(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記異常判定部は、前記データ取得部によって取得された吐出圧及び吐出流量のデータのうち、前記油圧ポンプの駆動源の負荷が所定負荷以上又は前記油圧ポンプの仕事量が所定の仕事量以上の場合に取得されたデータを、前記油圧ポンプの異常発生の判定に使用する、請求項1から3のいずれか1項に記載の作業車両。
【背景技術】
【0002】
バックホー、ホイルローダ等の作業車両においては、複数の油圧ポンプにより供給された作動油により複数の油圧アクチュエータを駆動させることで、複数の作業部を動作させるようにしている。
【0003】
下記特許文献1には、作業機械の油圧ポンプの故障診断装置が開示されている。特許文献1では、エンジン始動から停止までの間に油圧ポンプの吐出圧及び吐出流量を収集し、エンジン始動回数n回目における最大吐出流量D1
2(n)と、最大吐出流量時点での吐出圧D1
1(n)とを得る。そして、吐出圧D1
1(n)の時の目標ポンプ吐出流量理論値Q1aを算出し、実際の吐出流量D1
2(n)が目標ポンプ吐出流量理論値Q1aの−10%よりも小さい場合、エンジン始動回数n回目の判定結果を1とする。このような処理がエンジン始動毎に繰り返され、複数回分の判定結果が全て1であった場合、油圧ポンプが故障していると判定される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、エンジン始動から停止まで吐出圧及び吐出流量を収集し続け、最大吐出流量と、これに対応する吐出圧とを取得した上で油圧ポンプに異常が発生しているか否かを判定する。特許文献1では、複数回分の判定結果が全て1となるまで故障と判定されないため、油圧ポンプの異常が発生した場合にその初期段階で異常を検知することは難しい。また、油圧ポンプに異常が発生しているにもかかわらず、突発的に、理論値に近い流量で圧油が吐出されてしまった場合、あるいは断続的に異常の症状が現れる場合において、油圧ポンプに異常が生じていると判定することはできない。
【0006】
そこで、本発明は上記課題に鑑み、油圧ポンプの異常を速やかに検知することが可能な作業車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の作業車両は、作業部を有する作業車両であって、
前記作業部を駆動する油圧アクチュエータと、
前記油圧アクチュエータに作動油を供給する油圧ポンプと、
前記作業部の駆動時において、前記油圧ポンプの吐出圧及び吐出流量のデータを繰り返し取得するデータ取得部と、
前記データ取得部によって取得された吐出圧及び吐出流量のデータをPQ特性図に配置し、前記油圧ポンプの最大出力を示すPQ特性曲線近傍の予め定められた領域のデータ密度が所定のデータ密度と一定以上異なる場合に、前記油圧ポンプに異常が発生していると判定する異常判定部と、を備えるものである。
【0008】
作業車両の作業部は、油圧アクチュエータによって駆動される。この油圧アクチュエータには、油圧ポンプから作動油が供給される。一般的に、油圧ポンプの性能は、吐出圧と吐出流量の関係を示すPQ特性図によって表される。本発明は、油圧ポンプに異常が発生した場合、PQ特性図において、油圧ポンプの吐出圧及び吐出流量のデータ密度が変化することに着目したものである。より具体的には、本発明は、油圧ポンプに異常が発生した場合、油圧ポンプの最大出力を示すPQ特性曲線付近のデータ密度が低下することに着目したものである。本発明は、吐出圧及び吐出流量をモニタリングし、PQ特性曲線近傍の領域のデータ密度が正常時のデータ密度と一定以上異なるようになった段階で、油圧ポンプに異常が発生したものと判定する。よって、油圧ポンプの異常を速やかに検知することができる。
【0009】
本発明において、前記油圧アクチュエータは、油圧シリンダを含み、
前記データ取得部は、前記吐出圧に相当する値として前記油圧シリンダの圧力を使用し、前記吐出流量に相当する値として前記油圧シリンダの流量を使用するものでもよい。
【0010】
油圧ポンプに異常が発生した場合、油圧ポンプによって駆動される油圧シリンダにも影響が生じる。よって、油圧シリンダのPQ特性を油圧ポンプのPQ特性に相当するものとして、油圧シリンダの圧力及び流量をモニタリングすることで、油圧ポンプの異常の発生を判定することができる。
【0011】
本発明において、前記異常判定部は、前記データ取得部によって取得された吐出圧及び吐出流量のデータのうち、前記油圧ポンプの駆動源の負荷が所定負荷以上又は前記油圧ポンプの仕事量が所定の仕事量以上の場合に取得されたデータを、前記油圧ポンプの異常発生の判定に使用するものでもよい。
【0012】
この構成によれば、データ取得部によって取得された吐出圧及び吐出流量のデータから、ノイズや、実作業中以外(例えばアイドリング中)のデータを除去することができる。よって、油圧ポンプに異常が発生したか否かを、より確実に判定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0015】
まず、
図1を参照しながら、作業車両の一例としてのバックホー1の概略構造について説明する。ただし、作業車両としては、バックホー1に限定されず、ホイルローダ等の他の車両でもよい。バックホー1は、走行装置2と、作業装置3と、旋回装置4とを備える。
【0016】
走行装置2は、エンジン42からの動力を受けて駆動し、バックホー1を走行させる。走行装置2は、左右一対のクローラ21,21及び左右一対の走行モータ22,22を備える。油圧モータである左右の走行モータ22,22が左右のクローラ21,21をそれぞれ駆動することでバックホー1の前後進を可能としている。また、走行装置2には、ブレード23、及びブレード23を上下方向に回動させるための油圧アクチュエータであるブレードシリンダ24が設けられている。
【0017】
作業装置3は、エンジン42からの動力を受けて駆動し、土砂等の掘削作業を行うものである。作業装置3は、ブーム31、アーム32、及びバケット33を備え、これらを独立して駆動することによって掘削作業を可能としている。ブーム31、アーム32、及びバケット33は、それぞれ作業部に相当し、バックホー1は、複数の作業部を有する。
【0018】
ブーム31は、一端部が旋回装置4の前部に支持されて、伸縮自在に可動するブームシリンダ31aによって回動される。また、アーム32は、一端部がブーム31の他端部に支持されて、伸縮自在に可動するアームシリンダ32aによって回動される。そして、バケット33は、一端部がアーム32の他端部に支持されて、伸縮自在に可動するバケットシリンダ33aによって回動される。ブームシリンダ31a、アームシリンダ32a、及びバケットシリンダ33aは、作業部を駆動する油圧アクチュエータに相当する。
【0019】
旋回装置4は、作業装置3を旋回させるものである。旋回装置4には、操縦部41、エンジン42、旋回台43、旋回モータ44等が配置されている。油圧モータである旋回モータ44が旋回台43を駆動することによって作業装置3を旋回させる。また、旋回装置4には、エンジン42により駆動される複数の油圧ポンプ(
図1に図示していない)が配設される。これらの油圧ポンプが、ブームシリンダ31a、アームシリンダ32a、及びバケットシリンダ33aに作動油を供給する。
【0020】
操縦部41には、操縦席411が配置されている。操縦席411の左右に一対の作業操作レバー412,412、前方に一対の走行レバー413,413が配置されている。オペレータは、操縦席411に着座して作業操作レバー412,412、走行レバー413,413等を操作することによって、エンジン42、各油圧モータ、各油圧アクチュエータ等の制御を行い、走行、旋回、作業等を行うことができる。
【0021】
本実施形態のポンプ異常検知システム5は、上記のような作業車両に設けられるものであり、
図2は、ポンプ異常検知システム5の構成を示すブロック図である。ポンプ異常検知システム5は、データ取得部51と、データ記憶部52と、異常度計算部53と、異常判定部54とを備えている。
【0022】
データ取得部51は、作業部の駆動時において、油圧ポンプの吐出圧P及び吐出流量Qのデータを繰り返し取得する。データ取得部51は、
図3に示すように、油圧ポンプの吐出圧Pを計測する圧力センサ511と、吐出流量Qを計測する流量センサ512とを備えている。
【0023】
一般的に、油圧ポンプの性能は、
図4に示すようなPQ特性図で表される。横軸は吐出圧P、縦軸は吐出流量Qである。PQ特性図において、PQ特性曲線Gは、油圧ポンプの最大出力を示している。PQ特性曲線Gは、油圧ポンプ毎に予め決まっている。
【0024】
油圧ポンプが正常な場合、油圧ポンプが駆動している間の吐出圧Pと吐出流量QのデータをPQ特性図にプロットすると、
図5Aに示すようにPQ特性曲線G付近にデータが集中する。すなわち、
図5Aに示される状態では、油圧ポンプは正常に駆動しており、最大出力を発生し得る。
【0025】
一方、油圧ポンプに異常が発生している場合、油圧ポンプが駆動している間の吐出圧Pと吐出流量QのデータをPQ特性図にプロットすると、油圧ポンプは、最大出力を発生することができないため、
図5Bに示すようにPQ特性曲線G付近のデータ密度が低下する。そのため、PQ特性曲線G付近のデータ密度が所定のデータ密度と一定以上異なる場合、油圧ポンプに異常が発生していると判定することができる。PQ特性曲線G付近のデータ密度が所定のデータ密度と一定以上異なるとは、例えば、両データ密度分布が完全に不一致のとき(例えば、後述するf
0(p,q)とf(p,q)との差が2のとき)の10%以上異なることをいう。
【0026】
データ記憶部52は、データ取得部51によって取得されたデータを記憶することができる。データ記憶部52には、油圧ポンプが正常に駆動しているとき(正常時)における吐出圧Pと吐出流量Qのデータも記憶されている。
【0027】
異常度計算部53は、データ記憶部52に記憶されたデータを用いて異常度Anomを計算する。異常度Anomの計算には、正常時の吐出圧P及び吐出流量Qのデータの密度分布f
0(p,q)と、データ取得部51で取得された吐出圧P及び吐出流量Qのデータの密度分布f(p,q)とが用いられる。
【0028】
密度分布f(p,q)は、PQが所定値以上の範囲に該当するデータから推定される。密度分布f(p,q)の推定に用いる手法は、カーネル密度推定のようなノンパラメトリックな手法であっても良いし、最尤推定のようなパラメトリックな手法でも良い。PQが所定値以上の範囲とは、
図5Bの曲線Tよりも吐出圧P及び吐出流量Qが大きな範囲である。すなわち、データ取得部51によって取得されたデータのうち、油圧ポンプの仕事量(PQ)が所定の仕事量以上の場合に取得されたデータを、油圧ポンプの異常発生の判定に使用している。これにより、PQ特性曲線G付近のデータに基づいて密度分布f(p,q)を推定できる。
【0029】
異常度Anomは、下記の式(1)により計算することができる。
【数1】
なお、式(1)において、油圧ポンプの高負荷部分の密度変化を敏感に捉えたいため、活性化関数としてp×qを掛けている。ただし、このような計算を簡便にすべく、例えば異常の検出精度は下がるものの、PQ特性曲線G付近のデータから計算されるPQの平均値や中央値でもって異常度とすることも可能である。
【0030】
異常判定部54は、異常度計算部53で計算された異常度Anomが閾値を超えている否かを判定し、異常度Anomが閾値を超えていれば、油圧ポンプに異常が発生していると判定する。閾値は、例えば、正常時において異常度のある値となる確率を確率密度関数で表し、誤検知率が一定以下(例えば10
−9)となる値とする。
【0031】
次に、上記のポンプ異常検知システム5を用いたポンプ異常検知方法について説明する。
図6は、ポンプ異常検知方法の手順を示すフローチャートである。
【0032】
まず、エンジンをオンすると(ステップS1)、油圧ポンプもオンとなる。油圧ポンプがオンとなると、圧力センサ511により油圧ポンプの吐出圧Pを計測し、それと同時に流量センサ512により油圧ポンプの吐出流量Qを計測し、吐出圧P及び吐出流量Qのデータを繰り返し取得する(ステップS2)。圧力センサ511及び流量センサ512によって取得された吐出圧P及び吐出流量Qのデータは、データ記憶部52(メモリ)に記憶される。
【0033】
次いで、データ記憶部52に一定数以上のデータが保存されているか否かを判定する(ステップS3)。ここで、一定数以上のデータとは、数千〜数万のデータである。ステップS3では、圧力センサ511及び流量センサ512によって取得された吐出圧P及び吐出流量Qのデータのうち、油圧ポンプの駆動源(エンジン42)の負荷が所定負荷以上又は油圧ポンプの仕事量が所定の仕事量以上の場合に取得されたデータ数をカウントし、当該データ数が一定数以上であるか否かを判定する。本実施形態では、
図5Bの曲線Tよりも大きな吐出圧P及び吐出流量Qのデータ数をカウントする。すなわち、曲線Tは、油圧ポンプの所定の仕事量(PQ)を示す曲線である。ここで、油圧ポンプの駆動源(エンジン42)の所定負荷とは、例えば、駆動源の最大負荷の80%以上をいい、より好ましくは90%以上をいう。油圧ポンプの所定の仕事量とは、油圧ポンプの最大仕事量の80%以上をいい、より好ましくは90%以上をいう。
【0034】
データ記憶部52に一定数以上のデータが保存されていると判定された場合、圧力センサ511及び流量センサ512によって取得された吐出圧P及び吐出流量QのデータをPQ特性図に配置し、式(1)に基づいて異常度Anomを計算する(ステップS4)。
【0035】
一方、データ記憶部52に一定数以上のデータが保存されていないと判定された場合、油圧ポンプの駆動源(エンジン42)の負荷が所定負荷以上又は油圧ポンプの仕事量が所定の仕事量以上であるか否かを判定する(ステップS7)。油圧ポンプの駆動源(エンジン42)の負荷が所定負荷以上又は油圧ポンプの仕事量が所定の仕事量以上である場合、データ記憶部52に、ステップS2で取得した吐出圧P及び吐出流量Qのデータを追加する(ステップS8)。油圧ポンプの駆動源(エンジン42)の負荷が所定負荷以上でなく、且つ油圧ポンプの仕事量が所定の仕事量以上ではない場合、ステップS2に戻り、吐出圧P及び吐出流量Qのデータを繰り返し取得する。
【0036】
ステップS4の後、次いで、計算された異常度Anomが閾値を超えている否かを判定する(ステップS5)。異常度Anomが閾値を超えていれば、油圧ポンプに異常が発生していると判定する(ステップS6)。異常度Anomが閾値を超えていなければ、データ記憶部52のデータをリセットする(ステップS9)。
【0037】
なお、前述の実施形態では、油圧ポンプの駆動源の負荷が所定負荷以上又は油圧ポンプの仕事量が所定の仕事量以上の場合に取得された吐出圧P及び吐出流量Qのデータのみを用いて異常度Anomを計算しているが、全てのデータを用いて異常度Anomを計算するようにしてもよい。このとき、ステップS3の判定は不要となり、ステップS7及びステップS8も不要である。
【0038】
[他の実施形態]
データ取得部51は、吐出圧Pに相当する値として油圧シリンダの圧力Pcを使用し、吐出流量Qに相当する値として油圧シリンダの流量Qcを使用してもよい。データ取得部51は、油圧シリンダの圧力Pc及び流量Qcのデータを繰り返し取得する。この場合、
図7に示すように、データ取得部51は、油圧シリンダの圧力Pcを計測する圧力センサ513、油圧シリンダの流量Qcを計算する流量計算部514を備えている。
【0039】
流量計算部514は、油圧シリンダのシリンダ断面積s及びシリンダ伸長速度Δxから油圧シリンダの流量Qcを計算する。例えば、
図8のようにA,B,Cを定めると、ブームシリンダ31aの長さx、ブーム31のブーム角θは、下記の式(2)を満たす。
図8において、符号Aは、旋回装置4に対するブーム31の回転軸(ブーム31が旋回装置4に支持されている部分)から、ブーム31とブームシリンダ31aとの接続部までの直線距離を示す。符号B,Cは、それぞれ、ブームシリンダ31aと旋回装置4との接続部から上記回転軸までの上下方向の直線距離、及び前後方向の直線距離を示す。
【数2】
すなわち、ブームシリンダ31aの長さxは、ブーム31のブーム角θによって定まる。よって、ブーム31の一端部に設けられた不図示の角度センサによりブーム31のブーム角θを計測し、式(2)を用いることでブームシリンダ31aの長さxを計算できる。ブームシリンダ31aの長さxから得られる伸長速度Δxをシリンダ断面積sに掛けることで油圧シリンダの流量Qcを計算できる。
【0040】
この構成によれば、油圧シリンダの流量Qcを計測するために一般的に高額の流量センサを設ける必要がない。よって、コストの低減を図ることができる。
【0041】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。