(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
測距光を発する発光素子と、変調信号を生成する変調信号生成部と、変調信号を所定周期を有するバースト周期で断続させ前記発光素子に断続測距光をバースト発光させる発光素子駆動回路と、既知の光路長を有する内部参照光路と、測定対象物からの反射測距光及び前記内部参照光路を経た測距光を受光する受光素子と、該受光素子からの受光信号をビートダウンする受光回路と、ビートダウンされた受光信号を反射測距光、内部参照光それぞれについてDFT演算処理し、得られる中間周波数と、該中間周波数に対する側波帯の位相、振幅を求め、前記側波帯に含まれる2つの周波数に基づき前記バースト周期に対応する周波数の位相を求め、反射測距光の前記周波数の位相及び内部参照光の前記周波数の位相に基づき測定対象物の距離を演算する制御演算部とを具備する光波距離計。
【背景技術】
【0002】
光波距離計に於いて、距離測定を高精度で行うには、測定対象物からの反射測距光について所定の受光光量が必要であり、測定対象物に照射する測距光のピーク値は、測距距離に対応した光強度が必要となる。
【0003】
一方、レーザ光線(測距光)を発する発光素子は、発光負荷率(Duty)が定められており、発光負荷率の制限から測距光のピーク値も制限されている。
【0004】
従って、変調光を断続的に発光(バースト発光)するバースト発光方式が採用されている。
【0005】
又、バースト発光方式は2つの側面を持っている。即ち、バースト発光している変調光をバースト発光周期に於けるパルス発光と見做せる面と、バースト発光している区間内部を、位相差を求める変調光と見做せる面である。
【0006】
バースト発光方式では、パルス発光と見做すバースト区間全体を利用して粗雑な距離値を測定し、バースト区間内にある変調光を利用して精密な距離値を測定し、それらを合わせることで距離値を計算することができる。
【0007】
然し乍ら、バースト方式では、バースト発光周期の内、測距光が発せられている区間(バースト発光されている時間)は短い為、バースト発光周期全体を一次周期とする周波を求め、位相により距離を求める場合、バースト発光している測距光の周波数をバースト発光周期全体に対応する様に周波数を変更する等複雑な回路を必要としていた。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施例を説明する。
【0016】
先ず、
図1に於いて光波距離測定装置の基本構成を説明する。
【0017】
発光素子1(例えば、レーザダイオード:LD)は発光素子駆動回路12によって所定周波数に強度変調されたレーザ光線を射出する。該レーザ光線はハーフミラー2によって測距光3と内部参照光4とに分割され、前記ハーフミラー2を透過した前記測距光3は対物レンズ5を通して測定対象物(図示せず)に照射され、該測定対象物で反射された反射測距光3′は前記対物レンズ5、ハーフミラー8を通して受光素子7により受光される。尚、受光素子としてはフォトダイオード、例えば、アバランシフォトダイオード(APD)が用いられる。
【0018】
前記発光素子1、前記発光素子駆動回路12等は、測距光射出部を構成し、前記受光素子7、増幅器19(
図2参照)、受光回路13等は、受光信号発生部を構成する。
【0019】
前記ハーフミラー2で反射された前記内部参照光4は、前記反射測距光3′の光路上の前記ハーフミラー8で反射され、前記受光素子7に受光される。前記ハーフミラー2から前記受光素子7に至る光路は内部参照光路を構成し、既知の光路長を有する。
【0020】
前記測距光3の光路と前記内部参照光4の光路に掛渡り光路切替え器9が設けられ、該光路切替え器9は駆動回路14によって光路の切替えが行われ、前記反射測距光3′と前記内部参照光4とが交互に前記受光素子7に受光される。該受光素子7の受光信号は、前記受光回路13に入力される。
【0021】
尚、前記光路切替え器9は、前記受光素子7が前記内部参照光4と前記測距光3とを分離して受光できる様にする為の手段であり、前記内部参照光4の光路に光ファイバ等の光路調整部材を設け、前記受光素子7が内部参照光、測距光を受光する際に時間差が生じる様にすれば、前記光路切替え器9は省略できる。
【0022】
前記受光回路13は、前記受光素子7からの受光信号をアンプによる増幅、ミキサーによる周波数変換(ビートダウン)、A/D変換する等所要の信号処理を実行して、処理後の信号を制御演算部15に入力する。
【0023】
前記制御演算部15は、前記発光素子駆動回路12を制御し、該発光素子駆動回路12を介して前記発光素子1の発光状態を制御する。又、前記制御演算部15は前記駆動回路14を制御して前記受光素子7に入射する前記反射測距光3′と前記内部参照光4との切替えを行う。
【0024】
又、前記制御演算部15は、受光信号から前記内部参照光4と前記反射測距光3′との位相差(受光時間差)を求めて距離を演算している。又、前記内部参照光4と前記反射測距光3′との位相差を求めることで、前記受光回路13のドリフト等回路上の、不安定要素が除去される。
【0025】
図2は、本発明の実施例に係る測距部の概略構成図を示している。
図2中、
図1中で示したものと同等のものには、同符号を付してある。
【0026】
図2中、16は基準信号発生器を示し、所定の基準周波数を発する。以下の説明では、基準周波数として120MHz、ビートダウンされた周波数(中間周波数)として7.5MHz、アナログデジタル変換のサンプリング周波数として60MHzを例示している。尚、各周波数としては、その他240MHz等、サンプリング周波数を整数倍したものが用いられ、光波距離計が要求される精度、能力に応じて適宜基準周波数が選択される。
【0027】
前記基準信号発生器16から発せられる基準周波数に対して、分周波信号が生成され、該分周波信号と前記基準周波数によって変調周波数が生成される。尚、分周波信号は、演算の都合上、基準周波数に整数倍を除して得られるものであり、更に、除数はS/N比に依存する為、8〜20程度が好ましい。以下の説明では、除数を16とし、7.5MHzの分周波信号が生成されている。
【0028】
図3(A)、
図3(B)を参照すると、前記基準信号発生器16からの基準信号は、変調周波数生成器17a,17bによって2つの近接した変調信号120MHz+7.5MHz及び120MHz−7.5MHzが生成され、該変調信号120MHz+7.5MHz及び120MHz−7.5MHzは、前記発光素子駆動回路12に入力され、該発光素子駆動回路12は、入力された変調信号に基づき発光駆動信号18を発し、前記発光素子1を駆動発光させる。該発光素子1からは、120MHz−7.5MHzに変調された測距光26、120MHz+7.5MHzに変調された測距光27が発光される。前記基準信号発生器16、前記変調周波数生成器17a,17b等は変調信号生成部を構成する。
【0029】
更に、前記制御演算部15は、前記発光素子駆動回路12を介して前記発光素子1が断続的に発光(バースト発光)する様、前記発光素子1を制御する。又、前記制御演算部15は、記憶部21に格納された各種プログラムを実行し、距離測定に必要な所要の演算を実行する。
【0030】
前記記憶部21には、測定に必要な演算の為の各種プログラムが格納されている。例えば、前記受光回路13から出力される信号を増幅、アナログデジタル変換(A/D変換)する等の信号処理を実行する為の信号処理プログラム、バースト信号に対して離散フーリエ変換(DFT:discrete Fourier transform)を実行する為の演算プログラム、DFTの結果を位相と振幅に変換するプログラム、DFTを実行することで得られた1次周波数、2次周波数等、…(後述)の位相と振幅を抽出する為の演算プログラム等が格納されている。
【0031】
又、前記記憶部21には、測距結果、演算結果等の各種データが格納される。
【0032】
主制御部22は、光波距離計(図示せず)の測距作動を制御すると共に前記制御演算部15の演算処理を制御する。前記主制御部22と前記制御演算部15は、統合して制御部としてもよい。
【0033】
測距光に対する信号処理と内部参照光に対する信号処理とは同一であるので、以下は測距光について説明する。
【0034】
前記受光素子7からは断続受光信号28,29が交互に発せられ、該断続受光信号28,29は前記測距光26,27に対応しており、前記断続受光信号28は、933.33nsの信号幅と、120MHz−7.5MHzの第1変調周波数を有し、前記断続受光信号29は、933.33nsの信号幅と、120MHz+7.5MHzの第2変調周波数を有する。尚、信号幅については、要求される測定精度、回路上の制約等によって所定の値に設定される。
【0035】
更に前記発光素子1の発光周期は10μs(100kHz)となっている。従って、両断続受光信号28,29を含む受光信号の発生周期(発生間隔)は10μsとなっている。尚、発光間隔は、測距光が測定対象物に対して往復する時間より充分長く設定され、要求される最大測距距離に対応させ、適宜設定される。
【0036】
前記断続受光信号28,29は、前記増幅器19で増幅され、前記受光回路13で、A/D変換される等、所要の信号処理が行われ、ビートダウンされた信号(本実施例の場合、周波数FL =7.5MHz)が前記制御演算部15に入力される。
【0037】
又、前記受光素子7には、前記内部参照光4が入射し、前記受光素子7は前記内部参照光4に基づく受光信号31を発する。前記内部参照光4に基づく受光信号も、前記測距光26,27に対応して、断続受光信号であり、更に120MHz−7.5MHz、120MHz+7.5MHzの変調周波数を有し、更に信号幅933.33ns、発光周期は10μsとなっている。
【0038】
内部参照光については、光路長は一定しており、前記受光回路13等の回路が安定した状態では、前記発光駆動信号18の発生タイミングと、前記受光回路13が内部参照光を受光し、発する受光信号の発生タイミングは固定される。従って、前記受光回路13等の回路が安定した状態では、前記受光回路13が内部参照光を受光し、発する受光信号31の発生タイミングと前記発光駆動信号18の発生タイミングとの関係も固定され、前記受光回路13が発する内部参照光の受光信号は、前記発光駆動信号18に基づく信号となる。
【0039】
而して、前記発光素子駆動回路12が発する前記発光駆動信号18を参照用の信号として使用してもよい。
【0040】
図4(A)は、前記内部参照光4の断続受光信号31を示し、
図4(B)は、前記測距光26の断続受光信号28を示し、
図4(C)は、前記断続受光信号28、前記断続受光信号31からDFTの演算処理、側波帯の処理により抽出した1次周波数28′,31′を示している。
【0041】
尚、
図4では、前記測距光27、前記内部参照光4の120MHz+7.5MHzの変調周波数の断続受光信号は省略している。
【0042】
断続光をパルス光と仮定し、前記断続受光信号31について、前記測距光26の発光タイミングから前記断続受光信号31が発せられる迄の時間差をt1とし、前記測距光26の発光タイミングから前記断続受光信号28が発せられる迄の時間差をt2とすると、t2−t1=Δtが前記測距光26が測定対象物迄を往復する時間であり、光速とΔtにより測定対象物迄の距離が測定できる。ところが、断続光は単パルス光とは異なり、断続光には120MHz±7.5MHzの変調光が含まれているので、受光された変調光(発せられる変調信号)は距離によって形状が変わる。この為、変調光に対するサンプリング位置にバラツキを生じてしまい、結果的に時間差Δtが誤差を含むことになり、測定精度が悪くなる。従って、実際は、反射測距光の受光信号と内部参照光の受光信号の位相差に基づき距離測定が行われる。
【0043】
ところが、上記した様に、反射測距光の受光信号と内部参照光の受光信号は、共に断続光であるので、反射測距光の受光信号と内部参照光の受光信号間の位相差が求められない。従って、バースト区間全体をバースト周期(周波数100kHz)2πとしたときの位相を求めるが、周波数変換した場合、100kHz(10μs)に現れるスペクトルの振幅は小さくなってしまう。
【0044】
例えば、バースト波形(
図3(A)の区間(バースト周期10μs))を離散フーリエ変換(DFT:discrete Fourier transform)した場合、周波数と周波数に対する振幅と位相が得られる。
図5は周波数と振幅との関係を示す曲線32を示している。
【0045】
図5中の該曲線32上のプロットは、中間周波数7.5MHzを中心として、バースト発光周期に対応させ、100kHz単位でプロットしたものである。
【0046】
尚、
図5は、特に発光周波数(7.5MHz)近傍を拡大したグラフとなっている。図示される様に、発光周波数(7.5MHz)を中心とした近傍では大きな振幅(以下、側波帯33)が得られるが、中間周波数(7.5MHz)から離れると急激に振幅が小さくなり、発光周期である100kHz(1次の周波数)ではほとんど振幅はでない。
【0047】
これは、前記発光素子駆動回路12から発せられる発光駆動信号は、綺麗なsin波であり、バースト区間(信号が存在する区間)に含まれる信号も綺麗なsin波となり、打ち消され、1次の周波数に有効な振幅が出てこないことによる。
【0048】
これに対し、本発明者は、中間周波数の発光周波数(7.5MHz)前後に振幅の大きな側波帯33が現れることに着目し、この中間周波数に対する側波帯33を利用し、中間周波数に対する側波帯の位相、振幅を求め、更に1次〜4次波長の位相を求めることを見出した。
【0049】
尚、1次周波数とはバースト発光の周期を2πとする周波数であり、丁度DFTするデータの長さで1周期回る周波数になる。
【0050】
DFTする全域に周波数がある場合、理想的には発光周波数のみピークが立ちその前後の周波数は0となるが、バースト波形(
図4(A)、
図4(B)参照)をバースト周期についてDFTすると一部のみ波形がある為、発光周波数との周波数ズレに関係した振幅が現れる。
【0051】
前記側波帯33の振幅も発光周波数(7.5MHz)との周波数ズレの関係式になる為、ここから周波数差の位相を求めることができる。DFTの求められる周波数間隔は全域で等しい(即ち周波数間隔はバースト発光周波数)為、前記側波帯33に含まれ、発光周波数P1と該発光周波数P1と1番近い発光周波数P2との周波数差=1次周波数となり、前記発光周波数P1と2番目に近い発光周波数P3との差=2次周波数となり、同様に3番目に近い発光周波数P4との差=3次周波数、4番目に近い発光周波数P5との差=4次周波数となる。これにより低次(例えば、1次〜4次)の周波数の位相を求めることができる(
図4(C)参照)。
【0052】
更に、発光周波数P2と該発光周波数P2に隣接する発光周波数P3とで1次周波数を求める等、異なる隣接する発光周波数Pn、Pn+1を用いて複数の1次周波数を求め、得られた複数の1次周波数について重み付けを行う等、求める1次周波数の精度を高めてもよい。2次周波数、3次周波数等についても、同様に発光周波数の組合せを変え複数の周波数を求め、重み付け等により精度を高めてもよい。
【0053】
この1次周波数を求めることで長距離の測定ができる。又、2次周波数、3次周波数、4次周波数を求めることで中距離、近距離について高精度の距離測定が行える。
【0054】
図6は、前記側波帯33に含まれる周波数に関して隣接する2点の周波数P1、P2の位相を示し、前記側波帯33のDFTの演算を単心円上で表している。
【0055】
図6中、ωtを発光周波数(7.5MHz、
図5中、P1)の角速度、ω
0 tを前記側波帯33(
図5中、P2)の周波数の角速度とする。
【0056】
発光周波数と側波帯との角速度の違いから、発光周波数の位相に対して角速度の差分((ω−ω
0 )t)位相が回転する。
【0057】
ωとω
0 は、DFTの離散間隔で存在するので、隣合った周波数間の差で求まる位相((ω−ω
0 )t)は、DFTの1次周波数の位相と等しくなる。従って、隣合った周波数間の差を求めることで1次周波数の位相を求めることができる。
【0058】
内部参照光の断続受光信号に対しても、DFTを行い、側波帯を利用して1次周波数の位相を求めることができる。内部参照光の1次周波数の位相は、測距光との位相差を求める為の参照用1次周波数の位相であり、該参照用1次周波数の位相と前記測距光の断続受光信号の側波帯で得られた1次周波数の位相とにより、内部参照光と測距光との位相差が求められ、測定距離が演算される。
【0059】
上記した様に、本実施例では、中間周波数(発光周波数120−7.5MHz及び120+7.5MHz)とその前後の周波数のみ、DFTすればよいので、計算量が少なくなり、計算の簡略化ができ、測定の高速化及び装置のコストダウンが図れる。
【0060】
尚、本実施例に於いても、断続受光信号をパルス信号として、処理し、TOF(Time of Flight)方式で、測定対象物の概略の距離を求める様にしてもよいことは言う迄もない。
【0061】
又、上記実施例では、測距光の断続受光信号のDFT処理に基づき得られた1次周波数の位相と、内部参照光の断続受光信号のDFT処理に基づき得られた参照用1次周波数の位相との対比により求めた位相差で距離を演算したが、内部参照光の断続受光信号に代え、前記発光素子駆動回路12から発せられる前記発光駆動信号18を参照用信号として使用し、該発光駆動信号18のDFT処理に基づき1次周波数を抽出し、この1次周波数を参照用1次周波数として用いてもよい。