(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の2次電池セルを含む電池集合体が、ケースとカバーの中に配置された組電池において、ケースもしくはカバーと電池集合体の間を、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の積層体により遮蔽し、ケースもしくはカバーの類焼を予防した組電池。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下図面を参照しながら、複数の2次電池セルを含む組電池に使用される耐火断熱部材を例として、発明の実施形態について説明する。発明は以下に示す個別の実施形態に限定されるものではなく、その形態を変更して実施することもできる。
【0016】
図1に、第1実施形態の樹脂組成物積層体10を示す。後述するように、この積層体10は組電池の周囲に設けられて、発火した2次電池セルからの火炎や熱が、周囲の部材や、他の2次電池セルに伝わりにくくするための断熱部材として用いられうる。
【0017】
積層体10は、第1樹脂組成物層1と第2樹脂組成物層2を含む。さらに他の層、例えばガラス繊維の織布層等を有していてもよい。積層体10において、第1樹脂組成物層1と第2樹脂組成物層2は隣接し、互いに接着されている。接着は接着剤等を利用した接着であってもよいし、第1樹脂組成物層1と第2樹脂組成物層2が直接接着していてもよい。
【0018】
第1樹脂組成物層1は、ポリイミド樹脂を主体とする樹脂組成物からなる層である。典型的には、第1樹脂組成物層1は市販されているポリイミドフィルム等により構成することができる。第1樹脂組成物層は、他の樹脂材料や充填材や難燃剤等を含んでいてもよい。
【0019】
第2樹脂組成物層2は、合成樹脂成分に亜リン酸アルミニウムを8〜70重量%含む樹脂組成物からなる層である。第2樹脂組成物層2を構成する樹脂組成物には、可塑剤や難燃剤等が配合されていてもよい。亜リン酸アルミニウムの配合量は30〜60重量%であることが好ましい。
【0020】
第2樹脂組成物層2を構成する樹脂組成物のマトリクス成分となる合成樹脂成分は、特に限定されず、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂、ゴム等の合成樹脂が使用できる。中でも、塩化ビニル(PVC)樹脂やウレタン(PUR)樹脂やポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、フッ素樹脂などの、難燃性に優れる樹脂が好ましい。合成樹脂は、単独で、あるいはブレンドして使用できる。また、合成樹脂は、第1樹脂組成物層1の主体であるポリイミド樹脂との接着性が良好な樹脂から選択することが好ましい。
【0021】
第2樹脂組成物層2の合成樹脂に亜リン酸アルミニウムが所定の量配合されることにより、第2樹脂組成物層2が加熱された際に、第2樹脂組成物層2が膨張して断熱層を形成する。亜リン酸アルミニウムとしては、例えば、太平化学産業株式会社のAPA−100等が使用できる。亜リン酸アルミニウムの膨張温度が380℃〜480℃であり、10倍以上の膨張率を有するものが好ましい。
【0022】
膨張量を高め断熱効果を高めるとの観点から、第2樹脂組成物に対する亜リン酸アルミニウムの配合量は8重量%以上である。30重量%以上とすることが好ましい。また、第2樹脂組成物層2の成形性や加工性の観点から、第2樹脂組成物に対する亜リン酸アルミニウムの配合量は70重量%以下である。60重量%以下とすることが好ましい。
【0023】
必須ではないが、第2樹脂組成物層2を構成する樹脂組成物に難燃剤を配合することが好ましい。難燃剤を併用することにより、第2樹脂組成物層2を構成する樹脂組成物が加熱された際に、可燃性のガスが発生したり、火災や過熱を拡大することがより抑制されうる。難燃剤は、赤リンなどのリン系の難燃剤でもよいが、可燃性ガスの発生そのものを抑制しやすいハロゲン系難燃剤であることがより好ましい。
【0024】
必須ではないが、第2樹脂組成物層2には、熱膨張性黒鉛が含まれないことが好ましく、そのようにされていれば、第2樹脂組成物層2が加熱され膨張して生ずる断熱層が絶縁性の断熱層となる。積層体10を組電池などの周囲に用いる場合には、特に、熱膨張性黒鉛が含まれないことにより、電気絶縁性が維持されるので好ましい。
【0025】
樹脂組成物積層体10の製造方法の例について説明する。
まず、第2樹脂組成物層2を構成する樹脂組成物を準備する。マトリクス成分となる合成樹脂に対し、所定量の亜リン酸アルミニウム粉末や他の配合剤を混練する。混練は公知の方法により行えばよいが、この時の混練温度が亜リン酸アルミニウムの膨張温度を越えないようにする。混練が完了し、第2樹脂組成物層2となる樹脂組成物が得られたら、ロール成形や加圧成形等により、所定の厚みのシート状にして、第2樹脂組成物層2とする。
【0026】
第1樹脂組成物層1としては、市販されているポリイミドフィルムが利用できる。先の工程で得られた第2樹脂組成物層2に、第1樹脂組成物層1となるポリイミドフィルムを積層し、接着すると、両者が一体化した積層体10が得られる。接着は、第2樹脂組成物層2となる樹脂組成物が熱可塑性樹脂を含むものである場合には、第2樹脂組成物層を構成する樹脂組成物が半溶融状態に加熱された状態で、ポリイミドフィルムを積層・加圧すれば、両者を接着できる。接着に際し、接着剤、好ましくは、ポリイミド系接着剤を用いてもよい。
【0027】
第2樹脂組成物層2の表面形状が複雑な場合には、以下のような製造方法により積層体10を製造してもよい。まず、所定の配合に混練された樹脂組成物を、射出成形や圧縮成形等により所定の形状に成形し、第2樹脂組成物層2を得る。しかる後に、第1樹脂組成物層1となるポリイミド樹脂/前駆体の溶液を、第2樹脂組成物層2の表面に塗布する。ポリイミド樹脂溶液としては、例えば、溶媒可溶型のポリイミド樹脂を有機溶剤に溶解させた溶液が使用でき、この場合は、塗布したポリイミド樹脂溶液から有機溶剤を蒸発させることにより、第2樹脂組成物層2の表面に接着一体化した第1樹脂組成物層1が形成される。あるいは、ポリアミック酸などのポリイミド前駆体の溶液を第2樹脂組成物層2の表面に塗布する場合には、塗布後に加熱してイミド化処理を行うことにより、第2樹脂組成物層2の表面に接着一体化した第1樹脂組成物層1が形成される。
【0028】
樹脂組成物積層体10の使用方法の例について説明する。
樹脂組成物積層体10は、火炎等に曝されて加熱された際に、亜リン酸アルミニウムが配合された第2樹脂組成物層2が膨張し、断熱層となるので、積層体10により火炎や熱の伝達を抑制し、火災の類焼や拡大を抑制する用途に使用できる。特に、樹脂組成物積層体10は、2次電池セルが複数組み込まれた組電池において、破損や短絡等により2次電池セルの一つが異常発熱して発火した場合などに、火災が他の2次電池セルに類焼したり、組電池のケースなどが溶損・発火したりすることを抑制するために使用できる。
【0029】
図3は、第1実施形態の樹脂組成物積層体10を組電池のカバーに適用した使用例を示す断面図である。
図3の例では、略直方体状の形状を有する電池集合体40が、金属製(鉄製やアルミニウム製)のケース32の中に配置されて組電池が構成されている。電池集合体40は複数の2次電池セルを含んでいる。ケース32の開口部を覆うように合成樹脂製のカバー31が設けられ、ケース32とカバー31の中に、電池集合体40が収容されている。上記第1実施形態の樹脂組成物積層体10は、カバー31の内側を覆うように、カバー31に一体化されている。
【0030】
電池集合体40に火災が発生し、火炎が樹脂製のカバー31に達すると、カバー31が溶損したり発火するおそれがあるが、樹脂組成物積層体10が設けられることにより、カバーへの熱の伝達を樹脂組成物積層体10により抑制し、カバー31の溶損や発火を抑制できる。
この場合、樹脂組成物積層体10は、ポリイミド樹脂を主体とする第1樹脂組成物層1の側が組電池に面するように設けられることが、火炎の遮蔽をより確実に行う上で好ましい。ポリイミドフィルム等は、火炎等に曝されても、連続した面を維持するので、火炎の透過の抑制に適している。
【0031】
樹脂組成物積層体10は、樹脂製のカバー31の内面全体を覆うように設けられることが好ましいが、電池集合体において異常発熱する箇所や発火する箇所、火炎が生ずる箇所が特定の箇所に限定できるのであれば、そうした箇所のみを覆うように樹脂組成物積層体10を設けてもよい。
【0032】
なお、この実施形態のように、ケース32が金属製とされていて火災や伝熱等の問題が生じないのであれば、ケース32と電池集合体40の間には、樹脂組成物積層体10を設ける必要はない。なお、ケース32の外周面に近接して電子機器などが配置されるような場合には、そうした部位では、ケース32と電池集合体40の間にも樹脂組成物積層体10を設けて、熱の伝達を抑制することが好ましい。要するに、電池集合体40とケース32もしくはカバー31の間で、断熱や火炎の遮断が必要な部位に、樹脂組成物積層体10を設ければよい。すなわち、電池集合体40とケース32、カバー31の間の積層体10による遮蔽は、部分的なものであってもよい。
【0033】
図4は、第1実施形態の樹脂組成物積層体10を2次電池セルの間の断熱に適用した使用例を示す断面図である。この実施形態の例では、円筒状の2次電池セル41,41が並んで配置され、これら複数の2次電池セル41,41が、対をなすカバー部材51,52の中に収容されている。
【0034】
この実施形態においては、シート状である第1実施形態の樹脂組成物積層体10を、シートの可撓性を利用して、それぞれの2次電池セル41の周囲に円筒状に巻きつけ、シートの両側縁同士を突きあわせるようにして、樹脂組成物積層体10が2次電池セル41,41のそれぞれを取り囲むように配置している。すなわち、電池セルの間は、積層体10により遮蔽される。このような構成であれば、2次電池セル41の1つが異常発熱したり発火したりしても、その2次電池セルの周囲の樹脂組成物積層体10により、火炎や熱が隣接する他の2次電池に伝達されることが抑制されて、組電池中の2次電池セルの類焼を抑制できる。この場合も、樹脂組成物積層体10は、ポリイミド樹脂を主体とする第1樹脂組成物層1が2次電池セル41に面するよう、第1樹脂組成物層1が円筒の内側に設けられることが好ましい。
【0035】
また、電池から吹き出す火炎を遮断すると共に、酸素の供給を断って火炎の発生を抑制するとの観点からは、本実施形態のように、樹脂組成物積層体10が、2次電池セル41の外周面に密着するように配置されることが好ましい。また、同様の観点から、樹脂組成物積層体10が、2次電池セル41の外周面に接着されていることが好ましい。
【0036】
なお、この実施形態では、樹脂組成物積層体10を、それぞれの2次電池セル41の周囲に円筒状に設けているが、これは必須ではなく、類焼や異常発熱の連鎖が予防できるのであれば、樹脂組成物積層体10は、互いに隣接する2次電池セル41,41の間を遮蔽するように設けられていれば良く、例えば、特許文献1における耐火材63と同様の形状や配置で設けられていてもよい。
【0037】
上記実施形態の樹脂組成物積層体10の作用及び効果について説明する。
例えば、
図3の電池集合体が発火したような場合のように、樹脂組成物積層体10に炎や高温の物質が接触するなどして、樹脂組成物積層体10が加熱されると、第2樹脂組成物層2が膨張して、耐火性の断熱層となる。第2樹脂組成物層2に含まれる亜リン酸アルミニウムは加熱により分解し、新たなリン酸塩となって結晶化することにより膨張する。この作用により、加熱された第2樹脂組成物層2は耐火性を有する断熱層として機能する。第2樹脂組成物層2が十分に膨張して断熱性を発揮するよう、第2樹脂組成物層2を構成する樹脂組成物は、亜リン酸アルミニウムを8重量%以上含む。
【0038】
そして、樹脂組成物積層体10では、ポリイミド樹脂を主体とする第1樹脂組成物層1と、亜リン酸アルミニウムを含む第2樹脂組成物層2とが、互いに隣接するよう配置され、接着されているため、第2樹脂組成物層2が厚み方向により膨張しやすく、加熱された際の断熱効果が高められている。第1樹脂組成物層1が設けられていない場合には、第2樹脂組成物層2は、厚み方向だけでなく、層の面内方向に沿った方向にも膨張してしまいやすく、厚み方向の膨張が不十分なものとなりやすい。
【0039】
ポリイミド樹脂を主体とする第1樹脂組成物層1は、加熱されても伸びず、むしろ若干収縮する傾向を示す。樹脂組成物積層体10では、ポリイミド樹脂を主体とする第1樹脂組成物層1が、第2樹脂組成物層2に接着されているので、第2樹脂組成物層2は、第1樹脂組成物層1に拘束されて、層の面内方向に沿った方向には膨張したり伸びたりしにくくなる。その結果、第2樹脂組成物層2は厚み方向に、集約的に膨張することになり、耐火層の厚みが確保されやすく、耐火性・断熱性が高められる。したがって、上記実施形態の樹脂組成物積層体10は、樹脂組成物製の積層体でありながら、耐火性・断熱性に優れている。
【0040】
また、上記実施形態の樹脂組成物積層体10は、樹脂組成物であるため、ロール成形や射出成形などの樹脂の製造方法を応用して製造でき、シート状や、その他の形状など、多彩な形状にすることができて、成形性に優れる。
【0041】
樹脂組成物積層体10は、第2樹脂組成物層の合成樹脂としてポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂などを用いれば、比較的硬質な積層体とすることもできる一方で、合成樹脂として軟質塩化ビニル樹脂や軟質ウレタン樹脂を用いれば、比較的軟質な積層体とすることもできる。積層体10が軟質であれば、電池セルの外周に巻き付けながら積層体を取り付けることも可能となるなど、多様な耐火構造に組み付けやすくなる。
【0042】
第2樹脂組成物層2の厚み方向の膨張性を高め、耐火性・断熱性をより高めるとの観点からは、第1樹脂組成物層と第2樹脂組成物層が、ポリイミド系接着剤により接着されることが好ましい。ポリイミド系接着剤を用いると、高温下においても第1樹脂組成物層による第2樹脂組成物層の面に沿う方向の拘束がより効果的に行われ、厚み方向により膨張しやすくなるからである。なお、第1樹脂組成物層と第2樹脂組成物層の接着において接着剤の使用は必須ではなく、成形時に加熱した状態で加圧すれば第1樹脂組成物層1と第2樹脂組成物層が接着するのであれば、接着剤を使わなくてもよい。
【0043】
樹脂組成物積層体10を、電池、特に組電池の周辺における耐火・断熱のための部材として使用する場合には、樹脂組成物積層体10は、第2樹脂組成物層が熱膨張性黒鉛を含まないように構成されることが好ましい。熱膨張性黒鉛が含まれなければ、第2樹脂組成物層が膨張して形成される断熱層が絶縁性の断熱層となるので、膨張した断熱層に接触して電池の正極と負極が短絡してしまい、新たな異常加熱の原因となってしまうようなことが未然に防止されるからである。
【0044】
上記実施形態の樹脂組成物積層体10は、複数の2次電池セルを含む組電池において、互いに隣接する2次電池セルの間を遮蔽することができ、2次電池セルの類焼を予防でき、2次電池セルを含む組電池の火災の発生や拡大を抑制することができる。類焼の予防効果を高めるためには、各層の厚みを厚くすれば良く、特に第2樹脂組成物層2の厚みを厚くすると、耐火性・断熱性を高めやすい。2次電池セルの発火事象における火炎の発生時間は、10秒程度であることが多いので、このような用途であれば、典型的には、第2樹脂組成物層2の厚みが1mm程度であっても、類焼や隣接する2次電池の異常発熱を抑制できることが多い。
【0045】
また、上記実施形態の樹脂組成物積層体10は、第1樹脂組成物層1が2次電池セルの外周面に対向するように積層体が配置されることが好ましく、これにより、耐火性がより高められる。ポリイミド樹脂を主体とする第1樹脂組成物層1は、炎などに曝されても軟化・焼損しにくく、樹脂組成物積層体10の表面を覆うような耐火性の層となって、第2樹脂組成物層の合成樹脂が燃えようとすることを抑制する効果が高いからである。
【0046】
また、上記実施形態の樹脂組成物積層体10は、複数の2次電池セルを含む電池集合体が、ケースとカバーの中に配置された組電池において、電池集合体とケースもしくはカバーの間を遮蔽するよう配置することで、ケースもしくはカバーの類焼を予防でき、2次電池セルを含む組電池の火災の発生や拡大が抑制される。
【0047】
発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の改変をして実施することができる。以下に発明の他の実施形態について説明するが、以下の説明においては、上記実施形態と異なる部分を中心に説明し、同様である部分についてはその詳細な説明を省略する。また、これら実施形態は、その一部を互いに組み合わせて、あるいは、その一部を置き換えて実施できる。
【0048】
図2には、第2実施形態の樹脂組成物積層体20を示す。この実施形態では、積層体20が、第1樹脂組成物層1と第2樹脂組成物層2を含み、積層体20において、第1樹脂組成物層1と第2樹脂組成物層2は隣接し、互いに接着されている点は同様である。本実施形態では、積層体20は、さらに、ポリイミド樹脂を主体とする第3樹脂組成物層3を有し、亜リン酸アルミニウムを含む第2樹脂組成物層がポリイミド樹脂を主体とする第1樹脂組成物層と第3樹脂組成物層の間に挟まれている。第3樹脂組成物層3が第2樹脂組成物層2に接着されていることが好ましい。
【0049】
この実施形態の樹脂組成物積層体20でも、亜リン酸アルミニウムを含む第2樹脂組成物層の膨張が、ポリイミド樹脂を主体とする第1樹脂組成物層と第3樹脂組成物層による拘束で、厚み方向に顕著な膨張になって、積層体20が厚み方向に効率的に膨張するので、耐火性・断熱性がさらに優れたものとなる。
【0050】
第2実施形態の樹脂組成物積層体20は、特に、2次電池セルと2次電池セルの間に配置される部材として適しており、どちらの側の電池が異常加熱・発火した際にも、同じく優れた耐火性、断熱性を発揮できる。
【0051】
図5には、第2実施形態の樹脂組成物積層体21を2次電池セル42,42の間に配置されるセパレータ部材として用いた例を示す。
図5の例において、樹脂組成物積層体21は、全体が波板状に折れ曲がった形状に形成されると共に、亜リン酸アルミニウムを含む第2樹脂組成物層2がポリイミド樹脂を主体とする第1樹脂組成物層1と第3樹脂組成物層3の間に挟まれて接着された構造となっている。この凹凸折り曲げ構造により、電池の間に冷却風を流すことができる。2次電池セル42の一つに火災等が生じた場合には、樹脂組成物積層体21の第2樹脂組成物層2が膨張して、隣接する他の2次電池セルへの火炎や熱の伝播を抑制し、2次電池セルの類焼が抑制される。
【0052】
なお、上記実施形態の説明においては、樹脂組成物積層体の全面にわたって、亜リン酸アルミニウムを含む第2樹脂組成物層2がポリイミド樹脂を主体とする第1樹脂組成物層1と隣接し一体化された形態を中心に説明したが、第1樹脂組成物層1と第2樹脂組成物層2の積層及び接着は、部分的なものであってもよい。すなわち、耐火性や断熱性の要求の高い部分では第1樹脂組成物層1と第2樹脂組成物層2を隣接させて接着しつつ、他の部分では、そのような積層構造とは異なる構造としてもよい。
【0053】
例えば、
図6に示した第3実施形態の樹脂組成物積層体22のように、第1樹脂組成物層1と第2樹脂組成物層2を隣接させて積層、接着した部分Aの周囲に、第2樹脂組成物層2だけの部分Bを設けるようにしてもよい。第2樹脂組成物層2だけからなる部分Bは、第1樹脂組成物層1に比べ、他の部材等に対する接着性に優れるので、この部分を利用すると、樹脂組成物積層体22の一体化がしやすくなる。
【0054】
例えば、
図6に示した第3実施形態の樹脂組成物積層体22は、円筒状の電池セルに巻きつけるようにして、巻きつけ末端に第2樹脂組成物層2だけの部分Bが来るようにすれば、この部分で接着して、円筒状の形状に固定しやすい。
あるいは、樹脂組成物積層体に適宜、第2樹脂組成物層2だけの部分Bを設けるようにして、その部分を利用して、ケースやカバー等に接着固定するようにすることもできる。
【0055】
上記実施形態の説明においては、樹脂組成物積層体が使用される対象を、主に2次電池周辺の耐火断熱構造を中心として説明したが、本発明の樹脂組成物積層体の適用対象は、これに限定されず、耐火性や高温断熱性の要求のある部位に広く利用できる。たとえば、本発明の樹脂組成物積層体は、スイッチボックスや、電流遮断装置、パワートランジスタ回路の収容ボックス、等の電気部材における耐火断熱部材として使用してもよい。また、本発明の樹脂組成物積層体を、電気部品以外の耐火・断熱用途に使用してもよい。
【0056】
また、本発明の樹脂組成物積層体が2次電池セルの周辺の耐火断熱部材として使用される場合において、2次電池セルの種類は、特に限定されず、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、リチウムイオンポリマー電池等であってもよい。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により、上記実施形態の樹脂組成物積層体の耐火断熱効果を示す。表1、表2に、各実施例、比較例の構成及び配合、並びに試験結果を示す。
【0058】
(第1樹脂組成物層及び第3樹脂組成物層)
第1樹脂組成物層や第3樹脂組成物層は、市販されているポリイミドフィルム(PIフィルム:東レ・デュポン株式会社製、カプトン(登録商標)100H)により構成した。
【0059】
(第2樹脂組成物層)
熱可塑性ポリウレタン樹脂(TPU:BASF社 エラストラン(登録商標)C−type)に対し、所定量の亜リン酸アルミニウム(太平化学産業株式会社製 APA−100)、及び難燃剤等の添加剤を混練し、第2樹脂組成物を得た。第2樹脂組成物の総量に対する各成分の配合(重量%)を表1および表2に示す。得られた第2樹脂組成物をロール加工して、厚み1mmのシート状にして第2樹脂組成物層とした。
【0060】
(積層体の製造)
得られた第2樹脂組成物層に対し、表1、表2に示すような構成で、第1樹脂組成物層や第3樹脂組成物層を熱圧着して接着一体化し、各実施例の樹脂組成物積層体を得た。また、第1樹脂組成物層や第3樹脂組成物層を積層しないものを、各比較例とした。
【0061】
(実施例1及び実施例2)
第2樹脂組成物層における亜リン酸アルミニウムの配合量が33重量%の実施例であり、ポリイミドフィルムが、実施例1では片面に、実施例2では両面に接着されている。
(比較例1)
亜リン酸アルミニウムの配合量が33重量%の第2樹脂組成物層のみのものを、比較例1とした。
【0062】
(実施例3及び実施例4)
第2樹脂組成物層における亜リン酸アルミニウムの配合量が58重量%の実施例であり、ポリイミドフィルムが、実施例3では片面に、実施例4では両面に接着されている。
(比較例2)
亜リン酸アルミニウムの配合量が58重量%の第2樹脂組成物層のみのものを、比較例2とした。
【0063】
(実施例5)
第2樹脂組成物層における亜リン酸アルミニウムの配合量が8重量%の実施例であり、実施例5では、ポリイミドフィルムが両面に接着されている。
(比較例3)
亜リン酸アルミニウムの配合量が8重量%の第2樹脂組成物層のみのものを、比較例3とした。
【0064】
(比較例4)
熱可塑性ポリウレタン樹脂に亜リン酸アルミニウムが配合されていないものについて、シートを作成し、比較例4とした。比較例4には、ポリイミドフィルムは接着されていない。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
(耐火断熱試験)
各実施例、比較例のサンプルに対し、以下のような試験を行い、耐火性と断熱性を評価した。常温下で各サンプルを試験台上に置き、試験サンプルの上面に、600℃に熱した直径7mmの鉄棒を載せて、鉄棒に対し1kgf/cmの荷重を加え、10秒間静置した。なお各実施例においては、ポリイミドフィルム(第1組成物層)の側が鉄棒に面するように試験を行った。
【0068】
10秒間の静置後に、鉄棒を取り去り、シートの断面状態を確認した。
試験後には、亜リン酸アルミニウム(APA)を含む第2組成物層には、組成物が高温になって膨張した部分と、組成物がそれほど高温にならずに未膨張のままである部分とが確認された。膨張した部分の厚みと、未膨張部分の厚みを測定した。試験サンプルが鉄棒により加熱・加圧されることにより、各試験サンプルは、鉄棒で押された部分の周囲がやや膨張して盛り上がりつつ、鉄棒で押された部分は周囲に比べややへこむようになるので、その相対的にへこんだ部分で、シートの各部分の厚み測定を行った。厚み測定結果を表1、表2に示す。
【0069】
高温にさらされた第2樹脂組成物層が膨張する際に、膨張する樹脂がシートの面方向に流れてしまうと、シート厚み方向への膨張が不十分となり、第2樹脂組成物層による断熱効果が低下する。未膨張部は樹脂の温度が亜リン酸アルミニウムの膨張温度までは上昇しなかった部分であるので、未膨張部の厚みを評価することで、各シートの断熱性能を評価できる。表1、表2に示した未膨張残率(%)とは、未膨張部の厚みを試験前の第2樹脂組成物層の厚みで除して百分率で示したものであり、未膨張残率が高いことは、断熱効果が高いことを示し、未膨張率が低いことは断熱効果が低いことを示している。
【0070】
実施例1、実施例2と比較例1を比較すると、実施例1、2では、未膨張残率が比較例1に対し2倍近く高い。特に、両面にポリイミドフィルムを備えさせた実施例2は、未膨張残率が比較例1に対し2倍以上高い。
【0071】
実施例3、実施例4と比較例2を比較すると、実施例3、4でも、未膨張残率が比較例2に比べ高くなっている。また、実施例5と比較例3を比較すると、実施例5では、未膨張残率が比較例3に対し3倍以上高い。
【0072】
第1樹脂組成物層や第3樹脂組成物層としてのポリイミドフィルムが第2樹脂組成物層に接着一体化されることにより、第2樹脂組成物層が軟化してもポリイミドフィルムによってシート面方向の動きが拘束され、樹脂が横方向に逃げなくなって、シートの厚み方向に膨張しやすくなり、断熱効果が高まることが示された。
【0073】
なお、比較例4のシートでは、熱した鉄棒を押し付けると、熱可塑性ポリウレタンが溶融して、シートが破断してしまい、比較例4のシートでは、各実施例にみられたような膨張部や未膨張部は残らなかった。
【0074】
また、上記試験中に各試験シートにおいて、シートそのものや、シートから発生するガスなどに、発火や燃焼がみられるかどうかを観察したが、いずれの実施例も発火や燃焼は認められなかった。