(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6903675
(24)【登録日】2021年6月25日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】皮膚細胞分化促進用組成物及び皮膚細胞分化促進物質のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7105 20060101AFI20210701BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20210701BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20210701BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20210701BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20210701BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20210701BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20210701BHJP
A61K 8/60 20060101ALI20210701BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20210701BHJP
A23L 33/13 20160101ALI20210701BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20210701BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20210701BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20210701BHJP
【FI】
A61K31/7105
A61K31/713
A61K48/00
A61P43/00 105
A61P43/00 111
A61P17/00
A61P37/08
A61P17/16
A61K8/60
A61Q19/00
A23L33/13
G01N33/53 Q
G01N33/53 D
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
【請求項の数】13
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-541199(P2018-541199)
(86)(22)【出願日】2017年2月28日
(65)【公表番号】特表2019-512463(P2019-512463A)
(43)【公表日】2019年5月16日
(86)【国際出願番号】KR2017002211
(87)【国際公開番号】WO2017171249
(87)【国際公開日】20171005
【審査請求日】2019年12月10日
(31)【優先権主張番号】10-2016-0036834
(32)【優先日】2016年3月28日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】506213681
【氏名又は名称】アモーレパシフィック コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】AMOREPACIFIC CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソン, ウィ ドン
(72)【発明者】
【氏名】キム, ヒョン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】キム, キュ ハン
(72)【発明者】
【氏名】パク, ソン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】イ, ソン フン
(72)【発明者】
【氏名】チェ, ミン シク
(72)【発明者】
【氏名】チョ, ウン ギョン
(72)【発明者】
【氏名】イ, テ リョン
【審査官】
榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2014−501503(JP,A)
【文献】
特表2011−526244(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0069918(US,A1)
【文献】
BMC Cancer,2005年,Vol.5,Article No.17
【文献】
Journal der Deutschen Dermatologischen Gesellschaft,2011年,Vol.9,No.11,p.897-902
【文献】
Journal of Biological Chemistry,2013年,Vol.288,No.43,p.30969-30979
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A61K 48/00
A61K 45/00−45/08
A61P 1/00−43/00
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
A23L 33/00−33/29
G01N 33/00−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
JAB−1(Jun activator binding−1)の発現または活性抑制物質を有効成分として含み、
前記JAB−1の発現または活性抑制物質は、RNA核酸分子であり、
前記RNA核酸分子は、JAB−1のmRNAに結合するsiRNA、shRNA、及びmiRNAの一つ以上を含む、
皮膚細胞分化促進用組成物。
【請求項2】
当該組成物は、ソリアシン(psoriasin)の細胞核内への移動を抑制する、請求項1に記載の皮膚細胞分化促進用組成物。
【請求項3】
前記皮膚細胞は、角化細胞である、請求項1に記載の皮膚細胞分化促進用組成物。
【請求項4】
当該組成物は、皮膚細胞分化促進による皮膚保湿、皮膚バリア機能強化、またはアトピー緩和若しくは治療用組成物である、請求項1に記載の皮膚細胞分化促進用組成物。
【請求項5】
前記 JAB−1の発現または活性抑制物質は、0.1nM〜100nMの濃度で含まれる、請求項1に記載の皮膚細胞分化促進用組成物。
【請求項6】
前記JAB−1の発現または活性抑制物質は、組成物の総重量を基準に、0.0001〜30質量%で含まれる、請求項5に記載の皮膚細胞分化促進用組成物。
【請求項7】
当該組成物は、薬学的組成物、化粧料組成物、または健康食品組成物である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
皮膚細胞に試験物質を処理するステップ;及び
試験物質を処理した皮膚細胞から、試験物質の処理前後におけるJAB−1(Jun activator binding−1)の相対的発現程度を確認するステップを含む、皮膚細胞分化促進物質のスクリーニング方法。
【請求項9】
当該スクリーニング方法は、試験物質の処理前後におけるケラチン1及びケラチン10の一つ以上の相対的発現程度を確認するステップをさらに含む、請求項8に記載の皮膚細胞分化促進物質のスクリーニング方法。
【請求項10】
前記皮膚細胞は、角化細胞である、請求項8に記載の皮膚細胞分化促進物質のスクリーニング方法。
【請求項11】
当該スクリーニング方法は、皮膚細胞分化促進による、皮膚バリア機能強化、皮膚保湿、またはアトピー緩和若しくは治療用物質のスクリーニング方法である、請求項8に記載のスクリーニング方法。
【請求項12】
JAB−1(Jun activator binding−1)に特異的に結合する抗体を含む、皮膚バリア機能、皮膚保湿能、またはアトピー皮膚の診断用組成物。
【請求項13】
JAB−1(Jun activator binding−1)に特異的に結合する抗体を含む、皮膚バリア機能、皮膚保湿能、またはアトピー皮膚の診断用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書には、皮膚細胞分化促進用組成物及び皮膚細胞分化促進物質のスクリーニング方法が開示される。
【背景技術】
【0002】
表皮(epidermis)は、皮膚(skin)の最外郭に位置し、表皮の中でも最も最外郭層は角質層である。角化細胞(keratinocyte)から構成された角質層が正常に存在するとき、外部からの多様な刺激を防御し、体内から発散される水分を保持することができる。角化細胞は、皮膚の最下層である基底層(basal layer)から増殖(proliferation)しながら、徐々に有棘層(spinous layer)、顆粒層(Granular layer)を経て分化する。このような角化過程(keratinozation)を通じて、角化細胞は天然保湿因子(NMF;Natural Moisturizing factor)と脂質(セラミド、コレステロールまたは脂肪酸)を産生しながら、角質層(stratum corneum)を形成するようになる。こうした角質層が正常に形成されて、ようやく皮膚バリア(skin barrier)機能が正常に遂行され得る。
【0003】
一方、アトピー、乾癬、またはにきびのような皮膚疾患やトラブルは、種々の要因によって皮膚角質層が正常な機能を保持することができないことが原因で発生するものであって、主に皮膚バリア破壊及び皮膚乾燥症状を発現する。現在、アトピーや乾癬の治療には免疫抑制剤などが主に用いられており、また皮膚バリア強化や皮膚乾燥症状の治療にはセラミド(ceramide)が主に用いられていたが、これらを用いた後でも確然とした効果が現われず、完治しないという短所がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2014/167030号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】CALANDRA, Thierry et al., “Macrophage Migration Inhibitory Factor. A Regulator of Innate Immunity”, Nature Reviews Immunology, 2003, vol.3, pages 791-800
【非特許文献2】WEBB, Meghan et al., Expression Analysis of the Mouse S100A7/psoriasin Gene in Skin Inflammation and Mammary Tumorigenesis”, BMC Cancer, 2005, vol.5, article no.17 (inner pages 1-16)
【非特許文献3】EMBERLEY, Ethan D et al., “The S100A7-Jun Activation Domain Binding Protein 1 Pathway Enhances Prosurvival Pathway in Breast Cancer”, Cancer Research, 2005, vol.65, no.13, pages 5696-5702
【非特許文献4】GESSER, B. et al., “Dimethylfumarate Inhibits MIF-induced Proliferation of Keratinocytes by Inhibiting MSK1 and RSK1 Activation and by Inducing Nuclear pc-Jun (S63) and p-p53 (S15) Expression”, Inflammation Research, 2011, vol.60, pages 643-653
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一側面において、本発明の目的は、皮膚細胞分化促進物質用組成物を提供することである。
【0007】
他の側面において、本発明の目的は、皮膚細胞分化促進物質をスクリーニングすることである。
【0008】
他の側面において、本発明の目的は、皮膚バリア強化用物質をスクリーニングすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一側面において、本発明は、JAB−1(Jun activator binding−1)の発現または活性抑制物質(JAB−1の発現または活性を抑制する物質)を有効成分として含む、皮膚細胞分化促進用組成物を提供する。
【0010】
他の側面において、本発明は、皮膚細胞に試験物質を処理するステップ;及び試験物質を処理した皮膚細胞から、試験物質の処理前後におけるJAB−1(Jun activator binding−1)の相対的発現程度を確認するステップを含む、皮膚細胞分化促進物質のスクリーニング方法を提供する。
【0011】
他の側面において、本発明は、角化細胞;及び指示書を含み、指示書には皮膚細胞分化促進物質のスクリーニング方法が記載されている、皮膚細胞分化促進物質のスクリーニングキットを提供する。
【0012】
他の側面において、本発明は、JAB−1に特異的に結合する抗体を含む皮膚バリア機能、皮膚保湿能、またはアトピー皮膚の診断用組成物とキットを提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一側面に係る皮膚細胞分化促進用組成物は、JAB−1(Jun activator binding−1)の発現を抑制し、またはJAB−1とソリアシンとの結合を抑制し、その結果、ソリアシンの細胞核内への移動を抑制して、皮膚細胞分化を有効に促進することができる。したがって、当該組成物は、皮膚保湿、皮膚バリア機能強化またはアトピー緩和治療に有効である。また、一側面に係る皮膚細胞分化促進物質のスクリーニング方法は、角化細胞に試験物質を処理しJAB−1の相対的発現程度を確認することで、簡便で迅速且つ効率的に角質細胞分化促進物質をスクリーニングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1a】正常ヒト角化細胞におけるJAB−1の発現程度を確認した写真である。
【
図1b】アトピー患者の角化細胞におけるJAB−1の発現程度を確認した写真である(Jab 1はJAB−1である)。
【
図2a】インターロイキン−6(IL−6)を処理していない角化細胞におけるS100A7の発現程度を確認した写真である。
【
図2b】インターロイキン−6(IL−6)を処理した後の角化細胞におけるS100A7の発現程度を確認した写真である。
【
図3】インターロイキン−6を処理した後の角化細胞におけるJAB−1の発現程度を確認した図である(左図:IL−6無処理群、右図:IL−6処理群)。
【
図4】インターロイキン−6を処理した場合とJAB−1をノックダウンさせた場合とにおけるS100A7の細胞核内への移動の有無を確認した写真である(緑色:S100A7、赤色:核、黄色:S100A7が核内へ移動したもの)。
【
図5】JAB−1をノックダウンさせた場合における、ケラチン1とケラチン10の発現程度を確認した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
JAB−1(Jun activator binding−1またはJun activation domain binding protein−1)は、AP−1タンパク質の共活性化因子(coactivator)として初めて知られたタンパク質であって、癌細胞の増殖に関連しては機序が知られているが、皮膚細胞の分化に関連しては知られていない。
【0017】
本発明者らは、ソリアシン(psoriasin)がJAB−1と反応した後に核内へ移動する機作を発見し、JAB−1とソリアシンの発現量が、特に、アトピー患者や乾癬患者で高いという事実に着目して、JAB−1の発現を抑制すれば、皮膚細胞の分化を促進することができることを見出した。具体的に、ソリアシンは、JAB−1と反応して、細胞核内へ移動し、細胞核内へ移動したソリアシンは、皮膚細胞の分化を抑制するようになるが、JAB−1の発現を抑制することで、ソリアシンの細胞核内への移動を抑制して、皮膚細胞分化を促進することができることを確認した。一方、ソリアシンは、S100A7(S100 calcium−binding protein A7)ともいうタンパク質であって、S100A7遺伝子によってコーディングされる。
【0018】
本発明は、一側面において、JAB−1(Jun activator binding−1)の発現または活性抑制物質を有効成分として含む、皮膚細胞分化促進用組成物である。
【0019】
本発明は、他の側面において、皮膚細胞分化促進、皮膚保湿、皮膚バリア機能強化、またはアトピー治療が必要な個体においてJAB−1の発現または活性抑制物質、またはこれを有効成分として含む組成物を投与することを含む、皮膚細胞分化を促進させる方法、皮膚保湿方法、皮膚バリア機能強化方法、またはアトピー治療方法であってよい。一具現例によれば、当該方法において投与は、本明細書に記載の投与方法及び投与用量に従って行われていてよい。
【0020】
本発明は、他の側面において、皮膚細胞分化促進用途、皮膚保湿用途、皮膚バリア機能強化用途、またはアトピー治療用途に用いるためのJAB−1の発現または活性抑制物質であってよい。
【0021】
本発明は、他の側面において、皮膚細胞分化促進、皮膚保湿、皮膚バリア機能強化、またはアトピー緩和のための有効成分としてのJAB−1の発現または活性抑制物質の非治療的化粧用用途であってよい。
【0022】
本発明は、また他の側面において、皮膚細胞分化促進、皮膚保湿、皮膚バリア機能強化、またはアトピー治療のための組成物の製造に、JAB−1の発現または活性抑制物質を用いる用途であってよい。
【0023】
本明細書においてJAB−1の活性抑制とは、JAB−1とソリアシンの結合を抑制することを意味する。
【0024】
本明細書において「皮膚」とは、動物の体表を覆う組織を意味するものであって、顔または胴体などの体表を覆う組織だけでなく、頭皮や毛髪を含む最広義の概念である。なお、本明細書において皮膚は、生体皮膚だけでなく、生体皮膚の状態を具現した人工皮膚または皮膚模倣体を含んでいてよい。
【0025】
本発明の一側面において、前記皮膚細胞は、皮膚角化細胞(keratinocyte)を含む。本発明の他の一側面において、前記皮膚細胞は、ヒトの皮膚角化細胞を含む。本発明のまた他の一側面において、前記皮膚細胞は、ヒトの正常皮膚角化細胞を含む。
【0026】
本明細書において、「皮膚細胞分化」は、角化細胞が皮膚の最下層である基底層から機能的に分化して徐々に有棘層、顆粒層、角質層を形成する過程を意味していてよい。
【0027】
本明細書において、「相対的発現程度」は、試験物質を処理していない皮膚細胞におけるJAB−1の発現程度を、試験物質を処理していない皮膚細胞におけるJAB−1の発現程度と比較したときの発現程度であってよい。当該発現程度は、発現量や発現質(quality)を含んでいてよい。
【0028】
前記したような側面において、前記JAB−1の発現または活性抑制物質は、RNA核酸分子であってよい。
【0029】
本発明の一観点である、皮膚細胞分化促進用組成物において、前記RNA核酸分子は、JAB−1のmRNAに結合するsiRNA、shRNA、及びmiRNAの一つ以上を含んでいてよい。
【0030】
siRNA、shRNA、及びmiRNAは、RNA干渉現象(RNA interference、RNAi)を引き起こすRNA断片である。RNA干渉現象とは、二本鎖RNA(double stranded RNA、dsRNA)によってターゲットmRNAが分解し、特定の遺伝子の発現が下向調節されることを意味する。
【0031】
miRNAは、細胞内に存在する小さいRNA(endogenous small RNA)の一種であってタンパク質を合成しないDNAに来由し、ヘアピン構造転写体(hairpin−shaped transcript)から生成される。miRNAは、標的mRNAの3’−UTRの相補的配列(sequence)に結合して該mRNAの翻訳抑制または不安定化を誘導して、究極的にその標的mRNAのタンパク質合成を抑制するリプレッサー(repressor)の役割をするようになる。かかる役割はRNAiと呼ばれたりもする。一つのmiRNAは、複数個のmRNAをターゲットとすることができ、mRNAもまた、複数個のmiRNAによって調節され得ると知られている。RNAi現象を誘導する他のRNAとして、19〜27mer前後の短いRNAであるshort interfering RNA(siRNA)があり、また短いヘアピン構造を有するshRNAがある。一般に、siRNAやshRNAが人為的に細胞内に導入されてRNAiを誘導する物質であるとすれば、miRNAは細胞内に自然的に存在する物質を意味する。
【0032】
前記したような側面において、前記siRNAは、これらとそれぞれ混成化可能な配列、またはこれらとそれぞれ相補的な配列を含んでいてよい。
【0033】
本明細書において「混成化可能」とは、特定の一本鎖のRNAと結合して二本鎖のRNAを形成することができることを意味する。
【0034】
本発明の一観点である、皮膚細胞分化促進用組成物において、当該組成物は、ソリアシン(psoriasin)の細胞核内への移動を抑制するものであってよい。具体的に、ソリアシンは、JAB−1と結合した後、細胞核内へ移動して、細胞分化を抑制するが、当該組成物は、このような機作を抑制することができる。
【0035】
一具現例において、前記皮膚細胞は、角化細胞(keratinocyte)であってよい。
【0036】
前記したような側面において、当該組成物は、皮膚細胞分化促進による皮膚保湿、皮膚バリア機能強化またはアトピー緩和若しくは治療用組成物であってよい。皮膚細胞分化がうまくなされないと皮膚角質層が正常に機能できないことから、皮膚の水分保持力に劣り、且つ皮膚バリア機能が低下する。また、アトピー、乾癬のような皮膚疾患は、種々の要因によって正常な皮膚角質層の機能が保持できないことから発生する疾患であって、皮膚炎症や皮膚乾燥が主な症状として現われる。したがって、皮膚細胞分化を促進する物質は、皮膚保湿、皮膚バリア機能強化、及びアトピーを緩和または治療する効果を奏することができる。
【0037】
本発明の一側面である、皮膚細胞分化促進用組成物は、薬学的組成物であってよく、化粧料組成物であってよく、健康機能食品組成物であってもよい。
【0038】
前記化粧品組成物は、局所適用に適合したあらゆる剤形で提供されていてよい。例えば、溶液、水相に油相を分散させて得たエマルジョン、油相に水相を分散させて得たエマルジョン、懸濁液、固体、ゲル、粉末、ペースト、泡沫(foam)またはエアロゾル組成物の剤形で提供されていてよい。このような剤形の組成物は、当該分野の通常的な方法に従って製造されていてよい。
【0039】
前記化粧品組成物は、前記した物質以外に主効果を損なわない範囲内で、好ましくは、主効果に相乗効果を与え得る他の成分を含有してよい。本発明に係る化粧品組成物は、ビタミン、高分子ペプチド、高分子多糖及びスフィンゴ脂質からなる群より選択された物質を含んでいてよい。また、本発明に係る化粧品組成物は、保湿剤、エモリエント剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、防腐剤、殺菌剤、酸化防止剤、pH調整剤、有機及び無機顔料、香料、冷感剤または制汗剤を含んでいてよい。前記成分の配合量は、本発明の目的及び効果を損なわない範囲内において当業者が容易に選択可能であり、その配合量は、組成物の全重量を基準に0.01〜5質量%、具体的に、0.01〜3質量%であってよい。
【0040】
前記薬学組成物は、局所適用に適合したあらゆる剤形で提供されていてよい。例えば、皮膚外用溶液剤、懸濁剤、乳液剤、ゲル、パッチまたは噴霧剤であってよいが、これらに制限されるものではない。非経口投与のための製剤としては、注射剤、点滴剤、軟膏、ローション、スプレー、懸濁剤、乳剤または坐剤などが挙げられる。前記剤形は、当該分野の通常的な方法に従って容易に製造し得るものであって、界面活性剤、賦形剤、水和剤、乳化促進剤、懸濁剤、浸透圧調整のための塩または緩衝剤、着色剤、香辛料、安定化剤、防腐剤、保存剤またはその他常用する補助剤を適当に用いていてよい。
【0041】
本発明の一実施例に係る薬学組成物の有効成分は、対象の年齢、性別、体重、病理状態及びその深刻度、投与経路または処方者の判断によって変わってよい。これらの因子に基づく適用量の決定は当業者の水準内にあり、その1日投与量は、例えば、0.0001mg/kg/日〜1000mg/kg/日、より具体的には、0.02mg/kg/日〜100mg/kg/日とされてよいが、これに制限されるものではない。
【0042】
前記製剤の投与量は、対象者の年齢、性別、体重、症状、投与方法によって異なるが、1日当たり1.0〜3.0mlの範囲でこれを1日に1〜5回塗布し、1ヶ月以上続けた方がよい。
【0043】
また、健康食品は、日常食事で欠乏し易い栄養素や人体に有用な機能をもつ原料や成分(機能性原料)を用いて製造したものであって、人体の正常な機能を維持しまたは生理機能活性化によって健康を維持し改善する食品を意味するものであってよいが、これに制限されるものではない。前記健康食品は、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、液状、丸剤などの形態で製造、加工されていてよいが、これらに限定されるものではなく、法律に従って特に形態を問わず製造、加工されていてよい。
【0044】
本発明の一側面において、健康飲料組成物は、指示された割合にて必須成分として前記化合物を含有する以外は、他の成分に特別な制限がなく、通常の飲料と同様に種々の香味剤または天然炭水化物などを追加成分として含有していてよい。天然炭水化物の例としては、単糖類、多糖類、シクロデキストリンなどのような通常の糖、及びキシリトール、ソルビトール、エリトリトールなどの糖アルコールが挙げられる。上述したもの以外の香味剤として、天然香味剤(タウマチン、ステビア抽出物(例えば、レバウジオシドA、クリチルリチン)及び合成香味剤(サッカリン、アスパルテームなど)を用いていてよい。
【0045】
一般に、健康食品組成物によって投与される有効成分量は、0.0001mg/kg/日〜略1000mg/kg/日の範囲であってよい。より好ましい投与量は、0.02mg/kg/日〜100mg/kg/日であってよい。投与は、一日に一回投与してよく、数回に分けて投与してもよい。
【0046】
本発明の一観点である皮膚細胞分化促進用組成物において、前記JAB−1の発現または活性抑制物質は、0.1nM〜50nMの濃度で含まれていてよい。
【0047】
また、前記JAB−1の発現または活性抑制物質は、組成物の総重量を基準に、0.0001〜30質量%で含まれていてよい。例えば、0.0001〜25質量%、0.0001〜25質量%、0.0001〜20質量%または0.0001〜15質量%で含まれていてよく、好ましくは、0.0001〜10質量%で含まれていてよい。
【0048】
本発明は、他の側面において、皮膚細胞に試験物質を処理するステップ;及び試験物質を処理した皮膚細胞から、試験物質の処理前後におけるJAB−1(Jun activator binding−1)の相対的発現程度を確認するステップを含む、皮膚細胞分化促進物質のスクリーニング方法である。
【0049】
前記したような側面において、当該スクリーニング方法は、試験物質の処理後のJAB−1の発現程度が、処理前の程度に比べて低い場合、皮膚細胞分化促進物質と判断するステップをさらに含んでいてよい。一具現例において、試験物質の処理後のJAB−1の発現程度が、処理前の程度に比べて20%以上低い物質を皮膚細胞分化促進物質と判断するステップをさらに含んでいてよい。例えば、試験物質の処理後のJAB−1の発現程度が、処理前の濃度に比べて、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上または50%以上低いと、皮膚細胞分化促進物質と判断していてよい。
【0050】
例えば、試験物質を処理していない角質細胞におけるJAB−1の発現程度よりも試験物質を処理した角質細胞におけるJAB−1の発現程度の方が高いと、処理した試験物質がJAB−1の発現程度を増加させたと判断していてよい。逆に、試験物質を処理していない皮膚細胞におけるJAB−1の発現程度よりも試験物質を処理した皮膚細胞におけるJAB−1の発現程度が低いか同程度であると、処理した試験物質がJAB−1の発現程度を増加させなかったと判断していてよい。前述したように、処理した試験物質がJAB−1の発現程度を処理前の程度に比べて20%以上低減させると、皮膚細胞分化を促進する物質と判断していてよい。
【0051】
前記JAB−1の発現程度は、公知の技術、例えば、逆転写重合酵素連鎖反応(RT−PCR)、ELISA、ウェスタンブロットまたはイムノブロット(immune blot)を用いて確認していてよく、これらに制限されるものではない。
【0052】
なお、JAB−1の発現程度の低減の有無は目視でも判断可能である。
【0053】
本発明の一側面であるスクリーニング方法において、当該方法は、試験物質の処理前後におけるケラチン1及びケラチン10の一つ以上の相対的発現程度を確認するステップをさらに含んでいてよい。前記したような側面において、試験物質の処理後のケラチン1及びケラチン10の一つ以上の発現程度が、処理前の程度に比べて高い物質を皮膚細胞分化促進物質と判断するステップをさらに含んでいてよい。一具現例において、試験物質の処理後のケラチン1及びケラチン10の一つ以上の発現程度が、処理前の程度に比べて20%以上高い物質を皮膚細胞分化促進物質と判断するステップをさらに含んでいてよい。例えば、前記ケラチン1またはケラチン10の発現程度が、試験物質の処理前の程度に比べて15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、または50%以上高い場合、皮膚細胞分化促進物質と判断していてよい。
【0054】
ケラチン1とケラチン10は、皮膚細胞の分化程度のマーカーとされていてよく、ケラチン1とケラチン10の発現程度が高いと、皮膚細胞の分化が活発であると判断していてよい。
【0055】
一具体例において、前記皮膚細胞は、角化細胞であってよいが、これに制限されるものではない。
【0056】
本発明の一側面であるスクリーニング方法において、当該スクリーニング方法は、皮膚細胞分化促進による、皮膚バリア機能強化、皮膚保湿、またはアトピー緩和若しくは治療用物質のスクリーニング方法であってよい。
【0057】
本発明は、他の側面において、角化細胞;及び指示書を含み、指示書には前記皮膚細胞分化促進物質のスクリーニング方法が記載されている、皮膚細胞分化促進物質のスクリーニングキットである。
【0058】
本発明は、他の側面において、JAB−1(Jun activator binding−1)に特異的に結合する抗体を含む皮膚バリア機能、皮膚保湿能、またはアトピー皮膚の診断用組成物である。
【0059】
また、本発明は、他の側面において、JAB−1(Jun activator binding−1)に特異的に結合する抗体を含む皮膚バリア機能、皮膚保湿能、またはアトピー皮膚の診断用キットである。
【0060】
以下、実施例を通じて、本発明の構成及び効果をより具体的に説明する。なお、以下の実施例は本発明に対する理解を助けるための目的から例示したものであるに過ぎず、本発明の範疇及び範囲がそれらによって制限されるものではない。
【0061】
[実施例1]正常なヒトとアトピー患者の角化細胞からのJAB−1の発現程度の測定
アトピー患者と正常なヒトの皮膚組織からJAB−1の発現程度を確認した。アトピー患者の皮膚組織は中央大学校の皮膚科から得た。
【0062】
正常群(32歳、男性)とアトピー群(24歳、男性)の表皮2mmを生検した後、切片を作るために凍結切片コンパウンド(frozen section compound(FSC 22(R)、Leica Microsystems、USA)で固定してから6μmに切片した。組織切片されたスライドは、細胞核染色用試薬であるDAPI(4’,6−diamidino−2−phenylindole)とJAB−1抗体を用いて免疫染色を行った。その結果、正常群では、表皮層の全般に青色(やや明るい部分)で染色された核が存在し且つJAB−1(緑色:やや明るい部分)の染色程度は見られないのに対し(
図1a)、アトピー組織の場合は、核染色とともに表皮上層部に緑色(やや明るい部分)で染色されたJAB−1が増加していることを確認することができた(
図1b)。このことから、JAB−1の発現程度は、アトピー患者の皮膚(表皮)でより高いことが分かった。
【0063】
[実施例2]イントルキン−6(interleukin 6、IL−6)処理時のS100A7及びJAB−1の発現程度の測定
角化細胞はロンザ社から購入した。各細胞は、CO
2培養器(CO
2 incubator)で37℃、5%CO
2条件下で培養した。細胞培養は、ロンザ社の指針書に従って行った。500mlのKGM−2(Clonetics CC−3103)培地にKGM−2ブレットキット(Bullet kit:BPE(Bovine pituitary extract)2ml、hEGF(human epidermal growth factor)0.5ml、インスリン(Insulin)0.5ml、ヒドロコルチゾン(Hydrocortisone)0.5ml、トランスフェリン(Transferrin)0.5ml、エピネフリン(Epinephrine)0.5ml、及びゲンタマイシン硫酸+アムホテリシン−B(Gentamycin Suflate+Amphofericin−B:GA−1000)0.5mlを添加して用いた。前記皮膚角質細胞を60mmの培養皿に70〜80%の密度(confluency)になるまで培養した後、炎症性サイトカインであるIL−6(10nM/ml)を処理時におけるJAB−1の結合タンパク質であるS100A7の発現量とJAB−1の発現量を知るために、S100A7の場合、S100A7の抗体を用いて免疫染色を行い(
図2a及び
図2b)、JAB−1の場合、細胞に対してウェスタンブロットを行った(
図3)。
【0064】
その結果、IL−6を処理した群のほうが、IL−6を処理していない群に比べて、緑色(細胞内にやや明るい部分)で染色されたS100A7及びJAB−1の発現程度が高いことを分かった(
図2a、
図2b、及び
図3)。特異事項として、JAB−1の発現が増加した群においてS100A7が核内に多く分布することが分かるが、
図2a及び
図2b中、黄色(円内部の非常に明るい部分)はS100A7の核内移動が増加した結果である。
【0065】
[実施例3]JAB−1のノックダウン後のS100A7の細胞核内への移動評価
IL−6を実施例2と同法にて処理し、JAB−1遺伝子のsiRNA(50nM、ダーマコン社から購入、商品名:ON−TARGET plus siRNA Reagents)を、リポフェクタミンを用いてトランスフェクションして、JAB−1をノックダウンさせた後、S100A7の核内側への移動の有無を観察した。
【0066】
核染色のためにヨウ化プロピジウム(propidium iodide)を、S100A7の場合(蛍光がlabelされたS100A7抗体、Abcam ab13680)を用いた。染色された核は赤色を、S100A7は緑色を呈した。なお、S100A7が核内に入ると、赤色と緑色とが併合して黄色を呈するようになる。その結果、IL−6を処理した群において、緑色のS100A7の場合、核内の黄色(
図4中の3番目の図中の最も明るい部分)で存在するが、JAB−1をノックダウンさせた場合、黄色がほとんど観察されないところ、核内に移動するS100A7がほとんどないことを確認することができた(
図4)。
【0067】
[実施例4]JAB−1のノックダウン後のケラチン1及びケラチン10のmRNA発現量の測定
実施例3と同法にてIL−6を処理し、JAB−1をノックダウンさせた後、表皮分化マーカーであるケラチン1とケラチン10のmRNA発現程度を測定した。その結果、JAB−1をノックダウンさせた場合、ケラチン1及びケラチン10のmRNAの発現量がより高くなるということと、JAB−1をノックダウンさせた条件ではIL−6による表皮分化マーカーの発現低減が回復することを確認することができた(
図5)。
【0068】
[実施例5]JAB−1のノックダウン後のJAB−1 mRNA発現量の測定
実施例3と同様、JAB−1をノックダウンさせてから2日後に対照群(Non−targeting RNA、50nM)と比較のために、培養後培地を除去し、トリゾール(Trizol)(Invitrogen社製を使用)1mlを添加して、invitrogen社のRNA分離法によってRNAを分離した。紫外線検出器(HEWLETT PACKARD)を利用して260nmでRNAを定量した後、RT−PCR(Reverse transcription−polymerase chain reaction)を実施した。各サンプルに対する遺伝子分析のために、相補的な遺伝子であるRPL13Aを基準に補正した。
【0069】
その結果、JAB−1ノックダウン群の場合、JAB−1の遺伝子発現量が対照群に比べて約20〜70%程度減少した。実験結果を表1に表した。
【0071】
以下、本発明の一側面に係る組成物の剤形例について説明するが、他の種々の剤形への応用も可能であり、これらは本発明を限定するためのものではなく、単に具体的に説明するためのものである。
【0072】
[剤形例1]栄養化粧水
下記の表2に記載の組成に従い、通常の方法にて栄養化粧水を製造することができる。
【0074】
[剤形例2]栄養ローション
下記の表3に記載の組成に従い、通常の方法にて栄養ローションを製造することができる。
【0076】
[剤形例3]栄養クリーム
下記の表4に記載の組成に従い、通常の方法にて栄養クリームを製造することができる。
【0078】
[剤形例4]パック
下記の表5に記載の組成に従い、通常の方法にてパックを製造することができる。
【0080】
[剤形例5]軟膏
下記の表6に記載の組成に従い、通常の方法にて軟膏を製造することができる。
【0082】
[剤形例6]注射剤
下記の表7に記載の組成に従い、通常の方法にて注射剤を製造することができる。