特許第6902775号(P6902775)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6902775プラスチック基材NDフィルタ及び眼鏡用プラスチック基材NDフィルタ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6902775
(24)【登録日】2021年6月24日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】プラスチック基材NDフィルタ及び眼鏡用プラスチック基材NDフィルタ
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/10 20060101AFI20210701BHJP
   G02B 5/00 20060101ALI20210701BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20210701BHJP
   G02B 1/115 20150101ALN20210701BHJP
【FI】
   G02C7/10
   G02B5/00 A
   C23C14/08 N
   !G02B1/115
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-27198(P2017-27198)
(22)【出願日】2017年2月16日
(65)【公開番号】特開2017-151430(P2017-151430A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2019年10月21日
(31)【優先権主張番号】特願2016-32332(P2016-32332)
(32)【優先日】2016年2月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000219738
【氏名又は名称】東海光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124420
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 清隆
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏寿
【審査官】 池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−043211(JP,A)
【文献】 特開2009−162852(JP,A)
【文献】 特開2009−157211(JP,A)
【文献】 特開2014−002270(JP,A)
【文献】 特開2011−002515(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/047940(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0154769(US,A1)
【文献】 特開2009−265579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/10
C23C 14/08
G02B 5/00
G02B 1/115
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックからなる基材と、
前記基材の少なくとも一面に配置された、複数の層を有する光吸収膜
を備えており、
前記光吸収膜における前記基材側から1層目の前記層は、SiOからなるSiO層又はAlからなるAl層であり、
前記光吸収膜は、NiO(xは0以上1以下)からなるNiO層及びCoOx’(x’は0以上1.5以下)からなるCoOx’層のうちの少なくとも何れか一方を1つ以上含んでおり、
前記NiO層及び前記CoOx’層のうちの少なくとも何れか一方における少なくとも何れか1つは、基材側で隣接する前記層である基材側隣接層と、その反対側で隣接する前記層であって前記基材側隣接層と材質の異なる反対側隣接層とで挟まれており、
前記NiO層及び前記CoOx’層のうちの少なくとも何れか一方は、何れも物理膜厚が6ナノメートル以下であ
ことを特徴とするプラスチック基材NDフィルタ。
【請求項2】
前記基材側隣接層又は前記反対側隣接層は、シリカ化合物からなるシリカ化合物層である
ことを特徴とする請求項1に記載のプラスチック基材NDフィルタ。
【請求項3】
前記光吸収膜は、低屈折率層と高屈折率層が交互に配置されたものである
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のプラスチック基材NDフィルタ。
【請求項4】
前記基材には、表面と裏面が存在しており、
前記光吸収膜は、前記裏面に配置されている
ことを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れかに記載のプラスチック基材NDフィルタ。
【請求項5】
前記表面には、反射防止膜が配置されている
ことを特徴とする請求項4に記載のプラスチック基材NDフィルタ。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5の何れかに記載されたプラスチック基材NDフィルタを含んでいる
ことを特徴とする眼鏡用プラスチック基材NDフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材がプラスチック製であるND(Neutral Density)フィルタ、及び当該NDフィルタを用いた眼鏡用NDフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
NDフィルタとして、下記特許文献1のものが知られている。
このNDフィルタは、透明な基板の一方の面あるいは両面に複数の光吸収膜と複数の誘電体膜を積層状に成膜させて構成されており、その光吸収膜は、単体ゲルマニウム又は単体シリコンと、ニッケル及びその酸化物の混合体(Ni+NiO)を含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5066644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のものにおいて、基板は強化ガラス製のものやプラスチック製のものが想定されるところ、軽さや割れ難さ、染色容易性の観点からはプラスチック製のものが好ましく、眼鏡用であれば尚更である。
基板がプラスチック製である場合、プラスチックは吸水し易く又吸水した水分を徐放し易いことに配慮する必要がある。即ち、基板から徐放された水分は、基板上の光吸収膜や誘電体膜に徐々に作用して、これらの膜の密着性が漸減し、耐候性等が徐々に劣化する要因となり得る。特許文献1では、プラスチック製の基板からの水分について特段の記載はなく、特許文献1のもの(プラスチック基板)では、耐候性等の寿命に関し、更なる向上の余地がある。
そこで、請求項1,に記載の発明は、基材(基板)がプラスチック製であり、耐久性に優れたNDフィルタ,眼鏡用NDフィルタを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、NDフィルタであって、プラスチックからなる基材と、前記基材の少なくとも一面に配置された、複数の層を有する光吸収膜を備えており、前記光吸収膜における前記基材側から1層目の前記層は、SiOからなるSiO層又はAlからなるAl層であり、前記光吸収膜は、NiO(xは0以上1以下)からなるNiO層及びCoOx’(x’は0以上1.5以下)からなるCoOx’層のうちの少なくとも何れか一方を1つ以上含んでおり、前記NiO層及び前記CoOx’層のうちの少なくとも何れか一方における少なくとも何れか1つは、基材側で隣接する前記層である基材側隣接層と、その反対側で隣接する前記層であって前記基材側隣接層と材質の異なる反対側隣接層とで挟まれており、前記NiO層及び前記CoOx’層のうちの少なくとも何れか一方は、何れも物理膜厚が6ナノメートル以下であることを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、上記発明において、前記基材側隣接層又は前記反対側隣接層は、シリカ化合物からなるシリカ化合物層であることを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、上記発明において、前記光吸収膜は、低屈折率層と高屈折率層が交互に配置されたものであることを特徴とするものである。
請求項4に記載の発明は、上記発明において、前記基材には、表面と裏面が存在しており、前記光吸収膜は、前記裏面に配置されていることを特徴とするものである。
請求項5に記載の発明は、上記発明において、前記表面には、反射防止膜が配置されていることを特徴とするものである。
請求項6に記載の発明は、眼鏡用プラスチック基材NDフィルタであって、上記発明のプラスチック基材NDフィルタを含んでいることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、基材がプラスチック製であり、耐久性に優れたNDフィルタ,眼鏡用NDフィルタを提供することが可能となる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明に係る実施例1〜4の可視域における分光透過率分布が示されるグラフである。
図2】本発明に係る実施例5〜8の可視域における分光透過率分布が示されるグラフである。
図3】市販の染色眼鏡レンズの分光透過率分布が示されるグラフである。
図4】実施例1〜4の凹面(ND成膜面)側に係る、可視域における分光反射率分布(片面)が示されるグラフである。
図5】実施例5〜8の凹面(ND成膜面)側に係る、可視域における分光反射率分布(片面)が示されるグラフである。
図6】実施例1〜9の凸面側に係る、可視域における分光反射率分布(片面,共通)が示されるグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明に係る実施の形態の例につき、適宜図面を用いて説明する。尚、本発明の形態は、以下のものに限定されない。
【0009】
本発明に係るNDフィルタは、少なくとも波長が可視域(例えば400ナノメートル(nm)以上800nm以下、400nm以上760nm以下、400nm以上700nm以下、410nm以上760nm以下、又は420nm以上760nm以下)内である光(可視光)を均一に吸収するフィルタである。
【0010】
NDフィルタの基材は、透明(半透明を適宜含む)なプラスチック製である。基材の材質の例としては、ポリウレタン樹脂、チオウレタン樹脂、エピスルフィド樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリ4−メチルペンテン−1樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂が挙げられる。
又、基材は、凸レンズであっても良いし、凹レンズであっても良いし、フラットレンズであっても良く、度数や累進もどのようなものであっても良い。
本発明のNDフィルタは、基材がプラスチック製のものであれば、どのような用途で用いられても良く、好適にはカメラレンズ系の一部(他のレンズの保護用やカメラ本体内蔵用を含む)に含ませるためのカメラ用、又同様にプロジェクタ用、双眼鏡用、望遠鏡用であり、更に好適には眼鏡用(眼鏡レンズ自体とする用途や眼鏡レンズに被さるレンズ用)である。
【0011】
基材の片面あるいは両面には、光学多層膜が形成されている。
光学多層膜は、主に可視光を均一に吸収する機能を具備しており、更に適宜可視光の反射を防止する機能を具備する。可視光の吸収を目的とした光学多層膜あるいはその部分は光吸収膜であり、光吸収膜が1つの層である場合には光吸収層とすることもある。又、可視光の反射防止を目的とした光学多層膜あるいはその部分は、反射防止膜である。反射防止膜は、光吸収膜を含むことがある。基材の両面に光学多層膜が配置される場合、双方の光学多層膜が同一の構成とされても良いし、互いに異なる構成とされても良い。
光学多層膜は、光吸収膜のみから構成されても良いし、光吸収膜の表面側(空気側)に防汚膜や保護膜が付加されたものであっても良いし、光吸収膜の基材側にハードコート膜を始めとする中間層が単数又は複数付加されたものであっても良いし、光吸収膜内あるいは光吸収膜外に導電性向上等の他の目的のための単数又は複数の層や膜が付加されたものであっても良いし、これらの組合せであっても良い。尚、ハードコート膜や導電層、反射防止膜等は、光学多層膜に含まれないものとされたり、それぞれあるいはこれらの組合せで別個の光学多層膜であるものとされたりしても良い。
【0012】
ハードコート膜は、例えば、オルガノシロキサン系化合物から形成され、あるいは有機ケイ素化合物、又はアクリル化合物から形成される。
ハードコート膜の下層(基材側の層)として、プライマー層が設けられても良い。プライマー層は、例えば、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、有機ケイ素系樹脂の少なくとも何れかから形成される。
【0013】
反射防止膜は、例えば、低屈折率材料及び高屈折率材料を含む複数種類の誘電体材料から形成される。低屈折率材料としては、酸化ケイ素(特にSiO)やフッ化マグネシウム(特にMgF)の少なくとも一方が例示され、高屈折率材料としては、酸化ジルコニウム(特にZrO)、酸化チタン(特にTiO)、酸化タンタル(特にTa)、酸化ニオブ(特にNb)の少なくとも何れかが例示される。反射防止膜は、好ましくは、低屈折率材料と高屈折率材料が、何れか一方を基材側として交互に積層されることで形成される。
【0014】
光吸収膜は、ニッケル(Ni)及びコバルト(Co)の少なくとも一方からなる光吸収層を1層あるいは2層以上含むように形成される。
Niは、単体でも良いが、好ましくは不飽和金属酸化膜(NiO;xは0を超えて1以下)である。xの値は、例えばNiが蒸着材料とされ、蒸着用真空装置内に酸素ガスを所定流量で供給した状態で蒸着されることで調整可能であり、酸素ガスを流さなければx=0(単体)となる。
Coは、単体でも良いが、好ましくは不飽和金属酸化膜(CoOx’;x’は0を超えて1.5以下)である。xの値は、例えばCoが蒸着材料とされ、蒸着用真空装置内に酸素ガスを所定流量で供給した状態で蒸着されることで調整可能であり、酸素ガスを流さなければx’=0(単体)となる。
光吸収膜は、他の層を有する多層膜として形成されても良い。この場合の他の層として、例えば、SiO層、ZrO層、酸化アルミニウム(特にAl)層、シリカ化合物層、あるいはこれらの組合せが例示される。ここで、シリカ化合物は、ケイ素の化合物あるいはその化合物と他の化合物の混合体であるが、好ましくは酸化ケイ素と酸化アルミニウムの混合体であり、より好ましくはSiOとAlの混合体である。
少なくとも1つの光吸収層、即ちNiO層(xは0以上1以下)及びCoOx’層(x’は0以上1.5以下)の少なくとも何れか一方における、基材側の隣接層と、その反対側(空気側)の隣接層は、互いに異なる材質の層とされる。例えば、基材側隣接層がAl層で、反対側隣接層がシリカ化合物層とされる。
NiO層が複数設けられる場合、少なくとも何れか1つのNiO層における、基材側隣接層と反対側隣接層が、互いに異なる材質の層とされれば良い。一方、CoOx’層が複数設けられる場合、少なくとも何れか1つのCoOx’層における、基材側隣接層と反対側隣接層が、互いに異なる材質の層とされれば良い。他方、NiO層とCoOx’層の双方が1層ずつ設けられる場合、NiO層及びCoOx’層のうちの何れか一方において、基材側隣接層と反対側隣接層が互いに異なる材質の層とされれば良い。NiO層とCoOx’層の双方が設けられ、これらのうちの少なくとも一方が複数設けられる場合においても、何れか1つのNiO層あるいはCoOx’層において、基材側隣接層と反対側隣接層が互いに異なる材質の層とされれば良い。
基材側隣接層又は反対側隣接層がシリカ化合物層とされれば、シリカ化合物層がZrO層ほど水分を通過させない密度であり、又水分を完全密閉してしまうほどの超高密度でもなく、丁度良い水分透過度合となるから好ましい。
光吸収膜の基材側から1層目の層(初期層)は、SiO層又はAl層とされる。
光吸収膜の初期層は、イオンアシストのない蒸着によって形成される程度の密度を有することが好ましい。初期層を始めとする蒸着膜の密度は、当業者にとっても直接の測定が極めて困難である。又、蒸着時のイオンアシストの有無で蒸着膜の密度の程度を特定することは、当業者にとって分かり易く有用である。
光吸収膜は、低屈折率層と高屈折率層が交互に配置されることで、光吸収機能に加えて反射防止膜としての機能も併有するようにされても良い。ここで、NiO層やCoOx’層は、高屈折率層として扱われて良い。
【0015】
基材は、眼鏡用等のように、表裏の存在するものが好ましい。眼鏡用NDフィルタ基材の表は環境側であり、裏は顔側である。
光学多層膜は、好ましくは、基材の表側に反射防止膜が配置され、裏側に光吸収膜が配置される。現状、光吸収膜に比べて反射防止膜の耐久性が高く、より厳しい環境に晒される表側に比較的耐久性の高い反射防止膜が配置され、比較的に保護される裏側に光吸収膜が配置されることで、光吸収(ND)と反射防止の機能を確保して良好な特性を実現しながら、全体的な耐久性の向上が図れる。
又、かようなNDフィルタは、眼鏡用として好適に用いられる。即ち、NDフィルタ自体が眼鏡レンズとされても良いし、NDフィルタが他の眼鏡レンズに被せるものとして用意されていても良い。
一般の眼鏡(サングラス)は、可視域で可視光の吸収率が波長毎に大きく変化するものであり、裸眼視と色みやコントラスト等が異なってみえるものであるところ、本発明の眼鏡用NDフィルタでは、可視域における可視光の均一な吸収により、裸眼視と同等な視認性を提供することができる。
【実施例】
【0016】
次いで、本発明の好適な実施例、及び本発明に属さない比較例につき、数例説明する(実施例1〜8,比較例1〜7)。尚、本発明の捉え方により、実施例が比較例となったり、比較例が実施例となったりすることがある。
【0017】
実施例1〜8,比較例1〜7に係るプラスチック基材NDフィルタとして、直径75ミリメートル(mm)の丸玉である眼鏡用凸レンズが作成された。その度数は何れもS−4.00であり、凸面側(表面側)が非球面形状であって、中心の厚みは1.2mmである。
基材は、何れもエピスルフィド樹脂により形成されており、屈折率は1.76、アッベ数は30、比重は1.49g/cm(グラム毎立方センチメートル)である。
基材の表裏両面の上には、ハードコート膜(HC膜)が形成された。何れのハードコート膜も、同じハードコート液を同様に塗布することにより形成された。
ハードコート液は、次のように作成された。まず、容器中に、メタノール206g(グラム)、メタノール分散チタニアゾル(日揮触媒化成株式会社製、固形分30%)300g、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン30g、テトラエトキシシラン60gが滴下され、その混合液中に0.01N(規定度)の塩酸水溶液が滴下されたうえで撹拌されて加水分解が行われた。次いで、フロー調整剤0.5g及び触媒1.0gが加えられ、室温で3時間撹拌されて、ハードコート液とされた。
ハードコート液は、スピンコート法によりハードコート液を基材の面に均一に行き渡らせ、その後120℃の環境に1.5時間置くことで加熱硬化させて、ハードコート膜となった。
かように形成されたハードコート膜の物理膜厚は、2.5μm(マイクロメートル)となった。
【0018】
更に、基材の凸面(表面)側に反射防止膜(AR膜)及び撥水層が形成された。
即ち、ハードコート膜付きの基材が固定する治具(ドーム)にセットされて、真空装置内に扉から投入される。その後、扉が閉められ、真空装置内が真空排気される。基材の水分を抜くため、真空装置内の温度は60℃に保持される。真空装置内の真空度が1.0E−03(1.0×10−3)Pa(パスカル)となると、次のような成膜が開始される。即ち、まず中間層(ハードコート膜)とこれから形成される光学多層膜の密着性を向上するために、基材表面に酸素イオンを60秒間照射することで、基材表面を活性化させる。次に、低屈折材料であるSiOと高屈折材料であるZrOが交互に各所定時間だけ蒸着されて、各層がそれぞれ所望の膜厚を有する全5層の反射防止膜が基材の凸面上に成膜された。
続いて、真空装置内で反射防止膜付きの基材の凸面側に撥水剤が蒸着され、反射防止膜の上(最表層)に撥水層が形成された。
実施例1〜8,比較例1〜7に係る凸面側の光学多層膜の構成は、次の表1に記載の通りである。尚、特に記載されない限り、膜厚は物理膜厚である。
【0019】
【表1】
【0020】
又、基材の凹面(裏面)側に光吸収膜及び撥水層が形成された。
即ち、光吸収膜の成膜は、反射防止膜の形成と同様に成膜開始時の条件を整えて行われる。成膜においては、同様に酸素イオンを照射した後、次の材料を次の条件で成膜した。光吸収膜の蒸着においては、最初の酸素イオンの照射を除き、イオンは照射されず、光吸収膜の蒸着はイオンのアシストのない状態(Ion Assist Depotitionではない状態)で行われた。
SiOとして、キヤノンオプトロン株式会社製「SiO」が用いられ、成膜レート10.0Å/s(オングストローム毎秒)で蒸着された。成膜後のSiO層の屈折率(基準波長λ=500nm)は1.465であった。
ZrOとして、キヤノンオプトロン株式会社製「ZrO」が用いられ、成膜レート6.0Å/sで蒸着された。成膜後のZrO層の屈折率(λ=500nm)は2.037であった。
シリカ化合物の一つであるSiO+Al混合材料として、キヤノンオプトロン株式会社製「S5F」が用いられ、成膜レート10.0Å/sで蒸着された。成膜後のSiO+Al混合層の屈折率(λ=500nm)は1.491であった。一般に、SiO+Al混合材料は、SiOの重量がAlの重量に比べて高く、例えばSiOの重量比に対するAlの重量比は数%程度である。尚、本発明において、SiOとAlの重量比は特に限定されず、シリカ化合物の成分もSiOとAlに限定されない。
Alとして、キヤノンオプトロン株式会社製「Al」が用いられ、成膜レート10.0Å/sで蒸着された。成膜後の屈折率(λ=500nm)は1.629であった。
NiO用のNiやCoOx’用のCoとして、株式会社高純度化学研究所製のものが用いられ、何れも成膜レート3.0Å/sで蒸着された。この蒸着時、酸素ガスが流量10sccm(standard cubic centimeter per minute)で供給されて、NiO層やCoOx’層が形成された。成膜後のNiO層の屈折率(λ=500nm)は1.928であり、消衰係数は2.134であった。尚、NiO層の屈折率が約2.00程度と比較的に高いので、NiO層は高屈折率層として用いることができる。更に、成膜後のCoOx’層の屈折率(λ=500nm)は、NiO層の屈折率と非常に近い値であった。
又、撥水層が、光吸収膜の上(空気側)に、反射防止膜の上のものと同様にして形成された。
実施例1〜8,比較例1〜7は、光吸収膜の構成のみが互いに異なる。それぞれの構成は、次の表2〜5に記載の通りである。
【0021】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【0022】
ここで、SiO膜とAl膜に係るイオンアシストの有無と蒸着膜の密度(これと密接に関連した水蒸気透過性)に関する試験の結果が、次の表6に示される。尚、表6の「No.」列は、水蒸気透過性が大きいものからの順位が記載されている。
この試験は、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムを基材とし、基材のみの場合と、基材にSiO膜やAl膜、SiO+Al混合膜がイオンアシストの有無を変化させて蒸着された場合における、水蒸気透過性(1日当たりのグラム毎立方メートル,g/m・day)を調べたものである。
基材のみの場合、水蒸気透過性は、7.29である。
これに対し、SiO膜,Al膜,SiO+Al混合膜(表5の「材料」列に蒸着材料を記載している)がイオンアシストなしで膜厚90.3,94.8,74.4nmで蒸着された場合、水蒸気透過性が6.75,6.28,6.12と、基材のみの場合より僅かに下がる。これは、SiO膜,Al膜,SiO+Al混合膜が水蒸気の透過を妨げるからである。
更に、SiO膜がイオンアシストあり(イオン銃における加速電圧900ボルト(V),加速電流900ミリアンペア(mA),バイアス電流600mA,導入酸素(O)ガス50sccm)で膜厚69.1nmで蒸着された場合、水蒸気透過性が3.77と更に大きく下がる。これは、イオンアシストのある蒸着によって形成されたSiO膜の密度がイオンアシストなしの場合の密度より大きく、かように密度の大きいSiO膜が水蒸気の透過を更に妨げるからである。
同様に、Al膜がイオンアシストあり(加速電圧1000V,加速電流1000mA,バイアス電流600mA,導入酸素ガス50sccm)で膜厚79.0nmで蒸着された場合、水蒸気透過性が0.89と大きく下がる。これは、イオンアシストのある蒸着によって形成されたAl膜の密度がイオンアシストなしの場合の密度より大きく、かように密度の大きいAl膜が水蒸気の透過を更に妨げるからである。
更に同様に、SiO+Al混合膜がSiO膜と同様のイオンアシストのある状態で膜厚75.0nmで蒸着された場合、水蒸気透過性が1.61と小さくなる。これは、イオンアシストのある蒸着によって形成されたSiO+Al混合膜の密度がイオンアシストなしの場合の密度より大きく、かように密度の大きいSiO+Al混合膜が水蒸気の透過を更に妨げるからである。
【0023】
【表6】
【0024】
図1は、実施例1〜4の可視域における分光透過率分布が示されるグラフである。
分光透過率分布の測定は、分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ製U−4100)によって行われた。
実施例1〜4(NiO層)の何れも、可視域における透過率が51±3%の帯状領域に収まっており、可視光が吸収率50%程度で均一に吸収されていて、グレーの外観でありながら、装用時に認識される色みが裸眼視とさほど変わらない眼鏡用NDフィルタとなっている。均一に吸収する際の吸収率は、様々に変更することができる。次の表7には、実施例1〜8に係る、Lab色空間(UCS空間)におけるL,a,bの各値が示されている。尚、これらの値は、D65光源を用いて2°視野において測定されている。
図2は、実施例5〜8の可視域における分光透過率分布が示されるグラフである。
実施例5(NiO層),実施例6(CoOx’層)は、実施例1〜4と同様の分光透過率分布を呈し、実施例1〜4と同様のL,a,bの各値を備えている。即ち、実施例5〜6では、可視域における透過率が54±3%の帯状領域に収まっており、可視光が吸収率46%程度で均一に吸収されていて、グレーの外観でありながら、装用時に認識される色みが裸眼視とさほど変わらない眼鏡用NDフィルタとなっている。又、実施例5,6を対比すれば、NiO層とCoOx’層は、同様の特性を有しており、同様に用いることが可能であることが分かる。
実施例7は、光吸収層(NiO層)の数が、実施例1〜5の2層に対して3層と増加しているため、可視光の吸収率が実施例1〜5より高くなっている。実施例7では、可視域における透過率が31±2%の帯状領域に収まっており、可視光が吸収率70%程度で均一に吸収されていて、グレーの外観でありながら、装用時に認識される色みが裸眼視とさほど変わらない眼鏡用NDフィルタとなっている。実施例7は、実施例1〜6と同様のa,bの各値を備え、L値が実施例1〜6に対して減少している。
実施例8は、光吸収層としてNiO層とCoOx’層の双方が用いられたものである。実施例8では、可視域における透過率が47±2%の帯状領域に収まっており、可視光が吸収率53%程度で均一に吸収されていて、グレーの外観でありながら、装用時に認識される色みが裸眼視とさほど変わらない眼鏡用NDフィルタとなっている。実施例8は、実施例1〜6と同様のa,bの各値を備え、L値が実施例1〜6に対して僅かに減少している。
図3は、グレーのサングラス(50%濃度)として市販されている染色眼鏡レンズの分光透過率分布が示されるグラフである。この染色眼鏡レンズは、実施例1〜8と同様にグレー色を呈しながら、可視域における分光透過率分布が45%〜94%の範囲で多数の極値を有する状態となっており、装用時の色みが裸眼視の色みと大きく相違してしまう。
【0025】
【表7】
【0026】
図4は、実施例1〜4の凹面(ND成膜面)側に係る、可視域における分光反射率分布(片面)が示されるグラフである。
分光反射率分布は、反射率測定器(オリンパス株式会社製USPM−RU)によって測定された。
実施例1〜4の凹面側において、可視域で概ね反射率が5%以下となっており、又視認性に大きく関与する緑色域内(450nm以上580nm以下程度)に反射率分布の最小値(全体的な分布の極小値)が入っているので、各光吸収膜は、反射防止膜としての機能も備えている。
図5は、実施例5〜8の凹面(ND成膜面)側に係る、図4同様のグラフである。
実施例5〜8の凹面側においても、可視域で概ね反射率が5%以下となっており、又視認性に大きく関与する緑色域内ないしその隣接領域(440nm以上580nm以下程度)に反射率分布の最小値(全体的な分布の極小値)が入っているので、各光吸収膜は、反射防止膜としての機能も備えている。
図6は、同様に測定された、実施例1〜8の凸面側に係る、可視域における分光反射率分布(片面,共通)が示されるグラフである。
実施例1〜8の凸面側においても、可視域で概ね反射率が5%以下となっており、又可視域の大部分である430nm以上670nm以下の域において反射率2%以下となっているので、凸面側では十分に可視光の反射が防止されている。
実施例1〜8では、NDフィルタとしての機能(均一な吸収)は、光吸収膜が配置された凹面側のみで十分に果たしているため、凸面側では、反射防止機能を更に追求した反射防止膜を配置することができる。
【0027】
次の表8〜11には、実施例1〜8,比較例1〜7について、耐久性に関する各種の試験、即ち恒温恒湿試験、凹面の耐候密着試験、塩水煮沸試験を行った際の結果が示される。
恒温恒湿試験では、恒温恒湿試験機(エスペック株式会社製LHU−113)が用いられ、60℃,95%の環境となった試験機内に、それぞれのNDフィルタが投入された。投入開始から1日,3日,7日が経過した後に、NDフィルタがそれぞれ一旦取り出され、むくみや変色、クラック等の外観異常の発生の有無が観察された。
凹面(光吸収膜形成面)の耐候密着試験では、各凹面において計100マスが形成されるようにカッターでマス目が入れられ、マス目全体にセロハンテープが貼り付けられて、勢いよく剥がされた。これを計5回繰り返し、計5回完了後とその途中とにおいて内部で剥がれを生じなかったマスの数が確認された(初期,計5回完了後における剥がれなしのマスの数/途中における剥がれなしのマスの数)。更に、NDフィルタがサンシャインウェザーメータ(スガ試験機株式会社製S80B)に投入され、投入時間が60時間(hr)となったら取り出されて、上記のマス目形成、5回のセロハンテープ剥がし及びマス数確認が行われた。同様にして、更に投入のうえで投入時間が計120,180,240時間となった場合にも、上記のマス目形成、5回のセロハンテープ剥がし及びマス数確認が行われた。
塩水煮沸試験では、塩化ナトリウム45g、純水1000gが混ぜられて塩水が作製され、その塩水がヒータにより沸騰状態とされた。そして沸騰状態の塩水中に各NDフィルタが浸漬され、浸漬時間の合計が10,20,30,40分間となった後、NDフィルタが取り出されて、恒温恒湿試験と同様に外観が観察された。
【0028】
【表8】
【表9】
【表10】
【表11】
【0029】
実施例1〜8,比較例1〜7の何れも、塩水煮沸試験において、剥がれを始めとする外観異常は観察されなかった。
更に、実施例1〜8では、恒温恒湿試験において、7日経過後も外観異常は観察されなかった(変化なし)。但し、実施例5では、3日経過の時点では外観異常は認められなかったが、7日経過後で周辺部変色とクラックの発生が認められた。
又、実施例1〜8では、耐候密着試験において、全てのマスで剥がれが認められなかった(100/100)。
【0030】
比較例1では、耐候密着試験において、120時間と180時間で計5回の剥がし完了後に1マス内の部分的な剥がれが認められたものの(99.5/100)、他に剥がれが認められず、良好な耐候性が示された。
しかし、恒温恒湿試験において、1日経過後において中心部の変色が認められ、3日経過後からはクラックの発生が認められた。
変色は、NiO層において認められ、その様子から水分の作用によるものと考えられる。クラックは、凹面において発生しており、光吸収膜の応力バランスの状態に応じて発生するものと考えられる。
比較例1では、基材側から(以下同様)1層目がSiO層やAl層ではなくZrO層である。ZrO層は、SiO層やAl層に比べ、膜密度が小さすぎて水蒸気を通し易く、プラスチック基材からの水分がすぐに2層目以降に達して、特にNiO層に影響し、変色を起こすものと考えられる。
1層目の膜密度向上の観点からは、実施例1〜8の1層目がイオンアシストありで蒸着されるようにして密度が高められるようにすることが想定される。しかし、イオンアシストありの場合、密度が高すぎて水蒸気がほとんど通過しないこととなり(表6参照)、基材の水分は凹面において逃げ場を失って蓄積され、その蓄積量が限度を超えると水分が光吸収膜(1層目)の弱い部分から一点突破的に通過して、点状の外観異常を呈することとなる。これに対し、イオンアシストなしの場合、かような水分の蓄積ないし点状の外観異常が起こらない丁度良い密度となる。よって、1層目は、イオンアシストなしの状態に係る密度とされることが好ましい。
又、比較例1では、2つのNiO層の基材側隣接層とその反対側の隣接層は、何れもSiO+Al混合層である。SiO+Al混合層は、SiO層やAl層に比べ、密度が比較的に高くなって水分を通し難い(緻密な構造となって高いパッキング効果を有する)。これは、SiOをAlが架橋することによるものと考えられる。
しかし、SiO+Al混合層は、NiO層と応力が互いに異なり、NiO層の応力とSiO+Al混合層の応力の差は比較的に大きい。よって、NiO層の双方の隣接層ともSiO+Al混合層とすると、光吸収膜の応力バランスが比較的に良好ではなくなる。従って、恒温恒湿試験においてクラックが発生したものと考えられる。
これに対し、実施例1〜5,7のように、少なくとも何れかのNiO層において、基材側隣接層と反対側隣接層が互いに異なる材質とされれば、その異なる材質の層から応力が逃げて全体の応力が緩和されることとなり、クラックの発生が防止される。例えば、実施例1では、3層目のNiO層の基材側隣接層である2層目のAl層が、反対側隣接層である4層目のSiO+Al混合層と異なる材質であるため、その基材側隣接層から応力を逃がすことができる。5層目のNiO層の基材側隣接層(4層目)と反対側隣接層(6層目)は、何れもSiO+Al混合層となるが、2層目のAl層によって応力を緩和することができる。又、実施例2では、5層目のNiO層の反対側隣接層である6層目のSiO+Al混合層が、基材側隣接層である4層目のAl層と異なる材質であるため、その反対側隣接層から応力を逃がすことができる。
又、実施例6のCoOx’層や、実施例8のNiO層及びCoOx’層の少なくとも一方においても、実施例1〜5,7のNiO層と同様に、少なくとも一つの光吸収層において基材側隣接層と反対側隣接層の材質を互いに相違させれば、応力が緩和され、クラックの発生が防止される。
尚、SiO+Al混合層におけるパッキング効果や応力差については、他のシリカ化合物においても同様な傾向となる。
【0031】
比較例2では、耐候密着試験において、何れの時間であっても剥がれが認められず、良好な耐候性が示された。
しかし、恒温恒湿試験において、1日経過後において周辺部(端部)に極薄いシミ(変色)が認められ、7日経過後では端部のシミが濃くなっていると共に線状の変色が発生している状況が確認された。
比較例2における1層目のZrO層はSiO層やAl層に比べ水分をより多く透過可能であるところ、プラスチック製の基材から放出される水分がその周辺部において2層目のNiO層に達し、NiO層を変性させたものと考えられる。
これに対し、実施例1〜8では、光吸収膜の1層目がSiO層又はAl層であるため、ZrO層ほど水分を通さず、NiO層の水分による変性が防止される。尚、実施例1〜8では、1層目のSiO層又はAl層がイオンアシストのない蒸着で形成される程度の密度であり、点状の変色の発生可能性がより低減され、より好ましい。
【0032】
比較例3では、耐候密着試験において、何れの時間であっても剥がれが認められず、良好な耐候性が示された。
しかし、恒温恒湿試験において、1日経過後から全体的に線状の変色が発生し、7日経過後では更に中心部における変色箇所の増加が認められた。比較例3の光吸収膜の構成は、比較例2の1層目と2層目の間にSiO層とZrO層を加え、その分1層目のZrO層の膜厚を薄くしたもの、即ち比較例2の1層目を3層に分割したものとなっているが、試験の結果を比較例2に比べて改善することはできず、よって1層目の分割を行っても、1層目がZrO層であれば、NiO層への水分透過の影響は防止することができないと考えられる。
【0033】
比較例4では、耐候密着試験において、初期から剥がれの有るマスが生じ、60時間において計5回の剥がし完了時に剥がれなしのマスが10マスしか残らなかったことから、その後の試験が中止された。
又、恒温恒湿試験において、1日経過後から中心部におけるクラックが認められた。
かように、比較例4は、耐候性や耐温性、耐湿性に乏しい。これは、比較例4が、比較例1と同様、何れのNiO層もSiO+Al混合層で挟まれる構造を備えており、応力バランスが崩れた状態を保持していることによるものと考えられる。
尚、比較例4では変色の発生はなく、SiO層が1層目であれば、NiO層への水分の到達を防止できるものと考えられる。これに対し、比較例3では2層目にSiO層が配置されるものの、1層目がZrO層であるため、NiO層への水分の到達を防止できない。
【0034】
比較例5では、恒温恒湿試験では、7日経過後も外観異常は観察されなかった。
しかし、耐候密着試験では、60時間で多くの剥がれが認められた。
比較例5では、1層目がZrO層であって水分をより透過し、又3層目と5層目のNiO層が比較例1と同様にSiO+Al混合層で挟まれており、耐候性に影響がでたものと考えられる。
【0035】
比較例6では、耐候密着試験において、何れの時間であっても剥がれが認められず、良好な耐候性が示された。
しかし、恒温恒湿試験において、1日経過後から、端部において三日月状の変色が認められた。
基材の凹面端部においては、蒸着時、NiO(蒸着物質)の入射方向が基材の面の接線に対して垂直になっておらず、その垂直線から角度を持って傾いている。よって、NiOの基材に対する入射方向が垂直である部分(中心部)に比べ、端部ではNiO層におけるNiOの密度が比較的に小さいものと考えられる。かようにNiOの密度が小さいと、その分だけNiO層が多孔質化し、多孔質化したNiO層における孔部の断面積が閾値以上となると、孔部から水分が進入して、NiO層が変質するようになる。比較例6では、可視光の吸収のためにNiO層の膜厚が7.5nmとなっており、端部における多孔質化が比較的に顕著に現れて、主に大気側からの水分によりNiO層が変性され、変色されるものと考えられる。
実施例1〜5,7,8では、NiO層の膜厚が4.2nm以上4.7nm以下となっており、端部における多孔質(ポーラス)化の影響が緩和されている。又、NiO層の膜厚が薄ければ、隣接する層に対する応力の差がその分緩和される。実施例6,8のCoOx’層でも、同様に膜厚が4.5nm以下となっており、端部における多孔質化の影響が緩和されている。実施例1〜8,比較例1〜7、そしてシミュレーションの結果から、NiO層やCoOx’層の膜厚が6nm以下であれば、多孔質化や応力差の緩和効果が良く発揮されることが分かった。NiO層やCoOx’層を薄くすることにより可視光の吸収量が十分でなくなる場合には、(6nm以下の)層が複数設けられて良い(光吸収層の分割)。
【0036】
比較例7では、比較例6と同様に、1日経過後から三日月状の変色が認められた。
比較例7では、NiO層(6層目)の膜厚が比較的に大きく、更にNiO層の基材側隣接層(5層目)と反対側隣接層(7層目)が何れもSiO+Al混合層であり、特に端部に応力差や多孔質化の影響が及んだものと考えられる。
【0037】
以上の通り、実施例1〜8のように、少なくとも一つの光吸収層(NiO層及びCoOx’層の少なくとも一方で、複数層ある場合には少なくとも何れか1つの層)における基材側隣接層と、その反対側の隣接層とで、層の材質を相違させれば、基材がプラスチック製であり、耐久性に優れたNDフィルタを提供することができるのである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6