(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態(本実施形態)について詳細に説明する。なお、本明細書で使用する部や%は特に規定のない限り質量基準である。
[セメント混和剤]
本実施形態に係るセメント混和材剤は、珪酸ソーダと、特定の酸性の硫酸アルミニウムとを含む。
【0010】
(珪酸ソーダ)
粉末状急結剤の珪酸ソーダは、吹き付けモルタル用のセメントモルタル(以下、単に「セメントモルタル」ということがある)や、吹き付けセメント用のセメントコンクリート(以下、単に「セメントコンクリート」ということがある)に対して、主に極初期の流動性消失の促進効果を発揮する。また、例えば、粉末状急結剤を用いて吹付け施工した際の急結材料が長い年月によりひび割れを生じた際に、例えば0.1mmひび割れに対しては流水条件下であれば、修復することができる。これは水によりゲル化した珪酸ソーダが、そのひび割れ自体を修復するように働きその幅を小さくするためと考えられる。
なお、上記効果を効率よく発現させる観点から、珪酸ソーダは粉末状であることが好ましい。
【0011】
粉末状急結剤として、例えば極初期の流動性消失を促進するものとして、珪酸ソーダにおけるSiO
2とNa
2Oとのモル比(SiO
2/Na
2O)は0.5〜5が好ましく、0.5〜1.5がより好ましく、0.9〜1.3がさらに好ましい。
モル比が0.5以上であると、粉末として取り扱い性が良好であり、1.5以下であると、セメントモルタルやセメントコンクリートに対して添加直後からの著しい流動性消失や初期強度発現性が得られやすくなる。
【0012】
珪酸ソーダとしては、オルソ珪酸ソーダ、メタ珪酸ソーダ、セスキ珪酸ソーダ等が挙げられるが、なかでもメタ珪酸ソーダが好ましい。また、珪酸ソーダとしては、珪酸ソーダ1号[Na
2Si
2O
5(Na
2O・2SiO
2:n=2)]、珪酸ナトリウム2号[Na
4Si
5O
12(Na
2O・2.5SiO
2:n=2.5)]、珪酸ソーダ3号[Na
2Si
3O
7(Na
2O・3SiO
2:n=3)]、及び珪酸ソーダ4号[Na
2Si
4O
9(Na
2O・4SiO
2:n=4)]等も挙げられる。
【0013】
珪酸ソーダとしては、水和物であっても無水物であっても特に限定はされないが、水和水の数は9以下が好ましく、5以下がより好ましく、無水和物の使用がさらに好ましい。
【0014】
珪酸ソーダのブレーン比表面積は、300〜1000cm
2/gであることが好ましく、500〜800cm
2/gであることがより好ましい。300〜1000cm
2/gであることで、初期強度発現性が得られやすく、吹き付け時のモルタル及び/又はコンクリートの取扱い性を良好にすることができる。なお、ブレーン比表面積とは、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に記載された比表面積試験に基づいて測定されたものである。
【0015】
珪酸ソーダの平均粒径は、後述する特定の硫酸アルミニウムとの混合性と混合による良好な効果の発現の観点から、1〜300μmであることが好ましく、1〜250μmであることがより好ましい。
なお、平均粒径は、例えば、HORIBA社製のレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いることで求めることができる。
【0016】
本実施形態の粉末状急結剤における珪酸ソーダの含有量は、粉末状急結剤100部中、0.5〜20部が好ましく、1〜10部がより好ましい。0.5〜20部であることで、ひび割れに対する自己修復機能をより良好にすることができる。
【0017】
(特定の酸性の硫酸アルミニウム)
本実施形態に係る硫酸アルミニウムは、下記(1)〜(4)を満たす酸性の硫酸アルミニウムである。
(1)硫酸アルミニウムが非晶質である。
硫酸アルミニウムが非晶質でない場合、セメントのような強アルカリ性を示す水硬性物質とプレミックス化することが難しいと共に、プレミックス化できたとしても水硬性組成物の貯蔵安定性が低下する。
ここで、硫酸アルミニウムが非晶質であるか否かは、X線回折分析によって判断することができる。具体的には、硫酸アルミニウムのX線回折スペクトルがブロードであれば、非晶質であると判断することができる。硫酸アルミニウムは2θ=20〜30°の範囲で明確なピークが確認できるが、ピークが得られないものは非晶質とした。
【0018】
(2)硫酸アルミニウムの固体
27Al−NMRによって得られるスペクトルにおいて、化学シフト−0.20〜−20.00ppmにピークを有し、当該ピークの半値幅が10.00〜35.00ppmである。
ピークの化学シフトが−0.20ppmよりも大きいと、水硬性物質とプレミックス化することが難しいと共に、プレミックス化できたとしても水硬性組成物の貯蔵安定性が低下する場合がある。一方、ピークの化学シフトが−20.00ppmよりも小さいと、pHが8以上を呈すアルカリ性の混和剤と相乗効果が得られない場合がある。
ピークの化学シフトは−1.00〜−16.00ppmであることが好ましく、−2〜−15ppmであることがより好ましい。
【0019】
また、当該ピークの半値幅が上記範囲を外れると、水硬性組成物の硬化速度が十分に得られない場合がある。当該ピークの半値幅は10〜35ppmであることが好ましく、25〜32ppmであることがより好ましい。
【0020】
ここで、硫酸アルミニウムの固体
27Al−NMR測定は、市販の測定装置、例えば、日本電子株式会社製の超伝導核磁気共鳴装置「ECX−400」などを用い、下記の条件で行うことができる。
観測核:
27Al
試料管回転数:10KHz
測定温度:室温
パルス幅:3.3μsec(90°パルス)
待ち時間:5秒
外部標準:硝酸アルミニウム
【0021】
上記(1)及び(2)の要件を満たす硫酸アルミニウムを得るには、例えば、各種原料からなある混合物を加熱する際の加熱温度を調整すればよい。
【0022】
(3)粒径100μm以上の粒子が70質量%以下で、かつ、粒径10μm以下の粒子が30質量%未満である。粒径100μm以上の粒子が70%を超えると、水硬性物質の硬化速度が十分に得られず、粒径10μm以下の粒子が30%以上であると、pHが8以上を呈すアルカリ性の混和剤と共存させることで、貯蔵劣化が顕著になる。
粒径100μm以上の粒子は、50%以下が好ましく、30%以下がより好ましい。また、粒径10μm以下の粒子は、40%以上が好ましく、50%以上がより好ましい。なお、粒径は例えば、篩によって調整することができる。
なお、(3)の範囲にある硫酸アルミニウムを用いた混和剤では、低温から高温まで硬化速度が十分に得られないということがなく、特に高温においては、硬化速度が速まることが予想されるが、pH8以上のアルカリ性物質の共存により、硬化速度がコントロールできると考えられるため、低温(5℃以下)から高温(30℃以上)まで幅広い温度範囲で使用できるため、夏でも冬でも安定して適用可能である。
【0023】
硫酸アルミニウムのpHは1〜6であることが好ましい。硫酸アルミニウムのpHが上記の範囲内であることで、水硬性組成物の硬化速度を良好にすることができる。pHは2〜5が好ましく、2〜4がより好ましい。また、硫酸アルミニウムのpHを1〜6とするには、上記の加熱温度を調整すればよい。
なお、本明細書においてpHは、pHメータを用いて、20±2℃で水100mlに10g添加し、500rpmで撹拌して測定することができる。
【0024】
既述の(1)〜(3)を満たす硫酸アルミニウムは、Al
2O
3源とSO
3源とを用いて、Al
2O
3源及びSO
3源等の原料を混合して混合物とした後に加熱処理する方法、Al
2O
3源とSO
3源とを直接化学反応させる方法、Al
2O
3源及びSO
3源を純水などの溶媒中に投入して混合した後に化学反応させる方法等を用いることができる。これらの方法において、製造条件を制御することにより、上記のような(1)〜(3)を満たす硫酸アルミニウムを得ることができる。
【0025】
Al
2O
3源としては、特に限定されないが、アルミニウムの硫酸塩、アルミン酸塩、及びその他の無機アルミニウム化合物、有機アルミニウム化合物、並びにアルミニウム錯体を用いることができる。
【0026】
アルミニウムの硫酸塩としては、特に限定されないが、例えば、アンモニウム明礬、ヒドロキシ硫酸アルミニウム、及び硫酸アルミニウムなどが挙げられる。
アルミン酸塩としては、特に限定されないが、例えば、アルミン酸リチウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、アルミン酸カルシウム、及びアルミン酸マグネシウムなどが挙げられる。
その他の無機アルミニウム化合物としては、特に限定されないが、例えば、ボーキサイト、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、フッ化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、炭酸水酸化アルミニウム、合成ヒドロタルサイト、及びメタケイ酸アルミニウムなどが挙げられる。
【0027】
有機アルミニウム化合物としては、特に限定されないが、例えば、ステアリン酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム、アルミニウムイソプロポキシド、及びギ酸アルミニウムなどが挙げられる。
アルミニウム錯体としては、特に限定されないが、例えば、トリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウムなどが挙げられる。
Al
2O
3源としては、単一種を用いることができるが、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記の様々なAl
2O
3源の中でも、水への溶解性が高く、製造コストが安く且つ凝結性に優れる点からアルミニウムの硫酸塩が好ましいが、水酸化アルミニウムも好ましい。
【0028】
SO
3源としては、特に限定されないが、イオウ及びイオウ華などの元素状態のイオウの他に、硫化物、硫酸、硫酸塩、亜硫酸、亜硫酸塩、チオ硫酸、チオ硫酸塩、及び有機イオウ化合物などを用いることができる。
硫化物としては、特に限定されないが、例えば、硫化マグネシウム、硫化カルシウム、硫化鉄、及び五硫化リンなどが挙げられる。
硫酸塩としては、特に限定されないが、例えば、硫酸アニリン、硫酸アルミニウム、硫酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、ナトリウム明礬、カリウム明礬、アンモニウム明礬、及び硫酸ヒドロキシルアミンなどが挙げられる。
【0029】
亜硫酸塩としては、特に限定されないが、例えば、亜硫酸水素アンモニウム及び亜硫酸カルシウムなどが挙げられる。
チオ硫酸塩としては、特に限定されないが、例えば、チオ硫酸アンモニウム及びチオ硫酸バリウムなどが挙げられる。
有機イオウ化合物としては、特に限定されないが、例えば、スルホン酸誘導体、スルホン酸誘導体の塩、メルカプタン、チオフェン、チオフェン誘導体、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、及びポリフェニレンサルファイドなどの樹脂が挙げられる。
SO
3源としては、単一種を用いることができるが、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記の様々なSO
3源の中でも、水への溶解性が高く、製造コストが安く且つ凝結性に優れる点から、硫酸又は硫酸塩が好ましく、硫酸又はアンモニウム明礬が最も好ましい。
【0030】
ここで、得られた硫酸アルミニウムは、例えば、公知のミル等により粉砕して、篩分け等によって(3)の要件を満たすようにすることが好ましい。
【0031】
本実施形態に係るケイ酸ソーダと酸性の硫酸アルミニウムとの混合比率(ケイ酸ソーダ/酸性の硫酸アルミニウム:質量比)は、互いの効果を十分に発揮させる観点から、5/5〜5/40であることが好ましく、5/5〜5/20であることがより好ましい。
【0032】
本発明に係るセメント混和剤には、pHが8以上であるアルカリ性混和剤が混合されることが好ましい。当該アルカリ性の混和剤としては、アルカリ金属アルミン酸塩、アルカリ土類金属アルミン酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物等が挙げられ、なかでもアルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物が含有されることが好ましい。
【0033】
アルカリ金属炭酸塩はセメントにさらなる凝結性や急硬性を付与することができる。アルカリ金属炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸ベリリウム、炭酸マグネシウム等が挙げられ、なかでも炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸カリウムが好ましい。アルカリ性混和剤中のアルカリ金属炭酸塩の含有量は、50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
【0034】
アルカリ土類金属水酸化物はセメントにさらなる凝結性、急硬性、長期強度発現性を付与することができる。アルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ベリリウム等が挙げられ、なかでも水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。アルカリ性混和剤中のアルカリ土類金属水酸化物の含有量は、50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
【0035】
本発明に係るセメント混和剤に用いられるアルカリ性混和剤は、アルカリ金属炭酸塩とアルカリ土類金属水酸化物との組合せを含むことが好ましい。この組合せにより、著しいセメントの凝結、急硬、強度発現性の付与が可能となる。アルカリ性混和剤中のアルカリ金属炭酸塩とアルカリ土類金属水酸化物との組合せは、50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。また、当該組み合わせにおける、アルカリ金属炭酸塩とアルカリ土類金属水酸化物との質量比は、アルカリ金属炭酸塩/アルカリ土類金属水酸化物で、30/70〜70/30であることが好ましく、40/60〜60/40であることがより好ましい。
【0036】
本発明に係るセメント混和剤とアルカリ性混和剤とは、水硬性物質に添加する際に混合することが好ましいが、本発明に係るセメント混和剤はアルカリに対する貯蔵安定性に優れるため、水硬性物質に添加する2〜3週間前に混合することが好ましい。
【0037】
[水硬性組成物]
本発明に係る水硬性組成物は、本発明に係るセメント混和剤と水硬性物質とを含み、さらに既述のアルカリ性混和剤を含むことが好ましい。
本発明に係るセメント混和剤は、様々な水硬性物質と共に用いて水硬性組成物を調製することができる。特に、本発明に係るセメント混和剤は、酸性であるにも関わらず、アルカリ性の水硬性物質と共に用いることが可能である。一般的に、酸性のセメント混和剤は、アルカリ性の水硬性物質と共に用いて水硬性組成物を調製すると、貯蔵安定性が低下し易いが、本発明に係るセメント混和材は、アルカリ性の水硬性物質と共に用い水硬性組成物を調製しても貯蔵安定性が低下し難い。そのため、本発明に係るセメント混和材を用いて調製された水硬性組成物は、特殊な保存方法、施工方法又は取扱方法を行わなくても長期保存が可能である。また、この水硬性組成物は、超速硬性を有し、強度が高い硬化体を形成することができる。したがって、この水硬性組成物を用いることにより、施工の簡略化が可能となる。
【0038】
水硬性組成物に用いられる水硬性物質としては、特に限定されないが、例えば、普通、早強、中庸熱、低熱、白色などの各種ポルトランドセメント;都市ゴミ焼却灰、下水汚泥焼却灰を原料として製造されるエコセメント;高炉スラグ、シリカヒューム、石灰石、フライアッシュ、石膏などを含む混合セメントなどが挙げられる。
水硬性物質のpHとしては、特に限定されないが、好ましくは7超、より好ましくは8以上、さらに好ましくは10以上である。
【0039】
水硬性組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲において、一般的に配合され得る公知の添加剤を含有することができる。添加剤としては、特に限定されないが、防錆剤、着色剤、ポリマー、繊維、流動化剤、中性化抑制剤、防水剤、増粘剤、防水剤、遅延剤、早強剤、促進剤、減水剤、高性能(AE)減水剤、起泡剤、発泡剤、AE剤、乾燥収縮低減剤、急結剤、膨張剤、耐寒促進剤、エフロレッセンス防止剤、アルカリ骨材反応抑制剤、黒色むら低減剤、環境浄化混和剤などが挙げられる。これらの添加剤は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
水硬性組成物中の本発明に係るセメント混和剤は、1〜30質量%であることが好ましく、2〜20質量%であることがより好ましい。また、既述のアルカリ性混和剤を含む場合、本発明に係るセメント混和剤100部に対して、アルカリ性混和剤を2〜30部とすることが好ましく、2〜20部とすることがより好ましい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、下記の実施例に限定されるものではない。
【0042】
「実験例1」
<硫酸アルミニウムA〜Eの調製>
原料として下記の物質を使用した。
Al
2O
3源:水酸化アルミニウム、試薬、純度99%
SO
3源:硫酸、試薬、純度99%
溶媒:純水
【0043】
Al
2O
3源とSO
3源と溶媒とを2:3:10のモル比で混合し、混合物を表1に示す各温度に加熱して反応させることにより、硫酸アルミニウムA〜Eを調製した。その後、ボールミルを用いて粉砕し、篩によって粒径が100μm以上の粒子が30%、粒径が10μm以下の粒子が20%となるように粉砕した。
上記で調製した硫酸アルミニウムについて、X線回折、固体
27Al−NMR、及びpHの評価を行った。
【0044】
X線回折は、リガク社製のMulti−Flexを用いて測定した。測定は、管電圧−管電流を40KV−40mAとし、2θ=5°〜60°、5°/分の条件で行った。また、解析ソフトはPDXLを用いた。X線回折の評価において、X線回折スペクトルがブロードであれば非晶質、それ以外を結晶質と判定した。結果を表1に示す。
【0045】
固体
27Al−NMRは、日本電子株式会社製の超伝導核磁気共鳴装置(ECX−400)を用いて上記した条件で行い、ピークの化学シフト及び半値幅を測定した。結果を表1に示す。
【0046】
pHは、上記方法で調整した硫酸アルミニウムをHORIBA社製のpH測定計(D−53S)を用いて、既述の方法にて測定した。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
<粉末ケイ酸ソーダA>
粉末ケイ酸ソーダは、市販品で、SiO
2/Na
2Oモル比が1.0、ブレーン比表面積が600cm
2/gで、平均粒径が250μmの無水塩を使用した。
【0049】
次に、上記で調製した表1に示す種類の硫酸アルミニウム100部と粉末ケイ酸ソーダA25部とを含むセメント混和剤に、表2に示すアルカリ性混和剤アを20部配合し混合してアルカリ入りセメント混和剤を調製し、表2に示す日数、温度20℃、湿度60%に保管した。その後、普通ポルトランドセメント(pH14、工業品)100部、アルカリ入りセメント混和剤10部からなる水硬性組成物を得た。
その後、この水硬性組成物に水(上水道水)40質量部を更に配合して混合し、凝結試験を行った。
凝結試験は、JIS R5201「セメントの物理試験方法」に準拠して行った。凝結試験は、凝結の始発時間を測定した。
上記の各評価の結果を表2に示す。
【0050】
アルカリ性混和剤ア:炭酸ナトリウム、試薬、pH11
アルカリ性混和剤イ:炭酸水素ナトリウム、試薬、pH8.3
アルカリ性混和剤ウ:炭酸カルシウム、試薬、pH10
アルカリ性混和剤エ:炭酸カリウム、試薬、pH12
アルカリ性混和剤オ:水酸化カルシウム、試薬、pH10
アルカリ性混和剤カ:水酸化マグネシウム、試薬、pH10.5
アルカリ性混和剤キ:水酸化ナトリウム、試薬、pH14
アルカリ性混和剤ク:水酸化カリウム、試薬、pH13
【0051】
【表2】
【0052】
表2に示すように、硫酸アルミニウムAを用いることで、保管日数に伴い凝結時間が変化した。これは、該化合物と、混和剤が貯蔵劣化したものと考える。しかし、硫酸アルミニウムB〜Eであれば、貯蔵劣化は見られず、特に促進的な効果が得られやすいのは、硫酸アルミニウムB〜Dであることが確認された。
【0053】
次に、硫酸アルミニウムC、又は硫酸アルミニウムCで粒径100μm以上の粒子の割合を表3となるように調整したもの100部と、表3に示す種類のアルカリ性混和剤20部とを配合し混合してセメント混和剤を調製し、表3に示す日数、温度20℃、湿度60%に保管してから、普通ポルトランドセメント(pH14、工業品)100部、セメント混和剤10部からなる水硬性組成物を得た。その後、この水硬性組成物に水(上水道水)40質量部を更に配合して混合し、凝結試験及び圧縮強度の測定を行った。
凝結試験及び圧縮強度の測定は、JIS R5201「セメントの物理試験方法」に準拠して行った。凝結試験は、凝結の始発時間を測定した。
上記の各評価の結果を表3に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
表3に示すように、硫酸アルミニウムの粒径100μm以上の粒子の割合が71%、99%では凝結始発時間が遅くなることが確認された。また、硫酸アルミニウムの粒径100μm以上の粒子の割合が70%以下ではいずれも、凝結性及び強度が良好であった。
【0056】
次に、硫酸アルミニウムC、又は硫酸アルミニウムCで粒径10μm以下の粒子の割合を表4となるように調整したもの100部と、表4に示す種類のアルカリ性混和剤20部とを配合し、混合してセメント混和剤を調製し、表4に示す日数、温度20℃、湿度60%に保管してから、普通ポルトランドセメント(pH14、工業品)100部、セメント混和剤10部からなる水硬性組成物を得た。その後、この水硬性組成物に水(上水道水)40質量部を更に配合して混合し、凝結試験及び圧縮強度の測定を行った。
凝結試験及び圧縮強度の測定は、JIS R5201「セメントの物理試験方法」に準拠して行った。凝結試験は、凝結の始発時間を測定した。
上記の各評価の結果を表4に示す。
【0057】
【表4】
【0058】
表4に示すように、硫酸アルミニウムCで粒径10μm以下の粒子の割合が30%以上であると、貯蔵劣化が確認され、30%未満であると、特に貯蔵劣化は確認されないことがわかった。
【0059】
次に、表5に示す種類の硫酸アルミニウム100部と、各種のアルカリ性混和剤20部とを配合し混合してセメント混和剤を調製し、表5に示す日数、温度20℃、湿度60%に保管してから、普通ポルトランドセメント(pH14、工業品)100部、セメント混和剤10部からなる水硬性組成物を得た。
その後、この水硬性組成物に水(上水道水)40質量部を更に配合して混合し、強度試験を行った。強度試験は、JIS R5201「セメントの物理試験方法」に準拠して行った。強度試験は、水硬性組成物に水を添加してから28日後の強度を測定した。
上記の各評価の結果を表5に示す。
【0060】
【表5】
【0061】
表5に示すように、混和剤種別毎に保管日数に伴い材齢28日強度は変化するが、硫酸アルミニウムAと各種のアルカリ性混和剤の組合せは保管日数に伴い、強度が低下した。一方、硫酸アルミニウムCと各種のアルカリ性混和剤の組合せは、貯蔵安定性がよく、保管日数に関係なく、強度も低下しないことが確認された。
【0062】
次に、上記で調製した表6に示す種類の硫酸アルミニウム100部と、各種のアルカリ性混和剤20部とを配合し混合してセメント混和剤を調製し、表6に示す日数、温度20℃、湿度60%に保管してから、普通ポルトランドセメント(pH14、工業品)100部、セメント混和剤10部からなる水硬性組成物を得た。なお、アルカリ性混和剤アとオを混合した場合(実験No.30、31)のこれらの比(ア:オ)は50:50とした。
その後、この水硬性組成物に水(上水道水)40質量部を更に配合して混合し、強度試験を行った。強度試験は、JIS R5201「セメントの物理試験方法」に準拠して行った。強度試験は、水硬性組成物に水を添加してから28日後の強度を測定した。
上記の各評価の結果を表6に示す。
【0063】
【表6】
【0064】
表6に示すように、硫酸アルミニウムAは混和剤種別をア、オを組み合わせても保管日数により、強度低下が確認されたが、硫酸アルミニウムCをア、オと組み合わせると、強度が更に増進することを確認した。
【0065】
次に、実験No.3、No.6〜17について、水硬性組成物を得る際の温度(試験温度)を20℃から10℃又は30℃とした以外は同様にして、普通ポルトランドセメント(pH14、工業品)100部、セメント混和剤10部からなる水硬性組成物を得た。
その後、この水硬性組成物に水(上水道水)40質量部を更に配合して混合し、凝結試験を行った。
凝結試験は、JIS R5201「セメントの物理試験方法」に準拠して行った。凝結試験は、凝結の始発時間を測定した。
上記の各評価の結果を表7に示す。
【0066】
【表7】
【0067】
表7に示すように、本発明の範囲にある硫酸アルミニウムを用いた混和剤では、低温(5℃)から高温(30℃)まで幅広い温度範囲で使用できるため、夏でも冬でも安定して適用可能である。
【0068】
実験No.3の例で、粉末ケイ酸ソーダAの代わりに下記表8に示す平均粒径の粉末ケイ酸ソーダB〜Eをそれぞれ使用して、水硬性組成物を得る際の温度(試験温度)を20℃から10℃又は30℃とした以外は同様にして、普通ポルトランドセメント(pH14、工業品)100部、セメント混和剤10部からなる水硬性組成物を得た。
その後、この水硬性組成物に水(上水道水)40質量部を更に配合して混合し、凝結試験を行った。
凝結試験は、JIS R5201「セメントの物理試験方法」に準拠して行った。凝結試験は、凝結の始発時間を測定した。
上記の各評価の結果を表8に示す。
【0069】
【表8】
【0070】
表8に示すように、粉末ケイ酸ソーダの平均粒径を1〜300μmとすることで、各保管日数における凝結時間及び圧縮強度が良好であることが確認できた。
【0071】
「実験例2」
表9に示すように、ケイ酸ソーダのSiO
2/Na
2Oモル比が異なるものを使用した以外は全て実験例1と同様にして試験を実施した。粉末状急結剤の組成は、実験No.1−5の配合となるように調製した。
モルタルに粉末状急結剤80gを加えて急結モルタルを調製したときからの流動性低下時間、凝結時間、圧縮強度を測定した。結果を下記表9に併記する。
【0072】
【表9】
【0073】
表9より、好ましい性状を示す珪酸ソーダのSiO
2/Na
2Oモル比の範囲が存在することがわかる。
【0074】
「実験例3」
表10に示す種類のケイ酸ソーダの水和物を使用した以外は全て実験例1と同様にして試験を実施した。粉末状急結剤の組成は、実験No.1−5の配合となるように調製した。
モルタルに粉末状急結剤80gを加えて急結モルタルを調製したときからの流動性低下時間、凝結時間、圧縮強度を測定した。結果を表10に併記する。
【0075】
【表10】
【0076】
表10よりケイ酸ソーダの水和物の種類がいずれであっても、粉末状急結剤として有効であることが考えられる。
【0077】
「実験例4」
セメント360kg、水216kg、細骨材1049kg、粗骨材(新潟県姫川水系6号砕石、密度2.67g/cm
3)716kgのコンクリート(吹付けコンクリート)を調製した。MAYCO社(Suprema)のコンクリートポンプで5m
3/hの設定でコンクリートをポンプ圧送し、途中で別系統からの圧縮空気と混合合流させて空気搬送した。さらに、吐出前3m地点で下記表11に示す粉状急結剤を搬送装置Werner Mader社(WM−14 FU)でセメント100部に対して10部となるように、当該粉末状急結剤を空気搬送されたコンクリートと混合合流させて急結材料とし、ノズル先より鉄板に吹付けた。吹付けてからの初期強度、長期強度、リバウンド率、ひび割れ修復率を表11に示す。なお、急結剤搬送装置への急結剤の供給はSpiroflow社(FLEXIBLE SCREW CONVEYOR)の装置を用い、それぞれの装置は電気信号にて連動して制御されている。
【0078】
「試験方法」
初期強度:JSCE−G561に準じて型枠に吹付けて、材齢10分、3時間、1日時点での引き抜き強度より、圧縮強度に換算し、初期強度を測定した。
【0079】
長期強度:JSCE−F561、JIS A1107に準じて型枠に吹付けて、材齢7日、28日時点でコアを採取して、圧縮強度を測定した。
【0080】
リバウンド:JSCE−F563に準じて、掘削断面15m
2の模擬トンネルに3分間吹付けときのはね返りを測定し、使用した吹付けコンクリートからのリバウンド率を下記式から求めた。
【0081】
式) リバウンド率=落下した吹付けコンクリート量(kg)/吹付けに使用した吹付けコンクリート量(kg)×100(%)とした。
なお、リバウンド率は、20%以下であることが好ましい。
【0082】
ひび割れ修復率:10cm×10cm×40cmの型枠2個のそれぞれに吹付けコンクリートを吹付けて試験体を作製した。作製の直後より、2つの試験体の40cm面を並列にして隙間が0.1mmとなるように固定し、20℃で水中養生を6ヶ月間実施し、マイクロスコープで観察し、0.1mm幅の隙間に対する修復率を求めた。
なお、ひび割れ修復率は、50%以上であることが好ましい。
【0083】
【表11】
【0084】
表11より、実施例は、初期強度、長期強度、ひび割れ修復率が全て良好であった。
【0085】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、水硬性組成物に予め配合しても貯蔵安定性が低下し難いと共に、超速硬性を有し且つ硬化体の強度が高い水硬性組成物を与えることが可能なセメント混和剤を提供することができる。また、本発明によれば、貯蔵安定性が低下し難いと共に、超速硬性を有し且つ硬化体の強度が高い水硬性組成物を提供することができる。
【課題】水硬性組成物にアルカリ性の混和剤とともに予め配合しても貯蔵安定性が低下し難いと共に、良好な凝結性を示し、極初期から高い強度を得ることができる水硬性組成物を与えることが可能なセメント混和剤を提供する。