る。ポリアルファオレフィンは、典型的には水素化された物質である。
【0134】
他の合成エンジン油は、ポリオールエステル、ジエステル、リン含有酸の液体エステル(例えば、トリクレジルホスフェート、トリオクチルホスフェート、及びデカンホスホン酸のジエチルエステル)、またはポリマーテトラヒドロフランを含む。合成油は、Fischer−Tropsch反応によって生成することができ、典型的には、水素異性化Fischer−Tropsch炭化水素またはワックスであり得る。一実施形態では、油は、Fischer−Tropschガス対液体合成手順ならびに他のガス対液体油によって調製することができる。
【0135】
エンジン油組成物に含まれる過半量の基油は、グループIII基油、グループIV基油、グループV基油及びこれらの混合物からなる群から選択されてもよく、過半量の基油は、組成物中に添加剤成分または粘度指数向上剤を提供することから生じる基油以外のものである。別の実施形態では、エンジン油組成物に含まれる過半量の基油は、グループIII基油、グループIV基油、またはこれらの混合物からなる群から選択され得る。過半量の基油は、組成物中に添加剤成分または粘度指数向上剤を提供することから生じる基油以外のものである。
【0136】
存在する潤滑粘度の油の量は、粘度指数向上剤(複数可)及び/または流動点降下剤(複数可)及び/または他のトップトリート添加剤を含む性能添加剤の量の合計を100重量%から差し引いた残りの残量であり得る。例えば、完成した流体中に存在し得る潤滑粘度の油は、過半量、例えば、約50重量%超、約60重量%超、約70重量%超、約80重量%超、約85重量%超、または約90重量%超である。
【0137】
特定の実施形態において、基油の特定の選択は、エンジンの摩耗保護を向上させる上で有利な結果を提供し得る。例えば、いくつかの実施形態では、SAE粘度グレードが、0W−Xまたは5W−Xの基油を選択することが望ましい場合があり、Xは16、20、30、または40からなる群から選択することができる。別の実施形態において、基油は、0W〜5WのSAE粘度グレードを有してもよい。
【0138】
酸化防止剤
本明細書のエンジン油組成物は、任意選択で、1つ以上の酸化防止剤を含有してもよい。酸化防止剤化合物は公知であり、例えばフェネート、フェネート硫化物、硫化オレフィン、ホスホ硫化テルペン、硫化エステル、芳香族アミン、アルキル化ジフェニルアミン(例えば、ノニルジフェニルアミン、ジノニルジフェニルアミン、オクチルジフェニルアミン、ジ−オクチルジフェニルアミン)、フェニル−アルファ−ナフチルアミン、アルキル化フェニル−アルファ−ナフチルアミン、ヒンダード非芳香族アミン、フェノール類、ヒンダードフェノール類、油溶性モリブデン化合物、高分子酸化防止剤、またはこれらの混合物を含む。酸化防止剤化合物は、単独でまたは組み合わせて使用することができる。
【0139】
ヒンダードフェノール酸化防止剤は、立体障害基として、第2級ブチル基及び/または第3級ブチル基を含んでいてもよい。フェノール基は、ヒドロカルビル基及び/または第2の芳香族基に結合する架橋基でさらに置換されていてもよい。好適なヒンダードフェノール酸化防止剤の例には、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、4−メチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、4−エチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、4−プロピル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノールまたは4−ブチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、または4−ドデシル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノールを含む。一実施形態では、ヒンダードフェノール酸化防止剤は、エステルであってもよく、例えばBASFから入手可能なIrganox(商標)L−135または2,6−ジ−tert−ブチルフェノール及びアルキルアクリレートから誘導される付加生成物を含むことができ、アルキル基は、約1〜約18個、または約2〜約12個、または約2〜約8個、または約2〜約6個、または約4個の炭素原子を含有してもよい。別の市販のヒンダードフェノール酸化防止剤は、エステルであってもよく、Albemarle Corporationから入手可能なEthanox(商標)4716を含み得る。
【0140】
有用な酸化防止剤は、ジアリールアミン及び高分子量フェノールを含み得る。一実施形態では、エンジン油組成物は、ジアリールアミンと高分子量フェノールとの混合物を含み、各々の酸化防止剤は、エンジン油組成物の最終重量を基準にして、約5重量%までを提供するのに十分な量で存在し得る。一実施形態では、酸化防止剤は、エンジン油組成物の最終重量を基準にして、約0.3〜約1.5重量%のジアリールアミンと約0.4〜約2.5重量%の高分子量フェノールとの混合物であってもよい。
【0141】
硫化されて硫化オレフィンを形成することができる好適なオレフィンの例は、プロピレン、ブチレン、イソブチレン、ポリイソブチレン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、ウンデセン、ドデセン、トリデセン、テトラデセン、ペンタデセン、ヘキサデセン、ヘプタデセン、オクタデセン、ノナデセン、エイコセンまたはこれらの混合物を含む。一実施形態では、ヘキサデセン、ヘプタデセン、オクタデセン、ノナデセン、エイコセンまたはこれらの混合物、ならびにこれらの二量体、三量体、及び四量体が特に有用なオレフィンである。代替的に、オレフィンは、1,3−ブタジエンなどのジエンのディールス・アルダー付加物及びブチルアクリレートなどの不飽和エステルであってもよい。
【0142】
別の種類の硫化オレフィンには、硫化脂肪酸及びそのエステルが含まれる。脂肪酸は、しばしば、植物油または動物油から得られ、典型的には約4〜約22個の炭素原子を含有する。好適な脂肪酸及びこれらのエステルの例としては、トリグリセリド、オレイン酸、リノール酸、パルミトレイン酸、またはこれらの混合物が挙げられる。しばしば、脂肪酸は、ラード油、トール油、ピーナッツ油、大豆油、綿実油、ヒマワリ種子油、またはこれらの混合物から得られる。脂肪酸及び/またはエステルは、α−オレフィンなどのオレフィンと混合してもよい。
【0143】
1つ以上の酸化防止剤(複数可)は、エンジン油組成物の総重量を基準として、約0重量%〜約5重量%、または約0.01重量%〜約5重量%、または約0.1重量%〜約3重量%の範囲であり得る。
【0144】
耐摩耗剤
本明細書のエンジン油組成物はまた、任意選択で、1つ以上の耐摩耗剤を含むことができる。好適な耐摩耗剤の例としては、限定されないが、チオリン酸金属、ジアルキルジチオリン酸金属塩、リン酸エステルまたはその塩、ホスホン酸エステル(複数可)、ホスファイト、リン含有カルボン酸エステル、エーテル、またはアミド、硫化オレフィン、チオカルバメートエステル、アルキレン結合チオカルバメート及びビス(S−アルキルジチオカルバミル)2硫化物のようなチオカルバメート含有化合物、及びこれらの混合物を含む。好適な耐摩耗剤は、ジチオカルバミン酸モリブデンであってもよい。リン含有耐摩耗剤は、欧州特許第612839号により詳細に記載されている。ジアルキルジチオホスフェート塩の金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、鉛、スズ、モリブデン、マンガン、ニッケル、銅、チタン、または亜鉛であってもよい。有用な耐摩耗剤は、ジアルキルジチオリン酸亜鉛であり得る。ジヒドロカルビルジチオリン酸金属は、0〜6重量%、または0.1〜6重量%、または0.1〜4.0重量%の量で存在することができる。
【0145】
好適な耐摩耗剤のさらなる例には、チタン化合物、酒石酸塩、タトリイミド、リン化合物の油溶性アミン塩、硫化オレフィン、ホスファイト(例えば、ジブチルホスファイト)、ホスホン酸、チオカルバメートエステル、チオカルバメートアミド、チオカルバメートエーテル、アルキレンカップリングチオカルバメート、及びビス(S−アルキルジチオカルバミル)2硫化物などのチオカルバメート含有化合物を含む。酒石酸塩またはタトリイミドは、アルキル基上の炭素原子の合計が少なくとも8であり得るアルキル−エステル基を含み得る。耐摩耗剤は、一実施形態では、クエン酸塩を含むことができる。
【0146】
耐摩耗剤は、エンジン油組成物の、約0重量%〜約15重量%、または約0.01重量%〜約10重量%、または約0.05重量%〜約7重量%、または約0.1重量%〜約5重量%の範囲内であり得る。
【0147】
ホウ素含有化合物
本明細書のエンジン油組成物は、任意選択で、1つ以上のホウ素含有化合物を含有することができる。
【0148】
ホウ素含有化合物の例には、米国特許第5,883,057号に開示されているように、ホウ酸エステル、ホウ酸脂肪アミン、ホウ酸ポキシド、ホウ酸化洗剤、及びホウ酸化スクシンイミド分散剤などのホウ酸化分散剤が含まれる。
【0149】
ホウ素含有化合物は、存在する場合には、エンジン油組成物の、約8重量%まで、約0.01重量%〜約7重量%、約0.05重量%〜約5重量%、もしくは約0.1重量%〜約3重量%を提供するのに十分な量で使用することができる。
【0150】
洗剤
エンジン油組成物は、任意選択で、1つ以上の中性、低塩基性、または過塩基性の洗剤、及びこれらの混合物をさらに含んでもよい。好適な洗剤基質には、フェネート、硫黄含有フェネート、スルホン酸、カリキサラート、サリキサレート、サリチル酸、カルボン酸、リン酸、モノ及び/もしくはジチオリン酸、アルキルフェノール、硫黄結合アルキルフェノール化合物、またはメチレン架橋フェノールが含まれる。好適な洗剤及びその調製方法は、US7,732,390及びそこに引用されている参考文献を含む多数の特許公報に、より詳細に記載されている。洗剤基質は、限定されないが、カルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、リチウム、バリウム、またはこれらの混合物などのアルカリ金属またはアルカリ土類金属で塩基化されてもよい。いくつかの実施形態では、洗剤は、バリウムを含まない。好適な洗剤は、石油スルホン酸のアルカリまたはアルカリ土類金属塩、及び長鎖モノまたはジアルキルアリールスルホン酸を含み得、アリール基が、ベンジル、トリル、及びキシリルである。好適な洗剤の例には、限定されないが、カルシウムフェネート、カルシウム硫黄含有フェネート、スルホン酸カルシウム、カルシウムカリキサラート、カルシウムサリキサレート、サリチル酸カルシウム、カルボン酸カルシウム、リン酸カルシウム、カルシウムモノ及び/またはジチオリン酸、カルシウムアルキルフェノール、カルシウム硫黄結合アルキルフェノール化合物、カルシウムメチレン架橋フェノール、マグネシウムフェネート、マグネシウム硫黄含有フェネート、スルホン酸マグネシウム、マグネシウムカリキサラート、マグネシウムサリキサレート、サリチル酸マグネシウム、カルボン酸マグネシウム、マグネシウムリン酸、マグネシウムモノ及び/またはジチオリン酸、マグネシウムアルキルフェノール、マグネシウム硫黄結合アルキルフェノール化合物、マグネシウムメチレン架橋フェノール、ナトリウムフェネート、ナトリウム硫黄含有フェネート、スルホン酸ナトリウム、ナトリウムカリキサラート、ナトリウムサリキサレート、サリチル酸ナトリウム、カルボン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、モノ及び/またはジチオリン酸ナトリウム、ナトリウムアルキルフェノール、ナトリウム硫黄結合アルキルフェノール化合物、またはナトリウムメチレン架橋フェノールを含む。
【0151】
過塩基性洗剤添加剤は、当該技術分野において周知であり、アルカリまたはアルカリ土類金属過塩基性洗剤添加剤であってもよい。そのような洗剤添加剤は、金属酸化物または金属水酸化物を基質及び二酸化炭素ガスと反応させることによって調製することができる。基質は、典型的には、酸、例えば、脂肪族置換スルホン酸、脂肪族置換カルボン酸、または脂肪族置換フェノールなどの酸である。
【0152】
「過塩基性」という用語は、存在する金属の量が化学量論的量を超える、スルホン酸塩、カルボン酸塩、及びフェネートの金属塩などの金属塩に関する。このような塩は、100%超の変換レベルを有してもよい(すなわち、これらは、酸をその「標準」「中性」の塩に変換するのに必要な理論的量の金属の100%より多くを含み得る)。しばしばMRと略される「金属比」という表現は、既知の化学反応性及び化学量論に従って中性塩中の金属の化学当量に対する過塩基性塩中の金属の全化学当量の比を示すために使用される。標準または中性塩では、金属比は、1であり、過塩基性塩ではMRは、1より大きい。これらは一般に、過塩基性、高塩基性または超塩基性の塩と称され、有機硫黄酸、カルボン酸またはフェノールの塩であり得る。
【0153】
エンジン油組成物の過塩基性洗剤は、約200mgKOH/g超、またはさらなる例として、約250mgKOH/g超、もしくは約350mgKOH/g超または約375mgKOH/g超、もしくは約400mgKOH/g超の全塩基価(TBN)を有してもよい。
【0154】
好適な過塩基性洗剤の例には、限定されないが、過塩基性カルシウムフェネート、過塩基性カルシウム硫黄含有フェネート、過塩基性スルホン酸カルシウム、過塩基性カルシウムカリキサラート、過塩基性カルシウムサリキサレート、過塩基性サリチル酸カルシウム、過塩基性カルボン酸カルシウム、過塩基性リン酸カルシウム、過塩基性カルシウムモノ及び/またはジチオリン酸、過塩基性カルシウムアルキルフェノール、過塩基性カルシウム硫黄結合アルキルフェノール化合物、過塩基性カルシウムメチレン架橋フェノール、過塩基性マグネシウムフェネート、過塩基性マグネシウム硫黄含有フェネート、過塩基性過塩基性スルホン酸マグネシウム、過塩基性マグネシウムカリキサラート、過塩基性マグネシウムサリキサレート、過塩基性サリチル酸マグネシウム、過塩基性マグネシウムカルボン酸、過塩基性マグネシウムリン酸、過塩基性マグネシウムモノ及び/またはジチオリン酸、過塩基性マグネシウムアルキルフェノール、過塩基性マグネシウム硫黄結合アルキルフェノール化合物、過塩基性マグネシウムメチレン架橋フェノールを含む。
【0155】
過塩基性洗剤は、1.1:1から、または2:1から、または4:1から、または5:1から、または7:1から、または10:1からの金属対基質比を有してもよい。
【0156】
いくつかの実施形態では、洗剤は、エンジン内の錆を低減または防止するのに有効である。
【0157】
洗剤は、約0.1重量%〜約15重量%、または約0.2重量%〜約8重量%、または約1重量%〜約4重量%、または約4重量%〜約8重量%で存在してもよい。
【0158】
一実施形態では、エンジン油組成物は、1つ以上のカルシウム含有洗剤を含む。いくつかの実施形態において、1つ以上のカルシウム含有洗剤は、約900ppmw〜約2500ppmwのカルシウムをエンジン油組成物に提供する量で存在してもよい。別の実施形態では、1つ以上のカルシウム含有洗剤は、約1000ppmw〜約2200ppmwのカルシウム、または約1100ppmw〜約2000ppmwのカルシウムをエンジン油組成物に提供する量で存在してもよい。
【0159】
別の実施形態では、カルシウム含有洗剤は、少なくとも300ppmwのカルシウムをエンジン油組成物に送達するのに十分な量のカルシウムフェネートを含む。
【0160】
別の実施形態では、カルシウム含有洗剤は、混合物の50%超がスルホン酸カルシウム洗剤であるカルシウム含有洗剤の混合物を含む。
【0161】
分散剤
エンジン油組成物は、任意選択で、1つ以上の分散剤またはこれらの混合物をさらに含んでもよい。分散剤は、エンジン油組成物中で混合する前に、灰形成金属を含有せず、潤滑剤に添加したときに通常は灰分に寄与しないため、無灰系の分散剤としてよく知られている。無灰系の分散剤は、比較的高分子量の炭化水素鎖に結合した極性基を特徴とする。典型的な無灰分散剤には、N−置換長鎖アルケニルスクシンイミドが含まれる。N−置換長鎖アルケニルスクシンイミドの例には、ポリイソブチレン置換基の数平均分子量が約350〜約50,000、または約5,000〜約3,000のポリイソブチレンスクシンイミドが含まれる。スクシンイミド分散剤及びこれらの調製は、例えば、米国特許第7,897,696号または米国特許第4,234,435号に開示されている。ポリオレフィンは、約2〜約16個、または約2〜約8個、または約2〜約6個の炭素原子を含有する重合性モノマーから調製することができる。スクシンイミド分散剤は、典型的には、ポリアミン(複数可)、典型的にはポリ(エチレンアミン)から形成されるイミドである。
【0162】
一実施形態では、本開示は、約350〜約50,000、または〜約5000、または〜約3000の範囲の数平均分子量を有するポリイソブチレンから誘導される少なくとも1つのポリイソブチレンスクシンイミド分散剤をさらに含む。ポリイソブチレンスクシンイミドは、単独で、または他の分散剤と組み合わせて使用してもよい。
【0163】
いくつかの実施形態では、ポリイソブチレンは、含まれる場合、末端二重結合含有量が50モル%超、60モル%超、70モル%超、80モル%超または90モル%超を有していてもよい。そのようなPIBは、高反応性PIB(「HR−PIB」)とも称される。約800〜約5000の範囲の数平均分子量を有するHR−PIBは、本開示の実施形態における使用に好適である。従来のPIBは、典型的には、50モル%未満、40モル%未満、30モル%未満、20モル%未満、または10モル%未満の二重結合含有量を有する。
【0164】
約900〜約3000の範囲の数平均分子量を有するHR−PIBが、好適であり得る。そのようなHR−PIBは、市販されているか、またはBoerzelらへの米国特許第4,152,499号及び米国特許第4,152,499号に記載されているような三塩化ホウ素のような非塩素化触媒の存在下でのイソブテンの重合によって合成することができる。Gateauらの米国特許第5,739,355号に記載されている。前述の熱エン反応で使用される場合、HR−PIBは、反応性の増加により、反応中の高い転位率、ならびに低い沈殿物の形成量をもたらす。好適な方法は、米国特許第7,897,696号に記載されている。
【0165】
一実施形態では、本開示は、ポリイソブチレン無水コハク酸(「PIBSA」)から誘導される少なくとも1つの分散剤をさらに含む。PIBSAは、ポリマー当たり平均約1.0〜約2.0のコハク酸部分を有してもよい。
【0166】
アルケニルまたはアルキル無水コハク酸の%活性は、クロマトグラフィー技術を使用して測定することができる。この方法は、米国特許第5,334,321号の第5欄及び第6欄に記載されている。
【0167】
ポリオレフィンの変換率は、米国特許第5,334,321号の第5欄及び第6欄の式を使用して%活性から計算される。
【0168】
別段の記載がない限り、パーセントは、全て重量パーセントであり、全ての分子量は、数平均分子量である。数平均分子量は、ポリスチレン標準を利用する米国特許第5,266,223号に記載されているように、H−NMRまたはゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって決定することができる。付加的に、GPC法は、分子量分布情報を提供する。W.W.Yau,J.J.Kirkland and D.D.Bly,“Modern Size Exclusion Liquid Chromatography,”John Wiley and Sons,New York,1979参照されたい。
【0169】
一実施形態では、分散剤は、ポリアルファオレフィン(PAO)無水コハク酸から誘導されてもよい。
【0170】
一実施形態では、分散剤は、オレフィン無水マレイン酸コポリマーから誘導されてもよい。一例として、分散剤はポリPIBSAと記載することができる。
【0171】
一実施形態では、分散剤は、エチレン−プロピレンコポリマーに反応またはグラフト化された無水物から誘導されてもよい。
【0172】
好適な種類の分散剤は、オレフィンコポリマー(OCP)、より具体的には、無水マレイン酸でグラフト化し得るエチレン−プロピレン分散剤から誘導されてもよい。機能性OCPと反応させることができる窒素含有化合物のより完全なリストは、米国特許第7,485,603号、第7,786,057号、第7,253,231号、第6,107,257号、及び第5,075,383号に記載され、及び/または市販されている。
【0173】
好適な分散剤の1つの種類は、マンニッヒ塩基であり得る。マンニッヒ塩基は、より高分子量のアルキル置換フェノール、ポリアルキレンポリアミン、及びホルムアルデヒドのようなアルデヒドの縮合によって形成される物質である。マンニッヒ塩基は、米国特許第3,634,515号により詳細に記載されている。
【0174】
好適な種類の分散剤は、高分子量エステルまたは半エステルアミドであり得る。
【0175】
好適な分散剤はまた、種々の薬剤のいずれかとの反応による従来の方法によって後処理することができる。これらの中には、ホウ素、尿素、チオウレア、ジメルカプトチアジアゾール、二硫化炭素、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、炭化水素置換無水コハク酸、無水マレイン酸、ニトリル、エポキシド、カーボネート、環状カーボネート、ヒンダードフェノールエステル、及びリン化合物、などがある。US7,645,726、US7,214,649、及びUS8,048,831は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0176】
カーボネート及びホウ酸の後処理に加えて、化合物は両方とも、異なる特性を向上または付与するように設計された種々の後処理により、後処理、またはさらに後処理されてもよい。このような後処理には、米国特許第5,241,003号の27−29欄に要約されたものが含まれ、これは参照により本明細書に組み込まれる。このような処理には、無機リン酸または無水物(例えば、米国特許第3,403,102号及び第4,648,980号)、有機リン化合物(例えば、米国特許第3,502,677号)、五硫化リン、既に上述したホウ素化合物(例えば、米国特許第3,178,663号及び第4,652,387号)、カルボン酸、ポリカルボン酸、無水物、及び/または酸ハライド(例えば、米国特許第3,708,522号及び第4,948,386号)、エポキシド、ポリエポキシド、またはチオエポキシド(例えば、米国特許第3,859,318号及び第5,026,495号)、アルデヒドまたはケトン(例えば、米国特許第3,458,530号)、二硫化炭素(例えば、米国特許第3,256,185号)、グリシドール(例えば、米国特許第4,617,137号)、尿素、チオ尿素、またはグアニジン(例えば、米国特許第3,312,619号、第3,865,813号及び英国特許第1,065,595号)、有機スルホン酸(例えば、米国特許第3,189,544号及び英国特許第2,140,811号)、アルケニルシアン化物(例えば、米国特許第3,278,550号及び第3,366,569号)、ジケテン(例えば、米国特許第3,546,243号)、ジイソシアネート(例えば、米国特許第3,573,205号)、アルカンスルホン(例えば、米国特許第3,749,695号)、1,3−ジカルボニル化合物(例えば、米国特許第4,579,675号)、アルコキシル化アルコールまたはフェノールの硫酸塩(例えば、米国特許第3,954,639号)、環状ラクトン(例えば、米国特許第4,617,138号;第4,645,515号;第4,668,246号、第4,963,275号、及び第4,971,711号)、環状カーボネートまたはチオカーボネート、直鎖状モノカーボネートもしくはポリカーボネート、またはクロロホルメート(例えば、米国特許第4,612,132号、第4,647,390号、第4,648,886号、第4,670,170号)、窒素含有カルボン酸(例えば、米国特許第4,971,598号及び英国特許第2,140,811号)、ヒドロキシ保護化クロロジカルボニルオキシ化合物(例えば、米国特許第4,614,522号)、ラクタム、チオラクタム、チオラクトンまたはジチオラクトン(例えば、米国特許第4,614,603号及び第4,666,460号)、環状カルバメート、環状チオカルバミン酸、または環状ジチオカルバミン酸(例えば、米国特許第4,663,062号及び第4,666,459号)、ヒドロキシ脂肪族カルボン酸(例えば、米国特許第4,482,464号、第4,521,318号、第4,713,189号)、酸化剤(例えば、米国特許第4,379,064号)、リン硫化ペンタとポリアルキレンポリアミンとの組み合わせ(例えば、米国特許第3,185,647号)、カルボン酸またはアルデヒドまたはケトンと硫黄もしくは塩化硫黄との組み合わせ(例えば、米国特許第3,390,086号;同第3,470,098号)、ヒドラジンと二硫化炭素との組み合わせ(例えば、米国特許第3,519,564号)、アルデヒドとフェノールとの組み合わせ(例えば、米国特許第3,649,229号、第5,030,249号、第5,039,307号)、ジチオリン酸のアルデヒドとO−ジエステルの組み合わせ(例えば、米国特許第3,865,740号)、ヒドロキシ脂肪族カルボン酸とホウ酸との組み合わせ(例えば、米国特許第4,554,086号)、ヒドロキシ脂肪族カルボン酸と、ホルムアルデヒドとフェノールとの組み合わせ(例えば、米国特許第4,636,322号)。ヒドロキシ脂肪族カルボン酸と、次いで脂肪族ジカルボン酸との組み合わせ(例えば、米国特許第4,663,064号)、ホルムアルデヒドとフェノール、次いでグリコール酸の組み合わせ(例えば、米国特許第4,699,724号)、ヒドロキシ脂肪族カルボン酸またはシュウ酸と、次いでジイソシアネートとの組み合わせ(例えば、米国特許第4,713,191号)、無機酸またはリンの無水物またはその部分もしくは総硫黄類似体とホウ素化合物との組み合わせ(例えば、米国特許第4,857,214号)、有機二酸と不飽和脂肪酸、及び任意選択で、ホウ素化合物、次いで、グリコール化剤を伴うニトロソ芳香族アミンとの組み合わせ(例えば、例えば、米国特許第4,973,412号)、アルデヒドとトリアゾールの組み合わせ(例えば、米国特許第4,963,278号);アルデヒドとトリアゾール、次いでホウ素化合物の組み合わせ(例えば、米国特許第4,981,492号)、ならびに環状ラクトンとホウ素化合物との組み合わせ(例えば、米国特許第4,963,275号及び第4,971,711号)などによる処理が含まれる。上記の特許は、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0177】
好適な分散剤のTBNは、約50%の希釈油を含有する分散剤試料で測定した場合、約5〜約30TBNに匹敵する、油を含まない基準で約10〜約65であり得る。
【0178】
存在する場合、分散剤は、エンジン油組成物の最終重量を基準にして、約12重量%までを提供するのに十分な量で使用することができる。使用され得る分散剤の別の量は、エンジン油組成物の最終重量を基準にして、約0.1重量%〜約10重量%、または約0.1重量%〜約8.5重量%、または約3重量%〜約8重量%、または約1重量%〜約6重量%、または約7重量%〜約12重量%の量であってもよい。いくつかの実施形態では、エンジン油組成物は、混合分散剤システムを利用する。単一のタイプまたは任意の所望の比の2つ以上のタイプの分散剤の混合物を使用することができる。
【0179】
いくつかの実施形態において、エンジン油組成物は、窒素含有分散剤をさらに含む。そのような実施形態では、分散剤からの全窒素に対する洗剤からの全金属対の比は、2.5未満、またはより好ましくは2.0未満である。
【0180】
摩擦調整剤
本明細書のエンジン油組成物はまた、任意選択で、1つ以上の摩擦調整剤を含むことができる。好適な摩擦調整剤は、金属含有及び金属を含有しない摩擦調整剤を含むことができ、これに限定されるものではないが、イミダゾリン類、アミド類、アミン類、スクシンイミド類、アルコキシル化アミン類、アルコキシル化エーテルアミン類、アミンオキシド類、アミドアミン類、ニトリル類、ベタイン類、第四級アミン類、イミン類、アミン塩類、アミノグアニジン類、アルカノールアミド類、ホスホン酸類、金属含有化合物類、グリセロールエステル類、硫化脂肪族化合物及びオレフィン類、ヒマワリ油その他の天然に存在する植物油または動物油、ジカルボン酸エステル、ポリオールと1種以上の脂肪族または芳香族カルボン酸とのエステルもしくは部分エステルなどを含むことができる。
【0181】
好適な摩擦調整剤は、直鎖、分岐鎖、または芳香族ヒドロカルビル基またはこれらの混合物から選択されるヒドロカルビル基を含み得、そして飽和または不飽和であり得る。ヒドロカルビル基は、炭素及び水素または硫黄もしくは酸素などのヘテロ原子から構成されていてもよい。ヒドロカルビル基は、約12〜約25個の炭素原子の範囲であり得る。いくつかの実施形態では、摩擦指数向上剤は、長鎖脂肪酸エステルであってもよい。別の実施形態において、長鎖脂肪酸エステルは、モノエステル、ジエステル、または(トリ)グリセリドであってもよい。摩擦調整剤は、長鎖脂肪アミド、長鎖脂肪エステル、長鎖脂肪エポキシド誘導体、または長鎖イミダゾリンであってもよい。
【0182】
他の好適な摩擦調整剤は、有機、無灰(無金属)、窒素を含有しない有機摩擦調整剤を含んでもよい。このような摩擦調整剤は、カルボン酸と無水物とをアルカノールと反応させることによって形成されるエステルを含み、一般に親油性炭化水素鎖に共有結合した極性末端基(例えばカルボキシルまたはヒドロキシル)を含んでもよい。有機無灰窒素非含有摩擦調整剤の例は、一般に、オレイン酸のモノ−、ジ−及びトリ−エステルを含み得るモノオレイン酸グリセロール(GMO)として知られている。他の好適な摩擦調整剤は、米国特許第6,723,685号に記載され、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0183】
アミン性摩擦調整剤は、アミンまたはポリアミンを含み得る。このような化合物は、直鎖、飽和もしくは不飽和のいずれか、またはこれらの混合物であるヒドロカルビル基を有することができ、約12〜約25個の炭素原子を含有することができる。好適な摩擦調整剤のさらなる例には、アルコキシル化アミン及びアルコキシル化エーテルアミンが含まれる。そのような化合物は、直鎖、飽和、不飽和、またはこれらの混合物のヒドロカルビル基を有することができる。これらは、約12〜約25個の炭素原子を含有し得る。例には、エトキシル化アミン及びエトキシル化エーテルアミンが含まれる。
【0184】
アミン及びアミドは、それ自体として、または酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、メタホウ酸塩、ホウ酸またはホウ酸モノ−、ジ−またはトリ−アルキルなどのホウ素化合物との付加物もしくは反応生成物の形態で使用することができる。他の好適な摩擦調整剤は、米国特許第6,300,291号に記載されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0185】
摩擦調整剤は、約0.01重量%〜約5.0重量%、または約0.05重量%〜約2重量%、または約0.1重量%〜約2重量%などの範囲で、任意選択で存在し得る。
【0186】
モリブデン含有成分
本明細書のエンジン油組成物は、任意選択で、1つ以上のモリブデン含有化合物を含有してもよい。油溶性モリブデン化合物は、耐摩耗剤、酸化防止剤、摩擦調整剤、またはこれらの混合物の機能的性能を有していてもよい。油溶性モリブデン化合物は、ジチオカルバミン酸モリブデン、ジアルキルジチオリン酸モリブデン、ジチオホスフィン酸モリブデン、モリブデン化合物のアミン塩、キサントゲン酸モリブデン、チオキサントンモリブデン、モリブデン硫化物、カルボン酸モリブデン、モリブデンアルコキシド、三核有機モリブデン化合物、及び/またはこれらの混合物を含んでもよい。モリブデン硫化物は、二硫化モリブデンが含まれる。二硫化モリブデンは、安定な分散液の形態であってもよい。一実施形態では、油溶性モリブデン化合物は、ジチオカルバミン酸モリブデン、ジアルキルジチオリン酸モリブデン、モリブデン化合物のアミン塩、及びこれらの混合物からなる群から選択されてもよい。一実施形態では、油溶性モリブデン化合物は、ジチオカルバミン酸モリブデンであってもよい。
【0187】
使用することができるモリブデン化合物の好適な例は、R.T.Vanderbilt社からの、Molyvan822(商標)、Molyvan(商標)A、Molyvan2000(商標)及びMolyvan855(商標)、及びAdeka Corporationから入手可能な、Sakura−Lube(商標)S−165、S−200、S−300、S−310G、S−525、S−600、S−700及びS−710、などの商品名で販売されている商用材料、及びこれらの混合物を含む。好適なモリブデン成分は、US5,650,381、US RE37,363E1、US RE38,929E1及びUS RE40,595E1に記載されている。
【0188】
付加的に、モリブデン化合物は、酸性モリブデン化合物であってもよい。モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、及び他のアルカリ金属モリブデン酸塩及び他のモリブデン塩、例えば水素ナトリウムモリブデン酸塩、MoOCl4、MoO2Br2、Mo2O3Cl6、三酸化モリブデンまたは同様の酸性モリブデン化合物が含まれる。代替的に、組成物は、例えば、米国特許第4,263,152号、第4,285,822号、第4,283,295号、第4,272,387号、第4,265,773号、第4,261,843号、第4,259,195号及び第4,259,194号及びWO94/06897に記載されているような塩基性窒素化合物のモリブデン/硫黄錯体によるモリブデンを提供することができ、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0189】
好適な有機モリブデン化合物の別の種類は、例えば式Mo3SkLnQzのもの及びこれらの混合物のような、三核モリブデン化合物である(ここで、Sは硫黄を表し、Lは、化合物を油中に可溶性または分散性にするのに十分な数の炭素原子を有する有機基を有する独立して選択された配位子を表し、nは、1〜4であり、kは、4〜7であり、Qは、水、アミン、アルコール、ホスフィン及びエーテルのような中性電子供与性化合物の群から選択され、zは0〜5の範囲であり、非化学量論値を含む)。全ての配位子の有機基の中に、少なくとも25個、少なくとも30個、または少なくとも35個の炭素原子など、少なくとも21個の総炭素原子が存在してもよい。さらなる好適なモリブデン化合物は、米国特許第6,723,685号に記載され、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0190】
油溶性モリブデン化合物は、約0.5ppm〜約2000ppm、約1ppm〜約700ppm、約1ppm〜約550ppm、約5ppm〜約300ppm、または約20ppm〜約250ppmのモリブデンを提供するのに十分な量のモリブデンを含む。
【0191】
遷移金属含有化合物
別の実施形態において、油溶性化合物は、遷移金属含有化合物または半金属であってもよい。遷移金属は、チタン、バナジウム、銅、亜鉛、ジルコニウム、モリブデン、タンタル、タングステンなどを含むが、これらに限定されない。好適なメタロイドは、ホウ素、ケイ素、アンチモン、テルルなどを含むが、これらに限定されない。
【0192】
一実施形態では、油溶性遷移金属含有化合物は、耐摩耗剤、摩擦調整剤、酸化防止剤、付着制御添加剤、またはこれらの機能の2つ以上として機能することができる。一実施形態では、油溶性遷移金属含有化合物は、チタン(IV)アルコキシドなどの油溶性チタン化合物であってもよい。油溶性物質に使用することができる、または油溶性物質の調製に使用することができるチタン含有化合物の中で、開示された技術は、酸化チタン(IV)、硫化チタン(IV)、硝酸チタン(IV)などの様々なTi(IV)化合物、チタンメトキシド、チタンエトキシド、チタンプロポキシド、チタンイソプロポキシド、チタンブトキシド、チタン2−エチルヘキソキシドなどのチタン(IV)アルコキシド、及びこれらに限定されないが、チタンフェネートを含む他のチタン化合物または錯体、チタン(IV)2−エチル−1−3−ヘキサンジオエートまたはクエン酸チタンまたはオレイン酸チタンのようなチタンカルボン酸塩、及びチタン(IV)(トリエタノールアミナート)イソプロポキシド、である。開示された技術に包含される他の形態のチタンは、ジチオリン酸チタン(例えば、ジアルキルジチオチオリン酸)及びスルホン酸チタン(例えば、アルキルベンゼンスルホン酸)などのリン酸チタン、または一般に、油溶性塩のような塩を形成するチタン化合物と様々な酸物質との反応生成物を含む。したがって、チタン化合物は、とりわけ、有機酸、アルコール及びグリコールから誘導され得る。Ti化合物はまた、Ti−O−Ti構造を含む二量体またはオリゴマー形態で存在してもよい。このようなチタン材料は、市販されているか、または当業者には明らかな適切な合成技術によって容易に調製することができる。これらは、特定の化合物に依存して、固体または液体として室温で存在し得る。これらはまた、適切な不活性溶媒中の溶液形態で提供されてもよい。
【0193】
一実施形態では、チタンは、スクシンイミド分散剤などのTi修飾分散剤として供給することができる。このような材料は、チタンアルコキシドと例えばアルケニル−(またはアルキル)無水コハク酸のようなヒドロカルビル置換無水コハク酸、との間にチタン混合無水物を形成することによって調製することができる。得られたチタン酸コハク酸塩中間体は、直接使用することができ、またはそれは、(a)遊離の縮合可能な−NH官能基を有するポリアミン系スクシンイミド/アミド分散剤、(b)ポリアミンベースのスクシンイミド/アミド分散剤、すなわちアルケニル−(またはアルキル−)無水コハク酸及びポリアミンの成分、(c)置換無水コハク酸とポリオール、アミノアルコール、ポリアミンとの反応により調製されるヒドロキシ含有ポリエステル分散剤、またはこれらの混合物などの多くの物質のいずれかと反応させることができる。代替的に、チタン酸コハク酸塩中間体を、例えばアルコール、アミノアルコール、エーテルアルコール、ポリエーテルアルコールまたはポリオール、または脂肪酸、及び潤滑剤にTiを付与するために直接使用されるか、または上記のようなコハク酸分散剤とさらに反応した生成物、のような他の薬剤と反応させてもよい。一例として、テトライソプロピルチタネート1部(モル)をポリイソブテン置換無水コハク酸約2部(モル)と140〜150℃で5〜6時間反応させて、チタン変性分散剤または中間体を提供してもよい。得られた材料(30g)を、150℃で1.5時間、ポリイソブテン置換無水コハク酸及びポリエチレンポリアミン混合物(127グラム+希釈油)からのスクシンイミド分散剤とさらに反応させて、チタン変性スクシンイミド分散剤を生成させることができる。
【0194】
化合物を含有する別のチタンは、チタンアルコキシド及びC〜C25カルボン酸の反応生成物であってもよい。反応生成物は、以下の式で表され、
【0195】
【化13】
【0196】
式中、式中、nは、2、3及び4から選択される整数であり、Rは、約5〜約24個の炭素原子を含むヒドロカルビル基であり、または式で表すことができる。
【0197】
【化14】
【0198】
式中、R、R、R及びRの各々は、互いに同じであるかまたは異なり、かつ約5〜約25個の炭素原子を含むヒドロカルビル基から選択される。好適なカルボン酸は、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、オレイン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸、シクロヘキサンカルボン酸、フェニル酢酸、安息香酸、ネオデカン酸などを含むが、これらに限定されない。
【0199】
一実施形態では、油溶性チタン化合物は、重量で約0ppm〜約3000ppmのチタン、または重量で約25ppm〜約1500ppmのチタン、約50ppm〜約300ppmのチタン、または重量で約35ppm〜約500ppm、または約50ppm〜約350ppmのチタンを提供するための量でエンジン油組成物中に存在してもよい。
【0200】
その他の添加剤
他の添加剤は、潤滑流体に要求される1つ以上の機能を実行するように選択されてもよい。さらに、上述の添加剤の1つ以上は、多機能性であり、本明細書で記述される機能に加えて、または機能以外の機能を提供し得る。
【0201】
本開示によるエンジン油組成物は、任意選択で他の性能添加剤を含んでもよい。他の性能添加剤は、本開示の特定の添加剤に加えて、ならびに/または、金属不活性化剤、他の粘度指数向上剤、洗剤、無灰TBNブースター、摩擦調整剤、耐摩耗剤、腐食防止剤、錆止め剤、分散剤、他の分散剤粘度指数向上剤、極圧剤、酸化防止剤、泡抑制剤、解乳化剤、乳化剤、流動点降下剤、シール膨潤剤、及びこれらの混合物の1つ以上を含んでもよい。典型的に、完全に配合されたエンジン油は、これらの性能添加剤の1つ以上を含有する。
【0202】
好適な金属不活性化剤は、ベンゾトリアゾールの誘導体(典型的には、トリルトリアゾール)、ジメルカプトチアジアゾール誘導体、1,2,4−トリアゾール、ベンズイミダゾール、2−アルキルジチオベンゾイミダゾール、または2−アルキルジチオベンゾチアゾール、エチルアクリレートと2−エチルヘキシルアクリレート及び任意選択でビニルアセテートとのコポリマーを含む泡抑制剤、トリアルキルホスフェート、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド及び(エチレンオキシド−プロピレンオキシド)ポリマーを含む解乳化剤、無水マレイン酸−スチレンのエステル、ポリメタクリレート、ポリアクリレートまたはポリアクリルアミドを含む流動点降下剤を含んでもよい。
【0203】
好適な泡抑制剤は、シロキサンなどのシリコン系化合物を含む。
【0204】
好適な流動点降下剤は、ポリメチルメタクリレートまたはその混合物を含んでもよい。流動点降下剤は、エンジン油組成物の最終重量を基準にして、約0重量%〜約5重量%、約0.01重量%〜約4重量%、または約0.05重量%〜約2.0重量%を提供するのに十分な量で存在してもよい。
【0205】
好適な防錆剤は、鉄金属表面の腐食を抑制する特性を有する単一の化合物または化合物の混合物であってもよい。本明細書で有用な防錆剤の非限定的な例は、2−エチルヘキサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ベヘン酸、及びセロチン酸などの油溶性高分子有機酸、ならびにトール油脂肪酸、オレイン酸及びリノール酸から生成されたもののような二量体及び三量体酸を含む油溶性ポリカルボン酸を含む。他の好適な腐食防止剤は、約600〜約3000の分子量範囲の長鎖アルファ、オメガ−ジカルボン酸、及びテトラプロペニルコハク酸、テトラデセニルコハク酸、及びヘキサデセニルコハク酸のような、アルケニル基が約10個以上の炭素原子を含むアルケニルコハク酸を含む。別の有用な種類の酸性腐食防止剤は、アルケニル基に約8〜約24個の炭素原子を有するアルケニルコハク酸の、ポリグリコールのようなアルコールとの半エステルである。このようなアルケニルコハク酸の対応する半アミドも有用である。有用な防錆剤は、高分子量の有機酸である。いくつかの実施形態では、エンジン油は、防錆剤を欠いている。
【0206】
存在する場合、錆または腐食防止剤は、エンジン油組成物の最終重量を基準として、約0重量%〜約2重量%、約0.01重量%〜約1重量%、約0.01重量%〜約0.5重量%を提供するのに十分な量で使用することができる。
【0207】
一般的に言えば、好適なクランクケース潤滑剤は、以下の表に列挙する範囲の添加剤成分を含むことができる。
【0208】
【表2】
【0209】
上記の各々の成分のパーセンテージは、最終エンジン油組成物の重量を基準にして、各々の成分の重量パーセントを表す。エンジン油組成物の残りは、1つ以上の基油からなる。
【0210】
本明細書に記載された組成物を配合する際に使用される添加剤は、個別にまたは様々な副次的な組み合わせで基油にブレンドされてもよい。しかしながら、添加剤濃縮物(すなわち、添加剤プラス炭化水素溶媒のような希釈剤)を使用して、成分の全てを同時に混合することが好適であり得る。
【実施例】
【0211】
以下の実施例は、本開示の方法及び組成物を例示するものであって、限定するものではない。以下の実施例では、煤煙処理、摩耗保護及びスラッジ処理に関するエンジン油組成物中の分散剤粘度指数向上剤(DVII)の組み込みの影響を決定した。これらの実施例で使用されたDVIIは、本明細書に記載のアシル化エチレン−プロピレンコポリマーとポリアミン化合物との反応生成物を含むアミン機能性オレフィンコポリマー分散剤粘度指数向上剤であった。
【0212】
表3は、実施例1〜6で使用した成分をまとめたものである。
【0213】
【表3】
【0214】
実施例1〜6のエンジン油は、OM646LA摩耗試験を使用して試験され、エンジンの摩耗保護を評価した。
【0215】
OM646LAエンジンの摩耗試験
OM646LAエンジンの摩耗試験は、カムとタペットの摩耗、エンジンのボアポリッシュとシリンダ摩耗を評価する方法である。OM646LA摩耗試験では、2.2リットルのVTGターボチャージャ直噴4気筒ディーゼルエンジンが使用された。エンジンは、300時間の交互サイクルに供された。結果を上記の表3に示す。
【0216】
標準ACEA2016A3/B4;C3;C5。OM646LAに使用された限界は、ACEA/MB229.31/51及びVW508.00/509.00であった。
【0217】
ACEA2016A3/B4、C3、及びC5;MB229.31/51;及びVW508.00/509.00の制限値は、OM646LAエンジン摩耗試験における摩耗及び清浄度の現在の限界値の参考値として表4に含まれている。
【0218】
【表4】
【0219】
表3において、実施例2は、5W−20の粘度グレードの潤滑組成物において、少量のDVIIの存在が、DVIIのない実施例1の同様の潤滑組成物と比較して、OM646LAエンジン摩耗試験の結果を有意に向上させたことを実証した。
【0220】
実施例3〜6を、0W−20油として配合した。実施例3では、DVIIは存在しなかった。例4では、DVIIが追加され、摩耗性能が向上している。実施例5は、DVIIを添加すると共に、分散剤からの窒素に対する洗剤から金属の比を低下させることにより、さらなる摩耗の向上をもたらすことを実証する。実施例6は、実施例5よりも2倍を超える量のDVIIと、分散剤からの窒素に対する洗剤から金属の比のより低い比率を含む。実施例6は、より良好な摩耗の向上を示す。
【0221】
本開示の他の実施形態は、本明細書の考察及び本明細書に開示された実施形態の実施から当業者に明らかになるであろう。明細書及び特許請求の範囲を通して使用される場合、「a」及び/または「an」は、1つまたは1つ以上を指すことができる。他に指示がなければ、本明細書及び特許請求の範囲で使用される成分の量、分子量、パーセント、比、反応条件などの性質を表す全ての数字は、「約」という用語が存在するか否かにかかわらず、全ての場合において「約」という用語によって修飾されるものとして理解されるべきである。したがって、反対に示されない限り、本明細書及び特許請求の範囲に記載される数値パラメータは、本開示によって得ようとする所望の特性に依存して変化し得る近似値である。最低限、特許請求の範囲に対する均等論の適用を制限する試みとしてではなく、各々の数値パラメータは、報告された有効数字の数及び通常の丸め技術を適用することによって少なくとも解釈されるべきである。開示の広い範囲を示す数値範囲及びパラメータが近似値であるにもかかわらず、特定の実施例に示された数値は、可能な限り正確に報告される。しかしながら、いずれの数値も、それぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的に生じる特定の誤差を本質的に含有する。本明細書及び実施例は、例示のみとして考えられ、本開示の真の範囲は、添付の特許請求の範囲によって示されることが意図される。
【0222】
前述の実施形態は、実際にかなりの変動を受けやすい。したがって、実施形態は、上記の特定の例示に限定されるものではない。むしろ、前述の実施形態は、法律問題として利用可能なその等価物を含む添付の特許請求の範囲の範囲内である。当分野で通常遭遇する種々の条件及びパラメータの好適な改変及び適合は、当業者に明らかであり、本開示の範囲内である。
【0223】
本明細書で引用した全ての特許及び刊行物は、その全体が参照により本明細書に完全に組み込まれる。
【0224】
特許権者は、開示された実施形態を公衆に捧げるつもりはなく、開示された改変または改変が文字通り特許請求の範囲内に含まれない限り、等価物の教義の下でこれらの一部とみなされる。