(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る複数の実施の形態を説明する。
第1実施形態
図1は、本発明の複数の実施形態に共通する密封装置(オイルシール)1の断面図である。密封装置1は、金属片の連続鋳造機において金属片を搬送するロール(回転軸)2を支持するコロ軸受3(
図1に一部分のみを示す)を保護するために使用される。密封装置1は、ロール2とロール2が配置されたハウジング4の内面4Aとの間に配置され、ロール2が支持される軸受側の空間Aと外部空間Bとを隔離する。軸受側の空間Aは、コロ軸受3のための潤滑油が満たされており、外部空間Bには、水、ダストおよびスケールが存在する。
【0016】
密封装置1は、3つの剛性環6,8,10と、2つの弾性環12,14とを備える。剛性環6,8,10は、剛体、例えば金属から形成されており、弾性環12,14は、弾性体、例えばエラストマーから形成されている。ロール2は円柱状であり、内面4Aは断面円形であり、密封装置1はほぼ環状であるが、
図1においては、それらの上側部分のみが示されている。
図1には、これらの共通軸線Axを示す。
【0017】
剛性環6は密封装置1の全体を補強する。剛性環6は、円筒部分6Aと、円筒部分6Aの端部から半径方向内側に延びる円板部分6Bを有する。剛性環6のほぼ全体は、弾性環12に埋設されている。
【0018】
弾性環12は、ハウジング4の内面4Aに固定される外側円筒部分(取付部)12Aと、外側円筒部分12Aの端部から半径方向内側に延びる円板部分12Bと、円板部分12Bの半径方向内側に形成されたサブシールリップ12Cを有する。外側円筒部分12Aの内面4Aへの固定の方式は、例えば締まり嵌めであってよい。外側円筒部分12Aの図中の右側の端部は、ハウジング4の端壁4Bに押し当てられている。端壁4Bには、共通軸線Axを中心とする断面円形の開口4Cが形成されている。
【0019】
剛性環6の円筒部分6Aの全体は、弾性環12の外側円筒部分12Aに埋設されている。剛性環6の円板部分6Bのほぼ全体は、弾性環12の円板部分12Bに埋設されている。
【0020】
サブシールリップ12Cは、円板部分12Bから半径方向内側かつ外部空間Bに向けて斜めに延びる環である。サブシールリップ12Cの先端縁は、ロール2の外周面に摺動自在に接触し、軸受側の空間A内にコロ軸受3のための潤滑油を保持する。但し、軸受側の空間Aの圧力が一定値を超えると、サブシールリップ12Cはロール2の外周面から離れ、軸受側の空間Aから図中の右側への潤滑油の流出を許容する。図において、潤滑油の流れを複数の矢印Fで示す。潤滑油の流れFは、まずサブシールリップ12Cとロール2の外周面の間の環状の間隙を通過しうる。
【0021】
剛性環8は弾性環14を支持する。剛性環8は、円筒部分8Aと、円筒部分8Aの端部から半径方向内側に延びる円板部分8Bを有する。円筒部分8Aは、外側円筒部分12Aの内周面に固定されている。固定の方式は、例えば締まり嵌めであってよい。円板部分8Bには、複数の開口8Cが形成されている。複数の開口8Cは、共通軸線Axの周囲に等角間隔をおいて配置されている。潤滑油の流れFはこれらの開口8Cを通過することが可能である。
【0022】
円板部分8Bの内縁には、弾性環14が接合されている。弾性環14は、円板部分8Bの内縁に固定された環状のブロック部14Aと、ブロック部14Aから半径方向内側かつ外部空間Bに向けて斜めに延びる環であるメインシールリップ14Bを有する。メインシールリップ14Bの先端縁は、ロール2の外周面に摺動自在に密封接触し、軸受側の空間A内に潤滑油を保持する。メインシールリップ14Bは、ロール2に対する締め代が大きいため、サブシールリップ12Cとは異なり、軸受側の空間Aの圧力が上記の一定値を超えても、ロール2に接触し続ける。すなわち、メインシールリップ14Bとロール2の間を潤滑油が通過して外部空間B側に流出することが防止されており、外部空間Bから水、ダストまたはスケールがメインシールリップ14Bとロール2の間を通過して軸受側の空間Aに流入することも防止されている。
【0023】
不可欠ではないが、メインシールリップ14Bのロール2に対する接触面には、エラストマーより硬い樹脂(例えばポリテトラフルオロエチレン)で形成された補強リップ16が接合されている。補強リップ16は、密封装置1の寿命を延ばす。また、樹脂はエラストマーよりも平滑化しやすいため、ロール2に与えるトルクを低減することが可能である。補強リップ16は、メインシールリップ14Bの先端縁の一部とみなすことができる。
【0024】
剛性環10は、円筒部分10Aと、円筒部分10Aの端部から半径方向内側かつ外部空間Bに向けて斜めに延びる保護環10Bを有する。円筒部分10Aは、外側円筒部分12Aの内周面に固定されている。固定の方式は、例えば締まり嵌めであってよい。保護環10Bは、メインシールリップ14Bの基端部よりも外部空間B側に配置され、外部空間Bに存在するダストまたはスケールからメインシールリップ14Bの大部分を保護する役割を果たす。
【0025】
弾性環14には、さらにチェックリップ14Cが形成されている。チェックリップ14Cは、ブロック部14Aから半径方向内側かつ外部空間Bに向けて斜めに延びる環である。チェックリップ14Cは、メインシールリップ14Bと保護環10Bとの間に配置され、円周方向全体にわたって保護環10Bに面接触する。すなわちチェックリップ14Cの接触面14Dが保護環10Bの接触面10Cに接触する。したがって、チェックリップ14Cは、潤滑油が外部空間Bに流出することを阻害するとともに、水、ダストまたはスケールが軸受側の空間Aに流入することも阻害する。
【0026】
但し、軸受側の空間Aの圧力が上記一定値を超えると、チェックリップ14Cと保護環10Bの間には間隙が生じて、軸受側の空間Aから外部空間Bへ間隙を介して潤滑油が流出することが許容される。このようにチェックリップ14Cは、逆止弁と同様の機能を有する。
【0027】
この実施形態においては、コロ軸受3の潤滑のためにオイルエアーアウト潤滑方式が採用されている。オイルエアーアウト潤滑方式では、図示しない圧縮空気供給装置から高圧の空気が軸受側の空間Aに供給され、図示しない潤滑油供給装置から潤滑油が軸受側の空間Aに供給される。高圧の空気によって潤滑油がコロ軸受3に供給され、その空気の流れによってコロ軸受3から空気と潤滑油が排出される。密封装置1は、軸受側の空間Aを所要の圧力に維持するとともに、外部空間Bから軸受側の空間Aへの水、ダストおよびスケールの侵入を防止または低減する。また、密封装置1から排出される空気によって、水、ダストおよびスケールの侵入がさらに抑制される。高圧の空気によって、軸受側の空間Aの圧力が上記一定値を超えると、矢印Fで示すように、空気および潤滑油は、サブシールリップ12Cとロール2の間の間隙を通過し、サブシールリップ12Cとメインシールリップ14Bの間の空間を通過し、さらに剛性環8の円板部分8Bに形成された複数の開口8C、ならびにチェックリップ14Cと保護環10Bの間の間隙を通過する。最後に、ハウジング4の端壁4Bの開口4Cを空気および潤滑油は通過して、外部空間Bに到達する。
【0028】
この実施形態においては、空気および潤滑油の排出を促進するため、保護環10Bにおけるチェックリップ14Cに対向する接触面10Cが改良されている。
図2は、密封装置1の保護環10Bの展開図である。符号10Dは、保護環10Bの先端縁(
図1参照)を示す。2本の仮想線11A,11Bで画定された領域が保護環10Bのチェックリップ14Cに接触する接触面10Cである。
【0029】
保護環10Bの接触面10Cには少なくとも3つの溝20が形成されている。これらの溝20は、共通軸線Ax(
図1参照)の周囲に等角間隔で配置されている。
図2において、各溝20は直線状であり、接触面10Cを最短距離で横断するように先端縁10Dに対して垂直な方向に延びている。
【0030】
但し、各溝20の形状は直線状に限定されず、
図3に示すように湾曲していてもよい。あるいは、各溝20は、直線状であったとしても先端縁10Dに対して傾いていてもよい。
【0031】
図4に示すように、各溝20の断面は円弧状である。但し、各溝20の断面形状も円弧状に限定されず、
図5に示すように三角形であってもよいし、四角形であってもよい。各溝20の深さおよび幅も図示の深さおよび幅に限定されない。さらには、
図5に示すように、各溝20は、保護環10Bを貫通する貫通部分20Aを有していてもよい。
【0032】
チェックリップ14Cは、本来、円環状の輪郭を有するが、弾性体で形成されているため、
図4および
図5の左側部分に示すように、弾性力によって保護環10Bの周面に隙間なく接触する(すなわち溝20を閉塞する)。但し、溝20に接触するチェックリップ14Cの部分は他の部分よりも大きく変形するため、溝20に対するチェックリップ14Cの接触圧は、保護環10Bの他の部分に対する接触圧よりも小さい。このため、軸受側の空間Aの圧力が上記一定値を超えると、
図4および
図5の右側部分に示すように、チェックリップ14Cは溝20から離れて間隙22が発生する。間隙22を空気および潤滑油が流通することができる。
【0033】
高圧の空気の供給が停止すると、
図4および
図5の左側部分に示すように、間隙22は閉塞し、外部空間Bから軸受側の空間Aへの水、ダストおよびスケールの侵入が防止される。
【0034】
図6は、比較例の密封装置の保護環10Bとチェックリップ14Cの接触状態を示す。この比較例では、保護環10Bとチェックリップ14Cは、溝も突起も形成されない円環状の輪郭を有する。保護環10Bに対してチェックリップ14Cは、円周方向全体にわたってほぼ一様な接触圧で、円周面で面接触する。但し、保護環10Bとチェックリップ14Cの偏心、製造精度などの理由により、円周方向において接触圧のバラツキがある。例えば、
図6において、仮想線の円で囲んだ部分24が、接触圧が弱い部分であるとする。軸受側の空間Aの圧力が上記一定値を超えると、接触圧が弱い部分24に間隙が発生する。間隙が発生するのは1箇所の場合が多い。一旦、1つの間隙が発生すると、その後は、他の部分に間隙が発生することは少なく、多くの場合は、その間隙のみを通じて空気および潤滑油が流通する。軸受側の空間Aの圧力がさらに高まる場合には、間隙が広がってゆくが、いずれにせよ接触圧が弱い1つの部分24を起点として、空気および潤滑油が流通する間隙が発生しやすい。
【0035】
図7は、第1実施形態の密封装置1の保護環10Bとチェックリップ14Cの接触状態を示す。
図7の例では、4つの溝20が等角間隔で保護環10Bに形成されている。したがって、4つの接触圧が弱い部分24が存在し、軸受側の空間Aの圧力が上記一定値を超えると、上記の間隙22(
図4および
図5参照)が4つ、等角間隔で発生する。このため、溝20に起因する等角間隔の間隙22から均等に空気および潤滑油が排出される。したがって、オイルエアーアウト潤滑方式において、ロール2の円周方向にわたって空気および潤滑油の排出量をできるだけ均等化することが可能である。軸受側の空間Aの圧力がさらに高まる場合には、これらの間隙22がさらに広がり、さらに高圧の場合には、これらの間隙22がチェックリップ14Cの周方向においてつながり、チェックリップ14Cを全周にわたって囲む空間が発生することがありえ、その空間を空気および潤滑油が流通しうる。但し、いずれにせよ、4つの溝20に対応する接触圧が弱い4つの部分24を起点として、空気および潤滑油が流通する間隙または空間が発生しやすい。溝20の寸法および個数によっては、空気および潤滑油の排出量を増加することができる。
【0036】
図7の例では、4つの溝20が設けられているが、空気および潤滑油の排出の集中を避けるには、溝20の数は2以上であることが好ましく、空気および潤滑油の排出量をできるだけ均等化するには、溝20の数は3以上であることが好ましい。X個の溝20を形成した場合(Xは3以上の自然数)、軸受側の空間Aの圧力が上記一定値を超えると、上記の間隙22がX個、等角間隔で発生する。
【0037】
上記の通り、各溝20の形状は限定されない。但し、
図2に示すように、各溝20は、保護環10Bの先端縁10Dに向かうにつれて幅が小さくなるのが好ましい。この場合には、各溝20における空気および潤滑油の入口の断面積が広く、出口の断面積が狭くなる。したがって、各溝20に起因して発生する間隙22は、広い部分から空気および潤滑油を集め、早い流速で空気と潤滑油を排出することができる。
【0038】
また、
図5に示すように、各溝20の底部に保護環10Bを貫通する貫通部分20Aが形成された場合には、一旦、間隙22が発生すると、間隙22から貫通部分20Aを通じて速やかに空気と潤滑油を排出することができる。
【0039】
図2に示すように、各溝20は接触面10Cの長さ(仮想線11A,11Bの間隔)よりも小さい長さを有し、接触面10Cの範囲内に存在する。この場合には、高圧の空気の供給が停止すると、間隙22が速やかに閉塞される。但し、溝20の深さが適切であれば、軸受側の空間Aの圧力が下がれば間隙22は閉じるので、
図3に示すように、各溝20は接触面10Cからはみ出していてもよい。
【0040】
第2実施形態
第1実施形態においては、保護環10Bの接触面10Cに少なくとも3つの溝20が形成されている。これに対して、第2実施形態においては、保護環10Bの接触面10Cに少なくとも3つの突起26が形成されている。
図8は、第2実施形態に係る保護環10Bの展開図である。符号10Dは、保護環10Bの先端縁(
図1参照)を示す。2本の仮想線で画定された領域が保護環10Bのチェックリップ14Cに接触する接触面10Cである。
【0041】
保護環10Bの接触面10Cに形成された突起26は、共通軸線Ax(
図1参照)の周囲に等角間隔で配置されている。
図8において、各突起26は直線状であり、接触面10Cを最短距離で横断するように先端縁10Dに対して垂直な方向に延びている。
【0042】
但し、各突起26の形状は直線状に限定されず、
図9に示すように湾曲していてもよい。あるいは、各突起26は、直線状であったとしても先端縁10Dに対して傾いていてもよい。
【0043】
図10に示すように、各突起26の断面は円弧状である。但し、各突起26の断面形状も円弧状に限定されず、
図11に示すように三角形であってもよいし、四角形であってもよい。各突起26の高さおよび幅も図示の高さおよび幅に限定されない。
【0044】
チェックリップ14Cは、本来、円環状の輪郭を有するが、弾性体で形成されているため、
図10および
図11の左側部分に示すように、弾性力によって保護環10Bの周面に隙間なく接触する(すなわち突起26に密着する)。但し、突起26の根元部分に接触するチェックリップ14Cの部分は他の部分よりも大きく変形するため、突起26の根元部分に対するチェックリップ14Cの接触圧は、保護環10Bの他の部分に対する接触圧よりも小さい。このため、軸受側の空間Aの圧力が上記一定値を超えると、
図10および
図11の右側部分に示すように、チェックリップ14Cは突起26の根元部分から離れて間隙28が発生する。このように各突起26について2つの間隙28が発生する。間隙28を空気および潤滑油が流通することができる。
【0045】
高圧の空気の供給が停止すると、
図10および
図11の左側部分に示すように、間隙28は閉塞し、外部空間Bから軸受側の空間Aへの水、ダストおよびスケールの侵入が防止される。
【0046】
保護環10BにX個の突起26を形成した場合(Xは3以上の自然数)、軸受側の空間Aの圧力が上記一定値を超えると、上記の間隙28(
図10および
図11参照)が2X個、規則的に発生する。したがって、オイルエアーアウト潤滑方式において、ロール2の円周方向にわたって空気および潤滑油の排出量をできるだけ均等化することが可能である。軸受側の空間Aの圧力がさらに高まる場合には、これらの間隙28がさらに広がり、さらに高圧の場合には、これらの間隙28がチェックリップ14Cの周方向においてつながり、チェックリップ14Cを全周にわたって囲む空間が発生することがありえる。但し、いずれにせよ、接触圧が弱い2X個の部分を起点として、空気および潤滑油が流通する間隙または空間が発生しやすい。突起26の寸法および個数によっては、空気および潤滑油の排出量を増加することができる。
【0047】
上記の通り、各突起26の形状は限定されない。但し、
図8に示すように、各突起26は、保護環10Bの先端縁10Dに向かうにつれて幅が大きくなるのが好ましい。この場合には、各突起26の両側に発生する間隙28における空気および潤滑油の入口の断面積が広く、出口の断面積が狭くなる。したがって、各突起26に起因して発生する間隙28は、広い部分から空気および潤滑油を集め、早い流速で空気と潤滑油を排出することができる。
【0048】
図8に示すように、各突起26は接触面10Cの長さ(仮想線11A,11Bの間隔)よりも小さい長さを有し、接触面10Cの範囲内に存在する。この場合には、高圧の空気の供給が停止すると、間隙28が速やかに閉塞される。但し、突起26の高さが適切であれば、軸受側の空間Aの圧力が下がれば間隙28は閉じるので、
図9に示すように、各突起26は接触面10Cからはみ出していてもよい。
【0049】
第3実施形態
第1実施形態においては、保護環10Bの接触面10Cに少なくとも3つの溝20が形成されている。これに対して、第3実施形態においては、チェックリップ14Cの接触面14Dに少なくとも3つの溝30が形成されている。
図12は、第3実施形態に係るチェックリップ14Cの展開図である。符号14Eは、チェックリップ14Cの先端縁(
図1参照)を示す。先端縁14Eと仮想線15で画定された領域がチェックリップ14Cの保護環10Bに接触する接触面14Dである。
【0050】
チェックリップ14Cの接触面14Dに形成された溝30は、共通軸線Ax(
図1参照)の周囲に等角間隔で配置されている。
図12において、各溝30は直線状であり、接触面14Dを最短距離で横断するように先端縁14Eに対して垂直な方向に延びている。
【0051】
但し、各溝30の形状は
図12に示した形状に限定されず、湾曲していてもよい。あるいは、各溝30は、直線状であったとしても先端縁14Eに対して傾いていてもよい。
【0052】
図13の右側部分に示すように、各溝30の断面は円弧状である。但し、各溝30の断面形状も円弧状に限定されず、三角形であってもよいし、四角形であってもよい。各溝30の深さおよび幅も図示の深さおよび幅に限定されない。
【0053】
保護環10Bが円環状の輪郭を有するのに対して、チェックリップ14Cは、ほぼ円環状ではあるが溝30を持つ輪郭を有する。しかし、チェックリップ14Cは弾性体で形成されているため、
図13の左側部分に示すように、弾性力によって保護環10Bの周面に隙間なく接触する(すなわち溝30に相当する部分も保護環10Bに密着する)。但し、チェックリップ14Cの溝30に相当する部分は他の部分よりも大きく変形するため、溝30に相当する部分の接触圧は、チェックリップ14Cの他の部分の接触圧よりも小さい。このため、軸受側の空間Aの圧力が上記一定値を超えると、
図13の右側部分に示すように、チェックリップ14Cの溝30に相当する部分は、保護環10Bから離れて間隙32が発生する。間隙32を空気および潤滑油が流通することができる。
【0054】
高圧の空気の供給が停止すると、
図13の左側部分に示すように、間隙32は閉塞し、外部空間Bから軸受側の空間Aへの水、ダストおよびスケールの侵入が防止される。
【0055】
チェックリップ14CにX個の溝30を形成した場合(Xは3以上の自然数)、軸受側の空間Aの圧力が上記一定値を超えると、上記の間隙32がX個、等角間隔で発生する。したがって、
図6および
図7を用いて上記したのと同じ理由によって、オイルエアーアウト潤滑方式において、ロール2の円周方向にわたって空気および潤滑油の排出量をできるだけ均等化することが可能である。軸受側の空間Aの圧力がさらに高まる場合には、これらの間隙32がさらに広がり、さらに高圧の場合には、これらの間隙32がチェックリップ14Cの周方向においてつながり、チェックリップ14Cを全周にわたって囲む空間が発生することがありえる。但し、いずれにせよ、接触圧が弱いX個の溝30に相当する部分を起点として、空気および潤滑油が流通する間隙または空間が発生しやすい。溝30の寸法および個数によっては、空気および潤滑油の排出量を増加することができる。
【0056】
上記の通り、各溝30の形状は限定されない。但し、
図12に示すように、各溝30は、チェックリップ14Cの先端縁14Eに向かうにつれて幅が小さくなるのが好ましい。この場合には、各溝30における空気および潤滑油の入口の断面積が広く、出口の断面積が狭くなる。したがって、各溝30に起因して発生する間隙32は、広い部分から空気および潤滑油を集め、早い流速で空気と潤滑油を排出することができる。
【0057】
図12に示すように、各溝30は接触面14Dの長さ(先端縁14Eと仮想線15の間隔)よりも小さい長さを有し、接触面14Dの範囲内に存在する。この場合には、高圧の空気の供給が停止すると、間隙32が速やかに閉塞される。但し、但し、溝30の深さが適切であれば、軸受側の空間Aの圧力が下がれば間隙32は閉じるので、各溝30は接触面14Dからはみ出していてもよい。
【0058】
第4実施形態
第3実施形態においては、チェックリップ14Cの接触面14Dに少なくとも3つの溝30が形成されている。これに対して、第4実施形態においては、チェックリップ14Cの接触面14Dに少なくとも3つの突起36が形成されている。
図14は、第4実施形態に係るチェックリップ14Cの展開図である。符号14Eは、チェックリップ14Cの先端縁(
図1参照)を示す。先端縁14Eと仮想線で画定された領域がチェックリップ14Cの保護環10Bに接触する接触面14Dである。
【0059】
チェックリップ14Cの接触面14Dに形成された突起36は、共通軸線Ax(
図1参照)の周囲に等角間隔で配置されている。
図14および
図15に示すように、各突起36は、楔形であって、緩く傾斜した広い前面36Aと、急傾斜した後面36Bと、前面36Aの両側にある2つの傾斜した側面36Cを有する。後面36Bは先端縁14E側に配置されている。前面36Aは直線状であり先端縁14Eに対して垂直な方向に延びている。
【0060】
但し、各突起36の形状は図示の形状に限定されず、例えば、前面36Aが湾曲していてもよい。
【0061】
各突起36の断面は台形状である。但し、各突起36の断面形状も台形状に限定されず、円弧状であってもよいし、三角形であってもよいし、四角形であってもよい。各突起36の高さおよび幅も図示の高さおよび幅に限定されない。
【0062】
保護環10Bが円環状の輪郭を有するのに対して、チェックリップ14Cは、ほぼ円環状ではあるが突起36を持つ輪郭を有する。しかし、チェックリップ14Cは弾性体で形成されているため、
図16の左側部分に示すように、弾性力によって保護環10Bの周面に隙間なく接触する(すなわち突起36に相当する部分も保護環10Bに密着する)。但し、チェックリップ14Cの突起36の2つの側面36Cに相当する部分は他の部分よりも大きく変形するため、突起36の側面36Cに相当する部分の接触圧は、チェックリップ14Cの他の部分の接触圧よりも小さい。このため、軸受側の空間Aの圧力が上記一定値を超えると、
図16の右側部分に示すように、チェックリップ14Cの突起36の側面36Cに相当する部分は、保護環10Bから離れて間隙38が発生する。間隙38を空気および潤滑油が流通することができる。
【0063】
高圧の空気の供給が停止すると、
図16の左側部分に示すように、間隙38は閉塞し、外部空間Bから軸受側の空間Aへの水、ダストおよびスケールの侵入が防止される。
【0064】
チェックリップ14CにX個の突起36を形成した場合(Xは3以上の自然数)、軸受側の空間Aの圧力が上記一定値を超えると、上記の間隙38が2X個、規則的に発生する。したがって、オイルエアーアウト潤滑方式において、ロール2の円周方向にわたって空気および潤滑油の排出量をできるだけ均等化することが可能である。軸受側の空間Aの圧力がさらに高まる場合には、これらの間隙38がさらに広がり、さらに高圧の場合には、これらの間隙38がチェックリップ14Cの周方向においてつながり、チェックリップ14Cを全周にわたって囲む空間が発生することがありえる。但し、いずれにせよ、接触圧が弱い2X個の部分を起点として、空気および潤滑油が流通する間隙または空間が発生しやすい。突起36の寸法および個数によっては、空気および潤滑油の排出量を増加することができる。
【0065】
上記の通り、各突起36の形状は限定されない。但し、
図14および
図15に示すように、各突起36は、チェックリップ14Cの先端縁14Eに向かうにつれて断面積が大きくなるのが好ましい。この場合には、各突起36の両側に発生する間隙38における空気および潤滑油の入口の断面積が広く、出口の断面積が狭くなる。したがって、各突起36に起因して発生する間隙38は、広い部分から空気および潤滑油を集め、早い流速で空気と潤滑油を排出することができる。
【0066】
図14に示すように、各突起36は接触面14Dの長さ(先端縁14Eと仮想線15の間隔)よりも小さい長さを有し、接触面14Dの範囲内に存在する。この場合には、高圧の空気の供給が停止すると、間隙38が速やかに閉塞される。但し、突起36の高さが適切であれば、軸受側の空間Aの圧力が下がれば間隙38は閉じるので、各突起36は接触面14Dからはみ出していてもよい。
【0067】
他の変形例
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記の説明は本発明を限定するものではなく、本発明の技術的範囲において、構成要素の削除、追加、置換を含む様々な変形例が考えられる。
【0068】
例えば、上記の実施の形態および変形例は、矛盾しない限り、組み合わせてもよい。保護環とチェックリップの両方に、合計で少なくとも3つの突起が形成されていてもよいし、あるいは、保護環とチェックリップの両方に、合計で少なくとも3つの溝が形成されていてもよい。
【0069】
上記の実施の形態においては、密封装置1は、金属片の連続鋳造機において金属片を搬送するロール2を支持するコロ軸受3を保護するために使用される。しかし、密封装置1は、金属板の圧延機の圧延ロールを支持するコロ軸受を保護するために使用されてもよい。