(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
カプサイシン、ジヒドロカプサイシン等のカプサイシノイドは、刺激性を有する化合物であり、唐辛子等の辛味成分として知られている。食品においては、カプサイシノイドの呈する辛味、即ち、これを含有する食品を喫食した際に発現する強力な刺激が病みつきとなり、消費者の高い嗜好性へとつながっている。
【0003】
食品により強い辛味を付与するためには、該食品にカプサイシノイドを含む食材(唐辛子等)や該食材から抽出・精製したカプサイシノイドを大量に添加するなどして、食品中のカプサイシノイドの含有量を増やすことが考えられる。しかし、該食材を大量に加えると、該食材に含まれるカプサイシノイド以外の成分の経時劣化が無視できなくなり、食品の品質を損なうおそれがある。また、カプサイシノイド自体を大量に添加することも、価格面から難しいとされていた。
【0004】
食品中のカプサイシノイドの含有量を増やさずに辛味を増強する方法としては、例えば、キナ酸誘導体を加える方法(特許文献1)、ソーマチンを加える方法(特許文献2)、シュクラロースを加える方法(特許文献3)等が知られている。
【0005】
しかし、カプサイシノイドは油溶性物質であるのに対し、上記各方法はいずれも水溶性物質を用いるものであるため、カプサイシノイドの辛味を増強するためには水相部と油相部が共在する組成物を調製しなければならない。そのような組成物においては、水相部が存在することで油脂やカプサイシノイドの劣化が促進されるため、十分な解決方法とは言えなかった。そこで、水相部を有さない油脂組成物においてもカプサイシノイドの辛味を増強できる方法が求められていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はカプサイシノイドを含有する油脂組成物に添加することにより、該組成物が呈するカプサイシノイド由来の辛味を増強できる辛味増強剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決する為に鋭意研究を重ねた結果、カプサイシノイドを含有する油脂組成物に、ジグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルを添加することで、上記課題を解決し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を成すに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記(1)及び(2)からなっている。
(1)ジグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルを有効成分とすることを特徴とするカプサイシノイド含有油脂組成物用辛味増強剤。
(2)カプサイシノイドを含有する油脂組成物にジグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルを添加することを特徴とするカプサイシノイドの辛味増強方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の辛味増強剤は、カプサイシノイド含有油脂組成物に添加することにより、該組成物が呈するカプサイシノイド由来の辛味を増強(より強く発現)させることができる。
本発明の辛味増強剤を添加したカプサイシノイド含有油脂組成物は、カプサイシノイドの含有量が比較的少量でも十分な辛味を呈する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の辛味増強剤は、ジグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルを有効成分とするものである。即ち、本発明の辛味増強剤の有効成分としては、ジグリセリン脂肪酸エステル又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルのいずれか一方のみを用いてもよく、あるいはこれら双方を組み合わせて用いてもよい。
【0012】
本発明で用いられるジグリセリン脂肪酸エステルは、ジグリセリンと脂肪酸とのエステルであり、エステル化反応等自体公知の方法で製造される。該エステルは、モノエステル体、ジエステル体、トリエステル体のいずれであってもよく、あるいはそれらの混合物であってもよいが、モノエステル体を50質量%以上含有するものが好ましい。
【0013】
ジグリセリン脂肪酸エステルを構成するジグリセリンは、グリセリン2分子が縮合してなる化合物であり、通常グリセリンに少量の酸又はアルカリを触媒として添加し、窒素又は二酸化炭素等の任意の不活性ガス雰囲気下で、例えば180℃以上の温度で加熱し、重縮合反応させて得られるグリセリンの平均重合度が1.5〜2.4、好ましくは平均重合度が約2.0のジグリセリン混合物が用いられる。また、ジグリセリンはグリシドール又はエピクロルヒドリン等を原料として得られるものであってもよく、反応終了後、必要であれば中和、脱塩、脱色等の処理を行ってもよい。
【0014】
本発明においては、上記ジグリセリン混合物を、例えば蒸留又はカラムクロマトグラフィー等自体公知の方法を用いて精製し、ジグリセリンの含有量を50質量%以上、好ましくは85質量%以上に高濃度化した高純度ジグリセリンが好ましく用いられる。
【0015】
ジグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば、炭素数6〜24の直鎖の飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸(例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸等)が挙げられる。これらの中でも、炭素数12〜18の飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸(例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等)が好ましい。ジグリセリン脂肪酸エステルは、これら脂肪酸の1種のみを含むものであってもよく、2種以上を含むものであってもよい。
【0016】
ジグリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、ポエムDO−100V(商品名;ジグリセリンオレイン酸エステル;理研ビタミン社製)、ポエムDP−95RF(商品名;ジグリセリンパルミチン酸エステル;理研ビタミン社製)、ポエムDS−100A(商品名;ジグリセリンステアリン酸エステル;理研ビタミン社製)等が商業的に販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0017】
本発明で用いられるグリセリン有機酸脂肪酸エステルは、グリセリン、有機酸及び脂肪酸のエステルであり、グリセリンモノ脂肪酸エステルと有機酸(又は有機酸の酸無水物)との反応、又はグリセリンと有機酸と脂肪酸との反応等自体公知の方法で製造される。
【0018】
グリセリン有機酸脂肪酸エステルを構成する有機酸としては、食用可能なものであれば特に制限はなく、例えば、コハク酸、ジアセルチル酒石酸、乳酸、クエン酸、酢酸が挙げられる。
【0019】
グリセリン有機酸脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば、炭素数6〜24の直鎖の飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸(例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸等)が挙げられる。これらの中でも、炭素数14〜22の飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸(例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸等)が一般的に用いられる。
【0020】
グリセリン有機酸脂肪酸エステルとしては、例えば、ポエムK−37V(商品名;グリセリンクエン酸脂肪酸エステル;理研ビタミン社製)、ポエムW−60(商品名;グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル;理研ビタミン社製)、ポエムG−002(商品名;グリセリン酢酸脂肪酸エステル;理研ビタミン社製)等が商業的に販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0021】
本発明の辛味増強剤としては、上記ジグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルのみをそのまま用いてもよく、あるいは少なくともジグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含有する組成物を調製し、これを用いてもよい。本発明の辛味増強剤をこのような組成物として調製する場合、ジグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステル以外に本発明の効果を阻害しない範囲で他の任意の成分を配合することができる。そのような成分としては、例えば、ジグリセリン脂肪酸エステル及びグリセリン有機酸脂肪酸エステル以外の乳化剤、油脂等の希釈剤、酸化防止剤(ビタミンE、ビタミンC等)等が挙げられる。
【0022】
本発明の辛味増強剤は、カプサイシノイド含有油脂組成物に添加して使用することができる。これにより、該組成物が呈するカプサイシノイド由来の辛味を増強(より強く発現)させることができる。
【0023】
本発明の辛味増強剤の使用対象であるカプサイシノイド含有油脂組成物に含まれる油脂は、食用可能な油脂であれば特に制限はなく、例えば、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ヒマワリ油、米糠油、コーン油、椰子油、パーム油、パーム核油、落花生油、オリーブ油、ゴマ油、ハイオレイック菜種油、ハイオレイックサフラワー油、ハイオレイックコーン油、ハイオレイックヒマワリ油等の植物油脂、牛脂、ラード、魚油、乳脂等の動物油脂、これら動植物油脂に分別、水素添加、エステル交換等の処理を施した加工油脂、あるいは中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)等が挙げられる他、グリセリンジ脂肪酸エステル及びプロピレングリコールジ脂肪酸エステルもこれらに含まれる。これらの中でも、取り扱いの容易さを考慮した場合、常温(15〜25℃)で液状である植物油脂が好ましい。これら油脂は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
カプサイシノイド含有油脂組成物に含まれるカプサイシノイドとしては、食用可能なものであれば特に制限はなく、例えば、カプサイシン、ジヒドロカプサイシン、ノルジヒドロカプサイシン、ホモジヒドロカプサイシン、ホモカプサイシン等が挙げられる。これらカプサイシノイドは、天然物由来のものであってもよく、化学的に合成したものであってもよい。天然物由来のカプサイシノイドを用いる場合は、カプサイシノイドを含有する天然物(唐辛子等)をそのまま油脂に加えてもよく、該天然物から抽出・精製したカプサイシノイドあるいは該天然物を原料とする調味料(豆板醤、タバスコ等)を油脂に加えてもよい。
【0025】
カプサイシノイド含有油脂組成物は、上記油脂及びカプサイシノイド以外に、他の任意の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、例えば、酸化防止剤(ビタミンE、ビタミンC等)、着色料(パプリカ色素、クチナシ色素等)、香料等が挙げられる。また、カプサイシノイド含有油脂組成物としては、ラー油、オーリオ・ピカンテその他の香味油として市販されているものを用いることができる。
【0026】
本発明の辛味増強剤のカプサイシノイド含有油脂組成物に対する添加量は、該組成物の配合等によっても異なるが、例えば、本発明の辛味増強剤の有効成分であるジグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルの添加量に換算して、該組成物100質量%に対して0.001〜10質量%であり、好ましくは0.005〜2質量%、より好ましくは0.01〜0.2質量%である。
【0027】
本発明の辛味増強剤を添加したカプサイシノイド含有油脂組成物は、通常のカプサイシノイド含有油脂組成物と同様、そのまま調味料として使用できる他、任意の食品又は調味料の原材料として使用することもできる。該組成物を使用できる食品又は調味料としては、原材料として油脂を含有し得るものであれば特に制限はなく、液状、ペースト状、固形状、粉末状、顆粒状等いかなる性状のものであってもよいが、例えば、シーズニングオイル、粉末シーズニング等のシーズニング類、ラーメンスープ、各種即席スープ等のスープ類、ドレッシング、サラダ用調味料、ソース、ルウ、たれ、スプレッド、フィリング等が挙げられる。
【0028】
本発明の辛味増強剤を添加したカプサイシノイド含有油脂組成物は辛味が増強されるため、組成物中のカプサイシノイドの含有量が同じであれば、従来のカプサイシノイド含有油脂組成物よりも強い辛味を呈する。従って、例えば組成物中のカプサイシンの含有量が少なく、従来ならばほとんど辛味を感じられないような場合であっても、十分な辛味を得ることができる。
【0029】
以下に本発明を実施例で説明するが、これは本発明を単に説明するものだけのものであって、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0030】
[カプサイシノイド含有油脂組成物の調製]
(1)原材料
1)菜種サラダ油(商品名;ボーソー油脂社製)
2)唐辛子抽出物製剤(商品名:オレオレジンカプシカム#62;カプサイシン濃度約1%;高田香料社製)
3)ジグリセリンオレイン酸エステル(商品名:ポエムDO−100V;理研ビタミン社製)
4)ジグリセリンパルミチン酸エステル(商品名:ポエムDP−95RF;理研ビタミン社製)
5)グリセリンクエン酸脂肪酸エステル(商品名:ポエムK−37V;理研ビタミン社製)
6)グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル(商品名:ポエムW−60;理研ビタミン社製)
7)グリセリン酢酸脂肪酸エステル(商品名:ポエムG−002;理研ビタミン社製)
8)グリセリンオレイン酸エステル(商品名:ポエムOL−200V;理研ビタミン社製)
9)トリグリセリンパルミチン酸エステル(商品名:ポエムTRP−97RF;理研ビタミン社製)
10)ヘキサグリセリン縮合リシノール酸エステル(商品名:ポエムPR−300;理研ビタミン社製)
11)プロピレングリコールステアリン酸エステル(商品名:リケマールPS−100;理研ビタミン社製)
12)ソルビタンオレイン酸エステル(商品名:ポエムO−80V;理研ビタミン社製)
【0031】
(2)カプサイシノイド含有油脂組成物の配合
上記原材料を用いて調製したカプサイシノイド含有油脂組成物1〜12の配合組成を表1に示した。これらの内、カプサイシノイド含有油脂組成物1〜6は本発明の辛味増強剤を添加した実施例であり、カプサイシノイド含有油脂組成物7〜11は本発明の辛味増強剤以外の乳化剤を添加した比較例である。また、対照としてカプサイシノイド含有油脂組成物12は乳化剤を一切添加せずに調製した。
【0032】
【表1】
【0033】
(3)カプサイシノイド含有油脂組成物の調製方法
表1に示した配合割合に従って、200ml容量のビーカーに原材料を合計100gとなるように量りとり、60℃に加熱しながらよく撹拌して混合し、常温まで放冷してカプサイシノイド含有油脂組成物1〜12各100gを得た。
【0034】
[辛味の評価]
得られたカプサイシノイド含有油脂組成物1〜12について、辛味に関しての官能評価を、表2に示す評価基準に従い10名のパネラーで行った。結果はそれぞれ10名の評点の平均値を求め、下記基準にて記号化した。結果を表3に示す。
<記号化基準>
◎:極めて良好 平均値3.5以上
○:良好 平均値2.5以上、3.5未満
△:やや悪い 平均値1.5以上、2.5未満
×:悪い 平均値1.5未満
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】
【0037】
表3の結果から明らかなように、本発明の辛味増強剤を添加したカプサイシノイド含有油脂組成物1〜6は強い辛味を感じることができた。一方、比較例のカプサイシノイド含有油脂組成物1〜11はほとんど辛味を感じることができず、対照と差が無かった。