(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基油に酸性リン酸エステルと金属とのアダクトを配合した金属表面コーティング用組成物を端子付き被覆電線の接続部分の防食処理に用いると、端子付き被覆電線が高温に曝されたときに、上記組成物が接続部分から流出することがあった。これにより、防食性能が低下するおそれがあった。
【0006】
本発明の解決しようとする課題は、可塑剤を含む被覆材を有する端子付き被覆電線の接続部分に用いたときに高温に曝されても防食性能が維持される防食剤およびこれを用いて防食性が高められた端子付き被覆電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、端子付き被覆電線の被覆材中に含まれる可塑剤が上記組成物中に吸収されることにより上記組成物の流動温度が低下してしまったためであるとの結論を得るに至った。これは、上記組成物中の基油と可塑剤の親和性が高いためと推察される。そして、この結論をもとに、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、上記課題を解決するため本発明に係る防食剤は、100℃における粘度が30mPa・s以上である基油(A)と、リン化合物を含有する金属吸着成分(B)と、を含有し、前記(A)と前記(B)の質量組成比が、(A):(B)=50:50〜98:2の範囲内であることを要旨とするものである。
【0009】
前記(B)は、下記の一般式(1)および(2)で表される化合物の1種または2種以上からなるリン化合物と金属との組成物であることが好ましい。
【化1】
【化2】
ただし、X
1〜X
7は、それぞれ個別に酸素原子または硫黄原子を示し、R
11〜R
13は、それぞれ個別に水素基または炭素数1〜30の炭化水素基を示し、かつこれらのうちの少なくとも1つは炭素数1〜30の炭化水素基であり、R
14〜R
16は、それぞれ個別に水素基または炭素数1〜30の炭化水素基を示し、かつこれらのうちの少なくとも1つは炭素数1〜30の炭化水素基である。
【0010】
前記リン化合物は、その炭化水素基の構造中に、1以上の分岐鎖構造または1以上の炭素−炭素二重結合構造を有することが好ましい。
【0011】
前記リン化合物と組成物を形成する金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、チタン、亜鉛から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0012】
前記リン化合物と金属との組成物の分子量は、3000以下であることが好ましい。
【0013】
そして、本発明に係る端子付き被覆電線は、上記いずれかの防食剤により端子金具と電線導体との電気接続部が覆われていることを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る防食剤によれば、100℃における粘度が30mPa・s以上である基油(A)と、リン化合物を含有する金属吸着成分(B)と、を特定の質量組成比で含有することで、可塑剤を含む被覆材を有する端子付き被覆電線の接続部分に用いたときに高温に曝されても防食性能が維持される。
【0015】
上記(B)が、上記の一般式(1)および(2)で表される化合物の1種または2種以上からなるリン化合物と金属との組成物であると、金属表面への吸着性能に優れ、金属表面からの流出がより抑えられる。
【0016】
上記リン化合物が、その炭化水素基の構造中に、1以上の分岐鎖構造または1以上の炭素−炭素二重結合構造を有すると、基油の保持力が向上し、金属表面からの流出がより抑えられる。
【0017】
上記リン化合物と組成物を形成する金属が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、チタン、亜鉛から選択される少なくとも1種であると、イオン化傾向が高いため、金属表面への吸着性能に特に優れ、金属表面からの流出がより抑えられる。
【0018】
上記リン化合物と金属との組成物の分子量が3000以下であると、基油との相溶性に優れ、基油の保持力が向上し、金属表面からの流出がより抑えられる。
【0019】
そして、本発明に係る端子付き被覆電線によれば、上記の防食剤により端子金具と電線導体との電気接続部が覆われていることから、高温に曝されても防食性能が維持される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0022】
本発明に係る防食剤(以下、本防食剤ということがある。)は、100℃における粘度が30mPa・s以上である基油(A)と、リン化合物を含有する金属吸着成分(B)と、を含有する。
【0023】
(A)は、本発明の特性上、100℃における粘度が30mPa・s以上である基油が用いられる。粘度は、JIS K7117−2に準じ、温度100℃、せん断速度100/sの際の粘度で表される。粘度は、円錐−平板型回転粘度計を用いて測定することができる。基油の粘度は、好ましくは50mPa・s以上、より好ましくは100mPa・s以上、さらに好ましくは150mPa・s以上である。一方、基油の粘度は、塗布しやすさなどを考慮すれば、好ましくは200mPa・s以下、より好ましくは150mPa・s以下である。
【0024】
基油は、通常の潤滑油の基油として用いられる任意の鉱油、ワックス異性化油、合成油の1種または2種以上の混合物を使用することができる。鉱油としては、具体的には、例えば、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱瀝、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱蝋、接触脱蝋、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理等を適宜組み合わせて精製したパラフィン系、ナフテン系等の油やノルマルパラフィン等が使用できる。
【0025】
ワックス異性化油としては、炭化水素油を溶剤脱ろうして得られる石油スラックワックスなどの天然ワックス、あるいは一酸化炭素と水素との混合物を高温高圧で適用な合成触媒と接触させる、いわゆるFischer Tropsch合成方法で生成される合成ワックスなどのワックス原料を水素異性化処理することにより調製されたものが使用できる。ワックス原料としてスラックワックスを使用する場合、スラックワックスは硫黄と窒素を大量に含有しており、これらは基油には不要であるため、必要に応じて水素化処理し、硫黄分、窒素分を削減したワックスを原料として用いることが望ましい。
【0026】
合成油としては、特に制限はないが、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンオリゴマー等のポリα−オレフィンまたはその水素化物、イソブテンオリゴマーまたはその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられる。
【0027】
(B)は、リン化合物を含有する金属吸着成分であり、金属表面、すなわち端子金具や電線導体などの本防食剤が覆う金属表面に対し吸着性を有する成分である。(B)は、リン化合物と金属との組成物であることが好ましい。
【0028】
リン化合物としては、下記の一般式(1)および(2)で表される化合物の1種または2種以上からなるものが挙げられる。
【化3】
【化4】
ただし、X
1〜X
7は、それぞれ個別に酸素原子または硫黄原子を示し、R
11〜R
13は、それぞれ個別に水素基または炭素数1〜30の炭化水素基を示し、かつこれらのうちの少なくとも1つは炭素数1〜30の炭化水素基であり、R
14〜R
16は、それぞれ個別に水素基または炭素数1〜30の炭化水素基を示し、かつこれらのうちの少なくとも1つは炭素数1〜30の炭化水素基である。
【0029】
炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルキル置換シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキル置換アリール基、アリールアルキル基などが挙げられる。
【0030】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基などが挙げられる。これらは、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
【0031】
シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロへプチル基などが挙げられる。アルキル置換シクロアルキル基としては、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、メチルエチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、メチルエチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、メチルシクロへプチル基、ジメチルシクロへプチル基、メチルエチルシクロへプチル基、ジエチルシクロへプチル基などが挙げられる。アルキル置換シクロアルキル基の置換位置は、特に限定されない。アルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
【0032】
アルケニル基としては、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、へプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基などが挙げられる。これらは、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
【0033】
アリール基としては、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。アルキル置換アリール基としては、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、へプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基などが挙げられる。アルキル置換アリール基の置換位置は、特に限定されない。アルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。アリールアルキル基としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基などが挙げられる。アルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
【0034】
X
1〜X
7は、好ましくは全てが酸素原子である。R
11〜R
16の炭素数1〜30の炭化水素基は、好ましくは炭素数4〜30の炭化水素基であり、より好ましくは炭素数8〜30の炭化水素基である。
【0035】
X
1〜X
7は、好ましくは全てが酸素原子である。R
11〜R
13は、少なくとも1つが水素基であり、かつ、少なくとも1つが炭素数1〜30の炭化水素基であることが好ましい。また、R
14〜R
16は、少なくとも1つが水素基であり、かつ、少なくとも1つが炭素数1〜30の炭化水素基であることが好ましい。
【0036】
一般式(1)で表されるリン化合物としては、亜リン酸、モノチオ亜リン酸、ジチオ亜リン酸、亜リン酸モノエステル、モノチオ亜リン酸モノエステル、ジチオ亜リン酸モノエステル、亜リン酸ジエステル、モノチオ亜リン酸ジエステル、ジチオ亜リン酸ジエステル、亜リン酸トリエステル、モノチオ亜リン酸トリエステル、ジチオ亜リン酸トリエステルなどが挙げられる。これらは、一般式(1)で表されるリン化合物として1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
一般式(2)で表されるリン化合物としては、リン酸、モノチオリン酸、ジチオリン酸、リン酸モノエステル、モノチオリン酸モノエステル、ジチオリン酸モノエステル、リン酸ジエステル、モノチオリン酸ジエステル、ジチオリン酸ジエステル、リン酸トリエステル、モノチオリン酸トリエステル、ジチオリン酸トリエステルなどが挙げられる。これらは、一般式(2)で表されるリン化合物として1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
リン化合物としては、一般式(2)で表されるリン化合物がより好ましい。また、一般式(2)で表されるリン化合物のうちでは、下記の一般式(3)または一般式(4)で表される酸性リン酸エステルが特に好ましい。
(化5)
P(=O)(−OR
14)(−OH)
2 ・・・(3)
(化6)
P(=O)(−OR
14)
2(−OH) ・・・(4)
【0039】
リン化合物との組成物に用いられる金属としては、Li,Na,Kなどのアルカリ金属、Mg,Caなどのアルカリ土類金属、アルミニウム、チタン、亜鉛などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、2種以上組み合わされて用いられてもよい。これらの金属は、イオン化傾向が比較的高いため、金属表面に対し、高い吸着性を得る事ができる。また、例えばSnよりもイオン化傾向が高いため、Snに対するイオン結合性に優れたものとすることができる。これらのうちでは、耐水性などの観点から、Ca,Mgがより好ましい。リン化合物との組成物に用いられる金属は、組成物の分子量が大きくなり、耐熱性が向上するなどの観点から、価数が2価以上であることが好ましい。
【0040】
リン化合物と金属との組成物における金属供給源としては、金属水酸化物、金属カルボン酸塩などが挙げられる。カルボン酸の金属塩のカルボン酸としては、サリチル酸、安息香酸、フタル酸などが挙げられる。カルボン酸の金属塩は中性塩であり、塩基性塩や過塩基性塩などであってもよい。
【0041】
リン化合物と金属との組成物において、リン化合物の炭化水素基の少なくとも1つは炭素数4〜30の炭化水素基であると、長鎖アルキル化合物である基油との相溶性に寄与する。炭化水素基とは、炭素および水素からなる有機基であり、N,O,Sなどのヘテロ元素を含有しないものである。そして、長鎖アルキル化合物である基油との相溶性から、リン化合物の炭化水素基は、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基であることが好ましい。より好ましくは脂肪族炭化水素基である。
【0042】
脂肪族炭化水素基としては、飽和炭化水素からなるアルキル基、不飽和炭化水素からなるアルケニル基が挙げられ、これらのいずれであってもよい。脂肪族炭化水素基であるアルキル基やアルケニル基は、直鎖状、分岐鎖状のいずれの構造のものであってもよい。ただし、アルキル基がn−ブチル基、n−オクチル基などの直鎖状のアルキル基であると、アルキル基同士が配向しやすく、特定のリン化合物と金属との組成物の結晶性が高くなり、基油との相溶性が低下する傾向がある。この観点から、炭化水素基がアルキル基である場合には、直鎖状のアルキル基よりも分岐鎖状のアルキル基が好ましい。一方、アルケニル基は、1以上の炭素−炭素二重結合構造を有することで、直鎖状であっても結晶性がそれほど高くない。このため、アルケニル基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。
【0043】
少なくとも1つの炭化水素基の炭素数が4未満では、リン化合物が無機質となる。また、リン化合物は結晶化の傾向が強くなる。そうすると、基油との相溶性が悪く、基油と混ざらなくなる。一方、炭化水素基の炭素数が30超では、リン化合物の粘度が高くなりすぎて、流動性が低下しやすい。炭化水素基の炭素数としては、基油との相溶性から、より好ましくは5以上、さらに好ましくは6以上である。また、炭化水素基の炭素数としては、流動性などの観点から、より好ましくは26以下、さらに好ましくは22以下である。
【0044】
また、リン化合物と金属との組成物は、分子内にリン酸基(極性基)と非極性基(エステル部位の炭化水素基)を併せ持つものであり、極性基同士、非極性基同士が会合した層状態で存在できるため、非重合体においても、高粘性の液体とすることが可能である。粘性の液体であると、金属表面に塗布したときに、ファンデルワールス力による物理吸着を利用して、金属表面により密着させることができる。この粘性は、鎖状の分子鎖同士の絡まりが生じることにより得られるものと推察される。したがって、この観点から、リン化合物の結晶化を促進しない方向への設計が好ましい。具体的には、炭化水素基の炭素数を4〜30とすること、炭化水素基が1以上の分岐鎖構造または1以上の炭素−炭素二重結合構造を有することなどが挙げられる。
【0045】
粘着性の観点からすると、リン化合物は、金属との組成物にする必要がある。金属との組成物にしていないリン化合物そのものを用いた場合、リン酸基の部分の極性が小さく、極性基であるリン酸基同士の会合性(凝集性)が低く、高粘性の液体にならない。このため、粘着性(粘性)が低い。また、アンモニアもしくはアミンとの組成物にしても、リン酸基の部分の極性が小さく、極性基であるリン酸基同士の会合性(凝集性)が低く、高粘性の液体にならない。このため、粘着性(粘性)が低い。
【0046】
炭化水素基としては、より具体的には、オレイル基、ステアリル基、イソステアリル基、2−エチルヘキシル基、ブチルオクチル基、イソミリスチル基、イソセチル基、ヘキシルデシル基、オクチルデシル基、オクチルドデシル基、イソベヘニル基などが挙げられる。
【0047】
そして、具体的な酸性リン酸エステルとしては、ブチルオクチルアシッドホスフェイト、イソミリスチルアシッドホスフェイト、イソセチルアシッドホスフェイト、ヘキシルデシルアシッドホスフェイト、イソステアリルアシッドホスフェイト、イソベヘニルアシッドホスフェイト、オクチルデシルアシッドホスフェイト、オクチルドデシルアシッドホスフェイト、イソブチルアシッドホスフェイト、2−エチルヘキシルアシッドホスフェイト、イソデシルアシッドホスフェイト、ラウリルアシッドホスフェイト、トリデシルアシッドホスフェイト、ステアリルアシッドホスフェイト、オレイルアシッドホスフェイト、ミリスチルアシッドホスフェイト、パルミチルアシッドホスフェイト、ジ−ブチルオクチルアシッドホスフェイト、ジ−イソミリスチルアシッドホスフェイト、ジ−イソセチルアシッドホスフェイト、ジ−ヘキシルデシルアシッドホスフェイト、ジ−イソステアリルアシッドホスフェイト、ジ−イソベヘニルアシッドホスフェイト、ジ−オクチルデシルアシッドホスフェイト、ジ−オクチルドデシルアシッドホスフェイト、ジ−イソブチルアシッドホスフェイト、ジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェイト、ジ−イソデシルアシッドホスフェイト、ジ−トリデシルアシッドホスフェイト、ジ−オレイルアシッドホスフェイト、ジ−ミリスチルアシッドホスフェイト、ジ−パルミチルアシッドホスフェイトなどが挙げられる。これらのうちでは、非結晶性、基油との分子鎖絡まり性などの観点から、オレイルアシッドホスフェイト、イソステアリルアシッドホスフェイトが好ましい。
【0048】
リン化合物と金属との組成物の分子量は、微分散化により、基油との相溶性が向上することから、3000以下であることが好ましい。より好ましくは2500以下である。また、極性基の高濃度化による分離抑制などの観点から、80以上であることが好ましい。より好ましくは100以上である。分子量は、計算により求めることができる。なお、下記のIS−SA−Caについては、GPCにて分子量(重量平均分子量)を測定する。
【0049】
本防食剤中には、(A)、(B)の他に、本防食剤の機能を損なわない範囲で、有機溶剤、安定化剤、腐食防止剤、色素、増粘剤、フィラーなどを添加することができる。
【0050】
本防食剤において、(A)と(B)の質量比は、(A):(B)=50:50〜98:2の範囲内である。これにより、金属との密着性に優れ、高温条件下で金属表面から流れ出なくなり、金属表面を安定して保護する。また、皮膜としての厚みを確保して、優れた防食性能を発揮する。本防食剤において、(A)と(B)の質量比は、皮膜としての厚みを確保する、金属との密着性を確保する観点から、好ましくは(A):(B)=60:40〜95:5の範囲内であり、より好ましくは(A):(B)=70:30〜90:10の範囲内である。
【0051】
本防食剤は、(A)と、(B)と、必要に応じて添加される成分と、を混合することにより得ることができる。そして、被塗布材の表面に本防食剤を塗布するか、本防食剤中に被塗布材を浸漬することにより、被塗布材の表面に本防食剤をコーティングすることができる。
【0052】
被塗布材の表面に塗布する本防食剤からなる皮膜の膜厚としては、コーティング箇所からの流出防止や漏出防止の観点から、100μm以下であることが好ましい。より好ましくは50μm以下である。一方、塗布する本防食剤からなる皮膜の機械的強度などの観点から、所定の厚さ以上であることが好ましい。膜厚の下限値としては、0.5μm、2μm、5μmなどが挙げられる。
【0053】
本防食剤は、潤滑や防食用途などに用いることができる。防食用途としては、例えば端子付き被覆電線の防食剤などとして用いることができる。
【0054】
次に、本発明に係る端子付き被覆電線について説明する。
【0055】
本発明に係る端子付き被覆電線は、絶縁電線の導体端末に端子金具が接続されたものにおいて、本防食剤からなる皮膜により端子金具と電線導体の電気接続部が覆われたものからなる。これにより、電気接続部での腐食が防止される。
【0056】
図1は、本発明の一実施形態に係る端子付き被覆電線の斜視図であり、
図2は
図1におけるA−A線縦断面図である。
図1、
図2に示すように、端子付き被覆電線1は、電線導体3が絶縁被覆(絶縁体)4により被覆された被覆電線2の電線導体3と端子金具5が電気接続部6により電気的に接続されている。
【0057】
端子金具5は、相手側端子と接続される細長い平板からなるタブ状の接続部51と、接続部51の端部に延設形成されているワイヤバレル52とインシュレーションバレル53からなる電線固定部54を有する。端子金具5は、金属製の板材をプレス加工することにより所定の形状に成形(加工)することができる。
【0058】
電気接続部6では、被覆電線2の端末の絶縁被覆4を皮剥ぎして、電線導体3を露出させ、この露出させた電線導体3が端子金具5の片面側に圧着されて、被覆電線2と端子金具5が接続される。端子金具5のワイヤバレル52を被覆電線2の電線導体3の上から加締め、電線導体3と端子金具5が電気的に接続される。又、端子金具5のインシュレーションバレル53を、被覆電線2の絶縁被覆4の上から加締める。
【0059】
端子付き被覆電線1において、一点鎖線で示した範囲が、本防食剤から得られる皮膜7により覆われる。具体的には、電線導体3の絶縁被覆4から露出する部分のうち先端より先の端子金具5の表面から、電線導体3の絶縁被覆4から露出する部分のうち後端より後の絶縁被覆4の表面までの範囲が、皮膜7により覆われる。つまり、被覆電線2の先端2a側は、電線導体3の先端から端子金具5の接続部51側に少しはみ出すように皮膜7で覆われる。端子金具5の先端5a側は、インシュレーションバレル53の端部から被覆電線2の絶縁被覆4側に少しはみ出すように皮膜7で覆われる。そして、
図2に示すように、端子金具5の側面5bも皮膜7で覆われる。なお、端子金具5の裏面5cは皮膜7で覆われなくてもよいし、覆われていてもよい。皮膜7の周端は、端子金具5の表面に接触する部分と、電線導体3の表面に接触する部分と、絶縁被覆4の表面に接触する部分と、で構成される。
【0060】
こうして、端子金具5と被覆電線2の外側周囲の形状に沿って、電気接続部6が皮膜7により所定の厚さで覆われる。これにより、被覆電線2の電線導体3の露出した部分は皮膜7により完全に覆われて、外部に露出しないようになる。したがって、電気接続部6は皮膜7により完全に覆われる。皮膜7は、電線導体3、絶縁被覆4、端子金具5のいずれとも密着性に優れるので、皮膜7により、電線導体3および電気接続部6に外部から水分等が侵入して金属部分が腐食するのを防止する。また、密着性に優れるため、例えばワイヤーハーネスの製造から車両に取り付けるまでの過程において、電線が曲げられた場合にも、皮膜7の周端で皮膜7と、電線導体3、絶縁被覆4、端子金具5のいずれとの間にも隙間ができにくく、防水性や防食機能が維持される。
【0061】
皮膜7を形成する本防食剤は、所定の範囲に塗布される。皮膜7を形成する本防食剤の塗布は、滴下法、塗布法等の公知の手段を用いることができる。本防食剤は、常温で流動性に優れるため、常温で塗布される。
【0062】
皮膜7は、所定の厚みで所定の範囲に形成される。その厚みは、0.01〜0.1mmの範囲内が好ましい。皮膜7が厚くなりすぎると、端子金具5をコネクタへ挿入しにくくなる。皮膜7が薄くなりすぎると、防食性能が低下しやすくなる。
【0063】
被覆電線2の電線導体3は、複数の素線3aが撚り合わされてなる撚線よりなる。この場合、撚線は、1種の金属素線より構成されていても良いし、2種以上の金属素線より構成されていても良い。また、撚線は、金属素線以外に、有機繊維よりなる素線などを含んでいても良い。なお、1種の金属素線より構成されるとは、撚線を構成する全ての金属素線が同じ金属材料よりなることをいい、2種以上の金属素線より構成されるとは、撚線中に互いに異なる金属材料よりなる金属素線を含んでいることをいう。撚線中には、被覆電線2を補強するための補強線(テンションメンバ)等が含まれていても良い。
【0064】
電線導体3を構成する金属素線の材料としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、もしくはこれらの材料に各種めっきが施された材料などを例示することができる。また、補強線としての金属素線の材料としては、銅合金、チタン、タングステン、ステンレスなどを例示することができる。また、補強線としての有機繊維としては、ケブラーなどを挙げることができる。電線導体3を構成する金属素線としては、軽量化の観点から、アルミニウム、アルミニウム合金、もしくはこれらの材料に各種めっきが施された材料が好ましい。
【0065】
絶縁被覆4の材料としては、例えば、ゴム、ポリオレフィン、PVC、熱可塑性エラストマーなどを挙げることができる。これらは単独で用いても良いし、2種以上混合して用いても良い。絶縁被覆4の材料中には、適宜、各種添加剤が添加されていても良い。添加剤としては、可塑剤、難燃剤、充填剤、着色剤等を挙げることができる。絶縁被覆4の材料としては、例えば、塩化ビニル樹脂と可塑剤とから構成される軟質塩化ビニル樹脂が用いられる。可塑剤としては、例えば、フタル酸ジイソノニル(DINP)等のフタル酸エステル系可塑剤、トリ−2−エチルヘキシルトリメリケート等トリメリット酸エステル系可塑剤、2−エチルヘキシルアジペート、ジブチルセバシケート等の脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤、エポキシ化大豆油等のエポキシ系可塑剤、トリクレジルホスフェート等のリン酸エステル系可塑剤等が挙げられる。中でもDINPは、自動車用ワイヤーハーネスに用いられる絶縁電線の被覆材に、最も一般的に添加されている可塑剤である。
【0066】
端子金具5の材料(母材の材料)としては、一般的に用いられる黄銅の他、各種銅合金、銅などを挙げることができる。端子金具5の表面の一部(例えば接点)もしくは全体には、錫、ニッケル、金などの各種金属によりめっきが施されていても良い。
【0067】
なお、
図1に示す端子付き被覆電線1では、電線導体の端末に端子金具が圧着接続されているが、圧着接続に代えて溶接などの他の公知の電気接続方法であってもよい。
【0068】
以上、本発明に係る防食剤によれば、100℃における粘度が30mPa・s以上である基油(A)と、リン化合物を含有する金属吸着成分(B)と、を特定の質量組成比で含有することで、可塑剤を含む被覆材を有する端子付き被覆電線の接続部分に用いたときに高温に曝されても防食性能が維持される。高温は、例えば自動車等の車両において端子付き被覆電線が曝される高温などである。これは、端子付き被覆電線の被覆材中に含まれる可塑剤が上記防食剤中に吸収されることにより上記防食剤の流動温度が低下してしまったためであると推察される。そして、このような可塑剤の移動は、防食剤中の基油と可塑剤の親和性が高いためと推察される。本発明では、基油として粘度が高いものを用いることで、防食剤全体の流動温度を高くするとともに、基油と可塑剤の親和性を下げて可塑剤の移行を抑えるようにし、これによって高温に曝されても防食性能が維持されるようにしている。この際、基油の粘度が高いほど、高温時における防食剤の流動が抑えられ、防食性能が維持されやすくなる。
【0069】
そして、上記(B)が、上記の一般式(1)および(2)で表される化合物の1種または2種以上からなるリン化合物と金属との組成物であるとすることで、金属表面への吸着性能に優れ、金属表面からの防食剤の流出がより抑えられるようになる。また、上記リン化合物が、その炭化水素基の構造中に、1以上の分岐鎖構造または1以上の炭素−炭素二重結合構造を有することで、基油の保持力が向上し、金属表面からの防食剤の流出がより抑えられるようになる。また、上記リン化合物と組成物を形成する金属が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、チタン、亜鉛から選択される少なくとも1種であると、イオン化傾向が高いため、金属表面への吸着性能に特に優れ、金属表面からの防食剤の流出がより抑えられるようになる。また、上記リン化合物と金属との組成物の分子量が3000以下であると、基油との相溶性に優れ、基油の保持力が向上し、金属表面からの防食剤の流出がより抑えられるようになる。
【0070】
そして、このような本発明に係る防食剤を用いた本発明に係る端子付き被覆電線によれば、上記の防食剤により端子金具と電線導体との電気接続部が覆われていることから、自動車等の車載環境などの高温に曝されても防食性能が維持される。
【実施例】
【0071】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は、実施例により限定されるものではない。
【0072】
(金属吸着成分の調製)
<調製例1> OL−Ca
500mlのフラスコにオレイルアシッドホスフェイト(SC有機化学社製「Phoslex A18D」、分子量467(平均)、酸価183mgKOH/g)を50g(酸価0.163mol)とメタノール50mLを加え、室温で撹拌し、均一溶液とした。そこに、水酸化カルシウム6.04g(0.0815mol)を加えた。懸濁液を室温のまま24時間攪拌し、水酸化カルシウムの沈殿物が無くなったことを確認後、ろ過し、ロータリーエバポレータにて、メタノールと生成水を減圧留去した。次いで、トルエン50mLを加えた後、同様に減圧留去する事で生成水を共沸によって留去し、澄明粘性物である目的物を得た。
【0073】
<防食剤の調製>
調製例1により得られた金属吸着成分と、基油と、を所定の割合で160℃の加温下にて混合することにより、防食剤を調製した。なお、各基油a〜eの物性は以下の通りである。基油のせん断粘度は、円錐−平板型回転粘度計を用い、JIS K7117−2に準じ、温度100℃、せん断速度100/sで測定されたものである。
・基油a:鉱物油基油(せん断粘度=1500mPa・s(100℃))
・基油b:合成油基油(せん断粘度=500mPa・s(100℃))
・基油c:合成油基油(せん断粘度=150mPa・s(100℃))
・基油d:鉱物油基油(せん断粘度=30mPa・s(100℃))
・基油e:鉱物油基油(せん断粘度=15mPa・s(100℃))
【0074】
(防食性能の評価)
160℃に加温して液状とした防食剤を、
図1に示すように、端子付き被覆電線の銅製端子とアルミ電線(被覆材:ポリ塩化ビニル樹脂に可塑剤を含有する軟質ポリ塩化ビニル樹脂)の電気接続部を覆うように塗布した後、100℃の恒温槽で168時間放置した。次いで、JIS C0024に準拠して35℃(塩溶液濃度50g/L)にて中性塩水噴霧試験を行い、120時間後のさび発生を目視にて評価した。試験点数10点(N=10)において、1本でもさび発生が確認された場合を「×」、1本もさび発生が確認されなかった場合を「○」とした。評価結果を表1に示した。
【0075】
【表1】
【0076】
比較例1、3〜5は、基油と金属吸着成分の質量組成比が本願発明の範囲を満足しないものである。比較例1は、金属吸着成分の量が少ない。比較例3は、金属吸着成分が含まれていない。比較例4は、基油が含まれていない。比較例5は、金属吸着成分の量が多い。このため、高温放置により防食剤が流出して防食性能を満足しなかった。比較例2は、基油のせん断粘度が本願発明の範囲を満足せず低い。このため、高温放置により防食剤が流出して防食性能を満足しなかった。これに対し、実施例は、100℃におけるせん断粘度が30mPa・s以上の基油とリン化合物を含む金属吸着成分を含有し、これらが本願発明の範囲に含まれる質量組成比で配合されたものである。このため、高温放置による防食剤の流出が見られないか少なく、高温に曝されても防食性能が維持され、防食性能を満足する結果となった。なお、各試験において、電線被覆材から防食剤への可塑剤の移行が確認された。
【0077】
次に、実施例1の防食剤(基油c:98質量部、金属吸着成分:2質量部)を用い、防食剤100質量部に対し可塑剤としてDINPを所定の部数で配合した。得られた混合物について、円錐−平板型回転粘度計を用い、JIS K7117−2に準じ、温度25℃または100℃、せん断速度100/sで測定した。その結果を以下の表2に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
表2から、可塑剤の配合量が増加するにつれて、せん断粘度が低下することがわかった。つまり、可塑剤の移行量が多くなるにつれて防食剤の流動温度が低下することがわかる。上記の防食試験において、電線被覆材から防食剤への可塑剤の移行を確認しており、可塑剤の移行により高温に曝されたときに防食剤の流出で防食性能の低下が生じ得ることがわかる。
【0080】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。