特許第6903386号(P6903386)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6903386
(24)【登録日】2021年6月25日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】インダイレクトスポット溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/11 20060101AFI20210701BHJP
   B23K 11/24 20060101ALI20210701BHJP
【FI】
   B23K11/11 510
   B23K11/24 338
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2019-12247(P2019-12247)
(22)【出願日】2019年1月28日
(65)【公開番号】特開2020-116630(P2020-116630A)
(43)【公開日】2020年8月6日
【審査請求日】2020年4月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100207181
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 朋
(72)【発明者】
【氏名】木許 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 知嗣
【審査官】 正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−071333(JP,A)
【文献】 特開平9−99379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/11
B23K 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のワークの重合部を溶接電極で加圧すると共に、前記重合部と異なる部位にアース電極を当接させて両電極間に通電するインダイレクトスポット溶接方法であって、
溶接の初期に、溶接に寄与しない無効電流経路にのみ電流が流れるように、前記溶接電極を前記重合部に当接させて両電極間に通電するステップを含むことを特徴とするインダイレクトスポット溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダイレクトスポット溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の組立工程では、金属板からなる複数の部品をスポット溶接で接合することにより車体が組み立てられる。スポット溶接としては、複数の金属板を一対の電極で挟み込んで通電するダイレクトスポット溶接が多く用いられる。しかし、部品の形状によっては、複数の金属板を一対の電極で挟み込むことができず、ダイレクトスポット溶接を適用することができないことがある。この場合、複数の金属板の重合部を溶接電極で加圧すると共に、重合部と異なる部位にアース電極を当接させた状態で両電極間に通電することにより溶接するインダイレクトスポット溶接が適用される。
【0003】
しかし、インダイレクトスポット溶接では、溶接電極とアース電極とが離れて配置されることが多く、重合部以外の金属板同士の接触部(例えば、先に溶接された溶接点)を介して流れる電流(無効電流)が生じやすいため、良好なナゲットを形成することが困難であることが問題となっている。
【0004】
例えば、下記の特許文献1には、金属板に予め座面を設け、この座面を溶接電極で押しつぶしながら加圧することにより、金属板同士の接触面積を小さくして電流密度を高めることで、ナゲットを形成しやすくする方法が示されている。
【0005】
また、下記の特許文献2には、加圧力及び電流値を制御することにより、ナゲットを安定して得ることができるインダイレクトスポット溶接方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−239742号公報
【特許文献2】特開2010−194609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、溶接点におけるナゲットのできやすさを定量的に評価する手法がなかったため、上記のような手法を試しながら試行錯誤を繰り返し、適切なナゲットが形成される溶接条件を探し出すしかなかった。
【0008】
そこで、本発明者らは、溶接に寄与する有効電流経路の抵抗値と、溶接に寄与しない無効電流経路の抵抗値とをそれぞれ個別に測定し、これらの抵抗値に基づいて設定される有効電流率に基づいて、溶接点におけるナゲットのできやすさを評価することを試みた。
【0009】
具体的には、図4(A)に示すように、第1の金属板1と、断面ハット形状を成した第2の金属板2と、第1の金属板1と第2の金属板2とで構成される中空部に配された断面ハット形状を成した第3の金属板3とによって構成される部品100について、第1の金属板1と第3の金属板3の天板部3bとの重合部Pにインダイレクトスポット溶接を施す場合の評価方法について説明する。なお、各金属板の間には、既溶接点Q1,Q2が設けられている。
【0010】
まず、溶接に寄与しない無効電流経路の抵抗値RBを測定する。具体的には、抵抗測定器30の一方の端子31を、部品100のうち、溶接時に溶接電極を当接させる部位である重合部Pに上方から当接させる。また、抵抗測定器30の他方の端子32を、部品100のうち、溶接時にアース電極を当接させる部位である、一方の既溶接点Q2に下方から当接させる。この状態で、部品100の重合部Pを加圧することなく、両端子31、32間の電流経路の抵抗値を測定する。重合部Pを加圧していないことで、両金属板1,3の重合部Pは実質的に接触しておらず、絶縁しなくても重合部Pにほとんど電流が流れない。従って、一方の端子31→第1の金属板1→既溶接点Q1→第2の金属板2→他方の端子32という、重合部P(両金属板1,3の界面)を通らない電流経路C1が形成され、この電流経路C1を、溶接に寄与しない無効電流の電流経路とみなすことができる。
【0011】
次に、溶接に寄与する有効電流経路の抵抗値RAを測定する。具体的には、図4(B)に示すように、抵抗測定器30の一方の端子31を、第1の金属板1に設けられたスリットSに挿入して、第3の金属板3の天板部3bの重合部P付近に上方から当接させる。また、抵抗測定器30の他方の端子32を、一方の既溶接点Q2に下方から当接させる。これにより、一方の端子31→第3の金属板3→既溶接点Q2→第2の金属板2→他方の端子32という電流経路C2が形成され、この電流経路C2の抵抗値を測定する。
【0012】
以上のようにして測定された抵抗値RB、RAに基づいて、溶接点におけるナゲットのできやすさを評価することができる。例えば、有効電流経路の抵抗値RAと無効電流経路の抵抗値RBとの合成抵抗である全体抵抗RT{=RA・RB/(RA+RB)}として求め、有効電流率Kを、全体抵抗RTに対する無効電流経路の抵抗値RBの比率として求める(K=RB/RT)。有効電流率Kは、有効電流の流れやすさを表す指標であり、有効電流率Kの値に基づいて、重合部Pにおけるナゲットのできやすさを評価することができる。そして、この有効電流率Kを評価指標として溶接位置等の溶接条件を決定することで、良品の得られる理想的な溶接条件を設定することが可能になる。
【0013】
しかし、実際の溶接時、例えば自動車の生産ライン等の大量生産の現場では、それぞれの溶接ごとに溶接位置や板同士の隙間等のばらつきが生じるため、有効電流率Kの値にも誤差が生じる。このため、試作段階で算出した有効電流率Kに基づいて理想的な溶接条件を設定したとしても、実際の溶接時には、個々の溶接ごとのばらつきにより、有効電流率Kが良品範囲を外れて溶接不良を生じるおそれがあった。従って、自動車の生産ライン等では、それぞれの溶接ごとに有効電流率Kを算出し、溶接の良否を判定して不良品の後工程への流出を防止することが必要であった。
【0014】
しかし、上記の測定方法では、図4(A)のように、無効電流経路C1にのみ電流が流れている条件での抵抗値RBの測定と、図4(B)のように、有効電流経路C2にのみ電流が流れている条件での抵抗値RAの測定、といったように、いずれか一方の経路にだけ電流が流れている条件で個々の抵抗値を測定する必要があった。しかし、実際の溶接時には、溶接電極が重合部Pを加圧し、第1の金属板1と天板部3bとが接触することで、無効電流経路C1と有効電流経路C2の両方に電流が流れている{図3(B)参照}ため、上記のような測定方法を採用することができず、一連の溶接プロセスの中で有効電流率Kを算出することが難しかった。このため、自動車の生産ラインの溶接工程のように、ライン上を絶えず流れる部品に順次溶接が行われるような環境では、その全数について有効電流率Kを算出することができず、溶接の良否の判定ができないという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するため、本発明は、複数のワークの重合部を溶接電極で加圧すると共に、前記重合部と異なる部位にアース電極を当接させて両電極間に通電するインダイレクトスポット溶接方法であって、溶接の初期に、溶接に寄与しない無効電流経路にのみ電流が流れるように、前記溶接電極を前記重合部に当接させて両電極間に通電するステップを含むことを特徴とする。
【0016】
本発明は、溶接の初期に、無効電流経路にのみ電流が流れた状態で通電するステップ、つまり、溶接電極による加圧をほとんど行わないステップを設けることで、重合部においてワーク同士がほとんど当接しない状態での測定を実施することができる。従って、無効電流経路の抵抗値(前述の抵抗値RBに相当)を測定することができる。これに加えて、その後のステップでの抵抗値の測定、つまり、溶接電極により重合部が相当の加圧力で加圧され、ワーク同士が十分に当接した状態での測定を行うことで、経路全体の抵抗値(前述の全体抵抗RTに相当)を測定することができる。これらの結果により、有効電流率Kを算出することができる。つまり、本発明によれば、一連の溶接プロセスの流れの中で、有効電流率Kを算出して溶接の良否を定量的に評価することが可能になる。従って、実際の生産ラインを流れる部品全数について、個々の溶接ごとに算出した有効電流率Kに基づいて、溶接の良否が判定でき、後工程への不良品の流出を防止したり、算出した有効電流率Kに基づいて、溶接条件を見直したりすることが可能になる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、一連の溶接プロセスの中で、個々の溶接の良否を定量的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】インダイレクトスポット溶接を施す様子を示す断面図である。
図2】上記インダイレクトスポット溶接の溶接中の電流値、加圧力、抵抗値を示すグラフである。
図3】上記インダイレクトスポット溶接の溶接中に流れる電流の経路を示す図で、(A)図が第1のステップにおける図、(B)図がそれ以降のステップにおける図である。
図4】プローブを用いた各経路の抵抗値の測定方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
本実施形態では、自動車の車体の組立工程において行われるインダイレクトスポット溶接方法を示し、具体的には、図1に示すような車体の骨格部品100を溶接する場合を示す。骨格部品100は、紙面直交方向に延びるフレーム状の部品であり、略平板状を成した第1の金属板(ワーク)1と、断面ハット形状を成した第2の金属板2と、第1の金属板1と第2の金属板2とで構成される中空部に配された断面ハット形状を成した第3の金属板(ワーク)3とで構成される。金属板1〜3としては、例えば鋼板が使用され、具体的には軟鋼板、高張力鋼板(引張強度490MPa以上)、超高張力鋼板(引張強度980MPa以上)等が使用される。
【0021】
第1の金属板1と第2の金属板2のフランジ部2aとは、ダイレクトスポット溶接により予め溶接された既接合点Q1を介して接合されている。第2の金属板2の底部2bと第3の金属板3のフランジ部3aとは、ダイレクトスポット溶接により予め溶接された既接合点Q2を介して接合されている。
【0022】
そして、第1の金属板1と第3の金属板3の天板部3bとの重合部Pを、インダイレクトスポット溶接により接合する。インダイレクトスポット溶接装置は、溶接電極10及びアース電極20と、溶接電極10を軸線方向に駆動して金属板を加圧する加圧手段(エアシリンダや電動シリンダ等)と、加圧手段による溶接電極10の加圧力及び両電極10,20間の電流値を制御する制御部(図示省略)とを備える。
【0023】
重合部Pに対するインダイレクトスポット溶接は、以下の手順で行われる。まず、骨格部品100のうち、重合部Pと異なる部位にアース電極20を当接させる。図示例では、第2の金属板2の底部2b、特に、第2の金属板2の底部2bと第3の金属板3のフランジ部3aとの既接合点Q2に、アース電極20を下方から当接させている。この状態で、第1の金属板1と第3の金属板3の天板部3bとの重合部Pを厚さ方向一方側(図中上側)から溶接電極10で加圧しながら、両電極10,20間に通電することにより、重合部Pを溶接する。
【0024】
本実施形態では、溶接電極10による加圧力及び両電極10,20間の電流値の一方又は双方を変化させながら、溶接が行われる。具体的には、図2に示す加圧通電パターンに従って溶接が行われる。
【0025】
図2に示すように、まずステップS1では、溶接電極10で重合部Pを極めて小さい加圧力F1で加圧すると共に、電極10,20間に最も小さい電流値I1を通電する。このステップは、後述する有効電流率Kを算出するために設けられたステップであり、重合部Pの溶接には直接寄与しないステップである。
【0026】
そして、溶接電極10により高加圧力F2で重合部Pを加圧しながら、低電流値I2で通電する(ステップS2)。その後、加圧力をF2からF3まで低下させながら、電流値I2よりも低い電流値I3で通電する(ステップS3)。そして、加圧力をF3で維持しながら、段階的に電流値を上げていく。具体的には、電流値I4(ステップS4)、電流値I5(ステップS5)、電流値I6(ステップS6)、そして、電流値I7(ステップS7)と段階的に上げていく。
【0027】
これらのステップのうち、低加圧力F3で加圧しながら相対的に高い電流値I4〜I7で通電するステップS4〜S7が、ナゲットを成長させるナゲット成長期となる。
【0028】
以上のような通電パターンにより、重合部Pを高温で維持してナゲットの成長を促すことができ、金属板1と金属板3の天板部3bとの重合部Pに、所望の大きさ及び形状を有する接合点としてのナゲットを形成し、このナゲットを介して両金属板1,3を接合することができる。
【0029】
次に、上記の溶接時に、各経路の抵抗値を測定し、有効電流率Kを算出する方法について、図3(A)および図3(B)を用いて説明する。
【0030】
図3(A)に示すように、溶接電極10およびアース電極20は、電流供給部としてのトランス4に接続され、この通電経路上に電流測定器5が設けられる。電流測定器5によって測定された電流値Iと、トランス4の二次コイルの電圧値Vにより、抵抗値を算出することができる。この電圧値Vは、トランス4と溶接電極10およびアース電極20とを接続するケーブル等の抵抗値(電圧降下)の影響も受けるが、これらのケーブル等の抵抗値は非常に小さいため、実質的に一対の電極10,20間の電圧値とみなすことができる。
【0031】
まず、ステップS1で無効電流経路の抵抗値を測定する。ステップS1では、溶接電極10の加圧力が小さいため、重合部Pにおいて、第1の金属板1と第3の金属板3とは実質的に接触していない。従って、重合部Pの溶接に寄与しない無効電流経路C1にのみ電流が流れた状態である。このため、上記電流値Iおよび電圧値Vにより、無効電流経路C1の抵抗値RBを算出することができる。
【0032】
そして、その後のステップ(例えばステップS2)で、溶接電極10が重合部Pを相対的に大きな加圧力で加圧することにより、前述のように第1の金属板1と第3の金属板3とが重合部Pにおいて接触する。これにより、図3(B)に示すように、無効電流経路C1に加えて、重合部Pを介した有効電流経路C2にも電流が流れる。この状態で測定される上記電流値Iおよび電圧値Vにより、無効電流経路C1と有効電流経路C2の合成抵抗である全体抵抗値RTを算出することができる。
【0033】
以上のようにして測定された各抵抗値に基づいて、有効電流率K(K=RB/RT)を算出することができる。有効電流率Kは、回路全体を流れる電流のうち、重合部Pを流れる電流、つまり溶接に寄与する電流の割合を示す指標であり、この値が大きいほど、重合部Pに流れる電流の割合が大きくなる。
【0034】
本実施形態の溶接方法では、溶接の開始時に、重合部Pをほとんど加圧しないステップS1をあえて設けることで、無効電流経路C1にのみ電流が流れた状態を作り出し、無効電流経路C1の抵抗値RBの測定が可能になる。また上記のように、十分に重合部Pが加圧された段階で電流Iおよび電圧Vを測定することで、全体抵抗RTを算出することができる(図2の抵抗値参照)。また、これらの抵抗値RBと全体抵抗RTとから、有効電流経路C2の抵抗値RAを算出することができる。このように、異なるステップで上記のように測定を行うことで、抵抗値RT、RA、RBの全ての抵抗値の算出が可能になる。
【0035】
そしてこれらの抵抗値により、有効電流率Kを算出することができ、この有効電流率Kに基づいて、重合部Pの溶接の良否を判定することができる。つまり、有効電流率Kが小さすぎると、重合部Pに十分な電流が流れず、ナゲットが成長しないため溶接不良を生じてしまう。一方で、有効電流率Kが高すぎると、重合部Pに過剰な電流が流れて、重合部Pにおける第1の金属板1や第3の金属板3の溶け落ちや割れの原因となってしまう。従って、有効電流率Kが所定の範囲内にあるか否かにより、溶接の良否を定量的に評価することができる。
【0036】
また以上の方法によれば、溶接の一連のプロセスの中で有効電流率Kを算出することが可能になり、例えば自動車の生産ラインの溶接工程において、その全数の有効電流率Kを算出して、個々の溶接の良否を定量的に評価することが可能になる。これにより、後工程への不良品の流出を防止したり、算出される有効電流率Kに基づいて、溶接条件の見直しを実施するといったことが可能になる。
【0037】
ステップS1における加圧力F1は、その他のステップの加圧力F2,F3と比較してその大きさが特に小さく、ステップS1は、重合部Pをほとんど加圧しない状態で通電するステップである。このステップS1における重合部Pを「ほとんど加圧しない」状態とは、溶接電極10を第3の金属板3に押し当てて、無効電流経路C1に電流を流せるだけの加圧力で加圧する状態であり、第1の金属板1が変形して第3の金属板3に接触するよりも低い加圧力で、重合部Pを加圧する状態でもある。一例として、本実施形態では、加圧力F1を5[kgf]に設定している。このような加圧力で通電するステップを溶接の初期、つまり、両金属板1,3が溶接電極10によって重合部Pを相当の加圧力で加圧する前の段階であって、両金属板1,3が重合部Pで実質的に接触していない段階で設けることで、無効電流経路C1の抵抗値の算出が可能になる。
【0038】
また、以上のようにして算出される溶接時の有効電流率Kを用いて、溶接時の発熱密度Dを算出してもよい。発熱密度Dは、溶接時の重合部Pに流れる電流をIP、電圧をV、重合部Pにおける第1の金属板1と第3の金属板3との接触面積をSとすると、D=V・IP/Sとして算出することができる。電圧Vは、前述したトランス4の二次コイルの電圧値を用いることができる。
【0039】
重合部Pに流れる電流値IPは、全体抵抗RTから有効電流経路C2の抵抗値RAを算出することにより、IP=V/RAにより求めることができる。抵抗値RAは、RA=RT・RB/(RB―RT)により求めることができる。
【0040】
接触面積Sは、溶接電極10の基準位置からの変位量xとの相関関係を用いて算出することができる。つまり、予め上記の板組みを溶接する際の、各時刻における金属板1,3同士の接触面積Sと、そのときの溶接電極10の基準位置からの変位量xとの相関関係を取得する。そして、実際の溶接時の溶接電極10の各時刻における変位量xから、上記の相関関係を用いて、各時刻における接触面積Sを取得することができる。
【0041】
以上のようにして算出された各値により、実際の溶接時における発熱密度Dを算出することができる。つまり、実際の溶接の一連のプロセスの中で、発熱密度Dを算出することが可能になる。発熱密度Dは、抵抗溶接の原理原則を考慮して、金属板1,3同士の接触部の発熱状態に影響を及ぼす複数の動的な因子(具体的には、重合部Pを流れる電流値Ipと、温度に依存して変化する抵抗値と、金属板の硬さや電極の加圧力に依存して変化する接触面積S)を一本化したパラメータである。発熱密度Dにより、重合部Pの単位面積当たり発熱エネルギーの大小を定量的に評価することができる。
【0042】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0043】
以上の説明では、有効電流率を無効電流経路と有効電流経路との抵抗値に基づいて設定したが、電流値により設定してもよく、例えば、全体の抵抗値に対する有効電流経路を流れる電流値としてもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 第1の金属板(ワーク)
2 第2の金属板
3 第3の金属板(ワーク)
10 溶接電極
20 アース電極
C1 無効電流経路
C2 有効電流経路
P 重合部
Q1,Q2 既接合点
図1
図2
図3
図4