特許第6903351号(P6903351)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6903351
(24)【登録日】2021年6月25日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】組換えRSV抗原
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/155 20060101AFI20210701BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20210701BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20210701BHJP
   C07K 14/115 20060101ALI20210701BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20210701BHJP
   C12N 15/45 20060101ALI20210701BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20210701BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20210701BHJP
【FI】
   A61K39/155ZNA
   A61P11/00
   A61P37/04
   C07K14/115
   C07K19/00
   C12N15/45
   C12N15/62 Z
   A61K39/39
【請求項の数】19
【全頁数】46
(21)【出願番号】特願2019-527542(P2019-527542)
(86)(22)【出願日】2017年11月22日
(65)【公表番号】特表2020-506876(P2020-506876A)
(43)【公表日】2020年3月5日
(86)【国際出願番号】CN2017112361
(87)【国際公開番号】WO2018095330
(87)【国際公開日】20180531
【審査請求日】2019年5月22日
(31)【優先権主張番号】62/425,078
(32)【優先日】2016年11月22日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506292158
【氏名又は名称】国立台湾大学
【氏名又は名称原語表記】National Taiwan University
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】黄 立民
(72)【発明者】
【氏名】黄 任民
【審査官】 柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】 特表2016−533332(JP,A)
【文献】 特表2016−519658(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/155
C07K 14/115
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換え呼吸器合胞体ウイルス(RSV)Fタンパク質を含む抗原であって、
前記組換えRSV Fタンパク質は、両末端がHRN領域およびHRC領域と接する抗原性領域を含有し、
前記HRN領域およびHRC領域は、それぞれ、SEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:2のアミノ酸配列との一致度が少なくとも90%であり、かつSEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:2と同じ機能を有するアミノ酸配列を含有し、
前記抗原性領域は、部位φ、部位II、および部位IVからなる群から選ばれる複数の抗原性部位を含有し、
前記部位φ、部位II、および部位IVは、それぞれ、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、およびSEQ ID NO:5のアミノ酸配列との一致度が少なくとも80%であり、かつSEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、およびSEQ ID NO:5の抗原特異性を維持するアミノ酸配列を含有し、
前記抗原性部位はリンカーにより互いに連結し、
前記リンカーは、出現ごとに独立に2〜20個のアミノ酸からなり、前記リンカーは、GSGS、GGGS、GGSG、SGSGおよびGGのうちのいずれか一つのアミノ酸配列を含む、
抗原。
【請求項2】
前記抗原性領域は、リンカーにより前記HRN領域に連結する複数の部位φを含む、請求項1に記載の抗原。
【請求項3】
前記抗原性領域は、部位II、および部位IVを含む、請求項1に記載の抗原。
【請求項4】
前記HRN領域はリンカーにより部位IIに連結し、部位IVは前記リンカーにより前記HRC領域に連結する、請求項3に記載の抗原。
【請求項5】
前記組換えRSV Fタンパク質は、SEQ ID NO:8のアミノ酸配列との一致度が少なくとも90%であり、かつSEQ ID NO:8と同じ機能を有するアミノ酸配列を含む、請求項4に記載の抗原。
【請求項6】
前記抗原性領域は、三つの部位φを含む、請求項1に記載の抗原。
【請求項7】
前記組換えRSV Fタンパク質は、SEQ ID NO:7のアミノ酸配列との一致度が少なくとも90%であり、かつSEQ ID NO:7と同じ機能を有するアミノ酸配列を含む、請求項6に記載の抗原。
【請求項8】
前記抗原は、5C4、D25、またはAM22融合前特異的な抗体に特異的に結合する、請求項1に記載の抗原。
【請求項9】
請求項1に記載の抗原をコードするものである、核酸分子。
【請求項10】
コドンが最適化されて原核細胞内で発現するためのものである、請求項9に記載の核酸分子。
【請求項11】
前記原核細胞は、大腸菌細胞である、請求項10に記載の核酸分子。
【請求項12】
前記核酸分子は、SEQ ID NO:9の核酸配列との一致度が少なくとも90%である核酸配列を含む、請求項11に記載の核酸分子。
【請求項13】
コドンが最適化されて真核細胞内で発現するためのものである、請求項9に記載の核酸分子。
【請求項14】
前記真核細胞は、酵母細胞または哺乳動物細胞である、請求項13に記載の核酸分子。
【請求項15】
前記哺乳動物細胞は、ヒト細胞である、請求項14に記載の核酸分子。
【請求項16】
有効量の請求項1に記載の抗原を含む、ワクチン組成物。
【請求項17】
さらに、医薬上許容できるキャリアおよび/またはアジュバントを含む、請求項16に記載のワクチン組成物。
【請求項18】
前記アジュバントは、CpGオリゴヌクレオチドまたはB型肝炎コアウイルス様粒子である、請求項17に記載のワクチン組成物。
【請求項19】
Thl免疫応答を促進する、請求項18に記載のワクチン組成物。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本出願は、2016年11月22日付けて出願した米国の仮出願US62/425,078の優先権を主張しており、ここに参照することによって、その全体が本明細書中へ組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、抗原、核酸分子、および免疫応答、特に、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)に対抗する免疫応答を引き起こすためのワクチン組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
RSVは、乳幼児の下気道感染の最もよく見られる原因とされている。世界保健機関の報告によると、RSVは、世界中で毎年およそ199,000の死亡例を引き起こし、そのうちの99%は発展途上国で出現している(Nair,H.,et al.,2011)。RSVは、全年齢層の人に感染させて疾患を発生させることができ、老人や免疫力低下の個体が最も重篤である。大部分の幼児は、二歳の前に少なくとも一回感染されることがあり、また、RSVに対する不完全な免疫性により、全生命過程において再び感染され続ける可能性がある(Hall,C.B.,et al.,1991)。
【0004】
RSVによる疾病負荷が高いにもかかわらず、現時点では、RSVに用いられる予防性および治療性の方法は非常に限られている。例えば、ヒト化モノクローナル抗体であるパリビズマブ(Palivizumab)(SYNAGIS(登録商標);MedImmune,Inc.)は、95%のヒト抗体配列および5%のマウス抗体配列を含む。パリビズマブは、RSVのFサブユニットのA抗原部位におけるエピトープに結合することで、RSVによる下気道疾患を治療できる。しかしながら、パリビズマブは、高リスクの乳児での使用のみが許可されている。また、抗ウイルス剤リバビリン(ribavirin)は、RSV肺炎および細気管支炎に対して治療効果があることが示されており、また、リバビリンは、小児科群のRSV感染の治療のみに使用されている。さらに、リバビリンは、多くの副作用、例えば、不眠症、呼吸困難、頭痛、吐き気、筋肉痛、情緒不安定、溶血性貧血、ヘモグロビン減少、アレルギー反応および肝臓問題を伴う。なお、リバビリンは胎児への潜在的危険性があるため、妊婦に使用することはおすすめできない。
【0005】
1960年代の末期では、ホルマリンで不活化したRSV(FIRSV)ワクチンの乳幼児に対する免疫効果を評価した。FIRSVワクチンは、高いレベルの血清抗体を発生させたにもかかわらず、RSVによる疾患の予防または治療を成功させることはなかった。逆に、幼児早期でFIRSVワクチンを受けた人は、後でRSVに感染される際に、ワクチン未接種の個体よりも重篤な下気道疾患を経験することになる。また、今までの研究は、RSVチャレンジ(challenge)マウスの体内では、FIRSVがに顕著な肺胞隔炎(alveolitis)および血管周囲炎(perivasculitis)を誘発したことが示されている。
【0006】
ウイルス様粒子(VLPs)、サブユニットおよび弱毒化生ワクチンを含むRSVワクチンを開発するための研究は多く実施されてきた。しかしながら、未だに、RSV感染に対抗するワクチンは承認されていない。巨大な疾病負荷と限られた予防方法のため、現在は、以前よりも安全かつ有効なRSVワクチンが求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記事情に鑑みて、本発明は、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)Fタンパク質の天然の三量体構造を模擬するために、組換えRSV Fタンパク質を含む抗原を提供する。
【0008】
前記組換えRSV Fタンパク質は、両末端がHRN領域およびHRC領域と接する抗原性領域を含み、前記抗原領域は、部位φ、部位II、および部位IVからなる群から選ばれる一つまたは複数の抗原性部位を含有し、但し、前記抗原領域が一つを超える抗原部位を含有すると、前記抗原部位はリンカー(linker)により互いに連結し、前記リンカーは出現ごとに独立に2〜20個のアミノ酸からなる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の具体的な実施態様において、前記抗原部位は、部位φ、部位II、および部位IVを含む。本発明のもう一つの具体的な実施態様において、前記HRN領域は部位φに直接に連結し、部位IVはリンカーにより前記HRC領域に連結する。
【0010】
本発明のまた一つの態様によれば、本発明は、上記組換えRSV F抗原をコードする核酸分子を提供する。
【0011】
本発明のまたもう一つの態様によれば、本発明は、有効量の上記抗原または核酸分子を含むワクチン組成物を提供する。
【0012】
もう一つの具体的な実施態様において、被験者体内のRSV感染を十分に予防または緩和する条件で、一種類または複数種類の有効量の上記抗原、前記抗原をコードまたは発現する核酸分子またはプラスミドを含むワクチン組成物を前記被験者に投与する。前記ワクチン組成物は、前記被験者体内で、RSV抗原、例えば、RSV Fタンパク質に対抗する免疫応答を十分に引き起こす量で投与する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、組換えRSV Fタンパク質、および前記組換えRSV Fタンパク質をコードする核酸分子を提供する。また、本発明は、有効量の前記抗原または前記核酸分子を含むワクチン組成物を提供する。本発明の抗原、核酸分子およびワクチン組成物は、RSVに特異的な抗体応答を誘導し、前記被験者をRSV感染から保護することができ、副作用を引き起こさない。また、野生型RSV Fタンパク質と比べて、本発明の組換えRSV Fタンパク質は、長さがより短く、より良い発現レベルをもたらせる。よって、本発明の抗原、核酸分子、およびワクチン組成物は、大規模な生産が相対的に容易であり、抗体を区別する特異性を増加させるのに寄与し、不必要な反応、例えば、アレルギーを避ける。
【図面の簡単な説明】
【0014】
下記の具体的な実施態様の詳細な説明と図面を参照することで、本発明をより完全に理解できる。
図1図1A〜1Cは、それぞれ、HRφ24、HRφおよびHRφ−3φ組換えタンパク質を示す概略図である。
図2図2A〜2Iは、HRφ24、HRφ、HRφ−3φ組換えタンパク質およびHBcのSDS−PAGE分析結果である。図2A、2C、2E、および2Gは、それぞれ、精製したHRφ24、HRφ、HRφ−3φ組換えタンパク質およびHBcについての、クマシーブリリアントブルー染色を示し;図2B、2D、および2Fは、それぞれ、精製したHRφ24、HRφ、およびHRφ−3φ組換えタンパク質についての、抗His抗体を使用したウェスタンブロッティングを示し;図2Hは、精製したHBcについての、ウサギポリクローナル抗HBc抗体を使用したウェスタンブロッティングを示し;また、図2Iは、精製したHBcおよびHRφ24組換えタンパク質についての、マウスモノクローナル抗RSV抗体を使用したウェスタンブロッティングを示す。
図3図3Aおよび3Bは、それぞれ、精製したHBcおよびHRφ24組換えタンパク質のTEM画像を示す。
図4図4は、鼻内(IN)免疫接種スケジュールを示す。候補ワクチンを使用して、各群のマウスに免疫接種を0、3、および6週間目で合計3回行い、9週間目でマウスにRSVチャレンジを受けさせる。さらに、もう一つの群は、RSVチャレンジの前に、ホルマリンで固定したRSV(FIRSV)を筋肉(i.m)経由で免疫接種を行う。RSVチャレンジの2日前に、同じ投与スキームを使用した各群から、マウス血清、BALFおよび脾臓を採集する。
図5図5A〜5Eは、HBcもしくはCpGと混合したか、または混合していないHRφ24、HRφもしくはHRφ−3φの鼻内投与を3服受けたマウスの体内におけるHRφ24特異的抗体応答を示す。RSVチャレンジの2日前に、各群からマウス血清を採集する。図5A、5B、5C、および5Eは、それぞれ、血清から測定したHRφ24特異的全IgG、IgG1、IgG2a、およびIgA応答を示し;また、図5Dは、BALFから測定したHRφ24特異的分泌型IgA(sIgA)応答を示す。
図6図6Aおよび6Bは、RSVチャレンジ後のマウス体重変化を示す。RSVチャレンジを行った後、対照群または鼻内投与を4服受けてワクチンを接種したマウスの体重変化を5日間観察する。体重変化は、0日目の体重に対して減少した百分率で示す。
図7図7は、肺組織病理学を示す。RSVチャレンジを行った5日後、対照群またはワクチンを接種したマウスの肺組織を採集し、組織学的分析を行う。
図8図8は、肺部ウイルス負荷を示す。RSVチャレンジを行った5日後、対照群またはワクチンを接種したマウスの肺組織を採集し、RSV N遺伝子をターゲットとするqRT−PCRで肺部ウイルス負荷分析を行う。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を下記の具体的な実施態様で例示的に説明する。当業者は、本発明の開示および説明に基づいて、本発明の他の利点を予想できる。本発明は、異なる具体的な実施態様に開示されているように実施または応用できる。本発明の精神と範疇に反せず、異なる態様および応用において本発明を実施するように、上記の実施態様を修飾および/または変更できる。
【0016】
本明細書において、明記されていない限り、単数形式の「一つ」および「前記」は複数の対象を含む。よって、例えば、記載されている「一つの抗原」は抗原の混合物を含み、記載されている「一つの医薬上許容できるキャリア」は2種類または複数種類のこのようなキャリアの混合物等を含む。このように、用語の「一つ」、「一つまたは複数の」、および「少なくとも一つ」は本明細書で互換に使用できる。
【0017】
また、本明細書で使用されている「および/または」は、2種類の特定の特徴または成分のうちの一方または両方の詳細な説明に使用される。よって、本明細書において、文型の「Aおよび/またはB」に使用される用語である「および/または」は、「AおよびB」、「AまたはB」、「A(のみ)」および「B(のみ)」の意味を含む。
【0018】
本発明は、組換えRSV Fタンパク質を含む抗原を提供する。前記組換えRSV Fタンパク質は、両末端がHRN領域およびHRC領域と接する抗原領域を含有し、前記抗原領域は、部位φ、部位II、および部位IVからなる群から選ばれる一つまたは複数の抗原部位を含有する。
【0019】
本明細書において、RSVは、三つの連続遺伝子(SH−G−F)でコードされる小疎水性糖タンパク質(SH)、付着糖タンパク質(G)、および融合糖タンパク質(F)という三種類の表面糖タンパク質を有する。RSVワクチンの研究開発において、主要なターゲット抗原がRSV FおよびGであるのは、これらの抗原が各々に中和抗体およびT細胞応答を発生させることができるためである。特にFは、RSV隔離群ではかなりの保守性を有するため、注目されている。従来、RSV Fの融合前と融合後の二つの構造に発見され、中和(NT)活性に関連する周知の二種類の主な抗原性部位が存在している。これらは、最初はネズミ科動物のモノクローナル抗体(mAb)に結合する1129(部位II)(Beeler,J.A.et al.,1989;Arbiza,J.,et al.,1992)、および101F(部位IV)(Wu,S.J.,et al.,2007)により同定された。部位IIは、パリビズマブのターゲットとして知られており、パリビズマブは、高リスク群の乳児群における重篤なRSV疾患を低減できる。McLellanら(McLellan,J.S.,et al.,2013)は、RSVを有効に中和するが、融合後のFタンパク質に結合しないことを示すマウス抗体5C4を単離した。5C4は、免疫接種されたPBMCsから単離したD25およびAM22他の二種類の抗体とこのような性質を共有し、この抗体は、RSVを中和することにおいて、パリビズマブより100倍大きい効果を示す(McLellan,J.S.,et al.,2013)。D25およびAM22は、部位φをターゲットとし、前記部位は、融合前のRSV F三量体の表面に位置する準安定状態抗原性部位である(Spits,H.,et al.,2010;Beaumont,T.,et al.,2012)。Fタンパク質の融合前の晶体構造と融合後の晶体構造は、二つの構造のいずれにも部位IIおよび部位IVが発見されているが、部位φが融合前の形式のみに特異性を有することを示唆している(McLellan,J.S.,et al.,2013)。
【0020】
RSV Fの融合ペプチド領域は、F1サブユニットのアミノ基末端に位置し(Collins,P.L.,et al.,1996)、その膜貫通セグメントは、4,3−疎水性7塩基繰り返し配列(HR)、およびコイルドコイル構造を思わせる配列モチーフ(Chambers,P.,et al.,1990;Singh,M.,et al.,1999)という二つの領域を含む。これらの領域は、それぞれ、HRNおよびHRCを指し、約270個のアミノ酸の中間領域で隔てられている。HRNおよびHRCは、三量体であるヘアピン様構造を形成し、前記HRC領域は、HRN領域によって形成されたコイルドコイルと反平行になるように封入する(Baker,K.A.,et al.,1999)。
【0021】
本発明の具体的な実施態様において、前記HRN領域およびHRC領域は、それぞれ、SEQ ID NO:1(MAVSKVLHLEGEVNKIKSALLSTNKAVVSLSNGVSVLTSKVLDLKNYIDKQLLPIVNKQS)およびSEQ ID NO:2(NFYDPLVFPSDEFDASISQVNEKINQSLAFIRKSDELLHNVNAGK)のアミノ酸配列とは少なくとも約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の一致性を有し、かつSEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:2と同じ機能を有するアミノ酸配列を含む。本発明のもう一つの具体的な実施態様において、前記抗原領域に含まれている抗原部位は、部位φ、部位II、および部位IVからなる群から選ばれる。前記部位φ、部位II、および部位IVは、それぞれ、SEQ ID NO:3(KNYIDKQLLPIVNK)、SEQ ID NO:4(NSELLSLINDMPITNDQKKLMSN)、およびSEQ ID NO:5(KNRGIIKTFS)のアミノ酸配列とは少なくとも約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の一致性を有し、かつSEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、およびSEQ ID NO:5と同じ機能を有するアミノ酸配列を含む。本発明のもう一つの具体的な実施態様において、前記抗原領域が一つを超える抗原部位を含有すると、前記抗原部位はリンカーにより互いに連結し、前記リンカーは出現ごとに独立に2〜20個のアミノ酸からなる。
【0022】
本明細書において、用語の「配列一致性」または、例えば、「80%の配列が一致する」を含むこととは、比較ウィンドウ全体において、ヌクレオチドが一対一またはアミノ酸が一対一であることを基準とする場合の配列の一致性の程度を示す。よって、「配列一致性の百分率」は、比較ウィンドウ内で、二つの最も適切に対応する配列を比較して、二つの配列に出現している一致した核酸塩基(例えば、A、T、C、G、I)または一致したアミノ酸残基(例えば、Ala、Pro、Ser、Thr、Gly、Val、Leu、Ile、Phe、Tyr、Trp、Lys、Arg、His、Asp、Glu、Asn、Gln、CysおよびMet)の位置数を確認し、整合位置数を得って、前記整合位置数を比較ウィンドウ内の位置の総数(すなわち、ウィンドウのサイズ)で割った結果に100を掛けることで、配列一致性の百分率を得ることにより、算出できる。含まれているのは、本明細書に開示されているいずれの参考配列(例えば、配列表を参照)と少なくとも約80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%または100%の配列一致性を有するヌクレオチドおよびポリペプチドであり、典型的には、前記ポリペプチドの変異体は、その参考ポリペプチドの少なくとも一種の生物学活性または機能を保持している。
【0023】
本発明の具体的な実施態様において、前記抗原領域は、リンカーによりHRN領域に連結する少なくとも一つの部位φを含む。
【0024】
本発明のもう一つの具体的な実施態様において、HRN領域、リンカーによりHR領域に連結する(例えば、図1Bを参照)。さらにもう一つの具体的な実施態様において、前記組換えRSV Fタンパク質は、SEQ ID NO:6(MAVSKVLHLEGEVNKIKSALLSTNKAVVSLSNGVSVLTSKVLDLKNYIDKQLLPIVNKQSGSGSGSEFGGSGNFYDPLVFPSDEFDASISQVNEKINQSLAFIRKSDELLHNVNAGKLEHHHHHH)のアミノ酸配列との一致度が少なくとも約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%であり、かつSEQ ID NO:6と同じ機能を有するアミノ酸配列を含む。
【0025】
本発明のもう一つの具体的な実施態様において、前記抗原領域は、つの部位φを含(例えば、図1Cを参照)。さらにもう一つの具体的な実施態様において、前記組換えRSV Fタンパク質は、SEQ ID NO:7(MAVSKVLHLEGEVNKIKSALLSTNKAVVSLSNGVSVLTSKVLDLKNYIDKQLLPIVNKQSGSGSASSNIKENKCNAAKNYIDKQLLPIVNKGGGSSNIKENKCNAAKNYIDKQLLPIVNKGGEFSNIKENKCNAAKNYIDKQLLPIVNKKLGGSGNFYDPLVFPSDEFDASISQVNEKINQSLAFIRKSDELLHNVNAGKLE)のアミノ酸配列との一致度が少なくとも約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%であり、かつSEQ ID NO:7と同じ機能を有するアミノ酸配列を含む。
【0026】
本発明のもう一つの具体的な実施態様において、前記抗原領域は、部位II、および部位IVを含む。本発明のもう一つの具体的な実施態様において、前記HRN領域はリンカーにより部位IIに連結し、部位IVはリンカーによりHRC領域に連結する(例えば、図1Aを参照)。さらにもう一つの具体的な実施態様において、前記組換えRSV Fタンパク質は、SEQ ID NO:8(MAVSKVLHLEGEVNKIKSALLSTNKAVVSLSNGVSVLTSKVLDLKNYIDKQLLPIVNKQSGSGSNSELLSLINDMPITNDQKKLMSNNVQIVRQGGGSCTASNKNRGIIKTFSNGGGSGNFYDPLVFPSDEFDASISQVNEKINQSLAFIRKSDELLHNVNAGK)のアミノ酸配列との一致度が少なくとも約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%であり、かつSEQ ID NO:8と同じ機能を有するアミノ酸配列を含む。
【0027】
本発明の具体的な実施態様において、前記リンカーは、出現ごとに独立に2〜20個のアミノ酸からなり、また、前記リンカーは、独立に、GSGS、GGGS、GGSG、SGSGおよびGGのうちのいずれ一つのアミノ酸配列を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0028】
本発明の具体的な実施態様において、前記抗原は、5C4、D25、またはAM22融合前特異的な抗体に特異的に結合する。
【0029】
本発明のまた一つの態様によれば、本発明は、上記抗原をコードする核酸分子を提供する。
【0030】
本発明の具体的な実施態様において、前記核酸分子は、コドンが最適化されて原核細胞内で発現するためのものである。もう一つの具体的な実施態様において、前記原核細胞は、大腸菌細胞である。さらにもう一つの具体的な実施態様において、前記核酸分子は、SEQ ID NO:9の核酸配列との一致度が少なくとも約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%である核酸配列を含む。
【0031】
本発明の具体的な実施態様において、前記核酸分子は、コドンが最適化されて真核細胞内で発現するためのものである。もう一つの具体的な実施態様において、前記真核細胞は、酵母細胞または哺乳動物細胞である。さらにもう一つの具体的な実施態様において、前記哺乳動物はヒトである。
【0032】
本発明のまたもう一つの態様によれば、本発明は、有効量の上記抗原または核酸分子を含むワクチン組成物を提供する。
【0033】
一つの具体的な実施態様において、前記ワクチン組成物は、被験者体内で、RSVに対する免疫応答の誘導に使用できる。そのため、いくつかの具体的な実施態様において、治療有効量の一種類または複数種類の本発明の抗原、または前記抗原をコードまたは発現する核酸分子またはプラスミドを含むワクチン組成物を被験者に投与し、RSVに対する免疫応答を引き起こすことができる。
【0034】
もう一つの具体的な実施態様において、被験者体内のRSV感染を十分に予防または緩和する条件で、治療有効量の一種類または複数種類の本発明の抗原、または前記抗原をコードまたは発現する核酸分子またはプラスミドを含むワクチン組成物を、必要のある被験者に投与する。前記ワクチン組成物は、被験者体内で、RSV抗原、例えば、RSV Fタンパク質に対抗する免疫応答を十分に引き起こす量で投与する。本発明の具体的な実施態様において、本発明のワクチン組成物は、鼻内または筋肉経由で被験者に投与できる。
【0035】
本発明の具体的な実施態様において、前記ワクチン組成物は、さらに、医薬上許容できるキャリアおよび/またはアジュバントを含んでもよい。
【0036】
本明細書において、「医薬上許容できるキャリア」は、本発明のワクチン組成物の投与に適用し得る任意または全ての溶剤、分散媒体、抗菌剤や抗真菌剤、等張化剤や吸収遅延剤等を含む。本発明に用いられる医薬上許容できるキャリアは、防腐剤、懸濁剤、増粘剤、等張化剤、緩衝剤、および湿潤剤を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0037】
本発明のもう一つの具体的な実施態様において、本発明に用いられるアジュバントは、CpGオリゴヌクレオチドおよびB型肝炎コアウイルス様粒子(HBc VLP)を含むが、これらに限定されない。
【0038】
もう一つの具体的な実施態様において、被験者に投与するワクチン組成物は、含有量比が10:1〜1:10である抗原とアジュバントとの混合物を含む。
【0039】
本発明のもう一つの具体的な実施態様において、前記ワクチン組成物は、Thl免疫応答を促進する。
【0040】
複数の実施態様で例示的に本発明を説明した。本発明の範疇は、下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
実施例1:組換えRSVキメラFタンパク質発現ベクターの構築
大腸菌(Escherichia coli(E. coli)))で発現するための最適化されたコドンを有するRSV Fタンパク質の完全長cDNA配列(Genomics BioSci&Tech)を合成した。この配列をPCRテンプレートとして使用し、HRN部位φを含む。)を含有するヌクレオチド457〜633(SEQ ID NO:10)、部位IIを含有するヌクレオチド760〜849(SEQ ID NO:11)、部位IVを含有するヌクレオチド1264〜1314(SEQ ID NO:12)、およびそのC末端α−ヘリックス(HRC)を含有するヌクレオチド1426〜1560(SEQ ID NO:13)を含む、RSV Fタンパク質の4種類の遺伝子断片を増幅した。

【0042】
この4種類のPCRアンプリコンを部分オーバーラップPCRにより連結し、GSGS、GGGS、GGSG、SGSGおよびGGのようなグリシンリッチリンカーにより連結して、構築した遺伝子(HRφ24と命名する)を形成し、その後、前記遺伝子を、6−HisでC末端にタグを付加したpET28bのNcoI−XhoI制限酵素部位に挿入することによって、HRφ24プラスミドを得た。
【0043】
HRφ、HRφ−3φおよびHBcプラスミドの構築過程は、HRφ24プラスミドとは類似しているが、以下のような差異がある。
【0044】
HRφプラスミドの構築については、RSV Fタンパク質のSEQ ID NO:10およびSEQ ID NO:13で表される遺伝子断片を増幅した。その後、その2種類のPCRアンプリコンを、6−HisでC末端にタグを付加してグリシンリッチリンカーにより連結したpET28aのNcoI/BamHIおよびEcoRI/XhoI制限酵素部位に挿入することによって、HRφプラスミドを得た。
【0045】
HRφ−3φプラスミドの構築については、RSV Fタンパク質のSEQ ID NO:10およびSEQ ID NO:13で表される遺伝子断片を増幅した。さらに、PCRにより、NheI/BamHI、BamHI/EcoRI、またはEcoRI/HindIII制限酵素部位のそれぞれを含む3種類の部位φ断片を製作した。その後、その5種類のPCRアンプリコンを、6−HisでC末端にタグを付加してグリシンリッチリンカーにより連結したpET28aのNcoI NheI/BamHI/EcoRI/HindIII/XhoI制限酵素部位に挿入することによって、HRφ−3φプラスミドを得た。
【0046】
上記で得られたプラスミドを大腸菌BL21(DE3)コンピテント細胞内に形質転換して、タンパク質発現を行った。HRφ24、HRφ、およびHRφ−3φ組換えタンパク質の概略図を、それぞれ、図1A〜1Cに示す。
【0047】
実施例2:組換えHBc VLP発現ベクターの構築
大腸菌で発現するための最適化されたコドンを有するHBcタンパク質の完全長cDNA配列(Genomics BioSci&Tech)を合成した。この配列をPCRテンプレートとして使用し、HBcのヌクレオチド1〜444(SEQ ID NO:14)を増幅した後、6−HisでC末端にタグを付加したpET28aのNcoI−XhoI制限酵素部位に挿入することによって、組換えHBc VLPプラスミドを得た。得られたプラスミドを大腸菌BL21(DE3)コンピテント細胞内に形質転換して、タンパク質発現に使用した。
【0048】
実施例1および2のPCRに使用されたプライマーは、SEQ ID NO:15〜SEQ ID NO:34で表され、表1に示されている。
【0049】
【表1-1】
【表1-2】
【0050】
実施例3:組換えタンパク質発現および精製
実施例1および2で得られた形質転換した大腸菌BL21(DE3)において、組換えRSV Fタンパク質−6HisおよびHBc−6Hisをそれぞれ発現させ、ニッケルアフィニティークロマトグラフィーで精製した。200体積部の溶出緩衝液(350mM、150mMから0mMまでのイミダゾール、1×PBSの中)に対する1体積部のサンプルのグラジエント溶出により、溶出した(500mMイミダゾール、50mM NaHPO、300mM NaCl pH8.0を使用)タンパク質に緩衝液交換を行い、工程ごとに12時間行った。遠心濃縮機(10,000MWCO、Sartorius)を使用することにより、溶出したタンパク質−6Hisを約1mg/mLの濃度まで濃縮した。SDS−PAGEで前記タンパク質の分子サイズおよび純度を測定した。
【0051】
抗Hisタグであると指向された抗体を使用したウェスタンブロッティングにより、同じ移動度のバンドを検出し、その結果を図2B、2D、および2Fに示す。抗HBcと抗RSVであると指向された抗体を使用したウェスタンブロッティングにより、同じ移動度のバンドを検出し、その結果をそれぞれ図2Hおよび2Iに示す。クマシーブリリアントブルーで染色したゲルに対する光学密度スキャンは、精製したタンパク質HRφ24、HRφ、HRφ−3φおよびHBcが全タンパク質の90%以上に相当すること(図2A、2C、2E、および2G)を示し、その純度は十分に免疫接種を行える。
【0052】
実施例4:HRφ24および組換えHBcタンパク質の透過型電子顕微鏡(TEM)画像
室温で、PBSにおける8μgの精製したHBc VLPを、銅メッシュ(300メッシュ)に3分間吸着させた。その後、ろ紙を用いてメッシュを軽く優しく拭った。1%酢酸ウラニル水溶液で30秒間染色した後、過量の液体を除去した。JEM−1400電子顕微鏡を使用して、80kVでメッシュを検査した。
【0053】
HBc VLPがウイルス様粒子を形成することはTEMで証明された(図3A)。TEMは、さらに、組換えHRφ24タンパク質が約50nmの重合したナノ粒子を形成したこと(図3B)を示した。
【0054】
実施例5:動物免疫分析
1.RSV A2株の原液の製作
ATCCからRSV A2株を得た。HEp−2細胞ATCCにおいてウイルスの繁殖を実施した。RSV A2を使用して、0.2のm.o.i(感染多重度)で、100mmのペトリ皿(Thermo Scientific)において成長した融合度が80%と高い細胞を接種した。37℃のCOインキュベーターにおいて、血清を含まないダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s medium(DMEM))でウイルスの吸着を行った。2時間後、培地を、2%ウシ胎児血清を補充したDMEMに交換し、ペトリ皿を再び48〜72時間培養した。3,000rpmで10分間遠心分離し、細胞破片から、前記ウイルスを含有する上清液を分離した。その後、遠心濃縮機(100,000MWCO、Sartorius)でウイルスを濃縮した。
【0055】
2.RSVプラーク試験
プラーク試験により、RSVウイルス力価(titer)を測定した。1×PBSで12ウェルプレート中のHEp−2細胞融合単層を洗浄した後、複数種類の希釈度(10−3〜10−7)のRSV A2ウイルスで前記細胞を感染させた。2時間のウイルス吸着を行った後、上清液を除去し、1×PBSで細胞の単層を洗浄した後、DMEM+2%ウシ胎児血清+0.3%アガロースで覆った。37℃でCOインキュベーターにおいて5日間培養した後、細胞を10%ホルマリンで固定し、0.05%クリスタルバイオレットで染色して、プラーク定量を行った。
【0056】
3.ワクチン投与およびRSVチャレンジ
病原体のないC57BL/6J雌性マウス(6〜8週齢)を、ランダムで複数群に分け、鼻内(i.n)経路で候補ワクチンを使用して0、21および42日目で免疫接種を行い、63日目で(図4)マウスに1×10p.f.u RSVチャレンジさせた。候補ワクチンは、50μg HRφ24、25μg HBc VLP+25μg HRφ24、25μg HBc VLP+25μg HRφ24+20μg CpG(TCGTCGTTTTCGGCGCGCGCCG,SEQ ID NO.37)(台湾のGenomics社)、25μg HBc VLP+50μg HRφ24、25μg HBc VLP+50μg HRφ24+20μg CpG、50μg HRφ、25μg HBc VLP+50μg HRφ、25μg HBc VLP+50μg HRφ+20μg CpG、50μg HRφ−3φ、25μg HBc VLP+50μg HRφ−3φ、および25μg HBc VLP+50μg HRφ−3φ+20μg CpGを含む。さらに、対照群、25μg HBc VLPのみを使用して0、21、および42日目で鼻内経路で免疫接種を行った群を含む。さらに、1×10p.f.uホルマリンで固定したRSV(FIRSV)を使用して筋肉内(i.m)免疫接種を行った群を含む。
【0057】
RSVチャレンジ前、61日目で同じ投与スキームを使用した各群から、マウス血清、気管支肺胞洗浄液(BALF)および脾臓を採集した。RSVチャレンジについては、63日目で1.5%イソフルランで動物を麻酔した後、1×10 p.f.u RSVの鼻内接種で感染させた。RSVチャレンジを行った後、マウスの体重変化を5日間観察した。最後に、68日目でマウスを犠牲にし、個体の肺を採集して、ウイルス負荷および組織病理学実験を行った。
【0058】
実施例6:候補ワクチンで引き起こした抗体応答についての評価
酵素結合免疫吸着試験(ELISA)により、実施例5に記載されている免疫接種したマウスから採集した血清およびBALFの抗体応答を検査した。簡単に説明すれば、4℃で、50μLの精製HRφ24(10μg/ml)を96ウェルプレートに塗布して、一晩放置した。2%BSAで前記プレートを37℃で1時間ブロッキングし、血清サンプルの試験希釈剤(1%BSA、0.05%Tween 20、1×PBSの中)における段階希釈液(10−2〜5.12×10−4)またはBALFの段階希釈液(10−1〜1.28×10−3)を使用して室温で2時間培養した。サンプルごとに希釈曲線を作成し、最も優れた濃度となる希釈物の逆数を終点力価として算出し、前記の最も優れた濃度は、バックグラウンド値(集めた元免疫血清に1/50の希釈を行ったもの、または集めた対照BALFに1/5の希釈を行ったもの)より、0.1U高い。50より低い(陰性サンプル)IgG力価、または5より低い分泌型IgA(sIgA)力価を、任意に50または5とした。
【0059】
図5A〜5Eを参照して、これらの図はHRφ24、HRφおよびHRφ−3φの投与が血清HRφ24特異的全IgG、IgG1、IgG2aおよび肺HRφ24特異的sIgAを引き起こせることが示されている。また、アジュバントとしてHBcを使用することで、HRφ24、HRφ、およびHRφ−3φは顕著に高い血清HRφ24特異的全IgG、IgG1、IgG2aおよび肺HRφ24特異的sIgAを引き起こせることを示し、特に、HBc/HRφ24群では最も高い終点力価が観察された。また、アジュバントとしてHBcとCpGとの混合物を使用することで、HRφ24もより高い血清HRφ24特異的全IgG、IgG1、IgG2a、IgA、および肺HRφ24特異的sIgAを引き起こせる。
【0060】
実施例7:候補ワクチンの、マウスを保護してRSV感染に対抗することにおける效果
前記候補ワクチンを3回投与する際の効果を評価するために、実施例5に記載されている生RSV A2株チャレンジの免疫接種したマウスを使用した。
【0061】
1.RSVチャレンジを行った後のマウス体重変化
マウスがチャレンジ感染された後の体重変化は、ワクチンの防御効果の評価における最も重要な指標である。図6Aおよび6Bを参照して、チャレンジの2日後、対照群と比べて、HRφ24/HBc、HRφ24/HBc/CpG、HRφ−3φ、HRφ−3φ/HBc、HRφ−3φ/HBc/CpG、HRφ/HBcまたはHRφ/HBc/CpGを使用して免疫接種を行ったマウスの体重減少は少なかった。より具体的には、図6Aは、HBcと混合したHRφ24を受けた群のマウスの体重減少が約8〜11%であることを示す。また、チャレンジの3日後、HBc/CpGと混合した25μgおよび50μg HRφ24を使用して免疫接種を行ったマウスは、それぞれ、約16%および12%の体重減少を示す。さらに、図6Bでは、HRφ/HBcまたはHRφ−3φ/HBc混合物を使用して免疫接種を行ったマウスは約12%または10%の体重減少を示すことが明らかになった。逆に、筋肉注射でFIRSVを受けたマウスは、いずれも最も高い毎日の体重減少を示し、また、チャレンジの3日後では約25%の体重減少を示す。
【0062】
そのため、本発明は、より良い防御を提供することにより、マウスの体重減少を予防し、さらに、生RSVチャレンジ後の最初の体重減少からの迅速な回復を提供する。これにより、本願の抗原による抗ウイルス性免疫は、生RSV A2ウイルス株に対抗するための防御を提供することが証明されている。
【0063】
2.RSVチャレンジを行った後の肺組織病理学
組織学的分析について、肺部サンプルを10%中性緩衝ホルマリンで24時間固定し、パラフィンに包埋され、厚さ5μmの切片を切り出し、ヘマトキシリン−エオジン(H&E)で染色した。
【0064】
図7を参照して、対照群またはHBc、HRφ24、HRφ、HRφ−3φあるいはFIRSVワクチン接種したマウスの体内では、肺組織病理学的な変化が観察され、そのうち、FIRSVで免疫接種したマウスでは、重篤レベルの組織病理学を示す。それに対して、HRφ24/HBc、HRφ/HBcまたはHRφ−3φ/HBc混合物を受けたマウスは、RSVチャレンジを行った際に、中度レベルの肺部病理学を示す。
【0065】
3.定量RT−PCR(qRT−PCR)により肺ウイルス負荷の分析を行う
自然的または実験的な感染過程において、ウイルス複製と臨床疾患とは正の相関があるため、肺ウイルス負荷に対する制御は、ワクチン効果の評価における重要なパラメータである(DeVincenzo,J.P.,et al.,2005;Karron,R.A.,et al.,1997)。よって、RSV N遺伝子をターゲットとするqRT−PCRを実施し、肺組織におけるmRNAレベルを定量した。
【0066】
曇りガラススライドを用いて、肺抽出物のホモジェネートを調製した。Qiagen RNeasyキットにより、ホモジェネートサンプルから全RNAを調製した。二段階qRT−PCRを実施した。SuperScript III逆転写酵素(Invitrogen)により、2μgの全RNAから、第一鎖cDNAを増幅した。RSVサブグループA型ウイルスに用いられるRSV−A−N−F730:GCAGGATTGTTTATGAATGCC(SEQ ID NO:35)およびRSV−A−N−R857:TCCACAACTTGTTCCATTTC(SEQ ID NO:36)というプライマー対を使用してqRT−PCRを行った。その後、最適化し、その反応は、プライマーごとに、200nM、1×Power SYBR Green PCR予混液(ABI)、1μLのcDNA、および水が含まれ、総量が10μLであった。ABI機器を使用して、95℃、10min(1×);95℃、15秒;60℃、60秒(40×)の条件で、リアルタイムPCRを実施した。前記DNA鎖を、各PCRサイクルの成果の証明に使用し、また、実験サンプルの定量分析の促進に使用した。
【0067】
図8を参照して、対照群と比べて、HRφ24、HRφ24/HBc、HRφ24/HBc/CpGまたはFIRSVを使用して免疫接種を行ったマウスの肺内で、より低いレベルのウイルス力価が観察された。FIRSV群と比べて、HRφ24/HBc/CpG群またはHRφ24(50)/HBc群における肺ウイルス力価は顕著に低かった。これらの結果は、鼻内経由でHRφ24/HBc混合物およびHRφ24/HBc/CpG混合物で免疫接種を行った動物の肺は顕著に低いウイルス負荷を新たに得たことを示す。
【0068】
よって、これらの結果により、本発明の抗原は、RSVに特異的な全身性および黏膜抗体応答を誘導できることが明らかになった。本発明の抗原を使用して免疫接種を行ったマウスは、RSVに対抗するように保護されることが示されるため、肺疾患を引き起こさない。また、FIRSVと比べて、マウスモデルにおいて、本発明の抗原は、リンパ細胞を過度に刺激せず、潜在的、かつ、安全なRSV候補ワクチンを提供する。
【0069】
また、野生型RSV Fタンパク質と比べて、本発明の抗原の配列は比較的に短いので、大規模な生産が相対的に容易である。さらに、野生型RSV Fタンパク質と比べて、本発明の抗原は重要な抗原部位のみを保留しているので、抗体を区別する特異性を増加させるのに寄与し、不必要な反応、例えば、アレルギーを避ける。
【0070】
上記の内容では、例示的に好ましい具体的な実施態様により本発明を詳細に記載している。しかしながら、本発明の範疇は、記載された具体的な実施態様に限定されるものではない。逆に、本発明は、様々な修飾および類似的な調整を意図的に含んでいる。したがって、特許請求の範囲は、最も広い解釈により規定されるため、このような修飾および類似的な調整を全て含んでいる。


























図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図6
図7
図8
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]
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