特許第6903219号(P6903219)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6903219
(24)【登録日】2021年6月24日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】水性コーティング組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/04 20060101AFI20210701BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20210701BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20210701BHJP
   C09D 143/04 20060101ALI20210701BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20210701BHJP
【FI】
   C09D133/04
   C09D5/02
   C09D7/61
   C09D143/04
   B05D7/24 301F
   B05D7/24 303B
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2020-503706(P2020-503706)
(86)(22)【出願日】2017年7月27日
(65)【公表番号】特表2020-528099(P2020-528099A)
(43)【公表日】2020年9月17日
(86)【国際出願番号】CN2017094613
(87)【国際公開番号】WO2019019077
(87)【国際公開日】20190131
【審査請求日】2020年4月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(73)【特許権者】
【識別番号】590002035
【氏名又は名称】ローム アンド ハース カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110000589
【氏名又は名称】特許業務法人センダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュイ、ヤーウェイ
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ユーチアン
(72)【発明者】
【氏名】チャン、チンユアン
(72)【発明者】
【氏名】トン、シアンティン
(72)【発明者】
【氏名】リー、リン
(72)【発明者】
【氏名】シー、フォンチョー
【審査官】 山本 悦司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−273357(JP,A)
【文献】 特開昭62−250078(JP,A)
【文献】 特開2006−152231(JP,A)
【文献】 特開2014−043589(JP,A)
【文献】 特開平09−183921(JP,A)
【文献】 特開2011−001446(JP,A)
【文献】 特開2011−127028(JP,A)
【文献】 特開昭63−130684(JP,A)
【文献】 特開平03−106958(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102585072(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第102432730(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0144925(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−10/00、
101/00−201/10
B05D 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性コーティング組成物であって、
(a)ポリマーを含む水性ポリマー分散液であって、前記ポリマーが、前記ポリマーの重量に基づいて、
2.1重量%〜4.5重量%のα、β−エチレン性不飽和カルボン酸モノマーの構造単位、および
0.05重量%〜1.8重量%のエチレン性不飽和シラン官能性モノマーの構造単位を含む、水性ポリマー分散液と、
(b)亜鉛イオンを含む亜鉛アンモニア錯塩の水溶液と、
(c)前記水性コーティング組成物の総重量に基づいて、60重量%〜90重量%の充填剤と、を含み、
前記ポリマーに対する前記亜鉛イオンの重量比が、0.7%〜6%の範囲である、水性コーティング組成物。
【請求項2】
前記エチレン性不飽和シラン官能性モノマーが、(メタ)アクリルオキシエチルトリメトキシシラン、(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、それらの誘導体、またはそれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載の水性コーティング組成物。
【請求項3】
前記ポリマーが、前記ポリマーの重量に基づいて、0.1重量%〜1重量%の前記エチレン性不飽和シラン官能性モノマーの構造単位を含む、請求項1に記載の水性コーティング組成物。
【請求項4】
前記ポリマーに対する前記亜鉛イオンの重量比が、1.5%〜3%の範囲である、請求項1に記載の水性コーティング組成物。
【請求項5】
前記亜鉛アンモニア錯塩が、重炭酸亜鉛アンモニウム、硝酸亜鉛アンモニウム、酢酸亜鉛アンモニウム、またはそれらの混合物から選択される、請求項1に記載の水性コーティング組成物。
【請求項6】
前記ポリマーが、前記ポリマーの重量に基づいて、2.2重量%〜3.5重量%のα、β−エチレン性不飽和カルボン酸モノマーの構造単位を含む、請求項1に記載の水性コーティング組成物。
【請求項7】
前記充填剤が、90〜600μmのふるい粒子サイズを有する、請求項1に記載の水性コーティング組成物。
【請求項8】
(a)ポリマーを含む水性ポリマー分散液であって、前記ポリマーが、前記ポリマーの重量に基づいて、
2.1重量%〜4.5重量%のα、β−エチレン性不飽和カルボン酸モノマーの構造単位、および
0.05重量%〜1.8重量%のエチレン性不飽和シラン官能性モノマーの構造単位を含む、水性ポリマー分散液と、
(b)亜鉛イオンを含む亜鉛アンモニア錯塩の水溶液と、
(c)水性コーティング組成物の総重量に基づいて、60重量%〜90重量%の充填剤と、を混合することを含み、
前記ポリマーに対する前記亜鉛イオンの重量比が、0.7%〜6%の範囲である、請求項1〜7のいずれか1項の水性コーティング組成物を調製するためのプロセス。
【請求項9】
亜鉛アンモニア錯塩の前記水溶液が、アンモニアと、亜鉛塩または酸化亜鉛と、任意選択で水溶性炭酸塩とを混合することにより得られる、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
コーティングを調製する方法であって、
請求項1〜7のいずれか1項に記載の水性コーティング組成物を提供することと、
前記水性コーティング組成物を、基材に塗布することと、
前記塗布された水性コーティング組成物を70℃以上で乾燥させて、厚さ2mm以上の前記コーティングを形成することと、を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性コーティング組成物およびそれを調製するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
水ベースのコーティング組成物(水性コーティング組成物としても知られている)は、結合剤としてポリマーラテックスの水性分散液を使用して配合され得る。結合剤を他の成分と混合すると、得られるコーティング組成物は、塗布中の取り扱いが容易になるのに十分な長さのポットライフを有することが望ましい。コーティング組成物を基材に塗布した後、水性担体が蒸発し、個々のラテックス粒子が合体して、一体的コーティング膜を形成する。一部の用途では、比較的厚いコーティング膜が必要である。例えば、特に大きな充填剤粒子(例えば、約90〜600μm)を用いた充填剤を多く含むコーティングは、典型的には2mmより大きい厚さを有する。これらの厚いコーティング膜は、通常、室温での水分蒸発および膜強度増大に数時間または数日必要である。高温(70〜120℃)で水性ベースのコーティング組成物を硬化することは、産業機器を使用して大きなバッチで行われるプレハブコーティングの硬化を高速化する従来のアプローチである。しかしながら、高温硬化後、従来の水性コーティング組成物は、気泡を含み、したがって、基材への接着性が悪い厚いコーティング膜を形成する傾向がある。
【0003】
CN102120902(B)は、インク用の水性アクリル速乾剤に関するものであり、この水性アクリル速乾剤は、体積で、12〜20部の12%〜18%酸化亜鉛溶液、1〜3部の濃アンモニア水、12〜18部の脱イオン水、および65〜70部の水性アクリルエマルジョンを含んでおり、ここで、アクリルエマルジョンのTは、−30℃〜−50℃である。そのような水性剤は、プラスチック基板上に塗布して、典型的には500μm未満の厚さの薄膜を形成し、次いで比較的低い温度、例えば、40〜50℃で乾燥させるのに適している。
【0004】
したがって、ポットライフが長く、かつ高温硬化後、2mm以上の厚さであっても基材との良好な接着性を有する、水性コーティング組成物を開発する必要がある。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、特定の結合剤を、亜鉛アンモニア錯体溶液および充填剤と特定の比率で組み合わせることにより、新規の水性コーティング組成物を提供する。水性コーティング組成物は、取り扱いに十分長い、例えば、室温(20〜25℃)で少なくとも3時間のポットライフを有する。本発明の水性コーティング組成物は、70℃以上の温度(すなわち、高温)で硬化して、2mm以上、好ましくは3mm以上の厚さを有するコーティングを形成することができる。一方で、そのコーティングはまた、0.2MPa以上の基材からのプルオフ強度によって示されるように、基材への接着性が良好である。ポットライフおよびプルオフ強度の特性は、以下の実施例のセクションで説明する試験方法に従って測定される。コーティングを調製する方法は、製造効率を改善するために高温で水性コーティング組成物を硬化させることにより実施され得る。
【0006】
第1の態様では、本発明は、水性コーティング組成物であって、
(a)ポリマーを含む水性ポリマー分散液であって、ポリマーが、ポリマーの重量に基づいて、
2重量%〜8重量%のα、β−エチレン性不飽和カルボン酸モノマーの構造単位、および
0.05重量%〜1.8重量%のエチレン性不飽和シラン官能性モノマーの構造単位を含む、水性ポリマー分散液と、
(b)亜鉛イオンを含む亜鉛アンモニア錯塩の水溶液と、
(c)水性コーティング組成物の総重量に基づいて、60重量%〜90重量%の充填剤と、を含み、
ポリマーに対する亜鉛イオンの重量比が、0.7%〜6%の範囲である、水性コーティング組成物である。
【0007】
第2の態様では、本発明は、第1の態様の水性コーティング組成物を調製するためのプロセスである。そのプロセスは、
(a)ポリマーを含む水性ポリマー分散液であって、ポリマーが、ポリマーの重量に基づいて、
2重量%〜8重量%のα、β−エチレン性不飽和カルボン酸モノマーの構造単位、および
0.05重量%〜1.8重量%のエチレン性不飽和シラン官能性モノマーの構造単位を含む、水性ポリマー分散液と、
(b)亜鉛イオンを含む亜鉛アンモニア錯塩の水溶液と、
(c)水性コーティング組成物の総重量に基づいて、60重量%〜90重量%の充填剤と、を混合することを含み、
ポリマーに対する亜鉛イオンの重量比は、0.7%〜6%の範囲である。
【0008】
第3の態様では、本発明はコーティングを調製する方法である。その方法は、
第1の態様の水性コーティング組成物を提供することと、
水性コーティング組成物を、基材に塗布することと、
塗布された水性コーティング組成物を70℃以上で乾燥させて、厚さ2mm以上のコーティングを形成することと、を含む。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における「アクリル(Acrylic)」とは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アルキルアクリレート、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、および(メタ)ヒドロキシアルキルアクリレートなどのそれらの改質形態を含む。この文書全体を通して、「(メタ)アクリル)」という語の断片は、「メタクリル」および「アクリル」の両方を指す。例えば、(メタ)アクリル酸とは、メタクリル酸およびアクリル酸の両方を指し、メチル(メタ)アクリレートとは、メチルメタクリレートおよびメチルアクリレートの両方を指す。
【0010】
水性分散液または水性組成物は、粒子が水性媒体に分散していることを意味する。本明細書において「水性媒体」とは、水、および媒体の重量に基づいて0〜30重量%の、例えば、アルコール、グリコール、グリコールエーテル、グリコールエステルおよびこれに類するものなどの水混和性化合物(複数可)を意味する。
【0011】
本発明における「ガラス転移温度」または「T」は、例えば、示差走査熱量測定(「DSC」)またはフォックス方程式を使用する計算を含む様々な技術によって測定され得る。本明細書で報告されるTの特定の値は、フォックス方程式(T.G.Fox,Bull.Am.Physics Soc.,Volume 1,Issue No.3,page 123(1956))を用いて計算されるものである。例えば、モノマーMおよびMのコポリマーのTを計算するために、
【数1】
が用いられ、ここで、T(計算値)は、コポリマーについて計算されたガラス転移温度であり、w(M)は、コポリマー中のモノマーMの重量分率であり、w(M)は、コポリマー中のモノマーMの重量分率であり、T(M)は、モノマーMのホモポリマーのガラス転移温度であり、T(M)は、モノマーMのホモポリマーのガラス転移温度であり、すべての温度はKである。ホモポリマーのガラス転移温度は、例えば、J.BrandrupおよびE.H.Immergut、Interscience Publishersによって編集された「Polymer Handbook」に見出すことができる。
【0012】
本明細書で使用される場合、指定されたモノマーの、重合単位としても知られる「構造単位」という用語は、重合後のモノマーの残り、すなわち、重合した形のモノマーまたは重合したモノマーを指す。例えば、メチルメタクリレートの構造単位は、図で示した通りである。
【化1】

ここで、点線は、構造単位のポリマー骨格への結合点を表す。
【0013】
本発明の水性コーティング組成物は、水性ポリマー分散液を含む。本発明において有用なポリマー、典型的にはエマルジョンポリマーは、エチレン性不飽和シラン官能性モノマーの構造単位を含み得る。エチレン性不飽和シランモノマーは、以下の一般式(I)によって表され得る。
【化2】

式中、Rは、置換または非置換のエチレン性不飽和ヒドロカルビル基から選択される官能基を表しており、Rは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチルおよびtert−ブチルから独立して選択され、nは1〜3の整数である。好適なエチレン性不飽和シラン官能性モノマーの例には、アルキルビニルジアルコキシシラン、(メタ)アクリルオキシエチルトリメトキシシラン、およびガンマ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランおよびメタクリルオキシプロピルトリエトキシシランなどの(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシランを含む、(メタ)アクリルオキシアルキルトリアルコキシシラン、ビニルトリエトキシシランおよびビニルトリメトキシシランなどのビニルトリアルコキシシラン、その誘導体、またはそれらの組み合わせが含まれる。市販のエチレン性不飽和シラン官能性モノマーには、すべてMomentive Performance Materialsから入手可能である、SILQUEST A−174、A−171、A−151、A−2171、およびA−172E、およびCoatosil−1706、Coatosil−1757、ならびにY−11878シラン、またはそれらの混合物が含まれる。ポリマーは、ポリマーの重量に基づいて、0.05重量%以上、0.1重量%以上、0.15重量%以上、0.2重量%以上、またはさらに0.25重量%以上であると同時に、1.8重量%以下、1.5重量%以下、1.2重量%以下、またはさらに1.0重量%以下のエチレン性不飽和シラン官能性モノマーの構造単位を含み得る。
【0014】
本発明において有用なポリマーはまた、1つ以上のα、β−エチレン性不飽和カルボン酸モノマーの構造単位を含んでもよい。好適なα、β−エチレン性不飽和カルボン酸モノマーの例には、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、およびアシルオキシプロピオン酸などの一塩基酸、マレイン酸、フマル酸、およびイタコン酸などの二塩基酸モノマー、またはそれらの混合物が含まれる。好ましいα、β−エチレン性不飽和カルボン酸モノマーには、アクリル酸、メタクリル酸、またはそれらの混合物が含まれる。本発明において有用なポリマーは、ポリマーの重量に基づいて、2.0重量%以上、2.1重量%以上、2.2重量%以上、またはさらに2.3重量%以上であると同時に、8重量%以下、7重量%以下、6重量%以下、5.8重量%以下、5.5重量%以下、5重量%以下、4.5重量%以下、4重量%以下、またはさらに3.5重量%以下のα、β−エチレン性不飽和カルボン酸モノマーの構造単位を含み得る。
【0015】
本発明において有用なポリマーは、エチレン性不飽和シラン官能性モノマーを除外する1つ以上の追加のエチレン性不飽和官能性モノマーをさらに含んでもよい。そのような追加のエチレン性不飽和官能性モノマーは、スルホネート、スルホン酸、またはアミドから選択される少なくとも1つの官能基を有する。好適な追加のエチレン性不飽和官能性モノマーの例には、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−ブチルアクリルアミド、N−ターシャリーブチルアクリルアミド、N−2−エチルヘキシルアクリルアミド、N、N−ジメチルアクリルアミド、N、N−ジエチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、p−スチレンスルホン酸ナトリウム(SSS)、ビニルスルホン酸ナトリウム(SVS)、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウムなどのその塩、またはそれらの混合物が含まれる。本発明において有用なポリマーは、ポリマーの重量に基づいて、0〜5重量%、0.5%〜4.5重量%以上、1〜4重量%、または2%〜3.5重量%の追加のエチレン性不飽和官能性モノマーの構造単位を含み得る。
【0016】
本発明において有用なポリマーはまた、エチレン性不飽和シラン官能性モノマーまたは追加のエチレン性不飽和官能性モノマーを除外する1つ以上のエチレン性不飽和非イオン性モノマーの構造単位を含み得る。本明細書における「非イオン性モノマー」という用語は、pH=1〜14の間にイオン電荷をもたないモノマーを指す。エチレン性不飽和非イオン性モノマーの好適な例としては、例えば、C〜C18を含む(メタ)アクリル酸のアルキルエステル、ならびに好ましくは、アクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸のC−C12のアルキルエステル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸デシル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸イソデシル、メタクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルおよび(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピルなどのヒドロキシ官能(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリロニトリル、スチレンおよび置換スチレン、ブタジエン、エチレン、プロピレン、1−デセンなどのα−オレフィン、酢酸ビニル、酪酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、バーサチック酸ビニルおよび他のビニルエステルなどのビニルモノマー、またはそれらの組み合わせを含む。好ましいエチレン性不飽和非イオン性モノマーは、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸デシル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸イソデシル、メタクリル酸ラウリル、スチレン、およびそれらの混合物である。本発明において有用なポリマーは、ポリマーの重量に基づいて、85重量%以上、87重量%以上、88重量%以上、89重量%以上、またはさらに90重量%以上であると同時に、98重量%以下、97.5重量%以下、97重量%以下、96.5重量%以下、またはさらに95重量%以下のエチレン性不飽和非イオン性モノマーの構造単位を含み得る。
【0017】
本発明において有用なポリマーは、エチレン性不飽和シラン官能性モノマー、α、β−エチレン性不飽和カルボン酸モノマー、エチレン性不飽和非イオン性モノマー、および任意選択で追加のエチレン性不飽和官能性モノマーを含む、モノマーの混合物から得られ得る。
【0018】
いくつかの好ましい実施形態では、ポリマーは、ポリマーの重量に基づいて、
0.1重量%〜1重量%のエチレン性不飽和シラン官能性モノマーの構造単位、
2重量%〜4重量%のα、β−エチレン性不飽和カルボン酸モノマーの構造単位、
90重量%〜95重量%の、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルなどのエチレン性不飽和非イオン性モノマーの構造単位、および
0〜5重量%の追加のエチレン性不飽和官能性モノマーの構造単位を含む。
【0019】
上述のモノマーの構造単位の総重量濃度は、100%に等しくてもよい。上記のモノマーの種類およびレベルは、得られたポリマーに様々な用途に適したガラス転移温度(T)を提供するように選択され得る。ポリマーは、−20℃以上、−15℃以上、−10℃以上、−5℃以上、またはさらに0℃以上であると同時に、60℃以下、50℃以下、40℃以下、またはさらに30℃以下のTを有し得る。
【0020】
本発明において有用なポリマーは、典型的には、10〜500ナノメートル(nm)、50〜400nm、または80〜300nmの平均粒子サイズを有するポリマー粒子の水性分散液として存在する。本明細書の粒子サイズは、Brookhaven BI−90プラス粒子サイズ分析器によって測定され得る。
【0021】
本発明において有用なポリマーは、上述のモノマーのフリーラジカル重合、好ましくはエマルジョン重合によって調製され得る。ポリマーを調製するためのモノマーの総重量濃度は、100%に等しい。ポリマーの重量に基づくポリマー中の各モノマーの構造単位の量は、モノマーの総重量に基づくそのようなモノマーの投与量と実質的に同じである。モノマーは、そのままもしくは水中エマルジョンとして添加されるか、または1回以上の添加で添加されるか、またはポリマーを調製する反応期間にわたって、連続的に、直線的に、もしくは非直線的に添加され得る。重合プロセスに好適な温度は、100℃未満、30〜95℃の範囲、または50〜90℃の範囲であり得る。少なくとも2つの段階が連続的に形成され、かつ通常少なくとも2つのポリマー組成物を含む多段ポリマーの形成をもたらす、上記のモノマーを使用する多段フリーラジカル重合を使用することができる。
【0022】
ポリマーを調製する重合プロセスでは、フリーラジカル開始剤を使用することができる。重合プロセスは、熱的に開始されるか、または酸化還元により開始されるエマルジョン重合であってもよい。好適なフリーラジカル開始剤の例としては、過酸化水素、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、アンモニウム過硫酸塩および/またはアルカリ金属過硫酸塩、過ホウ酸ナトリウム、過リン酸、およびそれらの塩;過マンガン酸カリウム、およびペルオキシ二硫酸のアンモニウム塩またはアルカリ金属塩が挙げられる。フリーラジカル開始剤は、典型的には、モノマーの総重量に基づいて、0.01〜3.0重量%のレベルで使用され得る。好適な還元剤と結合した上記の開始剤を含む酸化還元系は、重合プロセスで使用され得る。好適な還元剤の例としては、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、イオウ含有酸のアルカリ金属塩およびアンモニウム塩(亜硫酸、重亜硫酸、チオ硫酸、ヒドロ亜硫酸、硫化物、硫化水素または亜ジチオン酸、ホルマジンスルフィン酸(formadinesulfinic acid)、重亜硫酸アセトン、グリコール酸、ヒドロキシメタンスルホン酸、グリオキシル酸水和物、乳酸、グリセリン酸、リンゴ酸、酒石酸、および前述の酸の塩など)が挙げられる。鉄、銅、マンガン、銀、白金、バナジウム、ニッケル、クロム、パラジウム、またはコバルトの金属塩を使用して酸化還元反応を触媒してもよい。金属用のキレート剤が、任意選択的に使用されてもよい。
【0023】
ポリマーを調製する重合プロセスにおいて、1つ以上の界面活性剤を使用してもよい。界面活性剤は、モノマーまたはそれらの組み合わせの重合前もしくは重合中に添加され得る。界面活性剤の一部分はまた、重合後に添加されてもよい。これらの界面活性剤は、アニオン性および/または非イオン性乳化剤を含み得る。界面活性剤は、反応性界面活性剤、例えば、重合性界面活性剤であり得る。好適な界面活性剤の例としては、アルキル、アリール、もしくはアルキルアリールスルフェート、スルホネート、もしくはホスフェートのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩、アルキルスルホン酸、スルホコハク酸塩、脂肪酸、およびエトキシル化アルコールまたはフェノールが含まれる。いくつかの好ましい実施形態では、アルキル、アリール、またはアルキルアリールスルフェート界面活性剤のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩が使用される。使用される界面活性剤は、通常、ポリマーの調製に使用されるモノマーの総重量に基づいて、0.1量%〜10重量%、好ましくは0.2重量%〜3重量%である。
【0024】
モノマーの重合プロセスが完了した後に、得られた水性ポリマー分散液は、1つ以上の塩基によって、例えば少なくとも7、7〜10、または8〜9のpH値に中和され得る。好適な塩基の例としては、アンモニア;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属化合物もしくはアルカリ土類金属化合物;トリエチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、モノイソプロピルアミン、モノブチルアミン、ヘキシルアミン、エタノールアミン、ジエチルアミン、ジメチルアミン、ジ−nプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、ジメトキシエチルアミン、2−エトキシエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、モルホリン、エチレンジアミン、2−ジエチルアミノエチルアミン、2,3−ジアミノプロパン、1,2−プロピレンジアミン、ネオペンタンジアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ヘキサメチレンジアミン、4,9−ジオキサドデカン−1,12−ジアミン、ポリエチレンイミン、もしくはポリビニルアミンなどの第1級、第2級、および第3級アミン;水酸化アルミニウム;またはそれらの混合物が挙げられる。
【0025】
水性ポリマー分散液に加えて、本発明の水性コーティング組成物は、1つ以上の亜鉛アンモニア錯塩の水溶液をさらに含む。亜鉛アンモニア錯塩は水溶性である。亜鉛アンモニア錯塩は、重炭酸亜鉛アンモニウム、硝酸亜鉛アンモニウム、酢酸亜鉛アンモニウム、またはそれらの混合物から選択され得る。炭酸亜鉛アンモニアが好ましい。亜鉛アンモニア錯塩は、1つ以上の亜鉛塩および/または酸化亜鉛と、アンモニアと、任意選択で重炭酸アンモニウムなどの水溶性炭酸塩とを混合することによって調製され得る。アンモニアは、亜鉛アンモニア錯塩の水溶液に、約9以上、好ましくは9.5以上のpHを与え、過剰量のアンモニアの存在下で亜鉛アンモニア錯体を形成するのに十分な量で添加される。亜鉛塩は、炭酸亜鉛、酢酸亜鉛、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、またはそれらの混合物であり得る。亜鉛アンモニア錯塩の水溶液は、亜鉛イオンおよびアンモニウムイオンを含む。亜鉛アンモニア錯塩の水溶液は、亜鉛イオンのポリマーに対する重量比が0.7%以上、0.8%以上、0.9%以上、1.0%以上、1.2%以上、またはさらに1.5%以上であると同時に、6%以下、5.5%以下、5%以下、4.5%以下、4%以下、3.5%以下、またはさらに3%以下の量であることを確実にする量で存在してもよい。
【0026】
本発明の水性コーティング組成物は、1つ以上の充填剤をさらに含む。充填剤は、90〜600μmまたは120〜500μmの範囲のふるい粒子サイズを有し得る。ふるい粒子サイズは、GB/T 5330−2003の方法に従って測定され得る。好適な充填剤の例としては、砂、CaCO、SiO、炭酸カルシウム、粘土、硫酸カルシウム、アルミノケイ酸塩、ケイ酸塩、ゼオライト、マイカ、固体または中空ガラス、セラミックビーズ、霞石閃長岩、長石、ケイソウ土、焼成ケイソウ土、タルク(水和ケイ酸マグネシウム)、シリカ、アルミナ、カオリン、パイロフィライト、パーライト、バライト、ウォラストナイト、The Dow Chemical Companyから入手可能なROPAQUE(商標)Ultra E(ROPAQUEはThe Dow Chemical Companyの商標である)などの不透明ポリマー、またはそれらの混合物が含まれる。水性コーティング組成物は、水性コーティング組成物の総重量に基づいて、60重量%〜90重量%、65重量%〜85重量%、または70重量%〜80重量%の充填剤を含み得る。
【0027】
本発明の水性コーティング組成物は、1つ以上の消泡剤をさらに含み得る。「消泡剤」という用語は、本明細書では、泡の形成を減少させ、かつ妨げる化学添加剤を指す。消泡剤は、シリコーン系消泡剤、鉱油系消泡剤、エチレンオキシド/プロピレンオキシド系消泡剤、アルキルポリアクリレート、またはそれらの混合物であってもよい。好適な市販の消泡剤には、例えば、両方ともTEGOから入手可能なTEGO Airex 902 WおよびTEGO Foamex 1488ポリエーテルシロキサンコポリマーエマルジョン、BYKから入手可能なBYK−024シリコーン変形剤、またはそれらの混合物が含まれる。消泡剤は、水性コーティング組成物の総乾燥重量に基づいて、一般に0〜0.5重量%、0.01%〜0.2重量%、または0.03%〜0.1重量%の量で存在し得る。
【0028】
本発明の水性コーティング組成物は、1つ以上の増粘剤をさらに含み得る。増粘剤としては、ポリビニルアルコール(PVA)、酸誘導体、酸コポリマー、ウレタン会合型増粘剤(UAT)、ポリエーテル尿素ポリウレタン(PEUPU)、ポリエーテルポリウレタン(PEPU)、またはそれらの混合物が含まれ得る。好適な増粘剤の例としては、ナトリウムまたはアンモニウムで中和されたアクリル酸ポリマーなどのアルカリ膨潤性エマルジョン(ASE);疎水性修飾アクリル酸コポリマーなどの疎水性修飾アルカリ膨潤性エマルジョン(HASE);疎水性修飾エトキシル化ウレタン(HEUR)などの会合性増粘剤;ならびにメチルセルロースエーテル、ヒドロキシメチルセルロース(HMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、疎水性修飾ヒドロキシエチルセルロース(HMHEC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(SCMC)、カルボキシメチル2−ヒドロキシエチルセルロースナトリウム、2−ヒドロキシプロピルメチルセルロース、2−ヒドロキシエチルメチルセルロース、2−ヒドロキシブチルメチルセルロース、2−ヒドロキシエチルエチルセルロース、および2−ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース増粘剤が挙げられる。好ましくは、増粘剤は、疎水的に修飾されたヒドロキシエチルセルロース(HMHEC)である。増粘剤は、水性コーティング組成物の総乾燥重量に基づいて、一般に、0〜2重量%、0.1%〜1重量%、または0.3%〜0.8重量%の量で存在し得る。
【0029】
本発明の水性コーティング組成物は、1つ以上の湿潤剤をさらに含み得る。「湿潤剤」という用語は、本明細書では、コーティング組成物の表面張力を低減し、コーティング組成物を基材の表面上により容易に広げ、または浸透させる化学添加剤を指す。湿潤剤は、ポリカルボキシレート、アニオン性、両性イオン性、または非イオン性であり得る。増粘剤は、水性コーティング組成物の総乾燥重量に基づいて、0〜0.5重量%、0.1%〜0.3重量%の量で存在し得る。
【0030】
本発明の水性コーティング組成物は、1種以上の造膜助剤をさらに含み得る。「造膜助剤」は、本明細書では、周囲条件下でポリマー粒子を連続フィルムに融着させる遅い蒸発性溶媒を指す。好適な造膜助剤の例としては、2−n−ブトキシエタノール、ジプロピレングリコールn−ブチルエーテル、プロピレングリコールn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールn−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールn−プロピルエーテル、n−ブチルエーテル、またはそれらの混合物が挙げられる。造膜助剤は、水性コーティング組成物の総乾燥重量に基づいて、0〜5重量%、0.5%〜3重量%、または1%〜2重量%の量で存在し得る。
【0031】
上述の成分に加えて、本発明の水性コーティング組成物は、以下の添加剤:緩衝剤、中和剤、湿潤剤、防カビ剤、殺生物剤、皮張り防止剤、着色剤、流動剤、酸化防止剤、可塑剤、均染剤、チキソトロピー剤、接着促進剤、および粉砕展色剤(grind vehicles)のうちのいずれか1つまたは組み合わせをさらに含み得る。存在する場合、これらの添加剤は、水性コーティング組成物の総重量に基づいて、0〜1重量%、0.1%から0.6重量%、または0.3%から0.5重量%の合計量で存在し得る。
【0032】
本発明の水性コーティング組成物は、水性ポリマー分散液、亜鉛アンモニア錯塩の水溶液、および充填剤を混合することにより調製され得る。いくつかの実施形態において、水性コーティング組成物は、水性ポリマー分散液、亜鉛アンモニア錯塩の水溶液、およびレオロジー調整剤および消泡剤などの他の任意の成分を混合して、予備混合物を形成し、続いて好ましくは撹拌しながら、均一な水性コーティング組成物を得るために、予備混合物に充填剤を加えることにより調製され得る。水性ポリマー分散液および亜鉛アンモニウム錯塩の水溶液は、通常、二成分パッケージで供給され、塗布時に混合される。
【0033】
本発明の水性コーティング組成物は、水性コーティング組成物を基材に塗布する前に形成され得る。水性コーティング組成物は、水性コーティング組成物中の成分を混合すると、現場で作業する労働者を可能にするのに十分長いポットライフを有し、例えば、水性コーティング組成物は、25℃で、3時間以上、5時間以上、10時間以上、15時間以上、24時間以上、3日以上、またはさらには1週間以上安定している。水性コーティング組成物はまた、0.2MPa以上、0.25MPa以上、0.3MPa以上、0.35MPa以上、0.40MPa以上、またはさらには0.45MPa以上の強度プルオフによって示されるように、基材、好ましくはセメント基材から、基材への良好な接着性を備えた、2mm以上の厚さのコーティングを依然として提供しながら、高温、例えば70℃以上で乾燥するのに適している。コーティングはまた、良好な耐水性を有し得る。ポットライフ、プルオフ強度、および耐水性は、以下の実施例セクションで説明する試験方法に従って測定され得る。
【0034】
本発明はまた、コーティングを調製する方法を提供し、その方法は、
水性コーティング組成物を提供することと、
水性コーティング組成物を基材に塗布することと、
塗布されたコーティング組成物を70℃以上で乾燥させて、2mm以上または3mm以上、好ましくは2〜5mmの厚さのコーティングを形成することと、を含む。
【0035】
コーティングは、以下の実施例セクションに記載された試験方法に従って測定されるように、室温で0.2MPa以上または0.25MPa以上の基材に対するプルオフ強度を有し得る。水性コーティング組成物は、例えば、木材、金属、プラスチック、発泡体、石、エラストマー基材、布地、コンクリート、およびセルロース繊維セメントシートなどのセメント質基材を含む様々な基材に、塗布および接着され得る。コーティングは、プレハブ仕上げシステムの一部にすることができる。水性コーティング組成物は、高温、例えば70℃以上、80℃以上、90℃以上、100℃以上、110℃以上、またはさらには120℃以上で、乾燥(または乾燥)させて、フィルム(これはコーティングである)を形成することができる。水性コーティング組成物は、ブラッシング、圧延、および噴霧を含む、義務的手段によって、基材に適用され得る。水性コーティング組成物は、外部断熱および仕上げシステム(EIFS)、屋根用マスチック、プレハブ式断熱および仕上げシステム(PRIFS)、建築用コーティング、土木工学用コーティング、または液体防音コーティング(LASD)などの様々な用途に適している。コーティング組成物は、例えば、PRIFSなどのプレハブ式仕上げシステムの調製に特に適している。水性コーティング組成物は、単独で、または他のコーティングと組み合わせて使用されて、多層コーティングを形成することができる。例えば、多層コーティングは、本発明のコーティング組成物をミドルコートとして含んでもよい。
【実施例】
【0036】
本発明のいくつかの実施形態は、以下の実施例においてここに記載され、すべての部およびパーセンテージは、他に特定されない限り、重量による。
【0037】
Stepanから入手可能なPOLYSTEP P−12A(「P−12A」)界面活性剤は、ポリエチレングリコールモノトリデシルエーテルリン酸である。
【0038】
アクリル酸2−エチルヘキシル(「EHA」)、メタクリル酸メチル(「MMA」)、メタクリル酸(「MAA」)、および過硫酸アンモニウム(「APS」)はすべて、Sinoreagent Group(中国)から入手することができる。
【0039】
Momentive Performance Materialsから入手可能なSILQUEST A−174(「A−174」)シランは、ガンマメタクリロキシプロピルトリメトキシシランである。
【0040】
Momentive Performance Materialsから入手可能なSILQUEST A−187(「A−187」)シランは、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランである。
【0041】
アンモニア、重炭酸アンモニウム、tert−ブチルヒドロペルオキシド(「t−BHP」)、およびイソアスコルビン酸(「IAA」)はすべて、Shanghai Chemical Reagent Co.,Ltdから入手することができる。
【0042】
NATROSOL 250HBR(「250HBR」)レオロジー調整剤は、Ashlandから入手することができる。
【0043】
BASFから入手可能なFOAMASTER NXZは、消泡剤として使用される。
【0044】
Eastman Chemicalから入手可能なTEXANOLエステルアルコールは、造膜助剤として使用される。
【0045】
Angus Chemical Companyから入手可能なAMP−95は、中和剤として使用される。
【0046】
The Dow Chemical Companyから入手可能なACRYSOL TT−935は、レオロジー調整剤として使用される。
【0047】
プロピレングリコールは、The Dow Chemical Companyから入手することができる。
【0048】
砂のふるい粒子径は、90〜600μmである。
【0049】
実施例では、以下の標準的な分析装置および方法を使用する。
【0050】
プルオフ強度
塗料配合物を、3mmの湿潤フィルム厚さで基材(セルロース繊維セメントシート、オートクレーブ)に塗布した。次いで、コーティングされた基材を80℃のオーブンで1時間、得られた塗膜が完全に硬化するまで乾燥させた。これは、水分計で測定した塗膜の水分含有量が5%未満であることによって示される。得られた乾燥塗膜を、引張試験機(Haftprufsystem HP1000、結合強度試験システム)を使用して、室温でISO 4624に従ってプルオフ強度について評価した。0.2MPa以上のプルオフ強度を有する塗膜は、塗膜が基材に良好に接着していることを示している。他の点では、プルオフ強度が0.2MPa未満の場合、塗膜の基材への密着性は貧弱である。
【0051】
Znイオンの測定
0.5グラム(g)のサンプル(0.0001g単位)を計量し、消化容器に加えた。5mlの濃硝酸を加えた。次いで、すべての残留物が溶解するまで、容器をホットプレート上でゆっくりと加熱した。得られた溶液を脱イオン(DI)水で50mLに希釈した。1mLの溶液を取り出し、さらにDI水で100mLに希釈し、誘導結合プラズマ(ICP)分光計で測定した。
【0052】
Zn標準溶液を、0、1、2、5、10ppmの濃度で調製した。
【0053】
機器条件:分光計−Perkin Elmer Optima 5300DV、RF電力−1.3kW、Plasma view−Axial、および試験Znイオンの波長−206.2nm。機器は、試験前に4時間ウォームアップされた。
【0054】
耐水性試験
塗料配合物を、3mmの湿潤フィルム厚さで基材(セルロース繊維セメントシート、オートクレーブ)に塗布した。その際、次いで、コーティングされた基材を80℃のオーブンで1時間、得られた塗膜が完全に硬化するまで乾燥させた。これは、水分計で測定した塗膜の水分含有量が5%未満であることによって示される。得られた乾燥塗膜を、室温で蒸留水に半分浸漬した。水に浸した塗膜の表面を最大7日間常に監視し、目視で観察した。塗膜の表面が7日後に白化、膨れ、ひび割れ、または基材からの剥離を示さない場合、塗膜の耐水性が良好であることを示している。浸漬部分と非浸漬部分との間の表面のわずかな色の変化は許容される。
【0055】
ポットライフ
塗料配合物のポットライフを、そのような塗料配合物の基材へのプルオフ強度の変化に基づいて、室温で一定期間保管する前後に評価した。
【0056】
上記のプルオフ強度試験で説明したのと同じ手順に従って、すべての成分を混合した塗料配合物を最初に塗膜内に形成し、塗膜のプルオフ強度を測定し、プルオフ強度(初期段階)として記録した。
【0057】
次に、同じ塗料配合物を室温で一定時間(t)保存し、それから作られた塗膜のプルオフ強度を測定し、プルオフ強度(t)として記録した。プルオフ強度の変化(すなわち、プルオフ強度(初期段階)−プルオフ強度(t))がプルオフ強度(初期段階)の20%未満である場合の最長期間を、ポットライフとして記録した。
【0058】
水性アンモニア亜鉛錯体溶液の調製
120gの重炭酸アンモニウム(NHHCO)を、ビーカーに610gの水および190gのアンモニア(NHO濃度:25〜28%)とともに加えた。80gの酸化亜鉛(ZnO)を、上記の得られた溶液に加えた。得られた混合物を、酸化亜鉛が溶解するまで約20分間連続的に攪拌しながら混合し、こうして亜鉛アンモニア錯体溶液を形成した。
【0059】
水性ポリマー分散液(すなわち、結合剤)を以下のように調製した。
【0060】
結合剤1の合成
538gのDI水、17gのPOLYSTEP P−12A(25%活性)、770gのEHA、615gのMMA、36gのMAA、および4.25gのA−174シランを混合して、モノマーエマルジョンを調製した。
【0061】
1ガロンの撹拌反応器に、870gのDI水、71gのケトル石鹸としてのP−12A(25%活性)、および2.42gのアンモニアを充填した。反応内容物を95℃に加熱した後、88gのモノマーエマルションを添加し、続いて20gのDI水ですすいだ。その直後に、20gのDI水中の4.14gの重炭酸アンモニウムおよび20gのDI水中の4.262gのAPSの溶液を添加した。88℃の温度を維持しながら、残りのモノマーエマルジョンを90分かけて反応器に添加した。反応の完了後、23gの7%t−BHPおよび25gの3%IAAを、1時間反応器に供給した。中和剤として、14gの28%アンモニア溶液を添加した。次に、得られたポリマーラテックスを室温まで冷却した。
【0062】
結合剤2の合成
結合剤2の調製に使用したモノマーエマルジョンが538gのDI水、17gのP−12A(25%活性)、764.7gのEHA、628gのMMA、25.9gのMAA、および4.25gのA−174シランを混合することにより調製されたことを除いて、バインダー2は、上記のバインダー1を調製した手順と同じ手順に従って調製された。
【0063】
結合剤3の合成
結合剤3の調製に使用したモノマーエマルジョンが538gのDI水、17gのP−12A(25%活性)、790gのEHA、542gのMMA、86.4gのMAA、および4.25gのA−174シランを混合することにより調製されたことを除いて、バインダー3は、上記のバインダー1を調製した手順と同じ手順に従って調製された。
【0064】
結合剤4の合成
結合剤4は、モノマーエマルジョンおよび反応器に直接充填されるP−12A界面活性剤の投与量が異なることを除いて、上記の結合剤1を調製した手順と同じ手順に従って調製された。結合剤4の調製に使用されるモノマーエマルジョンは、538gのDI水、17gのP−12A(25%活性)、768.8gのEHA、621gのMMA、28.8gのMAA、および4.25gのA−174シランを混合することにより調製された。5.67gのP−12A(25%活性)を、ケトル石鹸として反応器に直接的に充填した。
【0065】
結合剤5の合成
結合剤5の調製に使用したモノマーエマルジョンが538gのDI水、17gのP−12A(25%活性)、754.6gのEHA、603.8gのMMA、36gのMAA、および28.36gのA−174シランを混合することにより調製されたことを除いて、バインダー5は、上記のバインダー1を調製した手順と同じ手順に従って調製された。
【0066】
結合剤6の合成
結合剤6の調製に使用したモノマーエマルジョンが538gのDI水、17gのP−12A(25%活性)、766gのEHA、621gのMMA、および36gのMAAを混合することにより調製されたことを除いて、バインダー6は、上記のバインダー1を調製した手順と同じ手順に従って調製された。
【0067】
結合剤7の合成
結合剤7は、結合剤7を得るために、最初に結合剤6を上述のように調製し、次いで4.25gのA−187シランを反応器に加えることにより得られた。
【0068】
結合剤8の合成
結合剤8の調製に使用したモノマーエマルジョンが538gのDI水、17gのP−12A(25%活性)、772gのEHA、597gのMMA、および50.4gのMAA、および4.25gのA−174シランを混合することにより調製されたことを除いて、バインダー8は、上記のバインダー1を調製した手順と同じ手順に従って調製された。
【0069】
結合剤9の合成
結合剤9の調製に使用したモノマーエマルジョンが538gのDI水、17gのP−12A(25%活性)、779gのEHA、568.5gのMMA、および72gのMAA、および4.25gのA−174シランを混合することにより調製されたことを除いて、バインダー9は、上記のバインダー1を調製した手順と同じ手順に従って調製された。
【0070】
上記で得られた結合剤の特性を表1に与える。
【表1】
【0071】
実施例1〜9
上記で得られた結合剤を、表2に与えられた配合に基づいて、実施例1〜9の塗料配合物(すなわち、コーティング組成物)を調製するために使用した。各塗料配合物の水、結合剤および他の成分を、従来の実験室用ミキサーを使用して混合した。最後に、得られた混合物に砂を添加した。得られた塗料配合物を、上述の試験方法に従って評価し、結果を表2に与えた。
【0072】
比較例A−G
上記で得られた結合剤を含む比較例A−Gの塗料配合物を、表3に記載された配合に基づいて調製した。各塗料配合物の水、結合剤および他の成分を、従来の実験室用ミキサーを使用して混合した。最後に、得られた混合物に砂を添加した。得られた塗料配合物を、上述の試験方法に従って評価し、結果を表3に与えた。
【0073】
表2に示されるように、本発明の塗料配合物はすべて、例えば、3時間より長い、またはさらには16時間より長い、長いポットライフを有していた。実施例1〜9の塗料配合物は、80℃で1時間乾燥すると、それから作られた塗膜の0.45MPa以上のプルオフ強度も提供した。さらに、実施例1〜9の塗膜はすべて、7日間の水への浸漬後の表面の白化、膨れ、もしくはひび割れ、または基材からの剥離がないことにより示されるように、良好な耐水性を示した。
【0074】
対照的に、表3に示すように、A−174シランの構造単位を含まない結合剤は、非常に短いポットライフ(0.3時間未満)の塗料配合物(比較例EおよびF)を提供した。2%のA−174シランから得られた結合剤は、それから作られた塗膜に貧弱な耐水性を提供した(比較例G)。また、1.8%のMAAの構造単位を含む結合剤はまた、0.3時間未満のポットライフを有する塗料配合物(比較例C)を提供した。0.33%、0.66%、または6.7%の亜鉛イオンと結合剤固体の重量比を有する塗料配合物(比較例A、B、およびD)はすべて、許容できない低プルオフ強度(<0.2MPa)および貧弱な耐水性を有する塗膜を提供した。
【表2】
【表3】