特許第6903312号(P6903312)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6903312
(24)【登録日】2021年6月25日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】キャパシタの充放電方法。
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/02 20130101AFI20210701BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20210701BHJP
   H01G 13/00 20130101ALI20210701BHJP
【FI】
   H01G11/02
   H01G11/30
   H01G13/00 361F
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-73277(P2017-73277)
(22)【出願日】2017年3月31日
(65)【公開番号】特開2018-174288(P2018-174288A)
(43)【公開日】2018年11月8日
【審査請求日】2020年2月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100196047
【弁理士】
【氏名又は名称】柳本 陽征
(72)【発明者】
【氏名】星野 勝義
(72)【発明者】
【氏名】菅原 陽輔
【審査官】 鈴木 駿平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−195865(JP,A)
【文献】 特表2004−503456(JP,A)
【文献】 Digby D. Macdonald,Cyclic Voltammetry of Copper Metal in Lithium Hydroxide Solution at Elevated Temperatures,Journal of The Electrochemical Society,米国,The Electrochemical Society,1974年,121, 5,p.651-656
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/00−11/86
H01G 13/00
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動作電極と、前記動作電極に対向して配置される対向電極と、前記動作電極と前記対向電極の間に充填される電解液と、を含むキャパシタの充電方法であって、
前記動作電極は、表面に銅ナノ構造物を備えたものであり、
飽和カロメル参照電極を用いて前記動作電極の電位を計測した場合に、前記飽和カロメル参照電極に対する前記動作電極の電位が前記動作電極において酸化銅の還元反応が生じる負の電位範囲を含むように充放電を行うキャパシタの充放電方法。
【請求項2】
前記銅ナノ構造物は、銅ナノワイヤーである請求項1記載のキャパシタの充放電方法。
【請求項3】
前記飽和カロメル参照電極に対し、前記動作電極の電位が−2V以上1V以下の範囲となるように充放電を行う請求項1記載のキャパシタの充放電方法。
【請求項4】
前記電解は、水酸化物イオンを含む請求項1記載のキャパシタの充放電方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャパシタの充放電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対する取り組みが重要となってきており、より環境への負担が軽く効率のよい電源が求められてきている。この要望に寄与すると期待される一つの技術として、電気化学キャパシタがある。電気化学キャパシタとは、電気化学的な作用を用いて電荷を蓄積、出力するためのデバイスであり、代表的なものとして電気二重層キャパシタ、さらに最近新たに提案されてきているものとしてレドックスキャパシタがある。
【0003】
電気二重層キャパシタとは、一対の電極とこの一対の電極の間に配置される電解液とを有し、電解液と電極の界面において生じるイオンの吸着(非ファラデー反応)により形成される電気二重層を利用して電荷を蓄積することのできるキャパシタであり、非常に大きな比表面積を有する炭素材料等を電極として用いることで大容量化が可能であり、大きく期待されている。
【0004】
一方、レドックスキャパシタとは、活物質の複数の連続的なレドックス(酸化還元)反応により発現する疑似容量を利用して電荷を蓄積することのできるキャパシタであり、上記の電気二重層キャパシタよりも大容量で、かつ、電池よりも瞬時充放電特性に優れているといった利点があり、より期待されてきている。
【0005】
ところで上記キャパシタの可能性に関し、下記特許文献1には、銅ナノ構造物を有するキャパシタに関する技術提案がある。
【0006】
【特許文献1】特開2011−195865号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献に記載の技術によると、静電容量として14mAh/g程度の値に過ぎず、より大きな静電容量のキャパシタが望まれる。
【0008】
そこで、本発明は、上記課題に鑑み、より高容量のキャパシタの充放電方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題について、本発明者らが鋭意検討を行っていたところ、動作電極に対し負の電位範囲を含ませることで、上記キャパシタにおいて飛躍的に静電容量が高まる活用が可能であることを発見し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明の一観点に係るキャパシタの充放電方法は、動作電極と、この動作電極に対向して配置される対向電極と、動作電極と対向電極の間に充填される電解液と、を含むキャパシタの充電方法であって、動作電極は、表面に銅ナノ構造物を備えたものであり、動作電極に対し、負の電位範囲を含んで充放電を行うものである。
【発明の効果】
【0011】
以上、本発明によって、より高容量のキャパシタの充放電方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係るキャパシタの断面概略図である。
図2】実施例に係るキャパシタのサイクリックボルタメトリーの結果を示す図である。
図3】実施例に係るキャパシタの充放電特性(電位と時間の関係)を示す図である。
図4】実施例に係るキャパシタの充放電特性(電位と時間の関係)を示す図である。
図5】実施例に係るキャパシタの充放電特性(電位と時間の関係)を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例における具体的な例示にのみ限定されるわけではない。
【0014】
(キャパシタ)
図1は、本実施形態に係るキャパシタ(以下「本キャパシタ」という。)1の構造の断面概略図である。本キャパシタ1は、いわゆる電気化学キャパシタであり、対向して配置される一対の電極2a、2bと、この一対の電極に形成される銅ナノ構造物3と、この一対の電極間に配置される電解質層4と、を有する。一対の電極2a、2bの一方は動作電極であり、他方はこれに対向して配置される対向電極となる。
【0015】
本キャパシタ1における一対の電極2a、2bは、導電性を有し、電解液を保持する機能を有するものであり、材質としては限定されるわけではないが、導電性の板や絶縁性の板の上に導電性の膜を配置したものを例示することができる。導電性の板の例としては、例えば金属板、カーボン板を例示することができ、絶縁性の板の上に導電性の膜を配置したものとしては、ガラス、ポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム等の絶縁性の板の上に、ITO(酸化インジウムスズ)、IZO(酸化インジウム亜鉛)、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、ATO(アルミニウムドープ酸化スズ)、GTO(ガリウムドープ酸化スズ)等の導電性の膜を配置したものを例示することができる。なお、生産性、機械的強度、価格、軽量性の観点からは、金属板又はITOであることが好ましい。
【0016】
また一対の電極2a、2bの間の距離は、充放電反応が可能である限りにおいて限定されるわけではないが、10μm以上5cm以下であることが好ましく、100μm以上1cm以下であることがより好ましい。10μm以上とすることで充放電の電気化学反応を生じさせるための電気二重層の十分な成長を行わせることができ、5cm以下とすることで軽量・コンパクト化が可能となる。
【0017】
本キャパシタ1における銅ナノ構造物3は、実電極面積を拡大することができるよう形成されるものである。銅ナノ構造物としては、電極面積を拡大できる限りにおいて限定されるわけではないが、銅ナノワイヤー、銅ナノデンドライト、ポーラス銅、銅ナノ・マイクロビーズ等を例示することができ、より大きな実表面積を形成できる観点から銅ナノワイヤーであることがより好ましい。銅ナノ構造物の形成される量としては、十分な実表面積が得られる限りにおいて限定されず、例えば10μg/cm以上1g/cm以下であることが好ましく、より好ましくは50μg/cm以上500mg/cm以下である。
【0018】
また、本キャパシタ1における銅ナノ構造物は、一方の電極にのみ形成されていてもよいが、両方の電極上に形成されていても良い。
【0019】
また本キャパシタ1における電解液は、イオン伝導による電流が流れる媒体であって、限定されるわけではないが、少なくとも溶媒と支持電解質から成る液体電解質、ゲル電解質又は固体電解質である。
【0020】
また本キャパシタ1の電解液における溶媒としては、支持電解質を保持し、かつイオンに解離することができるものであり、この限りにおいて限定されるわけではないが、例えば水、有機溶媒、ゲル状物質、固体電解質を例示することができ、作動電圧の拡大、従ってエネルギー密度の向上の観点からはアセトニトリル、プロピレンカーボネート、N―メチルピロリドン、γ―ブチロラクトン等の有機溶媒であることがより好ましい。
【0021】
また本キャパシタ1における電解液の支持電解質は、媒体中でイオンに解離しイオン伝導を発現することができるものであり、この限り限定されるわけではないが、例えば溶媒として水を用いた場合、LiCl、LiBr、LiSO、LiOH、LiClO、NaCl、NaBr、NaSO、NaOH、NaClO、KCl、KBr、KSO、KOH、KClO、(CNOHを挙げることができ、溶媒として有機溶媒を用いた場合、(CNClO、(CNBF、(CNPF、(CNClO、(CNBF、(CNPF、LiClO、NaClO、KClO、(CNOHを挙げることができる。銅ナノ構造物と水系の溶媒を組み合わせたキャパシタを形成する場合、銅ナノ構造物の化学的安定性の観点からはLiOH、NaOH、KOH、(CNOH及び(CNOHであることが好ましい。支持電解質の含まれる量としては、上記機能を奏することができる限りにおいて限定されるわけではないが、溶媒の重量を100重量部とした場合に、0.0002重量部以上300重量部以下であることが好ましく、0.002重量部以上40重量部以下であることがより好ましい。0.0002重量部以上とすることで充放電電気化学反応における電気二重層の形成を十分に行うことが可能となり、300重量部以下とすることで、電解液の粘度を高くなり過ぎないようにすることができ、電解液中におけるイオンの移動をスムースに行うことができ、充放電に必要となる時間を短縮することが可能となる。
【0022】
本キャパシタ1は、電極上に銅ナノ構造物を配置することで、電極の実表面積が拡大し、かつ銅ナノ構造物表面は可逆的な電気化学的酸化反応(充電)及び還元反応(放電)を受けるために、より安定的な充放電特性を発現する、より高エネルギーかつ高出力の電気化学キャパシタとなる。本実施形態に係る電気化学キャパシタは、銅ナノ構造物表面で生じる可逆的な電気化学酸化還元反応を利用するので、レドックスキャパシタに分類される。
【0023】
(充放電方法)
次に、本キャパシタの充放電方法(以下「本方法」という。)について説明する。本方法は、外部の駆動装置と接続され、一対の電極間に電圧を印加して電荷を蓄積すると共に、短絡する又は逆の電圧を印加することによって蓄積電荷を放出することができる。より具体的に、参照電極(例えば飽和カロメル電極SCE)を用いた場合で説明すると、印加する電圧としては、充電が可能であり、材料の分解電圧を越えない限りにおいて限定されるわけではないが、参照電極SCEに対し負の電位を印加することが含まれている必要があり、好ましくは−2V以上1V以下の範囲の電位とすることが好ましく、より好ましくは−1.5V以上0.75V以下の範囲の電圧とすることが好ましい。
【0024】
より具体的に説明すると、後述の実験例から明らかとなるが、銅ナノ構造物を備えた電極を作製し、電位測定範囲を負の電圧範囲を含む範囲、より具体的には−1.5〜0.75と設定し、サイクリックボルタンメトリーを行ったところ、この範囲でも良好な酸化還元繰り返し特性をもち、下記式で示す酸化銅(I)から銅への還元、更には酸化銅(II)から銅への還元を行われる。すなわち、この二段階の還元によって、飛躍的により多くの電荷を蓄えることができる。
【数1】
【0025】
以上、本発明によって、より高容量のキャパシタの充放電方法を提供することが可能となる。
【実施例】
【0026】
以下、上記実施形態において説明した電気化学キャパシタ電極について、実際に作製し、その効果を確認した。以下に説明する。
【0027】
3Mアンモニア水に銅アンミン錯体[Cu(NH]SOを終濃度が25mMになるように加え、導電性塩としてLiSOを終濃度が0.1Mになるように加え、銅アンミン錯体水溶液を得た。この溶液を用い、陰極としてITO、陽極として白金板、参照電極として飽和カロメル電極を使用し、溶液温度18℃、電解電位−1.45V、通電量2.0C/cmで電気分解を行い、陰極上に銅ナノ構造物として銅ナノワイヤーを形成した。
【0028】
次に、キャパシタ特性を評価するために電気化学アナライザー(ALS Japan Inc. Model 750A)を用いて、水酸化リチウム水溶液中での繰り返しサイクリックボルタメトリーを行った。具体的には3電極式のガラスセルを用いて、動作電極に銅ナノワイヤー電極(硫酸テトラアンミン銅25mM、電解電位−1.45V、LiSO濃度0.1M、アンモニア水濃度3Mおよび通電電気量2.0C/cmの最適条件下で作製した)を、参照電極にSCE、そして対向電極には白金板を用いた。電解液は水酸化リチウム水溶液(0.1M)を用いた。掃引範囲は−1.5V〜0.75Vとした。この結果を図2に示す。
【0029】
次に、文献を元にこれらの酸化還元波の帰属を行った。説明の簡便のために、−0.3V付近の酸化波をA、0.4V付近のピークをBとした。この2つの反応は文献よりそれぞれ銅から酸化銅(I) 、 酸化銅(II)への酸化であることがわかっている。しかしそれぞれの銅への還元の順序は諸説あるため、その対応するピークの検討をした。なお、逆のこれらの還元波をC及びDとした。
【0030】
掃引範囲を種々変えて検討を行った結果、Cの反応では酸化銅(I)から銅への還元、Dの反応では酸化銅(II)から銅への還元が行われていることがわかった。正確には上記実施形態において示した(1)及び(2)の電気化学反応式が起こっていることを確認した。すなわち、充放電の電位範囲に負の電圧範囲を含めることでこの反応を起こすことが可能であり、高い充放電を行うことのできるキャパシタの充放電方法となる。
【0031】
次にこれら酸化反応を充電、これら還元反応を放電と見立てて、充放電試験を行った。図3に、電極面積1.0×1.0cm、一定電流5.6V/gを通電したときに得られる充放電特性(電位と時間の関係)を示す。なお、充放電試験を繰り返す度に充放電にかかる時間が減少し容量が減少したが、繰り返し回数2〜50回までと60回以降では放電曲線の形が変わっていた。放電曲線の形から初めの50回では、−1Vで酸化銅(II)と酸化銅(I)が同時に銅へ還元されていたが、60回以降の充放電では、放電過程が2段階になった。なおここで60回以降の充放電曲線を拡大したものを図4に示しておく。波形がこのように2段階になったのは、酸化銅(II)から酸化銅(I)へ、そして酸化銅(I)から銅への2段階で還元が進んでいることを示す。
【0032】
また上記放電曲線の解析から、放電容量を求めた。少なくとも40回の充放電において300mAh/gを超え、市販されているリチウムイオン電池の100〜200mAh/gを大きく超えていることを確認した。
【表1】
【0033】
また、充放電時の電流密度を6.25A/gに変えた場合の結果を図5、下記表に示す。この結果では、少なくとも100回、放電容量が200mAh/gを超えた値を示し、これも市販のリチウムイオン電池の放電容量を凌ぐ容量となった。
【表2】
【0034】
以上、本発明の有効性について確認した。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、キャパシタの充放電方法として産業上の利用可能性がある。
図1
図2
図3
図4
図5