特許第6902753号(P6902753)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6902753
(24)【登録日】2021年6月24日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】炭素繊維強化樹脂部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 43/36 20060101AFI20210701BHJP
   B29C 33/42 20060101ALI20210701BHJP
   B29C 43/34 20060101ALI20210701BHJP
   B29C 70/34 20060101ALI20210701BHJP
   B29C 70/46 20060101ALI20210701BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20210701BHJP
【FI】
   B29C43/36
   B29C33/42
   B29C43/34
   B29C70/34
   B29C70/46
   B29K105:08
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-111171(P2017-111171)
(22)【出願日】2017年6月5日
(65)【公開番号】特開2018-202753(P2018-202753A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2020年5月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】599166208
【氏名又は名称】株式会社岩間工業所
(73)【特許権者】
【識別番号】500262614
【氏名又は名称】株式会社東鋼
(73)【特許権者】
【識別番号】517198595
【氏名又は名称】杉田 直彦
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(72)【発明者】
【氏名】岩間 正俊
(72)【発明者】
【氏名】稲田 明弘
(72)【発明者】
【氏名】杉田 直彦
(72)【発明者】
【氏名】木崎 通
(72)【発明者】
【氏名】藤井 達也
(72)【発明者】
【氏名】平岩 和也
(72)【発明者】
【氏名】白石 勝
(72)【発明者】
【氏名】寺島 誠人
【審査官】 ▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−001380(JP,A)
【文献】 特開2012−135967(JP,A)
【文献】 特開平06−254891(JP,A)
【文献】 特開平10−296869(JP,A)
【文献】 国際公開第02/002298(WO,A1)
【文献】 実開昭50−072766(JP,U)
【文献】 特開2015−071239(JP,A)
【文献】 特開平01−208121(JP,A)
【文献】 特開2009−248474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00 − 33/76
B29C 43/00 − 43/58
B29C 70/00 − 70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維を含むプリプレグシートを芯型の外周面に所定枚数積層するプリプレグシート積層工程と、
前記積層されたプリプレグシートの外周面に所定の内面形状を有する、複数に分割された外型を押し付けて所定形状に成形する成形工程と、
前記芯型及び前記外型で挟持した状態で前記積層されたプリプレグシートを加熱硬化する加熱硬化工程とを含む炭素繊維強化樹脂部材の製造方法において、
前記複数の外型で構成される内周面の、前記炭素繊維強化樹脂部材の寸法精度が求められる面から外れた位置に、前記複数の外型の突き合わせ部となる内周角部を配置し、該内周角部をR状又はテーパ状に面取りすることにより、前記成形工程及び前記加熱硬化工程において、前記芯型及び前記外型の間で行き場を失った前記プリプレグシートの余剰部分を吸収する逃げ空間を設けることを特徴とする炭素繊維強化樹脂部材の製造方法。
【請求項2】
炭素繊維を含むプリプレグシートを芯型の外周面に所定枚数積層するプリプレグシート積層工程と、
前記積層されたプリプレグシートの外周面に所定の内面形状を有する、複数に分割された外型を押し付けて所定形状に成形する成形工程と、
前記芯型及び前記外型で挟持した状態で前記積層されたプリプレグシートを加熱硬化する加熱硬化工程とを含む炭素繊維強化樹脂部材の製造方法において、
前記芯型として、その熱膨張率が、前記炭素繊維強化樹脂部材の熱膨張率よりも大きいものを用い
前記複数の外型で構成される内周面の、前記炭素繊維強化樹脂部材の寸法精度が求められる面から外れた位置に、前記成形工程及び前記加熱硬化工程において、前記芯型及び前記外型の間で行き場を失った前記プリプレグシートの余剰部分を吸収する逃げ空間を設けることを特徴とする炭素繊維強化樹脂部材の製造方法。
【請求項3】
炭素繊維を含むプリプレグシートを芯型の外周面に所定枚数積層するプリプレグシート積層工程と、
前記積層されたプリプレグシートの外周面に所定の内面形状を有する、複数に分割された外型を押し付けて所定形状に成形する成形工程と、
前記芯型及び前記外型で挟持した状態で前記積層されたプリプレグシートを加熱硬化する加熱硬化工程とを含む炭素繊維強化樹脂部材の製造方法において、
前記外型として、その熱膨張率、前記芯型の熱膨張率よりも小さいものを用い
前記複数の外型で構成される内周面の、前記炭素繊維強化樹脂部材の寸法精度が求められる面から外れた位置に、前記成形工程及び前記加熱硬化工程において、前記芯型及び前記外型の間で行き場を失った前記プリプレグシートの余剰部分を吸収する逃げ空間を設けることを特徴とする炭素繊維強化樹脂部材の製造方法。
【請求項4】
炭素繊維を含むプリプレグシートを芯型の外周面に所定枚数積層するプリプレグシート積層工程と、
前記積層されたプリプレグシートの外周面に所定の内面形状を有する、複数に分割された外型を押し付けて所定形状に成形する成形工程と、
前記芯型及び前記外型で挟持した状態で前記積層されたプリプレグシートを加熱硬化する加熱硬化工程とを含む炭素繊維強化樹脂部材の製造方法において、
前記芯型は、円筒又は円柱状をなし、前記外型は、内面が周方向に等角度で4分割された円弧状曲面をなす、4つのブロックからなり、前記外型の4つのブロックの突き合わせ部となる内周角部を、R状又はテーパ状に面取りした形状をなすものとして、前記成形工程及び前記加熱硬化工程において、前記芯型及び前記外型の間で行き場を失った前記プリプレグシートの余剰部分を吸収する逃げ空間を設けることを特徴とする炭素繊維強化樹脂部材の製造方法。
【請求項5】
炭素繊維を含むプリプレグシートを芯型の外周面に所定枚数積層するプリプレグシート積層工程と、
前記積層されたプリプレグシートの外周面に所定の内面形状を有する、複数に分割された外型を押し付けて所定形状に成形する成形工程と、
前記芯型及び前記外型で挟持した状態で前記積層されたプリプレグシートを加熱硬化する加熱硬化工程とを含む炭素繊維強化樹脂部材の製造方法において、
前記芯型は、角部をR状又はテーパ状に面取りされた角筒又は角柱状をなし、前記外型は、前記角筒又は角柱状の、端面側から見て各辺に相当する面をそれぞれ覆う複数のブロックで構成され、前記外型の各ブロックの突き合わせ部となる内周角部を、R状又はテーパ状に面取りした形状をなすものとして、前記成形工程及び前記加熱硬化工程において、前記芯型及び前記外型の間で行き場を失った前記プリプレグシートの余剰部分を吸収する逃げ空間を設けることを特徴とする炭素繊維強化樹脂部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の方向における寸法精度が要求される分野に使用される炭素繊維強化樹脂部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化樹脂は、軽量で高強度の特性を有しているので、例えば航空機の胴体、ロボットハンドなど、様々な分野で使用されている。
【0003】
このような炭素繊維強化樹脂からなる部材を成形する技術について開示された文献として、例えば下記特許文献1には、プリプレグを積層した円筒形状の積層体を硬化させる際に使用する成形型であって、前記積層体の内側に位置する円筒形状の芯型と、前記積層体の外側に位置し、複数の部分表面型からなる表面型と、を備え、前記各部分表面型は、前記積層体の周方向に並んで外周面全体を円筒を形成するようにして覆うとともに、前記円筒の周方向を繊維方向とする繊維の量と前記円筒の軸方向を繊維方向とする繊維の量が異なる繊維強化樹脂によって形成されており、前記各部分表面型は、前記円筒の軸方向に比べて前記円筒の周方向における熱膨張率が前記芯型の熱膨張率に近くなるように構成されている、成形型が開示されている。
【0004】
また、下記特許文献2には、産業用ロボットのアーム部に取り付けられるロボットハンド部材を製造する方法において、所定温度以下では加熱非変形性を有する材料を用いて所定の断面形状とされた芯材の外周面に、強化繊維を含むプリプレグシートを巻き付けるステップと、上記巻き付けられたプリプレグシートの外周面に所定の内面形状を有する外型を押し付けて上記プリプレグシートの外面形状を所定寸法に成形するステップと、上記成形されたプリプレグシートを所定温度に加熱し熱硬化させて繊維強化複合材料とするステップと、上記繊維強化複合材料とされた部材から芯材を抜き取り中空構造とするステップと、を順次行うことを特徴とするロボットハンド部材の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5698526号公報
【0006】
【特許文献2】特開2002−292591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、芯型に炭素繊維複合材料のプリプレグシートを積層して、その外側を複数の外型で押圧しつつ加熱硬化させる際に、プリプレグシートに皺が寄って、成形品の表面に不定形な皺が形成されるという問題があった。
【0008】
炭素繊維強化樹脂を用いて、例えば工作機械等の部品を製作しようとした場合には、所定方向における寸法精度が高く要求されるので、表面に不定形な皺が形成されると、その後に切削加工などが必要となるだけでなく、切削加工によって強度が低下してしまうという問題があった。
【0009】
したがって、本発明の目的は、その部材に必要とされる方向における寸法精度が十分に得られるようにした炭素繊維強化樹脂部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、炭素繊維を含むプリプレグシートを芯型の外周面に所定枚数積層するプリプレグシート積層工程と、前記積層されたプリプレグシートの外周面に所定の内面形状を有する、複数に分割された外型を押し付けて所定形状に成形する成形工程と、前記芯型及び前記外型で挟持した状態で前記積層されたプリプレグシートを加熱硬化する加熱硬化工程とを含む炭素繊維強化樹脂部材の製造方法において、前記複数の外型で構成される内周面の、前記炭素繊維強化樹脂部材の寸法精度が求められる面から外れた位置に、前記成形工程及び前記加熱硬化工程において、前記芯型及び前記外型の間で行き場を失った前記プリプレグシートの余剰部分を吸収する逃げ空間を設けることを特徴とする炭素繊維強化樹脂部材の製造方法を提供するものである。
【0011】
本発明によれば、成型工程及び加熱硬化工程において、芯型及び外型の間で行き場を失ったプリプレグシートの余剰部分が、逃げ空間に流入することによって、寸法精度が求められる面に、プリプレグシートの皺が発生することを抑制できる。それによって、成形硬化させた後に、寸法精度を出すための研磨加工などの必要性を低減することができ、製造作業性を良好にすると共に、製造コストを低減することができる。
【0012】
本発明の好ましい態様によれば、前記複数の外型の突き合わせ部となる内周角部を、R状又はテーパ状に面取りすることにより、前記逃げ空間を形成する。この態様によれば、成型工程及び加熱硬化工程において、芯型及び外型の間で行き場を失ったプリプレグシートの余剰部分が、複数の外型の突き合わせ部となる内周角部に設けられた逃げ空間に流入するので、それぞれの外型で押さえられる面、すなわち寸法精度が求められる面に皺が発生することを抑制することができる。
【0013】
本発明においては、前記芯型の熱膨張率は、前記炭素繊維強化樹脂部材の熱膨張率よりも大きいものを用いることが好ましい。この態様によれば、加熱硬化工程の後、温度が低下すると、芯型の方が、成形硬化された炭素繊維強化樹脂部材よりも大きく縮まるので、芯型を抜き出しやすくすることができる。
【0014】
本発明においては、前記外型の熱膨張率は、前記芯型の熱膨張率よりも小さいものを用いることが好ましい。この態様によれば、芯型と外型との間で、プリプレグシートの積層体を効果的に押圧することができると共に、成形される炭素繊維強化樹脂部材の外径の寸法精度を高めやすくなる。
【0015】
本発明の1つの好ましい態様においては、前記芯型は、円筒又は円柱状をなし、前記外型は、内面が周方向に等角度で4分割された円弧状曲面をなす、4つのブロックからなり、前記外型の4つのブロックの突き合わせ部となる内周角部を、R状又はテーパ状に面取りした形状をなす。この態様によれば、成型工程及び加熱硬化工程において、プリプレグシートの皺が寄せられてなるリブ状の突起が、外周面の周方向4箇所に、軸方向に沿って形成された、円筒状の炭素繊維強化樹脂部材を得ることができる。円筒状の炭素繊維強化樹脂部材は、外周面のリブ状の突起が形成された部分以外には皺の発生がなく、寸法精度の高い円筒状をなしている。
【0016】
本発明の別の好ましい態様においては、前記芯型は、角部をR状又はテーパ状に面取りされた角筒又は角柱状をなし、前記外型は、前記角筒又は角柱状の、端面側から見て各辺に相当する面をそれぞれ覆う複数のブロックで構成され、前記外型の各ブロックの突き合わせ部となる内周角部を、R状又はテーパ状に面取りした形状をなす。この態様によれば、成型工程及び加熱硬化工程において、プリプレグシートの皺が寄せられてなるリブ状の突起が各辺の角部に沿って形成された、角筒状の炭素繊維強化樹脂部材を得ることができる。この炭素繊維強化樹脂部材は、上記角部を除く、端面側から見て各辺に相当する面に皺の発生がなく、寸法精度の高い角筒状をなしている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、成型工程及び加熱硬化工程において、芯型及び外型の間で行き場を失ったプリプレグシートの余剰部分が、逃げ空間に流入することによって、寸法精度が求められる面に、プリプレグシートの皺が発生することを抑制できる。それによって、成形硬化させた後に、寸法精度を出すための研磨加工などの必要性を低減することができ、製造作業性を良好にすると共に、製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の炭素繊維強化樹脂部材の製造方法を実施するための成形型の一例を示す分解斜視図である。
図2】同成形型を用いて、プリプレグシートの積層体を押圧する状態を示す端面図である。
図3】同成形型を用いて製造された炭素繊維強化樹脂部材を示す斜視図である。
図4】本発明の炭素繊維強化樹脂部材の製造方法を実施するための成形型の他の例を示す分解斜視図である。
図5】同成形型を用いて、プリプレグシートの積層体を押圧する状態を示す端面図である。
図6】同成形型を用いて製造された炭素繊維強化樹脂部材を示す斜視図である。
図7】逃げ空間を有さない成形型を用いて、炭素繊維強化樹脂部材を製造した一例を示す写真である。
図8】逃げ空間を有する本発明の成形型を用いて、炭素繊維強化樹脂部材を製造した一例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の炭素繊維強化樹脂部材の製造方法の実施形態を説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0020】
本発明において、炭素繊維を含むプリプレグシートとしては、炭素繊維を所定方向に配列した基材シートに、熱硬化性樹脂を含浸させたシートが好ましく用いられる。
炭素繊維としては、繊維径が好ましくは3〜15μm、より好ましくは5〜10μmの長繊維が好ましく用いられる。炭素繊維の基材シートは、炭素繊維を同方向に引き揃えて配列したものであってもよく、炭素繊維を編み込んだ織布であってもよく、炭素繊維の方向を変えて堆積したものでもあってもよい。
【0021】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、グアナミン樹脂、また、ビスマレイド・トリアジン樹脂等のポリイミド樹脂、フラン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリジアリルフタレート樹脂、さらにメラミン樹脂やユリア樹脂やアミノ樹脂等が挙げられる。
【0022】
中でも、成形時の熱収縮を抑える観点から、エポキシ樹脂が好ましく使用される。エポキシ樹脂の主剤としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂が好ましく用いられる。一方、硬化剤としては、ジシアンジアミドにジクロロフェニルジメチル尿素を組み合わせた硬化剤系が作業性、物性等のバランスに優れている点で好適に使用される。
【0023】
プリプレグシートの厚さは、特に限定されないが、通常0.05〜0.4mmが好ましく、0.1〜0.2mmがより好ましい。炭素繊維強化樹脂部材を製造する際のプリプレグシートの積層枚数も、特に限定されないが、通常2〜200枚が好ましく、4〜100枚がより好ましい。
【0024】
プリプレグシート中の炭素繊維の含有量は、20〜80質量%が好ましく、40〜70質量%がより好ましい。炭素繊維の含有量が高すぎると、成形時の柔軟性が十分に得られず、表面に繊維が浮き出してくる可能性があり、炭素繊維の含有量が低すぎると、所望とする強度が得られにくくなる。
【0025】
本発明において、芯型、外型の材質は、特に限定されないが、成形工程及び加熱硬化工程における強度と耐熱性とを有するものであればよく、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金等からなる金属、石膏、セラミックス、耐熱性の樹脂などが挙げられる。
【0026】
この場合、芯型の材質としては、炭素繊維強化樹脂部材の熱膨張率よりも大きいものが好ましく用いられ、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金などが好ましく採用される。芯型の材質として、熱膨張率が、炭素繊維強化樹脂部材の熱膨張率よりも大きいものを用いることにより、加熱硬化時には積層されたプリプレグシートに対する押圧力を高めることができると共に、加熱硬化終了して冷却した際には、成形された炭素繊維強化樹脂部材よりも大きく縮んで離型しやすくすることができる。
【0027】
また、外型の材質としては、熱膨張率が、芯型の熱膨張率よりも小さいものを用いることが好ましく、例えば、石膏などが好ましく採用される。外型の材質としては、熱膨張率が、芯型の熱膨張率よりも小さいものを用いることにより、加熱硬化の際に、内型と外型との間で、プリプレグシートの積層体が効果的に押圧されると共に、成形される炭素繊維強化樹脂部材の外径の寸法精度を高めやすくなる。
【0028】
本発明の炭素繊維強化樹脂部材の製造方法は、炭素繊維を含むプリプレグシートを芯型の外周面に所定枚数積層するプリプレグシート積層工程と、前記積層されたプリプレグシートの外周面に所定の内面形状を有する、複数に分割された外型を押し付けて所定形状に成形する成形工程と、前記芯型及び前記外型で挟持した状態で前記積層されたプリプレグシートを加熱硬化する加熱硬化工程とを含んでいる。
【0029】
成形工程において、外型と内型との間で、積層されたプリプレグシートを押圧する際の押圧力は、常法に従って適宜設定すればよいが、通常は、100〜600kPaが好ましく、200〜400kPaがより好ましい。
【0030】
加熱硬化工程における加熱温度も、採用する熱硬化性樹脂に応じて適宜定めればよいが、例えば、エポキシ樹脂を用いる場合には、100〜160℃が好ましく、120〜140℃がより好ましい。加熱硬化時間も、特に限定されないが、通常30分〜10時間分が好ましく、2時間〜7時間がより好ましい。
【0031】
なお、内型及び外型の内面には、離型剤を塗布したり、離型シートを介在させたりして、成形後の脱型がしやすくすることが好ましい。離型剤や離型シートとしては、一般に市販されているものを使用することができる。
【0032】
本発明の最大の特徴は、複数の外型で構成される内周面の、炭素繊維強化樹脂部材の寸法精度が求められる面から外れた位置に、成形工程及び加熱硬化工程において、芯型及び外型の間で行き場を失ったプリプレグシートの余剰部分を吸収する逃げ空間を設けることにある。以下、その具体的態様について、図面を参照して説明する。
【0033】
図1には、本発明の炭素繊維強化樹脂部材の製造方法を実施するための成形型の一例が示されている。この成形型100は、芯型101と、外型106とを有している。芯型101は、この実施形態の場合、円柱状をなし、熱膨張率が、炭素繊維強化樹脂部材の熱膨張率よりも大きい材質が好ましく用いられ、例えばアルミニウム等で形成されている。
【0034】
外型106は、4つの分割型102,103,104,105で構成されており、それらの内周面によって、芯型101を囲む円筒状内周面を構成するようになっている。4つの分割型102,103,104,105で形成される円筒状内周面の内径は、芯型101の外径よりも大きくなっており、それらの間に後述するプリプレグ積層体110を挟持できるようになっている。外型106は、熱膨張率が、芯型101の熱膨張率よりも小さい材質が好ましく用いられ、例えば石膏等で形成されている。
【0035】
図2を併せて参照すると、4つの分割型102,103,104,105の突き合わせ部の内周角部には、テーパ状又はR状の面取り部107が形成されている。そして、芯型101の外周に積層されたプリプレグ積層体110の外側に4つの分割型102,103,104,105を配置して、それらを付き合わせたとき、面取り部107によって、突き合わせ部の内周角部に逃げ空間108が形成されるようになっている。
【0036】
プリプレグ積層体110は、前述した炭素繊維を含むプリプレグシートを、芯型101の外周に複数枚積層することによって形成される(積層工程)。この場合、炭素繊維を同方向に引き揃えて配列した基材シートを用いたプリプレグシートにおいては、炭素繊維の方向を少しずつ変えながら積層することによって、方向による強度のばらつきを抑制することができる。また、用途に応じて、所定方向の強度を特に高めたい場合には、その方向に炭素繊維が多く配向するように、プリプレグシートの積層方向を調整することもできる。
【0037】
また、炭素繊維を編み込んだ織布を基材シートとして用いたプリプレグシートにおいては、炭素繊維の方向を変えながら積層する必要性は必ずしもないが、用途によっては、織布を製造する際の、縦糸に対する横糸の比率などを変えることによって、所望の方向により多く炭素繊維が配列されるようにして、所望の方向の強度を高めることができる。
【0038】
そして、プリプレグ積層体110の外周に4つの分割型102,103,104,105からなる外型106を配置して、芯型101と外型106とでプリプレグ積層体110を押圧して型締めすることにより、プリプレグ積層体110を円筒形状に成形する(成形工程)。
【0039】
更に、その状態で、全体をオートクレーブ等に入れて加熱することにより、エポキシ樹脂等からなる熱硬化性樹脂を硬化させる(加熱硬化工程)。
上記成形工程及び加熱硬化工程において、押圧されたプリプレグ積層体110の余剰部分が行き場を失ってしわになるところ、本発明においては、4つの分割型102,103,104,105の突き合わせ部の内周角部に逃げ空間108が形成されるので、プリプレグ積層体110の余剰部分が逃げ空間108に吸収されて、その他に部分に皺が生じることが抑制される。
【0040】
そして、熱硬化性樹脂が十分に硬化した後、冷却して、芯型101を引き抜くと共に、外型106の4つの分割型102,103,104,105を取り外して、成形された炭素繊維強化樹脂部材を得ることができる。この場合、芯型101の材質として、熱膨張率が、炭素繊維強化樹脂部材の熱膨張率よりも大きいものを用いることにより、芯型101が、成形された炭素繊維強化樹脂部材よりも大きく縮んで離型しやすくすることができる。
【0041】
こうして得られた炭素繊維強化樹脂部材111は、図3に示すように、全体として円筒状をなし、円筒面112の周方向4箇所に軸方向に沿ったリブ113が形成された形状をなす。円筒面112のリブ113以外の部分は、皺の発生がなく、寸法精度の高い面となっている。このため、工作機械などの部品として用いる際には、円筒面112のリブ113以外の部分を保持面として組み込むことにより、所定の位置に正確に炭素繊維強化樹脂部材111を配置することができる。
【0042】
図4には、本発明の炭素繊維強化樹脂部材の製造方法を実施するための成形型の一例が示されている。この成形型200は、目的とする成形品の形状を円筒から、角部がR状に面取りされた角筒にしただけで、基本的な構成は前記実施形態と同様なので、同様な部分には100桁の数字を2に変えただけで、10桁、1桁の数字を共通化して表すことにより、その説明を簡略化することにする。
【0043】
すなわち、この成形型200は、角部がR状に面取りされた角筒状をなす芯型201と、その外周に配置される4つの分割型202,203,204,205からなる外型206とで構成されている。4つの分割型202,203,204,205は、芯型201の平面部に対応して設けられており、それらの突き合わせ部が芯型201のR状に面取りされた角部を囲む部分となっている。4つの分割型202,203,204,205を突き合わせたときの内周面の内径は、芯型201の外径よりも大きくなっており、それらの間にプリプレグ積層体210が挟持されるようになっている。
【0044】
図5を併せて参照すると、4つの分割型202,203,204,205の突き合わせ部の内周角部には、テーパ状又はR状の面取り部207が形成されており、同内周角部を突き合わせたときに、逃げ空間208が形成されるようになっている。
【0045】
この成形型200を用いた炭素繊維強化樹脂部材の製造方法は、前記実施形態と同様なので、その説明を省略するが、前記実施例と同様に、成形工程及び加熱硬化工程において、プリプレグ積層体210の余剰部分が逃げ空間208に吸収されるため、その他の部分に皺が生じることが抑制される。
【0046】
こうして得られた炭素繊維強化樹脂部材211は、図6に示すように、4つの平面部212と、それらの間に設けられたR状の角部に、軸方向に沿って形成された4つのリブ213とを有している。リブ213は、プリプレグ積層体210の余剰部分が逃げ空間208に吸収されることによって形成されたものであり、それによって平面部212には皺の発生がなく、寸法精度の高い面となっている。このため、工作機械などの部品として用いる際には、平面部212を保持面として組み込むことにより、所定の位置に正確に炭素繊維強化樹脂部材211を配置することができる。
【0047】
なお、本発明の製造方法で用いる成形型は、上記実施形態に限らず、目的とする炭素繊維強化樹脂部材の形状に応じて、適宜変更することができる。また、逃げ空間の形成方法は、上記実施形態に示されるような、分割型の突き合わせ部の内周角部に設けた面取り部による方法に限らず、外型の内周面に皺が入り込む溝を形成しておくというような方法を採用することもできる。
【実施例】
【0048】
図1に示す成形型100を用いて、プリプレグ積層体110を成形し、加熱硬化することにより、炭素繊維強化樹脂部材111を形成した。芯型101としては、外径10.4cmのアルミ円筒部材を用いた。外型106としては、石膏でできた4つの分割型102,103,104,105を用いた。4つの分割型102,103,104,105を突き合わせてできる円筒状の内周の内径は、11.9cmである。
【0049】
炭素繊維を所定方向に引き揃えて配列した基材にエポキシ樹脂を含浸させ、炭素繊維含有率を60質量%とした、厚さ0.15mmのプリプレグシート(商品名「ダイヤリード」、三菱レーヨン株式会社製)を、炭素繊維の方向を少しずつ変えながら、芯型101の外周に48枚積層して、プリプレグ積層体110を形成した。
【0050】
図2に示すように、このプリプレグ積層体110の外周に、4つの分割型102,103,104,105を配置して、芯型101に向けて押圧するように型締めして、プリプレグ積層体110を芯型101と外型106とで挟圧して、プリプレグ積層体110を円筒状に成形した。なお、芯型101の外周面と外型106の内周面には、予め離型剤を塗布しておいた。
【0051】
次いで、全体をオートクレーブに入れ、約130℃で約300分間加熱することにより、エポキシ樹脂を硬化させた。その後、冷却して、芯型101を引き抜き、外型106を取り外して、図3に示した形状の炭素繊維強化樹脂部材111を得た。
【0052】
この炭素繊維強化樹脂部材111の写真を図7に示す。図7に示すように、この炭素繊維強化樹脂部材111は、リブ113以外の円筒面112の面には皺の発生がなく、外周面が滑らかな円筒状をなしていた。
【0053】
一方、図1に示す成形型100において、4つの分割型102,103,104,105の突き合わせ部の内周角部に面取り部107及び逃げ空間108を設けないものを用い、他は、上記と同様にして、円筒状の炭素繊維強化樹脂部材を製造した。
【0054】
こうして得られた炭素繊維強化樹脂部材の写真を図8に示す。図8に示すように、この炭素繊維強化樹脂部材は、表面に不定形な皺が発生しており、寸法精度が要求される部材としては、このままでは使用できないものであった。
【符号の説明】
【0055】
100 成形型
101 芯型
102,103,104,105 分割型
106 外型
107 面取り部
108 逃げ空間
110 プリプレグ積層体
111 炭素繊維強化樹脂部材
112 円筒面
113 リブ
200 成形型
201 芯型
202,203,204,205 分割型
206 外型
207 面取り部
208 逃げ空間
210 プリプレグ積層体
211 炭素繊維強化樹脂部材
212 平面部
213 リブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8