【実施例】
【0040】
実施例:インビトロ線維症モデル製造、及びその線維症モデリング特性分析
(1)インビトロ線維症モデル製造
(1.1)ヒト脂肪幹細胞(hASC:human adipose stem cell)の分離
カトリック大学整形外科研究室から分譲された健常人の皮下脂肪組織を、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(PS)を含むPBSで3回洗浄し、汚染した血液を除去した後、手術用はさみで細かく切った(chopping)。該脂肪組織を、1% BSA(w/v)、0.3%コラゲナーゼタイプ1、及び1% PSを含む組織溶解液(DMEM/F−12、ウェルジン)に浸し、1時間37℃で撹拌した(orbital shaking)。その後、上澄み液は捨て、細胞懸濁液を250μm Nitexフィルタ(Sefar America Inc.)で濾過し、組織破片(debris)を除去し、1,000rpmで5分間遠心分離した。遠心分離によって収集された細胞を、10% BSAを含むDMEM/F−12に再懸濁した。分離された一次細胞を、5% CO
2及び95%空気を有する37℃の湿潤な大気において、24時間組織培養フラスコ(tissue culture flask)にプレートした。その後、非付着性細胞を、同一体積の新鮮な培地で交換することによって除去した。付着性hASCの形態を、位相差顕微鏡で観察し、5継代のhASCを全ての実験に使用した。
【0041】
(1.2)脂肪幹細胞由来の三次元細胞集合体の製造
前記得られた脂肪幹細胞から、三次元細胞集合体を製造するために、前記脂肪幹細胞を、非組織細胞培養用96ウェルプレート(NTCP:non-tissue culture treated 96−well plate;ポリスチレン材質で表面が疎水性を帯びる、Falcon社)で培養した。前記プレートは、融合タンパク質MBP(maltose binding protein)−FGF(fribroblast growth factor)がコーティングされたプレートであり、前記融合タンパク質がコーティングされたプレートについては、大韓民国特許第1109125号に記載されており、本明細書に全体が参照として含まれる。具体的には、前記ウェルプレートに、ウェル当たり1×10
5細胞/cm
2の脂肪幹細胞を接種した後、10% FBS含有DMEM/F−12培地で培養した。培養24時間以内に、各細胞接着表面において、脂肪幹細胞の三次元細胞集合体が形成された。前記形成された三次元細胞集合体に対する線維症モデル特性分析のために、培養1日目(1day)、3日目(3day)及び5日目(5day)の三次元細胞集合体を収集した。また、前記三次元細胞集合体は、約500μm以上の直径を有すると確認された。以下、三次元細胞集合体を「3DCM」と表示する。
【0042】
また、比較例として、脂肪幹細胞を二次元的に培養した。具体的には、組織細胞培養用96ウェルプレート(TCP)に、ウェル当たり1×10
5細胞/cm
2の脂肪幹細胞を接種した後、10% FBS含有DMEM/F12培地で培養し、前記三次元細胞集合体と同一に、線維症モデル特性分析のために、培養1日目(1day)、3日目(3day)及び5日目(5day)の細胞を収集した。以下において、二次元的に培養された細胞を「2D」と表示する。
【0043】
(2)インビトロ線維症モデルの線維症モデリング特性分析
(2.1)脂肪幹細胞由来の三次元細胞集合体の特性分析
脂肪幹細胞由来の三次元細胞集合体の形態学的特性を分析するために、走査電子顕微鏡及びH&E染色を行った。また、前記三次元細胞集合体内部の低酸素状態を確認するために、免疫染色を行った。
【0044】
具体的には、走査電子顕微鏡観察のために、前記収集された三次元細胞集合体を、2.5%グルタアルデヒドで4℃で2時間固定し、脱イオン水中で、1%四酸化オスミウム(osmium tetroxide)で後固定した。固定された三次元細胞集合体を、一連濃度のエタノール(50%、70%、80%、90%及び100%)で2回脱水させた。脱水後、三次元細胞集合体をヘキサメチルジシラザン(HMDS)に2分間浸漬し、一日振動乾燥させた。走査電子顕微鏡イメージを得るために、三次元細胞集合体を、付着性炭素テープに付着し、金でもって、10mAで60分間スパッタコーティングを行う、イメージは、15kVで得て、その結果を
図1Aに示した。
【0045】
また、H&E染色のために、前記収集された三次元細胞集合体を、30分間常温で4% PFAで固定し、一連濃度のエタノール(50%、70%、80%、90%及び100%)で脱水させ、パラフィンワックスに入れた。4μm厚の切片を製造し、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色した。切片を脱パラフィン化させ、蒸溜水で水和させた後、PBSで3回洗浄した。その後、10秒間ヘマトキシリン(Harris;Sigma-Aldrich)に浸漬し、流水で10ないし15分間洗浄し、15秒間エオシンでカウンタ染色を行った後、さらに10ないし15分間洗浄した。その後、スライドに載せ、光顕微鏡で観察し、その結果を
図1Bに示した。
【0046】
また、低酸素免疫蛍光分析のために、前記それぞれの培養時点で収集される前、三次元細胞集合体を、0.1ml溶液内で、10mmolピモニダゾール塩化水素(pimonidazole hydrochloride)(ヒドロキシプローブ(Hypoxyprobe
TM−1)キット、Hypoxyprobe、米国)で2時間インキュベーションした。その後、三次元細胞集合体を収集し、4%パラホルムアルデヒド(paraformaldehyde)で4℃で30分間固定し、OCT化合物(optimal cutting temperature compound)(TISSUE−TEK(登録商標) 4583;Sakura Finetek USA,Inc.)に包埋した。6μmの凍結停止切片をPBSで洗浄し、非特異的結合を防ぐために、PBS中の4% BSAで1時間インキュベーションした。ピモニダゾールは、一次マウス抗体(ヒドロキシプローブ)及び二次ゴート抗マウスアレクサ488抗体(Invitrogen)によって検出された。また、4,5−ジアミジノ−2−ペニルインドール(DAPI)(Vector Laboratories)を核染色のために使用した。対照群は、同一条件下で、一次抗体なしに遂行し、共焦点顕微鏡(Carl Zeiss)で観察し、その結果を
図2に示した。
【0047】
図1は、一具体例による三次元細胞集合体の走査電子顕微鏡イメージ及びH&E染色結果を示した図面である。
【0048】
図2は、一具体例による三次元細胞集合体の低酸素状態を、免疫蛍光染色で確認した結果を示した図面である。
【0049】
図1に示されているように、培養1日目の三次元細胞集合体の外部表面は、H&Eによる染色が稠密に示されるので、纎維性マトリックスによって細胞が連結されているということを確認することができる。培養が続けて進められながら、培養3日目の三次元細胞集合体の細胞間の間隔が減少し、培養5日目の三次元細胞集合体の細胞間隔は、ほとんど存在しないということ(矢印)を確認することができる。
【0050】
また、
図2に示されているように、培養1日目に、DAPI染色細胞が、三次元細胞集合体全体に均一に分布されており、さらに多くの低酸素プローブ陽性細胞が、三次元細胞集合体の内部に存在することを確認することができる。培養が続けて進められながら、培養3日目の三次元細胞集合体の内部に、低酸素プローブ陽性細胞が増加しており、培養5日目の三次元細胞集合体は、外部にも、低酸素プローブ陽性細胞が増加していることを確認することができる。それにより、低酸素が三次元細胞集合体の内部で誘導され、それが外部に拡散したということが分かる。それは、
図1の結果と係わり、三次元細胞集合体の外部表面において、細胞間隔が閉じられることにより、低酸素が誘導されたということが分かる。線維症において、TGF−1が重要な関連因子であり、TGF−1は、低酸素症で過発現される。すなわち、細胞と細胞との間隔が狭まれば、細胞集合体内部への酸素供給が制限され、TGF−1が誘導されて線維症が誘発される。従って、前述の結果により、一具体例による三次元細胞集合体は、線維症の病理学的特性をモデリングするということを確認することができる。
【0051】
(2.2)脂肪幹細胞由来の三次元細胞集合体の線維症関連因子分析
TGFベータは、線維症の主要分子であり、低酸素条件によって誘導され、脂肪幹細胞由来の三次元細胞集合体において、線維症関連因子が発現される否かということを確認するために、TGFベータを含んだ線維症関連因子に対して、ELISAを行った。
【0052】
具体的には、総TGF−β1量を測定するために、培養培地を、正常細胞NCC(normal cell concentration)、二次元的に培養された細胞(2D)、及び三次元細胞集合体(3DCM)から製造した。潜在されたTGF−β1を、免疫反応性形態で活性化させるために、培養上澄み液を1N HCLでインキュベーションし、1.2N NaOH/0.5M HEPESで中和させた。アッセイは、Quantikine ELISAヒトTGF−β1キット(R&D System)を使用し、製造社の指示によって行った。吸光度は、Multisakn(Thermo)を使用して、560nmで測定し、その結果を
図3に示した。
【0053】
また、三次元細胞集合体の線維症関連因子の発現を確認するために、前記収集された三次元細胞集合体から、総RNAをトリゾール試薬(Invitrogen、米国)を使用して、製造社の指示によって抽出した。抽出されたRNAは、ヌクレアーゼ除去水に溶解させ、RNA濃度は、NanoDrop ND1000分光光度計(spectrophotometer)(Thermo Fisher Scientific)を使用して定量化した。相補的DNA合成は、Maxime RT PreMIX(iNtROn)を使用して、製造社の指示によって行った。全てのターゲットプライマーは、バイオニア(Bioneer)から購入して使用した。全ての重合酵素連鎖反応は、ABI Prism7 500(Applied Biosystems)を使用して行い、遺伝子発現レベルは、SYBR Premix Ex Taq(Takara)を使用して定量化した。相対的遺伝子発現レベルは、相対的Ct方法(comparative Ct method)を使用して計算し、その結果を
図4に示した。
【0054】
図3は、一具体例による三次元細胞集合体のTGF−ベータ発現を示した図面である。
【0055】
図4は、一具体例による三次元細胞集合体の線維症関連因子の発現を示した図面である。
【0056】
図3及び
図4に示されているように、脂肪幹細胞由来の三次元細胞集合体は、正常細胞及び2Dに比べ、TGFベータを含んだ線維症関連因子であるラミニン、SMA(smooth muscle actin)、コラーゲンタイプI及びSMAD3の発現が増加していることを確認することができる。
【0057】
(2.3)脂肪幹細胞由来の三次元細胞集合体のコラーゲン沈着分析
脂肪幹細胞由来の三次元細胞集合体の総コラーゲン沈着を分析するために、免疫蛍光染色、免疫組織化学的染色及びヒドロキシプロリン(hydroxyproline)の定量を行い、透過電子顕微鏡で観察した。
【0058】
具体的には、MT染色(Masson Trichrome staining)のために、前記H&E染色と同一に前処理を行い、Masson's trichromeで染色した。三次元細胞集合体において、線維症のパーセントは、ImageJソフトウェア(NIH)を使用して、デジタルイメージ内の染色されたコラーゲン面積のピクセル数をカウントして決定し、その結果を
図5Aに示した。また、ヒドロキシプロリンアッセイを行うために、二次元的に培養された細胞、及び三次元細胞集合体をRIPAバッファを使用して準備し、12N HCLで120℃で3時間加水分解した。アッセイは、製造社の指示により、ヒドロキシプロリンキット(Sigma-Aldrich)を使用して行った。吸光度は、Multisakn(Thermo)を使用して、560nmで測定し、その結果を
図5Bに示した。
【0059】
また、また免疫蛍光染色(IF:immunofluorescence)のために、前記H&E染色のように、三次元細胞集合体を固定し、OCT化合物(optimal cutting temperature compound)(TISSUE−TEK(登録商標) 4583;Sakura Finetek USA、Inc.)に包埋し、−28℃で凍結し、6μm厚に切った。非特異的な結合を避けるために、切片を常温で1時間BSA(4%)でインキュベーションした。その後、4℃でコラーゲンIに対する一次抗体(Rabit、Abicam)で一晩インキュベーションした。その後、試料をPBSで洗浄し、1% BSA内の相応する蛍光コンジュゲート二次抗体(Donkey anti-rabbit)(Life Technologies)で1時間常温でインキュベーションした。また、4,5−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)(Vector Laboratories)を核染色のために使用した。対照群は、同一条件下で、一次抗体なしに遂行し、共焦点顕微鏡(Carl Zeiss)で観察し、その結果を
図6に示した。
【0060】
また、免疫組織化学的染色のために、前記H&E染色と同一に前処理した。フィブロネクチン(FN)及びラミニン(LN)を、それぞれマウス単一クローン抗体、並びにFN及びLNに対するゴート多クーロン抗体(Santa cruz Biotechnology)を使用して検出した。αSMA分析のために、マウス単一クローン抗体(Dako)を使用して検出した。4℃で、それらそれぞれの一次抗体で一晩インキュベーションした後、切片をホースラディッシュラベル抗マウス(horse radish labeled anti-mouse)(FN及びαSMA)、並びに抗ゴート(LN)二次抗体(Vector)で常温で1時間インキュベーションした。陽性染色は、ジアミノベンジジン(diaminobenzidine)(DAB、Vector)で視覚化させた。陰性対照群は、同一条件下で、一次抗体なしに遂行した。切片をヘマトキシリンでカウンタ染色し、一般的な光学顕微鏡下で観察し、その結果を
図7に示した。
【0061】
また、透過電子顕微鏡観察のために、前記走査電子顕微鏡観察のように、試料を前処理した。追加して固定された三次元細胞集合体を、エポキシレジン(epoxy resin)で浸潤させて包埋し、60℃で24時間重合した。超薄切片(ultrathin section)を超ミクロトーム(ultramicrotome)(Ultra cut C、Leica CO.Ltd)で製造し、酢酸ウラニル及びクエン酸鉛で染色した。イメージは、凍結TEM(cryoTecanai F20、FEI Co.Ltd)を使用して観察し、その結果を
図8に示した。
【0062】
図5は、一具体例による三次元細胞集合体のコラーゲン沈着を、免疫蛍光染色及びヒドロキシプロリン含量分析で確認した結果を示した図面である。
【0063】
図6は、一具体例による三次元細胞集合体の第1型コラーゲン沈着を、免疫蛍光染色で確認した結果を示した図面である。
【0064】
図7は、一具体例による三次元細胞集合体の第1型コラーゲン沈着を、免疫化学的染色で確認した結果を示した図面である。
【0065】
図8は、一具体例による三次元細胞集合体を、透過電子顕微鏡で観察したイメージを示した図面である。
【0066】
図5に示されているように、MT染色において、コラーゲンが三次元細胞集合体で多数染色されているということを確認することができ、ヒドロキシプロリン含量も、二次元的に培養された細胞に比べ、三次元細胞集合体で増加しているということを確認することができる。
【0067】
また、
図6に示されているように、免疫蛍光染色において、コラーゲンタイプIが、三次元細胞集合体で顕著に増加しているということを確認することができる。
【0068】
また、
図7に示されているように、免疫化学的染色において、αSMAが三次元細胞集合体で顕著に増加しているということを確認することができる。該αSMAは、筋線維芽細胞の典型的なマーカーであり、コラーゲンタイプIは、線維症において、筋線維芽細胞から合成されるので、前述の結果は、
図6の結果と一致するということが分かる。
【0069】
また、
図8に示されているように、透過電子顕微鏡イメージにおいて、三次元細胞集合体で培養期間が長くなるにつれ、漸進的にコラーゲン纎維質(fiber)及びコラーゲン沈着が増加するということを確認することができる。詳細には、さらに厚いコラーゲン纎維質が、培養5日目に観察され(矢印)、それは、コラーゲン架橋に起因したものである。また、培養5日目に、三次元細胞集合体の内部に、本来そのままの細胞構造がほぼ観察されていないということが分かる。前述の結果により、細胞周辺において、コラーゲン纎維質がさらに厚くなり、それが、栄養分の輸送を防ぎ、細胞死滅を起こし、従って、一具体例による三次元細胞集合体は、線維症の病理学的特性をモデリングするということを確認することができる。
【0070】
(2.4)脂肪幹細胞由来の三次元細胞集合体の細胞生存率及び細胞死滅分析
コラーゲン沈着は、線維症において、最終的に細胞の死滅を誘導するので、かような特性が、脂肪幹細胞由来の三次元細胞集合体でも示されるか否かということを確認するために、LDHアッセイ及び生存/死滅アッセイ(live/dead assay)を行った。
【0071】
具体的には、LDHアッセイを行うために、正常細胞NCC(normal cell concentration)、二次元的に培養された細胞(2D)、及び三次元細胞集合体(3DCM)の培養培地中で、絶対的ラクテートジヒドロゲナーゼ(LDH)放出を測定した。前記測定は、LDHアッセイキット(Promega)を使用して、製造社の指示によって行った。吸光度は、Multisakn(Thermo)を使用して490nmで測定し、その結果を
図9Aに示した。また、生存/死滅アッセイは、製造社の指示によって、生存/死滅アッセイキット(Molecular probes)を使用して行った。要約すれば、収集された三次元細胞集合体を、1μlの緑色蛍光核酸染色溶液(SYTO 10)、及び1μlの赤色蛍光染色溶液(ethidium homodimer−2)を含む1mlのHEPES−バター塩水(HBSS)で処理し、CO
2培養器で30分間培養した。その後、三次元細胞集合体をPBSで3回洗浄し、30分間4%PFAで固定し、OCT化合物(optimal cutting temperature compound)(TISSUE−TEK(登録商標) 4583;Sakura Finetek USA、Inc.)に包埋し、−28℃で凍結して10μm厚に切った。全体三次元細胞集合体を完全に切り取り、各試料の中間及び外側部分から2個のスライドを選択した。切片は共焦点顕微鏡(Carl Zeiss)を使用して分析され、その結果を
図9Bに示した。
【0072】
図9は、一具体例による三次元細胞集合体の細胞生存率及び細胞死滅を分析した結果を示した図面である。
【0073】
図9Aに示されているように、LDHアッセイにおいて、三次元細胞集合体は、正常培養細胞及び2Dに比べ、LDHレベルが上昇しているということを確認することができる。また、
図9Bに示されているように、
図9Aの結果と一致するように、三次元細胞集合体において、細胞死滅が視覚的に検証された。
【0074】
以上の結果により、一具体例による三次元細胞集合体は、線維症の病理学的特性を示すので、インビトロ線維症モデルとして有用に使用されるということが分かる。