特許第6903387号(P6903387)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6903387
(24)【登録日】2021年6月25日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】リン酸チタンリチウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/45 20060101AFI20210701BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20210701BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALN20210701BHJP
【FI】
   C01B25/45 H
   H01M10/052
   !H01M10/0562
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2019-123388(P2019-123388)
(22)【出願日】2019年7月2日
(65)【公開番号】特開2020-121914(P2020-121914A)
(43)【公開日】2020年8月13日
【審査請求日】2021年1月15日
(31)【優先権主張番号】特願2019-12871(P2019-12871)
(32)【優先日】2019年1月29日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深沢 純也
(72)【発明者】
【氏名】畠 透
(72)【発明者】
【氏名】加藤 拓馬
【審査官】 神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−036049(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0162136(US,A1)
【文献】 特開2013−077377(JP,A)
【文献】 特表2013−507317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/45
H01M 10/052、10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
Li1+x(Ti1−y2−x(PO (1)
(式中、0≦x≦1.0、0≦y≦0.5、であり、Mは、Al、Ga、Sc、Y、La、Fe、Cr、Ni、Mn、In及びCoから選ばれる1種又は2種以上の2価又は3価の金属元素を示す。AはGe、Zr、V、Nb、Sn及びSiから選ばれる1種又は2種以上の4価又は5価の金属元素を示す。)
で表されるナシコン(NASICON)構造を有するリン酸チタンリチウムの製造方法であって、
少なくとも、二酸化チタン、リン酸、ポリカルボン酸系界面活性剤及び溶媒を含有する原料混合スラリー(1)を調製する第1工程と、
該原料混合スラリー(1)を加熱処理して、原料加熱処理物スラリー(2)を得る第2工程と、
該原料加熱処理物スラリー(2)にリチウム源を混合して、リチウム含有原料加熱処理物スラリー(3)を得る第3工程と、
該リチウム含有原料加熱処理物スラリー(3)を噴霧乾燥処理して、少なくとも、Ti、P及びLiを含有する反応前駆体を得る第4工程と、
該反応前駆体を焼成する第5工程と、
を有することを特徴とするリン酸チタンリチウムの製造方法。
【請求項2】
前記第1工程において、更に、M源(Mは、Al、Ga、Sc、Y、La、Fe、Cr、Ni、Mn、In及びCoから選ばれる1種又は2種以上の2価又は3価の金属元素を示す。)及び/又はA源(Aは、Ge、Zr、V、Nb、Sn及びSiから選ばれる1種又は2種以上の4価又は5価の金属元素を示す。)を、前記原料混合スラリー(1)に含有させることを特徴とする請求項1記載のリン酸チタンリチウムの製造方法。
【請求項3】
前記加熱処理物スラリー(2)又は前記リチウム含有加熱処理物スラリー(3)に、更に、M源(Mは、Al、Ga、Sc、Y、La、Fe、Cr、Ni、Mn、In及びCoから選ばれる1種又は2種以上の2価又は3価の金属元素を示す。)及び/又はA源(Aは、Ge、Zr、V、Nb、Sn及びSiから選ばれる1種又は2種以上の4価又は5価の金属元素を示す。)を混合することを特徴とする請求項1記載のリン酸チタンリチウムの製造方法。
【請求項4】
前記二酸化チタンがアナターゼ型であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載のリン酸チタンリチウムの製造方法。
【請求項5】
前記第2工程における加熱処理温度が、50〜120℃であることを特徴とする請求項1〜いずれか1項記載のリン酸チタンリチウムの製造方法。
【請求項6】
前記反応前駆体は、ラマンスペクトル分光分析において、975cm−1付近にピークが観察されるものであることを特徴とする請求項1〜いずれか1項記載のリン酸チタンリチウムの製造方法。
【請求項7】
前記M源がAl含有化合物であることを特徴とする請求項1〜いずれか1項記載のリン酸チタンリチウムの製造方法。
【請求項8】
前記Al含有化合物が重リン酸アルミニウムであることを特徴とする請求項記載のリン酸チタンリチウムの製造方法。
【請求項9】
前記M源がCr含有化合物であることを特徴とする請求項1〜いずれか1項記載のリン酸チタンリチウムの製造方法。
【請求項10】
前記Cr含有化合物がリン酸クロムであることを特徴とする請求項記載のリン酸チタンリチウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質として有用なリン酸チタンリチウムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池の安全性を高める1つの方法として、動作温度範囲が広く、大気中で安定化な酸化物系固体電解質を用いる方法が検討されている。
【0003】
酸化物系固体電解質としては、例えば、ガーネット型酸化物、NASICON型酸化物、ペロブスカイト型酸化物等が検討されている。
【0004】
ナシコン(NASICON)構造を有するリン酸チタンリチウムは、大気中で安定であり、特にリン酸チタンリチウムのチタンの一部をAl元素で置換したリン酸チタンリチウム(LATP)はリチウムイオン伝導性が高いことから、固体電解質として注目されている材料の1つである(例えば、特許文献1〜4参照。)。
【0005】
リン酸チタンリチウム(LATP)の製造方法として、例えば、TiO、リチウム塩、リン酸塩及び酸化アルミニウムとを乾式混合した後、加熱により固相反応を行う方法(特許文献1等参照。)、リン酸チタンリチウム(LATP)の原料となる複数の酸化物をCa(POと共に熔解してガラス化し、そのガラスを熱処理及び酸処理する方法(特許文献3参照。)、リン酸チタンリチウム(LATP)の原料となる複数の酸化物を混合して、各原料の融点以上の温度で加熱溶解し、次いで、自然冷却することによりナシコン構造型の結晶体を生成し、該結晶体を粉砕し、次いで焼成を行う方法(特許文献4参照
。)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017−216062号公報
【特許文献2】特開平2−162605号公報
【特許文献3】特開平5−139781号公報
【特許文献4】国際公開第2016/063607号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記固相法では、チタン源とリン源とが均一に混合された原料混合物を工業的に有利に得ることが難しく、このために、X線回折的に単相のものを工業的に有利に得ることが難しいという問題があり、また、ガラス化法により得る方法は、工程が煩雑となり工業的に有利でない。
【0008】
従って、本発明の目的は、工業的に有利な方法で、X線回折的に単相のリン酸チタンリチウムを得ることができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記実情に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、二酸化チタン、リン酸及び界面活性剤を含有する混合スラリー(1)を加熱処理することにより、加熱処理による効果と界面活性剤の添加効果との相乗効果で、リチウム源添加後においても噴霧乾燥装置内部での付着が抑制されたリチウム含有加熱処理物スラリー(3)になること、該リチウム含有加熱処理物スラリー(3)を噴霧乾燥して得られるTi、P、Li、更にはM元素を含む反応前駆体は、反応性に優れ、該反応前駆体を焼成することにより、容易にX線回折的に単相のリン酸チタンリチウムが得られることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0010】
すなわち、本発明(1)は、下記一般式(1):
Li1+x(Ti1−y2−x(PO (1)
(式中、0≦x≦1.0、0≦y≦0.5、であり、Mは、Al、Ga、Sc、Y、La、Fe、Cr、Ni、Mn、In及びCoから選ばれる1種又は2種以上の2価又は3価の金属元素を示す。AはGe、Zr、V、Nb、Sn及びSiから選ばれる1種又は2種以上の4価又は5価の金属元素を示す。)
で表されるナシコン(NASICON)構造を有するリン酸チタンリチウムの製造方法であって、
少なくとも、二酸化チタン、リン酸、ポリカルボン酸系界面活性剤及び溶媒を含有する原料混合スラリー(1)を調製する第1工程と、
該原料混合スラリー(1)を加熱処理して、原料加熱処理物スラリー(2)を得る第2工程と、
該原料加熱処理物スラリー(2)にリチウム源を混合して、リチウム含有原料加熱処理物スラリー(3)を得る第3工程と、
該リチウム含有原料加熱処理物スラリー(3)を噴霧乾燥処理して、少なくとも、Ti、P及びLiを含有する反応前駆体を得る第4工程と、
該反応前駆体を焼成する第5工程と、
を有することを特徴とするリン酸チタンリチウムの製造方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明(2)は、前記第1工程において、更に、M源(Mは、Al、Ga、Sc、Y、La、Fe、Cr、Ni、Mn、In及びCoから選ばれる1種又は2種以上の2価又は3価の金属元素を示す。)及び/又はA源(Aは、Ge、Zr、V、Nb、Sn及びSiから選ばれる1種又は2種以上の4価又は5価の金属元素を示す。)を、前記原料混合スラリー(1)に含有させることを特徴とする(1)のリン酸チタンリチウムの製造方法を提供するものである。
【0012】
また、本発明(3)は、前記加熱処理物スラリー(2)又は前記リチウム含有加熱処理物スラリー(3)に、更に、M源(Mは、Al、Ga、Sc、Y、La、Fe、Cr、Ni、Mn、In及びCoから選ばれる1種又は2種以上の2価又は3価の金属元素を示す。)及び/又はA源(Aは、Ge、Zr、V、Nb、Sn及びSiから選ばれる1種又は2種以上の4価又は5価の金属元素を示す。)を混合することを特徴とする(1)のリン酸チタンリチウムの製造方法を提供するものである。
【0013】
また、本発明(4)は、前記二酸化チタンがアナターゼ型であることを特徴とする(1)〜(3)いずれかのリン酸チタンリチウムの製造方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明()は、前記第2工程における加熱処理温度が、50〜120℃であることを特徴とする(1)〜()いずれかのリン酸チタンリチウムの製造方法を提供するものである。
【0017】
また、本発明()は、前記反応前駆体は、ラマンスペクトル分光分析において、975cm−1付近にピークが観察されるものであることを特徴とする請求項(1)〜()いずれかのリン酸チタンリチウムの製造方法を提供するものである。
【0018】
また、本発明()は、前記M源がAl含有化合物であることを特徴とする(1)〜()いずれかのリン酸チタンリチウムの製造方法を提供するものである。
【0019】
また、本発明()は、前記Al含有化合物が重リン酸アルミニウムであることを特徴とする()のリン酸チタンリチウムの製造方法を提供するものである。
【0020】
また、本発明()は、前記M源がCr含有化合物であることを特徴とする(1)〜()いずれかのリン酸チタンリチウムの製造方法を提供するものである。
【0021】
また、本発明(10)は、前記Cr含有化合物がリン酸クロムであることを特徴とする()のリン酸チタンリチウムの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、工業的に有利な方法で、X線回折的に単相のリン酸チタンリチウムを得ることができる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施例1の第4工程で得られた反応前駆体のX線回折図。
図2】実施例1の第4工程で得られた反応前駆体のラマンスペクトル。
図3】実施例1で得られたリン酸チタンリチウムのX線回折図。
図4】実施例1で得られたリン酸チタンリチウムのSEM写真。
図5】比較例1で得られた付着物のラマンスペクトル。
図6】実施例2で得られたリン酸チタンリチウムのX線回折図。
図7】実施例3の第4工程で得られた反応前駆体のラマンスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のリン酸チタンリチウムの製造方法は、下記一般式(1):
Li1+x(Ti1−y2−x(PO (1)
(式中、0≦x≦1.0、0≦y≦0.5であり、Mは、Al、Ga、Sc、Y、La、Fe、Cr、Ni、Mn、In及びCoから選ばれる1種又は2種以上の2価又は3価の金属元素を示す。AはGe、Zr、V、Nb、Sn及びSiから選ばれる1種又は2種以上の4価又は5価の金属元素を示す。)
で表されるナシコン(NASICON)構造を有するリン酸チタンリチウムの製造方法であって、
少なくとも、二酸化チタン、リン酸、界面活性剤及び溶媒を含有する原料混合スラリー(1)を調製する第1工程と、
該原料混合スラリー(1)を加熱処理して、原料加熱処理物スラリー(2)を得る第2工程と、
該原料加熱処理物スラリー(2)にリチウム源を混合して、リチウム含有原料加熱処理物スラリー(3)を得る第3工程と、
該リチウム含有原料加熱処理物スラリー(3)を噴霧乾燥処理して、少なくとも、Ti、P及びLiを含有する反応前駆体を得る第4工程と、
該反応前駆体を焼成する第5工程と、
を有することを特徴とするリン酸チタンリチウムの製造方法である。
【0025】
本発明のリン酸チタンリチウムの製造方法により得られるリン酸チタンリチウムは、下記一般式(1):
Li1+x(Ti1−y2−x(PO (1)
(式中、0≦x≦1.0、0≦y≦0.5、であり、Mは、Al、Ga、Sc、Y、La、Fe、Cr、Ni、Mn、In及びCoから選ばれる1種又は2種以上の2価又は3価の金属元素を示す。AはGe、Zr、V、Nb、Sn及びSiから選ばれる1種又は2種以上の4価又は5価の金属元素を示す。)
で表されるナシコン(NASICON)構造を有するリン酸チタンリチウムである。
【0026】
一般式(1)の式中のxは、0≦x≦1.0、好ましくは0≦x≦0.7である。yは、0≦y≦0.5、好ましくは0≦y≦0.4である。M及び/又はAは、例えば、リチウムイオン伝導率等の性能を向上させることを目的として必要により含有させる金属元素である。Mは、2価又は3価の金属元素であり、Al、Ga、Sc、Y、La、Fe、Cr、Ni、Mn、In及びCoから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示し、Al及び/又はCrであることが好ましい。
Aは、4価又は5価の金属元素であり、Ge、Zr、V、Nb、Sn及びSiから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示し、Zrであることが好ましい。
また、一般式(1)の式中のx+yは、0≦x+y≦1.5、好ましくは0≦x+y≦1.0であることがリチウムイオン伝導率等の性能を向上させる観点から好ましい。
【0027】
本発明のリン酸チタンリチウムの製造方法に係る第1工程は、溶媒に、二酸化チタン、リン酸及び界面活性剤を添加し撹拌することにより、溶媒中で、二酸化チタン、リン酸及び界面活性剤を混合し、二酸化チタン、リン酸及び界面活性剤を含有する原料混合スラリー(1)を調製する工程である。
【0028】
第1工程に係る二酸化チタンは、硫酸法で製造されたものであってもよいし、塩酸法で製造されたものであってもよいし、気相法で製造されたものであってもよいし、あるいは、他の公知方法で製造されたものであってもよく、二酸化チタンの製造方法は特に制限されない。
【0029】
二酸化チタンの平均粒子径は、好ましくは20μm以下、特に好ましくは0.1〜10μmである。二酸化チタンの平均粒子径が上記範囲にあることにより、各原料との反応性が高くなる。また、二酸化チタンのBET比表面積は、好ましくは50m/g以上、特に好ましくは150〜400m/gである。二酸化チタンのBET比表面積が上記範囲にあることにより、各原料との反応性が高くなる。
【0030】
二酸化チタンの結晶構造は、アナターゼ型とルチル型に大別されるが、本発明においては、いずれの結晶構造のものも使用できる。これらのうち、二酸化チタンの結晶構造は、アナターゼ型であることが、反応性が良好になる点で好ましい。
【0031】
第1工程に係るリン酸は、工業的に入手できるものであれば、特に制限されない。リン酸は、水溶液であってもよい。
【0032】
第1工程に係る界面活性剤は、二酸化チタン粒子の粒子表面に選択的に吸着し、原料混合スラリー(1)中に二酸化チタンを高分散させる機能を有し、二酸化チタンが高分散した状態で、第2工程の加熱処理において、後述する一般式(2)で表されるリン酸チタンを生成させることができる。そして、本発明のリン酸チタンリチウムの製造方法では、第2工程における加熱処理と、原料加熱処理物スラリー(2)及びリチウム含有加熱処理物スラリー(3)に残存する界面活性剤の相乗効果により、リチウム含有原料加熱処理物スラリー(2)の粘度が低くなる。このため、第4工程の噴霧乾燥処理において、噴霧乾燥
装置の内部でのスラリーの付着が劇的に少なくなる。
【0033】
第1工程に係る界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤及び両性界面活性剤のうちのいずれであってもよく、噴霧乾燥装置の内部でのスラリーの付着を抑制する効果が高くなる点で、アニオン系界面活性剤が好ましい。
【0034】
アニオン系界面活性剤は、カルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩及びリン酸エステル塩から選ばれる少なくとも1種のアニオン性界面活性剤であることが、原料加熱処理物スラリー(2)及びリチウム含有原料加熱処理物スラリー(3)の粘度を低くする効果が高く、反応性に優れた反応前駆体が得られる点で好ましく、ポリカルボン酸系界面活性剤又はポリアクリル酸系界面活性剤が特に好ましく、ポリカルボン酸系界面活性剤がより好ましい。ポリカルボン酸系界面活性剤としては、ポリカルボン酸のアンモニウム塩が好ましい。
【0035】
界面活性剤は、市販のものであってもよい。市販のポリカルボン酸型界面活性剤の一例としては、サンノプコ社製のSNディスパーサント5020、SNディスパーサント5023、SNディスパーサント5027、SNディスパーサント5468、ノプコスパース5600、KAO社製のポイズ532A等が挙げられる。
【0036】
第1工程に係る溶媒は、水溶媒、あるいは、水と親水性有機溶媒の混合溶媒である。親水性有機溶媒としては、原料に対して不活性なものであれば特に制限されず、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール、メチルエチルケトンなどが挙げられる。水と親水性有機溶媒の混合溶媒の場合、水と親水性有機溶媒の混合比は適宜選択される。
【0037】
原料混合スラリー(1)中の二酸化チタンの含有量は、二酸化チタン中のTi原子に対するリン酸中のP原子のモル比(P/Ti)で、好ましくは1.50〜3.00、特に好ましくは1.60〜2.30となる量である。原料混合スラリー(1)中の二酸化チタンの含有量が上記範囲にあることにより、単相のリン酸チタンリチウムが得られ易くなる。
【0038】
原料混合スラリー(1)中の二酸化チタンの固形分としての含有量は、原料混合スラリー(1)の全量に対して、好ましくは0.3〜40質量%、特に好ましくは0.3〜35質量%、より好ましくは5〜25質量%である。原料混合スラリー(1)中の二酸化チタンの固形分としての含有量が上記範囲にあることにより、各原料成分の分散性が高くなり、また、スラリーの粘度上昇の抑制効果が高くなる。
【0039】
原料混合スラリー(1)中の界面活性剤の含有量は、二酸化チタン100質量部に対して、好ましくは1〜20質量部、特に好ましくは5〜15質量部である。原料混合スラリー(1)中の界面活性剤の含有量が上記範囲にあることにより、スラリーの粘度上昇の抑制効果が高くなる。
【0040】
なお、第1工程において、溶媒への二酸化チタン、リン酸及び界面活性剤の添加順序は、特に制限されない。
【0041】
第1工程において、原料混合スラリー(1)の調製を、二酸化チタンとリン酸が反応しない温度で行うことが好ましい。原料混合スラリー(1)を調製する際の温度は、好ましくは50℃未満、特に好ましくは40℃以下、より好ましくは10〜30℃である。
【0042】
本発明のリン酸チタンリチウムの製造方法に係る第2工程は、第1工程を行うことにより得られる原料混合スラリー(1)を加熱処理して、原料加熱処理物スラリー(2)を得る工程である。
【0043】
第2工程における加熱処理では、少なくともリン酸と二酸化チタン或いは必要により添加するA源が反応して、下記一般式(2):
(Ti1−y)(HPO・nHO (2)
(式中、0≦y≦0.5、AはGe、Zr、V、Nb、Sn及びSiから選ばれる1種又は2種以上の4価又は5価の金属元素を示す。nは0≦n≦1を示す。)で表されるリン酸チタンが生成する。そして、第2工程では、原料混合スラリー(1)を加熱処理することにより、前記一般式(2)で表されるリン酸チタンを含有する原料加熱処理物スラリー(2)が得られる。
【0044】
二酸化チタンとリン酸を含むスラリー、及び二酸化チタンとリン酸を含むスラリーに対して加熱処理を行い得られるスラリーは、スラリー自体の粘性が著しく高くなるため、該スラリーを噴霧乾燥装置に導入すると、噴霧燥装置内部に該スラリーが付着して噴霧乾燥を行うことができない。これに対して、本発明者らは、二酸化チタンとリン酸とを含む原料混合スラリー(1)を界面活性剤の存在下に加熱処理することにより、少なくとも前記一般式(2)で表されるリン酸チタンを含むスラリーになり、且つ、この加熱処理による効果と界面活性剤の添加効果との相乗効果により、原料混合スラリー(1)に比べて粘度が低く、更に噴霧乾燥装置の内部に付着し難いスラリー(原料加熱処理スラリー(2)、リチウム含有原料加熱処理物スラリー(3))が得られること、また、原料加熱処理スラリー(2)にリチウム源を添加してリチウム含有原料加熱処理物スラリー(3)を得、次いで、リチウム含有原料加熱処理物スラリー(3)を噴霧熱分解して得られる反応前駆体は、反応性に優れる反応前駆体になることを見出した。
【0045】
第2工程における加熱処理の温度は、好ましくは50〜120℃、特に好ましくは70〜105℃である。第2工程における加熱処理の温度が上記範囲にあることにより、工業的に有利な方法で二酸化チタンとリン酸の反応を完結させることができる。第2工程における加熱処理の時間は、本発明のリン酸チタンリチウムの製造方法において臨界的ではないが、好ましくは2時間以上、特に好ましくは4〜24時間である。第2工程における加熱処理の時間が上記範囲にあることにより、一般式(2)で表されるリン酸チタンが生成し、また、後述するように、ラマンスペクトル分光分析において、975cm−1付近に
ピークが観察されるまで十分に反応が行われるので、噴霧乾燥装置へのスラリーの付着が抑制され、且つ、反応性に優れた反応前駆体を得易くなる。なお、本発明では、ラマンスペクトル分光分析において975cm−1付近にピークが観察されるとは、検出されるピークの極大値が975cm−1付近に存在すると言うことであり、また、975cm−1付近とは975±20cm−1の範囲を示す。
【0046】
第2工程において、二酸化チタンとリン酸との反応を効率的に行うことができる点で、撹拌下に加熱処理を行うことが好ましい。また、第2工程では、大気圧下で加熱処理を行うことが好ましい。
【0047】
本発明のリン酸チタンリチウムの製造方法に係る第3工程は、原料加熱処理物スラリー(2)にリチウム源を混合して、リチウム含有原料加熱処理物スラリー(3)を得る工程である。
【0048】
第3工程に係るリチウム源としては、水酸化リチウム、炭酸リチウム、酸化リチウム、有機酸リチウム等が挙げられ、これらのうち、水酸化リチウムがスラリーに溶解した状態で存在させることができ、また、工業的に入手が容易である観点から好ましい。
【0049】
リチウム源の加熱処理物スラリー(2)への添加時期であるが、第2工程後の加温状態の原料加熱処理物スラリー(2)へリチウム源を添加してもよく、また、第2工程後、室温付近まで、好ましくは30℃以下に冷却した原料加熱処理物スラリー(2)へリチウム源を添加してもよい。そして、第2工程後、室温付近まで、好ましくは30℃以下に冷却した原料加熱処理物スラリー(2)へリチウム源を添加することが、スラリーの粘度上昇を抑制することができる点で好ましい。
【0050】
リチウム源の添加量は、原料加熱処理物スラリー(2)中のTi原子に対するリチウム源中のLi原子のモル比(Li/Ti)で、好ましくは0.5〜2.0となる量、特に好ましくは0.6〜1.3となる量である。リチウム源の添加量が上記範囲にあることにより、リチウムイオン伝導率が高くなる。
【0051】
このようにして、第3工程においてリチウム含有原料加熱処理物スラリー(3)が得られるが、本発明のリン酸チタンリチウムの製造方法では、必要により、第1工程の開始時から第3工程の終了時までの間の何れかの時期に、更にスラリー(原料混合スラリー(1)、原料加熱処理物スラリー(2)、リチウム含有原料加熱処理物スラリー(3))に、M源(Mは、Al、Ga、Sc、Y、La、Fe、Cr、Ni、Mn、In及びCoから選ばれる1種又は2種以上の2価又は3価の金属元素を示す。)及び/又はA源(Aは、Ge、Zr、V、Nb、Sn及びSiから選ばれる1種又は2種以上の4価又は5価の金属元素を示す。)を含有させることができる。つまり、本発明のリン酸チタンリチウムの製造方法では、必要により、第1工程において原料混合スラリー(1)を調製する際に、溶媒にM源及び/又はA源を混合すること、第2工程で得られる原料加熱処理物スラリー(2)に、又は第3工程においてリチウム源を混合する際に、スラリーにM源及び/又はA源を混合することができる。
【0052】
M源としては、例えば、M元素を含む酸化物、水酸化物、炭酸塩、有機酸塩、硝酸塩、リン酸塩が挙げられる。M源としては、例えば、Al含有化合物、Cr含有化合物が挙げられる。Al含有化合物としては、例えば、重リン酸アルミニウムが挙げられる。Cr含有化合物としては、リン酸クロムが挙げられる。
また、A源としては、例えば、A元素を含む酸化物、水酸化物、炭酸塩、有機酸塩、硝酸塩、リン酸塩が挙げられる。
【0053】
M源の含有量は、二酸化チタン中のTi原子とM源中のM原子の合計のモル比に対するM源中のM原子のモル比(M/(M+Ti))が、0より大きく0.50以下、好ましくは0.10〜0.35、特に好ましくは0.15〜0.30となる量である。二酸化チタン中のTi原子とM源中のM原子の合計のモル比に対するM源中のM原子のモル比(M/(M+Ti))が上記範囲にあることにより、X線回折的に単相のリン酸チタンリチウムが得られ易くなる。なお、M源を添加する場合は、リチウムイオン伝導率が高くなる点で、第3工程において、リチウム源の添加量が、加熱処理物スラリー(2)中のTi原子及びM源中のM原子の合計モル比に対するリチウム源中のLi原子のモル比(Li/(Ti+M))で、0.50〜1.00となる量が好ましく、0.60〜0.90となる量であることが特に好ましい。
【0054】
A源の含有量は、二酸化チタン中のTi原子とA源中のA原子の合計のモル比に対するA源中のA原子のモル比(A/(A+Ti))が、0より大きく0.50以下、好ましくは0より大きく0.40以下、特に好ましくは0.02〜0.25となる量である。二酸化チタン中のTi原子とA源中のA原子の合計のモル比に対するA源中のA原子のモル比(A/(A+Ti))が上記範囲にあることにより、X線回折的に単相のリン酸チタンリチウムが得られ易くなる。なお、A源を添加する場合は、リチウムイオン伝導率が高くなる点で、第3工程において、リチウム源の添加量が、加熱処理物スラリー(2)中のTi原子及びA源中のA原子の合計モル比に対するリチウム源中のLi原子のモル比(Li/(Ti+A))で、0.50〜1.00となる量が好ましく、0.60〜0.90となる量であることが特に好ましい。
【0055】
また、M源及びA源を併用する場合のM源及びA源の含有量は、二酸化チタン中のTi原子、M源中のM原子及びA源中のA原子の合計のモル比に対するM源中のM原子及びA源中のA原子の合計のモル比((M+A)/(M+A+Ti))が、0より大きく0.5以下、好ましくは0.1〜0.35、特に好ましくは0.15〜0.30となる量である。二酸化チタン中のTi原子、M源中のM原子及びA源中のA原子の合計のモル比に対するM源中のM原子及びA源中のA原子の合計のモル比((M+A)/(M+A+Ti)が上記範囲にあることにより、X線回折的に単相のリン酸チタンリチウムが得られ易くなる。
【0056】
本発明のリン酸チタンリチウムの製造方法に係る第4工程は、第3工程を行い得られるリチウム含有原料加熱処理物スラリー(3)を噴霧乾燥して、反応前駆体を得る工程である。
【0057】
第4工程において、噴霧乾燥により乾燥処理を行うことにより、原料粒子が密に詰まった状態の造粒物が得られるため、X線回折的に単相のリン酸チタンリチウムが得られ易くなる。
【0058】
第4工程における噴霧乾燥では、所定手段によってスラリーを霧化し、それによって生じた微細な液滴を乾燥させることにより、反応前駆体を得る。スラリーの霧化には、例えば回転円盤を用いる方法と、圧力ノズルを用いる方法がある。第4工程においてはいずれの方法も用いることもできる。
【0059】
第4工程における噴霧乾燥では、霧化された液滴の大きさは、特に限定されないが、1〜40μmが好ましく、5〜30μmが特に好ましい。噴霧乾燥装置へのスラリーの供給量は、この観点を考慮して決定することが好ましい。
【0060】
第4工程において、噴霧乾燥装置での乾燥温度を、熱風入口温度が150〜300℃、好ましくは200〜250℃となるように調整して、熱風出口温度が80〜200℃、好ましくは100〜170℃となるように調整することが、粉体の吸湿を防ぎ粉体の回収が容易になることから好ましい。
【0061】
第4工程を行い得られる反応前駆体は、一般式(2)で表されるリン酸チタンを含有する。また、反応前駆体は、ラマンスペクトル分光分析において、975cm−1付近にピークが観察されるものであることが、噴霧乾燥装置へのスラリーの付着が抑制され、且つ、反応性に優れた反応前駆体となる点で好ましい。また、リチウム源、必要に応じて更にM源を添加して得られる反応前駆体は、一般式(2)で表されるリン酸チタン以外の化合物として、添加したリチウム源やM源がスラリー中で反応してLi元素を含有する化合物及び/又はM元素を含有する化合物として含まれていても差し支えない。
【0062】
このようにして、第4工程を行うことにより、第5工程において焼成に付する反応前駆体を得る。
【0063】
本発明のリン酸チタンリチウムの製造方法に係るに係る第5工程は、第4工程を行い得られる反応前駆体を焼成して、X線的に単相のリン酸チタンリチウムを得る工程である。
【0064】
第5工程での焼成温度は、好ましくは500〜1100℃、特に好ましくは550〜1050℃である。焼成温度が上記範囲であることにより、X線的に単相のリン酸チタンリチウムが得られる。一方、焼成温度が上記範囲未満だと、X線的に単相なものになるまでの焼成時間が長くなり過ぎ、また、粒度分布がシャープなものが得られ難くなる傾向にある。また、焼成温度が上記範囲を超えると、一次粒子が大きく成長した焼結体が粗大粒子となって含有されるため、好ましくない。
【0065】
第5工程での焼成雰囲気は、大気雰囲気又は不活性ガス雰囲気である。不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等が挙げられ、これらの中、窒素ガスが、安価で工業的に有利になる観点から好ましい。
【0066】
第5工程における焼成時間は、特に制限されず、0.5時間以上、好ましくは2〜20時間である。第5工程では、0.5時間以上、好ましくは2〜20時間焼成を行えば、X線回折的に単相のリン酸チタンリチウムを得ることができる。
【0067】
第5工程では、一旦焼成を行い得られたリン酸チタンリチウムを、必要に応じて、複数回焼成してもよい。
【0068】
第5工程を行い得られるリン酸チタンリチウムを、必要に応じて、解砕処理、又は粉砕処理し、更に分級してもよい。
【0069】
このようにして本発明のリン酸チタンリチウムの製造方法を得られるリン酸チタンリチウムは、X線回折的に単相のリン酸チタンリチウムであることに加えて、レーザー回折散乱法により求められる平均粒子径が、好ましくは10μm以下、特に好ましくは0.1〜5μmであり、BET比表面積が、好ましくは1m/g以上、特に好ましくは5〜30m/gである。なお、レーザー回折散乱法により求められる平均粒子径とは、レーザー回折散乱法により測定される体積頻度粒度分布測定により求められる積算50%(D50)の粒径を指す。
【0070】
本発明のリン酸チタンリチウムの製造方法を行い得られるリン酸チタンリチウムは、二次電池の固体電解質或いは正極、負極材料として好適に利用される。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<評価装置>
・X線回折:リガク社 UltimaIVを用いた。
線源としてCu−Kαを用いた。測定条件は、管電圧40kV、管電流40mA、走査速度0.1°/secとした。
・ラマン分光装置:サーモフィッシャーサイエンティフィック製 NicoletAlmega XRを用いた。測定条件は、レーザー波長を532nmとした。
【0072】
(実施例1)
<第1工程>
純水4.6Lに室温(25℃)でスリーワンモーター攪拌機を用いて攪拌しながら、純度89.9%のアナターゼ型二酸化チタン(平均粒径4μm、BET比表面積323m/g、アナターゼ型の含有量が99.9質量%)600g、アニオン系界面活性剤(ポリカルボン酸アンモニウム、サンノプロ社製SNディスパーサント5468)52.2g、85質量%リン酸(含水率15質量%)962.9gの順に仕込んで、原料混合スラリー(1)を調製した。
<第2工程>
次いで、撹拌下にこの原料混合スラリー(1)を、30℃/hで90℃まで昇温し、そのまま90℃で8時間保持した後、室温(25℃)まで放冷して、原料加熱処理物スラリー(2)を得た。
<第3工程>
次いで、原料加熱処理物スラリー(2)に、50質量%重リン酸アルミニウム水溶液715g、次いで、水酸化リチウム一水和物216.7gを870mlの純水に溶解した水酸化リチウム水溶液を20分かけて撹拌下に添加しリチウム含有原料加熱処理物スラリー(3)を得た。
<第4工程>
次いで、220℃に設定したスプレードライヤーに、2.4L/hの供給速度で、リチウム含有原料加熱処理物スラリー(3)を供給し、乾燥物を得た。スプレードライヤーの内部を目視で観察したところ、内部付着分は少なく、回収率は固形分基準で95%であった。得られた乾燥物をX線回折分析したところ、α−Ti(HPO(HO)が観察され、それ以外に、Li(HPO)、Al(PO)、Al(PO)(HO)、Al(HPO)(HPO)も検出された(図1)。また、ラマンスペクトル分析したところ975cm−1にピークが確認された(図2)。
<第5工程>
次いで、得られた反応前駆体を大気中700℃で4時間、焼成し、焼成物を得た。次いで、焼成物を気流粉砕機で粉砕を行い、粉砕物を得た。
得られた粉砕物をX線回折分析したところ、焼成物はナシコン(NASICON)構造を有する単相のLi1.2Al0.2Ti1.8(POであった(図3)。これをリン酸チタンリチウム試料とした。また、得られたリン酸チタンリチウム試料のSEM写真を図4に示す。
【0073】
(比較例1)
純水4.6Lに室温(25℃)でスリーワンモーター攪拌機を用いて攪拌しながら純度89.9%のアナターゼ型二酸化チタン(平均粒径4μm、BET比表面積323m/g、アナターゼ型の含有量が99.9質量%)600g、アニオン系界面活性剤(ポリカルボン酸アンモニウム、サンノプロ社製SNディスパーサント5468)52.2g、85質量%リン酸(含水率15質量%)962.9gの順に仕込み、8時間攪拌して、原料混合スラリー(1)を得た。
次いで、原料混合スラリー(1)に、50質量%重リン酸アルミニウム水溶液715g、次いで、水酸化リチウム一水和物216.7gを870mlの純水に溶解した水酸化リチウム水溶液を20分かけて撹拌下に添加しリチウム含有スラリーを得た。
次いで、220℃に設定したスプレードライヤーに、2.4L/hの供給速度でリチウム含有スラリーを供給したが、スラリーのほぼ全量がスプレードライヤー内部に付着した。付着物をラマンスペクトル分析したところ975cm−1付近のピークは確認されなかった(図5)。
【0074】
(比較例2)
純水4.6Lに室温(25℃)でスリーワンモーター攪拌機を用いて攪拌しながら純度89.9%のアナターゼ型二酸化チタン(平均粒径4μm、BET比表面積323m/g、アナターゼ型の含有量が99.9質量%)600g、85質量%リン酸(含水率15質量%)962.9gの順に仕込み、8時間攪拌して混合スラリー(1)を得た。
次いで、撹拌下にこのスラリーを30℃/hで90℃まで昇温したところ、ゲル化して、攪拌不能となった。ゲル化したケーキをラマンスペクトル分析したところ975cm−1付近のピークは確認された。
【0075】
【表1】
【0076】
(1)<物性評価>
実施例で得られたリン酸チタンリチウム試料について、平均粒子径、BET比表面積を測定した。なお、平均粒子径は、レーザー回折散乱法により求めた。
【0077】
(2)<リチウムイオン伝導性の評価>
<成型体の作製1>
実施例で得られたリン酸チタンリチウム試料0.5gとバインダー(Spectro Blend(登録商標)、4.4μm Powder)0.05gを乳鉢で5分間混合し、φ10mmの金型に全量充填し、ハンドプレスを用いて300kgの圧力でペレット状に成形し、粉末成形体を作製した。
得られた粉末成型体を、電気炉で850℃で4時間、大気中で焼成してセラミック成型体を得た。
<リチウムイオン伝導度の測定>
セラミック成形体の両面をPt蒸着により電極を形成した後、交流インピーダンス測定を行い、得られたcole-coleプロットからフィッティングを行い室温(25℃)におけるリチウムイオン伝導度を求めた。
【0078】
【表2】
【0079】
(実施例2)
<第1工程>
純水4.6Lに室温(25℃)でスリーワンモーター攪拌機を用いて攪拌しながら、純度89.9%のアナターゼ型二酸化チタン(平均粒径4μm、BET比表面積323m/g、アナターゼ型の含有量が99.9質量%)540g、ZrO換算で純度28.2%の水酸化ジルコニウム295.0g、アニオン系界面活性剤(ポリカルボン酸アンモニウム、サンノプロ社製SNディスパーサント5468)52.2g、85質量%リン酸(含水率15質量%)962.9gの順に仕込んで、原料混合スラリー(1)を調製した。
<第2工程〜第4工程>
次いで、実施例1と同様にして第2工程〜第4工程を実施して、反応前駆体を得た。第4工程で得られた反応前駆体を、ラマンスペクトル分析したところ975cm−1にピークが確認された。また、反応前駆体をX線回折分析したところ、α−(Ti)(HPO(HO)にZrをモル比(Zr/Ti)で0.1で含有させたリン酸チタン以外に、Li(HPO)、Al(PO)、Al(PO)(HO)、Al(HPO)(HPO)も検出された。
なお、第4工程において、実施例1と同様に噴霧乾燥後にスプレードライヤーの内部を目視で観察したところ、内部付着分は少なく、回収率は94%であった。
<第5工程>
次いで、得られた反応前駆体に対して実施例1と同様に第5工程を実施して焼成物を得た。
得られた焼成物をX線回折分析したところ、異相は観察されず、焼成物はナシコン(NASICON)構造のLi1.2Al0.2 Ti1.8(POにZrをモル比(Zr/Ti)で0.1含む単相のリン酸チタンリチウムであった(図6)。これをリン酸チタンリチウム試料とした。
【0080】
(実施例3)
リン酸仕込み量を1033gとした他は実施例1と同様の方法で第1工程、第2工程を行い、原料加熱処理物スラリー(2)を得た。
<第3工程>
次いで、原料加熱処理物スラリー(2)に、30.6質量%リン酸クロム溶液2M(日本化学工業製、Cr(H1.5PO)を1808g、次いで、水酸化リチウム一水和物283.4gを1140mlの純水に溶解した水酸化リチウム水溶液を20分かけて撹拌下に添加し、リチウム含有原料加熱処理物スラリー(3)を得た。
<第4工程>
次いで、220℃に設定したスプレードライヤーに、2.4L/hの供給速度で、リチウム含有原料加熱処理物スラリー(3)を供給し、乾燥物を得た。スプレードライヤーの内部を目視で観察したところ、内部付着分は少なく、回収率は固形分基準で96%であった。得られた乾燥物をX線回折分析したところ、α−Ti(HPO(HO)及びCrHPが検出された。また、ラマンスペクトル分析したところ975cm−1にピークが確認された(図7)。
<第5工程>
次いで、得られた反応前駆体を大気中1000℃で4時間、焼成し、焼成物を得た。次いで、焼成物を気流粉砕機で粉砕を行い、粉砕物を得た。
得られた粉砕物をX線回折分析したところ、焼成物はナシコン(NASICON)構造を有する単相のLi1.5Cr0.5Ti1.5(POであった。これをリン酸チタンリチウム試料とした。
【0081】
【表3】
注)表中の「x」及び「y」は一般式(1)の式中のx及びyの値を示す。
【0082】
(1)<物性評価>
実施例2及び3で得られたリン酸チタンリチウム試料について、実施例1と同様に平均粒子径、BET比表面積を測定した。
【0083】
(2)<リチウムイオン伝導性の評価>
<成型体の作製2>
実施例3で得られたリン酸チタンリチウム試料を用い、成型体の作製1と同様にして粉末成型体を得た。次いで該粉末成形体を電気炉で1100℃で4時間、大気中で焼成してセラミック成型体を得た。
<リチウムイオン伝導度の測定>
上記で得られたセラミック成形体について実施例1と同様にして、室温(25℃)におけるリチウムイオン伝導度を求めた。
【表4】
注)表中の「−」は未測定を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7