(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6903485
(24)【登録日】2021年6月25日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】制振装置および加工機
(51)【国際特許分類】
B23Q 15/12 20060101AFI20210701BHJP
B23Q 17/12 20060101ALI20210701BHJP
G05B 19/404 20060101ALI20210701BHJP
【FI】
B23Q15/12 A
B23Q17/12
G05B19/404 K
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-95344(P2017-95344)
(22)【出願日】2017年5月12日
(65)【公開番号】特開2018-192532(P2018-192532A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2020年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】西川 顕二
(72)【発明者】
【氏名】佐野 靖
(72)【発明者】
【氏名】千葉 修
(72)【発明者】
【氏名】平井 純一
(72)【発明者】
【氏名】牧野 瑞希
【審査官】
木原 裕二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−143969(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第103345198(CN,A)
【文献】
特開2010−271880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 15/00 − 15/28
G05B 19/18 − 19/416
G05B 19/42 − 19/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工中の被削材の振動を抑制する制振装置であって、
加工中の振動を測定するセンサと、
前記センサからの測定信号に基づいて振動の周波数および位相を分析する周波数分析処理部と、
測定された振動とは逆位相の駆動信号を生成する駆動出力生成部と、
被削材に取り付けられ、前記駆動信号により駆動されるアクチュエータを備える駆動部と、
加工機からの信号より切削力を計算する切削力計算部と、
切削力に適合するゲインを設定するゲイン設定部と、を備え、
前記駆動出力生成部は、前記設定されたゲインにより前記駆動信号のゲインを調整することを特徴とする制振装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制振装置において、
前記アクチュエータと前記センサから構成される駆動部と、前記切削力計算部と前記ゲイン設定部と前記周波数分析処理部から構成される制御部と、加工条件を入力する入力部とを備えることを特徴とする制振装置。
【請求項3】
請求項2に記載の制振装置において、
前記切削力計算部は、加工機のNCデータ、前記入力部から入力される工具径、被削材物性値より前記切削力を計算することを特徴とする制振装置。
【請求項4】
請求項1に記載の制振装置において、
加工機のNC装置から加工条件を抽出する加工条件抽出部を備えることを特徴とする制振装置。
【請求項5】
請求項1に記載の制振装置において、
モータの主軸または被削材に取り付ける力センサを備え、
前記切削力計算部は、前記力センサで検出した信号に基づいて切削力を計算することを特徴とする制振装置。
【請求項6】
請求項1に記載の制振装置において、
前記ゲイン設定部は、予め記憶した切削力とゲイン値の関係からゲインを設定することを特徴とする制振装置。
【請求項7】
請求項1に記載の制振装置において、
前記駆動部は、一定の方向に推進するアクチュエータと、前記アクチュエータの可動範囲を制限する粘弾性体と、前記アクチュエータをガイドするロッドと、加工中の振動を測定するセンサと、を含むことを特徴とする制振装置。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか1項に記載の制振装置を備える加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振装置およびそれを備える加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
加工機においては、被削材を工具により加工するときの反力などにより振動を生じるが、振動による加工品位の悪化を防ぐために、振動を抑制する制振装置が設けられている。
【0003】
加工機における制振装置の一例が特開2014−184548号公報(特許文献1)に記載されている。この公報には、「制振装置は、ラムに設けられるウェイトと、ウェイトを振動変位させるアクチュエータと、ラムとウェイトとの相対変位を計測する変位計と、制御回路部と、制御回路部により演算された制御信号に基づく電流をアクチュエータに供給する駆動部とを備えている。制御回路部は、ラムの位置に対応するラムの固有振動数に応じて制御定数を設定する制御定数設定部と、制御定数および相対変位に基づいて、制御信号のゲインおよび位相を設定する演算部(ゲイン設定部および位相シフトフィルタ)とを備えている。主軸保持部材が大きく突き出しているときの動剛性を高めながら、主軸保持部材のストローク全体に亘り制振効果を発揮させること。」(要約参照)と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−184548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、加工機の工具側であるラムの振動を抑制する装置が記載されている。工具が取り付けられるラムの先端には、ウェイトおよびウェイトを駆動するアクチュエータが備えられており、ラムの固有振動数の値でアクチュエータによりウェイトを加振して、ウェイトの振動する慣性力によってラムの振動を打消す方式をとっている。また、工具がワークを周期的に打撃する際に発生する強制振動に対しては、備え付けられている加速度計で加速度を計測し、特定の制御定数を設定することでアクチュエータを制御しラムの振動を抑制する。しかし、この特許文献1の装置は、ラムの固有振動数および工具がワークを打撃する強制振動のみを考慮しており、これら以外の振動要因は考慮されていない。特に、被削材の振動は加工精度に直接影響するものであるが、この被削材の振動は考慮されていない。また、加工中の切削力を考慮していないので、切削力に対する適切な慣性力でアクチュエータを駆動することは困難である。
【0006】
従来では、被削材の振動を抑制する場合、固定方法をより強固にする方法が主であり、加工により形状が変形することによる剛性低下や、加工条件の変化に能動的に対応できないことが問題であった。
【0007】
本発明は、切削力に対して適正なゲイン値で振動を制御できる制振装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための、本発明の制振装置の一例を挙げるならば、加工中の被削材の振動を抑制する制振装置であって、加工中の振動を測定するセンサと、前記センサからの測定信号に基づいて振動の周波数および位相を分析する周波数分析処理部と、測定された振動とは逆位相の駆動信号を生成する駆動出力生成部と、被削材に取り付けられ、前記駆動信号により駆動されるアクチュエータを備える駆動部と、加工機からの信号より切削力を計算する切削力計算部と、切削力に適合するゲインを設定するゲイン設定部と、を備え、前記駆動出力生成部は、前記設定されたゲインにより前記駆動信号のゲインを調整するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、切削力に対して適正なゲイン値で振動を制御できる制振装置を提供することができる。
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明より明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】実施例1の制振装置の動作フローを示す図である。
【
図3】制振装置の制御部の構成と対応付けた信号のフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例を図面を用いて説明する。なお、実施例を説明するための各図において、同一の構成要素にはなるべく同一の名称、符号を付して、その繰り返しの説明を省略する。
【実施例1】
【0012】
本実施例では、加工中の振動を抑制する制振装置の1例を説明する。
【0013】
図1は、実施例1の、加工中の振動を抑制する制振装置の構成を説明する図である。加工機1と、加工中の振動を抑制する制振装置18から構成されている。
【0014】
加工機1では、切削工具5を主軸4で把持し、主軸4を回転させることで被削材6を所望の形状に加工する。このとき、NCプログラムが記憶されたNC装置9からの指令により、サーボアンプ8が主軸モータ7を制御する。これにより、指令通りの回転数で主軸4を回転させる。
【0015】
本実施例では、加工機1のNC指令値により切削力を計算し、制振装置を駆動する。制振装置18は駆動部2と制御部3と入力部15から構成されている。駆動部2は、アクチュエータ16およびセンサ17より構成される。駆動部2は、加工機内に設置されている被削材6に固定されている。なお、駆動部2は、振動する部分であれば被削材6以外に固定しても良く、例えば被削材6を固定する治具や加工機のテーブル等でも良い。加工中の振動は駆動部2のセンサ17で計測され、制御部3に入力される。
【0016】
制御部3は、振動を抑制するための信号を生成し、生成した信号により駆動部2のアクチュエータ16を駆動する。制御部3は、駆動部2のセンサ17より計測した加工中の振動データを周波数分析する周波数分析処理部13、周波数分析した結果に基づいてアクチュエータ16を駆動するための駆動信号を生成する駆動出力生成部14を備えている。さらに、制御部3は、加工中の切削力を求めて最適なゲインを設定するために、加工機1のNC装置9から加工条件を抽出する加工条件抽出部10、抽出した加工条件から切削力を計算する切削力計算部11、切削力に適合したゲインを計算するゲイン設定部12を備えている。また、制御部3は、データの入力などを行う入力部15を備えている。
【0017】
図2に実施例1の制振装置18の動作フローを示し、
図3に制御部3の構成と対応付けた信号のフローを示す。
ステップ30にて加工が開始し、加工中に振動が発生した場合を説明する。
ステップ31では、駆動部2のセンサ17で振動を計測する。計測された振動信号は制御部3の周波数分析処理部13に入力される。
ステップ32にて、周波数分析処理部13で、計測したデータの周波数および位相の分析を実施する。
【0018】
ステップ34では、加工条件抽出部10で、NC装置9の信号から切削力を計算するうえで必要なパラメータを抽出する。パラメータとしては、工具径、工具回転数、工具の送り速度などがある。例えば、NCプログラムよりX軸、Y軸、Z軸の位置情報を読み取り、工具の位置が把握できる。また、工具の情報はNCプログラムの自動工具交換の指令番号より判断できる。または、入力部15で工具の情報を入力しても良い。工具の情報は、工具径、刃数、ねじれ角が挙げられる。または、工具データ20として制御部内に記憶しておいても良い。入力部15では、工具以外にも、被削材の材質および加工ワークの形状を入力できるようにしても良い。被削材の材質を入力することで、より高精度に切削力が計算できる。また、加工ワークの形状を入力することで、より高精度かつ安全に、工具の位置および現在加工している部分を求めることができる。
【0019】
続いて、ステップ35で、切削力を計算する。切削力は制御部3の切削力計算部11で計算される。
ステップ36では、求められた切削力に適合するゲインをゲイン設定部12で設定し、アクチュエータ16に入力する電流および電圧の大きさを決める。ゲイン設定部12では、切削力と適正なゲイン値の関係を記憶したデータ21が保存されており、その記憶データに基づいてゲインが設定される。
【0020】
ステップ33では、アクチュエータ16の駆動信号が駆動出力生成部14にて生成される。ステップ32で解析した振動の周波数および位相に基づいて、計測された振動とは逆位相のアクチュエータ16を駆動する駆動信号を作成する。さらに、ステップ36で設定されたゲインに基づいてアクチュエータの駆動信号のゲインが適正なゲインに調整される。
ステップ37にて、生成した駆動信号をアクチュエータ16に入力し、アクチュエータ16を駆動する。アクチュエータ16が被削材6と逆位相で適正なゲインで振動することで、被削材6の振動を打消し、加工中の振動が抑制される。
【0021】
図4は、切削力とゲインの関係を示すグラフである。加工時に発生する切削力に対し、適正なゲイン設定値をグラフのように求めると、切削力とゲインの関係が対数グラフ上で直線状に示すことができる。ここでは、SS400材を直径25mmの4刃のエンドミルで加工した事例を示す。このデータはゲイン設定部12のデータ21に該当するものでも良い。このグラフより、リアルタイムに計算された切削力に対応するゲインが求まる。
【0022】
図5に、制振装置18の駆動部2の外観図の一例を示す。駆動部2は、固定プレート51、ハウジング50から構成されており、ハウジング50の内部にアクチュエータ16等の構造物が内蔵されている。
図6に、ハウジング50を取り除いた駆動部2の外観図の1例を示す。固定プレート51の下部に、アクチュエータ16が設置されている。
【0023】
図7に、駆動部2の断面図を示す。駆動部2の中央には、ロッド53が固定される。ロッド53をガイドとして、アクチュエータ16が設置されている。アクチュエータ16は、可動子16aと固定子16bから構成されており、中央に通されたロッド53に沿って、可動子16aは上下に駆動する。可動子16aの上部には粘弾性体55が設置されている。粘弾性体55はロッド53に直接固定され、アクチュエータ16の可動子16aが固定プレート51に衝突しないように、ある一定の範囲にとどめる働きをする。また、可動子16aを振動させる働きもする。粘弾性体55がロッド53との固定が脆弱な場合、アクチュエータ16に確実に固定するため、固定治具54を用いても良い。
【0024】
ここで、アクチュエータ16が電磁力により駆動する場合を想定する。このとき、コイル56は固定子16bに巻きつけられており、制御部3からの電圧および電流制御により、コイル56に電流が流れる。可動子16aが磁石の場合、磁石により発生する磁界と、コイル56に流れる電流の関係より、可動子16aが上下する方向に力が発生する。この原理により、可動子16aが被削材6の振動を打消す上下方向に駆動し、振動を抑制する。駆動部2の下端には、被削材6に直接設置する制振装置固定部59がある。制振装置固定部は、加工中の振動でずれない程度に被削材6に固定される必要がある。磁石による固定や、ネジによる固定でも良い。センサ17は被削材6の振動を直接測定する必要があるため、例えば
図7のように、制振装置固定部59に設置しても良い。なお、センサ17は、例えば加速度センサや位置センサでも良い。
【0025】
本実施例によれば、異なる複数の加工対象、加工プロセスに対して、自動で制振の最適化を行うことができ、加工の高精度化、高能率化を図ることができる。また、加工中の切削力を予測し、切削力からアクチュエータを駆動するゲイン値を設定することで、加工により形状が変形することによる固有振動数変化や、加工条件の変化に対応して、能動的に加工中の被削材の振動を抑制することができる。また、制振装置の駆動部を被削材に取り付け、センサで検出した振動信号に基づいて作成した駆動信号でアクチュエータを駆動するようにしたので、被削材の振動を良好に抑制することができる。
【実施例2】
【0026】
図8に、実施例2の、力センサの出力値で切削力を計算する制振装置の一例を示す。
加工機1の主軸4に、力センサ80が取り付けられる。力センサ80では加工中の切削力を直接計測する。計測結果は制振装置16の制御部3の切削力計算部11に入力され、ゲインと比較できる形に変換される。例えば、計測信号にノイズが多い場合には、ハイパスフィルタやローパスフィルタなどによるノイズカットフィルタ処理を実施しても良い。また、力センサ80は主軸4ではなく、被削材6に取り付けても良い。その後の、ゲイン設定や駆動信号の生成などの処理方法は、実施例1と同様である。ここで、力センサには、ひずみゲージやロードセルを用いても良い。
【0027】
本実施例によれば、実施例1の効果に加えて、力センサで加工中の切削力を直接計測して、制振を行うので、簡単な構成で正確な制振を行うことができる。
【0028】
本発明の加工機は、上記各実施例の制振装置を備えるものである。
なお、加工機は、制振装置を一体に備える製品としても良いし、制振装置を備えていない既存の加工機に、後から制振装置を組み合わせても良い。
【0029】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換することが可能である。
【符号の説明】
【0030】
1…加工機、2…駆動部、3…制御部、4…主軸、5…切削工具、6…被削材、
9…NC装置、10…加工条件抽出部、11…切削力計算部、12…ゲイン設定部、
13…周波数分析処理部、14…駆動出力生成部、15…入力部、
16a…可動子、16b…固定子、16…アクチュエータ、17…センサ、
18…制振装置、53…ロッド、55…粘弾性体、56…コイル、80…力センサ。