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特許6902788インビトロ線維症モデル、その製造方法及び該用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6902788
(24)【登録日】2021年6月24日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】インビトロ線維症モデル、その製造方法及び該用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/077 20100101AFI20210701BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20210701BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20210701BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20210701BHJP
   C12N 11/02 20060101ALN20210701BHJP
   C12M 3/00 20060101ALN20210701BHJP
【FI】
   C12N5/077
   G01N33/50 Z
   G01N33/15 Z
   C12Q1/02
   !C12N11/02
   !C12M3/00 A
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-567167(P2017-567167)
(86)(22)【出願日】2016年5月25日
(65)【公表番号】特表2018-523995(P2018-523995A)
(43)【公表日】2018年8月30日
(86)【国際出願番号】KR2016005501
(87)【国際公開番号】WO2016208879
(87)【国際公開日】20161229
【審査請求日】2019年5月22日
(31)【優先権主張番号】10-2015-0089090
(32)【優先日】2015年6月23日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517119589
【氏名又は名称】エス−バイオメディックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】キム,サン ホン
(72)【発明者】
【氏名】パク,キ ドク
(72)【発明者】
【氏名】イ,カン ウォン
(72)【発明者】
【氏名】ラジャンガム,サナベル
【審査官】 山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0134965(US,A1)
【文献】 国際公開第2015/018698(WO,A1)
【文献】 THE ANATOMICAL RECORD,2014年,297,2289-2298
【文献】 Biomaterials,2012年,33,1748-1758
【文献】 Biofabrication,2012年,4(2),025004
【文献】 Cell and Tissue Research,2014年,358,395-405
【文献】 Cytokine,2003年,24,25-35
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12Q
C12M
G01N
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉細胞から分化させた細胞集合体を含むインビトロ線維症モデルであって、
前記細胞集合体は、前記間葉細胞を、培養容器表面に固定された前記間葉細胞に接着活性を有する成長因子との相互作用によって疎水性を帯びる培養容器に接着させることにより、分化させたものであり、
前記間葉細胞は、前記間葉細胞が前記細胞集合体に分化した後に、追加して3日ないし10日培養されており、さらに前記細胞集合体は、線維症の病理学的特徴を示す、インビトロ線維症モデル。
【請求項2】
前記間葉細胞は、脂肪幹細胞、間葉系幹細胞、骨髄幹細胞及び線維芽細胞からなる群から選択されたいずれか一つであることを特徴とする請求項1に記載のモデル。
【請求項3】
前記細胞集合体は、球形であり、直径が300ないし2,000μmであることを特徴とする請求項1に記載のモデル。
【請求項4】
前記線維症の病理学的特徴は、前記細胞集合体、または前記細胞集合体内の細胞において、
過度な結合組織の形成と、
コラーゲン沈着と、
TGF(transforming growth factor)−ベータ、Smad、ラミニン及びSMA(smooth muscle actin)からなる群から選択されたいずれか1以上の線維症関連分子の発現、分泌、または合成の増加と、
細胞の死滅増大と、からなる群から選択されたいずれか一つ、またはそれらの組み合わせであることを特徴とする請求項1に記載のモデル。
【請求項5】
前記線維症は、特発性肺線維症(IPF)、肺線維症、間質性肺疾患、非特異的間質性肺炎(NSIP)、通常性間質性肺炎(UIP)、心内膜心筋線維症、縦隔線維症、骨髄線維症、後腹膜線維症、腎原性全身線維症、クーロン病、陳旧性心筋梗塞症、皮膚硬化症、神経線維腫症、ヘルマンスキー・パドラック症侯群、糖尿腎臓病症、腎臓線維症、肥大心筋病症(HCM)、高血圧関連腎臓病症、腎臓細尿管間質性線維症、糸球体硬化症(FSGS)、放射線誘導線維症、子宮筋腫、アルコール性肝疾患、肝脂肪症、肝線維症、肝硬変症、C型肝炎ウイルス(HCV)感染、慢性器官移植拒否、皮膚の纎維性疾患、ケロイド瘢痕、デュプイトラン拘縮、エーラス・ダンロス症侯群、異栄養性表皮水症、口腔粘膜下線維症及び纎維増殖障害からなる群から選択されたいずれか一つであることを特徴とする請求項1に記載のモデル。
【請求項6】
間葉細胞を、培養容器表面に固定された間葉細胞に接着活性を有する成長因子との相互作用によって疎水性を帯びる培養容器に接着させて培養し、細胞集合体を形成する段階と、
前記形成された細胞集合体を、3日ないし10日追加して培養し、前記細胞集合体において、線維症の病理学的特徴を形成する段階と、を含むインビトロ線維症モデルを製造する方法。
【請求項7】
前記細胞集合体を形成する段階は、前記接着された間葉細胞の密度が上昇するにつれ、間葉細胞が培養容器から脱着されて細胞集合体を形成することを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記培養容器の表面は、シラン化された表面、炭化水素コーティングされた表面、高分子表面、及び金属表面で構成された郡から選択される疎水性表面であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記成長因子は、ポリペプチドリンカを利用して、ポリペプチドリンカのカルボキシル末端に、成長因子のアミノ末端が融合されているポリペプチドリンカ・成長因子組み換えタンパク質形態で、培養容器表面に固定されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリペプチドリンカは、マルトース結合タンパク質(MBP)、ヒドロフォビン及び疎水性細胞透過性ペプチド(CPPs)で構成された群から選択されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1のインビトロ線維症モデルに被検物質を処理する段階と、
前記インビトロ線維症モデルの細胞集合体、または前記細胞集合体内の細胞において、無処理対照群と比較し、線維症の病理学的特徴の改善または治療を示す被検物質を、線維症治療のための候補物質として選別する段階と、を含む線維症治療剤をスクリーニングする方法。
【請求項12】
前記線維症の病理学的特徴は、前記細胞集合体、または前記細胞集合体内の細胞において、
過度な結合組織の形成と、
コラーゲン沈着と、
TGF(transforming growth factor)−ベータ、Smad、ラミニン及びSMA(smooth muscle actin)からなる群から選択されたいずれか1以上の線維症関連分子の発現、分泌、または合成の増加と、
細胞の死滅増大と、からなる群から選択されたいずれか一つ、またはそれらの組み合わせであることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インビトロ線維症モデル、その製造方法及び該用途に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、全世界の500万人以上の人が線維症で苦しんでいるし、毎年10万人の新たな患者が線維症と診断されており、毎年4万人の患者が線維症で死亡している。
【0003】
線維症は、器官の機能障害及び死滅を起こす過度な結合組織の発達と特徴づけられる。線維症は、一般的に多様な器官、例えば、腎臓、肝臓、肺、心臓、皮膚または骨髄に影響を与える。それらのうち、腎臓細尿管間質性線維症、または糸球体硬化症を含む腎臓線維症は治療し難く、非可逆的であると知られている。
【0004】
一方、線維症に対する実験動物モデルとして、マウスにブレオマイシンを投与したり、形質転換を介して、肺線維症などの動物モデルを製造したりする方法が知られているが、インビトロ(in vitro)システムにおいて、纎維性組織を研究して治療剤を開発するためのモデルについては、知られているところがない。従って、線維症治療剤を開発するために、生体内環境を良好に模写し、線維症の病理学的特性を示すインビトロ線維症モデルの開発が要求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一様相は、間葉細胞から分化された細胞集合体(cell cluster)を含み、前記細胞集合体は、線維症の病理学的特徴を示すインビトロ線維症モデルを提供するものである。
【0006】
他の様相は、間葉細胞を、表面が疎水性を帯びる培養容器に接着させて培養し、細胞集合体を形成する段階と、前記形成された細胞集合体を少なくとも12時間以上追加して培養し、前記細胞集合体において、線維症の病理学的特徴を形成する段階と、を含むインビトロ線維症モデルを製造する方法を提供するものである。
【0007】
さらに他の様相は、前記インビトロ線維症モデルに被検物質を処理する段階と、前記インビトロ線維症モデルの細胞集合体、または前記細胞集合体内の細胞において、無処理対照群と比較し、線維症の病理学的特徴の改善または治療を示す被検物質を、線維症治療のための候補物質として選別する段階と、を含む線維症治療剤をスクリーニングする方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は、間葉細胞から分化された細胞集合体を含み、前記細胞集合体は、線維症の病理学的特徴を示すインビトロ線維症モデルを提供する。
【発明の効果】
【0009】
一様相によるインビトロ線維症モデル及びその製造方法によれば、三次元細胞集合体であり、生体内環境を良好に模写することができ、線維症の表現型、すなわち、線維症で示される病理学的特性を示すので、線維症の研究または治療剤スクリーニング方法に有用に使用されるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】一具体例による三次元細胞集合体の走査電子顕微鏡イメージを示した写真である。
図1B】一具体例による三次元細胞集合体のH&E染色結果を示した写真である。
図2】一具体例による三次元細胞集合体の低酸素状態を、免疫蛍光染色で確認した結果を示した図面である。
図3】一具体例による三次元細胞集合体のTGF−ベータ発現を示した図面である。
図4】一具体例による三次元細胞集合体の線維症関連因子の発現を示した図面である。
図5A】一具体例による三次元細胞集合体のコラーゲン沈着を、免疫蛍光染色及びヒドロキシプロリン含量分析で確認した結果を示した図面である。
図5B】一具体例による三次元細胞集合体のコラーゲン沈着を、免疫蛍光染色及びヒドロキシプロリン含量分析で確認した結果を示したグラフである。
図6】一具体例による三次元細胞集合体の第1型コラーゲン(collagen type I)沈着を、免疫蛍光染色で確認した結果を示した図面である。
図7】一具体例による三次元細胞集合体の第1型コラーゲン沈着を、免疫化学的染色で確認した結果を示した図面である。
図8】一具体例による三次元細胞集合体を、透過電子顕微鏡で観察したイメージを示した図面である。
図9A】一具体例による三次元細胞集合体の細胞生存率及び細胞死滅を分析した結果を示した図面である。
図9B】一具体例による三次元細胞集合体の細胞生存率及び細胞死滅を分析した結果を示した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
一様相は、間葉細胞から分化された細胞集合体を含み、前記細胞集合体は、線維症の病理学的特徴を示すインビトロ(in vitro)線維症モデルを提供する。
【0012】
本明細書において用語「間葉細胞(mesenchymal cells)」は、自家増殖が可能であり、多様な系統(lineages)に分化することができる多能性幹細胞であり、中胚葉と内胚葉との間を占める疎性組織、結合組織、真皮、皮下組織、骨、軟骨、骨髄、骨格筋、平滑筋、心筋、血液細胞、リンパ節、リンパ管、血管、脾臓、胃などに分化することができる中胚葉性の未分化細胞を意味する。前記間葉細胞は、対象体、例えば、ヒトなどを含む哺乳類から分離されたものでもあり、脂肪幹細胞、間葉系幹細胞、間葉基質細胞、骨髄幹細胞または線維芽細胞を含んでもよい。前記細胞で言及された用語「分離された」は、自然に発生する細胞内の環境とは異なる環境に存在する細胞を意味する。例えば、該細胞は、自然に多細胞器官で発生し、前記細胞が多細胞器官から除去されたならば、該細胞は、「分離された」のである。
【0013】
用語「細胞集合体(cell cluster)」または「三次元細胞集合体」(「細胞組織体」と互換的に使用される)は、2以上の細胞が密集した状態をいい、組織状態でもあり、単一細胞状態でもある。それぞれの細胞集合体は、組織自体またはその一部、または単一細胞の集合体としても存在し、間葉細胞から分化された細胞類似組織体を含んでもよい。また、用語「三次元(three-dimension)」は、二次元ではない幾何学的な3個のパラメータ(例えば、深さ、幅、高くまたはX,Y,Z軸)モデルを有する立体を意味し、従って、一具体例による間葉細胞から分化された細胞集合体は、三次元培養、すなわち、培養容器で脱着され、浮遊状態で培養され、細胞が増殖するにつれ、立体的に球形、シート(sheet)、またはそれと類似した三次元形態(例えば、類似組織体)を有する細胞集合体を意味する。前記細胞集合体は、直径が300μm以上、例えば、300ないし2,000μm、400ないし1,500μm、400ないし1,000μmでもある。また、前記細胞集合体は、間葉細胞から分化された血管細胞を含み、例えば、血管細胞を、2×104ないし1×105細胞/cm2含むものでもある。
【0014】
前記間葉細胞から細胞集合体への分化は、前記間葉細胞を、表面が疎水性を帯びる培養容器に接着させて培養することにより、分化させることができる。詳細には、前記間葉細胞、を表面が疎水性を帯びる培養容器に接着させて培養すれば、前記接着された間葉細胞の密度が上昇するにつれ、間葉細胞が培養容器から脱着され、細胞集合体を形成するようになる。また、前記培養は、間葉細胞から細胞集合体に分化された後、追加して少なくとも12時間以上、または少なくとも1日以上、例えば、12時間ないし15日、1日ないし15日、3日ないし10日、3日ないし7日、または5日ないし7日さらに培養されたものでもある。前記培養して細胞集合体を形成する方法の詳細な説明は、後述する。
【0015】
前記線維症の病理学的な特徴は、線維症特異的であるか非特異的である症状;線維症特異的であるか非特異的である組織学的な形態特性、分子生物学的特性または病理学的特性を含んでもよい。例えば、線維症の病理学的な特徴は、線維症がない細胞または組織に比べ、過度な結合組織の形成;コラーゲン沈着;線維症関連分子の発現、分泌または合成の増加;及び細胞の死滅増大からなる群から選択されたいずれか一つ、またはそれらの組み合わせを含んでもよい。前記線維症関連分子は、線維症特異的であるか非特異的であるマーカー遺伝子またはタンパク質を含んでもよく、例えば、TGF(transforming growth factor)−ベータ、Smad、ラミニン及びSMA(smooth muscle actin)からなる群から選択されたいずれか1以上のものでもある。前記TGF−ベータは、TGF−β1,2または3を含み、前記Smadは、Smad1ないし8、R−Smad、Co−SmadまたはI−Smadを含んでもよい。前記SMAは、筋線維芽細胞のマーカーであり、線維症において、コラーゲン沈着は、筋線維芽細胞に起因したものでもある。従って、一具体例による前記細胞集合体、または前記細胞集合体内の細胞は、前述のような線維症の病理学的な特徴を示すことができる。
【0016】
本明細書において用語「線維症(fibrosis)」は、器官や組織に、過度な纎維性結合組織が形成されることを意味する。前記線維症は、特発性肺線維症(IPF)、肺線維症、間質性肺疾患、非特異的間質性肺炎(NSIP)、通常性間質性肺炎(UIP)、心内膜心筋線維症、縦隔線維症、骨髄線維症、後腹膜線維症、進行性腫塊性線維症、腎原性全身線維症、クーロン病、陳旧性心筋梗塞症、皮膚硬化症/全身硬化症、神経線維腫症、ヘルマンスキー・パドラック症侯群、糖尿腎臓病症、腎臓線維症、肥大心筋病症(HCM)、高血圧関連腎臓病症、腎臓細尿管間質性線維症、糸球体硬化症(FSGS)、放射線誘導線維症、子宮筋腫(fibroids)、アルコール性肝疾患、肝脂肪症、肝線維症、肝硬変症、C型肝炎ウイルス(HCV)感染、慢性器官移植拒否、皮膚の纎維性疾患、ケロイド瘢痕、 デュプイトラン拘縮、エーラス・ダンロス症侯群、異栄養性表皮水泡症、口腔粘膜下線維症及び纎維増殖障害からなる群から選択されたいずれか一つを含んでもよい。
【0017】
一具体例による、間葉細胞から分化された細胞集合体は、三次元的に培養されたものであるために、生体内環境を良好に模写することができ、線維症の表現型、すなわち、線維症で示される病理学的特性を示すので、インビトロ線維症モデルに有用に使用される。本明細書において用語「線維症モデル(fibrosis model)」は、線維症を有する器官、組織または細胞の構造や形状を模式化したものを意味し、線維症を有する器官間、組織間または細胞間の相互作用、構造や形態との関連性を明らかにするために考慮された線維症模型を意味する。従って、該線維症モデルは、線維症特異的であるか非特異的である表現型を示すか、あるいは線維症特異的であるか非特異的であるマーカー遺伝子またはタンパク質の発現を示すことができる。
【0018】
他の様相は、間葉細胞を、表面が疎水性を帯びる培養容器に接着させて培養し、細胞集合体を形成する段階と、前記形成された細胞集合体を、少なくとも12時間以上追加して培養し、前記細胞集合体において、線維症の病理学的特徴を形成する段階と、を含むインビトロ線維症モデルを製造する方法を提供する。
【0019】
前記間葉細胞、細胞集合体及び線維症については、前述の通りである。
【0020】
前記間葉細胞は、疎水性表面との細胞・基質間相互作用によって、培養容器に接着されるものでもある。前記間葉細胞(例:脂肪幹細胞)は、例えば、ヒト脂肪組織から分離することができ、ヒト脂肪組織は、成熟した脂肪細胞と、それを取り囲んだ結合組織を含むものを意味し、患者自身、または表現型が一致する他人から容易に得ることができる。このとき、体内位置に係わりなく、脂肪を採取するときに使用される全ての方法によって得られる全ての脂肪組織を使用することができ、例えば、皮下脂肪組織、骨髄脂肪組織、腸間膜脂肪組織、胃腸脂肪組織または後腹膜脂肪組織を含んでもよい。前述のヒト脂肪組織から脂肪幹細胞は、公知の方法によって分離される。例えば、国際特許公開WO2000/53795号及び同WO2005/04273号に開示されているように、脂肪組織から、脂肪吸入(liposuction)、沈降、コラゲナーゼ(collagenase)などの酵素処理、遠心分離による赤血球などの浮遊細胞除去などの過程を介して獲得することができる。それ以外にも、多様な組織から、公知の方法により、間葉細胞、例えば、間葉系幹細胞、間葉基質細胞、骨髄幹細胞または線維芽細胞を分離することができる。
【0021】
前述のところのように分離された間葉細胞は、数回の継代培養にも、継代数(passage number)が16に至るまで優秀な増殖率を示す。従って、ヒト組織から分離された多分化能間葉細胞は、その後の三次元細胞接合体形成に、1継代培養された細胞をそのまま使用するか、あるいは60%稠密度(confluency)で10継代以上培養された細胞を使用することができる。
【0022】
前述のところのように準備された間葉細胞を、表面が疎水性を帯びる培養容器に接種させて培養すれば、培養容器の疎水性表面によって、間葉細胞と培養容器との間に細胞・基質間相互作用がなされ、物理的吸着によって、間葉細胞が培養容器表面に接着された状態で増殖する。その後、前記細胞集合体を形成する段階は、前記接着された間葉細胞の密度が上昇するにつれ、間葉細胞が培養容器から脱着され、細胞集合体を形成するのである。
【0023】
本発明に適する、表面が疎水性を帯びる培養容器は、一般的な細胞培養容器に、疎水性を付与する高分子で表面処理されるか、かような高分子によって製造された細胞培養容器でもある。かような疎水性高分子としては、ポリスチレン(polystyrene)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、脂肪族ポリエステル系高分子であり、ポリ(L−乳酸)(PLLA)、ポリ(D,L−乳酸)(PDLLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(カプロラクトン)(PCL)、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)、ポリジオキサノン(PDS)、ポリトリメチレンカーボネートのうちから選択された1種であるか、あるいはそれら単位の共重合体であるポリ(乳酸−co−グリコール酸)(PLGA)、ポリ(L−乳酸−co−カプロラクトン)(PLCL)、ポリ(グリコール酸−co−カプロラクトン)(PGCL)、またはそれらの誘導体などを例として挙げることができる。また、培養容器は、疎水性表面であり、シラン化された表面(silanized surface)、炭素ナノチューブ(CNT)表面、炭化水素コーティングされた表面(hydrocarbon coated surface)、または金属(例えば、ステンレススチール、チタン、金、白金など)表面を有するものでもある。
【0024】
また、本発明の他の具体例において、間葉細胞と疎水性培養容器表面との相互作用による物理的吸着より効果的に、間葉細胞を培養容器に接着させるために、間葉細胞に接着活性を有する成長因子との相互作用によって、培養容器に接着される。例えば、培養容器表面に、前記成長因子を固定させた後、固定された成長因子と間葉細胞との生化学的相互作用を利用することができる。
【0025】
前記成長因子は、間葉細胞に接着活性を有するものを含んでもよく、その例としては、血管内皮成長因子(VEGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、表皮成長因子(EGF)、血小板誘導内皮成長因子(PDGF)、肝細胞成長因子(HGF)、インシュリン類似成長因子(IGF)またはヘパリン結合ドメイン(HBD)などを含んでもよい。前記成長因子は、5ないし100μg/mlの濃度で培養容器表面に固定される。
【0026】
該培養容器表面に対する成長因子の固定化は、ポリペプチドを固体基質表面に固定するのに利用されるものであり、当該技術分野に公知された方法によって達成されるが、物理的な吸着、非選択的な化学反応による共有結合などを利用することができる。かような固定化方法の例としては、タンパク質にビオチン(biotin)を結合させた後、このタンパク質をストレプタビジン(streptavidin)やアビジン(avidin)で処理された固体表面に適用させることにより、ビオチン・ストレプタビジン/アビジン結合を利用して、タンパク質を固定する方法;プラズマを利用して、基板上に活性基(化学結合によって、タンパク質を固定するための化学的作用基)を集積させ、タンパク質を固定する方法;固体基板表面に、ゾル・ゲル(sol-gel)法を利用して、比表面積が十分に増加した多孔性ゾル・ゲル薄膜を形成した後、前記多孔性薄膜に、物理的な吸着によってタンパク質を固定する方法;プラズマ反応によって、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)表面に、抗血栓性タンパク質を固定する方法;陽イオン性アミノ残基が、2個の酵素に2個以上連続的に融合された酵素を結合させ、タンパク質を固定する方法;基質を利用して、固体上支持台に結合されている疎水性高分子層にタンパク質を固定する方法;プラスチック表面において緩衝成分を利用して、タンパク質を固定する方法;アルコール溶液で、疎水性表面を有する固体表面にタンパク質を接触させ、タンパク質を固定する方法などが知られている。
【0027】
一具体例において、組み換え的な大量発現、及び容易な精製が可能なポリペプチドリンカを使用し、前記ポリペプチドリンカのカルボキシル末端に、成長因子のアミノ末端が融合されているポリペプチドリンカ・成長因子組み換えタンパク質形態で固定化を行うことができる。
【0028】
本発明に適するポリペプチドリンカは、そのカルボキシル末端を介して、成長因子のアミノ末端と結合し、そのアミノ末端に存在する疎水性ドメインを介して、疎水性表面を有する培養容器に吸着することができ、組み換え的な大量発現、及び容易な精製が可能であり、間葉細胞の培養に影響を及ぼさないものを含む。かようなポリペプチドリンカとしては、マルトース結合タンパク質(MBP:maltose-binding protein)、ヒドロフォビン(hydrophobin)または疎水性細胞透過性ペプチド(cPPs:hydrophobic cell penetrating peptides、CPPs)などを含んでもよい。
【0029】
前述のように、間葉細胞を、表面が疎水性を帯びる培養容器に、細胞・基質間相互作用によって物理的に接着させて培養するか、あるいは前記培養容器表面に固定された成長因子との生化学的相互作用によって、成長因子に結合された状態で培養すれば、初期には、間葉細胞が培養容器表面に接着された状態で増殖する。前記間葉細胞は、1×103ないし1×107細胞/cm2の濃度で播種される。また、前記培養温度は、35℃ないし38.5℃でもあり、細胞集合体を形成するための培養期間は、4時間ないし2日、例えば、1日でもある。前記培養に適する培地は、間葉細胞の培養及び/または分化に一般的に使用される培地であり、血清あるいは無血清を含んだものであるならば、いかなるものでも制限なしに使用される、例えば、DMEM(Dulbeco's modified eagle medium)、Ham’s F12、それらの混合物などに血清を添加した培地を使用することができる。
【0030】
その後、間葉細胞が培養容器表面に接着された状態で増殖していて、高い細胞密度で、細胞・細胞間相互作用が細胞・基質間相互作用より強くなれば、間葉細胞が培養容器表面から脱着され、培養液内に浮遊された状態で増殖しながら、互いに凝集され、肉眼で検出可能な大きさの浮遊する三次元細胞集合体を形成することができる。
【0031】
一具体例において、表面が疎水性を帯び、それに対する細胞接着が相対的に弱く起きる培養容器として、ポリスチレンで製造された非組織細胞培養用プレート(non-tissue culture plate)に間葉細胞を接種させ、三次元細胞集合体の形成を誘導することができる。ポリスチレンNTCPに接種された間葉細胞は、初期に、細胞・基質間相互作用によって、プレート表面で弱い細胞接着が誘導されて接着された状態で、二次元単層で増殖していて、培養時間経過によって細胞の密度が高くなれば、細胞・基質間相互作用より細胞・細胞間相互作用がさらに強く作用し、二次元単層培養された細胞が培養容器表面から脱着される。このとき、初期には、間葉細胞が培養容器表面に接着された状態で培養され、初期から細胞接着が起きず、浮遊された状態で培養されれば、形成される三次元細胞集合体の大きさが小さく、ほとんどの細胞が死滅する現象を示す。培養容器から脱着された細胞を、培養液内に浮遊された状態でさらに培養すれば、細胞・細胞間相互作用によって細胞が互いに凝集されながら、三次元細胞集合体が形成される。かように形成される三次元細胞集合体は、初期には、細胞が弱く結合されているが、培養時間の経過により、細胞・細胞間相互作用によって、細胞集合体を形成している細胞間接着力が強化され、稠密な(compact)三次元細胞集合体を形成する。
【0032】
また、前記形成された細胞集合体を、追加して少なくとも12時間以上培養すれば、細胞集合体、または細胞集合体内の細胞において、線維症の病理学的特徴が形成される。前記追加的な培養時間は、少なくとも12時間以上または少なくとも1日以上、例えば、12時間ないし15日、1日ないし15日、3日ないし10日、3日ないし7日、または5日ないし7日でもある。前記線維症の病理学的特徴については、前述の通りである。
【0033】
前記三次元細胞集合体は、形成された三次元細胞集合体形態で増殖しながら、血管内皮細胞に分化される。間葉細胞が三次元細胞集合体形態に培養されれば、細胞集合体が形成されることにより、内部への酸素透過が減少し、それにより、低酸素状態が組成される。細胞集合体内部に組成された低酸素状態は、血管内皮細胞の分化に影響を及ぼす多様な血管新生促進因子の生成を誘導し、その結果として、血管内皮細胞への分化がなされる。
【0034】
前述のところのように、培養容器表面に間葉細胞を接着させて培養して形成された三次元細胞集合体は、肉眼で検出可能な大きさ、例えば、300μmないし2,000μmの直径を有しており、濾過または遠心分離などの方法によって容易に回収することができる。かように回収された三次元細胞集合体は、コラゲナーゼ、トリプシンまたはディスパーゼ(dispase)を利用した酵素学的処理、圧力を利用した機械的な処理、またはそれらの併用処理によって、集合体形態を瓦解させ、単一細胞形態で使用するか、あるいは三次元細胞集合体形態そのままで使用することができる。
【0035】
さらに他の様相は、前記インビトロ線維症モデルに被検物質を処理する段階と、前記インビトロ線維症モデルの細胞集合体、または前記細胞集合体内の細胞において、無処理対照群と比較し、線維症の病理学的特徴の改善または治療を示す被検物質を、線維症治療のための候補物質として選別する段階と、を含む線維症治療剤をスクリーニングする方法を提供する。
【0036】
前記間葉細胞、細胞集合体及び線維症については、前述の通りである。
【0037】
前記スクリーニング方法において、被検物質は、低分子化合物、抗体、アンチセンスヌクレオチド、小干渉RNA(short interfering RNA)、短いヘアピンRNA(short hair pin RNA)、核酸、タンパク質、ペプチド、その他抽出物及び天産物から構成された群から選択されるいずれか一つでもある。
【0038】
また、前記スクリーニング方法において、前記線維症の病理学的な特徴は、線維症特異的であるか非特異的である症状;線維症特異的であるか非特異的である組織学的な形態特性、分子生物学的特性または病理学的特性を含んでもよい。例えば、線維症の病理学的な特徴は、線維症がない細胞または組織に比べ、過度な結合組織の形成;コラーゲン沈着;線維症関連分子の発現、分泌または合成の増加;及び細胞の死滅増大からなる群から選択されたいずれか一つ、またはそれらの組み合わせを含んでもよい。前記線維症関連分子は、線維症特異的であるか非特異的であるマーカー遺伝子またはタンパク質を含んでもよく、例えば、TGF(transforming growth factor)−ベータ、Smad、ラミニン及びSMA(smooth muscle actin)からなる群から選択されたいずれか1以上のものでもある。前記TGF−ベータは、TGF−β1,2または3を含み、前記Smadは、Smad1ないし8、R−Smad、Co−SmadまたはI−Smadを含んでもよい。前記SMAは、筋線維芽細胞のマーカーであり、線維症において、コラーゲン沈着は、筋線維芽細胞に起因したものでもある。従って、例えば、前記線維症治療のための候補物質を選別する段階は、被検物質が無処理対照群に比べ、細胞集合体、または細胞集合体内の細胞の結合組織の形成、コラーゲン沈着、またはコラーゲン纎維質の厚みを低減させる場合、または細胞の生存率を上昇させる場合、前記被検物質を、線維症治療のための候補物質として選別するものでもある。前記線維症の表現型、すなわち、結合組織の形成いかん、コラーゲン沈着いかん、またはコラーゲン纎維質の厚み測定は、通常の当業者に公知されたH&E染色、MT染色、免疫蛍光染色または免疫組織化学的染色などを使用して確認することができ、細胞の生存率程度または死滅程度は、LDHアッセイまたは生存/死滅アッセイ(live/dead assay)を使用して確認することができる。また、前記被検物質が、線維症関連分子、すなわち、線維症特異的であるか非特異的であるマーカー遺伝子またはタンパク質の発現を増減させる場合、前記被検物質を、線維症治療のための候補物質として選別するものでもある。例えば、前記被検物質が、TGF−ベータ、Smad、ラミニンまたはSMAの発現を低減させる場合、前記被検物質は、線維症治療のための候補物質として選別される。前記発現を測定する方法は、逆転写重合酵素連鎖反応(RT−PCR)、酵素免疫分析法(ELISA)、免疫組織化学、ウエスタンブロット(western blotting)及び流細胞分析法(FACS)で構成された群から選択されたいずれか一つを含んでもよい。
【0039】
以下、本発明について、実施例によってさらに詳細に説明する。しかし、それら実施例は、本発明について例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲は、それら実施例によって制限されるものではない。
【実施例】
【0040】
実施例:インビトロ線維症モデル製造、及びその線維症モデリング特性分析
(1)インビトロ線維症モデル製造
(1.1)ヒト脂肪幹細胞(hASC:human adipose stem cell)の分離
カトリック大学整形外科研究室から分譲された健常人の皮下脂肪組織を、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(PS)を含むPBSで3回洗浄し、汚染した血液を除去した後、手術用はさみで細かく切った(chopping)。該脂肪組織を、1% BSA(w/v)、0.3%コラゲナーゼタイプ1、及び1% PSを含む組織溶解液(DMEM/F−12、ウェルジン)に浸し、1時間37℃で撹拌した(orbital shaking)。その後、上澄み液は捨て、細胞懸濁液を250μm Nitexフィルタ(Sefar America Inc.)で濾過し、組織破片(debris)を除去し、1,000rpmで5分間遠心分離した。遠心分離によって収集された細胞を、10% BSAを含むDMEM/F−12に再懸濁した。分離された一次細胞を、5% CO2及び95%空気を有する37℃の湿潤な大気において、24時間組織培養フラスコ(tissue culture flask)にプレートした。その後、非付着性細胞を、同一体積の新鮮な培地で交換することによって除去した。付着性hASCの形態を、位相差顕微鏡で観察し、5継代のhASCを全ての実験に使用した。
【0041】
(1.2)脂肪幹細胞由来の三次元細胞集合体の製造
前記得られた脂肪幹細胞から、三次元細胞集合体を製造するために、前記脂肪幹細胞を、非組織細胞培養用96ウェルプレート(NTCP:non-tissue culture treated 96−well plate;ポリスチレン材質で表面が疎水性を帯びる、Falcon社)で培養した。前記プレートは、融合タンパク質MBP(maltose binding protein)−FGF(fribroblast growth factor)がコーティングされたプレートであり、前記融合タンパク質がコーティングされたプレートについては、大韓民国特許第1109125号に記載されており、本明細書に全体が参照として含まれる。具体的には、前記ウェルプレートに、ウェル当たり1×105細胞/cm2の脂肪幹細胞を接種した後、10% FBS含有DMEM/F−12培地で培養した。培養24時間以内に、各細胞接着表面において、脂肪幹細胞の三次元細胞集合体が形成された。前記形成された三次元細胞集合体に対する線維症モデル特性分析のために、培養1日目(1day)、3日目(3day)及び5日目(5day)の三次元細胞集合体を収集した。また、前記三次元細胞集合体は、約500μm以上の直径を有すると確認された。以下、三次元細胞集合体を「3DCM」と表示する。
【0042】
また、比較例として、脂肪幹細胞を二次元的に培養した。具体的には、組織細胞培養用96ウェルプレート(TCP)に、ウェル当たり1×105細胞/cm2の脂肪幹細胞を接種した後、10% FBS含有DMEM/F12培地で培養し、前記三次元細胞集合体と同一に、線維症モデル特性分析のために、培養1日目(1day)、3日目(3day)及び5日目(5day)の細胞を収集した。以下において、二次元的に培養された細胞を「2D」と表示する。
【0043】
(2)インビトロ線維症モデルの線維症モデリング特性分析
(2.1)脂肪幹細胞由来の三次元細胞集合体の特性分析
脂肪幹細胞由来の三次元細胞集合体の形態学的特性を分析するために、走査電子顕微鏡及びH&E染色を行った。また、前記三次元細胞集合体内部の低酸素状態を確認するために、免疫染色を行った。
【0044】
具体的には、走査電子顕微鏡観察のために、前記収集された三次元細胞集合体を、2.5%グルタアルデヒドで4℃で2時間固定し、脱イオン水中で、1%四酸化オスミウム(osmium tetroxide)で後固定した。固定された三次元細胞集合体を、一連濃度のエタノール(50%、70%、80%、90%及び100%)で2回脱水させた。脱水後、三次元細胞集合体をヘキサメチルジシラザン(HMDS)に2分間浸漬し、一日振動乾燥させた。走査電子顕微鏡イメージを得るために、三次元細胞集合体を、付着性炭素テープに付着し、金でもって、10mAで60分間スパッタコーティングを行う、イメージは、15kVで得て、その結果を図1Aに示した。
【0045】
また、H&E染色のために、前記収集された三次元細胞集合体を、30分間常温で4% PFAで固定し、一連濃度のエタノール(50%、70%、80%、90%及び100%)で脱水させ、パラフィンワックスに入れた。4μm厚の切片を製造し、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色した。切片を脱パラフィン化させ、蒸溜水で水和させた後、PBSで3回洗浄した。その後、10秒間ヘマトキシリン(Harris;Sigma-Aldrich)に浸漬し、流水で10ないし15分間洗浄し、15秒間エオシンでカウンタ染色を行った後、さらに10ないし15分間洗浄した。その後、スライドに載せ、光顕微鏡で観察し、その結果を図1Bに示した。
【0046】
また、低酸素免疫蛍光分析のために、前記それぞれの培養時点で収集される前、三次元細胞集合体を、0.1ml溶液内で、10mmolピモニダゾール塩化水素(pimonidazole hydrochloride)(ヒドロキシプローブ(HypoxyprobeTM−1)キット、Hypoxyprobe、米国)で2時間インキュベーションした。その後、三次元細胞集合体を収集し、4%パラホルムアルデヒド(paraformaldehyde)で4℃で30分間固定し、OCT化合物(optimal cutting temperature compound)(TISSUE−TEK(登録商標) 4583;Sakura Finetek USA,Inc.)に包埋した。6μmの凍結停止切片をPBSで洗浄し、非特異的結合を防ぐために、PBS中の4% BSAで1時間インキュベーションした。ピモニダゾールは、一次マウス抗体(ヒドロキシプローブ)及び二次ゴート抗マウスアレクサ488抗体(Invitrogen)によって検出された。また、4,5−ジアミジノ−2−ペニルインドール(DAPI)(Vector Laboratories)を核染色のために使用した。対照群は、同一条件下で、一次抗体なしに遂行し、共焦点顕微鏡(Carl Zeiss)で観察し、その結果を図2に示した。
【0047】
図1は、一具体例による三次元細胞集合体の走査電子顕微鏡イメージ及びH&E染色結果を示した図面である。
【0048】
図2は、一具体例による三次元細胞集合体の低酸素状態を、免疫蛍光染色で確認した結果を示した図面である。
【0049】
図1に示されているように、培養1日目の三次元細胞集合体の外部表面は、H&Eによる染色が稠密に示されるので、纎維性マトリックスによって細胞が連結されているということを確認することができる。培養が続けて進められながら、培養3日目の三次元細胞集合体の細胞間の間隔が減少し、培養5日目の三次元細胞集合体の細胞間隔は、ほとんど存在しないということ(矢印)を確認することができる。
【0050】
また、図2に示されているように、培養1日目に、DAPI染色細胞が、三次元細胞集合体全体に均一に分布されており、さらに多くの低酸素プローブ陽性細胞が、三次元細胞集合体の内部に存在することを確認することができる。培養が続けて進められながら、培養3日目の三次元細胞集合体の内部に、低酸素プローブ陽性細胞が増加しており、培養5日目の三次元細胞集合体は、外部にも、低酸素プローブ陽性細胞が増加していることを確認することができる。それにより、低酸素が三次元細胞集合体の内部で誘導され、それが外部に拡散したということが分かる。それは、図1の結果と係わり、三次元細胞集合体の外部表面において、細胞間隔が閉じられることにより、低酸素が誘導されたということが分かる。線維症において、TGF−1が重要な関連因子であり、TGF−1は、低酸素症で過発現される。すなわち、細胞と細胞との間隔が狭まれば、細胞集合体内部への酸素供給が制限され、TGF−1が誘導されて線維症が誘発される。従って、前述の結果により、一具体例による三次元細胞集合体は、線維症の病理学的特性をモデリングするということを確認することができる。
【0051】
(2.2)脂肪幹細胞由来の三次元細胞集合体の線維症関連因子分析
TGFベータは、線維症の主要分子であり、低酸素条件によって誘導され、脂肪幹細胞由来の三次元細胞集合体において、線維症関連因子が発現される否かということを確認するために、TGFベータを含んだ線維症関連因子に対して、ELISAを行った。
【0052】
具体的には、総TGF−β1量を測定するために、培養培地を、正常細胞NCC(normal cell concentration)、二次元的に培養された細胞(2D)、及び三次元細胞集合体(3DCM)から製造した。潜在されたTGF−β1を、免疫反応性形態で活性化させるために、培養上澄み液を1N HCLでインキュベーションし、1.2N NaOH/0.5M HEPESで中和させた。アッセイは、Quantikine ELISAヒトTGF−β1キット(R&D System)を使用し、製造社の指示によって行った。吸光度は、Multisakn(Thermo)を使用して、560nmで測定し、その結果を図3に示した。
【0053】
また、三次元細胞集合体の線維症関連因子の発現を確認するために、前記収集された三次元細胞集合体から、総RNAをトリゾール試薬(Invitrogen、米国)を使用して、製造社の指示によって抽出した。抽出されたRNAは、ヌクレアーゼ除去水に溶解させ、RNA濃度は、NanoDrop ND1000分光光度計(spectrophotometer)(Thermo Fisher Scientific)を使用して定量化した。相補的DNA合成は、Maxime RT PreMIX(iNtROn)を使用して、製造社の指示によって行った。全てのターゲットプライマーは、バイオニア(Bioneer)から購入して使用した。全ての重合酵素連鎖反応は、ABI Prism7 500(Applied Biosystems)を使用して行い、遺伝子発現レベルは、SYBR Premix Ex Taq(Takara)を使用して定量化した。相対的遺伝子発現レベルは、相対的Ct方法(comparative Ct method)を使用して計算し、その結果を図4に示した。
【0054】
図3は、一具体例による三次元細胞集合体のTGF−ベータ発現を示した図面である。
【0055】
図4は、一具体例による三次元細胞集合体の線維症関連因子の発現を示した図面である。
【0056】
図3及び図4に示されているように、脂肪幹細胞由来の三次元細胞集合体は、正常細胞及び2Dに比べ、TGFベータを含んだ線維症関連因子であるラミニン、SMA(smooth muscle actin)、コラーゲンタイプI及びSMAD3の発現が増加していることを確認することができる。
【0057】
(2.3)脂肪幹細胞由来の三次元細胞集合体のコラーゲン沈着分析
脂肪幹細胞由来の三次元細胞集合体の総コラーゲン沈着を分析するために、免疫蛍光染色、免疫組織化学的染色及びヒドロキシプロリン(hydroxyproline)の定量を行い、透過電子顕微鏡で観察した。
【0058】
具体的には、MT染色(Masson Trichrome staining)のために、前記H&E染色と同一に前処理を行い、Masson's trichromeで染色した。三次元細胞集合体において、線維症のパーセントは、ImageJソフトウェア(NIH)を使用して、デジタルイメージ内の染色されたコラーゲン面積のピクセル数をカウントして決定し、その結果を図5Aに示した。また、ヒドロキシプロリンアッセイを行うために、二次元的に培養された細胞、及び三次元細胞集合体をRIPAバッファを使用して準備し、12N HCLで120℃で3時間加水分解した。アッセイは、製造社の指示により、ヒドロキシプロリンキット(Sigma-Aldrich)を使用して行った。吸光度は、Multisakn(Thermo)を使用して、560nmで測定し、その結果を図5Bに示した。
【0059】
また、また免疫蛍光染色(IF:immunofluorescence)のために、前記H&E染色のように、三次元細胞集合体を固定し、OCT化合物(optimal cutting temperature compound)(TISSUE−TEK(登録商標) 4583;Sakura Finetek USA、Inc.)に包埋し、−28℃で凍結し、6μm厚に切った。非特異的な結合を避けるために、切片を常温で1時間BSA(4%)でインキュベーションした。その後、4℃でコラーゲンIに対する一次抗体(Rabit、Abicam)で一晩インキュベーションした。その後、試料をPBSで洗浄し、1% BSA内の相応する蛍光コンジュゲート二次抗体(Donkey anti-rabbit)(Life Technologies)で1時間常温でインキュベーションした。また、4,5−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)(Vector Laboratories)を核染色のために使用した。対照群は、同一条件下で、一次抗体なしに遂行し、共焦点顕微鏡(Carl Zeiss)で観察し、その結果を図6に示した。
【0060】
また、免疫組織化学的染色のために、前記H&E染色と同一に前処理した。フィブロネクチン(FN)及びラミニン(LN)を、それぞれマウス単一クローン抗体、並びにFN及びLNに対するゴート多クーロン抗体(Santa cruz Biotechnology)を使用して検出した。αSMA分析のために、マウス単一クローン抗体(Dako)を使用して検出した。4℃で、それらそれぞれの一次抗体で一晩インキュベーションした後、切片をホースラディッシュラベル抗マウス(horse radish labeled anti-mouse)(FN及びαSMA)、並びに抗ゴート(LN)二次抗体(Vector)で常温で1時間インキュベーションした。陽性染色は、ジアミノベンジジン(diaminobenzidine)(DAB、Vector)で視覚化させた。陰性対照群は、同一条件下で、一次抗体なしに遂行した。切片をヘマトキシリンでカウンタ染色し、一般的な光学顕微鏡下で観察し、その結果を図7に示した。
【0061】
また、透過電子顕微鏡観察のために、前記走査電子顕微鏡観察のように、試料を前処理した。追加して固定された三次元細胞集合体を、エポキシレジン(epoxy resin)で浸潤させて包埋し、60℃で24時間重合した。超薄切片(ultrathin section)を超ミクロトーム(ultramicrotome)(Ultra cut C、Leica CO.Ltd)で製造し、酢酸ウラニル及びクエン酸鉛で染色した。イメージは、凍結TEM(cryoTecanai F20、FEI Co.Ltd)を使用して観察し、その結果を図8に示した。
【0062】
図5は、一具体例による三次元細胞集合体のコラーゲン沈着を、免疫蛍光染色及びヒドロキシプロリン含量分析で確認した結果を示した図面である。
【0063】
図6は、一具体例による三次元細胞集合体の第1型コラーゲン沈着を、免疫蛍光染色で確認した結果を示した図面である。
【0064】
図7は、一具体例による三次元細胞集合体の第1型コラーゲン沈着を、免疫化学的染色で確認した結果を示した図面である。
【0065】
図8は、一具体例による三次元細胞集合体を、透過電子顕微鏡で観察したイメージを示した図面である。
【0066】
図5に示されているように、MT染色において、コラーゲンが三次元細胞集合体で多数染色されているということを確認することができ、ヒドロキシプロリン含量も、二次元的に培養された細胞に比べ、三次元細胞集合体で増加しているということを確認することができる。
【0067】
また、図6に示されているように、免疫蛍光染色において、コラーゲンタイプIが、三次元細胞集合体で顕著に増加しているということを確認することができる。
【0068】
また、図7に示されているように、免疫化学的染色において、αSMAが三次元細胞集合体で顕著に増加しているということを確認することができる。該αSMAは、筋線維芽細胞の典型的なマーカーであり、コラーゲンタイプIは、線維症において、筋線維芽細胞から合成されるので、前述の結果は、図6の結果と一致するということが分かる。
【0069】
また、図8に示されているように、透過電子顕微鏡イメージにおいて、三次元細胞集合体で培養期間が長くなるにつれ、漸進的にコラーゲン纎維質(fiber)及びコラーゲン沈着が増加するということを確認することができる。詳細には、さらに厚いコラーゲン纎維質が、培養5日目に観察され(矢印)、それは、コラーゲン架橋に起因したものである。また、培養5日目に、三次元細胞集合体の内部に、本来そのままの細胞構造がほぼ観察されていないということが分かる。前述の結果により、細胞周辺において、コラーゲン纎維質がさらに厚くなり、それが、栄養分の輸送を防ぎ、細胞死滅を起こし、従って、一具体例による三次元細胞集合体は、線維症の病理学的特性をモデリングするということを確認することができる。
【0070】
(2.4)脂肪幹細胞由来の三次元細胞集合体の細胞生存率及び細胞死滅分析
コラーゲン沈着は、線維症において、最終的に細胞の死滅を誘導するので、かような特性が、脂肪幹細胞由来の三次元細胞集合体でも示されるか否かということを確認するために、LDHアッセイ及び生存/死滅アッセイ(live/dead assay)を行った。
【0071】
具体的には、LDHアッセイを行うために、正常細胞NCC(normal cell concentration)、二次元的に培養された細胞(2D)、及び三次元細胞集合体(3DCM)の培養培地中で、絶対的ラクテートジヒドロゲナーゼ(LDH)放出を測定した。前記測定は、LDHアッセイキット(Promega)を使用して、製造社の指示によって行った。吸光度は、Multisakn(Thermo)を使用して490nmで測定し、その結果を図9Aに示した。また、生存/死滅アッセイは、製造社の指示によって、生存/死滅アッセイキット(Molecular probes)を使用して行った。要約すれば、収集された三次元細胞集合体を、1μlの緑色蛍光核酸染色溶液(SYTO 10)、及び1μlの赤色蛍光染色溶液(ethidium homodimer−2)を含む1mlのHEPES−バター塩水(HBSS)で処理し、CO2培養器で30分間培養した。その後、三次元細胞集合体をPBSで3回洗浄し、30分間4%PFAで固定し、OCT化合物(optimal cutting temperature compound)(TISSUE−TEK(登録商標) 4583;Sakura Finetek USA、Inc.)に包埋し、−28℃で凍結して10μm厚に切った。全体三次元細胞集合体を完全に切り取り、各試料の中間及び外側部分から2個のスライドを選択した。切片は共焦点顕微鏡(Carl Zeiss)を使用して分析され、その結果を図9Bに示した。
【0072】
図9は、一具体例による三次元細胞集合体の細胞生存率及び細胞死滅を分析した結果を示した図面である。
【0073】
図9Aに示されているように、LDHアッセイにおいて、三次元細胞集合体は、正常培養細胞及び2Dに比べ、LDHレベルが上昇しているということを確認することができる。また、図9Bに示されているように、図9Aの結果と一致するように、三次元細胞集合体において、細胞死滅が視覚的に検証された。
【0074】
以上の結果により、一具体例による三次元細胞集合体は、線維症の病理学的特性を示すので、インビトロ線維症モデルとして有用に使用されるということが分かる。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9A
図9B