(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基材と、前記基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された熱可塑性ポリマーを含有する熱可塑性ポリマー含有層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、
前記基材が、ポリオレフィン系の樹脂を主成分として含むポリオレフィン微多孔膜であり、前記熱可塑性ポリマーが、下記式:
T1.00−T0.25≦13℃
{式中、T1.00は、DSC(示差走査熱量測定)によって測定された単位時間当たりの熱流差を、温度で微分した値をDDSCとしたとき、0℃から150℃までにおけるDDSCの最小値を示す温度であり、T0.25は、0℃から150℃までにおけるDDSCの最大値と前記最小値の差をXとした際に、DDSCが前記T1.00よりも低温側において、前記最大値からの差が0.25Xとなる温度である。}
で表される関係式を満たし、
前記T1.00が35℃以上、130℃以下の範囲にあり、
下記式:
P1/P2≧1.1
{式中、P1は、前記蓄電デバイス用セパレータの一つの面(A)と、前記面(A)とは反対側の面(B)とを重ねて積層体を作成し、この積層体を、温度90℃、及び圧力1MPaの条件下で5秒間プレスしたときの前記面(A)と前記面(B)の間の剥離強度であり、かつP2は、前記積層体を温度25℃、及び圧力5MPaの条件下で12時間プレスしたときの前記面(A)と前記面(B)の間の剥離強度である。}
で表される関係を満たし、
前記熱可塑性ポリマーは、ガラス転移温度が40℃以上である粒子状重合体を含み、
前記熱可塑性ポリマー含有層の前記基材に対する被覆面積割合が95%以下であることを特徴とする、蓄電デバイス用セパレータ。
前記熱可塑性ポリマー含有層が、異なるガラス転移温度を有する2種類以上の熱可塑性ポリマーを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明は下記本実施形態に限定されない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
本明細書における「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」、及びそれに対応する「メタクリル」を意味し、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」、及びそれに対応する「メタクリレート」を意味し、そして「(メタ)アクリロイル」とは、「アクリロイル」、及びそれに対応する「メタクリロイル」を意味する。
また、本明細書における「上」、及び「面に形成」とは、各部材の位置関係が「直上」であることを限定する意味ではない。例えば、「基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成され熱可塑性ポリマーを含有する熱可塑性ポリマー含有層」、「基材上に形成された熱可塑性ポリマー含有層」、及び「基材の表面に形成された熱可塑性ポリマー含有層」という表現は、基材と熱可塑性ポリマー含有層との間に、任意の層(耐熱機能を有する層、例えば無機フィラー多孔層)を含む態様を除外しない。
更に、本明細書における「〜」とは、特に断りがない場合、その前後に記載される数値を上限値、及び下限値として含む意味である。
本明細書における「接着」は、高温プレス時の接着(電極との接着を想定)、「ブロッキング」は、低温プレス時の接着(セパレータ同士の張り付き、「べたつき」と同義)とする。また、「結着」は、基材とバインダの接着力を意味する。
【0015】
<蓄電デバイス用セパレータ>
本実施形態の蓄電デバイス用セパレータ(以下、単に「セパレータ」ともいう。)は、基材と、基材の少なくとも片面に形成された熱可塑性ポリマー含有層とを備える。セパレータの片面のみに熱可塑性ポリマー含有層が形成された態様と、セパレータの両面に熱可塑性ポリマー含有層が形成された態様とのいずれも、本発明の範囲に含まれる。
【0016】
本発明では、常温で変形性が小さく、ある一定の温度に達した際に急激に変形性を持つ熱可塑性ポリマーを用いることで、低温でブロッキングしにくく、ある一定の温度で接着させる際に高い接着力を発現するセパレータを提供することができる。これにより耐ブロッキング性と電極への接着性との両立を図ることができる。
電極とセパレータとの積層体を捲回体とし、熱プレスすることにより電極とセパレータとを接着させるが、この時の温度は、電池への影響が少なくなるよう、より低い温度で接着させることが好ましい。常温と接着時の温度との差が小さくなるため、ある一定温度で急激に変形性を発現するような熱可塑性ポリマーが好ましい。
具体的には、DSCチャートにおいて、ガラス転移点周辺における吸熱ピークがよりシャープな挙動を示すバインダを使用する。
【0017】
すなわち、本実施形態のセパレータは、熱可塑性ポリマーが、下記式:
T
1.00−T
0.25≦15℃
{式中、T
1.00は、DSC(示差走査熱量測定)によって測定された単位時間当たりの熱流差(dq/dt)を、温度で微分した値をDDSCとしたとき、0℃から150℃までにおけるDDSCの最小値を示す温度であり、T
0.25は、DDSCの最大値と最小値の差をXとした際に、DDSCが最小値を示す温度よりも低温側において、最大値からの差が0.25Xとなる温度である。}
で表される関係式を満たす。
【0018】
T
1.00は熱可塑性ポリマーの熱流量の変化量が最も大きい温度であり、熱可塑性ポリマーの約半分がゴム状になっていると考えられる。実際にT
1.00はプレス時の電極との接着力と相関する指標である。つまりT
1.00が大きくなると電極との接着力は減少傾向を示す。一方、T
0.25は熱可塑性ポリマーがガラス状態からゴム状態に移行し始めの段階であるつまり、T
0.25を堺にポリマー分子鎖の運動が始まり、実際に24時間以上圧力をかけ続けることでブロッキング力が発現し始める温度である。
【0019】
図1は、熱可塑性ポリマーのDDSCの一例を示す図である。図中、実線が最大値であり、点線が最小値である。0℃から150℃までにおけるDDSCの最小値を示す温度が、T
1.00である。DDSCの最大値と最小値の差がXである。そして、前記T
1.00よりも低温側において、最大値からの差が0.25Xとなる温度がT
0.25である。
【0020】
T
1.00が35℃以上であることが好ましく、より好ましくは40℃以上、さらに好ましくは45℃以上であり、130℃以下の範囲にあることが好ましく、より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは80℃以下である。T
1.00が35℃未満であると、常温での保管、輸送時にブロッキングを発現し、ハンドリング性が悪化してしまう。T
1.00が130℃以下であることで、プレス時の温度を130℃以下に設定でき、プレス時において電極に悪影響を与えることなくプレスすることができる。
同様の観点から、T
1.00−T
0.25は、14℃以下であることが好ましく、13℃以下であることがより好ましい。また、T
1.00−T
0.25の最小値としては、0より大きい値とすることができる。
【0021】
また、セパレータは、下記式:
P1/P2≧1.0
{式中、P1は、セパレータの一つの面(A)と、面(A)とは反対側の面(B)とを重ねて積層体を形成し、その積層体を温度90℃、及び圧力1MPaの条件下で5秒間プレスしたときの面(A)と面(B)の間の剥離強度であり、かつP2は、積層体を温度25℃、及び圧力5MPaの条件下で12時間プレスしたときの面(A)と面(B)の間の剥離強度である。}で表される関係を満たし、かつ、P1が、5N/m以上であることが好ましい。
セパレータは、上記式を満たすことで、耐ブロッキング性と電極への接着性との両立を図ることができる。P1が5N/m以上であることで、プレスバックを抑制することができる。さらに、P2が15N/m以下であることがより好ましい。
【0022】
面(A)と面(B)との間に熱可塑性ポリマー含有層が配される態様であれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、面(A)と面(B)とを重ねて形成する捲回体の態様は限定されない。従って、本発明の範囲には、熱可塑性ポリマー含有層が、形成された面(A)と形成されていない面(B)とを重ねる形態、形成された面(A)と形成された面(B)とを重ねる形態、及び形成されていない面(A)と形成された面(B)とを重ねる形態のいずれも含まれる。
以下、セパレータを構成することができる各部材の好ましい実施形態について、詳細に説明する。
【0023】
[基材]
基材は、それ自体が、従来セパレータとして用いられていたものでもよい。基材としては、多孔質膜が好ましく、加えて、電子伝導性がなくイオン伝導性があり、かつ有機溶媒の耐性が高い、孔径の微細な多孔質膜であるとより好ましい。そのような多孔質膜としては、例えば、ポリオレフィン系(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、及びポリ塩化ビニル)、並びにそれらの混合物又はそれらの単量体の共重合体等の樹脂を主成分として含む微多孔膜;ポリエチレンテレフタレート、ポリシクロオレフィン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリアラミド、ポリシクロオレフィン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂を主成分として含む微多孔膜;ポリオレフィン系の繊維を織ったもの(織布);ポリオレフィン系の繊維の不織布;紙;並びに絶縁性物質粒子の集合体等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
中でも、セパレータの膜厚をより薄くして、蓄電デバイス内の活物質比率を高め、ひいては体積当たりの容量を増大させる観点から、ポリオレフィン系の樹脂を主成分として含むポリオレフィン微多孔膜が好ましい。ポリオレフィン微多孔膜は、その膜上に塗布液を塗工する工程を経る場合、塗布液の塗工性に優れるので、セパレータの厚さをより薄くするのに有利である。
なお、ポリオレフィン系の樹脂を「主成分として含む」とは、基材の全質量に対して50質量%を超えて含むことを意味する。基材としてポリオレフィン微多孔膜を用いる場合、ポリオレフィン微多孔膜におけるポリオレフィン樹脂の含有量は特に限定されない。ただし、セパレータとして用いた場合のシャットダウン性能等の観点から、ポリオレフィン微多孔膜を構成する全成分の50質量%以上100質量%以下がポリオレフィン樹脂であると好ましい。ポリオレフィン樹脂の含有量は、好ましくはそのポリオレフィン微多孔膜を構成する全成分の、75質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、なおも更に好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0024】
ポリオレフィン樹脂としては、特に限定されないが、通常の押出、射出、インフレーション、及びブロー成形等に使用できるポリオレフィン樹脂であってもよい。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、及び1−オクテン等を単量体とするホモポリマー、並びにそれらの単量体2種以上のコポリマー、及び多段ポリマーが挙げられる。これらのホモポリマー、コポリマー、及び多段ポリマーは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0025】
ポリオレフィン樹脂の代表例としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリブテンが挙げられ、より詳細には、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン、エチレン−プロピレンランダムコポリマー、ポリブテン、及びエチレンプロピレンラバーが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。ポリオレフィン樹脂としては、孔が熱溶融により閉塞するシャットダウン特性の観点から、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、及び超高分子量ポリエチレンのようなポリエチレンが好ましい。特に、低融点であり、かつ高強度であることから、高密度ポリエチレンが好ましく、JIS K 7112に従って測定した密度が0.93g/cm
3以上であるポリエチレンがより好ましい。これらのポリエチレンの製造のときに用いられる重合触媒は特に制限はなく、例えば、チーグラー・ナッタ系触媒、フィリップス系触媒、及びメタロセン系触媒が挙げられる。また、低融点、高強度、透過性、及び熱特性のバランスを制御する観点から、主成分をポリエチレンとすることが好ましい。
【0026】
基材の耐熱性を向上させるために、ポリオレフィン微多孔膜は、ポリプロピレンと、ポリプロピレン以外のポリオレフィン樹脂とを含むことがより好ましい。ここで、ポリプロピレンの立体構造は限定されず、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、及びアタクティックポリプロピレンのいずれでもよい。また、ポリプロピレン以外のポリオレフィン樹脂としては、例えば、エチレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、及び1−オクテン等を単量体とするホモポリマー、並びにそれらの単量体2種以上のコポリマー、及び多段ポリマーが挙げられ、具体例としては、既に上記で説明したものが挙げられる。ポリプロピレンを製造するときに用いられる、重合触媒は特に制限はなく、例えば、チーグラー・ナッタ系触媒、及びメタロセン系触媒が挙げられる。
【0027】
ポリオレフィン微多孔膜中のポリオレフィンの総量に対するポリプロピレンの含有割合(ポリプロピレン/ポリオレフィン)は、特に限定されないが、耐熱性と良好なシャットダウン機能の両立の観点から、1〜35質量%であることが好ましく、より好ましくは3〜20質量%、更に好ましくは4〜10質量%である。同様の観点から、ポリオレフィン微多孔膜中のポリオレフィンの総量に対するポリプロピレン以外のオレフィン樹脂、例えばポリエチレンの含有割合(ポリプロピレン以外のオレフィン樹脂/ポリオレフィン)は、65〜99質量%であることが好ましく、より好ましくは80〜97質量%、更に好ましくは90〜96質量%である。
ポリエチレン及びポリプロピレン以外のポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリブテン、及びエチレン−プロピレンランダムコポリマーが挙げられる。
【0028】
ポリオレフィン微多孔膜を構成するポリオレフィン樹脂の粘度平均分子量は、特に限定されないが、3万以上1200万以下であることが好ましく、より好ましくは5万以上200万未満、更に好ましくは10万以上100万未満である。粘度平均分子量が3万以上であると、溶融成形のときのメルトテンションが大きくなり成形性がより良好になると共に、ポリマー同士の絡み合いにより更に高強度となる傾向にあるため好ましい。一方、粘度平均分子量が1200万以下であると、均一に溶融混練をすることが容易となり、シートの成形性、特に厚み安定性に優れる傾向にあるため好ましい。更に、粘度平均分子量が100万未満であると、温度上昇時に孔を閉塞し易く、より良好なシャットダウン機能が得られる傾向にあるため好ましい。なお、粘度平均分子量(Mv)は、ASTM−D4020に基づき、溶剤としてデカリンを用い、測定温度135℃で測定された極限粘度[η]から、下記式により算出される。
ポリエチレン:[η]=6.77×10
-4Mv
0.67(Chiangの式)
ポリプロピレン:[η]=1.10×10
-4Mv
0.80
なお、例えば、粘度平均分子量100万未満のポリオレフィンを単独で用いる代わりに、粘度平均分子量200万のポリオレフィンと粘度平均分子量27万のポリオレフィンとの混合物であって、その粘度平均分子量が100万未満の混合物を用いてもよい。
【0029】
また、基材は、任意の添加剤を含有することができる。このような添加剤は、特に限定されず、例えば、ポリオレフィン以外のポリマー;無機粒子;フェノール系、リン系、及びイオウ系等の酸化防止剤;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;紫外線吸収剤;光安定剤;帯電防止剤;防曇剤;並びに着色顔料等が挙げられる。これらの添加剤の合計含有量は、ポリオレフィン微多孔膜中のポリオレフィン樹脂100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは5質量部以下である。
【0030】
基材の気孔率は、特に限定されないが、好ましくは20%以上、より好ましくは35%以上であり、更に好ましくは40%より大きい。一方、その気孔率は、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下である。気孔率を20%以上とすることは、セパレータの透過性をより有効かつ確実に確保する観点から好ましい。一方、気孔率を90%以下とすることは、突刺強度をより有効かつ確実に確保する観点から好ましい。気孔率は、例えば、基材の試料の体積(cm
3)、質量(g)、膜密度(g/cm
3)から、下記式:
気孔率=(体積−質量/膜密度)/体積×100
により求めることができる。ここで、例えばポリエチレンから成るポリオレフィン微多孔膜の場合、膜密度を0.95(g/cm
3)と仮定して計算することができる。気孔率は、ポリオレフィン微多孔膜の延伸倍率の変更等により調節可能である。
【0031】
基材の透気度は、特に限定されないが、好ましくは10秒/100cm
3以上、より好ましくは50秒/100cm
3以上であり、好ましくは1000秒/100cm
3以下、より好ましくは500秒/100cm
3以下である。透気度を10秒/100cm
3以上とすることは、蓄電デバイスの自己放電を抑制する観点から好ましい。一方、透気度を1000秒/100cm
3以下とすることは、良好な充放電特性を得る観点から好ましい。透気度は、JIS P−8117に準拠して測定される透気抵抗度である。透気度は、基材の延伸温度、及び/又は延伸倍率の変更等により調節可能である。
【0032】
基材の平均孔径は、好ましくは0.15μm以下であり、より好ましくは0.1μm以下であり、好ましくは0.01μm以上である。平均孔径を0.15μm以下とすることは、蓄電デバイスの自己放電を抑制し、容量低下を抑制する観点から好適である。平均孔径は、基材を製造するときの延伸倍率の変更等により調節可能である。
【0033】
基材の突刺強度は、特に限定されないが、好ましくは200gf/20μm以上、より好ましくは300gf/20μm以上であり、更に好ましくは400gf/20μm以上であり、好ましくは2000gf/20μm以下、より好ましくは1000gf/20μm以下である。突刺強度が200gf/20μm以上であることは、セパレータを電極と共に捲回したときにおける、脱落した活物質等による破膜を抑制する観点、及び充放電に伴う電極の膨張収縮によって短絡する懸念を抑制する観点からも好ましい。一方、突刺強度が2000gf/20μm以下であることは、加熱時の配向緩和による幅収縮を低減できる観点から好ましい。突刺強度は、実施例に記載の方法に準じて測定される。突刺強度は、基材の延伸倍率、及び/又は延伸温度等を調整することにより調節可能である。
【0034】
基材の厚さは、特に限定されないが、好ましくは2μm以上、より好ましくは5μm以上であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは60μm以下、更に好ましくは50μm以下である。膜厚を2μm以上とすることは、機械強度を向上させる観点から好ましい。一方、膜厚を100μm以下とすることは、蓄電デバイスにおけるセパレータの占有体積が減るため、蓄電デバイスの高容量化の点において有利となる傾向があるので好ましい。
【0035】
[熱可塑性ポリマー含有層]
熱可塑性ポリマー含有層は、熱可塑性ポリマーを含有する。熱可塑性ポリマー含有層は、基材の表面の、全部に配置されてもよいし、一部に配置されてもよい。得られる蓄電デバイスが高いイオン透過性を示すように、熱可塑性ポリマー含有層を、基材の面の一部にのみ配置することがより好ましい。
【0036】
熱可塑性ポリマー含有層は、電極と直接接着されることが予定されている。セパレータに備えられる少なくとも1つの熱可塑性ポリマー含有層は、電極と直接接着されるように、例えば、基材の少なくとも一部と電極とが熱可塑性ポリマー含有層を介して接着されるように配置されることが好ましい。
【0037】
熱可塑性ポリマー含有層の基材に対する塗工量、すなわち、基材の一つの面の面積当たりの熱可塑性ポリマー含有層の形成量(配置量)は、固形分で0.01g/m
2以上であると好ましく、0.03g/m
2以上であるとより好ましい。また、その塗工量は、2.0g/m
2以下であると好ましく、1.5g/m
2以下であると更に好ましい。その塗工量を0.01g/m
2以上とすることは、得られるセパレータにおいて、熱可塑性ポリマー含有層と電極との接着力を向上させ、より均一な充放電を実現し、デバイス特性(例えば電池のサイクル特性)を向上させる点で好ましい。一方で、その塗工量を2.0g/m
2以下とすることは、イオン透過性の低下を更に抑制する観点から好ましい。
【0038】
基材における、熱可塑性ポリマー含有層が配置される面の全面積に対する、熱可塑性ポリマー含有層がその上に存在する面の面積割合、すなわち熱可塑性ポリマー含有層の基材に対する被覆面積割合は、95%以下であることが好ましく、80%以下であると好ましく、50%以下であるとより好ましく、35%以下であると特に好ましい。また、この表面被覆率は、5%以上であると好ましく、10%以上であるとより好ましく、15%以上であると特に好ましい。この被覆面積割合を95%以下とすることは、イオン透過性を高め、レート特性を向上させる観点から好ましい。これにより出力を確保することができる。被覆面積割合を50%以下とすることは、セパレータのみを捲回したとき、基材の面の露出部分(熱可塑性ポリマー含有層が存在しない部分)と、別の基材又は別の熱可塑性ポリマー含有層との接触面積を大きくすることで耐ブロッキング性を確保する観点から好ましい。また、粒子状重合体による基材の孔の閉塞を更に抑制し、セパレータの透過性を一層向上する観点からも好ましい。一方、被覆面積割合を5%以上とすることは、電極への接着性を一層向上する観点から好ましい。被覆面積割合は、得られるセパレータにおいて、熱可塑性ポリマー含有層が形成された面をSEMで観察することにより測定され、詳細には実施例に記載の方法に準じて測定される。
【0039】
被覆面積割合は、例えば、後述のセパレータの製造方法において、基材の表面に塗布する塗布液中の粒子状重合体の種類又はその重合体の濃度、塗布液の塗布量、塗布方法、及び塗布条件を変更することにより調整することができる。ただし、塗工面積の調整方法は、それらに限定されない。
【0040】
熱可塑性ポリマー含有層を基材の面の一部にのみ配置する場合、熱可塑性ポリマーの存在形態(パターン)は特に限定されるものではないが、基材の全面にわたって熱可塑性ポリマーが不規則に存在する状態、あるいは一定のパターンがある頻度で周期的に存在する状態が好ましい。熱可塑性ポリマーが一定のパターンがある頻度で周期的に存在する場合、その配置パターンとしては、例えば、
図4に示すように、(A)ドット状、(B)格子状、(C)ストライプ状、(D)縞状、(E)亀甲状等、及びこれらの組み合わせが挙げられる。これらの中では、本発明による作用効果をより有効かつ確実に奏する観点、及び、生産性の観点から、ドット状が好ましい。配置パターンがドット状である場合、そのドット径は50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、200μm以上であることがより好ましい。また、そのドット径は、1mm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましい。ドット径が50μm以上であることで、電解液中のイオンの流れが更に良好となり透過性に一層優れる。ドット径が1mm以下であることで、セパレータを電極とより均一に接着させることができ、面内の電流密度を更に均一にすることができる。更に、ドット状の配置パターンの中に熱可塑性ポリマーが塗布されていない部分を設けることで、より一層面内の電流密度を均一にすることができる。
【0041】
熱可塑性ポリマー含有層を部分的に配置する場合、被覆面積割合が、ある一定の面積範囲において、均一であることが望ましい。具体的には、セパレータの表面をSEMにて観察した際の2mm×2mm以上の観察視野範囲において、下記式で表される被覆面積割合の変化率が±50%以内であることが好ましい。
(被覆面積割合の変化率(%))=(C1−C2)/C1×100
ここで、C1は任意の2mm×2mm以上の観察視野範囲における被覆面積割合を示し、C2はそれ以外の2mm×2mm以上の観察視野範囲における被覆面積割合を示す。例えば、熱可塑性ポリマー含有層が部分的に配置されているセパレータについて、2mm×2mmのある観察視野範囲における被覆面積割合の測定値が50%であった場合、そのセパレータの他のどの部分を観察しても、10mm×10mmの観察視野範囲における被覆面積割合が25%以上75%以下であることが好ましい。
【0042】
熱可塑性ポリマー含有層の厚さは、基材の一つの面当たり、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。また、その厚さは、基材の一つの面当たり、10.0μm以下であることが好ましく、5.0μm以下であることがより好ましい。この厚さを0.01μm以上とすることは、電極と基材との間の接着力を均一に発現する点で好ましく、その結果、デバイス特性を向上させることができる。また、この厚さを10.0μm以下とすることはイオン透過性の低下を抑制する点で好ましい。熱可塑性ポリマー含有層の厚さは、例えば、基材に塗布する塗布液における粒子状重合体の種類又はその重合体の濃度や塗布液の塗布量、塗布方法、及び塗布条件を変更することにより調整することができる。ただし、この厚さの調整方法は、それらに限定されない。熱可塑性ポリマー含有層の厚さは、実施例に記載の方法に準じて測定される。
【0043】
(粒子状重合体)
熱可塑性ポリマー含有層に含まれる熱可塑性ポリマーは、粒子状重合体を含む。以下の説明において「エチレン性不飽和単量体」とは、分子内にエチレン性不飽和結合を1つ以上有する単量体を意味する。熱可塑性ポリマーが粒子状重合体を含むことにより、優れた電極への接着力とイオン透過性を両立することができる。
【0044】
粒子状重合体の具体例としては、アクリル系重合体、共役ジエン系重合体、アクリル系重合体、ポリビニルアルコール系樹脂、及び含フッ素樹脂が挙げられる。これらの中でも、本発明による作用効果をより有効かつ確実に奏する観点からアクリル系重合体が好ましい。また、耐電圧性の観点からアクリル系重合体、及び含フッ素樹脂も好ましく、電極とのなじみ易さの観点から共役ジエン系重合体も好ましい。更に、本発明による作用効果をより有効かつ確実に奏する観点から、粒子状重合体は粒子状の共重合体を含むと好ましい。粒子状重合体は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0045】
また、熱可塑性ポリマー含有層に含まれる熱可塑性ポリマーは、その全量に対して、好ましくは60質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上、粒子状重合体を含む。なお、熱可塑性ポリマー含有層は、粒子状重合体以外の熱可塑性ポリマーを、本発明の効果を損なわない程度に含んでもよい。
【0046】
共役ジエン系重合体は、共役ジエン化合物を単量体単位として有する重合体である。共役ジエン化合物としては、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換、及び側鎖共役ヘキサジエン類が挙げられ、これらは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、特に1,3−ブタジエンが好ましい。また、共役ジエン系重合体は、後述する(メタ)アクリル系化合物又は他の単量体を単量体単位として含んでいてもよい。そのような単量体としては、例えば、スチレン−ブタジエン共重合体、及びその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、及びその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、及びその水素化物が挙げられる。
【0047】
ポリビニルアルコール系樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等が挙げられる。また、含フッ素樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、及びエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体が挙げられる。
【0048】
耐ブロッキング性と電極への接着性との両立を図る観点から、熱可塑性ポリマーは、アクリル系重合体を含むことが好ましい。アクリル系の重合体は一般的に開始剤を投入してからの反応速度が速く、重合時の均一性が失われやすい。これを解消するために、重合槽を高速で攪拌することが有効である。
耐ブロッキング性と電極への接着性との両立をより有効かつ確実に奏する観点から、熱可塑性ポリマーが(メタ)アクリル酸エステルを含むことが好ましい。特に、取り扱いが容易で高い生産性を達成できる観点から、水を分散媒とするアクリル系コポリマーラテックスが好ましい。
【0049】
アクリル系重合体は、(メタ)アクリル系化合物を単量体単位すなわち重合単位として有する重合体である。(メタ)アクリル系化合物とは、(メタ)アクリル酸、及び(メタ)アクリル酸エステルから成る群より選ばれる少なくとも1種を示す。このような化合物としては、例えば、下記式で表される化合物が挙げられる。
CH
2=CR
Y1−COO−R
Y2
式中、R
Y1は水素原子又はメチル基を示し、R
Y2は水素原子又は1価の炭化水素基を示す。R
Y2が1価の炭化水素基の場合は、置換基を有していてもよくかつ鎖内にヘテロ原子を有していてもよい。1価の炭化水素基としては、例えば、直鎖であっても分岐していてもよい鎖状アルキル基、シクロアルキル基、及びアリール基が挙げられる。置換基としては、例えば、ヒドロキシル基、及びフェニル基が挙げられ、ヘテロ原子としては、例えばハロゲン原子、及び酸素原子が挙げられる。(メタ)アクリル系化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。このような(メタ)アクリル系化合物としては、(メタ)アクリル酸、鎖状アルキル(メタ)アクリレート、シクロアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレート、及びフェニル基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0050】
R
Y2の1種である鎖状アルキル基として、より具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、及びイソプロピル基のような炭素原子数が1〜3の鎖状アルキル基;n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基;並びにラウリル基のような炭素原子数が4以上の鎖状アルキル基等が挙げられる。また、R
Y2の1種であるアリール基としては、例えばフェニル基が挙げられる。そのようなR
Y2を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体の具体例としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、及びラウリルメタクリレートのような鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレート;並びにフェニル(メタ)アクリレート、及びベンジル(メタ)アクリレートのような芳香環を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0051】
これらの中では、セパレータの電極(電極活物質)への接着性向上の観点から、炭素原子数が4以上の鎖状アルキル基を有する単量体、より具体的には、R
Y2が炭素原子数4以上の鎖状アルキル基である(メタ)アクリル酸エステル単量体が好ましい。より具体的には、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、及び2−エチルヘキシルアクリレートから成る群より選択される少なくとも1種が好ましい。なお、炭素原子数が4以上の鎖状アルキル基における炭素原子数の上限は特に限定されず、例えば14であってもよいが、7が好ましい。これら(メタ)アクリル酸エステル単量体は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0052】
(メタ)アクリル酸エステル単量体は、炭素原子数が4以上の鎖状アルキル基を有する単量体に代えて又はこれに加えて、R
Y2としてシクロアルキル基を有する単量体を含むことも好ましい。これによっても、セパレータは電極への接着性が更に向上する。そのようなシクロアルキル基を有する単量体としては、より具体的には、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、及びアダマンチル(メタ)アクリレートが挙げられる。シクロアルキル基の脂環を構成する炭素原子の数は、4〜8が好ましく、6〜7がより好ましく、6が特に好ましい。また、シクロアルキル基は置換基を有していても有していなくてもよい。置換基としては、例えば、メチル基、及びt−ブチル基が挙げられる。これらの中では、シクロヘキシルアクリレート、及びシクロヘキシルメタクリレートから成る群より選択される少なくとも1種が、アクリル系重合体調製時の重合安定性が良好である点で好ましい。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0053】
アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体として、上記のものに代えて又は加えて、好ましくは上記のものに加えて、架橋性単量体を含むことが好ましい。架橋性単量体としては、特に限定されないが、例えば、ラジカル重合性の二重結合を2個以上有している単量体、重合中又は重合後に自己架橋構造を与える官能基を有する単量体等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0054】
ラジカル重合性の二重結合を2個以上有している単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、及び多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。多官能(メタ)アクリレートは、2官能(メタ)アクリレート、3官能(メタ)アクリレート、及び4官能(メタ)アクリレートから成る群より選択される少なくとも1種であってもよい。具体的には、例えば、ポリオキシエチレンジアクリレート、ポリオキシエチレンジメタクリレート、ポリオキシプロピレンジアクリレート、ポリオキシプロピレンジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ブタンジオールジアクリレート、ブタンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、及びペンタエリスリトールテトラメタクリレートが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。中でも、上記と同様の観点から、トリメチロールプロパントリアクリレート又はトリメチロールプロパントリメタクリレートの少なくとも1種が好ましい。
【0055】
重合中又は重合後に自己架橋構造を与える官能基を有する単量体としては、例えば、エポキシ基を有する単量体、メチロール基を有する単量体、アルコキシメチル基を有する単量体、及び加水分解性シリル基を有する単量体が挙げられる。エポキシ基を有する単量体としては、アルコキシメチル基を有するエチレン性不飽和単量体が好ましく、具体的には例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、2,3−エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、及びアリルグリシジルエーテルが挙げられる。
【0056】
メチロール基を有する単量体としては、例えば、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、ジメチロールアクリルアミド、及びジメチロールメタクリルアミドが挙げられる。アルコキシメチル基を有する単量体としては、アルコキシメチル基を有するエチレン性不飽和単量体が好ましく、具体的には例えば、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−メトキシメチルメタクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、及びN−ブトキシメチルメタクリルアミドが挙げられる。加水分解性シリル基を有する単量体としては、例えば、ビニルシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、及びγ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0057】
また、上記アクリル系重合体は、様々な品質、及び物性を改良するために、上記以外の単量体を単量体単位として更に有してもよい。そのような単量体としては、例えば、カルボキシル基を有する単量体(ただし、(メタ)アクリル酸を除く。)、アミド基を有する単量体、シアノ基を有する単量体、ヒドロキシル基を有する単量体、及び芳香族ビニル単量体(ジビニルベンゼンを除く。)が挙げられる。更に、スルホン酸基又はリン酸基のような官能基を有する各種のビニル系単量体、及び酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ビニルピロリドン、メチルビニルケトン、ブタジエン、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、及び塩化ビニリデンも必要に応じて用いられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。また、このような他の単量体は、上記各単量体のうち2種以上に同時に属するものであってもよい。
【0058】
アミド基を有する単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミドが挙げられる。シアノ基を有する単量体としては、シアノ基を有するエチレン性不飽和単量体が好ましく、具体的には、例えば、(メタ)アクリロニトリルが挙げられる。ヒドロキシル基を有する単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0059】
芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、及びα−メチルスチレンが挙げられる。好ましくはスチレンである。
【0060】
アクリル系重合体が(メタ)アクリル系化合物を単量体単位すなわち重合単位として有する割合は、アクリル系重合体100質量%に対して、好ましくは5質量%以上95質量%以下である。その下限値は、より好ましくは15質量%であり、更に好ましくは20質量%であり、特に好ましくは30質量%である。単量体単位の含有割合が5質量%以上であると、基材への結着性、及び耐酸化性の点で好ましい。一方、より好ましい上限値は92質量%であり、更に好ましい上限値は80質量%であり、特に好ましい上限値は60質量%である。単量体の含有割合が95質量%以下であると、基材への接着性が向上するため好ましい。
【0061】
アクリル系重合体が、鎖状アルキル(メタ)アクリレート又はシクロアルキル(メタ)アクリレートを単量体単位として有する場合、それらの含有割合の合計は、アクリル系重合体100質量%に対して、好ましくは、3質量%以上92質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上90質量%以下であり、更に好ましくは15質量%以上75質量%以下であり、特に好ましくは25質量%以上55質量%以下である。これらの単量体の含有割合が3質量%以上であると耐酸化性の向上の点で好ましく、92質量%以下であると、基材との結着性が向上するため好ましい。
【0062】
アクリル系重合体が、(メタ)アクリル酸を単量体単位として有する場合、その含有割合は、アクリル系重合体100質量%に対して、好ましくは0.1質量%以上5質量%以下である。上記単量体の含有割合が、0.1質量%以上であると、セパレータは膨潤状態でのクッション性が向上する傾向にあり、5質量%以下であると、重合安定性が良好な傾向にある。
【0063】
アクリル系重合体が、架橋性単量体を単量体単位として有する場合、アクリル系重合体における架橋性単量体の含有割合は、アクリル系重合体100質量%に対して、好ましくは0.01質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上5質量%以下であり、更に好ましくは0.1質量%以上3質量%以下である。上記単量体の含有割合が0.01質量%以上であると耐電解液性が更に向上し、10質量%以下であると膨潤状態でのクッション性の低下をより抑制することができる。
【0064】
アクリル系重合体としては、以下のいずれかの態様が好ましい。以下の共重合の含有割合は、いずれも、共重合体100質量%を基準とする値である。
(1)(メタ)アクリル酸エステルを単量体単位として有する共重合体(但し、下記の(2)の共重合体、及び(3)の共重合体を除く。)。好ましくは、(メタ)アクリル酸5質量%以下(より好ましくは0.1質量%以上5質量%以下)と、(メタ)アクリル酸エステル単量体3質量%以上92質量%以下(より好ましくは10質量%以上90質量%以下、更に好ましくは15質量%以上75質量%以下、特に好ましくは25質量%以上55質量%以下)と、アミド基を有する単量体、シアノ基を有する単量体、及びヒドロキシル基を有する単量体から成る群より選択される少なくとも1種15質量%以下(より好ましくは10質量%以下)と、架橋性単量体10質量%以下(より好ましくは0.01質量%以上5質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以上3質量%以下)と、の共重合体;
(2)芳香族ビニル単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する共重合体。好ましくは、芳香族ビニル単量体5質量%以上95質量%以下(より好ましくは10質量%以上92質量%以下、更に好ましくは25質量%以上80質量%以下、特に好ましくは40質量%以上60質量%以下)と、(メタ)アクリル酸5質量%以下(より好ましくは0.1質量%以上5質量%以下)と、(メタ)アクリル酸エステル単量体5質量%以上95質量%以下(より好ましくは15質量%以上85質量%以下、更に好ましくは20質量%以上80質量%以下、特に好ましくは30質量%以上75質量%以下)と、アミド基を有する単量体、シアノ基を有する単量体、及びヒドロキシル基を有する単量体から成る群より選択される少なくとも1種10質量%以下(より好ましくは5質量%以下)と、架橋性単量体10質量%以下(より好ましくは0.01質量%以上5質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以上3質量%以下)と、の共重合体;並びに
(3)シアノ基を有する単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する共重合体。好ましくは、シアノ基を有する単量体1質量%以上95質量%以下(より好ましくは5質量%以上90質量%以下、更に好ましくは50質量%以上85質量%以下)と、(メタ)アクリル酸5質量%以下(好ましくは0.1質量%以上5質量%以下)と、(メタ)アクリル酸エステル単量体1質量%以上95質量%以下(より好ましくは5質量%以上85質量%以下、更に好ましくは10質量%以上50質量%以下)と、アミド基を有する単量体、シアノ基を有する単量体、及びヒドロキシル基を有する単量体から成る群より選択される少なくとも1種10質量%以下(より好ましくは5質量%以下)と、架橋性単量体10質量%以下(より好ましくは0.01質量%以上5質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以上3質量%以下)と、の共重合体。
【0065】
上記(2)の共重合体において、(メタ)アクリル酸エステル単量体として(メタ)アクリル酸の炭化水素エステルを有することが好ましい。この場合の(メタ)アクリル酸の炭化水素エステルの共重合割合は0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。また、上記(2)の共重合体がアミド基を有する単量体を有する場合、その共重合割合は、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。更に、上記(2)の共重合体がヒドロキシル基を有する単量体を有する場合、その共重合割合は、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。
【0066】
上記(3)の共重合体において、(メタ)アクリル酸エステル単量体として、鎖状アルキル(メタ)アクリレート、及びシクロアルキル(メタ)アクリレートから成る群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。上記鎖状アルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素原子数が6以上の鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。(3)の共重合体における鎖状アルキル(メタ)アクリレートの共重合割合は、1質量%以上95質量%以下であることが好ましく、3質量%以上90質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上85質量%以下であることが更に好ましい。この共重合割合の上限値は、60質量%であってもよく、特に40質量%又は30質量%であってもよく、とりわけ好ましくは20質量%である。(3)の共重合体におけるシクロヘキシルアルキル(メタ)アクリレートの共重合割合は、1質量%以上95質量%以下であることが好ましく、3質量%以上90質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上85質量%以下であることが更に好ましい。この共重合割合の上限値は、60質量%であってもよく、特に50質量%であってもよく、とりわけ好ましくは40質量%である。また、上記(3)の共重合体がアミド基を有する単量体を有する場合、その共重合割合は、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、2質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。更に、上記(3)の共重合体がヒドロキシル基を有する単量体を有する場合、その共重合割合は、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、1質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。
【0067】
アクリル系重合体は、例えば、乳化重合法によって得られる。本発明の効果を発揮するには、乳化重合の方法に関して重合反応を均一に行う必要がある。具体的には、重合中に重合容器内の溶液が十分に攪拌されるように攪拌条件を選択し、また高温で重合することが好ましい。
【0068】
例えば、水性媒体中で上述の単量体、界面活性剤、ラジカル重合開始剤、及び必要に応じて用いられる他の添加剤成分を基本組成成分とする分散系において、上記各単量体を含む単量体組成物を重合することによりアクリル系重合体が得られる。重合に際しては、供給する単量体組成物の組成を全重合過程で一定にする方法、重合過程で逐次又は連続的に変化させることによって生成する樹脂分散体の粒子の形態的な組成変化を与える方法等、必要に応じて様々な方法が利用できる。アクリル系重合体を乳化重合により得る場合、例えば、水と、その水中に分散した粒子状のアクリル系重合体とを含む水分散体(ラテックス)の形態であってもよい。
【0069】
界面活性剤は、一分子中に少なくとも1つ以上の親水基と1つ以上の親油基とを有する化合物である。界面活性剤については後述するので、ここでは説明を省略する。
また、ラジカル重合開始剤としては、熱又は還元性物質によりラジカル分解して単量体の付加重合を開始させるものである。ラジカル重合開始剤については後述するので、ここでは説明を省略する。
【0070】
熱可塑性ポリマーの形態の中でも、セパレータと電極との接着性、蓄電デバイスの高温保存特性、及びサイクル特性を向上させ、かつ電極とセパレータとの接着体の薄膜化を達成する観点から、単量体と、乳化剤と、開始剤と、水とを含むエマルションから形成されるアクリル系コポリマーラテックスが好ましい。
【0071】
上述したように、熱可塑性ポリマーは、下記式:
T
1.00−T
0.25≦15℃
{式中、T
1.00は、DSC(示差走査熱量測定)によって測定された単位時間当たりの熱流差(dq/dt)を、温度で微分した値をDDSCとしたとき、DDSCの0℃から150℃までにおける最小値を示す温度であり、T
0.25は、最大値と最小値の差をXとした際に、T
1.00よりも低温側において、最大値からの差が0.25Xとなる温度である。}
で表される関係式を満たす(
図1参照)。
【0072】
保管時には変形性が小さく、ある一定の温度に達した際に急激に変形性を持つ熱可塑性ポリマーを用いることで、低温でブロッキングしにくく、ある一定の温度で接着させる際に高い接着力を発現するセパレータを提供することができる。これにより耐ブロッキング性と電極への接着性との両立を図ることができる。
【0073】
熱可塑性ポリマーが下記式:
T
1.00−T
0.25≦15℃
を満たすためには、熱可塑性ポリマー層に含まれる粒子状重合体の重合反応を制御する必要がある。粒子状重合体には複数のモノマーを使用して重合を行うが、重合中に複数のモノマーがより均一に分散した状態で反応することで、粒子状重合体の熱に対する運動性のばらつきが抑制され、ある一定温度で急激に変形性を示す粒子状重合体が得られる。粒子状重合体をより均質に分散した状態で反応させるためには、物理的にモノマーの存在状態を均一に分散させる方法が有効であり、攪拌動力を高める方法が有効である。攪拌動力を高める方法としては、攪拌速度を早くする方法、及び高温かつ短時間で重合を行う方法が挙げられる。
【0074】
T
1.00が35℃以上、130℃以下の範囲にあることが好ましい。T
1.00が35℃未満であると、常温での保管、輸送時にブロッキングを発現し、ハンドリング性が悪化してしまう。T
1.00が130℃以下であることで、プレス時の温度を130℃以下に設定でき、プレス時において電極に悪影響を与えることなくプレスすることができる。
【0075】
粒子状重合体のガラス転移温度(Tg)は、電極への接着性、及びイオン透過性の観点から、−50℃以上であることが好ましく、−30℃以上であることがより好ましく、20℃以上であることが更に好ましく、また、ブロッキングの抑制の観点から、40℃以上であることがなおも更に好ましい。ガラス転移温度が低いと、P2を15N/m以下とすることが困難となる。また、粒子状重合体のガラス転移温度は、200℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度は、JISK7121に記載の中間点ガラス転移温度のことを指し、示差走査熱量測定(DSC)で得られるDSC曲線から決定される。具体的には、DSC曲線における低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、DSC曲線における高温側のベースラインを低温側に延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線に対し、ガラス転移の段階上変化部分の曲線とが交わる点の温度をガラス転移温度として採用することができる。より詳細には、実施例に記載の方法に準じて決定すればよい。また、「ガラス転移」はDSCにおいて試験片であるポリマーの状態変化に伴う熱流量変化が吸熱側に生じたものを指す。このような熱流量変化はDSC曲線において階段状変化の形状として観測される。「階段状変化」とは、DSC曲線において、曲線がそれまでの低温側のベースラインから離れ新たな高温側のベースラインに移行するまでの部分を示す。なお、階段状変化とピークとが組み合わされたものも階段状変化に含まれることとする。また、階段状変化部分において、上側を発熱側とした場合に、上に凸の曲線が下に凸の曲線に変わる点と表現することもできる。「ピーク」とは、DSC曲線において、曲線が低温側のベースラインから離れてから再度同じベースラインに戻るまでの部分を示す。「ベースライン」とは、試験片に転移、及び反応を生じない温度領域のDSC曲線のことを示す。
【0076】
粒子状重合体のガラス転移温度Tgは、例えば、粒子状重合体を製造する際に用いる単量体の種類、及び粒子状重合体が共重合体である場合は各単量体の配合比を変更することにより、適宜調整できる。すなわち、粒子状重合体の製造に用いられる各単量体について、一般に示されているそのホモポリマーのTg(例えば、「ポリマーハンドブック」(A WILEY−INTERSCIENCE PUBLICATION)に記載)と、単量体の配合割合とから、ガラス転移温度の概略を推定することができる。例えば、約100℃のTgのホモポリマーを与えるメチルメタクリレ−ト、アクリルニトリル、及びメタクリル酸のような単量体を高い比率で共重合した共重合体のTgは高くなり、約−50℃のTgのホモポリマーを与えるn−ブチルアクリレ−ト、及び2−エチルヘキシルアクリレ−トのような単量体を高い比率で共重合した共重合体のTgは低くなる。
また、共重合体のTgは、下記数式(1)で表されるFOXの式によっても、概算することができる。
1/Tg=W
1/Tg
1+W
2/Tg
2+・・・・・・+W
i/Tg
i+・・・・・・W
n/Tg
n (1)
ここで、式中、Tg(K)は共重合体のTgであり、Tg
i(K)は単量体iのホモポリマーのTgであり、W
iは各単量体の質量分率である。
ただし、本実施形態における粒子状重合体のガラス転移温度Tgとしては、上記DSCを用いる方法により測定した値を採用する。
【0077】
基材への濡れ性、基材と熱可塑性ポリマー含有層との結着性、及び電極への接着性の観点から、熱可塑性ポリマー含有層には、ガラス転移温度が20℃未満のポリマーが含まれることが好ましい。ガラス転移温度が20℃未満のポリマーのガラス転移温度は、イオン透過性の観点から好ましくは−100℃以上、より好ましくは−50℃以上、更に好ましくは−40℃以上であり、ポリオレフィン微多孔膜と熱可塑性ポリマー含有層との結着性の観点から好ましくは20℃未満、より好ましくは15℃未満、更に好ましくは−10℃未満である。
【0078】
製造時のハンドリング性を向上する観点から、粒子状重合体は、ガラス転移温度を少なくとも2つ有すると好ましい。つまり、熱可塑性ポリマー含有層が、互いに異なるガラス転移温度を有する2種類以上の熱可塑性ポリマーを含むことが好ましい。粒子状重合体がガラス転移温度を少なくとも2つ有するようにする方法としては、限定されるものではないが、2種類以上の粒子状重合体をブレンドする方法、及びコアシェル構造を備える粒子状重合体を用いる方法が挙げられる。コアシェル構造とは、中心部分とその中心部分を被覆する外殻部分とを有する構造であって、それぞれの部分を構成するポリマーの種類又は組成が互いに異なる、二重構造の形態をしたポリマーである。特に、ポリマーのブレンド、及びコアシェル構造において、ガラス転移温度の高いポリマーと低いポリマーとを組み合せることにより、粒子状重合体全体のガラス転移温度を制御できる。また、粒子状重合体全体に複数の機能を付与することができる。
【0079】
例えば、2種類以上の粒子状重合体をブレンドする場合、特にガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する1種以上のポリマーと、ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する1種以上のポリマーとをブレンドすることにより、耐ベタツキ性と基材への塗れ性とを更に良好に両立することができる。ブレンドする場合のそれぞれのポリマーの混合比は、ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在するポリマーと、ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在するポリマーとの比として、0.1:99.9〜99.9:0.1の範囲であることが好ましく、より好ましくは、5:95〜95:5であり、更に好ましくは50:50〜95:5であり、特に好ましくは60:40〜90:10である。
【0080】
コアシェル構造を備える粒子状重合体を用いる場合、外殻部分のポリマーの種類を選択することにより、熱可塑性ポリマー含有層の他の部材(例えば基材等)に対する接着性、及び相溶性の調整ができる。また、中心部分のポリマーの種類を選択することにより、例えば熱プレス後の電極への接着性を高めることができる。あるいは、粘性の高いポリマーと弾性の高いポリマーとを組み合わせることにより、熱可塑性ポリマー含有層の粘弾性を制御することも可能である。
【0081】
なお、コアシェル構造を備える熱可塑性ポリマーの外殻部分(シェル)のガラス転移温度は、特に限定されないが、20℃未満であると好ましく、15℃以下であるとより好ましく、−30℃以上15℃以下であると更に好ましい。また、コアシェル構造を備える熱可塑性ポリマーの中心部分(コア)のガラス転移温度は、特に限定されないが、20℃以上が好ましく、20℃以上200℃以下がより好ましく、40℃以上200℃以下が更に好ましい。
【0082】
粒子状重合体の算術平均粒径は、好ましくは10nm以上であり、より好ましくは100nm以上であり、更に好ましくは200nm以上である。また、粒子状重合体の算術平均粒径は、好ましくは1000nm以下であり、より好ましくは800nm以下であり、更に好ましくは700nm以下である。この算術平均粒径を10nm以上とすることにより、セパレータのイオン透過性をより高く維持できる。したがって、この場合、電極とセパレータとの間の接着性、及び蓄電デバイスのサイクル特性、及びレート特性を向上させるという観点から好ましい。また、この算術平均粒径を1000nm以下とすることは、粒子状重合体を含む熱可塑性ポリマー含有層を水分散体から形成する場合に、その分散安定性を確保する観点から好ましく、また、熱可塑性ポリマー含有層の厚さを柔軟に制御できる観点から好ましい。これらの観点から、粒子状重合体の算術平均粒径が200nm以上1000nm以下であると特に好ましい。粒子状重合体の算術平均粒径は、下記実施例に記載の方法に準じて測定される。
【0083】
それぞれ異なる算術平均粒径を有する2種類以上の粒子状重合体を、熱可塑性ポリマー含有層に含有させることもできる。例えば、10nm以上400nm以下の算術平均粒径を有する粒子状重合体(以下、「小粒径粒子」という)と、100nmを超え、かつ2000nm以下の算術平均粒径を有する粒子状重合体(以下、「大粒径粒子」という)との組み合わせを用いると好ましい。
【0084】
粒子状重合体の重合に使用する界面活性剤は、一分子中に少なくとも1つ以上の親水基と1つ以上の親油基とを有する化合物である。界面活性剤としては、例えば、ポリエーテル系界面活性剤;非反応性のアルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸エステル塩、脂肪酸塩、アルキルリン酸塩、及びポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤;並びに非反応性のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド、及びポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のノニオン性界面活性剤が挙げられる。これらの他に、親水基と親油基とを有する界面活性剤の化学構造式の中にエチレン性二重結合を導入した、いわゆる反応性界面活性剤を用いてもよい。
【0085】
反応性界面活性剤の中のアニオン性界面活性剤としては、例えば、スルホン酸基、スルホネート基又は硫酸エステル基、及びこれらの塩を有するエチレン性不飽和単量体が挙げられ、スルホン酸基又はそのアンモニウム塩若しくはアルカリ金属塩である基(アンモニウムスルホネート基又はアルカリ金属スルホネート基)を有する化合物であることが好ましい。具体的には、例えば、アルキルアリルスルホコハク酸塩(例えば、三洋化成株式会社製エレミノール(商標)JS−20、花王株式会社製ラテムル(商標。以下同様。)S−120、S−180A、S−180が挙げられる。)、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステル塩(例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロン(商標。以下同様。)HS−10が挙げられる。)、α−〔1−〔(アリルオキシ)メチル〕−2−(ノニルフェノキシ)エチル〕−ω−ポリオキシエチレン硫酸エステル塩(例えば、株式会社ADEKA製アデカリアソープ(商標。以下同様。)SE−10Nが挙げられる。)、アンモニウム=α−スルホナト−ω−1−(アリルオキシメチル)アルキルオキシポリオキシエチレン(例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンKH−10が挙げられる。)、スチレンスルホン酸塩(例えば、東ソー有機化学株式会社製スピノマー(商標)NaSSが挙げられる。)、α−〔2−〔(アリルオキシ)−1−(アルキルオキシメチル)エチル〕−ω−ポリオキシエチレン硫酸エステル塩(例えば、株式会社ADEKA製アデカリアソープSR−10が挙げられる。)、及びポリオキシエチレンポリオキシブチレン(3−メチル−3−ブテニル)エーテルの硫酸エステル塩(例えば、花王株式会社製ラテムルPD−104が挙げられる。)が挙げられる。
【0086】
また、反応性界面活性剤の中のノニオン性界面活性剤としては、例えば、α−〔1−〔(アリルオキシ)メチル〕−2−(ノニルフェノキシ)エチル〕−ω−ヒドロキシポリオキシエチレン(例えば、株式会社ADEKA製アデカリアソープNE−20、NE−30、NE−40が挙げられる。)、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル(例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンRN−10、RN−20、RN−30、RN−50が挙げられる。)、α−〔2−〔(アリルオキシ)−1−(アルキルオキシメチル)エチル〕−ω−ヒドロキシポリオキシエチレン(例えば、株式会社ADEKA製アデカリアソープER−10が挙げられる。)、及びポリオキシエチレンポリオキシブチレン(3−メチル−3−ブテニル)エーテル(例えば、花王株式会社製ラテムルPD−420が挙げられる。)が挙げられる。界面活性剤は、単量体組成物100質量部に対して0.1質量部以上5質量部以下用いることが好ましい。界面活性剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0087】
粒子状重合体の重合に使用するラジカル重合開始剤としては、熱又は還元性物質によりラジカル分解して単量体の付加重合を開始させるものであり、無機系開始剤、及び有機系開始剤のいずれも用いることができる。ラジカル重合開始剤としては、水溶性又は油溶性の重合開始剤を用いることができる。水溶性の重合開始剤としては、例えば、ペルオキソ二硫酸塩、過酸化物、水溶性のアゾビス化合物、及び過酸化物−還元剤のレドックス系が挙げられる。ペルオキソ二硫酸塩としては、例えば、ペルオキソ二硫酸カリウム(KPS)、ペルオキソ二硫酸ナトリウム(NPS)、及びペルオキソ二硫酸アンモニウム(APS)が挙げられ、過酸化物としては、例えば、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t―ブチルパーオキシマレイン酸、コハク酸パーオキシド、及び過酸化ベンゾイルが挙げられ、水溶性のアゾビス化合物としては、例えば、2,2−アゾビス(N−ヒドロキシエチルイソブチルアミド)、2、2−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩化水素、及び4,4−アゾビス(4−シアノペンタン酸)が挙げられ、過酸化物−還元剤のレドックス系としては、例えば、上記過酸化物にナトリウムスルホオキシレートホルムアルデヒド、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム、L−アスコルビン酸、及びその塩、第一銅塩、並びに第一鉄塩等の還元剤の1種又は2種以上を組み合わせたものが挙げられる。
【0088】
ラジカル重合開始剤は、単量体組成物100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上2質量部以下用いることができる。ラジカル重合開始剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0089】
なお、ポリアルキレングリコール基を有するエチレン性不飽和単量体(P)と、シクロアルキル基を有するエチレン性不飽和単量体(A)と、その他の単量体(B)とを含む単量体組成物を乳化重合し、重合体粒子が溶媒(水)中に分散した分散体を形成する場合、得られた分散体の固形分としては、30質量%以上70質量%以下であることが好ましい。分散体は、長期の分散安定性を保つため、そのpHを5〜12の範囲に調整されることが好ましい。pHの調整には、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及びジメチルアミノエタノール等のアミン類を用いることが好ましく、アンモニア(水)又は水酸化ナトリウムによりpHを調整することがより好ましい。
【0090】
水分散体は、上記特定の単量体を含む単量体組成物を重合して得られる重合体を、水中に分散した粒子(重合体粒子)として含む。水分散体には、水、及び重合体以外に、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の溶媒や、分散剤、滑剤、増粘剤、殺菌剤等が含まれていてもよい。熱可塑性ポリマー含有層を塗工によって容易に形成することができるので、乳化重合により粒子状重合体を形成し、それにより、得られた粒子状重合体エマルジョンを水系ラテックスとして使用することが好ましい。
【0091】
[任意の層]
基材と熱可塑性ポリマー含有層との間に、任意の層、例えば、無機フィラー多孔層を含む態様も、本発明の範囲に含まれる。無機フィラー多孔層は、無機フィラーを含み、複数の孔を有する。本欄では、基材と熱可塑性ポリマー含有層との間に無機フィラー多孔層を含む態様を仮定し、かかる無機フィラー多孔層について説明するが、本発明においては、無機フィラー多孔層のような任意の層を省略可能である。
【0092】
(無機フィラー)
無機フィラーとしては、特に限定されないが、200℃以上の融点を持ち、電気絶縁性が高く、かつリチウムイオン二次電池のような蓄電デバイスの使用範囲で電気化学的に安定であるものを用いることができる。
【0093】
無機フィラーとしては、特に限定されないが、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、及び酸化鉄等の無機酸化物(酸化物系セラミックス);窒化ケイ素、窒化チタン、及び窒化ホウ素等の無機窒化物(窒化物系セラミックス);シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、及びケイ砂等のセラミックス;並びにガラス繊維が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0094】
無機フィラーの平均粒径D50は、例えば、0.01μm以上、0.2μm以上、更には0.5μm以上である。また、平均粒径D50は、4.0μm以下、3.5μm以下、更には2.0μm未満である。無機フィラーの粒径、及びその分布を調整する方法としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル等の適宜の粉砕装置を用いて無機フィラーを粉砕して粒径を小さくする方法が挙げられる。
無機フィラーの粒度分布は、粒径に対する頻度のグラフにおいて、ピークが一つとなるようにすることができる。ただ、ピークが二つか、ピークをなさないような台形状のチャートとなるようにしてもよい。
【0095】
無機フィラーの形状としては、例えば、板状、鱗片状、針状、柱状、球状、多面体状、及び塊状(ブロック状)が挙げられる。これらの形状を有する無機フィラーの複数種を組み合わせて用いてもよい。
無機フィラーの無機フィラー多孔層中の含有割合は、無機フィラー多孔層の全量に対して、例えば、20質量%以上100質量%未満、30質量%以上80質量%以下、35質量%以上70質量%以下、更には40質量%以上60質量%以下である。
【0096】
(樹脂バインダ)
無機フィラー多孔層に含有される樹脂バインダの樹脂の種類としては、特に限定されないが、リチウムイオン二次電池のような蓄電デバイスの電解液に対して不溶であり、かつリチウムイオン二次電池のような蓄電デバイスの使用範囲において電気化学的に安定な樹脂を用いることができる。樹脂バインダの樹脂として、無機フィラー多孔層に含まれる樹脂バインダ(A)、及び熱可塑性ポリマー含有層に含まれる粒子状重合体(B)に加えて、熱可塑性ポリマー含有層に含まれ、粒子状重合体(B)を基材や無機フィラー多孔層に結着させる結着バインダ(C)が用いられてもよい。樹脂バインダ(A)、及び結着バインダ(C)はセパレータにおいて通常、粒子状になっていない。一方、粒子状重合体(B)はセパレータにおいて粒子状であり、粒子状重合体(B)は、樹脂バインダ(A)、及び結着バインダ(C)と異なる種類の樹脂を含むことができる。
【0097】
このような樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリフッ化ビニリデン、及びポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素樹脂;フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、及びエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等の含フッ素ゴム;スチレン−ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、及びその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、及びその水素化物、メタクリル酸エステル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等のゴム類;エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体;並びにポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、及びポリエステル等の、融点、及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0098】
樹脂バインダは、例えば、樹脂ラテックスバインダを含むことができる。樹脂ラテックスバインダとしては、例えば、不飽和カルボン酸単量体と、これらと共重合可能な他の単量体との共重合体を用いることができる。ここで、脂肪族共役ジエン系単量体としては、例えばブタジエン、及びイソプレンが挙げられ、不飽和カルボン酸単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸が挙げられ、他の単量体としては、例えば、スチレンが挙げられる。このような共重合体の重合方法に特に制限はないが、乳化重合が好ましい。乳化重合の方法としては、特に制限はなく、既知の方法を用いることができる。単量体、及びその他の成分の添加方法については、特に制限されるものではなく、一括添加方法、分割添加方法、及び連続添加方法の何れも採用することができ、重合方法は、一段重合、二段重合、又は三段階以上の多段階重合のいずれも採用することができる。
【0099】
樹脂バインダの具体例としては、以下の1)〜7)が挙げられる。
1)ポリオレフィン:例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンラバー、及びこれらの変性体;
2)共役ジエン系重合体:例えば、スチレン−ブタジエン共重合体、及びその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、及びその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、及びその水素化物;
3)アクリル系重合体:例えば、メタクリル酸エステル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、及びアクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体;
4)ポリビニルアルコール系樹脂:例えば、ポリビニルアルコール、及びポリ酢酸ビニル;
5)含フッ素樹脂:例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、及びエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体;
6)セルロース誘導体:例えば、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロース;並びに
7)融点、及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂あるいは融点を有しないが分解温度が200℃以上のポリマー:例えば、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、及びポリエステル。
【0100】
樹脂バインダが樹脂ラテックスバインダである場合のその平均粒径(D50)は、例えば、50〜500nm、60〜460nm、更には80〜250nmである。樹脂バインダの平均粒径は、例えば、重合時間、重合温度、原料組成比、原料投入順序、及びpH等を調整することで制御することが可能である。
樹脂バインダの無機フィラー多孔層中の含有割合は、例えば、無機フィラー多孔層の全量に対して、0質量%を超え80質量%以下、1質量%以上20質量%以下、2質量%以上10質量%以下、更には3質量%以上5質量%以下である。
無機フィラー多孔層に含まれる粒子状重合体の含有量は、例えば、セパレータに含まれる粒子状重合体の含有量の、5体積%未満、3体積%未満、更には2体積%未満であるようにすることができる。
【0101】
無機フィラー多孔層の厚さは、例えば、10.0μm以下、更には6.0μm以下であるようにすることができる。また、無機フィラー多孔層の厚さは、例えば、0.5μm以上であるようにすることができる。無機フィラー多孔層の層密度は、例えば、0.5g/(m
2・μm)以上3.0g/(m
2・μm)以下、更には0.7〜2.0cm
3であるようにすることができる。
【0102】
(任意成分)
熱可塑性ポリマー含有層は、熱可塑性ポリマーのみを含有していてもよいし、熱可塑性ポリマーに加えて、これ以外の任意成分を含んでいてもよい。任意成分としては、例えば、無機フィラー多孔層を形成するために上記で説明された無機フィラーが挙げられる。熱可塑性ポリマー含有層における熱可塑性ポリマーの含有量は、その熱可塑性ポリマー含有層の全量に対して、好ましくは、60質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上である。
【0103】
(セパレータに関する各種特性)
セパレータは、下記式:
P1/P2≧1.0
で表される関係を満たし、かつP1が、5N/m以上である。P1、及びP2については、上記の通りである。
【0104】
上記式は、セパレータが、耐ブロッキング性と電極への接着性との両立を図ることができることを意味する。このうちP1は、セパレータと電極とを重ねて形成する捲回体をプレスした後の、セパレータと電極との剥離強度に相当する。P1が大きいほど、セパレータと電極との接着性が高くなりプレスバックを抑制するのに有利になる。P1は、熱可塑性ポリマー含有層に含まれる熱可塑性ポリマーの種類、熱可塑性ポリマー含有層に含まれる界面活性剤をはじめとしたその他の成分、基材上の熱可塑性ポリマーの存在形態、及び熱可塑性ポリマー含有層の厚み等を調節することにより、適宜調節可能である。基本的には、セパレータと電極とを重ねて形成する捲回体のプレス時において、熱可塑性ポリマー含有層が接着機能を発揮し易い態様であるほど、P1は大きくなる傾向にある。P1は、実施例に記載の方法に準じて測定される。
【0105】
また、P2は、セパレータのみを捲回した捲回体での、セパレータ同士の剥離強度に相当する。P2が小さいほど、セパレータのみを捲回した捲回体からセパレータを繰り出すときのブロッキングが小さくなり、所望の長さのセパレータをシワなく均一に繰り出し易くなる。P2は、基材の樹脂種類、基材の表面張力、熱可塑性ポリマー含有層の基材に対する被覆面積割合、及び熱可塑性ポリマー含有層の構成等を調節することにより、適宜調節可能である。基本的には、セパレータのみを捲回した捲回体を保管しておく通常保管段階において、熱可塑性ポリマー含有層が接着機能を発揮し難い態様であるほど、P2は小さくなる傾向になる。P2は、実施例に記載の方法に準じて測定される。
【0106】
ここで、セパレータが耐ブロッキング性と電極への接着性との両立を図るべく、P1とP2とにより成される関係が上記の通り、P1/P2≧1.0、かつ、P1が5N/m以上(P1≧5N/m)である。P1/P2<1.0であると、耐ブロッキング性と電極への接着性とのいずれか又はその両方について、所望の効果が得られない。また、たとえP1/P2≧1.0であっても、P1が5N/m未満(P1<5N/m)であると、電極への接着性が低くプレスバック量が大きくなるため、実質上、セパレータとして使用することができない。従って、セパレータが、上記関係を満たすことで、耐ブロッキング性と電極への接着性との両立を図ることができる。P1の好ましい範囲は5N/m以上であり、より好ましくは10N/m以上であり、さらに好ましくは、15N/m以上である。
耐ブロッキング性と電極への接着性との両立を図ることができることで、リチウムイオン二次電池の高容量化に対する期待、及びセパレータに関する製造上のハンドリング性の向上に対する期待の何れにも応えることができる。
【0107】
P1/P2は、耐ブロッキング性と電極への接着性との両立を図る観点から、5以下であることが好ましい。またP1/P2は、耐ブロッキング性と電極への接着性との両立を図る観点から1.0以上であることが好ましく、1.4以上であることがより好ましい。
【0108】
また、P2は、15N/m以下であることが好ましく、10N/m以下であることがさらに好ましい。P2が15N/m以下であることは、例えば、セパレータのみを捲回した捲回体を保管しておく通常保管段階において、セパレータ同士がより接着し難く、そのため耐ブロッキング性を十分に確保するのに有利であることを意味する。
【0109】
P1の上限は、例えば、35N/mであることが好ましい。P1の上限は、35N/mであることで、熱可塑性ポリマー含有層のプレス時の接着機能が過度に高められ、電極との積層時に熱可塑性ポリマー含有層が電極に深く食い込んでしまい、電気抵抗を悪化させることを防止し易くなる。
ただし、P1/P2≧1.0、かつ、P1≧5N/mである関係を満たしていれば、P1、及びP2の値は、上記の例に限定されない。
【0110】
セパレータは、衝突試験時の安全性を向上させるという観点から、120℃におけるMDでの熱収縮率が、15.0%未満であることが好ましく、より好ましくは0%以上10%以下であり、更に好ましくは0%以上5.0%以下である。ここで、MDでの熱収縮率が、15.0%未満であると、衝突試験時に短絡により発熱した際に外力が付加されている箇所以外での短絡の発生をより有効に抑制する。これにより、電池全体の温度上昇、及びそれに伴い生じ得る発煙、及び発火をより確実に防止することができる。セパレータの熱収縮率の調整は、上述した基材の延伸操作と熱処理とを適宜組み合わせることにより行うことができる。
【0111】
セパレータの透気度は、好ましくは10秒/100cm
3以上10000秒/100cm
3以下であり、より好ましくは10秒/100cm
3以上1000秒/100cm
3以下であり、更に好ましくは50秒/100cm
3以上500秒/100cm
3以下である。このことにより、そのセパレータを蓄電デバイスに適用したときに、よい高いイオン透過性を示すこととなる。この透気度は、ポリオレフィン多孔性基材の透気度と同じく、JIS P−8117に準拠して測定される透気抵抗度である。
【0112】
<セパレータの製造方法>
[基材の製造方法]
基材を製造する方法は、特に限定されず、既知の製造方法を採用することができ、例えば、湿式多孔化法と乾式多孔化法とのいずれを採用してもよい。湿式多孔化法による例を挙げると、例えば、基材がポリオレフィン微多孔膜である場合、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤とを溶融混練してシート状に成形後、場合により延伸した後、可塑剤を抽出することにより多孔化させる方法;ポリオレフィン系の樹脂を主成分として含むポリオレフィン樹脂組成物を溶融混練して高ドロー比で押出した後、熱処理と延伸によってポリオレフィン結晶界面を剥離させることにより多孔化させる方法;ポリオレフィン樹脂組成物と無機充填材とを溶融混練してシート上に成形後、延伸によってポリオレフィンと無機充填材との界面を剥離させることにより多孔化させる方法;及びポリオレフィン樹脂組成物を溶解後、ポリオレフィンに対する貧溶媒に浸漬させポリオレフィンを凝固させると同時に溶剤を除去することにより多孔化させる方法が挙げられる。
【0113】
また、基材としての不織布又は紙を作製する方法は、既知のものであってもよい。その作製方法としては、例えば、ウェブをバインダに浸漬、乾燥して繊維間結合させるケミカルボンド法;ウェブに熱溶融性繊維を混ぜ込み、その繊維を部分的に溶融し繊維間結合させるサーマルボンド法;ウェブに刺のあるニードルを繰り返し突き刺し、繊維を機械的に絡めるニードルパンチ法;及び高圧の水流をノズルからネット(スクリーン)を介してウェブに噴射し、繊維間を絡める水流交絡法が挙げられる。
【0114】
以下、ポリオレフィン微多孔膜を製造する方法の一例として、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤とを溶融混練してシート状に成形後、可塑剤を抽出する方法について説明する。まず、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤を溶融混練する。溶融混練方法としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、及び必要によりその他の添加剤を、押出機、ニーダー、ラボプラストミル、混練ロール、及びバンバリーミキサー等の樹脂混練装置に投入し、樹脂成分を加熱溶融させながら任意の比率で可塑剤を導入して混練する方法が挙げられる。この際、ポリオレフィン樹脂、その他の添加剤、及び可塑剤を樹脂混練装置に投入する前に、予めヘンシェルミキサー等を用い所定の割合で事前混練しておくことが好ましい。より好ましくは、事前混練において可塑剤の一部のみを投入し、残りの可塑剤を樹脂混練装置サイドフィードしながら混練する。
【0115】
可塑剤としては、ポリオレフィンの融点以上において均一溶液を形成し得る不揮発性溶媒を用いることができる。このような不揮発性溶媒の具体例として、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス等の炭化水素類;フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル等のエステル類;オレイルアルコール、及びステアリルアルコール等の高級アルコールが挙げられる。これらの中で、流動パラフィンが好ましい。
【0116】
ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤の比率は、これらを均一に溶融混練して、シート状に成形できる範囲であれば特に限定はない。例えば、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤とから成る組成物中に占める可塑剤の質量分率は、好ましくは30質量%以上80質量%以下、より好ましくは40質量%以上70質量%以下である。可塑剤の質量分率をこの範囲とすることにより、溶融成形時のメルトテンションと、均一かつ微細な孔構造の形成性とが両立する観点で好ましい。
【0117】
次に、上記のようにして加熱溶融、及び混練して得られた溶融混練物をシート状に成形する。シート状成形体を製造する方法としては、例えば、溶融混練物を、Tダイ等を介してシート状に押し出し、熱伝導体に接触させて樹脂成分の結晶化温度より充分に低い温度まで冷却して固化する方法が挙げられる。冷却固化に用いられる熱伝導体としては、金属、水、空気、及び可塑剤自体が挙げられるが、金属製のロールが熱伝導の効率が高いため好ましい。この場合、金属製のロールに接触させる際に、ロール間で溶融混練物を挟み込むと、熱伝導の効率が更に高まると共に、シートが配向して膜強度が増し、シートの表面平滑性も向上するため、より好ましい。Tダイよりシート状に押し出す際のダイリップ間隔は400μm以上3000μm以下であることが好ましく、500μm以上2500μm以下であることが更に好ましい。
【0118】
このようにして得たシート状成形体を、次いで延伸することが好ましい。延伸処理としては、一軸延伸又は二軸延伸のいずれも好適に用いることができる。得られる微多孔膜の強度等の観点から二軸延伸が好ましい。シート状成形体を二軸方向に高倍率延伸すると、分子が面方向に配向し、最終的に得られる多孔性基材が裂け難くなり、高い突刺強度を有するものとなる。延伸方法としては、例えば、同時二軸延伸、逐次二軸延伸、多段延伸、及び多数回延伸等の方法を挙げることができる。突刺強度の向上、延伸の均一性、シャットダウン性の観点から同時二軸延伸が好ましい。
【0119】
延伸倍率は、面倍率で20倍以上100倍以下の範囲であることが好ましく、25倍以上50倍以下の範囲であることが更に好ましい。各軸方向の延伸倍率は、MD方向に4倍以上10倍以下、TD方向に4倍以上10倍以下の範囲であることが好ましく、MD方向に5倍以上8倍以下、TD方向に5倍以上8倍以下の範囲であることが更に好ましい。延伸倍率をこの範囲の倍率とすることにより、より十分な強度を付与することができると共に、延伸工程における膜破断を防ぎ、高い生産性が得られる点で好ましい。
なお、MD方向とは、例えばポリオレフィン微多孔膜を連続成形するときの機械方向を意味し、TD方向とは、MD方向を90°の角度で横切る方向を意味する。
【0120】
上記のようにして得られたシート状成形体を、更に圧延してもよい。圧延は、例えば、ダブルベルトプレス機等を使用したプレス法にて実施することができる。圧延により、特にシート状成形体の表層部分の配向を増大させることができる。圧延面倍率は1倍より大きく3倍以下であることが好ましく、1倍より大きく2倍以下であることがより好ましい。この範囲の圧延倍率とすることにより、最終的に得られる多孔性基材の膜強度が増加し、かつ、膜の厚さ方向により均一な多孔構造を形成することができる点で好ましい。
【0121】
次いで、シート状成形体から可塑剤を除去して多孔性基材を得る。可塑剤を除去する方法としては、例えば、抽出溶剤にシート状成形体を浸漬して可塑剤を抽出し、充分に乾燥させる方法が挙げられる。可塑剤を抽出する方法はバッチ式、連続式のいずれであってもよい。多孔性基材の収縮を抑えるために、浸漬、乾燥の一連の工程中にシート状成形体の端部を拘束することが好ましい。また、多孔性基材中の可塑剤の残存量は1質量%未満にすることが好ましい。
【0122】
抽出溶剤としては、ポリオレフィン樹脂に対して貧溶媒で、かつ可塑剤に対して良溶媒であり、沸点がポリオレフィン樹脂の融点より低いものを用いることが好ましい。このような抽出溶剤としては、例えば、n−ヘキサン、及びシクロヘキサン等の炭化水素類;塩化メチレン、及び1,1,1−トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;ハイドロフルオロエーテル、及びハイドロフルオロカーボン等の非塩素系ハロゲン化溶剤;エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;ジエチルエーテル、及びテトラヒドロフラン等のエーテル類;並びにアセトン、及びメチルエチルケトン等のケトン類が挙げられる。なお、これらの抽出溶剤は、蒸留等の操作により回収して再利用してよい。
【0123】
多孔性基材の収縮を抑制するために、延伸工程後又は多孔性基材の形成後に熱固定や熱緩和等の熱処理を行ってもよい。多孔性基材に、界面活性剤等による親水化処理、電離性放射線等による架橋処理等の後処理を行ってもよい。
【0124】
上記湿式多孔化法とは異なる、乾式多孔化法による例を挙げる。まず、溶剤を使わずに押出機内で溶融混練後に直接延伸配向させたフィルムを作製し、その後、アニーリング工程、冷延伸工程、及び熱延伸工程を順に経て微多孔膜を作製する。乾式多孔化法においては、押出機から溶融樹脂をTダイを経て延伸配向させる方法、インフレーション法等を利用することができ、特にその手法に限定はない。
【0125】
[熱可塑性ポリマー含有層の配置方法]
上記のようにして製造された基材の少なくとも片面に、熱可塑性ポリマー含有層を配置する。無機フィラー多孔層が基材の表面に配置されている場合は、その無機フィラー多孔層の表面の、全部又は一部に、熱可塑性ポリマー含有層を配置するか、又は、及び無機フィラー多孔層の形成されていない基材面に熱可塑性ポリマー含有層を配置する。熱可塑性ポリマー含有層を配置する方法としては、特に限定されず、例えば、粒子状重合体を含有する塗布液を無機フィラー多孔層又は基材に塗布する方法が挙げられる。
【0126】
塗布液としては、ポリマーを溶解しない溶媒中に粒子状重合体を分散させた、分散体を好ましく用いることができる。特に好ましくは、粒子状重合体を乳化重合によって合成し、その乳化重合によって得られるエマルジョンをそのまま塗布液として使用することができる。
【0127】
基材上に、粒子状重合体を含有する塗布液を塗布する方法については、所望の塗布パターン、塗布膜厚、及び塗布面積を実現できる方法であれば特に限定はない。例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗布法、及びインクジェット塗布法等が挙げられる。これらのうち、粒子状重合体の塗工形状の自由度が高く、かつ好ましい面積割合を容易に得られるという観点から、グラビアコーター法又はスプレー塗布法が好ましい。
【0128】
塗布液の媒体としては、水又は水と水溶性有機媒体とから成る混合溶媒が好ましい。水溶性有機媒体としては、特に限定されないが、例えば、エタノール、メタノール等を挙げることができる。これらの中でもより水が好ましい。塗布液を基材に塗布する際に、塗布液が基材の内部にまで入り込んでしまうと、重合体を含む粒子状重合体が、基材の孔の表面、及び内部を閉塞し透過性が低下し易くなる。この点、塗布液の溶媒又は分散媒として水を用いる場合には、基材の内部に塗布液が入り込み難くなり、重合体を含む粒子状重合体は主に基材の外表面上に存在し易くなるため、透過性の低下をより効果的に抑制できるので好ましい。また、水と併用可能な溶媒又は分散媒としては、例えば、エタノール、及びメタノールを挙げることができる。
【0129】
塗布後に塗布膜から溶媒を除去する方法については、基材、及び熱可塑性ポリマー含有層に悪影響を及ぼさない方法であれば特に限定はない。例えば、基材を固定しながらその融点以下の温度にて乾燥する方法、低温で減圧乾燥する方法、粒子状重合体に対する貧溶媒に浸漬してその粒子状重合体を粒子状に凝固させると同時に溶媒を抽出する方法等が挙げられる。
【0130】
[無機フィラー多孔層の形成方法]
基材の少なくとも片面に無機フィラー多孔層を配置する場合、その無機フィラー多孔層を形成する方法としては、特に限定されず、既知の方法によって形成することができる。例えば、無機フィラーと必要に応じて樹脂バインダとを含有する塗布液を基材に塗布する方法が挙げられる。基材がポリオレフィン微多孔膜のように樹脂を含む場合、無機フィラーと樹脂バインダとを含む原料と、樹脂を含む基材の原料とを共押出法により積層して押し出してもよいし、基材と無機フィラー多孔層(膜)とを個別に作製した後にそれらを貼り合せてもよい。
【0131】
塗布液の溶媒としては、無機フィラーと必要に応じて樹脂バインダとを均一かつ安定に分散又は溶解できるものが好ましく、例えば、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、水、エタノール、トルエン、熱キシレン、塩化メチレン、及びヘキサンが挙げられる。
【0132】
塗布液には、界面活性剤等の分散剤;増粘剤;湿潤剤;消泡剤;酸、アルカリを含むPH調製剤等の各種添加剤を加えてもよい。
【0133】
無機フィラーと必要に応じて樹脂バインダとを、塗布液の媒体に分散又は溶解させる方法としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、振動ボールミル、サンドミル、コロイドミル、アトライター、ロールミル、高速インペラー分散、ディスパーザー、ホモジナイザー、高速衝撃ミル、超音波分散、及び撹拌羽根等による機械撹拌が挙げられる。
【0134】
塗布液を基材に塗布する方法については、例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、及びスプレー塗布法が挙げられる。
【0135】
塗布後に塗布膜から溶媒を除去する方法については、基材に悪影響を及ぼさない方法であれば特に限定はない。例えば、基材を固定しながら基材を構成する材料の融点以下の温度にて乾燥する方法、低温で減圧乾燥する方法、樹脂バインダに対する貧溶媒に浸漬して樹脂バインダを凝固させると同時に溶媒を抽出する方法が挙げられる。またデバイス特性に著しく影響を及ぼさない範囲においては溶媒を一部残存させてもよい。
【0136】
<捲回体>
セパレータは、捲回されて捲回体の形態を取ることが好ましい。セパレータを捲回体とすることで高速で簡易に繰り出すことができ、蓄電デバイスの生産工程にて生産性を高めることができる。
このような捲回体は、ブロッキング力を長時間抑制する観点から、T
0.25以下の温度で輸送、または保管されることが好ましい。
【0137】
<蓄電デバイス>
セパレータを備える蓄電デバイスは、その蓄電デバイス用セパレータを備える以外は、従来既知のものと同様であってもよい。蓄電デバイスとしては、特に限定されないが、例えば、非水系電解液二次電池等の電池、コンデンサー、及びキャパシタが挙げられる。それらの中でも、本発明による作用効果による利益がより有効に得られる観点から、電池が好ましく、非水系電解液二次電池がより好ましく、リチウムイオン二次電池が更に好ましい。本実施形態のセパレータを備えるので、蓄電デバイスは、蓄電性能等のデバイス特性に優れる。また、リチウムイオン二次電池は、電池特性に優れる。
【0138】
電極との剥離強度の測定に用いる電極は、正極と負極とのどちらであってもよいが、セパレータの効果を適切に把握するためには、正極を用いることが適切である。特に、蓄電デバイスがリチウムイオン二次電池である場合、正極集電体上に、正極活物質を含む正極活物質層が形成されたリチウムイオン二次電池用正極を、正極活物質層がセパレータの熱可塑性ポリマー含有層の形成面と相対するように重ね合わせ、上記のように熱プレスした上で測定されることが適切である。
【0139】
セパレータを用いてリチウムイオン二次電池を製造する場合、正極、負極、及び非水電解液に限定はなく、それぞれ既知のものを用いることができる。
正極としては、正極集電体上に正極活物質を含む正極活物質層が形成されてなる正極を好適に用いることができる。正極集電体としては、例えばアルミニウム箔が挙げられる。正極活物質としては、例えば、LiCoO
2、LiNiO
2、スピネル型LiMnO
4、及びオリビン型LiFePO
4等のリチウム含有複合酸化物が挙げられる。正極活物質層には、正極活物質の他、バインダ、導電材等を適宜含んでいてもよい。
【0140】
負極としては、負極集電体上に負極活物質を含む負極活物質層が形成されてなる負極を好適に用いることができる。負極集電体としては、例えば銅箔が挙げられる。負極活物質としては、例えば、黒鉛質、難黒鉛化炭素質、易黒鉛化炭素質、及び複合炭素体等の炭素材料;並びにシリコン、スズ、金属リチウム、及び各種合金材料が挙げられる。
【0141】
非水電解液としては、特に限定されないが、電解質を有機溶媒に溶解した電解液を用いることができる。有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートが挙げられる。電解質としては、例えば、LiClO
4、LiBF
4、及びLiPF
6等のリチウム塩が挙げられる。
【0142】
<蓄電デバイスの製造方法>
セパレータを用いて蓄電デバイスを製造する方法は、特に限定されない。例えば、以下の方法を例示することができる。まず、幅10〜500mm(好ましくは80〜500mm)、長さ200〜10000m(好ましくは1000〜6000m)の縦長形状のセパレータを製造する。次いで、正極−セパレータ−負極−セパレータ、又は負極−セパレータ−正極−セパレータの順で積層し、円又は扁平な渦巻状に捲回して捲回体を得る。その捲回体をデバイス缶(例えば電池缶)内に収納し、更に電解液を注入することにより、製造することができる。又は電極、及びセパレータを折り畳んで捲回体としたものを、デバイス容器(例えばアルミニウム製のフィルム)に入れて電解液を注液する方法によって製造してもよい。
【0143】
このとき、捲回体に対して、プレスを行うことができる。具体的には、捲回体から繰り出したセパレータと、集電体、及びその集電体の少なくとも片面に形成された活物質層を有する電極とを、前者の熱可塑性ポリマー含有層と活物質層とが対向するように重ね合わせてプレスを行う方法を例示することができる。
【0144】
プレス温度は、効果的に接着性を発現できる温度として、T
1.00以上の温度で行うことが好ましい。熱可塑性ポリマー含有層が十分に変形することで良好な接着力を得ることができる。例えば35℃以上が好ましい。また熱プレスによるセパレータにおける孔の目詰まり又は熱収縮を抑える点で、プレス温度は基材に含まれる材料の融点よりも低いことが好ましく、130℃以下が更に好ましい。プレス圧力はセパレータにおける孔の目詰まりを抑える観点から20MPa以下が好ましい。プレス時間については、ロールプレスを用いたときに1秒以下でもよく、数時間の面プレスでもよいが、生産性の観点から2時間以下が好ましい。本実施形態の蓄電デバイス用セパレータを用いて、上記の製造工程を経ると、電極、及びセパレータから成る捲回体をプレス成形した際のプレスバックを抑制できる。従って、デバイス組立工程における歩留まり低下を抑制し、生産工程時間を短縮することができ、好ましい。
【0145】
上記のようにして製造された蓄電デバイス、特にリチウムイオン二次電池は、高い接着性を有し、かつイオン抵抗を低減させたセパレータを具備するから、優れた電池特性(レート特性)と長期連続稼動耐性(サイクル特性)に優れる。
【実施例】
【0146】
本実施例欄に記載の物性評価は、以下の方法に従って行った。
【0147】
(1)固形分
熱可塑性ポリマーの水分散体をアルミ皿上に約1g精秤し、このとき量り取った水分散体の質量を(a)gとした。それを、130℃の熱風乾燥機で1時間乾燥し、乾燥後の熱可塑性ポリマーの乾燥質量を(b)gとした。下記式により固形分を算出した。
固形分=(b)/(a)×100 [%]
【0148】
(2)粒子状重合体の平均粒径(D50)
粒子状重合体の平均粒径(D50)は、粒子径測定装置(日機装株式会社製、製品名「Microtrac UPA150」)を使用し、測定した。測定条件としては、ローディングインデックス=0.20、測定時間300秒とし、得られたデータにおける50%粒子径(D50)の数値を平均粒径として記載した。
【0149】
(3)ポリオレフィン微多孔膜の平均孔径
キャピラリー内部の流体は、流体の平均自由工程がキャピラリーの孔径より大きいときはクヌーセンの流れに、小さい時はポアズイユの流れに従うことが知られている。そこで、熱可塑性ポリマー含有層の透気度測定における空気の流れがクヌーセンの流れに、また基材の透水度測定における水の流れがポアズイユの流れに従うと仮定する。
【0150】
ポリオレフィン微多孔膜の平均孔径d(μm)は、空気の透過速度定数R
gas(m
3/(m
2・sec・Pa))、水の透過速度定数R
liq(m
3/(m
2・sec・Pa))、空気の分子速度ν(m/sec)、水の粘度η(Pa・sec)、標準圧力Ps(=101325Pa)、気孔率ε(%)、膜厚L(μm)から、次式を用いて求めた。
d=2ν×(R
liq/R
gas)×(16η/3Ps)×10
6
【0151】
ここで、R
gasは透気度(sec)から次式を用いて求めた。
R
gas=0.0001/(透気度×(6.424×10
-4)×(0.01276×101325))
【0152】
また、R
liqは透水度(cm
3/(cm
2・sec・Pa))から次式を用いて求めた。
R
liq=透水度/100
【0153】
なお、透水度は次のように求めた。直径41mmのステンレス製の透液セルに、予めエタノールに浸しておいた熱可塑性ポリマー含有層をセットし、この層のエタノールを水で洗浄した後、約50000Paの差圧で水を透過させ、120sec間経過した際の透水量(cm
3)より、単位時間・単位圧力・単位面積当たりの透水量を計算し、これを透水度とした。
【0154】
また、νは気体定数R(=8.314)、絶対温度T(K)、円周率π、空気の平均分子量M(=2.896×10
-2kg/mol)から次式を用いて求めた。
ν=((8R×T)/(π×M))
1/2
【0155】
(4)基材の厚さ(μm)
基材から、10cm×10cm角の試料を切り取り、格子状に9箇所(3点×3点)を選んで、微小測厚器(株式会社東洋精機製作所、タイプKBM)を用いて室温23±2℃で厚さを測定した。得られた9箇所の測定値の平均値を、基材の厚さとして算出した。
【0156】
(5)熱可塑性ポリマー含有層の厚さ
セパレータを凍結割断し、その断面をSEM(型式S−4800、HITACHI社製)にて確認した。得られた視野から熱可塑性ポリマー含有層の厚さを測定した。詳細には、セパレータのサンプルを1.5mm×2.0mm程度に切り取り、ルテニウム染色した。ゼラチンカプセル内に染色したサンプルとエタノールを入れ、液体窒素により凍結させた後、ハンマーでそのサンプルを割断した。割断したサンプルをオスミウム蒸着し、加速電圧1.0kV、30000倍にて観察し、熱可塑性ポリマー含有層の厚さを算出した。なお、SEM画像にて基材断面の多孔構造が見得る部分と見えない部分の境界線と、これに平行で熱可塑性ポリマー含有層と接触する最も基材から遠い線までの最短距離を、熱可塑性ポリマー含有層の厚さの領域とした。
なお、無機フィラー多孔層上に熱可塑性ポリマー含有層がある場合は、基材から熱可塑性ポリマー含有層までの距離から無機フィラー多孔層の厚さを差し引いた距離を熱可塑性ポリマー含有層の厚さとすることができる。
【0157】
(6)熱可塑性ポリマーのガラス転移温度の測定
熱可塑性ポリマーを含む水分散体(固形分=38〜42質量%、pH=9.0)を、アルミ皿に適量取り、常温で24時間静置して乾燥皮膜を得た。その乾燥皮膜約17mgを測定用アルミ容器に充填し、DSC測定装置(島津製作所社製、型式名「DSC6220」)にて窒素雰囲気下におけるDSC曲線、及びDSC曲線を得た。測定条件は下記の通りとした。
1段目昇温プログラム:30℃スタート、毎分10℃の割合で昇温。150℃に到達後5分間維持。
2段目降温プログラム:110℃から毎分10℃の割合で降温。−50℃に到達後5分間維持。
3段目昇温プログラム:−50℃から毎分10℃の割合で150℃まで昇温。この3段目の昇温時にDSC、及びDDSCのデータを取得。
得られたDSC曲線に対し、JIS―K7121に記載の方法にガラス転移温度を決定した。具体的には、DSC曲線における低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、DSC曲線における高温側のベースラインを低温側に延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線に対し、ガラス転移の段階上変化部分の曲線とが交わる点の温度をガラス転移温度(Tg)とした。
【0158】
(7)T
1.00及びT
0.25
示差走査熱量測定によって得られたDSC曲線を温度で微分することによってDDSC曲線を得た。
前記DDSC曲線において、DDSCの0℃から150℃までにおける最小値を示す温度をT
1.00とした。
最大値と最小値の差をXとした際に、前記T
1.00よりも低温側において、最大値からの差が0.25Xとなる温度をT
0.25とした。
【0159】
(8)粘度平均分子量Mv
ASTM−D4020に準拠して、デカリン溶剤中、135℃における極限粘度[η]を求めた。この[η]値を用いて、下記数式の関係から粘度平均分子量Mvを算出した。
ポリエチレンの場合:[η]=0.00068×Mv
0.67
ポリプロピレンの場合:[η]=1.10×Mv
0.80
【0160】
(9)気孔率(%)
基材から10cm×10cm角の試料を切り取り、その体積(cm
3)、及び質量(g)を求めた。これらの値を用い、その基材の密度を0.95(g/cm
3)として、気孔率を下記式から求めた。
気孔率(%)=(1−質量/体積/0.95)×100
【0161】
(10)透気度(秒/100cm
3)
基材について、JIS P−8117に準拠し、東洋精器(株)製のガーレー式透気度計G−B2(型式名)により測定した透気抵抗度を透気度とした。熱可塑性ポリマー含有層が基材の片面にしか存在しない場合は、熱可塑性ポリマー含有層が存在する面から針を突刺することができる。
【0162】
(11)突刺強度(gf)
カトーテック製のハンディー圧縮試験器KES−G5(型式名)を用いて、開口部の直径11.3mmの試料ホルダーで基材を固定した。次に、固定された基材の中央部に対して、先端の曲率半径0.5mmの針を用いて、突刺速度2mm/秒で、25℃雰囲気下において突刺試験を行うことにより、最大突刺荷重を測定した。その最大突刺加重を20μmの厚さ当たりに換算した値を突刺強度(gf/20μm)とした。熱可塑性ポリマーが基材の片面にしか存在しない場合は、熱可塑性ポリマーが存在する面から針を突刺することができる。
【0163】
(12)レート特性
a.正極の作製
正極活物質としてニッケル、マンガン、コバルト複合酸化物(NMC)(Ni:Mn:Co=1:1:1(元素比)、密度4.70g/cm
3)を90.4質量%、導電助材としてグラファイト粉末(KS6)(密度2.26g/cm
3、数平均粒子径6.5μm)を1.6質量%、及びアセチレンブラック粉末(AB)(密度1.95g/cm
3、数平均粒子径48nm)を3.8質量%、並びにバインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)(密度1.75g/cm
3)を4.2質量%の比率で混合し、これらをN−メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを、正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターを用いて塗布し、130℃において3分間乾燥した後、ロールプレス機を用いて圧縮成形することにより、正極を作製した。このときの正極活物質塗布量は109g/m
2であった。
【0164】
b.負極の作製
負極活物質としてグラファイト粉末A(密度2.23g/cm
3、数平均粒子径12.7μm)を87.6質量%、及びグラファイト粉末B(密度2.27g/cm
3、数平均粒子径6.5μm)を9.7質量%、並びにバインダとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量%(固形分換算)(固形分濃度1.83質量%水溶液)、及びジエンゴム系ラテックス1.7質量%(固形分換算)(固形分濃度40質量%水溶液)を精製水中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを負極集電体となる厚さ12μmの銅箔の片面にダイコーターで塗布し、120℃において3分間乾燥した後、ロールプレス機で圧縮成形することにより、負極を作製した。このときの負極活物質塗布量は5.2g/m
2であった。
【0165】
c.非水電解液の調製
エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPF
6を濃度1.0mol/Lとなるように溶解させることにより、非水電解液を調製した。
【0166】
d.電池組立
セパレータ又は基材を24mmφ、正極、及び負極をそれぞれ16mmφの円形に切り出した。正極と負極の活物質面とが対向するように、負極、セパレータ又は基材、正極の順に重ね、蓋付きステンレス金属製容器に収容した。容器と蓋とは絶縁されており、容器は負極の銅箔と、蓋は正極のアルミニウム箔と、それぞれ接していた。この容器内に前記非水電解液を0.4ml注入して密閉することにより、電池を組み立てた。
【0167】
e.レート特性の評価
d.で組み立てた簡易電池を、25℃において、電流値3mA(約0.5C)で電池電圧4.2Vまで充電した後、4.2Vを保持するようにして電流値を3mAから絞り始めるという方法により、電池作成後の最初の充電を合計約6時間行った。その後、電流値3mAで電池電圧3.0Vまで放電した。
次に、25℃において、電流値6mA(約1.0C)で電池電圧4.2Vまで充電した後、4.2Vを保持するようにして電流値を6mAから絞り始めるという方法により、合計約3時間充電を行った。その後、電流値6mAで電池電圧3.0Vまで放電した時の放電容量を1C放電容量(mAh)とした。
次に、25℃において、電流値6mA(約1.0C)で電池電圧4.2Vまで充電した後、4.2Vを保持するようにして電流値を6mAから絞り始めるという方法により、合計約3時間充電を行った。その後、電流値12mA(約2.0C)で電池電圧3.0Vまで放電した時の放電容量を2C放電容量(mAh)とした。
そして、1C放電容量に対する2C放電容量の割合を算出し、この値をレート特性とした。
レート特性(%)=(2C放電容量/1C放電容量)×100
【0168】
レート特性(%)の評価基準
A(良好):レート特性が、85%超
B(可):レート特性が、80%超85%以下
C(不良):レート特性が、80%以下
【0169】
(13)剥離強度P2(ブロッキング力)
セパレータを幅20mm×長さ70mmに切り取り、そのセパレータの一つの面(A)と、面(A)とは反対側の面(B)とを重ねて捲回体を形成した。実施例、及び比較例では、基材の面(A)と面(B)との両面に熱可塑性ポリマー含有層を形成したので、面(A)の熱可塑性ポリマー含有層と面(B)の熱可塑性ポリマー含有層とが相対するように重なり捲回体が構成されている。その捲回体を以下の条件でプレスした。
温度:25℃
プレス圧:5MPa
プレス時間:12h
プレス後のセパレータの、面(A)と面(B)との間の剥離強度を、(株)イマダ製のフォースゲージZP5N及びMX2−500N(製品名)を用いて、剥離速度50mm/分にて90°剥離試験を行い、剥離強度を測定した。このとき、上記の条件で行った長さ40mm分の剥離試験における剥離強度の平均値を剥離強度として採用した。また、得られた剥離強度の値をP2として、剥離強度の比(P1/P2)の算出に用いた。
【0170】
(14)熱可塑性ポリマー含有層の被覆面積割合
熱可塑性ポリマー含有層の被覆面積割合は、走査型電子顕微鏡(SEM)(型式:S−4800、HITACHI社製)を用いて測定した。サンプルであるセパレータをオスミウム蒸着し、加速電圧1.0kV、50倍の条件にて観察し、下記式から表面被覆率を算出した。なお、SEM画像にて基材表面の多孔構造が見えない領域、あるいは、任意の層の表面が見えない領域、具体的には無機フィラー多孔層表面の多孔構造が見えない領域を熱可塑性ポリマー含有層領域とした。
熱可塑性ポリマー含有層の被覆面積割合(%)=熱可塑性ポリマー含有層の面積÷(基材の孔部分を含む面積、あるいは任意の層の表面の面積)+熱可塑性ポリマー含有層の面積)×100
各サンプルにおける被覆面積割合は、上記測定を3回行い、その相加平均値とした。
【0171】
(15)剥離強度P1(接着性)
セパレータを幅20mm×長さ70mmの長方形状に切り取り、そのセパレータの一つの面(A)と、面(A)とは反対側の面(B)とを重ねて捲回体を形成した。実施例、及び比較例では、基材の面(A)と面(B)とに熱可塑性ポリマー含有層を形成したので、面(A)の熱可塑性ポリマー含有層と面(B)の熱可塑性ポリマー含有層とが相対するように重なり捲回体が構成されている。その捲回体を以下の条件でプレスした。
温度:90℃
プレス圧:1MPa
プレス時間:5秒
プレス後のセパレータの、面(A)と面(B)との間の剥離強度を、(株)イマダ製のフォースゲージZP5N及びMX2−500N(製品名)を用いて、剥離速度50mm/分にて90°剥離試験を行い、剥離強度を測定した。このとき、上記の条件で行った長さ40mm分の剥離試験における剥離強度の平均値を剥離強度として採用した。また、得られた剥離強度の値をP1として、剥離強度の比(P1/P2)の算出に用いた。
【0172】
(16)捲回体のプレスバック量(捲回体の厚み変化)
セパレータと電極をそれぞれ、幅30mm×長さ200mmの長さにカットし、セパレータ、負極、セパレータ、正極の順に重ねて積層体を作製した。かかる積層体を、幅15mm、厚さ1mmの支持体に巻き付け、最後まで巻きつけたのちに支持体を抜き取り、セパレータと電極の捲回体を作製した。形成した捲回体の厚み(径方向の長さ)を測定した後、その捲回体を以下の条件でプレスした。
温度:90℃
プレス圧:1MPa
プレス時間:2min
プレス後、同様に捲回体の厚みを測定して、以下の基準に基づき、捲回体のプレスバック量を評価した。なお、捲回体の厚みは、定規で測定した。
捲回体のプレスバック量(%)=「(プレス後の捲回体の厚み)−(積層されたセパレータ、及び電極の厚みの総和)」/「(プレス前の捲回体の厚み)−(積層されたセパレータ、及び電極の厚みの総和)」×100
捲回体のプレスバック量の評価基準
A(極めて良好):捲回体のプレスバック量が、0%以上、10%未満
B(良好):捲回体のプレスバック量が、10%以上、50%未満
C(可):捲回体のプレスバック量が、50%以上、95%未満
D(不良):捲回体のプレスバック量が、95%
【0173】
(17)耐ブロッキング性
幅30mm×長さ2000mの長方形状から成るセパレータを捲回して捲回体を形成した。形成した捲回体を25℃かつ30日に亘り、安定的に保存した。保存後の捲回体を自動巻取装置に設置し、捲回体の内層から20m以内の部分を、200gf/mmにて200mmを繰り出し、カットされたセパレータの長さを評価した。均一かつシワなく繰り出せたセパレータ長さを測定して、以下の評価基準に基づき、耐ブロッキング性を評価した。長さが短ければ、SR内層のブロッキングによりハンドリング性が悪化と判断した。
耐ブロッキング性の評価基準
A(極めて良好):均一かつシワなく繰り出せたセパレータ長さが、1m超
B(良好):均一かつシワなく繰り出せたセパレータ長さが、95cm超1m以下
C(不良):均一かつシワなく繰り出せたセパレータ長さが、95m以下
【0174】
[製造例1−1](ポリオレフィン微多孔膜B1の製造)
Mvが70万であり、ホモポリマーの高密度ポリエチレン45質量部と、Mvが30万であり、ホモポリマーの高密度ポリエチレン45質量部と、Mvが40万であるホモポリマーのポリプロピレンとMvが15万であるホモポリマーのポリプロピレンとの混合物(質量比=4:3)10質量部とを、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドした。得られたポリオレフィン混合物99質量部に酸化防止剤としてテトラキス−[メチレン−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを1質量部添加し、再度タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、混合物を得た。得られた混合物を、窒素雰囲気下で二軸押出機へフィーダーにより供給した。また、流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10
-5m
2/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。押し出される全混合物100質量部中に占める流動パラフィンの割合が65質量部となるように、すなわち、樹脂組成物の割合が35質量部となるように、フィーダー、及びポンプの運転条件を調整した。
【0175】
次いで、それらを二軸押出機内で230℃に加熱しながら溶融混練し、得られた溶融混練物を、T−ダイを経て表面温度80℃に制御された冷却ロール上に押し出し、その押出物を冷却ロールに接触させ成形(cast)して冷却固化することにより、シート状成形物を得た。このシートを同時二軸延伸機にて倍率7×6.4倍、温度112℃下で延伸した後、塩化メチレンに浸漬して、流動パラフィンを抽出除去後、乾燥し、テンター延伸機にて温度130℃、横方向に2倍延伸した。その後、この延伸シートを幅方向に約10%緩和して熱処理を行い、基材としてのポリオレフィン微多孔膜B1を得た。
【0176】
得られたポリオレフィン微多孔膜B1について、上記方法により物性を測定した。また得られたポリオレフィン微多孔膜をそのままセパレータとして、上記方法により評価した。得られた結果を表1に示す。
【0177】
[製造例1−2](ポリオレフィン微多孔膜B2の製造)
セルガード社製セパレータ、H1609(型式名);乾式多孔化法法による一軸延伸膜をポリオレフィン微多孔膜B2とし、製造例1−1と同様にして評価した。得られた結果を表1に示す。
【0178】
【表1】
【0179】
(製造例B1−1)
無機フィラーとして水酸化酸化アルミニウム(平均粒径0.7μm)を92.0質量部とアクリルラテックス懸濁液(固形分濃度40%、平均粒径150nm)8.0質量部、ポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ製SNディスパーサント5468)1.0重量部を100質量部の水に均一に分散させて塗布液を調製し、多孔性基材として上記ポリオレフィン微多孔膜B1の表面にマイクログラビアコーターを用いて塗布した。60℃にて乾燥して水を除去し、ポリオレフィン樹脂多孔膜上に厚さ4.0μmの多孔層を形成した多層多孔膜を得た。得られた多層多孔膜の物性を表2に記す。
【0180】
(製造例B1−2,3、製造例B2−1)
多孔性基材、及び無機フィラーを、それぞれ、表2に記載の通りに変更する以外は、多層多孔膜B1−1と同様にして、多層多孔膜を得た。得られた多層多孔膜について、それぞれ、上記方法により評価した。得られた結果を表2に示す。
【0181】
【表2】
【0182】
<粒子状重合体の合成>
(製造例A1)水分散体(表中「原料ポリマー」と表記。以下同様。)A1の合成
撹拌機、還流冷却器、滴下槽、及び温度計を取り付けた反応容器に、イオン交換水70.4質量部と、「アクアロンKH1025」(登録商標、第一工業製薬株式会社製25%水溶液、表中「KH1025」と表記。以下同様。)0.5質量部と、「アデカリアソープSR1025」(登録商標、株式会社ADEKA製、25%水溶液、表中「SR1025」と表記。以下同様。)0.5質量部と、を投入し、反応容器内部温度を95℃に昇温した。その後、95℃の容器内部温度を保ったまま、過硫酸アンモニウム(2%水溶液)(表中「APS(aq)」と表記。以下同様。)を7.5質量部添加した。
【0183】
一方、メタクリル酸メチル38.5質量部、アクリル酸n−ブチル19.6質量部、アクリル酸2−エチルヘキシル31.9質量部、メタクリル酸0.1質量部、アクリル酸0.1質量部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル2質量部、アクリルアミド5質量部、メタクリル酸グリシジル2.8質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学工業株式会社製)0.7質量部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.3質量部、過硫酸アンモニウム(2%水溶液)7.5質量部、及びイオン交換水52質量部の混合物を、ホモミキサーにより5分間混合させて、乳化液を作製した。
得られた乳化液を滴下槽から上記反応容器に滴下した。滴下は反応容器に過硫酸アンモニウム水溶液を添加した5分後に開始し、150分かけて乳化液の全量を滴下した。乳化液の滴下中は、容器内部温度を95℃に維持した。このとき、反応容器内に投入しておいた攪拌子をマグネチックスターラーにて常に攪拌した。
【0184】
乳化液の滴下終了後、反応容器内部温度を95℃に保ったまま90分間維持し、その後室温まで冷却し、エマルジョンを得た。得られたエマルジョンを、水酸化アンモニウム水溶液(25%水溶液)を用いてpH=9.0に調整し、濃度40質量%のアクリル系コポリマーラテックスを得た(原料ポリマーA1)。得られた原料ポリマー(水分散体)A1について、上記方法により評価した。得られた結果を表3に示す。
【0185】
(製造例A2〜A4)水分散体A2〜A4の合成
単量体、その他の原料の組成、及び重合条件を、表3に記載の通りに変更する以外は、原料ポリマー(水分散体)A1と同様にして、コポリマーラテックス(原料ポリマーA2〜4)を得た。得られた原料ポリマー(水分散体)A2〜A4について、それぞれ、上記方法により評価した。得られた結果を表3に示す。
【0186】
【表3】
【0187】
表3、及び後述する表4での原材料名の略称は、それぞれ、以下の意味である。
<乳化剤>
KH1025:「アクアロンKH1025」登録商標、第一工業製薬株式会社製、25%水溶液
SR1025:「アデカリアソープSR1025」登録商標、株式会社ADEKA製、25%水溶液
NaSS:p−スチレンスルホン酸ナトリウム
<開始剤>
APS:過硫酸アンモニウム(2%水溶液)
<単量体>
((メタ)アクリル酸モノマー)
MAA:メタクリル酸
AA:アクリル酸
((メタ)アクリル酸エステル)
MMA:メタクリル酸メチル
BA:アクリル酸n−ブチル
BMA:メタクリル酸n−ブチル
EHA:アクリル酸2−エチルヘキシル
CHMA:メタクリル酸シクロヘキシル
(芳香族ビニル単量体)
St:スチレン
(シアノ基含有単量体)
AN:アクリロニトリル
(その他の官能基含有単量体)
HEMA:メタクリル酸2−ヒドロキシエチル
AM:アクリルアミド
(架橋性単量体)
GMA:メタクリル酸グリシジル
A−TMPT:トリメチロールプロパントリアクリレート
AcSi:γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
【0188】
(製造例A2−1)
製造例A1で得た水分散体A1の一部をとり、これをシードポリマーとする多段重合を行うことにより、水分散体A1−1を合成した。具体的には、まず、撹拌機、還流冷却器、滴下槽、及び温度計を取り付けた反応容器に、水分散体A1を固形分換算で20質量部、及びイオン交換水70.4質量部の混合物を投入し、反応容器内部温度を95℃に昇温した。その後、95℃の容器内部温度を保ったまま、過硫酸アンモニウム(2%水溶液)を7.5質量部添加した。以上が初期仕込みである。
【0189】
一方、アクリル酸2−エチルヘキシル10質量部、メタクリル酸シクロヘキシル33質量部、メタクリル酸1質量部、アクリル酸1質量部、シアノ基含有単量体すなわちアクリロニトリル55質量部、「アクアロンKH1025」(登録商標、25%水溶液)2.0質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート1.0質量部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.5質量部、過硫酸アンモニウム(2%水溶液)7.5質量部、及びイオン交換水52質量部の混合物を、ホモミキサーにより5分間混合させて、乳化液を作製した。得られた乳化液を滴下槽から上記反応容器に滴下した。滴下は反応容器に過硫酸アンモニウム水溶液を添加した5分後に開始し、150分かけて乳化液の全量を滴下した。乳化液の滴下中は、容器内部温度を95℃に維持した。このとき、反応容器内に投入しておいた攪拌子をマグネチックスターラーにて常に攪拌した。
【0190】
乳化液の滴下終了後、反応容器内部温度を95℃に保ったまま攪拌しつつ90分間維持し、その後室温まで冷却し、エマルジョンを得た。得られたエマルジョンを、水酸化アンモニウム水溶液(25%水溶液)を用いてpH=9.0に調整し、濃度40質量%のアクリル系コポリマーラテックスを得た(原料ポリマーA2−1)。得られた原料ポリマーA2−1について、上記方法により評価した。得られた結果を表4に示す。
【0191】
(製造例A2−2〜A4−2)
シードポリマー、単量体、その他の原料の組成、及び重合条件を、それぞれ、表4に記載の通りに変更する以外は、原料ポリマー(水分散体)A2−1と同様にして、多段重合によって各コポリマーラテックスを得た。得られた原料ポリマー(水分散体)について、それぞれ、上記方法により評価した。得られた結果を表4に示す。
【0192】
【表4】
【0193】
[実施例1]
固形分が30%の水分散体A2−2と、固形分が30%の水分散体A1とを、80質量部対20質量部の割合で混合し、均一に分散させて、熱可塑性ポリマーを含む塗布液(固形分30質量%)を調製した。このとき、後添加界面活性剤として、さらに、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースが塗布液に対して1質量%となるように添加し、塗布液の粘度を30mPa・sに調整した。その後、グラビアコーターを用い、ポリオレフィン微多孔膜B1−1の片面(面(A))に塗布液を塗布した。このときの熱可塑性ポリマーによるポリオレフィン微多孔膜に対する被覆面積割合は20%であった。その後、40℃にて塗布後の塗布液を乾燥して水を除去した。
更に、ポリオレフィン微多孔膜B1−1の面(A)と反対側の面(面(B))にも同様に塗布液を塗布し、再度上記と同様にして乾燥させた。こうして、ポリオレフィン微多孔膜B1−1の両面に熱可塑性ポリマー含有層を形成したセパレータを得た。
なお、実施例1で用いた熱可塑性ポリマーについてのDDSCを
図2に示す。
【0194】
[実施例2〜8]
ポリオレフィン微多孔膜、塗布液の組成、及び熱可塑性ポリマーの存在形態を、それぞれ、表4に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様にして、セパレータを得た。
【0195】
[比較例1]
ポリオレフィン微多孔膜、塗布液の組成、熱可塑性ポリマーの存在形態、及び表面処理の有無を、それぞれ、表4に記載のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして、セパレータを得た。
なお、比較例1で用いた熱可塑性ポリマーについてのDDSCを
図3に示す。
【0196】
上記製造例、実施例、及び比較例にて得られた結果を表5に示す。
【0197】
【表5】
【0198】
表5から分かるように、実施例1〜8は、比較例1と比べて、捲回体のプレスバック量の評価がB評価以上であり、かつ、耐ブロッキング性(表中、「セパレータ繰り出し時の位置ズレ量」と表記)の評価がB評価以上であることから、耐ブロッキング性と電極への接着性との両立を図ることができると確認された。
比較例1は、T
1.00−T
0.25が15℃よりも大きかったため、耐ブロッキング性の評価結果がC評価となり、耐ブロッキング性と電極への接着性との両立を図ることができなかった。
また、熱可塑性ポリマーの基材に対する被覆面積が95%より大きい実施例3、及び、T
1.00−T
0.25が14℃であった実施例8は、他の実施例に比べて、耐ブロッキング性の評価がB評価であった。乾式多孔化法による一軸延伸膜の実施例6は、他の実施例に比べて、捲回体のプレスバック量の評価がB評価であった。
これらの実施例3及び6以外の実施例については、捲回体のプレスバック量と耐ブロッキング性とのいずれの評価もA評価であり、特に好ましい態様であることが確認された。
【0199】
なお、ブロッキング力が高くなると、基材上に塗布されたバインダ成分がずれ、このずれたバインダ成分が基材の熱可塑性ポリマー含有層が配されていない部分にこすりつけられることで、孔が閉塞し、レート特性が悪くなるとも考えられる。しかし、実施例1〜7のいずれも、レート特性の評価はB評価以上であり、したがって、耐ブロッキング性とレート特性との両立も図ることができることが確認された。