特許第6902812号(P6902812)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6902812-物品の付加製造用プリントヘッド 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6902812
(24)【登録日】2021年6月24日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】物品の付加製造用プリントヘッド
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/209 20170101AFI20210701BHJP
   B29C 64/118 20170101ALI20210701BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20210701BHJP
【FI】
   B29C64/209
   B29C64/118
   B33Y30/00
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-506701(P2020-506701)
(86)(22)【出願日】2017年12月20日
(65)【公表番号】特表2020-516507(P2020-516507A)
(43)【公表日】2020年6月11日
(86)【国際出願番号】RU2017050129
(87)【国際公開番号】WO2018190750
(87)【国際公開日】20181018
【審査請求日】2019年12月4日
(31)【優先権主張番号】2017111944
(32)【優先日】2017年4月10日
(33)【優先権主張国】RU
(73)【特許権者】
【識別番号】519365757
【氏名又は名称】アニソプリント・ソシエテ・ア・レスポンサビリテ・リミテ(エス・ア・エール・エル)
【氏名又は名称原語表記】ANISOPRINT SOCIETE A RESPONSABILITE LIMITEE(S.A.R.L.)
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】アザロフ,アンドレイ・ヴァレリエヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ゴルベフ,ミハイル・ヴァレリエヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】アントノフ,フェドル・コンスタンチノヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ハジエフ,アレクセイ・ラフカトヴィチ
【審査官】 関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第104149339(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0287139(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0057164(US,A1)
【文献】 国際公開第2015/182675(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第104441658(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第106363905(CN,A)
【文献】 特表2016−518267(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0331412(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0263822(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00−64/40
B33Y 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリントヘッドであって、プラスチックフィラメントを供給するための機構、強化繊維を供給するための機構、強化繊維を切断するための機構、プラスチックフィラメントのための供給管、強化繊維のための供給管および加熱ユニットを備え、加熱ユニットはヒーター、熱電対またはサーミスター、2つの入力チャネル、すなわち、強化繊維供給チャネルとプラスチックフィラメント供給チャネルおよび強化プラスチックポリマー用の出力チャネルを備えたノズルを含み、プラスチックフィラメント供給チャネルは加熱ユニット内の強化繊維供給チャネルに接続され、入力強化繊維供給チャネルは出力強化プラスチックポリマーチャネルと同軸に配置され
強化繊維供給管と加熱ブロック強化繊維入力チャネルとの間に間隙が存在する、プリントヘッド。
【請求項2】
強化繊維切断機構は強化繊維供給機構と加熱ブロックとの間に位置し、固定ナイフと、可動ナイフを駆動するサーボ駆動装置とを含む、請求項1に記載のプリントヘッド。
【請求項3】
強化繊維切断機構は強化繊維供給機構と加熱ユニットとの間に位置し、軸に可動ナイフが装着されたサーボ駆動装置を含み、可動ナイフは円筒形であって円筒の直径の半分を超える深さとされた溝を有する、請求項1に記載のプリントヘッド。
【請求項4】
強化繊維用の供給管は、強化繊維供給機構の出力を強化繊維切断機構の入力部に接続し、強化繊維切断機構の出力を強化繊維用の加熱ユニット入力チャネルに接続する、請求項1に記載のプリントヘッド。
【請求項5】
強化繊維入力チャネルはノズル出力チャネルの直径より小さい直径を有する、請求項1に記載のプリントヘッド。
【請求項6】
プリントヘッドであって、基本的なプラスチックフィラメント供給機構、追加の基本的なプラスチックフィラメント供給機構、強化繊維供給機構、強化繊維切断機構、基本的なプラスチックフィラメント供給管、追加のプラスチックフィラメント供給管、強化繊維のための供給管および加熱ユニットを備え、加熱ユニットはヒーター、熱電対またはサーミスター、2つの入力チャネル、すなわち強化繊維チャネルと基本的なプラスチックフィラメントチャネルおよび追加のプラスチックフィラメントチャネルならびに強化プラスチックと純プラスチック用の出力チャネルを備えた2つのノズルを含み、この場合、基本的なプラスチックフィラメント用のチャネルは加熱ユニット内の強化繊維用のチャネルに接続され、強化繊維用の入力チャネルは強化プラスチック用の出力チャネルと同軸に位置し、
強化繊維供給管と加熱ブロック強化繊維入力チャネルとの間に間隙が存在する、プリントヘッド。
【請求項7】
強化繊維供給管が強化繊維供給機構の出力を強化繊維切断機構の入力部に接続し、強化繊維切断機構の出力を、強化繊維向けの加熱ブロック入力チャネルに接続する、請求項に記載のプリントヘッド。
【請求項8】
強化繊維入力チャネルはノズル出力チャネルの直径より小さい直径を有する、請求項に記載のプリントヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、付加製造技術(Additive technologies)の分野に関し、航空機、ロケットおよび宇宙産業、医薬品、自動車産業などで使用するためのブラケット、取り付け具、基本部品、ウェアラブル製品、格子およびハニカム構造など、連続繊維で強化された複合材料で作られた部品および構造物の製造に使用できる。
【0002】
背景技術
当該技術分野では、複合繊維を使用する3D印刷装置が知られている。類似物は、MarkForgedの出願(米国)に説明されている。
【0003】
当技術分野では、複合繊維を使用する3D印刷方法および機器が知られている。最も近い類似物は、MarkForgedの出願(米国)に説明されている。
【0004】
[1]米国特許出願公開第2014/0291886号 Three-dimensional printing、IPC B29C47/00、2014年10月2日公開。
【0005】
[2]米国特許出願公開第2014/0328963号 Apparatus for fiber reinforced additive manufacturing、IPC B29C67/00、2014年11月6日公開。
【0006】
[3]米国特許出願公開第2014/0328964号 Three-dimensional printing、IPC B29C67/00、2014年11月6日公開。
【0007】
[4]米国特許出願公開第2014/0361460号 Methods for fiber reinforced additive manufacturing、IPC B29C65/40、B29C67/00、2014年12月11日公開。
【0008】
[5]米国特許出願公開第2015/0108677号 Three-dimensional printer with composite filament fabrication、IPC B29C67/00、2015年4月23日公開。
【0009】
[6]米国特許出願公開第2015/0165691号 Methods for fiber reinforced additive manufacturing、IPC B29C67/00、2015年6月18日公開。
【0010】
[7]米国特許出願公開第2016/200047号(米国特許第9156205(B2)号) Three-dimensional printer with composite filament fabrication、2016年7月14日公開。
【0011】
[8]米国特許出願公開第2016/368213号(米国特許第9370896(B2)号) Methods for fiber reinforced additive manufacturing、2016年12月22日公開。
【0012】
[9]米国特許出願公開第2016/129643号(米国特許第9149988(B2)号) Three-dimensional printing, Published、2016年5月12日公開。
【0013】
[10]米国特許出願公開第2016/067928号 Multilayer fiber reinforcement design for 3D printing、2016年3月10日公開。
【0014】
[11]米国特許出願公開第2016/107379号 Composite filament 3D printing using complementary reinforcement formations、2016年4月21日公開。
【0015】
本出願では、複合繊維を使用した印刷のための方法および特別設計の適切な3Dプリンタについて説明する。複合繊維は、フィラーとしての連続したまたは半連続の強化繊維を含む。マトリックスは、固体状態の熱可塑性材料である。複合繊維は、複合繊維のマトリックス材料の融解温度を超える温度に加熱された供給装置によって押出機に供給され、ノズルを介してテーブル上にレイアウトされ、テーブルに融着されて、部品の形成が可能になる。プリンタは、供給機構とノズルとの間の領域に位置する複合繊維切断システムを有することができる。
【0016】
記載されるデバイスは、複合繊維に熱可塑性マトリックスが含浸されている場合にのみ使用できる。ただし、このアプローチには多くの欠点がある。特に、繊維束に熱可塑性プラスチックを高品質に含浸させることは困難である。これは、溶融物の粘度が非常に高いためである。結果として生じる材料は、高い気孔率を有する場合があり、繊維は一体として機能しない。高品質の含浸を実行するには、材料を高圧(数十気圧)にさらす必要があるが、この場合、繊維の損傷が起こり、材料の内部構造が不均一になる可能性がある。繊維束への熱可塑性プラスチックの含浸に関連する困難を回避するために、熱硬化性バインダーを含浸させて予備硬化させた複合繊維を使用して印刷を行うことができる。この場合、押出機には複合繊維と熱可塑性プラスチックの両方が供給され、印刷中に繊維同士が結合される。
【0017】
また、以前の出願で説明された設計には、強化繊維とプラスチックの所定の体積比の複合繊維を供給するためのチャネルが1つしかないため、印刷プロセスで繊維の体積分率を変えることができない。
【0018】
発明の概要
クレームされた発明の目的は、高い物理的および機械的特性を有する複雑な形状および内部構造を有する複合材料からの3次元印刷による機能部品の製造であり、以下を含意する。
● 広範囲の強化繊維、すなわち熱可塑性ポリマーを含浸させた繊維だけでなく、 熱硬化性ポリマーを含浸させて硬化させた繊維および金属線の使用
● 強化熱可塑性プラスチックをレイアウトするプロセスにおける強化繊維の体積 分率の変更。
● 複雑な曲線軌道に沿った繊維の敷設
● 強化繊維の切断および強化ゾーンと非強化ゾーンとを有する部品の製造。
【0019】
技術的な結果は、部品の物理的および機械的特性の改善、部品の質量の削減ならびに複合材料から複雑な形状の製品を製造するコストの削減である。
【0020】
プリントヘッドであって、プラスチックフィラメントを供給するための機構、強化繊維を供給するための機構、強化繊維を切断するための機構、プラスチックフィラメントのための供給管、強化繊維のための供給管および加熱ユニットを備え、加熱ユニットは、ヒーター、熱電対またはサーミスター、2つの入力チャネル、すなわち、強化繊維供給チャネルとプラスチックフィラメント供給チャネルおよび強化プラスチックポリマー用の出力チャネルを備えたノズルを含み、プラスチックフィラメント供給チャネルは、加熱ユニット内の強化繊維供給チャネルに接続され、入力強化繊維供給チャネルは、出力強化プラスチックポリマーチャネルと同軸に配置されるプリントヘッドによって課題が解決され技術的な結果が達成される。
【0021】
技術的な結果は、その間をプラスチックフィラメントが通過する電気駆動部と従動ローラーとをプラスチックフィラメント供給機構が含むという事実によっても達成される。
【0022】
技術的な結果は、その間を繊維が通過する電気駆動部と従動ローラーとを強化繊維供給機構が含むという事実によっても達成される。
【0023】
技術的な結果は、強化繊維供給機構と加熱ユニットとの間に位置する強化繊維切断機構が固定ナイフと、可動ナイフを駆動するサーボ駆動装置とを含むという事実によっても達成される。
【0024】
技術的な結果は、強化繊維供給機構と加熱ユニットとの間に位置する強化繊維切断機構がサーボ駆動装置を含み、サーボ駆動装置の軸には円筒の直径の半分を超える深さに溝が形成された円筒形の可動ナイフが取り付けられているという事実によっても達成される。
【0025】
技術的な結果は、固定ナイフが2つの穴、すなわち入口と出口を有する管であるという事実によっても達成される。
【0026】
技術的な結果は、可動ナイフの外径が固定ナイフの内径と等しく、可動ナイフは、滑り嵌めによって固定ナイフの内側に装着されるという事実によっても達成される。
【0027】
技術的な結果は、プラスチックフィラメント供給管がプラスチックフィラメント供給機構の出力と、プラスチックフィラメント向けの加熱ユニットの入力チャネルとを接続するという事実によっても達成される。
【0028】
技術的な結果は、強化繊維供給管が強化繊維供給機構の出力を強化繊維切断機構の入力部に接続し、強化繊維切断機構の出力を強化繊維向けの加熱ブロックの入力チャネルに接続するという事実によっても達成される。
【0029】
プリントヘッドであって、第1のプラスチックフィラメントの供給のための機構、第2のプラスチックフィラメントの供給のための機構、強化繊維の供給のための機構、強化繊維の切断のための機構、第1のプラスチックフィラメントの供給管、第2のプラスチックフィラメントの供給管、強化繊維のための供給管および加熱ユニットを備え、加熱ユニットは、ヒーター、熱電対またはサーミスター、3つの入力チャネル、すなわち強化繊維供給チャネル、第1のプラスチックフィラメント供給チャネルおよび第2のプラスチックフィラメント供給チャネルならびに強化プラスチックポリマーと純プラスチックポリマー用の出力チャネルを備えた2つのノズルを含み、第1のプラスチックフィラメント供給チャネルは加熱ユニット内の強化繊維の供給チャネルに接続され、入力強化繊維供給チャネルは出力強化プラスチックポリマーチャネルと同軸に配置されるプリントヘッドによっても、視野にある課題が解決され技術的な結果が達成される。
【0030】
技術的結果は、その間を第1のプラスチックフィラメントが通過する電気駆動部と従動ローラーとを第1のプラスチックフィラメント供給機構が含むという事実によっても達成される。
【0031】
技術的な結果は、その間を第2のプラスチックフィラメントが通過する電気駆動部と従動ローラーとを第2のプラスチックフィラメントのための供給機構が含むという事実によっても達成される。
【0032】
技術的な結果は、その間を繊維が通過する電気駆動部と従動ローラーとを強化繊維用の供給機構が含むという事実によっても達成される。
【0033】
技術的な結果は、強化繊維のための供給機構と加熱ユニットとの間に位置する強化繊維のための切断機構が固定ナイフと可動ナイフを駆動するサーボ駆動装置を含むという事実によっても達成される。
【0034】
技術的な結果は、強化繊維のための供給機構と加熱ユニットとの間に位置する強化繊維のための切断機構がサーボ駆動装置を含み、サーボ駆動装置の軸には円筒の直径の半分を超える深さに溝が形成された円筒形の可動ナイフが取り付けられているという事実によっても達成される。
【0035】
技術的な結果は、固定ナイフが2つの穴、すなわち入口と出口を有する管であるという事実によっても達成される。
【0036】
技術的な結果は、可動ナイフの外径が固定ナイフの内径に等しく、可動ナイフは、滑り嵌めによって固定ナイフの内側に装着されるという事実によっても達成される。
【0037】
技術的結果は、第1のプラスチックフィラメント用の供給管が第1のプラスチックフィラメント供給機構の出力と第1のプラスチックフィラメント向けの加熱ユニット入力チャネルとを接続するという事実によっても達成される。
【0038】
技術的な結果は、第2のプラスチックフィラメント用の供給管が第2のプラスチックフィラメント用の供給機構の出力と追加のプラスチックフィラメント向けの加熱ユニット入力チャネルとを接続するという事実によっても達成される。
【0039】
技術的な結果は、強化繊維用の供給管が強化繊維供給機構の出力を強化繊維切断機構の入力部に接続し、強化繊維切断機構の出力を強化繊維向けの加熱ユニット入力チャネルに接続するという事実によっても達成される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】プリントヘッド。図の上で以下の位置が数字で示されている。1 加熱ユニット 2 熱可塑性ポリマー供給チャネル 3 熱可塑性ポリマー製プラスチックフィラメント 4 強化繊維供給チャネル 5 強化繊維 6 ノズル 7 強化熱可塑性ポリマーをレイアウトするための出力チャネル 8 ヒーター 9 サーミスターまたは熱電対 10 プラスチックフィラメント供給機構 11 強化繊維供給メカニズム 12 強化繊維切断機構の駆動部 13 可動ナイフ 14 固定ナイフ 15 プラスチックフィラメント供給管 16 供給管取り付け具 17 熱障壁 18 供給機構から切断機構に強化繊維を供給するための管 19 切断機構から加熱ユニットに強化繊維を供給するための管 20 ファン 21 第2の熱可塑性ポリマー製プラスチックフィラメント 22 第2のプラスチックフィラメント供給機構 23 第2のプラスチックフィラメント供給チャネル 24 熱可塑性ポリマーをレイアウトするためのノズル 25 第2のプラスチックフィラメント供給管 26 第2のプラスチックフィラメントのための熱障壁 27 調整ネジ
【0041】
発明を実施するための形態
本出願では、炭素繊維と熱硬化性および/または熱可塑性マトリックスとの組み合わせに基づいた複合材料(部品)製造のプリントヘッドおよびプロセスについて説明する。
【0042】
プリントヘッド加熱ユニットに2つの別々のチャネルを介して強化繊維とプラスチックフィラメントとが供給されることによって、視野にある課題が解決され技術的な結果が達成される。したがって、異なるタイプの強化繊維を使用することが可能である。また、印刷プロセスにおいてプラスチックフィラメントの速度を変更することにより、繊維の体積分率が複合繊維の製造段階で設定される前述の類似物とは対照的に、プラスチック内の繊維の体積分率を調整できる。これにより、複雑な内部構造を有する複合材料から部品を作成する問題を解決できる。この方法で製造できる構造には、例えば、格子複合構造や他のタイプの構造が含まれる。また、技術的な結果は、強化繊維を切断して供給するメカニズムと供給管の存在によって、印刷のプロセスにおいて強化繊維を切断し、切断後、繊維を加熱ユニットに供給して印刷を再開し、また、印刷プロセスにおいて繊維の供給速度を調整することにより、軌道の直線部分では張力を増加させて材料の機械的特性を改善し、曲率の大きい部分では張力を減らして強化繊維の滑りを避けることにより強化繊維の張力を制御することが可能となることを通じても達成される。
【0043】
プリントヘッドの概略図を図1に示す。加熱ユニット1は入力チャネルとして、熱可塑性ポリマーフィラメント3を受容する熱可塑性ポリマー供給チャネル2と、強化繊維5を受容する強化繊維供給チャネル4を有する。使用する強化繊維には、炭素、ガラス、ポリマーバインダー(例えば、ポリエステル、フェノールホルムアルデヒド、ウレタン、エポキシ、シリコーン、ポリイミドまたはビスマレイミド樹脂の形での熱可塑性樹脂バインダーまたは硬化させた熱硬化性バインダー)を含侵させた有機または複合バンドルまたは金属線で作られた複合繊維を含むことができる。使用する熱可塑性フィラメントには、ABS、ポリラクチド、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレートグリコール、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエステルエフイルケトンまたは他の熱可塑性材料などの熱可塑性材料で作られたフィラメントが含まれる。熱可塑性ポリマーを供給するためのチャネルは、強化繊維を供給するためのチャネルと接続され、熱可塑性材料が強化繊維供給チャネルを通過する強化繊維をコーティングできるようにする。また、加熱ユニットには、強化熱可塑性ポリマー用の出力チャネル7を備えたノズル6が装備されている。出力チャネル7は、強化繊維のための入力チャネル4と同軸に位置し、第1に加熱ユニット内の繊維の曲がりや損傷を防ぎ、第2に繊維を切断後に再装填し強化熱可塑性プラスチックのレイアウトを確実に再開可能とする役割を果たす。入力チャネルの直径は出力チャネルの直径よりも小さく、強化繊維を供給するためのチャネルを通じた印刷時の熱可塑性物質の融液の発生を最小限に抑える。通常、入力チャネルの直径は、強化繊維の直径よりも2〜4倍を超えない大きさを有する必要がある。また、加熱ユニットに強化繊維を供給するための管19と加熱ユニット1の入力チャネル4との間に、間隙が存在することができる。これにより、この管は加熱されず、溶けた熱可塑性物質がこの管内で冷却および凝固し、チャネルをブロックするため、過剰な熱可塑性溶融物が強化繊維供給管19まで上昇するのを防ぐ。加熱ユニット1は、ヒーター8と温度センサー9(熱電対およびサーミスター)とを備える。
【0044】
熱可塑性フィラメントは、電気駆動部(例えば、ステッピングモーターまたはサーボ駆動装置)およびローラーからなる熱可塑性フィラメント供給機構10により加熱ユニットに供給される。少なくとも1つのローラーが電気駆動部の回転軸によって駆動および操作されている。駆動ローラーには切り込みがあり、熱可塑性ポリマーフィラメントを滑らずに供給できる。従動ローラーには、刻み目が付いていてもいなくてもかまわない。ローラーは、例えばスプリングによって熱可塑性フィラメントに機械的に押し付けられ、その滑りを防止している。一実施形態では、機械的な伝達によって接続された2つの駆動ローラーを使用することが可能である。
【0045】
強化繊維は、電気駆動部(例えば、ステッピングモーターまたはサーボ駆動装置)およびローラーからなる強化繊維供給機構11によって加熱ユニットに供給される。少なくとも1つのローラーが電気駆動部の回転軸によって駆動および操作されている。少なくとも、ローラーのうちの1つ、好ましくは従動ローラーは、過剰な圧縮と強化繊維への損傷を防ぐためにゴムコーティングが施されている。ローラーは、例えばスプリングによって強化繊維に機械的に押し付けられ、その滑りを防止している。一実施形態では、機械的な伝達によって接続された2つの駆動ローラーを使用することが可能である。
【0046】
強化繊維を切断するための機構は、強化繊維の供給機構と加熱ユニットとの間に位置し、切断機構は、駆動部12、例えば、機械的な伝達によって可動ナイフ13および固定ナイフ14と接続された減速機を備えたサーボ駆動装置からなる。サーボ駆動装置は、繊維を切断するのに十分な力を提供するものとする。力の量は、繊維の種類(炭素、ガラス、有機)および線密度に依存する。例えば、66テックスの線密度の炭素繊維の切断には10N以上、200テックスの密度の場合は17N以上の力が必要である。ナイフは、硬化鋼またはセラミックなどの高硬度の材料で作られている。強化繊維切断機構は、加熱ユニットに300mm以下まで近接した距離に位置するべきであり、これは、ワーク表面に置かれる強化熱可塑性物質の連続部分の最小の長さがこの距離の増加とともに増加するためである。
【0047】
円筒の半径を超える深さに溝が形成された円筒形の可動ナイフ13がサーボ軸に取り付けられた切断機構を実装することが可能である。固定ナイフは、2つの穴、すなわち入口ポートと、より直径の大きい出口ポートとを有する管である。可動ナイフの外径は固定ナイフの内径に等しく、可動ナイフは滑り嵌めによって固定ナイフの内側に装着されている。印刷のプロセスで、繊維は固定ナイフの入口と、可動ナイフの溝と、固定ナイフの出口とを通過する。切断するとき、サーボ駆動装置は可動ナイフを回転させ、可動ナイフの溝のエッジと固定ナイフの入口のエッジとの間で繊維が切断される。切断すると、サーボ駆動装置は可動ナイフを中立位置に戻す。
【0048】
熱可塑性フィラメント供給機構10および強化繊維供給機構11は、強化繊維切断機構と加熱ブロックの両方から近い、最大2mまでの距離に位置させることができる。熱可塑性フィラメントは、供給機構の出口から加熱ユニットの入口チャネルまで、取り付け具16によって相互接続された供給管15と熱障壁17とを介して供給される。供給管は、例えばPTFEなどの低摩擦係数の材料で作られている。熱障壁は、例えば鋼やチタンなどの熱伝導率が比較的小さい材料で作られており、加熱ユニットから取り付け具および管への熱の除去を防ぐ役割を果たす。その効率を高めるために、熱障壁は、ファン20および/またはラジエーターによりさらに冷却することができる。強化繊維は、供給機構の出力部から強化繊維切断機構の入力部まで管18内で供給され、切断機構の出力部から加熱ユニットの入力チャネルまで管19を利用して供給される。
【0049】
プリントヘッドが連続繊維で強化された熱可塑性プラスチックだけでなく、純粋な熱可塑性プラスチック(または不連続な繊維で強化された熱可塑性プラスチック)を敷設可能とするため、第2の熱可塑性フィラメント21をプリントヘッドに供給することができる。この場合、プリントヘッドの実施形態は、第2のプラスチックフィラメントを供給するための機構22を有し、加熱ユニット1はポート23を有し、そこに熱可塑性プラスチックにより印刷するためのノズル24が装着される。追加の熱可塑性フィラメント供給機構22とノズル24とは、主熱可塑性フィラメント3が供給されるのと同じ方法で、供給管25および熱障壁26によって接続されている。ノズル6及び24の出口穴が同じ高さに位置することを確実にするために、実施形態では、加熱ユニット1およびノズル24を互いに対して垂直にシフトすることが可能とされている。部品同士の固定は、例えば止めネジ27を使用して実行できる。
【0050】
プリントヘッドは、3つ以上の自由度を有するマニピュレータ(例えば、ポータル3軸マニピュレータまたは6軸ロボット)に装着されている。
【0051】
印刷プロセスは次のとおりである。加熱ユニット1は、ヒーター8を使用して、熱可塑性フィラメントの溶融温度を超える温度に、熱硬化性バインダーを含浸させて硬化した強化繊維を使用する場合は、強化繊維の熱硬化性バインダーのガラス転移温度を超える温度に加熱される。温度は、温度センサー9を使用したフィードバック制御システムによって一定に保たれる。
【0052】
マニピュレータに装着されたプリントヘッドは、層の厚さ(例えば、0.05〜0.5mm)に対応する表面から一定の距離で所定の軌道に沿って移動する。同時に、供給機構の電気駆動部は、制御システムからのコマンドによってローラーを回転させ、熱可塑性フィラメントおよび/または強化繊維を加熱ユニットに供給する。
【0053】
印刷が強化熱可塑性プラスチックで実行される場合、供給は、熱可塑性フィラメント供給機構10の駆動装置および強化繊維供給機構11の駆動装置によって実行される。印刷中に強化繊維の供給速度を調整することにより、その張力を制御できる。張力は、プリントヘッドがプリンタプラットフォームに対する直線に沿って移動するときに増加し、材料の機械的特性を向上させ、プリントヘッドが円弧に沿って移動するときに減少し、敷設軌道からの強化繊維の滑りを回避することができる。さらに、強化繊維の滑りを防ぐために、出口7に冷気を、例えばファンによって吹き付けることができる。印刷中にプラスチックフィラメントの供給速度を調整することにより、得られる複合材料の強化繊維の体積分率を制御できる。
【0054】
純粋な熱可塑性物質で印刷が実行される場合、第2のプラスチックフィラメント供給機構22の駆動によって供給が提供される。
【0055】
強化熱可塑性物質印刷から純粋な熱可塑性物質印刷に切り替える必要があるとき、または強化熱可塑性プラスチックで印刷する場合に部品の一部から別の部分に切り替えるとき、強化繊維の切断が行われる。この場合、制御システムは、切断点とノズル面との間の距離を考慮して、プリントヘッドの移動ならびに強化繊維およびプラスチックの供給を事前に停止し、強化繊維切断機構の駆動装置12にコマンドを与える。切断機構の駆動部が回転し、可動ナイフが固定ナイフに対して移動し、ナイフの作業面の間を通過する強化繊維を切断する。
【0056】
本質的特徴と技術的な結果との間の因果関係は次のとおりである。
【0057】
1.プリントヘッドの加熱ユニットには2つの入力チャネル、すなわち強化繊維チャネルと、強化繊維チャネルに接続された熱可塑性フィラメントチャネルがあり、これにより、相互に融着されておらず熱可塑性プラスチックの中間層によってのみ結合され得る強化繊維を用いた印刷が可能となる。そのような繊維には、例えば、熱硬化性バインダーを含浸させて硬化させた複合繊維が含まれる。これらの繊維は気孔率が低いため、高い物理的および機械的特性を有する。さらに、これらの繊維は、製造プロセスがはるかに単純であるため、熱可塑性ポリマーを含浸させた繊維と比較して低コストである。したがって、製品の機械的特性が向上し、そのコストが削減される。また、加熱ユニットのこの実施形態は、熱可塑性フィラメントの供給速度を変更することにより、製品の重量を減らしながら、印刷プロセスで強化繊維の体積分率を変えることを可能にする。
【0058】
2.加熱ユニットの強化繊維入力チャネルは、強化熱可塑性物質出力チャネルと同軸とされており、それによって、印刷プロセスにおけるよじれによる強化繊維への損傷を最小限に抑え(製品の機械的特性を高める)、切断後の強化繊維を加熱ユニットに供給して詰まりを生じずに印刷を再開することを可能とする(これにより、製品の重量を減らしつつ最適化された複雑な形状の部品を作成できる)。入力チャネルの直径は出力チャネルの直径よりも小さく、印刷時において、強化繊維を供給するためのチャネルを通じた熱可塑性物質の融液の発生を最小限に抑える。
【0059】
3.強化繊維供給機構により、その供給速度を制御し、繊維の張力を変化させることができる。加熱ユニットへの繊維の供給を減速して行うことで繊維の張力を高めることを、軌道の直線部分で行い、製品の物理的および機械的特性を改善している。加熱ユニットへの繊維の供給を加速して行うことによって強化繊維の張力を低下させることを、複雑で曲率半径の小さい軌道では行い、これに沿って滑りを生じることなく強化繊維を敷設でき、これにより製品の重量を減らしつつ最適化された複雑な形状の部品を作成できる。
【0060】
4.プラスチックフィラメント供給機構は、材料における強化繊維の体積分率を変更することによって供給速度を制御でき、これにより、部品の重量を減らしつつ最適化された複雑な形状の部品を製造できる。
【0061】
5.強化繊維切断機構は、印刷プロセスにおいて繊維を切断できるため、製品の重量を削減しつつ最適化された複雑な形状の部品を製造できる。
【0062】
6.加熱ブロックにおける追加チャネル、第2のプラスチックフィラメントを供給するための機構、純粋なプラスチックで印刷するためのノズルにより、連続繊維で強化された熱可塑性プラスチックだけでなく、純粋な熱可塑性プラスチック(または不連続な繊維で強化された熱可塑性プラスチック)もレイアウトでき、これにより、プリントヘッドの機能が向上し、製品の重量を削減しつつ最適化された複雑な形状の部品を製造できる。
図1