(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6902703
(24)【登録日】2021年6月24日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】真空脱脂洗浄方法
(51)【国際特許分類】
B08B 3/10 20060101AFI20210701BHJP
B08B 3/04 20060101ALI20210701BHJP
C23G 3/00 20060101ALI20210701BHJP
【FI】
B08B3/10 Z
B08B3/04 Z
C23G3/00 Z
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-62481(P2017-62481)
(22)【出願日】2017年3月28日
(65)【公開番号】特開2018-164870(P2018-164870A)
(43)【公開日】2018年10月25日
【審査請求日】2020年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【弁理士】
【氏名又は名称】梅本 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】武部 匡彦
(72)【発明者】
【氏名】松井 豊勝
【審査官】
柿沼 善一
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第06413322(US,B1)
【文献】
国際公開第2006/129402(WO,A1)
【文献】
特開昭63−227799(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0290282(US,A1)
【文献】
特開2005−270818(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/077336(WO,A1)
【文献】
特開平02−253893(JP,A)
【文献】
特開平09−001091(JP,A)
【文献】
特開2005−238225(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B08B 3/00−3/14
C23G 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧雰囲気下において被洗浄物を溶剤中に浸漬することで前記被洗浄物を脱脂、洗浄する単一の洗浄室を備えた真空脱脂洗浄装置を用いた真空脱脂洗浄方法において、前記被洗浄物は内部に段付きの止まり孔を有する部品であって、前記真空脱脂洗浄装置は、前記単一の洗浄室内の下方に、加熱媒体を内部で循環させる整流板が千鳥配置された構造体と、前記溶剤を前記洗浄室内へ導入する溶剤導入口と、を有しており、かつ前記単一の洗浄室外に、前記溶剤を加熱する加熱器と、前記加熱器により加熱された前記溶剤を前記構造体内へ送る配管と、を有しており、前記溶剤導入口から導入された前記溶剤を前記構造体上に散布することで前記被洗浄物の下方で気化して前記被洗浄物を洗浄した後、前記単一の洗浄室内に前記溶剤を充満させることで前記被洗浄物を浸漬して再度洗浄を行うことを特徴とする真空脱脂洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減圧雰囲気下において溶剤を用いた素材や部材の脱脂、洗浄および乾燥を行う真空脱脂洗浄装置およびそれを用いた真空脱脂洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品(以下、部品という)は、その表面や内部に対して浸炭や窒化などの特殊処理を施して実用に供される場合が多い。そのような特殊処理の前後の工程では、部品の表面に付着したススや油などの汚れを除去するために、溶剤を用いた脱脂や洗浄およびその後の乾燥が行われる。脱脂や洗浄に供される部品の形状は、例えば歯車のような複数の凹凸が入り組んだ形状であったり、数ミリの穴径に対して深さが数センチある(奥行きが深い)形状のものまで様々である。
【0003】
中でも、穴形状が部品の反対側まで貫通していない、いわゆる止まり穴を有する部品については、穴の奥側は洗浄が困難であるため、溶剤中に部品を浸漬することで穴の奥側まで洗浄したり、溶剤を蒸気にすることで穴の奥側まで蒸気を到達することで洗浄したり、様々な洗浄方法がこれまでは行われてきた。
【0004】
例えば、止まり穴を有する部品に対して、まず加熱された蒸気を用いた前洗浄を行う。その後、高温かつ高圧の雰囲気下で温水からなる洗浄液に当該部品を浸漬して後洗浄を行う。また、洗浄液中では超音波洗浄も併用する。以上の洗浄方式を複数回繰り返す一連の洗浄工程が特許文献1に開示されている。
【0005】
また、止まり穴を有する部品に対して、加熱された溶剤の蒸気で洗浄すると共に加圧された溶剤を部品に対して噴射することで洗浄を行う方式が特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−340818号公報
【特許文献2】特開2012−245460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に開示されている洗浄方法では、溶剤として温水を使用しているので、部品に付着している油の種類よっては除去が困難である場合も多い。また、蒸気洗浄を行う装置と高温かつ高圧による洗浄を行う装置を各々別個の装置で行うと、装置全体が大型化し、一連の洗浄工程が完了するまでに時間を要するという問題があった。
【0008】
また、特許文献2に開示されている洗浄方法では、溶剤として有機溶剤を用いて洗浄しており、かつ洗浄する雰囲気も減圧下であるため、付着した油の種類によって除去が困難であるとまでは言い切れない。
【0009】
しかし、洗浄方式として部品を溶剤中に浸漬しないために、例えば多数の部品を10段積みのような多段積みの状態で洗浄を行う場合には、上段で除去した汚れが下段の部品表面に付着する、もしくは次工程で部品を乾燥させる際に部品の中心部分が表面温度よりも低いために完全に乾燥するまでに多大な時間を要するという問題があった。
【0010】
そこで、本発明においては、部品を溶剤中に浸漬する洗浄方式であっても一連の洗浄工程を短縮化できて、かつ小型化できる真空脱脂洗浄装置およびそれを用いた真空脱脂洗浄方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した課題を解決するために、本発明の
真空脱脂洗浄方法に用いる真空脱脂洗浄装置は、減圧雰囲気下において被洗浄物を溶剤中に浸漬することで被洗浄物を脱脂、洗浄する単一の洗浄室を備えている。この単一の洗浄室には、内部に加熱媒体が流れる構造体と、溶剤を洗浄室内へ導入する溶剤導入口と、を有した構造とする。そして、この構造体を単一の洗浄室内の下方側に設置する。
【0012】
この構造体の内部には、加熱媒体を循環させる整流板を設けたり、この整流板を構造体の内部で千鳥配置したりすることもできる。また、単一の洗浄室外には溶剤を加熱する加熱器と、加熱器により加熱された溶剤を単一の洗浄室内へ送る配管と、をさらに有しており、配管の一端側は加熱器に接続して、他端側は単一の洗浄室に接続することもできる。
【0013】
さらに、当該真空脱脂洗浄装置を用いた洗浄方法については、この構造体により気化された溶剤を用いて被洗浄物を洗浄した後、溶剤中に被洗浄物を浸漬することで再度洗浄を行う真空脱脂洗浄方法としても構わない。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る
真空脱脂洗浄装置を用いた真空脱脂洗浄方法により、部品を溶剤中に浸漬する洗浄方式であっても一連の洗浄工程を短縮化できて、かつ洗浄装置が小型化できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態である真空脱脂洗浄装置1の正面図である。
【
図2】
図1に示す真空脱脂洗浄装置1のX−X断面図である。
【
図3】
図2に示す真空脱脂洗浄装置1のZ−Z断面図である。
【
図4】
図3に示す構造体2の内部における加熱媒体の流れを示す模式図である。
【
図5】本発明による洗浄工程を示すフロー図である。
【
図6】従来方式による洗浄工程を示すフロー図である。
【
図7】実施例1における洗浄試験に用いた被洗浄物Wの斜視図である。
【
図8】実施例1における洗浄試験に用いた被洗浄物Wの平面図および断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態の一例について図面を用いて説明する。本発明の実施の形態の一例である真空脱脂洗浄装置1の正面図および各種断面図を
図1ないし
図3に示す。真空脱脂洗浄装置1(以下、「装置1」とする)は、
図1ないし
図3に示すように従来の洗浄装置と同様に単一の洗浄室5を有している。その洗浄室5の内部は、減圧の雰囲気下で被洗浄物W(以下、「ワークW」とする)に対して洗浄液(溶剤)を用いた洗浄が行える構造である。また、洗浄室5の内部は図示しない真空ポンプを用いて真空引きして、減圧の雰囲気にすることができる。
【0017】
洗浄室5内の下方(底部)には、
図1ないし
図3に示すように内部に油などの加熱媒体を流すことが出来る構造体2が設置されている。この構造体2には2本の圧送配管60、70が接続されており、これらの配管60、70を経由することで構造体2の内部と洗浄室5の外部との間で加熱媒体のやりとり(双方向の移動)が行われる。
【0018】
また、構造体2の中央部には
図3に示すように中央溝20が設けられている。これは、構造体2の左右両側に設けられた複数個のノズル6から溶剤を散布(拡散)することで、洗浄後に構造体2上に残留した異物(ゴミ)を構造体2の中央部に集めて、最終的に中央溝20から洗浄室5の外部へ排出するためのものである。なお、
図3には構造体2の片側にノズル6が4個ずつ(左右両側で計8個)設置されている形態を示しており、ノズル6から噴出する溶剤は洗浄室5の外部から専用の配管を通じて圧送される。
【0019】
構造体2の内部における加熱媒体の流れを
図4に示す。同図において矢印の向きが加熱媒体の流れを示している。構造体2への加熱媒体の流入は、
図4に示す配管60を経由して洗浄室5の外部から構造体2の内部へ送られる。その後、構造体2の内部に複数個設置されている整流板21の間を縫う様に加熱媒体が構造体2内全体を循環して、
図4の矢印の向きが示すように最終的には構造体2から配管70を経由して洗浄室5の外部へ一旦排出される。
【0020】
配管70を経由して構造体2の外部に一旦排出された加熱媒体は、洗浄室5の外部に設置された図示しない加熱器を用いて、再度加熱媒体を所定の温度まで加熱する。その後、図示しないポンプを用いて配管60を経由して構造体2の内部へ再度送り込まれる。なお、
図4は整流板21が構造体2内部に千鳥配置されている形態を示すが、構造体2の内部における整流板21の配置は、例えば所定の間隔に規則的に配置したり、整流板21の配置個数については1個または複数個を構造体2の大きさや形状に応じて適宜配置することができる。
【0021】
洗浄室5には、その内部へ溶剤を送り込む溶剤導入口4が備え付けられている。
図1ないし
図3には、2本の溶剤導入口4、4が洗浄室5の下方側に取り付けられている形態を示しているが、溶剤導入口4の設置本数や設置位置については、洗浄室5の容量や形状などによって自由に設定することができる。
【0022】
また、2本の溶剤導入口4、4は、
図1ないし
図3に示すように洗浄室5の内壁面から所定長さの配管が構造体2の上方位置まで延長されて、構造体2の上面に向いた形態を示している。これは、洗浄室5内への溶剤の導入時間を短縮し、洗浄室5内に搬入(挿入)されるワークWへ溶剤が直接触れることを防ぐものである。これは溶剤がワークWに直接触れた場合、ワークWの温度が上昇するので後述する溶剤蒸気による洗浄効率が低下する。そのため、溶剤がワークWに直接触れることによる洗浄効率の低下を防止するため、溶剤導入口4、4は構造体2の上方位置まで延長されて、構造体2の上面に向いた形態としている。
【0023】
次に、
図1ないし
図4に示す真空脱脂洗浄装置1を用いた洗浄方式の手順について図面を用いて説明する。
図5は、本発明による洗浄工程を示すフロー図を示す。
図5に示すように、まず洗浄すべきワークWを洗浄室5内へ搬入して、前述した真空ポンプを用いて所定の圧力まで洗浄室5内部を減圧雰囲気にする。洗浄室5内が所定の圧力に達した後、構造体2の内部へ所定の温度まで加熱された加熱媒体を流入させる。この操作により、構造体2の表面全体が加熱される。この際、構造体2の表面は少なくとも140℃以上の温度とする。
【0024】
構造体2の表面温度が140℃以上に達したことを確認した後、
図1ないし
図3に示す溶剤導入口4から圧送される溶剤を洗浄室5内部へ導入する。この時、溶剤導入口4から圧送される溶剤の圧力は0.05〜0.15MPaGの範囲である。洗浄室5内部へ導入された溶剤が構造体2の表面を覆う容量になると、溶剤は徐々に気化して溶剤蒸気が発生する。
【0025】
発生した溶剤蒸気は、ワークWの下方からワークW同士の隙間を縫うようにして上方に向けて移動する。溶剤蒸気がこのように洗浄室5内を自由に移動することで、例えばワークWの細孔や狭小な間隙に付着した油汚れを完全に洗浄する。
【0026】
溶剤蒸気によるワークWの洗浄が完了した後、洗浄室5内の溶剤を一旦洗浄室5外へ排出する。その後、洗浄室5内に溶剤を充満させて、全てのワークWを溶剤中に浸漬させる、いわゆる浸漬洗浄を行う。これは、前工程である溶剤蒸気による洗浄後の汚れを一掃するためであり、また次工程の真空乾燥を行うためにワークW全体を予熱するためでもある。
【0027】
浸漬洗浄が完了した後、洗浄室5内から溶剤を排出する。その後、ワークWに対して真空乾燥を行い、ワークWが完全に冷却されたことを確認した後、ワークWを洗浄室5から取り出して、一連の洗浄工程が完了する。
【実施例1】
【0028】
本発明の真空脱脂洗浄装置(以下、「本発明品」という)および従来の真空脱脂洗浄装置(以下、「従来品」という)をそれぞれ用いて、これらの各洗浄装置による洗浄効果を確認するために洗浄試験を行った。その試験結果について図面を用いて説明する。
図6は本試験における従来品を用いた従来方式による洗浄工程を示すフロー図、
図7は本試験に用いた被洗浄物Wの斜視図、
図8は被洗浄物Wの平面図および断面図を示す。
【0029】
本試験に用いた装置については、本発明品は
図1ないし
図4に示す構造であり、従来品は洗浄室内に溶剤を散布する部品(シャワーノズル)を備えて、被洗浄物を浸漬、バブリング(気泡発生)する機能を有した構造(例えば、特開2006−231273号公報の
図1に示す構造)の装置とした。また、本試験で使用した被洗浄物(ワークW)は、
図7および
図8に示すように鋼製の円筒状部品であり、内部に段付きの止まり孔を有した形態のものである。
【0030】
次に、本試験における試験条件および洗浄方式について説明する。本発明品を用いた試験条件は、1段当り320個のワークW(止まり孔内に加工油が残留したもの)を
図7および
図8に示す形態で配置し、計8段積み(計2560個)で
図5に示す手順に従い洗浄室へ搬入した後、ワークWに対して
図1に示す構造体2により気化された溶剤を用いた洗浄(20分間)および溶剤中に被洗浄物Wを浸漬する(浸漬洗浄:3分間)洗浄方式を行った。なお、構造体2内の加熱媒体(油)は150℃とした。
【0031】
これに対して、従来品を用いた試験条件および洗浄方式は、80個のワークWを1段積みで従来品の洗浄室へ装填した後、
図6に示す手順に従いワークW(止まり孔内に加工油が残留したもの)に対する溶剤の荒洗浄(30秒間:1次シャワー洗浄)を行い、その後に洗浄室内へ溶剤を充満そして当該溶剤の排出を行うことによる浸漬洗浄を9回繰り返した。
【0032】
浸漬洗浄後に再度洗浄室内へ溶剤を充満させた状態でバブリング(10分間)による洗浄を1回行ってから洗浄室内の溶剤を再度排出した。最後に、再度溶剤の仕上げ洗浄(90秒間:2次シャワー洗浄)を行うことで一連の洗浄が完了した。なお、洗浄時における溶剤の液温は120℃とした。
【0033】
以上の試験条件および洗浄方式により本試験を行った結果、本発明品を用いた試験では計2560個のワークWの中から任意に抽出した320個のワークWについて、止まり孔内の加工油の有無を顕微鏡を用いて、確認した。確認の結果、抽出された320個のワークWのすべてについて、止まり孔内の加工油の残留は確認されなかった。
【0034】
一方、従来品を用いた洗浄方式により本試験を行った結果、洗浄を行った計80個のワークWについて、止まり孔内の加工油の有無を確認した。確認の結果、80個のワークW中24個のワークWについては加工油の残留が確認されなかったが、残りの56個のワークWについては止まり孔内に加工油が残留した状態のままであった。
【0035】
本試験の結果より、本発明品および本発明品を用いた洗浄方法により、止まり孔を有する被洗浄物を洗浄室内に多段積みした状態であっても、止まり孔内の加工油を完全に洗浄できる効果が確認できた。
【0036】
したがって、本発明の洗浄装置およびそれを用いた洗浄方法は、従来の真空脱脂洗浄装置のように溶剤を噴霧したり、溶剤を浸漬しながらバブリングすることによる洗浄およびそのような洗浄方式で必要とされる各種部品類も不要となる。また、一連の洗浄工程を短縮化できて、かつ洗浄装置の小型化も図ることができる。
【0037】
なお、本試験に用いた本発明品の構造体2は、内部に加熱媒体(熱媒体油)を循環させることで溶剤を気化させる方式であるが、例えば構造体2の内部にヒータなどを設けることにより電気的に構造体2全体を加熱して溶剤を気化させる方式であっても、上述した効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0038】
1 真空脱脂洗浄装置
2 構造体
4 溶剤導入口
5 洗浄室
21 整流板
W 被洗浄物