特許第6903301号(P6903301)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6903301
(24)【登録日】2021年6月25日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】飲料抽出用濾過具
(51)【国際特許分類】
   A47J 31/06 20060101AFI20210701BHJP
【FI】
   A47J31/06 103
   A47J31/06 160
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-58299(P2017-58299)
(22)【出願日】2017年3月23日
(65)【公開番号】特開2018-158050(P2018-158050A)
(43)【公開日】2018年10月11日
【審査請求日】2020年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000178882
【氏名又は名称】山中産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119091
【弁理士】
【氏名又は名称】豊山 おぎ
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 基伸
(72)【発明者】
【氏名】東 和徳
【審査官】 沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−007220(JP,A)
【文献】 特開平08−154835(JP,A)
【文献】 特開2006−122626(JP,A)
【文献】 特開平09−168481(JP,A)
【文献】 特開2001−225849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メッシュ状の織物又は編物により形成されたシート材を用いて、底面部及び側面部が形成され上端が開口した袋体を備え、
前記袋体が、前記底面部及び前記側面部の少なくともいずれか一方に、前記シート材同士を重ね合わせた部分を水平方向又は高さ方向に融着させて形成た補強部を有し前記袋体が、前記シート材及びこれに形成された前記補強部によって自立可能となっている飲料抽出用濾過具。
【請求項2】
前記シート材には熱融着性を有する合成繊維が用いられかつKES法による前記シート材の縦及び横方向のせん断剛性が6.0以上20.0gf/cm・deg以下である請求項1に記載の飲料抽出用濾過具。
【請求項3】
前記シート材の交絡部分の少なくとも一部が熱融着されている請求項1又は2に記載の飲料抽出用濾過具。
【請求項4】
前記側面部は、少なくとも互いに対向配置された前面シート及び後面シートにより形成され、
前記底面部は、前記前面シート及び前記後面シートとの間に、折り畳まれた状態で挟み込まれた下面シートにより形成され、
前記補強部は、前記前面シート、前記後面シート及び前記下面シートの互いに重ね合わされた縁部を熱融着させて形成されている請求項1から3のいずれか一項に記載の飲料抽出用濾過具。
【請求項5】
前記側面部の上端が内側又は外側に折り畳まれた請求項1から4のいずれか一項に記載の飲料抽出用濾過具。
【請求項6】
前記補強部が、間隔を空けて非連続的に形成されている請求項1から5のいずれか一項に記載の飲料抽出用濾過具。
【請求項7】
前記側面部の上端にタブ又は持ち手が設けられている請求項1から6のいずれか一項に記載の飲料抽出用濾過具。
【請求項8】
前記タブは、前記側面部を形成するシート材の一部により形成された請求項7に記載の飲料抽出用濾過具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料抽出用濾過具に関する。
【背景技術】
【0002】
急須の開口部に引っ掛けて用いる茶漉しのように急須の内底と茶漉しの底とに隙間が生じないようにして、湯が少量である場合にも茶葉等が湯に浸り、成分抽出が十分行われることを目的とした茶漉しが知られている(例えば、下記特許文献1)。
特許文献1に記載の茶漉しは、急須の開口部より小さいリング状部材の頭部を有し、ナイロン紗からなる円錐台形の漉し網からなる茶漉しで、リング状部材から延ばした脚を更に有している。下記特許文献は、急須の底に自立出来るものとして上記茶漉しを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−230168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の茶漉しは、開口部に取り付けられた合成樹脂製のリングと、リングの直径上の2カ所から延びる合成樹脂製の脚部とにより自立を試みているが、このような構成では円錐台形の茶漉しを自立させることも円錐台形を維持することも難しく、安定性も悪い。また、上記の茶漉しは、立体形状のナイロン紗の袋を合成樹脂リング及び脚に取り付けるべく接着剤等を用いなければならないため、製造工程が複雑となり材料費もかかってコスト高になるため、使い捨てに不向きであった。
仮に、急須内での設置はできたとしても、茶葉を入れて注湯した後は、湯や水分を含んだ茶葉の重みにより急須内で茶漉しの形状が容易に崩れてしまい自立させ難いという問題があった。
そこで本発明は、形状の安定性及び自立性が良く、使い捨て及び廃棄処理に適した濾過具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の濾過具は、メッシュ状の織物又は編物により形成されたシート材を用いて、底面部及び側面部が形成され上端が開口した袋体を備え、前記底面部及び前記側面部の少なくともいずれか一方には、前記シート材同士を重ね合わせた部分を水平方向又は高さ方向に融着させて形成された補強部が形成され、前記袋体を自立させ得る。
この構成によれば、シート材のみで袋体を自立させることができる。
【0006】
本発明の濾過具の前記シート材には、熱融着性を有する合成繊維が用いられかつKES法による前記シート材の縦及び横方向のせん断剛性が6.0以上20.0gf/cm・deg以下であってもよい。
この構成によれば、シート材自身の剛性により袋体の自立が確実となる。
【0007】
本発明の濾過具の前記シート材の交絡部分の少なくとも一部は、熱融着されていてもよい。
この構成によれば、シート材自身の剛性により袋体の自立が確実となる。
【0008】
本発明の濾過具の前記側面部は、少なくとも互いに対向配置された前面シート及び後面シートにより形成され、前記底面部は、前記前面シート及び前記後面シートとの間に、折り畳まれた状態で挟み込まれた下面シートにより形成され、前記補強部は、前記前面シート、前記後面シート及び前記下面シートの互いに重ね合わされた縁部を熱融着させて形成されていてもよい。
この構成によれば、袋体の製造が容易になる。
【0009】
本発明の濾過具の前記側面部の上端は、内側又は外側に折り畳まれていてもよい。
この構成によれば、袋体の上端の開口部に剛性を付与することができる。
【0010】
本発明の濾過具の前記補強部は、間隔を空けて非連続的に形成されていてもよい。
この構成によれば、補強部の張りを抑えた箇所を作ることができる。
【0011】
本発明の濾過具の前記側面部の上端には、タブ又は持ち手が設けられていてもよい。
この構成によれば、濾過具の取出しが容易となる。
【0012】
本発明の濾過具の前記タブは、前記側面部を形成するシート材の一部により形成されていてもよい。
この構成によれば、タブの構成がシンプルになる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の濾過具は、形状の安定性及び自立性が良く使い捨てに適するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態である濾過具の正面図である。
図2】本発明の一実施形態である濾過具の斜視図である。
図3】本発明の一実施形態である濾過具の作製工程を示す図である。
図4】本発明の一実施形態である濾過具の作製工程を示す図である。
図5】本発明の一実施形態である濾過具の作製工程を示す図である。
図6】本発明の一実施形態である濾過具の変形例を示す斜視図である。
図7】本発明の一実施形態である濾過具の変形例を示す正面図である。
図8】本発明の一実施形態である濾過具の変形例を示す正面図である。
図9】本発明の一実施形態である濾過具の変形例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の濾過具の実施形態について図を参照して説明する。
なお、各実施形態において、上下方向又は縦方向とは、濾過具を急須等の容器に設置した状態での高さ方向を意味し、水平方向又は横方向とは、前記設置状態での水平方向の向きを意味している。
【0016】
図1に示すように、本発明の一実施形態の濾過具1には、メッシュ状の織物又は編物により形成されたシート材2が用いられている。
シート材2は、熱可塑性耐水性合成繊維から形成されたメッシュ状織物又は編物から選ばれることが好ましく、特に熱可塑性耐水性合成モノフィラメント糸条から形成されたメッシュ状織物であることが好ましい。熱可塑性耐水性合成繊維又はモノフィラメント糸条は、例えばポリエステル系、ポリアミド系又はポリ乳酸系繊維であることが好ましい。これらの合成樹脂のなかでもポリエチレンテレフタレート(PET)及び生分解性合成樹脂から選ばれることが好ましい。
【0017】
これらの樹脂は、単繊維であっても、複合繊維であっていてもよい。本発明に用いられる合成繊維としては、融点の異なる2成分を用いており、芯側の成分が鞘側の成分よりも約40度以上の高融点である芯鞘型の合成繊維を特に好適に用いることができる。具体的には、芯部が約230℃以上の融点のPETで、鞘部が約190℃未満の融点のPETで構成された芯鞘型の複合繊維のほか、芯部が融点170℃以上のポリ乳酸及び鞘部が融点130℃程度のポリ乳酸などの組み合わせの芯鞘型の合成繊維が好適に用いられる。ただし、メッシュ状の織物又は編物に使用可能な芯鞘型の合成繊維であれば、上記の組み合わせに限定されない。
【0018】
シート材2の繊度は、特に限定されないが飲料抽出用としては例えば20−60dtexであればよい。また、経糸密度及び緯糸密度は、共に60本−130本/インチであればよく、80本−120本/インチであることが好ましい。
本発明の袋状体を形成するための接着方法には制限はないが熱融着法、高周波融着法、又は超音波融着法等を用いることが好ましい。
【0019】
シート材2は、日本繊維機械学会編集『風合い計量と規格化研究委員会』のKES法(KES F2システム)により測定されたせん断剛性(G値)が、縦方向及び横方向共に6.0以上20.0gf/cm・deg以下であればよく、8.0以上13.0gf/cm・degであることがより好ましい。
【0020】
具体的に、KES法によるせん断剛性の測定は、本発明では、検体であるシート材2(200mm×200mm)の互いに対向する端部を、その全体に亘ってKES試験機の一対のクランプ部に固定し、一方のクランプ部を他方のクランプ部に対して、せん断速度を一定(例えば0.468度/秒)で、最大せん断角が例えば4度となる範囲で平行に動かす。そして、その結果をgf/cm・degで表した数値をKES法によるせん断剛性の測定結果とし、数値が高いほどシート材が「変形しにくい,硬い」と判定できるようにしている。
【0021】
従来はシート材2自体の特性により濾過具1を自立可能にしようとはされていなかったため、如何なるシート材2が袋体5の自立に適しているか不明であった。
そこで、実際の手触り感及び作製した袋体5の自立性に基づいて研究を重ねてきた結果、KES法によるせん断剛性の測定値が6.0gf/cm・deg以上である織物又は編物のシート材2に自立可能性があるとする本発明が見出された。
【0022】
また、シート材2は、メッシュの交絡部分の少なくとも一部、好ましくはより多くの部分が、セット加工(熱処理ともいう)により融着されていることが好ましい。シート材2のメッシュの交絡部分が融着されていると、シート材2に剛性が付与されるのみならず、シート材2を鋏等の器具を用いることなく手でカットすることが可能になり、濾過具1においてこの特性を活かせるからである。
【0023】
図1及び図2に示すように、濾過具1は、底面部3と底面部3の周縁から立ち上がる側面部4とを有し上端が開口した有底筒状の袋体5を備えている。底面部3及び側面部4のそれぞれには、シート材2同士が重ね合わされて融着された補強部6が設けられている。そして、濾過具1は、使用前においては図1に示すように扁平に折り畳まれ、使用時には図2に示すように開口部7を大きく開いて用いられる構成になっている。
【0024】
本実施形態においては、袋体5は、図1及び図2に示すように互いに対向配置された前面シート10及び後面シート11と、前面シート10及び前記後面シート11との間に、折り畳まれた状態で挟み込まれた下面シート12により形成されている。
なお、本願において「前面シート」及び「後面シート」とは、袋体5の構成としての相対的な位置関係を便宜的に言い表したものに過ぎず、急須やコップなどの設置対象となる容器や使用者に対する向きを意味するものではない。
【0025】
図1に示すように、前面シート10の横方向の長さL1と縦寸法の長さL2との寸法比は、設置対象の形状に合わせて適宜設定するとよい。前面シート10の横方向の長さL1は、必ずしも限定されないが、例えば日本茶用の急須に設置する場合には、同縦方向の長さL2の1倍以上2.5倍以下とすることができ、好ましくは1.3倍以上2倍以下とすることができ、より好ましくは1.3倍以上1.95倍以下とすることができる。
【0026】
一方、濾過具1は高さのある細長いコップ等に設置して好適に用いることもできる。このような場合には、当該コップの直径と高さの比を考慮して横方向の長さL1と縦方向の長さL2とを設定するとよい。
後面シート11は、前面シート10と略同形状で、縦方向の長さは前面シート10よりもやや小さく、横方向の長さL1は前面シート10の横方向の長さL1と同じになるよう形成されている。このように形成することで開口しやすくなるからであるが、前面シート10と後面シート11とは横方向の長さL1及び縦方向の長さL2共に同じであってもよい。
【0027】
下面シート12の折り畳み幅(すなわち下端縁から折り畳まれた頂部Tまでの長さ)L3は、濾過具1の開口度合いを定めるものであるので、前面シート10の横方向の長さL1に対して25%以上60%以下であることが望ましく、25%以上50%以下がより好ましく、30%以上40%以下が更に好ましい。
【0028】
折り畳み幅L3が横方向の長さL1に対して25%未満であると、横方向の長さL1に対する横方向に直交する方向の開口幅が小さくなり開口部7の形状が横方向に細長くなってしまって、茶葉等の抽出原料が入れ難くなることがある。一方、折り畳み幅L3が横方向の長さL1に対して60%以上であると、横方向L1の寸法よりも横方向L1に直交する方向の開口幅が大きくなりバランスが悪くなってしまう。
折り畳み幅L3が横方向の長さL1に対して30%近傍であると、開口時の形状が正方形又は正方形を緩やかに湾曲させた円形になり、抽出原料を入れやすく、また開口した袋体5が安定しやすくなる。
【0029】
前面シート10と後面シート11とは、これらの間に山折りにした下面シート12を挟んで、側縁部15において熱融着されている。この熱融着された側縁部15は、袋体5の縦方向の剛性を強化して自立を鉛直方向に支持する縦補強部6aを構成している。
縦補強部6aの内側には、前面シート10及び後面シート11の開口を容易にする折り目が設けられていることが好ましい。
前面シート10及び下面シート12並びに後面シート11及び下面シート12は、前面シート10及び後面シート11のそれぞれの下端縁部16において熱融着されている。熱融着された下端縁部16は、袋体5の開口を略水平面方向に支持する横補強部6bを構成している。
【0030】
縦補強部6a及び横補強部6bの幅は、特に限定されないが、0.5mm以上10mm以下であることが好ましく、3mm以上7mm以下であることがより好ましい。両補強部6a,6bは、共にこの程度の幅を有していれば、濾過具1の自立を好適に補強することができる。
【0031】
前面シート10の上端縁部17a及び後面シート11の上端縁部17bは、それぞれ内側に2重に折り曲げられている。2重に折り畳まれた上端縁部17a,17bは、図1に示すように上縁から一定の幅寸法で熱融着されていてもよい。この場合、上端縁部17a,17bの熱融着部分は、縦補強部6a又は横補強部6bと同様に補強部6cを構成する。
前面シート10及び後面シート11の上端縁部17a,17bの折り曲げ幅は、特に限定はされないが、1mm以上20mmm以下であればよく、3mm以上15mm以下に設定されていることがより好ましい。また、折り曲げは、3重以上であってもよい。
【0032】
次に、茶漉しの製造方法について説明する。
図3に示すように、濾過具1は、1枚の帯状のシート材2を、図4に示すように側面視M字状(又は逆M字状)に折り畳んで両外側に位置するシート部分を前面シート10及び後面シート11とし、折り畳まれて内側に位置するシートを下面シート12となるように調整する。帯状のシート材2の長手方向両端部(すなわち17a,17bに相当する部分)は、3mmから15mm幅で2重又は3重に折り畳んでおく。
【0033】
その上で、図4に示すようにM字状に折り畳んで、図4及び図5に示すように下端縁部16になる2箇所をそれぞれ2mmから3mmの幅で熱融着する。2重又は3重に折り畳んだ帯状のシート材2の長手方向の両端部も熱融着してもよい。その後、前面シート10及び後面シート11の両側縁部15,15の全体をこれらの間に挟み込んだ下面シート12を含んで熱融着し、図1に示す濾過具1が完成する。
【0034】
次に濾過具1の使用方法、作用、機能及び効果について説明する。
図1に示すように扁平に折り畳まれた濾過具1は、開口部7を広げ、図2に示すように前面シート10及び後面シート11を側面部4とし、折り畳まれた下面シート12を広げて底面部3とすることにより用いることができる。
【0035】
開口された濾過具1は、前面シート10、後面シート11及び下面シート12がせん断剛性の高いシート材2により形成されて高い張り又はコシを有しており、かつ、側縁部15及び下端縁部16に補強部6a,6bが形成されているため、上下及び径方向に張りが保たれる。
【0036】
したがって、濾過具1は、開口することによりシート材2だけで自立することができるという効果を奏する。また、濾過具1は、袋体5の内部に茶葉などの抽出原料を収容させて急須等の内部に設置し、注湯した場合であっても、袋体5が容易に崩れたり倒れたりし難く、使用後に抽出原料ごと容易に取り出して廃棄することができるという効果が得られる。
【0037】
また、濾過具1の補強部6は、シート材2同士の熱融着により形成することができるため、従来の茶漉しのように、ナイロン紗とフレームとなる合成樹脂部材とを固着するための接着剤を用いることを回避することができる。
したがって、濾過具1は、極めて簡便かつ飲食品に用いるものとして好適に製造することができるという効果を奏する。
【0038】
また、底面部3は、下面シート12が山折りされた状態で両側縁部15,15が前面シート10及び後面シート11に挟み込まれて融着されている。したがって、袋体5を開口して下面シート12を図1に示す頂部Tの折り目に略直交する方向に広げると、下面シート12は、前面シート10と後面シート11との間に挟まれた両側縁部15,15から下る傾斜面20,20と、これらの傾斜面20,20の間に折り目に略直交する方向に帯状に延びる最下部21とを形成する。詳細には、最下部21は、概ね前面シート10の下端縁部16又は後面シート11の下端縁部16に向かって広がる三角形の頂点同士を突き合わせたような形状となる。
【0039】
この状態の下面シート12は、山折りの折り目に逆らって頂部(すなわち折り目)Tの略中央部分がくぼみ、頂部Tに略直交する方向に延びる谷形状にされて張りを出した状態となる。
したがって、袋体5は、下端縁部16の横補強部6b及びこれに略直交する方向に張りが出た状態となるため、開口部7を可及的に大きく開いた状態で保持できるという効果を奏する。
また、上端縁部17a,17bが2重に折り畳まれた状態であるため、上端縁部17a,17bにおいても剛性を備えた状態となる。
【0040】
また、濾過具1の前面シート10及び後面シート11は、高いせん断剛性を有しているため、手作業で前面シート10及び又は後面シート11を容易に切り裂くことができる。
したがって、濾過具1は、袋体5の上端を手で簡単に切り取って、袋体5の高さを容易に調節して使用することができるため、様々なサイズの容器に適合させやすく、その調整が極めて容易であるという効果を奏する。
【0041】
また同様の理由から、シート材2は、指先で簡単に折り目を付けることができる。したがって、袋体5の開口部7を多角形に開口させやすく、その結果、袋体5を開口させた立体形状を非常に維持しやすく安定的に自立させやすいという効果が得られる。
【0042】
また、シート材2は、袋体5の形状及び自立性を維持できる張り又はコシを有しているが、メッシュ状の織物又は編物であるのでフレキシビリティが高い。したがって、濾過具1は、リング状の頭部が急須の開口部よりも大きかったり脚の長さが急須の高さよりも大幅に長かったりする場合に調整が極めて困難な従来の合成樹脂部材を取り付けた茶漉しよりも、各種寸法の容器への適合性が圧倒的に高いという効果を奏する。
【0043】
また、濾過具1は、袋体5に合成樹脂などの部材を取り付けずとも自立可能であるため、材料費を低減でき、また製造が簡便であるため製造費用を抑えることができる。すなわち、濾過具1は、製造コストを抑えられるため使い捨てにも適しており、また、廃棄処理も極めて容易であるという効果が得られる。
【0044】
また、濾過具1は、開口状態の維持のために従来のようなリング状の合成樹脂などを必要としないため、使用前は折り畳んでおくことができ、保存においても嵩張らず便宜的であるという効果を奏する。
【0045】
次に、上記実施形態の濾過具1の各パーツの構成について選択可能な変形例について説明する。
上記実施形態において、濾過具1の横補強部6bは両側縁部15,15の間に亘って連続して設けられている。しかし、横補強部6bは、図6に示すように、袋体5を開口させた際に折り目を形成したい位置、即ち開口時に角部になり得る若しくは湾曲させたい位置で間隔を空けて非連続的に形成されていてもよい。横補強部6bをこのように形成することで、湾曲させたい箇所における横方向の張りを抑えて、容易に湾曲させることができるという効果が得られる。
また、濾過具1の横補強部6bは、例えば袋体5を多角形状に開口できるよう開口した場合に、一部の対向する辺にのみ形成してもよい。
【0046】
また、図2に示す縦補強部6aは、前面シート10又は後面シート11の幅方向中央に向かってやや傾斜していてもよい。このような構成であれば、濾過具1は、ややテーパ状に開口させることができ、開口部7を大きく広げやすくなる。
また、縦補強部6aも必ずしも連続的に形成されていなければならないというわけではなく、抽出原料の漏れが生じない程度の間隔を空けて非連続的に設けられていてもよい。
【0047】
また、濾過具1の上端部には、紐,棒若しくは帯状の持ち手及び短冊状のタブの少なくともいずれか一方が取り付けられていてもよい。
図7において仮想線で示すように、紐,棒又は帯状の持ち手25は、熱融着性のある合成繊維により形成された紐,棒又は帯状部材の両端が濾過具1の上端部に間隔を空けて取り付けられアーチ形を形成し得るように構成されているとよい。
【0048】
紐,棒又は帯状の持ち手25は、綿素材その他の天然又は合成繊維により形成されていてもよい。また、紐,棒又は帯状の持ち手25は、剛性のあるポリオレフィン系の素材で棒状に形成され、縦補強部6a上又は縦補強部6aに平行に取り付けられ、濾過具1の上端から突出するように設けられていてもよい。
このような紐,棒又は帯状の持ち手25を袋体5に設けることにより、濾過具1の使用後に持ち手25をつかんで濾過具1を容易に取り出すことができるという効果が得られる。
【0049】
袋体5にタブを設ける場合は、図8に示すように、紙片又は前面シート10と同等以上の剛性を有する織物生地などによるシート片を用いることができる。
タブ26は、どのような形状であってもよいが、上端縁部17a,17bに沿わせる方向の中間部(図においては中央部)に一以上の折り目27を設けるとよい。
【0050】
このようなタブ26を、上端縁部17a及び/又は上端縁部17bに沿って固着させる。タブ26の端部は、袋体5の上端縁部17a,17bから突出していてもよく、又は突出していなくてもよい。
【0051】
袋体5に上記のようなタブ26を設けた場合には、袋体5の上端をさらに補強することができるとともに、袋体5における折り目の形成位置が分かりやすくなりかつ容易に折り目を形成することができるという効果を奏する。
また、上記実施形態では、袋体5の上端縁部17a,17bを内側に折り曲げて2重構造としたが、上端部をZ折りにして3重構造にしてもよく、又は上端縁部17a,17bを外側に折り曲げてもよい。
又は上端縁部17a,17bに前面シート10又は後面シート11よりも剛性の高いポリオレフィン系等の素材からなる凸条28を設け、袋体5の開口を補助できるようにしてもよい。
【0052】
又は、袋体5の上端縁部17a,17bは、折り畳まずに1重とし又は2重以上にした状態で、図9に示すように、上方に前面シート10及び/又は後面シート11を延在させて形成したタブ部26aを設けてもよい。
補強部6の上方に延在させたタブ部26aの形状は、図示しないが、前面シート10または後面シート11をそのまま上方に延在させた形状であってもよく又は図9に示すように前面シート10又は後面シート11よりも幅狭な矩形、その他の多角形,半円形若しくは半楕円形等であってもよい。
【0053】
また、上端縁部17a,17bを2重以上とした場合には、2重以上になっている箇所全体を熱融着により一体化していてもよい。上端縁部17a,17bを熱融着で一体化した場合には、上端縁部17a,17bのどの位置で切り裂いても折り畳んで重ねられたシート材2が分離せず、切り裂いた後の端部を一体的にまとめておくことができる。
【0054】
袋体5の上端縁部17a,17bを延長してタブ部26aとした場合には、例えば急須等の容器に蓋をする際にタブ部26aを湾曲させて急須内にしまうことができる。また、急須の蓋を開けた際にはタブ部26aを弾性復帰させて急須の開口部7から突出させることにより、タブ部26aをつまんで濾過具1を容器から容易に取り出すことができるという効果を奏する。
【0055】
また更に、濾過具1の前面シート10及び後面シート11は、セット加工により織物又は編物の交絡部分を融着させ、手作業で前面シート10及び又は後面シート11を容易に切り取ることができるせん断性を持たせている。したがって、タブ部26aが長すぎる等の場合にタブ部26aの上端を適宜の長さで切り取り、タブ部26aの長さを簡単に調節して使用することができるという効果を奏する。
【0056】
また、本実施形態において濾過具1は、1枚のシート材2を用いて作製されているが、濾過具1は、前面シート10、後面シート11及び下面シート12をそれぞれ又はいずれかだけを別シートで形成する複数のシート材2を重ね合わせ、端部同士を融着させて作製することも可能である。
また、上記実施形態では、下面シート12を山折りにして底面部3にマチを形成した構成としたが、濾過具1は、前面シート10及び後面シート11の側方にマチを形成した構成であってもよい。
このような構成によっても、上記実施形態又はその変形例と同様の効果を得ることができる。
【0057】
次に、本発明の実施例について説明する。但し、実施例は、本発明の内容を限定するものではない。
【0058】
[実施例1]
シート材2として、芯部が約250℃−260℃の高融点のPET、鞘部が約190℃−200℃である低融点のPETで構成された芯鞘型の合成繊維で、繊度が28dtex、経糸及び緯糸の密度が95本/インチで、195℃の熱風でセット加工されたメッシュ状の織物を用いた。
このシート材2のKES法によるせん断剛性の測定を、カトーテック(株)製の「KES試験機」を用いて10回行った。最大値と最小値の中間値の10回の平均値は、縦方向が8.09gf/cm・deg、横方向が8.12gf/cm・degであった。
【0059】
シート材2を、縦6cm、横11cmの前面シート10、縦5.5cm横11cmの後面シート11の間に、山折りに畳まれた際の縦寸法が3.5cm、横寸法が11cmの下面シート12を挟み込んだ状態になるように側面視M字状に折り畳み、前面シート10の下端縁部16と下面シート12の一方の下端、後面シート11の下端縁部16と下面シート12の他方の下端とを3mm幅で直線状に熱融着し横補強部6bを形成した。また、M字状に折り畳まれた前面シート10の側縁部15と後面シート11の側縁部15とを、下面シート12の側縁部15を挟んで3mm幅で熱融着し縦補強部6aとした。
【0060】
このようにして形成した濾過具1を開口させて緑茶の茶葉2.5gを投入し、急須内に設置した。濾過具1の急須内への設置後、急須内に注湯して蓋をし、急須を10回水平方向に円を描くように回しながら2分間抽出して、緑茶を茶碗に注いだ。急須内に設置された注湯前の本実施例の濾過具1の自立性と、注湯し緑茶を茶碗に出した後の、急須内の濾過具1の形状、自立状態及び茶葉漏れの状態は、下記表1のとおりである。
【0061】
なお、濾過具1に抽出原料を投入した上で飲料を抽出した後の自立性の評価は、抽出後の濾過具1の高さが抽出前の高さの80%未満となっている箇所がある場合を×(自立性無し)、80%以上85%未満となっている箇所がある場合を△(やや自立し難い)、85%以上である場合を〇(自立性有り)、90%以上を◎(自立性に優れている)とした。
【0062】
[比較例]
セット加工の温度を100℃にした以外は実施例1と同様の条件のシート材2を用いた。
本比較例のシート材のKES法によるせん断剛性の測定を実施例1と同様に10回行った。最大値と最小値の中間値の10回の平均値は、縦方向が0.41gf/cm・deg、横方向が0.42gf/cm・degであった。
また、本比較例のシート材を用いた点を除いて実施例1と同様の濾過具1を作製しし、実施例1と同様に緑茶を抽出した。
急須内に設置された注湯前の本比較例の濾過具1の自立性と、注湯し緑茶を茶碗に出した後の、急須内の濾過具1の形状、自立状態及び茶葉漏れの状態は、下記表1のとおりである。
【0063】
[参考例]
セット加工の温度を160℃にした以外は同様の条件のシート材2を用いた。
本参考例のシート材のKES法によるせん断剛性の測定を実施例1と同様にして10回行った。最大値と最小値の中間値の10回の平均値は、縦方向が2.05gf/cm・deg、横方向が1.90gf/cm・degであった。
また、本参考例のシート材を用いた点を除いて実施例1と同様の濾過具1を作製し、実施例1と同様に緑茶を抽出した。
急須内に設置された注湯前の本参考例の濾過具1の自立性と、注湯し緑茶を茶碗に出した後の、急須内の濾過具1の形状、自立状態及び茶葉漏れの状態は、下記表1のとおりである。
【0064】
【表1】
【0065】
(評価結果)
実施例1より、KES法によるせん断剛性値が、縦横方向共に約8.05〜8.15gf/cm・degの濾過具1であれば、袋体5の形状を非常に良好に維持することができ、茶葉漏れもなく、飲料を抽出した後であってもしっかりと形状及び自立が可能であることが分かった。したがって、2回目以降の抽出も行い易かった。
【0066】
比較例より、KES法によるせん断剛性値が、縦横方向が0.4〜0.45gf/cm・deg以下の濾過具1は、袋体5の立体形状を維持することが困難であり、自立性が保てないことが分かった。
【0067】
参考例より、KES法によるせん断剛性値が、縦横方向共に約1.90〜2.10gf/cm・degの濾過具の場合、急須内で形状を維持することが可能な場合もあったが、抽出後の側面部の腰折れが発生して飲料の抽出時に茶葉漏れが若干発生し、また2回目以降の抽出が行い難いことがわかった。
【符号の説明】
【0068】
1…濾過具
2…シート材
3…底面部
4…側面部
5…袋体
6…補強部
10…前面シート
11…後面シート
12…下面シート
25…持ち手
26,26a…タブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9