(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
負荷抵抗値の変動を抑制することは、無線電力伝送や高周波DC-DC電力変換、アウトフェージング電力増幅器など、高周波電力を扱う殆どすべての産業応用において重要である。また、高周波帯の電力回路ではコンポーネント同士のインピーダンス整合が重要である。負荷変動は、インピーダンス整合の問題を複雑にする要因の一つであると考えられている。
【0003】
抵抗値が連動して変化する負荷が接続された場合に、負荷抵抗値の変動による入力抵抗値の変動が抑制できる高周波帯で用いる電力分配回路は、非特許文献1で初めて提案された。非特許文献1および非特許文献2などでは、マイクロ波を用いる無線電力伝送において、インピーダンス変動の対策として、resistance compression network(以下、「RCN」ということがある。)を用いる方法が記述されている。
【0004】
さらに、非特許文献1および非特許文献2に記載されている高周波電力分配回路では、ともに、抵抗値の変動率をxとしたときの、入力抵抗の変動率をf(x)とすると、f(x)={(1+x
2)/2x}
1/2に抑制できることが知られている。
【0005】
非特許文献1および非特許文献2における前記電力分配回路は、2分配を実現する構成となっている。3分配以上を実現する電力分配回路を構成するには、2分配回路を再帰的に用いて、4分配回路を構成できることが分かっている。つまり、2のべき数で表される分配数をもつ電力分配回路が構成できる。また、分配数が多いほど、入力抵抗値の変動が抑制されることがわかっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した先行技術に基づいた電力分配回路の課題は、実現できる分配数が2のべき数に限られることである。この結果、例えば、分配数が9で十分な用途においても、16(つまり、2の4乗)の分配数を有する電力分配回路を使用する必要がある。つまり、七つもの冗長な負荷を用意する必要があることを意味しており、直ちに回路の複雑化や製造コストの増加あるいは、材料コスト増大をまねくことになる。
【0008】
本発明は、前記先行技術の課題を克服するために成されたものであり、解決しようとする課題は、任意の分配数を持つ高周波電力分配回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明係る第1の高周波電力分配回路は、
高周波電源から直流負荷に対し高周波電力を供給するための高周波電力分配回路であって、
該高周波電源の入力周波数に対し位相がπ/4だけ遅延が生じる電気長を有する伝送線路を備え、
入力端子より前記伝送線路を分配に必要な数だけ直列に接続し、該伝送線路の出力端子に直流負荷を並列に接続してなることを特徴とする。
【0010】
本発明係る第2の高周波電力分配回路は、
高周波電源から直流負荷に対し高周波電力を供給するための高周波電力分配回路であって、
本発明に係る第1の高周波電力分配回路を一つの電力分配器として備え、
入力端子より一つのキャパシタおよび一つのインダクタが並列に接続され、
該キャパシタおよびインダクタの出力端子それぞれに、各一つの前記電力分配器が接続されてなることを特徴とする。
【0011】
本発明係る第3の高周波電力分配回路は、
高周波電源から直流負荷に対し高周波電力を供給するための高周波電力分配回路であって、
設計された特性インピーダンスを有する伝送線路と、
請求項1に記載の高周波電力分配回路を一つの電力分配器として備え、
入力端子より前記伝送線路がカスケード接続され、
該伝送線路の各接続点に前記電力分配器がそれぞれ接続されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る高周波電力分配回路により、簡素な構造で、任意の数の負荷抵抗に対し、要求される変動率に抑えて電力を分配できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を実施するための形態について、図および表等を参照しながら説明する。
【0015】
本発明に係る高周波電力分配回路の基本となる構成を
図1に示す。該電力分配回路の分配数を自然数Nとした場合、特性インピーダンスがそれぞれZ
1,Z
2,…,Z
NであるようなN本の伝送線路を順次、カスケード接続し、1からN-1本の伝送線路との各接続点およびN本目に接続された伝送線路の端点を出力端子とする。
【0016】
また、各線路の電気的な長さは、それぞれ、入力される高周波電圧の周波数において位相が90°遅れる長さとする。
【0017】
各線路の特性インピーダンスZ
1,Z
2,…,Z
Nは、以下のように決定される。
【0018】
<RCNの設計手順>
resistance compression network(RCN)の設計手順について説明する。本設計手順に使用するパラメータは、
1.負荷抵抗値Rloadの変動範囲[最小値Rmin,最大値Rmax]
2.入力抵抗値Rinの目標値Rcenter
3.RCNの分配数n
である。入力抵抗値Rinがどれだけの変動率を持つかは、変動範囲の最小値Rmin、変動範囲の最大値Rmax、分配数nから求められる。
【0019】
一方、前記変動範囲の最小値、最大値および分配数を与えることで、本発明に係る高周波電力分配回路(
図1)における各伝送線路の特性インピーダンスZ
1,Z
2,・・・,Z
nを求めることができる。
【0020】
<パラメータの正規化>
まず、負荷抵抗値Rload、入力抵抗値Rinを正規化し、取りうる値の中心が1になるようにする。以下で説明する伝達関数を正規化するために、パラメータxおよびyを導入し、次の数式のとおりに、
【0022】
また、パラメータxおよびyの変動率を、それぞれδ、εとする。パラメータxが1/δからδまで変動するときに、パラメータyが1/εからεまで変動するように、パラメータxの変動率δ、パラメータyの変動率εを求める。このとき、前記数1の定義より
【0024】
<伝達関数の係数>
分配数nのRCNについて、パラメータxとパラメータyとの関係は
【0025】
【数3】
と表すことができるので、数3の係数を前記パラメータxの変動率δにより決定する。
【0026】
(1)分配数nが2のとき
このときパラメータyは、
【0032】
パラメータxの変動率δが十分大きい場合は
【0034】
(2)分配数nが3のとき
このときパラメータyは
【0039】
【数10】
となる。この場合もパラメータxの変動率δが十分大きければ
【0041】
(3)分配数nが3より大きな素数のとき
分配数nが3より大きな素数の場合は、数3の係数をパラメータxの変動率δの関数として解析的に表すことができないので、数値シミュレーション、あるいは近似計算によって求める。幾つかの分配数nについて、パラメータxの変動率δから係数を求め、結果を表1および2に示す。
【0044】
(4)分配数nが合成数のとき
分配数nが合成数の場合は、数3の伝達関数を合成することで、所望の分配数の伝達関数を求めることができる。
【0045】
例えば、分配数nが6(つまり2×3)の場合に、パラメータxの変動率δに対する伝達関数を求めるときは、まず、パラメータxの変動率δに対する2分割の伝達関数f
2(x)とf
2(x)の変動率ε´を求める。その後、変動率ε´=δ´として、δ´に対する3分割の伝達関数f
3(x)を求め、これを合成する。つまり、次の数12のように求められる。
【0047】
<パラメータの再置き換え>
正規化されたパラメータxおよびyに対する伝達関数が求められたら、つぎに、数1を用いて負荷抵抗値Rloadと入力抵抗値Rinとの関係を表す数3に代入する。結果、入力抵抗値Rinは負荷抵抗値Rloadの有理関数として表される。この時の負荷抵抗値Rloadのk乗(k=0,1,2,・・・,n)の係数を、あらためてA
kとおくと、入力抵抗値は、
【0049】
<特性インピーダンスへの変換>
最後に、係数列{A
k}
nk=0を特性インピーダンスの列{Z
k}
nk=1に変換する。該変換には次の漸化式(数14)で定義される2重数列を用いる。
【0050】
【数14】
特性インピーダンスの列{Z
k}
nk=1は、数14の数列を用いて
【0052】
次に、入力抵抗値に関する数13の導出について説明する。
【0053】
<線形多ポート回路網の数理>
本発明に係るRCNは少なくとも三つのポートを備えた線形多ポート回路網であり、インピーダンスを変化させる要因は、周波数ではなく負荷インピーダンスRloadの変動である。
ここでは、RCNを含む一般の線形なN分岐の電力分配回路について、入力インピーダンスZinをN個の負荷インピーダンスZ
n(n=1,2,3,・・・,N)の関数と見た時の回路の振る舞い
【0055】
前述の通り、従来の回路理論の主な関心はZinを周波数ωの関数として見たときの振る舞い
【0056】
【数17】
であった。ωを複素周波数と考えれば、線形2ポート回路網によるインピーダンス変換
【0057】
【数18】
も、数17と似ているが、数17および18の両者には決定的な違いがあり、それは、数17にはあらゆる複素面上の有理型関数が許されるのに対し、数18は、複素定数a、b、c、dを用いて
【0058】
【数19】
の形に表される関数に限られる点である。数19は、ad−bc≠0の条件の下で一次分数変換と呼ばれる。実際、ad−bc=0とすると、関数f(Z
1)は不定形(0/0)、定数関数、あるいは常に∞となる。いずれも、数18に許される関数のクラスは、数17に許されるクラスに対して圧倒的に小さく、結果として、数16の関数の振る舞いは、高々有限個の複素定数を用いて完全に記述できる。以下ではこのことを説明する。
いま、数16の引数のうち1つを選び、それ以外を固定する。k番目の引数を選んだとすれば、数16は線形2ポート回路網によるインピーダンス変換であるから、Z
k以外によって定まるa
k、b
k、c
k、d
kにより
【0059】
【数20】
の形に記述できなければならない。これが全てのk=1,2,・・・,Nについて成り立つから、数16はZkの高々1次の項からなる多項式を用いて、それらの商で表すことができ、次の数式となる。
【0061】
<RCNによるインピーダンス変換>
上述したように、RCNを含む線形多ポート回路網によるインピーダンス変換が数21の形に書けることを説明した。ここでは、数21にRCN特有の条件を課すことで、RCNに関する関数形について説明する。
【0062】
RCNを用いる際の条件として、
図2にも示したように、各出力ポートに繋がれた全ての負荷抵抗値が連動して動くことが挙げられる。まずはこれを数21に反映すれば、Zinは
【0063】
【数22】
と表される。あるいは、数22の極と零点を用いて
【0064】
【数23】
と表すこともできる。ただしpおよびqはそれぞれ数22の分母、分子の次数である。数23が不定形になることを防ぐために、AqおよびBpの少なくとも一方は0でないと仮定してよい。
次に、RCNに要求される特性として次の2条件を課す。それは
・Rloadが純抵抗であればZinもまた純抵抗になること
・無損失であること
である。これらの条件は、RCNの実用に即した条件であり、1つ目の条件はRCNが文字通り“resistance”を圧縮する回路であることから、2つ目の条件は電力分配回路として損失が許されないからである。
【0065】
では1つ目の条件である「Rloadが純抵抗であればZinも純抵抗」を満たす場合を考えてみる。この時、条件より任意の実数Rについて
【0066】
【数24】
となる。ここで上線は複素共役を表す。数24より、両者の零点はそれぞれ
【0067】
【数25】
である。関数f(R)と該f(R)の複素共役関数は等しいから、これらは集合として一致する。ここで、数25の集合のk次基本対称式s
k(k=1,2,・・・,q)を考えると、これは2通りの表示を持ち、例えばs
1について
【0068】
【数26】
となる。これはs
kが実数であることを意味する。ところで、数22および23を比べることで、数22の分子の係数はs
kを用いて
【0069】
【数27】
と表される。よってA
k/A
qは実数である。
【0071】
【数28】
となる。これのk次基本対称式をt
kとすればt
kもまた実数であり、
【0072】
【数29】
となる。関数f(R)および該f(R)の複素共役関数の極と零点が一致することから、数23より、Aq/Bpが実数であると言えるので、数27、29、30をまとめて次の結論(条件式)を得る。
【0074】
次に、上記2条件のうち「無損失である」場合を考える。この条件は「Rloadが純リアクタンスならばZinも純リアクタンスである」と表現できる。再び任意の実数をRと置けば、
【0075】
【数31】
となる。数31の左辺関数および右辺関数の(jRの関数としての)極と零点はそれぞれ
【0077】
【数33】
を満たす。負号により、これらの基本対称式s
kおよびt
kは次数によって性質が異なり、奇数次であれば実数、偶数次であれば純虚数になる。また、A
q/B
pについては純虚数であることが言える。対称式と係数の関係式である数27、29はそのままであるから、最終的に次の結論(条件式)を得る。
【0079】
幾何学的な表現であれば、「A
0,B
1,A
2,・・・,A
N(またはB
N)とB
0,A
1,B
2,・・・,B
N(またはA
N)が直交する」となる。
【0080】
これで上記2条件による係数への制約が明らかになった。実際には2つの制約を同時に満たす場合が2通りある。1つ目はA
0,B
1,A
2,・・・,A
N(またはB
N)が全て0の場合、2つ目はB
0,A
1,B
2,・・・,B
N(またはA
N)が全て0の場合である。前者の場合、RCNの関数形は
【0083】
【数36】
となる。ここでは簡単のため、奇数のNを仮定したが、Nが偶数のときの関数形も同様にして導ける。
【0084】
つまり、結論として、数35について、
【0085】
【数37】
のようにR
2loadの多項式を作られることを利用して次の結論を得る。
【0086】
RCNのインピーダンス変換関数Zin=f(Rload)の極、及び零点はすべて虚軸上にあり、かつ実軸対称である。
【0087】
以下に、上述した設計手順により求めた本発明に係る高周波電力分配回路の実施例を示す。とくに回路構成と共にシミュレーション解析結果を示す。
【実施例1】
【0088】
本発明に係る実施例1として、分配数3の高周波電力分配回路を
図3に示す。また、
図3の構成において負荷抵抗値R
loadが変動したときの入力抵抗値R
inの振る舞いを
図4に示す。
図4において、負荷抵抗値R
loadが1Ωから100Ωまで変動したとき、入力抵抗値R
inは約71Ωから約141Ωまで変動する。このとき、負荷抵抗値の変動率が10(すなわち100Ω/1Ωの平方根)なのに対して、入力抵抗値の変動率は1.4(141Ω/71Ωの平方根) に抑えられる。
【実施例2】
【0089】
本発明に係る実施例2として、分配数6の高周波電力分配回路を
図5に示す。この実施例による負荷抵抗値R
load-入力抵抗値R
in特性は
図6のようになり、負荷抵抗値R
loadが1Ωから100Ωまで変動したとき、入力抵抗値R
inは100Ωから約106Ωまでしか変動しないことがわかる。
【実施例3】
【0090】
本発明に係る実施例3として、トーナメント式に構成した、分配数9の高周波電力分配回路を
図7に示す。本実施例による負荷抵抗値R
load-入力抵抗値R
in特性は
図8のようになり、負荷抵抗値R
loadが1Ωから100Ωまで変動したとき、入力抵抗値R
inは約99.8Ωから約100.2Ωまでしか変動しないことがわかる。
【実施例4】
【0091】
図1の基本構成において、各伝送線路を、
図9に示すキャパシタとインダクタからなるΠ型等価回路、またはT型等価回路で置き換えた構成でも同様の効果が得られる。そこで、本発明の実施例1に係る高周波電力分配回路の各伝送線路を、Π型のキャパシタ-インダクタ-キャパシタの構成の等価回路で置き換えた、本発明に係る実施例4の高周波電力分配回路を
図10に示す。
【0092】
このとき、Π型等価回路、またはT型等価回路の等価的な特性インピーダンスと電気長の値は、置き換えられた伝送線路の値と一致させなければならない。本実施例に係る電力分配回路は、実施例1に示した高周波電力分配回路と電気的に等価であるため、負荷抵抗値R
load-入力抵抗値R
in特性は、
図4に示した同特性と一致する。