特許第6903761号(P6903761)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6903761
(24)【登録日】2021年6月25日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】複列玉軸受及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 19/08 20060101AFI20210701BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20210701BHJP
   F16C 43/04 20060101ALI20210701BHJP
【FI】
   F16C19/08
   F16C33/58
   F16C43/04
【請求項の数】7
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2019-549028(P2019-549028)
(86)(22)【出願日】2017年10月17日
(86)【国際出願番号】JP2017037450
(87)【国際公開番号】WO2019077670
(87)【国際公開日】20190425
【審査請求日】2020年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227157
【氏名又は名称】日鍛バルブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087826
【弁理士】
【氏名又は名称】八木 秀人
(74)【代理人】
【識別番号】100139745
【弁理士】
【氏名又は名称】丹波 真也
(74)【代理人】
【識別番号】100168088
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100187182
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 由希
(74)【代理人】
【識別番号】100207642
【弁理士】
【氏名又は名称】簾内 里子
(72)【発明者】
【氏名】亀田 美千広
【審査官】 藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭62−56822(JP,U)
【文献】 特開平11−210746(JP,A)
【文献】 実公昭10−15241(JP,Y1)
【文献】 実開昭56−44224(JP,U)
【文献】 特開平10−311346(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/08
F16C 33/58
F16C 43/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と該内輪の外周側に配置される外輪との間に、該内輪及び外輪の軸線方向において複数の玉列が隣合うようにして介在されている複列玉軸受において、
前記複数の各玉列は、該各玉列の玉が所定間隔毎に配置されていると共に、該各玉列に隣り合う玉列に対して該各玉列の列方向にずれるように配置され、
前記各玉列の各玉は、該各玉列に対して隣り合う玉列における各所定間隔の空間に臨むと共に、該各所定間隔を形成する2個の玉に対して当接され、
前記複数の玉列が、4列以上の偶数列とされ、
前記複数の玉列は、少なくとも前記内輪と前記外輪との相対回転時において、最外列の玉列に隣合う内側玉列の各玉の径が、該最外列の玉列の各玉の径よりも小さくなるように設定されている、
ことを特徴とする複列玉軸受。
【請求項2】
内輪と該内輪の外周側に配置される外輪との間に、該内輪及び外輪の軸線方向において複数の玉列が隣合うようにして介在されている複列玉軸受において、
前記複数の各玉列は、該各玉列の玉が所定間隔毎に配置されていると共に、該各玉列に隣り合う玉列に対して該各玉列の列方向にずれるように配置され、
前記各玉列の各玉は、該各玉列に対して隣り合う玉列における各所定間隔の空間に臨むと共に、該各所定間隔を形成する2個の玉に対して当接され、
前記複数の玉列が、3列以上の奇数列とされ、
前記複数の玉列は、一方の最外列における玉列の各玉に対する該一方の最外列における玉列に隣合う内側玉列の各玉の当接抵抗と、他方の最外列における玉列の各玉に対する該他方の最外列における玉列に隣合う内側玉列の各玉の当接抵抗とが、異なるように設定されている、
ことを特徴とする複列玉軸受。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記内輪の外周面及び前記外輪の内周面の少なくとも一方に、前記複数の各玉列を嵌合するための軌道溝がそれぞれ形成されている、
ことを特徴とする複列玉軸受。
【請求項4】
請求項1又は2において、
前記内輪及び外輪の少なくともいずれかの軸線方向外側側部に、該内輪及び外輪の軸線方向両側において、前記複数の玉列が該内輪及び外輪の軸線方向外方に移動することを規制する規制部が設けられている、
ことを特徴とする複列玉軸受。
【請求項5】
請求項4において、
前記規制部が、前記内輪の軸線方向両外側部及び前記外輪の軸線方向両外側部の少なくとも一方に設けられている、
ことを特徴とする複列玉軸受。
【請求項6】
内輪と該内輪の外周側に配置される外輪との間に、該内輪及び外輪の軸線方向において複数の玉列が隣合うようにして介在されている複列玉軸受の製造方法において、
前記外輪として、該外輪の内周面に該外輪の軸線方向において複数の軌道溝が隣合うようにして形成されたものを用意すると共に、該外輪内に進入可能とされる棒状の治具を用意し、
先ず、前記外輪内に該外輪における一方の開口から前記治具を進入させて、該治具の進入先端面をもって、該外輪における一方の開口に最も近い軌道溝に対する案内路を形成する一方、該外輪の他方の開口から該外輪内に前記玉を供給して、該外輪における一方の開口に最も近い軌道溝に複数の玉を装填する玉装填作業を行い、
次に、前記外輪内に該外輪における他方の開口に向けて前記治具を進入させて、該外輪における一方の開口に最も近い軌道溝よりも該外輪における他方の開口側に位置する各軌道溝に対して案内路を順次、形成すると共に、該各案内路を形成する度に該各案内路を利用して該各軌道溝に玉装填作業を行い、該各軌道溝における各玉を、該各軌道溝に対して隣合う軌道溝内において列方向に間隔をあけて隣合う玉に該隣合う玉間に跨るように当接させ、
次いで、前記外輪における他方の開口に最も近い軌道溝に対する玉装填作業を終えた後、前記治具の先端面に前記内輪の軸線方向一端面を当接させ、
その後、前記治具の先端面と前記内輪の軸線方向一端面との当接関係を維持しつつ、該治具及び該内輪を前記外輪の一方の開口側に移動させて、該内輪の外周面を該外輪の内周面に対して対向させた状態とする、
ことを特徴とする複列玉軸受の製造方法。
【請求項7】
請求項1において、
前記最外列の玉列に隣合う内側玉列の各玉として、弾性率に関し、該最外列の玉列の各玉よりも小さいものが用いられている、
ことを特徴とする複列玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内輪と外輪との間に複数の玉列を介在させた複列玉軸受及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受として、複列玉軸受が広く知られている。この複列玉軸受は、一般に、内輪と該内輪の外周側に配置される外輪との間に、内輪及び外輪の軸線方向において複数の玉列が隣合うようにして介在されたものとされており、この複列玉軸受の内輪に回転軸等の支持軸が取付けられる。
【0003】
ところで、複列玉軸受には、特許文献1(実施例4:明細書段落[0023]〜[0026]、図4)に示すように、複数の各玉列の各玉(ラジアル荷重支持用)を所定間隔毎に配置すると共に、その各玉列を、それに隣り合う玉列に対してその各玉列の列方向にずれるように配置し、各玉列の各玉を、その各玉列に対して隣り合う玉列における各所定間隔の空間に臨ませると共に、各玉をアキシアル方向(内輪及び外輪の軸線方向)に転がり移動可能としたものが提案されている。
これによれば、複数の玉列の複数の玉により、外輪に作用するラジアル荷重(径方向内方への荷重)を分散することができる共に、隣合う玉同士間が非接触となることに基づき、内輪と外輪とが相対回転する際における摩擦力を大きく低減させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−48932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記複列玉軸受においては、複数の玉列の各玉が、アキシアル方向に自由に転がり移動できることから(特許文献1[0026]参照)、外輪にラジアル荷重が作用した場合には、その各玉の自由な転がり移動に基づき、ラジアル荷重は、均一状態に近いとは言い難い状態で受け止められることになる。このため、外輪にラジアル荷重が作用した場合には、そのラジアル荷重を効果的に分散することができず、複列配置による基本動定格荷重の増加や長寿命化のメリットを十分に反映することができない。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その第1の目的は、内輪と外輪とが相対回転する際における摩擦力を低減させつつ、ラジアル荷重を効果的に分散することができる複列玉軸受を提供することにある。
第2の目的は、上記複列玉軸受を製造するための複列玉軸受の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記第1の目的を達成するために本発明にあっては、下記(1)〜(8)の構成が採用されている。
(1)内輪と該内輪の外周側に配置される外輪との間に、該内輪及び外輪の軸線方向において複数の玉列が隣合うようにして介在されている複列玉軸受において、
前記複数の各玉列は、該各玉列の玉が所定間隔毎に配置されていると共に、該各玉列に隣り合う玉列に対して該各玉列の列方向にずれるように配置され、
前記各玉列の各玉は、該各玉列に対して隣り合う玉列における各所定間隔の空間に臨むと共に、該各所定間隔を形成する2個の玉に対して当接されている構成とされている。
この構成によれば、各玉列の各玉は、その各玉列に対して隣り合う玉列において列方向に隣合う玉に対して当接されていることから、各玉は個別に自由に転がり移動しなくなり(内外輪の相対回転時においては自転しつつ一体化した状態で公転する状態)、外輪にラジアル荷重(径方向内方への荷重)が作用しても、外輪に作用するラジアル荷重を均一に近づけた状態で受け止めることができる。このため、外輪に作用するラジアル荷重を効果的に分散することができる。
他方、各玉列の各玉は、内輪と外輪との相対回転時に、一体化した状態で公転しつつ自転することになり、その自転においては、内輪と外輪との相対回転に基づく基本回転成分(公転方向に対して逆方向の回転成分)に、玉列の公転に基づく回転成分が加わり、隣合う玉列の各玉は、対称的に傾斜した合成軸の下で互いに当接しつつそれぞれ回転することになる。このため、その当接する各玉同士は、その当接部分において、全く同一方向とはならないものの、ほぼ同じ側に向けて移動(回転)することになり、その当接する玉同士の当接部分の移動方向が相反する方向となる場合に比して、摩擦力を低減できる。
したがって、内輪と外輪とが相対回転する際における摩擦力を極力、低減させつつ、外輪に作用するラジアル荷重を効果的に分散することができる複列玉軸受を提供できる。
またこの場合、各玉の転がり移動に基づく玉同士の衝突がなくなることから、衝突に基づく各玉の損傷や衝突音の発生を防止することができる。
【0008】
(2)前記(1)の構成の下で、
前記複数の玉列が、4列以上の偶数列とされ、
前記複数の玉列は、前記内輪と前記外輪との相対回転時において、最外列の玉列の公転駆動力が、該最外列の玉列に隣合う内側玉列の公転駆動力よりも相対的に大きくなるように設定されている構成とされている。
この構成によれば、各玉列の玉において、玉列の公転駆動力差に基づく回転成分を安定的に得るだけでなく、その玉列の公転駆動力差に基づく回転成分と、内輪と外輪との相対回転に基づく基本回転成分とにより形成される合成軸を、迅速に最適合成軸の状態に到達させ、当該複列玉軸受を、初期回転抵抗(摩擦抵抗)を低下させる上で好ましいものにできる。
【0009】
(3)前記(1)の構成の下で、
前記複数の玉列が、3列以上の奇数列とされ、
前記複数の玉列は、一方の最外列における玉列の各玉に対する該一方の最外列における玉列に隣合う内側玉列の各玉の当接抵抗と、他方の最外列における玉列の各玉に対する該他方の最外列における玉列に隣合う内側玉列の各玉の当接抵抗とが、異なるように設定されている構成とされている。
この構成によれば、タイミング的に先ず、一方又は他方の最外列における玉列において、その各玉に、公転駆動力差に基づく回転成分を生じさせることができ、その一方又は他方の最外列における玉列の各玉の自転を、他方又は一方の最外列における玉列に向けて順次、各玉列の玉に伝達することができる。このため、複数の玉列が、3列以上の奇数列であっても、隣合う玉列の各玉を、対称的に傾斜した合成軸の下で当接させつつそれぞれ回転させることができ、その当接する各玉同士を、その当接部分において、全く同一方向とはならないものの、ほぼ同じ側に向けて移動(回転)させることができる(摩擦力の低減)。
【0010】
(4)前記(1)の構成の下で、
前記複数の玉列が、2列とされている構成とされている。
この構成によれば、両玉列における玉が当接し合う状態の下で公転することにより、両玉列における玉に相反する方向の回転成分が生じることになり、複数の玉列が2列であっても、隣合う玉列の各玉を、対称的に傾斜した合成軸の下で当接させつつそれぞれ回転させることができる。このため、その当接する各玉同士を、その当接部分において、全く同一方向とはならないものの、ほぼ同じ側に向けて移動(回転)させることができ、摩擦力の低減を図ることができる。
【0011】
(5)前記(1)の構成の下で、
前記内輪の外周面及び前記外輪の内周面の少なくとも一方に、前記複数の各玉列を嵌合するための軌道溝がそれぞれ形成されている構成とされている。
この構成によれば、内輪の軸線方向両外側部及び外輪の軸線方向両外側部の少なくとも一方に規制部を設けなくても、内輪と外輪との間に複数の各玉列を、内輪及び外輪の軸線方向外方への移動を規制した状態で的確に介在させることができる。
【0012】
(6)前記(1)の構成の下で、
前記内輪及び外輪の少なくともいずれかの軸線方向外側側部に、該内輪及び外輪の軸線方向両側において、前記複数の玉列が該内輪及び外輪の軸線方向外方に移動することを規制する規制部が設けられている構成とされている。
この構成によれば、内輪の外周面及び外輪の内周面の少なくとも一方に、複数の各玉列を嵌合するための軌道溝がそれぞれ形成しなくても、内輪と外輪との間に複数の各玉列を、内、外輪の軸線方向外方への移動を規制した状態で的確に介在させることができる。
【0013】
(7)前記(6)の構成の下で、
前記規制部が、前記内輪の軸線方向両外側部及び前記外輪の軸線方向両外側部の少なくとも一方に設けられている構成とされている。
この構成によれば、内輪の外周面及び外輪の内周面の少なくとも一方に、複数の各玉列を嵌合するための軌道溝がそれぞれ形成しなくても、具体的態様をもって、内輪と外輪との間に複数の各玉列を、内、外輪の軸線方向外方への移動を規制した状態で的確に介在させることができる。
【0014】
(8)前記(7)の構成の下で、
前記複数の玉列が偶数列をもって構成されている構成とされている。
この構成によれば、内輪の軸線方向両外側部及び外輪の軸線方向両外側部の少なくとも一方に、複数の玉列が内輪及び外輪の軸線方向に移動することを規制する規制部が設けられて、複数の玉列が規制部により規制を受けながら一体的に内、外輪の周方向に移動するとしても、内、外輪の軸線方向両外側の各玉の自転に基づく移動方向が、規制部との当接部分において、複数の玉列に対する規制部の相対的な移動方向と全く同じとならないものの、同じ側となり、内、外輪の軸線方向両外側の各玉の自転に基づく移動方向が、規制部との当接部分において、複数の玉列に対する規制部の相対的な移動方向と相反する方向になる場合に比して、内、外輪の軸線方向両外側の各玉と規制部との当接に基づく摩擦力を低減することができる。
【0015】
前記第2の目的を達成するためには、下記(9)の構成が採用されている。
(9)内輪と該内輪の外周側に配置される外輪との間に、該内輪及び外輪の軸線方向において複数の玉列が隣合うようにして介在されている複列玉軸受の製造方法において、
前記外輪として、該外輪の内周面に該外輪の軸線方向において複数の軌道溝が隣合うようにして形成されたものを用意すると共に、該外輪内に進入可能とされる棒状の治具を用意し、
先ず、前記外輪内に該外輪における一方の開口から前記治具を進入させて、該治具の進入先端面をもって、該外輪における一方の開口に最も近い軌道溝に対する案内路を形成する一方、該外輪の他方の開口から該外輪内に前記玉を供給して、該外輪における一方の開口に最も近い軌道溝に複数の玉を装填する玉装填作業を行い、
次に、前記外輪内に該外輪における他方の開口に向けて前記治具を進入させて、該外輪における一方の開口に最も近い軌道溝よりも該外輪における他方の開口側に位置する各軌道溝に対して案内路を順次、形成すると共に、該各案内路を形成する度に該各案内路を利用して該各軌道溝に玉装填作業を行い、該各軌道溝における各玉を、該各軌道溝に対して隣合う軌道溝内において列方向に間隔をあけて隣合う玉に該隣合う玉間に跨るように当接させ、
次いで、前記外輪における他方の開口に最も近い軌道溝に対する玉装填作業を終えた後、前記治具の先端面に前記内輪の軸線方向一端面を当接させ、
その後、前記治具の先端面と前記内輪の軸線方向一端面との当接関係を維持しつつ、該治具及び該内輪を前記外輪の一方の開口側に移動させて、該内輪の外周面を該外輪の内周面に対して対向させた状態とする構成とされている。
この構成によれば、前記(5)おける複列玉軸受のうち、外輪の内周面に軌道溝を有するタイプのものを、具体的に製造できる。
【発明の効果】
【0016】
以上の内容から本発明によれば、内輪と外輪とが相対回転する際における摩擦力を低減させつつ、ラジアル荷重を効果的に分散することができる複列玉軸受を提供できると共に、上記複列玉軸受を製造するための複列玉軸受の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態に係る複列玉軸受を示す縦断面図。
図2】第1実施形態に係る複列玉軸受を示す部分拡大正面図。
図3】第1実施形態に係る内輪(軌道面)上に配置された玉(転動体)の動作を平面的に説明する説明図。
図4】内輪上において、z軸を中心として回転する玉の回転成分を平面的に説明する説明図。
図5】内輪上の玉の挙動を説明するために定義された右手系の座標(x軸:玉の公転方向、y軸:内輪の軸線方向、z軸:内輪内周面から離間する方向)を説明する説明図。
図6】y軸を中心とした回転成分とz軸を中心とした回転成分とにより、玉がどのような合成軸を形成するかを説明する説明図。
図7】第1実施形態に係る各玉列における玉の合成軸をそれぞれ示す説明図。
図8】第1実施形態に係る隣合う玉列において、その両玉列における玉同士の当接部分の摩擦力(動摩擦力)がどのようになるかを説明する説明図。
図9】各玉列の各玉がy軸を中心として回転する場合において、隣合う玉列における玉同士の当接部分の摩擦力(動摩擦力)がどのようになるかを説明する説明図。
図10】合成軸SAが最適合成軸SA0に変化する過程を説明する説明図。
図11】実施形態に係る具体的構造の各寸法、角度等を説明する説明図。
図12図11の一部を拡大した一部拡大説明図。
図13】第1実施形態に係る製造方法を説明する説明図。
図14図13の続きを説明する図。
図15図14の続きを説明する図。
図16図15の続きを説明する図。
図17】第2実施形態(内輪(軌道面)上に3列(奇数列)の玉列を配置した場合)を平面的に説明する説明図。
図18】第3実施形態(内輪(軌道面)上に2列(偶数列)の玉列を配置した場合)を平面的に説明する説明図。
図19】第4実施形態に係る複列玉軸受を示す部分縦断面図。
図20】第5実施形態に係る複列玉軸受を示す部分縦断面図。
図21】第5実施形態の作用(内輪(軌道面)上に配置された玉の動作)を平面的に説明する説明図。
図22】実施例に係る具体的構造の各寸法を示す図。
図23】各種軸受の基本動定格荷重を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
1.図1図2において、符号1は、軸受としての複列玉軸受である。この複列玉軸受1には、支持軸としての回転軸2を支持するための内輪3と、その内輪3の外周側に配置される外輪4と、その内輪3と外輪4との間に介在される複数の玉列5とが備えられている。
【0019】
(1)前記内輪3は、その外周面及び内周面が平坦面に形成されている。この内輪3の外周面及び内周面は、その内輪3の軸線方向において一定の幅が確保されており、その外周面には、軌道面として、複数の玉列5が配置され、その内周面には、その広い面をもって回転軸2が的確に支持される。
【0020】
(2)前記外輪4は、その内周面が内輪3の外周面に対向した状態で配置されている。この外輪4の内周面には、複数の各玉列5を嵌合するための軌道溝6がそれぞれ形成されている。各軌道溝6は、外輪4の幅方向(軸線方向:図1中、左右方向)に隣接しつつ、その外輪4の内周面全周に亘って形成されており、本実施形態においては、外輪4には、その幅方向に4つの軌道溝6が形成されている。各軌道溝6は、その溝形状が円弧状に形成されており、その各軌道溝6内には、複数の各玉列5の玉5aの一部が適合した状態(回転可能状態)で入り込む(嵌合される)ことになっている。
【0021】
(3)前記複数の各玉列5は、図1図3に示すように、前記内輪3と前記外輪4との間において、それらの軸線方向に隣合うようにして配置されている。この各玉列5は、その外輪4側部分の一部が各軌道溝6内に入り込んでおり、その各軌道溝6により、各玉列5の各玉5aは、回転(自転)可能となる一方で、内輪3及び外輪4の軸線方向に移動することが規制されることになっている。この各玉列5は、その各玉列5の玉5aがその玉列5の列方向に所定間隔L毎に配置されていると共に、その各玉列5に対して隣り合う玉列5がその各玉列5の列方向にずれるように配置されている。そして、各玉列5の各玉5aは、その各玉列5に対して隣り合う玉列5における各所定間隔Lの空間LSに臨むと共に、その各所定間隔を形成する2個の玉5aに対して当接されている。
【0022】
(4)このような複列玉軸受1においては、その内輪3の内周面に回転軸2が一体化される一方、その外輪4の外周面が取付け部材(図示略)に取付けられて、内輪3が回転されたときには、図3に示すように、内輪3と外輪4との間の各玉5aは、内輪3に対して相対的に、その内輪3の回転方向(回転軸2の回転方向)R1と同方向に一体的に公転(回転)すると共に、内輪3の回転方向R1とは逆方向に基本的にそれぞれ自転(回転)する(詳細については後述)。これにより、内輪3と外輪4とが相対回転することになり、複列玉軸受1は、軸受としての機能を発揮する。
【0023】
2.このような複列玉軸受1においては、各玉5aが、その周囲の玉5aに当接しつつ自転することになるものの、摩擦力の低減化が図られている。具体的に説明する。
【0024】
(1)図4は、前記図3の状態の下で、各玉列5の玉5aが具体的にどのように作動するかを示すものである。勿論この場合も、4列(偶数列)の玉列5が、内輪3の外周面上(図4においては、図示略)にその幅方向(図4中、左右方向)に順次、配置したものとされ、その各玉列5において、玉5aがその列方向に所定間隔L毎に配置されていると共に、各玉列5の各玉5aが、その各玉列5に対して隣り合う玉列5における各所定間隔Lを形成する2個の玉5aに対して当接されている。
【0025】
(2)このような構造の下で、内輪3と外輪4とが相対回転すると、前述した如く、4列の玉列5が内輪3の回転方向に一体的に公転すると共に、その各玉列5の各玉5aが、公転方向R1と逆方向に基本的にそれぞれ自転する(図3参照)。
このとき、内輪3の幅方向両外側に位置する左右最外列の玉列5(以下、図4中、左最外列の玉列を左外側玉列5Lo、右最外列の玉列を右外側玉列5Roという)の公転駆動力(公転するための駆動力)Foに対して、その両玉列5Lo,5Roの内側に配置される玉列5(以下、左外側玉列5Loに隣合う玉列を左内側玉列5Li,右外側玉列5Roに隣合う玉列を右内側玉列5Riという)の公転駆動力Fiが相対的に小さくなる。これは、各外側玉列5Lo,5Roが、その幅方向内側(片側)においてのみ内側玉列5Li(又は5Ri)に当接されるのに対して、各内側玉列5Li,5Riがその幅方向(図4中、左右方向)両側において他の玉列5に当接されて、各内側玉列5Li,5Riに対する移動抵抗(ブレーキトルク)が各外側玉列5Lo,5Roに対する移動抵抗に比して2倍になるからである。しかもその際、各玉5a同士の弾性変形に基づく公転方向への変位が関与するためでもあると考えられる。
【0026】
(3)上記内側玉列5Li,5Riの公転駆動力Fiと外側玉列5Lo,5Roの公転駆動力Foとの相対差は、各玉列5の玉5aの自転に影響を及ぼす。
上記のように、内輪3と外輪4との相対回転により、内側玉列5Li,5Riの公転駆動力Fiが外側玉列5Lo,5Roの公転駆動力Foに比して相対的に小さくなると、外側玉列5Lo,5Roの各玉5aと内側玉列5Li,5Riの各玉5aとの当接部分(図4中、星印)において、外側玉列5Lo,5Roの各玉5a(図4中、下側部分)が内側玉列5Li,5Riの各玉5a(図4中、上側部分)に公転方向R1に向けて押圧力を付与することになり、その反作用としての反力が、外側玉列5Lo,5Roの各玉5aに公転方向R1と反対方向に作用する(図4中、白抜き矢印参照)。この反力は、その反力の作用点(当接部分)が外側玉列5Lo,5Roにおける各玉5aの極軸(後述のz軸)に対してオフセットされていることと相まって、外側玉列5Lo,5Roにおける各玉5aに対して上記極軸を中心とした回転成分を生じさせる。勿論この場合、外側玉列5Lo(5Ro)の各玉5aに対する内側玉列5Li(5Ri)の玉5aとの当接点においては、内側玉列5Li,5Riの公転駆動力Fiと外側玉列5Lo,5Roの公転駆動力Foとの相対差に基づき、公転方向R1前方側における当接点(図4中、外側玉列5Lo(5Ro)における各玉5aの下側当接点)に対する入力が公転方向R1後方側における当接点(図4中、外側玉列5Lo(5Ro)における各玉5aの上側当接点)に対する入力よりも大きくなる。このため、各玉列5の各玉5aが内輪3と外輪4との間で回転可能に挟持されている状況の下で、外側玉列5Lo,5Roにおける各玉5aの自転は、内輪3と外輪4との相対回転に基づく基本的な回転成分に、外側玉列5Lo(5Ro)の公転駆動力Foと内側玉列5Li(5Ri)の公転駆動力Fiとの相対差に基づく回転成分が加わり、それらの合成回転となる。
【0027】
(4)この外側玉列5Lo,5Roの各玉5aの自転について、図5に示すように、内輪3内周面上における各玉列5の各玉5aの中心を原点として右手系の座標を設定し、玉5aの転送方向(公転方向R1)をx軸、内輪3の軸線方向をy軸、上方向(内輪3内周面から離間する方向)をz軸と定義した上で、より具体的に説明する。
この座標系の下では、外側玉列5Lo,5Roの玉5aの自転に関し、内輪3と外輪4との相対回転に基づく基本的なものがy軸を中心とした回転成分となり、外側玉列5Lo(5Ro)の公転駆動力Foと内側玉列5Li(5Ri)の公転駆動力Fiとの相対差に基づくもの(反力に基づくもの)が、図4に示すように、z軸(符号zをもって示す)を中心とした回転成分となる。このとき、各外側玉列5Lo,5Roにおけるz軸を中心とした各玉5a全ての回転成分は、その各同一列において、同一方向になる一方、左外側玉列5Loにおけるz軸を中心とした各玉5aの回転成分の方向と、右外側玉列5Roにおけるz軸を中心とした各玉5aの回転成分の方向とは逆方向となる(図4において、左外側玉列5Loの各玉5aに関しては、反時計方向に向かう矢印、右外側玉列5Roの各玉5aに関しては、時計方向に向かう矢印を参照)。
この結果、各外側玉列5Lo,5Roにおける各玉5aは、自転に関し、y軸とz軸との合成軸SAを中心とした回転となり、その合成軸SAは、図6に示すように、前記座標系におけるy−z平面において、y軸を中心とした回転数とz軸を中心とした回転数との比に応じた角度をもって傾くことになる。この場合、図6には、合成軸SAとして、y−z平面において、y軸(符号yをもって示す。)を中心として対称に配置されたSA1,SA2が示されているが、これは、y軸を中心とした一方の回転方向を基準として、z軸を中心とした一方及び他方の回転方向のときにおける合成軸を示している。このため、左右各外側玉列5Lo,5Roの各玉5aは、図7に示すように、対称的に傾斜する合成軸SA(SA1,SA2)を中心として、相反する方向に回転(自転)する。
【0028】
(5)また、前述のように、各外側玉列5Lo(5Ro)の各玉5aにz軸を中心として回転成分が生じると、それに伴い、その各外側玉列5Lo(5Ro)の各玉5aの回転成分が、その各外側玉列5Lo(5Ro)の内側において隣合う内側玉列5Li(5Ri)の各玉5aに対して、z軸を中心とした逆方向の回転成分として伝達されることになり(反作用)、この各内側玉列5Li(5Ri)における各玉5aの回転成分(z軸を中心とした回転成分)は、各外側玉列5Lo(5Ro)の各玉5aの場合と同様、y軸を中心とした回転成分(基本回転成分)と合成され、各内側玉列5Li(5Ri)の各玉5aの合成軸SAは、図7に示すように、その各内側玉列5Li(5Ri)に隣合う各外側玉列5Lo(5Ro)における各玉5aの合成軸SAに対して対称的な傾斜状態となる。これにより、各内側玉列5Li(5Ri)の全ての玉5aは、その傾斜した合成軸SA(SA1又はSA2)を中心として、その各内側玉列5Li(5Ri)に隣合う外側玉列5Lo(5Ro)の各玉5aの回転方向とは逆方向に回転(自転)することになり、両列5Lo,5Li(5Ro,5Ri)の両玉5aは、図8に示すように、その当接部分(図8における中央部分参照)において、全く同じ方向に向けて移動(回転)しないものの、同じ側(図8中、右側)を向く方向に移動(回転)する(図8における中央部分の交差状態の破線矢印参照)。
これに対して、各外側玉列5Lo(5Ro)の各玉5aがz軸を中心として回転せず、y軸を中心として回転するだけと仮定した場合には、各外側玉列5Lo(5Ro)の各玉5aにおいて、傾斜した合成軸SAは形成されず、各外側玉列5Lo(5Ro)の各玉5a及び各内側玉列5Li(5Ri)の各玉5aは、y軸を中心として回転する。このため、各外側玉列5Lo(5Ro)の各玉5aと各内側玉列5Li(5Ri)の各玉5aとは、図9に示すように、その当接部分(図9における中央部分参照)において相反する方向に移動(回転)する(図9における中央部分の平行状態の破線矢印参照)。
勿論、この現象と同様の現象は、複列玉軸受における各玉列の玉が当接しつつ連続して配置されるものにおいても生じる。
この結果、各外側玉列5Lo(5Ro)の各玉5aがz軸を中心として回転せずy軸を中心として回転するだけの場合に比して、各外側玉列5Lo(5Ro)の各玉5aがz軸を中心として回転する場合には、摩擦力が低減される。
【0029】
(6)上記左内側玉列5Liの各玉5a及び上記右内側玉列5Riの各玉5aについても、図4に示すように、外側玉列5Lo(5Ro)と内側玉列5Li(5Ri)の場合同様、当接しており、その各玉5aは、互いに、z軸を中心とした逆方向の回転成分を伝達し合い、左内側玉列5Liの各玉5aと右内側玉列5Riの各玉5aとにおいては、その各z軸を中心とした回転成分とy軸を中心とした回転成分とにより、合成軸SAがそれぞれ形成され、その各合成軸SAを中心として、その左内側玉列5Liの各玉5a及び右内側玉列5Riの各玉5aはそれぞれ回転する。
この場合、左内側玉列5Liの各玉5a及び右内側玉列5Riの各玉5aの各合成軸SAは、対称的に傾斜状態となっており(図7参照)、その両玉列5Li,5Riにおける各玉5aは、その当接部分において、全く同じ方向に移動(回転)しないものの、同じ側を向く方向に移動(回転)し、図8に示す場合と等価的なものとなる。このため、左内側玉列5Liの各玉5aと右内側玉列5Riの各玉5aとは、互いの自転を極力抑制しない状態を維持しつつ当接することになり、左外側玉列5Loと右外側玉列5Roとの間においては、各玉列5における各玉5aの円滑な自転を促す伝達経路が形成される。
【0030】
(7)前記各玉列5における各玉5aの合成軸SAは、最終的には、図10に示すように、最適合成軸(玉5aとその玉5aに隣合う玉列5の玉5aとの当接点、及びその玉5aと内輪3内周面との当接点を同時に通る回転軌跡を形成する合成軸)SA0となる。
前述した如く、各玉5aに、z軸を中心とした回転成分が作用すると、y軸を中心とした回転成分と協働して合成軸SAが形成され、その各玉5aは、その合成軸SAを中心として回転する(図7参照)。当初、この合成軸SAは、図10に示すように、y軸に対する傾斜角度が、y軸に対する最適合成軸SA0の傾斜角度αに比して小さなものとなり、その合成軸SAを中心として玉5aが回転するときにおいては、隣合う玉列5の玉5aに対するその玉5aの当接点BPを通る回転半径BRが、内輪3内周面に対するその玉5aの当接点FPを通る回転半径FRよりも小さくなる。このため、滑りが生じることになり、玉5a同士の当接点BPでの摩擦抵抗によりy軸を中心とした回転成分が制限され、z軸を中心とした回転成分が相対的に大きくなる。この結果、y軸に対する合成軸SAの傾斜角度は、次第に大きくなり(最適合成軸SA0に近づくことになり)、合成軸SAは、玉5aとその玉5aに隣合う玉列5の玉5aとの当接点BP、及びその玉5aと内輪3内周面との当接点FPを同時に通る回転軌跡(回転半径BFR)を形成する最適合成軸SA0となる。この最適合成軸SA0に基づく玉5aの回転は、隣合う玉列5の玉5aに対する当接点BPでの滑りが最も少なくなり(最も摩擦抵抗が少なくなり)、玉5aは最も効率的で安定した回転となる。
【0031】
(8)最適合成軸SA0について、より具体的に説明する。
y軸に対して最適合成軸SA0がなす角度αは、図10から明らかなように、玉5aとその玉5aに隣合う玉列5の玉5aとの当接点BP、及びその玉5aと内輪3内周面との当接点FPを同時に通る直線(y−z平面への投影直線)がz軸に対してなす角度に等しい。
このため、図11図12に示すように、隣合う玉列5において、互いに当接する玉5a同士の中心間距離をs、接触角をθとすれば、そのs、接触角θを使って、各玉5aにおける当接点BPのy−z平面上の投影半径を、s/2・cosθと示すことができ、またこのとき、sが玉5aの直径dに等しいことから、上記当接点BPと当接点FPとが同時に通る投影直線(図10参照)がz軸に対してなす角度αは、図10に示す関係から、
tanα=tan[(s/2・cosθ)/(d/2)]=tan(cosθ)
として示すことができる。したがって、y軸に対して最適合成軸SA0がなす角度αは、α(rad)=cosθとなる。
但し、30°<θ<90°とされる。複数の玉列5を構成する下で、同一玉列5の玉(転動体)5a同士を非接触とするためである。
このため、より具体的には、30°<θとなることから、
α=cosθ<(31/2/2)×(180/π)=49.6°
となり、y軸に対して最適合成軸SA0がなす角度αは、最大で49.6°を超えることにはならない。
したがって、同一の玉列5において、各玉5aがその列方向に当接しつつ連続する場合の摩擦抵抗Fと比較すると、本実施形態の場合には、隣合う玉列5における玉5a同士の当接点での移動方向が交差角を持つことから、その摩擦力は、Fcos(α)=COS49.6°>0.648×Fにまで減少する。
尚、図11図12において、rは、内輪3上の玉(転動体)5aの中心と内輪3の軸線(複列玉軸受1の軸線)との間の距離、ψは、前記rを半径として、同一玉列5における隣合う玉5aの中心点間がなす中心角を示す。
【0032】
(9)このように、この第1実施形態においては、各玉列5の各玉5aが、自転状態の下で、その各玉列5に対して隣り合う玉列5において列方向に隣合う2つの玉5aに対して当接されることになるものの、その当接する各玉5a同士は、その両当接部分において、ほぼ同じ側に向けて移動(回転)することになり、その当接する玉5a同士の当接部分の移動方向が相反する方向となる場合に比して、摩擦力を大幅に低減できる(図8図9参照)。
【0033】
本実施形態(4玉列配置)の場合には、基本的に、外側玉列5Lo(5Ro)の公転駆動力Foが内側玉列5Li(5Ri)の公転駆動力Fiに比して相対的に大きくなり、各玉列5の玉5aにおいて、z軸を中心とした回転成分を得ることができるが、上記外側玉列5Lo(5Ro)と内側玉列5Li(5Ri)との回転当初の公転駆動力差(Fo−Fi)については、より大きくすることが好ましい。各玉列5の玉5aにおいて、z軸を中心とした回転成分を安定的に得るだけでなく、合成軸SAを最適合成軸SA0の状態に迅速に到達させ、当該複列玉軸受を、初期回転抵抗を低下させる上で好ましいものにできるからである。このため、具体的には、外側玉列5Lo(5Ro)の各玉5aと内側玉列5Li(5Ri)の各玉5aとの弾性率差を高めること(例えば、材質が鋼であるものに対して、弾性率が1.5倍であるセラミック等を用いること)、内側玉列5Li(5Ri)の各玉5aの径を外側玉列5Lo(5Ro)の各玉5aの径よりも相対的に数μ程度小さくすること(径差をもたせること)等を行うことが好ましい。
【0034】
3.また、この複列玉軸受1においては、外輪4にラジアル荷重(径方向内方への荷重)が作用しても、外輪4に作用するラジアル荷重を均一に近づけた状態で受け止めることができ、外輪4に作用するラジアル荷重を効果的に分散することができる。各玉列5の各玉5aが、その各玉列5に対して隣り合う玉列5において列方向に隣合う玉5aに対して当接され、各玉5aは個別に自由に転がり移動をしなくなるからである(内外輪3,4の相対回転時においては自転しつつ一体化した状態で公転する状態)。これにより、複列配置による基本動定格荷重の増加や長寿命化のメリットを十分に反映することができる。
しかもこの場合、各玉5aの転がり移動に基づく玉5a同士の衝突がなくなることから、衝突に基づく各玉5aの損傷や衝突音の発生を防止することができる。
【0035】
4.次に、上記複列玉軸受1の製造方法について、図13図16に基づき説明する。
(1)先ず、本製造方法に用いる特有な部材として、外輪4と棒状の治具10を用意する。
外輪4としては、前述した如く、その内周面にその軸線方向において複数の軌道溝6を隣合うようにして形成されたものが用いられ(図13参照)、棒状の治具10としては、外輪4内に進入可能とされると共に、その先端部に、その治具10の軸線方向内方側から先端面に向かうに従って縮径された案内面11を有するものが用いられる(図13参照)。
【0036】
(2)次に、図13に示すように、外輪4内にその一方の開口12から治具10を進入させて、治具10の案内面11(進入先端面)をもって、その一方の開口12に最も近い軌道溝6aに対する案内路を形成し、その上で、外輪4の他方の開口13から外輪4内に玉5aを供給して、軌道溝6aに複数の玉5aを装填する玉装填作業を行う。玉装填作業を行うとしても、治具10と外輪4の内周面との間から玉5aを抜け落とすことなく、軌道溝6に玉5aを導くためである。このとき、軌道溝6a内には、その軌道溝6a内において隣合う玉5a間に所定間隔Sがあくように玉5aが装填される。
【0037】
(3)軌道溝6a内に対する玉5aの装填作業を終えると、外輪4内にその他方の開口13に向けて治具10を進入させて、前記軌道溝6aよりも他方の開口13側に位置する各軌道溝6b,6c,6dに対して案内路を順次、形成すると共に、その各案内路を形成する度にその各案内路を利用して各軌道溝6内に対して玉装填作業を行う(図13図14参照)。しかもこの際、各軌道溝6b,6c,6dにおける各玉5aを、その各軌道溝6b,6c,6dに対して隣合う軌道溝6内において列方向に間隔をあけて隣合う玉5aに跨るように当接させる。
【0038】
(4)外輪4における他方の開口13に最も近い軌道溝6dに対する玉装填作業を終えると、図15に示すように、治具10の先端面に内輪3の軸線方向一端面を当接させる。外輪4に対する内輪セット位置に内輪3を位置させるセット作業を行うに当たり、治具10の案内面11を利用して、内輪3が径方向に変位動することを規制するためである。
【0039】
(5)治具10の先端面に内輪3の軸線方向一端面を当接させると、図15図16に示すように、治具10の案内面11と内輪3の軸線方向一端面との当接関係を維持しつつ、治具10及び内輪3を外輪4の一方の開口12側に移動させて、内輪3の外周面を外輪4の内周面に対して対向させた状態とする。各軌道溝6内に装填された各玉5aが抜け落ちることを、治具10外周面と内輪3の外周面とで規制しつつ、内輪3を、その外周面が外輪4の内周面に対向した位置にまで案内するためである。
【0040】
(6)これにより、内輪3と外輪4との間に複数の玉列5が介在された構成が得られることになり、上記複列玉軸受1が製造されたことになる。勿論この場合、内輪3と外輪4とが、その軸線方向に相対移動することを規制する留め具が取付けられる。
【0041】
5.図17は第2実施形態を示す。この第2実施形態は、前記第1実施形態(複列玉軸受1)の変形例として、内輪3の外周面上(図17においては、図示略)にその幅方向(図17中、左右方向)において3列(奇数列)の玉列5を配置したものを示している。この第2実施形態において、第1実施形態と同一構成要素について同一符号を付してその説明を省略する。
【0042】
(1)上記構造(玉列5が3列配置)においては、左右外側玉列5Lo,5Roの各玉5aは、4列(偶数列)の玉列5の場合同様、内輪3と外輪4との相対回転に伴い、各外側玉列5Lo,5Roにおける各玉5a全てのz軸を中心とした回転成分の方向が、その各同一列において、同一方向になる一方、左外側玉列5Loにおける各玉5aのz軸を中心とした回転成分の方向と、右外側玉列5Roにおける各玉5aのz軸を中心とした回転成分の方向とが異なろうとする(具体的には、図17中の左側部分において、左外側玉列5Loにおける各玉5aの回転成分に関しては、反時計方向に向かう矢印、右外側玉列5Roにおける各玉5aの回転成分に関しては、時計方向に向かう矢印を参照)。他方で、中央列(内側玉列)5Mの各玉5aには、z軸を中心とした回転成分に関し、左右外側玉列5Lo、5Roの各玉5aから相反する方向の等しい回転力が伝達され、中央列である内側玉列の各玉5aは、z軸を中心として回転できない状態になろうとする(図17中の左側部分参照)。
しかし、本発明者は、通常程度の各種のばらつきが存在すれば、不安定性はあるものの、外側玉列5Loの各玉5aに対する中央列5Mの各玉5aの当接抵抗と、外側玉列5Roの各玉5aに対する中央列5Mの各玉5aの当接抵抗とのバランスが、若干崩れて、外側玉列5Lo(又は5Ro)の一方の側に、他方の側よりも大きな駆動力(反力)を生じさせることができると考えている。このため、その一方の側の外側玉列5Lo(又は5Ro)に、他方の側よりも大きな駆動力(反力)を生じた場合には、その一方の側の外側玉列5Lo(又は5Ro)において、その各玉5aに、タイミング的に先ず、z軸を中心とした回転成分が生じることになり(図17中、右側部分における反時計方向の回転矢印参照)、その回転成分とy軸を中心とした回転成分とにより、その一方の側の外側玉列5Lo(又は5Ro)の各玉5aにおいて、合成軸SAが形成され、その合成軸を中心として、その各玉5aは回転する。
また、上記一方の側の外側玉列5Lo(又は5Ro)において、その各玉5aに、z軸を中心とした回転成分が生じることに伴い、その回転成分が、中央列5Mにおける各玉5a、他方の側の外側玉列5Ro(又は5Lo)の各玉5aに順次、伝達され(図17中、右側部分における時計方向、反時計方向の各回転矢印参照)、その各回転成分とy軸を中心とした回転成分とにより、中央列5Mにおける各玉5a、他方の側の外側玉列5Ro(又は5Lo)の各玉5aにおいて、傾斜した合成軸SAが互い違いに(対称に)形成され、その各合成軸SAを中心として、その中央列5Mにおける各玉5a、他方の側の外側玉列5Ro(又は5Lo)の各玉5aは、回転する。
【0043】
(2)しかしながら、上記のように、通常程度の各種のばらつきに上記各玉列5の各玉5aの作動を委ねたのでは、安定性、信頼性に欠ける。
そこで、本実施形態においては、外側玉列5Loにおける各玉5aに対する中央列5Mにおける各玉5aの当接抵抗と、外側玉列5Roにおける各玉5aに対する中央列5Mの各玉5aの当接抵抗とのバランスを的確に崩して、タイミング的に先ず、一方の側の外側玉列5Lo(又は5Ro)において、その各玉5aに、z軸を中心とした回転成分を必ず生じさせることとしている。具体的には、外側玉列5Loにおける各玉5aに対する中央列5Mにおける各玉5aの当接抵抗と、外側玉列5Roにおける各玉5aに対する中央列5Mの各玉5aの当接抵抗とを確実に若干、崩すべく、外側玉列5Lo、5Roの玉5aの材質を異ならせること、外側玉列5Lo、5Roの玉5aの径を数μm程度異ならせて抵抗を変えること、内輪3の内周面にわずかな段を設けて抵抗を変えること等が行われる。
勿論この場合も、各玉列5Lo,5M,5Roにおける各玉5aの合成軸SAは、時間の経過に伴い、最適合成軸SA0に移行する。
【0044】
(3)このため、3列(奇数列)の玉列5を配置した複列玉軸受1においては、摩擦力低減に関し、4列(偶数列)の玉列5を配置した複列玉軸受1と同様、玉5a同士の当接部分の移動方向が相反する方向となる場合(図9参照)に比して、摩擦力を低減することができる。
尚、図17においては、z軸を中心とした回転成分のみが示され、y軸を中心とした回転成分については省略されている。
【0045】
6.図18は第3実施形態を示す。この第3実施形態は、前記第1、第2実施形態(複列玉軸受1)の変形例として、内輪3の外周面上(図18においては、図示略)にその幅方向(図18中、左右方向)において2列(偶数列)の玉列5を配置したものを示している。この第3実施形態において、第1、第2実施形態と同一構成要素について同一符号を付してその説明を省略する。
【0046】
(1)玉列5が2列配置の場合、左右外側玉列5Lo,5Roにおける玉5aが当接し合い、その間に内側玉列が存在しない状態となり、内、外輪3,4の相対回転に伴い、両各外側玉列5Lo,5Roには、同一の公転駆動力Foがそれぞれ作用する。このとき、各外側玉列5Lo,5Roにおける各玉5aが、その各玉5aに当接する玉5aに対して、上記公転駆動力Foに基づく押圧力を公転方向R1前方側における当接点(図18中、外側玉列5Lo(5Ro)における各玉5aの下側当接点)から入力することになり、その反作用としての反力が、その押圧力を付与する玉5aに作用する。この反力は、その反力の作用点(当接部分)が各玉5aのz軸に対してオフセットされていることと相まって、図18に示すように、各外側玉列5Lo,5Roの各玉5aに対してz軸を中心とした回転成分(z軸廻りのモーメント)をそれぞれ生じさせる。このため、各外側玉列5Lo,5Roにおける各玉5aにおいては、上記z軸を中心とした回転成分とy軸を中心とした回転成分とにより、対称的な傾斜した合成軸SAがそれぞれ形成され、その各合成軸SAを中心として、その各外側玉列5Lo,5Roにおける各玉5aはそれぞれ回転される。
勿論この場合も、各玉列5Lo,5Roにおける各玉5aの合成軸SAは、時間の経過に伴い、最適合成軸SA0に移行する。
【0047】
(2)したがって、2列(偶数列)の玉列5を配置した複列玉軸受1においても、摩擦力低減に関し、4列(偶数列)の玉列5を配置した複列玉軸受1と同様、玉5a同士の当接部分の移動方向が相反する方向となる場合(図9参照)に比して、摩擦力を低減することができる。
尚、図18においても、z軸を中心とした回転成分のみが示され、y軸を中心とした回転成分については省略されている。
【0048】
7.図19は第4実施形態を示す。この第4実施形態は、前記第1実施形態の変形例を示しており、この第4実施形態において、第1実施形態と同一構成要素については同一符号を付してその説明を省略する。
【0049】
第4実施形態においては、外輪4の軸線方向両外側部に、その各全周に亘って、ガイド部(規制部)21が設けられ、そのガイド部21により、複数の玉列5が内輪3及び外輪4の軸線方向外方に移動することが規制されている。
具体的には、外輪4の内周面に、その幅方向両側(軸線方向両側)において取付け溝22が全周に亘って形成されている一方、ガイド部21として、いわゆるCリング等の拡縮可能なリングが用いられ、そのガイド部21が、その拡縮可能な性質を利用して取付け溝22に嵌め込まれている。これに伴い、内輪3の外周面及び外輪4の内周面は、平坦な軌道面として形成され、複数の各玉列5を嵌合するための軌道溝6は、内輪3及び外輪4のいずれにも形成されていない。
【0050】
この複列玉軸受1を製造するに当たっては、外輪4の軸線方向一方側の側部に予めガイド部21を取付けておき、外輪4の軸線方向他方側から、内輪3と外輪4との間に玉5aを装填し、その装填を終えると、外輪4の軸線方向他方側の側部にガイド部21を取付けることが行われる。
これにより、内輪3及び外輪4に軌道溝6を形成しなくても、内輪3と外輪4との間に複数の各玉列5を、内輪3及び外輪4の軸線方向外方への移動を規制した状態で的確に介在させることができることになる。
【0051】
8.図20図21は第5実施形態を示す。この第5実施形態は、前記第4実施形態の変形例を示しており、この第5実施形態において、前記第1、第4実施形態と同一構成要素については同一符号を付してその説明を省略する。
【0052】
この第5実施形態においては、内輪3の外周面に、その幅方向両側(軸線方向両側)において取付け溝22が全周に亘って形成されている一方、ガイド部21として、いわゆるCリング等の拡縮可能なリングが用いられ、そのガイド部21が、その拡縮可能な性質を利用して取付け溝22に嵌め込まれている。これに伴い、この第実施形態においても、内輪3及び外輪4に軌道溝6を形成しなくても、内輪3と外輪4との間に複数の各玉列5を、内輪3及び外輪4の軸線方向外方への移動を規制した状態で的確に介在させることができることになる。
【0053】
また、この複列玉軸受1においては、左右各外側玉列5Lo,5Roにおける各玉5aがガイド部21に回転(z軸の回転成分を保有した状態)しつつそれぞれ当接することになるが、その左右各外側玉列5Lo,5Roにおける各玉5aは、内輪3のガイド部21との当接部分において、内輪3の移動方向と全く同じ方向とはならないものの、同じ側を向くことになり(図20においては、z軸を中心とした回転成分の回転方向を参照)、その向きは、内輪3の移動方向とは全く逆側とはならない。このため、内輪3にガイド部21を設ける場合であっても、そのガイド部21と左右各外側玉列5Lo,5Roにおける各玉5aとの当接部分における摩擦力を低減することができる。
【実施例】
【0054】
9.図22には、具体的構造として、複列玉軸受1における各要素の寸法等が示されている。図22中における接触角θ、玉5a間隔2l、2列幅B2、4列幅B4については、図12に示す通りであり、また、複列玉軸受1における中心から玉5aの最外端までの距離Lb、内輪3の外径Daxは、図2に示す通りである。
【0055】
10.図23は、各種軸受の基本動定格荷重を示す。
図23によれば、基本動定格荷重に関し、実施例に係る複列玉軸受1は、ニードルベアリングの値程度までには達することができないものの、単列深溝ボールベアリングから導いた2列深溝ボールベアリングの値をかなり超えた値を示した。実施例に係る複列玉軸受1においては、複数の玉列5の複数の玉5aによりラジアル荷重が受け止められると共に、その各玉5aの自由な転がり移動が規制されることに基づき、ラジアル荷重を効果的に分散できるためと考えられる。
【0056】
11.以上実施形態について説明したが、本発明にあっては、次の態様を包含する。
(1)ガイド部21を設ける態様として、ガイド部21を、外輪4の軸線方向一方側の外側部と内輪3の軸線方向他方側の外側部とに互い違いに設ける態様を取ること。
(2)複列玉軸受1の玉列数は、適宜選択することができること。
(3)当該複列玉軸受1の使用に当たり、内輪3に支持軸を取付け、外輪4側を回転駆動すること。
【符号の説明】
【0057】
1 複列玉軸受
3 内輪
4 外輪
5 玉列
5a 玉
5Lo 左外側玉列
5Ro 右外側玉列
5Li 左内側玉列
5Ri 右内側玉列
5M 中央列
6 軌道溝
10 治具
12 外輪の一方の開口
13 外輪の他方の開口
21 ガイド部(規制部)
22 取付け溝
L 所定間隔
LS 所定間隔の空間
Fo,Fi 公転駆動力
図1
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