(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6903760
(24)【登録日】2021年6月25日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】超音波センサの機能状態を超音波センサの伝達関数により決定する方法、超音波センサ装置、及び自動車両
(51)【国際特許分類】
G01S 7/52 20060101AFI20210701BHJP
G01S 15/931 20200101ALI20210701BHJP
【FI】
G01S7/52 U
G01S15/931
【請求項の数】19
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-547073(P2019-547073)
(86)(22)【出願日】2018年3月8日
(65)【公表番号】特表2020-509378(P2020-509378A)
(43)【公表日】2020年3月26日
(86)【国際出願番号】EP2018055806
(87)【国際公開番号】WO2018162659
(87)【国際公開日】20180913
【審査請求日】2019年8月28日
(31)【優先権主張番号】102017105043.4
(32)【優先日】2017年3月9日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】508108903
【氏名又は名称】ヴァレオ・シャルター・ウント・ゼンゾーレン・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン、ハーク
【審査官】
梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】
独国特許出願公開第102014213122(DE,A1)
【文献】
独国特許出願公開第102012200743(DE,A1)
【文献】
独国特許出願公開第102012220311(DE,A1)
【文献】
独国特許出願公開第102014115000(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 1/72 − 1/82
G01S 3/80 − 3/86
G01S 5/18 − 5/30
G01S 7/52 − 7/64
G01S 15/00 − 15/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波信号(8)を自動車両(1)の周囲に送信する、及び/又は前記超音波信号(8)のエコー信号(9)を受信するように設計された、自動車両(1)用の超音波センサ装置(5)の超音波センサ(5a)の機能状態を決定するための方法において、
電気試験信号(P)が生成されて前記超音波センサ(5a)に適用され、前記電気試験信号(P)の作用を受けた前記超音波センサ(5a)の少なくとも1つの電気特性パラメータ(K)が評価され、これに応じて前記超音波センサ(5a)の伝達関数(13)が決定され、前記伝達関数(13)は基準伝達関数(11)と比較され、この比較に基づいて前記超音波センサ(5a)の機能状態が決定され、
前記電気試験信号(P)は、送信される超音波信号(8)を生成することによる励起信号とは異なっている、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記電気試験信号(P)は、制御装置(S)によって、高調波信号として、又はステップ信号として、又はパルス信号として生成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記伝達関数(13)は、インピーダンス周波数応答(14)に応じて決定される、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記インピーダンス周波数応答(14)は、前記電気試験信号(P)としての印加電流に応じて、これに依存する電気特性パラメータ(K)としての測定電圧に応じて、及び、電気特性パラメータ(K)として実現される前記測定電圧に対する前記印加電流の位相角(α)に応じて、決定される、
ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記インピーダンス周波数応答(14)は、前記電気試験信号(P)としての印加電圧に応じて、これに依存する電気特性パラメータ(K)としての測定電流に応じて、及び、電気特性パラメータ(K)として実現される前記測定電流に対する前記印加電圧の位相角(α)に応じて、決定される、
ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記伝達関数(13)は、前記超音波センサ(5a)の共振周波数(R)において決定される、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
複数の伝達関数(13)が複数の音響周波数において決定され、前記複数の音響周波数は、共振周波数(R)を中心とした+Δfと−Δfとの間の周波数帯域において生成される、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記超音波センサ(5a)の電気モデル(15)が、複数の電気コンポーネント(16)を有して生成され、
前記電気モデル(15)は、機械的な前記超音波センサ(5a)を電気的に表し、
前記電気モデル(15)のパラメータ値は、前記伝達関数(13)によって特徴付けられる、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記超音波センサ(5a)の前記電気モデル(15)、及び/又は、前記基準伝達関数(11)を生成する基準超音波センサの前記電気モデル(15)は、第1キャパシタ(17)と、前記第1キャパシタ(17)とは別の第2キャパシタ(18)と、インダクタ(19)と、オーム抵抗(20)と、から形成され、
前記第2キャパシタ(19)と、前記インダクタ(18)と、前記オーム抵抗(20)とは、直列回路として直列に接続されるとともに、前記第1キャパシタ(17)は前記直列回路に並列に接続される、
ことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記超音波センサ(5a)の物理的キャパシタンスは前記第1キャパシタ(17)によって表され、前記超音波センサ(5a)のダイアフラムの機械的コンプライアンスは前記第2キャパシタ(18)によって表され、前記ダイアフラムの移動質量は前記インダクタ(19)によって表され、前記超音波信号(8)の減衰は前記オーム抵抗(20)によって表される、
ことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記超音波センサ(5a)の前記第1キャパシタ(17)と前記第2キャパシタ(18)と前記インダクタ(19)と前記オーム抵抗(20)の関連するパラメータ値が、パラメータ値フィッティングによって、これらの調整したパラメータ値を使用して前記伝達関数(13)がモデルの形式で得られるように、決定される、
ことを特徴とする請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記基準伝達関数(11)及び/又は前記基準伝達関数(11)を生成する基準超音波センサのパラメータ値は、複数の潜在的な機能状態のために、前記超音波センサ装置(5)の記憶媒体に記憶される、
ことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
当該方法は、前記自動車両(1)の運転動作中に、前記自動車両(1)の複数の動作モードにおいて実施可能である、
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記超音波センサ(5a)の機能状態は、前記超音波センサの内部で決定される、請求項1乃至13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1つの超音波信号(8)が送信され、エコー信号(9)が前記超音波センサ(5a)の第1動作状態にて受信され、前記電気試験信号(P)を印加することにより、前記超音波センサ(5a)の前記第1動作状態とは異なる第2動作状態にて、前記超音波センサ(5a)の自己診断が実行される、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記電気試験信号(P)の振幅は、前記励起信号の振幅よりも小さい、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記電気試験信号(P)のバンド幅は、前記励起信号のバンド幅よりも大きい、請求項1又は16に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1つの超音波センサ(5a)を有する自動車両(1)用超音波センサ装置(5)であって、
超音波信号(8)を送信するための送信装置(6)と、
前記超音波信号(8)のエコー信号(9)を受信するための受信装置(7)と、
請求項1乃至17のいずれか一項に記載の方法を実施するように設計された、前記超音波センサ(5a)の制御装置(S)と、
を有する超音波センサ装置(5)。
【請求項19】
請求項18に記載の超音波センサ装置(5)を有する自動車両(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車両の周囲に超音波信号を送信する、及び/又は又超音波信号のエコー信号を受信するように設計された、自動車両用の超音波センサ装置の超音波センサの機能状態を決定する方法に関する。また、本発明は、超音波センサ及び自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車両の超音波センサは、特に物体の距離を測定するように設計されている。超音波センサでは、特に電気音響エネルギー変換が実施される。このエネルギー変換の物理的原理、特に機械的誘導、機械的容量、機械的制限、磁気的制限又は電歪的性質であり得る物理的原理に関係なく、エネルギー変換要素は、内部又は外部から誘導される変動を受ける可能性があるため、その強度によるが、測定変化が変わってしまうことやセンサが完全に故障してしまうことが起こり得る。従来技術において、このようなセンサの故障は、センサ駆動システムによる妥当性チェックによって通常検出される。一方で、センサの変化は検出されない。
【0003】
DE 10 2014 115 000 A1は、自動車両の超音波センサ装置を操作するための方法を開示している。この方法では、自動車両の周囲領域にある物体を検出する測定モードにおいて、超音波センサのトランスデューサーが、超音波信号を送信するように送信信号によって送信器ステージによって励起される。受信器ステージによって、トランスデューサーの生成した信号に基づいて測定信号が提供される。測定作業中に、超音波センサ装置の機能能力が、送信信号及び/又は測定信号に基づいて診断装置によりテストされる。従来技術において、送信した超音波信号と受信したエコー信号は、超音波センサの機能性を推定する根拠として使用されている。この欠点は、特に、超音波信号とエコー信号は周囲の影響に依存するため、送信した超音波信号と受信したエコー信号に基づく超音波センサの正確な診断がエラーになりやすいということである。
【0004】
本発明の目的は、超音波センサの少なくとも1つの機能状態をより良好に決定し得る方法、超音波センサ装置、並びに自動車両を規定することである。
【発明の概要】
【0005】
この目的は、独立請求項による方法、超音波センサ装置、及び自動車両によって達成される。
【0006】
本発明の一態様は、自動車両の周囲に超音波信号を送信する、及び/又は超音波信号のエコー信号を受信するように設計された、自動車両用の超音波センサ装置の超音波センサの機能状態を決定する方法に関する。
【0007】
この目的のために、電気試験信号が生成されて超音波センサに適用され、電気試験信号の作用を受けた超音波センサの少なくとも1つの電気特性パラメータが評価される。この評価に基づいて、超音波信号の伝達関数が決定され、伝達関数は基準伝達関数と比較される。この比較に基づいて、超音波信号の機能状態が決定される。基準伝達関数は、基準機能状態の特性を示す。
【0008】
特に、超音波センサの機能状態をこのようにして直接決定することができるため、機能状態が、例えば周囲の影響によって歪曲されることがない。特に、これにより、超音波センサの機能状態のより正確な決定をすることができるため、超音波センサの故障や機能能力をチェックできるだけでなく、超音波センサの汚れの程度や着氷の程度等の他の機能状態をもチェックすることができる。
【0009】
したがって、機能状態の決定はセンサ内で実施される。これは、この機能テストでは、超音波信号をテストされる超音波センサにより送信する必要がなく、且つ評価のためにエコー信号を受信する必要もない、ということを意味する。
【0010】
特に、超音波センサ伝達関数は、超音波センサの入力信号と出力信号との数学的関係を表す。とりわけ、このことは、超音波センサの電気機械特性が示されるということを意味する。伝達関数によって、任意の入力信号について対応する出力信号、つまり出力信号に対する超音波センサの応答を決定することができる。特に、超音波センサは共振モードで動作するため、共振周波数における超音波センサの伝達関数が非常に重要である。
【0011】
特に、機能状態決定モデルが、超音波センサ装置に提供され得る。
【0012】
特に、機能状態の決定後に適切な措置を取ることが想定され得る。例えば、超音波センサが故障した場合、警告通知を生成して、自動車両内の人に超音波センサが少なくともその機能性において損なわれていることを知らせることができる。また、超音波センサが着氷していることが検出された場合、超音波センサの加熱要素を作動させて氷を除去することも可能である。例えば、圧電超音波トランスデューサーのセラミックの経年劣化により、特定の出力で必要な音圧が提供できなくなった場合、例えば、制御装置によって超音波トランスデューサーの電力をこれに応じて増加させて、更なる超音波センサの確実な動作を実現することができる。
【0013】
特に、少なくとも1つの超音波信号が送信され、エコー信号が超音波センサの第1動作状態にて受信され、試験信号(P)を印加することにより、超音波センサの第1動作状態とは異なる第2動作状態にて、超音波センサの自己診断が実行され得る。このため、第1動作状態において、いわば通常状態において、超音波信号が送信され、物体から反射した対応するエコー信号が普通に受信される。この目的のために、送信される超音波信号が生成されることによる励起信号が、特に、超音波コンバータのピエゾ素子又はピエゾ素子の電気回路(特にピエゾ素子の回路網に結合される)に印加され得る。第2動作状態は、診断モードと言うこともできる。第2動作状態では、超音波センサの自己診断が実行され、自動車両の周囲に超音波信号は送信されない(第1動作状態とは対照的である)。換言すれば、自己診断では、音波を送信する必要は無い。
【0014】
試験信号は、特に、送信される超音波信号が生成されることによる励起信号とは異なる。とりわけ、第2動作状態の試験信号は、第1動作状態の送信される超音波信号が生成されることによる励起信号とは異なり得る。それ故、診断モードの試験信号は、その信号特性において、通常モードの間に送信される超音波信号の励起信号とは本質的に異なっている。
【0015】
1つの設計において、試験信号の振幅は、励起信号の振幅よりも小さくし得る。とりわけ、第2動作状態における試験信号の振幅は、第1動作状態において送信される超音波信号の生成による励起信号の振幅よりも小さくし得る。例示として、試験信号の振幅は、励起信号の振幅よりも少なくとも2倍小さくでき(つまり、少なくとも半分)、特に、少なくとも5倍小さくでき、特に、少なくとも10倍小さくできる。
【0016】
1つの代替的又は追加的な態様では、試験信号のバンド幅は、励起信号のバンド幅よりも大きい。とりわけ、第2動作状態における試験信号のバンド幅は、第1動作状態の送信される超音波信号の生成による励起信号のバンド幅よりも大きくし得る。例えば、試験信号のバンド幅は10kHzと50kHzの間にすることができ、特に、15kHzと25kHzの間にすることができ、及び/又は、励起信号のバンド幅は、2kHzと20kHzの間にすることができ、特に、5kHzと10kHzの間にすることができる。それ故、試験信号のバンド幅は、励起信号のバンド幅よりも、例えば、少なくとも2倍大きくすることができる(つまり、少なくとも2倍大きくできる)。
【0017】
1つの代替的又は追加的な態様では、試験信号の周波数帯域は、超音波センサの共振周波数を含んでおり、特に、試験信号の周波数帯域は、共振周波数を中心として対称になり得る。代替策として又は追加策として、励起信号の周波数帯域は、超音波センサの共振周波数を含まなくてもよく、又は、共振周波数に隣接していなくともよく、励起信号の周波数帯域は、特に、共振周波数に対して非対称となり得る。
【0018】
有利な設計によれば、試験信号は、制御装置によって、高調波信号の形態で、又はステップ信号として、又はパルス信号として生成され得る。高調波信号は、正弦関数で表されられ得る波形を有する振動である。したがって、超音波センサは、正弦関数に一致し得る電気試験信号で励起される。特に、周波数は関連する範囲内で時間とともに変化し得る。ステップ信号は、超音波センサの機能状態を確認するための更なる選択肢を示す。超音波センサの電子回路の入力時、ステップ関数が適用される。この結果、超音波センサの出力における電圧が変化する。この電圧の時間波形は、ステップ応答とも称される。ステップ関数に対する応答は、超音波センサの機能状態を推定するために使用され得る。更なる可能性は、パルス信号が、試験信号として制御装置によって生成されることである。パルス信号の場合、超音波センサは電気的に励起され、超音波センサの振動挙動が電気的にモニタリングされる。そして、振動応答に基づいて、超音波センサの機能状態に関する結論を導くことができる。超音波センサを高調波信号、又はステップ信号、又はパルス信号を試験信号として用いて励起することにより、超音波信号を自動車両の周囲に送信する必要なく、超音波センサの自己診断が直接的に単純な態様で実施され得る。
【0019】
伝達関数はインピーダンス周波数応答に応じて決定される場合、有利であるということもわかっている。特に、インピーダンス周波数応答は、電気機械式超音波センサの入力インピーダンス周波数応答である。これには、超音波センサの伝達関数が非常に簡単に決定できるという利点がある。なぜならば、特に電圧又は電流のいずれかが、超音波センサの機械的パラメータと既知の関係にあるからである。したがって、超音波センサの1つのパラメータのみを変更することでインピーダンス周波数応答が決定することができ、これにより、超音波センサの伝達関数を決定することができる。
【0020】
また、インピーダンス周波数応答は、電気試験信号としての印加電流に応じて、これに依存する電気特性パラメータとしての測定電圧に応じて、及び、電気特性パラメータとして実現される測定電圧に対する印加電流の位相角に応じて決定される場合、有利である。このような構成を利用することにより、超音波センサの電流‐電圧伝達関数が精度良く決定され得る。
【0021】
また、インピーダンス周波数応答は、電気試験信号としての印加電圧に応じて、これに依存する電気特性パラメータとしての測定電流に応じて、及び、電気特性パラメータとして実現される測定電流に対する印加電圧の位相角に応じて決定されることが有利である。このような構成を利用することにより、超音波センサの電圧‐電流伝達関数が精度良く決定され得る。
【0022】
更に有利な構成によれば、伝達関数は、超音波センサの共振周波数において決定され得る。超音波センサは、特に圧電ベースの撓みトランスデューサーを有する超音波センサとして設計されているため、特に共振動作モードにおいて最大の効率を発揮する。これにより、超音波センサは、特に共振モードで動作する。特に、超音波センサの共振モードにおける、すなわち、共振周波数における伝達関数の決定から、超音波センサの機能状態が決定され得る。これには、関連する伝達関数を超音波センサの各周波数について決定する必要がない。むしろ、決定は超音波センサの共振周波数において実施されるので、特に制御装置における演算能力が確保され得る。
【0023】
また、複数の伝達関数が複数の音響周波数において決定され、複数の音響周波数は、共振周波数f
resを中心とした+Δfと−Δfとの間の周波数帯域において生成される場合、有利であるとわかっている。各超音波センサは、その設計により異なる共振周波数を有しているため、各伝達関数は、特に、基準超音波センサの共振周波数f
resを中心とした周波数帯域において決定され得る。例えば、基準超音波センサは、45kHzの共振周波数f
resを有し得る。ただし、製造公差により、超音波センサの共振周波数は、+/−Δfの範囲で変動し得る。例えば、+/−5kHz、すなわち40kHz乃至50kHzの周波数帯域が、45kHzの共振周波数f
resを中心として生成され得る。この周波数帯域において、伝達関数が決定される。特に、Δfは、超音波センサの製造公差に対応する場合がある。したがって、伝達関数は、特に信頼性高く、且つ超音波センサに特有の態様において決定され得るため、特定の超音波センサの機能状態を推定することが可能となる。また、周波数帯域外にある周波数は無視できるため、同様に演算能力を確保することができる。
【0024】
更なる有利な設計によれば、複数の電気コンポーネントを有する超音波センサの電気モデル又は等価回路を生成することができる。電気モデルは、機械的超音波センサを電気的に表し、電気モデルのパラメータ値は、伝達関数によって特徴付けられる。特に、複数の電気コンポーネントを基準伝達関数を表す複数の電気コンポーネントに対して比較することにより、超音波センサの機能状態が決定され得る。これにより、電気コンポーネントに基づいた超音波センサの機能状態の簡単で正確な定量化が可能となる。
【0025】
また、超音波センサの電気モデル及び/又は基準超音波センサは、第1キャパシタと、第1キャパシタとは別の第2キャパシタと、インダクタと、オーム抵抗と、から形成され、第2キャパシタと、インダクタと、オーム抵抗とは直列に接続されるとともに、第1キャパシタは直列回路に並列に接続される場合、有利である。したがって、超音波センサは、単純な等価回路によって表される。この等価回路の電気コンポーネントは、その値を簡単に決定できる単純な電気コンポーネントであるため、超音波センサの機能状態に関する結論が簡単に導かれ得る。電気コンポーネントのそれぞれが異なる電気的挙動をなすという事実により、複数の影響に依存する超音波センサの複数の機能状態をモデル化することができるので、超音波センサの最新の機能状態を正確に決定することが実現され得る。
【0026】
また、超音波センサの物理的キャパシタンスは第1キャパシタによって表され、超音波センサのダイアフラムの機械的コンプライアンスは第2キャパシタによって表され、ダイアフラムの移動質量はインダクタによって表され、音響信号の減衰はオーム抵抗によって表される場合、有利であることがわかっている。特に、物理的キャパシタンス、機械的コンプライアンス、移動質量、及び減衰によって、超音波センサの少なくとも1つの機能状態が決定され得る。例えば、第1キャパシタの変化、すなわち物理的キャパシタンスの変化により、圧電セラミックの不良が決定され得る。例えば、第1キャパシタの第1キャパシタンスが減少した場合、このような不良が存在するかもしれない。
【0027】
特に、第2キャパシタ、インダクタ、及びオーム抵抗は、超音波センサの音響変換の電気音響モデルを表す。第2キャパシタのキャパシタンス、換言すれば機械的コンプライアンス、又は剛性の逆数が変化した場合、超音波センサ上に氷があると推定することができる。なぜならば、例えば、超音波センサのダイアフラム上に氷があると直ちにコンプライアンスが低下するためである。特に、ダイアフラム上に氷があると、インダクタンスによって表される膜の移動質量も変化する。これにより、特に氷が存在すると、インダクタンスも変化する。また、超音波センサに汚れがある場合、換言すれば超音波センサのダイアフラムに泥が付着している場合、超音波センサの膜に余分な質量が生じるため、この場合もインダクタンスが変化する。特に、周囲の超音波信号の減衰を検出するようにオーム抵抗を利用することができる。減衰は、特に外気温度及び湿度に依存する空中音減衰を理由として発生する。
【0028】
また、超音波センサの第1キャパシタと第2キャパシタとインダクタとオーム抵抗の関連するパラメータ値が、パラメータ値の調整によって、特に数値最適化によって、これらの調整したパラメータ値を使用して伝達関数がモデルの形式で得られるように決定される場合、有利である。特に、パラメータ調整であるパラメータフィッティングにより、パラメータフィットの数値最適化の形式において、対応する電気コンポーネントのパラメータ値を非常に単純な態様で得ることができ、これにより、超音波センサの機能状態が迅速且つ簡単に決定され得る。
【0029】
また、基準伝達関数及び/又は基準伝達関数を生成する基準超音波センサのパラメータ値は、複数の潜在的な機能状態のために、超音波センサ装置の記憶媒体に記憶される場合、有利であることがわかっている。このような構成により、機能状態の決定が高い精度を以て実現され得る。特に、様々な周囲の影響や経年劣化の影響、又はセンサの影響、又はこのような影響を理由とする伝達関数の変化を記憶媒体に共に保存することができるため、超音波センサの機能状態を日常生活の多くの潜在的な状況について正確に決定することができる。これにより、超音波センサを安全且つ確実に操作することができる。
【0030】
また、本方法は、特に自動車両の運転動作中に、自動車両の複数の動作モードにおいて実施可能である場合、有利である。これは、機能状態の決定が、自動車両の複数の動作モードにおいて実施され得るということを意味する。特に、これにより、超音波センサは、運転モード及び他の動作モードにおいて、確実且つ安全に操作され得る。
【0031】
特に、温度センサ及び/又は空気湿度センサ及び/又は他のタイプのセンサ等の少なくとも1つの別のセンサからの情報を、機能状態の決定において考慮することが想定され得る。少なくとも1つの別のセンサは、超音波センサ及び/又は超音波センサ装置及び/又は自動車両の一部であってもよい。
【0032】
また、本発明は、少なくとも1つの超音波センサを有する自動車両用超音波センサ装置であって、超音波信号を送信するための送信装置と、超音波信号のエコー信号を受信するための受信装置と、上述の方法又はその有利な実施形態を実施するように設計された、超音波センサの制御装置と、を有する超音波センサ装置に関する。
【0033】
また、本発明は、超音波センサ装置を有する自動車両に関する。特に、自動車両は、乗用車の形態にある。
【0034】
本発明による方法の有利な実施形態は、本発明による超音波センサ装置及び本発明による自動車両の有利な実施形態とみなされるべきである。本発明による超音波センサ装置及び本発明による自動車両は、本方法又はその有利な実施形態の実施を可能にする重要な特徴を有する。
【0035】
本発明の更なる特徴は、特許請求の範囲、図面、及び図面の説明から明らかになるであろう。上述した特徴及び特徴の組み合わせ、並びに図の説明及び/又は図のみで後述する特徴及び特徴の組み合わせは、それぞれの組み合わせに適用されるだけでなく、本発明の範囲を逸脱することなく他の組み合わせ、又は単独での利用にも適用される。したがって、本発明のこのような実施形態は、図面に明示され説明されていなくても、別個の特徴の組み合わせにより説明した実施形態から生成され得るものとして包含され開示されていると考えるべきである。したがって、独立請求項の全ての特徴を有さない実施形態及びその組み合わせも、開示されているとみなされるべきである。更に、特許請求の範囲に記載された特徴の組み合わせを超える、又は異なる設計及び特徴の組み合わせ、特に上述の設計の組み合わせも、開示されているとみなされるべきである。
【0036】
本発明の例示的な実施形態を、概略図面を参照しつつ以下に説明する
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明による超音波センサ装置の実施形態を有する、本発明による自動車両の例示的実施形態の概略平面図。
【
図2】超音波センサの実施形態の伝達関数を決定するための周波数‐信号振幅曲線の概略図。
【
図3】超音波センサの一実施形態のインピーダンス周波数応答を決定するための周波数‐インピーダンス曲線の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図において、同一又は機能的に同一の要素には同一の参照符号を付す。
【0039】
図1は、本発明の一実施形態による自動車両1を示す。この例時的な実施形態における自動車両1は、乗用車として設計されている。自動車両1は、ドライバー支援システム2を備えている。ドライバー支援システム2により、例えば、自動車両1の周囲領域4に位置する物体3を検出することができる。特に、ドライバー支援システム2によって、自動車両1と物体3との間の距離が決定され得る。
【0040】
ドライバー支援システム2は、少なくとも1つの超音波センサ装置5を備えている。超音波センサ装置5は、少なくとも1つの超音波センサ5aを有する。超音波センサ5aは送信装置6を備え、これにより、少なくとも1つの超音波信号8、特に複数の超音波信号が送信され得る。本例における超音波センサ装置5は、自動車両1の前部に配設されている。超音波センサ装置5を、自動車両1の後側又は側部等の他の領域にも配設してよい。以下の例は、排他的なものとしてみなされるべきでなく、例示のみを目的としている。
【0041】
送信装置6により、超音波信号8が、所定のカバー範囲Eにおいて、又は所定の角度範囲において、ダイアフラムを介して送信され得る。
【0042】
また、超音波センサ装置5は受信装置7を備え、これにより、反射した超音波信号を、特にダイアフラムを介して、物体3により反射されたエコー信号9として受信することができる。このため、受信装置7により、物体3から反射された超音波信号9が、受信信号として受信され得る。また、超音波センサ装置5は、例えばマイクロコントローラ及び/又はデジタル信号プロセッサにより形成され得る制御装置Sを有し得る。ドライバー支援システム2は、更に、例えば自動車両1の電子制御ユニット(ECU)として形成され得る制御装置10を備える。制御装置10は、データ伝達のために超音波センサ装置5に接続されている。例えば、データは、自動車両1のデータバスを経由して伝達される。
【0043】
図2は、超音波センサ(5a)の一実施形態の伝達関数13を決定するための周波数‐信号振幅曲線の概略図である。特に、
図1のグラフの横座標Aには、周波数が[kHz]でプロットされている。グラフの縦座標Oは、信号振幅を[dB]で示す。信号振幅は、電圧や電流等の電気特性パラメータK(
図4)に依存する。特に、
図1は、超音波センサ5aの伝達関数13が、特に超音波センサ5aの共振周波数Rに位置するピーク12を有することを示している。
図1に示す例において、共振周波数Rは、約45kHzである。好適には、超音波センサ5aは、共振周波数Rにおいて共振モードで動作する。
【0044】
図2の伝達関数13によって、特に超音波センサ5aの音響電気的挙動を表すことができる。特に、設計によるが、各超音波センサ5aは特定の伝達関数13を有する。特に、例えば、超音波センサ5aの特定の共振周波数Rは、例えば−Δf及び+Δfを使用して
図1に示す周波数帯域内にあり得る。例えば、周波数帯域は、40kHz乃至50kHzの範囲を取り得る。とくに、この周波数帯域にある特定の周波数センサ5aの共振周波数Rがチェックされて決定され得る。
【0045】
周囲の影響や経年変化、及びセンサ関連の影響等の外部の影響により、超音波センサ5aは、基準超音波センサの基準伝達関数11と比較して異なる伝達関数13を有する場合があり得る。特に、伝達関数13は、基準伝達関数11と異なる。伝達関数13を基準伝達関数11に対して比較することにより、特に超音波センサ5aの機能状態を決定することができる。例えば、超音波センサ5aが汚れているか、又は着氷しているかを決定することができる。伝達関数13は、電気試験信号P(
図4)に応じて決定される。この決定において、超音波センサ5aが、電気試験信号Pによって励起される。次いで、特に超音波センサ5aの電圧及び/又は電流であり得る電気特性パラメータKが評価され得る。そして、これに応じて、超音波センサ5aの伝達関数13が決定され得る。特に、次いで伝達関数13が基準伝達関数11と比較され、超音波センサ5aの機能状態が、この比較に基づいて決定され得る。特に、試験信号Pは、高調波信号、又はステップ信号、又はパルス信号として、制御装置によって、特に超音波センサ5aの制御装置(S)によって生成されることが想定され得る。
【0046】
また、超音波センサ5aの機能状態の決定が、特に自動車両1の運転操作中に、自動車両1の複数の動作モードにおいて実施され得ることも想定され得る。したがって、最新の超音波センサ5aの機能状態を決定することができる。
【0047】
図3は、超音波センサ5aのインピーダンス周波数応答14を決定するための例示的な周波数‐信号振幅曲線の概略図である。特に、周波数が横座標Aにおいて[kHz]で示され、位相角αが縦座標Oにおいて[°]でプロットされている。インピーダンス周波数応答14は、超音波センサ5aの共振周波数Rにおいて変向点を有する。特に、共振周波数Rにおいて、インピーダンスは0の位相角αを有する。
【0048】
特に、伝達関数13は、インピーダンス周波数応答14によって決定されるとともに、インピーダンス周波数応答14は、電気特性パラメータKを、特に位相角αに応じた電流及び/又は電圧として表すことが想定される。例えば、インピーダンス周波数応答14は、電気試験信号Pとしての印加電流に応じて、これに依存する電気特性パラメータKとしての測定電圧に応じて、及び、電気特性パラメータKとして実現される測定電圧に対する印加電流の位相角αに応じて、決定され得る。また、インピーダンス周波数応答14は、電気試験信号Pとしての印加電圧に応じて、これに依存する電気特性パラメータKとしての測定電流に応じて、及び、電気特性パラメータKとして実現される測定電流に対する印加電圧の位相角αに応じて、決定され得る。
【0049】
図4は、超音波センサ5aの電気モデル15としての超音波センサ5aの一実施形態の概略等価回路図である。特に、電気モデル15は、機械的超音波トランスデューサー5aを電気的に示す。特に、電気モデル15は、複数のコンポーネント16を備えている。
【0050】
特に、電気モデル15は、第1キャパシタ17と、第2キャパシタ18と、インダクタ19と、オーム抵抗20と、を有する。特に、コンポーネント16のパラメータ値は、伝達関数13によって特徴付けられ得るように選択される。特に、電気モデル15において、第2キャパシタと18インダクタンス19とオーム抵抗20とは直列に接続されるとともに、第1キャパシタ17はこの直列回路に並列に接続されることが想定される。
【0051】
特に、第1キャパシタ17は、超音波センサ5aの、例えば圧電超音波センサのセラミックの物理的キャパシタンスを表す。第2キャパシタ18は、例えば、超音波センサ5aの膜の機械的コンプライアンスであって、剛性の逆数に相当する機械的コンプライアンスを表し得る。インダクタンス19により、特に膜の移動質量がモデル化され得る。特にオーム抵抗20は、超音波信号8の減衰を表し得る。特に、物理的キャパシタンス、機械的コンプライアンス、移動質量、及び減衰によって、超音波センサ5aの少なくとも1つの機能状態が決定され得る。
【0052】
例えば、セラミックが不良である場合、第1キャパシタ17のキャパシタンスは減少する可能性があるため、第1キャパシタンスの減少により、セラミックの欠陥が推定され得る。例えば、超音波センサ5aのダイアフラム上に氷が存在している場合、例えば機械的コンプライアンス及び移動質量が変化し得るため、電気モデル15において、第2キャパシタ16の変化、又は第2キャパシタ16のキャパシタンスの変化、及びインダクタンス19の変化が検出され得る。パラメータ値の変化に基づいて、超音波センサ5aの機能状態についての結論を導くことができる。
【0053】
特に、コンポーネント16のパラメータ値は、パラメータ値の調整によって、特に数値最適化によって、これらの調整されたパラメータ値によって伝達化数13がモデルの形式で得られるように決定されることが想定される。
【0054】
特に、基準伝達関数11及び/又は基準伝達関数11を生成する基準超音波センサのパラメータ値は、次いで、複数の潜在的な機能状態のために超音波センサ装置5の記憶媒体に記憶され得る。こうして、コンポーネント16の個々のパラメータ値が、基準超音波センサのコンポーネントのパラメータ値と比較され、メモリに記憶された情報から、周囲の状態、センサの状態、及び/又は超音波センサ5aの経年劣化に関する結論が導かれ得る。
【0055】
特に、温度センサ及び/又は空気湿度センサ及び/又は他のタイプのセンサ等の少なくとも1つの別のセンサからの情報を、機能状態の決定において考慮することが想定され得る。少なくとも1つの別のセンサは、超音波センサ5a及び/又は超音波センサ装置5及び/又は自動車両1の一部であってもよい。
【0056】
特に、超音波センサ5aの伝達関数13は、超音波信号を送信して受信したエコー信号を評価することなく、直接的にセンサの内部で測定され、超音波センサ5aの機能状態がこの伝達関数13に基づいて決定されることが想定される。この目的のために、超音波センサ5aは、電気試験信号Pによって励起される。電気試験信号Pによって、超音波センサ5aの電気特性パラメータKは、超音波センサ5aによって処理され評価される。特にインピーダンス周波数応答14において検出され得る電気特性パラメータKに応じて、伝達関数13が決定される。コンポーネント16を有する電気モデル15を、特定の伝達関数13に、パラメータ値フィッティングによってマッチングさせ、これにより、コンポーネント16は伝達関数13を特徴付ける。次いで、マッチングさせたパラメータ値は、基準超音波センサの基準パラメータ値と比較され、この比較に基づいて、超音波センサ5aの機能状態に関する結論が導かれ得る。