特許第6903020号(P6903020)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6903020
(24)【登録日】2021年6月24日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 13/52 20060101AFI20210701BHJP
   F16D 43/21 20060101ALI20210701BHJP
【FI】
   F16D13/52 C
   F16D43/21
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-2702(P2018-2702)
(22)【出願日】2018年1月11日
(65)【公開番号】特開2019-120392(P2019-120392A)
(43)【公開日】2019年7月22日
【審査請求日】2020年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128175
【氏名又は名称】株式会社エフ・シー・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【弁理士】
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】西川 純一
(72)【発明者】
【氏名】吉本 克
(72)【発明者】
【氏名】曾 恒香
(72)【発明者】
【氏名】小澤 嘉彦
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/024557(WO,A1)
【文献】 特開2011−153655(JP,A)
【文献】 特開平5−202963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 13/52,43/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力部材の回転と共に回転し複数の駆動側クラッチ板が取り付けられるクラッチハウジングと、
前記クラッチハウジングの駆動側クラッチ板と交互に形成された複数の被動側クラッチ板が取り付けられるとともに、出力部材と連結されたクラッチ部材と、
前記クラッチ部材に取り付けられ、クラッチ部材に対する軸方向への移動に伴い前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接させ又は圧接力を解放させ得るプレッシャ部材と、
前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とが圧接する方向に前記プレッシャ部材を付勢する付勢手段と、
前記プレッシャ部材に取り付けられた別体の部材から成り、前記プレッシャ部材側における前記付勢手段の付勢力を受けるとともに、その付勢力を前記プレッシャ部材に伝達し得る受け部材と、
前記出力部材の回転が入力部材の回転数を上回ったときに前記プレッシャ部材及び前記クラッチ部材が相対的に回転すると前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接力の低減を行わせる一対のカム面から成り、一方のカム面が前記受け部材に形成されるとともに、他方のカム面が前記クラッチ部材に形成されたバックトルクリミッタ用カムと、
を有し、前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接又は圧接力の解放により、入力部材に入力された回転力を出力部材に伝達し又は遮断し得る動力伝達装置において、
前記受け部材の前記プレッシャ部材に対する外径側への移動を規制し、当該受け部材の側面と前記クラッチ部材との間のクリアランスを維持し得る外径側規制部を有することを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記外径側規制部は、
前記受け部材の開口側に形成されたフランジ部と、
前記プレッシャ部材に形成され、前記フランジ部と当接して前記受け部材の外径側への移動を規制し得る当接部と、
を有することを特徴とする請求項1記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記当接部は、前記プレッシャ部材の回転軸方向に延びる壁面から成り、前記フランジ部の側面と合致して当接し得ることを特徴とする請求項2記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記当接部は、平面視で前記フランジ部の外輪郭形状に倣った形状とされたことを特徴とする請求項3記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記プレッシャ部材は、前記受け部材を取り付けるための取付孔が形成されるとともに、前記外径側規制部は、当該取付孔の外径側の開口部から成り、前記受け部材と当接して外径側への移動を規制し得ることを特徴とする請求項1記載の動力伝達装置。
【請求項6】
前記受け部材は、前記取付孔の外径側の開口部に倣った形状の当接面を有するとともに、当該当接面が外径側の開口部と合致して当接し得ることを特徴とする請求項5記載の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、任意に入力部材の回転力を出力部材に伝達させ又は遮断させ得る動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に自動二輪車が具備する動力伝達装置は、エンジンの駆動力のミッション及び駆動輪への伝達又は遮断を任意に行わせるためのもので、エンジン側と連結された入力部材と、ミッション及び駆動輪側と連結された出力部材と、出力部材と連結されたクラッチ部材と、クラッチ板(駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板)を圧接させ又は圧接力を解放させ得るプレッシャ部材とを有しており、駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接させることにより動力の伝達を行い、その圧接力を解放させることにより当該動力の伝達を遮断するよう構成されている。
【0003】
例えば特許文献1にて開示された動力伝達装置は、受け部材がプレッシャ部材に取り付けられており、その受け部材に収容されたクラッチスプリング(付勢手段)によって、駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とが圧接する方向に当該プレッシャ部材を付勢するよう構成されている。かかる受け部材には、一方のカム面が形成されるとともに、当該一方のカム面と対峙する他方のカム面がクラッチ部材に形成されており、これらカム面によって、出力部材の回転が入力部材の回転数を上回ったときにプレッシャ部材及びクラッチ部材が相対的に回転すると駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接力の低減を行わせるバックトルクリミッタ用カムが構成されている。
【0004】
すなわち、出力部材の回転が入力部材の回転数を上回ったときにプレッシャ部材及びクラッチ部材が相対的に回転すると、一方のカム面及び他方のカム面が互いに摺動してバックトルクリミッタ用カムが作用し、プレッシャ部材に対して受け部材が軸方向に移動するようになっている。これにより、プレッシャ部材に及ぼされるクラッチスプリングの付勢力が低減するので、駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接力の低減が行われるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2016/024557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の動力伝達装置においては、プレッシャ部材及びクラッチ部材を含む装置全体が高速で回転すると、発生した遠心力によって受け部材が外径側に位置するクラッチ部材に対して押し付けられてしまい、受け部材の摺動抵抗が想定よりも大きくなってしまう虞がある。その場合、運転者がクラッチレバー等を操作することによりクラッチ部材に対してプレッシャ部材を離間させてクラッチをオフ(クラッチ板の圧接力を解放)させた後、再びクラッチオン(クラッチ板を圧接)する際、過大な摺動抵抗によって受け部材の移動が遅くなり、クラッチオン時の反応が鈍くなって空走感による操作性の違和感が生じてしまうという問題がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、受け部材の摺動抵抗を低減することにより、クラッチオン時の応答性を向上させて操作性を向上させることができる動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、入力部材の回転と共に回転し複数の駆動側クラッチ板が取り付けられるクラッチハウジングと、前記クラッチハウジングの駆動側クラッチ板と交互に形成された複数の被動側クラッチ板が取り付けられるとともに、出力部材と連結されたクラッチ部材と、前記クラッチ部材に取り付けられ、クラッチ部材に対する軸方向への移動に伴い前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接させ又は圧接力を解放させ得るプレッシャ部材と、前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とが圧接する方向に前記プレッシャ部材を付勢する付勢手段と、前記プレッシャ部材に取り付けられた別体の部材から成り、前記プレッシャ部材側における前記付勢手段の付勢力を受けるとともに、その付勢力を前記プレッシャ部材に伝達し得る受け部材と、前記出力部材の回転が入力部材の回転数を上回ったときに前記プレッシャ部材及び前記クラッチ部材が相対的に回転すると前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接力の低減を行わせる一対のカム面から成り、一方のカム面が前記受け部材に形成されるとともに、他方のカム面が前記クラッチ部材に形成されたバックトルクリミッタ用カムとを有し、前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接又は圧接力の解放により、入力部材に入力された回転力を出力部材に伝達し又は遮断し得る動力伝達装置において、前記受け部材の前記プレッシャ部材に対する外径側への移動を規制し、当該受け部材の側面と前記クラッチ部材との間のクリアランスを維持し得る外径側規制部を有することを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の動力伝達装置において、前記外径側規制部は、前記受け部材の開口側に形成されたフランジ部と、前記プレッシャ部材に形成され、前記フランジ部と当接して前記受け部材の外径側への移動を規制し得る当接部とを有することを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の動力伝達装置において、前記当接部は、前記プレッシャ部材の回転軸方向に延びる壁面から成り、前記フランジ部の側面と合致して当接し得ることを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の動力伝達装置において、前記当接部は、平面視で前記フランジ部の外輪郭形状に倣った形状とされたことを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項1記載の動力伝達装置において、前記プレッシャ部材は、前記受け部材を取り付けるための取付孔が形成されるとともに、前記外径側規制部は、当該取付孔の外径側の開口部から成り、前記受け部材と当接して外径側への移動を規制し得ることを特徴とする。
【0013】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の動力伝達装置において、前記受け部材は、前記取付孔の外径側の開口部に倣った形状の当接面を有するとともに、当該当接面が外径側の開口部と合致して当接し得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、受け部材のプレッシャ部材に対する外径側への移動を規制し、当該受け部材の側面とクラッチ部材との間のクリアランスを維持し得る外径側規制部を有するので、受け部材の摺動抵抗を低減することにより、クラッチオン時の応答性を向上させて操作性を向上させることができる。
【0015】
請求項2の発明によれば、外径側規制部は、受け部材の開口側に形成されたフランジ部と、プレッシャ部材に形成され、フランジ部と当接して受け部材の外径側への移動を規制し得る当接部とを有するので、受け部材のフランジ部を利用して外径側への移動を規制することができ、受け部材の摺動抵抗を確実に低減させることができる。
【0016】
請求項3の発明によれば、当接部は、プレッシャ部材の回転軸方向に延びる壁面から成り、フランジ部の側面と合致して当接し得るので、当接部に対するフランジ部の当接を安定して行わせることができ、受け部材の摺動抵抗をより確実に低減させることができる。
【0017】
請求項4の発明によれば、当接部は、平面視でフランジ部の外輪郭形状に倣った形状とされたので、当接部に対するフランジ部の当接をより安定して行わせることができ、受け部材の摺動抵抗をより一層確実に低減させることができる。
【0018】
請求項5の発明によれば、プレッシャ部材は、受け部材を取り付けるための取付孔が形成されるとともに、外径側規制部は、当該取付孔の外径側の開口部から成り、受け部材と当接して外径側への移動を規制し得るので、取付孔の外径側の開口部を利用して受け部材の外径側への移動を規制することができ、受け部材の摺動抵抗を確実に低減させることができる。
【0019】
請求項6の発明によれば、受け部材は、取付孔の外径側の開口部に倣った形状の当接面を有するとともに、当該当接面が外径側の開口部と合致して当接し得るので、外径側の開口部に対する受け部材の当接を安定して行わせることができ、受け部材の摺動抵抗をより確実に低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1の実施形態に係る動力伝達装置を示す全体縦断面図
図2】同動力伝達装置におけるクラッチハウジング等を取り外した状態を示す斜視図
図3】同動力伝達装置におけるクラッチハウジング等を取り外した状態を示す平面図
図4図3におけるIV−IV線を断面した破断図
図5】同動力伝達装置におけるクラッチ部材を示す斜視図
図6】同クラッチ部材を示す平面図
図7】同クラッチ部材を示す背面図
図8】同動力伝達装置におけるプレッシャ部材を一方側から見た斜視図
図9】同プレッシャ部材を他方側から見た斜視図
図10】同プレッシャ部材を示す裏面図
図11】同プレッシャ部材を示す平面図
図12】同動力伝達装置における受け部材を一方側から見た斜視図
図13】同受け部材を他方側から見た斜視図
図14】同受け部材を示す平面図及び背面図
図15図14におけるXV−XV線断面図
図16】同動力伝達装置におけるカム面を示すための展開図
図17】同動力伝達装置における外径側規制部を示すための図であって、図1におけるXVII−XVII線断面図
図18】本発明の第2の実施形態に係る動力伝達装置を示す全体縦断面図
図19】同動力伝達装置におけるプレッシャ部材を一方側から見た斜視図
図20】同プレッシャ部材を他方側から見た斜視図
図21】同プレッシャ部材を示す裏面図
図22】同プレッシャ部材を示す平面図
図23】同動力伝達装置における受け部材を示す平面図及び背面図
図24図23におけるXXIV−XXIV線断面図
図25】同動力伝達装置における外径側規制部を示すための図であって、図18におけるXXV−XXV線断面図
図26】本発明の他の実施形態に係る動力伝達装置を一部断面した破断図
図27】同動力伝達装置におけるカム面を示すための展開図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係る動力伝達装置は、二輪車等の車両に配設されて任意にエンジンの駆動力をミッションや駆動輪側へ伝達し又は遮断するためのもので、図1に示すように、入力部材としてのギア1が形成されたクラッチハウジング2と、出力部材としてのシャフト3と連結されたクラッチ部材4と、クラッチ部材4の図中右端側に形成されたプレッシャ部材5と、クラッチハウジング2側に連結された駆動側クラッチ板6及びクラッチ部材4側に連結された被動側クラッチ板7と、固定部材8と、プッシュロッド9と、付勢手段としてのクラッチスプリング10と、受け部材11とから主に構成されている。なお、図中符号Sはダンパを示しているとともに、符号Dはボールベアリングを示している。
【0022】
ギア1は、エンジンから伝達された駆動力(回転力)が入力されるとシャフト3を中心として回転可能とされたもので、リベット等によりクラッチハウジング2と連結されている。このクラッチハウジング2は、同図右端側が開口した円筒状のケース部材から成り、その内周壁には複数の駆動側クラッチ板6が取り付けられている。かかる駆動側クラッチ板6のそれぞれは、略円環状に形成された板材から成るとともにクラッチハウジング2の内周面に形成されたスプラインと嵌合することにより、当該クラッチハウジング2の回転と共に回転し、且つ、軸方向(図1中左右方向)に摺動し得るよう構成されている。
【0023】
クラッチ部材4は、クラッチハウジング2内に配設された部材から成るもので、図5〜7に示すように、シャフト3が貫通可能な中央孔4aと、スプラインが形成された外周壁4bと、ボルトBを挿通可能なボルト孔4cと、ボルト孔4cが形成されたボス部4dと、外周壁4bの内周面4eとを有して構成されている。中央孔4aの内周面及びシャフト3の外周面には、それぞれスプラインが形成されており、中央孔4aにシャフト3をスプライン嵌合して連結させることにより、クラッチ部材4が回転するとシャフト3も回転するよう構成されている。また、外周壁4bに形成されたスプラインには、被動側クラッチ板7が嵌め込まれて取り付けられている。
【0024】
より具体的には、クラッチ部材4の外周壁4bに形成されたスプラインは、その外周壁4bにおける略全周に亘って一体的に形成された凹凸形状にて構成されており、スプラインを構成する凹溝に被動側クラッチ板7が嵌合することにより、被動側クラッチ板7のクラッチ部材4に対する軸方向の移動を許容しつつ回転方向の移動が規制され、当該クラッチ部材4と共に回転し得るよう構成されているのである。
【0025】
かかる被動側クラッチ板7は、駆動側クラッチ板6と交互に積層形成されており、隣接する各駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7が圧接又は圧接力が解放されるようになっている。すなわち、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7は、クラッチ部材4の軸方向への摺動が許容されており、プレッシャ部材5にて図1中左方向へ押圧されると圧接され、クラッチハウジング2の回転力がクラッチ部材4を介してシャフト3に伝達される状態となり、プレッシャ部材5による押圧を解除すると当該圧接力が解放されてクラッチ部材4がクラッチハウジング2の回転に追従しなくなって停止し、シャフト3への回転力の伝達がなされなくなるのである。
【0026】
さらに、ボス部4dの突端側においては、図2〜4に示すように、ボルト孔4cに挿通されたボルトBによって固定部材8が固定されており、その固定部材8には、付勢手段としてのクラッチスプリング10が取り付けられている。具体的には、固定部材8は、円環状の金属製部材から成り、ボルトBによってボス部4dの突端に固定されており、ボルトBの間に受け部材11が位置してクラッチスプリング10の他端部が当接して組み付けられている。
【0027】
クラッチスプリング10は、受け部材11に収容された状態において、一端が受け部材11の底面側(具体的には、後述する受け部11b)に当接するとともに他端が固定部材8に当接して組み付けられたコイルスプリングから成り、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とが圧接する方向(すなわち、プレッシャ部材5をクラッチ部材4に近接させる方向)にプレッシャ部材5を常時付勢し得るものである。なお、クラッチスプリング10は、他の付勢手段を用いるようにしてもよい。
【0028】
プレッシャ部材5は、クラッチ部材4の軸方向(図1中左右方向)に移動が可能とされつつ当該クラッチ部材4の図1中右端側の位置に取り付けられ、クラッチ部材4に対する軸方向への移動に伴い駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させ又は圧接力を解放させ得るものである。より具体的には、プレッシャ部材5は、図8〜11に示すように、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7を圧接し得るフランジ部5aと、受け部材11を取り付けるための取付孔5bと、貫通孔5cと、中央孔5dと、当接部5eとを有して構成されている。
【0029】
このうち、プレッシャ部材5の中央孔5dには、図1に示すように、ボールベアリングDを介して被押圧部材Eが取り付けられている。この被押圧部材Eは、シャフト3の突端側に取り付けられ、プッシュロッド9に追従して移動可能とされている。しかして、運転者が図示しないクラッチレバー等の操作手段を操作することによりプッシュロッド9を同図中右方向へ突出させると、被押圧部材Eが同方向に移動するので、プレッシャ部材5をクラッチスプリング10の付勢力に抗して図1中右方向(クラッチ部材4から離間する方向)へ移動させることができるようになっている。
【0030】
しかして、プレッシャ部材5が右方向へ移動すると、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力が解かれ、ギア1及びクラッチハウジング2に入力された回転力がクラッチ部材4及びシャフト3へ伝達されず遮断される(クラッチオフする)こととなる。また、運転者による操作手段の操作が行われなくなると、クラッチスプリング10の付勢力によってプレッシャ部材5が図1中左方向に移動し、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とが圧接されるので、ギア1及びクラッチハウジング2に入力された回転力がクラッチ部材4及びシャフト3へ伝達される(クラッチオンする)こととなる。すなわち、プレッシャ部材5は、クラッチ部材4に対する軸方向への移動に伴い駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接又は圧接力を解放させることができるよう構成されているのである。
【0031】
さらに、取付孔5bは、プレッシャ部材5において同心円状に複数(3つ)等間隔に形成されており、これら取付孔5bのそれぞれに受け部材11が取り付けられるようになっている。かかるプレッシャ部材5の取付孔5bに取り付けられる受け部材11は、クラッチスプリング10の一端と当接してその付勢力を受け得るとともに、当該プレッシャ部材5とは別体とされたものである。具体的には、本実施形態に係る受け部材11は、図12〜15に示すように、クラッチスプリング10を収容する凹部11aと、該凹部11a内に形成されてクラッチスプリング10の一端部と当接して付勢力を受ける受け部11bと、プレッシャ部材5に当接してクラッチスプリング10の付勢力を当該プレッシャ部材5に伝達し得るフランジ部11cと、側面11dとを有したカップ状の部材から成る。
【0032】
このうちフランジ部11cは、受け部材11の開口側に形成されて成り、取付孔5bに受け部材11を取り付けると、当該取付孔5bの開口縁部に当接するようになっている。しかして、取付孔5bに受け部材11を取り付けた後、凹部11a内にクラッチスプリング10を収容させつつその一端部を受け部11bに当接させた状態に組み付けることにより、クラッチスプリング10の付勢力が受け部材11のフランジ部11cを介してプレッシャ部材5側に伝達され、その伝達された付勢力にて駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させ得るようになっている。
【0033】
さらに、本実施形態に係る動力伝達装置は、入力部材としてのギア1に入力された回転力が出力部材としてのシャフト3に伝達され得る状態となったときにプレッシャ部材5及びクラッチ部材4が相対的に回転すると駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を増加させ得る圧接アシスト用カムと、出力部材としてのシャフト3の回転が入力部材としてのギア1の回転数を上回ったときにプレッシャ部材5及びクラッチ部材4が相対的に回転すると駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力の低減を行わせるバックトルクリミッタ用カムとを有している。なお、圧接アシスト用カム及びバックトルクリミッタ用カムを構成するカム面(第1カム面C1〜第6カム面C6)は、網掛け(クロスハッチング)を施して図示している。
【0034】
本実施形態に係る圧接アシスト用カムは、図4、16に示すように、プレッシャ部材5及びクラッチ部材4にそれぞれ形成された第3カム面C3及び第4カム面C4を対峙させて構成されている。すなわち、クラッチ部材4及びプレッシャ部材5を組み付ける際、プレッシャ部材5に形成された第3カム面C3(図11参照)と、クラッチ部材4に形成された第4カム面C4(図7参照)とを対峙させた状態とすることにより、ギア1に入力された回転力がシャフト3に伝達され得る状態となったときにプレッシャ部材5及びクラッチ部材4が相対的に回転すると、第3カム面C3及び第4カム面C4によるカム作用によってプレッシャ部材5を図16中α方向に移動させ、クラッチ部材4に近接させることにより、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を増加させるのである。
【0035】
本実施形態に係るバックトルクリミッタ用カムは、図4、16に示すように、受け部材11及びクラッチ部材4にそれぞれ形成された第1カム面C1及び第2カム面C2を対峙させて構成されている。すなわち、クラッチ部材4、プレッシャ部材5及び受け部材11を組み付ける際、受け部材11の底部側面に形成された第1カム面C1(図13、14参照)と、クラッチ部材4に形成された第2カム面C2(図6参照)とを対峙させた状態とすることにより、シャフト3の回転がギア1の回転数を上回ったときにプレッシャ部材5及びクラッチ部材4が相対的に回転すると、第1カム面C1及び第2カム面C2によるカム作用によって、受け部材11を図16中β方向に移動させ、プレッシャ部材5に伝達されるクラッチスプリング10の付勢力を低減させることにより、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力の低減を行わせるのである。なお、圧接力の低減とは、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とが互いに滑って回転力の伝達容量が低減された状態をいう。
【0036】
さらに、本実施形態に係る受け部材11は、図14に示すように、第1カム面C1と反対側に第5カム面C5が形成されるとともに、当該第5カム面C5と対峙する第6カム面C6(図11参照)がプレッシャ部材5に形成されている。すなわち、受け部材11の底部両側面には、第1カム面C1及び第5カム面C5がそれぞれ形成されているとともに、第1カム面C1及び第2カム面C2と第5カム面C5及び第6カム面C6とによってバックトルクリミッタ用カムが構成されている。
【0037】
しかして、クラッチ部材4、プレッシャ部材5及び受け部材11を組み付ける際、受け部材11に形成された第1カム面C1と、クラッチ部材4に形成された第2カム面C2とを対峙させ、且つ、受け部材11に形成された第5カム面C5と、プレッシャ部材5に形成された第6カム面C6とを対峙させた状態とすることにより、シャフト3の回転がギア1の回転数を上回ったときにプレッシャ部材5及びクラッチ部材4が相対的に回転すると、第1カム面C1及び第2カム面C2によるカム作用と第5カム面C5及び第6カム面C6によるカム作用とによって受け部材11を図16中β方向に移動させ、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力の低減を行わせるのである。
【0038】
これにより、バックトルクリミッタ用カムが機能する際、受け部材11は、第1カム面C1及び第2カム面C2によるカム作用と第5カム面C5及び第6カム面C6によるカム作用との両方を受けることとなる。なお、本実施形態に係るバックトルクリミッタ用カムは、第1カム面C1及び第2カム面C2に加え、第5カム面C5及び第6カム面C6を有して構成されているが、第1カム面C1及び第2カム面C2のみ有するものであってもよい。
【0039】
ここで、本実施形態に係る動力伝達装置は、受け部材11のプレッシャ部材5に対する外径側(プレッシャ部材5の回転中心から外側に向かう方向)への移動を規制し、当該受け部材11の側面11dとクラッチ部材4の内周面4eとの間のクリアランスt(図1参照)を維持し得る外径側規制部を具備している。具体的には、本実施形態に係る外径側規制部は、図1、17に示すように、受け部材11の開口側に形成されたフランジ部11cと、プレッシャ部材5に形成され、フランジ部11cと当接して受け部材11の外径側への移動を規制し得る当接部5eとによって構成されている。
【0040】
すなわち、受け部材11を取付孔5bに取り付けた状態において、その受け部材11におけるフランジ部11cの外径側の位置に当接部5eが形成されており、プレッシャ部材5等が高速回転して受け部材11が外径側に向かって遠心力を受けた場合、フランジ部11cが当接部5eに当接して遠心力に抗するので、受け部材11の外径側への移動を回避して、当該受け部材11の側面11dとクラッチ部材4の内周面4eとの間のクリアランスt(間隙)を維持することができる。
【0041】
また、本実施形態に係る当接部5eは、プレッシャ部材5における取付孔5bの外径側に一体形成されたもので、当該プレッシャ部材5の回転軸方向(図1中左右方向)に延びる壁面から成り、受け部材11におけるフランジ部11cの外径側の側面11ca(外周端面)と合致して当接し得るようになっている。さらに、本実施形態に係る当接部5eは、図17に示すように、平面視でフランジ部11cの外輪郭形状に倣った形状とされており、フランジ部11cの外径側の側面11caが当接部5eの略全域に亘って当接し得るようになっている。
【0042】
本実施形態によれば、受け部材11のプレッシャ部材5に対する外径側への移動を規制し、当該受け部材11の側面11dとクラッチ部材4との間のクリアランスtを維持し得る外径側規制部を有するので、受け部材11がクラッチ部材4の内周面4eを摺動するのを防止でき、受け部材11の摺動抵抗を低減することにより、クラッチオン時の応答性を向上させて操作性を向上させることができる。
【0043】
また、本実施形態に係る外径側規制部は、受け部材11の開口側に形成されたフランジ部11cと、プレッシャ部材5に形成され、フランジ部11cと当接して受け部材11の外径側への移動を規制し得る当接部5eとを有するので、受け部材11のフランジ部11cを利用して外径側への移動を規制することができ、受け部材11の摺動抵抗を確実に低減させることができる。
【0044】
さらに、本実施形態に係る当接部5eは、プレッシャ部材5の回転軸方向に延びる壁面から成り、フランジ部11cの側面11caと合致して当接し得るので、当接部5eに対するフランジ部11cの当接を安定して行わせることができ、受け部材11の摺動抵抗をより確実に低減させることができる。またさらに、本実施形態に係る当接部5eは、平面視でフランジ部11cの外輪郭形状に倣った形状とされたので、当接部5eに対するフランジ部11cの当接をより安定して行わせることができ、受け部材11の摺動抵抗をより一層確実に低減させることができる。
【0045】
次に、本発明の第2の実施形態に係る動力伝達装置について説明する。
本実施形態に係る動力伝達装置は、第1の実施形態と同様、二輪車等の車両に配設されて任意にエンジンの駆動力をミッションや駆動輪側へ伝達し又は遮断するためのもので、図18に示すように、入力部材としてのギア1が形成されたクラッチハウジング2と、出力部材としてのシャフト3と連結されたクラッチ部材4と、クラッチ部材4の図中右端側に形成されたプレッシャ部材5と、クラッチハウジング2側に連結された駆動側クラッチ板6及びクラッチ部材4側に連結された被動側クラッチ板7と、固定部材8と、プッシュロッド9と、付勢手段としてのクラッチスプリング10と、受け部材11とから主に構成されている。なお、第1の実施形態と同様の構成要素には、同一の符号を付し、それらの詳細な説明を省略する。
【0046】
プレッシャ部材5は、クラッチ部材4の軸方向(図18中左右方向)に移動が可能とされつつ当該クラッチ部材4の図18中右端側の位置に取り付けられ、クラッチ部材4に対する軸方向への移動に伴い駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させ又は圧接力を解放させ得るものである。より具体的には、本実施形態に係るプレッシャ部材5は、図19〜22に示すように、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7を圧接し得るフランジ部5aと、受け部材11を取り付けるための取付孔5bと、貫通孔5cと、中央孔5dとを有して構成されている。
【0047】
受け部材11は、プレッシャ部材5の取付孔5bに取り付けられ、クラッチスプリング10の一端と当接してその付勢力を受け得るとともに、当該プレッシャ部材5とは別体とされたものである。具体的には、本実施形態に係る受け部材11は、図23、24に示すように、クラッチスプリング10を収容する凹部11aと、該凹部11a内に形成されてクラッチスプリング10の一端部と当接して付勢力を受ける受け部11bと、プレッシャ部材5に当接してクラッチスプリング10の付勢力を当該プレッシャ部材5に伝達し得るフランジ部11cと、当該受け部材11の外周面を構成する当接面11e及び外径側の側面11fとを有したカップ状の部材から成る。
【0048】
ここで、本実施形態に係る動力伝達装置は、受け部材11のプレッシャ部材5に対する外径側(プレッシャ部材5の回転中心から外側に向かう方向)への移動を規制し、当該受け部材11の側面11dとクラッチ部材4の内周面4eとの間のクリアランスt(図18参照)を維持し得る外径側規制部を具備している。具体的には、本実施形態に係る外径側規制部は、図22、25に示すように、プレッシャ部材5における取付孔5bの外径側の開口部5fから成り、受け部材11と当接して外径側への移動を規制し得るよう構成されている。
【0049】
外径側の開口部5fは、その開口寸法が受け部材11の幅寸法より狭くなっている部位から成り、受け部材11の当接面11eと合致し得るようになっている。すなわち、受け部材11を取付孔5bに取り付けた状態において、その受け部材11の当接面11eが取付孔5bにおける外径側の開口部5fと合致して当接するようになっており、プレッシャ部材5等が高速回転して受け部材11が外径側に向かって遠心力を受けた場合、当接面11eが外径側の開口部5fに当接して遠心力に抗するので、受け部材11の外径側への移動を回避して、当該受け部材11の外径側の側面11fとクラッチ部材4の内周面4eとの間のクリアランスt(間隙)を維持することができる。
【0050】
また、本実施形態に係る受け部材11の当接面11eは、取付孔5bの外径側の開口部5fに倣った形状とされるとともに、当該当接面11eが外径側の開口部5fと合致して当接し得るよう構成されている。具体的には、当接面11eは、外径側の側面11fを挟んだ2方向の面から成り、当接面11eが開口部5fに合致して当接するよう構成されており、当接面11eと開口部5fとが当接した状態において、受け部材11の外径側の側面11fとクラッチ部材4の内周面4eとの間のクリアランスtが維持されるようになっている。
【0051】
本実施形態によれば、受け部材11のプレッシャ部材5に対する外径側への移動を規制し、当該受け部材11の外径側の側面11fとクラッチ部材4との間のクリアランスtを維持し得る外径側規制部を有するので、受け部材11がクラッチ部材4の内周面4eを摺動するのを防止でき、受け部材11の摺動抵抗を低減することにより、クラッチオン時の応答性を向上させて操作性を向上させることができる。
【0052】
また、本実施形態に係る外径側規制部は、取付孔5bの外径側の開口部5fから成り、受け部材11と当接して外径側への移動を規制し得るので、取付孔5bの外径側の開口部5fを利用して受け部材11の外径側への移動を規制することができ、受け部材11の摺動抵抗を確実に低減させることができる。さらに、本実施形態に係る受け部材11は、取付孔5bの外径側の開口部5fに倣った形状の当接面11eを有するとともに、当該当接面11eが外径側の開口部5fと合致して当接し得るので、外径側の開口部5fに対する受け部材11の当接を安定して行わせることができ、受け部材11の摺動抵抗をより確実に低減させることができる。
【0053】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、例えば図26、27に示すように、圧接アシスト用カム(第1、2の実施形態における第3カム面C3及び第4カム面C4)を有さないものに適用してもよい。この場合であっても、受け部材11のプレッシャ部材4に対する外径側への移動を規制し、当該受け部材11の側面(11d、11f)とクラッチ部材4の内周面4eとの間のクリアランスtを維持し得る外径側規制部を有することにより、受け部材11がクラッチ部材4の内周面4eを摺動するのを防止でき、受け部材11の摺動抵抗を低減することにより、クラッチオン時の応答性を向上させて操作性を向上させることができる。
【0054】
さらに、本実施形態に係る受け部材11は、プレッシャ部材5において複数(3つ)取り付けられ、それぞれの受け部材11の全てにおいて、外径側規制部によって外径側への移動が規制されているが、任意選択された受け部材11に対して外径規制部による規制を行うようにしてもよい。また、受け部材11は、その取り付けられる数や個々の形状等は任意とすることができる。なお、本発明の動力伝達装置は、自動二輪車の他、自動車、3輪又は4輪バギー、或いは汎用機等種々の多板クラッチ型の動力伝達装置に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
受け部材のプレッシャ部材に対する外径側への移動を規制し、当該受け部材の側面とクラッチ部材との間のクリアランスを維持し得る外径側規制部を有する動力伝達装置であれば、外観形状が異なるもの或いは他の機能が付加されたもの等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 ギア(入力部材)
2 クラッチハウジング(入力部材)
3 シャフト(出力部材)
4 クラッチ部材
4a 中央孔
4b 外周壁
4c ボルト孔
4d ボス部
4e 内周面
5 プレッシャ部材
5a フランジ部
5b 取付孔
5c 貫通孔
5d 中央孔
5e 当接部
5f 外径側の開口部
6 駆動側クラッチ板
7 被動側クラッチ板
8 固定部材
9 プッシュロッド
10 クラッチスプリング(付勢手段)
11 受け部材
11a 凹部
11b 受け部
11c フランジ部
11d 側面
11e 当接面
11f 外径側の側面
C1 第1カム面
C2 第2カム面
C3 第3カム面
C4 第4カム面
C5 第5カム面
C6 第6カム面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
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