【実施例】
【0041】
実施例1:組換えRSVキメラFタンパク質発現ベクターの構築
大腸菌(Escherichia coli(E. coli)))で発現するための最適化されたコドンを有するRSV Fタンパク質の完全長cDNA配列(Genomics BioSci&Tech)を合成した。この配列をPCRテンプレートとして使用し、HRN
(部位φ
を含む。)を含有するヌクレオチド457〜633(SEQ ID NO:10)、部位IIを含有するヌクレオチド760〜849(SEQ ID NO:11)、部位IVを含有するヌクレオチド1264〜1314(SEQ ID NO:12)、およびそのC末端α−ヘリックス(HRC)を含有するヌクレオチド1426〜1560(SEQ ID NO:13)を含む、RSV Fタンパク質の4種類の遺伝子断片を増幅した。
【0042】
この4種類のPCRアンプリコンを部分オーバーラップPCRにより連結し、GSGS、GGGS、GGSG、SGSGおよびGGのようなグリシンリッチリンカーにより連結して、構築した遺伝子(HRφ24と命名する)を形成し、その後、前記遺伝子を、6−HisでC末端にタグを付加したpET28bのNcoI−XhoI制限酵素部位に挿入することによって、HRφ24プラスミドを得た。
【0043】
HRφ、HRφ−3φおよびHBcプラスミドの構築過程は、HRφ24プラスミドとは類似しているが、以下のような差異がある。
【0044】
HRφプラスミドの構築については、RSV Fタンパク質のSEQ ID NO:10およびSEQ ID NO:13で表される遺伝子断片を増幅した。その後、その2種類のPCRアンプリコンを、6−HisでC末端にタグを付加してグリシンリッチリンカーにより連結したpET28aのNcoI/BamHIおよびEcoRI/XhoI制限酵素部位に挿入することによって、HRφプラスミドを得た。
【0045】
HRφ−3φプラスミドの構築については、RSV Fタンパク質のSEQ ID NO:10およびSEQ ID NO:13で表される遺伝子断片を増幅した。さらに、PCRにより、NheI/BamHI、BamHI/EcoRI、またはEcoRI/HindIII制限酵素部位のそれぞれを含む3種類の部位φ断片を製作した。その後、その5種類のPCRアンプリコンを、6−HisでC末端にタグを付加してグリシンリッチリンカーにより連結したpET28aのNcoI NheI/BamHI/EcoRI/HindIII/XhoI制限酵素部位に挿入することによって、HRφ−3φプラスミドを得た。
【0046】
上記で得られたプラスミドを大腸菌BL21(DE3)コンピテント細胞内に形質転換して、タンパク質発現を行った。HRφ24、HRφ、およびHRφ−3φ組換えタンパク質の概略図を、それぞれ、
図1A〜1Cに示す。
【0047】
実施例2:組換えHBc VLP発現ベクターの構築
大腸菌で発現するための最適化されたコドンを有するHBcタンパク質の完全長cDNA配列(Genomics BioSci&Tech)を合成した。この配列をPCRテンプレートとして使用し、HBcのヌクレオチド1〜444(SEQ ID NO:14)を増幅した後、6−HisでC末端にタグを付加したpET28aのNcoI−XhoI制限酵素部位に挿入することによって、組換えHBc VLPプラスミドを得た。得られたプラスミドを大腸菌BL21(DE3)コンピテント細胞内に形質転換して、タンパク質発現に使用した。
【0048】
実施例1および2のPCRに使用されたプライマーは、SEQ ID NO:15〜SEQ ID NO:34で表され、表1に示されている。
【0049】
【表1-1】
【表1-2】
【0050】
実施例3:組換えタンパク質発現および精製
実施例1および2で得られた形質転換した大腸菌BL21(DE3)において、組換えRSV Fタンパク質−6HisおよびHBc−6Hisをそれぞれ発現させ、ニッケルアフィニティークロマトグラフィーで精製した。200体積部の溶出緩衝液(350mM、150mMから0mMまでのイミダゾール、1×PBSの中)に対する1体積部のサンプルのグラジエント溶出により、溶出した(500mMイミダゾール、50mM NaH
2PO
4、300mM NaCl pH8.0を使用)タンパク質に緩衝液交換を行い、工程ごとに12時間行った。遠心濃縮機(10,000MWCO、Sartorius)を使用することにより、溶出したタンパク質−6Hisを約1mg/mLの濃度まで濃縮した。SDS−PAGEで前記タンパク質の分子サイズおよび純度を測定した。
【0051】
抗Hisタグであると指向された抗体を使用したウェスタンブロッティングにより、同じ移動度のバンドを検出し、その結果を
図2B、2D、および2Fに示す。抗HBcと抗RSVであると指向された抗体を使用したウェスタンブロッティングにより、同じ移動度のバンドを検出し、その結果をそれぞれ
図2Hおよび2Iに示す。クマシーブリリアントブルーで染色したゲルに対する光学密度スキャンは、精製したタンパク質HRφ24、HRφ、HRφ−3φおよびHBcが全タンパク質の90%以上に相当すること(
図2A、2C、2E、および2G)を示し、その純度は十分に免疫接種を行える。
【0052】
実施例4:HRφ24および組換えHBcタンパク質の透過型電子顕微鏡(TEM)画像
室温で、PBSにおける8μgの精製したHBc VLPを、銅メッシュ(300メッシュ)に3分間吸着させた。その後、ろ紙を用いてメッシュを軽く優しく拭った。1%酢酸ウラニル水溶液で30秒間染色した後、過量の液体を除去した。JEM−1400電子顕微鏡を使用して、80kVでメッシュを検査した。
【0053】
HBc VLPがウイルス様粒子を形成することはTEMで証明された(
図3A)。TEMは、さらに、組換えHRφ24タンパク質が約50nmの重合したナノ粒子を形成したこと(
図3B)を示した。
【0054】
実施例5:動物免疫分析
1.RSV A2株の原液の製作
ATCCからRSV A2株を得た。HEp−2細胞ATCCにおいてウイルスの繁殖を実施した。RSV A2を使用して、0.2のm.o.i(感染多重度)で、100mmのペトリ皿(Thermo Scientific)において成長した融合度が80%と高い細胞を接種した。37℃のCO
2インキュベーターにおいて、血清を含まないダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s medium(DMEM))でウイルスの吸着を行った。2時間後、培地を、2%ウシ胎児血清を補充したDMEMに交換し、ペトリ皿を再び48〜72時間培養した。3,000rpmで10分間遠心分離し、細胞破片から、前記ウイルスを含有する上清液を分離した。その後、遠心濃縮機(100,000MWCO、Sartorius)でウイルスを濃縮した。
【0055】
2.RSVプラーク試験
プラーク試験により、RSVウイルス力価(titer)を測定した。1×PBSで12ウェルプレート中のHEp−2細胞融合単層を洗浄した後、複数種類の希釈度(10
−3〜10
−7)のRSV A2ウイルスで前記細胞を感染させた。2時間のウイルス吸着を行った後、上清液を除去し、1×PBSで細胞の単層を洗浄した後、DMEM+2%ウシ胎児血清+0.3%アガロースで覆った。37℃でCO
2インキュベーターにおいて5日間培養した後、細胞を10%ホルマリンで固定し、0.05%クリスタルバイオレットで染色して、プラーク定量を行った。
【0056】
3.ワクチン投与およびRSVチャレンジ
病原体のないC57BL/6J雌性マウス(6〜8週齢)を、ランダムで複数群に分け、鼻内(i.n)経路で候補ワクチンを使用して0、21および42日目で免疫接種を行い、63日目で(
図4)マウスに1×10
6p.f.u RSVチャレンジさせた。候補ワクチンは、50μg HRφ24、25μg HBc VLP+25μg HRφ24、25μg HBc VLP+25μg HRφ24+20μg CpG(TCGTCGTTTTCGGCGCGCGCCG,SEQ ID NO.37)(台湾のGenomics社)、25μg HBc VLP+50μg HRφ24、25μg HBc VLP+50μg HRφ24+20μg CpG、50μg HRφ、25μg HBc VLP+50μg HRφ、25μg HBc VLP+50μg HRφ+20μg CpG、50μg HRφ−3φ、25μg HBc VLP+50μg HRφ−3φ、および25μg HBc VLP+50μg HRφ−3φ+20μg CpGを含む。さらに、対照群、25μg HBc VLPのみを使用して0、21、および42日目で鼻内経路で免疫接種を行った群を含む。さらに、1×10
5p.f.uホルマリンで固定したRSV(FIRSV)を使用して筋肉内(i.m)免疫接種を行った群を含む。
【0057】
RSVチャレンジ前、61日目で同じ投与スキームを使用した各群から、マウス血清、気管支肺胞洗浄液(BALF)および脾臓を採集した。RSVチャレンジについては、63日目で1.5%イソフルランで動物を麻酔した後、1×10
6 p.f.u RSVの鼻内接種で感染させた。RSVチャレンジを行った後、マウスの体重変化を5日間観察した。最後に、68日目でマウスを犠牲にし、個体の肺を採集して、ウイルス負荷および組織病理学実験を行った。
【0058】
実施例6:候補ワクチンで引き起こした抗体応答についての評価
酵素結合免疫吸着試験(ELISA)により、実施例5に記載されている免疫接種したマウスから採集した血清およびBALFの抗体応答を検査した。簡単に説明すれば、4℃で、50μLの精製HRφ24(10μg/ml)を96ウェルプレートに塗布して、一晩放置した。2%BSAで前記プレートを37℃で1時間ブロッキングし、血清サンプルの試験希釈剤(1%BSA、0.05%Tween 20、1×PBSの中)における段階希釈液(10
−2〜5.12×10
−4)またはBALFの段階希釈液(10
−1〜1.28×10
−3)を使用して室温で2時間培養した。サンプルごとに希釈曲線を作成し、最も優れた濃度となる希釈物の逆数を終点力価として算出し、前記の最も優れた濃度は、バックグラウンド値(集めた元免疫血清に1/50の希釈を行ったもの、または集めた対照BALFに1/5の希釈を行ったもの)より、0.1U高い。50より低い(陰性サンプル)IgG力価、または5より低い分泌型IgA(sIgA)力価を、任意に50または5とした。
【0059】
図5A〜5Eを参照して、これらの図はHRφ24、HRφおよびHRφ−3φの投与が血清HRφ24特異的全IgG、IgG1、IgG2aおよび肺HRφ24特異的sIgAを引き起こせることが示されている。また、アジュバントとしてHBcを使用することで、HRφ24、HRφ、およびHRφ−3φは顕著に高い血清HRφ24特異的全IgG、IgG1、IgG2aおよび肺HRφ24特異的sIgAを引き起こせることを示し、特に、HBc/HRφ24群では最も高い終点力価が観察された。また、アジュバントとしてHBcとCpGとの混合物を使用することで、HRφ24もより高い血清HRφ24特異的全IgG、IgG1、IgG2a、IgA、および肺HRφ24特異的sIgAを引き起こせる。
【0060】
実施例7:候補ワクチンの、マウスを保護してRSV感染に対抗することにおける效果
前記候補ワクチンを3回投与する際の効果を評価するために、実施例5に記載されている生RSV A2株チャレンジの免疫接種したマウスを使用した。
【0061】
1.RSVチャレンジを行った後のマウス体重変化
マウスがチャレンジ感染された後の体重変化は、ワクチンの防御効果の評価における最も重要な指標である。
図6Aおよび6Bを参照して、チャレンジの2日後、対照群と比べて、HRφ24/HBc、HRφ24/HBc/CpG、HRφ−3φ、HRφ−3φ/HBc、HRφ−3φ/HBc/CpG、HRφ/HBcまたはHRφ/HBc/CpGを使用して免疫接種を行ったマウスの体重減少は少なかった。より具体的には、
図6Aは、HBcと混合したHRφ24を受けた群のマウスの体重減少が約8〜11%であることを示す。また、チャレンジの3日後、HBc/CpGと混合した25μgおよび50μg HRφ24を使用して免疫接種を行ったマウスは、それぞれ、約16%および12%の体重減少を示す。さらに、
図6Bでは、HRφ/HBcまたはHRφ−3φ/HBc混合物を使用して免疫接種を行ったマウスは約12%または10%の体重減少を示すことが明らかになった。逆に、筋肉注射でFIRSVを受けたマウスは、いずれも最も高い毎日の体重減少を示し、また、チャレンジの3日後では約25%の体重減少を示す。
【0062】
そのため、本発明は、より良い防御を提供することにより、マウスの体重減少を予防し、さらに、生RSVチャレンジ後の最初の体重減少からの迅速な回復を提供する。これにより、本願の抗原による抗ウイルス性免疫は、生RSV A2ウイルス株に対抗するための防御を提供することが証明されている。
【0063】
2.RSVチャレンジを行った後の肺組織病理学
組織学的分析について、肺部サンプルを10%中性緩衝ホルマリンで24時間固定し、パラフィンに包埋され、厚さ5μmの切片を切り出し、ヘマトキシリン−エオジン(H&E)で染色した。
【0064】
図7を参照して、対照群またはHBc、HRφ24、HRφ、HRφ−3φあるいはFIRSVワクチン接種したマウスの体内では、肺組織病理学的な変化が観察され、そのうち、FIRSVで免疫接種したマウスでは、重篤レベルの組織病理学を示す。それに対して、HRφ24/HBc、HRφ/HBcまたはHRφ−3φ/HBc混合物を受けたマウスは、RSVチャレンジを行った際に、中度レベルの肺部病理学を示す。
【0065】
3.定量RT−PCR(qRT−PCR)により肺ウイルス負荷の分析を行う
自然的または実験的な感染過程において、ウイルス複製と臨床疾患とは正の相関があるため、肺ウイルス負荷に対する制御は、ワクチン効果の評価における重要なパラメータである(DeVincenzo,J.P.,et al.,2005;Karron,R.A.,et al.,1997)。よって、RSV N遺伝子をターゲットとするqRT−PCRを実施し、肺組織におけるmRNAレベルを定量した。
【0066】
曇りガラススライドを用いて、肺抽出物のホモジェネートを調製した。Qiagen RNeasyキットにより、ホモジェネートサンプルから全RNAを調製した。二段階qRT−PCRを実施した。SuperScript III逆転写酵素(Invitrogen)により、2μgの全RNAから、第一鎖cDNAを増幅した。RSVサブグループA型ウイルスに用いられるRSV−A−N−F730:GCAGGATTGTTTATGAATGCC(SEQ ID NO:35)およびRSV−A−N−R857:TCCACAACTTGTTCCATTTC(SEQ ID NO:36)というプライマー対を使用してqRT−PCRを行った。その後、最適化し、その反応は、プライマーごとに、200nM、1×Power SYBR Green PCR予混液(ABI)、1μLのcDNA、および水が含まれ、総量が10μLであった。ABI機器を使用して、95℃、10min(1×);95℃、15秒;60℃、60秒(40×)の条件で、リアルタイムPCRを実施した。前記DNA鎖を、各PCRサイクルの成果の証明に使用し、また、実験サンプルの定量分析の促進に使用した。
【0067】
図8を参照して、対照群と比べて、HRφ24、HRφ24/HBc、HRφ24/HBc/CpGまたはFIRSVを使用して免疫接種を行ったマウスの肺内で、より低いレベルのウイルス力価が観察された。FIRSV群と比べて、HRφ24/HBc/CpG群またはHRφ24(50)/HBc群における肺ウイルス力価は顕著に低かった。これらの結果は、鼻内経由でHRφ24/HBc混合物およびHRφ24/HBc/CpG混合物で免疫接種を行った動物の肺は顕著に低いウイルス負荷を新たに得たことを示す。
【0068】
よって、これらの結果により、本発明の抗原は、RSVに特異的な全身性および黏膜抗体応答を誘導できることが明らかになった。本発明の抗原を使用して免疫接種を行ったマウスは、RSVに対抗するように保護されることが示されるため、肺疾患を引き起こさない。また、FIRSVと比べて、マウスモデルにおいて、本発明の抗原は、リンパ細胞を過度に刺激せず、潜在的、かつ、安全なRSV候補ワクチンを提供する。
【0069】
また、野生型RSV Fタンパク質と比べて、本発明の抗原の配列は比較的に短いので、大規模な生産が相対的に容易である。さらに、野生型RSV Fタンパク質と比べて、本発明の抗原は重要な抗原部位のみを保留しているので、抗体を区別する特異性を増加させるのに寄与し、不必要な反応、例えば、アレルギーを避ける。
【0070】
上記の内容では、例示的に好ましい具体的な実施態様により本発明を詳細に記載している。しかしながら、本発明の範疇は、記載された具体的な実施態様に限定されるものではない。逆に、本発明は、様々な修飾および類似的な調整を意図的に含んでいる。したがって、特許請求の範囲は、最も広い解釈により規定されるため、このような修飾および類似的な調整を全て含んでいる。