特許第6902813号(P6902813)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6902813
(24)【登録日】2021年6月24日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】造粒バインダー用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/36 20060101AFI20210701BHJP
   A61K 31/715 20060101ALI20210701BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20210701BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20210701BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20210701BHJP
   A23L 29/212 20160101ALI20210701BHJP
   A23L 2/39 20060101ALI20210701BHJP
   A23G 1/56 20060101ALI20210701BHJP
   A23F 3/16 20060101ALI20210701BHJP
【FI】
   A61K47/36
   A61K31/715
   A61K38/00
   A61K9/14
   A23L5/00 D
   A23L29/212
   A23L2/00 Q
   A23G1/56
   A23F3/16
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2021-1857(P2021-1857)
(22)【出願日】2021年1月8日
【審査請求日】2021年1月12日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森本 倫典
(72)【発明者】
【氏名】行光 由莉
(72)【発明者】
【氏名】中村 謙介
【審査官】 参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−252452(JP,A)
【文献】 特開2015−040186(JP,A)
【文献】 特開2011−168804(JP,A)
【文献】 特開2007−001999(JP,A)
【文献】 DRUG DEVELOPMENT AND INDUSTRIAL PHARMACY,1991年,Vol.17(10),pp.1389-1396
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00
A23L 2/00
A23L 5/00
A23L 29/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料粉末である増粘多糖類又は水難溶性高分子を造粒するために噴霧使用される、ヒドロキシプロピル澱粉の分解物を含む造粒バインダー用組成物であって、ヒドロキシプロピル澱粉が以下の(A)乃至(C)を満たし、その分解物がDE2〜16である、造粒バインダー用組成物:
(A)沈降積が7.5〜10、
(B)DSが0.03〜0.20、
(C)タピオカ澱粉、ワキシータピオカ澱粉、コーン澱粉及びワキシーコーン澱粉のいずれか一以上を原料とする
【請求項2】
増粘多糖類を0.2〜15%(w/w)で含む、請求項1記載の造粒バインダー用組成物。
【請求項3】
増粘多糖類が、α化澱粉、キサンタン、グアガム、タラガム及びCMCから選ばれる一以上である、請求項記載の造粒バインダー用組成物。
【請求項4】
原料粉末である増粘多糖類又は水難溶性高分子100質量部に対し、5〜35%(w/w)溶液として10〜60質量部の割合で噴霧使用される、請求項1〜のいずれか一項に記載の造粒バインダー用組成物。
【請求項5】
原料粉末である増粘多糖類又は水難溶性高分子100質量部に対し、1〜10質量部の割合で含まれるよう使用される、請求項1〜のいずれか一項に記載の造粒バインダー用組成物。
【請求項6】
原料粉末である増粘多糖類が、α化澱粉、キサンタンガム、グアガム、タラガム及びCMCからなる群より選ばれる一以上である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の造粒バインダー用組成物。
【請求項7】
原料粉末である水難溶性高分子が、タンパク質を主成分とする粉末又は植物の粉砕物である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の造粒バインダー用組成物。
【請求項8】
原料粉末である増粘多糖類又は水難溶性高分子100質量部に対し、請求項1〜のいずれか一項に記載の組成物を1〜10質量部の割合で含んでなる、造粒物。
【請求項9】
原料粉末である増粘多糖類が、α化澱粉、キサンタンガム、グアガム、タラガム、カラギーナン及びCMCのいずれか一以上である、請求項記載の造粒物。
【請求項10】
原料粉末である水難溶性高分子が、タンパク質を主成分とする粉末又は植物の粉砕物である、請求項8記載の造粒物。
【請求項11】
造粒物が、嚥下剤、タンパク含有食品、インスタントココア、インスタント茶のいずれかである、請求項8〜10のいずれか一項に記載の造粒物。
【請求項12】
増粘多糖類又は水難溶性高分子の造粒物を製造する方法であって、請求項1〜のいずれか一項に記載の造粒バインダー用組成物を5〜35質量%(w/v)水溶液とし、原料粉末である増粘多糖類又は水難溶性高分子100質量部に対して10〜60質量部の割合で噴霧する工程と、噴霧と同時に乾燥する工程及び/又は噴霧後に乾燥する工程とを含み、当該造粒物における原料粉末である増粘多糖類又は水難溶性高分子と造粒バインダー用組成物との比を100:(1〜10)質量部とする、増粘多糖類又は水難溶性高分子の造粒物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末造粒のためのバインダー組成物、そのバインダーを用いてなる造粒物及びその造粒物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末状物質(以降、単に「粉末」という。)は、その粒子径が小さいことから、高飛散性を示すほか、高吸湿性、低流動性、高凝集性を示し、液体に分散しづらく溶解しづらいためにダマを形成するという問題が存する。
【0003】
そこで、これらを解決するため、粉末の粒子径を大きくして顆粒状とする造粒技術がよく用いられる。粉末を造粒する方法には、流動層造粒法、転動造粒法、押出造粒法など種々あるところ、流動層造粒法と転動造粒法には原理(方法)が二つあり、具体的には、(1)気流により浮遊する粉末に対し、粘着作用を有する物質の溶液をバインダーとして噴霧し、粉末粒子同士を液架橋して顆粒形成させる方法(凝集造粒法)、(2)粉末原料に対し、その粉末原料と同じ物質の溶液をバインダーとして噴霧し、乾燥と噴霧を繰り返すことによって粉末原料粒子を核としてその粒子を次第に大きく成長させる方法(被覆造粒法)とがある。
【0004】
凝集造粒法におけるバインダーには種々あるが、例えば、特許文献1には、増粘剤造粒物を製造するためのバインダーとして、デキストリン18〜35質量%を含有する水溶液、又はデキストリン18〜35質量%及び増粘多糖類0.1〜0.5質量%を含有する水溶液が開示されている。また、特許文献2には、溶解性が改善された水溶性高分子造粒物を製造するためのバインダーとして、オクテニルコハク酸澱粉溶液が開示され、特許文献3には、流動性及び易溶解性が改善された顆粒スープを製造するためのバインダーとして、DE2〜5のデキストリン溶液が開示されている。
【0005】
しかし、増粘多糖類など、溶解すると粘性を発現する水溶性高分子を粉末原料として得られる造粒物の場合、溶液に分散すると溶液に接する粒子表面から膨潤して粘性を発現し、粒子内部が膨潤するより先に粒子表面同士が結着してダマになりやすく、そのため、特許文献1〜3に例示されるバインダーにより増粘多糖類などを造粒しても、分散性向上効果は十分とはいえない。また、粉末状の大豆タンパクやココアのような水難溶性高分子を粉末原料として造粒する場合、その造粒物の分散性を良好とするためには、特許文献1〜3に例示されるバインダーでは相当量を噴霧する必要が生じ、得られる造粒物における粉末原料の割合が低下するという不具合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5478231号公報(特開2011−120538号公報)
【特許文献2】特開2004−024182号公報
【特許文献3】特開2015−192639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、粉末原料、特に、増粘多糖類又は水難溶性高分子を含む粉末原料を造粒して得られる造粒物の、液体への分散性を向上させるための造粒バインダー用組成物及びそのバインダー組成物を用いてなる造粒物を提供すること、並びにその造粒物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、かかる課題を解決すべく種々検討したところ、造粒バインダー用組成物として、澱粉に特定の化学的修飾を施すとともに、化学的又は物理的にこれを分解して得られる加工澱粉を利用することにより、より具体的には、澱粉にヒドロキシプロピル化処理を施した後にα‐アミラーゼで分解した加工澱粉、又は澱粉を酸化剤で処理して重合分解した加工澱粉を利用することにより、上記課題が解決されることを見出して本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、主に3つの発明からなり、第一の発明は、以下[1]〜[13]の造粒バインダー用組成物である。
[1]ヒドロキシプロピル澱粉の分解物及び酸化澱粉のいずれか一以上を含む、造粒バインダー用組成物。
[2]ヒドロキシプロピル澱粉が、以下の(A)及び(B)を満たす、上記[1]記載の造粒バインダー用組成物:
(A)沈降積が7.5〜10、
(B)DSが0.03〜0.20。
[3]ヒドロキシプロピル澱粉の分解物が、DE2〜16である、上記[1]又は[2]記載の造粒バインダー用組成物。
[4]ヒドロキシプロピル澱粉が、以下(C)を満たす、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の造粒バインダー用組成物:
(C)タピオカ澱粉、ワキシータピオカ澱粉、コーン澱粉及びワキシーコーン澱粉のいずれか一以上を原料とする。
[5]酸化澱粉が、90℃達温溶解後の5%粘度が4.5〜500mPa・s(20℃)である、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の造粒バインダー用組成物。
[6]酸化澱粉が、カルボキシル基の結合量が0.03〜0.50%(w/w)である、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の造粒バインダー用組成物。
[7]増粘多糖類を0.2〜15%(w/w)で含む、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の造粒バインダー用組成物。
[8]増粘多糖類が、α化澱粉、キサンタン、グアガム、タラガム及びCMCから選ばれる一以上である、上記[7]記載の造粒バインダー用組成物。
[9]原料粉末100質量部に対し、5〜35%(w/w)溶液として10〜60質量部の割合で噴霧使用される、上記[1]〜[8]のいずれかに記載の造粒バインダー用組成物。
[10]原料粉末100質量部に対し、1〜10質量部の割合で含まれるよう使用される、上記[1]〜[9]のいずれかに記載の造粒バインダー用組成物。
[11]原料粉末が、増粘多糖類又は水難溶性高分子を主成分として含む、上記[9]又は[10]に記載の造粒バインダー用組成物。
[12]増粘多糖類が、α化澱粉、キサンタンガム、グアガム、タラガム及びCMCからなる群より選ばれる一以上である、上記[11]記載の造粒バインダー用組成物。
[13]水難溶性高分子が、タンパク質を主成分とする粉末又は植物の粉砕物である、上記[11]記載の造粒バインダー用組成物。
【0010】
第二の発明は、第一の発明である造粒バインダー用組成物を含む、以下[14]〜[17]の造粒物である。
[14]原料粉末100質量部に対し、上記[1]〜[8]のいずれかに記載の組成物を1〜10質量部の割合で含んでなる、造粒物。
[15]原料粉末が、増粘多糖類又は水難溶性高分子を主成分として含む、上記[14]記載の造粒物。
[16]原料粉末である増粘多糖類が、α化澱粉、キサンタンガム、グアガム、タラガム、カラギーナン及びCMCのいずれか一以上である、上記[14]又は[15]記載の造粒物。
[17]造粒物が、嚥下剤、タンパク含有食品、インスタントココア、インスタント茶のいずれかである、上記[14]〜[16]のいずれかに記載の造粒物。
【0011】
第三の発明は、第一の発明である造粒バインダー用組成物を用いる、以下[18]の造粒物の製造方法である。
[18]造粒物を製造する方法であって、上記[1]〜[8]のいずれかに記載の造粒バインダー用組成物を5〜35質量%(w/v)水溶液とし、原料粉末100質量部に対して10〜60質量部の割合で噴霧する工程と、噴霧と同時に乾燥する工程及び/又は噴霧後に乾燥する工程とを含み、造粒物における原料粉末と造粒バインダー用組成物との比を100:(1〜10)質量部とする、造粒物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、液体に投入したときに分散しやすくダマになりにくい造粒物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
澱粉とは、植物の茎、根、子実などから抽出等して得られるものであり、本明細書においては、化学的又は物理的な加工を実質的に施さない未加工澱粉を指す。また、ヒドロキシプロピル澱粉とは、一般に、澱粉にプロピレンオキサイドを定法により作用させて得られる水酸基置換型加工澱粉をいい、本発明においては、当該ヒドロキシプロピル化の反応と同時又は異時に架橋化剤のトリメタリン酸ナトリウムやオキシ塩化リンなどを定法により作用させて得られるヒドロキシプロピル化架橋澱粉を含む。
【0014】
本発明にいうヒドロキシプロピル澱粉は、澱粉を原料とし、上述のヒドロキシプロピル化等の反応をして得られるものであれば制限はないが、本発明の効果をより効率的に得る観点から、置換度であるDS(Degree of Substitiutionの略。澱粉を構成するグルコース残基の3つのフリーの水酸基すべてが置換されたときの置換度を3とする。)が0.03〜0.2の範囲にあるものが好ましく、0.05〜0.15、さらには0.07〜0.12の範囲にあるものがより好ましい。このDSの詳細な測定方法は、例えば、「第9版 食品添加物公定書(2018年、厚生労働省 消費者庁)」のヒドロキシプロピルデンプン(p.847)などに記載がある。
【0015】
本発明にいうヒドロキシプロピル澱粉には、上述のとおり、ヒドロキシプロピル化架橋澱粉を含まれる。ヒドロキシプロピル化架橋澱粉を用いる場合、その架橋程度は特に限定されないが、本発明の効果をより効率的に得る観点から、低度であることが好ましく、より具体的には、沈降積が7〜10、7.5〜10、さらには9〜10の範囲にあることが好ましい。また、本発明にいうヒドロキシプロピル澱粉の原料となる澱粉は、どのような澱粉であってもよく、米澱粉、コーン澱粉、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉、エンドウ豆澱粉、これらのワキシー種の澱粉など種々挙げられるが、本発明の効果を効率的に得る観点から、コーン澱粉、ワキシーコーン澱粉、タピオカ澱粉、ワキシータピオカ澱粉が好ましく、タピオカ澱粉、ワキシータピオカ澱粉がより好ましい。
【0016】
なお、上述の沈降積の測定方法は、以下である。まず、澱粉試料0.15g(固形分換算)を試験管に計量し、あらかじめ調整しておいた試薬(塩化アンモニウム26質量%、塩化亜鉛10質量%、水64質量%により調整)15mlを注ぎ込む。次に、卓上バイブレーターを用いて、試験管中の澱粉試料中の澱粉資料を均一に分散させ、直ちに沸騰浴中に固定して10分間加熱後、25〜35℃まで冷却する。この試験管中の澱粉試料を、卓上バイブレーターを用いて再度分散させ、10ml容量メスシリンダーの10mlの目盛りまで流し込み、25℃にて20時間静置後、沈降物の目盛りを読み取り、この値を沈降積とする。なお、沈降積の値は、架橋度の高い澱粉(高架橋澱粉)ほど小さくなる。
【0017】
本明細書で使用する用語の「澱粉分解物」とは、澱粉をα−アミラーゼなどの酵素又は塩酸などの酸によって加水分解して得られる、未加工澱粉の分解物を指し、「本発明の分解物」とは区別される。「本発明の分解物」とは、次段落以降で詳細に説明するが、ヒドロキシプロピル澱粉を加水分解処理したもの、又は酸化処理が施された澱粉であり、いずれも加工澱粉の範疇にある分解物である。
【0018】
「本発明の分解物」のひとつの態様は、上述の方法により、ヒドロキシプロピル澱粉を冷水可溶となる程度にまで分解したものである。その分解の程度は限定されるものでないが、本発明の効果がより効率的に発揮される点から、DE(Dextrose Equivalentの略。澱粉すべてがグルコース単位まで分解されたときのDEを100とする。)が2〜16であることが好ましく、2〜10、さらには3〜5であることがより好ましい。なお、ここでいうDEはウィルシュテッターシューデル法による測定値である。
【0019】
「本発明の分解物」のもうひとつの態様は、酸化澱粉である。酸化澱粉とは、酸化剤を定法により作用させた酸化型加工澱粉をいい、具体的には、澱粉が糊化しない温度帯、かつ、アルカリ性(pH7〜12)下において、澱粉懸濁液に次亜塩素酸ナトリウムを作用させた後、中和、水洗、乾燥して得られるものをいう。この反応により、澱粉の分子内にカルボキシル基とカルボニル基が生成するともに、分子が部分解重合していると推察される。本発明で用いる酸化澱粉は、とくに限定されるものではないが、本発明の効果をより効率的に得る観点から、比較的高度に酸化されたものが好ましく、カルボキシル基含量でいえば、0.03〜0.50%(w/w)、より好ましくは0.05〜0.40%(w/w)、さらに好ましくは0.15〜0.35%(w/w)であって、20℃における5%(w/w)粘度でいえば、例えば、BM型粘度計(東機産業社)を用い、ローターNo.2、12rpm、60秒で測定したときに、4.5〜500mPa・s、より好ましくは50〜250mPa・s、さらに好ましくは100〜210mPa・sである。また、本発明で使用する酸化澱粉にあっては、その原料澱粉種に制限はないが、本発明の効果をより効率的に得る観点から、馬鈴薯澱粉、トウモロコシでん粉、小麦でん粉、ワキシーコーン澱粉、タピオカ澱粉、米澱粉、サゴ澱粉、エンドウ豆澱粉、緑豆でん粉からなる群より選ばれる一種以上を原料とすることが好ましく、サゴ澱粉、エンドウ豆澱粉及び馬鈴薯澱粉のいずれか一種以上を原料とすることがより好ましい。
【0020】
なお、カルボキシル基含量は、具体的には以下の方法により測定する。まず、試料2.00gを100ml容ビーカーに秤量し、0.1mol/L塩酸25mlを加えて30分間室温で静置後、吸引ろ過をする。この吸引ろ過は、ビーカー内残留物を洗い込みながら行い、ろ過洗液が塩化物反応を呈さなくなるまで水洗浄して行う。こうして得た残留物を500ml容ビーカーに入れ、水300mlを加えて懸濁し、攪拌しながら水浴中で加熱して糊化させ、糊化後さらに15分間加熱する。水浴からビーカーを取り出して熱いうちに0.1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液で滴定し、その消費量をSmlとする(指示薬のフェノールフタレイン試薬は3滴)。対照区は、同量の試料を別のビーカーに秤量し、水25mlを加えて30分間攪拌してから吸引ろ過する。この吸引ろ過は、水200mlでビーカー内残留物を洗い込みながら行う。こうして得た残留物を500ml容ビーカーに入れ、水300mlを加えて懸濁し、以降は上記と同様の操作を行い、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液の消費量をBmlとすると、カルボキシル基の結合量X(%)(w/w)は、以下の式で算出される。
【0021】
【数1】
【0022】
本発明の造粒用バインダー組成物は、上述のヒドロキシプロピル澱粉の分解物及び/又は酸化澱粉を必須成分とする組成物であるところ、増粘多糖類を同時に含有させることもできる。増粘多糖類は溶解して粘性を発現する物質であるため、これをバインダーとして用いた場合、粉末粒子同士を架橋して比較的強固に結着させることができる。しかし、粉末粒子の結着が強固になりすぎると、得られた造粒物を液体に分散させたときに、造粒物内部に液体が浸潤するまで時間を要することとなり溶解しづらくなる。そこで、増粘多糖類を併用する場合は、α化澱粉、キサンタンガム、グアガム、タラガム及びCMCの中からいずれか一以上を選択することが好ましく、造粒用バインダー組成物100質量部において、0.2〜15質量部となる限度で併用することを目安とするのがよい。なお、酸化澱粉を主体とする造粒バインダー組成物をバインダー液として用いる場合、少なくとも90℃達温工程を採る必要があるため、上述の増粘多糖類を併用することはできるものの、バインダー液の急激な粘度上昇を避けるために併用しないこともできる。
【0023】
本発明の造粒用バインダー組成物は、水に溶解してバインダー液として使用する場合、5〜35質量%(w/v)溶液として噴霧使用すればよく、より好ましくは5〜30質量%(w/v)、さらに好ましくは5〜20質量%(w/v)溶液として噴霧使用するのがよい。また、最終的に得られる造粒物中に、1〜10質量%(w/w)の範囲となる量を噴霧すればよく、より好ましくは1.5〜9質量%(w/w)、さらに好ましくは1.5〜5.0質量%(w/w)の範囲となる量を噴霧するのがよい。造粒用バインダー組成物を溶液として後段で詳述する原料粉末に噴霧する場合、その噴霧液量には注意を要し、原料粉末100質量部に対して液量が10質量部以下又は60質量部を超えると造粒物自体を得ることができないため、好ましくは10質量部を超えて55質量部までの範囲で噴霧するのがよく、より好ましくは20〜50質量部、さらに好ましくは25〜50質量部の割合で噴霧するのがよい。
【0024】
造粒物の原料となる粉末、すなわち、原料粉末は、どのようなものであっても構わないが、本発明の造粒用バインダー組成物の効果が顕著に発揮される対象物の原料粉末は、増粘多糖類のほか、水難溶性高分子が挙げられる。水難溶性高分子の例としては、タンパク質を主成分とする粉末や植物を粉砕した粉末が挙げられ、タンパク質を主成分とする粉末としては、例えば、粉末大豆タンパク、粉末エンドウ豆タンパク、粉末乳タンパク、粉末卵黄、粉末卵白、粉末全卵、粉乳、粉末コラーゲン、粉末ゼラチン、粉末グルテン(粉末小麦タンパク)が挙げられ、植物を粉砕した粉末としては、例えば、粉末茶、粉末ココアなども挙げられる。原料粉末は、本発明の造粒用バインダー組成物を用いて造粒されれば、水をはじめとする溶液に投入したときの分散性が顕著に改善されるが、増粘多糖類の場合は、他の原料粉末と異なり、液体に分散させたときに特にダマになりやすいところ、本発明の造粒用バインダーを用いて造粒物とし、これを原料とする二段造粒物とすれば、ダマになりにくい嚥下剤として用いることができる。なお、ここでいう増粘多糖類は、先述のバインダーの一部として利用される増粘多糖類とは異なり、造粒物の原料となる粉末を指し、具体的には、α化澱粉、キサンタンガム、グアガム、タラガム、カラギーナン及びCMCから選ばれる一以上である。
【0025】
以上のとおり、本発明の造粒用バインダー組成物を用いて製造される造粒物は、医薬品、化粧品、農薬、飼料、食品、栄養強化食品、嚥下剤などあらゆる用途の原料として利用することができ、水や溶液など液体に分散させて使用する用途であればよく、飲料、濃厚流動食、嚥下食品、栄養強化食品の用途の原料として好適に利用できる。また、本発明の造粒用バインダー組成物を用いて得られる製品形態としては、上述の各種タンパク粉末を原料としたタンパク含有食品のほか、ココア含有食品(インスタントココア含む)、インスタント茶、嚥下剤などが例示される。
【実施例】
【0026】
以下、実験例を提示して本発明を詳細かつ具体的に説明するが、本発明は、これら実験例に限定されるものではない。
【0027】
<造粒物の調製方法>
造粒物の調製方法は、以下である。微粉キサンタンガム(150μm以上が20%以下、かつ、75μm以下が20%以下のキサンタンガム)の2000gを5型流動層造粒機((フロイント産業(株)製、フローコーター「FLO5SJ」)に投入し、排気ファンから吸引した70℃のエアーを底部より吹き込んで流動させ、各試験の内容に応じて、各試料(通常の澱粉分解物、加工澱粉の分解物、酸化澱粉など)の2〜40%(w/w)溶液をバインダー液として200〜1200gの範囲で噴霧し、造粒(顆粒化)する。
【0028】
<造粒物の評価方法>
造粒物の評価方法は、以下である。まず、300ml容量ビーカーに20℃の水道水100mlを準備し、試作した造粒品2.1gとTK−16AG(松谷化学工業株式会社の製品。DE18の澱粉分解物を水で造粒したもの。)0.9gを混合した組成物3.0gを投入する。これを5秒間静置し、60秒間の手撹拌の後、当該懸濁液の分散性(ダマの数)を確認した。ダマの数による分散性の評価基準は、以下[表1]のとおりであり、「+」及び「−」のときに合格とする。なお、「▲」の「硬いツブ」とは、造粒物が溶液に分散する様子が全くみられず、造粒物がそのまま容器底に沈殿する状態のものを指す。
【0029】
【表1】
【0030】
<澱粉分解物をバインダーとしたときの分散性の評価>
先述の造粒物の調製方法に従い、キサンタンガム2000gに各澱粉分解物の10%(w/w)溶液を600ml噴霧して造粒物を調製し、その分散性について確認した。結果は以下の[表2]に示す。
【0031】
【表2】
【0032】
通常の澱粉分解物をバインダーとして用いても、キサンタンガムの分散性の改善効果はみられなかった。そこで、加工澱粉及びその分解物を以下の手順で調製し、検討することとした。
【0033】
<ヒドロキシプロピル澱粉の調製>
澱粉100質量部に対し、プロピレンオキサイドを6.2〜7.5質量部の範囲で加え、常法に従って反応させた後、水洗、脱水、乾燥してヒドロキシプロピル澱粉の試作品数点(うち1点が試作品3の原料)を得た。次に、この各ヒドロキシプロピル澱粉100質量部に対し、トリメタリン酸ナトリウムを0.005〜0.015質量部の範囲で加え、定法によって反応させた後、水洗、脱水、乾燥してヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉(試作品1,2,4,5の原料)を得た。
【0034】
<オクテニルコハク酸澱粉ナトリウムの調製>
ワキシーコーン澱粉100質量部に対し、無水オクテニルコハク酸3質量部を常法に従って反応させた後、水洗、脱水、乾燥してオクテニルコハク酸澱粉ナトリウムを得た(試作品6の原料)。
【0035】
<加工澱粉の分解物の調製>
上の手順で得たヒドロキシプロピル澱粉又はオクテニルコハク酸澱粉ナトリウムの懸濁液(pH6±0.2)を調整し、α−アミラーゼ(クライスターゼL1)を各澱粉に対して0.1質量%(オクテニルコハク酸澱粉ナトリウムについては、さらにβ−アミラーゼを0.1質量%)となるよう添加した。85℃昇温後、DE2〜25となるよう20〜40分間保持し、適宜10%塩酸水溶液を投入して酵素を失活させ(pH3.5)、10%NaOH溶液で中和して精製後、噴霧乾燥した。
【0036】
<酸化澱粉の調製>
澱粉100質量部を水130質量部に懸濁したスラリーを35℃・pH8〜11(3%水酸化ナトリウム)に調整し、13%の次亜塩素酸ナトリウムを0.1〜28質量部の範囲で添加して4〜5時間反応させた後に、水洗・脱水・乾燥して酸化澱粉の試作品(試作品7〜15)を得た。
【0037】
<分散性評価−1>
先述の造粒物の調製方法に従い、キサンタンガム2000gに上の手順で得た各試作品の10%(w/w)溶液(試作品7の酸化澱粉は5%(w/w)溶液)を600g噴霧し、造粒物を調製して分散性を確認した([表3])。なお、バインダー試料は、造粒物の菌数を抑えるため、100℃の熱水に溶解した。[表3]中、試作品1、2、4は、原料をタピオカ澱粉とするヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉をα−アミラーゼで分解したものである。試作品3は、原料をタピオカ澱粉とするヒドロキシプロピル澱粉をα−アミラーゼで分解したものである。試作品5は、原料をワキシーコーン澱粉とするヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉をα−アミラーゼで分解したものである。試作品6は、原料をワキシーコーン澱粉とする水酸基置換型加工澱粉のオクテニルコハク酸澱粉ナトリウムをα−アミラー及びβ−アミラーゼで分解したものである。試作品7は、酸化処理をした澱粉である。
【0038】
【表3】
【0039】
<分散性の評価−2>
ヒドロキシプロピル澱粉の分解物(試作品1〜3)のほか、酸化澱粉(試作品7)が意外にも良好な分散性を示したため、酸化澱粉についてさらに詳細に検討することとした。先述の造粒物の調製方法に従い、キサンタンガム2000gに各酸化澱粉(但し、試作品15はカルボキシル含量の数値上は漂白澱粉に分類される。調製方法は上述の「酸化澱粉の調製方法」に同じ。)の5%(w/w)溶液を600g噴霧して造粒物を調製し、分散性について確認した([表4])。
【0040】
【表4】
【0041】
<バインダー液量の検討>
次に、噴霧するバインダー液の適切な量を検討するため、上記「試作品1」をバインダーとして用いて検討を行うこととした。まず、先述の造粒物の調製方法に従い、キサンタンガム2000gに対して10%(w/w)のバインダー溶液を[表5]に示す各量(g)を噴霧し、造粒(顆粒化)した。その造粒物の分散性を評価した結果を[表5]に示す。
【0042】
【表5】
【0043】
<バインダー液の濃度の検討>
バインダー液の適切な量が、原料粉末2000gに対して500ml〜1000ml程度であることがわかったので、次に、適切なバインダーの濃度を検討することとした。先述の造粒物の調製方法に従い、キサンタンガム2000gに対して各濃度のバインダー溶液600g(試作品1を使用)を噴霧し、造粒(顆粒化)した。その造粒物の分散性を評価した結果を[表6]に示す。バインダー濃度が5〜30%(w/w)のときに、分散性が非常に良好な造粒物が得られた。
【0044】
【表6】
【0045】
<増粘多糖類と併用したときの効果>
バインダーとして増粘多糖類を併用したときの効果を検討した。まず、試作品1の10%(w/w)溶液600gを調製しておき、そこへ、以下[表7]記載の濃度となるよう各増粘多糖類を溶解させ、そのバインダー液を上記と同様の手順でキサンタンガム2000gに噴霧して顆粒化させた。その造粒物の分散性の評価を行い、結果を[表7]に示す。その結果、0.02〜1.5%(w/w)のときに併用による改善効果がみられた。
【0046】
【表7】
【0047】
<水難溶性高分子を原料粉末としたときの効果>
次に、水難溶性高分子を原料粉末としたときの分散性を検討することとした。まず、上述の造粒物の調製方法に従い、以下[表8]に記載の各素材2000gに対し、試作品1の10%濃度溶液をバインダー液として600g噴霧し、顆粒化させた。その造粒物の分散性を評価して[表8]に示す。結果、[表8]に示す素材すべての造粒物について、分散性は非常に良好であった。
【0048】
【表8】
【要約】
【課題】 増粘多糖類又は水難溶性高分子を含む粉末は、液体への分散性が悪くダマになりやすいため、粉末そのままの形態で用いるのでなく、対象となる粉末にバインダー液等の助剤を噴霧・乾燥することにより造粒し、造粒物として使用することがある。本発明の目的は、その造粒のために用いられる既存バインダーよりさらに分散性を向上することができるバインダー(バインダー用組成物)を提供することにある。また、本発明の目的は、そのバインダー用組成物を用いてなる造粒物、及びその造粒物の製造方法を提供することにある。
【解決手段】 造粒バインダー用組成物として、澱粉にヒドロキシプロピル化処理を施した後にα‐アミラーゼなどにより加水分解した加工澱粉、又は澱粉を酸化剤で処理して重合分解した加工澱粉を利用することにより、上記課題は達成される。
【選択図】なし