特許第6903042号(P6903042)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6903042
(24)【登録日】2021年6月24日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】湿式吹付工法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20210701BHJP
   E21D 11/10 20060101ALI20210701BHJP
   C04B 24/32 20060101ALI20210701BHJP
【FI】
   C04B28/02
   E21D11/10 D
   C04B24/32 A
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-181921(P2018-181921)
(22)【出願日】2018年9月27日
(65)【公開番号】特開2019-64909(P2019-64909A)
(43)【公開日】2019年4月25日
【審査請求日】2020年2月14日
(31)【優先権主張番号】特願2017-194529(P2017-194529)
(32)【優先日】2017年10月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 憲一
(72)【発明者】
【氏名】寺井 久登
(72)【発明者】
【氏名】谷本 理勇
【審査官】 手島 理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−078934(JP,A)
【文献】 特開昭57−135759(JP,A)
【文献】 特開2009−270282(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00− 32/02
C04B 40/00− 40/06
E21D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、水、骨材及び下記混合条件(1)で重量平均分子量20万以上1000万以下の固体状のポリエチレンオキサイドを混合して水硬性組成物を製造し、
前記水硬性組成物に、固体状の急結剤を混合して、吹付用水硬性組成物を製造し、
前記吹付用水硬性組成物を対象物に吹き付ける、
湿式吹付工法。
<ポリエチレンオキサイドの混合条件(1)>
(1−1)ポリエチレンオキサイドの重量平均分子量が20万以上170万以下の場合は、当該ポリエチレンオキサイドの平均付加モル数(A)(モル)と、当該ポリエチレンオキサイドのセメントに対する混合量(B)(質量%)の積〔(A)×(B)〕が、90以上12000以下となるように、当該ポリエチレンオキサイドを混合する。ここで、混合量(B)は0.05質量%以上5.0質量%以下から選択される。
(1−2)ポリエチレンオキサイドの重量平均分子量が170万を超え1000万以下の場合は、当該ポリエチレンオキサイドの平均付加モル数(A)(モル)と、当該ポリエチレンオキサイドのセメントに対する混合量(B)(質量%)の積〔(A)×(B)〕が、20以上200以下となるように、当該ポリエチレンオキサイドを混合する。
【請求項2】
ポリエチレンオキサイドが粉末状又は顆粒状である、請求項1記載の湿式吹付工法。
【請求項3】
急結剤が粉末状又は顆粒状である、請求項1又は2記載の湿式吹付工法。
【請求項4】
急結剤を、前記水硬性組成物中のセメント100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下、添加する、請求項1〜の何れか1項記載の湿式吹付工法。
【請求項5】
吹付用水硬性組成物の水/セメント比が30質量%以上70質量%以下である、請求項1〜の何れか1項記載の湿式吹付工法。
【請求項6】
セメント、水及び骨材を含有する混合物に前記ポリエチレンオキサイドを添加して、前記水硬性組成物を製造する、請求項1〜の何れか1項記載の湿式吹付工法。
【請求項7】
ポリエチレンオキサイドの重量平均分子量が20万以上170万以下である、請求項1〜の何れか1項記載の湿式吹付工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物を用いた湿式吹付工法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル掘削等露出した地山の崩落を防止するために、急結剤をコンクリートに配合した急結性コンクリートを用いた吹付工法が行われている。この工法のうち、湿式吹付工法と呼ばれるものは、通常、掘削工事現場に設置した、セメント、骨材、及び水の計量混合プラントで吹付コンクリートを調製し、それをアジテータ車で運搬・吹付け機に移送する。コンクリートと粉末急結剤の混合は、吹付け機のポンプでコンクリートを吐出口まで空気圧送するラインと、その途中に設けた合流管で粉末急結剤を他方から空気圧送するラインとで合流混合し、急結性吹付コンクリートとして地山面に所定の厚みになるまで吹き付ける工法である。
【0003】
吹付コンクリートは、強い圧力で地山に吹付けるため、吐出口からのコンクリートミスト(主成分はコンクリート中の砂やセメント、以下粉塵と呼ぶ)又は地山へコンクリートが衝突した際に跳ね返る粉塵の発生が作業員の塵肺の原因となり近年問題視されている。
特にトンネル工事においては、狭い坑内で、しかも密閉された作業環境のため、屋外に比べて著しく作業環境は悪くなる。一般的には局部排気装置を設置するが、吐出口の近くで作業している作業員に対しては十分でなく、更なる粉塵の低減が望まれている。
【0004】
このような急結性吹付コンクリートの吹き付け時の粉塵を低減するために、特許文献1では、ポリエチレンオキサイドを予め水溶液として、骨材およびセメントと混合して所望の水−セメント比のコンクリートとすることを提案している。
また、特許文献2は、ポリアルキルアリールスルホン酸系減水剤とポリエチレンオキサイドと水とをそれぞれ別個に導管を通して送り、ノズル部にてセメント系材料と混合する、いわゆる乾式の吹付コンクリートの施工方法を提案している。
特許文献3には、セメント成分、骨材、水、急結剤及び所定量の粉塵低減剤を含み、更に高性能減水剤を配合して所定のスランプ値とした吹付コンクリート組成物の粉塵低減剤が開示されている。特許文献3の実施例では、これらの成分を均一に撹拌混合して吹付けコンクリート組成物を調製している。
特許文献4では、ポリアルキレンオキサイドとアルキルナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物とを含有してなるリバウンド低減剤が開示されている。特許文献4の実施例では、急結剤と水とを混合した急結剤スラリーをコンクリートに吹き込んで急結性コンクリートを調製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭57−135759号公報
【特許文献2】特開昭59−109662号公報
【特許文献3】特開平8−245255号公報
【特許文献4】特開2001−226158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コンクリート等の水硬性組成物を用いた湿式吹付工法では、ハンドリング性の改善や粉塵の低減、ポンプ圧送性の向上(水硬性組成物のこわばり抑制)、生産性の向上(ポンプ吐出量の向上など)が求められる。前記各公報に記載された技術は、湿式吹付工法におけるそれらの要求に対して十分なものではなかった。
また、冬場などの低温下では、特に粉塵が発生しやすいため、低温での施工で、粉塵を低減した上で、ポンプ圧送性や生産性を向上できることが望まれる。
【0007】
本発明は、低温での施工でも、粉塵が低減され、且つポンプ圧送性や生産性が向上できる湿式吹付工法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、セメント、水、骨材及び下記混合条件(1)で重量平均分子量20万以上1000万以下の固体状のポリエチレンオキサイドを混合して水硬性組成物を製造し、
前記水硬性組成物に、固体状の急結剤を混合して、吹付用水硬性組成物を製造し、
前記吹付用水硬性組成物を対象物に吹き付ける、
湿式吹付工法に関する。
<ポリエチレンオキサイドの混合条件(1)>
(1−1)ポリエチレンオキサイドの重量平均分子量が20万以上170万以下の場合は、当該ポリエチレンオキサイドの平均付加モル数(A)(モル)と、当該ポリエチレンオキサイドのセメントに対する混合量(B)(質量%)の積〔(A)×(B)〕が、90以上12000以下となるように、当該ポリエチレンオキサイドを混合する。
(1−2)ポリエチレンオキサイドの重量平均分子量が170万を超え1000万以下の場合は、当該ポリエチレンオキサイドの平均付加モル数(A)(モル)と、当該ポリエチレンオキサイドのセメントに対する混合量(B)(質量%)の積〔(A)×(B)〕が、20以上200以下となるように、当該ポリエチレンオキサイドを混合する。
【0009】
また、本発明は、セメント、水、骨材及び下記混合条件(2)で固体状のポリエチレンオキサイドを混合して水硬性組成物を製造し、
前記水硬性組成物に、固体状の急結剤を混合して、吹付用水硬性組成物を製造し、
前記吹付用水硬性組成物を対象物に吹き付ける、
湿式吹付工法に関する。
<ポリエチレンオキサイドの混合条件(2)>
(2−1)ポリエチレンオキサイドは、2質量%水溶液の粘度が25℃で15mPa・s以上4000mPa・s以下、又は0.5質量%水溶液の粘度が25℃で20mPa・s以上400mPa・s以下である。
(2−2a)ポリエチレンオキサイドの2質量%水溶液の粘度が25℃で15mPa・s以上40mPa・s未満の場合は、ポリエチレンオキサイドを水に対して0.15質量%以上3.0質量%以下、混合する。
(2−2b)ポリエチレンオキサイドの2質量%水溶液の粘度が25℃で40mPa・s以上200mPa・s未満の場合は、ポリエチレンオキサイドを水に対して0.05質量%以上3.0質量%以下、混合する。
(2−2c)ポリエチレンオキサイドの2質量%水溶液の粘度が25℃で200mPa・s以上2000mPa・s未満の場合は、ポリエチレンオキサイドを水に対して0.01質量%以上3.0質量%以下、混合する。
(2−2d)ポリエチレンオキサイドの2質量%水溶液の粘度が25℃で2000mPa・s以上4000mPa・s以下の場合は、ポリエチレンオキサイドを水に対して0.005質量%以上3.0質量%以下、混合する。
(2−3)ポリエチレンオキサイドの0.5質量%水溶液の粘度が25℃で20mPa・s以上400mPa・s以下の場合は、ポリエチレンオキサイドを水に対して0.0005質量%以上0.005質量%以下、混合する。
【0010】
以下、本発明という場合、特記しない場合は、これら2つの湿式吹付工法を指すものとする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低温の施工でも、粉塵を低減でき、且つポンプ圧送性や生産性を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の湿式吹付工法では、まず、セメント、水、骨材及び所定条件で固体状のポリエチレンオキサイドを混合して、水硬性組成物を製造する。
ポリエチレンオキサイドは粉塵の主成分である砂のシリカ分に吸着する特性を持っている。重量平均分子量20万以上1000万以下のポリエチレンオキサイドのうち、比較的分子量の小さいポリエチレンオキサイドは、1分子当りの鎖長が短い為に粉塵(砂)をつなぎとめる力が弱く添加量が多く必要なのに対し、比較的分子量の大きいポリエチレンオキサイドは、1分子当りの鎖長が長く粉塵をつなぎとめる力が強い為に少ない添加量で効果が発現すると考えられる。しかし、前記範囲の重量平均分子量を有するポリエチレンオキサイドについては、その適切な添加量を決定するためには、単に分子量だけを考慮しても十分ではないことが種々の試行により判明した。本発明では、前記範囲の重量平均分子量を有するポリエチレンオキサイドについて、平均付加モル数と混合量を分子量領域に応じて所定の関係とすることで、水硬性組成物を用いた湿式吹付工法において、低温の施工でも、粉塵を低減でき、且つポンプ圧送性や生産性を向上できることを見出したものである。一方、作業現場などでポリエチレンオキサイドの添加量を決定する場合、簡易に実施できることが望ましい。この観点で種々検討した結果、本発明者らは、ポリエチレンオキサイドの水溶液の粘度に応じてポリエチレンオキサイドの添加量を選定することで、同様の効果が得られることを見出した。本発明では、これらの知見に基づき、固体状のポリエチレンオキサイドの混合条件として、混合条件(1)と混合条件(2)を規定した。
【0013】
本発明におけるポリエチレンオキサイドの混合条件(1)は以下の通りである。混合条件(1)は、例えば、重量平均分子量20万以上1000万以下の固体状のポリエチレンオキサイドに対して用いられる。
<ポリエチレンオキサイドの混合条件(1)>
(1−1)ポリエチレンオキサイドの重量平均分子量が20万以上170万以下の場合は、当該ポリエチレンオキサイドの平均付加モル数(A)(モル)と、当該ポリエチレンオキサイドのセメントに対する混合量(B)(質量%)の積〔(A)×(B)〕が、90以上12000以下となるように、当該ポリエチレンオキサイドを混合する。
(1−2)ポリエチレンオキサイドの重量平均分子量が170万を超え1000万以下の場合は、当該ポリエチレンオキサイドの平均付加モル数(A)(モル)と、当該ポリエチレンオキサイドのセメントに対する混合量(B)(質量%)の積〔(A)×(B)〕が、20以上200以下となるように、当該ポリエチレンオキサイドを混合する。
【0014】
前記条件(1)の(1−1)では、積〔(A)×(B)〕は、90以上、好ましくは500以上、より好ましくは1000以上、そして、12000以下である。
【0015】
前記条件(1)の(1−1)の対象となるポリエチレンオキサイドの重量平均分子量は、ポンプ圧送性向上と粉塵低減の両立の観点から、20万以上、好ましくは40万以上、より好ましくは60万以上、更に好ましくは70万以上、そして、170万以下、好ましくは150万以下、より好ましくは130万以下、更に好ましくは90万以下である。
【0016】
前記条件(1)の(1−1)では、混合量(B)は0.005質量%以上、更に0.01質量%以上、更に0.05質量%以上、そして、5.0質量%以下、更に3.0質量%以下から選択することができる。
【0017】
前記条件(1)の(1−2)では、積〔(A)×(B)〕は、20以上、好ましくは40以上、より好ましくは70以上、そして、200以下、好ましくは160以下、より好ましくは120以下である。
【0018】
前記条件(1)の(1−2)の対象となるポリエチレンオキサイドの重量平均分子量は、170万を超え、好ましくは400万以上、より好ましくは600万以上、そして、1000万以下、好ましくは900万以下、より好ましくは800万以下である。
【0019】
前記条件(1)の(1−2)では、混合量(B)は、0.0001質量%以上、更に0.0003質量%以上、更に0.0005質量%以上、そして、0.01質量%以下、更に0.007質量%以下、更に0.005質量%以下から選択することができる。
【0020】
また、ポリエチレンオキサイドの水溶液の粘度に着目して、下記の混合条件(2)を採用することもできる。混合条件(2)も、例えば、重量平均分子量20万以上1000万以下の固体状のポリエチレンオキサイドに対して用いることができる。また、混合条件(2)は、重量平均分子量が未知のポリエチレンオキサイドであっても、粘度の測定という簡易な方法で適切な混合量を選定することができるため、当業者には有利な方法となる。
<ポリエチレンオキサイドの混合条件(2)>
(2−1)ポリエチレンオキサイドは、2質量%水溶液の粘度が25℃で15mPa・s以上4000mPa・s以下、又は0.5質量%水溶液の粘度が25℃で20mPa・s以上400mPa・s以下である。
(2−2a)ポリエチレンオキサイドの2質量%水溶液の粘度が25℃で15mPa・s以上40mPa・s未満の場合は、ポリエチレンオキサイドを水に対して0.15質量%以上、好ましくは0.30質量%以上、より好ましくは0.50質量%以上、そして、3.0質量%以下、好ましくは2.8質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下、混合する。
(2−2b)ポリエチレンオキサイドの2質量%水溶液の粘度が25℃で40mPa・s以上200mPa・s未満の場合は、ポリエチレンオキサイドを水に対して0.05質量%以上、好ましくは0.06質量%以上、より好ましくは0.07質量%以上、そして、3.0質量%以下、好ましくは2.5質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下、混合する。
(2−2c)ポリエチレンオキサイドの2質量%水溶液の粘度が25℃で200mPa・s以上2000mPa・s未満の場合は、ポリエチレンオキサイドを水に対して0.01質量%以上、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上、そして、3.0質量%以下、好ましくは2.5質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下混合する。
(2−2d)ポリエチレンオキサイドの2質量%水溶液の粘度が25℃で2000mPa・s以上4000mPa・s以下の場合は、ポリエチレンオキサイドを水に対して0.005質量%以上、好ましくは0.006質量%以上、より好ましくは0.007質量%以上、そして、3.0質量%以下、好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下混合する。
(2−3)ポリエチレンオキサイドの0.5質量%水溶液の粘度が25℃で20mPa・s以上400mPa・s以下の場合は、ポリエチレンオキサイドを水に対して0.0005質量%以上、好ましくは、0.0006質量%以上、より好ましくは0.0007質量%以上、そして、0.005質量%以下、好ましくは0.004質量%以下、より好ましくは0.003質量%以下、混合する。
【0021】
前記混合条件(2)について、ポリエチレンオキサイド水溶液の粘度は、B型粘度計を用い、粘度1000mPa・s未満はNo.2ローター、1000mPa・s以上4000mPa・s以下はNo.3ローターとして、水溶液温度25℃、30rpm、1分後の条件で測定されたものである。
【0022】
ポリエチレンオキサイドの2質量%水溶液の粘度が25℃で15mPa・s以上4000mPa・s以下の場合は、前記(2−2a)〜(2−2d)の何れかの範囲で、水に対するポリエチレンオキサイドの混合量を決定する。ポリエチレンオキサイドの2質量%水溶液の粘度が25℃で4000mPa・sを超える場合は、当該ポリエチレンオキサイドの0.5質量%水溶液を調製してその粘度を測定する。ポリエチレンオキサイドの0.5質量%水溶液の粘度が25℃で20mPa・s以上400mPa・s以下である場合に、前記(2−3)の範囲で水に対するポリエチレンオキサイドの混合量を決定する。
【0023】
ポリエチレンオキサイドの平均付加モル数(A)(モル)は、当該ポリエチレンオキサイドの重量平均分子量を、エチレンオキサイドの分子量44.05で割った値を採用できる。
【0024】
ポリエチレンオキサイドの重量平均分子量は、水硬性組成物のこわばり抑制といったポンプ圧送性の向上の観点から、20万以上、好ましくは40万以上、そして、1000万以下、好ましくは500万以下、より好ましくは170万以下、更に好ましくは150万以下である。
【0025】
ポリエチレンオキサイドの重量平均分子量は、市販品の場合は商品情報(カタログなど)に基づいた値を採用してよい。また、重量平均分子量が未知の場合でも、ポリエチレンオキサイドの重量平均分子量は、水溶液の粘度と相関があるため、下記の方法でおよその値を求めることができる。
<ポリエチレンオキサイドの重量平均分子量>
測定対象のポリエチレンオキサイドから、下記基準表を参照して、各種濃度の水溶液(以下、サンプル水溶液という)を調製する。サンプル水溶液の粘度を、B型粘度計を用い、25℃、No.2ローター、30rpm、1分後の条件で測定する。得られた粘度から、該当する重量平均分子量を求める。なお、この基準表は、重量平均分子量が既知のポリエチレンオキサイドを用いて作成したものである。基準表中、PEOは、ポリエチレンオキサイドの意味である。
【0026】
固体状のポリエチレンオキサイドは、粒子状、更に粉末状又は顆粒状であることが好ましい。顆粒は、通常、粉末よりも相対的に粒径が大きい粒子である。
固体状のポリエチレンオキサイドの形状は限定されず、例えば、球状、板状などが挙げられる。また、固体状のポリエチレンオキサイドの形状は、定形、不定形のいずれでもよい。
【0027】
本発明では、前記混合条件を満たした上で、ポリエチレンオキサイドを、セメントに対して、例えば、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上、更に好ましくは0.03質量%以上、そして、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下、更に好ましくは1.0質量%以下混合する。
【0028】
また、本発明では、混合条件が前記混合条件(1)である場合、前記混合条件(1)を満たした上で、ポリエチレンオキサイドを、水に対して、例えば、好ましくは0.017質量%以上、より好ましくは0.034質量%以上、更に好ましくは0.051質量%以上、より更に好ましくは0.15質量%以上、そして、好ましくは5.1質量%以下、より好ましくは3.4質量%以下、更に好ましくは1.7質量%以下、より更に好ましくは1.2質量%以下混合する。
【0029】
セメントとしては、普通、早強、超早強、低熱及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント、並びにこれらポルトランドセメントに、フライアッシュ、高炉スラグ、又はシリカや石灰石微粉末等を混合した各種混合セメント等が挙げられる。材齢28日における圧縮強度及び吹付け用水硬性組成物の流動性保持の点で、普通ポルトランドセメント又は早強ポルトランドセメントが好ましい。
【0030】
前記水硬性組成物は、骨材を含有する。骨材としては、細骨材及び粗骨材から選ばれる骨材が挙げられる。骨材は細骨材が含まれることが好ましい。細骨材として、JIS A0203−2014中の番号2311で規定されるものが挙げられる。細骨材としては、川砂、陸砂、山砂、海砂、石灰砂、珪砂及びこれらの砕砂、高炉スラグ細骨材、フェロニッケルスラグ細骨材、軽量細骨材(人工及び天然)及び再生細骨材等が挙げられる。また、粗骨材として、JIS A0203−2014中の番号2312で規定されるものが挙げられる。例えば粗骨材としては、川砂利、陸砂利、山砂利、海砂利、石灰砂利、これらの砕石、高炉スラグ粗骨材、フェロニッケルスラグ粗骨材、軽量粗骨材(人工及び天然)及び再生粗骨材等が挙げられる。細骨材、粗骨材は種類の違うものを混合して使用しても良く、単一の種類のものを使用しても良い。
前記水硬性組成物は、骨材として細骨材を含有することが好ましい。水硬性組成物(A)での細骨材の使用量は、好ましくは800kg/m以上、より好ましくは900kg/m以上、そして、好ましくは1300kg/m以下、より好ましくは1200kg/m以下である。
前記水硬性組成物では、細骨材率が好ましくは35%以上、より好ましくは45%以上、そして、好ましくは70%以下、より好ましくは65%以下である。ここで細骨材率は、全骨材中の細骨材の容積含有率である。
【0031】
セメント、水、骨材及びポリエチレンオキサイドを混合して製造された水硬性組成物は、水/セメント比〔水硬性組成物中の水とセメントの質量百分率(質量%)〕が、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは67質量%以下、更に好ましくは64質量%以下である。通常、当該水硬性組成物の水/セメント比は、引き続き製造される吹付用水硬性組成物に反映される。従って、本発明では、前記吹付用水硬性組成物も、水/セメント比は、前記範囲であることが好ましい。
【0032】
前記水硬性組成物は、必要に応じて、高性能減水剤、高性能AE減水剤、AE減水剤及び流動化剤を含む減水剤、膨張材、硬化促進剤、硬化遅延剤、セメント用ポリマー、発泡剤、防水剤、防錆剤、収縮低減剤、顔料、繊維、撥水剤、白華防止剤等の一種または二種以上を含有してもよい。
【0033】
本発明において、セメント、水、骨材及び前記固体状のポリエチレンオキサイドの混合は、公知の方法により行うことができる。具体的には、セメントと水と骨材とポリエチレンオキサイドと同時に混合する方法(以下、方法1という)、最初にセメントと水と骨材とを混合して、その後にポリエチレンオキサイドを添加する方法(以下、方法2という)、が挙げられる。これらの成分の混合には、パン型強制ミキサー、2軸強制ミキサー、可傾式ミキサー等の混合ミキサーを使用することができる。方法1の場合には、アジテータ車にセメントと水と骨材との混合物を入れ、アジテータ車にポリエチレンオキサイドを投入しアジテータ車で混合することも可能である。ポンプ圧送性向上と粉塵低減の両立の観点から、方法1が好ましい。また、いずれの方法でも、混和剤(材)、例えば、ナフタレン系或いはポリカルボン酸系のセメント分散剤などを添加しても良い。
【0034】
本発明では、セメント、水、骨材及び前記固体状のポリエチレンオキサイドを混合して得た水硬性組成物に、固体状の急結剤を添加して、吹付用水硬性組成物を製造する。前記水硬性組成物と固体状の急結剤との混合は、例えば、コンクリートと粉末状急結剤を別々に空気圧送して合流混合する一般的な湿式吹付工法で実施できる。
【0035】
急結剤は、粉末状の急結剤が好ましく、無機塩系急結剤、セメント鉱物系急結剤、及び天然鉱物系急結剤から選ばれる急結剤を含む粉末急結剤が好ましく、無機塩系急結剤、及びセメント鉱物系急結剤から選ばれる急結剤を含む粉末急結剤がより好ましく、セメント鉱物系急結剤から選ばれる急結剤を含む粉末急結剤が更に好ましい。
無機塩系急結剤としては、アルカリ金属アルミン酸塩、アルカリ金属炭酸塩、及び珪酸塩などが挙げられる。セメント鉱物系急結剤としては、カルシウムアルミネートやカルシウムサルホアルミネートなどが挙げられる。天然鉱物系急結剤としては、か焼ミョウバン石などが挙げられる。これらを複数組み合わせた複合系の急結剤も使用できる。
【0036】
本発明では、急結剤を、前記水硬性組成物中のセメント100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、更に好ましくは5質量部以上、そして、好ましくは20質量部以下、より好ましくは17質量部以下、更に好ましくは14質量部以下混合する。
【0037】
吹付用水硬性組成物は、ポンプ圧送性向上と粉塵低減の観点から、水溶性高分子を併用することができる。すなわち、本発明の湿式吹付工法は、ポリエチレンオキサイドを除く水溶性高分子を混合することを含んでよい。水溶性高分子は、前記固体状のポリエチレンオキサイドと同じ時期で混合することができる。
水溶性高分子は、セルロースエーテル系水溶性高分子が好ましい。セルロースエーテル系水溶性高分子としては、ヒドロキシアルキルセルロースおよび/またはヒドロキシアルキルアルキルセルロースが挙げられる。これらのうち、水溶性のものが使用される。ヒドロキシアルキルセルロースとしてはヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどが、また、ヒドロキシアルキルアルキルセルロースとしては、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロースなどがそれぞれ挙げられ、これらは1種または2種以上の組み合わせで用いられる。これらの内では、ヒドロキシプロピルメチルセルロースが好ましい。
本発明で水溶性高分子を混合する場合、水溶性高分子を、前記水硬性組成物中のセメント100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.03質量部以上、更に好ましくは0.05質量部以上、そして、好ましくは1.0質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下、更に好ましくは0.3質量部以下混合する。
【0038】
本発明の吹付工法では、このようにして調製した吹付用水硬性組成物を対象物に吹き付ける。この方法は、いわゆる湿式吹付工法に相当する。
本発明の湿式吹付工法は、従来の吹付設備により実施可能である。吹付設備は、湿式での吹き付けが支障なく行われればよく、例えば、前記水硬性組成物の圧送に、アリバ社製、商品名「アリバ280」等を用い、固体状の急結剤の圧送にちよだ製作所製、商品名「ナトムクリート」等を用い、両者を混合して吹付用水硬性組成物を調製して吹き付けを行うことが可能である。
【0039】
本発明の湿式吹付工法として、前記条件(1)の(1−1)の方法が好ましい。すなわち、本発明の湿式吹付工法として、セメント、水、骨材及び下記混合条件(1’)で重量平均分子量20万以上170万以下の固体状のポリエチレンオキサイドを混合して水硬性組成物を製造し、
前記水硬性組成物に、固体状の急結剤を混合して、吹付用水硬性組成物を製造し、
前記吹付用水硬性組成物を対象物に吹き付ける、
湿式吹付工法が挙げられる。
<ポリエチレンオキサイドの混合条件(1’)>
重量平均分子量20万以上170万以下のポリエチレンオキサイドの平均付加モル数(A)(モル)と、当該ポリエチレンオキサイドのセメントに対する混合量(B)(質量%)の積〔(A)×(B)〕が、90以上12000以下となるように、当該ポリエチレンオキサイドを混合する。
この湿式吹付工法では、ポリエチレンオキサイドの重量平均分子量は70万以上90万以下が好ましい。また、この湿式吹付工法では、ポリエチレンオキサイドを、水に対して、0.15質量%以上1.2質量%以下混合することが好ましい。
【実施例】
【0040】
<試験例1〜24>
以下の操作は、粉塵量やリバウンド量が多くなる冬場を想定し、全て10℃恒温室で実施した。
【0041】
(1)モルタルの作製
モルタルの配合成分は以下の通りである。
水:水道水
セメント:太平洋セメント株式会社製 普通ポルトランドセメント
砂:京都府 城陽市産 山砂 表乾状態 比重2.52
ポリエチレンオキサイド:明成化学工業社製ポリエチレンオキサイド(商品名 アルコックスシリーズから選択)、重量平均分子量(Mw)及び平均付加モル数は表中に示した。セルロース:ヒドロキシプロピルメチルセルロース、信越化学工業株式会社製、アスカクリーンD
【0042】
モルタルの作製には、「JIS R 5201 セメントの物理試験方法」に規定されるモルタルミキサーを使用した。
モルタルミキサーの練鉢に水を295g入れ、その後セメントを492g加え低速で30秒撹拌した。その後に砂を1400g入れ、再び低速で60秒撹拌し、表中のポリエチレンオキサイド及びセルロースを表中の量で添加し、低速で60秒撹拌してモルタルを得た。ポリエチレンオキサイドは固体状で添加した(一部の比較例を除く)。
なお、吹付けの際のポンプ圧送性、粉塵量は、急結剤添加前のモルタル物性の影響が大きいと考えられることから、本例では、モルタルへの急結剤の添加は省略し、ここで得られたモルタルを吹付用モルタルとして以下の評価を行った。実施例のモルタルに、粉末等、固体状の急結剤を混合して吹付用水硬性組成物を製造し、対象物に吹き付けて本発明の湿式吹付工法を行うことができる。
【0043】
(2)評価
得られた吹付用モルタルを用いて以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0044】
(2−1)ポンプ圧送性
ポンプ圧送性は、ベーントルク(cN・m)により評価した。
500mlビーカーにモルタル400mlを充填し、東日製作所製ベーントルク試験機FTD 5CN−Sを用いて羽根を回転した時の抵抗値を測定した。
抵抗値が小さいほどポンプで送る際に負荷が小さくなり、モルタルを安定してポンプ圧送できると判断される。この評価では、ベーントルクは、2.0cN・m以下で、且つ値がより小さい方が好ましい。
【0045】
(2−2)粉塵低減
粉塵の低減は、落下飛散率(%)により評価した。
「JIS R 5201 セメントの物理試験方法」に規定されるフローコーンにモルタルを充填して2.5mの高さからモルタルを落下させた。
落下後に落下中心部から50cm円以外に飛散したモルタル質量を計測し、以下の式で飛散率を測定した。
50cm円以外に飛散したモルタル質量/落下前モルタル質量×100=飛散率(%)
吹付け時の粉塵は、吐出口や壁面からの跳ね返りによるモルタル構成成分のミストであり、モルタルがせん断力を受けた時に粉塵が発生する。
落下飛散率は、モルタルが落下によるせん断を受けた時のモルタル構成成分の飛散度合であり、モルタル単独のレオロジー挙動に大きく影響すると仮定し、吹付け時の粉塵量と相関すると考えられる。従って、この落下飛散率が小さい方が粉塵低減効果に優れていると判断される。この評価では、落下飛散率は、32%以下で、且つ値がより小さい方が好ましい。
【0046】
【表1】
【0047】
*1 試験例24は、モルタル作製の際に、水にセメントを加える際に粉末急結剤も添加してモルタルを作製した。
【0048】
<試験例25>
試験例9と同様に、ただし、モルタル作製の際に、ポリエチレンオキサイドを水に溶解させて液体状で用いてモルタルを作製した。得られた吹付用モルタルを用いて、ポンプ圧送性と粉塵低減の評価を試験例9と同様に行った。結果を表2に示す。なお、表2には、試験例9の結果も併記した。
【0049】
【表2】
【0050】
表2に示すように、同一条件でポリエチレンオキサイドを添加する場合、試験例9(実施例)のように固体状で添加した方が、試験例25(比較例)よりも落下飛散率が小さくなり、より優れた効果が得られることがわかる。この傾向は、表1の他の試験例でも同様となる。
【0051】
<試験例26〜51>
ポリエチレンオキサイドの2質量%水溶液は、200mlビーカーに蒸留水を147.0g秤量後、U字タイプの撹拌羽根で撹拌(250rpm)しながらポリエチレンオキサイド3.0g添加し3時間撹拌して作製した。
また、ポリエチレンオキサイドの0.5質量%水溶液は、200mlビーカーに蒸留水を149.25g秤量後、U字タイプの撹拌羽根で撹拌(250rpm)しながらポリエチレンオキサイド0.75g添加し3時間撹拌して作製した。
得られたポリエチレンオキサイド水溶液の粘度を、前記混合条件(2)について述べた方法で測定し、表3の混合量で試験例1等と同様に、固体状のポリエチレンオキサイドを混合して吹付用モルタルを作製した。
得られた吹付用モルタルを用いて、ポンプ圧送性と粉塵低減の評価を試験例1等と同様に行った。結果を表3に示す。
【0052】
【表3】