【文献】
VAN EPS A.W. et al.,Clin Tech Equine Pract,2004年,Vol.3,p.64-70
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
それを必要とする被験体の1つ以上の末梢神経を可逆的に阻害するために使用される薬剤の製造における生体適合性氷スラリーの使用であって、可逆的阻害は、被験体の末梢神経を阻害するのに十分な期間にわたって1つ以上の末梢神経の中またはその周囲に前記生体適合性氷スラリーを注入することを含み、注入された生体適合性氷スラリーが前記1つ以上の末梢神経を冷却し、かつ前記阻害が可逆的である、使用。
【発明を実施するための形態】
【0035】
定義
特に定義されていない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、
本発明が属する技術分野の当業者が一般的に理解しているのと同じ意味を有する。矛盾す
る場合には、定義を含め、本出願が優先する。
【0036】
明確に述べられていない限り、または本文から明らかではない限り、本明細書で使用さ
れる場合、「約」という用語は、当該技術分野での一般交差の範囲内、例えば、平均の2
標準偏差以内であると理解される。「約」は、述べられている値の10%、9%、8%、
7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%または0
.01%の範囲内であると理解される。内容から他の意味であることが明らかではない限
り、本明細書で与えられる全ての数値は、約という用語で修正される。
【0037】
本明細書で使用される場合、「生体適合性」という用語は、害を生じることなく、生き
た組織または有機体と一緒に存在する能力を有する物質または溶液を指す。
【0038】
本明細書で使用される場合、「氷」という用語は、固体状態の水を指す(すなわち、氷
った水)。
【0039】
本明細書で使用される場合、「水」という用語は、H
2Oと、D
2O、T
2Oなどを含む
H
2Oの全ての同位体、およびこれらの混合物を指す。
【0040】
本明細書で使用される場合、「水溶液/水性スラリー」という用語は、H
2Oと、D
2O
、T
2Oなどを含むH
2Oの全ての同位体、およびこれらの混合物を含む溶液/スラリーを
指す。このような溶液は、固体状態、半固体状態および/または液体状態で水を含んでい
てもよい。
【0041】
本明細書で使用される場合、「平衡」または「平衡温度」という用語は、スラリーと組
織との最初の接触時のスラリーの温度と組織の温度との間の温度を指す。
【0042】
本明細書で使用される場合、末梢神経の「可逆的に阻害」とは、時間が経過すると回復
する神経の機能消失を指す。機能の消失としては、例えば、神経の熱感覚または機械的な
感覚の減少が挙げられるだろう。
【0043】
本明細書で与えられる範囲は、その範囲に含まれる全ての値の簡易表記であると理解さ
れる。例えば、1〜50の範囲は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、
12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、2
5、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38
、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49または50から
なる群からの任意の数、数の組み合わせまたは部分範囲(および内容から他の意味である
ことが明確に示されていない限り、その一部)を含むと理解される。
【0044】
「スラリー」は、生体適合性の液相溶液に懸濁した固相粒子(例えば、氷粒子)を指す
。スラリーは、気相の泡も含んでいてもよい。
【0045】
「被験体」は、脊椎動物であり、哺乳動物群の任意のメンバーを含み、ヒト、家畜、農
場動物、動物園の動物、スポーツ用動物または愛玩動物、例えば、ウマ、ネコ、イヌ、マ
ウス、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシおよびもっと高級な霊長類を含む。
【0046】
本明細書で使用される場合、「治療する(treat)」、「治療する(treati
ng)」、「治療(treatment)」などの用語は、ある障害および/またはその
障害に関連する症状を減らすか、または軽減することを指す。除外されないが、ある障害
または状態を治療することは、その障害、障害に関連する状態または症状が完全になくな
る必要はないことが理解されるだろう。
【0047】
本開示において、「含む(comprise)」、「含む(comprising)」
、「含有する(containing)」、「有する(having)」などは、米国特
許法において割り当てられた意味を有していてもよく、「含む(include)」、「
含む(including)」などを意味していてもよく、「〜から本質的になる」また
は「本質的に〜を構成する」は、同様に、米国特許法において割り当てられた意味を有し
、この用語は、包括的であり、引用されているものの基本的な特徴または新規な特徴が、
引用されているもの以上の存在によって変えられない限り、引用されているもの以上の存
在を許容し、ただし、従来技術の実施形態は除外される。
【0048】
他の定義は、本開示全体の本文中に存在する。
【0049】
本発明の組成物および方法
一態様において、本発明は、冷スラリー(例えば、氷スラリー)を含む組成物を間質組
織に、すなわち、体内の天然の経路、例えば、動脈、静脈または消化管を介するのではな
く、組織に直接導入することを含む。所定体積の軟組織に所定体積の氷スラリーが直接導
入されると、組織とスラリーとの間で迅速な熱交換が起こる。迅速に局所的に注射される
と、標的とする体積の局所組織と混合するスラリーの液だまりが作られる。これとは対称
的に、スラリーがよりゆっくりと、大きな体積に注入されると、スラリーが浸透し、組織
内の空間を通って流れ、腫脹性の麻酔薬の投与と同様のプロセスで、スラリーが満たされ
た広範囲にわたる経路が作られる。注入によって、組織、特に、導入部位に近い組織を介
する継続的なスラリーの流れが可能になる。スラリーの連続的な流れまたは長期的な流れ
によって、組織をスラリー自体と全く同じ温度に冷却することができる。
【0050】
一般的に、スラリーを組織に直接的に注射するとき、スラリーと局所組織との迅速な平
衡化、その後、体温へのゆっくりとした加温の2つの熱交換期が存在する。迅速な平衡化
の間、スラリーおよび組織の初期温度の間の平衡温度に達するまで、スラリーが加温され
、局所組織が冷却される。熱交換によるこの迅速な組織冷却の間、3つの事象が起こる。
1)スラリーと組織の熱容量によって蓄えられる熱が交換する。2)組織の脂質の結晶化
によって放出される熱が交換する。3)スラリーの氷の溶融によって吸収される熱が交換
される。組織とスラリーのパラメータに従って、スラリー中の氷の一部または全てが溶融
し、組織中の脂質の一部または全てが結晶化する。神経の髄鞘内の脂質の結晶化、または
非有髄神経の直接的な冷却によって、標的化された疼痛緩和が起こる。
【0051】
スラリーを用いた迅速な熱交換の後、身体との熱交換によって徐々に加温される。周囲
の暖かい組織からの熱拡散の組み合わせと、血流からの対流加熱によって、徐々に加温が
起こる。血流は、圧力によって、または薬物によって、局所組織において減少させること
ができ、例えば、血流は、冷組織に圧力を加えることによって、またはエピネフリンまた
は他の血管収縮薬をスラリーに加えることによって、止めることができるか、または大幅
に減らすことができる。所望のレベルの疼痛緩和は、温度、冷却速度、冷却持続時間およ
び冷却サイクル数に依存して変わるだろう。
【0052】
治療の有効性は、脂質の結晶化の量、表皮神経繊維の量および数、真皮の有髄神経繊維
の減少、達成される最低温度、冷温の持続時間、冷サイクルの数に関係がある(スラリー
注射は、1回の治療セッションで容易に繰り返すことができる)。これら全てのパラメー
タは、種々の氷含有量の一部を含むスラリーの導入量および導入速度を変えることによっ
て、局所的な組織の体積で制御することができる。
【0053】
I.製剤
液体を含むスラリー要素、冷却した粒子の含有量(例えば、氷含有量)、塗布パラメー
タ(注入の位置、速度、体積を含む)の選択によって、予測可能な標的組織の冷却が達成
されるだろう。スラリーの氷要素の溶融中に、スラリーの温度は、融点または融点付近で
あり、組織への注入の間または注入の後にスラリーを冷たいままに保つ。その液体成分の
組成および質量オスモル濃度に依存して、この溶融温度は、組織に対して望ましい効果を
与えるように選択することができ、約−30〜約10℃、特に、約−30℃〜約4℃、さ
らに、特に、約−30℃〜約2℃であってもよい。
【0054】
制御された氷点低下を引き起こす種々の溶媒および溶質およびイオンを含む液相成分の
選択によって、スラリーを含む溶液の温度を調整することができる(例えば、NaClお
よび他の生体適合性塩、他の電解質、例えば、カリウムまたは塩素、グリセロール、糖、
多糖、脂質、界面活性剤、代謝拮抗物質および洗剤の水溶液を含む)。
【0055】
スラリーを含む溶液は、乳酸Ringer溶液または生理食塩水溶液またはヘタスター
チ溶液を含んでいてもよく、またはこれらから本質的になっていてもよい。デキストロー
ス、マンニトール、グルコース、ソルビトール、マンニトール、ヘタスターチ、ショ糖、
グリセロールまたはエタノールまたはポリビニルアルコールを用い、スラリー製剤を製造
することができる。約−40℃までの氷点低下は、生理食塩水、グリセロール、グルコー
ス、ソルビトール、またはこれらの混合物を用いて達成されてもよい。具体的な実施形態
において、約0.1%〜約5%のエタノールまたは約0.1%〜約20%のグリセロール
(例えば、特に、約5%〜約10%のグリセロール)を用いてスラリー製剤を製造しても
よい。
【0056】
具体的な実施形態において、スラリーを含む溶液は、約0.1%〜約20%のグルコー
スまたはグリセロールを含むか、または含まない乳酸Ringer溶液;約0.1%〜約
20%のデキストロースまたはグリセロールを含むか、または含まない生理食塩水;また
は6%ヘタスターチ中の乳酸Ringer溶液を含む。別の具体的な実施形態において、
スラリーを含む溶液は、乳酸電解質溶液中に約0.1%〜約6%のヘタスターチを含んで
いてもよい。
【0057】
グリセロールは、低温保護および/または界面活性剤としての使用に望ましい。グリセ
ロール−水溶液の氷点低下は、以下の表1に記載されるように達成することができる。
【表1】
【0058】
制御された氷点低下を得るためにスラリーに含まれ得るイオンとしては、限定されない
が、カルシウム、カリウム、水素、塩素、マグネシウム、ナトリウム、ラクテート、ホス
フェート、亜鉛、硫黄、硝酸イオン、アンモニウム、炭酸イオン、水酸化物イオン、鉄、
バリウム、またはこれらの組み合わせが挙げられ、これらから作られる塩を含む。
【0059】
局所的な血流は、重要な因子であり、例えば、長期間にわたる治療時間が望ましい場合
、局所的な血流を制限するか、またはなくす薬剤を使用してもよい。スラリーを含む溶液
は、局所的な組織の血流を減らす血管収縮薬を含んでいてもよい。適切な血管収縮薬とし
ては、限定されないが、エピネフリン(例えば、1/10,000以下)およびノルエピ
ネフリンが挙げられる。止血帯、加圧/圧縮、治療する領域の吸引の利用によって、血流
を減らすこともできる。血管収縮は、処理する組織に、Peltier冷却の形態で局所
的な冷却を適用して、または皮膚表面に氷または冷たいパックを適用して、あらかじめ冷
却することによっても達成することができる。
【0060】
生理学的に適合性の界面活性剤分子の添加によって、流動および組織の効果を高めるこ
とができる。界面活性剤は、気泡剤としても作用し得る。適切な界面活性剤分子としては
、限定されないが、テトラデシル硫酸ナトリウム、ポリソルベート、ポリソルベート20
(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)、ポリオキシエチレンソルビ
タンモノオレエート、ソルビタンモノオレエートポリオキシエチレンソルビタンモノラウ
レート、レシチン、およびポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンコポリマー、ポリ
ソルベート、ポリソルベート20(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレー
ト)、ポリソルベート40(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテート)
、ポリソルベート60(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート)、ポ
リソルベート80(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート)、ソルビタ
ンエステル、ポロキサマー、またはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0061】
リゾレシチン、デオキシコレートまたは他の界面活性剤または洗剤のような薬剤をスラ
リーに添加すると、非有髄神経を標的とすることができるだろう。例えば、リゾレシチン
は、非有髄アキソンの可逆的な変性を起こすことが知られている(Mitchell J
.Degeneration of Nonmyelinated Axons in
the Rat Sciatic Nerve Following Lysoleci
thin Injection.Acta Neuropathol(Berl)(19
82)56:187−193)。この組み合わせによって、スラリー注射によって有髄神
経繊維および非有髄神経繊維を標的とすることができ、そのため、完全に神経をブロック
することができる。
【0062】
従って、スラリーを含む溶液は、氷点低下剤または髄鞘を溶解する薬剤として機能し得
る洗剤を含んでいてもよい。このような洗剤としては、限定されないが、TWEEN(登
録商標)ポリソルベート、デオキシコレート、コレート、ホスファチジルコリンおよびナ
トリウムデオキシコレートが挙げられる。例示的なスラリー製剤を表2に示す。
【表2】
【0063】
スラリーを含む溶液は、限定されないが、コルチコステロイド、グルココルチコイド、
リポキシゲナーゼ阻害剤およびNSAIDを含め、炎症を減らすための薬剤を含んでいて
もよい。
【0064】
スラリーを含む溶液は、疼痛をさらに減らすための麻酔薬を含んでいてもよく、麻酔薬
は、限定されないが、ポリドカノール、リドカイン、ブピバカイン、プリロカイン、テト
ラカイン、プロカイン、メピビカインおよびエチドカインが挙げられる。
【0065】
一実施形態において、麻酔薬は、長期間にわたる(24時間を超える)麻酔を与えるこ
とができる永久的に帯電した分子であるQX−314、N−エチルブロミド,四級リドカ
イン誘導体である。リドカインとは異なり、QX−314は、侵害受容体をより選択的に
遮断することができ、作用持続時間がより長く、副作用がより少ない。QX−314は、
細胞に入り込み、ナトリウムチャンネルを細胞内で遮断することが必要な、帯電した分子
である。QX−314が神経膜の外側ではなく内側から遮断する能力は、所望のニューロ
ンのみを遮断するように活用することができた。QX−314と、本明細書に記載される
冷スラリー注射とを組み合わせると、冷温で検知する侵害受容感覚ニューロンを選択的に
標的とし、選択的で長期間続く麻酔薬を与えることができる。
【0066】
別の具体的な実施形態において、スラリーは、脂質エマルション(例えば、イントラリ
ピッド(Intralipid))で構成されていてもよく、大豆油、卵リン脂質および
グリセリンのエマルションであり、濃度が10%、20%、30%のものが入手可能であ
る。脂質エマルションを、全栄養混合物の一部としてアミノ酸およびデキストロースと混
合してもよい。
【0067】
別の具体的な実施形態において、スラリーは、腹膜透析溶液で構成されていてもよい。
【0068】
スラリーを含む溶液は、冷却した粒子、例えば、大きさが医療用カニューレ、カテーテ
ルおよび針の内径よりも小さな氷粒子、例えば、約1mmより小さく、好ましくは、約0
.1mmより小さな氷粒子を含んでいてもよい。冷却した粒子の体積パーセント、大きさ
および/または形状(好ましくは、約0.5mm未満、公称は球状または楕円状)を調整
し、針、カテーテルまたはカニューレを通るスラリーの流れを最適化し、注入中に種々の
標的組織を通って流すことができる。例えば、Kauffeld、Mら、Int J R
efrig.2010.33(8):1491−1505を参照。注入したスラリー内の
冷却した粒子(例えば、氷粒子)の体積パーセントおよび注入されたスラリーの体積は、
注入の冷却能力を決定付ける。具体的な実施形態において、注入されたスラリーの中の氷
の体積パーセントは、溶液の約0.1%〜約50%の範囲であってもよい。
【0069】
II.治療方法
スラリーを注入する所与の体積の標的組織において、3段階の熱交換が存在する。最初
に、スラリーを組織内に、および/または組織を通って注入するとき、スラリーは、組織
よりかなり冷たい。組織とスラリーの間に強い熱勾配が存在し、局所的な平衡温度が達成
されるまで、迅速に平衡化する。この迅速な平衡段階の間、スラリーの氷が溶融する。発
生する溶融の量は、初期の氷含有量、組織と混合するスラリーの局所的な体積分率、開始
時の組織の温度、組織の脂質含有量、およびスラリーの注入体積および速度を含む他の因
子によって変わる。これらの因子は、従来の多くの流体と、熱交換近似値を用いて(例え
ば、有限要素モデルを用いて)モデリングすることができる(実施例1を参照)。この初
期の平衡時間の後に氷が残っている場合、平衡温度は、スラリー中の氷の融点に非常に近
いだろう。すなわち、約−20℃〜約4℃であってもよい。スラリー液成分の組成は、こ
の平衡温度のための低い温度境界を設定し、すなわち、平衡化温度は、スラリー中の氷の
低下した融点よりも低くなるはずはない。
【0070】
局所的な平衡に達した後、第2の段階が開始し、周囲の組織から熱が除去されたとき、
氷は溶融し続ける。この第2の段階は、多くの因子に依存して、数秒間から数分間続いて
もよい。これらの因子としては、最初の平衡の後に残っている単位体積あたりの氷の量、
氷を含む組織の体積の寸法、標的と周囲の組織の熱移動および組成、局所的な血流が挙げ
られる。第2の段階は、この段階中、スラリーの全ての氷が溶融するまで、標的組織中で
温度が比較的安定なままであるため、標的組織に「治療温度および治療時間」を与えるも
のとしてみなすことができる。治療温度は、主に、スラリー液の組成、標的組織の中およ
び周囲に注入されるスラリーの体積分率によって設定される。治療時間は、主に、氷含有
量と、体積、速度および分布を含む注入変数によって、また、標的組織の大きさおよび形
状によって、標的組織内の血流によって設定される。例えば、スラリーの氷含有量が多い
と、第2の段階が長くなり、注入されるスラリーの体積分率(標的組織と注入されるスラ
リーに対する、局所的に注入されたスラリーの比率)が大きいほど、この第2の段階が長
くなり、注入されるスラリーと標的組織の寸法が大きいほど、ほぼ寸法の二乗に比例して
、この段階が長くなり、標的組織内の血流は、スラリーの氷の溶融が速くなることによっ
て治療時間を短くするだろう。周囲の(スラリーで満たされていない)組織からの熱移動
と、血流による熱移動が、この第2の段階の間にスラリーの氷を溶融する。
【0071】
具体的な実施形態において、生体適合性氷スラリーは、第1の平衡温度が約4℃〜約−
30℃であり、および/または、第2の平衡温度が約2℃〜約−30℃である。これらの
平衡温度は、例えば、以下のように達成される。乳酸電解質中のヘタスターチ(500m
l)、生理食塩水(500ml)およびグリセロール(100ml)のスラリー組成物を
用い、スラリー温度−5℃を得ることができる。開始温度29℃で約25mlのスラリー
組成物を組織に1回ボーラス注射すると、組織の温度を−3.2℃まで迅速に下げ、0℃
未満に約10〜15分維持することができる。乳酸電解質(500ml)、生理食塩水(
500ml)およびグリセロール(50ml)のヘタスターチのスラリー組成物を用い、
スラリー温度−2.1℃を得ることができる。15ゲージ針を用い、約50mlを組織に
1回ボーラス注射すると、組織の温度約−2℃〜−1.3℃が達成される。組織内の温度
を0℃未満に約15分間維持することができる。組織の温度が約−0.1℃である場合、
さらに40〜60mlのスラリーの2回目のボーラス注射によって、組織の温度を約−1
.1℃まで下げ、この温度を15分より長く維持する。3回目のボーラス注射をすると、
組織の温度を0℃未満に20分より長く維持することができる。約4〜5回のスラリー組
成物の注射によって、感覚鈍磨を達成するために、0℃未満の冷温に60分間維持するこ
とができる。末梢神経を約60分間、0℃未満の温度にすると、数週間にわたって(例え
ば、6〜8週間)感覚鈍磨が生じる。この複数サイクルのスラリー注射を行い、スラリー
注射による冷却効果を長くすることができる。
【0072】
氷の溶融速度を、所与の用途および解剖状況で監視することができる。例えば、氷は、
医療用の超音波イメージングによって容易にわかり、これを使用し、氷含有量、大きさお
よび形状、標的組織からの氷の溶融速度を監視することができる。いくつかの用途におい
て、治療組織中の氷含有量を、スラリー注入の間および注入後に、超音波を用いて監視す
ることができる。第2の段階の間、スラリーを繰り返し注入するか、または連続して注入
することによって、治療を大幅に長くすることができる。超音波ガイダンスを使用し、氷
含有量を監視し、それによってスラリーの繰り返し注入または連続的な注入を調整するこ
とができる。
【0073】
所望の神経を標的とするために、スラリー配置の位置を、超音波を用いて監視すること
ができる。例えば、スラリーを注射する間、標的の神経を、超音波を使用することによっ
て監視し、スラリーを確実に正しく配置することができる。これにより、スラリーの正確
な送達および所望な神経の標的化が可能になる。
【0074】
治療時間を長くすることが望ましい場合、局所的な血流を一時的に制限するか、または
なくす方法を使用してもよい。例えば、スラリー注入後に単純に圧力を加えることを含め
、機械的な力を加えて血流を制限することができ、または適切な場合、スラリー注入の前
、注入の間、注入の後に止血帯を適用する。スラリー注射前に組織をあらかじめ冷却する
と、血管収縮を誘発することもできる。スラリー注射後の連続的な外部からの冷却を使用
し、スラリーが組織内で効果的な持続時間を長くすることができる。
【0075】
本発明の方法は、末梢神経を可逆的に阻害する。スラリーを投与した後、約5ヶ月まで
阻害することができ、例えば、末梢神経の阻害を、スラリーを1回投与してから数分間、
数日間、数週間または数ヶ月間にわたって達成することができる。複数サイクルのスラリ
ーの投与によって、必要な場合、治療を長くすることができる。スラリー注入前に、組織
をあらかじめ冷やすか、またはあらかじめ冷却し、組織の温度を長時間にわたって冷たい
ままにすることもできる。
【0076】
スラリー注入後の第3の段階は、氷内容物が溶融した後に起こる。ここで、標的組織の
温度は、第2の段階中に氷を溶融した同じプロセス(熱伝導、血流による熱対流)によっ
て、徐々に体温に戻すことができる。ここでも、大きさ、解剖学、関与する血流に依存し
て、標的組織が通常の体温まで戻るのに数分間、または数時間かかる場合もある。スラリ
ーの全ての氷が溶融するため、標的組織内の温度は、第3の段階で上昇する。これらの段
階は、
図2に模式的に説明される。
【0077】
脂質の結晶化は、神経を冷却した後の神経伝導を一時的に長期間にわたって消失させる
ための1つの機構である。神経軸索の周囲にある髄鞘は、高濃度の脂質を含む。脂質が豊
富な鞘の主な機構は、軸索を単離することであり、その結果、活動電位(すなわち、神経
シグナル)を伝搬することができる。局所的な冷却の後の髄鞘の破壊および/または消失
は、同様の機構に従うようであり、ミエリン脂質が結晶化した後、応力と変性が起こる。
髄鞘は、Schwann細胞の細胞質の伸長であり、この種の損傷が修復するのは遅い。
従って、長期にわたる(約3ヶ月以上まで)麻酔、疼痛または痒みの低減は、本発明の用
途である。例えば、麻酔薬注射を用いる一時的な神経ブロックに従来から使用される多く
の解剖学的部位での注射/注入の後、長期間にわたる神経ブロックにスラリーを使用して
もよい。
【0078】
本発明の方法は、疼痛または痒みを減らすか、または、例えば、神経因性疼痛、糖尿病
性神経障害の疼痛、三叉神経痛、ヘルペス後の神経痛、幻肢痛、癌に関連する痒みまたは
疼痛、火傷の痒みまたは疼痛、硬化性萎縮性苔癬、頭皮の痒み、錯感覚性背痛、アトピー
性皮膚炎、湿疹、乾癬、扁平苔癬、外陰部の痒み、ヴルヴォディニァ、慢性単純性苔癬、
結節性痒疹、感覚神経が介在する痒み、末梢神経障害、末梢神経損傷、開胸術後の疼痛、
切開の疼痛、胸部痛、尾骨痛、腰痛(神経根障害を伴うもの、または伴わないもの)、瘢
痕、神経腫、急性術後疼痛、腰椎椎間関節症候群および皮膚疼痛障害などの神経障害をな
くすことができる。
【0079】
皮膚疼痛障害としては、限定されないが、反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)
、幻肢痛、神経腫、ヘルペス後の神経痛、頭痛、後頭神経痛、緊張性頭痛およびヴルヴォ
ディニァが挙げられる。
【0080】
本発明の方法を使用し、末梢神経障害によって引き起こされる疼痛障害、代謝、感染、
外傷、遺伝的プロセスまたは化学プロセスからの末梢神経の損傷に関連する症状を減らす
か、またはなくすこともできる。本発明の方法を使用し、皮膚の疼痛を減らすか、または
なくすこともできる。
【0081】
本発明の方法を使用し、手術(例えば、皮膚を介した切開を行い、疼痛を誘発する手術
)によって生じる疼痛障害に関連する症状を減らすか、またはなくすこともできる。これ
は、胸郭手術によって生じる胸郭の術後痛(例えば、切開手術による疼痛の治療)を含む
。切開前、切開中または切開後にスラリーを注射してもよい。
【0082】
具体的な実施形態において、胸郭手術の後に、約3cm
3のスラリーを肋骨下の空間に
注射することによって、スラリーを疼痛の阻害に使用してもよい。例示的な肋骨下神経の
脂質含有量は、約20%である(f
tlip=0.2)。注射の前に、氷のパックを適用し、
局所組織を20℃まで冷却する(T
t=20)。30%の氷(I
o=0.3)と、0.00
1%のエピネフリンを含むスラリーを血管収縮のために加え、ほぼ同体積のスラリーと組
織が作られるように、神経周囲に注射する(f
s=0.5)。熱容量に基づいた迅速な交
換後、スラリー−組織混合物の温度は、T
m=(1−f
s)T=10℃である。T
m=10
℃であるため、10℃に達するために新たな氷は溶融せず、すなわち、Q
to10C=(T
m−
10)ρC=0である。潜熱は、スラリー−組織混合物の溶融物中で氷として交換され、
一方、脂質が、標的神経の髄鞘中に結晶化する。スラリー−組織混合物の初期の氷含有量
は、I
o=f
sI
sであり、ここで、I
o=(0.5)(0.3)=0.15%または15%
である。この氷の含有量で、値Q
icetotal=f
sI
sH
iceであり、または(0.5)(0
.3)(74)=11cal/cm
3である。スラリー−組織混合物の脂質含有量は、f
i
nlip=(1−f
s)f
tliPであり、ここで、(0.5)(0.2)=0.10または10
%である。スラリー−組織混合物中、全ての脂質の結晶化(発熱工程)により、上述のよ
うに、脂質含有量と、脂質の体積による融解熱H
lipidとを掛け算したものに等しい熱エ
ネルギーQ
liptotalが得られる。脂質含有量f
mlip=0.1、H
lipidの値=34cal
/cm
3を用い、標的神経における脂質結晶化に関連するエネルギーは、Q
liptotal=f
m
lipH
lipid=(0.1)(34)=3.4cal/cm
3である。Q
icetotal>Q
liptota
lであるため、神経内の全ての脂質が結晶化し、残留する氷が残る。この残った氷が溶融
すると、Q
iceresidual=Q
icetotal−Q
liptotalの値に従って温度が低下し、Q
iceresi
dualの値=11−3.4=7.6cal/cm
3が得られる。最終的な温度は、T
final〜
10−Q
iceresidual/ρCによって与えられる。上述のように、ほとんどの軟組織のρ
Cの値は、1cal/℃−cm
3に近く、その結果、T
final〜10−7.6、すなわち、
2.4℃である。次いで、約6cm
3の体積のスラリー−組織混合物が徐々に加温される
。球の体積vの直径は、d=(6v/□)
1/3によって与えられる。従って、6cm
3の球
状の体積のスラリー−組織混合物の場合、直径は約22mmである。冷たいスラリー−組
織混合物は、約(22)
2=480秒間、すなわち約8分間かけて徐々に加温される。ス
ラリーの2回目の注射またはさらなる注射も行ってもよく、複数回の冷却サイクルの有効
性は、典型的には、1回のサイクルよりも大きい。
【0083】
本発明の方法を使用し、膀胱痙攣または顔面痙攣のような異常な神経発火によって生じ
る筋肉の痙攣を減らすこともできる。
【0084】
本発明の方法は、運動神経の長期間にわたる麻痺が望ましい場合に、運動神経を標的と
することもできる。
【0085】
本発明の方法を使用し、自律神経系によって制御される機能を減らすか、なくすか、ま
たは変えることもできる。例えば、交感神経系は、腋窩のエクリン腺を刺激する交感神経
繊維によって多汗を制御する。本発明の方法を使用し、多汗を減らすために自律神経繊維
を標的とすることができる。
【0086】
スラリーを含む溶液を、皮膚の神経、三叉神経、腸骨鼠径神経、肋間神経、斜角筋間神
経、鎖骨上神経、鎖骨下神経、腋窩神経、外陰部の神経、傍脊椎の神経、腹横筋膜面の神
経、腰部神経叢、大腿神経および座骨神経からなる群から選択される1つ以上の神経に注
射することによる、被験体の末梢神経、皮下神経または自律神経のような1つ以上の神経
へのスラリーの注射、注入または腫脹性の圧送によって、被験体の末梢神経に投与しても
よい。
【0087】
本発明の方法は、限定されないが、頭部、頸部および肩を担う頚神経叢;胸、肩、腕お
よび手を担う腕神経叢;背中、腹部、鼠径部、大腿部、膝およびふくらはぎを担う腰神経
叢;骨盤、臀部、性器、大腿部、ふくらはぎおよび足を担う仙骨神経叢;内臓を担う腹腔
神経叢(太陽神経叢);尾てい骨の上の小さな領域を担う尾骨神経叢;胃腸管を担うAu
erbach神経叢;胃腸管を担うMeissner神経叢(粘膜下神経叢)を含め、神
経叢(すなわち、交差する神経の群)と関連する疼痛を減らすか、またはなくすこともで
きる。
【0088】
本発明の方法は、腎臓の交感神経除去術にも使用することができ、交感神経除去術は、
重篤な、および/または耐性のある高血圧を治療するために出現した治療である。
【0089】
スラリーを組織を通して流すと、特に、例えば、感覚神経または運動神経の神経周囲の
鞘に沿って、流体の流れに対する抵抗が最低限の組織構造を通すと、注入点から大きな距
離にわたって冷却することができる。この溶液を、シリンジ針によって経皮で、または循
環系を介してカテーテルによってアクセス可能な任意の末梢神経または皮下神経に投与す
ることもできる。
【0090】
スラリーを注射するための手段(例えば、針)は、さらなる特徴(例えば、温度を読み
取り、標的組織の温度を監視することができるセンサ)を備えていてもよい。スラリーを
注射するための手段は、場合により、
図17に示されるように、新しいスラリーの注射を
可能にしつつ、スラリーの溶融した成分を回収する能力を有していてもよい。
【0091】
注射位置は、例えば、スラリーが、当該技術分野で知られている画像化剤を含む場合、
例えば、MRIまたはx線イメージングによって確認することができる。電気的な刺激ま
たは化学的な刺激による神経の前活性化および/または針の位置の確認を、本発明の方法
と組み合わせて行うこともできる。ここで、スラリーの正しい配置は、麻酔刺激または電
気刺激を注入し、スラリーを注入する前に標的とする神経に沿って感覚または麻酔を作り
出すことによって容易にすることができる。
【0092】
スラリーが投与される持続時間は、医師または他の熟練した専門家または技術者によっ
て決定され、必要な場合、治療の観察された効果に適するように調整し、または必要な場
合、投与されるスラリーの配合に依存して調整することができる。本明細書に記載する方
法に従って治療の持続時間を調整することは、十分に当業者の常識の範囲内である。
【0093】
本発明の方法を使用し、尿失禁を治療することもできる。米国での25〜84歳の女性
についての近年の調査において、おおよそ15%が、緊張性失禁を経験していると報告し
、13%が、切迫性失禁/「過活動膀胱」を経験していると報告している。これら2つの
失禁の因果関係は、別個の機構に起因するが、両方の機構を1人の患者が経験する場合が
ある。
【0094】
緊張性失禁は、若い女性の最も一般的な種類の失禁であり、多くは尿道の過可動性によ
り、骨盤底からの不十分な膀胱の支持に起因する。この支持の不足は、結合組織の消失に
起因する。この支持の不足は、例えば、骨盤臓器の脱出および排便の問題(便秘および失
禁の両方)のような他の状態とも関係がある。現時点で、主な治療戦略としては、薬理学
的治療、ペッサリー、手術介入が挙げられ、成功率はさまざまである。副交感神経、交感
神経および体性神経は、下部尿管機能を制御する際に重要な機能をはたす。さらに具体的
には、膀胱の平滑筋(利尿筋)は、主に副交感神経によって刺激される。膀胱頸部および
尿道の平滑筋(内部括約筋)は、交感神経によって刺激される。外尿道括約筋(EUS)
の横紋筋は、主な刺激を体性神経から受ける。本明細書に記載のスラリーを、これら1つ
以上の神経を標的にしつつ、緊張性失禁を治療するための注射可能な治療として使用する
ことができた。
【0095】
切迫性失禁は、排尿筋の過活動に起因する。切迫性失禁を治療するための治療法は、主
に、薬理学的なものであり(例えば、ボツリヌストキシン)、頻繁な膀胱の痙攣を防ぐた
めに、膀胱の筋肉への神経の入力を減らすことを標的とする。本明細書に記載する氷スラ
リーが神経の機能を低下させる能力から、本発明の別の実施形態は、膀胱への神経の入力
を阻害することによる、切迫性失禁の治療を提供する。一実施形態において、この治療は
、氷スラリーが、例えば、神経筋接合部に投与され、膀胱への神経の入力を阻害するよう
な注射可能な治療を含む。
【0096】
本発明は、以下の実例となる非限定的な実施例によってさらに記載され、非限定的な実
施例は、本発明と、その多くの利点のよりよい理解を与える。
【実施例】
【0097】
以下の実施例は、本発明のいくつかの実施形態および態様を示す。種々の改変、付加、
置換などが、本発明の精神または範囲を変えることなく行うことができ、このような改変
および変形が、以下の特許請求の範囲で定義されるような本発明の範囲に包含されること
は、当業者には明らかであろう。以下の実施例は、いかなる様式にも本発明を限定しない
。
【0098】
実施例1:注射されるスラリーの挙動を示すための定量モデル
単純化した合理的な推定は、
図1に示されるように、注射されるスラリーの挙動を示す
ための定量モデルにおいて作られる。
【0099】
熱容量は、スラリーと組織との間の熱交換の重要な要素である。最初に考慮する熱交換
は、スラリーおよび組織の熱容量によって蓄えられているエネルギーの熱交換である。熱
容量によって蓄えられる媒体中の単位体積あたりのエネルギーは、H=TρCで与えられ
、ここで、Hは、エネルギー密度(cal/cm
3)であり、Tは温度(℃)であり、p
は密度(gm/cm
3)であり、Cは、比熱容量(cal/℃ gm)である。ρCが、
スラリー、組織、水で同じであると推定する(すなわち、ρC=1cal/gm−℃)。
この推定は、脂肪以外の全ての軟組織の場合、ほぼ正しい。脂肪の場合、ρCは、約2分
の1小さい。
【0100】
スラリーが導入された組織の局所的な体積を考慮する。スラリーが、局所的な組織に体
積分率f
sで導入される場合、この局所的な組織は、(1−f
s)の体積分率を占める。ス
ラリーの熱容量に起因して、得られたスラリー−組織混合物の単位体積あたりに蓄えられ
た熱は、H
s=f
sT
sρCであり、組織の熱容量に起因して単位体積あたりに蓄えられた
熱は、H
t=(1−f
s)T
tρCである。熱容量に起因して熱エネルギーが迅速に交換し
た後、新しい温度T
mが達成される。この混合物の熱容量に起因する熱エネルギーは、H
m
=T
mρCによって与えられる。局所的な熱交換におけるエネルギーの保存は、H
s+H
t
=H
mであることを必要とする。この式を合わせると、
f
sT
sρC+(1−f
s)T
tρC=T
mρC
T
mについて解くと、この初期の部分の熱交換の後のスラリー−組織混合物の温度は、
T
m=f
sT
s+(1−f
s)T
t
である。生理学的氷スラリーの温度が、ほぼ0に近いため、これは、
T
m=(1−f
s)T
t
と単純化される。熱容量のみに起因する混合時の迅速な熱交換は、2つの開始温度の体積
によって重み付けられた平均である。例えば、f
s=0である場合、スラリーを加えず、
T
m=T
tであり、組織の開始温度である。f
s=1の場合、混合物は全てスラリーであり
、Tm=0である。f
s=0.5の場合、スラリーと組織の50−50混合物であり、混
合後に得られた温度は、スラリーと組織の開始温度の平均である。スラリーの間質注射の
ためのf
sの典型的な値は、約0.2〜約0.8の範囲であり、すなわち、混合したスラ
リー−組織の体積は、スラリー含有量が約20〜約80%であってもよい。また、f
s=
0.5の場合を考慮する。出発組織温度T
tが37℃である場合、熱容量からの熱交換の
後、Tm=18.5℃である。
【0101】
このモデルにおける生理学的スラリーの氷の体積分率をI
sと定義し、これは、スラリ
ーの単位体積あたりの氷の体積である。従って、組織に注射した直後に、局所的なスラリ
ー−組織混合物中の氷の初期の体積分率は、
I
o=f
sI
s
であり、I
oは、スラリー−組織混合物の単位体積あたり、溶融に利用可能な氷の全量で
ある。
【0102】
熱容量からの迅速な熱交換の後、スラリー−組織混合物のスラリー成分中の氷は溶融し
始め、熱を吸収し、スラリー−組織混合物を冷却する。上に簡単に述べた体内の熱交換に
よって徐々に温まる期間の前に、スラリー−組織混合物中の氷は、なくなるまで溶融する
か、または平衡温度に達するまで溶融する。純水において、氷と液体の水は、0℃〜4℃
の平衡温度で一緒に存在する場合がある。組織において、氷点を低下させる多くの溶質が
存在し、その結果、ある程度低い温度範囲(例えば、皮膚で約−8℃〜0℃)にわたって
氷と水が一緒に存在する場合がある。組織中の脂質は、通常の体温では液体状態である。
氷の溶融に起因してスラリー−組織混合物の冷却が起こると、特定の温度より下では、脂
質が結晶化することがある。本質的に、溶融する氷からの融合潜熱と、脂質の結晶化から
の融合潜熱との熱交換が存在する。脂質の結晶化は、水の氷点よりかなり高い温度で起こ
るため、これら2つのプロセスは、反対方向に進む(例えば、水が溶融し、脂質が結晶化
する)。ほとんどの動物の脂肪は、トリグリセリド分子中の脂質鎖の長さおよび飽和度に
依存して、10℃〜15℃で結晶化する。ワックスエステルと遊離脂肪酸は、同様の温度
で結晶化する。極性脂質は、より低い温度で結晶化し、例えば、細胞膜のリン脂質は、0
℃未満でも十分にある程度流体を保つことができる。
【0103】
注射される生理学的スラリーは、神経のミエリン鞘脂質に影響を与えることによって、
疼痛または痒みを抑制するのに効果的である。鞘の脂質は、0℃より高くても十分に結晶
化する。効果的な処理は、出発組織温度T
t、スラリーの氷含有量I
s、スラリー−組織混
合物中、十分なスラリー分率f
sを達成するために注射されるスラリーの量および速度、
組織の標的脂質含有量L
t、その結晶化温度T
c、ある程度の氷がスラリー−組織混合物に
留まっている時間を含む変数によって変わる。
【0104】
融合エンタルピー(融解熱とも呼ばれる)は、固体状態から液体状態への変化に起因し
て、どれだけ多くの熱エネルギーが吸収される(吸熱)か、または放出される(発熱)か
を記述する。氷の溶融は、大量の熱エネルギーを必要とする吸熱的な遷移である。水の場
合、融解熱は80cal/gmである。0℃での氷の密度は0.92であり、その結果、
体積融解熱H
ice(所定体積の氷を溶融させるのに必要な熱エネルギー)は、
H
ice=74cal/cm
3
である。
スラリー−組織混合物中の全ての氷が溶融することによって吸収することができる単位体
積あたりの合計熱Q
icetotalは、単に、その氷含有量とH
iceを掛け算し、
Q
icetotal=f
sI
sH
ice
である。
【0105】
f
sについて上に述べたような典型的な値は、約0.2〜0.8の範囲であり、生理学
的スラリーの氷含有量は、約50%までがあり得る(I
s〜0.5)。従って、適切な最
大のI
s=0.5の場合、スラリー−組織混合物中のQ
icetotalの範囲(制限はない)は
、約7〜30cal/cm
3である。
【0106】
動物脂肪の脂質の融解熱は、約30〜50cal/gmの範囲である(Cooling
Technology in the Food Industry;Taylor
and Francis、1976)。脂質の密度は、約0.8〜0.9gm/cm
3の
範囲である(例えば、固体状態のパルミチン酸トリグリセリドは、0.85gm/cm
3
である)。融解熱として40cal/gmの平均値をとると、脂質の結晶化のための単位
体積あたりの潜熱は、ほぼ、
H
lipid=34cal/cm
3
である。
【0107】
従って、脂質の結晶化のための潜熱は、氷を溶融するための潜熱の半分より小さい。温
度が、脂質の結晶化が始まるのに必要な温度である約10℃に達するまで、ある程度の氷
が溶融することによって、スラリー−組織混合物の冷却が進む。スラリー−組織混合物の
温度を約10℃まで下げることによって消費される熱エネルギーは、
Q
to10C=(T
m−10)ρC
によって得られる。
【0108】
ほぼこの温度で、スラリーからの氷が残っている場合はどんな場合でも溶融し、脂質自
体の体積のほぼ2倍を結晶化させるのに必要なエネルギーを吸収する。組織の全ての脂質
が結晶化する場合、より多くの氷が溶融し、温度は約10℃未満まで下がり、潜在的には
、氷と液体の水が組織中で一緒に存在し得る約−8℃〜0℃まで下がる。従って、スラリ
ー−組織混合物の脂質含有量は、別の重要な因子である。組織の脂質含有量をf
tlipと定
義すると、スラリー−組織混合物の脂質含有量は、
f
mlip=(1−f
s)f
tlip
である。
【0109】
f
tlipの値は、組織の種類によって変わる。ほとんどの軟組織の脂質含有量は、約5%
(ほとんどの結合組織)〜約80%(脂肪)であり、すなわち、f
tlip=0.05〜0.
8である。存在する全ての脂質が結晶化することによって作られるスラリー−組織混合物
の単位体積あたりのエネルギーは、
Q
liptotal=f
mlipH
lipid
である。
【0110】
スラリー−組織混合物中の氷の溶融と脂質の結晶化の間の潜熱の交換時間の間、スラリ
ー中の氷は、全ての脂質が結晶化するまで、または氷がなくなるまで溶融する。
【0111】
スラリー−組織混合物中の結晶化する脂質の分率は、単に、エネルギーバランスによっ
て与えられ、
f
lipxtal=(Q
icetotal−Q
to10C)/Q
liptotal
である。(Q
icetotal−Q
to10C)<Q
liptotalの場合、脂質の一部が結晶化し、f
lipxt
alによって上に与えられる。(Q
icetotal−Q
to10C)=Q
liptotalの場合、脂質の全て
が結晶化し、氷の全てが溶融し、温度は、ほとんどの動物脂質の相転移温度である約10
℃付近にとどまる。(Q
icetotal−Q
to10C)>Q
liptotalの場合、脂質の全てが結晶化
し、その後、氷の全てが溶融するまで、または組織中の氷と液体の水の間に平衡が存在す
るまで、温度は約10℃未満まで(すなわち、約−8℃〜0℃の温度範囲に)下がる。到
達する最も低い温度は、残留する氷の溶融と、スラリー−組織混合物の熱容量との間の熱
交換によって決定される。従って、最も低い温度T
finalは、残留する氷を溶融すること
によって吸収される単位体積あたりの潜熱と、約10℃より低い温度低下の熱容量に関係
する熱とを等しくすることによって概算されるだろう。
【0112】
脂質が結晶化した後に残った氷の溶融に関連する潜熱は、Q
iceresidual=Q
icetotal
−Q
to10C−Q
liptotalであり、単位体積あたりの残留する氷の量は、I
residual=Q
ice
residual=H
iceである。残留する氷の溶融に起因するT
finalへの温度低下は、Q
iceres
idual〜(10−T
final)ρCによって概算することができ、T
final〜10−Q
iceresi
dual/ρCに再配列する。
【0113】
上のモデル化された局所的な熱交換は、間質注射の間、スラリーが軟組織を通って混合
して流れ、および/または切断することによって、組織と密に接触しているため、数秒の
タイムスケールで起こる。溶融する氷と結晶化する脂質からの潜熱の交換の後、スラリー
−組織混合物の温度は、ほぼT
finalに固定され、次いで、伝導および対流に起因して、
徐々に加温される。従って、徐々に加温される速度は、伝導および対流の速度によって変
わる。血流(対流)がない状態では、伝導による加温は、最小の特徴的な時間を含み、こ
の時間は、局所的なスラリー−組織混合物の直径の二乗に比例する。典型的には、軟組織
において、伝導によってある領域を実質的に加温するため(最終的な平衡値の1/eまで
)の秒単位での時間は、ミリメートル単位での直径の二乗にほぼ等しい。例えば、直径が
10mmのスラリー−組織混合物は、典型的には、実質的に加温するのに約100秒を必
要とし、直径が30mmのスラリー−組織混合物は、典型的には、伝導によって実質的に
加温するのに約900秒(すなわち、15分間)を必要とする。氷含有量に依存して、こ
の概算される実質的に加温する期間の後でさえ、ある程度の氷が残る場合がある。ここに
提示されるモデルは説明のためのものであり、実際のものではない。スラリーと組織の温
度の直接的な測定を行うことができる。以下に示すように、このような測定は、一般的に
、この適切なモデルと一致する。
【0114】
実施例2:ラットにおける座骨神経機能の阻害
6%ヘタスターチの乳酸Ringerスラリー(すなわち、ヘタスターチ(500ml
)、生理食塩水(500ml)およびグリセロール(50ml)を一緒にブレンドした)
を、約250〜271gの体重の雄ラットの座骨神経上部に注射した。この手順を、以下
のように行った。吸入するイソフルランおよび酸素を用い、ラットを一般的な麻酔条件に
置いた。手術切開によって座骨神経を露出させた(
図3)。−3.2℃〜−2.7℃の開
始温度のスラリーを得て、これを実験の間、維持した。5回それぞれの注射について、5
mlのスラリーを座骨神経上部に注射した。座骨神経の下に置かれた熱電対を使用し、組
織の温度を記録した(
図4)。
【0115】
6%ヘタスターチの乳酸Ringerスラリーは、神経組織の温度を0℃未満に平均で
5分間維持することができ、スラリー中に氷が存在する限り、組織の温度は維持された(
図5、6および7)。神経ブロックは数日間、数週間または数ヶ月間続くと予測される。
氷が液体になったら、組織の温度は、すぐに0℃より上に上がる。神経周囲の組織をあら
かじめ冷却すると、氷の溶融がもっと遅い速度で起こったため、スラリーはもっと長持ち
した(
図6)。
【0116】
実施例3:ラットの感覚試験
大きな運動神経および感覚神経(例えば、座骨神経)における冷温治療の効能を、神経
組織の染色を評価し、冷スラリーを注射した後の運動機能および感覚機能を測定するアッ
セイを実行することによって、げっ歯類モデルで示すことができる。感覚実験を、体重が
250g〜350gの12匹の雄成ラットで行った。ラットを試験環境に住まわせ、1〜
12のラベルを付け、それぞれ6ラットずつの2グループにランダムに分けた。手技の1
日前にベースライン感覚試験を行った。
【0117】
全てのラットが、慢性神経因性疼痛モデルに対する慢性狭窄損傷(CCI)を受けた。
大腿二頭筋全体にわたって鈍的切開を用い、総座骨神経を露出させ、
図8に示されるよう
な隣接組織と分離した。互いに約1mm離れた2点で、4−0クロムガット縫合糸を神経
の周囲にゆるく結びつけた。所望な狭窄度によって、表在性の神経上膜血管系による循環
を遅らせるが、止めない。
【0118】
CCIから6日後のラットで、感覚試験を繰り返し、この手技の効能を示し、すなわち
、ラットは、損傷していない足よりも損傷した足で、熱による損傷の感度が高くなり、熱
による痛みにさらされたとき、損傷した足の方がかなりすばやく引っ込められた。CCI
から1週間後に、全てのラットで、鈍的切開を用いて座骨神経を露出させた。6匹のラッ
トが、
図9に示すように、氷スラリーの注射を受けた。6匹のラットは、スラリーを注射
することなく、開けて閉じた(スラリーなし)。
【0119】
実験群の6匹のラットに注射されたスラリーは、注射前に、生理食塩水中の5%のグリ
セロール(重量基準)と5%グリセロール添加(重量基準)からなっていた。それぞれの
ラットに、座骨神経の周囲に10ccのスラリーを注射した。神経のそばに熱電対を配置
し、温度を記録した。注射時に座骨神経の上にあるスラリーの平均温度は、約−1.1℃
であった。温度が+5℃になったら、その領域を滅菌ガーゼで拭き、座骨神経の周囲に、
再び、さらに10ccのスラリーを注射した。注射部位の組織の温度は、約5分以内に平
均で+5℃に達した。
【0120】
全てのラットは、スラリーの注射に十分に忍容性であった。壊死、感染、潰瘍または自
己損傷挙動の証拠は見られなかった。
【0121】
感覚試験を行い、スラリー注射から14、20、25、32、36、42日後の氷スラ
リーの潜在的な鎮痛効果を調べた。全てのラットをランダムに分けたが、何匹化のラット
は、予想通り、熱による疼痛に対する感度がより過剰になったことによって、慢性狭窄損
傷に対して良好に応答した。これらのラットを使用し、氷スラリーの注射による、熱によ
る疼痛の減少を評価した。結果を以下に記載する図に示す。
【0122】
図10は、応答ラットの熱による後ろ足引っ込め潜伏時間を示し、スラリー注射から2
0、25、42日後に、ラットにおいて、熱暴露に対するより長い応答時間を示している
。応答時間が長いことは、熱刺激からの痛みが少ないことを示し、スラリーが熱による疼
痛を減少させることを示している。
【0123】
ラットにおける感覚試験は、変動することが知られており、この変動を減らす1つの方
法は、試験側(左後足)と内部コントロール(右後足)の差、すなわち、右後足の潜伏時
間−左後足の潜伏時間を報告することである。
図11は、内部コントロールに対して正規
化しつつ、応答ラットの熱による引っ込め潜伏期間の差を比較することによる試験結果を
示す。正の値は、熱による疼痛に対し、左足を右足よりも早く引っ込めることを示す。左
足と右足の潜伏期間の差の減少が、スラリー注射の後に見られ、スラリーが熱による疼痛
を低減することを示している。
【0124】
実験4:種々のスラリー組成物に対する忍容性
表3に列挙したスラリーを作成し、ラット座骨神経の周囲に首尾良く注射した。「NS
」は、「生理食塩水」の省略語である(1mlのH
2Oあたり、0.90%グラムのNa
Cl)。「ヘタスターチ」は、「ヒドロキシエチルスターチ」の別の言い方であり、非イ
オン性デンプン誘導体である。HEXTEND(登録商標)(6%ヘタスターチの乳酸電
解質注射、平均分子量が670,000ダルトンであり、レイクフォレスト、イリノイの
Hospira,Inc.から入手可能)を、本明細書で実施した実験のために使用した
。「LR」は、乳酸Ringer溶液の省略語である。グリセロールの割合は、g/ml
で表される。
【表3】
【0125】
注射から1週間後、観察、注射した領域の切開、全体的な観察によって、忍容性の副作
用について全てのラットを調べた。全ての動物は、注射から1週間後まで、感染、潰瘍、
壊死または副作用の徴候なく、注射に忍容性であった。
【0126】
以下の表4は、ラットに対するさらなる安全性と忍容性の試験の詳細を示す。タトゥー
インクを加え、座骨神経周囲の注射したスラリーの局在化を示した。
【表4】
【0127】
いずれのラットにおいても、注射から24、48、72日後に、感染、組織壊死または
潰瘍の証拠は見られなかった。筋肉は、全体的に無傷なままであった。スラリーを注射し
た側と、スラリーを注射しなかった側とで、注射してから1週間後に、検視に差はなかっ
た。タトゥーインクは、神経の周囲に局在化していることがわかり、スラリーが標的組織
の周囲に正確に注射されたことを示している(
図13)。
【0128】
グリセロールの量を増やしつつ、ラットの座骨神経の周囲に注射し、低温スラリーの安
全性および忍容性の限界を調べるために、さらなる試験を行った。注射から1週間後まで
、ラットを1日に1回観察し、観察、写真および組織学によって、副作用の忍容性を調べ
た。結果を表5に示す。
【表5】
【0129】
全ての動物は、注射から1週間後の動物を屠殺したときまで、感染、潰瘍、壊死または
副作用の徴候は見られず、注射に忍容性であった。検視時にも、異常は指摘されなかった
。
【0130】
実施例5:スラリー温度に対する溶質濃度の関係
図12において、スラリー温度に対し、(生理食塩水中の)グリセロール濃度が増える
影響を示す。スラリー中のグリセロールの量を増やすと、スラリー温度が顕著に低下した
。表5に示されるスラリーを注射し、最も低い忍容性スラリー温度の安全性および忍容性
の限界を試験した。全ての動物は、注射から1週間後の動物を屠殺したときまで、感染、
潰瘍、壊死または副作用の徴候は見られず、注射に忍容性であった。検視時にも、異常は
指摘されなかった。
【0131】
実施例6:見えない凍結神経溶解注射の実行可能性
ここで
図13を参照し、タトゥーインク(黒色顔料)を、生理食塩水と20%グリセロ
ールとから構成されるスラリーに加えた。Sprague−Dawleyラットにおいて
、このスラリーを、座骨神経を含む解剖ポケットに注射した。注射から1週間後、ラット
を屠殺し、次いで、座骨神経を含む解剖ポケットの上にある皮膚を切開し、座骨神経に隣
接したスラリーの配置を確認した(タトゥーインクのため、目に見える)。この画像は、
皮膚を介する見えない注射によって、座骨神経周囲にスラリーを送達する実行可能性を示
す。
【0132】
実施例7:ラット感覚試験
ベースライン測定を得る前に、感覚試験の環境に連続した3日間住まわせたSprag
ue−Dawleyラットに対し、さらなる感覚試験を行った。引っ込め潜伏期間を用い
た熱によるベースライン感覚試験を行った。熱による引っ込め潜伏期間は、赤外線の熱源
からラットが後足を引っ込めるのにかかる時間量を表し、値が大きいことは、疼痛の閾値
が高いことを意味し、値が小さいことは、ラットが、疼痛に対する感度が上がっているこ
とを意味する。全てのラットが、慢性神経因性疼痛モデルに対する慢性狭窄損傷(CCI
)を受けた。大腿二頭筋全体にわたって鈍的切開を用い、総座骨神経を露出させ、隣接組
織と分離した。互いに約1mm離れた2点で、4−0クロムガット縫合糸を神経の周囲に
ゆるく結びつけた。所望な狭窄度によって、表在性の神経上膜血管系による循環を遅らせ
るが、止めない。CCIから6日後のラットで、感覚試験を繰り返し、この手技の効能を
示した。CCIから1週間後に、全てのラットで、鈍的切開を用いて座骨神経を露出させ
た。
【0133】
実験群のラットに注射されたスラリーは、生理食塩水中の10%のグリセロール(重量
基準)からなっており、平均温度は−3.9℃であった。神経のそばに熱電対を配置し、
温度を記録した。最初に、それぞれのラットにおいて、神経に5ccのスラリーを注射し
た。その後、送達シリンジより小さなシリンジを用い、溶融したら、その部位からスラリ
ーを連続的に除去し、新しい氷スラリーと交換した。15分間の神経冷却持続時間を確保
し、これは、この神経の部位で+5℃未満の温度であると定義された。スラリーのサンプ
ルを容器から取り出し、室温まで加温した。スラリーと同一の組成を有する室温の溶液を
コントロール(室温スラリー)ラットに注射した。
【0134】
全てのラットは、スラリーの注射に十分に忍容性であった。壊死、感染、潰瘍または自
己損傷挙動の証拠は見られなかった。感覚試験を行い、中間的な時間点(スラリー注射か
ら5日後および6日後)、次いで、長期間にわたる時間点(スラリー注射から28日後)
に、氷スラリーの潜在的な鎮痛効果を調べた。選択したラットを、CCI後の平均損傷重
篤度に基づいてマッチさせた。損傷重篤度は、平均ベースライン測定と比較した熱による
引っ込め潜伏期間の減少によって決定された。損傷重篤度=(ベースラインの熱による引
っ込め時間)−(時間点Xでの熱による引っ込め時間)。ここで、読み0は、ラットが、
そのベースライン(損傷前の)疼痛閾値に戻っていることを示す。4匹のラットが完全に
マッチし(差が0.2s以下)、次いで、さらに2匹のラットが、その群の最も高い重篤
度でマッチした(差が0.5s以下)。
【0135】
重篤な座骨神経狭窄損傷を有するラットにおいて、氷スラリーを添加すると、注射して
から6日後および28日後に、熱刺激に対する疼痛レベルが低下した(
図14)。室温ス
ラリーを注射したラット(赤色で示される)と比較して、氷スラリーを注射したラット(
青色で示される)は、熱による引っ込め潜伏期間が、スラリー注射から28日後に4.4
倍に減少し(1.4s 対 6.2s)、熱による疼痛の感度が顕著に下がっていること
を示している。
【0136】
中程度の座骨神経狭窄損傷を有するラットにおいて、氷スラリーを添加すると、注射し
てから6日後および28日後に、熱刺激に対する疼痛レベルが低下した(
図15)。室温
スラリーを注射したラット(赤色で示される)と比較して、氷スラリーを注射したラット
(青色で示される)は、熱による引っ込め潜伏期間が、スラリー注射から28日後にほぼ
2倍に減少し(2.1s 対 4.1s)、熱による疼痛の感度が顕著に下がっているこ
とを示している。
【0137】
軽度の座骨神経狭窄損傷を有するラットにおいて、氷スラリーを添加すると、注射して
から6日後および28日後に、熱刺激に対する疼痛レベルが低下した(
図16)。室温ス
ラリーを注射したラット(赤色で示される)と比較して、氷スラリーを注射したラット(
青色で示される)は、熱による引っ込め潜伏期間が、スラリー注射から28日後に11倍
に減少し(0.2s 対 2.2s)、熱による疼痛の感度が顕著に下がっていることを
示している。実際に、28日までに、氷スラリーを注射したラットは、ベースラインレベ
ルと同等の熱感度を有しており、氷スラリーを添加すると、疼痛レベルがベースラインま
で下がったことを意味している。
【0138】
実施例8:無傷の(損傷を受けていない)ラットの座骨神経周囲にスラリーを注射
体重が250〜271gの雄Sprague−Dawleyラットを得て、ベースライ
ン感覚試験を行った。後足の熱による引っ込め潜伏期間を得た。その後、吸入するイソフ
ルランおよび酸素を用い、ラットを麻酔し、その左大腿領域の毛を剃り、洗浄した。次い
で、表6に示される以下の組成のスラリーを、左座骨神経を含む解剖ポケットに注射した
。
【表6】
【0139】
全てのラットは、この手技に十分に忍容性であり、フォローアップ中に、注射部位でな
んら有害な影響は観察されなかった。スラリー注射から7、14、25日後に、ラットは
、その後に感覚試験を受けた(
図18)。ベースラインと比較して、スラリー注射から7
、14、25日後のフォローアップ時に、スラリーを注射した後足の熱による引っ込め潜
伏期間が長くなった。熱による潜伏期間が長くなるのは、熱による疼痛に対する忍容性が
上がったことを反映しており、左後足の鎮痛の指標である。左(スラリーを注射した)と
右(注射せず)の熱による引っ込め潜伏期間の差を
図19に示す。左後足(スラリー注射
を受けた)の熱による引っ込め潜伏期間が長くなり、一方、右は、比較的一定のままであ
る(変化なし)。
【0140】
上の記載から、種々の使用および条件に合わせるために、本明細書に記載する発明に対
して変形および改変がなされてもよいことは明らかであろう。このような実施形態も、以
下の特許請求の範囲の範囲内である。本明細書での変数の定義における要素の列挙の引用
は、列挙された要素の任意の1つの要素または組み合わせ(または副次的な組み合わせ)
としての変数の定義を含む。本明細書での実施形態の引用は、任意の1つの実施形態また
は任意の他の実施形態またはその一部との組み合わせとしての実施形態を含む。
文献
本明細書で言及される全ての特許、特許出願および刊行物は、それぞれ個別の特許およ
び刊行物が参照により具体的かつ個別に組み込まれるものと示されるのと同じ程度に参照
により本明細書に組み込まれる。参照により組み込まれるものは、限定されないが、以下
が挙げられる。
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