(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1融着接続部における前記クラッドのうち前記ドーパントを含有する部分の厚みをtとし、前記第1融着接続部における前記コアの半径をrとしたとき、t≧0.2×rである、請求項1から3のいずれか1項に記載のレーザ装置。
前記第2融着接続部における前記コアの少なくとも一部には、前記第2融着接続部における前記クラッドに含有された屈折率を低下させるドーパントと同種のドーパントが含有されている、請求項1から8のいずれか1項に記載のレーザ装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の光デバイスでは、GRINレンズを用意した上で、当該光デバイスを通過する光の損失を小さくするために、2つの光ファイバとGRINレンズとを比較的高精度に位置決めする必要があり、よりシンプルな構成で拡がり角を調整することが可能なレーザ装置が求められていた。
【0005】
本発明はこのような事情を考慮してなされ、シンプルな構成で拡がり角を調整することが可能なレーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様に係るレーザ装置は、レーザ光を出力するレーザユニットと、前記レーザ光を出射する出射端と、前記レーザ光が伝搬するコア及び前記コアを囲うクラッドを有する2本のマルチモードファイバ同士が融着接続されてなる第1融着接続部および第2融着接続部と、を備え、前記レーザユニット側を上流側、前記出射端側を下流側とするとき、前記第1融着接続部は、前記第2融着接続部よりも上流側に位置し、前記第1融着接続部における前記コアの少なくとも一部には、前記第1融着接続部における前記クラッドに含有された屈折率を低下させるドーパントと同種のドーパントが含有され、前記第1融着接続部における前記コアと前記第2融着接続部における前記コアとで屈折率プロファイルが異なっている。
【0007】
上記第1の態様によれば、第1融着接続部のコアの少なくとも一部に、屈折率を低下させるドーパントが含有されており、当該ドーパントにより、コア内における屈折率プロファイルが変化している。より詳しくは、コア内に屈折率が低下した領域が設けられているため、当該領域を通過する光の反射角が変化する。このため第1融着接続部を通過する光全体での拡がり角が変化する。拡がり角の変化量は、第1融着接続部のコアの屈折率プロファイルに依存するため、当該屈折率プロファイルを調整することにより、出射端から出射されるレーザ光の拡がり角を所望の範囲に調整することができる。さらに、複数のレーザ装置間の拡がり角のばらつきを抑えて、品質を安定させることもできる。
この構成は、例えば光ファイバとレンズとを接続して拡がり角を調整する場合と比較してシンプルであり、光ファイバとレンズとの接続部における損失の発生を避けることができる。
【0008】
ここで、上記態様のレーザ装置は、クラッドモード光を除去するクラッド光除去部をさらに備え、前記第1融着接続部は前記クラッド光除去部よりも上流側に位置していてもよい。
【0009】
この場合、第1融着接続部のコアに屈折率を低下させるドーパントが含有されていることに起因してクラッドモード光が生じたとしても、当該クラッドモード光をクラッド光除去部によって除去することができる。したがって、クラッドモード光によって引き起こされるレーザ装置内の意図しない箇所における発熱などを抑制することができる。
【0010】
また、前記第1融着接続部の前記クラッドに含有されている前記ドーパントはフッ素であってもよい。
【0011】
この場合、拡散速度の速いフッ素を、屈折率を低下させるドーパントとして用いることで、クラッドからコアへと当該ドーパントを移動させる際の効率を高めることができる。
【0012】
また、前記第1融着接続部における前記コアのうち、前記ドーパントが含有されている領域の径方向における寸法は、前記コアの半径の10%以上であってもよい。
【0013】
この場合、コア内を伝搬する光のうち、屈折率を低下させるドーパントを含有された領域を通過する割合がある程度確保される。したがって、拡がり角をより確実に調整することができる。なお、上記「10%以上」との値は、通常の融着接続によってもたらされるものではなく、例えば融着接続を行った後で追加で加熱を行うことで得られる値である。
【0014】
また、前記第1融着接続部における前記クラッドのうち前記ドーパントを含有する部分の厚みをtとし、前記第1融着接続部における前記コアの半径をrとしたとき、t≧0.2×rであってもよい。
【0015】
この場合、クラッドに含まれるドーパントの総量を確保し、コアにドーパントが移動した後におけるクラッドの屈折率上昇を抑制することができる。なお、「クラッドのうちドーパントを含有する部分」とは、当該部分とコア中心部との屈折率差が0.05%以上となる部分である。
【0016】
また、前記第1融着接続部における前記コアの直径が50μm以上であってもよい。
【0017】
コアの直径が小さすぎると、屈折率を低下させるドーパントを含有する領域を通過することで変化した拡がり角が、前記領域が設けられた部分を通過した後で、変化前の大きさに戻ってしまうことが考えらえる。そこで、コアの直径を50μm以上とすることで、拡がり角が元に戻ってしまうことを抑制し、前記領域による拡がり角の調整効果をより確実に奏功させることができる。
【0018】
また、上記態様のレーザ装置は、複数の前記レーザユニットと、複数の前記レーザユニットからのレーザ光を1本のファイバに結合させるコンバイナと、をさらに備え、前記第1融着接続部は前記コンバイナと前記クラッド光除去部との間に位置していてもよい。
【0019】
レーザ装置においては、レーザユニットを交換する場合がある。このとき、レーザユニットとコンバイナとの間で融着接続が行われる場合があり、当該融着接続する部分に上記した第1融着接続部が位置していると、第1融着接続部のコアの屈折率プロファイルが変動する可能性がある。つまり、レーザユニットの交換の前後で、レーザ装置の出射端から出射されるレーザ光の拡がり角が変動してしまう可能性がある。そこで、部品交換の頻度が比較的少ない、コンバイナとクラッド光除去部との間の部分に第1融着接続部を配置することで、部品交換によって拡がり角が変動する可能性を低減することができる。
【0020】
また、前記第2融着接続部は、前記クラッド光除去部と前記出射端との間に位置していてもよい。
【0021】
上記の通り、第1態様のレーザ装置においては、主として第1融着接続部で拡がり角を変化させるため、第2融着接続部では拡がり角を変化させないか、拡がり角を変化させたとしてもその変化量は第1融着接続部における変化量よりも小さくすることができる。このような第2融着接続部を、クラッド光除去部と出射端との間に配置することで、出射端の部品交換に伴って第2融着接続部で融着接続しなおしたとき、出射端から出射されるレーザ光の拡がり角の部品交換前後での変動を抑制することができる。
【0022】
また、前記第2融着接続部における前記コアの少なくとも一部には、前記第2融着接続部における前記クラッドに含有された屈折率を低下させるドーパントと同種のドーパントが含有されていてもよい。
【0023】
この場合、第1融着接続部だけでなく、第2融着接続部においても拡がり角を変化させることができ、レーザ装置全体での拡がり角の調整しろを大きくすることができる。また、第1融着接続部のみで拡がり角を変化させる場合と比較して、第1融着接続部での拡がり角の変化量を小さくすることができる。これにより、第1融着接続部において屈折率を低下させるドーパントをコアに拡散させるためにクラッドに加える熱量を小さくすることができる。したがって、第1融着接続部のクラッドを加熱することに起因する、第1融着接続部での透過率低下や機械的強度低下などを抑制することができる。
【0024】
また、本発明の第2の態様に係るレーザ装置の製造方法は、前記出射端から前記レーザ光を出射させ、出射された前記レーザ光の拡がり角を測定し、当該拡がり角が所定の値となるように、前記第1融着接続部の前記コアの屈折率プロファイルを変化させる調整工程を有する。
【0025】
上記第2の態様によれば、拡がり角のレーザ装置ごとのばらつきを抑えることができる。
【0026】
また、2本の前記マルチモードファイバ同士を融着接続させることができる融着接続器を用いて前記調整工程を行ってもよい。
【0027】
この場合、レーザ装置を製造する際に通常行われる融着接続の際に、拡がり角を調整することができる。このように、従来の製造工程に対して大きな変更を加えることなく拡がり角を調整することで、拡がり角を調整することによる製造コストの増大を抑えることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の上記態様によれば、シンプルな構成で拡がり角を調整することが可能なレーザ装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本実施形態のレーザ装置について図面に基づいて説明する。
図1に示すように、レーザ装置1は、複数のレーザユニット2と、コンバイナ3と、クラッド光除去部4と、出射端5と、を備えている。本明細書では、レーザユニット2側を上流側、出射端5側を下流側という。
【0031】
各レーザユニット2は、レーザ光を各ファイバ2aに出力する。レーザユニット2としては、例えばファイバレーザや半導体レーザを用いることができる。レーザユニット2は、励起光を出射する励起光源と、励起光によってレーザ光を生成する共振器と、を備えていてもよい。また、MOPA(Master Oscillator Power Amplifier)方式のレーザユニット2を採用しても良い。
【0032】
各ファイバ2aはコンバイナ3に接続されている。コンバイナ3は、各レーザユニット2から出力されたレーザ光を、1つのファイバ3aに結合させる。なお、レーザユニット2の数は1つであってもよく、その場合、コンバイナ3は設けられていなくてもよいし、設けられていてもよい。
【0033】
クラッド光除去部4は、クラッド内を伝搬する余分なクラッド光を除去する。クラッド光除去部4の構成は適宜選択可能である。例えば、ファイバ4a、4b同士の融着接続部において、クラッドの外周に、クラッドよりも屈折率の高い透明な樹脂(高屈折率樹脂)を設けてもよい。この場合、クラッドと高屈折率樹脂との界面において、クラッド光がより屈折率の高い高屈折率樹脂側に進入しやすくなる。したがって、クラッド光をクラッドから除去することができる。
【0034】
クラッド光除去部4には、入力側ファイバ4aおよび出力側ファイバ4bが接続されている。入力側ファイバ4aは、第1融着接続部P1において、コンバイナ3のファイバ3aに融着接続されている。
出射端5は、レーザ光が出射される部分である。出射端5にはデリバリファイバ5aが接続されている。デリバリファイバ5aは、第2融着接続部P2において、出力側ファイバ4bに融着接続されている。
【0035】
コンバイナ3のファイバ3a、クラッド光除去部4のファイバ4a、4b、およびデリバリファイバ5aは、光をマルチモードで伝搬可能なマルチモードファイバである。
このように、本実施形態のレーザ装置は、2本のマルチモードファイバ同士が融着接続されてなる第1融着接続部P1および第2融着接続部P2を備えている。第1融着接続部P1は、コンバイナ3とクラッド光除去部4との間に位置している。第2融着接続部P2は、クラッド光除去部4と出射端5との間に位置している。
【0036】
以下の説明では、融着接続部P1、P2において融着接続される2本のマルチモードファイバを、第1ファイバF1および第2ファイバF2として説明する。第1融着接続部P1については、第1ファイバF1がコンバイナ3のファイバ3aに相当し、第2ファイバF2がクラッド光除去部4の入力側ファイバ4aに相当する。第2融着接続部P2については、第1ファイバF1がクラッド光除去部4の出力側ファイバ4bに相当し、第2ファイバF2がデリバリファイバ5aに相当する。
【0037】
ここで、本実施形態の第1融着接続部P1は、光の拡がり角を変化させる光デバイス10を構成している。以下、
図2を用いてより詳しく説明する。
図2は、光デバイス10の断面を示している。光デバイス10は、コア11と、クラッド12と、被覆13と、を備えている。第1融着接続部P1を構成するファイバF1、F2は互いに同種であってもよい。また、第2融着接続部P2を構成するファイバF1、F2は互いに同種であってもよい。なお、本明細書において2本のファイバが「同種」であるとは、コア11の外径、クラッド12の外径、およびクラッド12に含有されているドーパントの種類が同じであることをいう。
【0038】
コア11は石英ガラスにより形成されている。コア11の直径は、例えば50μm以上であり、光をマルチモードで伝搬可能となっている。クラッド12は、石英ガラスにより形成され、コア11を囲っている。クラッド12は、内側部12aと、前記内側部12aの外側の外側部12bと、を有している。内側部12aには、石英ガラスの屈折率を低下させるドーパントが添加されている。このようなドーパントとしては、F(フッ素)、B(ホウ素)、Ge(ゲルマニウム)などを採用することができる。ドーパントの添加により、少なくともコア11との界面において、クラッド12の屈折率はコア11よりも低くなっている。これにより、光をコア11内に閉じ込めることができる。
【0039】
外側部12bには、石英ガラスの屈折率を低下させるドーパントが添加されていない。このように、クラッド12が、屈折率を低下させるドーパントを含有する内側部12aと、当該ドーパントを含有しない外側部12bと、を有することで、クラッド12に添加されるドーパントの総量を少なくして、コストダウンを図ることができる。なお、クラッド12の全体に、屈折率を低下させるドーパントが添加されていてもよい。また、必要に応じて、コア11またはクラッド12に、屈折率を下げる目的以外のドーパント(例えば粘度調整のため等)を添加してもよい。
【0040】
被覆13は、クラッド12を覆っている。被覆13としては、樹脂などを用いることができる。例えば、ウレタンアクリレート系、ポリブタジエンアクリレート系、エポキシアクリレート系、シリコーンアクリレート系、ポリエステルアクリレート系のUV硬化型樹脂を被覆13として採用してもよい。
【0041】
被覆13の一部は、不連続部13aとなっている。本明細書において「不連続部」とは、被覆13が除去された部分(被覆除去部)、若しくは被覆13が除去された後で再び樹脂などで覆われた部分(再被覆部)をいう。また、被覆13のうち不連続部13a以外の部分を連続部13bという。
図2の例では、被覆13の一部が除去された後、再び樹脂などで覆われることで不連続部13aが構成されている。
【0042】
本明細書では、長手方向において不連続部13aが位置している範囲を第1領域A1といい、不連続部13aが位置していない範囲を第2領域A2という。換言すると、第2領域A2は、連続部13bが位置している範囲である。
融着接続部P1は、第1領域A1に位置している。すなわち、融着接続部P1は被覆13が不連続部13aとなっている部分に位置している。
ここで本実施形態では、コア11のうち第1領域A1に位置している部分に、調整部11aが設けられている。
【0043】
調整部11aは、クラッド12の内側部12aに添加された、屈折率を低下させるドーパントが染み出した部分である。調整部11aでは、コア11の調整部11a以外の部分よりも屈折率が低くなっている。調整部11aは、コア11の外周面に沿って間欠的に設けられていてもよいし、外周面の全周にわたって連続的に設けられていてもよい。
【0044】
調整部11aは、融着接続部P1を長手方向において跨ぐように配置されている。換言すると、調整部11aは、融着接続部P1から長手方向における両側に向けて延びている。
図2では、融着接続部P1を基準として、長手方向における一方側を+Z側、他方側を−Z側として表示している。融着接続部P1から調整部11aの+Z側の端部までの長手方向における寸法と、融着接続部P1から調整部11aの−Z側の端部までの長手方向における寸法と、は互いに略同じである。すなわち、調整部11aは、融着接続部P1を中心として略左右対称に形成されている。
【0045】
調整部11aは、クラッド12を加熱して、クラッド12の内側部12aに含まれている屈折率を低下させるドーパントをコア11に移動させることで設けることができる。調整部11aを設ける具体的な方法としては、例えば被覆13の一部を除去してクラッド12の外周面を露出させ、露出したクラッド12をヒータにより加熱してもよい。あるいは、露出したクラッド12に向けて電力で放電し、放電によって加熱してもよい。特に、
図3に示すような融着接続器100によるアーク放電が好適である。
【0046】
図3に、融着接続器100の一例を示す。融着接続器100は、第1ファイバF1の軸線と第2ファイバF2の軸線とが一致し、かつファイバF1、F2の端面同士が当接するように、ファイバF1、F2を保持して位置決めする。そして、当接された端面の近傍に放電して加熱することで、ファイバF1、F2のコア11およびクラッド12を溶融して融着させる。融着接続部P1は、融着接続器100を用いて設けることができる。さらに、ファイバF1、F2を融着接続させた後、追加放電を行うことで、クラッド12に含まれている屈折率を低下させるドーパントをコア11に移動させて、調整部11aを設けることができる。
【0047】
なお、石英ガラス内における拡散の速度を考慮すると、屈折率を低下させるドーパントとしてはF(フッ素)が好適である。Fを用いることで、例えばBやGeと比較して、短時間でドーパントをクラッド12からコア11に移動させ、調整部11aを設けることができる。
【0048】
なお、調整部11aを設けた後、被覆13を除去した部分を樹脂によって再度被覆してもよい。この場合、再度設けられた被覆(再被覆部)によって、クラッド12の外周面を保護することができる。ただし、例えば漏れ光による発熱などの懸念が無い場合には、再被覆部を設けなくてもよい。
【0049】
調整部11aが設けられている部分におけるコア11の屈折率プロファイルは、調整部11aが設けられていない部分におけるコア11の屈折率プロファイルと異なっている。なお、「屈折率プロファイル」とは、半径方向におけるコア11の屈折率分布である。
【0050】
次に、以上のように構成されたレーザ装置1の作用について説明する。
【0051】
図2に示す第2領域A2では、コア11の屈折率プロファイルは長手方向に沿って一定となっている。このため、第2領域A2を進む光の拡がり角は、長手方向に沿って一定となる。
一方、第1領域A1の少なくとも一部では、調整部11aによって、コア11の屈折率プロファイルが変化する。すなわち、第2領域A2から第1領域A1に進入した光にとってみると、屈折率プロファイルが長手方向で変化することになる。また、調整部11aは、コア11の半径方向における全体ではなく、外周の一部分に設けられている。したがって、コア11内を伝搬する光の一部は調整部11aの影響を受ける一方、残りの部分は調整部11aの影響を受けない。これにより、コア11を伝搬する一部の光の反射角がばらつき、融着接続部P1を通過した光の拡がり角が変化する。シングルモードファイバにおいては伝搬するモードが単一であるため影響ないが、マルチモードファイバの場合はモード間の結合効率が変化するため、拡がり角が変化すると考えられる。
【0052】
また、第1領域A1と第2領域A2とを比較したときの屈折率プロファイルの変化の程度が大きいほど、光の拡がり角の変化の程度も大きくなる。そして、屈折率プロファイルの変化の程度は、加熱によって調整部11aを設ける際の、加熱時間や加熱温度に依存する。すなわち、加熱時間や加熱温度を調整することで、光の拡がり角を変化させて、例えばBPP(Beam Parameter Product)を所望の値とすることが可能となる。
【0053】
上記の通り、第1融着接続部P1のコア11の少なくとも一部には、クラッド12に含有された屈折率を低下させるドーパントと同種のドーパントが含有される。一方、第2融着接続部P2のコア11には、屈折率を
低下させるドーパントが含有されていないか、含有されていたとしても、その含有量は第1融着接続部P1における含有量より小さい。したがって、第1融着接続部P1のコア11と、第2融着接続部P2のコア11とでは、屈折率プロファイルが異なっている。第2融着接続部P2のコア11にも屈折率を低下させるドーパントが含有されている場合、含有領域の径方向の厚みは、コア11の半径の5%以下であることが好ましい。
【0054】
クラッド12からコア11へのドーパントの拡散量は、クラッド12に加える熱量に依存するため、第1融着接続部P1における加熱時間または加熱温度を、第2融着接続部P2における加熱時間または加熱温度よりも大きくすることで、上記のように屈折率プロファイルを相違させることができる。
【0055】
以上説明したように、本実施形態のレーザ装置1は、レーザ光が伝搬するコア11およびコア11を囲うクラッド12を有する2本のファイバF1、F2同士が融着接続されてなる第1融着接続部P1および第2融着接続部P2を備えている。そして、第1融着接続部P1のコア11の少なくとも一部に、屈折率を低下させるドーパントが含有されており、当該ドーパントにより、コア11内における屈折率プロファイルが変化している。これにより、出射端5から出射されるレーザ光の拡がり角を所望の範囲に調整することができる。さらに、複数のレーザ装置間の拡がり角のばらつきを抑えて、品質を安定させることもできる。
この構成は、例えば光ファイバとレンズとを接続して拡がり角を調整する場合と比較してシンプルであり、光ファイバとレンズとの接続部における損失の発生を避けることができる。
【0056】
また、第1融着接続部P1はクラッド光除去部4よりも上流側に位置している。このような構成とすることで、第1融着接続部P1においてクラッドモード光が生じたとしても、当該クラッドモード光をクラッド光除去部4によって除去することができる。これにより、クラッドモード光により引き起こされる、レーザ装置1内の意図しない箇所における発熱などを抑制することができる。
【0057】
また、レーザ装置1においては、レーザユニット2を交換する場合がある。このとき、レーザユニット2とコンバイナ3との間で融着接続が行われる場合があり、当該融着接続する部分に、仮に第1融着接続部P1が位置していると、レーザユニット2の交換の前後で第1融着接続部P1のコアの屈折率プロファイルが変動する可能性がある。つまり、レーザユニット2の交換の前後で、出射端5から出射されるレーザ光の拡がり角が変動してしまう可能性がある。そこで、部品交換の頻度が比較的少ない、コンバイナ3とクラッド光除去部4との間の部分に第1融着接続部P1を配置することで、部品交換によって拡がり角が変動する可能性を低減することができる。
【0058】
また、第2融着接続部P2においても、クラッド12に含有されている屈折率を低下させるドーパントと同種のドーパントがコア11内に含有されていてもよい。つまり、第2融着接続部P2のコア11にも、調整部11aが設けられていてもよい。このように、第2融着接続部P2でも拡がり角を変化させることで、レーザ装置1全体での拡がり角の調整可能な範囲を大きくすることができる。また、第1融着接続部P1のみで拡がり角を変化させる場合と比較して、第1融着接続部P1での拡がり角の変化量を小さくすることができる。これにより、第1融着接続部P1において屈折率を低下させるドーパントをコア11に拡散させるためにクラッド12に加える熱量を小さくすることができる。したがって、第1融着接続部P1のクラッド12を加熱することに起因する、第1融着接続部P1での透過率低下や機械的強度低下などを抑制することができる。
【0059】
ただし、第2融着接続部P2における拡がり角の変化量は、第1融着接続部P1における拡がり角の変化量よりも小さいことがこの好ましい。このように、第2融着接続部P2における拡がり角の変化量を小さくすると、第2融着接続部P2においてクラッドモード光が生じにくくなる。したがって、第2融着接続部P2がクラッド光除去部4よりも下流側に位置していても、出射端5から出射されるレーザ光にクラッドモード光が含まれることを抑制できる。
【0060】
また、レーザ装置1においては、出射端5を部品交換する場合がある。この場合、部品交換の後、クラッド光除去部4と出射端5との間に位置する第2融着接続部P2において、再度融着接続を行うことになる。これを考慮し、第2融着接続部P2における拡がり角を変化させる能力を低くすることで、部品交換の前後で出射端5から出射されるレーザ光の拡がり角が大きく変化してしまうことを抑制できる。
【0061】
また、融着接続部P1のクラッド12に含まれる、屈折率を低下させるドーパントとして、拡散速度が速いフッ素を採用することで、より短時間で効率よくコア11にドーパントを拡散させることができる。
【0062】
また、第1融着接続部P1のコア11のうち、屈折率を低下させるドーパントが含有されている領域(調整部11a)の径方向の寸法は、コア11の半径の10%以上であることが好ましい。例えばコア11の半径が50μmである場合、調整部11aの径方向の寸法は5μm以上であることが好ましい。このような割合とすることで、コア11を伝搬する光の約19%以上が、調整部11aによる影響を受けることになる。このように、コア11内を伝搬する光のうち、調整部11aの影響を受ける割合をある程度確保することで、調整部11aによる拡がり角の調整をより確実に行うことができる。
【0063】
また、本実施形態では、クラッド12に含有されていた屈折率を低下させるドーパントをコア11に移動させることで、調整部11aを設けている。このため、ドーパントが移動した分だけ、クラッド12の屈折率が上昇する。そこで、クラッド12のうち屈折率を低下させるドーパントを含有する部分(すなわち内側部12a)の厚みをtとし、コア11の半径をrとしたとき、t≧0.2×rであってもよい。このように、内側部12aをある程度厚くすることで、クラッド12に含まれるドーパントの総量を確保し、コア11にドーパントが移動した後におけるクラッド12の屈折率上昇を抑制することができる。
【0064】
また、例えばシングルモードファイバのようにコア11の直径が小さすぎると、調整部11aによって調整された拡がり角が、調整部11aが設けられた部分を通過した後で調整前の大きさに戻ってしまうことが考えられる。そこで、コア11の直径を50μm以上とすることで、調整部11aが設けられた部分を通過した後も拡がり角が維持されるようにして、融着接続部P1における拡がり角の調整効果をより確実に奏功させることができる。
【0065】
また、本実施形態では、当初はクラッド12に位置していた屈折率を低下させるドーパントの一部をコア11に移動させることで、コア11の屈折率プロファイルを変化させている。このため、コア11へのドーパントの移動量が過剰であると、クラッド12の屈折率が上昇してしまい、クラッド12によるコア11の光の閉じ込めが弱くなってしまう懸念がある。このことを考慮して、第2領域A2におけるクラッド12の最低屈折率と、第1領域A1におけるクラッド12の最低屈折率との相違は、10%以内とすることが好ましい。
【0066】
また、本実施形態のレーザ装置1の製造方法は、出射端5からレーザ光を出射させ、出射されたレーザ光の拡がり角を測定し、当該拡がり角が所定の値となるように第1融着接続部P1のコア11の屈折率プロファイルを変化させる調整工程を有する。これにより、拡がり角のレーザ装置ごとのばらつきを抑えることができる。
【0067】
また、融着接続器100を用いて前記調整工程を行うことで、レーザ装置1を製造する際に通常行われる融着接続の際に、拡がり角を調整することができる。このように、従来の製造工程に対して大きな変更を加えることなく拡がり角を調整することで、拡がり角を調整することによる製造コストの増大を抑えることができる。
【実施例】
【0068】
以下、具体的な実施例を用いて、上記実施形態を説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。特に、融着接続部P1、P2の構造は、以下の説明で用いる
図4A〜
図6Bに示した屈折率の分布に限定されない。
【0069】
本実施例では、以下の3つの光デバイス(サンプル1〜3)を用意した。
サンプル1:追加放電無し(
図4A、
図4B)
サンプル2:追加放電あり(
図5A、
図5B)
サンプル3:追加放電あり(
図6A、
図6B)
【0070】
各サンプル1〜3は、2つのマルチモードファイバF1、F2を融着接続して構成した(
図2参照)。融着接続は、
図3に示すような融着接続器100を用いて行った。コア11の直径は100μmとし、クラッド12の直径は360μmとした。クラッド12には、フッ素が添加されている内側部12aと、フッ素が添加されていない外側部12bとを設けた。内側部12aの厚みは約25μmとした。
【0071】
サンプル2、3については、マルチモードファイバF1、F2を融着接続した後、融着接続部P1に追加放電を行うことで、クラッド12に含まれているフッ素をコア11に移動させて調整部11aを設けた。ただし、サンプル3の追加放電の強度は、サンプル2の追加放電の強度の2倍とした。すなわち、サンプル2、3では追加放電の強度が異なっている。サンプル2、3については、放電時間を20秒とした。サンプル1については、追加放電を行わなかった。
【0072】
図4A、
図5A、
図6Aの横軸は、マルチモードファイバF1、F2の半径方向の位置を示しており、コア11の中心位置をr=0としている。コア11の直径は100μmであるため、横軸が−50μm≦r≦50μmの範囲はコア11の屈折率プロファイルを示している。また、横軸が−75≦r<−50μmの範囲、および50μm<r≦75μmの範囲は、クラッド12のフッ素添加領域(内側部12a)の屈折率プロファイルを示している。
【0073】
図4A、
図5A、
図6Aの縦軸は、サンプル1におけるクラッド12の外周面の屈折率を基準とする、比屈折率差Δを示している。換言すると、比屈折率差Δは、フッ素が添加されていない石英ガラスを基準とした比屈折率差である。
図4A、
図5A、
図6Aには、長手方向の位置(Z軸座標)が異なる5つのデータを示している。
図2に示すように、融着接続部P1の位置をZ=0としている。また、融着接続部P1から見て、
図2における紙面の右側を+Z側、紙面の左側を−Z側としている。このZ軸の定義は
図4A、
図5A、
図6Aで共通である。
【0074】
図4B、
図5B、
図6Bの横軸は、長手方向の位置を示している。Z軸の定義は、
図4A、
図5A、
図6Aと同様である。
図4B、
図5B、
図6Bの縦軸は、
図4A、
図5A、
図6Aと同様である。
図4B、
図5B、
図6Bには、半径方向の位置が異なる2つのデータ(r=±45μm)を示している。
【0075】
まず、
図4A、
図5A、
図6Aについて考察する。
図4Aに示すように、追加放電を行っていないサンプル1では、長手方向の位置に関わらず屈折率プロファイルがほぼ一定となっている。これに対して、
図5A、
図6Aに示すように、追加放電を行っているサンプル2、3では、長手方向の位置に応じて屈折率プロファイルが大きく異なっている。より詳しくは、長手方向における位置が融着接続部P1に近いほど、すなわちZ軸座標が0に近いほど、調整部11aにおけるΔが低下するとともに、クラッド12の内側部12aにおけるΔが上昇する傾向がある。これは、内側部12aに添加されていたフッ素が調整部11aに移動することで、調整部11aの屈折率が低下するとともに、内側部12aの屈折率が上昇したことを意味している。そして、フッ素の移動量は、追加放電の中心位置である融着接続部P1に近づくほど大きくなっている。これは、追加放電の中心位置に近いほど強く加熱されて、熱によるフッ素の拡散移動が活発になるためである。
【0076】
このように、融着接続器100においてファイバF1、F2を融着接続した後、追加放電を行うことで、クラッド12のフッ素を移動させてコア11の屈折率プロファイルを変化させられることが確認された。
また、
図5A、
図6Aの屈折率プロファイルから、サンプル2、3では、調整部11aの半径方向の位置は、おおよそ−50μm≦r≦−35μmおよび35≦r≦50μmの範囲であることがわかる。つまり、調整部11aの径方向の寸法は約15μmとなっている。コア11の半径は50μmであるから、サンプル2、3における調整部11aの径方向の寸法は、コア11の半径の約30%となっている。
【0077】
また、
図5B、
図6Bに示すように、サンプル2とサンプル3とで、r=±45μm(調整部11aの範囲内)における融着接続部P1近傍(すなわちZ=0近傍)の屈折率は大きく異なっている。より詳しくは、r=±45μm、Z=0における比屈折率差Δは、サンプル2では約−0.18%であり、サンプル3では約−0.35%である。
【0078】
そして、サンプル1〜3の光デバイスをそれぞれレーザ装置に設けたところ、当該レーザ装置を伝搬する光のBPPの値が変化した。より詳しくは、サンプル3とサンプル1との間のBPPの変化量は、サンプル2とサンプル1との間のBPPの変化量の約2倍となった。これは、上記したr=±45μm、Z=0における比屈折率差Δの違いと概ね一致している。そしてサンプル3とサンプル2との相違点は、追加放電の強度の違いであるから、追加放電の強度を調整することで、BPPの変化量を調整可能であることが確認された。
【0079】
また、
図5B、
図6Bに示すように、サンプル2、3では、長手方向に沿って屈折率がなだらかに変化している。ここで、コア11内で屈折率が長手方向において変化する場合、その変化が長手方向に対して急峻であると、光が長手方向において逆流するように、コア11内で反射が生じてしまう場合がある。これに対して、
図5B、
図6Bに示すように、長手方向において屈折率がなだらかに変化している場合には、コア11内における上記のような反射が生じにくい。
【0080】
また、
図4A、
図5A、
図6Aに示すように、サンプル1〜3では、クラッド12における最低屈折率がΔ=0%であり、実質的に変化していない。これにより、クラッド12によるコア11内への光を閉じ込めが弱くなることを抑制できる。
【0081】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0082】
例えば前記実施形態では、融着接続器100の追加放電によって融着接続部P1を加熱し、クラッド12の屈折率を低下させるドーパントをコア11に拡散させた。しかしながら、例えばヒータなどで融着接続部P1を加熱することで、上記ドーパントをコア11に拡散させてもよい。
【0083】
また、融着接続部P1、P2の位置は
図1に限定されず、適宜変更可能である。
【0084】
また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態や変形例を適宜組み合わせてもよい。